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審決分類 審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1382769
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-11-03 
確定日 2022-03-17 
事件の表示 特願2016−128089「複写機用フィルタユニット」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 1月11日出願公開、特開2018− 4774〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年6月28日の出願であって、令和元年12月26日付けで拒絶理由が通知され、令和2年2月20日に意見書及び手続補正書が提出され、同年5月20日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年7月14日に意見書及び手続補正書が提出され、同年7月21日付けで令和2年7月14日付け手続補正書でした補正が却下されるとともに拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対して同年11月3日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 令和2年11月3日に提出された手続補正書による補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和2年11月3日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲について、下記(1)に示す本件補正前の(すなわち、令和2年2月20日に提出された手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項3を、下記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1へと補正することを含むものである。(下線は当審決で付した。以下同じ。)
(1)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
複写機内に装着され、紙にトナー像を加熱固定する際に生じた排気としての空気流中のUFP(ウルトラファインパーティクル)を除去する複写機用フィルタユニットにおいて、
前記フィルタユニットの濾材はプリーツ加工されて枠内に収納されており(濾材が溝部と突条部とが交互に配置された凹凸面状であり、前記濾材の凹凸方向と直交する両端に接着されたフレームを有し、前記濾材の溝部と突条部が前記フレームより突出する態様を除く)、該濾材は液体帯電不織布層を含んでなると共に、該濾材が有する総濾材面積S1を前記フィルタユニットの間口面積S2で割った比S1/S2が7以上であって、しかも前記フィルタユニットの粒子エミッション率(PER10)から算出したUFPの除去効率が90%以上であることを特徴とする複写機用フィルタユニット。
【請求項2】
前記濾材が前記液体帯電不織布層と難燃性不織布層とからなることを特徴とする請求項1に記載の複写機用フィルタユニット。
【請求項3】
前記濾材が有する面積当たりのQf値が5×10−5(Pa−1/cm2)以上であることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の複写機用フィルタユニット。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
複写機内に装着され、紙にトナー像を加熱固定する際に生じた排気としての空気流中のUFP(ウルトラファインパーティクル)を除去する複写機用フィルタユニットにおいて、
前記フィルタユニットの濾材はプリーツ加工されて枠内に収納されており(濾材が溝部と突条部とが交互に配置された凹凸面状であり、前記濾材の凹凸方向と直交する両端に接着されたフレームを有し、前記濾材の溝部と突条部が前記フレームより突出する態様を除く)、該濾材は液体帯電不織布層を含んでなると共に、該濾材が有する総濾材面積S1を前記フィルタユニットの間口面積S2で割った比S1/S2が7以上であって、前記フィルタユニットを試験ダクトに装着し、粒径0.3〜0.5μmの大気塵(大気塵数:U)を含む空気を面風速0.5m/秒でフィルタユニットの上流側に供給し、この際、下流側に漏れた大気塵数(D)をパーティクルカウンタで測定し、次式により算出した値を捕集効率として求め、
捕集効率(%)=[1−(D/U)]×100
また、上記捕集効率測定時におけるフィルタユニット上流側および下流側の静圧の差をマノメータによって計測して圧力損失を計測し、上記測定条件で実測したフィルタユニットの捕集効率、及び圧力損失から、以下の式でQf値を算出し(但し、「Ln」は自然対数を表す)、
Qf値=−Ln(1−捕集効率/100)/圧力損失
求めたQf値を、フィルタユニットの総濾材面積で割った値である前記濾材が有する面積当たりのQf値が5×10−5(Pa−1/cm2)以上であり、しかも前記フィルタユニットの粒子エミッション率(PER10)から算出したUFPの除去効率が90%以上であることを特徴とする複写機用フィルタユニット。
【請求項2】
前記濾材が前記液体帯電不織布層と難燃性不織布層とからなることを特徴とする請求項1に記載の複写機用フィルタユニット。」

2 本件補正の適否について
本件補正は、本件補正前の請求項1を引用する請求項3の「複写機用フィルタユニット」の発明特定事項である「前記濾材が有する面積当たりのQf値」について、「前記フィルタユニットを試験ダクトに装着し、粒径0.3〜0.5μmの大気塵(大気塵数:U)を含む空気を面風速0.5m/秒でフィルタユニットの上流側に供給し、この際、下流側に漏れた大気塵数(D)をパーティクルカウンタで測定し、次式により算出した値を捕集効率として求め、
捕集効率(%)=[1−(D/U)]×100
また、上記捕集効率測定時におけるフィルタユニット上流側および下流側の静圧の差をマノメータによって計測して圧力損失を計測し、上記測定条件で実測したフィルタユニットの捕集効率、及び圧力損失から、以下の式でQf値を算出し(但し、「Ln」は自然対数を表す)、
Qf値=−Ln(1−捕集効率/100)/圧力損失
求めたQf値を、フィルタユニットの総濾材面積で割った値である」という限定を付加するものである。
また、本件補正前の請求項1を引用する請求項3に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
そうすると、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
また、本件補正は、本願の願書に最初に添付した明細書の
「【0012】
本発明の好適な実施形態によれば、上述の濾材が液体帯電不織布層と難燃性不織布層とからなるものであることが好ましい。さらに、当該濾材の面積当たりのQf値を5×10−5(Pa−1/cm2)以上とするのが好適である。尚、ここに言う「面積当たりのQf値」とは、所定の条件で作製したフィルタユニットに粒径0.3〜0.5μmの大気塵を面風速0.5m/秒で供給して求めたQf値を、前述の総濾材面積S1(cm2単位)で割った値である。ここで言う「Qf値」とは、従来知られている濾過性能を表す指標であり、上記測定条件で実測したフィルタユニットの捕集効率(%単位)、及び圧力損失(Pa単位)から、以下の式で算出される値である(但し、「Ln」は自然対数を表す)。Qf値=−Ln(1−捕集効率/100)/圧力損失」
「【0027】
(濾材面積当たりのQf値)
フィルタユニットを試験ダクトに装着し、粒径0.3〜0.5μmの大気塵(大気塵数:U)を含む空気を面風速0.5m/秒でフィルタユニットの上流側に供給した。この際、下流側に漏れた大気塵数(D)をパーティクルカウンタ(RION株式会社製:KC−01E)で測定し、次式により算出した値を捕集効率として求める。
捕集効率(%)=[1−(D/U)]×100
また、圧力損失は、上記捕集効率測定時におけるフィルタユニット上流側および下流側の静圧の差をマノメータ(株式会社コスモ計器製:DM−3501)によって計測した。これら種々にプリーツ加工された濾材の基本性能に関わるQf値を、フィルタユニットの総濾材面積S1(表中、面積S1と略記)で割って、濾材面積当たりのQf値を求めた。この評価試験に使用した各フィルタユニットのプリーツ構成、フィルタユニットの構成、及び測定結果としてのフィルタユニットの基本性能を表1に列挙する。同表においては、上述した総濾材面積S1以外に、間口面積S2を「面積S2」、及び、これら2つの面積の比を「S1/S2」と各々略記してある。」
の記載に基づいており、新規事項を追加するものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。

