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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  B03C
審判 一部申し立て 2項進歩性  B03C
審判 一部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  B03C
管理番号 1382376
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-03-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-19 
確定日 2021-11-01 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6747622号発明「帯電繊維、帯電フィルタ、物質吸着材、および空気清浄機」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6747622号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔11〜12〕について訂正することを認める。 特許第6747622号の請求項1、5、9〜12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6747622号に係る出願は、2019年(平成31年)3月27日(優先権主張 平成30年3月28日 日本国(JP))を国際出願日とする出願であって、令和2年8月11日にその請求項1〜12に係る発明について特許権の設定登録がされ、同年同月26日に特許掲載公報が発行され、その後、請求項1、5及び9〜12に係る特許に対して、令和3年2月19日に特許異議申立人上田哲(以下、「申立人」という。)により甲第1〜7号証を証拠方法として特許異議の申立てがされ、同年5月11日付で当審より取消理由が通知され、その指定期間内である同年7月12日に特許権者より乙第1号証を添付して意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年8月26日に申立人より参考資料1、2を添付して意見書(以下、「申立人意見書」という。)が提出されたものである。

第2 本件訂正請求による訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項1からなるものである(当審注:下線は訂正箇所であり、当審が付与した。)。
・訂正事項1
本件訂正前の請求項11に
「請求項5乃至請求項10のいずれか1項に記載の帯電フィルタと、
前記分極発生繊維の生じる電位と逆極性の電位を生じ、前記帯電フィルタを通過した前記物質を吸着する吸着フィルタと、
を備えた物質吸着材。」
と記載されているのを、
「請求項5乃至請求項10のいずれか1項に記載の帯電フィルタと、
前記分極発生繊維の生じる電位と逆極性の電位を生じ、前記帯電フィルタを通過した前記物質を吸着する吸着フィルタと、を有し、
空気の流れる方向に沿って前記帯電フィルタは前記吸着フィルタよりも前側に配置される物質吸着材。」
に訂正する(請求項11を引用する請求項12も同様に訂正する。)。

なお、訂正前の請求項12は請求項11を引用するものであり、訂正前の請求項11〜12は一群の請求項であるので、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項11〜12についてされたものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1による訂正は、「物質吸着材」における「帯電フィルタ」及び「吸着フィルタ」の位置を、本件特許明細書の【0028】及び【図7】の記載に基づいて、「空気の流れる方向に沿って」「帯電フィルタ」が「吸着フィルタよりも前側に配置される」ものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
そして、この訂正は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

なお、本件訂正に係る請求項11〜12は、特許異議の申立てがされた請求項であるので、訂正後の請求項11〜12に係る発明については、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項所定の独立特許要件は課されない。

3 小括
以上のとおりであるので、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、特許法120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、訂正後の請求項11〜12について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
本件訂正が認められることは前記第2に記載のとおりであるので、本件特許の請求項1〜12に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明12」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1〜12に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
外部からのエネルギーにより、表面に発生する正の電位または負の電位を発生する分極発生繊維を備え、
前記正の電位により前記分極発生繊維を通過する物質を正に帯電させる、または前記負の電位により前記分極発生繊維を通過する物質を負に帯電させる、
帯電繊維。
【請求項2】
前記分極発生繊維は、軸方向に対して旋回されてなり、前記軸方向の伸縮により前記正の電位または前記負の電位を発生する圧電繊維からなる、
請求項1に記載の帯電繊維。
【請求項3】
前記圧電繊維は、
前記軸方向に対して左旋回されてなり、前記軸方向の伸縮により負の電位を発生する第1圧電繊維と、
前記軸方向に対して右旋回されてなり、前記軸方向の伸縮により正の電位を発生する第2圧電繊維と、
を備える、
請求項2に記載の帯電繊維。
【請求項4】
前記分極発生繊維の表面に形成される導電体を備えた、
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の帯電繊維。
【請求項5】
外部からのエネルギーにより、表面に発生する正の電位または負の電位を発生する分極発生繊維を備えた帯電フィルタであって、
前記正の電位により前記分極発生繊維を通過する物質を正に帯電させる、または前記負の電位により前記分極発生繊維を通過する物質を負に帯電させる、
帯電フィルタ。
【請求項6】
前記分極発生繊維は、軸方向に対して旋回されてなり、前記軸方向の伸縮により前記正の電位または前記負の電位を発生する圧電繊維からなる、
請求項5に記載の帯電フィルタ。
【請求項7】
前記圧電繊維は、
前記軸方向に対して左旋回されてなり、前記軸方向の伸縮により負の電位を発生する第1圧電繊維と、
前記軸方向に対して右旋回されてなり、前記軸方向の伸縮により正の電位を発生する第2圧電繊維と、
を備える、
請求項6に記載の帯電フィルタ。
【請求項8】
前記分極発生繊維の表面に形成される導電体を備えた、
請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載の帯電フィルタ。
【請求項8】
前記分極発生繊維の端を固定する枠体を備えた
請求項5乃至請求項8のいずれか1項に記載の帯電フィルタ。
【請求項10】
前記枠体は、平面視して前記枠体内を格子状に仕切る仕切り部材を備えた、
請求項9に記載の帯電フィルタ。
【請求項11】
請求項5乃至請求項10のいずれか1項に記載の帯電フィルタと、
前記分極発生繊維の生じる電位と逆極性の電位を生じ、前記帯電フィルタを通過した前記物質を吸着する吸着フィルタと、を有し、
空気の流れる方向に沿って前記帯電フィルタは前記吸着フィルタよりも前側に配置される物質吸着材。
【請求項12】
請求項11に記載の物質吸着材を備えた空気清浄機。」

