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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05B
管理番号 1382669
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-06-29 
確定日 2022-03-18 
事件の表示 特願2017−181859「電極及びこれを含む有機発光素子、液晶表示装置及び有機発光表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 4月12日出願公開、特開2018− 60787〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2017−181859号(以下「本件出願」という。)は、平成29年9月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2016年(平成28年)9月30日(以下「本件優先日」という。) 韓国)を出願日とする特許出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成30年 9月25日付け:拒絶理由通知書
平成30年12月27日 :意見書
平成30年12月27日 :手続補正書
令和 元年 5月30日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 9月 4日 :意見書
令和 元年 9月 4日 :手続補正書
令和 2年 2月21日付け:補正の却下の決定
(令和元年9月4日付け手続補正書でした補正が却下された。)
令和 2年 2月21日付け:拒絶査定
令和 2年 6月29日 :審判請求書
令和 2年 6月29日 :手続補正書
令和 3年 3月 4日付け:拒絶理由通知書
令和 3年 6月 9日 :意見書
令和 3年 6月 9日 :手続補正書

2 本願発明
本件出願の請求項1〜請求項8に係る発明は、令和3年6月9日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1〜請求項8に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「 銀(Ag)及び溶媒が混合された導電性物質ペーストと、
仕事関数が5.0eV以上であるドーパントと
を混合して電極組成物を製造する工程と、
前記電極組成物を基板上にコーティングする工程と、
前記電極組成物に熱処理をすることで電極を形成する工程と、
を含み、
前記仕事関数が5.0eV以上であるドーパントは、パラジウム(Pd)であり、
前記ドーパントの含量比は、前記導電性物質ペーストの100重量%に対して2重量%から10重量%までの範囲内であり、
前記銀(Ag)の含量比は、全体電極組成物の100重量%に対して10重量%から80重量%までの範囲内である、
電極の製造方法。」

3 拒絶の理由
令和3年3月4日付け拒絶理由通知書において当合議体が通知した拒絶の理由は、概略、理由1(明確性要件)本件出願の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるということができないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない、理由2(委任省令要件)本件出願の発明の詳細な説明の記載は、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない、理由3(新規性)本件出願の請求項1、2に係る発明(令和2年6月29日にした手続補正後のもの)は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、理由4(進歩性)本件出願の請求項1〜8に係る発明(令和2年6月29日にした手続補正後のもの)は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
(引用例一覧)
引用例1:特開2005−317251号公報
引用例2:特開2003−288993号公報
引用例3:特開2003−234193号公報
引用例4:特開2015−46568号公報
引用例5:特開2003−86852号公報
引用例6:特開2000−260336号公報
(当合議体注:引用例1〜引用例6は、主引用例であり、副引用例あるいは本件優先日前の技術水準を示す文献でもある。)

第2 当合議体の判断(理由4(進歩性)について)
1 引用例1の記載及び引用発明
(1) 引用例1の記載
令和3年3月4日付け拒絶理由通知書において当合議体が通知した拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)において引用された、特開2005−317251号公報(以下「引用例1」という。)は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある(当合議体注:下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。)。
ア 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明は、エレクトロルミネッセンス素子・・・略・・・に関する。
【背景技術】
【0002】
・・・略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
・・・・略・・・
【0011】
本発明の目的は、生産性が高く、容易に成膜ができ、発光層の分断等の初期不良や発光層の破壊が生じにくい信頼性の高いEL素子と、そのEL素子を用いた表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る発光素子は、基板と、
前記基板の上に設けられた第1電極と、
前記第1電極の上に設けられた、誘電率300以上を有する誘電体材料からなる絶縁層と、
前記絶縁層の上に設けられた、有機バインダに無機蛍光体粒子を分散させた発光層と、
前記発光層の上に設けられた第2電極と
を備えることを特徴とする。
・・・略・・・
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る発光素子は、誘電率300以上の誘電体材料からなる絶縁層の上に、有機バインダに無機蛍光体粒子を分散させた分散型発光層を設けている。そこで、この分散型発光層によって、絶縁層の表面の比較的大きな凹凸を覆って平滑な表面性を得ることができ、初期不良の発生を抑制した信頼性の高い発光素子を得ることができる。
【0022】
本発明に係る発光素子及び表示装置によれば、発光層に有機バインダに無機蛍光体粒子を分散させた構造を用い、絶縁層に誘電率300以上を有する誘電体材料を用いることで、絶縁破壊を抑制し、且つ、初期不良の発生を抑え、安定な発光特性が得られるEL素子を高い生産性で得られ、製造コストを抑制することができる。これにより安価で信頼性の高いEL素子及び表示装置を提供することができる。」

