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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1382564
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-07-26 
確定日 2022-03-16 
事件の表示 特願2017− 93751「無カプシドAAVベクター、組成物ならびにベクター製造および遺伝子運搬のための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月26日出願公開、特開2017−192385〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年 3月12日(パリ条約による優先権主張 2011年 3月11日 (US)アメリカ合衆国、2011年 3月12日 (EP)欧州特許庁)を国際出願日とする特願2013−557138号の一部を平成29年 5月10日に新たに特許出願されたものであって、平成31年 3月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、令和 1年 7月26日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。その後の当審における手続の経緯は、以下のとおりである。
令和 1年 9月18日付け 審判請求書の手続補正書
令和 2年12月 8日付け 拒絶理由通知書
令和 3年 6月15日付け 意見書、手続補正書

第2 本願発明
本願の請求項1〜7に係る発明は、令和 3年 6月15日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜7に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は、次のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。

「【請求項1】
対象者の細胞、器官または組織において外因性DNAの発現を介在する、関心のあるヌクレオチド配列を運搬するための方法において使用するための、単離された線状核酸分子であって、
該単離された線状核酸分子は、第1アデノ随伴ウイルス(AAV)逆方向末端反復(ITR)、関心のあるヌクレオチド配列および第2 AAV ITRからなり、
第1アデノ随伴ウイルス(AAV)逆方向末端反復(ITR)、関心のあるヌクレオチド配列および第2 AAV ITRをこの順序で含み、AAVカプシドタンパク質コード配列を欠き、及び
該核酸分子は原核生物型のDNAメチル化を欠く、
単離された線状核酸分子。」

第3 当審で通知した拒絶の理由
令和 2年12月 8日付けで当審が通知した拒絶理由の概要は、請求項1〜6に係る発明は、本願優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、また、当該引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

第4 引用文献の記載事項及び引用発明の認定
当審の拒絶理由で引用文献1として引用した、本願優先日前に頒布された刊行物である特表2008−503590号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は合議体による。)。

ア.「【請求項76】
人工アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって、5−プライムから3−プライムの方向に向かって:
5プライムAAV−ITR;
生物学上活性な因子をコードする単鎖DNA;
内部AAV−ITR;
生物学上活性な因子をコードする単鎖DNAの逆相補体;及び
3プライムAAV−ITR
を含むベクター。
・・・・・・・・・・・・
【請求項81】
生物学上活性な因子をコードする直鎖状二重鎖DNAのデリバリーのための人工アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって、各鎖の5−プライムエンド及び3−プライムエンドにAAV−ITRsを有する直鎖状二重鎖DNAを含む、人工AAVベクター。」(【請求項76】〜【請求項81】)

イ.「【請求項86】
人工アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを作成するための方法であって、
5−プライムから3−プライム方向に向かって、5−プライムAAVインバーテッドターミナルリピート(AAV−ITR)、生物学上活性な因子をコードするDNA、及び3−プライムAAV−ITRをDNAプラスミド中にDNAクローニング方法により集合させ;
インビトロ転写方法を用いてDNAプラスミドから単鎖DNAの単鎖RNA転写物を生成させ;
逆転写反応方法を用いて逆転写によりRNA転写物から単鎖DNAを生成させ;
RNase酵素を用いたRNAの消化により反応産物からRNA転写物を取り出すこと
を含む方法。
【請求項87】
ゲル精製、カラム親和法、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるDNA精製方法により反応産物から単鎖DNA産物を精製することをさらに含む、請求項86記載の方法。
【請求項88】
人工アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを作成するための方法であって、
5−プライムから3−プライム方向に向かって、5−プライムAAVインバーテッドターミナルリピート(AAV−ITR)、生物学上活性な因子をコードするDNA、及び3−プライムAAV−ITRをDNAプラスミド中にDNAクローニング方法により集合させ;
5−プライムAAV−ITRのすぐ5−プライムにてプラスミド配列中の公知の一カ所にてDNAを切断する制限酵素によりプラスミドを消化することにより環状プラスミドを直鎖状化し;
直鎖状化されたプラスミドの各鎖の5−プライムエンドに親和性タグを化学的にコンジュゲートし;
3−プライムAAV−ITRのすぐ3−プライムにてプラスミド配列中の公知の一カ所にてDNAを切断する制限酵素によりDNA配列を切断するが、制限酵素が異なるサイズの2つの直鎖状二重鎖DNAセグメントをもたらすようにし;
サイズによりサイズ分離方法を用いてDNA分子の集団を分離して二重鎖DNAを回収し;そして
DNAを融解することにより、その2つの相補鎖を2つの単鎖に分離し、そして混合物をタグのための親和性カラムに通すが、タグを付加された鎖がカラム上に捕捉されて、一方タグのない単鎖は所望の最終産物としてフロースルーするようにすること
を含む方法。」(【請求項86】〜【請求項88】)

