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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A01N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A01N
審判 全部申し立て 2項進歩性  A01N
管理番号 1382379
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-03-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-03-01 
確定日 2021-10-27 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6750869号発明「小動物防除性樹脂組成物及びこれを用いた小動物防除性樹脂成形体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6750869号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜4〕について訂正することを認める。 特許第6750869号の請求項1〜4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6750869号は、平成28年8月3日に出願がされ、令和2年8月17日に特許権の設定登録がなされ、同年9月2日にその特許公報が発行され、その後、請求項1〜4に係る特許に対して、令和3年3月1日に特許異議申立人 小倉千佳から特許異議の申立てがなされたものである。そして、その後の経緯は以下のとおりである。

令和3年5月21日付け:取消理由通知
同年7月21日 :訂正の請求及び意見書の提出(特許権者)
同年8月 6日付け:特許法第120条の5第5項に基づく通知

なお、令和3年7月21日提出の訂正の請求及び意見書に対する申立人からの応答はなかった。

第2 訂正の可否
1 訂正の内容
令和3年7月21日付け訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。なお、訂正前の請求項1〜4は一群の請求項である。

訂正事項1:特許請求の範囲の請求項1の
「エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリエチレン、常温硬化シリコーン系樹脂、及び加熱硬化シリコーン系樹脂のうちの少なくとも1つを含むベース樹脂と、」を
「エポキシ樹脂、ポリアミド、常温硬化シリコーン系樹脂、及び加熱硬化シリコーン系樹脂のうちの少なくとも1つを含むベース樹脂と、」に訂正する。

訂正事項2:特許請求の範囲の請求項3の
「塗料、シーリング剤、またはクッション材として用いられる」を
「塗料またはシーリング剤として用いられる」に訂正する。

訂正事項3:明細書の【0010】の
「エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリエチレン、常温硬化シリコーン系樹脂、及び加熱硬化シリコーン系樹脂のうちの少なくとも1つを含むベース樹脂と、」を
「エポキシ樹脂、ポリアミド、常温硬化シリコーン系樹脂、及び加熱硬化シリコーン系樹脂のうちの少なくとも1つを含むベース樹脂と、」に訂正する。

訂正事項4:明細書の【0011】の
「エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリエチレン、常温硬化シリコーン系樹脂、及び加熱硬化シリコーン系樹脂のうちの少なくとも1つを含むベース樹脂と、」を
「エポキシ樹脂、ポリアミド、常温硬化シリコーン系樹脂、及び加熱硬化シリコーン系樹脂のうちの少なくとも1つを含むベース樹脂と、」に訂正する。

訂正事項5:明細書の【0019】の
「塗料、シーリング剤、またはクッション材として用いられる」を
「塗料またはシーリング剤として用いられる」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、請求項1に係る発明で使用される「ベース樹脂」の選択肢のうち「ポリエチレン」を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
訂正事項2は、請求項3に係る発明の用途の選択肢のうち「クッション材」を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
訂正事項3及び4は請求項1の訂正に、訂正事項5は請求項3の訂正にそれぞれ倣い、各請求項の記載と明細書の記載との文言を揃えるものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項ないし第6項の各規定に適合するので、本件訂正を認める。

第3 本件訂正後の請求項1〜4に係る発明
本件訂正により訂正された訂正請求項1〜4に係る発明(以下、「本件訂正発明1」〜「本件訂正発明4」、まとめて「本件訂正発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
エポキシ樹脂、ポリアミド、常温硬化シリコーン系樹脂、及び加熱硬化シリコーン系樹脂のうちの少なくとも1つを含むベース樹脂と、小動物防除剤と、分子量が330〜530の炭化水素系化合物と、を少なくとも含むことを特徴とする小動物防除性樹脂組成物。
【請求項2】
前記炭化水素系化合物は、パラフィンオイルであることを特徴とする請求項1に記載の小動物防除性樹脂組成物。
【請求項3】
塗料またはシーリング剤として用いられることを特徴とする請求項1または2に記載の小動物防除性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の小動物防除性樹脂組成物を成形材料として用い、これを所定の形状に成形して成ることを特徴とする小動物防除性樹脂成形体。」

第4 取消理由の概要及びこれに対する当審の判断
1 取消理由の概要
請求項1〜4に係る特許に対して、当審が令和3年5月21日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由の要旨は以下のとおりである。

A (新規性)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
B (進歩性)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

引用例1:特開2011−126826号公報(甲第1号証)
参考資料:本件特許異議申立人小倉千佳が2021年2月22日付けで
作成した報告書に添付した、2021年1月22日付け実験
成績証明書(甲第4号証)

2 当審の判断
(1)引用例1の記載事項
ア「【請求項1】
オレフィン系重合体100重量部と、該オレフィン系重合体100重量部に対し、炭素数10〜90の飽和鎖状炭化水素および/または流動パラフィン0.01〜100重量部と、放出性活性化合物0.01〜200重量部とを含む重合体組成物からなり、2倍以上に延伸されている成形体。
【請求項2】
前記放出性活性化合物が、害虫防除剤、滑剤、帯電防止剤および防曇剤からなる群より選ばれる化合物である請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
前記放出性活性化合物が、ピレスロイド系化合物である請求項2に記載の成形体。
【請求項4】
前記オレフィン系重合体がエチレン系重合体である請求項1−3いずれかに記載の成形体。
【請求項5】
前記エチレン系重合体がエチレン−α−オレフィン共重合体であり、その密度が870〜980kg/m3、MFRが0.1〜20g/10minである、請求項4に記載の成形体。」

イ「【0004】

したがって、長期間に渡って使用可能な成形体とするためには、重合体への飽和溶解量を超える量の活性化合物を配合した重合体組成物を用いる必要がある。しかしながら過飽和量の活性化合物を重合体に含有させた重合体組成物を用いて得られる成形体は、使用初期に多量に活性化合物がブリードしてしまい、所望の期間ブリード速度を維持できないことがあった。

【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、活性化合物のブリード速度の低下を抑制することができるため、一定期間内にブリードする活性化合物量を増加させることができる成形体及びその製造方法を提供することができる。」

ウ「【0008】
本発明の放出性活性化合物における「放出性」とは、重合体組成物を用いて得られる成形体から活性化合物がブリードして成形体表面ににじみ出てくることを意味する。
【0009】
該放出性活性化合物は、本発明の重合体組成物を成形して得られる成形体の使用目的に応じて害虫防除、防菌、防黴、防汚、除草、植物成長調節、経皮治療、防錆、滑り性、界面活性、帯電防止等に対して活性を有する有機化合物であり、1種単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。放出性活性化合物としては、害虫防除剤、滑剤、帯電防止剤および防曇剤からなる群より選ばれる化合物を用いることが好ましい。

