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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  H04N
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  H04N
管理番号 1382589
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-04-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2019-08-23 
確定日 2022-03-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第6055971号発明「画像形成装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第6055971号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由
第1 手続の経緯
本件特許第6055971号に係る出願(特願2016−92216号,以下,「本件特許出願」という。)は,平成25年4月23日に出願された特願2013−90149号の一部を特許法第44条第1項の規定に基づき分割出願した特願2014−223879号の一部を,同規定に基づき分割出願した特願2015−205148号の一部を,さらに同規定に基づき分割して平成28年5月2日に新たな出願としたものであって,平成28年12月16日にその発明について特許権の設定登録がなされたものである。

請求人は,令和1年8月23日付けで当該特許の請求項1ないし4に係る発明について,特許無効審判請求を行った。本件特許無効審判手続の経緯は以下のとおりである。

令和 1年 8月23日付け 特許無効審判請求
令和 1年10月21日受付 答弁書(被請求人)
令和 1年11月21日差出 手続補正書(答弁書)(被請求人)
令和 1年12月 7日差出 手続補正書(答弁書)(被請求人)
令和 1年12月19日付け 営業秘密に関する申出書(請求人)
令和 2年 1月21日付け 弁駁書(請求人)
令和 2年 1月24日付け 上申書(被請求人)
令和 2年 2月 7日付け 営業秘密に関する申出書(請求人)
令和 2年 2月14日付け 答弁書(被請求人)
令和 2年 3月 4日付け 書面審理通知
令和 2年 6月 5日付け 審決の予告
なお,審決の予告に対し,被請求人及び請求人からは何ら応答がなかった。

第2 本件発明
特許第6055971号の請求項1ないし4に係る発明(以下,請求項1に係る発明を「本件発明1」と称し,その他の請求項に係る発明も同様に「本件発明2」ないし「本件発明4」と称する。)は,特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。
なお,本件発明1ないし4における各構成の符号は,請求書の分説A〜Iを採用すると共に,説明のために当審においてさらに細分説して付与したものであり,以下,構成Aないし構成Iと称する。

〈本件発明〉
「【請求項1】
(A)(A1)加工の実施に関する表示内容を複数に分け必要な表示内容に切り替えて表示するメーンとなる画面の表示手段と,(A2)このメーンとなる画面の表示手段を表示して,表示したこのメーンとなる画面の表示内容を実施する手段を設けた(A3)画像形成装置において,
(B)更に,(B1)登録した複数の加工条件からなるコピーメニューのコピー,(B2)登録した複数の加工条件からなるプリントメニューのプリント,(B3)原稿原画の情報の保存,(B4)保存した原稿原画の情報のコピーのいずれかの一つ或は複数の加工を実施する(A3)画像形成装置において,
(C)(C1)前記のメーンとなる画面の表示手段を表示せずに,(C2)更に,画面を切り替えずに,(C3)前記の加工を実施する指示を出す手段を設けた(A3)画像形成装置。

【請求項2】
(D)音声により,前記の加工を実施する手段を設けた(E)請求項1の画像形成装置。

【請求項3】
(F)数字キーにより,前記の加工を実施する手段を設けた(G)請求項1の画像形成装置。

【請求項4】
(H)加工の実施を指示する指示部により,前記の加工を実施する手段を設けた(I)請求項1の画像形成装置。」

第3 請求人の主張の概要
請求人は,特許第6055971号の特許請求の範囲の請求項1,2,3,4に係る発明についての特許を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求めている。
その無効理由の概要と証拠方法は,次のとおりである。

1.無効理由について
(1)無効理由の概要(審判請求書2頁11〜21行)
ア 無効理由1:新規性欠如(特許法第29条第1項
特許第6055971号(以下「本件特許」という。)の特許請求の範囲の請求項1乃至4に係る発明は,いずれも本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明と同一であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,同条第1項により,特許を受けることができない。したがって,本件発明に係る特許は,特許法第123条第1項第2号より無効とすべきものである。

イ 無効理由2:進歩性欠如(特許法第29条第2項
本件特許の特許請求の範囲の請求項1乃至4に係る発明は,いずれも本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項に該当し,同条第2項により,特許を受けることができない。したがって,本件発明に係る特許は,特許法第123条第1項第2号より無効とすべきものである。

(2)本件特許出願の遡及日について
ア 審判請求書3頁11〜17行
「第3 無効審判請求の根拠
本件特許は,上記第2で述べたとおり,特願2013−090149(以下「本件出願1」という。)の分割出願である特願2014−223879(以下「本件出願2」という。)の分割出願である特願2015−205148(以下「本件出願3」という。)の分割出願であるところ,本件出願2は,分割要件を満たさずに,本件出願1から分割されたものであることから,本件特許の原出願日は,どれだけ遡れるとしても,2014年11月4日にしかならない。」

イ 審判請求書5頁下から10行〜6頁26行
「5 本件特許の原出願日について
本件特許は,本件出願1(特願2013−090149)の分割出願である本件出願2(特願2014−223879)の分割出願である本件出願3(特願2015−205148)の分割出願である(甲第2号証,甲第3号証)。
そして,本件出願2は,本件出願1について特許査定の謄本の送達がなされた2014年10月7日(甲第4号証。特許査定がなされたのは,2014年10月1日(甲第5号証)。)より後の2014年11月4日に特許法第44条1項に基づく分割出願がなされているところ(甲第3号証),本件出願2が分割出願された時点における本件出願1の明細書及び図面すなわち,本件出願1の特許査定時の明細書,特許請求の範囲及び図面(甲第6号証。以下「本件出願1査定時明細書」という。)と,本件出願2の明細書及び図面(甲第7号証の1及び2。以下「本件出願2分割時明細書」という。)を比較すると,本件出願2分割時明細書は,本件出願1査定時明細書に対し,実施例についての説明(例えば,本件出願2分割時明細書における明細書の段落【0066】乃至【0069】,【0071】,【0072】,【0074】,【0098】乃至【0107】,【0121】乃至【0125】,【0128】,【0131】乃至【0135】,【0137】,【0141】乃至【0146】,その他図面7乃至15に対応する多数の記載等)及び新規な図面である図7乃至図15が増やされており,これらは,本件出願1査定時明細書に対する新規事項の追加にあたる。
特許出願の分割は,その実体的要件の一つとして,分割出願の明細書等に記載された事項が,原出願の分割直前の明細書等に記載された事項の範囲内であることが要求される。本件出願2の出願は,本件出願1の特許査定後になされたものであり,本件出願1の査定時明細書について補正をすることができる時期になされたものでないから,本件出願2の分割がなされる直前の明細書等である本件出願1査定時明細書に新規事項を追加した本件出願2の分割出願明細書等である本件出願2分割時明細書は,原出願の分割直前の明細書等に記載された事項の範囲内のものではなく,本件出願2は特許出願の分割の要件を満たしていない。
したがって,本件出願2は,本件出願1の出願時になされたものとはみなされず,出願日は実際の出願日である,2014年11月4日となる。そうすると,本件出願2の分割出願である本件出願3の分割出願である本件特許もまた,その出願日は,せいぜい,本件出願2の実際の出願日である2014年11月4日になされたものとみなすことができるだけであり,本件出願1の出願日になされたものとみなされることはない。
よって,本件特許の原出願日は,どれだけ遡れるとしても,2014年11月4日にしかならない。
よって,2013年10月17日に公報が発行された特開2013−214848号公報の甲第1号証は,本件特許の出願前に頒布された刊行物となる。」

ウ 弁駁書2頁1〜10行
「5.答弁書に対する弁駁
被請求人が令和1年12月9日に提出した手続補正書により補正された審判事件答弁書(本書では「答弁書」という。)の「6 理由」「(1)」及び「(2)」(答弁書2頁)によれば,被請求人は,本件出願2(特願2014−223879)に分割要件違反があることについて実質的に争っていない。
この点,被請求人は,答弁書の「6 理由」「(4)」及び「(5)」(答弁書3〜5頁)において,被請求人が述べる「補正作業」を行うことで本件出願2の分割要件違反を解消できるかのような主張を行うが,特許法上,現時点で被請求人が述べる「補正作業」ができないことは明らかなので,当該「補正作業」の存在を前提に述べる被請求人の主張は失当である。」

エ 弁駁書7頁1〜19行
「第3 答弁書の「6 理由」「(6)」「第2」(答弁書10〜15頁)に対する反論
被請求人は,答弁書の「6 理由」「(6)」「第2」において,本件出願2で分割要件違反が生じたことに関し,本件出願2の分割要件違反の存在が特許審査官の行政の事務的な瑕疵であるため,本件審判を行ってはならない等の主張を行うが,分割要件違反を生じた原因が特許審査官の行政の事務的な瑕疵によるものであるか否かと,本件特許に対する無効審判を行うこと(本件特許に無効理由が存在すること)との間には全く関連性がないので,認否を行うまでもなく,被請求人の主張は失当である。
念のために述べると,そもそも分割要件を具備した適法な出願を行うのは第一義的には出願人の責任であり,分割要件を欠く違法を犯したのが出願人自身である以上,その責めは出願人が負うべきものである。また,特許法が無効審判制度を設けた理由は,本件特許のような瑕疵ある特許が存在し続けると,特許権者に不当な利益を与え,却って産業の発達(特許法第1条)を阻害し,一般公衆の権利・利益を害することになることから,このような弊害を是正するためである。したがって,特許が登録要件を欠いていることが審査段階で看過され特許査定及び設定登録がなされた後に,無効審判においてこのことが判明し,当該特許が無効になることがあっても,それは特許法が制度として当然に予定しているものと言える(分割要件違反の特許に関する訂正請求の可否につき判示をしている東京高裁平成15年9月25日判決(平成14年(行ケ)188号)も同趣旨の考えを示している。)。」

(3)甲第1号証の記載について
ア 審判請求書6頁下から5行〜13頁8行
「6 甲第1号証の記載
甲第1号証には,以下の記載がある。

○1(当審注:原文は丸付き数字。以下同様に,丸付き数字は○を付して表記する。) 「【技術分野】コピー機や,製版印刷機や,プリンタや,コピー機能やプリント機能やスキャナー機能やファクス機能を装備した複合機等の画像形成装置に関する。」(段落【0001】)

○2 「図2の操作盤1は,次の操作・指示手段を備える。…
画面切り替えスイッチ7は,電源が『OFF』の状態でも『ON』の状態でも切り替え可能である。
画面切り替えスイッチ7が『非表示』の状態でも,(『表示』の状態でも,)メニューのスタート指示具3や原稿原画の情報の保存指示具5やメニューの変更指示具6や数字キー10は,稼動可能である。
電源が『OFF』の状態で,画面切り替えスイッチ7を『非表示』にセットしておけば,電源の『ON』時に,手間を要せず,画面に関する電力を節約できる。
画面切り替えスイッチ7が『表示』の状態でも,画面(例えば,メニューの変更画面2a,登録・保存メニューの画面2b等)の表示が完了するのを待つ事無く,メニューのスタート指示具3や原稿原画の情報の保存指示具5や数字キー10による作業の開始が可能である。」(段落【0042】乃至【0046】)

○3 「画面2の非表示の状態からのメニューの変更画面2aの表示は,メニューの変更指示具6である『変更』ボタンの選択や画面切り替えスイッチ7の『非表示』から『表示』のモードの切り替えにより可能である。
又,画面2の非表示の状態からの登録・保存メニューの画面2bの表示は,画面切り替えスイッチ7の『非表示』から『表示』のモードの切り替えにより可能である。
尚,メニューの変更指示具6の選択により最初に表示される画面を,メニューの変更画面2aに設定する事により,電源を『ON』後に,一つの指示で,メニューの変更の加工を可能にする。
尚,画面切り替えスイッチ7の『非表示』から『表示』のモードの切り替えにより最初に表示される画面を,登録・保存メニューの画面2bに設定する事により,電源を『ON』後に,一つの指示で,登録・保存メニューの加工を可能にする。
尚,画面切り替えスイッチ7により表示された画面が,希望する画面が表示されない場合は,図4,5等で示す『画面変更』16a,16b等の表示部の選択により希望する画面の表示の切り替えを可能にする。」(段落【0047】乃至【0049】)

○4 「図3は,非表示状態にある画面2等を示す。
事前に,画面切り替えスイッチ7である『画面切替』スイッチで画面を『非表示』にセットしておけば,電源を『ON』にしても,画面は表示されず,画面に関する電力を節約する。
画面が非表示でも,メニューのスタート指示具3や原稿原画の情報の保存指示具5や数字キー(登録・保存メニューのスタート指示具10b)による加工の作業が可能である。」(段落【0062】乃至【0063】)

○5 「図4は,メニューの変更画面2aを示す。

この画面の表示内容は,『分類名群』13と『分類内容』14と『その他の複数の加工条件』4bと『処理方法』15の表示部が表示される。
『分類名群』13の表示部は,使用者が選択したメニューに関する複数の加工条件を分類別に収め,『倍率』や『用紙サイズ』や『給紙サイズ』や『紙種』‥‥‥等の分類名を付け配置している。
『分類内容』14の表示部は,前記の分類名が,使用者が選択したメニューの操作盤1上に表示された『複数の加工条件の一部』4aに関しており,分類名の中に含まれている加工条件を,『自動』や『100%』や『一つ上』や『一つ下』‥‥‥等と表示している。

『分類内容』14の表示部を開示する分類名は,『分類名群』13の表示部より抜粋して設け,『分類内容』14の表示部と『その他の複数の加工条件』4bの表示部と『分類名群』13の表示部は同じ順位で配置され,『分類名群』13の表示部の使用者が選択したメニューを収めた分類名と『分類内容』14の表示部の使用者が選択したメニューの加工条件は強調されて表示される。
加工条件の変更は,『分類内容』14内の表示部の変更したい加工条件の表示部をタッチする。[タッチすると,(先に設定してある,)メニューの加工条件の強調が解除され,(新たに,)タッチした加工条件が強調されて表示される。]
『分類内容』14の表示部内に使用者が変更したい加工条件が無い場合は,『分類名群』13の表示部の使用者が変更したい分類名の表示部をタッチする。(タッチした分類名が強調されて表示される。)
次に,タッチしたメニューの加工条件を含む『分類内容』14の表示部が表示され,前記段落に準じて実施する。
この処理は,『処理方法』15の『スタート』や『登録』や『登録→スタート』の表示部の選択により行なう。
『スタート』の表示部の選択は,変更したメニューでの加工を実施する。
『登録』の表示部の選択は,変更したメニューを登録・保存メニューの画面2bに表示状態で登録をする。
『登録→スタート』の表示部の選択は,変更したメニューでの加工を実施し,変更したメニューを登録・保存メニューの画面2bに表示状態で登録をする。」(段落【0066】乃至【0074】)

○6 図2には,上記○2,○3の操作盤1が,図3には,上記○3,○4の非表示状態にある画面2が,図4には,上記○5のメニュー変更画面2aが,図5には,上記○5の登録・保存メニューの画面2bが示されている。

図2 (略)
図3 (略)
図4 (略)
図5 (略)

○7 「図2の代表図が示す請求項1の発明は,例えば,電源を『ON』後に,(ガラス板上に原稿原画をセットして,メニューのスタート指示具3である『標準コピースタート』のボタンを,一押しするだけ等の)一つの指示で,(『倍率』条件が『100%』,『サイズ』条件が『自動』で選択,『カラー』条件が『自動』で選択,『枚数』条件が『1枚』,等の)複数の加工条件から成る(標準コピーの)メニューの(コピーの)加工を,実行できるメニューのスタート指示具(3)手段を設けた(コピー,プリント,スキャン機能を備える装置の)画像形成装置である。」(段落【0107】)

○8 「図2の代表図が示す請求項2の発明は,例えば,電源を「ON」後に,(ガラス板上に原稿原画をセットして,原稿原画の情報の保存指示具5である「保存」のボタンを,一押しするだけ等の)一つの指示で,原稿原画に記録された情報を(走査等のセンサー手段により読み取り,装置の記憶装置に)保存(し,次回のコピー時に,この原稿原画を持参する必要が無く,この原稿原画をガラス板上にセットする必要が無く,コピーを行なう事が)できる原稿原画の情報の保存指示具手段を設けた(コピー,プリント,スキャン機能を備える装置の)画像形成装置である。」(段落【0109】)

○9 「図2の代表図が示す請求項3の発明は,例えば,(使用者が希望する『登録・保存番号』が『16』,『原稿原画の情報』名が『提案用紙』,『加工枚数』が『10』枚のコピーを行なう場合に於いて,)電源を『ON』後に,(ガラス板上に原稿原画をセットする必要が無く,数字キー10の上部の『●』の専用ボタンである登録・保存メニューのスタート指示具10bの『1』と『6』或いは『1』と『6』と『#』を押す等の,)一つの指示で,(メニューの変更画面2aで)登録した複数の加工条件から成るメニューの加工や,(原稿原画の情報の保存指示具5で)保存した原稿原画に記録された情報の加工(の中から,『登録・保存番号』が『16』,『原稿原画の情報』名が『提案用紙』,『加工枚数』が『10』枚を取り出し,コピーの加工)を,実行できる登録・保存メニューのスタート指示具(10b)手段を設けた(コピー,プリント,スキャン機能を備える装置の)画像形成装置である。」(段落【0111】)

○10 「図2の代表図が示す請求項4の発明は,例えば,(画面切り替えスイッチ7である『画面切替』スイッチを『OFF』や『ECO』の『非表示』のモードにセットして,)画面(2)が非表示の状態でも(請求項1の発明のメニューのスタート指示具3手段や,請求項2の原稿原画の情報の保存指示具5手段や,請求項3の発明の数字キー10の登録・保存メニューのスタート指示具10b手段が)実行可能である,エコ手段を設けた請求項1,2,3の(コピー,プリント,スキャン機能を備える装置の)画像形成装置である。」(段落【0114】)

○11 「請求項9の発明は,例えば,数字キー(の上部の『●』部分の登録・保存メニューのスタート指示具10bを押す事)で,登録・保存メニューの加工を実行できる手段を設けた請求項3,4,6,8の画像形成装置である。」(段落【0120】)

○12「本発明の技術は,音声入力に対応する事が可能である。
即ち,『実施例1』のタッチ,プッシュ等の手操作手段を音声認識手段に替える事が可能である。
例えば,請求項1の発明は,…電源を『ON』後に,(ガラス板上に原稿原画をセットして,『標準コピースタート』と発声するだけ等の)一つの指示で,(『倍率』条件が『100%』,『サイズ』条件が『自動』で選択,『カラー』条件が『自動』で選択,『枚数』条件が『1枚』,等の)複数の加工条件から成る(標準コピーの)メニューの(コピーの)加工を,実行できるメニューのスタート指示具手段を設けた(コピー,プリント,スキャン機能を備える装置の)画像形成装置である。」(段落【0122】乃至【0123】)

○13 「例えば,請求項2の発明は,(音声モードスイッチを予め『ON』にセットし,)電源を『ON』後に,(ガラス板上に原稿原画をセットして,『保存』或いは『保存,提案用紙』と発声するだけ等の)一つの指示で,原稿原画に記録された情報を(走査等のセンサー手段により読み取り,装置の記憶装置に)保存(し,次回のコピー時に,この原稿原画を持参する必要が無く,この原稿原画をガラス板上にセットする必要が無く,『提案用紙』のコピーを行なう事が)できる原稿原画の情報の保存指示具手段を設けた(コピー,プリント,スキャン機能を備える装置の)画像形成装置である。」(段落【0124】(当審注:「段落【0124】」は「段落【0125】」の誤記である。)