ウ.「【0022】
遺伝子又は遺伝子抑圧因子を患者の脳へデリバリーするための人工AAVベクターの使用は、プラスミドDNAをデリバリーすること、又は実際のAAVウイルス粒子をデリバリーすることを超えた多数の利点を有し得る。プラスミドDNAよりも、AAVベクターのDNAを脳へデリバリーする一つの可能な利点は、霊長類の脳内でのAAVによりデリバリーされた遺伝子構築物の発現が少なくとも3から4年は継続することが知られていることであり、一方、プラスミドからの遺伝子構築物の発現は一時的である。AAVウイルス粒子のデリバリーを超えた合成AAVベクターのDNAをデリバリーする利点は、いくつかあり得る。第1に、まさにDNAのデリバリーはAAVウイルスキャプシッドの患者脳へのデリバリーを回避できる。AAVウイルスキャプシッド蛋白質が免疫応答をおそらくは誘導するから、ウイルス粒子をデリバリーする必要が無しで済むということが、治療に対する逆免疫反応の危険のほとんどを回避することができる。さらに、DNAのデリバリーは、AAVキャプシッドを作成してDNAをウイルスキャプシッドにパッケージするための操作されて且つ培養された細胞の使用を必要とする難しい製造工程である、完全なAAV粒子を生産する必要性を回避できる。最後に、AAV粒子よりもDNAをデリバリーすることは、約4,700塩基のDNAという、AAVキャプシッド内にパッケージできるDNAの長さに対する自然の制限を回避できる。このサイズの制限は遺伝子抑圧のための構築物のデリバリーに関する問題ではないが(例えば、小干渉RNAをコードするDNA)、欠落した遺伝子の配列が4,700塩基を超えるなら、それは欠落した遺伝子のデリバリーの制限になり得て、AAVの遺伝子治療のためのベクターとしての使用に関する制限として注目された。」(【0022】)

エ.「【0049】
簡単に言えば、本発明において開示されて使用された組成物は、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター(単鎖また二重鎖ベクター;好ましくは単鎖ベクター)であって、生物学上活性な因子をコードするDNA;及び血液−脳バリヤーを通して少なくともDNAをデリバリーする成分(例えば、本明細書にて記載された受容体−特異的リポソーム)を含む。いくつかの態様において、人工AAVベクターは、5プライムから3プライム方向に、5プライムAAVインバーテッドターミナルリピート(AAV−ITR);生物学上活性な因子をコードするDNA;及び3プライムAAV−ITRを含む。別の態様において、人工AAVベクターは、5プライムから3プライム方向に、5プライムAAV−ITR;内部AAV−ITR;生物学上活性な因子をコードする単鎖DNAの逆相補鎖;及び3プライムAAV−ITRを含む。また別の態様において、人工AAVベクターは、各鎖の5プライム及び3プライムエンドにAAV−ITRを有する直鎖状二重鎖DNAを含む。好ましくは、人工AAVベクターは、キャプシッドをコードするためのコーディング配列を含まず、即ち、好ましいベクターはウイルスキャプシッド構造内に封入されない。人工AAVベクターを作成する方法も開示される。
【0050】
DNAが小干渉RNAをコードする態様に関して、上記組成物は、とりわけ、病原性蛋白質により誘導される様々な神経変性障害を治療するのに有用であり得る。DNAが蛋白質をコードする態様に関して、上記組成物は、とりわけ、蛋白質の不在により誘導される様々な神経変性障害を治療するのに有用であり得る。」(【0049】〜【0050】)

