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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  C09D
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09D
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09D
管理番号 1382384
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-03-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-04-27 
確定日 2021-10-22 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6779328号発明「表刷り用グラビア印刷インキ組成物および印刷物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6779328号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜4〕について訂正することを認める。 特許第6779328号の請求項1、3及び4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6779328号の請求項1〜4に係る特許についての出願は、平成31年2月5日の出願であって、令和2年10月15日にその特許権の設定登録がされ、同年11月4日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1、3及び4に係る特許に対し、令和3年4月27日に特許異議申立人服部道俊(以下、「申立人」ともいう。)は特許異議の申立てを行い、当審は同年8月11日付けで取消理由を通知した。この取消理由通知に対して、特許権者は同年8月25日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」とい。)を行った。本件訂正請求は、次の「第2」に述べるように、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、特許請求の範囲の範囲が変更されるものではない軽微なものであり、本件訂正請求の内容が実質的な判断に影響を与えるものではないことから、特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情がある場合(特許法120条の5第5項)に該当すると認めて、特許異議申立人が意見書を提出する機会は設けなかった。

第2 訂正の可否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、次の訂正事項1のとおりである。なお、訂正前の請求項2〜4は、訂正前の請求項1の記載を引用しているから、本件訂正は、一群の請求項1〜4について請求されている。
(訂正事項1)
特許請求の範囲の請求項1に、
「顔料と、トール油脂肪酸を反応原料とする熱可塑性ポリアミド樹脂と、セルロース誘導体と、脂肪酸アミドと、粘着性付与剤と、有機溶剤とを含み、
前記熱可塑性ポリアミド樹脂と前記セルロース誘導体との含有比率は、96:4〜70:30であり、
前記粘着性付与剤は、脂環族飽和炭化水素樹脂、重合ロジンおよびダンマル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記粘着性付与剤の含有量は、インキ組成物中、0.5〜6質量部であり、
前記粘着性付与剤が前記脂環族飽和炭化水素樹脂を含む場合、前記脂環族飽和炭化水素樹脂の含有量は、インキ組成物中、2〜3質量部であり、前記粘着性付与剤が前記重合ロジンを含む場合、前記重合ロジンの含有量は、インキ組成物中、3〜4質量部であり、前記粘着性付与剤が前記ダンマル樹脂を含む場合、前記ダンマル樹脂の含有量は、インキ組成物中、0.5〜4.8質量部であり、
前記脂環族飽和炭化水素樹脂は、アルコンP−90(商品名)またはアルコンP−125(商品名)のうち少なくともいずれか一方を含む、表刷り用グラビア印刷インキ組成物。」と記載されているのを、「含有量」についての規定である「質量部」を「質量%」と訂正して、
「顔料と、トール油脂肪酸を反応原料とする熱可塑性ポリアミド樹脂と、セルロース誘導体と、脂肪酸アミドと、粘着性付与剤と、有機溶剤とを含み、
前記熱可塑性ポリアミド樹脂と前記セルロース誘導体との含有比率は、96:4〜70:30であり、
前記粘着性付与剤は、脂環族飽和炭化水素樹脂、重合ロジンおよびダンマル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記粘着性付与剤の含有量は、インキ組成物中、0.5〜6質量%であり、
前記粘着性付与剤が前記脂環族飽和炭化水素樹脂を含む場合、前記脂環族飽和炭化水素樹脂の含有量は、インキ組成物中、2〜3質量%であり、前記粘着性付与剤が前記重合ロジンを含む場合、前記重合ロジンの含有量は、インキ組成物中、3〜4質量%であり、前記粘着性付与剤が前記ダンマル樹脂を含む場合、前記ダンマル樹脂の含有量は、インキ組成物中、0.5〜4.8質量%であり、
前記脂環族飽和炭化水素樹脂は、アルコンP−90(商品名)またはアルコンP−125(商品名)のうち少なくともいずれか一方を含む、表刷り用グラビア印刷インキ組成物。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2〜4も同様に訂正する。)。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(訂正事項1について)
訂正前の「含有量」についての規定である「質量部」は、「インキ組成物中、・・・質量部」とされていることから、「インキ組成物中」としてインキ組成物全体を100質量部とすることを前提とすることは明らかであるし、本件明細書の【0030】、【0032】、【0034】、【0046】及び【0053】の【表1】において、含有量がすべて「質量%」で示されていることも参酌すると、実質的に「質量%」を意味するものであるといえる。
そうすると、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではなく、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜4〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件訂正請求により訂正された請求項1〜4に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された次の事項により特定される次のとおりのものである(以下、各請求項に係る発明を、項番号に応じて「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)。なお、本件発明2については以下の検討の対象ではないが、参考のため記載したものである。
「【請求項1】
顔料と、トール油脂肪酸を反応原料とする熱可塑性ポリアミド樹脂と、セルロース誘導体と、脂肪酸アミドと、粘着性付与剤と、有機溶剤とを含み、
前記熱可塑性ポリアミド樹脂と前記セルロース誘導体との含有比率は、96:4〜70:30であり、
前記粘着性付与剤は、脂環族飽和炭化水素樹脂、重合ロジンおよびダンマル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記粘着性付与剤の含有量は、インキ組成物中、0.5〜6質量%であり、
前記粘着性付与剤が前記脂環族飽和炭化水素樹脂を含む場合、前記脂環族飽和炭化水素樹脂の含有量は、インキ組成物中、2〜3質量%であり、前記粘着性付与剤が前記重合ロジンを含む場合、前記重合ロジンの含有量は、インキ組成物中、3〜4質量%であり、前記粘着性付与剤が前記ダンマル樹脂を含む場合、前記ダンマル樹脂の含有量は、インキ組成物中、0.5〜4.8質量%であり、
前記脂環族飽和炭化水素樹脂は、アルコンP−90(商品名)またはアルコンP−125(商品名)のうち少なくともいずれか一方を含む、表刷り用グラビア印刷インキ組成物。
【請求項2】
前記粘着性付与剤は、脂環族飽和炭化水素樹脂を含む、請求項1記載の表刷り用グラビア印刷インキ組成物。
【請求項3】
前記有機溶剤は、芳香族有機溶剤およびケトン系溶剤のうち、少なくともいずれか一方を含んでいない、請求項1または2記載の表刷り用グラビア印刷インキ組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の表刷り用グラビア印刷インキ組成物を印刷した、印刷物。」