【0012】
殺虫剤としては、ピレスロイド系化合物、有機燐系化合物、カーバメート系化合物、フェニルピラゾール系化合物等が挙げられる。ピレスロイド系化合物としては、ペルメトリン、アレスリン、d−アレスリン、dd−アレスリン、d−テトラメトリン、プラレスリン、サイフェノトリン、d−フェノトリン、d−レスメトリン、エムペントリン、フェンバレレート、エスフェンバレレート、フェンプロパスリン、シハロトリン、サイフルトリン、エトフェンプロクス、トラロメスリン、エスビオスリン、ベンフルスリン、テラレスリン、デルタメスリン、サイパーメスリン、フェノトリン、テフルトリン、ビフェントリン、シフルトリン、シフェノトリン、シペルメトリン、アルファシペルメトリン等が挙げられ、有機燐系化合物としては、フェニトロチオン、ジクロルボス、ナレド、フェンチオン、シアノホス、クロロピリホス、カルクロホス、サリチオン、ダイアジノン等が挙げられ、カーバメート系化合物としては、メトキシジアゾン、プロポクスル、フェノブカーブ、カルバリル等が挙げられ、フェニルピラゾール系化合物としてはフィプロニル等が挙げられる。
【0013】
昆虫成長制御剤としては、ピリプロキシフェン、メソプレン、ヒドロプレン、ジフルベンズロン、シロマジン、フェノキシカーブ、ルフェニュロン等が挙げられる。
【0014】
忌避剤としては、ジエチルトルアミド、ジブチルフタレート等が挙げられる。」

エ「【0046】
本発明の重合体組成物を成形して得られる成形体としては、フィルム、シート、壁紙、カーテン、床材、梱包材、ホース、テープ、チューブ、パイプ、バック、テント・ターフ、暖簾、日よけ、電線、ケーブル、シース、フィラメント、繊維、ネット・網類(蚊帳・網戸・防虫網等)、糸、ロープ、フィルター、カーペット、靴、鞄、衣類、電子機器、電気機器、家電製品、事務機器、車両機器、輸送機器、コンテナ・ケース等の物流資材;住宅用品および住宅用部品に用いられるもの;犬小屋、マット、シート、首輪、タグ類等のペット用品等が挙げられる。
【0047】
本発明の成形体は、2倍以上に延伸されている。ここで延伸とは、成形体を固体もしくは半溶融もしくは溶融状態で、公知の方法により、一軸または二軸に延伸することを意味する。例えばフィラメントの成形においては、押出機から押出された成形体を引き取り冷却して太いフィラメントを成形し、これを加熱水槽を通して前述の引き取り時の速度よりも速いスピードで引き取ることにより延伸を行うことができる。」

オ「【0055】
〔実施例1〕
(1)放出性活性化合物保持体の調整
放出性活性化合物として、害虫防除剤であるペルメトリン(住友化学社製 商品名エクスミン)を用いた。ペルメトリン51重量部に、酸化防止剤2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(以下、AO−1と記す。)1.5重量部を溶解させた。次に、ペルメトリンとAO−1との混合物52.5重量部と保持体である非晶性シリカ(鈴木油脂製商品名多孔質シリカ)47.5重量部(ペルメトリン100重量部あたり93.1重量部)とを攪拌混合し、放出性活性化合物保持体を調製した。
【0056】
(2)重合体組成物の調整
オレフィン系重合体として、高密度ポリエチレン(プライムポリマー製 商品名:ハイゼックス440M;MFR=0.9g/10分、密度=948kg/m3)のペレット100重量部と、高圧法低密度ポリエチレン(住友化学社製 スミカセン G803)(以下、LDと記す。)のペレット9.8重量部とを混合した混合物を用いた(以下、オレフィン系重合体混合物と記す)。
オレフィン系重合体混合物100重量部と、該混合物オレフィン系重合体混合物100重量部に対し、酸化防止剤n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(チバスペシャルティケミカルズ社製 商品名Irganox1076を0.013重量部と、放出性活性化合物保持体4.4重量部と、パラフィン等として流動パラフィン(和光純薬工業製品 コードNo122−04775 密度=0.815〜0.840g/m3)1.4重量部とを、バンバリーミキサーを用いて、約150℃で溶融混練し、フィラメント成形用重合体組成物を調製した。
【0057】
(3)モノフィラメントの製造
フィラメント成形用重合体組成物を、1mmφ−4穴ダイ付の20mmφ押出機を用いて、吐出量0.6kg/hr、ダイ設定温度200℃で押し出し、ライン速度14m/分で引き取り、加熱水槽に通して112m/分で引き取り延伸倍率を8倍延伸として、200デニールのモノフィラメントに成形した。

【0065】
【表1】



(2)引用例1に記載された発明
引用例1の実施例1(上記(1)オ)から、引用例1には、以下の引用発明が記載されていると認められる。
「高密度ポリエチレン(プライムポリマー製 商品名:ハイゼックス440M;MFR=0.9g/10分、密度=948kg/m3)のペレット100重量部と、高圧法低密度ポリエチレン(住友化学社製 スミカセン G803)のペレット9.8重量部とを混合したオレフィン系重合体混合物100重量部と、該混合物オレフィン系重合体混合物100重量部に対し、酸化防止剤n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(チバスペシャルティケミカルズ社製 商品名Irganox1076)を0.013重量部と、
ペルメトリン51重量部に、酸化防止剤2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(以下、AO−1と記す。)1.5重量部を溶解させ、ペルメトリンとAO−1との混合物52.5重量部と保持体である非晶性シリカ(鈴木油脂製商品名多孔質シリカ)47.5重量部(ペルメトリン100重量部あたり93.1重量部)とを攪拌混合して調製した放出性活性化合物保持体4.4重量部と、
パラフィン等として流動パラフィン(和光純薬工業製品 コードNo122−04775 密度=0.815〜0.840g/m3)1.4重量部とを、
バンバリーミキサーを用いて、約150℃で溶融混練した、フィラメント成形用重合体組成物。」

(3)対比及び判断
ア 本件訂正発明1
引用発明の「放出性活性化合物保持体」に含有される「ペルメトリン」は本件訂正発明1の「小動物防除剤」に、引用発明の「重合体組成物」は本件発明の「樹脂組成物」に、それぞれ相当する。
引用発明の「流動パラフィン」については、参考資料の図1、図2、表3を参照すると、炭素数24〜37程度の炭化水素化合物、すなわち本件訂正発明1でいう「分子量が330〜530の炭化水素系化合物」が含有されていると解される。このため、引用発明の「流動パラフィン」は本件訂正発明1の「炭化水素系化合物」に相当する。
引用発明は「一定期間内にブリードする活性化合物量を増加させることができる成形体」(上記(1)イ)に関するものであり、既に述べたとおり、「ペルメトリン」は「小動物防除剤」であるから、引用発明の「重合体組成物」は小動物防除性を有するものと解される。
そして、引用発明の「オレフィン系重合体混合物」は樹脂であり、本件訂正発明1でいう「ベース樹脂」と解されるもの認められる。
そうすると本件訂正発明1と引用発明とは以下の点で一致する。
一致点:
「ベース樹脂と、小動物防除剤と、分子量が330〜530の炭化水素系化合物と、を少なくとも含むことを特徴とする小動物防除性樹脂組成物。」
そして、両者は以下の点で相違する。
相違点:
「ベース樹脂」として本件訂正発明1は「エポキシ樹脂、ポリアミド、常温硬化シリコーン系樹脂、及び加熱硬化シリコーン系樹脂のうちの少なくとも1つを含む」ものであるのに対し、引用発明は「オレフィン系重合体混合物」である点。