オ.「【0061】・・・・・・・・・・・・
小干渉RNA(siRNA)
以前に示されたとおり、本明細書に記載される小干渉RNA(又はsiRNA)は、15から30ヌクレオチドの長さの二重鎖RNAのセグメントである。それは、RNA干渉として知られる細胞反応を誘導するために使用される。RNA干渉においては、二重鎖RNAをダイサーと呼ばれる細胞内酵素で消化し、siRNA二重鎖を生成する。当該siRNA二重鎖は別の細胞内酵素複合体に結合して、それにより如何なるmRNA分子がsiRNA配列に相同(又は相補)なものは何でも標的化するように活性化される。活性化された酵素複合体は標的化mRNAを分割し、それを破壊し、そしてその相当する蛋白質生成物の合成を指示するために使用されることを阻止する。最近の証拠は、RNA干渉がウイルス感染に対する防御(多くのウイルスが外来RNAを細胞へ導入する)のためのみならず、極めて基礎的なレベルにおける遺伝子制御のためでもある、古来の内在的機構であることを示唆する。RNA干渉は、植物、昆虫、下等動物、及び哺乳類において起こることが示され、そして他の遺伝子サイレンシング技術、例えばアンチセンス又はリボザイムよりも劇的に効率よいことが見いだされた。バイオテクノロジーを用いれば、siRNAは、細胞へ、侵入する二重鎖RNAウイルスからダイサーにより生産されるはずのものと類似のRNAの短い二重鎖分子を導入する(又は細胞が生産するように誘導する)ことを含む。人工の誘導されたRNA干渉プロセスが、次にその点から続く。
【0062】
小干渉RNAを患者の脳にデリバリーするために、好ましい方法は、siRNA分子自体よりもsiRNAをコードするDNAを脳の細胞内へ導入することになる。特定の生物学上活性なsiRNAをコードするDNA配列は、(a)標的mRNAの小さくて接近可能な部分に関する配列(公的なヒトゲノムデータベース内で利用可能;また、Chi et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,100:6343−6346(2003)およびrockefeller.edu/labheads/tuschl/sirna.html及びdarmacon dot comにてワールドワイドウエブも参照)、及び(b)DNAが細胞により転写されたときに対応するRNA配列の生産をもたらすDNAを如何にして特定するかについてのよく知られた科学上の規則を知際に、特定され得る。
【0063】
DNA配列が一度特定されたなら、実験室の供給者からオーダーされた合成分子から実験室内で構築でき、そしてDNAの細胞へのデリバリーのためのいくつかの別の「ベクター」の一つに標準生物学手法を用いて挿入することができる。患者の脳のニューロンにデリバリーされたなら、それらのニューロン自体が、挿入されたDNAをRNAに転写することにより、治療用のsiRNAになるRNAを生産することになる。結果は、細胞自身が標的化遺伝子を沈黙化するsiRNAを生産する、ということになる。結果は、細胞により生産された標的化蛋白質の量の低下になる。
【0064】
本発明によれば、冒された細胞内で生産された特定のmRNAに対する小干渉RNAがニューロン内の疾患に関連する蛋白質の生産を阻止する。本発明によれば、標的細胞に小干渉RNAをデリバリーするようにデザインされた特別にあつらえられたベクターの使用である。デザインされた小干渉RNAの成功は、神経変性疾患を治療するための脳の標的化された細胞へのそれらのデリバリーの成功に基づいて予測される。
【0065】
小干渉RNAはヒト細胞へ特定のmRNA分子を標的化可能であることが示された。ヒト細胞をトランスフェクトし、そして標的RNAの分割を誘導してコードされた蛋白質の生産を妨害する小干渉RNAを生産するための、小干渉RNAを構築することができる。
【0066】
本発明の小干渉RNAベクターは、神経病原蛋白質自体の生産を抑圧するか、又は神経病原蛋白質の生産又はプロセシングに関与する蛋白質の生産を抑圧することにより、病原性蛋白質の生産を阻止する。治療剤の患者への繰り返しの投与は、患者の生活の質を改善するために十分多い数のニューロンの変化を成し遂げることが必要かもしれない。個々のニューロン内では、しかしながら、治療上の利益を提供するに十分な変化は長年にわたる。神経変性疾患、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、又は脊髄小脳変形症1型に冒された多くの患者の絶望的な状況は、治療からの利益が治療のデリバリーと投与の危険よりも勝るような強い見込みを提供する他の治療剤及び投与の経路により神経病原性蛋白質の生産のいくらかの低下を成し遂げることは可能かもしれないが、ニューロンのインビボにおける直接のトランスフェクションを含む成功した治療法の開発は、小干渉RNAベクターの標的細胞へのデリバリーに基づいた最良のアプローチを提供するかもしれない。
【0067】
siRNAをコードする例示のDNA配列を表1に掲載する。
・・・・・・・・・・・・
【0069】
細胞培養実験により、上記配列の各々がヒト細胞により発現される対応遺伝子のmRNAのレベルを抑圧することにおいて有効であるsiRNAをコードすることが確認された。
重要なことは、本明細書に例示された抗−アタキシン−1小干渉RNA、抗−BACE1小干渉RNA、及び抗−ハンチンチン小干渉RNA、並びに神経変性疾患を治療するための他の小干渉RNAは、発明の態様の当然のいくつかの例(just but some examples)である。神経科学において経験をした者には知られている、神経外科手法を動物と共に用いる実験は、候補の小干渉RNAを同定するために使用することができる。mRNA及びこれらの経験的な方法により同定された対応する小干渉RNAの標的部位は、主題の神経変性疾患の患者に投与されたときに多大な治療効果を導くものになる。
【0070】
本発明の核酸分子に関して、小干渉RNAは、実際の蛋白質コーディング配列内か又は5プライム非翻訳領域あるいは3プライム非翻訳領域内の何れかにおいて、標的蛋白質の生産をコードするmRNA配列内の相補配列を標的とする。ハイブリダイゼーションの後に、siRNAによりガイドされた宿主の酵素がmRNA配列を分割することができる。パーフェクトか又は高度の相補性が、小干渉RNAが有効になるのには必要である。相補性パーセントは、第2の核酸配列と水素結合(例えば、ワトソン−クリック塩基対)を形成できる核酸分子内の連続する残基のパーセンテージを示す(例えば、10のうちの5、6、7、8、9、10が50%、60%、70%、80%、90%及び100%相補性)。「パーフェクトの相補性」は、核酸配列の連続する残基全てが第2の核酸配列中の連続する残基の同じ数と水素結合することを意味する。しかしながら、siRNA配列中の単一のミスマッチ又は塩基置換は小干渉RNAの遺伝子サイレンシング活性を実質上低下させ得ることに注目するべきである。
【0071】
アルファ−シヌクレイン、BACE1(そのバリアント、例えばバリアントA,B,C,及びDを含む)、ハンチンチン、アタキシン1、アタキシン−3及び/又はアトロピン−1のRNAs内の特定の部位を標的とする小干渉RNAは、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、脊髄小脳変形症1型、脊髄小脳変形症3型及び/又は歯状核赤核を細胞又は組織中で治療するための新規な治療上のアプローチを代表する。
【0072】
本発明の好ましい態様において、小干渉RNAは、15から30ヌクレオチドの長さである。特定の態様において、核酸分子は、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、及び30である。好ましい態様において、siRNA配列の長さは、19−30塩基対の間であり得て、より好ましくは、21から25塩基対の間であり、そしてより好ましくは、21から23塩基対の間であり得る。
【0073】
好ましい態様において、発明は、所望の標的のRNAに関して高い程度の特異性を呈する、核酸に基づく遺伝子阻害剤のクラスを生成するための方法を提供する。例えば、小干渉RNAは、好ましくは、アルファ−シヌクレイン、BACE1(そのバリアント、例えばバリアントA,B,C,及びDを含む)、ハンチンチン、アタキシン−1、アタキシン−3及び/又はアトロピン−1のRNAをコードする標的RNAの高保存配列領域を標的とし、疾患又は症状の特異的な処置が発明の一つ又はいくつかの核酸分子に提供され得るようにする。さらに、一般には、アデニン塩基の対(AA)で始まる標的配列内の領域を同定することにより(実施例を参照)、干渉RNA配列が選択される。siRNAsは適切な転写酵素又は発現ベクターを用いてインビトロ又はインビボにおいて構築することができる。
【0074】
脳内のニューロンへの外来のDNAのデリバリーのための好ましいベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)、例えば組換えアデノ随伴ウイルス血清型2又は組換えアデノ随伴ウイルス血清型5である。あるいは、他のウイルスベクター、例えば、ヘルペスシンプレックスウイルスを外来DNAの中枢神経系ニューロンへのデリバリーに使用してよい。
【0075】
siRNAsは、DNAオリゴヌクレオチドを用いてインビトロにおいて構築することができる。これらのオリゴヌクレオチドは、サイレンサーsiRNA内に含まれるT7プロモーターのプライマーの5’エンドに相補な8塩基の配列を含むように構築することができる(アンビオンコンストラクションキット1620)。各遺伝子特異的オリゴヌクレオチドを供給されたT7プロモータープライマーにアニールさせ、そして、クレノー断片によるフィルイン反応がRNAへの転写のための完全長DNA鋳型を生成する。インビトロ転写反応により、2つのインビトロ転写されたRNAs(一方が他方に対してアンチセンス)が生成され、そして二重鎖RNAを作成するために互いにハイブリダイズされる。二重鎖RNA産物はDNase(DNA転写鋳型を除去するため)及びRNase(二重鎖RNAのエンドをポリッシュするため)により処理されて、カラム精製されることにより、細胞内にデリバリーされて試験できるsiRNAが提供される。
【0076】
哺乳類細胞内でsiRNAsを発現するsiRNAベクターの構築は、一般には、siRNAの構造を模した短いヘアピンRNAの発現を推進するためにRNAポリメラーゼIIIプロモーターを用いる。このヘアピンをコードする挿入物は、短いスペーサー配列により分離された2つのインバーテッドリピートを有するようにデザインされる。一つのインバーテッドリピートは、siRNAが標的とするmRNAに相補性である。3’エンドに付加された6つの連続するチミジンの糸は、pol III転写鋳型部位として機能する。細胞内部に入ったら、当該ベクターは構成的にヘアピンRNAを発現する。ヘアピンRNAは標的遺伝子の発現のサイレンシングを誘導するsiRNAに加工されて、RNA干渉(RNAi)と呼ばれる。」(【0061】〜【0076】)