第4 取消理由の概要
訂正前の請求項1、3及び4に係る特許に対して、令和3年8月11日付けで特許権者に通知した取消理由は、請求項1、3及び4に係る発明は、請求項1に記載された粘着性付与剤、脂環族飽和炭化水素樹脂、重合ロジン及びダンマル樹脂に関する含有量が質量部で特定されているところ、インキ組成物全体が何「質量部」であるか不明であるから、本件請求項1に係る発明では、インキ組成物におけるそれらの含有量を特定することができないものであって、本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである、というものである。

第5 取消理由に対する当審の判断
上記第2で述べたとおり、本件訂正によって「質量部」は「質量%」と訂正され、本件発明1において、粘着性付与剤、脂環族飽和炭化水素樹脂、重合ロジン及びダンマル樹脂に関するインキ組成物における含有量は明確になった。
したがって、上記取消理由は解消した。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由は、次の(1)理由1〜(3)理由3であり、申立人は証拠方法として次の(4)に示した甲第1号証〜甲第9号証を提出した。なお、申立ての理由における「請求項に係る発明」とは、本件訂正前のものを指す。また、甲号証は、単に甲1などと記載する。
(1)理由1(進歩性(特許法第29条第2項(同法第113条第2号)))
請求項1、3及び4に係る発明は、粘着性付与剤が重合ロジンの場合について、甲第1号証を主引例とし、甲第2〜8号証を副引例とする引例に基づいて、進歩性が欠如している。
(2)理由2(進歩性(特許法第29条第2項(同法第113条第2号)))
請求項1、3及び4に係る発明は、粘着性付与剤がダンマル樹脂の場合について、甲第9号証を主引例とし、甲第3〜8号証を副引例とする引例に基づいて、進歩性が欠如している。
(3)理由3(記載不備(特許法第36条第6項第2号、同条第4項第1号(同法第113条第4号)))
特許請求の範囲の請求項1における「トール油脂肪酸を反応原料とする熱可塑性ポリアミド樹脂」の定義が不明瞭である等の理由により、本件特許は、明確性要件(第36条第6項2第号)はもとより、サポート要件(同条第6項第1号)及び実施可能要件(同条第4項第1号)を充足しない。
すなわち、特許請求の範囲の請求項1に記載された「トール油脂肪酸を反応原料とする熱可塑性ポリアミド樹脂」について、発明の詳細な説明には、段落0017〜0021に、「熱可塑性ポリアミド樹脂は、トール油脂肪酸を含むポリカルボン酸とポリアミンとの重縮合物である」と定義されている。
この定義から、ポリアミド樹脂のカルボン酸原料は、モノカルボン酸の混合物であるトール油脂肪酸とポリカルボン酸であることは理解される。
しかしながら、重合に関与するのはモノカルボン酸であるトール油脂肪酸ではなく、ポリカルボン酸であるから、ポリカルボン酸の種類により、物性の異なる数多くのポリアミドが得られる。
ポリカルボン酸には、脂肪族、芳香族などのジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸などが数え切れなく存在する。重合に関与しないトール油脂肪酸さえ特定すれば、ポリカルボン酸が何であってもすべて、本件特許発明と同様の効果を奏するとは常識的に考えられない。
実施例を見ても、段落0045に、「<熱可塑性ポリアミド樹脂>
トール油脂肪酸を反応原料とする熱可塑性ポリアミド樹脂:(Mw10000、酸価2、軟化点110℃)」と記載されているだけで、ポリカルボン酸成分についてもポリアミン成分についても何も記載されていない。製造元も記載されていない。
それゆえ、第三者が、どのようなポリアミド樹脂を使用すればよいのか手がかりがないから、当業者であっても本件特許発明を容易に実施することもできない。
したがって、本件特許発明は、トール油脂肪酸を反応原料とする熱可塑性ポリアミド樹脂の定義が不明瞭であり、それが故に、その外延が広範に過ぎるためサポートされていない範囲を含み、かつ、当業者が実施できる程度に明確に記載されていない。
結局、上記事由により、本件特許は、特許法第36条第4項第1号、及び、同法同条第6項第1号並びに第2号に規定する要件を充足しない。
(4)証拠方法
ア 甲1:特開平7−331154号公報
イ 甲2:特開2016−795号公報
ウ 甲3:中村喜光、「トール油の利用」、紙パ技協誌、第19巻第12号、41〜47頁(昭和40年12月)
エ 甲4:特許第6255123号公報
オ 甲5:鰐淵武雄、「ダイマー酸系熱可塑性ポリアミドの進歩」、色材52〔6〕、331〜342頁(1979)
カ 甲6:特開平7−258593号公報
キ 甲7:特開平10−182816号公報
ク 甲8:特開2017−25256号公報
ケ 甲9:特開2012−107131号公報