3 独立特許要件について
本件補正の目的が、特許請求の範囲の減縮を目的としているので、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記「1 (2)本件補正後の特許請求の範囲」の【請求項1】に記載したとおりのものと認める。

(2)引用例
ア 引用例1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用され、本願出願日前に頒布された引用文献である、特開2009−220024号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の記載がある。
a「【技術分野】
【0001】
本発明は、空気清浄に用いられるプリーツ加工された濾材に関する。」
b「【0010】
また、集塵性能を高めるためには、濾材表面に10−10〜10−7C/cm2程度の電荷を有するエレクトレット合成繊維不織布を用いることが好ましい。」
c「【0011】
本発明における濾材は、プリーツ加工されてなる。そうすることで、一定開口面積内の濾材面積を大きくすることができ、高い捕集効率および長寿命が可能となる。」
d「【0034】
(8)捕集効率
JIS B 9927:1999を準用し、ダストとして粒径0.305μm、粒径標準偏差0.0084のポリスチレン標準粒子(セラダイン社製“ユニフォーム・ラテックス粒子”)を用い、フィルタ通過流量10m3/分で、パーティクルカウンター(リオン社製 KC−22A)を用いて測定し、次式により捕集効率を算出した。
捕集効率(%)=(1―C2/C1)×100
ここに、C1:フィルタの上流側ダスト個数
C2:フィルタの下流側ダスト個数。
【0035】
(9)外観
プリーツ加工された濾材の折り目に直交する2辺の端面が枠材からでておらず、プリーツ加工された濾材の折り目に直交する2辺の端面と枠材の間に隙間がなく、且つ手で持ったときに隙間のできる箇所がないフィルタを合格とした。」
e「【0036】
[実施例1]
(プリーツ濾材)
ポリプロピレン繊維からなるエレクトレット不織布(東レ製“トレミクロン”、品番 EM05010、平均繊維径2.5μm、目付50.0g/m2)と支持体としてポリエステル繊維およびビニロン繊維からなる短繊維不織布(平均繊維径30.0μm、目付70.0g/m2)とを貼り合わせた濾材を、ロータリープリーツ機を用い山高さ40mm、幅306mm、長さ388mm、ピッチ間隔4mmにプリーツ加工し、プリーツ濾材とした。
【0037】
(枠材)
ポリエステル繊維およびレーヨン繊維からなるスパンボンド不織布(平均繊維径13.0μm、目付70.0g/m2、厚さ0.35mm、幅42mm、長さ390mm)を枠材とした。この枠材の引張強度は長さ方向202N/5cm、幅方向 58.0N/5cm、波長365.0nmにおける光透過性は49.9%であった。
【0038】
(接着剤)
ラジカル重合型光硬化性樹脂(スリーボンド社製、品番3014、粘度17000mPa・s、硬度A80)を接着剤として用い、上記枠材へ厚さ600μmとなるようにロールコーターを用いて塗布した。
尚、接着剤が塗布され硬化された状態の枠材の引張強度は、長さ方向214.7N/5cm、幅方向69.7N/5cmであった。
【0039】
(接着)
上記接着剤を塗布した上記枠材を、上記接着剤がプリーツ濾材側に面するように配置し押し当てた状態で、紫外線硬化装置(松下電工社、“Aicure ANUP8000”、光源4.0kW、発光長500mm、管径24mmの高圧水銀ランプ(主波長365nm))を用いて光照射距離を150mmとし、光照射による硬化を行いフィルタを得た。光照射時間は7秒とした。
【0040】
(評価)
得られたフィルタは、外観検査は合格であった。
また、捕集効率は99.9%であった。 」
f「【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によるフィルタは、ビル空調用、クリーンルーム用、家庭空気清浄機用、車載用、機器用などに好ましく使用される。」