カ.「【0078】・・・・・・・・・・・・
蛋白質の不在下で誘導される神経性疾患
代謝の先天的エラーとして知られる稀な遺伝的障害は、からだが食物をエネルギーに変換する(即ち、食物を代謝する)ことが不可能になる。当該障害は、通常、食物の成分を分解する生化学経路に関与する酵素の欠陥により引き起こされる。さらに、リソソーム蓄積症(LSD)は、リソソームの酵素の何れかの機能発現の欠陥により特徴付けされる遺伝的疾患を意味する。
【0079】
そのような疾患は、遺伝子治療により治療されるかもしれない。特に、欠陥のある遺伝子又は失われた遺伝子は当業者には知られている方法により同定されるかもしれず、のちに、置換遺伝子を用意して失われた部位へ供給されるかもしれない。
【0080】
欠陥のある酵素をコードする例示のポリヌクレオチド、及び欠陥酵素に付随する疾患を表2に掲載する。
・・・・・・・・・・・・
【0091】
表2に掲載された欠陥酵素をコードするポリヌクレオチドは、本発明の人工AAVベクターに含まれ得るポリヌクレオチドの例である。しかしながら、表2に掲載されたポリヌクレオチドに限定されることを意図しないものであり、当業者は、蛋白質の不在により誘導される追加の疾患を同定し、そして欠陥酵素をコードする追加のポリヌクレオチドを同定することができる。」(【0078】〜【0091】)