2 特許異議申し立て理由についての当審の判断
(1)理由1(甲1を主引例とする進歩性)について
ア 甲1の記載
甲1には、次の記載がある(下線は当審が付与した。)。
(ア)「【請求項1】 重合脂肪酸(A)、炭素数2および/または3の脂肪族モノカルボン酸(B)、炭素数12〜22の飽和脂肪族モノカルボン酸(C)およびポリアミン(D)を縮合重合せしめて得られるポリアミド樹脂において、〔(B)+(C)〕の比率が全カルボン酸成分の15〜35当量%であり、且つ、(C)の量が全モノカルボン酸成分の3〜20当量%であって、110〜150℃の微量融点測定法による融点と、30〜120CPS(20℃)の溶液粘度〔樹脂濃度:40重量%,溶剤組成:トルエン/イソプロピルアルコール=2/1(重量比)〕を有することを特徴とする印刷インキ用ポリアミド樹脂組成物。」
(イ)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は印刷インキ用ポリアミド樹脂に関する。さらに詳しくは、プラスチックフイルムや金属箔を印刷対象物とする表刷り特殊グラビア印刷インキ(以下、グラビアインキと記す)用ポリアミド樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】グラビアインキの組成は、通常ポリアミド樹脂あるいはポリウレタン樹脂と、硝化綿、アルキルチタネート等の有機金属配位化合物、着色料(顔料や染料)及び必要によりワックス等の添加剤からなっている。近年、グラビアインキには高速自動包袋機の普及により、高温でのヒートシールに耐える耐熱性(以下、本特性をヒートシール耐熱性と記す)、未処理ポリオレフインフイルムに対する接着性及び高速印刷適性等が要求されるようになっている。従来から、グラビアインキに用いられているポリアミド樹脂としては、"○1"(当審注:○中に1、以下同様)一般的なポリアミド樹脂として、重合脂肪酸、炭素数2〜18の脂肪族モノカルボン酸およびポリアミンからなる縮合重合物が知られている。また、ヒートシール耐熱性を向上する手段としては、"○2"構成成分の1部にアルカノールアミン、ポリオール、ヒドロキシ脂肪族モノカルボン酸等を使用し、分子中に水酸基を導入してヒートシール耐熱性や耐揉み性を向上させたポリアミド樹脂(例えば特開昭63−90583号、特開昭63−90584号及び特開平1−279985号各公報);"○3"樹脂分濃度35重量%の溶液粘度が180〜1000CPS/25℃〔溶剤:トルエン/イソプロパノール=2/1(重量比)〕のポリアミド樹脂に硝化綿及びキレート剤を配合してヒートーシール耐熱性および密着性を向上させた印刷インキ用ビヒクル(特開平5−295313号公報)等が知られている。更に、コロナ処理等で表面処理をしない未処理プラスチックフイルムに対する接着性の良いプラスチック印刷インキ用ビヒクルとしては、"○4"ポリアミド樹脂と硝化綿及びロジンエステル類を配合してなるもの(特開昭58ー122976号公報)等が知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記"○1"のポリアミド樹脂は、通常ヒートシール耐熱性を高くするには硝化綿を多く配合する必要があり、光沢が低下し且つ、未処理ポリオレフインフイルムに対する接着性が発現しなくなる;"○2"のポリアミド樹脂のヒートシール耐熱性は"○1"より優れているが、高速印刷適性が劣る;"○3"のポリアミド樹脂を配合したインキ用ビヒクルはヒートシール耐熱性に優れているが、粘度が高く、高速印刷を目的としたインキのハイソリッド化が困難である;"○4"の印刷インキ用ビヒクルは、未処理プラスチックフイルムに対する接着性を向上させるが、通常のポリアミド樹脂を使用した場合には、ヒートシール耐熱性の向上効果は認められず、ロジンエステルの種類や配合量によっては低下する;等の問題点がある。」
(ウ)「【0005】本発明において、重合脂肪酸(A)としては、オレイン酸やリノール酸等の不飽和脂肪酸またはこれらの低級アルキル(炭素数1〜3)エステルを重合したもので、ダイマー酸とも呼ばれる下記のごとき組成のものが挙げられる。(数値は重量%)
炭素数18の一塩基酸 :0〜15%(好ましくは0〜10%)
炭素数36の二塩基酸 :60〜99%(好ましくは70〜99%)
炭素数54の三塩基酸 :0〜30%(好ましくは0〜20%)
該(A)を構成する重合脂肪酸の1部を他の二塩基酸またはその低級アルキルジエステル(炭素数1〜3)に置き換えても良い。この二塩基酸またはそのアルキルジエステルとしては、下記一般式
R1OOCRCOOR1 (1)
(式中、Rは炭素数2〜20の脂肪族、芳香族または脂環族のジカルボン酸残基を表し、R1は水素または炭素数1〜3のアルキル基を表す。)で示される化合物が挙げられる。重合脂肪酸に対する該一般式(1)の化合物の比率は通常20当量%以下、好ましくは10当量%以下であり、20当量%を超えて使用すると溶解性や接着性を低下させる。」
(エ)「【0013】本発明のポリアミド樹脂組成物は、通常、トルエンとメチルアルコール、イソプロピルアルコール等の芳香族系とアルコール系の混合溶剤に溶解してワニス状として用いたり、樹脂を顔料等と溶融混練してマスターバッチとして使用される。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、硝化綿及び有機金属配位化合物を併用することにより、優れたヒートシール耐熱性、乾燥性、未処理ポリオレフインフイルムに対する接着性及び耐酸化劣化性をグラビアインキに付与することができる。グラビアインキは、例えば本発明のポリアミド樹脂組成物に、着色剤(顔料や染料)、硝化綿の他に必要に応じて添加剤としてロジン系、石油系もしくは芳香族系の樹脂類、可塑剤、有機金属配位化合物、低分子量ポリオレフイン系もしくは低分子量アミド系のワックス類等を添加し、ボールミル、サンドミル、ロールミル等の公知のインキ製造装置を用いて製造される。」
(オ)「【0014】本発明のポリアミド樹脂組成物を使用したグラビアインキの配合処方の一例を示せば以下の通りである(数値は重量%)。
ポリアミド樹脂組成物:通常10〜30(好ましくは15〜25)
硝化綿 :通常 1〜12(好ましくは2〜6)
顔料 :通常 5〜40(好ましくは10〜30)
添加剤 :通常 0〜15(好ましくは1〜10)
溶剤 :通常40〜70(好ましくは50〜70)
硝化綿とポリアミド樹脂組成物の比率は、通常5:95〜40:60(重量比)好ましくは10:90〜30:70(重量比)である。また、有機金属配位化合物の配合量は、上記組成物の合計100重量部に対して通常0.5〜3重量部、好ましくは1〜2重量部である。」
(カ)「【0017】
【実施例】以下、実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下において、特に断りのないかぎり「部」、「%」及び「比率」は、それぞれ重量部、重量%及び重量比を示す。
【0018】実施例1
温度計、攪拌機、窒素導入管を備えた反応槽に、重合脂肪酸〔一塩基酸:6〜8%、二塩基酸:74〜77%、三塩基酸:17〜18%;ハリマ化成(株)製「ハリダイマー200」〕244.8部(0.85当量)、酢酸8.55部(0.1425当量)、ミリスチン酸1.71部(0.0075当量)、エチレンジアミン30部(1当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気中、200℃で4時間反応させ淡褐色固体のポリアミド樹脂組成物(PA1)を得た。該PA1の分析値および物性値を表1に示す。」
(キ)「【0030】試験例1
前記、実施例1〜5および比較例1〜5で得られた各ポリアミド樹脂組成物(PA1〜PA10)の40%溶液〔溶剤組成;トルエン/イソプロピルアルコール=2/1〕を作成し、下記の処方でグラビアインキを調製した。
(イ)各ポリアミド樹脂組成物40%溶液 : 40部
(ロ)硝化綿20%溶液(注1) : 10部
(ハ)ロジンエステル(注2) : 5部
(ニ)酸化チタン(注3) : 25部
(ホ)ステアリン酸アミド10%溶液(注4): 5部
(ヘ)メチルアルコール : 15部
合計 :100部
(ト)アルキルチタネート(注5) :上記組成物100部に対して
1部
【0031】(注1)硝化綿20%溶液:硝化綿〔ダイセル化学工業(株)製「RS−1/4」〕をトルエン/イソプロピルアルコール/酢酸エチル=2/1/1に溶解したもの。
(注2)ロジンエステル:ハリマ化成(株)製「ハリエスターKT2」
(注3)酸化チタン:石原産業(株)製「タイペークR−630」
(注4)ステアリン酸アミド10%溶液:花王(株)製「脂肪酸アマイドS」をトルエン/イソピルアルコール=2/1に加熱溶解後室温に冷却し微分散状にしたもの。
(注5)アルキルチタネート:日本曹達(株)製「TAA」」
(ク)「【0035】
【表3】