(イ)上記(ア)から、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「集塵性能を高めるためには、濾材表面に10−10〜10−7C/cm2程度の電荷を有するエレクトレット合成繊維不織布を用い、及び、プリーツ加工されてなることで、一定開口面積内の濾材面積を大きくすることができ、高い捕集効率および長寿命を可能とし、濾材としてエレクトレット合成繊維不織布が用いられ、プリーツ加工されたフィルタであって、ポリプロピレン繊維からなるエレクトレット不織布(東レ製“トレミクロン”、品番 EM05010、平均繊維径2.5μm、目付50.0g/m2)と支持体としてポリエステル繊維およびビニロン繊維からなる短繊維不織布(平均繊維径30.0μm、目付70.0g/m2)とを貼り合わせた濾材を、ロータリープリーツ機を用い山高さ40mm、幅306mm、長さ388mm、ピッチ間隔4mmにプリーツ加工したプリーツ濾材を、接着剤を塗布した枠材を接着剤がプリーツ濾材側に面するように配置し押し当てた状態で光照射による硬化を行い得られたフィルタであって、JIS B 9927:1999を準用し、ダストとして粒径0.305μm、粒径標準偏差0.0084のポリスチレン標準粒子(セラダイン社製“ユニフォーム・ラテックス粒子”)を用い、フィルタ通過流量10m3/分で、パーティクルカウンター(リオン社製 KC−22A)を用いて測定し
捕集効率(%)=(1―C2/C1)×100
により算出された捕集効率が99.9%であり、プリーツ加工された濾材の折り目に直交する2辺の端面が枠材からでておらず、空気清浄に用いられ機器用として使用されるフィルタ。
ここに、C1:フィルタの上流側ダスト個数
C2:フィルタの下流側ダスト個数。」

イ 引用例2
(ア)原査定の拒絶の理由で引用され、出願日前に頒布された引用文献である、特開2003−205210号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の記載がある。
a「【0012】
【発明の実施の形態】
本発明のエレクトレット体の製造方法について、本発明のエレクトレット体を製造することのできる製造装置の模式的断面図である図1〜図3を参照しながら説明する。なお、図1〜図3において、同じ符号は同じ又は類似の部品を示している。また、図1〜図3においては構造体がシート形態である場合である。
【0013】
まず、図1においては、供給ロール10からエレクトレット化されるべき熱可塑性樹脂シート14を極性液体浴槽30へ供給する。なお、図1においては、熱可塑性樹脂シート14はロール状に巻かれた状態から巻き出して極性液体浴槽30へ供給しているが、熱可塑性樹脂シート14の製造装置からロール状に巻くことなく、直接、極性液体浴槽30へ供給しても良い。また、図1においては、熱可塑性樹脂シート14はロールによって搬送して極性液体浴槽30へ供給しているが、ロールに替えてコンベアなどの搬送装置によって搬送しても良い。
【0014】
次いで、このように極性液体浴槽30へ供給した熱可塑性樹脂シート14を極性液体浴槽30の極性液体32中へ浸漬して、熱可塑性樹脂シート14に極性液体32を担持させる。なお、熱可塑性樹脂シート14に効率よく極性液体32を担持させるために、含浸装置(例えば、Rodney Hunt社のサチュレーター)などを備えていても良い。
【0015】
この極性液体32は特に限定するものではないが、例えば、水、アルコール、アセトン、アンモニアなどを挙げることができる。これらの中でも、水は製造環境的に優れているため、好適に使用することができる。
【0016】
次いで、この極性液体32を担持した熱可塑性樹脂シート14を超音波振動発生装置20へ供給し、この超音波振動発生装置20により超音波振動を作り出し、この超音波振動を極性液体32を介して熱可塑性樹脂シート14へ伝え、熱可塑性樹脂シート14をエレクトレット化させる。この時、熱可塑性樹脂シート14が極性液体32を担持していないと、超音波振動発生装置20によって作り出された超音波振動が、熱可塑性樹脂シート14の内部へ十分に伝わりにくいため、超音波振動が熱可塑性樹脂シート14の内部まで伝わるように、熱可塑性樹脂シート14に十分な量の極性液体32を担持させるのが好ましい。この極性液体32の量は熱可塑性樹脂シート14の種類によって異なるが、実験を繰り返すことにより、適宜設定することができる。」
b「【0021】
次いで、図1においては、このようにエレクトレット化させた熱可塑性樹脂シート14を乾燥装置60へ供給し、乾燥して、本発明のエレクトレットシートを形成し、その後、巻き取りロール12により巻き取る。この乾燥装置60での乾燥温度は、好ましくは120℃以下、より好ましくは90℃以下、さらに好ましくは60℃以下である。なお、エレクトレットシートは巻き取りロール12で巻き取ることなく、次の後処理工程へと供給しても良い。また、図1においては乾燥装置60を設置しているが、超音波振動発生装置20により熱可塑性樹脂シート14によりエレクトレット化させると共に、超音波振動により熱可塑性樹脂シート14から極性液体32を除去して乾燥することもできる。この場合、乾燥装置60は必ずしも必要ではない。なお、この超音波振動による乾燥条件は、例えば、熱可塑性樹脂シート14の種類、熱可塑性樹脂シート14による極性液体32の担持量、極性液体32の種類などによって異なるため、特に限定できるものではない。なお、この超音波振動による乾燥条件は、実験を繰り返すことによって適宜設定することができる。」
c「【0035】
本発明のエレクトレット体の製造方法によって製造したエレクトレット体は、帯電量の多いものであるため、例えば、空気などの気体フィルタ用濾過材、オイルや水などの液体フィルタ用濾過材、成型マスクなどのマスク用濾過材、ワイピング材、防塵衣料、音波又は振動の検出素子などの各種用途に使用することができる。
【0036】
本発明のエレクトレット体は上記のような用途に好適に使用できるものであるが、各種用途に適合するように、各種後加工を実施することができる。例えば、エレクトレット体を好適である濾過材として使用する場合、襞折り加工を実施して濾過面積を広くするのが好ましい。」

