ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G05B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G05B 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G05B 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G05B 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G05B |
---|---|
管理番号 | 1382563 |
総通号数 | 4 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-04-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-07-04 |
確定日 | 2022-03-02 |
事件の表示 | 特願2013−102709「プロセス制御システムの整合性低下を識別する方法及び装置,有形的マシン可読媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成25年11月28日出願公開,特開2013−239176〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は,平成25年5月15日(パリ条約による優先権主張2012年5月16日 アメリカ合衆国)の出願であって, 平成28年5月12日付けで審査請求がなされ,平成29年7月27日付けで審査官により拒絶理由が通知され,これに対して平成29年10月30日付けで意見書が提出されると共に手続補正がなされ,平成30年3月27日付けで審査官により最後の拒絶理由が通知され,これに対して平成30年7月10日付けで意見書が提出されると共に手続補正がなされたが,平成30年12月26日付けで審査官により平成30年7月10日付けの手続補正が却下されると共に拒絶査定がなされ(謄本送達;平成31年3月5日),これに対して令和1年7月4日付けで審判請求がなされると共に手続補正がなされ,令和1年9月4日付けで審査官により特許法第164条第3項の規定に基づく報告がなされ,令和2年3月31日付けで当審により拒絶理由が通知され,これに対して令和2年10月7日付けで意見書が提出されると共に手続補正がなされ,令和3年2月12日付けで当審により最後の拒絶理由が通知され,これに対して令和3年5月14日付けで意見書が提出されると共に手続補正がなされたものである。 第2.令和3年5月14日付けの手続補正の却下の決定 [補正却下の決定の結論] 令和3年5月14日付け手続補正を却下する。 [理由] 1.補正の内容 令和3年5月14日付けの手続補正(以下,「本件手続補正」という。)により,令和2年10月7日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲, 「 【請求項1】 プロセス制御システムの整合性の低下を識別するための方法であって, 前記プロセス制御システムのファイルシステムに格納された第1のファイルを識別することと, ファイルを記憶する領域であるシステムプロファイルに格納された第2のファイルと前記第1のファイルとを照合することと, 前記第1のファイルと前記第2のファイルとが一致しない場合に,前記プロセス制御システムの整合性の低下を識別することと, 前記整合性の前記低下が識別されると,プロセス制御システムプロバイダに警告することと, を含み, 前記プロセス制御システムプロバイダは,前記プロセス制御システムをオペレータに供給し, 前記警告では,前記プロセス制御システムがいつ変更されようとしたかを示す, 方法。 【請求項2】 ファイルを記憶する領域であるシステムプロファイルに格納された第2のファイルと前記第1のファイルとを照合することは,前記第1のファイルに関連する値と前記第2のファイルに関連する値とに基づいて,前記第1のファイルと前記第2のファイルとを照合することを含み, 前記第1のファイルと前記第2のファイルとが一致しない場合に,前記プロセス制御システムの整合性の低下を識別することは,前記第1のファイルに関連する値と前記第2のファイルに関連する値とが一致しない場合に,前記プロセス制御システムの整合性の前記低下を識別することを含む, 請求項1に記載の方法。 【請求項3】 前記整合性の前記低下が識別されると,前記プロセス制御システムの管理者に警告することをさらに含む,請求項1に記載の方法。 【請求項4】 プロセス制御システムの整合性の低下を識別するための方法であって, 前記プロセス制御システムのファイルシステムに格納された第1のファイルを識別することと, 前記第1のファイルのハッシュ値を計算することと, 前記計算されたハッシュ値を,ファイルを記憶する領域であるシステムプロファイルに格納された第2のファイルのハッシュ値と比較することと, 前記第1のファイルのハッシュ値と前記第2のファイルのハッシュ値とが一致しない場合に,前記プロセス制御システムの整合性の低下を識別することと, 前記整合性の前記低下が識別されると,プロセス制御システムプロバイダに警告することと, を含み, 前記プロセス制御システムプロバイダは,前記プロセス制御システムをオペレータに供給し, 前記警告では,前記プロセス制御システムがいつ変更されようとしたかを示す, 方法。 【請求項5】 前記システムプロファイルを初期化することをさらに含み, 前記システムプロファイルを初期化することが 前記ファイルシステムに格納された前記第1のファイルを識別することと, 前記第1のファイルのハッシュ値を計算することと, 前記システムプロファイル内に前記ハッシュ値を格納することと を含む,請求項4に記載の方法。 【請求項6】 前記システムプロファイルをリモートプロファイルサーバーから取得することをさらに含む,請求項4に記載の方法。 【請求項7】 前記プロセス制御システムのプロセッサによって実行されているプロセスを識別することをさらに含み, 前記ファイルシステムに格納された前記第1のファイルが,前記プロセッサによって実行されている前記プロセスに関連している, 請求項4に記載の方法。 【請求項8】 前記プロセス制御システムのネットワークコミュニケータのネットワーク通信を識別することと, 前記ネットワーク通信のプロパティを前記システムプロファイルの格納されたプロパティと比較することと, 前記ネットワーク通信の前記プロパティが前記システムプロファイルの前記格納されたプロパティに一致しない場合に,前記プロセス制御システムの整合性の前記低下を識別することと をさらに含む,請求項4に記載の方法。 【請求項9】 プロセス制御システムの整合性の低下を識別するための装置であって, プロセス制御ノードのファイルシステムに格納された第1のファイルに関連した値と,ファイルを記憶する領域であるシステムプロファイルに格納された第2のファイルに関連した値とに基づいて,前記プロセス制御システムの整合性の低下を識別するためのファイルシステム検証ツールと, 前記整合性の前記低下が識別されると,プロセス制御システムプロバイダに警告する警告装置と, を含み, 前記プロセス制御システムプロバイダは,前記プロセス制御システムをオペレータに供給し, 前記警告では,前記プロセス制御システムがいつ変更されようとしたかを示す, 装置。 【請求項10】 前記警告装置は,前記整合性の前記低下が識別されると,前記プロセス制御システムの管理者に警告する,請求項9に記載の装置。 