キ.「・・・・・・・・・・・・
人工AAVベクター
人工AAVベクターは、生物学上活性な因子をコードするDNAを含み、そして遺伝子又は遺伝子抑圧剤を患者のニューロンにデリバリーするのに使用することができる。即ち、人工AAVベクターは遺伝子をデリバリーするためのカセット、又は遺伝子抑圧剤をデリバリーするためのカセットを含むのが好ましい。例えば、失われた遺伝子を患者の脳に供給するために意図された遺伝子治療の場合、発現カセットは、プロモーター要素、失われた遺伝子をコードする配列、及びポリアデニル化シグナル配列を含むことができる。別の例において、患者の脳内で内生遺伝子の発現を抑圧することを意図された遺伝子抑圧する治療の場合、発現カセットは、プロモーター要素、小干渉RNA(siRNA)をコードする配列、及び終結配列を含むことができる。
【0093】
一つの態様において、人工AAVベクターは、二重鎖ベクターである。二重鎖ベクターはいずれかの種類の発現カセットを含んでよく、アデノ随伴ウイルスゲノムからのインバーテッドターミナルリピート(AAV−ITR)の5プライムコピー、続く遺伝子又は遺伝子抑圧剤に関する発現カセット(その同一性は治療される神経障害しだいである)、続くAAV−ITRの3プライムコピーによる3プライムエンドを含む。
【0094】
別の態様において、人工AAVベクターは、何れかの種類の発現カセットを含んでよく、単鎖ベクターである。単鎖ベクターは、アデノ随伴ウイルスゲノムからのインバーテッドターミナルリピート(AAV−ITR)の5プライムコピー、続く遺伝子又は遺伝子抑圧剤に関する発現カセット(その同一性は治療される神経障害しだいである)、続くAAV−ITRの3プライムコピーによる3プライムエンドを含む単鎖DNAセグメントを含む。任意に及び好ましくは、何れかの種類の発現カセットを含む全DNA配列は逆相補の順序で繰り返され、それにより、DNA配列が5プライムAAV−I、発現カセット、内部AAV−ITR、発現カセットの逆相補体、及び3プライムAAV−ITRを含む。3プライムAAV−ITRは5プライムAAV−ITRの逆相補体であり(例えば、本明細書中の実施例1に例示されるとおり)、そして3プライム又は5プライムの何れかのAAV−Iを内部AAV−ITRとして用いることができる。結果の「自己相補性」人工AAVベクターが好ましいが、なぜならば、それがDNAによりニューロンのより有効なトランスフェクションを生じさせるかもしれないからである。例えば、Fu et al.,Molecular Therapy 8:911−917(2003)を参照。
【0095】
当業者には、二重鎖の人工AAVベクターの態様と単鎖自己相補性人工AAVベクターの態様が、単鎖自己相補ベクターが発現カセットの相補鎖をつなぐ単一の単鎖AAV−ITRを有する(一方の鎖の3プライムエンドを相補鎖の5プライムエンドに共有結合させる−図2に模式的に示される)ために完全な人工AAVベクターが、発現カセットの相補鎖間で水素結合によりそれ自身の上に「フォールドバック」した一つの単DNA鎖である、ということのみにおいて相違することを認識する。二重鎖人工AAVベクターの場合には、各エンドにおいて鎖をつなぐ非共有結合により発現カセットの5プライムエンドと3プライムエンドにおいて二重鎖のAAV−ITRsが存在する(図3に模式的に例示されるとおり)。
【0096】
二重鎖の人工AAVベクターを製造する例示の方法が開示される。当該方法は、5−プライムAAV−ITR、発現カセット、及び3−プライムAAV−ITRをあらゆる適当なDNAプラスミド中に標準DNAクローニング方法を用いて集合させ;5−プライムAAV−ITR、発現カセット、3−プライムAAV−ITRをプラスミドから解放するが、DNAを5プライムAAV−ITRのすぐ5プライムの位置及び3プライムAAV−ITRのすぐ3プライムの位置において切断する制限酵素によりプラスミドを消化することにより解放し;そして標準の方法を用いて5−プライムAAV−ITR、発現カセット、及び3−プライムAAV−ITRからなる直鎖状DNA断片を精製する工程を含む。任意に、結果の直鎖状二重鎖人工AAVベクターをさらに加熱処理工程により加工してよく、例えば、精製された直鎖状DNA断片を加熱し(例えば、65℃又はそれ以上に10分間又はそれより長く加熱)、次に冷却する(例えば、10分間又はそれより長い時間をかけてDNA断片をゆっくりと室温に冷却する)ことを含む。図4に模式的に例示されるとおり、これらの加熱及び冷却の工程は、AAV ITRsが二次構造に集合することを許容し、この二重鎖人工AAVベクターからの長期間の遺伝子発現を助ける。
【0097】
上で本明細書に記載された単鎖DNAを製造する例示の方法も開示される。一つの方法は、5−プライムAAV−ITR、発現カセット、及び3−プライムAAV−ITRをあらゆる適当なDNAプラスミド中に標準DNAクローニング方法を用いて集合させ;標準インビトロ転写方法を用いてDNAプラスミドから所望の単鎖DNAの単鎖RNA転写物を生成させ;標準逆転写反応方法を用いて逆転写によりRNA転写物から単鎖DNAを生成させ;RNase酵素を用いたRNA消化により反応産物からRNA転写物を取り出し;そして標準DNA精製方法、例えばゲル精製又はカラム親和法により反応産物から結果の単鎖DNA産物を精製する工程を含む。
【0098】
別の方法は、5−プライムAAV−ITR、発現カセット、及び3−プライムAAV−ITRをあらゆる適当なDNAプラスミド中に標準DNAクローニング方法を用いて集合させ;5−プライムAAV−ITRのすぐ5−プライムにてプラスミド配列中の公知の一カ所にてDNAを切断する制限酵素によりプラスミドを消化することにより環状プラスミドを直鎖状化し;直鎖状化されたプラスミドの各鎖の5−プライムエンドに親和性タグ(例えば、ビオチン分子)を化学的にコンジュゲートし;3−プライムAAV−ITRのすぐ3−プライムにてプラスミド配列中の公知の一カ所にてDNAを切断する制限酵素によりDNA配列を切断するが、制限酵素が異なるサイズの2つの直鎖状二重鎖DNA分子をもたらすようにし;サイズによりあらゆる適切なサイズ分離方法(例えば、カラム濾過又はゲル電気泳動)を用いてDNA分子の集団を分離して所望の二重鎖DNAを回収し;そしてDNAを融解することにより、その2つの相補鎖を2つの単鎖に分離し、そして混合物をタグのための親和性カラムに通す(例えば、ビオチン分子を親和性タグとして用いたときはストレプトアビジン親和性カラム)が、工程3においてタグを付加された鎖がカラム上に捕捉されて、一方タグのない単鎖は所望の最終産物としてフロースルーするようにする。この方法は、最終産物中の配列エラーを導入するかもしれない如何なるDNA又はRNA重合工程も含まないので有利で有り得る。
【0099】
自己相補性AAVの場合、上記方法は、5−プライムAAV−ITR、発現カセット、内部AAV−ITR、同じ発現カセットの逆相補体、及び3−プライムAAV−ITRをあらゆる適当なDNAプラスミド中に標準DNAクローニング方法を用いて集合させ;(5−プライムAAV−ITRから3−プライムAAV−ITRまでの)DNA配列を切断する制限酵素によりプラスミドを消化することにより環状プラスミドを直鎖状化し;サイズによりあらゆる適切なサイズ分離方法を用いて工程2からの所望のDNA配列を回収し;二重鎖DNAを融解することにより、その2つの相補鎖を2つの単鎖に分離し;そして融解されたDNAの温度を(好ましくはゆっくりと)低下させることにより、単鎖が自己アニールによりヘアピン形態になることを許容する工程を含む。結果の単鎖(「センス」又は「アンチセンス」鎖)は最終産物として有用であるが、何れかの鎖が5−プライムから3−プライム方向へ所望の発現カセットのコピーを含むからである。」(【0092】〜【0099】)

