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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1382392
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-03-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-06-22 
確定日 2021-12-23 
異議申立件数
事件の表示 特許第6803723号発明「積層体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6803723号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6803723号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜2に係る特許についての出願は、平成28年10月31日(優先権主張 平成27年12月25日)に出願され、令和2年12月3日にその特許権の設定登録がされ、令和2年12月23日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年6月22日に特許異議申立人藤江桂子(以下「申立人」という。)が、特許異議の申立て(以下「本件異議申立」という。)を行った。

第2 本件特許に係る発明
本件特許の請求項1及び2の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」及び「本件発明2」という)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
積層体であって、
基材と、
前記基材上に設けられた導電層と、
前記導電層上に設けられた被覆層と、を備え、
前記被覆層側から測定した第1のヘーズH0が3.0%以下である前記積層体を、温度85℃、相対湿度85%の雰囲気下で118時間処理した後、前記被覆層側から前記積層体の第2のヘーズH118を測定したときに、
式I118:ΔH118(%)=(H118−H0)/H0×100により算出される前記積層体のヘーズ変化率ΔH118が100%以下であり、
前記被覆層は、鉛筆硬度がHB、F、H、2H及び3Hの何れかであり、
前記導電層は、銀又は銅である積層体。
【請求項2】
前記基材に前記導電層が直接接触して積層され、前記導電層に前記被覆層が直接接触して積層された、請求項1に記載の積層体。」

第3 異議申立理由の概要
申立人は、次の甲第1号証〜甲第7号証(以下、それぞれ「甲1」〜「甲7」という。)を提出し、概ね次の申立理由1〜3−3のとおりの主張をしている。
甲1:特開2013−207263号公報
甲2:特開2013−137982号公報
甲3:特開2008−229950号公報
甲4:特開2012−185587号公報
甲5:特開2010−188604号公報
甲6:特開2011−6613号公報
甲7:特開2015−131429号公報

[申立理由1]
本件発明1及び2は、甲1に記載された発明又は甲2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

[申立理由2]
本件発明1及び2は、甲1又は甲2に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

[申立理由3−1]
本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

[申立理由3−2]
本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

[申立理由3−3]
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

第4 甲1〜甲7の記載
以下、下線は、理解の便宜のため、当審が付した。
1.甲1について
甲1には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】
シート状の透明電極、および帯電防止層が積層された透明導電部材であって、
前記透明電極は、透明基材および前記透明基材上に設けられた二つの分岐点の間を延びて開口領域を画成する多数の境界線分から形成された導電性メッシュを備え、
該導電性メッシュは、5本の境界線分によって周囲を取り囲まれた開口領域、6本の境界線分によって周囲を取り囲まれた開口領域および7本の境界線分によって周囲を取り囲まれた開口領域の少なくとも二種類が含まれている領域を含み、
前記領域に含まれた5本、6本または7本のうちの同一本数の境界線分によって周囲を取り囲まれた複数の開口領域の形状又は面積は一定ではなく、
前記帯電防止層は五酸化アンチモン粒子及びウレタン樹脂を含み、前記五酸化アンチモンは帯電防止層中に粗密構造を有する形で分散している、ことを特徴とする透明導電部材。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は透明導電部材に関し、より詳細には、導電性メッシュと帯電防止層を含む透明導電部材に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような事情に鑑み、本発明の目的は、画像表示装置等の前面にとりつけたときに濃淡ムラおよびモアレを目立たなくさせることができるとともに、優れた帯電防止性能を備えた透明導電部材を提供することにある。」
「【0016】
図1(A)は、特定の導電性メッシュ40を透明基材30上に設けた透明電極20の上に特定の帯電防止層50を設けた透明導電部材10を示す。
・・・」
「【0055】
以上のような導電性メッシュ40は、例えば次の(1)〜(3)等の従来既知の方法によって、透明基材30上に形成することができる。
(1)透明基材30上に銅、アルミニウム等の導電性金属箔を積層し、この箔を所望のパターン状にエッチングする方法。
(2)導電性インキ(例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂等の樹脂バインダー中に銀、銅、ニッケル等の導電性金属粒子を分散させた導電性インキ)を透明基材30上に所望のパターンで印刷する方法。必要に応じて、導電性をより向上させる為、更に該導電性インキのパターン表面に、銅、銀、金、ニッケル等の高導電率金屬の薄膜をメッキ法等により形成してもよい。
(3)パラジウムコロイド粒子等の無電解メッキ触媒を樹脂バインダー中に含有するインキで透明基材30上に所望のパターンで印刷し、該印刷パターン表面に無電解メッキ法にて銅、銀、金、ニッケル等の高導電率金屬の薄膜を形成する。
・・・」
「【0102】
次に、本発明に用いる帯電防止層であるハードコート層を実施例(製造例)により、さらに詳細に説明する。
【0103】
(製造例1)
UV硬化型導電性ハードコートインキ(ペルノックス社製、製品名;C4106、固形分約32%、五酸化アンチモン分散体)に、UV硬化型ウレタンアクリレート/ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)の質量比が65/35の混合体であるウレタン樹脂(日本合成化学株式会社製、製品名;UV−7600B)、及び光重合開始剤として、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、製品名;イルガキュア184)を、下記の混合溶剤Aにて固形分が45%になるように再調整してハードコート層用組成物Aを得た。得られたハードコート層用組成物Aの配合比率を表1に示す。
混合溶剤Aは、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、メチルエチルケトン(MEK)、イソプロピルアルコール(IPA)、及びアセチルアセトンの4成分系のものであり、これらをPGME/MEK/IPA/アセチルアセトン=65/24/5/6の質量比とした。
透明基材として、干渉縞対策と易接着対策がされた厚み100μmのPETフィルム(東洋紡績株式会社製、A1598)の干渉縞対策面に、前記ハードコート層用組成物Aを、乾燥重量6g/m2を目標の塗布量として塗布して塗膜を形成し、オーブンにて70℃で1分間加熱して該塗膜を乾燥させ、さらに、塗膜に紫外線50mJ/cm2を照射して該塗膜を硬化させて、製造例1のハードコート積層体を作製した。
五酸化アンチモンを含む製造例1のハードコート層は、図15に断面のSEM写真(倍率5000倍)を示すように、五酸化アンチモンが帯電防止層中に粗密構造を有する形で分散している。
【0104】
【表1】

・・・
【0106】
(製造例3)
UV−7600Bの代わりに、UV1700B(日本合成化学株式会社製;UV硬化型ウレタンアクリレート/DPHA=60/40の混合体)を使用した点以外は製造例1と同様にして、製造例3のハードコート積層体を作製した。
・・・
【0119】
上記で得られたハードコート積層体について、下記の項目について評価した。
・・・
【0120】
(ヘイズ)
PET基材面側をガラスに粘着させて、ハードコート積層体のヘイズを、ヘイズメーター(村上色彩技術研究所製、製品番号;HM−150)を用いてJIS K−7136に準拠した方法により測定した。
・・・
【0124】


「【図1】


特に、製造例1に着目し、以上の記載事項を総合すると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「干渉縞対策と易接着対策がされた厚み100μmのPETフィルム(東洋紡績株式会社製、A1598)の透明基材の干渉縞対策面に、UV硬化型導電性ハードコートインキ(ペルノックス社製、製品名;C4106、固形分約32%、五酸化アンチモン分散体)26.025質量部、UV硬化型ウレタンアクリレート/ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)の質量比が65/35の混合体であるウレタン樹脂(日本合成化学株式会社製、製品名;UV−7600B)35.133質量部、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、製品名;イルガキュア184)2.108質量部、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)20.803質量部、メチルエチルケトン(MEK)10.924質量部、イソプロピルアルコール(IPA)2.276質量部、及びアセチルアセトン2.731質量部からなるハードコード組成物Aを、乾燥重量6g/m2を目標の塗布量として塗布して塗膜を形成し、オーブンにて70℃で1分間加熱して該塗膜を乾燥させ、さらに、塗膜に紫外線50mJ/cm2を照射して該塗膜を硬化させた、帯電防止層であるハードコート層が積層された、ヘイズが0.5である、ハードコート積層体。」