【請求項11】 前記第1のファイルに関連した値と前記第2のファイルに関連した値とは,ハッシュ値である,請求項9に記載の装置。 【請求項12】 前記警告装置が,電子メールメッセージを送信することにより,前記プロセス制御システムプロバイダまたは前記プロセス制御システムの管理者のうちの少なくとも一方に警告するためである,請求項10に記載の装置。 【請求項13】 プロセス制御システムの整合性の低下を識別するための装置であって, プロセス制御システムのファイルシステムに格納された第1のファイルを識別する手段と, ファイルを記憶する領域であるシステムプロファイルに格納された第2のファイルと前記第1のファイルとを照合する手段と, 前記第1のファイルと前記第2のファイルとが一致しない場合に,前記プロセス制御システムの整合性の低下を識別する手段と, 前記整合性の前記低下が識別されると,プロセス制御システムプロバイダに警告する手段と, を備え, 前記プロセス制御システムプロバイダは,前記プロセス制御システムをオペレータに供給し, 前記警告では,前記プロセス制御システムがいつ変更されようとしたかを示す, 装置。 【請求項14】 前記照合する手段は,前記第1のファイルに関連する値と前記第2のファイルに関連する値とに基づいて,前記第1のファイルと前記第2のファイルとを照合し, 前記整合性の低下を識別する手段は,前記第1のファイルに関連する値と前記第2のファイルに関連する値とが一致しない場合に,前記プロセス制御システムの整合性の前記低下を識別する, 請求項13に記載の装置。 【請求項15】 有形的マシン可読媒体であって,実行される場合に, マシンに少なくとも, プロセス制御システムのファイルシステムに格納された第1のファイルを識別することと, 前記第1のファイルのハッシュ値を計算することと, 前記計算されたハッシュ値を,ファイルを記憶する領域であるシステムプロファイルに格納された第2のファイルのハッシュ値と比較することと, 前記第1のファイルのハッシュ値と前記第2のファイルのハッシュ値とが一致しない場合に,前記プロセス制御システムの整合性の低下を識別することと, 前記整合性の前記低下が識別されると,プロセス制御システムプロバイダに警告することと, をさせる命令を格納する, 有形的マシン可読媒体であって, 前記プロセス制御システムプロバイダは,前記プロセス制御システムをオペレータに供給し, 前記警告では,前記プロセス制御システムがいつ変更されようとしたかを示す, 有形的マシン可読媒体。」(以下,上記引用の請求項各項を,「補正前の請求項」という。)は, 「 【請求項1】 プロセス制御システムの整合性の低下を識別するための方法であって, 前記プロセス制御システムのファイルシステムに格納された第1のファイルを識別することと, ファイルを記憶する領域であるシステムプロファイルに格納された第2のファイルと前記第1のファイルとを照合することと, 前記第1のファイルと前記第2のファイルとが一致しない場合に,前記プロセス制御システムの整合性の低下を,否定的な識別を用いて,識別することと, 前記整合性の前記低下が識別されると,プロセス制御システムプロバイダに警告することと, を含み, 前記プロセス制御システムプロバイダは,前記プロセス制御システムをオペレータに供給し, 前記警告では,前記プロセス制御システムがいつ変更されようとしたかを示す, 方法。 【請求項2】 ファイルを記憶する領域であるシステムプロファイルに格納された第2のファイルと前記第1のファイルとを照合することは,前記第1のファイルに関連する値と前記第2のファイルに関連する値とに基づいて,前記第1のファイルと前記第2のファイルとを照合することを含み, 前記第1のファイルと前記第2のファイルとが一致しない場合に,前記プロセス制御システムの整合性の低下を識別することは,前記第1のファイルに関連する値と前記第2のファイルに関連する値とが一致しない場合に,前記プロセス制御システムの整合性の前記低下を識別することを含む, 請求項1に記載の方法。 【請求項3】 前記整合性の前記低下が識別されると,前記プロセス制御システムの管理者に警告することをさらに含む,請求項1に記載の方法。 【請求項4】 プロセス制御システムの整合性の低下を識別するための方法であって, 前記プロセス制御システムのファイルシステムに格納された第1のファイルを識別することと, 前記第1のファイルのハッシュ値を計算することと, 前記計算されたハッシュ値を,ファイルを記憶する領域であるシステムプロファイルに格納された第2のファイルのハッシュ値と比較することと, 前記第1のファイルのハッシュ値と前記第2のファイルのハッシュ値とが一致しない場合に,前記プロセス制御システムの整合性の低下を,否定的な識別を用いて,識別することと, 前記整合性の前記低下が識別されると,プロセス制御システムプロバイダに警告することと, を含み, 前記プロセス制御システムプロバイダは,前記プロセス制御システムをオペレータに供給し, 前記警告では,前記プロセス制御システムがいつ変更されようとしたかを示す, 方法。 【請求項5】 前記システムプロファイルを初期化することをさらに含み, 前記システムプロファイルを初期化することが 前記ファイルシステムに格納された前記第1のファイルを識別することと, 前記第1のファイルのハッシュ値を計算することと, 前記システムプロファイル内に前記ハッシュ値を格納することと を含む,請求項4に記載の方法。 【請求項6】 前記システムプロファイルをリモートプロファイルサーバーから取得することをさらに含む,請求項4に記載の方法。 【請求項7】 前記プロセス制御システムのプロセッサによって実行されているプロセスを識別することをさらに含み, 前記ファイルシステムに格納された前記第1のファイルが,前記プロセッサによって実行されている前記プロセスに関連している, 請求項4に記載の方法。 【請求項8】 前記プロセス制御システムのネットワークコミュニケータのネットワーク通信を識別することと, 前記ネットワーク通信のプロパティを前記システムプロファイルの格納されたプロパティと比較することと, 前記ネットワーク通信の前記プロパティが前記システムプロファイルの前記格納されたプロパティに一致しない場合に,前記プロセス制御システムの整合性の前記低下を識別することと をさらに含む,請求項4に記載の方法。 【請求項9】 プロセス制御システムの整合性の低下を識別するための装置であって, プロセス制御ノードのファイルシステムに格納された第1のファイルに関連した値と,ファイルを記憶する領域であるシステムプロファイルに格納された第2のファイルに関連した値とに基づいて,前記プロセス制御システムの整合性の低下を,否定的な識別を用いて,識別するためのファイルシステム検証ツールと, 前記整合性の前記低下が識別されると,プロセス制御システムプロバイダに警告する警告装置と, を含み, 前記プロセス制御システムプロバイダは,前記プロセス制御システムをオペレータに供給し, 前記警告では,前記プロセス制御システムがいつ変更されようとしたかを示す, 装置。 【請求項10】 前記警告装置は,前記整合性の前記低下が識別されると,前記プロセス制御システムの管理者に警告する,請求項9に記載の装置。 【請求項11】 前記第1のファイルに関連した値と前記第2のファイルに関連した値とは,ハッシュ値である,請求項9に記載の装置。 【請求項12】 前記警告装置が,電子メールメッセージを送信することにより,前記プロセス制御システムプロバイダまたは前記プロセス制御システムの管理者のうちの少なくとも一方に警告するためである,請求項10に記載の装置。 