第4 特許異議申立理由の概要
1 証拠方法
(1)申立人が提出した甲各号証等
甲第1号証:特開2015−45114号公報
甲第2号証:J.Nunes-Pereira et al.,Poly(vinylidene fluoride) and copolymers as porous membranes for tissue engineering applications,Polymer Testing,2015年,Vol.44,p.234-241
甲第3号証:特表2016−508866号公報
甲第4号証:特開2008−36114号公報
甲第5号証:米国特許第4902306号明細書
甲第6号証:特開平1−107820号公報
甲第7号証:特開2017−170429号公報
参考資料1:Dipankar Mandal et al.,Improved performance of a polymer nanogenerator based on silver nanoparticles doped electrospun P(VDF-HFP) nanofibers,Phys.Chem.Chem.Phys.,2014年
参考資料2:Hemalatha Parangusan et al.,Stretchable Electrospun PVDF-HFP/Co-ZnO Nanofibers as Piezoelectric Nanogenerators,Scientific Reports,2018年,8:754,p.1-12

(2)特許権者が提出した乙第1号証
乙第1号証:特開2015−17154号公報

2 特許法第29条第1項新規性)、第2項(進歩性)について
(1)本件訂正前の請求項1及び5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件訂正前の請求項9〜12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と、本件特許の優先日当時における周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 取消理由の概要
1 特許法第29条第1項新規性)、第2項(進歩性)について
(1)本件訂正前の請求項1及び5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件訂正前の請求項9〜12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 取消理由及び特許異議申立理由についての当審の判断
事案に鑑み、前記第4の2(1)〜(2)の特許異議申立理由及び前記第5の1(1)〜(2)の取消理由についてまとめて検討する。
1 甲各号証の記載事項等
(1)甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
ア 甲第1号証には以下(1a)の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「…」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデンを主体とするポリフッ化ビニリデン系共重合体を、電界紡糸法で紡糸し、紡糸された繊維を捕集して得られる繊維シートであって、該繊維シートを構成する繊維の平均繊維径が20nm以上、1000nm未満であり、該繊維シートのDSC測定における融解温度が155℃以上であり、融解熱量が45J/g以下である、繊維シート。

【請求項5】
請求項1もしくは請求項2に記載の繊維シート、または、請求項3もしくは請求項4に記載の繊維シート複合体を、少なくとも一部に用いたフィルター。」

イ 前記ア(1a)によれば、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「フッ化ビニリデンを主体とするポリフッ化ビニリデン系共重合体を、電界紡糸法で紡糸し、紡糸された繊維を捕集して得られる繊維シートであって、該繊維シートを構成する繊維の平均繊維径が20nm以上、1000nm未満であり、該繊維シートのDSC測定における融解温度が155℃以上であり、融解熱量が45J/g以下である、繊維シート。」(以下、「甲1発明」という。)
「フッ化ビニリデンを主体とするポリフッ化ビニリデン系共重合体を、電界紡糸法で紡糸し、紡糸された繊維を捕集して得られる繊維シートであって、該繊維シートを構成する繊維の平均繊維径が20nm以上、1000nm未満であり、該繊維シートのDSC測定における融解温度が155℃以上であり、融解熱量が45J/g以下であるものである繊維シートを、少なくとも一部に用いたフィルター。」(以下、「甲1’発明」という。)