2.甲2について
甲2には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】
基材上に、平均短軸長が150nm以下の金属ナノワイヤーおよびマトリックスを含む導電性層、並びに、下記一般式(I)で示される三次元架橋構造を含んで構成される保護層を、この順に備え、前記保護層上から測定した表面抵抗率が、1,000Ω/□以下である導電性部材。
−M1−O−M1− (I)
(一般式(I)中、M1はSi、Ti、ZrおよびAlからなる群より選ばれた元素を示を示す。)
【請求項2】
前記マトリックスが、光重合性組成物の光硬化物またはSi、Ti、ZrおよびAlからなる群より選ばれた元素のアルコキシド化合物の少なくとも一つを加水分解および重縮合して得られるゾルゲル硬化物である請求項1に記載の導電性部材。
【請求項3】
前記保護層が、Si、Ti、ZrおよびAlからなる群より選ばれた元素のアルコキシド化合物の少なくとも一つを加水分解および重縮合して得られるゾルゲル硬化物を含む請求項1または請求項2に記載の導電性部材。
【請求項4】
前記保護層における前記アルコキシド化合物が、下記一般式(II)で示される化合物および下記一般式(III)で示される化合物からなる群より選ばれた少なくとも一つを含む請求項3に記載の導電性部材。
M2(OR1)4 (II)
(一般式(II)中、M2はSi、TiおよびZrからなる群より選ばれた元素を示し、R1はそれぞれ独立に水素原子または炭化水素基を示す。)
M3(OR2)aR34−a (III)
(一般式(III)中、M3はSi、TiおよびZrからなる群より選ばれた元素を示し、R2およびR3はそれぞれ独立に水素原子または炭化水素基を示し、aは1〜3の整数を示す。)
【請求項5】
前記保護層における前記アルコキシド化合物が、(i)前記一般式(II)で示される化合物から選ばれた少なくとも一つと、(ii)前記一般式(III)で示される化合物から選ばれた少なくとも一つと、を含む請求項4に記載の導電性部材。
【請求項6】
前記化合物(ii)/前記化合物(i)の質量比が、0.01/1〜100/1の範囲にある請求項5に記載の導電性部材。
【請求項7】
前記一般式(II)中のM2および前記一般式(III)中のM3が、いずれもSiである請求項4〜請求項6のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項8】
前記金属ナノワイヤーが、銀ナノワイヤーである請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項9】
下記組成を有する温度が25℃のエッチング液にで120秒間浸漬したとき、浸漬後の前記表面抵抗率が108Ω/□以上であり、浸漬前のヘイズから浸漬後のヘイズを減じたヘイズ差が0.4%以上であり、かつ、浸漬後において前記保護層が除去されていない請求項1
〜請求項8のいずれか一項に記載の導電性部材。
エッチング液の組成:エチレンジアミン四酢酸鉄アンモニウム2.5質量%、チオ硫酸アンモニウム7.5質量%、亜硫酸アンモニウム2.5質量%および重亜硫酸アンモニウム2.5質量%を含有する水溶液。
【請求項10】
前記導電性層が、導電性領域および非導電性領域を含んで構成され、少なくとも前記導電性領域が前記金属ナノワイヤーを含む請求項1〜請求項9のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項11】
前記保護層の表面を、連続加重引掻試験機を使用し、ガーゼを用いて20mm×20mmのサイズで500g荷重で50往復擦る磨耗処理を行ったとき、前記摩耗処理後の導電性層の表面抵抗率(Ω/□)/前記摩耗処理前の導電性層の表面抵抗率(Ω/□)の比が100以下である請求項1〜請求項10のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項12】
前記導電性部材を、円筒形マンドレル屈曲試験器を用いて直径10mmの円筒マンドレルに20回曲げる屈曲処理を行ったとき、前記屈曲処理後の導電性層の表面抵抗率(Ω/□)/前記屈曲処理前の導電性層の表面抵抗率(Ω/□)の比が2.0以下である請求項1〜請求項11のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項13】
(a)基材上に、平均短軸長が150nm以下の金属ナノワイヤーおよびマトリックスを含む導電性層を形成すること、
(b)前記導電性層上に、Si、Ti、ZrおよびAlからなる群より選ばれた元素のアルコキシド化合物の少なくとも一つを加水分解および重縮合させて得られた部分縮合物を含む水溶液を塗布して、当該水溶液の液膜を導電性層上に形成すること、並びに、
(c)前記水溶液の液膜中のアルコキシド化合物を加水分解および重縮合させて、前記一般式(I)で示される三次元架橋構造を含んで構成される保護層を形成すること、
を含む請求項1に記載の導電性部材の製造方法。
【請求項14】
前記(c)の後に、さらに前記保護層を加熱して乾燥すること、を含む請求項13に記載の導電性部材の製造方法。
【請求項15】
前記マトリックスが、光重合性組成物の光硬化物またはSi、Ti、ZrおよびAlからなる群より選ばれた元素のアルコキシド化合物の少なくとも一つを加水分解および重縮合して得られるゾルゲル硬化物である請求項13または請求項14に記載の導電性部材の製造方法。
【請求項16】
前記(b)におけるアルコキシド化合物が、下記一般式(II)で示される化合物および下記一般式(III)で示される化合物からなる群より選ばれた少なくとも一つを含む請求項13〜請求項15のいずれか一項に記載の導電性部材の製造方法。
M2(OR1)4 (II)
(一般式(II)中、M2はSi、TiおよびZrからなる群より選ばれた元素を示し、R1はそれぞれ独立に水素原子または炭化水素基を示す。)
M3(OR2)aR34−a (III)
(一般式(III)中、M3はSi、TiおよびZrからなる群より選ばれた元素を示し、R2およびR3はそれぞれ独立に水素原子または炭化水素基を示し、aは1〜3の整数を示す。)
【請求項17】
前記(b)におけるアルコキシド化合物が、(i)前記一般式(II)で示される化合物から選ばれた少なくとも一つと、(ii)前記一般式(III)で示される化合物から選ばれた少なくとも一つの化合物と、を含む請求項16に記載の導電性部材の製造方法。
【請求項18】
前記化合物(ii)/前記化合物(i)の質量比が、0.01/1〜100/1の範囲にある請求項17に記載の導電性部材の製造方法。
【請求項19】
前記一般式(II)中のM2および前記一般式(III)中のM3が、いずれもSiである請求項16〜請求項18のいずれか一項に記載の導電性部材の製造方法。
【請求項20】
前記部分縮合物の重量平均分子量が4,000〜90、000の範囲である請求項13〜19のいずれか一項に記載の導電性部材の製造方法。
【請求項21】
前記(a)と(b)の間に、さらに前記導電性層に、導電性領域および非導電性領域を形成することを含む請求項13〜請求項20のいずれか一項に記載の導電性部材の製造方法。
【請求項22】
請求項1〜請求項12のいずれか一項に記載の導電性部材を含むタッチパネル。
【請求項23】
請求項1〜請求項12のいずれか一項に記載の導電性部材を含む太陽電池。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性部材、導電性部材の製造方法、タッチパネルおよび太陽電池に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明が解決しようとする課題は、キズおよび磨耗に対して高い耐性を有し、かつ導電性に優れ、透明性、耐熱性、耐湿熱性、および、屈曲性に優れた導電性部材、その製造方法、並びに当該導電性部材を用いたタッチパネルおよび太陽電池を提供することにある。」
「【0013】
<<基材>>
上記基材としては、導電性層を担うことができるものである限り、目的に応じて種々のものを使用することができる。一般的には、板状またはシート状のものが使用される。
基材は、透明であっても、不透明であってもよい。基材を構成する素材としては、例えば、白板ガラス、青板ガラス、シリカコート青板ガラス等の透明ガラス;ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリエステル、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド、ポリイミド等の合成樹脂;アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス等の金属;その他セラミック、半導体基板に使用されるシリコンウエハーなどを挙げることができる。これらの基材の導電性層が形成される表面は、所望により、シランカップリング剤などの薬品処理、プラズマ処理、イオンプレーティング、スパッタリング、気相反応、真空蒸着などの前処理を行うことができる。
基材の厚さは、用途に応じて所望の範囲のものが使用される。一般的には、1μm〜500μmの範囲から選択され、3μm〜400μmがより好ましく、5μm〜300μmが更に好ましい。
導電性部材に透明性が要求される場合には、基材の全可視光透過率が70%以上のもの、より好ましくは85%以上のもの、更に好ましくは、90%以上のものから選ばれる。なお、基材の全光透過率は、JIS K7361−1:1997に準拠して測定される。
【0014】
<<導電性層>>
上記導電性層は、平均短軸長が150nm以下の金属ナノワイヤーおよびマトリックスを含む。
ここで、「マトリックス」とは、金属ナノワイヤーを含んで層を形成する物質の総称である。
マトリックスは、金属ナノワイヤーの分散を安定に維持させる機能を有するもので、非感光性のものであっても、感光性のものであってもよい。
感光性のマトリックスの場合には、露光および現像等により、微細なパターンを形成することが容易であるという利点を有する。
・・・
【0022】
前記金属ナノワイヤーにおける金属としては、特に制限はなく、いかなる金属であってもよく、1種の金属以外にも2種以上の金属を組み合わせて用いてもよく、合金として用いることも可能である。これらの中でも、金属又は金属化合物から形成されるものが好ましく、金属から形成されるものがより好ましい。
前記金属としては、長周期律表(IUPAC1991)の第4周期、第5周期、および第6周期からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属が好ましく、第2〜14族から選ばれる少なくとも1種の金属がより好ましく、第2族、第8族、第9族、第10族、第11族、第12族、第13族、および第14族から選ばれる少なくとも1種の金属が更に好ましく、主成分として含むことが特に好ましい。
【0023】
前記金属としては、具体的には銅、銀、金、白金、パラジウム、ニッケル、錫、コバルト、ロジウム、イリジウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、マンガン、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、チタン、ビスマス、アンチモン、鉛、又はこれらの合金などが挙げられる。これらの中でも、銅、銀、金、白金、パラジウム、ニッケル、錫、コバルト、ロジウム、イリジウム又はこれらの合金が好ましく、パラジウム、銅、銀、金、白金、錫およびこれらの合金がより好ましく、銀又は銀を含有する合金が特に好ましい。」
「【実施例】
【0146】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例中の含有率としての「%」、および、「部」は、いずれも質量基準に基づくものである。
以下の例において、金属ナノワイヤーの平均直径(平均短軸長)および平均長軸長、短軸長の変動係数、並びに、アスペクト比が10以上の銀ナノワイヤーの比率は、以下のようにして測定した。
・・・
【0148】
[合成例の略記号]
以下の合成例で用いている成分の略記号の意味は、次のとおりである。
AA:アクリル酸
MAA:メタクリル酸
MMA:メチルメタクリレート
CHMA:シクロヘキシルメタクリレート
St:スチレン
GMA:グリシジルメタクリレート
DCM:ジシクロペンタニルメタクリレート
BzMA:ベンジルメタクリレート
AIBN:アゾビスイソブチロニトリル
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
MFG:1−メトキシ−2−プロパノール
THF:テトラヒドロフラン
【0149】
(合成例1)
<バインダー(A−1)の合成>
共重合体を構成するモノマー成分として、AA(9.64g)、BzMA(35.36g)を使用し、ラジカル重合開始剤としてAIBN(0.5g)を使用し、これらを溶剤PGMEA(55.00g)中において重合反応させることによりバインダー(A−1)のPGMEA溶液(固形分濃度:45質量%)を得た。なお、重合温度は、温度60℃乃至100℃に調整した。
分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した結果、ポリスチレン換算による重量平均分子量(Mw)は11000、分子量分布(Mw/Mn)は1.72、酸価は155mgKOH/gであった。
【0150】
【化2】

【0151】
(合成例2)
<バインダー(A−2)の合成>
反応容器中に、MFG(日本乳化剤株式会社製)7.48gをあらかじめ加え、90℃に昇温し、モノマー成分としてMAA(14.65g)、MMA(0.54g)、CHMA(17.55g)、ラジカル重合開始剤としてAIBN(0.50g)、およびMFG(55.2g)からなる混合溶液を窒素ガス雰囲気下、90℃の反応容器中に2時間かけて滴下した。滴下後、4時間反応させて、アクリル樹脂溶液を得た。
次に、得られたアクリル樹脂溶液に、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.15g、およびテトラエチルアンモニウムブロマイド0.34gを加えた後、GMA 12.26gを2時間かけて滴下した。滴下後、空気を吹き込みながら90℃で4時間反応させた後、固形分濃度が45%になるようにPGMEAを添加することにより調製し、バインダー(A−2)の溶液(固形分濃度:45%)を得た。
分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した結果、ポリスチレン換算による重量平均分子量(Mw)は31,300、分子量分布(Mw/Mn)は2.32、酸価は74.5mgKOH/gであった。
【0152】
【化3】