【請求項13】 プロセス制御システムの整合性の低下を識別するための装置であって, プロセス制御システムのファイルシステムに格納された第1のファイルを識別する手段と, ファイルを記憶する領域であるシステムプロファイルに格納された第2のファイルと前記第1のファイルとを照合する手段と, 前記第1のファイルと前記第2のファイルとが一致しない場合に,前記プロセス制御システムの整合性の低下を,否定的な識別を用いて,識別する手段と, 前記整合性の前記低下が識別されると,プロセス制御システムプロバイダに警告する手段と, を備え, 前記プロセス制御システムプロバイダは,前記プロセス制御システムをオペレータに供給し, 前記警告では,前記プロセス制御システムがいつ変更されようとしたかを示す, 装置。 【請求項14】 前記照合する手段は,前記第1のファイルに関連する値と前記第2のファイルに関連する値とに基づいて,前記第1のファイルと前記第2のファイルとを照合し, 前記整合性の低下を識別する手段は,前記第1のファイルに関連する値と前記第2のファイルに関連する値とが一致しない場合に,前記プロセス制御システムの整合性の前記低下を識別する, 請求項13に記載の装置。 【請求項15】 有形的マシン可読媒体であって,実行される場合に, マシンに少なくとも, プロセス制御システムのファイルシステムに格納された第1のファイルを識別することと, 前記第1のファイルのハッシュ値を計算することと, 前記計算されたハッシュ値を,ファイルを記憶する領域であるシステムプロファイルに格納された第2のファイルのハッシュ値と比較することと, 前記第1のファイルのハッシュ値と前記第2のファイルのハッシュ値とが一致しない場合に,前記プロセス制御システムの整合性の低下を,否定的な識別を用いて,識別することと, 前記整合性の前記低下が識別されると,プロセス制御システムプロバイダに警告することと, をさせる命令を格納する, 有形的マシン可読媒体であって, 前記プロセス制御システムプロバイダは,前記プロセス制御システムをオペレータに供給し, 前記警告では,前記プロセス制御システムがいつ変更されようとしたかを示す, 有形的マシン可読媒体。」(以下,上記引用の請求項各項を,「補正後の請求項」という。)に補正された。 2.補正の適否 (1)新規事項 本件手続補正が,特許法17条の2第3項の規定を満たすものであるか否か,即ち,本件手続補正が,願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲,及び,図面(以下,これを「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内でなされたものであるかについて,以下に検討する。 ア.補正事項 本件手続補正により,補正前の請求項1に記載の, 「第1のファイルと前記第2のファイルとが一致しない場合に,前記プロセス制御システムの整合性の低下を識別すること」, が, 「第1のファイルと前記第2のファイルとが一致しない場合に,前記プロセス制御システムの整合性の低下を,否定的な識別を用いて,識別すること」(以下,これを「補正事項1」という。), と補正され, 補正前の請求項4,及び,補正前の請求項15に記載の, 「第1のファイルのハッシュ値と前記第2のファイルのハッシュ値とが一致しない場合に,前記プロセス制御システムの整合性の低下を識別すること」, が, 「第1のファイルのハッシュ値と前記第2のファイルのハッシュ値とが一致しない場合に,前記プロセス制御システムの整合性の低下を,否定的な識別を用いて,識別すること」(以下,これを「補正事項2」という。), と補正され, 補正前の請求項9に記載の, 「プロセス制御ノードのファイルシステムに格納された第1のファイルに関連した値と,ファイルを記憶する領域であるシステムプロファイルに格納された第2のファイルに関連した値とに基づいて,前記プロセス制御システムの整合性の低下を識別するためのファイルシステム検証ツール」, が, 「プロセス制御ノードのファイルシステムに格納された第1のファイルに関連した値と,ファイルを記憶する領域であるシステムプロファイルに格納された第2のファイルに関連した値とに基づいて,前記プロセス制御システムの整合性の低下を,否定的な識別を用いて,識別するためのファイルシステム検証ツール」(以下,これを「補正事項3」という。), と補正され, 補正前の請求項13に記載の, 「第1のファイルと前記第2のファイルとが一致しない場合に,前記プロセス制御システムの整合性の低下を識別する手段」, が, 「第1のファイルと前記第2のファイルとが一致しない場合に,前記プロセス制御システムの整合性の低下を,否定的な識別を用いて,識別する手段」(以下,これを「補正事項4」という。以上,下線は請求人が付加したものである。), と補正された。 しかしながら,当初明細書等には,補正事項1〜補正事項4と同等の記載は存在しない。 そこで,補正事項1〜補正事項4が,当初明細書等から読み取れるかについて,以下に検討する。 イ.補正事項についての検討 (ア)補正事項3について 審判請求人が,令和3年5月14日付けの意見書(以下,「意見書」という。)において主張するとおり,当初明細書等には,段落【0009】に, 「対照的に,以下で説明する例の整合性ガードは,ファイルシステムの不規則性,ネットワーク通信の不規則性,および/またはアクティブプロセスの不規則性を否定的に識別することにより,プロセス制御ノードおよび/またはプロセス制御システムの整合性における低下を識別する。すなわち,定義と一致しないものは不規則性及び又問題と考えられる。」(以下,これを「引用記載1」という。なお,下線は,当審にて,説明の都合上,付加したものである。) という記載が存在しているが,引用記載1に開示されているのは, “整合性ガードが,ファイルシステムの不規則性,ネットワーク通信の不規則性,および/またはアクティブプロセスの不規則性を否定的に識別することにより,プロセス制御システムの整合性における低下を識別する” という程度の内容であり,“ファイルシステムの不規則性を否定的に識別する”こと,“ネットワーク通信の不規則性を否定的に識別する”こと,及び,“アクティブプロセスの不規則性を否定的に識別する”ことが,具体的にどのような処理であるか説明されておらず,当該「否定的に識別する」ことが,どのような契機で行われるかについても,何ら説明されていない。 したがって,引用記載1の内容からは,補正事項3のような, “プロセス制御ノードのファイルシステムに格納された第1のファイルに関連した値と,ファイルを記憶する領域であるシステムプロファイルに格納された第2のファイルに関連した値とに基づいて,否定的な識別を用いて,プロセス制御システムの整合性の低下を識別する” という構成,及び,補正事項2,補正事項4の如き構成を読み取ることはできない。 当初明細書等には,補正事項1〜補正事項4に関連する記載として,審判請求人の主張する段落【0009】の他に,段落【0005】に, 「プロセス制御システムの整合性の低下を識別するための装置例は,プロセス制御ノードのファイルシステム上に格納されているファイルのプロパティと第1の格納された値との間の差を整合性の低下として識別するためのファイルシステム検証ツール(file system verifier)を含む。」(以下,これを「引用記載2」という。) 段落【0023】に, 「いくつかの例では,ファイルシステム検証ツール310は,ファイルシステム220上のファイルのハッシュ値を計算し,計算されたハッシュ値が,ファイルシステムプロファイル311に格納されているファイルの以前に計算されたハッシュ値と一致するか否かを判断する。