イ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明に係る発光素子及び表示装置について添付図面を用いて以下に説明する。なお、図面において、実質的に同一の部材には同一の符号を付している。
【0024】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係るエレクトロルミネッセンス(EL)素子10の発光面に垂直な断面図である。このEL素子10は、背面基板11の上に、背面電極12と、誘電率が300以上の誘電体材料からなる絶縁層13と、有機バインダに無機蛍光体粒子が分散した分散型発光層14と、透明な前面電極15と、カバー層16とが順に積層された構造を有する。前面電極15と背面電極12との間に交流電源17を設けて、交流電圧を引加し、分散型発光層14を発光させる。発光層14からの光30は全方位に向かって放射されるが、このEL素子10では透明な前面電極の側から取り出される。このEL素子10では、絶縁層13が焼結させた誘電体材料からなるため、絶縁層13の表面の凹凸は、中心線平均粗さで0.5〜10μm程度と非常に大きい。そこで、このEL素子10では、発光層として薄膜発光層ではなく、比較的厚膜の膜厚10μm〜100μmの範囲の分散型発光層14を用いて、絶縁層13の表面の凹凸を覆って発光層14の平滑な表面を得ている。これによって絶縁層13の凹凸に起因する発光層14の分断や第2電極15の分断の不良発生を防ぐことができる。以下にこのEL素子10の各構成要素について説明する。
・・・略・・・
【0026】
背面電極12は、上層の絶縁層形成時の加熱焼成後も導電性を保つ材料であることが必要とされる。この背面電極12には、例えば、金やパラジウム、白金のような貴金属や、クロム、タングステン、モリブデンなどの金属、またはこれらの合金のようなその他の金属を用いることができる。また、ITOなどの金属酸化物を用いることができる。これらの材料は焼成温度や導電性によって選択される。
【0027】
絶縁層13は、誘電率が常温で300以上である強誘電体材料からなる。基体となる誘電体は、高誘電率を得るためにペロブスカイト構造を有するセラミック材料が好ましく、具体例としては、PbNbO3やBaTiO3、SrTiO3、PbTiO3、(Sr,Ca)TiO3などが挙げられる。
・・・略・・・
【0029】
分散型発光層14は、有機物からなるバインダに無機蛍光体粒子を分散させた構造を有する。
・・・略・・・
【0033】
前面電極(第2電極)15は、透過性を有するものであればよく、低抵抗であることが好ましい。特に好適な例としては、ITO(インジウム錫酸化物)、InZnO、SnO2等が用いられるが、これらに限定されるものではない。更に、ポリアニリン、ポリピロール、PEDOT/PSS等の導電性樹脂を用いることもできる。この前面電極15の膜厚は、必要とされるシート抵抗値と可視光透過率から決定される。
【0034】
カバー層16は、発光に関して不可欠な構成部材ではないが、前面電極15を覆って保護するものであり、ひいては発光素子10を保護するものであるので、設けることが好ましい。
・・・略・・・
【0035】
次に、このEL素子10の製造方法を説明する。
(a)背面基板11を用意する。
・・・略・・・
(b)背面基板11の上に背面電極12を設ける。背面電極12は、上層に設ける絶縁層13の焼成温度に応じて選択できる。
(c)背面電極12の上に誘電率300以上を有する強誘電体材料からなる絶縁層13を設ける。この絶縁層13は、周知の厚膜技術で形成される。
・・・略・・・
【0036】
(d)絶縁層13の上に有機バインダに無機蛍光体粒子を分散させた分散型発光層14を設ける。分散型発光層14は、周知の厚膜技術で形成される。
・・・略・・・
(e)分散型発光層14の上に前面電極(第2電極)15を設ける。前面電極15としてITOを用いる場合には、その透明性を向上させる目的、あるいは抵抗率を低下させる目的で、スパッタリング法、エレクトロンビーム(EB)蒸着法、イオンプレーティング法等の公知の成膜方法で成膜できる。また成膜後に、抵抗率制御の目的でプラズマ処理などの表面処理を施してもよい。また、前面電極15として、導電性樹脂を用いる場合は、インクジェット法、ディッピング法、スピンコート法、スクリーン印刷法、バーコート法等の公知の成膜方法を用いて成膜できる。
(f)前面電極(第2電極)15の上を覆ってカバー層16を設ける。」