イ 判断
相違点について検討する。
「オレフィン系重合体混合物」及びこれを構成する「高密度ポリエチレン」や「高圧法低密度ポリエチレン」は、「エポキシ樹脂、ポリアミド、常温硬化シリコーン系樹脂、及び加熱硬化シリコーン系樹脂」のいずれにも相当せず、また、「高密度ポリエチレン」や「高圧法低密度ポリエチレン」等の「オレフィン系重合体」を用いているからといって、「エポキシ樹脂、ポリアミド、常温硬化シリコーン系樹脂、及び加熱硬化シリコーン系樹脂」のいずれかの使用を想起しうるとはいえず、また想起しうる根拠も存在しない。
このため、本件訂正発明1は引用発明とはいえず、また、参考資料を参照しても、本件訂正発明1は引用発明から容易になしえたものとはいえない。

(4)本件訂正発明2〜4について
本件訂正発明2〜4は、本件訂正発明1を更に限定するものである。したがって、本件訂正発明1は引用発明とはいえず、また、参考資料を参照しても、本件訂正発明1は引用発明から容易になしえたものとはいえないことに鑑みると、本件訂正発明2〜4も引用発明とはいえず、また、参考資料を参照しても、本件訂正発明2〜4は引用発明から容易になしえたものとはいえない。

3 まとめ
よって、当審が令和3年5月21日付け取消理由通知で示した取消理由には、理由がない。

第5 異議申立ての理由について
1 申立人の異議申立ての理由について
申立人の異議申立ての理由は、概要以下のとおりである。
<証拠方法>
甲第1号証:特開2011−126826号公報
甲第2号証:富士フイルム和光純薬株式会社、安全データシート
「流動パラフィン[密度(20℃)0.815〜
0.840g/ml]」、改訂日令和2年1月20日
甲第3号証:富士フイルム和光純薬株式会社、製品規格書「流動パラフィン
[密度(20℃)0.815〜0.840g/mL]」、
改訂日令和元年11月15日
甲第4号証:作成者不詳、「特開2011−126826号公報の実施例1
で用いられている流動パラフィン(和光純薬工業製品 コード
No122−04775 密度=0.815〜0.840g/
m3(決定注:流動パラフィンの密度として「0.815〜
0.840g/m3」という値はあり得ないため、甲第2号
証及び甲第3号証の記載から、「g/m3」は「g/ml」
の誤記と解した。)…)の分子量を確認」したとされる
実験成績証明書、令和3年1月22日付け
甲第5号証:住友化学株式会社、製品安全データシート「バイオスリン」、
平成26年11月11日改訂
甲第6号証:ベルギー王国、Regulation(EU)no528/2012
concerning the making available on the market
and use of biocidal products
Evaluation of active substances
Assessment Report
EMPENTHRIN Product-Type 18(Insecticide)
2019年3月改訂版、及びその抄訳
甲第7号証:住友化学株式会社、安全データシート「エミネンス」、
改訂日平成25年8月22日
甲第8号証:住友化学株式会社、安全データシート「フェアリテール」、
改訂日平成25年12月3日
甲第9号証:Y.D.Lee,et al., Korean J Environ Agric,
2011 30(4) 432-439、及びその抄訳
甲第10号証:氏原一哉他、技術誌 住友化学、2010-II 13-23
甲第11号証:秋野順治他、日本応用動物昆虫学会誌、2012 56(4) 141-149
甲第12号証:山岡亮平、日本生態学会誌、1994 44(2) 201-210
甲第13号証:武川恒他、日本環境動物昆虫学会誌、1990 2(1) 31-38
(以下、甲第1〜13号証を「甲1」〜「甲13」という。)

<特許異議申立書における異議申立ての理由>
(1)取消理由1(新規性進歩性欠如)
本件特許発明1〜4は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものであるから、あるいは、甲1に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、取り消されるべきものである。
(2)取消理由2(サポート要件違反)
本件特許発明1〜4は、発明の詳細な説明に記載された発明ではないから、特許法第36条第6項の規定に違反して特許されたものであるから、取り消されるべきものである。

2 検討
(1)取消理由1について
本件訂正発明1〜4と甲1に記載された発明とは、上記第4 2(3)アに示した相違点が存在する。
そして、同(3)イ及び(4)で検討したことと同様、相違点において、本件訂正発明1〜4と甲1に記載された発明とは相違しており、また、甲1に記載された発明から容易になしえたものとはいえない。
よって、申立人が主張する取消理由1には、理由がない。

(2)取消理由2について
ア 申立人の主張第5 3(2)アについて
(ア)申立人は、以下のように主張する。
「本件発明の小動物防除剤には様々な薬剤が含まれており、中には揮散性が高いものもある。そして、揮散性の高い小動物防除剤を含む本件発明は、課題を解決することができない。

上記のように、「小動物防除剤」として例示されているピレスロイド系化合物の中には、エトフェンプロックスよりも蒸気圧が約500倍〜約20000倍も高い化合物が含まれている。
そして、蒸気圧が高いピレスロイド系化合物は、樹脂成形体の表面に留まることなく、空気中に揮散していく。例えば、エンペントリン、メトフルトリン、プロフルトリンは、高い常温揮散性を利用して衣料用防虫剤等として使用されている(甲10)。
このような揮散性の高いピレスロイド系化合物を本件発明の小動物防除剤として用いても、樹脂組成物や樹脂成形体の表面に留まらずに揮散していくから、小動物防除性樹脂組成物又は小動物防除性樹脂成形体に接触した小動物の体表面に小動物防除剤を効率よく移行させることはできない。
したがって、このような揮散性の高いピレスロイド系化合物を含む本件発明に係る小動物防除性樹脂組成物又は小動物防除性樹脂成形体は、本件発明の課題を解決できないと解される。」(申立ての理由第5 3(2)ア(イ))
「小動物防除剤の中には炭化水素系化合物への溶解性が低い薬剤が含まれており、そのような小動物防除剤を含む本件発明は課題を解決することができない。

このような炭化水素系化合物への溶解性が低いピレスロイド系化合物を本件発明の小動物防除剤として用いても、小動物の体表面に小動物防除剤を効率よく移行させることはできない。
したがって、このような炭化水素系化合物への溶解性が低いピレスロイド系化合物を含む本件発明に係る小動物防除性樹脂組成物又は小動物防除性樹脂成形体は、本件発明の課題を解決できないと解される。」(同(ウ))
「本件明細書の実施例において、接触による小動物防除効果を確認されているのは、小動物防除剤としてエトフェンプロックスを含む樹脂組成物のみである…。

本件明細書の発明の詳細な説明には、エトフェンプロックス以外の小動物防除剤が、エトフェンプロックスと同様に接触による小動物防除効果を奏することを理解させるような説明はない。
さらに、本件特許の出願当時、エトフェンプロックス以外の小動物防除剤が、エトフェンプロックスと同様に接触による小動物防除効果を奏することを裏付けるような技術常識はなかった。」(同(エ))
「以上のように、本件明細書の記載や技術常識から、当業者が、エトフェンプロックス以外の小動物防除剤を含む小動物防除性樹脂組成物や小動物防除性樹脂成形体が課題を解決できることを認識できるとはいえない。
よって、本件特許はサポート要件を満たしていない。」(同(オ))