図示した例では,ハッシュ値は,ハッシング法(例えば,セキュアハッシュアルゴリズム1(SHA−1),メッセージダイジェスト5(MD5)など)を用いて計算される。計算されたハッシュ値が以前に計算されたハッシュ値と一致すれば,そのファイルは変更されていない。しかし,計算されたハッシュ値が以前に計算されたハッシュ値と一致しなければ,そのファイルは変更されている。」(以下,これを「引用記載3」という。) 段落【0025】に, 「図示した例のファイルシステム検証ツール310は,既知のシステムのプロファイルと一致しない項目(例えば,ファイル,ファイルのディレクトリなど)を識別することにより,プロセス制御ノード115の整合性における低下を識別する。」(以下,これを「引用記載4」という。) 段落【0049】に, 「ブロック540で,識別されたファイルがプロファイルに含まれる場合,ファイルシステム検証ツール310は,識別されたファイルのハッシュ値を決定(例えば,計算)する(ブロック550)。ファイルシステム検証ツール310は,次いで,識別されたファイルの計算されたハッシュ値が,プロファイル内のファイルに対応する格納されたハッシュ値と一致するか否かを判断する(ブロック560)。例えば,ファイルが変更されていれば,計算されたハッシュ値は,格納されたハッシュ値と一致しない可能性がある。ハッシュ値の比較は,ファイルシステム検証ツール310が,ファイルが変更されているか否かを検出できるようにする。計算されたハッシュ値が,格納されたハッシュ値と一致しない場合,ファイルシステム検証ツール310は,整合性低下の検出のログを取る(ブロック570)。」(以下,これを「引用記載5」という。) という記載が存在するものの,引用記載2〜引用記載5の内容を検討しても,「ファイルシステム検証ツール310」が,「プロセス制御ノードのファイルシステムに格納された第1のファイルに関連した値と,ファイルを記憶する領域であるシステムプロファイルに格納された第2のファイルに関連した値とに基づいて」,「否定的な識別を用いて」,「プロセス制御システムの整合性の低下を」「識別する」という構成,即ち,補正事項3に該当する構成を読み取ることはできず,当初明細書等における引用記載1〜引用記載5以外の記載内容をさらに加味しても,読み取ることはできない。 (イ)補正事項1,補正事項2,及び,補正事項4について 当初明細書等からは, 「第1のファイルと前記第2のファイルとが一致しない場合」と,「否定的な識別を用い」ることとの関係を示すことに対応する記載(補正事項1,及び,補正事項4に関して), 「第1のファイルのハッシュ値と前記第2のファイルのハッシュ値とが一致しない場合」と,「否定的な識別を用い」ることとの関係を示すことに対応する記載(補正事項2に関して), を見出すことができず,当初明細書等からは,補正事項1,補正事項2,及び,補正事項4に係る構成を読み取ることができない。 ウ.新規事項むすび 以上,上記ア.,及び,イ.において検討したとおりであるから,本件手続補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内でなされたものではない。 (2)独立特許要件 上記「(1)新規事項」において検討したとおり,本件手続補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内でなされたものではないが,仮に,本件手続補正が適法になされたものとして,本件手続補正が,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定を満たすものであるか否か,即ち,補正後の請求項に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際,独立して特許を受けることができるものであるか否か,以下に検討する。 ア.36条6項2号について (ア)補正事項1について 補正後の請求項1に係る補正事項1において,「否定的な識別を用い」るとは,どのような処理であるか不明であり,「第1のファイルと前記第2のファイルとが一致しない場合に」,どのような「否定的な識別」を,どのように「用い」ることで,「プロセス制御システムの整合性の低下を」,「識別すること」を実現しているのか,補正後の請求項1に記載の事項,及び,補正後の他の請求項に記載の事項を検討しても,不明である。 (イ)補正事項2について 補正後の請求項4,及び,補正後の請求項15に係る補正事項2において,「第1のファイルのハッシュ値と前記第2のファイルのハッシュ値とが一致しない場合に」,どのような「否定的な識別」を,どのように「用い」ることで,「プロセス制御システムの整合性の低下を」,「識別すること」を実現しているのか,補正後の請求項4に記載の事項,補正後の請求項15に記載の事項,及び,補正後の他の請求項に記載の事項を検討しても,不明である。 (ウ)補正事項3について 補正後の請求項9に係る補正事項3において,「ファイルシステム検証ツール」が,「プロセス制御ノードのファイルシステムに格納された第1のファイルに関連した値と,ファイルを記憶する領域であるシステムプロファイルに格納された第2のファイルに関連した値とに基づいて」,どのような「否定的な識別」を,どのように「用い」ることで,「プロセス制御システムの整合性の低下を」,「識別すること」を実現しているのか,補正後の請求項9に記載の事項,及び,補正後の他の請求項に記載の事項を検討しても,不明である。 (エ)補正事項4について 補正後の請求項13に係る補正事項4において,「識別する手段」が,「第1のファイルと前記第2のファイルとが一致しない場合に」,どのような「否定的な識別」を,どのように「用い」ることで,「プロセス制御システムの整合性の低下を」,「識別すること」を実現しているのか,補正後の請求項13に記載の事項,及び,補正後の他の請求項に記載の事項を検討しても,不明である。 (オ)補正後の請求項2,及び,補正後の請求項3は,補正後の請求項1を引用するものであるから,上記(ア)において検討した明確でない構成を内包し,かつ,補正後の請求項2,及び,補正後の請求項3に記載の事項を検討しても,上記(ア)において検討した明確でない構成が,明確になるものではない。 (カ)補正後の請求項5〜補正後の請求項8は,補正後の請求項4を引用するものであるから,上記(イ)において検討した明確でない構成を内包し,かつ,補正後の請求項5〜補正後の請求項8に記載の事項を検討しても,上記(イ)において検討した明確でない構成が,明確になるものではない。 (キ)補正後の請求項10〜補正後の請求項12は,補正後の請求項9を直接・間接に引用するものであるから,上記(ウ)において検討した明確でない構成を内包し,かつ,補正後の請求項10〜補正後の請求項12に記載の事項を検討しても,上記(ウ)において検討した明確でない構成が,明確になるものではない。 (ク)補正後の請求項14は,補正後の請求項13を引用するものであるから,上記(エ)において検討した明確でない構成を内包し,かつ,補正後の請求項14に記載の事項を検討しても,上記(エ)において検討した明確でない構成が,明確になるものではない。 (ケ)以上,上記(ア)〜(ク)において検討したとおりであるから,補正後の請求項1〜補正後の請求項15に係る発明は,明確ではない。 イ.36項4項1号について 補正事項1に関して,上記「(1)新規事項」の「イ.