(ケ)「【0037】
【発明の効果】本発明の印刷インキ用ポリアミド樹脂組成物は、硝化綿およびアルキルチタネート等の有機金属配位化合物と併用する表刷りグラビアインキバインダーとして、下記の優れた性能をインキに付与する特長を有する。
(1)ヒートシール耐熱性及び乾燥性が優れており、高速自動製袋機や高速印刷に対応できるので、印刷のトータルコストダウンが可能となる。
(2)耐油性が優れており、バターや植物油を含む菓子パン、スナック等の包装資材の印刷にも適している。
(3)未処理ポリオレフインフイルムに対する接着性が優れており、ヒートシール接着強度の向上および包装資材のコストダウンが可能となる。
上記の効果を奏することから、本発明のポリアミド樹脂組成物は、特にプラスチックフイルムや金属箔の包装資材等の印刷に用いられる表刷りグラビアインキ用バインダーとして極めて有用である。」

イ 甲2の記載
甲2には、次の記載がある(下線は、当審が付与した。)。
「【0044】
<粘着付与剤(C)>
粘着付与剤(C)を含有することにより、流動性の向上と供に転写性に優れる。また、線状ポリプロピレン系樹脂との相溶性が良く、かつ結晶性を保有しないため、シルバー発生の抑制効果が高い。(C)としては、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂等の天然樹脂;石油樹脂、水素添加(水添)石油樹脂、スチレン系樹脂、クマロン−インデン系樹脂、フェノール系樹脂、キシレン樹脂等の合成樹脂等が挙げられる。ロジン系樹脂としては、例えば、ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン等のロジン;水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン等の変性ロジン;これらロジン、変性ロジンのグリセリンエステル、ペンタエリスリトールエステル等のロジンエステル等が挙げられる。」

ウ 甲1に記載された発明(甲1発明)
申立人は、甲1の【0030】の試験例である、【0018】の「実施例1」のポリアミド樹脂組成物PA1を用いた「グラビアインキ」を、甲1に記載された発明(甲1発明)として引用しているところ、甲1の上記「グラビアインキ」(以下、「甲1発明」という。)は、同【0030】の記載から、次のものであると認められる。
「(イ)実施例1のポリアミド樹脂組成物PA1 40%溶液 : 40部
(ロ)硝化綿20%溶液(注1) : 10部
(ハ)ロジンエステル(注2) : 5部
(ニ)酸化チタン(注3) : 25部
(ホ)ステアリン酸アミド10%溶液(注4): 5部
(ヘ)メチルアルコール : 15部
合計 :100部
(ト)アルキルチタネート(注5) :上記組成物100部に対して 1部からなるグラビアインキ。
ただし、実施例1のポリアミド樹脂組成物PA1は、
温度計、攪拌機、窒素導入管を備えた反応槽に、重合脂肪酸〔一塩基酸:6〜8%、二塩基酸:74〜77%、三塩基酸:17〜18%;ハリマ化成(株)製「ハリダイマー200」〕244.8部(0.85当量)、酢酸8.55部(0.1425当量)、ミリスチン酸1.71部(0.0075当量)、エチレンジアミン30部(1当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気中、200℃で4時間反応させて得られた淡褐色固体のポリアミド樹脂組成物(PA1)。
また、(注1)硝化綿20%溶液:硝化綿〔ダイセル化学工業(株)製「RS−1/4」〕をトルエン/イソプロピルアルコール/酢酸エチル=2/1/1に溶解したもの。
(注2)ロジンエステル:ハリマ化成(株)製「ハリエスターKT2」
(注3)酸化チタン:石原産業(株)製「タイペークR−630」
(注4)ステアリン酸アミド10%溶液:花王(株)製「脂肪酸アマイドS」をトルエン/イソピルアルコール=2/1に加熱溶解後室温に冷却し微分散状にしたもの。
(注5)アルキルチタネート:日本曹達(株)製「TAA」」

エ 対比・判断
(ア)本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「グラビアインキ」は、【0001】から、表刷り特殊グラビア印刷インキであり、本件発明1の「表刷り用グラビア印刷インキ組成物」に相当する。
甲1発明の「(イ)実施例1のポリアミド樹脂組成物PA1 40%溶液」に含まれる「ポリアミド樹脂組成物PA1」は、本件発明1の「熱可塑性ポリアミド樹脂」に相当する。
甲1発明の「(ロ)硝化綿20%溶液(注1)」に含まれる「硝化綿」は、本件発明1の「セルロース誘導体」に相当する。
そして、「(イ)実施例1のポリアミド樹脂組成物PA1 40%溶液」に含まれる「ポリアミド樹脂組成物PA1」と「(ロ)硝化綿20%溶液(注1)」に含まれる「硝化綿」との含有比率は、40部×40%:10部×20%で求められるから、16:2であり、本件発明1の「熱可塑性ポリアミド樹脂とセルロース誘導体との含有比率は、96:4〜70:30」の範囲内のものである。
甲1発明の「(ニ)酸化チタン」は、本件発明1の「顔料」に相当する。
甲1発明の「(ホ)ステアリン酸アミド10%溶液」の「ステアリン酸アミド」は、本件発明1の「脂肪酸アミド」に相当する。
甲1発明の「(ヘ)メチルアルコール」は、本件発明1の「有機溶剤」に相当する。

