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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F03G
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F03G
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F03G
管理番号 1382624
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-03 
確定日 2022-03-24 
事件の表示 特願2018−713「重力を運動エネルギーに転換するシステム及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年6月7日出願公開、特開2018−87574〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、2011年(平成23年)12月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年12月24日(IN)インド共和国)を国際出願日とする特願2013−545635号の一部を平成30年1月5日に新たな出願としたものであって、平成30年2月5日に手続補正書が提出され、平成30年3月29日に上申書が提出され、平成30年10月4日付け(発送日:同年10月9日)で拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成31年4月9日に意見書及び手続補正書が提出され、令和元年7月26日付け(発送日:同年8月6日)で拒絶理由が通知され、その指定期間内である令和元年11月14日に意見書及び手続補正書が提出され、令和元年11月26日付け(発送日:同年12月3日)で拒絶査定がされ、これに対し、令和2年4月3日に拒絶査定不服審判が請求され、その請求と同時に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、令和2年10月29日に上申書が提出され、当審において令和2年12月8日付け(発送日:同年12月15日)で拒絶理由が通知され、その指定期間内である令和3年6月15日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 当審において通知した拒絶の理由について
当審において令和2年12月8日付けで通知した拒絶の理由の概要は以下のとおりである。

理由1(明確性)本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

理由2(サポート要件)本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

理由3(実施可能要件)本願は、明細書及び図面の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

理由4(新規事項の追加)平成30年2月5日付けでした手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。



●理由1(明確性)について

本願の請求項1及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし16に係る発明、並びに請求項17及び請求項17を直接又は間接的に引用する請求項18及び19に係る発明は明確でない。

●理由2(サポート要件)について

本願の請求項1及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし16に係る発明、並びに請求項17及び請求項17を直接又は間接的に引用する請求項18及び19に係る発明は、明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない。

●理由3(実施可能要件)について

本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、請求項1及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし16に係る発明、並びに請求項17及び請求項17を直接又は間接的に引用する請求項18及び19に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