○14 「電源をON後に,倍率,用紙サイズなどの複数の加工条件のメニューを表示する画面を非表示と表示に切り替える手段を備え,電源をON後に,この倍率,用紙サイズなどの複数の加工条件のメニューを表示する画面を表示して,この表示された画面の,倍率,用紙サイズなどの複数の加工条件のメニューの画像形成の加工を行なう手段を備えた画像形成装置において,倍率,用紙サイズなどの複数の加工条件のメニューを操作盤に設けた指示具或いは指示具付近に表示する手段を備え,電源のOFF時に,倍率,用紙サイズなどの複数の加工条件のメニューを表示する画面の非表示,表示を選択する手段を備え,電源のOFF時に,この倍率,用紙サイズなどの複数の加工条件のメニューを表示する画面の非表示を選択し,電源のON以降に,この倍率,用紙サイズなどの複数の加工条件のメニューを表示する画面を表示せずに,この非表示の倍率,用紙サイズなどの複数の加工条件のメニューの画像形成の加工を行なう手段を備えた画像形成装置。」(【手続補正書】【提出日】平成25年1月4日(2013.1.4)【特許請求の範囲】【請求項1】)」

(4)本件発明1〜本件発明4と甲1発明との対比について
ア 審判請求書13頁9行〜19頁1行
「7 本件発明1と甲1発明との対比
(1) 構成要件A
ア 本件発明1の構成要件Aは,「加工の実施に関する表示内容を複数に分け必要な表示内容に切り替えて表示するメーンとなる画面の表示手段と,このメーンとなる画面の表示手段を表示して,表示したこのメーンとなる画面の表示内容を実施する手段を設けた画像形成装置において」である。

イ 上記6の○1,○3,○5,○6,○7,○13より,甲第1号証には,コピー,プリント,スキャン機能を備え,図4に示されるように「倍率」,「カラー/白黒」,「用紙サイズ」,「特殊加工」といった,コピー,プリント,又はスキャンにおいて行う複数の加工条件の内容を画面2に表示し,使用者が画面をタッチすることで,加工条件を選択でき,選択された加工条件の加工を行うようになっている画像形成装置が開示されている。
また,上記6の○5にあるとおり,図4に示される加工条件の内容を表示する画面2は,使用者が「分類名群」13の表示部をタッチすることで,「分類内容」14に表示される加工条件を切り替えることができるようになっているから,「加工の実施に関する表示内容」に相当する「分類内容」14が切り替えて表示されることが開示されている。
さらに,上記6の○3○6にあるとおり,画面2では,図4に示される「メニュー変更画面2a」と,図5に示される「登録・保存メニュー画面2b」とが切り替えて表示されることも開示されているところ,いずれの画面に表示される内容も,加工の実施に関するものであるから,この点でも,「加工の実施に関する表示内容」が切り替えて表示されることが開示されている。

ウ そうすると,甲第1号証の画像形成装置における画面2は,「加工の実施に関する表示内容を複数に分け必要な表示内容に切り替えて表示する」画面に他ならないから,当該画像形成装置は,タッチパネル等により当該画面2を表示する手段,すなわち「加工の実施に関する表示内容を複数に分け必要な表示内容に切り替えて表示するメーンとなる画面の表示手段」を有している。
また,甲第1号証の画像形成装置においては,使用者が,画面2に表示される加工条件をタッチして選択し,当該加工条件を実行することができるから,当該画像形成装置は,「この画面の表示手段を表示して,表示した画面の表示内容を実施する手段を設けた画像形成装置」に該当する。
したがって,甲1発明は,本件発明1の構成要件Aを具備する。

(2) 構成要件B
ア 本件発明1の構成要件Bは,「更に,登録した複数の加工条件からなるコピーメニューのコピー,登録した複数の加工条件からなるプリントメニューのプリント,原稿原画の情報の保存,保存した原稿原画の情報のコピーのいずれかの一つ或は複数の加工を実施する画像形成装置において」である。

イ 上記6の○2,○7,○8及び図2より,甲第1号証の画像形成装置においては,予め倍率,カラー/白黒,用紙サイズ,枚数といった複数の加工条件について予め設定されたコピーに関する「標準コピー」,「エココピー」等のメニュー,原稿原画の情報の保存に関する「標準スキャン」のメニュー,プリントに関する「標準写真」のメニューをスタート指示具3や保存指示具5のボタンを押すことで実施することが可能となっている。

ウ したがって,甲第1号証の画像形成装置は,「登録した複数の加工条件からなるコピーメニューのコピー,登録した複数の加工条件からなるプリントメニューのプリント,原稿原画の情報の保存の複数の加工を実施する画像形成装置」に該当するから,甲1発明は,本件発明1の構成要件Bを具備する。

(3) 構成要件C
ア 本件発明1の構成要件Cは,「前記のメーンとなる画面の表示手段を表示せずに,更に,画面を切り替えずに,前記の加工を実施する指示を出す手段を設けた画像形成装置」である。

イ 上記(2)並びに上記6の○2,○4,○10,○14及び図2より,甲第1号証の画像形成装置においては,「前記のメーンとなる画面」,すなわち,構成要件Aにおける,「加工の実施に関する表示内容を複数に分け必要な表示内容に切り替えて表示するメーンとなる画面」に相当する画面2を表示させないようにしたままの状態で,図2のスタート指示具3や保存指示具5を使用することで,倍率,カラー/白黒,用紙サイズ,枚数といった複数の加工条件が予め設定された,コピーに関する「標準コピー」,「エココピー」等,原稿原画の情報の保存に関する「標準スキャン」,プリントに関する「標準写真」,を実施する指示を出すことができる。そして,この場合,画面2は表示されないままの状態であるから,画面の切り替えも当然行われていない。
そうすると,甲第1号証の画像形成装置は,「加工の実施に関する表示内容を複数に分け必要な表示内容に切り替えて表示するメーンとなる画面」に相当する画面2の表示手段を表示せずに,また,画面2を切り替えずに,登録した複数の加工条件からなるコピーメニューのコピー,登録した複数の加工条件からなるプリントメニューのプリント,原稿原画の情報の保存の複数の加工を実施するための指示を出す手段である,スタート指示具3を有していることになる。

ウ よって,甲第1号証の画像形成装置は,「前記のメーンとなる画面の表示手段を表示せずに,更に,画面を切り替えずに,前記の加工を実施する指示を出す手段を設けた画像形成装置」であるから,甲1発明は,本件発明1の構成要件Cを具備する。

(4) 小括
以上より,甲1発明は,本件発明1の構成要件A乃至Cを全て具備するから,両者は同一である。仮に,両者に何らかの相違点があったとしてもそれは微差であり,当業者が本件特許出願時における技術常識に基づき容易に想到し得たものに過ぎない。
よって,本件発明1は,本件特許出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明と同一,又は甲1発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第1項第3号又は同条第2項に該当し,同条第1項又は第2項により特許を受けることができない。本件発明1に係る特許は,特許法第123条第1項第2号より無効とすべきものである。

8 本件発明2と甲1発明との対比
(1) 構成要件D
ア 本件発明2の構成要件Dは,「音声により,前記の加工を実施する手段を設けた」である。

イ 上記6の○10より,甲第1号証の画像形成装置においては,画面2が非表示の状態で,図2のスタート指示具3や保存指示具5を使用することで,コピーメニューである「標準コピー」によるコピーや,原稿原画の保存のスキャンといった加工を実施することが可能であるところ,上記6の○12,○13より,甲第1号証の画像形成装置は,このようなスタート指示具3や保存指示具5のようなタッチやプッシュ等の手操作手段を音声認識手段に替えることができ,その場合,音声により,コピーメニューである「標準コピー」によるコピーや,原稿原画の保存のスキャンといった加工を実施することが可能となっている。

ウ したがって,甲第1号証の画像形成装置は,音声認識手段により,倍率,カラー/白黒,用紙サイズ,枚数といった複数の加工条件が予め設定された,コピーやスキャンといった加工を実施することができるから,「音声により,前記の加工を実施する手段」を有しており,甲1発明は,本件発明2の構成要件Dを具備する。

(2) 構成要件E
本件発明2の構成要件Eは,「請求項1の画像形成装置」であるところ,上記7で述べたとおり,甲1発明は,本件発明1と同一であるから甲1発明は本件発明2の構成要件Eを具備する。また,同様に,上記7で述べたとおり,仮に甲1発明と本件発明1に相違点があったとしてもそれは微差であり,当業者は,本件特許出願時における技術常識に基づき容易に想到し得たものである。

(3) 小括
以上より,甲1発明は,本件発明2の構成要件D及びEを全て具備するから,両者は同一である。また,仮に,両者に何らかの相違点があったとしてもそれは微差であり,当該相違点は,当業者が本件特許出願時における技術常識に基づき容易に想到し得たものに過ぎない。
よって,本件発明2は,本件特許出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明と同一,又は甲1発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第1項第3号又は同条第2項に該当し,同条第1項又は第2項により特許を受けることができない。本件発明2に係る特許は,特許法第123条第1項第2号より無効とすべきものである。

9 本件発明3と甲1発明との対比
(1) 構成要件F
ア 本件発明3の構成要件Fは,「数字キーにより,前記の加工を実施する手段を設けた」である。

イ 上記6の○5,○9,○10,○11より,甲第1号証の画像形成装置においては,図4のメニュー変更画面2aで,複数の加工条件を選択し,図5の登録・保存メニューの画面2bで登録したもの,例えば,図5において,「NO」が「16」,「区分」が「原稿」,「原稿の原画の情報・加工条件」が「提案用紙 10枚」として登録されたものを数字キー10を用いて選択し,実行させることができる。

ウ したがって,甲第1号証の画像形成装置は,数字キーにより,倍率,カラー/白黒,用紙サイズ,枚数といった複数の加工条件が予め登録された加工メニューを実施することができるから,「数字キーにより,前記の加工を実施する手段」を有するものであり,甲1発明は,本件発明3の構成要件Fを具備する。

(2) 構成要件G
本件発明3の構成要件Gは,「請求項1の画像形成装置」であるところ,上記7で述べたとおり,甲1発明は,本件発明1と同一であるから,甲1発明は本件発明3の構成要件Gを具備する。また,同様に,上記7で述べたとおり,仮に甲1発明と本件発明1に相違点があったとしてもそれは微差であり,当業者は,本件特許出願時における技術常識に基づき容易に想到し得たものである。

(3) 小括
以上より,甲1発明は,本件発明3の構成要件F及びGを全て具備するから,両者は同一である。また,仮に,両者に何らかの相違点があったとしてもそれは微差であり,当該相違点は,当業者が本件特許出願時における技術常識に基づき容易に想到し得たものに過ぎない。
よって,本件発明3は,本件特許出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明と同一,又は甲1発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第1項第3号又は同条第2項に該当し,同条第1項又は第2項により特許を受けることができない。本件発明3に係る特許は,特許法第123条第1項第2号より無効とすべきものである。

10 本件発明4と甲1発明との対比
(1) 構成要件H
ア 本件発明4の構成要件Hは,「加工の実施を指示する指示部により,前記の加工を実施する手段を設けた」である。

イ 上記6の○2,○4,○10,○14より,甲第1号証の画像形成装置においては,使用者は図2のスタート指示具3や保存指示具5を使用することで,倍率,カラー/白黒,用紙サイズ,枚数といった複数の加工条件が予め設定された,コピーに関する「標準コピー」,「エココピー」等,原稿原画の情報の保存に関する「標準スキャン」,プリントに関する「標準写真」,を選択し,実施することができるから,図2のスタート指示具3や保存指示具5により,加工の実施が指示されると,当該加工を実施するものである。

ウ したがって,甲第1号証の画像形成装置は,図2のスタート指示具3や保存指示具5といった,「加工の実施を指示する指示部」により,「前記の加工を実施する手段を設けた」ものといえるから,甲1発明は,本件発明4の構成要件Hを具備する。

(2) 構成要件I
本件発明4の構成要件Iは,「請求項1の画像形成装置」であるところ,上記7で述べたとおり,甲1発明は,本件発明1と同一であるから,甲1発明は本件発明4の構成要件Iを具備する。また,同様に,上記7で述べたとおり,仮に甲1発明と本件発明1に相違点があったとしてもそれは微差であり,当業者は,本件特許出願時における技術常識に基づき容易に想到し得たものである。

(3) 小括
以上より,甲1発明は,本件発明4の構成要件H及びIを全て具備するから,両者は同一である。また,仮に,両者に何らかの相違点があったとしてもそれは微差であり,当該相違点は,当業者が本件特許出願時における技術常識に基づき容易に想到し得たものに過ぎない。
よって,本件発明4は,本件特許出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明と同一,又は甲1発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第1項第3号又は同条第2項に該当し,同条第1項又は第2項により特許を受けることができない。本件発明4に係る特許は,特許法第123条第1項第2号より無効とすべきものである。」

イ 弁駁書2頁20行〜6頁末行
「第2 答弁書の「6 理由」「(6)」「第1」「○10」(答弁書7〜8頁)に対する反論
被請求人は,答弁書「6 理由」「(6)」「第1」「○10」において,甲第1号証の「標準スキャン」は本件発明1の構成要件Bの「原稿原画の情報の保存」には該当せず,甲1発明は本件発明1の構成要件Bを具備していないと主張する。
しかしながら,甲1発明は,「原稿原画の情報の保存」に該当する構成を有すると否とにかかわらず,本件発明1の構成要件Bを具備するから,被請求人の上記主張はそもそも無意味である。
また,甲第1号証における「標準スキャン」は,本件発明1の構成要件Bの「原稿原画の情報の保存」に該当するものであるから,被請求人の主張自体が誤っている。
更に,甲第1号証の画像形成装置は「標準スキャン」以外にも,本件発明1の構成要件Bの「原稿原画の情報の保存」及び「保存した原稿原画の情報のコピー」に該当する構成を有しているから,この点からも被請求人の主張は誤っている。
以下,順に詳述する。

1 甲1発明は,「原稿原画の情報の保存」に該当する構成を有すると否とにかかわらず,本件発明1の構成要件Bを具備するため,被請求人の主張はそもそも無意味であること
被請求人は,甲第1号証の「標準スキャン」は本件発明1の構成要件Bの「原稿原画の情報の保存」とは別の技術的特徴を備えているとし,それを前提として甲1発明が本件発明1の構成要件Bを具備しないかのような主張を行う(答弁書「6 理由」「(6)」「第1」「○10」「○ウ(当審注:原文は丸付きカタカナ。以下同様に,丸付きカタカナは○を付して表記する。)」)。
しかしながら,被請求人の当該主張の当否をひとまず措いたとしても,甲第1号証の画像形成装置は,「原稿原画の情報の保存」とは別に,本件発明1の構成要件Bの「登録した複数の加工条件からなるコピーメニューのコピー」及び「登録した複数の加工条件からなるプリントメニューのプリント」に該当する構成を有している。この点に関しては,被請求人も答弁書で特に反論を行っていない。
そうすると,甲第1号証の画像形成装置は,本件発明1の構成要件Bの「登録した複数の加工条件からなるコピーメニューのコピー,登録した複数の加工条件からなるプリントメニューのプリント…のいずれかの一つ或は複数の加工を実施する画像形成装置」に該当することになるから,甲1発明は,上記被請求人の主張の当否と関係なく,本件発明1の構成要件Bを具備している。
よって,被請求人の当該主張は無意味であり,主張自体が失当である。

2 甲第1号証の「標準スキャン」は,本件発明1の構成要件Bの「原稿原画の情報の保存」に該当すること
(1) 被請求人は,答弁書の上記「○10」「○ウ」〜「○オ」において,甲第1号証の「標準スキャン」は本件発明1の構成要件Bの「原稿原画の情報の保存」とは別の技術的特徴を備える,具体的には,甲第1号証の「標準スキャン」は「スキャンした情報を,USBメモリ,SDカード,パソコンなどの外部装置に保存する」のに対し,本件発明1の構成要件Bの「原稿原画の情報の保存」は「『原稿原画の情報』は画像形成装置に保存される」と主張して,甲第1号証の「標準スキャン」が本発明1の構成要件Bの「原稿原画の情報の保存」に該当しないと主張する。しかしながら,当該主張は誤りである。
(2) 上記被請求人の主張は,要するに,甲第1号証の「標準スキャン」と本件発明1の構成要件Bの「原稿原画の情報の保存」との間で情報の保存先に違いがあるというものであるが,本件発明1(請求項)には,構成要件Bの「原稿原画の情報の保存」に関して,当該情報の保存先を「画像形成装置」に限定する記載は存在しないから,情報の保存先の違いに基づいて両者の差異を主張する上記被請求人の主張は,請求項の記載に基づくものでなく,失当である。
また,本件特許の明細書にも,当該情報を「画像形成装置」に限って保存するものとする記載や,USBメモリ,SDカード,パソコンなどの外部装置に保存することを排除するような記載は存在しない。したがって,本件特許の明細書の記載を踏まえても,構成要件Bの「原稿原画の情報」の保存先を限定的に解釈することは誤りである。
(3) また,たとえ,構成要件Bの「原稿原画の情報の保存」に関して,情報の保存先が「画像形成装置」に限られると限定解釈される場合があったとしても,甲第1号証には,「標準スキャン」の場合に,USBメモリ,SDカード,パソコンなどの外部装置に「のみ」保存されるというような限定的な記載はなく,ある画像形成装置でスキャンを行った場合に,その画像形成装置内の記憶装置(メモリやハードディスク等)に情報を保存するように制御することは(外部装置に情報を記憶する場合であるか否かを問わず)通常のことであるから,甲第1号証の「標準スキャン」は,本件発明1の構成要件Bの「原稿原画の情報の保存」に該当する。
(4) よって,甲第1号証の「標準スキャン」は,本件発明1の構成要件Bの「原稿原画の情報の保存」に該当するから,上記被請求人の主張は誤りである。

3 甲第1号証の画像形成装置は,「標準スキャン」とは別に,本件発明1の構成要件Bの「原稿原画の情報の保存」及び「保存した原稿原画の情報のコピー」に該当する構成を有していること
(1) 甲第1号証の画像形成装置は,上記「標準スキャン」とは別に,「原稿原画の情報」に関し,本件発明1の構成要件Bの「原稿原画の情報の保存」及び「保存した原稿原画の情報のコピー」に該当する構成を有しているので,これを以下で述べる。
(2) 甲第1号証における「原稿原画の情報」に関する記載は,甲第1号証の段落【0109】,【0111】及び【0125】(審判請求書の「第4」「6」「○8」,「○9」及び「○13」で示したものと同じであり,本書でも同じ番号を用いる。)並びに図2に存在する。

○8 「図2の代表図が示す請求項2の発明は,例えば,電源を「ON」後に,(ガラス板上に原稿原画をセットして,原稿原画の情報の保存指示具5である「保存」のボタンを,一押しするだけ等の)一つの指示で,原稿原画に記録された情報を(走査等のセンサー手段により読み取り,装置の記憶装置に)保存(し,次回のコピー時に,この原稿原画を持参する必要が無く,この原稿原画をガラス板上にセットする必要が無く,コピーを行なう事が)できる原稿原画の情報の保存指示具手段を設けた(コピー,プリント,スキャン機能を備える装置の)画像形成装置である。」(段落【0109】)

○9 「図2の代表図が示す請求項3の発明は,例えば,(使用者が希望する『登録・保存番号』が『16』,『原稿原画の情報』名が『提案用紙』,『加工枚数』が『10』枚のコピーを行なう場合に於いて,)電源を『ON』後に,(ガラス板上に原稿原画をセットする必要が無く,数字キー10の上部の『●』の専用ボタンである登録・保存メニューのスタート指示具10bの『1』と『6』或いは『1』と『6』と『#』を押す等の,)一つの指示で,(メニューの変更画面2aで)登録した複数の加工条件から成るメニューの加工や,(原稿原画の情報の保存指示具5で)保存した原稿原画に記録された情報の加工(の中から,『登録・保存番号』が『16』,『原稿原画の情報』名が『提案用紙』,『加工枚数』が『10』枚を取り出し,コピーの加工)を,実行できる登録・保存メニューのスタート指示具(10b)手段を設けた(コピー,プリント,スキャン機能を備える装置の)画像形成装置である。」(段落【0111】)