バインダー(A−2)
【0153】
(調製例1)
−銀ナノワイヤー水分散液(1)の調製−
予め、下記の添加液A、G、およびHを調製した。
〔添加液A〕
硝酸銀粉末0.51gを純水50mLに溶解した。その後、1Nのアンモニア水を透明になるまで添加した。そして、全量が100mLになるように純水を添加した。
〔添加液G〕
グルコース粉末0.5gを140mLの純水で溶解して、添加液Gを調製した。
〔添加液H〕
HTAB(ヘキサデシル−トリメチルアンモニウムブロミド)粉末0.5gを27.5mLの純水で溶解して、添加液Hを調製した。
【0154】
次に、以下のようにして、銀ナノワイヤー水分散液を調製した。
純水410mLを三口フラスコ内に入れ、20℃にて攪拌しながら、添加液H 82.5mL、および添加液G 206mLをロートにて添加した(一段目)。この液に、添加液A 206mLを流量2.0mL/min、攪拌回転数800rpmで添加した(二段目)。その10分間後、添加液Hを82.5mL添加した(三段目)。その後、3℃/分で内温73℃まで昇温した。その後、攪拌回転数を200rpmに落とし、5.5時間加熱した。
得られた水分散液を冷却した後、限外濾過モジュールSIP1013(旭化成株式会社製、分画分子量6,000)、マグネットポンプ、およびステンレスカップをシリコーン製チューブで接続し、限外濾過装置とした。
銀ナノワイヤー分散液(水溶液)をステンレスカップに入れ、ポンプを稼動させて限外濾過を行った。モジュールからの濾液が50mLになった時点で、ステンレスカップに950mLの蒸留水を加え、洗浄を行った。前記の洗浄を伝導度が50μS/cm以下になるまで繰り返した後、濃縮を行い、0.8質量%銀ナノワイヤー水分散液を得た。
得られた調製例1の銀ナノワイヤーについて、前述のようにして平均短軸長、平均長軸長、アスペクト比が10以上の銀ナノワイヤーの比率、および銀ナノワイヤー短軸長の変動係数を測定した。
【0155】
その結果、平均短軸長17.2nm、平均長軸長34.2μm、変動係数が17.8%の銀ナノワイヤーを得た。得られた銀ナノワイヤーのうち、アスペクト比が10以上の銀ナノワイヤーの占める比率は81.8%であった。以後、「銀ナノワイヤー水分散液(1)」と表記する場合は、上記方法で得られた銀ナノワイヤー水分散液(1)を示す。
【0156】
(調製例2)
−銀ナノワイヤーのPGMEA分散液(1)の調製−
調製例1で調製した銀ナノワイヤー水分散液(1)100部に、ポリビニルピロリドン(K−30、東京化成工業株式会社製)1部と、n−プロパノール100部を添加し、セラミックフィルターを用いたクロスフローろ過機(株)日本ガイシ製)にて10部となるまで濃縮した。次いでn−プロパノール100部およびイオン交換水100部を加え、再度クロスフローろ過機にて10部となるまで濃縮する操作を3回繰り返した。さらに前記バインダー(A−1)を1部およびn−プロパノールを10部加え、遠心分離の後、デカンテーションにて上澄みの溶媒を除去しPGMEAを添加し、再分散を行い、遠心分離から再分散までの操作を3回繰り返し、最後にPGMEAを加え、銀ナノワイヤーのPGMEA分散液を得た。最後のPGMEAの添加量は銀の含有量が、銀2%となるように調節した。分散剤として用いられたポリマーの含有量は0.05%であった。平均短軸長16.7nm、平均長軸長29.1μm、変動係数が18.2%の銀ナノワイヤーを得た。得られた銀ナノワイヤーのうち、アスペクト比が10以上の銀ナノワイヤーの占める比率は80.2%であった。以後、「銀ナノワイヤーPGMEA分散液(1)」と表記する場合は、上記方法で得られた銀ナノワイヤーPGMEA分散液(1)を示す。
(調製例3)
−ガラス基板の前処理−
まず、水酸化ナトリウム1%水溶液に浸漬した厚み0.7μmの無アルカリガラス基板を超音波洗浄機によって30分超音波照射し、ついでイオン交換水で60秒間水洗した後200℃で60分間加熱処理を行った。その後、シランカップリング液(N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン0.3%水溶液、商品名:KBM603、信越化学工業(株)製)をシャワーにより20秒間吹き付け、純水シャワー洗浄した。以後、「ガラス基板」と表記する場合は、上記前処理で得られた無アルカリガラス基板を示す。
【0157】
(調製例4)
−PET基板の前処理−
下記の配合で接着用溶液1を調製した。
[接着用溶液1]
・タケラックWS−4000 5.0部
(固形分濃度30%、三井化学(株)製)
・界面活性剤 0.3部
(ナローアクティHN−100、三洋化成工業(株)製)
・界面活性剤 0.3部
(サンデットBL、固形分濃度43%、三洋化成工業(株)製)
・水 94.4部
【0158】
厚さ125μmのPET基板の一方の面にコロナ放電処理を施した。このコロナ放電処理を施した面に、上記の接着用溶液を塗布し120℃で2分乾燥させて、厚さが0.11μmの接着層1を形成した。
【0159】
以下の配合で、接着用溶液2を調製した。
[接着用溶液2]
・テトラエトキシシラン 5.0部
(KBE−04、信越化学工業(株)製)
・3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン 3.2部
(KBM−403、信越化学工業(株)製)
・2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン 1.8部
(KBM−303、信越化学工業(株)製)
・酢酸水溶液(酢酸濃度=0.05%、pH=5.2) 10.0部
・硬化剤 0.8部
(ホウ酸、和光純薬工業(株)製)
・コロイダルシリカ 60.0部
(スノーテックスO、平均粒子径10nm〜20nm、固形分濃度20%、
pH=2.6、日産化学工業(株)製)
・界面活性剤 0.2部
(ナローアクティHN−100、三洋化成工業(株)製)
・界面活性剤 0.2部
(サンデットBL、固形分濃度43%、三洋化成工業(株)製)
【0160】
接着用溶液2は、以下の方法で調製した。酢酸水溶液を激しく攪拌しながら、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを、この酢酸水溶液中に3分間かけて滴下した。次に、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランを酢酸水溶液中に強く攪拌しながら3分間かけて添加した。次に、テトラメトキシシランを、酢酸水溶液中に強く攪拌しながら5分かけて添加し、その後2時間攪拌を続けた。次に、コロイダルシリカと、硬化剤と、界面活性剤とを順次添加し、接着用溶液2を調製した。
【0161】
この接着用溶液2をコロナ放電処理を施した接着層1の上にバーコート法により塗布し、170℃で5分間加熱して乾燥し、厚さ4.1μmの接着層2を形成した。その後、接着層2の上にコロナ放電処理を施し、前処理PET基板を得た。以後、「PET基板」と表記する場合は、上記前処理で得られたPET基板を示す。
【0162】
(実施例1)
<<導電性層の形成>>
以下の組成を有する光重合性組成物を調製した。
<光重合性組成物>
・ポリマー:(前記合成例で得られたバインダー(A−1)、
固形分45%PGMEA溶液) 44.50部
・ポリマー:(前記合成例で得られたバインダー(A−2)、
固形分45%PGMEA、MFG混合溶液) 44.50部
・重合性化合物:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 8.01部
・光重合開始剤:2,4−ビス(トリクロロメチル)−6−
[4−N,N−ビス(エトキシカルボニルメチル)アミノ−3−ブロモフェニル]−s−トリアジン 0.79部
・重合禁止剤:フェノチアジン 0.062部
・界面活性剤:メガファックF784F(DIC(株)製) 2.70部
・界面活性剤:ソルスパース20000(日本ルーブリゾール(株)製) 1.00部
・溶媒(PGMEA) 48.42部
・溶媒(MEK) 100.00部
得られた前記光重合性組成物3.21部、前記銀ナノワイヤーPGMEA分散液(1)6.41部、および、溶媒(PGMEA/MEK=1/1)40.38部を攪拌、混合することによって、光重合性導電性層塗布液を得た。
上記で得られた光重合性導電性層塗布液を光重合性組成物の固形分塗布量が0.175g/m2、銀量が0.035g/m2となるようにPET基板にバーコートし室温で5分間乾燥して、感光性導電性層を設けた。この感光性導電性層の厚さは0.12μmであった。
ここで、厚さは以下の方法で測定した。感光性導電性層以外の厚さについても同様である。
導電性部材上にカーボンおよびPtの保護層を形成したのち、日立社製FB−2100型収束イオンビーム装置内で約10μm幅、約100nm厚の切片を作製し作製、導電性層の断面を日立製HD−2300型STEM(印加電圧200kV)で観察し、導電性層の厚さを測定した。なお、膜厚は触針式表面形状測定器Dektak150(ULVAC社製)を用いて、導電性層を形成した部分と導電性層を除去した部分の段差から測定する簡易方法もあるが、この方法では導電性層を除去する際に基板の一部まで除去してしまう恐れがあること、さらに得られた導電性層が薄膜なため誤差が生じやすい問題があった。そこで、本明細書においては、より正確な膜厚の測定方法である上記の電子顕微鏡による導電性層断面の直接観察により求めた値を記載した。
【0163】
<露光工程>
基板上の感光性導電性層に、窒素雰囲気下で超高圧水銀灯i線(365nm)を用いて、露光量40mJ/cm2でマスクを通して露光した。ここで露光はマスクを介して行い、マスクは導電性、光学特性、膜強度評価用の均一露光部およびパターニング性評価用のストライプパターン(ライン/スペース=50μm/50μm)を有していた。
【0164】
<現像工程>
露光後の感光性導電性層を炭酸Na系現像液(0.06モル/リットルの炭酸水素ナトリウム、同濃度の炭酸ナトリウム、1%のジブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム、アニオン性界面活性剤、消泡剤、安定剤含有、商品名:T−CD1、富士フイルム(株)製)を用い、20℃30秒、コーン型ノズル圧力0.15MPaでシャワー現像して、未露光部の感光性導電性層を除去し、室温乾燥させた。次いで、100℃、15分間熱処理を施した。かくして、導電性領域と非導電性領域を含む導電性層を形成した。この導電性領域の厚さは0.010μmであった。
【0165】
<<保護層の形成>>
下記組成のゾルゲル塗布液を60℃で1時間撹拌して均一になったことを確認した。得られたゾルゲル塗布液を蒸留水で希釈しアプリケーターコートで固形分塗布量が0.50g/m2となるように上記導電性領域と非導電性領域を含む導電性層上に塗布したのち、140℃で1分間乾燥し、ゾルゲル反応を起こさせて保護層を形成し、実施例1の導電性部材を得た。上記保護層の厚みは、0.13μmであった。
<ゾルゲル塗布液>
・3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン 5.9部
(KBM−403、信越化学工業(株)製)
・テトラエトキシシラン 6.8部
(KBE−04、信越化学工業(株)製)
・1%酢酸水溶液 15.0部
・・・
【0169】
(実施例27〜30)
実施例1で用いた光重合性導電性層塗布液を用いて、光重合性組成物の固形分塗布量および銀量を下記のように変更した以外は実施例1と同様にして、実施例27〜30の導電性部材を得た。露光工程および現像工程を行った後の各導電性層の厚みは、下記のとおりであった。保護層の厚みはすべて0.13μmであった。
実施例27:固形分塗布量0.500g/m2、銀量0.100g/m2(厚み:0.029μm)
実施例28:固形分塗布量0.100g/m2、銀量0.020g/m2(厚み:0.006μm)
実施例29:固形分塗布量0.050g/m2、銀量0.010g/m2(厚み:0.003μm)
実施例30:固形分塗布量0.025g/m2、銀量0.005g/m2(厚み:0.001μm)
・・・
【0172】
【表1】

・・・
【0174】
<<評価>>
得られた各導電性部材について、以下に記載する方法で表面抵抗率、光学特性(全光透過率、ヘイズ)、膜強度、耐摩耗性、耐熱性、耐湿熱性および屈曲性を評価した。
・・・
【0177】
<光学特性(ヘイズ)>
導電性部材の導電性領域に相当する部分のヘイズをガードナー社製のヘイズガードプラスを用いて測定し、下記のランク付けを行った。
・ランクA:ヘイズが1.5%未満で、優秀なレベル
・ランクB:ヘイズが1.5%以上2.0%未満で、良好なレベル。
・ランクC:ヘイズが2.0%以上2.5%未満で、やや問題なレベル。
・ランクD:ヘイズが2.5%以上で、問題なレベル。
【0178】
<膜強度>
日本塗料検査協会検定鉛筆引っかき用鉛筆(硬度HBおよび硬度B)をJIS K5600−5−4に準じてセットした鉛筆引掻塗膜硬さ試験機(株式会社東洋精機製作所製、型式NP)にて荷重500gの条件で長さ10mmにわたり引っ掻いた後、下記条件にて露光および現像を施し、引っ掻いた部分をデジタルマイクロスコープ(VHX−600、キーエンス株式会社製、倍率2,000倍)で観察し、下記のランク付けを行った。なお、ランク3以上では導電性層中の金属ナノワイヤーの断線が見られず、実用上の導電性の確保が可能な問題の無いレベルである。
〔評価基準〕
・ランク5:硬度2Hの鉛筆引っ掻きで引っ掻き跡が認められず、極めて優秀なレベル。
・ランク4:硬度2Hの鉛筆引っ掻きで金属ナノワイヤーが削られ、引っ掻き跡が認められるものの、金属ナノワイヤーが残存し、基材表面の露出が観察されない、優秀なレベル。
・ランク3:硬度2Hの鉛筆引っ掻きで基材表面の露出が観察されるものの、硬度HBの鉛筆引っ掻きで金属ナノワイヤーが残存し、基材表面の露出が観察されない、良好なレベル。
・ランク2:硬度HBの鉛筆で導電性層が削られ、基材表面の露出が部分的に観察される、問題なレベル。
・ランク1:硬度HBの鉛筆で導電性層が削られ、基材表面の殆どが露出している、極めて問題なレベル。
・・・
【0181】
<耐湿熱性>
導電性部材を60℃90RH%の環境下で240時間静置する湿熱処理を行い、その前後の表面抵抗率の変化率(湿熱処理後表面抵抗率/湿熱処理前表面抵抗率)およびヘイズの変化量(湿熱処理後ヘイズ−湿熱処理前ヘイズ)を算出した。表面抵抗率は三菱化学株式会社製Loresta−GP MCP−T600を用い、ヘイズはガードナー社製のヘイズガードプラスを用いて測定した。表面抵抗率の変化率が1に近いほど、そしてヘイズの変化量が少ないものほど、耐湿熱性に優れる。
【0182】
<屈曲性>
導電性部材をコーテック(株)社製の円筒形マンドレル屈曲試験器を用いて、直径10mmの円筒マンドレルに20回曲げる屈曲処理を行い、その前後のクラックの有無を観察すると共に、表面抵抗率の変化率(屈曲処理後の表面抵抗率/屈曲処理前の表面抵抗率)を算出した。クラックの有無は目視および光学顕微鏡を用い、表面抵抗率は三菱化学株式会社製Loresta−GP MCP−T600を用いて測定した。クラックが無く且つ表面抵抗率の変化率が1に近いほど、屈曲性に優れる。
評価結果を表2および表3に示す。
なお、表2および表3には、参考データとして、各導電性部材にける保護層形成前の表面抵抗率についての評価ランクも記載した。
【0183】
【表2】