補正事項についての検討」における「(ア)補正事項3について」に引用した,本願明細書の段落【0009】に,「整合性ガードは,ファイルシステムの不規則性,ネットワーク通信の不規則性,および/またはアクティブプロセスの不規則性を否定的に識別することにより,プロセス制御ノードおよび/またはプロセス制御システムの整合性における低下を識別する」との記載が存在するものの,「否定的に識別する」とは,どのような処理であるか,本願明細書の発明の詳細な説明においては,何ら,説明されておらず,どのような契機で,「否定的に識別すること」が,行われるかについても,何ら,説明されていないので,どのようにして,補正事項1に係る構成を実現しているのか,本願明細書の発明の詳細な説明,及び,図面に開示の事項からは,不明である。 よって,本願明細書の発明の詳細な説明は,その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載したものでない。 ウ.以上,ア.,及び,イ.において検討したとおりであるから,本願は,特許法36条4項1号及び6項2号に規定する要件を満たしていないので,補正後の請求項に記載されている事項により特定される発明は,特許出願の際,独立して特許を受けることができない。 3.補正却下むすび 以上,上記「(1)新規事項」において検討したとおり,本件手続補正は,特許法17条の2第3項の規定に違反するので,同法159条第1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 そして,上記「(2)独立特許要件」において検討したとおり,本件手続補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 よって,補正却下の決定の結論のとおり決定する。 第3.当審拒絶理由 当審による令和3年2月12日付けの拒絶理由(以下,これを「当審拒絶理由」という)は,概略,次のとおりである。 「1.36条6項2号について (1)本願の請求項1に, 「前記警告では,前記プロセス制御システムがいつ変更されようとしたかを示す」, と記載されているが,上記引用箇所以前の本願の請求項1の記載内容からは, 「第1のファイル」と,「第2のファイル」とを「照合」して,「一致しない場合に」,「警告」を出すことが開示されているにとどまり,そのような構成によって,どのようにして,「プロセス制御システムがいつ変更されようとしたかを示す」ことが可能となるのか,本願の請求項1に記載の内容,及び,本願の他の請求項に記載の内容を検討しても,不明である。 (2)本願の請求項2,及び,本願の請求項3は,本願の請求項1を引用するものであるから,上記(1)で指摘した明確でない構成を内包し,かつ,本願の請求項2,及び,本願の請求項3に記載の内容を検討しても,上記(1)において指摘した明確でない構成が,明確になるものではない。 (3)本願の請求項4,本願の請求項9,本願の請求項13,及び,本願の請求項15にも,本願の請求項1と同じく, 「前記警告では,前記プロセス制御システムがいつ変更されようとしたかを示す」, という記載が存在し,本願の請求項4,本願の請求項9,本願の請求項13,及び,本願の請求項15に記載の内容を検討しても,どのように実現しているのか,不明である。 (4)本願の請求項5〜本願の請求項8は,本願の請求項4を引用し,本願の請求項10〜本願の請求項12は,本願の請求項9を直接・間接に引用し,本願の請求項14は,本願の請求項13を引用するものであるから,上記(3)で指摘した明確でない構成を内包し,かつ,本願の請求項5〜本願の請求項8,本願の請求項10〜本願の請求項12,及び,本願の請求項14に記載の内容を検討しても,上記(3)において指摘した明確でない構成が,明確になるものではない。 (5)以上,上記(1)〜上記(4)に検討したとおりであるから,本願の請求項1〜本願の請求項15に記載の発明は,明確ではない。 2.36条4項1号について (1)本願の請求項1,本願の請求項4,本願の請求項9,本願の請求項13,及び,本願の請求項15に記載の, 「前記警告では,前記プロセス制御システムがいつ変更されようとしたかを示す」, に関して,本願明細書の発明の詳細な説明には,その段落【0011】に,a.「警告は,プロセス制御システムのプロバイダが,顧客が,例えば,有料の機能にアクセスするために,プロセス制御システムをいつ変更しようとしたかを識別できるようにし得る」, という記載が存在するものの,本願明細書の発明の詳細な説明に記載の内容,及び,図面に開示の事項からは,どのようにして「警告」が,「プロバイダ」が「プロセス制御システムをいつ変更しようとしたかを識別できるように」しているのか,不明である。 よって,本願明細書の発明の詳細な説明は,通商産業省令(経済産業省令)で定めるところにより,その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載したものでない。 3.29条2項について 本願の請求項各項に記載の発明は,上記「1.36条6項2号について」において検討したとおり明確ではないが, 本願の請求項1に係る発明は,その特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献一覧 1.特開2000−163374号公報 2.特開2011−237846号公報 3.特開2011−197714号公報」 第4.当審拒絶理由についての判断 1.36条6項2号及び36条4項1号について (1)当審拒絶理由における「1.36条6項2号について」の(1),(2)について 上記「第2.令和3年5月14日付けの手続補正の却下の決定」のとおり,本件手続補正は却下されているので, 本願の請求項1に, 「前記警告では,前記プロセス制御システムがいつ変更されようとしたかを示す」, と記載されているが,当審拒絶理由において指摘したとおり,上記引用箇所以前の本願の請求項1の記載内容からは, 「第1のファイル」と,「第2のファイル」とを「照合」して,「一致しない場合に」,「警告」を出すことが開示されているにとどまり,そのような構成によって,どのようにして,「プロセス制御システムがいつ変更されようとしたかを示す」ことが可能となるのか,本願の請求項1に記載の内容,及び,本願の他の請求項に記載の内容を検討しても,依然として不明であり,本願の請求項1を引用する,本願の請求項2,及び,本願の請求項3に係る発明も,上記指摘の構成を含むので,依然として,当審拒絶理由に指摘したとおり,不明である。 (2)当審拒絶理由における「1.36条6項2号について」の(3),(4)について 本願の請求項4,本願の請求項9,本願の請求項13,及び,本願の請求項15に記載の, 「前記警告では,前記プロセス制御システムがいつ変更されようとしたかを示す」, についても,当審拒絶理由において指摘したとおり,本願の請求項4,本願の請求項9,本願の請求項13,及び,本願の請求項15に記載の内容を検討しても,どのように実現しているのか,依然として不明であり,本願の請求項4を引用する,本願の請求項5〜本願の請求項8に係る発明,本願の請求項9を直接・間接に引用する,本願の請求項10〜本願の請求項12に係る発明,及び,本願の請求項13を引用する,本願の請求項14に係る発明は,上記指摘の構成を含むので,依然として,当審拒絶理由に指摘したとおり,不明である。 (3)以上,上記(1),及び,上記(2)において検討したとおりであるから,本願の請求項1〜本願の請求項14に係る発明は,依然として,明確ではない。 (4)当審拒絶理由における「2.36条4項1号について」に関して 本願の請求項1,本願の請求項4,本願の請求項9,本願の請求項13,及び,本願の請求項15に記載された, 「前記警告では,前記プロセス制御システムがいつ変更されようとしたかを示す」, に関して, 当審拒絶理由に指摘したとおり,本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0011】に, 「警告は,プロセス制御システムのプロバイダが,顧客が,例えば,有料の機能にアクセスするために,プロセス制御システムをいつ変更しようとしたかを識別できるようにし得る」, という記載が存在するものの,本願明細書の発明の詳細な説明に記載の内容,及び,図面に開示の事項からは,どのようにして「警告」が,「プロバイダ」が「プロセス制御システムをいつ変更しようとしたかを識別できるように」しているのか,不明である。 よって,本願明細書の発明の詳細な説明は,その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載したものでない。 なお,審判請求人による,令和3年5月14日付けの意見書による主張は,上記「第2.令和3年5月14日付けの手続補正の却下の決定」において却下された,本件手続補正の内容に基づくものであるから,採用することはできない。 2.29条2項について (1)本願発明について 令和3年5月14日付けの手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,これを「本願発明」という)は,令和2年10月7日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された,上記「第2.令和3年5月14日付けの手続補正の却下の決定」の「1.補正の内容」において,補正前の請求項1として引用した,次のとおりのものである。 「プロセス制御システムの整合性の低下を識別するための方法であって, 前記プロセス制御システムのファイルシステムに格納された第1のファイルを識別することと, ファイルを記憶する領域であるシステムプロファイルに格納された第2のファイルと前記第1のファイルとを照合することと, 前記第1のファイルと前記第2のファイルとが一致しない場合に,前記プロセス制御システムの整合性の低下を識別することと, 前記整合性の前記低下が識別されると,プロセス制御システムプロバイダに警告することと, を含み, 前記プロセス制御システムプロバイダは,前記プロセス制御システムをオペレータに供給し, 前記警告では,前記プロセス制御システムがいつ変更されようとしたかを示す, 方法。」 (2)引用文献1に記載の事項及び引用文献1に記載の発明 ア.引用文献1に記載の事項 (ア)当審拒絶理由に引用した,本願の第1国出願前に既に公知である,特開2000−163374号公報(2000年6月16日公開,以下,これを「引用文献1」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。 A.「【0013】イベントをログファイルに記録する上述の動作はログ管理システムの主管理手段と副管理手段によって行われる。主管理手段はコンピュータシステムの操作および/または動作(イベント)を記録し,主ログファイルとして保存する。また,副管理手段はコンピュータシステムの操作および/または動作を記録し,副ログファイルとして保存するとともに,主ログファイルと副ログファイルとを照合し記録データが一致しているか否かを判定する。」 B.「【0024】次に,本発明のログ管理システムにおけるデータ処理の過程についてまとめの説明を行う。本発明のログ管理システムにおけるデータ処理の過程をフロー図として図4に示す。まず,図4のステップS41において,コンピュータシステムを立ち上げOSを起動する。次に,ステップS42において,本発明の管理システム(主管理手段,副管理手段)を立ち上げる。次に,ステップS43において,主ログファイルと副ログファイルの照合が行われる。」 C.「【0025】主ログファイルと副ログファイルのデータが一致していない場合にはステップS48に進み,管理システムによってエラー/警告表示が行われ,作業は強制終了とする。一方,主ログファイルと副ログファイルのデータが一致している場合にはステップS44に進み,アプリケションを実行する。アプリケションの動作中は管理システムによってログファイルに記録が行われる。次に,ステップS45において,アプリケションを終了する。」 D.「【0026】次に,ステップS46(ステップS43と同様)において,主ログファイルと副ログファイルの照合が行われる。ステップS46において,主ログファイルと副ログファイルの照合が行われ,主ログファイルと副ログファイルのデータが一致していない場合にはステップS48に進み,管理システムによってエラー/警告表示が行われ,作業は強制終了とする。(以下略)」 (イ)当審拒絶理由に引用した,本願の第1国出願前に既に公知である,特開2011−237846号公報(2011年11月24日公開,以下,これを「引用文献2」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。 E.「【0040】 0701において,ユーザ端末0202を介してのユーザによる操作から,データの編集開始指示を受付ける。0702において,図6のように処理ノード0212から取得したデータの内容を比較した結果,全ての処理ノード0212からのデータの内容が一致している場合は,0703において,事前に定義されている代表処理ノード0212もしくは稼働中の処理ノードの中で事前に指定された条件に合致する1つの処理ノード0212からの取得したデータを編集対象となるデータと決定する。0702において,図6のように処理ノード0212から取得したデータの内容を比較した結果,少なくとも1つの処理ノード0212からのデータの内容に差異がある場合は,0704において,ユーザが選択した処理ノード0212からのデータを編集対象となるデータと決定する(ここではユーザにデータ取得元の処理ノードを選択させる画面表示を行う)。0705において,編集ツールを起動し,0703または0704にて決定したデータを開く。ここで編集ツールは編集対象となるデータの種別毎に事前に規定しておくものとする。例えばテキストファイル等であれば,テキストエディタ等である。0706において,0705にて起動した編集ツールの終了を監視し,終了を検出していない場合は,0707において処理ノード0212側で該当データの更新を検出し,更新後のデータが保守ノード0211に送信された場合は,0708において,ユーザに更新発生を通知し,前記処理ノード0212側で更新後のデータに差替えるか否かの選択を提示し,ユーザの選択に従ってデータの差替えの実行もしくは非実行を行う。その後,0706の処理に戻る。0707において,処理ノード0212側で該当データの更新を検出していない場合は0706の処理に戻る。0706において,0705にて起動した編集ツールの終了を監視し,終了を検出した場合は,0709において,編集済みデータの上書き更新先とする処理ノード0212をユーザに選択させる。ここでは,全処理ノード0212に一括して上書き更新を実施するか,1つの処理ノードを個別に指定して上書き更新を実施するか,を選択させる。ユーザが全処理ノードへの上書き更新を選択する場合,0710において,該当データのプロファイル情報を参照する。0711において,該当データのプロファイル情報の「内容一致」の項が,処理ノード0212間で内容一致する必要がある(YES)と記載されている場合は,0712において,全処理ノード0212に対してユーザによる編集済みデータの上書き更新を実施する。0711において,該当データのプロファイル情報の「内容一致」の項が処理ノード0212間で内容一致してはいけない(NO)と記載されている場合は,0713において,ユーザに対して警告(全処理ノードでの内容一致は不可)を表示し,上書き更新は実施しない。