○13 「例えば,請求項2の発明は,(音声モードスイッチを予め『ON』にセットし,)電源を『ON』後に,(ガラス板上に原稿原画をセットして,『保存』或いは『保存,提案用紙』と発声するだけ等の)一つの指示で,原稿原画に記録された情報を(走査等のセンサー手段により読み取り,装置の記憶装置に)保存(し,次回のコピー時に,この原稿原画を持参する必要が無く,この原稿原画をガラス板上にセットする必要が無く,『提案用紙』のコピーを行なう事が)できる原稿原画の情報の保存指示具手段を設けた(コピー,プリント,スキャン機能を備える装置の)画像形成装置である。」(段落【0125】)

図2 (略)

(3) そして,甲第1号証の画像形成装置においては,上記(2)の○8,○9,○13及び図2のとおり,「原稿原画の情報の保存」のメニューを保存指示具5のボタンを押して実施したり,上記(2)の○8のとおり,「原稿原画の情報の保存」で保存した原稿原画を次回のコピー時に原稿原画を持参することなくコピーする「保存した原稿原画の情報のコピー」を行ったりすることができるようになっている。
したがって,甲第1号証の画像形成装置は,「標準スキャン」だけではなく,それとは別に,本件発明1の構成要件Bの「原稿原画の情報の保存」及び「保存した原稿原画の情報のコピー」に該当する構成を有している。

4 小括
以上のとおり,被請求人の主張の当否と関係なく,甲1発明は本件発明1の構成要件Bを具備するから,被請求人の主張はそもそも無意味なものである(上記「1」)。
また,被請求人の「標準スキャン」が「原稿原画の情報の保存」に該当しないとの主張は誤っており(上記「2」),甲第1号証の画像形成装置は,「標準スキャン」とは別に,本件発明1の構成要件Bの「原稿原画の情報の保存」及び「保存した原稿原画の情報のコピー」に該当する構成を有している(上記「3」)。したがって,甲1発明が本件発明1の構成要件Bを具備していないとの被請求人の主張自体も誤っている。
よって,構成要件Bに関する被請求人の主張はいずれにしても失当である。」

2.和解の経緯について
(1)弁駁書7頁20行〜8頁5行
「そして,特許無効審判は,特許権に基づく侵害訴訟が提起された場合の対抗手段として位置付けられるところ,現に,本件では,被請求人が請求人との事前交渉を一方的に打ち切り,被請求人が請求人に対して本件特許権に基づく侵害訴訟を提起すると通告をしてきたために,その対抗手段として請求人はやむを得ず本件審判を請求するに至ったものであるから,請求人の行為は何ら非難されるようなものではない。
なお,被請求人は,自らが特許法に無知であるかのような主張を行うが,事実に反する。本件特許は,発明者を被請求人と坪内正子の2名(共同発明)として,被請求人と坪内正子により共同出願が行われ,共同出願の状態で出願審査請求が行われた。その際,被請求人と坪内正子の持分比率が1:19であるとされ,坪内正子が出願審査請求手数料の免除対象者であったために,坪内正子の持分割合19/20に応じた額が出願審査請求手数料から免除された(すなわち,出願審査請求手数料は,通常の額の1/20となった。)。その後,本件特許の特許査定がなされ,特許料を納付することになった際にも,坪内正子が特許料の減免対象者であったために,第1〜3年の特許料については坪内正子の持分割合19/20に応じた額が免除され,第4〜6年の特許料については坪内正子の持分割合19/20に応じた額の1/2が軽減された。そして,当該特許料の納付が完了した後に,被請求人は坪内正子の持分(19/20)を特定承継して,本件特許の持分全てを保有するに至っている。これら一連の経緯が示すとおり,被請求人は,本件特許権につき,その取得費用を抑えるために,特許法上の減免制度を駆使してきたものであるから,同人が特許法上の手続きにつき相当程度通じていたことは明らかと言える。」

(2)弁駁書8頁6〜15行
「第4 答弁書の「6 理由」「(6)」「第2」「B」「○3」「○ウ」(答弁書12〜13頁)及び「第3」「○4」(答弁書15頁)に対する意見
被請求人は,答弁書の「6 理由」「(6)」「第2」「B」「○3」「○ウ」及び「第3」「○4」において,請求人と被請求人間の事前交渉時の「12通の手紙」の開示に関して同意を求めている。しかしながら,この「12通の手紙」により,被請求人が立証すると主張する,同人の言うところの「企業の社会的責任」なるものは,本件審判において審理事項となる無効理由の有無とは全く関係のないものであるから,請求人は「12通の手紙」の開示に同意しない。本件審判と全く関係のない主張及び証拠提出は,いたずらに本件審判手続を煩雑化させるだけであるから,被請求人は厳に慎むべきである。」

3.証拠方法
請求人は,審判請求書に添付して,甲第1号証ないし第7号証の2を提出した。

甲第1号証 : 特開2013−214848号公報
甲第2号証 : 特開2016−27762号公報(1頁目のみ)
甲第3号証 : 特開2015−43624号公報(1頁目のみ)
甲第4号証 : 特願2013−090149審査経過情報
(特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp)からの出力)
甲第5号証 : 特願2013−090149特許査定
甲第6号証 : 特許5641509号公報
甲第7号証の1 : 特願2014−223879明細書
甲第7号証の2 : 特願2014−223879図面

第4 被請求人の主張の概要
被請求人は,本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求めている。
被請求人の主張の概要は,次のとおりである。
なお,令和1年12月7日差出の手続補正書により補正された令和1年10月21日受付の答弁書(以下,「答弁書(1)」という。)に対し,請求人から令和1年12月19日付けの営業秘密に関する申出書が提出されている。合議体は,方式審査便覧58.20に基づき,請求人が営業秘密であると申し出た当該箇所が「明らかに秘密を保持する必要が無いと認められるもの」とは認められないので,以下において,該当箇所については不開示とする。

1.無効理由について
(1)本件特許の分割要件違反の発生原因及びその解消方法について
ア 答弁書(1)2頁2〜26行
「(1)分割出願の経緯について,
尚,以下,「本件出願1」,「本件出願2」,「本件出願3」,「本件特許」の呼称を被請求人も引用し,更に,「本件出願1」を「親出願」,「本件出願2」を「子出願」,「本件出願3」を孫出願,「本件特許」の出願を「ひ孫出願」と言う。

分割出願の経緯については,別紙で示すように,
子出願(本件出願2,特願2014−223879)は,
親出願(本件出願1,特願2013−090149)から分割され,
孫出願(本件出願3,特願2015−205148)は,
子出願から分割され,
ひ孫出願(本件特許,特願2016−092216)は,
孫出願から分割された。

(2) 分割違反の発生経緯について,
別紙の「分割違反の経緯と発生原因について,」が示すように,
親出願は,審査請求の前と後において,明細書等の自主的補正(削除,減縮)を行なっている。
尚,自主的補正(削除,減縮)の理由は,明細書が,長文となってしまった事を反省し,削除,減縮により明細書を短文にし,特許審査官の審査負担を軽減したいと考えたからである。
子出願は,親出願の特許査定後に出願をしており,正しくは,特許出願の分割の実体的要件の「(要件3)分割出願の明細書等に記載された事項が,原出願の分割直前の明細書等に記載された事項の範囲内であること。」が,満たされる必要があるが,実際には,「(要件2)分割出願の明細書等に記載された事項が,原出願の分割当初の明細書等に記載された事項の範囲内であること。」で行なわれており,(要件3)が,満たされておらず,分割違反となっている。
更に,孫出願及びひ孫出願は,子出願の分割違反に伴い,違法状態となっている。」

イ 答弁書(1)2頁27行〜3頁2行
「(3) 分割違反の発生原因について,
この発生原因の1つの要因は,特許出願人である当被請求人の無知によるが,被請求人は,特許審査官の審査結果に従っており,一切の責任や過失は,存在しない。
他方において,特許審査官は,審査請求時において,当該明細書の確認を実施していれば,この分割違反の発生を容易に防止できた単純で事務的であるが,重大な瑕疵が存在する。
即ち,審査請求時において,特許審査官の適切な査定により(特許法第49条),特許審査官から出願人に拒絶理由書を送付し(特許法第50条),出願人がこの拒絶理由書を基に手続補正書及び意見書を提出でき(特許法第17条1項),特許査定に至れば,本事件の発生は,防止できたが,実施されなかった。」

ウ 答弁書(1)3頁3行〜5頁下から4行
「(4) 手続違背を解消する為の方法について,
被請求人である特許出願人は,この手続違背を解消する為に,特許5842210号(子出願の特許)及び特許6055971号(本件特許)の特許査定の取消しを求め,本来許され,行なうことができた,特願2014−223879(子出願)の手続補正を行ない,更に,特願2016−092216(ひ孫出願)の手続補正を子出願まで遡りおこない合法化する事を,主張する。

(5) 本来許され行なうことができた補正作業について,
○1 明細書等の内容について,
別紙の「分割出願の経緯について,」や「分割違反の経緯と発生原因について,」が示すように,
乙第1号証は,甲第7号証(子出願,特願2014−223879)の最終的明細書等(特許5842210号公報)であり,
乙第2号証は,乙第4号証(孫出願,特願2015−205148)の最終的明細書等(公開2016−027762公報,拒絶査定)であり,
乙第3号証は,乙第5号証(ひ孫出願,特願2016−092216)の最終的明細書等(特許6055971号公報)であるが,
これらの明細書の実質的な補正内容は,【課題を解決するための手段】のみであり,これらの明細書の内容は,【課題を解決するための手段】以外の文言及び請求項の数の変更に伴う段落番号の変更以外は全て同じ内容である。
(尚,乙第1号証の段落番号0080にて変更の補正が存在するが,この補正部分は,段落番号0081より文言を移動しただけであり,明細書の実質的な内容は同じである。)
即ち,本事件には,数多くの明細書及び図面が存在するが,乙1第号証〜乙第5号証及び甲第7号証の明細書の【課題を解決するための手段】以外の文言及び図の補正前後の実質的な内容は全て同じである。
即ち,特許6055971号(乙第3号証)の明細書の,【課題を解決するための手段】以外の文言及び図の実質的な補正は,特許5641509号(甲第6号証)をもとに直接行なう事が可能である。

○2 本来なされるべき補正作業について,
特許5842210号(乙第1号証)の分割違反は,特願2014−223879(甲第7号証)を,特許5641509号(甲第6号証)の分割直前の範囲の明細書等に記載された事項の範囲内に補正することにより,分割違反が解消される。
更に,特許6055971号(乙第3号証)は,特願2016−092216(乙第5号証)を特許5641509号(甲第6号証)の分割直前の範囲の明細書等に記載された事項の範囲内に遡り補正することにより,手続違背を解消する。

○3 補正後の明細書及び図面について,
乙第6号証は,仮に,被請求人の主張が認められた場合を想定した,手続補正後の特願2014−223879であり,
乙第7号証は,仮に,被請求人の主張が認められた場合を想定した,手続補正後の特願2016−092216である。

○4 手続補正後の明細書及び図面の補正要件の充足性について,
本件に係わる全ての明細書の【課題を解決するための手段】以外の文言及び図面の補正内容は,自主的補正の削除,減縮のみであり,加えて,特許5641509号(甲第6号証)の特許査定時に,この充足性は審査済である。
即ち,補正要件である,「新規事項を追加する補正でないこと」(特許法第17条の2第3項),「発明の特別な技術的特徴を変更する補正でないこと」(特許法第17条の2第4項)を満たす。

○5 補正後の本件特許請求の範囲について,
被請求人の主張する手続補正が認められた場合を想定した特願2016−092216(乙第7号証)の特許請求の範囲は,次のとおりである。
尚,請求項1は,補正により「登録した複数の加工条件からなるプリントメニューのプリント,」の文言を削除している。(その他の文言の変更はない。)
【請求項1】
加工の実施に関する表示内容を複数に分け必要な表示内容に切り替えて表示するメーンとなる画面の表示手段と,このメーンとなる画面の表示手段を表示して,表示したこのメーンとなる画面の表示内容を実施する手段を設けた画像形成装置において,更に,登録した複数の加工条件からなるコピーメニューのコピー,原稿原画の情報の保存,保存した原稿原画の情報のコピーのいずれかの一つ或は複数の加工を実施する画像形成置装において,前記のメーンとなる画面の表示手段を表示せずに,更に,画面を切り替えずに,前記の加工を実施する指示を出す手段を設けた画像形成装置。
【請求項2】
音声により,前記の加工を実施する手段を設けた請求項1の画像形成装置。
【請求項3】
数字キーにより,前記の加工を実施する手段を設けた請求項1の画像形成装置。
【請求項4】
加工の実施を指示する指示部により,前記の加工を実施する手段を設けた請求項1の画像形成装置。
である。

○6 手続補正後の本件特許請求の範囲の補正要件の充足性について,
変更後の【請求項1】の根拠について,
手続補正後の明細書の段落【0032】〜【0036】,【0044】,【0046】〜【0047】,【0060】,【0074】〜【0076】その他で著している。
【請求項2】の根拠について,
手続補正後の明細書の段落【0071】,〜【0073】その他で著している。
【請求項3】の根拠について,
手続補正後の明細書の段落【0038】,【0046】〜【0047】,【0087】,【0090】〜【0091】その他で著している。
【請求項4】の根拠について,
手続補正後の明細書の段落【0046】〜【0047】,【0060】,【0075】〜【0076】その他で著している。
即ち,補正要件である,「新規事項を追加する補正でないこと」(特許法第17条の2第3項),「発明の特別な技術的特徴を変更する補正でないこと」(特許法第17条の2第4項),「特許請求の範囲の限定的減縮」(特許法第17条の2第5項第2号)を満たす。

○7 特許5842210号(子出願の特許)及び特許6055971号(本件特許)の特許査定の取消しを求め,本来許され,なされるべき手続補正を実施する事により,特許5842210号(子出願,特願2014−223879)及び特許6055971号(本件特許,ひ孫出願,特願2016−092216)は,特許法第49条,特許法第50条,特許法第17条1項の手続違背を解消できる。
更に,特許法第123条第1項第2号は解消され,特許法第29条第1項第3号又は同条第2項に該当しないので,特許を受けることができる。

○8 以上,請求人の主張は,本事件に至る原因を示しておらず,正確では無い為,認められない。
尚,本事件は,現在係争中の令和元年(ワ)第23164号特許権に基づく損害賠償請求事件に関しており,早急の方式審理を望む。」

エ 答弁書(1)5頁下から2行〜7頁4行
「第1 審判請求書2頁「7.請求の理由」に対する認否
下記の通りである。
○1 審判請求書2頁「第1 請求の理由の要約」に対する認否
特許第6055971号の「本件発明1」,「本件発明2」,「本件発明3」,「本件発明4」の存在は認め,その余は否認乃至争う。
特に,本書2〜3頁「(3) 分割違反の発生について,」で申し述べるように,本件特許の無効の発生原因が,行政の事務的な瑕疵によるものであり,受け入れることはできない。
更に,この違法性を認識した上で本件特許の損害賠償請求訴訟の請求を棄却する為に行なう審判請求を認める事は,請求人の社会的責任上において認められない。
詳細については,後記「第2 前記「第1 ○1,○3,○5,○22」の否認乃至争う理由」で申し述べる。

(中略)

○3 審判請求書3頁「第3 無効審判請求の根拠」に対する認否
否認乃至争う。
特に,本書2〜3頁「(3) 分割違反の発生について,」で申し述べるように,本件特許の無効の発生原因が,行政の事務的な瑕疵によるものであり,受け入れることはできない。
更に,この違法性を認識した上で本件特許の損害賠償請求訴訟の請求を棄却する為に行なう審判請求を認める事は,請求人の社会的責任上において認められない。
詳細については,後記「第2 前記「第1 ○1,○3,○5,○22」の否認乃至争う理由」で申し述べる。

(中略)

○5 審判請求書5〜6頁「5 本件特許の原出願日について」に対する認否
否認乃至争う。
特に,本書2〜3頁「(3) 分割違反の発生について,」で申し述べるように,本件特許の無効の発生原因が,行政の事務的な瑕疵によるものであり,受け入れることはできない。
更に,この違法性を認識した上で本件特許の損害賠償請求訴訟の請求を棄却する為に行なう審判請求を認める事は,請求人の社会的責任上において認められない。
詳細については,後記「第2 前記「第1 ○1,○3,○5,○22」の否認乃至争う理由」で申し述べる。」

オ 答弁書(1)10頁11〜21行
「第2 前記「第1 ○1,○3,○5,○22」の否認乃至争う理由
A 前記「第1 ○1,○3,○5,○22」の否認乃至争う理由の要約
○1 本無効審判は,特許審査官の「分割直前の明細書等」と「分割当初の明細書等」の単純な照合間違いによる行政の事務的な瑕疵による事案であり,社会通念上見地から判断されるべき事案であり,本無効審判の対象とはならない。

○2 請求人の請求に応じて本無効審判を行なえば,社会通念上,社会的責任上見地から許されない結果が生じる為,請求人の請求する本無効審判を行なってはならない。

○3 本無効審判の発生原因が,特許審査官の「分割直前の明細書等」と「分割当初の明細書等」の単純な照合間違いによる行政の事務的な瑕疵であり,本無効審判を行なう理由が無い。」

カ 答弁書(1)10頁22行〜11頁26行
「B 前記「第1 ○1,○3,○5,○22」の否認乃至争う理由の詳細
恐らくは,この様な審判に個人発明家が参加するのは希であり,個人発明家の特許取得事情が充分に理解されておらず,本審判に個人発明家の主張が充分に反映されない恐れがあると懸念するため,念の為に,個人発明家の特許取得事情から申し述べる。

○1 個人発明家の特許取得事情
a 個人発明家の特許取得の経緯
個人の特許取得は,一切の知識や経験の無い状態から始まる。
見様見真似で,手探りで,欠陥だらけの手続であっても,特許庁は,門前払いをする事無く,発明協会の相談・支援窓口やインターネットでホームページを設け,一人でも多くの個人が特許取得できるように,手厚い配慮を示している。
更に,特許庁は,この様な知識や経験の乏しい個人発明家の発明であっても,一度取得した発明であれば,弁理士を通した発明と変わること無く,同等の権利として認めている。

b 個人発明家にとっての査定の重要性について
○ア 審判を職業として扱う審判官にとっては,査定問題に関する審判の発生は,日々のことであり,当然の事と認識されているかも知れないが,特許知識や経験の乏しい個人発明家にとっては,査定の間違いは,絶対に在ってはならない事である。
○イ 特許知識や経験の乏しい個人発明家にとっては,特許審査官の査定結果は,疑う余地のない絶対的なものであり,今後の特許が認められるか否かの判断の唯一の拠り所である。
○エ 今回事件のように,個人発明家は,査定結果を疑う余地がなく査定結果に従い次の特許出願を行なう為,一度の審査の瑕疵であっても,この瑕疵の影響は,次の特許出願(分割)に及ぶ。
○オ 或は,今回事件のように,個人発明家が請求人に特許侵害に関する警告書を送付後に,計12回に及ぶ手紙のやり取りを行なったが,個人発明家は,査定結果を信じ,査定結果を疑う余地がなく,本審判請求書が手元に届くまでは,手続違背に気づくことなく,和解の機会を失い,本件特許の無効の危機に陥る。
○カ 願書,審査請求書,意見書,手続補正書等の書類を規則通りに提出し,出願手数料,審査請求料,特許料を規則通り支払い,義務を果たしている個人発明家が,突如特許権を失い,突如裁判費用の敗者負担の不利益が生じる危機に陥る。
○キ 査定は,本来の目的を鑑みて,特許知識や経験の乏しい個人発明家の立場を軽視する事無く,この重要性を認識されるべきである。」