(イ)上記(ア)から、引用例2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「極性液体32を担持した熱可塑性樹脂シート14を超音波振動発生装置20へ供給し、この超音波振動発生装置20により超音波振動を作り出し、この超音波振動を極性液体32を介して熱可塑性樹脂シート14へ伝え、熱可塑性樹脂シート14をエレクトレット化させた熱可塑性樹脂シートからなるエレクトレット体であり、帯電量の多いものであるため、空気などの気体フィルタ用濾過材として用いられ、濾過材として使用する場合、襞折り加工を実施して濾過面積を広くするのが好ましいエレクトレット体。」

(3)引用発明1との対比
ア 本願補正発明と引用発明1とを対比する。
本願の図1において、「枠15」は、「フレーム」としての機能を有していると認められるから、本願補正発明における「枠」と「フレーム」とは同一物であると認められ、引用発明1の「枠材」は、本願補正発明の「枠」及び「フレーム」に相当する。
引用発明1の「フィルタ」は「濾材」のみならず「枠材」を有するものであるから、引用発明1の「フィルタ」と、本願補正発明の「フィルタユニット」とは、「濾材」と「枠(フレーム)」とからなるものである点で相当する。
引用発明1の「フィルタ」は、「プリーツ加工された濾材の折り目に直交する2辺の端面が枠材からでて」いないものであるから、「濾材」が「プリーツ加工されて」「枠材」内に「収納されて」いる一方で、「濾材が溝部と突条部とが交互に配置された凹凸面状であり、前記濾材の凹凸方向と直交する両端に接着されたフレームを有し、前記濾材の溝部と突条部が前記フレームより突出する態様」ではないと認められ、引用発明1の「フィルタ」は、本願補正発明の「フィルタユニット」と、「前記フィルタユニットの濾材はプリーツ加工されて枠内に収納されており(濾材が溝部と突条部とが交互に配置された凹凸面状であり、前記濾材の凹凸方向と直交する両端に接着されたフレームを有し、前記濾材の溝部と突条部が前記フレームより突出する態様を除く)」の点で共通する。

イ 以上のことから、本願補正発明と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。

【一致点】
「前記フィルタユニットの濾材はプリーツ加工されて枠内に収納されており(濾材が溝部と突条部とが交互に配置された凹凸面状であり、前記濾材の凹凸方向と直交する両端に接着されたフレームを有し、前記濾材の溝部と突条部が前記フレームより突出する態様を除く)フィルタユニット。」

[相違点1]
本願補正発明は、「複写機内に装着され、紙にトナー像を加熱固定する際に生じた排気としての空気流中のUFP(ウルトラファインパーティクル)を除去する複写機用フィルタユニット」であるのに対し、引用発明1は「機器用」であり、接着剤を塗布した枠材を接着剤がプリーツ濾材側に面するように配置し押し当てた状態で光照射による硬化を行うことで得られたものであって、JIS B 9927:1999を準用した算出方法による捕集効率が99.9%ではあるものの、「複写機内に装着され、紙にトナー像を加熱固定する際に生じた排気としての空気流中のUFP(ウルトラファインパーティクル)を除去する複写機用フィルタユニット」ではない点。
[相違点2]
本願補正発明は、「該濾材は液体帯電不織布層を含んでなる」のに対し、引用発明1は濾材が液体帯電不織布層を含んでいない点。
[相違点3]
本願補正発明は、「該濾材が有する総濾材面積S1を前記フィルタユニットの間口面積S2で割った比S1/S2が7以上であ」るのに対し、引用発明1は、「該濾材が有する総濾材面積S1を前記フィルタユニットの間口面積S2で割った比S1/S2が7以上」ではない点。
[相違点4]
本願補正発明は、「前記フィルタユニットを試験ダクトに装着し、粒径0.3〜0.5μmの大気塵(大気塵数:U)を含む空気を面風速0.5m/秒でフィルタユニットの上流側に供給し、この際、下流側に漏れた大気塵数(D)をパーティクルカウンタで測定し、次式により算出した値を捕集効率として求め、
捕集効率(%)=[1−(D/U)]×100
また、上記捕集効率測定時におけるフィルタユニット上流側および下流側の静圧の差をマノメータによって計測して圧力損失を計測し、上記測定条件で実測したフィルタユニットの捕集効率、及び圧力損失から、以下の式でQf値を算出し(但し、「Ln」は自然対数を表す)、
Qf値=−Ln(1−捕集効率/100)/圧力損失
求めたQf値を、フィルタユニットの総濾材面積で割った値である前記濾材が有する面積当たりのQf値が5×10−5(Pa−1/cm2)以上であ」るのに対し、引用発明1は、その点ついて明らかではない点。
[相違点5]
本願補正発明は、「前記フィルタユニットの粒子エミッション率(PER10)から算出したUFPの除去効率が90%以上である」のに対し、引用発明1はその点について明らかではない点。

(4)判断
ア 上記相違点1について検討する。
例えば特開2015−141351号公報(段落【0009】、【0013】、【0107】〜【0112】等を参照)に記載されているように、フィルタを、複写機内に装着され、紙にトナー像を加熱固定する際に生じた排気としての空気流中のUFPを除去する複写機用フィルタとして用いる技術は、周知の技術事項(以下、「周知技術1」という。)である。
引用発明1は、空気清浄機能を有する機器におけるフィルタ性能の低下の防止を課題としているところ、機器の具体例として複写機とすることは、当業者が適宜選択し得る事項であるとともに、上記周知技術1にあるように、UFPの除去を可能とし、以て、フィルタ性能の低下を防止しようとすることは当業者が当然想起し得るものである。
してみると、引用発明1において、周知技術1を適用し、相違点1の構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。