●理由4(新規事項の追加)について

平成30年2月5日の手続補正による明細書の段落【0035】に係る補正は、新規事項を追加するものである。

第3 当審の判断
事案に鑑み、最初に理由4(新規事項の追加)について検討する。
1 理由4(新規事項の追加)について
(1)補正の内容
出願当初の明細書の段落【0035】には、
「【0035】
[スタートアップ]
(a)本実施形態によれば、カウンタウエイトはメインウエイトよりも重いので、スタートアップ前の初期位置は、メインウエイトが第1垂直中空チャネルの45.5mの高さに持ち上げられ、(リフトとともに)カウンタウエイトが垂直フレームのボトムに配置される。従って、スタートアップオペレーションは、特に、上方の方向にリフトを操作することを含み、メインウエイトの落下を引き起こす。このようなプロセスステップは、特に本ステップの初めでより高いインプットパワー/電力を消費し、(カウンタウエイトとともに)リフトの運動方向が重力に反するが、リフトが上方に移動すると、リフトの負担(burden)は単に、降下するウエイトの10%未満である、メインウエイトの重量とカウンタウエイトの重量との差である。さらに、降下するウエイトが重力の影響下で勢いが増すと、着実に加速し、それによって、速度が線形的に増加する傾向にあり、また単位時間当たりの距離が二次的に増加する傾向にある。このフェーズの間、メインウエイトの垂直シャフトを、発電機の水平シャフトに噛み合わせて回転させることによって重力の利用により最大仕事が行われる。しかしながら、メインウエイトが落下してボトムに到達すると、メインウエイトは、(制限されないが)ブレーキと、他方の側の(カウンタウエイトとともに)反対動作のリフトとを備える減速停止機構によって徐々に減速及び停止させられる。」
と記載されていたところ、平成30年2月5日の手続補正により、
「【0035】
[スタートアップ]
(a)本実施形態によれば、カウンタウエイトはメインウエイトよりも重いので、スタートアップ前の初期位置は、メインウエイトが第1垂直中空チャネルの45.5mの高さに持ち上げられ、(リフトとともに)カウンタウエイトが垂直フレームのボトムに配置される。従って、スタートアップオペレーションは、特に、上方の方向にリフトを操作することを含み、メインウエイトの落下を可能にする。このようなプロセスステップは、特に本ステップの初めでより高いインプットパワー/電力を消費し、(カウンタウエイトとともに)リフトの運動方向が重力に反するが、一度カウンタウエイトが垂直フレームの頂部に到達すると、メインウエイトが落下可能となる。降下するウエイトが重力の影響下で勢いが増すと、着実に加速し、それによって、速度が線形的に増加する傾向にあり、また単位時間当たりの距離が二次的に増加する傾向にある。このフェーズの間、メインウエイトの垂直シャフトを、発電機の水平シャフトに噛み合わせて回転させることによって重力の利用により最大仕事が行われる。しかしながら、メインウエイトが落下してボトムに到達すると、メインウエイトは、(制限されないが)ブレーキと、他方の側の(カウンタウエイトとともに)反対動作のリフトとを備える減速停止機構によって徐々に減速及び停止させられる。」
と補正された。(下線部は出願当初の明細書からの補正箇所を示す。)
さらに、令和3年6月15日の手続補正(以下、「本件補正」という。)により、
「【0035】
[スタートアップ]
(a)本実施形態によれば、カウンタウエイトはメインウエイトよりも重いので、スタートアップ前の初期位置は、メインウエイトが第1垂直中空チャネルの45.5mの高さに持ち上げられ、(リフトとともに)カウンタウエイトが垂直フレームのボトムに配置される。従って、スタートアップオペレーションは、特に、上方の方向にリフトを操作することを含み、メインウエイトの落下を可能にする。このようなプロセスステップは、特に本ステップの初めでより高いインプットパワー/電力を消費し、(カウンタウエイトとともに)リフトの運動方向が重力に反するが、一度カウンタウエイトが垂直フレームの上部に達すると、メインウエイトが落下可能となる。さらに、降下するウエイトが重力の影響下で勢いが増すと、着実に加速し、それによって、速度が線形的に増加する傾向にあり、また単位時間当たりの距離が二次的に増加する傾向にある。このフェーズの間、メインウエイトの垂直シャフトを、発電機の水平シャフトに噛み合わせて回転させることによって重力の利用により最大仕事が行われる。しかしながら、メインウエイトが落下して下部に到達すると、メインウエイトは、(制限されないが)ブレーキと、他方の側の(カウンタウエイトとともに)反対動作のリフトとを備える減速停止機構によって徐々に減速及び停止させられる。」
と補正された。(下線部は出願当初の明細書からの補正箇所を示す。)

(2)検討、判断
ア 新規事項についての判断
出願当初の段落【0035】の
「[スタートアップ]
(a)本実施形態によれば、カウンタウエイトはメインウエイトよりも重いので、スタートアップ前の初期位置は、メインウエイトが第1垂直中空チャネルの45.5mの高さに持ち上げられ、(リフトとともに)カウンタウエイトが垂直フレームのボトムに配置される。従って、スタートアップオペレーションは、特に、上方の方向にリフトを操作することを含み、メインウエイトの落下を引き起こす。このようなプロセスステップは、特に本ステップの初めでより高いインプットパワー/電力を消費し、(カウンタウエイトとともに)リフトの運動方向が重力に反するが、リフトが上方に移動すると、リフトの負担(burden)は単に、降下するウエイトの10%未満である、メインウエイトの重量とカウンタウエイトの重量との差である。」という記載によれば、スタートアップオペレーションは、ボトムに配置されたカウンタウエイトがリフトによって持ち上げられることにより、反対側のメインウエイトが落下するものである。
それに対し、令和3年6月15日に補正された段落【0035】には、
「[スタートアップ]
(a)本実施形態によれば、カウンタウエイトはメインウエイトよりも重いので、スタートアップ前の初期位置は、メインウエイトが第1垂直中空チャネルの45.5mの高さに持ち上げられ、(リフトとともに)カウンタウエイトが垂直フレームのボトムに配置される。従って、スタートアップオペレーションは、特に、上方の方向にリフトを操作することを含み、メインウエイトの落下を可能にする。このようなプロセスステップは、特に本ステップの初めでより高いインプットパワー/電力を消費し、(カウンタウエイトとともに)リフトの運動方向が重力に反するが、一度カウンタウエイトが垂直フレームの上部に達すると、メインウエイトが落下可能となる。・・・」
と記載され、この記載によれば、スタートアップオペレーションは、ボトムに配置されたカウンタウエイトがリフトによって持ち上げられるときに、メインウエイトは落下せず、上部に保持されたままとなり、このような事項は、出願当初の明細書又は図面には記載も示唆もなく、新たな技術的事項を導入するものである。