ウ 「【実施例】
【0039】
以下に、本発明について更に詳細に説明する。なお、本発明はここに説明する実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1に係るEL素子は、図1に示される上記実施の形態1に係るEL素子とほぼ同様の構成を有するが、カバー層を有しない点で相違する。このEL素子の製造方法について以下に説明する。
(a)背面基板には、厚さ0.635mmのアルミナ基板を用いた。
(b)背面電極には、Ag約85%、Pd約15%からなるAg−Pdペーストを用い、背面基板上にスクリーン印刷法にて、幅2mm、ピッチ3mmのストライプパターンを形成した。その後、乾燥、焼成の工程を得て(当合議体注:「得て」は、「経て」の誤記と認められる。)、Ag−Pd合金からなる背面電極を背面基板の上に形成した。
(c)絶縁層は、誘電体材料の前駆体としてBaTiO3のペーストを用い、背面電極の上にスクリーン印刷にて方形に形成した。その後、空気雰囲気で950℃にて焼成し、BaTiO3からなる絶縁層を背面電極の上に形成した。このときの絶縁層の膜厚は35μmであり、中心線平均粗さは2.6μmであった。
【0040】
(d)分散型発光層を構成する無機蛍光体には、ZnS:Cuの粉末を用い、有機バインダには、フッ化ビニリデンと四フッ化エチレンとの共重合体を用いた。蛍光体粉末とバインダ溶液とを重量で1対1の割合で混合、よく攪拌し、スクリーン印刷法を用いて、絶縁層の上に形成した。その後、空気雰囲気下、120℃で乾燥し、分散型発光層を得た。このときの分散型発光層の膜厚は28μmであった。
(e)前面電極は、EB蒸着法を用いて、厚さ0.4μmのITO膜を形成した。形成後、上記背面電極と直交する形で幅2mm、ピッチ3mmにエッチングし、透明ストライプパターンとした。
・・・略・・・
【0045】
表1に示されるように、150V/600Hzの正弦波交流電圧を印加時の輝度と初期欠陥の特性において、輝度については実施例1、2および比較例のEL素子を用いた表示装置は、いずれも400cd/m2以上の良好な値を示した。しかし、初期欠陥に関しては、実施例1,2のEL素子では初期欠陥はなく、一方、比較例のEL素子を用いた表示装置は一部の画素に未発光部が存在し、初期欠陥が生じていた。
【0046】
また、300Vまでの電圧印加における絶縁耐性試験について、実施例1、2のEL素子を用いた表示装置では、共に全画素において未発光部は生じなかったが、比較例のEL素子を用いた表示装置では、初期欠陥の未発光部が拡大すると共に、新たに未発光部が生じた。新たな未発光部は、薄膜発光層の破壊によって生じるものと思われる。以上のように、本発明の実施例1、2に係るEL素子を用いた表示装置は、高い信頼性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係る発光素子は、絶縁層に誘電率300以上を有する誘電性材料を用い、発光層として無機蛍光体粒子が有機バインダ中に分散した分散型発光層を用いている。そこで、この発光素子は、安価で信頼性が高く、液晶パネル用バックライトや平面照明、フラットパネルディスプレイ用のエレクトロルミネッセンス素子として有用である。」

エ 「【図1】



(2) 引用発明
ア 引用例1の【0024】及び図1には、引用例1でいう「発明」の「エレクトロルミネッセンス素子」の「実施の形態1」として、「背面基板11の上に、背面電極12と、誘電率が300以上の誘電体材料からなる絶縁層13と、有機バインダに無機蛍光体粒子が分散した分散型発光層14と、透明な前面電極15と、カバー層16とが順に積層された構造を有する」「EL素子10」が記載されている。

イ 引用例1の【0039】〜【0040】には、引用例1でいう「発明」の【実施例】として、「図1に示される上記実施の形態1に係るEL素子とほぼ同様の構成を有するが、カバー層を有しない点で相違する」、「EL素子の製造方法」として、(a)〜(e)の各工程が説明されているところ、(b)の工程について、「背面電極には、Ag約85%、Pd約15%からなるAg−Pdペーストを用い、背面基板上にスクリーン印刷法にて、幅2mm、ピッチ3mmのストライプパターンを形成した。その後、乾燥、焼成の工程を経て、Ag−Pd合金からなる背面電極を背面基板の上に形成した。」と記載されている。

ウ 上記(1)及び上記アとイより、引用例1には、上記アの「EL素子10」と、「カバー層を有しない点で相違する」「EL素子」の「背面電極」を形成する方法の発明(以下「引用発明」いう。)として、以下の発明が記載されているものと認められる。
「背面基板の上に、背面電極と、誘電率が300以上の誘電体材料からなる絶縁層と、有機バインダに無機蛍光体粒子が分散した分散型発光層と、透明な前面電極とが順に積層された構造を有するEL素子の背面電極を形成する方法であって、背面電極には、Ag約85%、Pd約15%からなるAg−Pdペーストを用い、背面基板上にスクリーン印刷法にて、幅2mm、ピッチ3mmのストライプパターンを形成し、その後、乾燥、焼成の工程を経て、Ag−Pd合金からなる背面電極を背面基板の上に形成する、
背面電極を形成する方法。」
(当合議体注:各構成の直後に付されている番号についてはこれを省略し、標記を統一した。)

2 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1) 銀(Ag)、ドーパント、パラジウム(Pd)、電極組成物
ア 引用発明の「Ag−Pdペースト」は、「Ag約85%、Pd約15%からな」るものである。
また、引用発明の「Ag−Pdペースト」は、「背面基板上に」、「スクリーン印刷法にて」「ストライプパターンを形成し」、「乾燥、焼成の工程を経て」、「Ag−Pd合金」からなる「背面電極を背面基板の上に形成する」ものである。