キ 答弁書(1)11頁27行〜12頁9行
「○2 社会通念からみた本件事件
○ア 本件特許の無効の発生原因は,特許審査官の「分割直前の明細書等」と「分割当初の明細書等」の単純な照合間違いであるが,この様な単純な間違いは,市民生活の場では,手続をAとBで間違えた,商品をAとBで間違えた,書類をAとBで間違えた等と誰でもが日々経験するが,誤りを認め,誤りを正すことで,誰でもが日々何ら問題が発生する事なく解決している。

○イ 「司法の場に市民感覚を」と言われて久しいが,社会通念上においては,「AとB」の単純な照合間違いを犯した者(特許庁)が,間違いを認めず,法律を持ち出し,法律に当てはめて主張する事は,常識的にあり得ない。

○ウ 更に,社会通念上においては,「AとB」の単純な照合間違いを犯した者(特許庁)が,間違いを認めず,多額の金銭を要求する訂正審判を薦める事は,常識的にあり得ない。

○エ 社会通念上においては,間違いを犯した者(特許庁)は,査定の重要性を軽視する事無く,査定の重要性を認識して,直ちに誤りを正す事が困難であれば,先ずは,「AとB」の単純な照合間違いを認める。

○オ 国民の権利を守る法律は,弁護士や弁理士が駆使する条文の適用のみで運用されることなく,市民生活の場に目を向け,社会通念上見地から運用されるべきである。」

ク 答弁書(1)12頁10行〜13頁22行
「○3 企業の社会的責任から見た本件事件
○ア もとより,日本を代表し社会的責任を果たす義務がある大企業である請求人の無効審判の目的は明確であり,請求人の目的は,特許侵害を専門的に扱う請求人の知的財産法務本部・知的財産渉外第2部が,計12通の手紙のやり取りの中で,特許侵害を認めず,個人発明家の年間120万〜240万の本件特許権実施料の提案に回答せず,「本件特許の無効の発生原因が,特許審査官の「分割直前の明細書等」と「分割当初の明細書等」の単純な照合間違いによる行政の事務的な瑕疵に起因する」事を無視し,無効審判の「技術的特徴の対比・技術的範囲の属否について」の審判を要求し,個人発明家が提起した訴額600万円の訴訟を破棄して,個人発明家が苦労して取得した特許を無効する事にある。
○イ 請求人のこの無効審判の請求は,法律にあてはめれば合法かも知れない。
然しながら,請求人のこの無効審判の請求は,例えば,通常,企業と企業が争う「技術的特徴の対比・技術的範囲の属否について」の正当な審判とは,審判の性質が明確に相違する。
この無効審判の請求目的は,法律(審判)の専門家である弁護士が,法律(審判)に馴染みのない一般市民である個人発明家に対して,「本件特許の無効の発生原因が,特許審査官の「分割直前の明細書等」と「分割当初の明細書等」の単純な照合間違いによる行政の事務的な瑕疵に起因する」事を無視し,法律の専門知識を利用し,無理矢理法律の条文にあてはめ,個人発明家が取得した特許を無効にする事にあり,個人発明家の取得した特許の権利を奪い,特許取得の意欲を削ぎ,特許庁が設けた個人発明家を支援助成する制度を否定する事にあり,社会通念,社会的責任において反する行為であり,許されない。

○ウ 請求人がこの主張を否定するのであれば,先の12通の全ての手紙内容を開示して,更に詳しく,これを検証(立証)する用意がある。

○エ ●(省略)●これは,令和元年10月10日の被請求人の本件取下げ提案時の請求人の回答である。(尚,取下げ提案は,合意せず。)
○オ この本無効審判に係わる回答は,法律にあてはめれば合法かも知れない。
然しながら,日本を代表し社会的責任を果たす義務がある大企業である請求人の,個人発明家に対するこの本無効審判に係わる回答は,法律(審判)に不慣れな個人発明家に対して,●(省略)●個人発明家が苦労して取得した特許の権利を奪い,特許取得の意欲を削ぎ,特許庁が設けた個人発明家を支援助成する制度を否定する行為であり,社会通念,社会的責任において許されない行為である。

○カ 審判官は,これが,苦労して特許を取得した個人発明家の現実である事を認識すべきであり,特許庁が特許取得を薦める個人発明家の現実である事を認識すべきである。
「法律の条文にあてはめれば,社会通念上,社会的責任上において認められない行為であっても許される。」はずがなく,
国民の権利を守る法律は,「弁護士に任せなければ,運用できない。」ではなく,
市民生活の場に目を向け,社会通念上,社会的責任上から運用されるべきである。」

ケ 答弁書(1)13頁23行〜14頁26行
「○4 無効審判の審判対象について
そもそも,無効審判の審判対象は,前記「○2 社会通念からみた本件事件」,「○3 企業の社会的責任から見た本件事件」の理由を挙げるまでもなく,「技術的特徴の対比・技術的範囲の属否について」の審判を行なう案件では無く,「本件特許の無効の発生原因が,特許審査官の「分割直前の明細書等」と「分割当初の明細書等」の単純な照合間違いによる行政の事務的な瑕疵に起因する」案件であり,これについて審判されるべきである。

○5 前記「第1 ○1,○3,○5,○22」の否認乃至争う理由に対しての被請求人の主張
○ア 被請求人の主張1
無効審判(や訂正審判等)で通常実施される審判内容は,「技術的特徴の対比・技術的範囲の属否について」である。
然しながら,本件特許の無効の発生原因が,特許審査官の「分割直前の明細書等」と「分割当初の明細書等」の単純な照合間違いによる行政の事務的な瑕疵に起因する事案であり,社会通念上において,無効審判の「技術的特徴の対比・技術的範囲の属否について」の審判の対象とはならない。

○イ 被請求人の主張2
審判の場は,通常は,請求人の請求を法律に当てはめて判断をする場である。
然しながら,本件事件は,本件特許の無効の発生原因が,「特許審査官の「分割直前の明細書等」と「分割当初の明細書等」の単純な照合間違いによる行政の事務的な瑕疵」に起因する。」事案であり,被請求人の主張を無視して,請求人の請求に応じて無効審判の「技術的特徴の対比・技術的範囲の属否について」に限定した審判のみを実施すれば,社会通念上,社会的責任上見地から許されない結果が生じる。

○ウ 被請求人の主張3
無効審判(や訂正審判等)で通常実施される審判内容は,「技術的特徴の対比・技術的範囲の属否について」である。
然しながら,無効審判の「技術的特徴の対比・技術的範囲の属否について」の審判は,無効審判の最終的な結論では無い。
無効審判の「技術的特徴の対比・技術的範囲の属否について」の審判は,最終的な結論を導くための手段に過ぎない。
「本件特許の無効の発生原因は,特許審査官の「分割直前の明細書等」と「分割当初の明細書等」の単純な照合間違いによる行政の事務的な瑕疵に起因する。」これが本無効審判の結輪である。
結論が明確であれば,無効審判の「技術的特徴の対比・技術的範囲の属否について」を行なう理由は存在しない。

○エ 被請求人の主張4
本件は,行政訴訟等に及ぶ必要が無く,本無効審判で解決されるべき事件である。」

コ 答弁書(1)14頁27行〜15頁3行
「○6 まとめ
○ア 本無効審判は,特許審査官の「分割直前の明細書等」と「分割当初の明細書等」の単純な照合間違いによる行政の事務的な瑕疵による事案であり,社会通念上見地から判断されるべき事案であり,本無効審判の対象とはならない。

○イ 請求人の請求に応じて本無効審判を行なえば,社会通念上,社会的責任上見地から許されない結果が生じる為,請求人の請求する本無効審判を行なってはならない。

○ウ 本無効審判の発生原因が,特許審査官の「分割直前の明細書等」と「分割当初の明細書等」の単純な照合間違いによる行政の事務的な瑕疵であり,本無効審判を行なう理由が無い。」

サ 令和2年2月14日付けの答弁書(以下,「答弁書(2)」という。)5頁3〜16行
「第2 前記「第1」「(1)」に記載の本件審判の請求は成り立たない理由
(1)本件審判の請求は成り立たない理由の要約
この要約の理由は,既に,被請求人が,審判事件答弁書(令和1年12月9日付手続補正済)で申し述べる通りであるが,再度次に挙げる。

○1 本件審判は,特許審査官の「分割直前の明細書等」と「分割当初の明細書等」の単純な照合間違いによる行政の事務的な瑕疵に起因する事案であり,社会通念上見地から判断されるべき事案であり,本件審判の対象とはならない。

○2 請求人の請求に応じて本件審判を行なえば,社会通念上,社会的責任上見地から許されない結果が生じる為,請求人の請求する本件審判を行なってはならない。

○3 本件審判の発生原因が,特許審査官の「分割直前の明細書等」と「分割当初の明細書等」の単純な照合間違いによる行政の事務的な瑕疵であり,特許法第49条,特許法第50条,特許法第17条1項に違反する手続違背に起因しており,この手続違背を無視して,請求人が主張する特許法第123条第1項第2号の審判を行なう理由が無い。」

シ 答弁書(2)5頁17行〜7頁8行
「(2)前記「第2」「(1)」「○1」の社会通念上見地から判断されるべき事案について
○1 発明とは
○ア この目的が,産業振興に寄与するものであり,社会に貢献し社会から薦められるものであり,社会的に非難されるものでは無く,
○イ いっそうの努力工夫の結果により創造され,
○ウ 各種の書類を特許庁に提出して規則を守り,
○エ 各種の料金を特許庁に納め義務を果たし,
○オ 審判請求書が手元に届けばこの解決策を模索する。

○2 前記○オの解決策の対応について
○ア 「特許異議の申立」について,被請求人には,特許査定の審査結果を疑う理由がなく「特許異議の申立」の請求対象とはならなかった。
○イ 「訂正審判」について,「訂正の目的制限」の○1特許請求の範囲の減縮,○2誤記又は誤訳の訂正,○3明瞭でない記載の釈明,○4請求項間の引用関係の解消,の要件を満たしておらず「訂正審判」の請求対象とならない。
○ウ 仮に,無理矢理「訂正審判」を請求したとしても,本件特許は,子出願(特許査定),孫出願(拒絶査定)を経た,ひ孫出願(特許査定)であり,通常手続きでは認められる可能性はない。
○エ 特許庁には,今回の行政による手続違背を事前及び事後に正す制度はなく,被請求人自身が,今回の事件の行政による手続違背を事前及び事後に正す事はできない。
○オ 被請求人は,本件審判の請求を受けて,行なうべき事を行ない,できる事を行なった。
被請求人には,今以上の義務や責任は存在しない。更に違反を一切犯していない。

○3 仮に,特許庁が,被請求人のこれらの実情を無視して,身内である特許審査官の瑕疵に目を向けることをせず,特許審査官の瑕疵をかばい,被請求人に実害が発生するとすれば,社会通念上見地からすれば,これは,言葉巧みに親切に被請求人に発明を勧め,被請求人に何かにつけて金銭を要求し,事件になれば被請求人に対して行なったこれらの行為を無視する詐欺行為と変わらない。
仮に,行政自らが事態を把握,理解した上で,行政の責任を被請求人に転嫁し被請求人に被害が発生するとすれば,社会通念上見地からすれば,これは,行政自らによる犯罪行為と変わらない。

○4 仮に,特許庁が,今回の被請求人の実害の発生を防止できないとすれば,今回の被請求人と同様の被害者を出さない為に,特許知識の乏しい個人発明家による特許取得の制度を廃止し,専門知識を有する弁理士のみに限定した特許取得の制度に変更すべきである。

○5 仮に,特許庁が,今回の被請求人の実害の発生を防止できないとすれば,被請求人が,特許庁のどの様な規則に違反したのか,特許庁に対してどの様な責任や義務を果たさなかったかを示すべきである。

○6 無効審判で,通常実施される審理内容は,双方の技術的解釈に頼る難しい事案である
○ア 通常無効審判で実施される審理内容は,双方の技術を幾つかの構成要件に分説,対比して,技術的範囲の属否の争いにおいて,双方の主張が一致せず,結論を導き出す為には多くの議論を尽くし,多くの時間を要する難しい事案である。
仮に,本件事件が,この事案に相当するのであれば,被請求人は,この事情を汲み取りやむを得ない事と理解し,「社会通念」「社会的責任」を主張することはない。

○イ 然しながら,本件事件は,特許審査官の「分割直前の明細書等」と「分割当初の明細書等」の単純な照合間違いによる行政の事務的な瑕疵による事案であり,分説も,対比も,議論も,時間も必要の無い,明確な事件である。

○ウ 本件事件に行政の手続違背が無ければ,本件審判請求は存在せず,本件事件に行政の手続違背が存在した事により,本件審判請求書が提出された。
本件審判請求の根拠は,行政の瑕疵に起因するのは明確な事実である。

○7 特許庁は,社会通念上見地を何よりも尊重して,一般的な市民が納得できる結論を出すべきである。
以上,本件審判は,請求人の主張する審判の対象とはならない。」

ス 答弁書(2)7頁9行〜末行
「(3)前記「第2」「(1)」「○2」の社会的責任上見地から許されない事案について
○1 この事案ついては,審判事件答弁書(令和1年12月9日付け手続補正済)及び令和2年1月24日付け上申書で申し述べてきた。
然しながら,被請求人は,この事案でのこれ以上の争いは不本意である。

○2 理由は,被請求人が請求人に社会的責任を問うてきたが,もとより被請求人の主張が僅かでも請求人に伝われば,必要以上に,請求人の社会的信用を低下させることを,意図としないからである。

被請求人が,経験のない審判で,要領を得ず必死に成り過ぎたからである。
請求人の定石を見誤った反論内容が,事を悪化させたからである。

○3 更に,産業振興を願って出願し取得した本件特許発明であるが,もとより本件事件を機に被告製品に関する技術が停滞或は後退し,特許制度の趣旨に反する結果が生じれば,口惜しいと考えるからである。

○4 よって,今後において,被請求人よる前記「第2」「(1)」「○2」の社会的責任上見地から許されない事案についての主張は,請求人が争わないことを前提に行なわない。
被請求人は,請求人の希望する営業秘密に関する申出書の申出個所の黒塗り削除に加えて,請求人にとっての不都合な文言があり,請求人が望み,常識の範囲であれば,黒塗り削除を行う為の条件を設けず,不都合の文言の黒塗り削除に応じる。

○5 今後においては被請求人が請求人の主張を認めた訳では無いので,請求人が,被請求人のこの配慮を無にする事が無い様に願う。」

セ 答弁書(2)8頁1行〜9頁15行
「(4)前記「第2」「(1)」「○3」の本件審判を行なう理由が無い事案について
○1 本件審判請求の根拠となる特許法第29条第1項第3号又は同条第2項は,審判事件答弁書(令和1年12月9日付手続補正済)2頁〜3頁「(2) 分割違反の発生経緯について,」〜「(3) 分割違反の発生原因について,」で申し述べる様に,特許法第49条,特許法第50条,特許法第17条1項に違反する行政の瑕疵が起因するのは明確な事実である。

○2 更に,乙第7号証(補正が認められた場合の手続補正後の特願2016−092216)及び審判事件答弁書(令和1年12月9日付手続補正済)3頁〜5頁「(4) 手続違背を解消する為の方法について,」〜「○8」で示す様に,本来許され,なされるべき手続補正が実施されていれば,本件特許は,特許法第49条,特許法第50条,特許法第17条1項の違反の手続違背が発生せず,更に,特許法第29条第1項第3号又は同条第2項には該当しない。

○3 法律は,言うまでもなく,適法な事案のみに適用されるべきであり,明らかに違法性を有する事案をあてはめることは認められない。
本件特許は,前記○1が示すように行政の違法の手続違背があり,特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の法律を適用できない。

○4 更に本件特許の明細書の記載内容は,前記○2が示すように,行政が手続補正の指令を出せば,何時でも適法に訂正できる内容であり,特許法第29条第1項第3号又は同条第2項にはあてはまらない。

○5 元となる違法を無視して,目先の違法のみに目を向ければ,行政は更なる違法を犯す。
前記○1の特許法第49条,特許法第50条,特許法第17条1項に違反する行政の瑕疵の違法性を無視して,請求人が主張する特許法第29条第1項第3号又は同条第2項のみの審理を行なえば,行政は,前記○1の特許法第49条,特許法第50条,特許法第17条1項に違反する行政の瑕疵の違法の状態を救済する手段を喪失させ,この違法の状態を違法と確定させる。
更に行政は,特許法第1条の「発明の保護」「発明の奨励」の目的に違反し,更に特許法第29条の「発明をした者の特許を受ける権利」を奪うことになり,更なる違法を犯す。

○6 本件特許は,分割出願であるが故に,分割時に発明の構成要件が受け継がれると同様に行政の瑕疵による違法性も受け継がれるが,特許法第49条,特許法第50条,特許法第17条1項を適用する権利を有する。
仮に,今の法律には,今回のこの様な行政の違法性を是正できる制度がないとしても,これは法律の瑕疵であり,今後の行政の責任でこの違法性を解決されるべきである。

○7 行政は,請求人が主張する特許法第123条第1項第2号の審判を行なえば,前記○5が示すように,更なる違法を犯す。
行政は,請求人が主張する特許法第123条第1項第2号の審判を行なわなければ,少なくとも,更なる違法を犯すことはない。

○8 更に行政は,請求人が主張する特許法第123条第1項第2号の審判を行なわなければ,今或は今後の行政の責任で,前記○1の特許法第49条,特許法第50条,特許法第17条1項に違反する行政の瑕疵の違法性を合法に是正できる。

○9 今或は今後の行政の責任において,前記○1の特許法第49条,特許法第50条,特許法第17条1項に違反する行政の瑕疵の違法性を合法に是正できれば,本件特許は,特許法第29条第1項第3号及び同条第2項に該当せず,特許法第123条第1項第2号には該当せず,全ての違法性は解消される。

○10 よって,請求人が主張する特許法第29条第1項第3号又は同条第2項による特許法第123条第1項第2号の審判を行なう理由は無い。」

ソ 答弁書(2)9頁16〜21行
「(5) 無効審判弁駁書7頁「第3」上から17行目〜上から19行目の判例平成14年(行ケ)第188号についての反論
○1 この判例は,明細書の記載内容の訂正に関するものであり,発明の技術的解釈に関するものであり,通常実施される無効審判と同じである。