イ 請求人の主張について
この点について、請求人は令和3年6月15日付け意見書において、
「明細書段落0035の「一度カウンタウエイトが垂直フレームの頂部に到達すると、メインウエイトが落下可能となる。」の後には、「メインウエイトが落下して下部に到達すると、メインウエイトは、(制限されないが)ブレーキと、他方の側の(カウンタウエイトとともに)反対動作のリフトとを備える減速停止機構によって徐々に減速及び停止させられる。」と記載されている。この記載から、メインウエイトは落下しており、下部に到達するとカウンタウエイトにより減速及び停止させられることが分かる。なお、上記2.2.(2)で述べたように、垂直フレームの「頂部」を「上部」に変更する補正がされている。
上記3.12でも述べたように、接続部材が緊張した接続状態であることによりカウンタウエイトがメインウエイトとつり合って、メインウエイトの落下における下部近傍の減速を促す。
そして、このようにカウンタウエイトによってメインウエイトが下部にて停止させられるには、接続部材が緊張した接続状態、すわたち、カウンタウエイトが頂部に位置することが必要である。
よって、「一度カウンタウエイトが垂直フレームの上部に到達すると、メインウエイトが落下可能となる。」は、メインウエイトが落下可能となるには、カウンタウエイトが垂直フレームの上部に位置することが必要であることを明確にするために追加したものであり、新規事項を追加するものではない。」
と主張する。
しかしながら、請求人のこの主張は、メインウエイト落下時のことであって、新規事項の追加は、メインウエイト落下前のカウンタウエイトを持ち上げる時についてであるから、請求人の主張は当を得ていない。
平成31年4月9日付け意見書において、請求人は次のように主張している。
「本願発明1、18と引用発明1との間の1つの鍵となる相違点は、システムの作動中、接続部材が弛緩してまたは緊張して構成されうる点である。接続部材が緊張状態である場合、メインウエイトの動作は直接カウンタウエイトの反対方向の動作に関係し、接続部材が緊張状態でない場合、メインウエイトの下降運動は、カウンタウエイトの上昇運動と独立である。メインウエイトの運動、ユニットのタンデム同期および一連の処理(すなわち、複数のユニットの多数のメインウエイトの落下に関連したカウンタウエイトの持ち上げ)が本システムに(いくつかの処理の後に)エネルギーを生成させ、当該エネルギーは本システムの初動に使用されるエネルギーの外部動力源の補助に使用される。このような特徴は、引用文献1には開示されていない。」 すなわち、平成31年4月9日付け意見書において、請求人はカウンタウエイトの上昇時に、メインウエイトが下降しないと述べている。そして、「接続部材が緊張状態でない場合、メインウエイトの下降運動は、カウンタウエイトの上昇運動と独立である。」という事項は、出願当初の明細書には記載されていない事項である。
さらに検討すると、出願当初の明細書の段落【0035】の「(a)本実施形態によれば、カウンタウエイトはメインウエイトよりも重いので、スタートアップ前の初期位置は、メインウエイトが第1垂直中空チャネルの45.5mの高さに持ち上げられ、(リフトとともに)カウンタウエイトが垂直フレームのボトムに配置される。従って、スタートアップオペレーションは、特に、上方の方向にリフトを操作することを含み、メインウエイトの落下を引き起こす。このようなプロセスステップは、特に本ステップの初めでより高いインプットパワー/電力を消費し、(カウンタウエイトとともに)リフトの運動方向が重力に反するが、リフトが上方に移動すると、リフトの負担(burden)は単に、降下するウエイトの10%未満である、メインウエイトの重量とカウンタウエイトの重量との差である。(中略)メインウエイトが落下して下部に到達すると、メインウエイトは、(制限されないが)ブレーキと、他方の側の(カウンタウエイトとともに)反対動作のリフトとを備える減速停止機構によって徐々に減速及び停止させられる。」との記載は、ボトムに配置されたカウンタウエイトがリフトによって持ち上げられるときに反対側のメインウエイトの落下について記載したものと理解されるが、補正により「リフトが上方に移動すると、リフトの負担(burden)は単に、降下するウエイトの10%未満である、メインウエイトの重量とカウンタウエイトの重量との差である。」という記載が削除されたため、令和3年6月15日に補正された段落【0035】の記載は、ボトムに配置されたカウンタウエイトがリフトによって持ち上げられるときに反対側のメインウエイトが落下するという事項が削除された。そうすると、請求人が引用する段落【0035】の「メインウエイトが落下して下部に到達すると、メインウエイトは、(制限されないが)ブレーキと、他方の側の(カウンタウエイトとともに)反対動作のリフトとを備える減速停止機構によって徐々に減速及び停止させられる。」という事項は、単にメインウエイトが落下する時について記載したものであるから、出願人の主張は当を得ていない。