イ 上記相違点2について検討する。
まず、引用発明1は、集塵性能を高めるためには、濾材表面に10−10〜10−7C/cm2程度の電荷を有するエレクトレット合成繊維不織布を用いたものである。
一方、引用発明2は、帯電量の多い気体フィルタ用濾過材として、「極性液体32を担持した熱可塑性樹脂シート14を超音波振動発生装置20へ供給し、この超音波振動発生装置20により超音波振動を作り出し、この超音波振動を極性液体32を介して熱可塑性樹脂シート14へ伝え、熱可塑性樹脂シート14をエレクトレット化させた熱可塑性樹脂シートからなるエレクトレット体」を用いるものであり、当該「熱可塑性樹脂シートからなるエレクトレット体」は「液体帯電不織布層を含んでなる」「濾材」であると言えるから、引用発明2には、相違点2に係る「該濾材は液体帯電不織布層を含んでなる」構成が記載されているといえる。
そして、引用発明1と引用発明2は、帯電量の多いフィルタを提供するという共通の課題を有しており、引用発明1に引用発明2を適用し、相違点2に係る構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。

ウ 上記相違点3及び相違点4について検討する。
相違点3及び相違点4は、関連のある相違点であるため、同時に検討を行う。
まず、例えば特開2015−196920号公報(段落【0061】等を参照)に記載されているように、プリーツ形状により濾材面積を増加させることで、濾材を貫通する風速が低下する結果、捕集効率を向上させ、圧力損失を低くする技術は、周知の技術事項(以下、「周知技術2」という。)である。
そして、「S1/S2」とは、プリーツ形状による濾材面積の増加量のことであるから、上記周知技術2は、「S1/S2」を増加させることで、濾材を貫通する風速が低下する結果、捕集効率を向上させ、圧力損失を低くする技術であるといえ、また、「S1/S2」を増加させることによって、濾材を貫通する風速が低下する結果、捕集効率を向上させ、圧力損失を低くするのであるから、「S1/S2」を増加させることによって、「濾材が有する面積当たりのQf値」を増加させる技術であるともいえる。
一方、本願の発明の詳細な説明の記載を参酌しても相違点3及び相違点4に係る数値範囲に臨界的意義は認められない。
そして、引用発明1と周知技術2は、捕集効率を向上させるという共通の課題を有するものであり、例えば特開2007−130632号公報(段落【0040】等を参照)に記載されているように、Qf値が大きい方が好ましいことが技術常識であることも踏まえると、引用発明1において、周知技術2を適用し、「S1/S2」を増加させ、それに伴い「濾材が有する面積当たりのQf値」を増加させることは、当業者が容易になし得たことであり、その具体的な数値範囲として、相違点3及び相違点4に係る数値範囲を採用することは、当業者が適宜なし得たことである。

エ 上記相違点5について検討する。
例えば特開平3−89910号公報(第3頁等を参照)に記載されているように、フィルタの目の粗さを密にすることで粒径の小さい粒子の除去効率を向上させる技術は、周知の技術事項(以下、「周知技術3」という。)である。
そして、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、相違点5の数値範囲に臨界的意義は認められない。
してみると、引用発明1に記載された発明において、上記周知技術3を参酌し、フィルタの目の粗さを密にすることで粒径の小さい粒子であるUFPの除去効率を向上させることは、当業者が容易になし得たことであり、その具体的な数値範囲として、相違点5に係る数値範囲とすることは、当業者が適宜採用し得る設計的事項である。

オ そして、本願補正発明の奏する効果は、引用発明1、2及び周知技術1ないし3が奏する効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

カ したがって、本願補正発明は、引用発明1、2及び周知技術1ないし3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、本願補正発明と、引用文献1に記載された発明の相違点を

<相違点1>
請求項1に係る発明は、濾材が液体帯電不織布層を含んでなるのに対して、引用文献1に記載された発明は、エレクトレット合成不織布を用いるものの、液体帯電不織布層を含むとは記載されていない点。
<相違点2>
請求項1に係る発明は、濾材が有する総濾材面積S1をフィルタユニットの間口面積S2で割った比S1/S2が7以上であるのに対して、引用文献1に記載された発明は、そのような構成を有するとは記載されていない点。
<相違点3>
請求項1に係る発明は、複写機内に装着され、紙にトナー像を加熱固定する際に生じた排気としての空気流中のUFP(ウルトラファインパーティクル)を除去するフィルタであって、フィルタユニットの粒子エミッション率(PER10)から算出したUFPの除去効率が90%以上であるのに対して、引用文献1に記載された発明は、捕集効率は99.9%であるものの、本願のような複写機内に装着されUFPの除去効率が90%以上のものとは記載されていない点。
<相違点4>
請求項1に係る発明は、濾材が有する面積当たりのQf値が5×10−5(P a−1/cm2)以上である一方、引用文献1に記載された発明は、そのような構成を有するとは記載されていない点。
(以下、「審判請求書における相違点1ないし4」という。)
とした上で、上記審判請求書における相違点1、審判請求書における相違点3及び審判請求書における相違点4について、以下の通り主張している。