○2 本件審判の審理内容は,発明の技術的解釈に関するものではなく,ただ単に行政の瑕疵に関するものであり,請求人の主張は,あたらない。」

(2)本件発明1と甲1発明との対比について
ア 答弁書(1)7頁下から4行〜8頁下から4行
「○10 審判請求書14頁「(2) 構成要件B」に対する認否
○ア 本件発明1の構成要件Bは,「‥‥‥‥,原稿原画の情報の保存,保存した原稿原画の情報のコピーのいずれかの一つ或は複数の加工を実施する画像形成装置において」の記載があるが,
○イ 「イ」には,「保存した原稿原画の情報のコピー」についての記載が無い。
○ウ 更に「イ」には,「イ ‥‥‥‥原稿原画の情報の保存に関する「標準スキャン」‥‥‥‥」の記載があり,「原稿原画の情報の保存」と「標準スキャン」を同一としている。
然しながら,甲1発明においては,「標準スキャン」は,「原稿原画の情報の保存」,「保存した原稿原画の情報のコピー」とは別の技術的特徴を備える。
○エ 詳しくは,「標準スキャン」は,周知技術であり,スキャンした情報を,USBメモリ,SDカード,パソコンなど外部端末に保存するが,
○オ 「原稿原画の情報の保存」は,本件発明1の構成要件Bには,「‥‥‥‥,原稿原画の情報の保存,‥‥‥‥の加工を実施する画像形成装置‥‥‥‥」の文言があり,例えば,段落番号0065には,「原稿原画の情報の保存指示部5aで保存した情報は,図5の登録・保存メニューの画面2Cに自動で収納される。」の文言があり,段落番号0118には,「例えば,走査の原稿原画の読み取り手段で読み取った原稿に記録された情報の始まり部分の数個以下或いは十数個以下の文字が,「原稿原画の情報」名として自動で表示される。(図5の代表例は,「加工問題点報」,「生産日報」,「作業日報」‥‥‥等と,6文字以下で,「原稿原画の情報」名として表示されている。)」の文言があり,「原稿原画の情報」は画像形成装置に保存される。
○カ 「保存した原稿原画の情報のコピー」は,本件発明1の構成要件Bには,「‥‥‥‥保存した原稿原画の情報のコピー‥‥‥‥の加工を実施する画像形成装置‥‥‥」の文言があり,例えば,段落番号0048には,「登録メニューの告知部3に表示する加工内容は,‥‥‥‥原稿原画の情報名(例えば,「生産日報」,「修理伝票」,「提案用紙」)や原稿原画の情報の内容(例えば,原稿原画の情報の一部の表示や原稿原画の情報を縮小した一部の表示)‥‥‥‥を表示する告知手段である。」の記載があり,段落番号0057には,「登録メニューのスタート指示部4aである「カラーTスタート」,「モノクロTスタート」,「Tスタート」の各ボタンは,電源スイッチ23を「ON」後に,選択した登録メニューの告知部3A,3Bの複数の加工条件から成るメニューの加工をこの一押しで実施する。」の記載があり,画像形成装置にて「保存した原稿原画の情報のコピー」を行なう。
○ク 以上,本件発明1と甲1発明との対比は,「標準スキャン」では無く,「原稿原画の情報の保存」,「保存した原稿原画の情報のコピー」に関して行なわれるべきである。
○ケ よって,釈明を求め,認否を保留する。」

2.和解の経緯について
(1)答弁書(1)15頁12〜13行
「○4 「6」「(6)」「第2」「B」「○3 企業の社会的責任から見た本件事件」の請求人の認否を求め,先の12通の手紙の開示の合意を求める。」

(2)答弁書(2)3頁18行〜4頁末行
「○4 無効審判弁駁書7頁〜8頁「第3」について,
○ア 7頁上から3行目〜上から19行目「被請求人は,‥‥‥示している。)」について,
前記「第1 答弁の要約」「(1)」について否認乃至争う。

○イ 7頁上から20行目〜上から24行目「そして,‥‥‥ではない。」について,
請求人の主張は,偽証或は間違いである。
真実は,令和1年7月25日付被請求人の手紙で,「特許権実施契約の提案」をしているが,次回令和1年8月7日付請求人である濱田征一所長よりの手紙にて,「無効審判を提起する」事を一方的に告げられ,この返事として,令和1年8月9日付で被請求人が,「準備が整い次第訴状を提出する」と手紙で応じている。
よって,先に,事前交渉の一方的な打ち切りをしたのは請求人ある。

仮に,この主張を,請求人が「間違いであった」と釈明をするとしたならば,この間違いは,事前に「12通の手紙」で確認を済ませていれば,容易に防止できた事であり,余にも無責任な主張である。
更に,請求人は,無効審判弁駁書8頁にて,「「12通の手紙」の開示に同意しない。本件審判と全く関係のない主張及び証拠提出は,いたずらに本件審判手続を煩雑化させるだけであるから,被請求人は厳に慎むべきである。」と主張しておきながら,請求人の主張は,この「12通の手紙」に関して述べており,一貫性がなく,身勝手である。
然しながら,被請求人は,この件については,後記の「第2」「(3)」の理由により,今後は争わない。

○ウ 7頁上から25行目〜8頁目上から5行目「なお,‥‥‥言える。」について,
請求人の主張は,捏造或は間違いである。
請求人は,被請求人の許可なく,被請求人の私事を勝手に調べ,本件審判に関係のない個人名をこの個人の許可なく勝手に挙げ,更に事実でない事を主張すべきでは無い。
この個人が本件訴訟に参加しない事は,小栗担当弁護士に伝えてあるが,これを承知の上でこの個人名を挙げることは,前記の「偽証或は間違い」の主張と同様に,請求人にとって有益な主張とはならない。
真実は,特許庁の知財総合支援窓口は,特許取得費用の減免資格を持つ個人発明家に対して,個人発明家の発明の貢献度に応じた特許権の取得費用を抑える為に,パンフレットや書類様式等を用意し手厚く手続きの助をしてくれる。
更に,他方の共同発明者が,訴訟に加わることを希望しない事を知財総合支援窓口に相談し,特許庁電話交換に告げ,特許庁登録室より説明を受け書類様式を送付して頂き,この手続をしたものであり,そもそもが,本件特許の親出願である特許第5267830号の平成31年3月の特許料納付事情をみれば,減免金額は,名義変更をしてもしなくても,同じである事を理解出来るはずである。
反面,知財総合支援窓口は,特許査定に直接的にかかわる内容等は,発明家の責任で行なう事を前提にしており,アドバイスを受ける事が困難である。
よって,個人発明家にとって,発明協会のアドバイスが無い場合等の特許手続きは難しい。

今後において,大企業である請求人は,権力を盾に,この様な「偽証或は間違い」や「捏造或は間違い」の主張を行う事無く,社会的責任がある主張を行う事を,切に願う。
この件についても,被請求人は,後記の「第2」「(3)」の理由により,今後は争わない。」

3.証拠方法
被請求人は,答弁書(1)に添付して,乙第1号証ないし乙第7号証を提出した。

乙第1号証 : 特許5842210号公報
乙第2号証 : 特開2016−027762号公報
乙第3号証 : 特許6055971号公報
乙第4の1号証 : 特願2015−205148明細書
乙第4の2号証 : 特願2015−205148図面
乙第5の1号証 : 特願2016−092216明細書
乙第5の2号証 : 特願2016−092216図面
乙第6号証 : 補正が認められた場合の手続補正後の特願2014
−223879
乙第7号証 : 補正が認められた場合の手続補正後の特願2016
−092216

第5 無効理由に対する当審の判断
1.無効理由1について
(1)分割出願の経緯及び本件特許出願の遡及日について
(1−1)分割出願の経緯
本件特許出願(特願2016−92216号)は,特願2013−90149号(以下,「本件出願1」という。出願日:平成25年4月23日,特許査定の謄本送達日:平成26年10月7日,特許第5641509号)の分割出願である特願2014−223879号(以下,「本件出願2」という。出願日:平成26年11月4日,特許査定の謄本送達日:平成27年9月29日,特許第5842210号)の分割出願である特願2015−205148号(以下,「本件出願3」という。出願日:平成27年10月19日,拒絶査定の謄本送達日:平成28年4月5日)の分割出願であり,出願日は,平成28年5月2日である。

(1−2)本件出願2の分割適法性について
上記のとおり,本件出願2は,本件出願1について特許査定の謄本の送達がなされた平成26年10月7日(甲第4号証,特許査定がなされたのは,平成26年10月1日(甲第5号証))より後の平成26年11月4日に特許法第44条第1項の規定に基づいて分割出願がなされたものである(甲第3号証)。
そこで,本件出願2が適法に分割されたものであるか否かを検討する。

ア 特許出願の分割は,二以上の発明を包含する特許出願の一部を新たな特許出願とするものであるから,以下の(要件1)及び(要件3)が満たされる必要がある。また,分割出願が原出願の時にしたものとみなされるという特許出願の分割の効果を考慮すると,以下の(要件2)も満たされる必要がある。ただし,原出願の明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「明細書等」という。)について補正をすることができる時期に特許出願の分割がなされた場合は,(要件2)が満たされれば,(要件3)も満たされることとする。

(要件1) 原出願の分割直前の明細書等に記載された発明の全部が分割出願の請求項に係る発明とされたものでないこと。
(要件2) 分割出願の明細書等に記載された事項が,原出願の出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内であること。
(要件3) 分割出願の明細書等に記載された事項が,原出願の分割直前の明細書等に記載された事項の範囲内であること。
(特許出願を分割する際に満たされる必要がある上記(要件1)〜(要件3)を総称して,以下「分割要件」という。)

(参考:特許・実用新案審査基準 第VI部第1章第1節「2.2 特許出願の分割の実体的要件」)

イ 本件出願2についてみると,特許出願の分割がなされたのは,原出願(本件出願1,特願2013−90149号)の特許をすべき旨の査定の謄本送達日(平成26年10月7日)から30日以内である平成26年11月4日であって,原出願の明細書等について補正をすることができる時期ではないため,上記(要件2)とは別に上記(要件3)が満たされなければならないから,まず,(要件3)が満たされているか否かを検討する。

上記(要件3)の「原出願の分割直前の明細書等に記載された事項」は,本件でいえば,本件出願1の特許査定時の明細書,特許請求の範囲及び図面(以下「本件出願1査定時明細書等」という。)に記載された事項であり,本件出願1査定時明細書等は,甲第6号証(以下,「甲6」という。)のとおりである。

一方,上記(要件3)の「分割出願の明細書等に記載された事項」とは,本件でいえば,本件出願2の明細書,特許請求の範囲及び図面に記載された事項であり,本件出願2の明細書,及び図面(以下「本件出願2分割時明細書等」という。)は,甲第7号証の1及び2(以下,「甲7」という。)のとおりである。

本件出願1査定時明細書等(甲6)と本件出願2分割時明細書等(甲7)とを比較すると例えば以下の点で相違している。

(ア)甲7には,段落0045,0066〜0069,0074〜0075,0088に,メニューの確定指示部,メニューの変更指示部,スタート指示部24b,指定キープ指示部16bに関する記載が追加されている点。

(イ)甲7には,段落0100〜0107,0109,0122〜0125,0128,0131,0133,0134に,図4のスタート指示部24b,メニューの指定キープ指示部16b,メニューの指定取消し指示部17bに関する記載,図4,5のメニューの変更画面2B内で示す,倍率の「一つ上」や「一つ下」の表示部に関する記載,図4の登録番号の配置変更指示部194に関する記載,図5のスタート指示部24c,メニューの指定キープ指示部16c,メニューの指定取消し指示部17cに関する記載が追加されている点。

(ウ)甲7には,図7〜図15が追加されている点。

(エ)甲7には,図7〜図15に関連する説明として,段落0041,0042,0052,0135,0137,0141〜0182の記載が追加されている点。
例えば,図7のサブ操作盤20eに関して,段落0042,0052,0141〜0146の記載が追加されている点。
また,図8のサブ操作盤20fに関して,段落0147〜0150の記載が追加されている点。
また,図9の加工条件を収めたカードを操作盤1fに挿入して加工を実施する態様に関して,段落0151〜0153の記載が追加されている点。
また,図10の変更式登録メニューの告知部3G,3GAに表示,登録する手段,及び,変更式登録メニューの告知部3G,3GAに表示,登録したメニューを処理する手段等に関して,段落0154〜0158の記載が追加されている点。
また,図11の従来技術の作用に関して,段落0159〜0165の記載が追加されている点。
また,図12〜15の本発明の作用に関して,段落0166〜0182の記載が追加されている点。

(オ)甲7には,段落0185に,画面切り替えスイッチ7である「画面切替」のスイッチを「非表示」→電源スイッチ23を「ON」→(ガラス板上に原稿原画をセットする必要が無い→)登録・保存メニューのスタート指示部10B(数字キー10の上部の「●」の専用ボタン)の「1」と「6」を押す→スタート指示部24である「スタート」を押すという実施例が追加されている点。

以上のとおり,甲7は,甲6には存在しない記載事項を含むものであるから,甲7(本件出願2分割時明細書等)に記載された事項は,甲6(本件出願1査定時明細書等)に記載された事項の範囲内であるとはいえず,上記(要件3)を満たしていない。

ウ したがって,上記(要件1)及び(要件2)について検討するまでもなく,本件出願2は適法に分割されたものではない。

(1−3)本件特許出願の遡及日
そうすると,本件特許出願が本件出願3に対して分割要件を満たし,本件出願3が本件出願2に対して分割要件を満たしているとしても,本件出願2は本件出願1に対して分割要件を満たしていないから,本件出願2の出願日は,現実の出願日である平成26年11月4日であり,本件特許出願の遡及する出願日は,本件出願2の出願日である平成26年11月4日である。

したがって,甲第1号証(特開2013−214848号公報(平成25年10月17日出願公開))は,本件特許出願の遡及日より前に公開されたものである。

(1−4)被請求人の主張について
ア 被請求人は,答弁書(1)の「6 理由」の(1)〜(2)(上記第4の1.(1)ア)及び「6 理由」の(3)(同じく上記第4の1.(1)イ)において,分割違反の発生経緯とその発生原因について主張し,発生原因の1つの要因は,特許出願人である被請求人の無知によるが,被請求人は,特許審査官の審査結果に従っており,一切の責任や過失は,存在しない一方,特許審査官は,審査請求時において,当該明細書の確認を実施していれば,この分割違反の発生を容易に防止できた単純で事務的であるが,重大な瑕疵が存在すると主張する。
しかしながら,本件出願2の特許査定に至る審査において,審査官が分割要件違反について指摘していないことが審査官の行政の事務的な瑕疵であったか否かに係わらず,分割出願をどのように行うかは出願人に任されているものであり,分割出願を適法に行う責任は一義的には出願人が負うべきものであるから,上記主張は妥当なものではない。

イ 被請求人は,答弁書(1)の「6 理由」の(4)〜(5)(同じく上記第4の1(1)ウ)において,手続違背を解消する為の方法として,本件出願2及び本件特許出願の特許査定を取消し,本件出願2(子出願)及び本件特許出願(ひ孫出願)に対して,本来許され行うことができた補正作業をすることを主張しているが,本件出願2(子出願)は,平成27年9月10日付けで特許査定されて当該査定は確定しており,また,本件特許出願(ひ孫出願)は,平成28年9月29日付けで特許査定されて当該査定は確定しているので,本件出願2及び本件特許出願は審査に継続しておらず,被請求人が主張するような補正をする機会は無いから,当該主張を採用することはできない。

ウ 被請求人は,答弁書(1)の「6 理由」「(6)」「第2」「A」の「○1」「○3」(同じく上記第4の1.(1)オ),答弁書(1)の「6 理由」「(6)」「第2」「B」「○6」の「○ア」「○ウ」(同じく上記第4の1.(1)コ),答弁書(2)の「6」「第2」「(1)」の「○1」「○3」(同じく上記第4の1.(1)サ),及び答弁書(2)の「6」「第2」の「(2)」「(4)」(同じく上記第4の1.(1)シ,セ)において,本件出願2で分割要件違反が生じたことに関し,本件出願2の分割要件違反の存在が特許審査官の行政の事務的な瑕疵であるため,本件審判の対象とはならないし,本件審判を行う理由がないと主張している。
しかしながら,無効審判は,既に成立している特許について,特許法第123条第1項に規定される特許無効の理由が存在する瑕疵があるか否かを審理するものであって,分割要件違反を生じた原因が特許審査官の行政の事務的な瑕疵によるものであるか否かと,本件特許に無効理由が存在するか否かとは関連性は無いものであるから,分割要件違反に起因する無効理由が生じた原因がどのようなものであるとしても,そのことによって,本件審判を行う理由が無いということはできない。

エ 被請求人は,答弁書(1)の「6 理由」「(6)」「第2」「B」の「○1」(同じく上記第4の1.(1)カ)及び答弁書(1)の「6 理由」「(6)」「第2」「B」の「○3」(同じく上記第4の1.(1)ク)において,個人発明家の特許取得事情が充分に理解されていないこと,特許庁は行政の事務的な瑕疵を認め,行政の責任でこの違法性を解決すべきであり,法律を社会通念上見地から運用すべきであること,及び大企業である請求人の無効審判の請求は,社会通念上,社会的責任上において許されない行為であることを主張している。
しかしながら,特許制度は,特許制度を利用する出願人が個人発明家であるか大企業であるかに関係なく平等に利用できるものであり,その利用に際し,特許権という独占的な権利を得るためには適正に制度を利用すべきである。そして,その義務が個人発明家であることをもって免除されるものではなく,出願に関する支援制度等を利用して適正に特許制度を利用すべきでものである。

(2)甲第1号証
(2−1)甲第1号証の記載事項
甲第1号証には,以下の記載がある。

ア 「【技術分野】
【0001】
コピー機や,製版印刷機や,プリンタや,コピー機能やプリント機能やスキャナー機能やファクス機能を装備した複合機等の画像形成装置に関する。」

イ 「【発明を実施するための形態】
【0041】
図2,3,4,5は,本発明に関する代表図であり,コピー,プリント,スキャン機能を備える画像形成装置の操作部を示す。
図2は,装置の操作を行なう為の操作盤1を示す。
図3は,非表示状態にある画面2とメモ板又はメモ入れ12を示す。
図4は,メニューの変更画面2aを示す。
図5は,登録・保存メニューの画面2bを示す。
【0042】
図2の操作盤1は,次の操作・指示手段を備える。
メニューのスタート指示具3である各「スタート」ボタンは,電源を「ON」後に,複数の加工条件から成るメニューの加工をこの一押しで実施する。
【0043】
原稿原画の情報の保存指示具5である各「保存」ボタンは,電源を「ON」後に,原稿原画に記録された情報の保存を,この一押しで実施する。
【0044】
メニューの変更指示具6である各「変更」ボタンは,電源を「ON」後に,非表示状態にある画面から,複数の加工条件から成るメニューの加工条件の変更を行なう為のメニューの変更画面2aの表示をこの一押しで実施する。
【0045】
画面切り替えスイッチ7である「画面切替」スイッチは,「非表示」(「OFF」,「ECO」),「表示」の各モードに切り替え可能である。
「OFF」のモードの設定は,画面が非通電の非表示の状態である。
「ECO」のモードの設定は,画面が待機電力の非表示の状態である。
「表示」のモードの設定は,画面が表示の状態である。
「表示」のモードの設定は,登録・保存メニューの画面2b或いはメニューの変更画面2a或いはその他の画面を電源の「ON」により表示する。
【0046】
画面切り替えスイッチ7は,電源が「OFF」の状態でも「ON」の状態でも切り替え可能である。
画面切り替えスイッチ7が「非表示」の状態でも,(「表示」の状態でも,)メニューのスタート指示具3や原稿原画の情報の保存指示具5やメニューの変更指示具6や数字キー10は,稼動可能である。
電源が「OFF」の状態で,画面切り替えスイッチ7を「非表示」にセットしておけば,電源の「ON」時に,手間を要せず,画面に関する電力を節約できる。
画面切り替えスイッチ7が「表示」の状態でも,画面(例えば,メニューの変更画面2a,登録・保存メニューの画面2b等)の表示が完了するのを待つ事無く,メニューのスタート指示具3や原稿原画の情報の保存指示具5や数字キー10による作業の開始が可能である。
【0047】
画面2の非表示の状態からのメニューの変更画面2aの表示は,メニューの変更指示具6である「変更」ボタンの選択や画面切り替えスイッチ7の「非表示」から「表示」のモードの切り替えにより可能である。
又,画面2の非表示の状態からの登録・保存メニューの画面2bの表示は,画面切り替えスイッチ7の「非表示」から「表示」のモードの切り替えにより可能である。
【0048】
尚,メニューの変更指示具6の選択により最初に表示される画面を,メニューの変更画面2aに設定する事により,電源を「ON」後に,一つの指示で,メニューの変更の加工を可能にする。
尚,画面切り替えスイッチ7の「非表示」から「表示」のモードの切り替えにより最初に表示される画面を,登録・保存メニューの画面2bに設定する事により,電源を「ON」後に,一つの指示で,登録・保存メニューの加工を可能にする。
【0049】
尚,画面切り替えスイッチ7により表示された画面が,希望する画面が表示されない場合は,図4,5等で示す「画面変更」16a,16b等の表示部の選択により希望する画面の表示の切り替えを可能にする。
或いは,最初に表示する画面を指定できる様に,登録・保存メニューの画面2bやメニューの変更画面2aやその他の画面の表示を選択できるモードを画面切り替えスイッチ7である「画面切替」スイッチに設ける事が可能である。
或いは,登録・保存メニューの画面2bやメニューの変更画面2aやその他の画面の,それぞれの画面を表示する為のそれぞれの専用ボタンを設ける事が可能である。」