【0184】
【表3】



特に、実施例27に着目し、以上の記載事項を総合すると、甲2には次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
「タケラックWS−4000(固形分濃度30%、三井化学(株)製)5.0部、界面活性剤(ナローアクティHN−100、三洋化成工業(株)製)0.3部、界面活性剤(サンデットBL、固形分濃度43%、三洋化成工業(株)製)0.3部及び水94.4部からなる接着用溶液1を調製し、厚さ125μmのPET基板の一方の面にコロナ放電処理を施した面に、接着用溶液1を塗布し120℃で2分乾燥させて、厚さが0.11μmの接着層1を形成し、
テトラエトキシシラン(KBE−04、信越化学工業(株)製)5.0部、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−403、信越化学工業(株)製)3.2部、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(KBM−303、信越化学工業(株)製)1.8部、酢酸水溶液(酢酸濃度=0.05%、pH=5.2)10.0部、硬化剤 (ホウ酸、和光純薬工業(株)製)0.8部、コロイダルシリカ(スノーテックスO、平均粒子径10nm〜20nm、固形分濃度20%、pH=2.6、日産化学工業(株)製)60.0部、界面活性剤(ナローアクティHN−100、三洋化成工業(株)製)0.2部及び界面活性剤 (サンデットBL、固形分濃度43%、三洋化成工業(株)製)0.2部からなる接着用溶液2を調製し、この接着用溶液2をコロナ放電処理を施した接着層1の上にバーコート法により塗布し、170℃で5分間加熱して乾燥し、厚さ4.1μmの接着層2を形成し、その後、接着層2の上にコロナ放電処理を施し、前処理PET基板を得て、
モノマー成分として、アクリル酸(9.64g)、ベンジルメタクリレート(35.36g)を使用したポリマー44.50部、モノマー成分として、メタクリル酸(14.65g)、メチルメタクリレート(0.54g)及びシクロヘキシルメタクリレート(17.55g)を使用したポリマー44.50部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート8.01部、2,4−ビス(トリクロロメチル)−6−[4−N,N−ビス(エトキシカルボニルメチル)アミノ−3−ブロモフェニル]−s−トリアジン0.79部、フェノチアジン0.062部、メガファックF784F(DIC(株)製)2.70部、ソルスパース20000(日本ルーブリゾール(株)製)1.00部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート48.42部、MEK 100.00部からなる光重合性組成物3.21部、銀ナノワイヤープロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート分散液(1)6.41部及び溶媒(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート/MEK=1/1)40.38部を攪拌、混合することによって得た光重合性導電性層塗布液を光重合性組成物の固形分塗布量が0.500g/m2、銀量が0.100g/m2(厚み:0.029μm)となるように、前記前処理PET基板にバーコートし室温で5分間乾燥して、厚さ0.12μmの感光性導電性層を設け、
基板上の感光性導電性層に、窒素雰囲気下で超高圧水銀灯i線(365nm)を用いて、露光量40mJ/cm2でマスクを通して露光し、
露光後の感光性導電性層を、炭酸Na系現像液(0.06モル/リットルの炭酸水素ナトリウム、同濃度の炭酸ナトリウム、1%のジブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム、アニオン性界面活性剤、消泡剤、安定剤含有、商品名:T−CD1、富士フイルム(株)製)を用い、20℃30秒、コーン型ノズル圧力0.15MPaでシャワー現像して、未露光部の感光性導電性層を除去し、室温乾燥させ、次いで、100℃、15分間熱処理を施して、導電性領域と非導電性領域を含む導電性層を形成し、
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−403、信越化学工業(株)製)5.9部、テトラエトキシシラン(KBE−04、信越化学工業(株)製)6.8部及び1%酢酸水溶液15.0部からなるゾルゲル塗布液を60℃で1時間撹拌して均一になったことを確認し、得られたゾルゲル塗布液を蒸留水で希釈しアプリケーターコートで固形分塗布量が0.50g/m2となるように上記導電性領域と非導電性領域を含む導電性層上に塗布したのち、140℃で1分間乾燥し、ゾルゲル反応を起こさせて保護層を形成し、
ヘイズが、1.5%以上2.0%未満であり、
膜強度が、硬度2Hの鉛筆引っ掻きで引っ掻き跡が認められず、極めて優秀なレベルであり、
導電性部材を60℃90RH%の環境下で240時間静置する湿熱処理を行い、その前後のヘイズの変化量(湿熱処理後ヘイズ−湿熱処理前ヘイズ)が、0.23である、
導電性部材。」

3.甲3について
甲3には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】
基材フィルムの少なくとも片面に、
(a)(メタ)アクリレート系の電磁波硬化性成分を含有する皮膜を硬化してなる膜厚1.0〜7.0μmのアンカー層、および、
(b)下記一般式で表される単位を主たる繰返し単位とするポリカチオン状のポリチオフェンとポリアニオンとからなる導電性高分子を主たる構成成分として含む導電層、
【化1】

(式中、R1およびR2は、相互に独立して水素または炭素数1〜4のアルキル基を表すか、あるいは一緒になって任意に置換されてもよい炭素数1〜12のアルキレン基を表す)
をこの順で有する導電性フィルムであって、130℃で3時間熱処理した後の表面抵抗変化率が30%以下、かつヘイズ値の変化率が30%以下であることを特徴とする導電性フィルム。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性フィルムに関するものである。さらに詳しくは、透明性および導電性だけでなくその耐熱性にも優れ、液晶ディスプレイ(LCD)、透明タッチパネル、有機エレクトロルミネッセンス素子、無機エレクトロルミネッセンスランプ等の透明電極や電磁波シールド材として好適に使用することができる導電性フィルムに関するものである。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記背景技術を鑑みなされたもので、その目的は、ディスプレイやタッチパネルの作製工程等で熱が負荷される工程を経ても、導電特性や光学特性の変化しがたい、耐熱性に優れた導電性フィルムを提供することにある。」
「【0013】
このように本発明の導電性フィルムは、基材フィルムの少なくとも片面に、後述する成分を硬化してなるアンカー層、その上に導電層がこの順で積層されている必要がある。さらに、130℃で3時間熱処理した後の表面抵抗変化率が30%以下で、かつヘイズ値の変化率が30%以下であることが必要である。これらの変化率が30%を超える場合には耐久性が不十分とであり、長期間安定に使用することが難しくなる。このような変化率は、後述する電磁波硬化性成分を選択してアンカー層の架橋割合をあげると共に、後述する導電性高分子の使用割合および導電層の厚さを適宜設定することにより調整できる。」
「【0069】
(6)ヘイズ値の変化率
JIS K7150に準拠してヘイズ値を測定したサンプルを、130℃のオーブンに入れて3時間処理を行った後、上記と同様にヘイズ値を測定し、下記式によりヘイズ値の変化率を算出した。
ヘイズ変化率=(処理後のヘイズ値/処理前のヘイズ値−1)×100(%)」
「【0085】
【表1】



4.甲4について
甲4には、次の事項が記載されている。
「【請求項4】
透明基板上に透明導電層を有してなる上部電極および下部電極の透明導電層どうしを対向するようにスペーサーを介して配置してなる抵抗膜方式タッチパネルにおいて、前記上部及び/又は下部の透明基板として、透明プラスチックフィルムの表面に、ポリアミドイミド樹脂を含有する厚みが30〜120nmの被膜を有する構成を一部に含む積層体、を用いてなることを特徴とする抵抗膜式タッチパネル。」
「【技術分野】
【0001】
この発明は、タッチパネルの製造方法、タッチパネル、オリゴマーの析出防止方法に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
・・・
【0011】
そこで本発明は、密着性不良による界面剥離やクラックを起因とした加熱によるオリゴマーの析出を防止できるタッチパネルの製造方法を提供することを目的とする。」
「【0060】
(1−2)オリゴマー析出防止性(ヘーズ変化率)
得られた透明基板に対し、ヘーズメータNDH2000(日本電色社)を用いてヘーズ値「%」(JIS−K7136:2000)を測定し、加熱前ヘーズ値を得た。その後、透明基板を150℃のオーブンに投入して4時間後に取り出した。次に、取り出した透明基板のヘーズ値を上記同様に測定し、加熱後ヘーズ値を得た。そして、下記式により加熱前後のヘーズ変化率「%」を算出した。その結果、ヘーズ値の変化率が0.5%以下の場合を「○」、0.5%超の場合を「×」として評価した。
ヘーズ値の変化率=(加熱前ヘーズ値―加熱後ヘーズ値)」
「【0064】
【表1】



5.甲5について
甲5には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】
170℃、10分間における加熱収縮率が0.05%以上3.0%以下の範囲であり高分子化合物からなる支持体と、
テトラアルコキシシランと一般式(1)で表す有機ケイ素化合物とをpHが2以上6以下の範囲である酸性の水溶液に溶解したアルコキシシラン水溶液と、前記テトラアルコキシシラン及び前記有機ケイ素化合物の加水分解により生じるシラノールを脱水縮合させる水溶性の硬化剤とが含まれる水性の塗布液を、前記支持体に塗布して乾燥することにより形成されたハードコート層とを備え、
前記酸性の水溶液の量は、前記テトラアルコキシシランと前記有機ケイ素化合物との合計量を100重量部としたときに60重量部以上2000重量部以下の範囲であることを特徴とする複層フィルム。 R1R2nSi(OR3)3−n ・・・(1) (ここで、R1はアミノ基を含まない炭素数が1以上15以下の有機基、R2はメチルまたはエチル基、R3は炭素数が1以上3以下のアルキル基、nは0または1である)」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、複層フィルム及びその製造方法に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
・・・
【0008】
本発明は、塗布膜を乾燥しても環境に影響が小さい水性塗布液を使用しながらも、表面硬度が高く、光の透過性がよく、耐傷性、耐久性に優れたハードコート層を有する複層フィルム及びその製造方法を提供することを目的とする。」
「【0034】
<有機ケイ素化合物>
ハードコート層12を形成する塗布液の第1成分である有機ケイ素化合物は、有機基とアルコキシ基とを有する、2価あるいは3価のアルコキシシランであり、下記の一般式(1)で表す有機ケイ素化合物である。
R1R2nSi(OR3)3−n ・・・(1)
(ここで、R1はアミノ基を含まない炭素数が1以上15以下の有機基であり、R2はメチル基またはエチル基、R3は炭素数が1以上3以下のアルキル基、nは0または1である。なお、アミノ基を含まない有機基とは、この有機基がアミノ基をもたない意である。)
【0035】
一般式(1)で表す化合物のうち好ましいものとして、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、クロロプロピルメチルジメトキシシラン、プロピルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、クロロプロピルメチルジエトキシシラン、プロピルメチルジエトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、3−トリメトキシシリルプロピル−2−〔2−(メトキシエトキシ)エトキシ〕エチルウレタン、3−トリエトキシシリルプロピル−2−〔2−(メトキシエトキシ)エトキシ〕エチルウレタン、3−トリメトキシシリルプロピル−2−〔2−(メトキシプロポキシ)プロポキシ〕プロピルウレタン、3−トリエトキシシリルプロピル−2−〔2−(メトキシプロポキシ)プロポキシ〕プロピルウレタンがあげられる。」
「【0092】
(3)鉛筆硬度
往復磨耗試験機トライボギア(登録商標) TYPE:30S(新東科学(株)製)を用いて、JIS K5600−5−4に基づき、移動速度0.5mm/秒、加重750gにて、ハードコート層12の鉛筆硬度を測定した。ハードコート層12の鉛筆硬度は、用途によって求められるレベルが異なるものの、「H」以上であればハードコート層としての機能は満足するといえる。この結果は、図3に示す表の「鉛筆硬度」欄に示す。」
「【図3】



6.甲6について
甲6には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】
アルキルアルコキシシラン部分縮合物(A)とアルコール/水可溶性エポキシ樹脂(B)と金属過塩素酸塩(C)からなり、上記成分(A)/上記成分(B)の質量比が0.5〜5.0であり、上記成分(A+B)/上記成分(C)の質量比が1〜200であり、金属過塩素酸塩を硬化触媒として含有してなることを特徴とする硬化性樹脂組成物。
・・・
【請求項4】
前記アルコキシシランが、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランであり、前記アルキルアルコキシシラン部分縮合物(A)が、それらの加水分解物または縮合物を50〜100質量%含む請求項1〜3の何れか1項に記載の硬化性樹脂組成物。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物、並びに該硬化性樹脂組成物からなるハードコート層を有するハードコートフィルムまたはシート(以下「フィルムまたはシート」を単に「フィルム」と略称する場合がある)に関する。さらに詳細には、外観、表面硬度、耐スクラッチ性、密着性、曲げ加工性および耐汚染性が良好で、広い範囲で透明性の制御が可能なポリエステルフィルムなどのハードコートフィルムに関する。本発明のハードコートフィルムは、耐摩耗フィルム、滑り防止コート、研磨フィルム、グレア防止コートフィルム、建築内装用壁紙や化粧紙などに用いることができる。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、外観、表面硬度、耐スクラッチ性、密着性、曲げ加工性および耐汚染性が良好で、広い範囲で透明性の制御が可能な硬化性樹脂組成物、および該樹脂組成物からなるハードコート層を有するポリエステルフィルムなどのハードコートフィルムを提供することである。」
「【0048】
(鉛筆硬度試験)
塗料の一般的な鉛筆硬度試験方法であるJIS K−5400にしたがって、PETコーティング面の鉛筆硬度を評価した。
【0049】