(イ)上記主張について検討する。
本件明細書【0029】〜【0036】には、「小動物防除剤」についての説明がある。本件実施例で試験されている「エトフェンプロックス」は、その例示物質の中の一つとして記載されており、本件実施例においてその有効性が確認されている。
そして、上記「小動物防除剤」におけるその余の例示物質が本件訂正発明に用いられた際に、係る例示物質の揮散性や炭化水素系化合物への溶解性の相違によって、本件訂正発明の課題を解決することができないと解される根拠を、本件明細書あるいは甲各号証から見いだすことはできない。
したがって、申立人の上記主張には理由がない。

イ 申立人の主張第5 3(2)イについて
(ア)申立人は、以下のように主張する。
「小動物のうち、例えば、昆虫は、体表面を覆うクチクラワックスとして、種ごとに異なる炭化水素成分を含んでいる。また、ゴキブリについても、チャバネゴキブリとそれ以外のゴキブリとでは、体表面を覆うクチクラワックスが異なっている。」(申立ての理由第5 3(2)イ(イ))
「本件発明の小動物防除性樹脂組成物や小動物防除性樹脂成形体が対象とする小動物には、上記のチャバネゴキブリ以外にも、様々な虫や哺乳類が多数含まれており、それらの体表の蝋を構成する化合物は、チャバネゴキブリとは異なっている。

そして…、何故、炭化水素系化合物と生物の体表面との親和性が高められるかについての説明は一切なされていない。
そうすると、小動物の体表面を覆う蝋と炭化水素系化合物との親和性は、実際に小動物に対して炭化水素系化合物を接触させる試験をしないと確認することができない。
しかしながら、本件明細書の実施例において、接触による小動物防除効果を確認されているのは、チャバネゴキブリに対して、炭化水素系化合物として所定範囲の分子量及び動粘度を有するパラフィンオイルを用いた実施例のみである…。
したがって、当業者は、技術常識を参酌したうえで本件明細書の記載を見ても、チャバネゴキブリ以外の小動物に対して、炭化水素系化合物として所定範囲の分子量及び動粘度を有するパラフィンオイルを用いた場合に、実施例と同様の効果が得られるのか理解できない。同様に、チャバネゴキブリを含む小動物に対して、所定範囲の分子量及び動粘度を有するパラフィンオイル以外の炭化水素系を用いた場合に、実施例と同様の効果が得られるのか理解できない。」(同(ウ))
「以上のように、本件明細書の記載や技術常識から、当業者が、チャバネゴキブリ以外の小動物を対象とする本件発明に係る小動物防除性樹脂組成物や小動物防除性樹脂成形体が本件発明の課題を解決できることを認識できるとはいえないし、所定範囲の分子量及び動粘度を有するパラフィンオイル以外の炭化水素系化合物を含む本件発明に係る小動物防除性樹脂組成物や小動物防除性樹脂成形体が本件発明の課題を解決できることを認識できるとはいえない。
よって、本件特許は、サポート要件を満たしていない。」(同(エ))

(イ)上記主張について検討する。
本件明細書【0027】〜【0028】には、本件訂正発明に係る「炭化水素系化合物」についての説明がある。そのうち、分子量330〜530の炭化水素が好適なのは、「小動物の体孔から小動物の体内に容易に侵入するからである」と説示されている。また、本件実施例において、分子量330〜530のパラフィンオイルを用いて試験し、その有効性が確認されている。
そして、パラフィンオイル以外の炭化水素系化合物を含む本件訂正発明が、その課題を解決することができないと解される根拠を、本件明細書あるいは甲各号証から見いだすことができない。

ウ まとめ
よって、本件訂正発明1〜4は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、特許法第36条第6項の規定を満たしているといえるから、申立人が主張する取消理由2には理由がない。