ク.「【0173】・・・・・・・・・・・・
実施例7
以下の実施例は本発明の一つの態様により二重鎖人工AAVベクターを製造するための例示の方法である。この実施例においては、本明細書に開示された実施例5の工程1から工程5の方法に従い、プラスミドpAAV−抗BACE1−GFPを構築した。結果のプラスミドは、2つのPvuII制限部位の間に所望のDNAセグメント含む。特に、プラスミドは、5−プライムから3−プライムに向かって、PvuII部位、AAVヘアピン配列、U6転写終結配列、ポリアデニル化シグナル配列の逆相補体、GFP蛋白質コードの逆相補体、CMVプロモーターの逆相補体、AAVインバーテッドターミナルリピート配列及びPvuII部位をコードするDNA配列を含む。即ち、それは、5−プライムから3−プライムの方向に、抗−BACE1 siRNAの発現カセット、及びリポーター遺伝子GFPの発現カセットを逆の方向に含む(図5参照)。
【0174】
プラスミドpAAV−抗BACE1−GFP中のAAV ITRsを周囲に有する発現カセットを単離するために、75μgのプラスミドを制限酵素PvuIIとScaIにより、当業者によく知られた方法を用いて消化した。ScaIは当該プラスミドバックボーンを2つの類似の断片に消化して、プラスミドバックボーンと所望の挿入物の間にさらなる識別を可能にさせた。直鎖状断片をキアゲンのキアゲンIIゲル精製キットを用いてゲル精製した。直鎖状断片のパーセント回収及び質を260nmと280nmの吸収を測定することにより分光測光法により測定した。この定量を通して、出発製品(product)の60%が回収されて精製された直鎖状断片が十分な質であった(A260/A280=1.9)ことが確定された。
【0175】
AAV ITRsが二次構造をとることを許容するため、4.5μgの直鎖状断片(90ng/μl)を65℃に10分間加熱することにより温度処理し、そして最短で10分かけて室温にゆっくりと冷却した。次のインビトロ実験における使用のための対照として、未処理の直鎖状断片を室温に10分間そのままにして加熱された断片を冷却した。未処理の直鎖状断片及び処理された(加熱されて冷却された)断片の予測されるコンフォメーションをそれぞれ図3と図4に示す。室温におけるインキュベーションの直後に、これらの人工AAVベクターを一時的にHEK293にトランスフェクトした。
【0176】
トランスフェクション実験の目的は、人工AAVベクターをトランスフェクトされた細胞内でのEGFP発現の長命性(longevity)を、EGFP発現カセット(pTRACER−CMA2,インビトロジェンコーポレーション、カールスバッド、CA、により入手可能)を含む環状プラスミドをトランスフェクトされた細胞内のEGFP発現の長命性と比較することであった。この実験は、本発明の人工AAVベクターで処理された細胞内でのEGFP発現が環状プラスミドpTRACER−CMV2で処理された細胞内でのEGFP発現よりも長く続いき得たか(合議体注:「続き得たか」の誤記と認められる。)否かを観察するためにデザインされた。方法:HEK293細胞のトランスフェクション:
HEK293T(ATCC#CRL11268)を、4.5g/Lのグルコースを含み、そして10%FBS及びペニシリンとストレプトマイシンを追加されたDMEM中で培養した。HEK293T細胞のトランスフェクションの前日に6ウエル組織培養プレートに5x105細胞/ウエルの密度にて接種した。この接種密度は、トランスフェクションの日に約80%コンフルエントのウエルを生じた。
【0177】
HEK293T細胞にTransit TKO(ミルス)をトランスフェクトし、製造者の推奨に従った。簡単に言えば、6μLのTransit−TKOを200μLのOpti−Mem還元血清培地に5mLポリスチレンチューブ中で加えた、ボルテックス混合した。希釈されたトランスフェクション試薬を室温において15分間インキュベーションした。1マイクログラムの適切なDNAを各チューブに加え、DNAを穏やかに混合して室温において20分間インキュベーションした。サンプルは:(1)偽トランスフェクトされた(H2O);(2)pTRACERプラスミド(1μg);(3)人工AAVベクター(1μg);及び(4)温度処理された(例えば、加熱されて冷却された)人工AAVベクター(1μg)を含んだ。インキュベーション後に、細胞上の培地を除去し、そして2mLの正常な生育培地(DMEM,高グルコース、10%FBS,ペニシリン/ストレプトマイシン)に置き換えた。DNA複合体をゆっくりと細胞に滴下により加え、穏やかな振動により混合した。トランスフェクトされた細胞を37℃において5%CO2を含む湿潤加湿器中でインキュベートした。EGFP発現後に、トランスフェクトされた細胞の写真を2−4日ごとにトランスフェクションの30日後まで撮った。全ウエルを表すエリアを写真に撮った。写真を撮った日に、全てのトランスフェクト細胞上の培地を新鮮な正常生育培地に置き換えた。
【0178】
トランスフェクトされた細胞中のEGFP発現の比較を可能にするため、デジタル写真の全てを同じパラメーターで撮った。イメージの分析は、人工AAVベクターからのEGFP発現の持続を明らかにした。さらに、加熱して冷却した人工AAVベクターは、細胞をトランスフェクトしてEGFP発現を持続することに関して、実質上はいっそう有効であった。これは、図6に示すとおりトランスフェクションの6日及び23日後に回収されたイメージにて明らかである。
【0179】
図6において観察され得るとおり、95%を超えるプラスミド由来のEGFP発現がトランスフェクションの12日後に消失した。最後の温度処理工程(例えば、加熱及び冷却)なしに生産された人工AAVベクターはほんの僅かな細胞においてのみEGFP発現を生じた;しかしながら、EGFP発現はそれらの細胞中で持続した。観察された持続は、トランスフェクトされた細胞の少数においてAAV−ITRsの二次構造の形成、続いて二次構造が上記細胞中でITRsを達成したためにEGFPの発現が持続する指標として解釈され得る。温度処理工程(例えば、加熱及び冷却)を含む開示方法に従い製造された人工AAVベクターは、トランスフェクションの27日後に連続するEGFP発現をもたらした。連続する発現は温度処理工程(例えば、加熱及び冷却)によるAAV−ITRsの二次構造の形成の指標として解釈でき、EGFPの持続する発現に資するこれらの構造が人工AAVベクターによりトランスフェクトされた実質上全ての細胞に存在した。
【0180】
実験はトランスフェクションの27日後に終了したが、顕著な細胞の損失がこの時間点の後に起こり始めたからであった。温度処理された人工AAVベクターからの発現を上記プラスミドからの発現と比較すると、発現の持続における100%を超える増加(日数)が人工AAVベクターから得られた。
【0181】
この実施例は、顕著で安定な発現が主題の発明の態様である人工AAVベクターから得られて、開示された方法に従い生産できることを例示する。この人工AAVベクターからの発現は、環状プラスミドからの発現よりも長く持続すると観察された。」(【0173】〜【0181】)