ウ 「【0055】
図2の例では,加工枚数を表示する為の枚数表示部9を操作盤1の上方に1つ設けているが,「複数の加工条件の一部」4aを示す表示部のそれぞれの枚数を示す部分に設ける事が可能である。
(即ち,図2の例では,「標準コピー」や「エココピー」や「書類コピー」や「標準写真」や「標準スキャン」の各「メニュー」の「複数の加工条件の一部」4aを示す表示部の枚数の「1枚」又は「各1枚」の表示部分を加工枚数に応じて,例えば「2枚」,「3枚」,……や「各2枚」,「各3枚」,……や「個人指定」,「個別指定」等と変化して表示する表示部の手段を設ける事が可能である。)」

エ 「【0062】
図3は,非表示状態にある画面2等を示す。
事前に,画面切り替えスイッチ7である「画面切替」スイッチで画面を「非表示」にセットしておけば,電源を「ON」にしても,画面は表示されず,画面に関する電力を節約する。
【0063】
画面が非表示でも,メニューのスタート指示具3や原稿原画の情報の保存指示具5や数字キー(登録・保存メニューのスタート指示具10b)による加工の作業が可能である。」

オ 「【0066】
図4は,メニューの変更画面2aを示す。
この画面は,操作盤1上の画面切り替えスイッチ7である「画面切替」スイッチの「表示」モードの設定や,メニューの変更指示具6である「変更」ボタンの選択により,非表示の画面から表示される。
【0067】
この画面の表示内容は,「分類名群」13と「分類内容」14と「その他の複数の加工条件」4bと「処理方法」15の表示部が表示される。
【0068】
「分類名群」13の表示部は,使用者が選択したメニューに関する複数の加工条件を分類別に収め,「倍率」や「用紙サイズ」や「給紙サイズ」や「紙種」‥‥‥等の分類名を付け配置している。
【0069】
「分類内容」14の表示部は,前記の分類名が,使用者が選択したメニューの操作盤1上に表示された「複数の加工条件の一部」4aに関しており,分類名の中に含まれている加工条件を,「自動」や「100%」や「一つ上」や「一つ下」‥‥‥等と表示している。
【0070】
「その他の複数の加工条件」4bの表示部は,使用者が選択したメニューの操作盤1上に表示されない複数の加工条件であり,「カセット」や「普通紙」や「片面」や「標準スピード」等を表示している。
【0071】
「分類内容」14の表示部を開示する分類名は,「分類名群」13の表示部より抜粋して設け,「分類内容」14の表示部と「その他の複数の加工条件」4bの表示部と「分類名群」13の表示部は同じ順位で配置され,「分類名群」13の表示部の使用者が選択したメニューを収めた分類名と「分類内容」14の表示部の使用者が選択したメニューの加工条件は強調されて表示される。
【0072】
加工条件の変更は,「分類内容」14内の表示部の変更したい加工条件の表示部をタッチする。[タッチすると,(先に設定してある,)メニューの加工条件の強調が解除され,(新たに,)タッチした加工条件が強調されて表示される。]
【0073】
「分類内容」14の表示部内に使用者が変更したい加工条件が無い場合は,「分類名群」13の表示部の使用者が変更したい分類名の表示部をタッチする。(タッチした分類名が強調されて表示される。)
次に,タッチしたメニューの加工条件を含む「分類内容」14の表示部が表示され,前記段落に準じて実施する。
【0074】
この処理は,「処理方法」15の「スタート」や「登録」や「登録→スタート」の表示部の選択により行なう。
「スタート」の表示部の選択は,変更したメニューでの加工を実施する。
「登録」の表示部の選択は,変更したメニューを登録・保存メニューの画面2bに表示状態で登録をする。
「登録→スタート」の表示部の選択は,変更したメニューでの加工を実施し,変更したメニューを登録・保存メニューの画面2bに表示状態で登録をする。」

カ 「【0079】
図5は,登録・保存メニューの画面2bを示す。
この画面は,操作盤1上の画面切り替えスイッチ7である「画面切替」スイッチの「表示」モードの設定により表示される。
画面切り替えスイッチ7は,電源が「ON」でも,「OFF」でも設定できる。
(「OFF」での「表示」モードの設定は,電源を「ON」にすると登録・保存メニューの画面2bが自動で表示される。)
(中略)
【0086】
表示部の「原稿原画の情報・加工条件」の「加工条件」は,メニューの変更画面2aにより変更した「複数の加工条件の一部」が表示される。
(中略)
【0098】
登録・保存メニューのスタート指示具17である「スタート」の表示部の選択は,「スタート」の表示部と同列の「NO」,「区分」,「原稿原画の情報・加工条件」での加工を実施する。」

キ 「【実施例1】
【0107】
以上,本発明に関する装置の各部の詳細について示したが,これ以降は,各請求項の代表例について示す。
図2の代表図が示す請求項1の発明は,例えば,電源を「ON」後に,(ガラス板上に原稿原画をセットして,メニューのスタート指示具3である「標準コピースタート」のボタンを,一押しするだけ等の)一つの指示で,(「倍率」条件が「100%」,「サイズ」条件が「自動」で選択,「カラー」条件が「自動」で選択,「枚数」条件が「1枚」,等の)複数の加工条件から成る(標準コピーの)メニューの(コピーの)加工を,実行できるメニューのスタート指示具(3)手段を設けた(コピー,プリント,スキャン機能を備える装置の)画像形成装置である。」

ク 「【0109】
図2の代表図が示す請求項2の発明は,例えば,電源を「ON」後に,(ガラス板上に原稿原画をセットして,原稿原画の情報の保存指示具5である「保存」のボタンを,一押しするだけ等の)一つの指示で,原稿原画に記録された情報を(走査等のセンサー手段により読み取り,装置の記憶装置に)保存(し,次回のコピー時に,この原稿原画を持参する必要が無く,この原稿原画をガラス板上にセットする必要が無く,コピーを行なう事が)できる原稿原画の情報の保存指示具手段を設けた(コピー,プリント,スキャン機能を備える装置の)画像形成装置である。」

ケ 「【0111】
或いは,図2の代表図が示す請求項3の発明は,例えば,(使用者が希望する「登録・保存番号」が「16」,「原稿原画の情報」名が「提案用紙」,「加工枚数」が「10」枚のコピーを行なう場合に於いて,)電源を「ON」後に,(ガラス板上に原稿原画をセットする必要が無く,数字キー10の上部の「●」の専用ボタンである登録・保存メニューのスタート指示具10bの「1」と「6」或いは「1」と「6」と「#」を押す等の,)一つの指示で,(メニューの変更画面2aで)登録した複数の加工条件から成るメニューの加工や,(原稿原画の情報の保存指示具5で)保存した原稿原画に記録された情報の加工(の中から,「登録・保存番号」が「16」,「原稿原画の情報」名が「提案用紙」,「加工枚数」が「10」枚を取り出し,コピーの加工)を,実行できる登録・保存メニューのスタート指示具(10b)手段を設けた(コピー,プリント,スキャン機能を備える装置の)画像形成装置である。」

コ 「【0114】
図2の代表図が示す請求項4の発明は,例えば,(画面切り替えスイッチ7である「画面切替」スイッチを「OFF」や「ECO」の「非表示」のモードにセットして,)画面(2)が非表示の状態でも(請求項1の発明のメニューのスタート指示具3手段や,請求項2の原稿原画の情報の保存指示具5手段や,請求項3の発明の数字キー10の登録・保存メニューのスタート指示具10b手段が)実行可能である,エコ手段を設けた請求項1,2,3の(コピー,プリント,スキャン機能を備える装置の)画像形成装置である。」

サ 「【実施例2】
【0122】
本発明の技術は,音声入力に対応する事が可能である。
即ち,「実施例1」のタッチ,プッシュ等の手操作手段を音声認識手段に替える事が可能である。
【0123】
例えば,請求項1の発明は,(音声モードスイッチを予め「ON」にセットし,)電源を「ON」後に,(ガラス板上に原稿原画をセットして,「標準コピースタート」と発声するだけ等の)一つの指示で,(「倍率」条件が「100%」,「サイズ」条件が「自動」で選択,「カラー」条件が「自動」で選択,「枚数」条件が「1枚」,等の)複数の加工条件から成る(標準コピーの)メニューの(コピーの)加工を,実行できるメニューのスタート指示具手段を設けた(コピー,プリント,スキャン機能を備える装置の)画像形成装置である。
【0124】
或いは,例えば,請求項1,7の発明は,(音声モードスイッチを予め「ON」にセットし,)電源を「ON」後に,(ガラス板上に原稿原画をセットして,「標準コピーの変更,倍率一つ下,枚数10枚,スタート」と発声するだけ等の)一つの指示で,[「倍率」条件が「86%」,「サイズ」条件が「B4」(原稿サイズ「A3」),「カラー」条件が「自動」,「枚数」条件が「10枚」,等の]複数の加工条件から成る(標準コピーの変更)メニューの(コピーの)加工を,実行できるメニューのスタート指示具手段を設けた(コピー,プリント,スキャン機能を備える装置の)画像形成装置である。
【0125】
例えば,請求項2の発明は,(音声モードスイッチを予め「ON」にセットし,)電源を「ON」後に,(ガラス板上に原稿原画をセットして,「保存」或いは「保存,提案用紙」と発声するだけ等の)一つの指示で,原稿原画に記録された情報を(走査等のセンサー手段により読み取り,装置の記憶装置に)保存(し,次回のコピー時に,この原稿原画を持参する必要が無く,この原稿原画をガラス板上にセットする必要が無く,「提案用紙」のコピーを行なう事が)できる原稿原画の情報の保存指示具手段を設けた(コピー,プリント,スキャン機能を備える装置の)画像形成装置である。

シ 「【請求項1】
電源をON後に,倍率,用紙サイズなどの複数の加工条件のメニューを表示する画面を非表示と表示に切り替える手段を備え,電源をON後に,この倍率,用紙サイズなどの複数の加工条件のメニューを表示する画面を表示して,この表示された画面の,倍率,用紙サイズなどの複数の加工条件のメニューの画像形成の加工を行なう手段を備えた画像形成装置において,倍率,用紙サイズなどの複数の加工条件のメニューを操作盤に設けた指示具或いは指示具付近に表示する手段を備え,電源のOFF時に,倍率,用紙サイズなどの複数の加工条件のメニューを表示する画面の非表示,表示を選択する手段を備え,電源のOFF時に,この倍率,用紙サイズなどの複数の加工条件のメニューを表示する画面の非表示を選択し,電源のON以降に,この倍率,用紙サイズなどの複数の加工条件のメニューを表示する画面を表示せずに,この非表示の倍率,用紙サイズなどの複数の加工条件のメニューの画像形成の加工を行なう手段を備えた画像形成装置。」(【手続補正書】【特許請求の範囲】)

ス 「図2



セ 「図3



ソ 「図4



タ 「図5



(2−2)甲1発明
上記甲第1号証に記載されている事項について検討する。

ア 上記(2−1)イの段落0041〜0045の記載及び図2〜5の記載から,甲第1号証には,
「前記画像形成装置の操作部は,装置の操作を行なう為の操作盤1と画面2を有し,
操作盤1は,
電源を「ON」後に,複数の加工条件から成るメニューの加工をこの一押しで実施する,メニューのスタート指示具3である各「スタート」ボタンと,
電源を「ON」後に,原稿原画に記録された情報の保存を,この一押しで実施する,原稿原画の情報の保存指示具5である各「保存」ボタンと,
電源を「ON」後に,非表示状態にある画面から,複数の加工条件から成るメニューの加工条件の変更を行なう為のメニューの変更画面2aの表示をこの一押しで実施する,メニューの変更指示具6である各「変更」ボタンと,
「非表示」(「OFF」,「ECO」),「表示」の各モードに切り替え可能である画面切り替えスイッチ7とを備え」ることが記載されていると認められる。

イ 上記(2−1)イの段落0047〜0049の記載から,甲第1号証には,
「画面2は,非表示状態であるか,メニューの変更画面2a又は登録・保存メニューの画面2bを表示するものであり,
画面2の非表示の状態からのメニューの変更画面2aの表示は,メニューの変更指示具6である「変更」ボタンの選択や画面切り替えスイッチ7の「非表示」から「表示」のモードの切り替えにより可能であり,
又,画面2の非表示の状態からの登録・保存メニューの画面2bの表示は,画面切り替えスイッチ7の「非表示」から「表示」のモードの切り替えにより可能であり,
画面切り替えスイッチ7により表示された画面が,希望する画面が表示されない場合は,「画面変更」16a,16b等の表示部の選択により希望する画面の表示の切り替えが可能であ」ることが記載されていると認められる。

ウ 上記(2−1)オの段落0066〜0074の記載及び図4の記載から,甲第1号証には,
「メニューの変更画面2aには,
「分類名群」13と「分類内容」14と「その他の複数の加工条件」4bと「処理方法」15の表示部が表示され,
「分類名群」13の表示部は,使用者が選択したメニューに関する複数の加工条件を分類別に収め,「倍率」や「用紙サイズ」や「給紙サイズ」や「紙種」‥‥‥等の分類名を付け配置しており,
「分類内容」14の表示部は,前記の分類名が,使用者が選択したメニューの操作盤1上に表示された「複数の加工条件の一部」4aに関しており,分類名の中に含まれている加工条件を,「自動」や「100%」や「一つ上」や「一つ下」‥‥‥等と表示しており,
「その他の複数の加工条件」4bの表示部は,使用者が選択したメニューの操作盤1上に表示されない複数の加工条件であり,「カセット」や「普通紙」や「片面」や「標準スピード」等を表示しており,
加工条件の変更は,「分類内容」14内の表示部の変更したい加工条件の表示部をタッチすると,先に設定してある,メニューの加工条件の強調が解除され,新たに,タッチした加工条件が強調されて表示され,
「分類内容」14の表示部内に使用者が変更したい加工条件が無い場合は,「分類名群」13の表示部の使用者が変更したい分類名の表示部をタッチすると,タッチした分類名が強調されて表示され,
次に,タッチしたメニューの加工条件を含む「分類内容」14の表示部が表示され,
変更したメニューでの加工を実施する処理は,「処理方法」15の「スタート」や「登録」や「登録→スタート」の表示部の選択により行ない,「スタート」の表示部の選択は,変更したメニューでの加工を実施するものであり,「登録」の表示部の選択は,変更したメニューを登録・保存メニューの画面2bに表示状態で登録をするものであ」ることが記載されていると認められる。

エ 上記(2−1)カの段落0079,0086,0098の記載及び図5の記載から,甲第1号証には,
「登録・保存メニューの画面2bの表示部の「原稿原画の情報・加工条件」の「加工条件」は,メニューの変更画面2aにより変更した「複数の加工条件の一部」が表示され,
登録・保存メニューのスタート指示具17である「スタート」の表示部の選択は,「スタート」の表示部と同列の「NO」,「区分」,「原稿原画の情報・加工条件」での加工を実施」することが記載されていると認められる。

オ 上記(2−1)イの段落0042,キの段落0107の記載及び図2の記載から,
「メニューのスタート指示具3である各「スタート」ボタンには,「標準コピースタート」ボタン,「エココピースタート」ボタン,「書類コピースタート」ボタン及び「標準写真スタート」ボタンがあり,各「スタート」ボタンは,電源を「ON」後に,複数の加工条件から成るメニューの加工をこの一押しで実施することができ」ることが記載されていると認められる。

カ 上記(2−1)キの段落0107の記載から,甲第1号証には,
「前記画像形成装置は,電源を「ON」後に,ガラス板上に原稿原画をセットして,メニューのスタート指示具3である「標準コピースタート」のボタンを,一押しするだけ等の一つの指示で,「倍率」条件が「100%」,「サイズ」条件が「自動」で選択,「カラー」条件が「自動」で選択,「枚数」条件が「1枚」,等の複数の加工条件から成る標準コピーのメニューのコピーの加工を実行できるものであ」ることが記載されていると認められる。

キ 上記(2−1)ウの段落0055の記載及び図2の記載から,甲第1号証には,
「「標準コピー」の「メニュー」の「複数の加工条件の一部」4aを示す表示部には,「倍率」条件が「100%」,「サイズ」条件が「自動」,「カラー」条件が「自動」,「枚数」条件が「1枚」,等の複数の加工条件が表示され」ていることが記載されていると認められる。

ク 上記(2−1)ウの段落0055の記載及び図2の記載から,甲第1号証には,
「「標準写真」の「メニュー」の「複数の加工条件の一部」4aを示す表示部には,「サイズ」条件が「L判」,「紙種」条件が「光沢紙」,「カラー」条件が「自動」,「速度」条件が「きれい」,「枚数」条件が「1枚」,等の複数の加工条件が表示され」ていることが記載されていると認められる。

ケ 上記(2−1)ウの段落0055の記載及び図2の記載から,甲第1号証には,
「「標準スキャン」の「メニュー」の「複数の加工条件の一部」4aを示す表示部には,「倍率」条件が「100%」,「サイズ」条件が「自動」,「カラー」条件が「自動」,「場所」条件が「デスクトップ」,「枚数」条件が「1枚」,等の複数の加工条件が表示され」ていることが記載されていると認められる。

コ 上記(2−1)クの段落0109の記載から,甲第1号証には,
「前記画像形成装置は,電源を「ON」後に,ガラス板上に原稿原画をセットして,原稿原画の情報の保存指示具5である「保存」のボタンを,一押しするだけ等の一つの指示で,原稿原画に記録された情報を走査等のセンサー手段により読み取り,装置の記憶装置に保存し,次回のコピー時に,この原稿原画を持参する必要が無く,この原稿原画をガラス板上にセットする必要が無く,コピーを行なう事ができ」ることが記載されていると認められる。

サ 上記(2−1)ケの段落0111の記載から,甲第1号証には,
「前記画像形成装置は,例えば,使用者が希望する「登録・保存番号」が「16」,「原稿原画の情報」名が「提案用紙」,「加工枚数」が「10」枚のコピーを行なう場合に於いて,電源を「ON」後に,ガラス板上に原稿原画をセットする必要が無く,数字キー10の上部の「●」の専用ボタンである登録・保存メニューのスタート指示具10bの「1」と「6」或いは「1」と「6」と「#」を押す等の,一つの指示で,メニューの変更画面2aで登録した複数の加工条件から成るメニューの加工や,原稿原画の情報の保存指示具5で保存した原稿原画に記録された情報の加工の中から,「登録・保存番号」が「16」,「原稿原画の情報」名が「提案用紙」,「加工枚数」が「10」枚を取り出し,コピーの加工を,実行でき」ることが記載されていると認められる。