(3)小括
以上のとおりであるから、令和3年6月15日の手続補正による補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえないから、令和2年12月8日付け拒絶理由通知書により通知したとおり、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないものである。

(4)補足(「接続部材が緊張した接続状態」について)
さらに付け加えると、出願当初の本願明細書の段落【0028】及び【0029】には、次のように記載されている。(下線は当審で付した。)
「【0028】
ウエイトはプーリーのシステムから頑丈に吊り下げられている。24mm牽引ロープは(制限されないが)自己潤滑合成繊維牽引ロープから形成され、ロープの他端が、(iii)カウンタウエイトに取り付けられカウンタウエイトはリフトに搭載され、(カウンタウエイトとともに)リフトが吊り下げられ、中空垂直チャネルに平行に設置された垂直フレームにおいて上下にスライドし、メインウエイトの移動方向が本実施形態によればわずかにメインウエイトより重い(すなわち、5100kg)カウンタウエイトと反対の移動方向であることを特徴とする。
【0029】
メインウエイトと多かれ少なかれバランスするカウンタウエイトは、動力リフトスステムに取り付けられ、上方及び下方にウエイトを所定速度で運び、発電機の水平シャフトの回転が一定に維持されるように降下するウエイトを同期させる。リフトは、15秒で45m、カウンタウエイトを持ち上げる20HPモータによって動力を供給され、これによって、要求されるエネルギーは15秒で12KWである。従って、3つのユニットを備える本実施形態では、3つのリフトによって消費される総電力は一日に69MW(12KW×4×60×24)である。各ユニットのメインウエイト及びカウンタウエイトは、9本の頑丈な24mm牽引ロープのセットによって吊り下げられている。」
これらの記載から、メインウエイトと、わずかにメインウエイトより重いカウンタウエイトとは、プーリーのシステムから頑丈に吊り下げられていることから、メインウエイトとカウンタウエイトの両方が同時に垂直フレームの上部に保持されることはできないと考えられる。
なお、請求人は令和3年6月15日付けの意見書において、
「4.2.理由2の2について
請求項1に記載の「前記1又は複数の接続部材が緊張した接続状態でない場合は、前記メインウエイトヘッド部の前記下降運動は対応する前記カウンタウエイトの上昇運動とは独立であり、」は、接続部材が緊張した接続状態である場合は、メインウエイトヘッド部の下降運動とカウンタウエイトの上昇運動と連動するが、接続部材が緊張した接続状態でない場合は、メインウエイトヘッド部の下降運動とカウンタウエイトの上昇運動とは関連せず、独立であることを述べたに過ぎない。」
とも主張する。
しかしながら、出願当初の明細書及び図面には、接続部材が緊張した接続状態でない場合について記載も示唆もされておらず、そのときにメインウエイトヘッド部の下降運動とカウンタウエイトの上昇運動とは関連せず、独立であることの記載も示唆もなく、当該主張は当を得ないものである。