3 まとめ
以上のことから、申立人が主張する申立ての理由にはいずれも理由がなく、これらの申立の理由によっては本件訂正発明に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、異議申立ての理由及び当審からの取消理由によっては、請求項1〜4に係る発明の特許を取り消すことはできない。また、他に当該特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】小動物防除性樹脂組成物及びこれを用いた小動物防除性樹脂成形体
【技術分野】
【0001】
本発明は、小動物防除性樹脂組成物及びこれを用いた小動物防除性樹脂成形体に係り、特に、これに接触した小動物の体表面に小動物防除剤を効率よく移行させる手段及び体表面に移行した小動物防除剤を小動物の体内に速やかに取り込ませる手段に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、小動物防除性樹脂組成物としては、ベース樹脂中に、小動物防除剤と、小動物防除剤を溶解保持して徐放性を付与する徐放助剤とを混練したもの(例えば、特許文献1参照。)や、ベース樹脂中に、小動物防除剤と、ベース樹脂に対する小動物防除剤の親和性を高める親和性樹脂とを混練したもの(例えば、特許文献2参照。)等が知られている。
【0003】
特許文献1に記載の小動物防除性樹脂組成物は、ベース樹脂中に小動物防除剤の徐放助剤を混練したので、小動物防除性能を長期にわたって発現することができる。また、特許文献1に記載の小動物防除性樹脂組成物は、ベース樹脂として、ポリアミド樹脂及びポリアセタール樹脂より選ばれる少なくとも1種の樹脂を用いているので、その成形体は、各種構造部材として使用可能な強度、耐熱性及び耐薬品性を有している。
【0004】
一方、特許文献2に記載の小動物防除性樹脂組成物は、ベース樹脂中に小動物防除剤の親和性樹脂を混練したので、ベース樹脂に対する小動物防除剤の分散性及び相溶性を高めることができ、長期にわたって高い小動物防除剤保持率を維持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−212005号公報
【特許文献2】特開2008−206492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、小動物防除性樹脂組成物及びこれを用いた小動物防除性樹脂成形体には、その基本的な性能として、有害な小動物に対する小動物防除剤の速効性が高いことが求められる。このような性能は、小動物防除性樹脂組成物又は小動物防除性樹脂成形体に接触した小動物の体表面に、小動物防除剤を効率よく移行させること、及び、体表面に移行した小動物防除剤を小動物の体内に効率よく取り込ませることにより発揮される。
【0007】
特に、近年においては、小動物防除剤に対する耐性を持った小動物が増えていることから、従来よりも大量の小動物防除剤を効率よく小動物の体表面に付着させること、及び、体表面に移行した小動物防除剤を小動物の体内に速やかに取り込ませることが、重要な技術的課題になっている。
【0008】
しかしながら、従来においては、大量の小動物防除剤を効率よく小動物の体表面に付着させる、体表面に移行した小動物防除剤を小動物の体内に速やかに取り込ませる、という発想自体が知られておらず、小動物防除性樹脂組成物又は小動物防除性樹脂成形体中の小動物防除剤の添加量を増加することにより対処しようとするものがほとんどである。このため、高性能の小動物防除性樹脂組成物及び小動物防除性樹脂成形体は、高コストになりやすいという問題がある。
【0009】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、有害な小動物に対する速効性が高い小動物防除性樹脂組成物及び小動物防除性樹脂成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記の技術的課題を解決するため、小動物防除性樹脂組成物に関しては、エポキシ樹脂、ポリアミド、常温硬化シリコーン系樹脂、及び加熱硬化シリコーン系樹脂のうちの少なくとも1つを含むベース樹脂と、小動物防除剤と、分子量が330〜530の炭化水素系化合物と、を少なくとも含むことを特徴とする。
【0011】
また本発明は、小動物防除性樹脂成形体に関して、エポキシ樹脂、ポリアミド、常温硬化シリコーン系樹脂、及び加熱硬化シリコーン系樹脂のうちの少なくとも1つを含むベース樹脂と、小動物防除剤と、分子量が330〜530の炭化水素系化合物とを少なくとも含む小動物防除性樹脂組成物を成形材料として用い、これを所定の形状に成形して成ることを特徴とする。
【0012】
生物の体表面は、皮膚腺から放出される炭化水素を含む蝋で覆われている。従って、小動物防除性樹脂組成物又は小動物防除性樹脂成形体に添加剤として炭化水素系化合物を添加すると、小動物防除剤を含む炭化水素系化合物と生物の体表面との親和性が高められ、小動物防除性樹脂組成物又は小動物防除性樹脂成形体の表面に徐放された小動物防除剤を効率よく小動物の体表面に移行させることができる。よって、小動物防除剤の速効性を高めることができる。
【0014】
330〜530程度の小さな分子量の炭化水素系化合物は、小動物の体孔から体内に容易に侵入する。よって、炭化水素系化合物に含まれる小動物防除剤も小動物の体孔から体内に速やかに侵入し、小動物防除剤の速効性が高められる。
【0017】
また本発明は、前記構成の小動物防除性樹脂組成物及び小動物防除性樹脂成形体において、前記炭化水素系化合物は、パラフィンオイルであることを特徴とする。
【0018】
パラフィンオイルは安価にして入手が容易であるので、炭化水素化合物としてこれを添加することにより、高性能の小動物防除性樹脂組成物及び小動物防除性樹脂成形体を低コストに製造することができる。
【0019】
また本発明は、前記構成の小動物防除性樹脂組成物において、塗料またはシーリング剤として用いられることを特徴とする。
【0020】
前記構成の小動物防除性樹脂組成物は、適宜のベース樹脂を選択し、かつ炭化水素系化合物の添加量及び充填剤の添加量を適宜調整することにより、流動性、半流動性又はゴム状弾性を有するものとして製造できる。流動性を有するものは、例えば塗料として利用でき、半流動性を有するものは、例えばシーリング剤として利用できる。更に、ゴム状弾性を有するものは、クッション材や詰め物として利用できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の小動物防除性樹脂組成物及び小動物防除性樹脂成形体は、ベース樹脂中に小動物防除剤と炭化水素系化合物とを含むので、小動物防除性樹脂組成物又は小動物防除性樹脂成形体の表面に徐放された小動物防除剤を、これに接触した小動物の体表面に効率よく移行させることができ、高い小動物防除性能を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1〜16に係る小動物防除性樹脂組成物の組成を示す表図である。
【図2】実施例17〜32に係る小動物防除性樹脂組成物の組成を示す表図である。
【図3】比較例1〜22に係る小動物防除性樹脂組成物の組成を示す表図である。
【図4】実施例1〜16に係る小動物防除性樹脂組成物の薬剤表面量、殺虫速効性、害虫忌避率の試験データを示す表図である。
【図5】実施例17〜32に係る小動物防除性樹脂組成物の薬剤表面量、殺虫速効性、害虫忌避率の試験データを示す表図である。
【図6】比較例1〜22に係る小動物防除性樹脂組成物の薬剤表面量、殺虫速効性、害虫忌避率の試験データを示す表図である。
【図7】実施例1〜8に係る小動物防除性樹脂組成物中に含まれる炭化水素化合物の分子量と害虫のノックダウンタイムとの関係を示すグラフ図である。
【図8】実施例1〜8に係る小動物防除性樹脂組成物中に含まれる炭化水素化合物の動粘度と害虫のノックダウンタイムとの関係を示すグラフ図である。
【図9】実施例9〜16に係る小動物防除性樹脂組成物中に含まれる炭化水素化合物の分子量と害虫のノックダウンタイムとの関係を示すグラフ図である。
【図10】実施例9〜16に係る小動物防除性樹脂組成物中に含まれる炭化水素化合物の動粘度と害虫のノックダウンタイムとの関係を示すグラフ図である。