イ 上記アより、引用発明の「Ag−Pdペースト」は、「Ag」及び「Pd」を「Ag約85%、Pd約15%」の比で含むものと理解できる。
また、引用発明の「Ag−Pdペースト」は、溶媒を含むものであることは、技術常識から明らかなことである(当合議体注:引用発明の「Ag−Pdペースト」は、「乾燥、焼成の工程を経て」、「Ag−Pd合金からなる背面電極」を「形成する」ことから、「乾燥」により揮発・除去される溶媒を含むことは明らかである。また、引用発明の「Ag−Pdペースト」は、「スクリーン印刷」により「幅2mm、ピッチ3mmのストライプパターン」を(かすれ、断線無く)「形成」できる程度の流動性を有しなければいけないことからも、溶媒を含むものであることは明らかなことである。あるいは、例えば、特開2015−158981号公報の【0053】の「補助電極5は、銀の微粒子と溶媒とが混合されたもので形成することが可能である。補助電極5は銀ペーストで形成され得る。銀粒子は溶媒と混合されることにより塗布が容易となる。」、特開2011−242906号公報の【0041】の「送信電極2及び受信電極3の形成方法としては、・・・略・・・Ag等の金属微粒子を溶媒中に分散させた導電性インク(例えばAgペースト)をグラビア印刷法やスクリーン印刷法により支持体13に付着させる方法や、Ag等の金属超微粒子を溶媒中に分散させたナノインクをインクジェット工法により支持体13に付着させる方法を挙げることができる。」、特開2008−71675号公報の【0041】の「粒径約1μm程度の銀微粒子を有機溶剤に含有させた電極形成用銀ペーストをスクリーン印刷法により塗布し、その後、・・・略・・・焼成を行うことにより、カソード電極CLを形成する。」との記載があるように、通常、塗布(スクリーン印刷等)、焼成により電極を形成する(Agペースト等の)導電性ペーストは、塗布(スクリーン印刷等)を容易とする溶媒を含む。)。
そうすると、引用発明の「Ag−Pdペースト」は、「Ag」、「Pd」及び溶媒が混合されたものであると理解できる。
また、引用発明において「形成」される「Ag−Pd合金」の組成は、「Ag約85%、Pd約15%」である。そうすると、引用発明の「Ag−Pdペースト」の「Pd」は、「背面電極」の主成分「Ag」に対するドーパントということができる。
さらに、「Pd」に固有の仕事関数は5.55eVである(当合議体注:Pdの仕事関数については、例えば、特開2008−147587号公報の【0039】を参照。)。

ウ 本願発明の「銀(Ag)及び溶媒が混合された導電性物質ペーストと」、「仕事関数が5.0eV以上であるドーパントと」「を混合して電極組成物を製造する工程」からみて、本願発明の「電極組成物」は、「銀(Ag)」、「仕事関数が5.0eV以上であるドーパント」「及び溶媒が混合された」ものと理解できる。また、本願発明の「仕事関数が5.0eV以上であるドーパントは、パラジウム(Pd)であ」る。
上記イより、引用発明の「Ag−Pdペースト」に含まれる「Ag」は、本願発明の「銀(Ag)」に相当する。
また、引用発明の「Ag−Pdペースト」に含まれる「Pd」は、本願発明の「仕事関数が5.0eV以上であるドーパント」及び「パラジウム(Pd)」に相当する。
さらに、引用発明の「Ag−Pdペースト」に含まれる溶媒は、本願発明の「溶媒」に相当する。

エ 上記アより、引用発明の「Ag−Pdペースト」は、「背面電極」を「形成する」ための組成物ということができる。
そうすると、上記ア〜ウより、引用発明の「Ag−Pdペースト」は、本願発明の「電極組成物」に相当する。
また、引用発明の「Ag−Pdペースト」と、本願発明の「電極組成物」は、「Ag」(「銀(Ag)」)、「Pd」(「仕事関数が5.0eV以上であるドーパント」、「パラジウム(Pd)」)及び溶媒(「溶媒」)とが混合されたものである点で共通する。
また、上記ウより、引用発明は、本願発明の、「前記仕事関数が5.0eV以上であるドーパントは、パラジウム(Pd)であ」るとの要件を具備する

(2) 電極組成物を基板上にコーティングする工程
ア 上記(1)アの引用発明の工程からみて、引用発明の「背面基板」は、本願発明の「基板」に相当する。
また、引用発明において、「Ag−Pdペーストを用い」て、「スクリーン印刷法にて」「背面基板上に」「ストライプパターンを形成」することは、「背面基板上に」「Ag−Pdペースト」をコーティングしているということができる。
そうすると、引用発明は、「Ag−Pdペースト」を、「背面基板」上にコーティングする工程を有しているということができる。

イ 上記アと上記(1)エとより、引用発明と、本願発明は、(「銀(Ag)」、「仕事関数が5.0eV以上であるドーパント」及び「溶媒」が混合された)「前記電極組成物を基板上にコーティングする工程」を含んでいる点で共通する。