シ 上記(2−1)イの段落0046の記載,上記(2−1)エの段落0063の記載,上記(2−1)コの段落0114の記載及び上記(2−1)シの請求項1の記載から,甲第1号証には,
「画面切り替えスイッチ7である「画面切替」スイッチを「OFF」や「ECO」の「非表示」のモードにセットして,画面(2)が非表示の状態でも,メニューのスタート指示具3手段や,原稿原画の情報の保存指示具5手段や,数字キー10の登録・保存メニューのスタート指示具10b手段が実行可能であり,
前記画像形成装置は,電源のON以降に,倍率,用紙サイズなどの複数の加工条件のメニューを表示する画面を表示せずに,この非表示の倍率,用紙サイズなどの複数の加工条件のメニューの画像形成の加工を行なう手段を備えて」いることが記載されていると認められる。

ス 上記(2−1)サの段落0122〜0125の記載から,甲第1号証には,
「前記画像形成装置のタッチ,プッシュ等の手操作手段を音声認識手段に替える事が可能であり,
前記画像形成装置は,音声モードスイッチを予め「ON」にセットし,電源を「ON」後に,ガラス板上に原稿原画をセットして,「標準コピースタート」と発声するだけ等の一つの指示で,「倍率」条件が「100%」,「サイズ」条件が「自動」で選択,「カラー」条件が「自動」で選択,「枚数」条件が「1枚」,等の複数の加工条件から成る標準コピーのメニューのコピーの加工を実行でき,
また,前記画像形成装置は,音声モードスイッチを予め「ON」にセットし,電源を「ON」後に,ガラス板上に原稿原画をセットして,「保存」或いは「保存,提案用紙」と発声するだけ等の一つの指示で,原稿原画に記録された情報を走査等のセンサー手段により読み取り,装置の記憶装置に保存し,次回のコピー時に,この原稿原画を持参する必要が無く,この原稿原画をガラス板上にセットする必要が無く,提案用紙のコピーを行なう事ができる」ることが記載されていると認められる。

上記(2−1)キには【実施例1】と記載され,上記(2−1)サには【実施例2】と記載されているが,上記(2−1)キ〜コの【実施例1】,サ,シの【実施例2】は,上記(2−1)イ〜カの【発明を実施するための形態】を,それぞれ一観点から説明したものであるから,上記(2−1)に摘記した甲第1号証の記載事項は全体として1つの発明を把握することができるものといえる。
そうすると,上記ア〜スで検討した事項及び上記(2−1)に摘記した甲第1号証の記載事項から,甲第1号証には,次のとおりの発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
なお,甲1発明の各構成の符号は,説明のために付与したものであり,以下,構成aないし構成hと称する。

(a)コピー機や,製版印刷機や,プリンタや,コピー機能やプリント機能やスキャナー機能やファクス機能を装備した複合機等の画像形成装置であって,

(b)前記画像形成装置の操作部は,装置の操作を行なう為の操作盤1と画面2を有し,
前記操作盤1は,
電源を「ON」後に,複数の加工条件から成るメニューの加工をこの一押しで実施する,メニューのスタート指示具3である各「スタート」ボタンと,
電源を「ON」後に,原稿原画に記録された情報の保存を,この一押しで実施する,原稿原画の情報の保存指示具5である各「保存」ボタンと,
電源を「ON」後に,非表示状態にある画面から,複数の加工条件から成るメニューの加工条件の変更を行なう為のメニューの変更画面2aの表示をこの一押しで実施する,メニューの変更指示具6である各「変更」ボタンと,
「非表示」(「OFF」,「ECO」),「表示」の各モードに切り替え可能である画面切り替えスイッチ7とを備え,

(c)前記画面2は,
非表示状態であるか,メニューの変更画面2a又は登録・保存メニューの画面2bを表示するものであり,
前記画面2の非表示の状態からのメニューの変更画面2aの表示は,メニューの変更指示具6である「変更」ボタンの選択や画面切り替えスイッチ7の「非表示」から「表示」のモードの切り替えにより可能であり,
又,画面2の非表示の状態からの登録・保存メニューの画面2bの表示は,画面切り替えスイッチ7の「非表示」から「表示」のモードの切り替えにより可能であり,
前記画面切り替えスイッチ7により表示された画面が,希望する画面が表示されない場合は,「画面変更」16a,16b等の表示部の選択により希望する画面の表示の切り替えが可能であり,

(d)前記メニューの変更画面2aには,
「分類名群」13と「分類内容」14と「その他の複数の加工条件」4bと「処理方法」15の表示部が表示され,
前記「分類名群」13の表示部は,使用者が選択したメニューに関する複数の加工条件を分類別に収め,「倍率」や「用紙サイズ」や「給紙サイズ」や「紙種」‥‥‥等の分類名を付け配置しており,
前記「分類内容」14の表示部は,前記の分類名が,使用者が選択したメニューの操作盤1上に表示された「複数の加工条件の一部」4aに関しており,分類名の中に含まれている加工条件を,「自動」や「100%」や「一つ上」や「一つ下」‥‥‥等と表示しており,
「その他の複数の加工条件」4bの表示部は,使用者が選択したメニューの操作盤1上に表示されない複数の加工条件であり,「カセット」や「普通紙」や「片面」や「標準スピード」等を表示しており,
加工条件の変更は,「分類内容」14内の表示部の変更したい加工条件の表示部をタッチすると,先に設定してある,メニューの加工条件の強調が解除され,新たに,タッチした加工条件が強調されて表示され,
前記「分類内容」14の表示部内に使用者が変更したい加工条件が無い場合は,「分類名群」13の表示部の使用者が変更したい分類名の表示部をタッチすると,タッチした分類名が強調されて表示され,
次に,タッチしたメニューの加工条件を含む「分類内容」14の表示部が表示され,
変更したメニューでの加工を実施する処理は,「処理方法」15の「スタート」や「登録」や「登録→スタート」の表示部の選択により行ない,「スタート」の表示部の選択は,変更したメニューでの加工を実施するものであり,「登録」の表示部の選択は,変更したメニューを登録・保存メニューの画面2bに表示状態で登録をするものであり,

(e)前記登録・保存メニューの画面2bの表示部の「原稿原画の情報・加工条件」の「加工条件」は,メニューの変更画面2aにより変更した「複数の加工条件の一部」が表示され,
登録・保存メニューのスタート指示具17である「スタート」の表示部の選択は,「スタート」の表示部と同列の「NO」,「区分」,「原稿原画の情報・加工条件」での加工を実施し,

(f)メニューのスタート指示具3である各「スタート」ボタンには,「標準コピースタート」ボタン,「エココピースタート」ボタン,「書類コピースタート」ボタン及び「標準写真スタート」ボタンがあり,各「スタート」ボタンは,電源を「ON」後に,複数の加工条件から成るメニューの加工をこの一押しで実施することができ,

(f1)前記画像形成装置は,電源を「ON」後に,ガラス板上に原稿原画をセットして,メニューのスタート指示具3である「標準コピースタート」のボタンを,一押しするだけ等の一つの指示で,「倍率」条件が「100%」,「サイズ」条件が「自動」で選択,「カラー」条件が「自動」で選択,「枚数」条件が「1枚」,等の複数の加工条件から成る標準コピーのメニューのコピーの加工を実行できるものであり,

(f2)「標準コピー」の「メニュー」の「複数の加工条件の一部」4aを示す表示部には,「倍率」条件が「100%」,「サイズ」条件が「自動」,「カラー」条件が「自動」,「枚数」条件が「1枚」,等の複数の加工条件が表示され,

(f3)「標準写真」の「メニュー」の「複数の加工条件の一部」4aを示す表示部には,「サイズ」条件が「L判」,「紙種」条件が「光沢紙」,「カラー」条件が「自動」,「速度」条件が「きれい」,「枚数」条件が「1枚」,等の複数の加工条件が表示され,

(f4)「標準スキャン」の「メニュー」の「複数の加工条件の一部」4aを示す表示部には,「倍率」条件が「100%」,「サイズ」条件が「自動」,「カラー」条件が「自動」,「場所」条件が「デスクトップ」,「枚数」条件が「1枚」,等の複数の加工条件が表示され,

(f5)前記画像形成装置は,電源を「ON」後に,ガラス板上に原稿原画をセットして,原稿原画の情報の保存指示具5である「保存」のボタンを,一押しするだけ等の一つの指示で,原稿原画に記録された情報を走査等のセンサー手段により読み取り,装置の記憶装置に保存し,次回のコピー時に,この原稿原画を持参する必要が無く,この原稿原画をガラス板上にセットする必要が無く,コピーを行なう事ができ,

(f6)前記画像形成装置は,例えば,使用者が希望する「登録・保存番号」が「16」,「原稿原画の情報」名が「提案用紙」,「加工枚数」が「10」枚のコピーを行なう場合に於いて,電源を「ON」後に,ガラス板上に原稿原画をセットする必要が無く,数字キー10の上部の「●」の専用ボタンである登録・保存メニューのスタート指示具10bの「1」と「6」或いは「1」と「6」と「#」を押す等の,一つの指示で,メニューの変更画面2aで登録した複数の加工条件から成るメニューの加工や,原稿原画の情報の保存指示具5で保存した原稿原画に記録された情報の加工の中から,「登録・保存番号」が「16」,「原稿原画の情報」名が「提案用紙」,「加工枚数」が「10」枚を取り出し,コピーの加工を,実行でき,

(g)前記画面切り替えスイッチ7である「画面切替」スイッチを「OFF」や「ECO」の「非表示」のモードにセットして,画面(2)が非表示の状態でも,メニューのスタート指示具3手段や,原稿原画の情報の保存指示具5手段や,数字キー10の登録・保存メニューのスタート指示具10b手段が実行可能であり,
前記画像形成装置は,電源のON以降に,倍率,用紙サイズなどの複数の加工条件のメニューを表示する画面を表示せずに,この非表示の倍率,用紙サイズなどの複数の加工条件のメニューの画像形成の加工を行なう手段を備えており,

(h)前記画像形成装置のタッチ,プッシュ等の手操作手段を音声認識手段に替える事が可能であり,
前記画像形成装置は,音声モードスイッチを予め「ON」にセットし,電源を「ON」後に,ガラス板上に原稿原画をセットして,「標準コピースタート」と発声するだけ等の一つの指示で,「倍率」条件が「100%」,「サイズ」条件が「自動」で選択,「カラー」条件が「自動」で選択,「枚数」条件が「1枚」,等の複数の加工条件から成る標準コピーのメニューのコピーの加工を実行でき,
また,前記画像形成装置は,音声モードスイッチを予め「ON」にセットし,電源を「ON」後に,ガラス板上に原稿原画をセットして,「保存」或いは「保存,提案用紙」と発声するだけ等の一つの指示で,原稿原画に記録された情報を走査等のセンサー手段により読み取り,装置の記憶装置に保存し,次回のコピー時に,この原稿原画を持参する必要が無く,この原稿原画をガラス板上にセットする必要が無く,提案用紙のコピーを行なう事ができる

(a)画像形成装置。

(3)対比・判断
(3−1)本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。

ア 構成Aについて
(ア−1)構成Aと甲1発明との第1の対比について
(ア−1−1)構成A1及びA3について
構成aの「コピー機や,製版印刷機や,プリンタや,コピー機能やプリント機能やスキャナー機能やファクス機能を装備した複合機等の画像形成装置」は構成A3の「画像形成装置」に対応する。
構成dの「分類内容」14の表示部に表示される「自動」,「100%」,「一つ上」,「一つ下」等の「加工条件」は,コピーの加工を実施するための条件であるから,構成A1における「加工の実施に関する表示内容」に相当する。
構成dの「分類名群」13は,「倍率」,「用紙サイズ」,「紙種」等の加工条件の分類名の「群」であり,前記「分類内容」14は,分類名毎に分類される加工条件の内容であるから,構成dの,加工条件を分類名毎に分類して表示する「メニューの変更画面2a」と構成A1とは,「加工の実施に関する表示内容」を「複数に分けて表示する画面」である点で共通する。
また,構成dの「メニューの変更画面2a」は,前記「分類内容」14の表示部内に使用者が変更したい加工条件が無い場合は,「分類名群」13の表示部の使用者が変更したい分類名の表示部をタッチすると,タッチしたメニューの加工条件を含む「分類内容」14の表示部が表示されるものであり,必要な加工条件を含む「分類名」をタッチすることで必要な加工条件に切り替えて表示しているものであるから,構成A1とは,「必要な表示内容に切り替えて表示する」点で共通する。
また,構成dの「メニューの変更画面2a」は,甲1発明の画像形成装置を操作するための主たる操作画面であるから,構成A1の「メーンとなる画面」に相当する。
以上の検討から,構成dの「メニューの変更画面2a」は構成A1の「加工の実施に関する表示内容を複数に分け必要な表示内容に切り替えて表示するメーンとなる画面」に相当する。

甲1発明の画像形成装置は,「メニューの変更画面2a」を表示していることから,当該「メニューの変更画面2a」を表示する「表示手段」を設けていることは明らかである。

したがって,甲1発明の「画像形成装置」と構成Aの「画像形成装置」とは,「(A1)加工の実施に関する表示内容を複数に分け必要な表示内容に切り替えて表示するメーンとなる画面の表示手段」を設けた「(A3)画像形成装置」の点で一致する。

(ア−1−2)構成A2について
構成dの「変更したメニューでの加工を実施する」ことは,「メニューの変更画面2a」において変更された加工条件の加工を実施することであり,当該「変更された加工条件」が「メニューの変更画面2a」に表示された状態で,「処理方法」15の「スタート」の表示部の選択を行うと,表示された加工条件での加工を実施することであるといえる。
してみれば,構成dの「変更したメニューでの加工を実施する」ための手段は,構成A2の「このメーンとなる画面の表示手段を表示して,表示したこのメーンとなる画面の表示内容を実施する手段」に相当する。

(ア−1−3)構成Aについて
上記(ア−1−1),(ア−1−2)の検討から,甲1発明と構成Aとは,「(A)(A1)加工の実施に関する表示内容を複数に分け必要な表示内容に切り替えて表示するメーンとなる画面の表示手段と,(A2)このメーンとなる画面の表示手段を表示して,表示したこのメーンとなる画面の表示内容を実施する手段を設けた(A3)画像形成装置」の点で一致する。

(ア−2)構成Aと甲1発明との第2の対比について
(ア−2−1)構成A1について
構成dの「メニューの変更画面2a」に表示される「分類内容」14は,「自動」,「100%」,「一つ上」,「一つ下」等のコピーの加工条件であるから,構成A1の「加工の実施に関する表示内容」に相当する。
また,構成eの「登録・保存メニューの画面2b」に表示される「「原稿原画の情報・加工条件」の「加工条件」」は,メニューの変更画面2aにより変更した「複数の加工条件の一部」であるから,構成Aの「加工の実施に関する表示内容」に相当する。
してみれば,甲1発明の画面2は,「加工の実施に関する表示内容」を「メニューの変更画面2a」に表示する内容と「登録・保存メニューの画面2b」に表示する内容とに分けて表示しているといえる。
そして,構成cのとおり,「メニューの変更画面2a」と「登録・保存メニューの画面2b」は,必要に応じて切り替えて表示されるものである。
また,構成dの「メニューの変更画面2a」及び構成eの「登録・保存メニューの画面2b」は,甲1発明の画像形成装置を操作するための主たる操作画面であるから,構成A1の「メーンとなる画面」に相当する。
してみれば,構成dの「メニューの変更画面2a」と構成eの「登録・保存メニューの画面2b」とを切り替えて表示する「表示手段」は構成A1の「(A1)加工の実施に関する表示内容を複数に分け必要な表示内容に切り替えて表示するメーンとなる画面の表示手段」に相当する。

(ア−2−2)構成A2について
上記(ア−1−2)より,構成dの「変更したメニューでの加工を実施する」ための手段は,構成A2の「このメーンとなる画面の表示手段を表示して,表示したこのメーンとなる画面の表示内容を実施する手段」に相当する。
また,構成eの「登録・保存メニューの画面2b」に表示された「原稿原画の情報・加工条件」の「加工条件」は,メニューの変更画面2aにより変更した「複数の加工条件の一部」であり,登録・保存メニューのスタート指示具17である「スタート」の表示部を選択すると,「スタート」の表示部と同列の「NO」,「区分」,「原稿原画の情報・加工条件」での加工が実施されることから,この処理を実行する手段は,構成A2の「このメーンとなる画面の表示手段を表示して,表示したこのメーンとなる画面の表示内容を実施する手段」に相当する。

(ア−2−3)構成Aについて
上記(ア−2−1),(ア−2−2)の検討から,甲1発明と構成Aとは,「(A)(A1)加工の実施に関する表示内容を複数に分け必要な表示内容に切り替えて表示するメーンとなる画面の表示手段と,(A2)このメーンとなる画面の表示手段を表示して,表示したこのメーンとなる画面の表示内容を実施する手段を設けた(A3)画像形成装置」の点で一致する。

(イ)以上のとおりであるから,上記(ア−1)の第1の対比の場合及び上記(ア−2)の第2の対比の場合のいずれの場合も,甲1発明と構成Aとは,「(A)(A1)加工の実施に関する表示内容を複数に分け必要な表示内容に切り替えて表示するメーンとなる画面の表示手段と,(A2)このメーンとなる画面の表示手段を表示して,表示したこのメーンとなる画面の表示内容を実施する手段を設けた(A3)画像形成装置」の点で一致する。

イ 構成Bについて
(ア)構成B1について
構成f1の「画像形成装置」は,電源を「ON」後に,ガラス板上に原稿原画をセットして,メニューのスタート指示具3である「標準コピースタート」のボタンを,一押しするだけ等の一つの指示で,「倍率」条件が「100%」,「サイズ」条件が「自動」で選択,「カラー」条件が「自動」で選択,「枚数」条件が「1枚」,等の複数の加工条件から成る標準コピーのメニューのコピーの加工を実行できるものであるところ,「標準コピーのメニュー」に表示される複数の「加工条件」は,これらの加工条件の選択操作をすることなく,「標準コピースタート」のボタンを一押しするだけで,前記加工条件でのコピーを実行できるものであるから,前記加工条件は登録されたものであるといえる。
してみれば,構成f1の「複数の加工条件から成る標準コピーのメニューのコピー」は構成B1の「登録した複数の加工条件からなるコピーメニューのコピー」に相当する。

(イ)構成B2について
構成f3の「標準写真」の「メニュー」に表示される,「サイズ」条件が「L判」,「紙種」条件が「光沢紙」,「カラー」条件が「自動」,「速度」条件が「きれい」,「枚数」条件が「1枚」,等の複数の加工条件は,上記(ア)の検討も踏まえると,構成B2の「登録した複数の加工条件からなるプリントメニュー」に相当する。
また,構成fより,メニューのスタート指示具3である各「スタート」ボタンには,「標準写真スタート」ボタンがあり,当該「標準写真スタート」ボタンは,電源を「ON」後に,複数の加工条件から成るメニューの加工,すなわち,「登録した複数の加工条件からなるプリントメニュー」のプリントをこの一押しで実施することができるものである。
してみれば,構成f及びf3の「「標準写真」の「メニュー」に表示される」「複数の加工条件から成るメニューの加工」は,構成B2の「登録した複数の加工条件からなるプリントメニューのプリント」に相当する。