7.甲7について
甲7には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】
基材上に導電層と粘着層とを基材からこの順に有する導電積層体であって、前記導電層は、少なくともカーボンナノチューブと、下記式1で表される化合物(a)および/または該化合物(a)の加水分解物とを含み、前記粘着層はカルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体を含むことを特徴とする導電積層体。
(R1)n Si(OR2)4-n ・・・(式1)
式中、R1およびR2は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アシル基、ビニル基、アリル基、シクロヘキシル基、フェニル基、エポキシ基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ウレイド基、アミド基、フルオロアセトアミド基、イソシアネート基、またはこれらの置換誘導体のいずれかを表し、nは0〜3の整数を表す。
【請求項2】
前記導電積層体のヘイズ値が1.5%以下であり、かつ色度b*値が1.5以下であることを特徴とする請求項1に記載の導電積層体。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを含む導電層と粘着層とを有する導電体層、およびそれを用いたタッチパネル並びに電子ペーパーに関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
・・・
【0008】
従って、本発明の目的は上記問題に鑑み、抵抗値が小さく、導電層と粘着層との密着性が良好で、かつ耐久性試験後の抵抗値および光学特性の変化が小さい導電積層体を提供することにある。本発明の他の目的は、本発明の導電積層体を用いたタッチパネルおよび電子ペーパーを提供することにある。」
「【0061】
[評価方法]
(1)ヘイズ値の測定
JIS K 7136(2000)に基づき、日本電色工業(株)製の濁度計「NDH−2000」を用いて耐久性試験前後のヘイズ値をそれぞれ測定した。なお、測定に際して、以下に記載の方法で作成した粘着シートの粘着層側の離型フィルムを剥離し、ソーダガラス基板に気泡が入らないように貼り合わせた構成のサンプルを作製し、導電層側から光が入射するように配置し測定した。測定は同一サンプルで場所を変えて3箇所行い、平均した。
【0062】
<耐久性試験>
導電積層体の粘着層をソーダガラス基板に貼り合わせて、耐久性試験用サンプルを作製した。このサンプルを、温度60℃、相対湿度90%の雰囲気下で500時間放置した。」
「【0094】
【表1】



第5 当審の判断
1.申立理由1及び2について
(1)本件発明1について
ア.甲1発明を主引用発明とした場合について
(ア)対比
甲1発明の「干渉縞対策と易接着対策がされた厚み100μmのPETフィルム(東洋紡績株式会社製、A1598)の透明基板」は、その構成・機能からみて、本件発明1の「基材」に相当し、以下、同様に「UV硬化型導電性ハードコートインキ(ペルノックス社製、製品名;C4106、固形分約32%、五酸化アンチモン分散体)26.025質量部、UV硬化型ウレタンアクリレート/ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)の質量比が65/35の混合体であるウレタン樹脂(日本合成化学株式会社製、製品名;UV−7600B)35.133質量部、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、製品名;イルガキュア184)2.108質量部、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)20.803質量部、メチルエチルケトン(MEK)10.924質量部、イソプロピルアルコール(IPA)2.276質量部、及びアセチルアセトン2.731質量部からなるハードコード組成物Aを、乾燥重量6g/m2を目標の塗布量として塗布して塗膜を形成し、オーブンにて70℃で1分間加熱して該塗膜を乾燥させ、さらに、塗膜に紫外線50mJ/cm2を照射して該塗膜を硬化させた、帯電防止層であるハードコート層」は、「被覆層」に相当する。
甲1発明の「ヘイズが0.5である」ことは、本件発明1の「前記被覆層側から測定した第1のヘーズH0が3.0%以下」の範囲内にある。
甲1発明の「ハードコート積層体」と本件発明1の「積層体」とは、「基材と、被覆層と、を備え」た「積層体」の限りで一致する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点で一致し、相違点1〜3で相違する。
[一致点]
「積層体であって、
基材と、被覆層と、を備え、
前記被覆層側から測定した第1のヘーズH0が3.0%以下である積層体。」
[相違点1]
「基材と、被覆層と、を備え」た「積層体」について、本件発明1は、「基材と、前記基材上に設けられた導電層と、前記導電層上に設けられた被覆層と、を備え」、「前記導電層は、銀又は銅である」「積層体」であるのに対し、甲1発明は、「干渉縞対策と易接着対策がされた厚み100μmのPETフィルム(東洋紡績株式会社製、A1598)の透明基材の干渉縞対策面に、UV硬化型導電性ハードコートインキ(ペルノックス社製、製品名;C4106、固形分約32%、五酸化アンチモン分散体)26.025質量部、UV硬化型ウレタンアクリレート/ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)の質量比が65/35の混合体であるウレタン樹脂(日本合成化学株式会社製、製品名;UV−7600B)35.133質量部、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、製品名;イルガキュア184)2.108質量部、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)20.803質量部、メチルエチルケトン(MEK)10.924質量部、イソプロピルアルコール(IPA)2.276質量部、及びアセチルアセトン2.731質量部からなるハードコード組成物Aを、乾燥重量6g/m2を目標の塗布量として塗布して塗膜を形成し、オーブンにて70℃で1分間加熱して該塗膜を乾燥させ、さらに、塗膜に紫外線50mJ/cm2を照射して該塗膜を硬化させた、帯電防止層であるハードコート層が積層された」「ハードコート積層体」である点。
[相違点2]
本件発明1の「積層体」は、「温度85℃、相対湿度85%の雰囲気下で118時間処理した後、前記被覆層側から前記積層体の第2のヘーズH118を測定したときに、式I118:ΔH118(%)=(H118−H0)/H0×100により算出される前記積層体のヘーズ変化率ΔH118が100%以下であ」るのに対し、甲1発明は、その点が不明である点。
[相違点3]
本件発明1は、「前記被覆層は、鉛筆硬度がHB、F、H、2H及び3Hの何れかであ」るのに対し、甲1発明は、その点が不明である点。

(イ)判断
相違点2について検討する。
甲1には、ヘーズ変化率について記載も示唆もされておらず、甲1発明の「ハードコート積層体」の各層を構成する材料の組成や硬化条件等の製造方法は、本件発明の発明の詳細な説明に記載されたものと同一でもないから、相違点2は実質的な相違点であり、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではない。
また、本件発明1の発明が解決しようとする課題は、「湿熱条件下でも積層体全体のヘーズの変化が抑制される積層体を提供すること」(本件特許の発明の詳細な説明【0007】)であるところ、甲1発明の解決しようとする課題は「画像表示装置等の前面にとりつけたときに濃淡ムラおよびモアレを目立たなくさせることができるとともに、優れた帯電防止性能を備えた透明導電部材を提供すること」(甲1の【0010】)であるから、甲1発明において、本件発明1の相違点2に係る構成を備えたものとすることの動機付けはなく、甲2〜7のそれぞれにも、本件発明1の相違点2に係る構成を備えたものとすることの根拠となる記載も示唆もない。
したがって、本件発明1は、甲1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明できたものではない。

イ.甲2発明を主引用発明とした場合について
(ア)対比
甲2発明の「PET基板」は、その構成・機能からみて、本件発明1の「基材」に相当し、以下、同様に「モノマー成分として、アクリル酸(9.64g)、ベンジルメタクリレート(35.36g)を使用したポリマー44.50部、モノマー成分として、メタクリル酸(14.65g)、メチルメタクリレート(0.54g)及びシクロヘキシルメタクリレート(17.55g)を使用したポリマー44.50部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート8.01部、2,4−ビス(トリクロロメチル)−6−[4−N,N−ビス(エトキシカルボニルメチル)アミノ−3−ブロモフェニル]−s−トリアジン0.79部、フェノチアジン0.062部、メガファックF784F(DIC(株)製)2.70部、ソルスパース20000(日本ルーブリゾール(株)製)1.00部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート48.42部、MEK 100.00部からなる光重合性組成物3.21部、銀ナノワイヤープロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート分散液(1)6.41部及び溶媒(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート/MEK=1/1)40.38部を攪拌、混合することによって得た光重合性導電性層塗布液を光重合性組成物の固形分塗布量が0.500g/m2、銀量が0.100g/m2となるように、前記前処理PET基板にバーコートし室温で5分間乾燥して、厚さ0.12μmの感光性導電性層を設け、基板上の感光性導電性層に、窒素雰囲気下で超高圧水銀灯i線(365nm)を用いて、露光量40mJ/cm2でマスクを通して露光し、露光後の感光性導電性層を、炭酸Na系現像液(0.06モル/リットルの炭酸水素ナトリウム、同濃度の炭酸ナトリウム、1%のジブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム、アニオン性界面活性剤、消泡剤、安定剤含有、商品名:T−CD1、富士フイルム(株)製)を用い、20℃30秒、コーン型ノズル圧力0.15MPaでシャワー現像して、未露光部の感光性導電性層を除去し、室温乾燥させ、次いで、100℃、15分間熱処理を施して、」「形成し」た「導電性領域と非導電性領域を含む導電性層」は、「前記基材上に設けられた導電層」に相当し、「3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−403、信越化学工業(株)製)5.9部、テトラエトキシシラン(KBE−04、信越化学工業(株)製)6.8部及び1%酢酸水溶液15.0部からなるゾルゲル塗布液を60℃で1時間撹拌して均一になったことを確認した。得られたゾルゲル塗布液を蒸留水で希釈しアプリケーターコートで固形分塗布量が0.50g/m2となるように上記導電性領域と非導電性領域を含む導電性層上に塗布したのち、140℃で1分間乾燥し、ゾルゲル反応を起こさせて」「形成し」た「保護層」は、「前記導電層上に設けられた被覆層」に相当し、「導電性部材」は、「積層体」に相当する。
甲2発明の「ヘイズが1.5%以上2.0%未満であ」ることは、本件発明1の「前記被覆層側から測定した第1のヘーズH0が3.0%以下」の範囲内にある。
甲2発明の「膜強度が、硬度2Hの鉛筆引っ掻きで引っ掻き跡が認められず、極めて優秀なレベルであ」ることは、本件発明1の「前記被覆層は、鉛筆硬度が」「2H」「であ」ることに相当する。
甲2発明の「導電性層」の「銀量が0.100g/m2」であることは、本件発明1の「前記導電層は、」「銀」「である」ことに相当する。
そうすると、本件発明1と甲2発明とは、次の一致点で一致し、相違点4で相違する。
[一致点]
「積層体であって、基材と、前記基材上に設けられた導電層と、前記導電層上に設けられた被覆層と、を備え、前記被覆層側から測定した第1のヘーズH0が3.0%以下であり、前記被覆層は、鉛筆硬度が2Hであり、前記導電層は、銀である積層体。」
[相違点4]
本件発明1の「積層体」は、「温度85℃、相対湿度85%の雰囲気下で118時間処理した後、前記被覆層側から前記積層体の第2のヘーズH118を測定したときに、式I118:ΔH118(%)=(H118−H0)/H0×100により算出される前記積層体のヘーズ変化率ΔH118が100%以下であ」るのに対し、甲2発明は、その点が不明である点。

(イ)判断
相違点4について検討する。
甲2発明は、「ヘイズが、1.5%以上2.0%未満であり、」「導電性部材を60℃90RH%の環境下で240時間静置する湿熱処理を行い、その前後のヘイズの変化量(湿熱処理後ヘイズ−湿熱処理前ヘイズ)が、0.23である」から、「ヘイズ」の変化率は、((1.5+0.23)/1.5)×100−100=約15%から((2.0+0.23)/2.0)×100−100=約12%までの範囲内にあり、100%以下の範囲内にはあるが、その前提となる湿熱処理の条件が、本件発明1と異なる。そして、甲2発明の「導電性部材」の各層を構成する材料の組成や硬化条件等の製造方法は、本件発明の発明の詳細な説明に記載されたものと同一でもないから、相違点4は実質的な相違点であり、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明ではない。
また、本件発明1の発明が解決しようとする課題は、「湿熱条件下でも積層体全体のヘーズの変化が抑制される積層体を提供すること」(本件特許の発明の詳細な説明【0007】)であるところ、甲2発明の解決しようとする課題は「キズおよび磨耗に対して高い耐性を有し、かつ導電性に優れ、透明性、耐熱性、耐湿熱性、および、屈曲性に優れた導電性部材、その製造方法、並びに当該導電性部材を用いたタッチパネルおよび太陽電池を提供すること」(甲2の【0005】)であり、甲2発明の発明が解決しようとする課題のうち「耐湿熱性」「に優れた」という点は、本件発明1の発明が解決しようとする課題と軌を一にするものではあるが、甲2発明において、湿熱条件を変化させること、特に温度を25℃上昇させることまでして、本件発明1の相違点4に係る構成を備えたものとする動機付けはなく、甲1及び甲3〜7には、本件発明1の相違点4に係る構成とすることの根拠となる記載も示唆もない。
したがって、本件発明1は、甲2発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明できたものではない。