(3) 電極組成物に熱処理をすることで電極を形成する工程
上記(1)アより、引用発明は、「Ag−Pdペースト」で「形成」された「ストライプパターン」を「乾燥、焼成」することで、「背面電極を」「形成」する工程を有しているということができる。
引用発明の「乾燥」及び「焼成」は、本願発明の「熱処理」に相当する。
引用発明の「背面電極」は、本願発明の「電極」に相当する(上記(1)エ参照。)。
してみると、引用発明と、本願発明は、「前記電極組成物に熱処理をすることで電極を形成する工程」を含んでいる点で一致する。

(4) 電極の製造方法
上記(1)〜(3)より、引用発明の「背面電極を形成する方法」は、本願発明の「電極の製造方法」に相当する。


3 一致点及び相違点
(1) 一致点
本願発明と引用発明は、次の構成で一致する。
「銀(Ag)、仕事関数が5.0eV以上であるドーパント及び溶媒が混合された電極組成物を基板上にコーティングする工程と、
前記電極組成物を熱処理をすることで電極を形成する工程と、
を含み、
前記仕事関数が5.0eV以上であるドーパントは、パラジウム(Pd)である、
電極の製造方法。」

(2) 相違点
本願発明と引用発明は、次の点で相違する。
(相違点1)
本願発明は、「銀(Ag)及び溶媒が混合された導電性物質ペーストと」、「仕事関数が5.0eV以上であるドーパントと」「を混合して電極組成物を製造する工程」を含み、「前記ドーパントの含量比は、前記導電性物質ペーストの100重量%に対して2重量%から10重量%までの範囲内であり」、「前記銀(Ag)の含量比は、全体電極組成物の100重量%に対して10重量%から80重量%までの範囲内である」のに対して、引用発明は、「Ag約85%、Pd約15%からなるAg−Pdペーストを用い」ている点。

4 判断
相違点1について検討する。
(1) Ag及びPdを含むペーストを、Agペーストに、Pdを混合することにより製造することは、本件優先日前に周知の技術である。
例えば、特開2014−16394号公報の【0035】には、銀(Ag)ペーストに15質量%以下のパラジウム(Pd)を添加し、合金(Ag−Pd)薄膜を印刷形成して、エレクトロルミネッセンス素子の背面電極を形成すること、特開平4−326712号公報の【0006】には、銀ペーストに銀の重量に対して10重量%以下のパラジウムを含む銀ペーストを塗布、乾燥、焼成して外部電極を形成すること、実願平3−80902号(実開平5−33547号)のCD−ROMの【0009】〜【0010】には、Agペースト中にパラジウムを含有させることによって導電性部材を形成(し、Agペーストの焼成の際に、そのAgペースト中のAgのマイグレーションを防止)すること、特開昭63−155684号公報の4頁左上欄2〜9行には、銀ペーストにパラジウムを5〜30wt%混合したペーストを用いて、内部電極を形成すること、がそれぞれ記載されている。