<審判請求書における相違点1に対する主張>
ア 「まず、相違点1について説明する。審査官殿は、令和2年5月20日付で起案した拒絶理由通知において、相違点1について、「まず、相違点1について検討すると、引用文献2の[0035]−[0038]には、空気などの気体フィルタ用濾過材において、エレクトレット体に襞折り加工を実施したものを濾過材として用いるほか、エレクトレット体を液体帯電不織布層で形成することで、エレクトレット体の帯電量を多くすることが記載されている。引用文献1及び2は、いずれも、プリーツ加工された空気濾過用のフィルタに関する技術であるから、引用文献2に記載の技術を引用文献1に記載された発明に適用することは、当業者が適宜なし得たことである」と指摘されています。
引用文献1には、濾材表面に10−10〜10−7C/cm2程度の電荷を有するエレクトレット合成繊維不織布を用いることが好ましいことについては開示されているものの、具体的にどのエレクトレット合成不織布を用いるかについては開示も示唆もありません。」
「一方、引用文献2には、引用文献2の製造方法によって製造したエレクトレット体が、帯電量の多いものであるため、例えば、空気などの気体フィルタ用濾過材などの各種用途に使用することができることが開示されているものの、濾材表面に10−10〜10−7C/cm2程度の電荷を有するエレクトレット合成繊維不織布を製造できること、及びUFPのように粒径100nm以下と小さい粒子の濾過を行うことについては引用文献2に開示も示唆もありません。
したがって、濾材表面に10−10〜10−7C/cm2程度の電荷を有するエレクトレット合成繊維不織布のエレクトレット化方法としてコロナ放電が周知(例えば、特開2003−260319号公報、2003−260317号公報、特開平11−319441号公報など)であるものの、引用文献2で開示の液体帯電方法により10−10〜10−7C/cm2程度の電荷を有するようにエレクトレット化できることが知られていないため、引用文献1に引用文献2に開示されている液体帯電不織布を採用しようとすることは容易に想到できるものではありません。」
イ 「また、引用文献1には、プリーツ加工された濾材を含むフィルタであることは開示されているものの、UFPのように粒径100nm以下と小さい粒子の濾過を行うことについては開示も示唆もありません。」
「仮に引用文献1に引用文献2の開示を組み合わせることができたとしても、引用文献1、2のいずれもUFPのような粒径100nm以下と小さい粒子の濾過に有効であることを開示又は示唆するものではないため、本願発明のような粒径100nmと小さい粒子(UFP)の濾過を行うフィルタユニットに容易に想到できません。
これに対して、本願発明は、濾材が液体帯電不織布層を含んでなる実施例1〜4のフィルタユニットのUFPの除去効率が90.4%以上であったのに対して、濾材が液体帯電不織布層ではなくメルトブロー不織布にコロナ荷電を施したものである比較例5のフィルタユニットのUFPの除去効率が84.9%であったことから、濾材が液体帯電不織布層を含んでなることでUFPの捕集効率が優れることが明らかであり、このことは、引用文献1〜5のいずれに開示も示唆もされてないことから、本願発明は、液体帯電不織布層を含んでなることでUFPの捕集効率が優れるという、これらの引用文献から予測できない効果を奏するものであります。」

<審判請求書における相違点3に対する主張>
ウ 「次に、相違点3について説明する。審査官殿は、令和2年5月20日付で起案した拒絶理由通知において、相違点3について、「最後に、相違点3について検討すると、フィルタユニットの濾材をプリーツ加工したフィルタユニットは、複写機の分野では周知のものである(例.引用文献3([0090]−[0097]、[0109]−[0111]、図4、6−9)、引用文献4(1頁左上欄2−20行、3頁右上欄3−9行))。
そして、引用文献1のフィルタユニットは、機器用などにも用いられるところ([0062])、上記周知技術のように複写器に用いることは、当業者にとっては容易である。その際、捕集効率が99.9%である引用文献1に記載のフィルタの性能を、粒子エミッション率(PER10)から算出したUFPの除去効率で表現することに、格別の困難性は見出せない。」と指摘されています。
引用文献3のフィルタは、フィルタ基材の凹凸方向と直交する両端に接着されたフレームを有し、前記フィルタ基材の溝部と突条部が前記フレームより突出するのが必須構成となっており、引用文献3にはフレームの存在によって超微粒子の捕捉効率が高まることが開示されていることから、引用文献3の開示を引用文献1に適用しようとした際に、UFPのような超微粒子の捕捉効率を高めるために引用文献3に開示されている構成を採用しようとするのが自然であります。そのため、引用文献1に引用文献3の開示を仮に組み合わせることができたとしても、濾材が溝部と突条部とが交互に配置された凹凸面状であり、前記濾材の凹凸方向と直交する両端に接着されたフレームを有し、前記濾材の溝部と突条部が前記フレームより突出する態様を除いた本願発明の複写機用フィルタユニットには容易に想到できるものではありません。」
エ 「また、引用文献4は、数ミクロンからサブミクロンまでの範囲のダストを濾過分離するフィルタであることが開示されており、この開示から、引用文献4のフィルタはサブミクロンよりさらに小さい粒径が100nm以下のUFPの濾過を想定しているフィルタではないことがわかります。また、引用文献1には粒径が100nm以下のUFPなどの粒径の小さい粒子の濾過について開示も示唆もありません。このことから、引用文献1に引用文献4の発明を仮に組み合わせることができたとしても、本願発明のようなUFPを除去する複写機用フィルタユニットには容易に想到できるものではありません。」
オ 「更に、本願発明の複写機用フィルタユニットで捕集対象としているUFPは、引用文献3にも開示されている通り、複写機から発生する粒子で、粒径が100nm以下の粒子であり、また、参考文献3に開示されているように、複写機から発生するUFPは低分子シロキサンであり、参考文献4に開示されているように、トナーを用いて印刷するレーザープリンタから発生する粒子は、粒径が0.1μm(=100nm)以下の物(UFP)が多く(Fig.5,6)、また、無帯電の粒子であります。
一方、引用文献1の捕集効率は、JIS B 9927:1999を準用し、粒径0.305μm、粒径標準偏差0.0084のポリスチレン標準粒子で測定したものです。また、JIS B 9927:1999(参考文献5)に記載の試験方法は、粒子捕集率試験(捕集効率)において、試験用粒子(ポリスチレン粒子)の供給を、ラスキンノズルを用いた発生器で行い、ラスキンノズルで加圧噴霧してエアロゾルを発生させる方法であります。更に、参考文献6に開示されているように、ポリスチレンラテックス粒子のエアロゾル化は懸濁液の噴霧乾燥により行ない、懸濁液の噴霧乾燥により、大きな電荷を持ちます。
このように、本願発明の複写機用フィルタユニットにおけるUFPの除去効率が90%以上であることと、引用文献1のフィルタにおける捕集効率が99.9%であることは、捕集する粒子の粒径(本願発明は0.1μm以下、引用文献1は0.305μm)、粒子の組成(本願発明は低分子シロキサン、引用文献1はポリスチレン)、粒子の帯電状態(本願発明は無帯電、引用文献1は帯電)の違いから、同列に扱うことができるものではなく、引用文献1の捕集効率を満たしていても、必ずしも本願発明のUFPの除去効率を満たすものではありません。つまり、本願発明のようなUFPは引用文献1の粒子径の3分の1以下、かつ無帯電であることから捕集されにくいことが予測できるため、引用文献1の捕集効率から本願発明のUFPの捕集効率に想到することは容易ではありません。」