0709において,ユーザが1つの処理ノードを個別に指定した上書き更新を選択する場合は,0714において,該当データのプロファイル情報を参照する。0715において,該当データのプロファイル情報の「内容一致」の項が処理ノード0212 間で内容一致する必要がある(YES)と記載されている場合は,0716において,ユーザに対して警告(全処理ノードで内容一致することが必要)を表示し,上書き更新は実施しない。0715において,該当データのプロファイル情報の「内容一致」の項が処理ノード0212間で内容一致してはいけない(NO)と記載されている場合は,0717において,個別の処理ノード0212に対して,ユーザによる編集済みデータの上書き更新を実施する。0718において,個々の処理ノード0212から上書き更新の実行結果を受信する。上書き更新を実施した全ての処理ノード0212で成功した場合,0719において,上書き更新を実施した全ての処理ノード0212に対して終了指示を送信し,終了する。0718において,上書き更新を実施した処理ノード0212のうち,少なくとも1つの処理ノード0212にて失敗した場合,0720において,上書き更新を実施した全ての処理ノード0212に対してデータの元戻し指示を送信し,終了する。」 (ウ)当審拒絶理由において,周知技術を示す文献として引用した,本願の第1国出願前に既に公知である,特開2011−197714号公報(2011年10月6日公開,以下,これを「周知文献」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。 F.「【請求項2】 制御対象のプラントの複数のプロセスを,前記プラント側から入力される各種の状態信号や状態量に基づき,予め設定した制御目標値を満足すべく前記プロセス毎に制御するプロセスコントローラを備えた監視制御システムと, 前記プロセスを制御するための,前記プラント側から入力される各種の状態信号や状態量,前記プロセスへの制御目標値,及び制御量を含むプロセスデータを蓄積するデータ保存部と, このデータ保存部に蓄積されたプロセスデータから,前記プロセスの状態量に応じて前記制御目標値を満足する制御量及び制御結果に関するデータを用い,これらデータ相互の関係から前記複数のプロセスから成るプラント全体を制御する制御ノウハウに相当する好適な制御ロジックを作成する制御ロジック作成装置と, 前記プロセスコントローラを模擬する制御シミュレーション機能,及び制御対象プロセスを模擬するプロセスシミュレーション機能を有し,前記作成された制御ロジックをシミュレートするシミュレータとを備え, このシミュレータにより検証された制御ロジックが前記監視制御システムの対応するプロセスコントローラの制御ロジックとして適用される ことを特徴とするプロセス制御システム。」 イ.引用文献1に記載の発明 上記Aの「主管理手段はコンピュータシステムの操作および/または動作(イベント)を記録し,主ログファイルとして保存する。また,副管理手段はコンピュータシステムの操作および/または動作を記録し,副ログファイルとして保存するとともに,主ログファイルと副ログファイルとを照合し記録データが一致しているか否かを判定する」という記載,上記Bの「ステップS43において,主ログファイルと副ログファイルの照合が行われる」という記載,上記Cの「主ログファイルと副ログファイルのデータが一致していない場合にはステップS48に進み,管理システムによってエラー/警告表示が行われ,作業は強制終了とする」という記載,同じく,上記Cの「ステップS44に進み,アプリケションを実行する。アプリケションの動作中は管理システムによってログファイルに記録が行われる。次に,ステップS45において,アプリケションを終了する」という記載,上記Dの「ステップS46(ステップS43と同様)において,主ログファイルと副ログファイルの照合が行われる。ステップS46において,主ログファイルと副ログファイルの照合が行われ,主ログファイルと副ログファイルのデータが一致していない場合にはステップS48に進み,管理システムによってエラー/警告表示が行われ」という記載から,引用文献1には,次の発明(以下,これを「引用発明」という。)が記載されているものと認める。 「副管理手段は,主管理手段に保存された,主ログファイルと,前記副管理手段に保存された副ログファイルとを比較し, 一致しない場合に,警告表示を行う,方法。」 (2)本願発明と引用発明との対比及び判断 ア.対比 (ア)引用発明における「主ログファイル」と,「副ログファイル」が,それぞれ, 本願発明における「第1のファイル」と,「第2のファイル」に相当し, (イ)引用発明において,「主ログファイル」は,「主管理手段」に「保存」され,「副ログファイル」は,「副管理手段」に「保存」されているので, 引用発明における「主管理手段」の「主ログファイル」を「保存」する「主管理手段」における“保存部”が, 本願発明における「ファイルシステム」に相当し, (ウ)引用発明において,「主ログファイル」と,「副ログファイル」とを「比較」するためには,まず,対象となる「主ログファイル」を“識別する”ことは,明らかであるから, 引用発明において,“対象となる「主ログファイル」を識別する”することが, 本願発明における「ファイルシステムに格納された第1のファイルを識別する」ことに相当する。 (エ)引用発明における「副管理手段」の「副ログファイル」を「保存」する「主管理手段」における“保存部”と, 本願発明における「ファイルを記憶する領域であるシステムプロファイル」とは, “第2のファイルを格納する格納部”である点で共通し, (オ)引用発明における「主ログファイルと,前記副管理手段に保存された副ログファイルとを比較」することと, 本願発明における「ファイルを記憶する領域であるシステムプロファイルに格納された第2のファイルと前記第1のファイルとを照合すること」とは,上記(ア)をふまえれば, “第2のファイルを格納する格納部に格納された第2のファイルと前記第1のファイルとを照合すること”である点で共通する。 (カ)引用発明において,「主ログファイル」と,「副ログファイル」を比較し,「一致しない」と判断することは,引用発明における「ログ管理システム」の監視対象である「システム」における「ログファイル」の整合性が低下していることを識別していることに他ならず, 引用発明における「方法」は,“システムのログファイルの整合性の低下を識別する方法”といい得るものであり,「ログ」が,“システムの状態を表すもの”であることを踏まえれば,“システムのログファイルの整合性の低下を識別する”ことで,“システムの整合性の低下を識別し”得ることは明らかであるから, 引用発明における「主管理手段に保存された主ログファイルと,前記副管理手段に保存された副ログファイルとを比較し,一致しない場合」と, 本願発明における「前記第1のファイルと前記第2のファイルとが一致しない場合に,前記プロセス制御システムの整合性の低下を識別すること」とは, “第1のファイルと第2のファイルとが一致しない場合に,システムの整合性の低下を識別すること”である点で共通し, 加えて,「主ログファイルと,前記副管理手段に保存された副ログファイルとを比較し,一致しない場合に,警告表示を行う」ということは,上記において検討した事項を踏まえれば,“システムの整合性の不一致が発生していること警告表示を行っている”ことに他ならないので, 引用発明における“主ログファイルと,前記副管理手段に保存された副ログファイルとを比較し,一致しない場合に,警告表示を行う,方法”と, 本願発明における「プロセス制御システムの整合性の低下を識別するための方法」とは, “システムの整合性の低下を識別するための方法”である点で共通する。 (キ)そして,引用発明における「警告表示」を受け取る対象と, 本願発明における「プロセス制御システムプロバイダ」とは, 「警告受信者」である点で共通し, 引用発明において,「主ログファイル」と,「副ログファイル」とが「一致しない」ことは,即ち,“システムの整合性の低下”を示すことに他ならないので, 引用発明における「一致しない場合に,警告表示を行う」ことと, 本願発明における「整合性の低下が識別されると,プロセス制御システムプロバイダに警告する」こととは, “整合性の低下が識別されると,警告受信者に警告する”点で共通する。 よって,以上,(ア)〜(キ)において検討した事項から,本願発明と,引用発明との,一致点,及び,相違点は,つぎのとおりである。 [一致点] システムの整合性の低下を識別するための方法であって, ファイルシステムに格納された第1のファイルを識別することと, 第2のファイルを格納する格納部に格納された第2のファイルと前記第1のファイルとを照合することと, 前記第1のファイルと前記第2のファイルとが一致しない場合に,前記システムの整合性の低下を識別することと, 前記整合性の低下が識別されると,警告受信者に警告することと, を含む,方法。 [相違点1] “システム”に関して, 本願発明においては,「プロセス制御システム」であるのに対して, 引用発明においては,「ログ管理システム」の対象について,特に言及がない点。 [相違点2] “第2のファイル”に関して, 本願発明においては,「ファイルを記憶する領域であるシステムプロファイルに格納され」るものであるのに対して, 引用文献においては「副管理手段」に保存されている点。 [相違点3] “警告受信者”に関して, 本願発明においては,「プロセス制御システムプロバイダ」であるのに対して, 引用発明においては,「警告表示」を“誰”,或いは,“何”に対して行うのか,特に言及されていない点。 [相違点4] 本願発明においては,「前記プロセス制御プロバイダは,前記プロセス制御システムをオペレータに提供する」ものであるのに対して, 引用発明においては,そのような構成についての言及がない点。 [相違点5] 本願発明においては,「警告では,前記プロセス制御システムがいつ変更されようとしたかを示す」ものであるのに対して, 引用発明においては,そのような言及がない点。 イ.相違点についての判断 (ア)[相違点1]および[相違点3]について 上記Fに引用した周知文献の記載にもあるとおり,「プロセス制御システム」を監視対象とすること自体は,当業者には周知の技術事項である。 引用発明においても,監視対象を「プロセス制御システム」とすることは,当業者の選択事項に過ぎない。 そして,引用発明において,監視対象を「プロセス制御システム」とした場合,警告の通知対象として,当該「プロセス制御システム」の“オペレータ”,或いは,「プロバイダ」とすることも,当業者の選択事項である。 よって[相違点1],及び,[相違点3]は,格別のものではない。 (本願発明においては,「プロセス制御システム」に関係する特徴的な構成は,存在しない。) (イ)[相違点2]について 上記Eに引用した引用文献2に, 「該当データのプロファイル情報の「内容一致」の項が処理ノード0212間で内容一致してはいけない(NO)と記載されている場合は,0713において,ユーザに対して警告(全処理ノードでの内容一致は不可)を表示」, と記載されているように,「プロファイル」の不一致によって「警告を表示」するようなことは,当業者に周知の技術事項であり,引用発明においても監視の対象を「ログ」ではなく,「プロファイル」とすることは,当業者が要求される管理内容に応じて,適宜選択し得る事項である。 よって[相違点2]は,格別のものではない。 (ウ)[相違点4]について 所定のサービスの提供者である「プロバイダ」から,当該サービスの受給者である「オペレータ」が,当該所定のサービスの提供を受ける態様を採用することは,引用文献を引くまでもなく,本願の第1国出願前に,当業者と言わず,広く一般に知られた事項である。 したがって,引用発明においても,「ログ」を格納する対象として,「プロバイダ」が提供する「サービス」とすること,及び,提供される「サービス」として,「プロセス制御システム」とすることは,当業者が適宜採用し得る事項である。 よって[相違点4]は,格別のものではない。 (エ)[相違点5]について [相違点5]については,上記「2.36条4項1号について」において指摘したとおり,どのように実現しているか,具体的な記載が存在しない。 したがって,引用発明との対比が困難ではあるが,その字句どおりのものとして検討するに, 引用発明においても,「主ログファイル」と,「副ログファイル」との比較を,時系列的に複数行う場合に,どのタイミングで,当該「主ログファイル」と,「副ログファイル」とが不一致になったか判断することが可能であることは明らかであり, 本願発明の構成からでは,「いつ変更されたか」は確認できるが,「いつ変更されようとしたか」までは確認できるとは認められない。 したがって,表現上の相違はあるものの,引用発明においても,[相違点5]に相当する機能を実現し得ると言える。 よって,[相違点5]は,格別のものではない。 (オ)以上,上記(ア)〜上記(エ)に検討したとおり,[相違点1]〜[相違点5]は,格別のものではなく,本願発明によってもたらされる効果も,当業者であれば当然に予測可能なものに過ぎず格別なものとは認められない。 よって,本願発明は,引用発明及び周知文献に記載の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第5.むすび 以上,上記「第4.当審拒絶理由についての判断」の「1.36条6項2号及び36条4項1号について」において検討したとおり,本願は,発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしておらず,特許請求の範囲の記載が同条6項2号に規定する要件を満たしていないから,拒絶すべきものである。 そして,上記「第4.当審拒絶理由についての判断」の「2.29条2項について」において検討したとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは,この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は,その日数を附加します。)以内に,特許庁長官を被告として,提起することができます。 審判長 田中 秀人 出訴期間として在外者に対し90日を附加する。 |
審理終結日 | 2021-09-22 |
結審通知日 | 2021-09-28 |
審決日 | 2021-10-12 |
出願番号 | P2013-102709 |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(G05B)
P 1 8・ 121- WZ (G05B) P 1 8・ 536- WZ (G05B) P 1 8・ 575- WZ (G05B) P 1 8・ 561- WZ (G05B) |
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
田中 秀人 |
特許庁審判官 |
石井 茂和 山崎 慎一 |
発明の名称 | プロセス制御システムの整合性低下を識別する方法及び装置、有形的マシン可読媒体 |
代理人 | 中島 淳 |
代理人 | 加藤 和詳 |