(イ)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「顔料と、熱可塑性ポリアミド樹脂と、セルロース誘導体と、脂肪酸アミドと、有機溶剤とを含み、
前記熱可塑性ポリアミド樹脂と前記セルロース誘導体との含有比率は、96:4〜70:30である、
表刷り用グラビア印刷インキ組成物。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点1−1)
熱可塑性ポリアミド樹脂について、本件発明1では、トール油脂肪酸を反応原料とするものであるのに対し、甲1発明は、「重合脂肪酸〔一塩基酸:6〜8%、二塩基酸:74〜77%、三塩基酸:17〜18%;ハリマ化成(株)製「ハリダイマー200」〕、酢酸、ミリスチン酸、及び、エチレンジアミン」を反応原料とするものである点。
(相違点1−2)
本件発明1は、粘着性付与剤を含み、粘着性付与剤の含有量は、インキ組成物中、0.5〜6質量%であり、前記粘着性付与剤は、脂環族飽和炭化水素樹脂、重合ロジンおよびダンマル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含み、前記粘着性付与剤の含有量は、インキ組成物中、0.5〜6質量%であり、前記粘着性付与剤が前記脂環族飽和炭化水素樹脂を含む場合、前記脂環族飽和炭化水素樹脂の含有量は、インキ組成物中、2〜3質量%であり、前記粘着性付与剤が前記重合ロジンを含む場合、前記重合ロジンの含有量は、インキ組成物中、3〜4質量%であり、前記粘着性付与剤が前記ダンマル樹脂を含む場合、前記ダンマル樹脂の含有量は、インキ組成物中、0.5〜4.8質量%であり、前記脂環族飽和炭化水素樹脂は、アルコンP−90(商品名)またはアルコンP−125(商品名)のうち少なくともいずれか一方を含む」ものであるのに対し、甲1発明は、ステアリン酸アミド10%溶液を5部及びロジンエステルを5部含む点。

(ウ)申立人は、粘着付与剤が重合ロジンの場合について進歩性の欠如を主張しているので、事案に鑑み、まず、相違点1−2について検討する。
(相違点1−2について)
甲1には、粘着性付与剤として明示的に示された化合物は見出すことができず、甲1発明のステアリン酸アミド10%溶液及びロジンエステルが、粘着性付与剤かどうかは不明である。
そして、甲1発明のステアリン酸アミドは、粘着性を有するものとはいえず、粘着付与剤として用いられるものであるとは言い難い。
一方、甲1の【0013】には、グラビアインキに、「他に必要に応じて添加剤としてロジン系、石油系もしくは芳香族系の樹脂類、可塑剤、有機金属配位化合物、低分子量ポリオレフイン系もしくは低分子量アミド系のワックス類等を添加」することが記載され、グラビアインキにロジン系の樹脂を添加することが記載されている。
そして、甲1発明に含まれるロジンエステルはロジン系樹脂といえるものであり、ロジンエステルといったロジン系樹脂は、粘着付与剤として用いられることは周知であるから(甲2の【0044】の記載を参照)、甲1発明におけるロジンエステルは、粘着付与剤として用いられた添加剤である蓋然性が高い。
そこで、上記相違点1−2について、甲1発明において、「ロジンエステル5部」を、その含有量が「インキ組成物中、3〜4質量%」である「重合ロジン」に替えることの容易想到性について検討することとする。なお、「ロジンエステル5部」は、全体が101部であるから、「ロジンエステル約4.95重量%」と書き改めることができる。
甲1発明は、ヒートシール耐熱性及び乾燥性が優れたものであるところ(【0037】)、ロジンエステルの配合量(含有量)について、甲1の【0002】〜【0003】には、プラスチック印刷インク用ビヒクルとして、ポリアミド樹脂と硝化綿及びロジンエステル類を配合してなるものは、ロジンエステルの種類や配合量によっては、ヒートシール耐熱性が低下するという問題点があることが記載されている。
そうすると、甲1発明は、ヒートシール耐熱性及び乾燥性が優れたものであることから、甲1の【0002】〜【0003】の記載に接した当業者は、甲1発明の実施に際して、ロジンエステルについては、ヒートシール耐熱性及び乾燥性を考慮した上で、その種類や配合量について定める必要があるということができる。
してみると、甲1発明において、ロジンエステルに替えて他のロジン系の樹脂を用いることができないとはいえないとしても、ロジンエステル以外のロジン系樹脂を用いる際には、ヒートシール耐熱性及び乾燥性が低下しないように、ロジン系樹脂の種類やその含有量を選択する必要があるといえる。
しかしながら、プラスチック印刷インク用ビヒクルとして、ポリアミド樹脂と硝化綿及びロジン系樹脂類を配合してなるものにおいて、3〜4重量%の重合ロジンを配合したものが、ヒートシール耐熱性及び乾燥性が優れたものとなるかどうかは、本件の優先日前に当業者にとって明らかではなく、申立人もそのことについては何ら証拠を示していない。
そうすると、甲1発明において、ロジンエステル5部(約4.95重量%)に替えて、3〜4重量%の重合ロジンを配合する動機付けがあるとはいえない。

一方、本件明細書の【0032】には、「重合ロジンの使用量は、インキ組成物中に、0.5〜4質量%、好ましくは、1〜3質量%である。使用量が、0.5質量%未満であると接着性が低下する傾向となり、一方4質量%を超えると耐ブロッキング性等が低下する傾向となる。」と記載され、本件発明1においては、粘着性付与剤として重合ロジンを、インキ組成物中、3〜4質量%含有することで、未処理のポリエチレンフィルムに対しても優れた接着性を備えた印刷物が得られるようになったものであり、相違点1−2に係る構成による作用効果は実施例8において確認されているといえる。
したがって、相違点1−1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。

(エ)本件発明3及び4は、本件発明1を引用し、さらに限定するものであるから、本件発明1と同様な理由から、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。