ここで、Agペースト等の導電性ペーストにおいては、Ag等の金属の分量(重量%)を10重量%〜90%重量程度とすることが知られている。
また、導電性ペーストにより電極を製造する際のペースト中の金属の分量(重量%)あるいは溶媒の分量(重量%)による一般的な傾向として、導電性ペースト中の溶媒成分の割合が少なく(あるいは金属成分の割合が多く)なると、ペーストの塗布性が良くなくなる傾向を示すこと、溶媒成分の割合が多く(あるいは金属成分が少なく)なると、緻密性が高くなりにくい、あるいは焼結度が高くなりにくい傾向を示すことは、当業者の技術常識である。
例えば、Ag及び溶媒を含むAgペースト等の導電性ペーストにおけるAg等の金属あるいは溶媒の分量(重量%)及びAg等の金属あるいは溶媒の分量(重量%)による一般的な傾向について、例えば、(A)特表2012−523665号公報の【0017】〜【0019】には、電極を構成する印刷ペースト組成物が金属粒子50〜90重量部を含むこと、銀、銅、ニッケル、金、アルミニウム等の金属粒子が50重量部未満の場合は、電極印刷時に導電膜が緻密でなく、線高が低く導電性が悪くなり、90重量部を超える場合には、均一なペースト組成物を形成することが困難であったり、粘度が高くなり転写性が低下すること、(B)国際公開第2006/035908号の[0031]〜[0033]には、薄膜電極や配線材料に有用なAgペーストの銀の含有量が組成物(ペースト)の全重量の10〜50重量%であることが好ましいこと、銀が10重量%以下の場合、熱分解後の膜厚が薄くなり過ぎ、膜の緻密性が得られないこと、銀が50重量%を超える場合、有機バインダ及び溶剤の割合が少なすぎて、スクリーン印刷に適するペースト状とならないこと、(C)特開2006−173042号公報の【0031】には、金属粉末2が、銀又は銀基合金の場合、金属ペーストの塗被膜5に含まれる銀又は銀基合金の含有量は30〜85重量%であることが好ましく、白金又は白金基合金(あるいは金又は金基合金)の場合、金属ペーストの塗被膜5に含まれる白金又は白金基合金(あるいは金又は金基合金)の含有量は30〜95重量%であることが好ましいこと、この範囲で含有すると、導電膜13の緻密性、平坦性、導電性を確保することができること、(D)特開2016−164864号公報の【0038】には、Agペースト全体に占めるAg粉末の割合は、形成したい電極の厚み等に応じて調整すればよく特に限定されないが、例えば、Ag粉末の割合が、Agペースト全体の概ね60質量%以上85質量%以下とすること、このようにAg粉末の占める割合を高めることで、電極の緻密性をより向上することができること、(E)特開2014−33175号公報の【0025】には、裏面銀電極を形成するための銀ペースト中の銀の含有量は、45重量%以上70重量%以下が望ましいこと、銀ペースト中の銀の含有量が45重量%より小さいと、銀ペーストの粘度が十分ではなく、スクリーン印刷後の銀電極のパターンがにじみ、70重量%より大きいと、銀ペーストの粘度が大きいため、スクリーン印刷時に銀電極のかすれがおき、断線がおきること、(F)特開平9−69589号公報の【0006】には、電極層17aを形成するペースト中には、貴金属がAu,Ag,Pt,Pd又はこれらの合金である貴金属が15〜75重量%(20〜50重量%)が含まれることが好ましいこと、貴金属の含有量が15重量%未満では連続した緻密な薄膜が得難いこと、(G)特開2007−157563号公報の【0016】には、導体ペーストを製造する際に、ニッケル粉末をペースト中に分散させ、かつ適切な粘度特性を得るのに、多量の溶剤や分散剤等の有機成分が必要となると、緻密な電極乾燥膜を得ることが困難となること、(H)特開2009−187695号公報の【0002】〜【0003】には、配線電極を形成する厚膜導体ペースト焼成後の出現膜厚は、ペースト中の導電成分の割合(メタル含有率)によって概ね決まるが、ペースト100重量部に対して導電粒子50重量部以下(50%以下)とすると焼成膜の緻密性が悪化しやすくなること、このことから、従来から、導体厚膜ペーストはペースト100重量部に対して導電粒子60〜90重量部程度で構成されるのが一般的となっていること、(I)特表2013−512571号公報の【0022】には、銀裏面電極パターンを形成する銀ペースト中に、粒状銀が、全銀ペースト組成物に基づいて50〜92重量%の比率において存在してもよいこと、が記載されている(当合議体:当業者であれば、(A)〜(I)の各記載事項から、上記の導電性ペーストのAg等の金属あるいは溶媒の分量(重量%)による一般的な傾向を理解できる(導出できる)ということもできる。)。

(2) 引用例1には、「Ag−Pdペースト」を得る工程について記載されていないが、「Ag−Pdペースト」を、どのような工程で得たとしても、引用例1において得られる背面電極として、格別の差が生ずるとは考えられないことから、「Ag−Pdペースト」をどのように得るかは当業者の任意である。
また、引用発明の「Ag−Pdペーストを用い」て形成される「Ag−Pd合金からなる背面電極」のAg:Pdは約85:約15であるところ、当業者は、このようなAg:Pdの比は、「EL素子の背面電極」として、マイグレーションが抑制できる点や高反射率が得られる点で、好ましい比であると理解する(当合議体注:Ag電極に(導電性に優れイオン化しにくい)Pdを含有することにより、溶出が抑えられ、Ag電極の耐マイグレーション性が向上することは、本件優先日前に周知のことである。例えば、当審拒絶理由において引用した特開2003−86852号公報(以下「引用例5」という。)の【0006】等の記載から理解できる。さらに、電極において、Agがベース(例えばAgの含有率70%以上、80%以上)となっていると、反射率(70%以上)が高いものとなることは、例えば、当審拒絶理由において引用した特開2003−234193号公報(以下「引用例3」という。)の【0020】等の記載から理解できる。)。