(2)甲第2号証の記載事項
甲第2号証には以下(2a)の記載がある。
(2a)「Poly(vinylidene fluoride)(PVDF) and its copolymers have been further recognized as important and unique materials for biomedical applications due to their high electroactive response, showing the highest piezo,pyro and ferroelectric responses among polymeric materials.」(235頁左欄23行〜28行)
(当審訳:ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)とその共重合体は、高分子材料の中で最も高い圧電応答、焦電応答、強誘電応答を示す高い電気活性応答により、生物医学的用途にとって重要でユニークな材料としてさらに認識されている。)

2 対比・判断
(1)本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で相違する。
・相違点1:甲1発明における「繊維シート」が、本件発明1における「外部からのエネルギーにより、表面に発生する正の電位または負の電位を発生する分極発生繊維を備え、前記正の電位により前記分極発生繊維を通過する物質を正に帯電させる、または前記負の電位により前記分極発生繊維を通過する物質を負に帯電させる、帯電繊維」に相当するか否かが明らかでない点。

(イ)以下、前記(ア)の相違点1について検討すると、甲第2号証((2)(2a))の記載によれば、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)とその共重合体は、高分子材料の中で最も高い圧電応答、焦電応答、強誘電応答を示す高い電気活性応答を有する材料として認識されるものであるが、乙第1号証(【0002】)の記載によれば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)において強誘電性を発現させるためには、PVDFをβ型結晶構造にする必要があるものである。
すると、甲1発明における「フッ化ビニリデンを主体とするポリフッ化ビニリデン系共重合体を、電界紡糸法で紡糸し、紡糸された繊維」(以下、「甲1繊維」という。)がβ型結晶構造を有するのであれば、「外部からのエネルギーにより、表面に発生する正の電位または負の電位を発生する分極発生繊維」といえるのであるが、「甲1繊維」がβ型結晶構造を有しているか否かは明らかでないし、このことが技術常識であることを示す証拠もない。
ここで、参考資料1(2頁目左欄9行〜最終行、3頁目左欄6行〜11行、Fig.1(b))には、参考資料1に記載される静電紡糸法が、ニートのPVDF−HFP繊維に極性β相を誘導できることについて示唆されているが、例えば、甲第1号証に記載される静電紡糸法は、具体的な製造条件が、溶液供給量2.0mL/h、印加電圧45.0kV(【0052】実施例1)、溶液供給量2.5mL/h、印加電圧40.0kV(【0053】、【0054】実施例2、3)、溶液供給量3.0mL/h、印加電圧45.0kV(【0055】実施例4)、溶液供給量1.0mL/h、印加電圧45.0kV(【0056】実施例5)であるのに対して、参考資料1に記載される具体的な製造条件は、一定流量0.6mlh−1、DCバイアス19kV(2頁左欄24行〜最終行)であり、甲第1号証と参考資料1に記載される静電紡糸法の具体的な製造条件が合致しないから、参考資料1に記載される静電紡糸法がニートのPVDF−HFP繊維に極性β相を誘導できるとしても、「甲1繊維」がβ型結晶構造を有していると直ちにいえるものではない。
してみれば、「甲1繊維」はβ型結晶構造を有しているとはいえないから、「外部からのエネルギーにより、表面に発生する正の電位または負の電位を発生する分極発生繊維」であるということはできない。