【図11】実施例17〜24に係る小動物防除性樹脂組成物中に含まれる炭化水素化合物の分子量と害虫のノックダウンタイムとの関係を示すグラフ図である。
【図12】実施例17〜24に係る小動物防除性樹脂組成物中に含まれる炭化水素化合物の動粘度と害虫のノックダウンタイムとの関係を示すグラフ図である。
【図13】実施例25〜32に係る小動物防除性樹脂組成物中に含まれる炭化水素化合物の分子量と害虫のノックダウンタイムとの関係を示すグラフ図である。
【図14】実施例25〜32に係る小動物防除性樹脂組成物中に含まれる炭化水素化合物の動粘度と害虫のノックダウンタイムとの関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
実施形態に係る小動物防除性樹脂組成物及び小動物防除性樹脂成形体は、ベース樹脂、小動物防除剤及び炭化水素系化合物を少なくとも含んで構成され、その他、製品の特性に合わせて他の添加剤が添加される。以下、実施形態に係る小動物防除性樹脂組成物及び小動物防除性樹脂成形体を素材毎に説明する。
【0024】
〈ベース樹脂〉
ベース樹脂には、特に制限がなく、公知に属する樹脂材料の中から製品の特性に合致するものを選択して使用することができる。また、複数の樹脂材料の混合体をベース樹脂として用いることもできる。
【0025】
一例として、実施形態に係る小動物防除性樹脂組成物及び小動物防除性樹脂成形体に適用可能な熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、メタクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、EVA樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、フッ素樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、液晶ポリエステル樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂等を挙げることができる。
【0026】
また、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フラン樹脂、ポリアミノビスマレイミド樹脂、カゼイン樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリウレア樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、オキセタン樹脂、キシレン樹脂、ジシクロペンタジェン樹脂、エピスルフィド樹脂等を挙げることができる。
【0027】
〈炭化水素化合物〉
炭化水素系化合物としては、鎖式飽和炭化水素化合物(パラフィン類)、鎖式不飽和炭化水素化合物(オレフィン類)、脂環式炭化水素化合物(シクロアルカン、シクロアルケン、シクロアルキン等)、芳香族炭化水素化合物を挙げることができる。
【0028】
これらの炭化水素化合物の中でも、分子量が330〜530で、動粘度が10〜120cStのパラフィンオイルが特に好適に用いられる。分子量が330〜530の炭化水素化合物は、小動物の体孔から小動物の体内に容易に侵入するからである。また、動粘度が10〜120cStの炭化水素化合物は、小動物の体表面に付着しやすいからである。更に、パラフィンオイルを用いるのは、安価かつ容易に入手できるからである。
【0029】
〈小動物防除剤〉
小動物防除剤は、各種の農業害虫、衛生害虫その他の昆虫類、蜘蛛類、ダニ類、鼠等の小動物の防除活性を有する薬剤であり、小動物忌避活性を有する化合物、殺虫活性、殺ダニ活性、殺蜘蛛活性若しくは殺鼠活性等の殺小動物活性を有する化合物、小動物の摂食阻害活性を有する化合物、小動物の成長コントロール活性を有する化合物等を例示できる。
【0030】
小動物防除性を有する薬剤の具体例としては、イミダクロプリドの様なクロロニコチニル系殺虫剤、シラフルオフェンの様なケイ素原子を有するネオフィルラジカルからなる化合物、ベンフラカルブ、アラニカルブ、メトキシジアゾン、カルボスファン、フェノブカルブ、カルバリル、メソミル、プロポクサー、フェノキシカルブ等のカーバメート系化合物、ピレトリン、アレスリン、dl,d−T80−アレスリン、d−T80−レスメトリン、バイオアレスリン、d−T80−フタルスリン、フタルスリン、レスメトリン、フラメトリン、プロパスリン、ペルメトリン、アクリナトリン、エトフェンプロックス、トランスフルトリン、トラロメトリン、フェノトリン、d−フェノトリン、フェンバレレート、エンペントリン、プラレトリン、テフルスリン、イカリジン、ベンフルスリン等のピレスロイド系化合物、ジクロロボス、フェニトロチオン、ダイアジノン、マラソン、プロモフォス、フェンチオン、トリクロルホン、ナレド、テメホス、フェンクロホス、クロルピリホスメチル、シアホス、カルクロホス、アザメチホス、ピリダフェンチオン、プロペタンホス、クロルピリホス等の有機リン系化合物及びこれらの異性体、誘導体、類縁体等を例示できる。
【0031】
小動物の成長をコントロールする活性を有する化合物としては、メトプレン、ピリプロキシフェン、キノプレン、ハイドロプレン、デオヘノラン、NC−170、フルフェノロクスロン、ジフルベンズロン、ルフェヌロン、クロルアズロン等が挙げられる。
【0032】
殺ダニ剤としては、ケルセン、クロルフェナビル、デブフェンピラドピリダベン、ミルベメクチン、フェンピロキシメート等が挙げられる。
【0033】
殺鼠剤としては、シリロシド、ノルボマイド、隣化亜鉛、硫酸タリウム、貴隣、アンツー、ワルファリン、エンドサイド、クマリン、クマテトラリン、プロマジオロン、ディフェチアロン等が挙げられる。
【0034】
更に、タイワンヒノキ、アスナロ、ヒノキアスナロ(青森ヒバ)等に含まれるヒノキチオール、ハーブやヒノキに含まれるカジノール誘導体(α−カジノール、T−カジノール)、クローブ、ナツメグ、コリアンダー、クミン等の香油植物に多く含まれるゲラニオール、ピネン、カリオフィレン、ボルネオール、オイゲノール等、オギスギなど小動物防除性を有する公知の香油等の天然由来の薬剤も、本発明における小動物防除性を有する薬剤として使用することができる。
【0035】
小動物防除性樹脂組成物及びこれを用いた小動物防除性樹脂成形体の製造に際しては、上記の中から製品の使用目的に合致した適宜の小動物防除剤を選択して用いることができる。
【0036】
なお、実施形態に係る小動物防除性樹脂組成物においては、小動物防除性樹脂組成物の総量に対する小動物防除剤の含有率を、0.1重量%以上20重量%以下とすることが望ましい。含有率が0.1重量%未満であると、小動物の忌避効果が低くなり、かつその効果の継続性も低くなるからである。一方、含有率が20重量%を超えると、小動物防除性樹脂組成物の製造コストが高価になるからである。
【0037】
〈他の添加剤〉
実施形態に係る小動物防除性樹脂組成物を機械的な方法で成形して、所定形状の小動物防除性樹脂成形体を製造する場合には、所定量の無機充填材を添加することができる。無機充填材としては、粒子状無機充填材、繊維状無機充填材、或いは鱗片状無機充填材を使用することができる。ベース樹脂中にこれらの無機充填材を配合すると、小動物防除剤の徐放性が長期間に亘って持続され、かつ成形体の機械的物性が向上する。
【0038】
粒子状無機充填材としては、チタン酸カリウム粒子、チタニア粒子、単斜晶系チタニア粒子、シリカ粒子、リン酸カルシウム等を例示でき、これらを単独で又は混合して用いることができる。これらの粒子状無機充填材の中では、小動物防除剤の徐放性に優れることから、チタン酸カリウム粒子が特に好ましい。
【0039】
繊維状無機充填材としては、成形体の外観に悪影響を与えないことから、例えば、平均繊維径0.05〜10μm、平均繊維長3〜150μm、好ましくは、平均繊維径0.1〜7μm、平均繊維長5〜50μmの形状を有する繊維状無機充填材を好適に使用することができる。また、該繊維状無機充填材としては、例えば、4チタン酸カリウム繊維、6チタン酸カリウム繊維、8チタン酸カリウム繊維、チタニア繊維、単斜晶系チタニア繊維、シリカ繊維、ワラストナイト、ゾノトライト等を例示でき、これらを単独で又は混合して用いることができる。