ウ.まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明又は甲2発明ではなく、甲1発明又は甲2発明並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明できたものではない。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1に対して、さらに技術的事項を追加し限定したものである。
よって、上記(1)ア.(イ)及び同イ.(イ)に示した理由と同様の理由により、本件発明2は、甲1発明又は甲2発明ではなく、甲1発明又は甲2発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明できたものではない。

(3)申立人の主張について
ア.申立人は、特許異議申立書において、次のように主張している。
「イ−3.甲1には、温度85℃、相対湿度85%の雰囲気下で118時間処理した前後のヘーズ変化率(以下、「温湿処理後のヘーズ変化率」という。)が記載されていないが、上述したように、甲1では、本件第1発明の実施例2〜4及び11、12と同じ紫外線硬化樹脂が用いられていること、甲1の帯電防止層(ハードコート層)に含有された五酸化アンチモンが温湿処理によって状態変化するとは、技術常識からみて考えられないこと、及び、本件第1発明に記載のヘーズ変化率「100%」とは、技術常識からみて著しく大きな数値であることから、温湿処理後のヘーズ変化率は、当然に構成要件Bにおける100%の範囲内となる。」(特許異議申立書22ページ最終行〜23ページ8行)
当該主張は、五酸化アンチモンが、温度85℃、相対湿度85%の雰囲気下で118時間処理した前後で状態変化しない旨言及しているに過ぎず、仮に、当該主張のとおりであったとしても、ヘーズ変化率に関して、五酸化アンチモンを含有した紫外線硬化性樹脂が、温度85℃、相対湿度85%の雰囲気下で118時間処理した前後で状態変化しないか否かについては不明であり、甲1〜7には、前記状態変化しないことを裏付ける記載も示唆もない。
また、紫外線硬化性樹脂の硬化について、本件発明の発明の詳細な説明の【0223】には「・・・次いで、この形成した塗膜を100℃で10分乾燥させた後、この乾燥後の塗膜に、800mJ/cm2の照射量で紫外線を照射して、紫外線硬化性樹脂(A)を硬化させることにより、・・・」と記載されているところ、甲1発明は「・・・ハードコード組成物Aを、乾燥重量6g/m2を目標の塗布量として塗布して塗膜を形成し、オーブンにて70℃で1分間加熱して該塗膜を乾燥させ、さらに、塗膜に紫外線50mJ/cm2を照射して該塗膜を硬化させた」ものであるから、硬化条件が大きく異なる。
さらに、甲1には、ヘーズ変化率について何ら記載されておらず、本件発明の発明の詳細な説明の【0263】の【表5】に記載された比較例1のヘーズ変化率ΔH118や、【0291】の【表10】に記載された実施例17〜18のヘーズ変化率ΔH230のように、被覆層を構成する材料の組成により、ヘーズ変化率が100%を超えることもあることを勘案すると、甲1発明の「ハードコート層」について、どのような技術常識を根拠にして、「本件第1発明に記載のヘーズ変化率「100%」とは、技術常識からみて著しく大きな数値であることから、温湿処理後のヘーズ変化率は、当然に構成要件Bにおける100%の範囲内となる」と主張されているのかが不明であり、甲1〜7には、当該主張を裏付ける記載も示唆もない。
したがって、申立人の当該主張を採用することはできない。

イ.申立人は、特許異議申立書において、次のように主張している。
「ウ.以上のように、仮に、本件第1発明で特定された、ヘーズ変化率を所定値以下とすることが甲1に明示されていない点を相違点と認定したとしても、導電層を備える積層体において、ヘーズ変化率を小さくするという課題は従来周知であるから、当該相違点は従来周知の課題の記載にすぎず、また、本件第1発明に記載された100%以下という数値は広範囲であって格別優れた範囲を課題とするものでないから、当業者が容易に推考しえたものにすぎず、本件第1発明は、甲1及び周知の課題に基づいて当業者が容易に想到しえた発明である。」(特許異議申立書25ページ14〜21行)
当該主張について検討する。
本件発明1は、「温度85℃、相対湿度85%の雰囲気下で118時間処理した後、前記被覆層側から前記積層体の第2のヘーズH118を測定したときに、式I118:ΔH118(%)=(H118−H0)/H0×100により算出される前記積層体のヘーズ変化率ΔH118が100%以下であ」ることを発明特定事項とするものであって、単にヘーズ変化率を小さくするという課題が記載されているわけではない。
また、本件発明1の「積層体のヘーズ変化率ΔH118が100%以下であ」ることについて、どのような技術常識を根拠に広範囲と主張しているのかは不明であるし、仮に、広範囲であるにしても、単に広範囲であることが、ただちに容易に想到し得たことの根拠になるわけでもない。
したがって、申立人の当該主張を採用することはできない。

ウ.申立人は、特許異議申立書において、次のように主張している。
「イ.以上のように、甲2における導電性部材のヘーズ変化率は100%に対して極めて小さな数値であるから、湿熱処理における温度及び湿度の相違(甲2で60℃90RH%)によって、ヘイズ変化率が100%以上になるとは考えられない」(特許異議申立書35ページ20〜23行)
当該主張について検討する。
甲2発明の「導電性部材」を構成する材料の組成及び製造方法によるものについて、どのような技術常識を根拠にして、「温度85℃、相対湿度85%の雰囲気下で118時間処理した後、前記被覆層側から前記積層体の第2のヘーズH118を測定したときに、式I118:ΔH118(%)=(H118−H0)/H0×100により算出される前記積層体のヘーズ変化率ΔH118が100%以下であ」ると主張されているのかが不明であり、甲1〜7には、当該主張を裏付ける記載も示唆もない。
したがって、申立人の当該主張を採用することはできない。

2.申立理由3−1について
(1)本件特許の発明が解決しようとする課題について
本件特許の発明の詳細な説明には、次の事項が記載されている。
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の積層フィルムを用いて、導電層上に被覆層を設ける場合には、被覆層の形成工程以外に、粘着剤層や接着剤層等の中間層を介して積層フィルムを導電層上に貼付する貼付工程が別途必要であるという問題点があった。また、積層フィルムの貼付後は、中間層が導電層に性能上の悪影響を与える可能性があるという問題点があった。また、積層体中の導電層に積層フィルムが貼付された積層構造全体の、湿熱処理後のヘーズの変化が抑制されるか否かは定かではない。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、基材、導電層及び被覆層がこの順に積層された積層体として、形成済みの被覆層の貼付工程を行うことなく製造可能であり、湿熱条件下でも積層体全体のヘーズの変化が抑制される積層体を提供することを課題とする。」
【0007】の記載によれば、発明が解決しようとする課題(以下「本件発明の課題」という。)は、「基材、導電層及び被覆層がこの順に積層された積層体として、形成済みの被覆層の貼付工程を行うことなく製造可能」(以下「本件発明の課題1」という。)及び「湿熱条件下でも積層体全体のヘーズの変化が抑制される積層体を提供する」(以下「本件発明の課題2」という。)という2つの課題が並列に記載されており、当該2つ課題が、「かつ」等の、二つの動作・状態が並行して同時に存在することを表す副詞と共に記載されていない。
このことは、【0006】に、「貼付工程」に関する問題点と「ヘーズ」に関する問題点とが並列に記載されていることと整合する。
したがって、本件発明の課題を解決しているか否かは、本件発明の課題1又は本件発明の課題2のいずれかが解決されるか否かにより判断される。

(2)本件発明の課題の解決手段及びについて
本件特許の発明の詳細な説明には、次の事項が記載されている。
「【0012】
<<積層体>>
本発明の一実施形態に係る積層体は、基材、導電層及び被覆層がこの順に積層された積層体であって、前記被覆層側から測定したヘーズH0が3.0%以下である前記積層体を、温度85℃、相対湿度85%の雰囲気下で118時間処理した後、前記被覆層側から前記積層体のヘーズH118を測定したときに、下記式(I118)により算出される前記積層体のヘーズ変化率ΔH118が100%以下となる。
ΔH118(%)=(H118−H0)/H0×100・・・・(I118)
換言すれば、上記実施形態に係る積層体は、基材と、前記基材上に設けられた導電層と、前記導電層上に設けられた被覆層と、を備え、前記被覆層側から測定した第1のヘーズH0が3.0%以下である前記積層体を、温度85℃、相対湿度85%の雰囲気下で118時間処理した後、前記被覆層側から前記積層体の第2のヘーズH118を測定したときに、式I118:ΔH118(%)=(H118−H0)/H0×100により算出される前記積層体のヘーズ変化率ΔH118が100%以下である。
【0013】
本発明の積層体は、湿熱条件下に置く前の初期段階では、例えば、前記ヘーズH0が3.0%以下であり、優れた光学特性を有する。また、湿熱条件下に置いて経時させても、本発明の積層体は、例えば、ヘーズ変化率ΔH118が100%以下となるなど、ヘーズの変化が抑制され、好ましい光学特性が維持される。」

以上の記載によれば、「前記被覆層側から測定した第1のヘーズH0が3.0%以下である前記積層体を、温度85℃、相対湿度85%の雰囲気下で118時間処理した後、前記被覆層側から前記積層体の第2のヘーズH118を測定したときに、式I118:ΔH118(%)=(H118−H0)/H0×100により算出される前記積層体のヘーズ変化率ΔH118が100%以下であ」れば、「湿熱条件下に置いて経時させても、」「ヘーズの変化が抑制され、好ましい光学特性が維持される」から、本件発明の課題2の解決手段は、「前記被覆層側から測定した第1のヘーズH0が3.0%以下である前記積層体を、温度85℃、相対湿度85%の雰囲気下で118時間処理した後、前記被覆層側から前記積層体の第2のヘーズH118を測定したときに、式I118:ΔH118(%)=(H118−H0)/H0×100により算出される前記積層体のヘーズ変化率ΔH118が100%以下」という事項であることがわかる。
そして、本件発明1は、当該本件発明の課題2の解決手段を、発明特定事項としているものであるから、本件発明1によって、本件発明の課題2が解決可能であることは明らかである。

(3)拡張ないし一般化について
本件特許の発明の詳細な説明には、次の事項が記載されている。
「【実施例】
【0218】
以下、具体的実施例により、本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に、何ら限定されるものではない。
なお、被覆層用組成物の製造に用いた樹脂成分を表1に示す。表1に示す樹脂成分はすべて、80℃で10分加熱した後、400mJ/cm2の照射量で紫外線を照射することにより、硬化させることが推奨されている。表1中の「鉛筆硬度」は、硬化物の鉛筆硬度を意味する。
以下において、実施例1は参考例1とする。
【0219】
【表1】

【0220】
[実施例1]
<積層体の製造>
(銀インク組成物の製造)
・・・
【0221】
(銀層の形成)
ポリカーボネート製基材(厚さ2mm)の一方の主面(表面、第1の主面)上に、グラビアオフセット印刷法により、上記で得られた銀インク組成物を塗工して、印刷パターンを形成した。・・・
・・・
【0223】
(被覆層の形成、積層体の製造)
・・・
以上により、基材上に導電層としてメッシュ状の銀層が形成され、前記銀層上と、前記基材上の前記銀層が設けられていない領域と、に被覆層が形成された積層体を得た。
【0224】
<積層体の評価>
(被覆層の鉛筆硬度)
上記で得られた積層体の被覆層の表面の鉛筆硬度を、JIS K5600−5−4に従って測定した。結果を表4に示す。
【0225】
(積層体のヘーズH及びヘーズ変化率ΔH)
上記で得られた積層体を、温度85℃、相対湿度85%の雰囲気下において継続的に加湿加熱処理を行い、処理開始前と、処理開始後の所定の時間が経過した段階で、前記積層体について、その被覆層側(被覆層外面)から、JIS K7136に従って、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所製)を用いてヘーズHt(%)を測定した。結果を表4に示す。なお、表4に示すヘーズHtの測定値はすべて絶対値である。そして、処理開始前(t=0)のヘーズH0と、処理開始後t時間(t>0)でのヘーズHtとから、前記式(It)により前記積層体のヘーズ変化率ΔHt(%)を算出した。結果を表5に示す。」
「【0261】
【表3】