2 理由3(実施可能要件)について
次に、理由3(実施可能要件)について検討する。
(1)実施可能要件違反についての判断
特許請求の範囲の請求項1に記載された「前記複数のパワー生成ユニットから生成されたエネルギーは、前記システムの作動の維持と前記複数のセンサ及び前記リフト手段の作動のために、前記外部動力源から与えられる動力の補助に使用される」という事項に関して、平成30年2月5日に補正された段落【0029】には、「リフトは、15秒で45m、カウンタウエイトを持ち上げる20HPモータによって動力を供給され、これによって、要求される電力は15秒で12KWである。従って、3つのユニットを備える本実施形態では、3つのリフトのそれぞれによって消費される総電力は一日に69MW(12KW×4×60×24)である。」と記載され、当初明細書の段落【0038】には、「従って、本実施形態は、メインウエイト及びカウンタウエイトの上下運動を維持するために消費されるパワー入力の30%を考慮して、一日当たり少なくとも562MWの範囲内の正味のパワー出力を発生することができる。」と記載されている。
そうすると、本願発明の実施形態として記載されたものは、一日に69kWの電力を消費して562MWのパワー出力を発生するものと理解される。
しかしながら、重力を利用して消費電力以上の電力を発生することは、エネルギー保存の法則に反しており、当業者が実施することができない。
また、本願明細書の発明の詳細な説明には、どのようにして、一日に69kWの電力を消費して562MWのパワー出力を発生するのか、当業者が実施できるように記載されていない。
すなわち、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が、特許請求の範囲の請求項1に記載された「前記複数のパワー生成ユニットから生成されたエネルギーは、前記システムの作動の維持と前記複数のセンサ及び前記リフト手段の作動のために、前記外部動力源から与えられる動力の補助に使用される」という事項を実施することができる程度に記載されていない。

(2)請求人の主張について
この点につき、請求人は令和3年6月15日付け意見書において、
「5.理由5(実施可能要件)について
5.1.理由5の1について
明細書段落0029には、カウンタウエイトを待ち上げる3本のリフトによって消費される1日当たりの総電力は69MWであると記載されている。しかし、実施形態に係るシステムに外部から入力されるパワーは、これだけではなく、メインエイトを待ち上げるリフトによって消費される電力なども入力する必要がある。
そして、当然に、本実施形態において一日当たりに発生可能な正味のパワー出力である562MWは、システムに外部からの入力量よりも小さくなる。そして、562MWという数値は一例を挙げたに過ぎない。」
と主張する。
しかしながら、本願明細書には、メインウエイトを持ち上げるリフトによって消費される電力についての記載はなく、それどころか、段落【0036】には、「多数のこのようなユニットを備える実施形態では、このステップは、重いカウンタウエイトが自動的にメインウエイトより重く、メインウエイトを元に持ち上げて戻すので、動力源を用いてリフトを動かすことなく実行され得る。」と記載されており、メインウエイトを持ち上げるリフトによって消費される電力は必要がないことが記載されている。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明には、カウンタウエイトを待ち上げる3本のリフトによって消費される電力以外に消費される電力は記載されておらず、どのようなシステムを用いて、562MWの電力を発生させることができるのか不明である。
上記のように、請求人は、「本実施形態において一日当たりに発生可能な正味のパワー出力である562MWは、システムに外部からの入力量よりも小さくなる」と主張するが、本願明細書の発明の詳細な説明には、パワー出力がパワー入力量よりも小さくなる旨は明記されていない。そして、発明の詳細な説明に記載されている消費電力は「69MW」のみであり、発生するパワー出力は「一日当たり少なくとも562MW」である。そして、どのようにして「一日当たり少なくとも562MW」の電力を発生するのか、当業者が実施できる程度に記載されていない。