(オ)以上のことから、申立人の主張する理由1は理由がない。

(2)理由2(甲9を主引例とする進歩性)について
ア 甲9の記載
甲9には、次の記載がある(下線は当審が付与した。)。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、バインダー樹脂および有機溶剤からなる表刷り用グラビア印刷インキ組成物において、
バインダー樹脂が、
ダンマル樹脂およびポリアミド樹脂
を含み、
ポリアミド樹脂が、
軟化点100〜135℃
および
重量平均分子量2,000〜50,000
であり、
ダンマル樹脂とポリアミド樹脂の比率が、
固形分重量比で、5/95〜50/50
であることを特徴とする表刷り用グラビア印刷インキ組成物。
【請求項2】
バインダー樹脂が、さらに、ニトロセルロース樹脂を含んでいることを特徴とする請求項1記載の表刷り用グラビア印刷インキ組成物。
【請求項3】
さらに、脂肪酸アミドを含有していることを特徴とする請求項1または2記載の表刷り用グラビア印刷インキ組成物。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項記載の表刷り用グラビア印刷インキ組成物をフィルムに印刷してなる印刷物。」
(イ)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品等の包装容器材料として用いられる各種プラスチックフィルムに対し、接着性および耐熱性に優れ、またテーブルクロスなどに用いられる軟質塩化ビニルシートと印刷物が接着しないための耐塩ビブロッキング性が良好である表刷り用グラビア印刷インキ組成物に関するものである。」
(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、各種プラスチックフィルムに対する接着性が良好であり、印刷品質に優れ、インキの長期保存が可能であり、さらにテーブルクロスなどに用いられている軟質塩化ビニルシートと印刷物が接着しないための耐塩ビブロッキング性、食用油に対する耐油性が良好な表刷り用グラビア印刷インキ組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ダンマル樹脂とポリアミド樹脂とをバインダーとし、更にニトロセルロース樹脂、脂肪酸アミドを含有することを特徴とするインキ組成物が、課題解決に極めて有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。」
(エ)「【発明の効果】
【0017】
本発明の表刷りグラビア印刷インキ組成物は、プラスチックフィルムの表刷り用途に適用するために必要な優れた接着性、耐熱性、耐油性を持ち、更に塩ビシートに対する耐ブロッキング性が良好で経時での保存安定性にも優れた表刷り用グラビア印刷インキ組成物を提供することが可能となった。」
「【0021】
本発明のインキ組成物のバインダー樹脂として使用するポリアミド樹脂は多塩基酸と多価アミンとを重縮合して得ることが出来る熱可塑性ポリアミドであり、イソプロパノールに対する溶解度が30重量%以上のものが、好適とされる。アルコールへの溶解性が不十分の場合、印刷インキ組成物の顔料分散性、光沢、発色性、低温安定性が十分ではなくなる。
【0022】
ポリアミド樹脂の原料で使用される多塩基酸としては、アジピン酸、セパシン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、シクロヘキサンジカルボン酸、重合脂肪酸が挙げられ、とくにその中でも重合脂肪酸が好ましい。
ここで、重合脂肪酸とは、乾性または半乾性油脂脂肪酸あるいは、そのエステル重合に得られるもので、一塩基性脂肪酸、二量化重合脂肪酸、三量化重合脂肪酸等を含むものである。
【0023】
多塩基酸には、モノカルボン酸を併用することもできる。併用されるモノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、安息香酸、シクロヘキサンカルボン酸等が挙げられる。」
(オ)「【0026】
また、本発明のポリアミド樹脂は、軟化点が100〜135℃、重量平均分子量が2,000〜50,000の範囲であることを特徴とするが、軟化点が100℃より低い場合は、印刷物のインキ皮膜の表面タック切れが悪く、ブロッキングを発生しやすくなり、軟化点が135℃より高い場合はインキ皮膜が硬くなり、軟質フィルムに対して耐もみ性が低下する。重量平均分子量の範囲はとしては2,000より低い場合はインキの皮膜強度が低下しやすくなり、耐摩擦性、耐熱性、高速印刷適性が低下する。分子量が50,000より高い場合はインキの粘度が高くなり、貯蔵安定性が劣りやすくなる。これらの軟化点は、一般的にJISK2207(環球法)で測定される。」
(カ)「【0028】
一方、本発明のインキ組成物のバインダー樹脂として使用するダンマル樹脂はポリアミド樹脂との比率が重量換算で5/95〜50/50の範囲で使用することができ、係る範囲がそれ以上、それ以下であっても、本発明の効果として得られる表刷り用グラビア印刷インキ組成物の接着性、塩ビブロッキング性、インキ貯蔵安定性などが不十分となる。」
(キ)「【0030】
次に本発明のインキ組成物のバインダー樹脂としてニトロセルロース樹脂を用いることができる。ニトロセルロース樹脂を用いることで、特に耐ブロッキング性、耐熱性の向上が期待できる。尚、添加量はインキ組成物中に固形分として、1.0〜6.5重量%が適量である。」
(ク)「【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例および比較例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれら各例に限定されるものではない。なお、各例中の「部」は「重量部」、「%」は「重量%」を表す。
【0041】
<ポリアミド樹脂ワニスの調製>
軟化点が112℃〜120℃、重量平均分子量が3000〜4000の範囲であるである市販のポリアミド樹脂(レオマイドS−2800 花王(株)製)35部をトルエン45部、イソプロピルアルコール20部に混合溶解させて、固形分35%の試験用ポリアミド樹脂ワニス(樹脂A)を得た。
【0042】
また、軟化点が98℃〜108℃、重量平均分子量が1000〜2000の範囲である市販のポリアミド樹脂(ポリマイド S−52 三洋化成(株)製)35部をトルエン45部、イソプロピルアルコール20部に混合溶解させて、固形分35%の試験用ポリアミド樹脂ワニス(樹脂B)を得た。
【0043】
さらに、軟化点が130℃〜150℃、重量平均分子量が50000〜60000の範囲である市販のポリアミド樹脂(マクロメルト6900 ヘンケルジャパン(株)製)35部をトルエン45部、イソプロピルアルコール20部に混合溶解させて、固形分35%の試験用ポリアミド樹脂ワニス(樹脂C)を得た。
【0044】
<ダンマル樹脂ワニスの調製>
絵画の保護膜や加筆用ワニスの材料として一般的に市販されている天然ダンマル樹脂(固形)50部をトルエン50部に混合溶解させて、固形分50%の試験用ダンマル樹脂ワニスを得た。」
(ケ)「【0045】
<ニトロセルロース樹脂ワニスの調製>
ニトロセルロース(商品名 NC HIG 1/2G KCNC 韓国CNC社製)20部を、酢酸エチル30部とイソプロピルアルコール50部に混合溶解させて固形分20%のニトロセルロース樹脂ワニスを得た。
【0046】
(実施例1〜6、比較例1〜8)
まず、表1に示す配合比で、実施例1〜6および比較例1〜8の表刷り用グラビア印刷インキ組成物を作製した。尚、顔料、脂肪酸アミド、架橋剤、混合溶剤としては、下記のものを用い、分散は小型ビーズミルで行った。
顔料 酸化チタン チタニックスJR603 テイカ(株)製
脂肪酸アミド アマイドポリマーEX−1 テンカポリマー(株)製
架橋剤 テトライソプロポキシチタン 日本曹達(株)製
混合溶剤 トルエン:酢酸エチル:イソプロピルアルコール=60:30:10 (重量比)
【0047】
【表1】