<審判請求書における相違点4に対する主張>
カ 「次に、相違点4について説明する。補正前特許請求の範囲の請求項3に記載されていたもので、また、令和2年5月20日付で起案した拒絶理由通知において、補正前特許請求の範囲の請求項3について、「引用文献5の[0020]、[0040]には、プリーツ等の形状に成形可能であって、帯電加工不織布が積層されたエアフィルター用の濾材の性能として、QF値を0.08以上とすることで、JISB9908形式3に規定された粒子捕集効率90%以上を実現することが記載されている。そして、引用文献1にこの技術を適用した際に、QF値を5×10−5(Pa−1/cm2)とすることは、当業者にとっては容易である。したがって、本願の請求項3に係る発明も、引用文献1−5の記載をもとに、当業者が容易になし得たものである。」と指摘されています。引用文献5に記載のJIS B 9908(2001)形式3の粒子捕集効率は、参考文献1に開示されているように、試験用粉体1の11種を用いたものであり、この試験用粉体1の11種は、参考文献2に開示されているように、関東ロームで、かつ中位径が1.6〜2.3μmと比較的大きい粒子であります。また、引用文献5のフィルターは、複写機に装着する用途について開示も示唆もなく、その上、UFPのように粒径100nm以下と小さく、かつ試験用粉体1の11種と組成も異なる粒子(低分子シロキサン)の捕集率向上について、開示又は示唆するものではありません。
このように、引用文献5は中位径が1.6〜2.3μmと比較的大きい粒子を想定したフィルタであるのに対して、引用文献1は0.3μm程度の粒子を対象としており、粒子径で5.3倍以上の差があるため、引用文献5を引用文献1のフィルタに適用する動機はありません。
仮に引用文献1に対して引用文献5の発明を組み合わせることができたとしても、引用文献5におけるQF値は、(i)0.3μm粒子の透過率(%)から求めており、(ii)濾材貫通風速が0.35m/秒の条件下であることから、本願発明に想到することはできません。つまり、本願発明におけるQf値は、(i)0.3〜0.5μm大気塵の透過率(%)から求めており、(ii)大気塵を面風速0.5m/秒で供給していることから、引用文献5におけるQF値は本願発明におけるQf値と定義が異なり、単純に比較できないことから、本願発明に想到することはできません。また、引用文献1に引用文献5の技術を適用できたとしても、引用文献1と引用文献5のいずれにも粒径が100nm以下のUFPなどの粒径の小さい粒子の濾過について開示又は示唆するものではないため、本願発明に想到することはできません。つまり、引用文献5はQF値が0.08以上であることの効果について開示しているものの、QF値が0.08以上であることによる効果は、UFPよりもはるかに粒径の大きい粒子(中位径が1.6〜2.3μmの粒子)の捕集効率と圧力損失が優れていることを開示しているのみであり、本願発明のようなUFP(粒径が100nm以下)の捕集効率と圧力損失が優れていることを開示又は示唆するものではないため、本願発明に想到することはできません。更に、引用文献5の技術を適用し、引用文献1のフィルタのQF値を0.08以上とすることができたとしても、引用文献1のフィルタを構成するプリーツ濾材の面積が23775(cm2)であることをもとに、以下の式により引用文献5の技術を適用した引用文献1のプリーツ濾材1cm2当たりのQf値を算出すると、
0.08/23775(cm2)≒3.4×10−6(以上)
です。
これに対して、本願発明のQf値と引用文献5のQF値が粒子径、風速の違いに関わらず比較できるものとしても、本願発明の請求項1で規定している濾材の面積当たりのQf値は5.0×10−5以上で、引用文献5の技術を適用した引用文献1における濾材の面積当たりのQF値の最小値と比較して1桁以上高い値であることから、濾材の面積当たりのQf値が1桁以上高い本願発明の構成に容易に想到できたものではないと思慮いたします。
以上のことから、引用文献1に引用文献5の技術を仮に組み合わせることができたとしても、本願発明のようなUFPを除去し、かつ、面積当たりのQf値が5.0×10−5以上である複写機用フィルタユニットには容易に想到できるものではありません。」
と主張する。
そこで、上記主張について以下、検討する。