(3)結論
したがって、本願の明細書には、請求項1に記載された「前記複数のパワー生成ユニットから生成されたエネルギーは、前記システムの作動の維持と前記複数のセンサ及び前記リフト手段の作動のために、前記外部動力源から与えられる動力の補助に使用される」ことに関して、どのようにして「一日当たり少なくとも562MW」の電力を発生させるのか記載されておらず、外部動力源について具体的な記載もなく、当業者が実施できる程度に記載されていない。

3 理由1(明確性)について
次に、理由1(明確性)について検討する。
請求項1において、「直列に配置され、タンデム同期可能な複数のパワー生成ユニット」(請求項1)と記載されているが、「直列に配置され」とは、複数のパワー生成ユニットがどのように配置されていることか、明確でない。(請求項17に係る発明についても同様。)
例えば、乾電池の場合、「直列に配置され」とは、各乾電池の+極が次の乾電池の−極に接続されていることを意味するが、請求項1の複数のパワー生成ユニットに関して「直列に配置され」とは、一方のパワー生成ユニットのどの部材と他方のパワーユニットのどの部材とがどのように接続されていることを意味するのか、明確に把握できない。
また、「タンデム同期可能」とは、何と何とが同期する(同時に動く)のか、明確でない。
これに対し、請求人は、令和3年6月15日の意見書において、
「請求項1,17において「ユニット」は「パワー生成ユニット」を意味している。「直列に配置され、タンデム同期可能な複数のパワー生成ユニット」とは、「ユニット」(=「パワー生成ユニット」)が、ユニットが直列に配置され、かつ、タンデム同期可能であることを意味している。
ユニットが直列に配置されるとは、ユニットは、並列的ではなく、順番に直列的に配置されていることを意味している。」
と主張する。
しかしながら、図1及び図2を参照すると、各ユニットのメインウエイト及びカウンタウエイトは、他のユニットのメインウエイト及びカウンタウエイトとは連結されておらず、各ユニットは並列的に動くことが可能であるから、直列ではなく並列に設けられていると解される。
仮に、一つのユニットのメインウエイトが、次のユニットのカウンタウエイトに接続されているようなものであれば、直列といえるかもしれないが、本願の明細書又は図面には、そのような事項は記載も示唆もない。
そして、タンデム同期可能とは、何と何とが同期する(同時に動く)のか、依然として明確でない。
また、請求項1及び17並びにそれらを直接又は間接的に引用する請求項2ないし16、18及び19も同様に、「ユニットが直列に配置され」とはユニットがどのような状態で配置されているのか、依然として明確でなく、「タンデム同期可能」とは何と何とが同期するのか、依然として明確でない。

第4 むすび
以上のとおり、令和3年6月15日の手続補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内においてしたものではなく、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから、本願は拒絶すべきものである。
また、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。
さらに、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項2号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 佐々木 正章
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-10-12 
結審通知日 2021-10-19 
審決日 2021-11-04 
出願番号 P2018-000713
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (F03G)
P 1 8・ 537- WZ (F03G)
P 1 8・ 561- WZ (F03G)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 佐々木 正章
特許庁審判官 金澤 俊郎
鈴木 充
発明の名称 重力を運動エネルギーに転換するシステム及び方法  
代理人 特許業務法人創成国際特許事務所  

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