(ウ)構成B3について
構成f5の画像形成装置は,電源を「ON」後に,ガラス板上に原稿原画をセットして,原稿原画の情報の保存指示具5である「保存」のボタンを,一押しするだけ等の一つの指示で,原稿原画に記録された情報を走査等のセンサー手段により読み取り,装置の記憶装置に保存するものである。
構成f5の「原稿原画に記録された情報」を「装置の記憶装置に保存」することは,構成B3の「原稿原画の情報」の「保存」に相当する。
したがって,構成f5の「原稿原画に記録された情報を走査等のセンサー手段により読み取り,装置の記憶装置に保存する」ことは,構成B3の「原稿原画の情報の保存」に相当する。

(エ)構成B4について
構成f6の画像形成装置は,例えば,使用者が希望する「登録・保存番号」が「16」,「原稿原画の情報」名が「提案用紙」,「加工枚数」が「10」枚のコピーを行なう場合に於いて,電源を「ON」後に,ガラス板上に原稿原画をセットする必要が無く,数字キー10の上部の「●」の専用ボタンである登録・保存メニューのスタート指示具10bの「1」と「6」を押す等の,一つの指示で,原稿原画の情報の保存指示具5で保存した原稿原画に記録された情報の加工の中から,「登録・保存番号」が「16」,「原稿原画の情報」名が「提案用紙」,「加工枚数」が「10」枚を取り出し,コピーの加工を実行できるものである。
構成f6の「原稿原画の情報の保存指示具5で保存した原稿原画に記録された情報」の「コピーの加工を実行」することは構成B4の「保存した原稿原画の情報」の「コピー」に相当する。
したがって,構成f6の「原稿原画の情報の保存指示具5で保存した原稿原画に記録された情報の加工の中から,「登録・保存番号」が「16」,「原稿原画の情報」名が「提案用紙」,「加工枚数」が「10」枚を取り出し,コピーの加工を実行」することは構成B4の「保存した原稿原画の情報のコピー」に相当する。

(オ)上記(ア)〜(エ)の検討から,甲1発明の画像形成装置は,構成B1〜B4に相当する「全ての」加工を実施するものであるから,甲1発明と構成Bとは,「(B)更に,(B1)登録した複数の加工条件からなるコピーメニューのコピー,(B2)登録した複数の加工条件からなるプリントメニューのプリント,(B3)原稿原画の情報の保存,(B4)保存した原稿原画の情報のコピーのいずれかの一つ或は複数の加工を実施する(A3)画像形成装置」の点で一致する。

ウ 構成Cについて
(ア)構成C1及びC3について
構成gでは,画面切り替えスイッチ7を「OFF」や「ECO」の「非表示」のモードにセットして,画面(2)が非表示の状態でも,メニューのスタート指示具3手段や,原稿原画の情報の保存指示具5手段や,数字キー10の登録・保存メニューのスタート指示具10b手段が実行可能であるところ,構成gの「画面(2)」は,構成C1の「前記のメーンとなる画面」に相当するから,構成gの「画面(2)が非表示の状態」は,構成C1の「前記のメーンとなる画面の表示手段を表示」しない状態に相当する。

構成gの「メニューのスタート指示具3手段」は,「登録した複数の加工条件からなるコピーメニューのコピー」(構成B1に相当する。)の加工を実施する指示を出す手段であるといえる。
また,構成gの「メニューのスタート指示具3手段は,「登録した複数の加工条件からなるプリントメニューのプリント」(構成B2に相当する。)の加工を実施する指示を出す手段であるともいえる。
また,構成gの「原稿原画の情報の保存指示具5手段」は,「原稿原画の情報の保存」(構成B3に相当する。)の加工を実施する指示を出す手段であるといえる。
また,構成gの「数字キー10の登録・保存メニューのスタート指示具10b手段」は,「保存した原稿原画の情報のコピー」(構成B4に相当する。)の加工を実施する指示を出す手段であるといえる。
したがって,構成gの画像形成装置は,構成B1〜B4の「全ての」加工を実施する指示を出す手段を設けたものであるといえる。
一方,構成C3の「前記の加工」とは,構成Bの「構成B1〜B4」の「いずれかの一つ或は複数の加工」のことであるから,構成gの画像形成装置と構成Cの画像形成装置とは,「(C3)前記の加工を実施する指示を出す手段を設けた」点で共通する。

以上の検討から,構成gの画像形成装置と構成Cの画像形成装置とは,「(C1)前記のメーンとなる画面の表示手段を表示せずに,(C3)前記の加工を実施する指示を出す手段を設けた」点で共通する。

(イ)構成C2について
構成C1で,「前記のメーンとなる画面の表示手段を表示」していない状態では,「画面を切り替え」ることはないから,構成C1が満たされれば,構成C2は必然的に満たされているといえる。

(ウ)構成Cについて
上記(ア),(イ)の検討から,甲1発明と構成Cとは,「(C)(C1)前記のメーンとなる画面の表示手段を表示せずに,(C2)更に,画面を切り替えずに,(C3)前記の加工を実施する指示を出す手段を設けた(A3)画像形成装置。」の点で一致する。

エ 上記ア〜ウの検討から,本件発明1と甲1発明とは,

「(A)(A1)加工の実施に関する表示内容を複数に分け必要な表示内容に切り替えて表示するメーンとなる画面の表示手段と,(A2)このメーンとなる画面の表示手段を表示して,表示したこのメーンとなる画面の表示内容を実施する手段を設けた(A3)画像形成装置において,
(B)更に,(B1)登録した複数の加工条件からなるコピーメニューのコピー,(B2)登録した複数の加工条件からなるプリントメニューのプリント,(B3)原稿原画の情報の保存,(B4)保存した原稿原画の情報のコピーのいずれかの一つ或は複数の加工を実施する(A3)画像形成装置において,
(C)(C1)前記のメーンとなる画面の表示手段を表示せずに,(C2)更に,画面を切り替えずに,(C3)前記の加工を実施する指示を出す手段を設けた(A3)画像形成装置。」

である点において一致し,両者の間に相違する点はない。

オ したがって,本件発明1は,甲第1号証に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。

カ 標準スキャンについての被請求人の主張について
被請求人は,答弁書(1)の「6 理由」「(6)」「第1」の「○10」(上記第4の1.(2)アにおいて,甲1発明の標準スキャンは,スキャンした情報をUSBメモリ,SDカード,パソコンなど外部端末に保存するものであり,本件特許発明の「原稿原画の情報の保存」とは異なるものである旨の主張をしているが,「標準スキャン」が外部端末に保存するものであることは,本件特許の明細書等に記載された事項ではなく,さらに当該技術分野における周知技術であるとは認められない。
よって,上記主張は採用することができない。
また,審判請求書14頁の「(2) 構成要件B」の「イ」には,「保存した原稿原画の情報のコピー」についての記載が無いとの主張をしているが,構成要件Bは上記「イ 構成Bについて」で判断したとおり,一致点と判断されることから,当該主張も採用することができない。

(3−2)本件発明2について
本件発明2と甲1発明とを対比する。

ア 構成Dについて
構成hの「画像形成装置」は,タッチ,プッシュ等の手操作手段を音声認識手段に替える事で,「標準コピースタート」と発声するだけで,すなわち,音声により,「倍率」条件が「100%」,「サイズ」条件が「自動」で選択,「カラー」条件が「自動」で選択,「枚数」条件が「1枚」,等の複数の加工条件から成る標準コピーのメニューのコピーの加工を実行することができ,また,「保存」或いは「保存,提案用紙」と発声するだけで,すなわち,音声により,原稿原画に記録された情報を走査等のセンサー手段により読み取り,装置の記憶装置に保存することができるものである。
ここで,構成hの「「倍率」条件が「100%」,「サイズ」条件が「自動」で選択,「カラー」条件が「自動」で選択,「枚数」条件が「1枚」,等の複数の加工条件から成る標準コピーのメニューのコピー」,「原稿原画に記録された情報を走査等のセンサー手段により読み取り,装置の記憶装置に保存すること」は,それぞれ構成Bの「(B1)登録した複数の加工条件からなるコピーメニューのコピー」,「(B3)原稿原画の情報の保存」に相当する。
また,上記(3−1)ウ(ア)より,構成Dの「前記の加工」とは,構成C3の「前記の加工」と同様,構成Bの「構成B1〜B4」の「いずれかの一つ或は複数の加工」のことであるから,上記で検討した構成hの構成B1に相当する加工と構成B3に相当する加工は,構成Dの「前記の加工」に相当する。
してみれば,構成hの「「標準コピースタート」と発声するだけ等の一つの指示で,「倍率」条件が「100%」,「サイズ」条件が「自動」で選択,「カラー」条件が「自動」で選択,「枚数」条件が「1枚」,等の複数の加工条件から成る標準コピーのメニューのコピーの加工を実行」する手段と,「「保存」或いは「保存,提案用紙」と発声するだけ等の一つの指示で,原稿原画に記録された情報を走査等のセンサー手段により読み取り,装置の記憶装置に保存」する手段は,構成Dの「音声により,前記の加工を実施する手段」に相当する。

イ 構成Eについて
構成Eは,「(E)請求項1の画像形成装置」であるから,本件発明1のことである。
そして,上記(3−1)で検討したとおり,本件発明1は甲第1号証に記載された発明であるから,甲1発明は構成Eを備えているといえる。

ウ 上記ア及びイの検討から,本件発明2と甲1発明との間に相違する点はない。

エ したがって,本件発明2は,甲第1号証に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。

(3−3)本件発明3について
本件発明3と甲1発明とを対比する。

ア 構成Fについて
構成f6の「数字キー10の上部の「●」の専用ボタンである登録・保存メニューのスタート指示具10b」は,構成Fの「数字キー」に相当する。
構成f6では,「数字キー10の上部の「●」の専用ボタンである登録・保存メニューのスタート指示具10b」を押すことで,原稿原画の情報の保存指示具5で保存した原稿原画に記録された情報の加工の中から,「登録・保存番号」が「16」,「原稿原画の情報」名が「提案用紙」,「加工枚数」が「10」枚を取り出し,コピーの加工を実行できるものである。
ここで,構成f6の「原稿原画の情報の保存指示具5で保存した原稿原画に記録された情報の加工の中から,「登録・保存番号」が「16」,「原稿原画の情報」名が「提案用紙」,「加工枚数」が「10」枚を取り出し,コピーの加工をすること」は,構成Bの「(B4)保存した原稿原画の情報のコピー」に相当する。
また,上記(3−1)ウ(ア)より,構成Fの「前記の加工」とは,構成C3の「前記の加工」と同様,構成Bの「構成B1〜B4」の「いずれかの一つ或は複数の加工」のことであるから,構成f6の構成B4に相当する加工は,構成Fの「前記の加工」に相当する。
してみれば,構成f6の「数字キー10の上部の「●」の専用ボタンである登録・保存メニューのスタート指示具10bの「1」と「6」或いは「1」と「6」と「#」を押す等の,一つの指示で,原稿原画の情報の保存指示具5で保存した原稿原画に記録された情報の加工の中から,「登録・保存番号」が「16」,「原稿原画の情報」名が「提案用紙」,「加工枚数」が「10」枚を取り出し,コピーの加工を,実行する手段」は構成Fの「数字キーにより,前記の加工を実施する手段」に相当する。

イ 構成Gについて
構成Gは,「(G)請求項1の画像形成装置」であるから,本件発明1のことである。
そして,上記(3−1)で検討したとおり,本件発明1は甲第1号証に記載された発明であるから,甲1発明は構成Gを備えているといえる。

ウ 上記ア及びイの検討から,本件発明3と甲1発明との間に相違する点はない。

エ したがって,本件発明3は,甲第1号証に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。

(3−4)本件発明4について
本件発明4と甲1発明とを対比する。

ア 構成Hについて
上記(3−1)ウ(ア)より,構成Hの「前記の加工」とは,構成C3の「前記の加工」と同様,構成Bの「構成B1〜B4」の「いずれかの一つ或は複数の加工」のことである。

構成f1の「メニューのスタート指示具3である「標準コピースタート」のボタン」は,これを一押しするだけ等の一つの指示で,「倍率」条件が「100%」,「サイズ」条件が「自動」で選択,「カラー」条件が「自動」で選択,「枚数」条件が「1枚」,等の複数の加工条件から成る標準コピーのメニューのコピーの加工を実行できるものであるから,登録した複数の加工条件からなるコピーメニューのコピー(構成B1)の「加工の実施を指示する指示部」であるといえる。
そうすると,甲1発明の画像形成装置と本件発明4の画像形成装置とは,「加工の実施を指示する指示部」により,構成B1の加工を実施する手段を設けている点で一致する。

上記(3−1)イ(イ)より,構成fの「「標準写真スタート」ボタン」は,構成f3の「標準写真」の「メニュー」に表示される,「サイズ」条件が「L判」,「紙種」条件が「光沢紙」,「カラー」条件が「自動」,「速度」条件が「きれい」,「枚数」条件が「1枚」,等の複数の加工条件から成るメニューの加工をこの一押しで実施することができるものであるから,登録した複数の加工条件からなるプリントメニューのプリント(構成B2)の「加工の実施を指示する指示部」であるといえる。
そうすると,甲1発明の画像形成装置と本件発明4の画像形成装置とは,「加工の実施を指示する指示部」により,構成B2の加工を実施する手段を設けている点で一致する。

構成f5の「原稿原画の情報の保存指示具5である「保存」のボタン」は,これを一押しするだけ等の一つの指示で,原稿原画に記録された情報を走査等のセンサー手段により読み取り,装置の記憶装置に保存することができるものであるから,原稿原画の情報の保存(構成B3)の「加工の実施を指示する指示部」であるといえる。
そうすると,甲1発明の画像形成装置と本件発明4の画像形成装置とは,「加工の実施を指示する指示部」により,構成B3の加工を実施する手段を設けている点で一致する。

構成f6の「数字キー10の上部の「●」の専用ボタンである登録・保存メニューのスタート指示具10b」は,当該指示具の「1」と「6」或いは「1」と「6」と「#」を押す等の,一つの指示で,原稿原画の情報の保存指示具5で保存した原稿原画に記録された情報の加工の中から,「登録・保存番号」が「16」,「原稿原画の情報」名が「提案用紙」,「加工枚数」が「10」枚を取り出し,コピーの加工を実行することができるものであるから,保存した原稿原画の情報のコピー(構成B4)の「加工の実施を指示する指示部」であるといえる。
そうすると,甲1発明の画像形成装置と本件発明4の画像形成装置とは,「加工の実施を指示する指示部」により,構成B4の加工を実施する手段を設けている点で一致する。

以上から,甲1発明の画像形成装置は,「加工の実施を指示する指示部により」,構成B1〜B4の「全ての」加工を実施する手段を設けたものであるといえる。

してみれば,甲1発明の画像形成装置と本件発明4の画像形成装置とは,「(H)加工の実施を指示する指示部により,前記の加工を実施する手段を設けた」点で共通する。

イ 構成Iについて
構成Iは,「(I)請求項1の画像形成装置」であるから,本件発明1のことである。
そして,上記(3−1)で検討したとおり,本件発明1は甲第1号証に記載された発明であるから,甲1発明は構成Iを備えているといえる。

ウ 上記ア及びイの検討から,本件発明4と甲1発明との間に相違する点はない。

エ したがって,本件発明4は,甲第1号証に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。

(4)小括
以上のとおり,本件発明1ないし4についての特許は,特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであるから特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

2.無効理由2について
上記1.の検討から,本件発明1ないし4についての特許は,請求人の主張する無効理由2(特許法第29条第2項)について判断するまでもなく,請求人の主張する無効理由1(特許法第29条第1項第3号)によって無効とすべきものである。

第6 被請求人の主張について

(1)被請求人は,答弁書(1)の「6 理由」「(6)」「第2」「A」「○2」(上記第4の1.(1)オ),答弁書(1)の「6 理由」「(6)」「第2」「B」「○6」の「○イ」(同じく上記第4の1.(1)コ),答弁書(2)の「6」「第2」「(1)」の「○2」(同じく上記第4の1.(1)サ),及び答弁書(2)の「6」「第2」の「(3)」(同じく上記第4の1.(1)ス)において,請求人の請求に応じて本無効審判を行なえば,社会通念上,社会的責任上見地から許されない結果が生じる為,請求人の請求する本無効審判を行なってはならないと主張するが,上記第5の1.(4)エに示したとおりであるから,当該主張を採用することはできない。

(2)また,被請求人は,答弁書(1)の「6 理由」「(6)」「第2」「B」の「○4」「○5」(同じく上記第4の1.(1)ケ)において,「本件特許の無効の発生原因が,特許審査官の「分割直前の明細書等」と「分割当初の明細書等」の単純な照合間違いによる行政の事務的な瑕疵に起因する」案件であることについて無効審判において審判されるべきである旨主張しているが,上記第5の1.(4)ウに示したとおり,無効審判制度は,特許権に無効理由が存在するか否かを判断する制度であって,行政の事務的な瑕疵について判断する制度ではないから,被請求人の主張を採用することはできない。

(3)また,被請求人は,答弁書(1)の「6 理由」「(6)」「第2」「B」の「○3」(同じく上記第4の1.(1)ク)及び答弁書(2)の「6」「第1」「(3)」「○4」の「○イ」「○ウ」(同じく上記第4の2.(2))において,請求人との和解の交渉の経緯について述べるとともに,答弁書(1)の「6 理由」「(6)」「第3」の「○4」(同じく上記第4の2.(1))において,和解交渉の経緯を立証するという12通の手紙の開示の合意を求める旨の主張をしているが,和解の経緯等は本件審判の上記した特許法第29条第1項第3号及び第29条第2項の判断に何ら影響を与えるものではないので,当該主張を採用することはできない。

(4)営業秘密について
請求人は令和1年12月19日付けの営業秘密に関する申出書において,「○1 令和1年12月9日付け手続補正書に添付された審判事件答弁書の13頁2行目の「○エ 」の後から,4行目「これは,」の前まで。」及び「○2 令和1年12月9日付け手続補正書に添付された審判事件答弁書の13頁10行目の「に対して,」の後から,同行「個人発明家が」の前まで。」の箇所は営業秘密であると主張している。
これに対し,被請求人は,令和2年1月24日付けの上申書において,令和1年12月19日付け営業秘密に関する申出書に記載の本件秘密情報は,秘密情報にあたらないので,この申出書の申し出を棄却すべきであると主張している。
さらに,請求人は,令和2年2月7日付け営業秘密に関する申出書において,「○1 本件上申書,2頁15行目「主張の」の後から,17行目「特許」の前まで。」,「○2 本件上申書,2頁20行目「主張の」の後から,21行目「は,」の前まで。」,「○3 本件上申書,2頁25行目「請求人は」の後から,同行「と主張」の前まで。」,「○4 本件上申書,2頁26行目「併せて」の後から,同行「と主張」の前まで。」,「○5 本件上申書,2頁32行目「拘わらず),」の後から,33行目「との事で」の前まで。」,「○6 本件上申書,3頁14行目「文言の」の後から,16行目「及び」の前まで。」,「○7 本件上申書,3頁16行目「及び」の後から,同行「は,」の前まで。」の箇所は営業秘密であると主張している。
しかしながら,上記の箇所に記載された事項が営業秘密であるか否かの判断や,開示するか否かの判断の結果は,上記「第5」の特許法第29条第1項第3号及び第29条第2項の判断に何ら影響を及ぼすものではないことから,本件審決においては,上記の箇所に記載された事項が営業秘密であるか否かについての判断は行わない。

第7 むすび
以上のとおり,本件発明1ないし4についての特許は,特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであるから特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。


 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2020-09-18 
結審通知日 2020-09-25 
審決日 2020-10-12 
出願番号 P2016-092216
審決分類 P 1 113・ 121- Z (H04N)
P 1 113・ 113- Z (H04N)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 曽我 亮司
須田 勝巳
登録日 2016-12-16 
登録番号 6055971
発明の名称 画像形成装置  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 小栗 久典  
代理人 ▲高▼野 芳徳  

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