<審判請求書における相違点1に対する主張について>
<主張アについて>
引用文献1(引用例1)において好ましいとされるエレクトレット合成繊維不織布の電荷を、引用文献2の製造方法で製造できることが引用文献2(引用例2)に記載されていないからといって、引用文献1に記載された発明に引用文献2に記載された発明を適用することに阻害要因があるとはいえない。
よって、請求人の主張アは採用できない。
<主張イについて>
引用文献1(引用例1)及び引用文献2(引用例2)に、UFPのように粒径が小さいものを濾過する点が記載されていないとしても、上記(4)において説示したとおり、審判請求書における相違点1に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものであり、本願補正発明が奏する効果も、引用発明1、引用発明2及び周知技術1ないし3が奏する効果から当業者が予測可能な程度のものである。
よって、請求人の主張イは採用できない。

<審判請求書における相違点3に対する主張について>
<主張ウについて>
引用文献3(特開2015−141351号公報)は、フィルタを、複写機内に装着され、紙にトナー像を加熱固定する際に生じた排気としての空気流中のUFPを除去する複写機用フィルタとして用いる技術が、周知の技術事項であることを示すための文献に過ぎず、引用文献3に記載された具体的な構成を採用することを前提とした上記請求人の主張ウは採用できない。
<主張エについて>
引用文献4(特開平3−89910号公報)に、粒径が100nm以下の粒子の濾過について直接記載されていないとしても、フィルタの目の粗さを密にすることで粒径の小さい粒子の除去効率を向上させることができるという一般的な傾向を示すものであるとはいえるため、引用文献4に粒径が100nm以下の粒子の濾過について直接記載されていないことを根拠とした上記請求人の主張エは採用できない。
<主張オについて>
引用文献1(引用例1)の捕集効率の測定方法が本願補正発明の除去効率の測定方法とは異なるとしても、上記(4)において説示したとおり、審判請求書における相違点3の数値範囲を採用することは、当業者が容易になし得たものであり、上記請求人の主張オは採用できない。

<審判請求書における相違点4に対する主張について>
<主張カについて>
まず、引用文献5(特開2007−130632号公報)のQf値の測定方法が、本願補正発明のQf値の測定方法と異なるとしても、Qf値が大きい方が好ましいことが技術常識であることを示すものであるとはいえる。
そして、上記(4)において説示したとおり、審判請求書における相違点4の数値範囲を採用することは、当業者が容易になし得たことであり、上記請求人の主張カは採用できない。

よって、請求人の主張は採用できない。

4 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項3に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和2年2月20日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項3に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
複写機内に装着され、紙にトナー像を加熱固定する際に生じた排気としての空気流中のUFP(ウルトラファインパーティクル)を除去する複写機用フィルタユニットにおいて、
前記フィルタユニットの濾材はプリーツ加工されて枠内に収納されており(濾材が溝部と突条部とが交互に配置された凹凸面状であり、前記濾材の凹凸方向と直交する両端に接着されたフレームを有し、前記濾材の溝部と突条部が前記フレームより突出する態様を除く)、該濾材は液体帯電不織布層を含んでなると共に、該濾材が有する総濾材面積S1を前記フィルタユニットの間口面積S2で割った比S1/S2が7以上であって、しかも前記フィルタユニットの粒子エミッション率(PER10)から算出したUFPの除去効率が90%以上であることを特徴とする複写機用フィルタユニット。
【請求項2】
前記濾材が前記液体帯電不織布層と難燃性不織布層とからなることを特徴とする請求項1に記載の複写機用フィルタユニット。
【請求項3】
前記濾材が有する面積当たりのQf値が5×10−5(Pa−1/cm2)以上であることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の複写機用フィルタユニット。 」

2 原査定の拒絶の理由
原査定の理由は、この出願の請求項3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用例1、2、5に記載された事項及び周知技術から当業者が容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第2項に該当し、特許を受けることができない、という理由を含むものである。
引用例1.特開2009−220024号公報
引用例2.特開2003−205210号公報
引用例5.特開2007−130632号公報(技術常識を示す文献)

3 引用例
令和2年5月20日付けの拒絶理由通知に引用された引用例1、引用例2、及び、その記載内容は上記「第2 3 (2)引用例」に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、実質的に、本願補正発明の「複写機用フィルタユニット」の発明特定事項である「前記濾材が有する面積当たりのQf値」について、「前記フィルタユニットを試験ダクトに装着し、粒径0.3〜0.5μmの大気塵(大気塵数:U)を含む空気を面風速0.5m/秒でフィルタユニットの上流側に供給し、この際、下流側に漏れた大気塵数(D)をパーティクルカウンタで測定し、次式により算出した値を捕集効率として求め、
捕集効率(%)=[1−(D/U)]×100
また、上記捕集効率測定時におけるフィルタユニット上流側および下流側の静圧の差をマノメータによって計測して圧力損失を計測し、上記測定条件で実測したフィルタユニットの捕集効率、及び圧力損失から、以下の式でQf値を算出し(但し、「Ln」は自然対数を表す)、
Qf値=−Ln(1−捕集効率/100)/圧力損失
求めたQf値を、フィルタユニットの総濾材面積で割った値である」という限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記第2の[理由]3に記載したとおり、引用発明1、引用発明2及び周知技術1ないし3から当業者が容易に想到し得たものであるから、本願発明も、引用発明1、引用発明2及び周知技術1ないし3から当業者が容易に想到し得たものである。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明及び周知技術から当業者が容易に想到し得た発明であって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2021-12-28 
結審通知日 2022-01-11 
審決日 2022-01-25 
出願番号 P2016-128089
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03G)
P 1 8・ 56- Z (G03G)
P 1 8・ 575- Z (G03G)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 藤本 義仁
特許庁審判官 佐々木 創太郎
藤田 年彦
発明の名称 複写機用フィルタユニット  

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