【0262】
【表4】

【0263】
【表5】

【0264】
以下には、被覆層用組成物の配合成分として、マイグレーション抑制剤、界面活性剤を用いた実施例について示す。
実施例17〜実施例29においては、以下に示す「銀インク組成物2」を用いた。
なお、「銀インク組成物2」は、上記実施例1の項に記載した「銀インク組成物」と同様のヘーズを示す組成物である。
【0265】
また、以下の実施例において用いた界面活性剤を表7に示す。
界面活性剤としては、具体的に、ネオス社製「フタージェント610FM(ノニオン性、含フッ素基(親水性基/親油性基)含有オリゴマー)」、ネオス社製「フタージェント602A(ノニオン性、含フッ素基(親水性基/親油性基)UV反応性基含有オリゴマー)」、ネオス社製「フタージェント650AC(ノニオン性、含フッ素基(親水性基/親油性基)UV反応性基含有オリゴマー)」、及びネオス社製「フタージェント601AD(ノニオン性、含フッ素基(親水性基/親油性基)UV反応性基含有オリゴマー)」を用いた。
【0266】
<積層体の製造及び評価>
[実施例17、実施例18]
(銀インク組成物2の製造)
・・・
【0267】
(被覆層用組成物の製造)
・・・
【0268】
(積層体の製造及び評価)
上記で得られた被覆層用組成物(F−5)を用いた点及び上記銀インク組成物2を用いた点以外は、実施例1と同じ方法で、実施例17及び実施例18に係る積層体を製造し、かつ、評価した。結果を表9及び表10に示す。
・・・」
「【0290】
【表9】

【0291】
【表10】



当該記載を総合し、実施例2〜16に着目すると、ヘーズH0が0.8%(実施例16)〜1.8%(実施例4)のものについて、ヘーズ変化率ΔH224が21%(実施例3)〜40%(実施例2)であることがわかり、実施例19〜20に着目すると、ヘーズH0が1.3%(実施例19〜20)のものについて、ヘーズ変化率ΔH230が31%(実施例19)〜38%(実施例20)であることがわかり、実施例21〜23に着目すると、ヘーズH0が1.2%(実施例21、実施例23)〜1.3%(実施例22)のものについて、ヘーズ変化率ΔH182が0%(実施例22)〜17%(実施例21、実施例23)であることがわかり、実施例24〜25に着目すると、ヘーズH0が1.1%(実施例25)〜1.2%(実施例24)のものについて、ヘーズ変化率ΔH230が9%(実施例25)〜17%(実施例24)であることがわかり、実施例26〜29に着目すると、ヘーズH0が1.1%(実施例26〜29)のものについて、ヘーズ変化率ΔH217が18%(実施例27)〜36%(実施例28)であることがわかる。
そうすると、実施例2〜16及び実施例19〜29について、ヘーズ変化率ΔH118の値は不明ではあるが、【表5】に記載された実施例2〜16及び【表10】に記載された実施例19〜29におけるヘーズ変化率ΔHtの値の経時的変化を勘案すると、実施例2〜16及び実施例19〜29のヘーズ変化率ΔH118の値は、100%を超えないと考えられる。
そうすると、本件発明の課題2の解決という点で、本件特許の発明の詳細な説明に記載された事項を、本件発明1にまで拡張ないし一般化できないとは言えない。

(4)申立人の主張について
ア.申立人は特許異議申立書において、次のように主張している。
「(i)ヘーズ変化率
本件第1発明は、「ヘーズ変化率△H118が100%以下」と特定しているが、発明の詳細な説明には、被覆層用組成物としてポリウレタンアクリレートとアクリル酸エステルの配合物を用いること、及び配合比を特定範囲にする(紫外線硬化性樹脂A〜Fの配合比)ことしか記載されておらず(段落219、表1参照)、技術常識に照らしても、当該配合物と配合比以外の多数の被覆用材料にまで拡張又は一般化できるとは考えられない。」(特許異議申立書39ページ8〜13行)
当該主張について検討する。
甲1〜7には、「ポリリウレタン(メタ)アクリレート以外の樹脂」(【0189】)では、どのようにしても「ヘーズ変化率△H118が100%以下」とすることができないことを示す記載も示唆もなく、その他に証拠が提出されているわけでもないから、どのような技術常識からみて「ポリカーボネート以外の多数の材料において発明の課題を達成できない」のかが不明である。
したがって、申立人の当該主張を採用することはできない。

イ.申立人は特許異議申立書において、次のように主張している。
「(ii)ヘーズとヘーズ変化率の関係
本件第1発明は、「第1のヘーズH0が3.0%以下」、「ヘーズ変化率△H118が100%以下」と特定しているが、発明の詳細な説明では、まず、表4(段落262)において、118時間後を示す「118h」の列には、ヘーズHt[%]のデータは何ら示されておらず、表5(段落263)においても、118時間後を示す「118h」の列には、ヘーズ変化率△Ht[%]のデータは何ら示されておらず、表9(段落290)や表10(段落291)には、「118h」の列すら示されていない。したがって、実施例が本件第1発明を満たすものかどうか不明である。また、各実施例を見ると、ヘーズH0が0.8〜2.3の範囲でのみヘーズ変化率が100%以下となっていることになっており(表4、9)、かつ、実施例13、17では、ヘーズ変化率が高いことから(前者は286hで75%、後者は120hで81%)、第1のヘーズH0が0.8〜2.3の範囲の外ではヘーズ変化率△H118が100%を超えると考えられ、本件第1発明は、課題を達成しない範囲を包含している。」(特許異議申立書39ページ14〜末行)
当該主張について検討する。
まず、実施例2〜16及び実施例20〜29の「ヘーズ変化率H118」については、上記(3)で述べたとおりである。
次に、本件発明1は、本件発明の課題2を解決する手段である「前記被覆層側から測定した第1のヘーズH0が3.0%以下である前記積層体を、温度85℃、相対湿度85%の雰囲気下で118時間処理した後、前記被覆層側から前記積層体の第2のヘーズH118を測定したときに、式I118:ΔH118(%)=(H118−H0)/H0×100により算出される前記積層体のヘーズ変化率ΔH118が100%以下」を発明特定事項としているのであるから、「本件第1発明は、課題を達成しない範囲を包含している」との主張は当を得ていない。
したがって、申立人の当該主張を採用することはできない。

ウ.申立人は特許異議申立書において、次のように主張している。
「(iii)塗布工程
・・・
そうすると、本件第1発明には、「形成済みの被覆層の貼付工程を行うことなく製造可能」という発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求している。」(特許異議申立書40ページ1〜19行)
当該主張について検討する。
当該主張における「形成済みの被覆層の貼付工程を行うことなく製造可能」とは、上記(1)の本件発明の課題1に他ならず、上記(1)及び(2)で述べたとおり、仮に本件発明1が課題1を解決するものではなくとも、課題2を解決するものであるから、申立人の当該主張を採用することはできない。

エ.申立人は特許異議申立書において、次のように主張している。
「(iv)層構造
ア.積層体において、積層体のヘーズ及びヘーズ変化率を所定以下の値とするためには、基材、導電層及び被覆層以外の層の存在が影響することは技術常識である。しかしながら、本件第1発明は、「基材と、前記基材上に設けられた導電層と、前記導電層上に設けられた被覆層と、を備え」と記載し、基材、導電層及び被覆層以外の層を含みうるよう記載しているが(参照段落214、本件第2発明との関係)、技術常識に照らせば、基材、導電層及び被覆層以外の層の存在により、被授層側からのヘーズ、及びヘーズの変化率が当然変化するのであり、発明の上記課題を達成できない範囲を包含していることは明らかである。」(特許異議申立書40ページ20行〜41ページ1行)
当該主張について検討する。
本件発明1は、本件発明の課題2を解決する手段である「前記被覆層側から測定した第1のヘーズH0が3.0%以下である前記積層体を、温度85℃、相対湿度85%の雰囲気下で118時間処理した後、前記被覆層側から前記積層体の第2のヘーズH118を測定したときに、式I118:ΔH118(%)=(H118−H0)/H0×100により算出される前記積層体のヘーズ変化率ΔH118が100%以下」を発明特定事項としており、本件発明1の積層体において、「基材」、「導電層」及び「被覆層」以外の層を含む場合であっても、前記発明特定事項を満たすもののみが、本件発明1なのであるから、当該主張は当を得ていない。
したがって、申立人の当該主張を採用することはできない。

オ.申立人は特許異議申立書において、次のように主張している。
「(v)被覆層の厚さ
本件の表4によれば、被覆層の厚さが鉛筆硬度及びヘーズ変化率に大きな影響を与えることが記載されているが、本件第1発明は紫外線硬化性樹脂の材料と被膜層の厚みとの関係を特定しておらず、技術常識からみて、表4に開示された紫外線硬化性樹脂の材料と被覆層の厚みとの関係を超える範囲まで、拡張又は一般化できるとは考えられない。」(特許異議申立書41ページ21〜末行)
当該主張について検討する。
本件発明1は、本件発明の課題2を解決する手段である「前記被覆層側から測定した第1のヘーズH0が3.0%以下である前記積層体を、温度85℃、相対湿度85%の雰囲気下で118時間処理した後、前記被覆層側から前記積層体の第2のヘーズH118を測定したときに、式I118:ΔH118(%)=(H118−H0)/H0×100により算出される前記積層体のヘーズ変化率ΔH118が100%以下」を発明特定事項としており、本件発明1の積層体において、本件特許の発明の詳細な説明【0262】の【表4】に記載された各実施例の「被覆層の厚さ」及び【0261】の【表3】に記載された「被覆層用組成物の配合成分」以外のものであったとしても、前記発明特定事項を満たすもののみが、本件発明1なのであるから、【表4】の記載内容が、ただちに、本件発明1において、「被覆層用組成物の配合成分」及び「被覆層の厚さ」を特定することを必要とすることの根拠にはならない。
また、甲1〜甲7には、【表4】に記載された各実施例の「被覆層の厚さ」及び【表3】に記載された「被覆層用組成物の配合成分」以外のものでは、どのようにしても「第1のヘーズH0が3.0%以下」又は「ヘーズ変化率△H118が100%以下」とすることができないことを示す記載も示唆もなく、その他に証拠が提出されているわけでもないから、どのような技術常識からみて「表4に開示された紫外線硬化性樹脂の材料と被覆層の厚みとの関係を超える範囲まで、拡張又は一般化できるとは考えられない」のかが不明である。
したがって、申立人の当該主張を採用することはできない。

カ.申立人は特許異議申立書において、次のように主張している。
「(vi)基材
ア.本件第1発明は、単に「基材」と記載しているが、発明の詳細な説明にはポリカーボネートを用いてヘーズ変化率を評価した例しか記載されておらず(段落221など)、技術常識からみて、材料が異なればヘーズ値やヘーズ変化率は異なるのであって、ポリカーボネート以外の多数の材料において発明の課題を達成できるとは考えられないから、本件第1発明は、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えて特許を請求している。」(特許異議申立書42ページ1〜7行)
当該主張について検討する。
本件発明1は、本件発明の課題2を解決する手段である「前記被覆層側から測定した第1のヘーズH0が3.0%以下である前記積層体を、温度85℃、相対湿度85%の雰囲気下で118時間処理した後、前記被覆層側から前記積層体の第2のヘーズH118を測定したときに、式I118:ΔH118(%)=(H118−H0)/H0×100により算出される前記積層体のヘーズ変化率ΔH118が100%以下」を発明特定事項としており、本件発明1の積層体において、「基材」がどのような材料であるにせよ、前記発明特定事項を満たすもののみが、本件発明1であるから、当該主張は当を得ていない。
また、甲1〜甲7には、ポリカーボネート以外の樹脂では、どのようにしても「第1のヘーズH0が3.0%以下」又は「ΔH118が100%以下」とすることができないことを示す記載も示唆もなく、その他に証拠が提出されているわけでもないから、どのような技術常識からみて「ポリカーボネート以外の多数の材料において発明の課題を達成できない」のかが不明である。
したがって、申立人の当該主張を採用することはできない。