(ウ)また、仮に、「甲1繊維」がβ型結晶構造を有し、「外部からのエネルギーにより、表面に発生する正の電位または負の電位を発生する分極発生繊維」といえるものであって、甲1発明に係る「繊維シート」が、「外部からのエネルギーにより、表面に発生する正の電位または負の電位を発生する分極発生繊維を備え」るものといえるとしても、甲第1号証には、前記「繊維シート」が、「正の電位により分極発生繊維を通過する物質を正に帯電させる、または負の電位により分極発生繊維を通過する物質を負に帯電させる」ものであることは記載されていないし、このことが技術常識であることを示す証拠もない。
ここで、参考資料1(2頁目右欄1行〜22行、4頁目左欄6行〜9行、Fig.1(c)、Fig.4(c))には、2つの柔軟な電極の間に配置された、静電紡糸法によるニート(ニートHFP)ナノファイバーで製造されたPNGsにおける、周波数2Hzの圧力付与プローブと整流ブリッジを使用して検出した出力電圧が概略1Vであることが記載されているが、前記記載は、前記PNGsが、圧力付与により2つの柔軟な電極の間で概略1Vの電圧を出力することを開示するものに過ぎず、このことから直ちに、前記PNGsが「正の電位により分極発生繊維を通過する物質を正に帯電させる、または負の電位により分極発生繊維を通過する物質を負に帯電させる」ものであるとはいえないから、参考資料1の前記記載に基づいて、甲1発明における「繊維シート」が、「正の電位により分極発生繊維を通過する物質を正に帯電させる、または負の電位により分極発生繊維を通過する物質を負に帯電させる」ものであるということもできない。
また、本件特許明細書の【0027】には、
「以上の様に、分極発生繊維は、外部からのエネルギーにより、表面に発生する正の電位または負の電位を発生する。そして、この様な分極発生繊維は、当該表面に発生する正の電位または負の電位により分極発生繊維を通過する物質を正または負に帯電させる帯電繊維として機能する。当該帯電繊維を備えた帯電フィルタは、該帯電フィルタを通過する物質を正または負に帯電させる。図1の例では、帯電フィルタ5を通過する物質を正に帯電させる。」
と記載されているが、前記記載は、「以上の様に、分極発生繊維は、…」との文脈からみて、本件特許明細書の【0012】〜【0026】、【図2】、【図4】〜【図6】に例示される構成を備えた「分極発生繊維」が、「正の電位により分極発生繊維を通過する物質を正に帯電させる、または負の電位により分極発生繊維を通過する物質を負に帯電させる帯電繊維」として機能することをいうものと解され、「分極発生繊維」でありさえすれば、その構成にかかわらず、必然的に「正の電位により分極発生繊維を通過する物質を正に帯電させる、または負の電位により分極発生繊維を通過する物質を負に帯電させる帯電繊維」として機能することをいうものとは解されない。
すると、前記【0027】の記載に基づいて、甲1発明における「繊維シート」が、「正の電位により分極発生繊維を通過する物質を正に帯電させる、または負の電位により分極発生繊維を通過する物質を負に帯電させる」ものであるということもできない。
更に、参考資料2(1頁第1段落、第3段落)の記載から、PVDFやPVDF−HFPなどのPVDF共重合体は、圧電デバイスの製造によく用いられることがよく知られた材料であり、水濾過装置、ガス分離用途などで用いられることが周知のことであるとしても、甲1発明における「繊維シート」が、「正の電位により分極発生繊維を通過する物質を正に帯電させる、または負の電位により分極発生繊維を通過する物質を負に帯電させる」ものであるとはいえないことに変わりはない。
これらのことからみれば、仮に、甲1発明における「繊維シート」が「外部からのエネルギーにより、表面に発生する正の電位または負の電位を発生する分極発生繊維を備え」るとしても、そこから進んで、「正の電位により分極発生繊維を通過する物質を正に帯電させる、または負の電位により分極発生繊維を通過する物質を負に帯電させる」ものであるということはできない。

(エ)前記(イ)、(ウ)によれば、甲1発明における「繊維シート」が、「外部からのエネルギーにより、表面に発生する正の電位または負の電位を発生する分極発生繊維を備え」るものとはいえないし、仮に、「外部からのエネルギーにより、表面に発生する正の電位または負の電位を発生する分極発生繊維を備え」るものであるとしても、そこから進んで、「正の電位により分極発生繊維を通過する物質を正に帯電させる、または負の電位により分極発生繊維を通過する物質を負に帯電させる」ものということはできないから、前記相違点1は実質的な相違点であるので、本件発明1が甲1発明であるとはいえない。
そして、甲1発明において、「繊維シート」を、「外部からのエネルギーにより、表面に発生する正の電位または負の電位を発生する分極発生繊維を備え、前記正の電位により前記分極発生繊維を通過する物質を正に帯電させる、または前記負の電位により前記分極発生繊維を通過する物質を負に帯電させる、帯電繊維」ものとする動機付けは存在しないので、本件発明1を、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

イ 本件発明5について
(ア)本件発明5と甲1’発明とを対比すると、本件発明5と甲1’発明とは、以下の点で相違する。
・相違点1’:甲1’発明における「フィルター」が、本件発明5における「外部からのエネルギーにより、表面に発生する正の電位または負の電位を発生する分極発生繊維を備えた帯電フィルタであって、前記正の電位により前記分極発生繊維を通過する物質を正に帯電させる、または前記負の電位により前記分極発生繊維を通過する物質を負に帯電させる、帯電フィルタ」に相当するか否かが明らかでない点。