イ 甲8の記載
(ア)「【請求項1】
顔料、バインダー樹脂、キレート剤および有機溶剤を含有する表刷り用グラビア印刷インキ組成物であって、上記バインダー樹脂としてポリウレタン樹脂(A)及びセルロース誘導体(B)及び/又は塩化ビニル酢酸ビニル共重合体(C)を、(A):((B)+(C))=95:5〜5:95の固形分質量比率で含有し、上記キレート剤の含有量が、表刷り用グラビア印刷インキ組成物中、0.1〜8.0質量%であり、さらに、質量平均分子量500〜10,000のポリアミド樹脂を表刷り用グラビア印刷インキ組成物中に0.1〜3.0質量%含有させることを特徴とする表刷り用グラビア印刷インキ組成物。」
(イ)「【0033】
(ハードレジン)
本発明の表刷り用グラビア印刷インキ組成物に必要に応じて使用するハードレジンとしては、ダイマー酸系樹脂、ロジン系樹脂、マレイン酸系樹脂、石油樹脂、テルペン樹脂、ケトン樹脂、ダンマル樹脂、コーパル樹脂、塩素化ポリプロピレン、酸化ポリプロピレン等が挙げられる。これらハードレジンを利用すると、特に表面処理の行なわれていないプラスチックフィルムに対して、接着性の向上を期待できる。そして、本発明の表刷り用グラビア印刷インキ組成物中におけるハードレジンを含有させる際の含有量は、5.0質量%未満が適量である。」

ウ 甲9に記載された発明(甲9発明)
甲9の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3を書き改めると次のようになり、甲9の請求項3には、次の発明が記載されていると認められる(以下、「甲9発明」という。)。
「顔料、バインダー樹脂および有機溶剤からなる表刷り用グラビア印刷インキ組成物において、
バインダー樹脂が、
ダンマル樹脂およびポリアミド樹脂
を含み、
ポリアミド樹脂が、
軟化点100〜135℃
および
重量平均分子量2,000〜50,000
であり、
ダンマル樹脂とポリアミド樹脂の比率が、
固形分重量比で、5/95〜50/50であり、
バインダー樹脂が、さらに、ニトロセルロース樹脂を含み、
脂肪酸アミドを含有している表刷り用グラビア印刷インキ組成物。」

エ 対比・判断
(ア)本件発明1と甲9発明とを対比する。
甲9発明の「表刷り用グラビア印刷インキ組成物」、「顔料」、「ニトロセルロース樹脂」、「脂肪酸アミド」及び「有機溶剤」は、本件発明1の「表刷り用グラビア印刷インキ組成物」、「顔料」、「セルロース誘導体」、「脂肪酸アミド」及び「有機溶剤」にそれぞれ相当する。
本件発明1の「粘着性付与剤」として用いられた「ダンマル樹脂」と甲9発明の「ダンマル樹脂」とは、「ダンマル樹脂」である点で共通する。
本件発明1の「トール油脂肪酸を反応原料とする熱可塑性ポリアミド樹脂」と甲9発明の「ポリアミド樹脂」とは、「ポリアミド樹脂」である点で共通する。

(イ)そうすると、本件発明1と甲9発明とは、
「顔料と、熱可塑性ポリアミド樹脂と、セルロース誘導体と、脂肪酸アミドと、有機溶剤と、ダンマル樹脂とを含む、表刷り用グラビア印刷インキ組成物。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点9−1)
熱可塑性ポリアミド樹脂について、本件発明1では「トール油脂肪酸を反応原料とする熱可塑性ポリアミド樹脂」であるのに対し、甲9発明の「ポリアミド樹脂」は、そのようなものかどうかは不明な点。
(相違点9−2)
ダンマル樹脂について、本件発明1では、「粘着性付与剤」であって、その含有量が「インキ組成物中、0.5〜4.8質量%」であるのに対し、甲9発明の「ダンマル樹脂」は、バインダー樹脂の一部であって、表刷り用グラビア印刷インキ組成物中の含有量は規定されていない点。
(相違点9−3)
熱可塑性ポリアミド樹脂とセルロース誘導体との含有比率について、本件発明1では、「96:4〜70:30」であるのに対し、甲9発明において、ポリアミド樹脂とニトロセルロース樹脂との含有比率は規定されていない点。
(相違点9−4)
粘着性付与剤の含有量について、本件発明1では、「インキ組成物中、0.5〜6質量%であ」ることが規定されているのに対し、甲9発明では、粘着性付与剤の表刷り用グラビア印刷インキ組成物中の含有量は規定されていない点。
(相違点9−5)
ダンマル樹脂以外の粘着性樹脂について、本件発明1では、「粘着性付与剤の含有量は、前記粘着性付与剤が前記脂環族飽和炭化水素樹脂を含む場合、前記脂環族飽和炭化水素樹脂の含有量は、インキ組成物中、2〜3質量%であり、前記粘着性付与剤が前記重合ロジンを含む場合、前記重合ロジンの含有量は、インキ組成物中、3〜4質量%であり、前記脂環族飽和炭化水素樹脂は、アルコンP−90(商品名)またはアルコンP−125(商品名)のうち少なくともいずれか一方を含む」ものであるのに対し、甲9発明は、そのようなものではない点。