【0040】
鱗片状無機充填材としては、チタン酸カリウム、チタン酸カリウムリチウム、チタン酸カリウムマグネシウム、タルク、合成マイカ、天然マイカ、セリサイト、板状アルミナ、窒化ホウ素等を例示でき、これらを単独で又は混合して用いることができる。
【0041】
なお、無機充填材はそのままでも使用し得るが、樹脂との界面接着性を向上させ機械的物性を一層向上させるために、アミノシラン、エポキシシラン、アクリルシラン等のシランカップリング剤又はチタネートカップリング剤等の表面処理剤で表面処理して用いても良い。
【0042】
実施形態に係る小動物防除性樹脂組成物は、所定形状を有する成形体に加工して利用するだけでなく、そのままの状態で、例えば塗料、シーリング剤、クッション材又は詰め物として利用することもできる。即ち、実施形態に係る小動物防除性樹脂組成物は、適宜のベース樹脂を選択し、かつ炭化水素系化合物の添加量及び充填剤の添加量を適宜調整することにより、流動性、半流動性又はゴム状弾性を有するものとして製造できる。従って、流動性を有するものは、例えば塗料として利用でき、半流動性を有するものは、例えばシーリング剤として利用できる。また、ゴム状弾性を有するものは、例えばクッション材や詰め物として利用できる。なお、実施形態に係る小動物防除性樹脂組成物を塗料、シーリング剤、クッション材又は詰め物として利用する場合には、必要に応じてベース樹脂中に着色剤や顔料等の色材を添加することができる。
【0043】
〈小動物防除性樹脂組成物の成形方法〉
小動物防除性樹脂組成物の成形に際しては、例えば射出成形、圧縮成形、トランスファー成形、押出成形、ブロー成形、カレンダー成形、FRP成形、積層成形、注型成形、溶液流涎法、真空・圧空成形、押出複合成形、発泡成形、熱成形、インサート成形、溶融含浸法等の公知に属する適宜の成形法を適用することができる。また、製品である小動物防除性樹脂成形体の形状に関しては特に制限があるものではなく、平板状、棒状、円筒状、櫛形、球状等、あらゆる形状とすることができる。また、小動物防除性樹脂組成物を単体で成形するほか、金属等と組み合わせた二色乃至多色の成形を行うこともできる。
【0044】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明に係る小動物防除性樹脂組成物及び小動物防除性樹脂成形体の効果を明らかにする。
【0045】
図1に実施例1〜16に係る小動物防除性樹脂組成物の組成を示し、図2に実施例17〜32に係る小動物防除性樹脂組成物の組成を示す。また、図3に比較例1〜22に係る小動物防除性樹脂組成物の組成を示す。
【0046】
〈実施例1〜8〉
実施例1〜8に係る小動物防除性樹脂組成物は、ベース樹脂として98重量部のポリアミド12(ダイセル・エポニック社製、ダイアミドL1901)と、小動物防除剤(薬剤)として1重量部のエトフェンプロックスと、添加剤として1重量部のパラフィンオイルとを含む。パラフィンオイルとしては、分子量が228〜648で、動粘度が4.3〜409cStのものを用いた。実施例1〜8に係る小動物防除性樹脂組成物は、190℃に設定したラボプラストミルを用いて混練した。
【0047】
また、実施例1〜8に係る小動物防除性樹脂組成物を、190℃に設定されたプレス機の型内に置き、これに10MPaの圧力をかけて、厚みが2.0mmで一辺の長さが100mmの四角形のプレート状小動物防除性樹脂成形体を実験試料として作成した。
【0048】
〈実施例9〜16〉
実施例9〜16に係る小動物防除性樹脂組成物は、ベース樹脂として98重量部のポリエチレン(宇部丸善ポリエチレン社製、UBEポリエチレンJ2522)と、小動物防除剤(薬剤)として1重量部のエトフェンプロックスと、添加剤として1重量部のパラフィンオイルとを含む。パラフィンオイルとしては、分子量が228〜648で、動粘度が4.3〜409cStのものを用いた。実施例9〜16に係る小動物防除性樹脂組成物は、130℃に設定したラボプラストミルを用いて混練した。
【0049】
また、実施例9〜16に係る小動物防除性樹脂組成物を、130℃に設定されたプレス機の型内に置き、これに10MPaの圧力をかけて、厚みが2.0mmで一辺の長さが100mmの四角形のプレート状小動物防除性樹脂成形体を実験試料として作成した。
【0050】
〈実施例17〜24〉
実施例17〜24に係る小動物防除性樹脂組成物は、ベース樹脂として94重量部の常温硬化シリコーン系樹脂(信越シリコーン社製、シーラント45)と、小動物防除剤(薬剤)として1重量部のエトフェンプロックスと、添加剤として5重量部のパラフィンオイルとを含む。パラフィンオイルとしては、分子量が228〜648で、動粘度が4.3〜409cStのものを用いた。実施例17〜24に係る小動物防除性樹脂組成物は、プラスチックカップ内でガラス棒を用いて混合した。
【0051】
また、実施例17〜24に係る小動物防除性樹脂組成物を型内に流し込み、これを40℃環境下に1週間放置して、厚みが1.0mmで一辺の長さが100mmの四角形のプレート状小動物防除性樹脂成形体を実験試料として作成した。
【0052】
〈実施例25〜32〉
実施例25〜32に係る小動物防除性樹脂組成物は、ベース樹脂として94重量部の加熱硬化シリコーン系樹脂(信越シリコーン社製、KE−1825)と、小動物防除剤(薬剤)として1重量部のエトフェンプロックスと、添加剤として5重量部のパラフィンオイルとを含む。パラフィンオイルとしては、分子量が228〜648で、動粘度が4.3〜409cStのものを用いた。実施例25〜32に係る小動物防除性樹脂組成物は、プラスチックカップ内でガラス棒を用いて混合した。
【0053】
また、実施例25〜32に係る小動物防除性樹脂組成物を型内に流し込み、これを120℃環境下に1日放置して、厚みが1.0mmで一辺の長さが100mmの四角形のプレート状小動物防除性樹脂成形体を実験試料として作成した。
【0054】
〈比較例1〉
比較例1に係る小動物防除性樹脂組成物は、ベース樹脂として99重量部のポリアミド12(ダイセル・エポニック社製、ダイアミドL1901)と、小動物防除剤(薬剤)として1重量部のエトフェンプロックスとを含み、炭化水素系化合物は添加されていない。比較例1に係る小動物防除性樹脂組成物は、190℃に設定したラボプラストミルを用いて混練した。
【0055】
また、比較例1に係る小動物防除性樹脂組成物を、190℃に設定されたプレス機の型内に置き、これに10MPaの圧力をかけて、厚みが2.0mmで一辺の長さが100mmの四角形のプレート状小動物防除性樹脂成形体を実験試料として作成した。
【0056】
〈比較例2〉
比較例2に係る小動物防除性樹脂組成物は、ベース樹脂として99重量部のポリエチレン(宇部丸善ポリエチレン社製、UBEポリエチレンJ2522)と、小動物防除剤(薬剤)として1重量部のエトフェンプロックスとを含み、炭化水素系化合物は添加されていない。比較例2に係る小動物防除性樹脂組成物は、130℃に設定したラボプラストミルを用いて混練した。
【0057】
また、比較例2に係る小動物防除性樹脂組成物を、130℃に設定されたプレス機の型内に置き、これに10MPaの圧力をかけて、厚みが2.0mmで一辺の長さが100mmの四角形のプレート状小動物防除性樹脂成形体を実験試料として作成した。
【0058】
〈比較例3〉
比較例3に係る小動物防除性樹脂組成物は、ベース樹脂として99重量部の常温硬化シリコーン系樹脂(信越シリコーン社製、シーラント45)と、小動物防除剤(薬剤)として1重量部のエトフェンプロックスとを含み、炭化水素系化合物は添加されていない。比較例3に係る小動物防除性樹脂組成物は、プラスチックカップ内でガラス棒を用いて混合した。
【0059】
また、比較例3に係る小動物防除性樹脂組成物を型内に流し込み、これを40℃環境下に1週間放置して、厚みが1.0mmで一辺の長さが100mmの四角形のプレート状小動物防除性樹脂成形体を実験試料として作成した。
【0060】
〈比較例4〜21〉