(イ)そして、前記(ア)の相違点1’は、前記ア(ア)の相違点1と実質的に同じであるから、前記ア(イ)〜(エ)に記載したのと同様の理由により、本件発明5が甲1’発明であるとはいえないし、本件発明5を、甲1’発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

ウ 本件発明9〜12について
本件発明9〜12は、いずれも、直接的又は間接的に本件発明5を引用するものであって、本件発明9〜12と甲1’発明とを対比した場合、少なくとも前記イ(ア)の相違点1’で相違する。
そうすると、前記イ(イ)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明9〜12は、甲第5号証の記載事項(摘記省略)にかかわらず、甲1’発明及び甲第5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないし、甲1’発明及び本件特許の優先日当時における周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

エ 小括
以上のとおり、本件発明1及び5は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
また、本件発明9〜12は、甲第1号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないし、甲第1号証に記載された発明及び本件特許の優先日当時における周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、前記第4の2(1)〜(2)の特許異議申立理由及び前記第5の1(1)〜(2)の取消理由はいずれも理由がない。

第6 むすび
以上のとおり、請求項1、5、9〜12に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に請求項1、5、9〜12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部からのエネルギーにより、表面に発生する正の電位または負の電位を発生する分極発生繊維を備え、
前記正の電位により前記分極発生繊維を通過する物質を正に帯電させる、または前記負の電位により前記分極発生繊維を通過する物質を負に帯電させる、
帯電繊維。
【請求項2】
前記分極発生繊維は、軸方向に対して旋回されてなり、前記軸方向の伸縮により前記正の電位または前記負の電位を発生する圧電繊維からなる、
請求項1に記載の帯電繊維。
【請求項3】
前記圧電繊維は、
前記軸方向に対して左旋回されてなり、前記軸方向の伸縮により負の電位を発生する第1圧電繊維と、
前記軸方向に対して右旋回されてなり、前記軸方向の伸縮により正の電位を発生する第2圧電繊維と、
を備える、
請求項2に記載の帯電繊維。
【請求項4】
前記分極発生繊維の表面に形成される導電体を備えた、
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の帯電繊維。
【請求項5】
外部からのエネルギーにより、表面に発生する正の電位または負の電位を発生する分極発生繊維を備えた帯電フィルタであって、
前記正の電位により前記分極発生繊維を通過する物質を正に帯電させる、または前記負の電位により前記分極発生繊維を通過する物質を負に帯電させる、
帯電フィルタ。
【請求項6】
前記分極発生繊維は、軸方向に対して旋回されてなり、前記軸方向の伸縮により前記正の電位または前記負の電位を発生する圧電繊維からなる、
請求項5に記載の帯電フィルタ。
【請求項7】
前記圧電繊維は、
前記軸方向に対して左旋回されてなり、前記軸方向の伸縮により負の電位を発生する第1圧電繊維と、
前記軸方向に対して右旋回されてなり、前記軸方向の伸縮により正の電位を発生する第2圧電繊維と、
を備える、
請求項6に記載の帯電フィルタ。
【請求項8】
前記分極発生繊維の表面に形成される導電体を備えた、
請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載の帯電フィルタ。
【請求項9】
前記分極発生繊維の端を固定する枠体を備えた
請求項5乃至請求項8のいずれか1項に記載の帯電フィルタ。
【請求項10】
前記枠体は、平面視して前記枠体内を格子状に仕切る仕切り部材を備えた、
請求項9に記載の帯電フィルタ。
【請求項11】
請求項5乃至請求項10のいずれか1項に記載の帯電フィルタと、
前記分極発生繊維の生じる電位と逆極性の電位を生じ、前記帯電フィルタを通過した前記物質を吸着する吸着フィルタと、を有し、
空気の流れる方向に沿って前記帯電フィルタは前記吸着フィルタよりも前側に配置される物質吸着材。
【請求項12】
請求項11に記載の物質吸着材を備えた空気清浄機。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-10-19 
出願番号 P2020-509179
審決分類 P 1 652・ 113- YAA (B03C)
P 1 652・ 851- YAA (B03C)
P 1 652・ 121- YAA (B03C)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 大光 太朗
金 公彦
登録日 2020-08-11 
登録番号 6747622
権利者 株式会社村田製作所
発明の名称 帯電繊維、帯電フィルタ、物質吸着材、および空気清浄機  
代理人 特許業務法人 楓国際特許事務所  
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