上記記載事項ア.〜エ.及びキ.によると、引用文献1には、「5プライムAAVインバーテッドターミナルリピート(AAV−ITR)、生物学上活性な因子をコードするDNAおよび3プライムAAV−ITRを含み、
5プライムAAVインバーテッドターミナルリピート(AAV−ITR)、生物学上活性な因子をコードするDNAおよび3プライムAAV−ITRをこの順序で含み、キャプシッドをコードするためのコーディング配列を含まない、単離された直鎖状DNA。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

第5 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「5プライムAAVインバーテッドターミナルリピート(AAV−ITR)」は、本願発明の「第1アデノ随伴ウイルス(AAV)逆方向末端反復(ITR)」に相当し、引用発明の「生物学上活性な因子をコードするDNA」は、本願発明の「関心のあるヌクレオチド配列」に相当し、引用発明の「3プライムAAV−ITR」は、本願発明の「第2 AAV ITR」に相当し、引用発明の「キャプシッドをコードするためのコーディング配列を含まない」は、本願発明の「AAVカプシドタンパク質コード配列を欠く」に相当し、引用発明の「直鎖状DNA」は、本願発明の「線状核酸分子」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明とは、「単離された線状核酸分子であって、該単離された線状核酸分子は、第1アデノ随伴ウイルス(AAV)逆方向末端反復(ITR)、関心のあるヌクレオチド配列および第2 AAV ITRからなり、
第1アデノ随伴ウイルス(AAV)逆方向末端反復(ITR)、関心のあるヌクレオチド配列および第2 AAV ITRをこの順序で含み、AAVカプシドタンパク質コード配列を欠く、単離された線状核酸分子。」である点で一致し、両者は以下の点で一応相違する。

相違点1:本願発明は、「対象者の細胞、器官または組織において外因性DNAの発現を介在する、関心のあるヌクレオチド配列を運搬するための方法において使用するための」ものであるのに対し、引用発明は、そのような特定はされていない点。

相違点2:本願発明は、「核酸分子は原核生物型のDNAメチル化を欠く」ものであるのに対し、引用発明は、そのような特定はされていない点。

第6 当審の判断
以下、上記相違点について検討する。
相違点1について
本願発明は、「線状核酸分子」という化合物に係る発明であるが、「対象者の細胞、器官または組織において外因性DNAの発現を介在する、関心のあるヌクレオチド配列を運搬するための方法において使用するための」という記載は、本願明細書及び出願時の技術常識を考慮しても、その化合物の有用性を示しているにすぎないから、本願発明は、用途限定のない「線状核酸分子」そのものであると解されるので、上記相違点1は実質的な相違点とはいえない。
なお、引用文献1には、「遺伝子又は遺伝子抑圧因子を患者の脳へデリバリーするための人工AAVベクターの使用は、プラスミドDNAをデリバリーすること、又は実際のAAVウイルス粒子をデリバリーすることを超えた多数の利点を有し得る。プラスミドDNAよりも、AAVベクターのDNAを脳へデリバリーする一つの可能な利点は、霊長類の脳内でのAAVによりデリバリーされた遺伝子構築物の発現が少なくとも3から4年は継続することが知られていることであり、一方、プラスミドからの遺伝子構築物の発現は一時的である。」(上記記載事項ウ.)、「【0062】 小干渉RNAを患者の脳にデリバリーするために、・・・・・・【0074】 脳内のニューロンへの外来のDNAのデリバリーのための好ましいベクターは、・・・・・・【0076】 哺乳類細胞内でsiRNAsを発現するsiRNAベクターの構築は、・・・・・・」(上記記載事項オ.)と記載されており、「対象者の細胞、器官または組織において外因性DNAの発現を介在する、関心のあるヌクレオチド配列を運搬するための方法において使用するための」という用途も、引用文献1に記載されているものと認められる。

相違点2について
引用文献1には、引用発明の直鎖状DNAを製造する方法として、5−プライムAAV−ITR、生物学上活性な因子をコードするDNA及び3−プライムAAV−ITRをDNAプラスミド中に標準DNAクローニング方法により集合させ、標準インビトロ転写方法を用いてDNAプラスミドから所望の単鎖DNAの単鎖RNA転写物を生成させ、標準逆転写反応方法を用いて逆転写によりRNA転写物から単鎖DNAを生成させ、RNase酵素を用いたRNAの消化により反応産物からRNA転写物を取り出し、標準DNA精製方法により反応産物から単鎖DNA産物を精製することにより、直鎖状DNAを単離精製して製造する方法が記載されている(上記記載事項イ.の【請求項86】〜【請求項87】、上記記載事項キ.の【0097】)。
そして、そのようなインビトロ転写方法、逆転写反応方法を用いて得られる直鎖状DNAは、細菌内で行われる方法ではなく、インビトロで行われる合成方法で製造されるので、原核生物型のDNAメチル化を有しないものであることは明らかであるから、上記相違点2は、実質的な相違点とはいえない。

したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

第7 審判請求人の主張について
審判請求人は、令和 3年 6月15日付け意見書において、以下のア.、イ.の点を主張しているので、以下この点について検討する。

ア.引用文献1に記載された線状核酸分子は、請求項94、要約及び図5の記載から、プラスミドから切除された分子であり、すなわち、細菌性細胞から生産されたものであり、細菌性のメチル化されたDNAを有するものであることは明らかであり、補正後の本願発明は「核酸分子は原核生物型のDNAメチル化を欠く」ことを要件としたので、本願発明は、引用文献1に対して新規性を有する。

イ.本願明細書に記載されているデータは、本願発明の核酸分子がインビトロ(実施例3)及びインビボ(実施例4及び5)において効率的なレポーター遺伝子の発現を可能とし、実施例5に示されるように免疫応答を惹起しないという格別な効果を奏することを示すものであり、このような効果は、インビボのデータを示していない引用文献1の記載から予測し得ないものであり、本願発明の核酸分子は、引用文献1に記載の核酸分子と少なくとも「核酸分子は原核生物型のDNAメチル化を欠く」点において異なるものである。

主張ア.について
上記第6で述べたように、引用文献1には、請求項94等の記載以外にも、引用文献1に記載された直鎖状DNAを製造する方法として、5−プライムAAV−ITR、生物学上活性な因子をコードするDNA及び3−プライムAAV−ITRをDNAプラスミド中に標準DNAクローニング方法により集合させ、標準インビトロ転写方法を用いてDNAプラスミドから所望の単鎖DNAの単鎖RNA転写物を生成させ、標準逆転写反応方法を用いて逆転写によりRNA転写物から単鎖DNAを生成させ、RNase酵素を用いたRNAの消化により反応産物からRNA転写物を取り出し、標準DNA精製方法により反応産物から単鎖DNA産物を精製することにより、直鎖状DNAを単離精製して製造する方法が記載されており(上記記載事項イ.の【請求項86】〜【請求項87】、上記記載事項キ.の【0097】)、そのようなインビトロ転写方法、逆転写反応方法を用いて得られる直鎖状DNAは、細菌内で行われる方法ではなく、インビトロで行われる合成方法で製造されるので、原核生物型のDNAメチル化を有しないものであることは明らかであるから、審判請求人の上記主張ア.は採用できない。

主張イ.について
引用文献1には、引用文献1に記載された直鎖状DNAを用いて、抗−BACE1 siRNA、レポーター遺伝子GFPをヒト細胞(HEK293T細胞)において発現させた場合に、持続した発現がみられたことが記載されている(上記記載事項ク.)から、効率的なレポーター遺伝子の発現を可能とするという効果は、引用文献1に記載された効果であり、また、引用文献1には、「細胞培養実験により、上記配列の各々がヒト細胞により発現される対応遺伝子のmRNAのレベルを抑圧することにおいて有効であるsiRNAをコードすることが確認された。重要なことは、本明細書に例示された抗−アタキシン−1小干渉RNA、抗−BACE1小干渉RNA、及び抗−ハンチンチン小干渉RNA、並びに神経変性疾患を治療するための他の小干渉RNAは、発明の態様の当然のいくつかの例(just but some examples)である。神経科学において経験をした者には知られている、神経外科手法を動物と共に用いる実験は、候補の小干渉RNAを同定するために使用することができる。mRNA及びこれらの経験的な方法により同定された対応する小干渉RNAの標的部位は、主題の神経変性疾患の患者に投与されたときに多大な治療効果を導くものになる。」と記載されている(上記記載事項オ.の【0069】)から、引用文献1に記載されている実験結果から、インビボにおいても同様の効果が得られるものと認められる。
また、引用文献1には、「遺伝子又は遺伝子抑圧因子を患者の脳へデリバリーするための人工AAVベクターの使用は、プラスミドDNAをデリバリーすること、又は実際のAAVウイルス粒子をデリバリーすることを超えた多数の利点を有し得る。・・・・・・AAVウイルス粒子のデリバリーを超えた合成AAVベクターのDNAをデリバリーする利点は、いくつかあり得る。第1に、まさにDNAのデリバリーはAAVウイルスキャプシッドの患者脳へのデリバリーを回避できる。AAVウイルスキャプシッド蛋白質が免疫応答をおそらくは誘導するから、ウイルス粒子をデリバリーする必要が無しで済むということが、治療に対する逆免疫反応の危険のほとんどを回避することができる。」と記載されており(上記記載事項ウ.)、免疫応答を惹起しないという効果は、引用文献1に記載された効果である。
したがって、審判請求人の上記主張イ.は採用できない。
なお、本願優先日前に公表された文献であるMol.Ther.(2003)Vol.7,No.1,p.101-111には、引用文献1に記載された直鎖状DNAと同様の、AAV−ITR、外来性DNA、AAV−ITRからなる直鎖状DNAが記載されており、該直鎖状DNAをインビボでマウスに投与した場合に、ゲノムに取り込まれた実験結果が記載されている(要約)が、プラスミド由来のベクターが宿主ゲノムに取り込まれた後に、細菌のDNAメチル化が失われることが記載されている(第102頁左欄下から第3行〜第104頁右欄第14行)から、原核生物型のDNAメチル化の有無が哺乳動物に投与する際に大きな問題になるとは認められない。

第8 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないので、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 田村 聖子
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-10-07 
結審通知日 2021-10-12 
審決日 2021-10-27 
出願番号 P2017-093751
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (C12N)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 田村 聖子
特許庁審判官 平林 由利子
高堀 栄二
発明の名称 無カプシドAAVベクター、組成物ならびにベクター製造および遺伝子運搬のための方法  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  

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