(3) そうしてみると、引用発明の具体化にあたり、上記(1)及び(2)で述べた周知技術や技術常識に基づき、引用発明の「背面電極」に「用い」る「Ag約85%、Pd約15%からなるAg−Pdペースト」(「電極組成物」)を、「Ag」及び溶媒が混合されたAgペーストに「Pd」を混合することにより製造する構成とするとともに、上記(1)において(A)〜(I)で例示したように、一般的に、電極を形成するための導電性ペーストとして、Ag等の金属の分量(重量%)を10重量%〜90%重量程度という広い範囲から緻密性、塗布性等を考慮して適宜選択することが行われているところ、引用発明において、「Ag−Pdペースト」中の「Ag約85%、Pd約15%」からなる金属の分量を適宜調整することにより、「銀(Ag)」の含量比及び「ドーパント」の含量比として、相違点1に係る本願発明の要件を満たしているものを用いることは、当業者が適宜選択する事項にすぎない。
そして、導電性ペーストにおける金属の分量として15%〜60%とした場合には、「銀(Ag)」の含量比及び「ドーパント」の含量比は本願発明の要件を満たすものとなるところ、例えば、10%〜90%の中間値である50重量%を選択した引用発明は、「Ag」(Agペースト100重量%に対してAg46重量%)及び溶媒が混合されたAgペースト(「導電性物質ペースト」)と、「Pd」(「仕事関数が5.0eV以上であるドーパント」)とを混合して「Ag−Pdペースト」(「電極組成物」)を製造する工程を含み、「Pd」(「ドーパント」)の含量比は、Agペースト(「導電性物質ペースト」)100重量%に対して8.1質量%となり、「Ag」の含量比は、(Ag、Pd及び溶媒が混合された)「Ag−Pdペースト」(「全体電極組成物」)の100重量%に対して42.5質量%(当合議体注:Pdは7.5質量%であり、Ag:Pdとして約85:約15が維持される。)となり、上記相違点1に係る本願発明の構成を具備することとなる。

(4) 本願発明の効果
ア 本願発明(「電極の製造方法」)の効果に関し、本件出願明細書の【0013】には、【発明の効果】として、「本発明の一実施形態にかかる電極は、導電性物質及び仕事関数が5.0eV以上であるドーパントを含むことによって、高い仕事関数を要求する有機発光表示装置の第1電極として使用することができる。」、「また、本発明の一実施形態にかかる電極は、導電性物質の種類を別にして、反射率の高い電極を形成するか、または透過率の高い電極を形成することによって、有機発光表示装置の光の発光方向に応じて各々異なるように適用できる。」、「また、本発明にかかる電極を含む有機発光素子及び有機発光表示装置は、一回のコーティング工程で電極を形成するから、工程が容易でインジウムの代わりをして製造費用を低減でき、短絡不良を防止できるという利点がある。」、「また、本発明の一実施形態にかかる電極を第1電極として使用する有機発光素子及び有機発光表示装置は、ホール注入が容易になるから、正孔注入層を別に必要としない。」との記載がある。
しかしながら、「反射率の高い電極を形成する」とのことは、当業者が予測可能なことである(当合議体注:上記(2)で述べたとおり、引用発明により製造される「背面電極」においては、AgとPdとの比(約85:約15)に応じた高反射率が得られると当業者は理解できる。)。また、「または透過率の高い電極を形成することによって、有機発光表示装置の光の発光方向に応じて各々異なるように適用できる」とのことは、反射率が80%以上である金属粒子(Ag)を導電性物質として特定している本願発明の効果とは認められない。

また、「一回のコーティング工程で電極を形成するから、工程が容易でインジウムの代わりをして製造費用を低減でき、短絡不良を防止できるという利点がある。」とのことは、上記(1)〜(3)で述べた設計変更を施してなる引用発明も奏するものである。
そして、有機発光素子及び有機発光表示装置への適用を前提とする効果は、請求項1に記載された事項に基づくものではなく、本願発明の効果とは認められない。
仮に、有機発光素子及び有機発光表示装置の製造方法への適用を前提として検討したとしても、「導電性物質及び仕事関数が5.0eV以上であるドーパントを含むことによって、高い仕事関数を要求する有機発光表示装置の第1電極として使用することができる。」及び「本発明の一実施形態にかかる電極を第1電極として使用する有機発光素子及び有機発光表示装置は、ホール注入が容易になるから、正孔注入層を別に必要としない。」とのことは、当審拒絶理由において引用した特開2003−288993号公報(以下「引用例2」という。)及び引用例3等の記載に接した当業者が予測可能なことであって、格別のものではない。すなわち、引用例2の【0009】、【0014】〜【0015】、図1等には、有機EL素子において、陽極電極2における銀系合金薄膜5の材料として、ITOと同様の仕事関数が得られ、発光効率が優れることから、銀−パラジウム合金が用いられること、引用例3の【0018】、【0020】、【0037】、【0054】、図1等には、有機発光素子において、陽極(反射電極)を、銀を主成分金属とし、仕事関数が4.5eV以上のPdを含有させることにより、有機層へのホール注入性が良く発光効率の高い素子を作成できること、特開2013−45750号公報の【0004】には、トップエミッション有機EL素子において、陽極には、仕事関数は低いが反射性のよいAgを主成分金属とし、仕事関数の高いパラジウムを副成分金属として含む組成を用いることが記載され、さらに、引用例2の【0033】には、「有機EL素子用透明電極は、その構成要素として、仕事関数が調整された銀系合金薄膜を備えるため、本発明の有機EL素子用透明電極を用いてなる有機EL素子では、正孔注入層等のような、仕事関数を調整するための層を省略することができる」こと、引用例3の【0019】、図1には、「有機発光素子」を、「基材1上に陽極2、有機層3、陰極4が形成され」、「有機層3はホール輸送層31、発光層32、電子輸送層33から構成されている」ものとすること(「ホール注入層」を設けなくてもよいこと)が記載されている。