キ.申立人は特許異議申立書において、次のように主張している。
「(vii)導電層
ア.本件第1発明は、「導電層は、銀又は銅である」と特定しているが、発明の詳細な説明には、2−エチルヘキシルアミンとイソブチルアミンの混合物に2−メチルアセト酢酸銀及びギ酸を添加した銀インク配合物によりヘーズ変化率を評価した例しか記載されておらず、技術常識からみて、当該銀インク配合物以外の多数の材料において発明の課題を達成できるとは考えられないから、本件第1発明は、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えて特許を請求している。しかも、当該銀インク配合物は、銀以外の樹脂成分を含み、銀そのものではないから、「導電性層は、銀」であるともいえない。」(特許異議申立書42ページ13〜21行)
当該主張について検討する。
本件発明1は、本件発明の課題2を解決する手段である「前記被覆層側から測定した第1のヘーズH0が3.0%以下である前記積層体を、温度85℃、相対湿度85%の雰囲気下で118時間処理した後、前記被覆層側から前記積層体の第2のヘーズH118を測定したときに、式I118:ΔH118(%)=(H118−H0)/H0×100により算出される前記積層体のヘーズ変化率ΔH118が100%以下」を発明特定事項としており、本件発明1の積層体において、「導電層」がどのような材料からなるものであるにせよ、前記発明特定事項を満たすもののみが、本件発明1であるから、当該主張は当を得ていない。
また、甲1〜甲7には、銀インク配合物以外の材料では、どのようにしても「第1のヘーズH0が3.0%以下」又は「ΔH118が100%以下」とすることができないことを示す記載も示唆もなく、その他に証拠が提出されているわけでもないから、どのような技術常識からみて「当該銀インク配合物以外の多数の材料において発明の課題を達成できるとは考えられない」のかが不明である。
したがって、申立人の当該主張を採用することはできない。

(5)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1及び本件発明2は、発明の詳細な説明に記載したものである。

3.申立理由3−2について
(1)請求項1及び請求項2の記載について
本件発明1の「積層体」という物の発明は、「基材と、前記基材上に設けられた導電層と、前記導電層上に設けられた被覆層と、を備え」ていること及び「前記導電層は、銀又は銅である」という構成が特定され、かつ「前記被覆層側から測定した第1のヘーズH0が3.0%以下である前記積層体を、温度85℃、相対湿度85%の雰囲気下で118時間処理した後、前記被覆層側から前記積層体の第2のヘーズH118を測定したときに、式I118:ΔH118(%)=(H118−H0)/H0×100により算出される前記積層体のヘーズ変化率ΔH118が100%以下であり」及び「前記被覆層は、鉛筆硬度がHB、F、H、2H及び3Hの何れかであり」という物性が特定され、これらの意味するところは明確である。
そうすると、本件発明1は明確であり、第三者に不測の不利益を生じさせるほどに不明確な点はない。
この点、本件発明2も同様である。

(2)申立人の主張について
ア.申立人は特許異議申立書において、次のように主張している。
「(i)ヘーズ変化率
ア.本件第1発明の課題は、上述したように、基材、導電層及び被授層がこの順に積層された積層体として、形成済みの被覆層の貼付工程を行うことなく製造可能であり、湿熱条件下でも積層体全体のヘーズの変化が抑制される積層体を提供することにあるが、本件第1発明は当該課題を解決するために何を発明したのかを特定していない。
特に、本件第1発明は、「ヘーズ変化率△H118が100%以下」と特定しているが、当該物性自体が発明の課題又は願望であって、当該課題又は願望を解決する手段を特定していないから、従来周知の積層体と何が異なるのか発明の外延が不明確であり、技術常識からみて発明の実現手段が欠如していることが明らかである。
イ.例えば、本件第1発明の実施例2〜4、11、12は、甲2における製造例1、3と同じ紫外線硬化性樹脂を用いており、甲2におけるヘーズ変化率が100%以下と解されるが、もし、紫外線硬化性樹脂以外の処理工程、含有材料・重量比等によって、本件第1発明が従来の物と異なると主張するのであれば、その点が課題解決手段であるから、当該課題解決手段を本件第1発明で特定しなければならない。
ウ.よって、本件第1発明は、技術常識に照らして発明特定事項が不足していることが明らかであり、明確性要件に違反している。」(43ページ3〜21行)
当該主張について検討する。
本件発明1において、「ヘーズ変化率△H118」という物性について、その算出方法が記載され、「ヘーズ変化率△H118が100%以下」という数値限定もされており、本件発明1と従来技術との異同は、「ヘーズ変化率△H118」を算出すれば明らかであるので、第三者に不測の不利益を生じさせるほどに不明確な点はなく、また、本件発明1と従来技術との異同は、本件発明1の新規性有無の問題であって、本件発明1の明確性の問題ではないから、当該主張は当を得ていない。
したがって、申立人の当該主張を採用することはできない。

イ.申立人は特許異議申立書において、次のように主張している。
「(ii)へーズ及びヘーズ変化率
本件第1発明は、「第1のヘーズH0が3.0%以下」、「ヘーズ変化率△H181が100%以下」と特定しているが、いずれも下限が不明確であり、その結果、ヘーズが低いと小さな変化量に対してヘーズ変化率が高くなり、100%を超えるという、不合理なパラメータとなっており、ヘーズH0とヘーズ変化率との相関関係が不明確である。実施例によれば、ヘーズH0が0.8〜2.3%の範囲でのみヘーズ変化率が100%以下となっており、極めて狭い範囲でしか本件第1発明の構成要件を満足していない。」(43ページ22〜44ページ5行)
当該主張について検討する。
本件発明1は、「前記被覆層側から測定した第1のヘーズH0が3.0%以下である前記積層体を、温度85℃、相対湿度85%の雰囲気下で118時間処理した後、前記被覆層側から前記積層体の第2のヘーズH118を測定したときに、式I118:ΔH118(%)=(H118−H0)/H0×100により算出される前記積層体のヘーズ変化率ΔH118が100%以下」を発明特定事項としており、「第1のヘーズH0」が低くなれば、「ヘーズ変化率ΔH118が100%以下」という範囲で、許容されるヘーズ変化量が低くなるに過ぎない。
そうすると、「第1のヘーズH0」と「ヘーズ変化率ΔH118」との相関関係に不明確な点はなく、また、実施例が、本件発明1の発明特定事項をどの程度満足するのかは、本件発明1の明確性の問題ではないから、当該主張は当を得ていない。
したがって、申立人の当該主張を採用することはできない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1及び本件発明2は明確である。

4.申立理由3−3について
(1)発明の詳細な説明の記載について
本件発明1の「積層体」という物の発明は、「基材と、前記基材上に設けられた導電層と、前記導電層上に設けられた被覆層と、を備え」ていること及び「前記導電層は、銀又は銅である」という構成が特定され、かつ「前記被覆層側から測定した第1のヘーズH0が3.0%以下である前記積層体を、温度85℃、相対湿度85%の雰囲気下で118時間処理した後、前記被覆層側から前記積層体の第2のヘーズH118を測定したときに、式I118:ΔH118(%)=(H118−H0)/H0×100により算出される前記積層体のヘーズ変化率ΔH118が100%以下であり」及び「前記被覆層は、鉛筆硬度がHB、F、H、2H及び3Hの何れかであり」という物性が特定され、発明の詳細な説明には、前記構成や前記物性を備えたものが明確かつ十分に記載されている。

(2)申立人の主張について
ア.申立人は特許異議申立書において、次のように主張している。
「(i)ヘーズ変化率
本件特許明細書には、本件第1発明について、限定された被覆用組成物(ポリウレタンアクリレートとアクリル酸エステル)、銀インク組成物、ポリカーボネート製基材、各層の層厚でヘーズ変化率を評価した例しか記載されておらず、本件第1発明に包含される他の材料、構造においても発明の課題が達成しうるか否かが、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえない。
また、本件第1発明は、「基材と、前記基材上に設けられた導電層と、前記導電層上に設けられた被覆層と、を備え」と記載し、基材、導電層及び被覆層以外の層を含みうるよう記載しているが、段落214その他の記載を見ても、基材、導電層及び被覆層以外の層を設ける場合、その層をどのような構成にすればよいのか、本件特許明細書には、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。」(44ページ8〜20行)
当該主張について検討する。
そもそも、本件発明1は、「基材」、「導電層」及び「被覆層」以外の層を含むことを発明特定事項としていないのであるから、「基材」、「導電層」及び「被覆層」以外の層は必須ではない。
そして、本件発明1は「前記被覆層側から測定した第1のヘーズH0が3.0%以下である前記積層体を、温度85℃、相対湿度85%の雰囲気下で118時間処理した後、前記被覆層側から前記積層体の第2のヘーズH118を測定したときに、式I118:ΔH118(%)=(H118−H0)/H0×100により算出される前記積層体のヘーズ変化率ΔH118が100%以下」を発明特定事項としているのであるから、「基材」、「導電層」及び「被覆層」以外の層を含む場合であっても、前記発明特定事項を満たすことができない限り、本件発明1の実施には該当しない。
そうすると、「基材」、「導電層」及び「被覆層」以外の層を含む場合には、当該層は「前記被覆層側から測定した第1のヘーズH0が3.0%以下である前記積層体を、温度85℃、相対湿度85%の雰囲気下で118時間処理した後、前記被覆層側から前記積層体の第2のヘーズH118を測定したときに、式I118:ΔH118(%)=(H118−H0)/H0×100により算出される前記積層体のヘーズ変化率ΔH118が100%以下」を満たすことのできる層に構成すれば良いだけあり、仮に、そのような層が存在し得ないのであれば、本件発明1において、必須とされていない層が存在し得ないというだけのことであるので、申立人の主張は当を得ていない。
したがって、申立人の当該主張を採用することはできない。

イ.申立人は特許異議申立書において、次のように主張している。
「(ii)鉛筆硬度
ア.本件特許明細書の段落39には、鉛筆硬度は特に断りのない限りJISK5600−5−4に従って測定した値を意味することが記載されている。段落224には実施例の積層体の被覆層について同JISに従って鉛筆硬度を測定したことが記載されており、測定結果が表4、5及び9に示されている。
・・・
ウ.JIS K5600−5−4の上記記載によると、鉛筆硬度は6B〜6Hのうち1単位に結果が定まるように測定されるものであり、同一の試験対象について2単位以上の結果が得られる場合は再測定が必要となるか、又は結果の精度に疑いがあることになると言える。
これに対し、本件特許明細書の実施例1、8〜14、及び17〜29では鉛筆硬度について2単位ないし3単位の幅を持った測定結果が示されており、JIS K5600−5−4で定められた手順に従った測定がなされておらず、同JISに従うとした段落39や段落223の記載と整合していない。
そうすると、鉛筆硬度をどのような手順に従って測定するのか、本件特許明細書から明らかにすることができないから、本件特許明細書は、本件第1発明を実施できるように記載されていない。」(44ページ22行〜46ページ18行)
当該主張について検討する。
本件特許の発明の詳細な説明には「【0039】・・・なお、本明細書において「鉛筆硬度」とは、特に断りのない限り、JIS K5600−5−4に従って測定した値を意味する。」及び「【0224】・・・上記で得られた積層体の被覆層の表面の鉛筆硬度を、JIS K5600−5−4に従って測定した。・・・」と記載されているのであるから、「被覆層の鉛筆硬度」の測定は、JIS K5600−5−4に従って測定することは明らかである。
本件特許の発明の詳細な説明には、JIS K5600−5−4に従って測定するにあたり、同一実施例について、試験板を何枚用いたのかが、本件特許の発明の詳細な説明には記載されていないから、JIS K5600−5−4に従えば、実施例8〜14及び実施例17〜29の「被覆膜の鉛筆硬度」が、試験板1枚で試験を実施した結果であれば、実施例8〜14及び実施例17〜29は、ASTM D 3363−92aを基にした、結果の95%信頼水準にない実施例であるし、実施例8〜14及び実施例17〜29の「被覆膜の鉛筆硬度」が、試験板複数枚で実施した結果であれば、試験板ごとの結果が一定範囲内で変化しており、実施例8〜14及び実施例17〜29は、「被覆膜の鉛筆硬度」の値が一定範囲内で変化する実施例である。
しかし、このような実施例8〜14及び実施例17〜29の試験結果の信頼水準の低さ又は値が一定範囲内で変化したとしても、「鉛筆硬度」の値 自体は得られるのであるから、ただちに、「被覆膜の鉛筆硬度」の測定方法が不明であるとまではいえない(なお、実施例1については、発明の詳細な説明に「【0218】・・・以下において、実施例1は参考例1とする。」と記載されているとおりである。)。
したがって、申立人の当該主張を採用することはできない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1及び本件発明2を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。

第6 むすび
したがって、本件異議申立の理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-12-15 
出願番号 P2016-213833
審決分類 P 1 651・ 113- Y (B32B)
P 1 651・ 121- Y (B32B)
P 1 651・ 537- Y (B32B)
P 1 651・ 536- Y (B32B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 石井 孝明
矢澤 周一郎
登録日 2020-12-03 
登録番号 6803723
権利者 トッパン・フォームズ株式会社
発明の名称 積層体  
代理人 森 隆一郎  
代理人 飯田 雅人  
代理人 萩原 綾夏  
代理人 大浪 一徳  
代理人 及川 周  

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