比較例4〜21に係る小動物防除性樹脂組成物は、ベース樹脂として94重量部の常温硬化シリコーン系樹脂(信越シリコーン社製、シーラント45)と、小動物防除剤(薬剤)として1重量部のエトフェンプロックスと、添加剤として5重量部の炭化水素系化合物以外の化合物とを合む。比較例4〜21に係る小動物防除性樹脂組成物は、プラスチックカップ内でガラス棒を用いて混合した。
【0061】
また、比較例4〜21に係る小動物防除性樹脂組成物を型内に流し込み、これを40℃環境下に1週間放置して、厚みが1.0mmで一辺の長さが100mmの四角形のプレート状小動物防除性樹脂成形体を実験試料として作成した。
【0062】
〈比較例22〉
比較例22に係る小動物防除性樹脂組成物は、ベース樹脂として99重量部の加熱硬化シリコーン系樹脂(信越シリコーン社製、KE−1825)と、小動物防除剤として1重量部のエトフェンプロックスとを含み、炭化水素系化合物は添加されていない。比較例22に係る小動物防除性樹脂組成物は、プラスチックカップ内でガラス棒を用いて混合した。
【0063】
また、比較例22に係る小動物防除性樹脂組成物を型内に流し込み、これを120℃環境下に1日放置して、厚みが1.0mmで一辺の長さが100mmの四角形のプレート状小動物防除性樹脂成形体を実験試料として作成した。
【0064】
図4〜図6に、実施例1〜32及び比較例1〜22に係る小動物防除性樹脂成形体について行った薬剤表面量測定、殺虫速効性試験及び害虫忌避率試験の結果を示す。
【0065】
〈薬剤表面量測定〉
薬剤表面量測定は、実施例1〜32に係る試料及び比較例1〜22に係る試料から、試料表面を溶剤で洗浄し、洗浄した溶液を液体クロマトグラフィで測定することにより行った。
【0066】
図4の実施例1〜8及び図6の比較例1から明らかなように、ベース樹脂としてポリアミド12を用いた実験試料の薬剤表面量測定は、2.2〜2.5μg/cm2の範囲内にある。また、図4の実施例9〜16及び図6の比較例2から明らかなように、ベース樹脂としてポリエチレンを用いた実験試料の薬剤表面量測定は、3.0〜3.3μg/cm2の範囲内にある。また、図5の実施例17〜24及び図6の比較例3〜21から明らかなように、ベース樹脂として常温硬化シリコーン系樹脂を用いた実験試料の薬剤表面量測定は、27〜38μg/cm2の範囲内にある。また、図5の実施例25〜32及び図6の比較例22から明らかなように、ベース樹脂として加熱硬化シリコーン系樹脂を用いた実験試料の薬剤表面量測定は、29〜33μg/cm2の範囲内にある。
【0067】
これらの測定結果から、各実験試料の薬剤表面量は、ベース樹脂の種類によって差が生じるものの、添加剤の有無や添加剤の種類によってはほとんど差が生じないことが明らかになった。このことから、以下に説明する殺虫速効性試験及び害虫忌避率試験の結果は、各実験試料の薬剤表面量の差によるものではなく、添加剤であるパラフィンオイルの分子量及び動粘度の差によるものであると言える。
【0068】
〈殺虫速効性試験〉
殺虫速効性試験は、チャバネゴキブリを実施例1〜32及び比較例1〜22の実験試料に継続的に接触させ、50%のチャバネゴキブリがノックダウンするまでにかかった時間(KT−50)を測定することにより行った。より具体的には、実施例1〜32及び比較例1〜22に係る実験試料から、一辺が50mmの四角形のヒースを切り取り、これを縦が55mm、横が55mm、高さが55mmの有底の試験容器の内側底面に設置し、この試験容器内に10匹のチャバネゴキブリを投入し、5匹のチャバネゴキブリがノックダウンするまでにかかった時間を測定した。なお、試験容器の内側壁面には、炭酸カルシウムの粉末を塗布してチャバネゴキブリが逃げ出さないようにし、チャバネゴキブリを継続的に実験試料に接触させた。その結果、図4〜図6のデータを得た。
【0069】
また、図4〜図6のデータから、実施例1〜8、実施例9〜16、実施例17〜24、実施例25〜32のそれぞれについて、パラフィンオイルの分子量に対するKT−50のデータ及びパラフィンオイルの動粘度に対するKT−50のデータをプロットして、図7〜図14のデータを得た。また、図7〜図14には、実施例1〜8に対応する比較例1のデータ、実施例9〜16に対応する比較例2のデータ、実施例17〜24に対応する比較例3〜21のデータ、実施例25〜32に対応する比較例22のデータを併せて示した。
【0070】
図7、図9、図11、図13から明らかなように、ベース樹脂の種類によらず、パラフィンオイルの分子量に対するKT−50の変化の傾向はほぼ同一であり、分子量が330〜530の範囲で、比較例に係る小動物防除性樹脂組成物及び小動物防除性樹脂成形体よりも、KT−50が改善されている。これは、分子量が330〜530程度の低分子量のパラフィンオイルは、害虫の体孔から体内に入り込みやすいためであると考察される。
【0071】
図8、図10、図12、図14から明らかなように、ベース樹脂の種類によらず、パラフィンオイルの動粘度に対するKT−50の変化の傾向はほぼ同一であり、動粘度が10〜120cStの範囲で、比較例に係る小動物防除性樹脂組成物及び小動物防除性樹脂成形体よりも、KT−50が改善されている。これは、動粘度が10〜120cSt程度の低粘度のパラフィンオイルは、害虫の体表面に移行されやすいためであると考察される。
【0072】
〈害虫忌避率試験〉
害虫忌避率の評価は、シェルター試験により行った。具体的には、上部が開放された有底の試験容器(縦300mm、横230mm、高さ250mm)内に、餌及び水と、害虫が隠れることのできる2つのシェルター(縦60mm、横60mm、高さ10mm)A、Bを置いた。シェルターAは、内部に実施例1〜32及び比較例1〜22に係る実験試料(一辺の長さが50mmの正方形)をそれぞれ設置したものとし、シェルターBは、内部に前記実験試料を設置しないものとした。前記試験容器内にチャバネゴキブリ10匹を投入して放置し、10時間放置した後に、前記試験容器からシェルターA,Bを取り出して、それぞれのシェルター内にいるチャバネゴキブリの数を数え、忌避率[%]={(シェルターBの虫の数−シェルターAの虫の数)/シェルターBの虫の数}×100の式により、忌避率を算出した。
【0073】
図4〜図6に示すように、実施例1〜32及び比較例1〜22に係る実験試料は、いずれも害虫忌避率が100%であった。このことから、実施例1〜32に係る小動物防除性樹脂組成物及び小動物防除性樹脂成形体は、高い害虫忌避率を発揮するだけでなく、殺虫速効性についても高い性能を発揮することが分かる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂、ポリアミド、常温硬化シリコーン系樹脂、及び加熱硬化シリコーン系樹脂のうちの少なくとも1つを含むベース樹脂と、小動物防除剤と、分子量が330〜530の炭化水素系化合物と、を少なくとも含むことを特徴とする小動物防除性樹脂組成物。
【請求項2】
前記炭化水素系化合物は、パラフィンオイルであることを特徴とする請求項1に記載の小動物防除性樹脂組成物。
【請求項3】
塗料またはシーリング剤として用いられることを特徴とする請求項1または2に記載の小動物防除性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の小動物防除性樹脂組成物を成形材料として用い、これを所定の形状に成形して成ることを特徴とする小動物防除性樹脂成形体。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照
異議決定日 2021-10-15 
出願番号 P2016-153208
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A01N)
P 1 651・ 113- YAA (A01N)
P 1 651・ 537- YAA (A01N)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 吉岡 沙織
大熊 幸治
登録日 2020-08-17 
登録番号 6750869
権利者 株式会社ニックス
発明の名称 小動物防除性樹脂組成物及びこれを用いた小動物防除性樹脂成形体  
代理人 特許業務法人 武和国際特許事務所  
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