(ウ)申立人は、粘着付与剤がダンマル樹脂の場合について進歩性の欠如を主張しているので、まず、相違点9−2について検討する。
(相違点9−2について)
甲9発明のダンマル樹脂は、甲9の【0044】に、「絵画の保護膜や加筆用ワニスの材料として一般的に市販されている天然ダンマル樹脂(固形)」と記載されており、甲9発明のダンマル樹脂が、バインダー樹脂における粘着付与剤として用いられたものであるかどうかは明らかではないものの、念のため、甲9発明のダンマル樹脂が粘着付与剤として用いられているものであると仮定して、以下、相違点9−2について検討する。
甲9発明においては、「ダンマル樹脂」の含有量は規定されていないところ、甲9の【0047】の表1には、甲9発明を具体化した実施例として、実施例6が示されている(なお、実施例1〜3及び5は、「ニトロセルロース」が含有されておらず、実施例4は「脂肪酸アミド」が含有されておらず、甲9発明の実施例ではない)。
そして、上記実施例6において、表刷り用グラビア印刷インキ組成物中のダンマル樹脂の含有量は、6質量%と求められる(ダンマル樹脂ワニスは12質量%含まれ、ダンマル樹脂ワニスに含まれるダンマル樹脂の含有量は固形分が50%である(【0044】)から、12質量%×50%となる。)。これは、本件発明1の範囲内のものではない。また、甲9には、ダンマル樹脂の表刷り用グラビア印刷インキ組成物中の含有量をどのようにするかについての記載は見当たらない。
一方、申立人が示した甲8の【0033】には、「(ハードレジン)」について「本発明の表刷り用グラビア印刷インキ組成物に必要に応じて使用するハードレジンとしては、ダイマー酸系樹脂、ロジン系樹脂、マレイン酸系樹脂、石油樹脂、テルペン樹脂、ケトン樹脂、ダンマル樹脂、コーパル樹脂、塩素化ポリプロピレン、酸化ポリプロピレン等が挙げられる。これらハードレジンを利用すると、特に表面処理の行なわれていないプラスチックフィルムに対して、接着性の向上を期待できる。そして、本発明の表刷り用グラビア印刷インキ組成物中におけるハードレジンを含有させる際の含有量は、5.0質量%未満が適量である。」という記載があり、ハードレジンとしてダンマル樹脂が例示され、その含有量が5.0質量%未満が適量であることが記載されているものの、甲9発明の上記実施例におけるダンマル樹脂の含有量とは異なっており、甲9発明の上記実施例におけるダンマル樹脂の含有量が適量ではない、ということはいえないことから、甲8の上記記載は、甲8に記載された特定の表刷り用グラビア印刷インキ組成物においては、ハードレジンの含有量が5.0質量%未満が適量であることを示すにとどまり、甲9発明において、ダンマル樹脂の含有量が、0.5〜4.8質量%であることが適量であることを示唆するものであるとはいえない。
そして、甲9発明において、ダンマル樹脂の含有量がどの範囲のものが適量かどうかは明らかではないのであるから、甲9発明において、ダンマル樹脂の含有量を、本件発明1の範囲内のものである0.5〜4.8質量とする動機付けは見出すことができない。
一方、ダンマル樹脂の含有量について、本件明細書の【0034】には、「ダンマル樹脂の使用量は、インキ組成物中に、0.5質量%〜6質量%であることが好ましい。使用量が、0.5質量%未満である場合、インキ組成物は、接着性が低下する傾向がある。一方、使用量が6質量%を超える場合、インキ組成物は、耐ブロッキング性等が低下する傾向がある。」と記載されている。
また、同【0053】の【表1】には、実施例9〜11、16、比較例4において、ダンマル樹脂の含有量(質量%)が0.8(実施例9)、2.8(実施例10)、4.2(実施例11)、2.8(実施例16)のものが、6.4(比較例4)のものに比べて、耐ブロッキング性(弱処理OPP、未処理ポリエチレン)に優れたものであることが示されている。
そうすると、本件発明1においては、ダンマル樹脂の含有量が0.5〜4.8質量%であることによって、優れた接着性、耐ブロッキング性を備える印刷物を得ることができる表刷り用グラビア印刷インキ組成物が得られたものであるといえ、本件発明1は甲9発明に比較して、格別顕著な作用効果を奏するものである。また、その作用効果は実施例において確認されている。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲9発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。

(エ)本件発明3及び4は、本件発明1を引用し、さらに限定するものであるから、本件発明1と同様な理由から、甲9発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。

(オ)以上のことから、申立人の主張する理由2は理由がない。

(3)理由3(記載不備(特許法第36条第6項第2号、同条第4項第1号(同法第113条第4号)))iについて
ア 本件発明において、熱可塑性ポリアミド樹脂は、トール油脂肪酸を反応原料とすることが特定され、熱可塑性ポリアミド樹脂におけるポリカルボン酸やポリアミン成分については規定されていない。
しかしながら、本件発明は、熱可塑性ポリアミド樹脂とセルロース誘導体を特定の含有比率としたものにおいて、粘着付与剤の種類及びその含有量に特徴を有するものであって、熱可塑性ポリアミド樹脂の原料のポリカルボン酸やポリアミン成分の種類が特定のものに限られるものであるとはいえない。
そして、申立人は、ポリカルボン酸やポリアミン成分の種類によって本件発明の作用効果が奏するものとはならない、という根拠について、具体的には何ら示していない。
したがって、申立人の、本件は明確性要件(第36条第6項第2号)、サポート要件(同条第6項第1号)及び実施可能要件(同条第4項第1号)を充足しないという主張は採用することができない。
イ また、申立人はトール油脂肪酸がモノカルボン酸であることから、ポリアミド樹脂の原料とならない旨主張しているが、トール油脂肪酸2分子がダイマー酸(ジカルボン酸)となり、ポリアミドの原料となることは技術常識(一例として、特開2008−7776号公報参照。)であり、申立人の主張は採用できない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、3及び4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、3及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と、トール油脂肪酸を反応原料とする熱可塑性ポリアミド樹脂と、セルロース誘導体と、脂肪酸アミドと、粘着性付与剤と、有機溶剤とを含み、
前記熱可塑性ポリアミド樹脂と前記セルロース誘導体との含有比率は、96:4〜70:30であり、
前記粘着性付与剤は、脂環族飽和炭化水素樹脂、重合ロジンおよびダンマル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記粘着性付与剤の含有量は、インキ組成物中、0.5〜6質量%であり、
前記粘着性付与剤が前記脂環族飽和炭化水素樹脂を含む場合、前記脂環族飽和炭化水素樹脂の含有量は、インキ組成物中、2〜3質量%であり、前記粘着性付与剤が前記重合ロジンを含む場合、前記重合ロジンの含有量は、インキ組成物中、3〜4質量%であり、前記粘着性付与剤が前記ダンマル樹脂を含む場合、前記ダンマル樹脂の含有量は、インキ組成物中、0.5〜4.8質量%であり、
前記脂環族飽和炭化水素樹脂は、アルコンP−90(商品名)またはアルコンP−125(商品名)のうち少なくともいずれか一方を含む、表刷り用グラビア印刷インキ組成物。
【請求項2】
前記粘着性付与剤は、脂環族飽和炭化水素樹脂を含む、請求項1記載の表刷り用グラビア印刷インキ組成物。
【請求項3】
前記有機溶剤は、芳香族有機溶剤およびケトン系溶剤のうち、少なくともいずれか一方を含んでいない、請求項1または2記載の表刷り用グラビア印刷インキ組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の表刷り用グラビア印刷インキ組成物を印刷した、印刷物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-10-13 
出願番号 P2019-018816
審決分類 P 1 652・ 536- YAA (C09D)
P 1 652・ 121- YAA (C09D)
P 1 652・ 537- YAA (C09D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 亀ヶ谷 明久
特許庁審判官 川端 修
門前 浩一
登録日 2020-10-15 
登録番号 6779328
権利者 サカタインクス株式会社
発明の名称 表刷り用グラビア印刷インキ組成物および印刷物  
代理人 特許業務法人朝日奈特許事務所  
代理人 特許業務法人朝日奈特許事務所  

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