イ また、本件出願明細書の【0040】の「仕事関数が5.0eV以上であるドーパント粉末が導電性物質ペースト100重量%に対して2重量%以上であると、電極の仕事関数を増加させ、焼結度が向上して電極の膜質が向上し、仕事関数が5.0eV以上であるドーパント粉末が導電性物質ペースト100重量%に対して10重量%以下であると、電極組成物のコーティング性と反射率が低下するのを防止できる。」、【0043】の「導電性物質は、電極の反射率を高めるために、全体電極組成物100重量%に対し10ないし80重量%で含まれることができる。」、【0077】の「仕事関数が5.0eV以上であるドーパントの含量比を2ないし10重量%の範囲で使用して、仕事関数と反射率特性に優れた電極を形成できる。」、【0080】の「パラジウム粉末の含量比が0、0.3、0.6及び2重量%の順に増加するほど、銀(Ag)の流動性の差に応じて焼結度が増加するのを確認することができた。」及び【0081】の「仕事関数が5.0eV以上であるドーパントの含量比が増加するほど、電極の焼結度が増加するのが分かる。したがって、本発明の一実施形態では、仕事関数が5.0eV以上であるドーパントの含量比を2ないし10重量%の範囲で使用して焼結度に優れた電極を形成できる。」との記載が、本願発明の効果に関連する記載として理解可能である。
しかしながら、上記(2)で示したとおり、引用発明により製造される背面電極は、そのAgとPdの比(85:15)からみて、反射率の点で好ましいものと当業者は理解できる。また、上記アで述べたように、有機発光素子及び有機発光表示装置の製造方法への適用を前提とすると、引用発明により製造される背面電極は、仕事関数に優れているものと当業者は理解できる。
同様に、上記(1)〜(3)で述べた設計変更を施してなる引用発明により製造される背面電極は、Ag−Pdペーストに含まれるAgの分量(42.5重量%)(及びPdの分量(7.5重量%))に応じた高反射率を示すことも、当業者は理解できる。
さらに、上記(1)〜(3)で述べた設計変更を施してなる引用発明は、例えば、Agを46重量%含むAgペーストに対して、Pdを8.1重量%混合することにより、Ag及びPdを含むAg−Pdペーストを製造する工程を有するものとなるところ、Ag−Pdペースト中のAg及びPdの合計分量(例えば50重量%)及び溶媒の分量(例えば50重量%、あるいは、(金属及び溶媒以外に他の成分を含むものとした場合)50重量%未満)に対応して、相対的に優れたコーティング性及び相対的に高い焼結度(電極の緻密性)を示すことは、上記(1)で述べた当業者の技術常識(あるいは、上記(1)で例示した各文献の記載から理解される一般的な傾向)から当業者が予測可能なことであって格別のものではない(当合議体注:上記設計変更を施してなる引用発明は、溶媒の分量が極端に少ない電極組成物と比較すれば、相対的にコーティング性に優れるということができる、と当業者は理解できる。また、上記設計変更を施してなる引用発明により製造された背面電極は、Ag(及びPd)の(合計)分量が極端に少ない電極組成物から製造されたものと比較すれば、相対的に高い緻密性、高い焼結度が得られるということができる、と当業者は理解できる。)。

(5) 令和3年6月9日付け意見書について
ア 請求人は、「引用文献1−6のいずれも、銀及び溶媒が混合された導電性物質ペーストと仕事関数が5.0eV以上であるドーパントとを混合して電極組成物を製造する工程と、電極組成物を基板上にコーティングする工程と、電極組成物に熱処理をすることで電極を形成する工程とを含む電極の製造方法であって、ドーパントの含量比は、導電性物質ペーストの100重量%に対して2重量%から10重量%までの範囲内であり、かつ、銀の含量比は、全体電極組成物の100重量%に対して10重量%から80重量%までの範囲内であることを要件とする製造方法を開示していません。従いまして、補正前の請求項1及び従属請求項係る本願発明に対する本拒絶理由は解消したと思料致します。」と主張する。

イ しかしながら、 上記1(2)、2、3及び4(1)〜(4)で述べたとおりであるから、意見書の請求人の主張を採用することはできない。

(6) 小括
以上のとおりであるから、本願発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第3 むすび
本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 榎本 吉孝
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-09-30 
結審通知日 2021-10-05 
審決日 2021-11-05 
出願番号 P2017-181859
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H05B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 榎本 吉孝
特許庁審判官 河原 正
早川 貴之
発明の名称 電極及びこれを含む有機発光素子、液晶表示装置及び有機発光表示装置  
代理人 吉澤 弘司  
代理人 岡部 讓  

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