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審決分類 審判 全部無効 1項2号公然実施  H01Q
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01Q
審判 全部無効 2項進歩性  H01Q
審判 全部無効 特17条の2、3項新規事項追加の補正  H01Q
管理番号 1382846
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-04-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2020-04-06 
確定日 2022-02-17 
事件の表示 上記当事者間の特許第5237617号発明「アンテナ装置」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 特許第5237617号の請求項1ないし3,5ないし7に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は,被請求人の負担とする。 
理由
第1 本件特許の経緯

1.本件特許第5237617号(以下「本件特許」という。)は,平成19年11月30日に出願した特願2007−309993号が,平成25年4月5日に設定登録され,平成26年6月4日に訂正審判が請求され,平成26年9月8日に訂正審判の審決がなされ,平成27年2月26日に無効審判が請求され,平成27年10月28日に訂正請求がなされ,平成28年5月13日に,訂正を認めるとともに特許を維持する審決がなされたものである。

2.本件無効審判は,令和2年4月6日に,株式会社 ヨコオを請求人(以下,単に「請求人」という。)として,「特許第5237617号の請求項1〜3及び5〜7に係る発明についての特許を無効とする,審判請求費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」ものである。

3.請求人は,令和2年9月29日,令和2年12月2日に上申書を提出した。

4.被請求人は,令和2年9月29日に無効審判答弁書を提出した。

5.請求人及び被請求人は令和2年11月10日付け,令和2年12月25日付けで口頭審理における審理事項を通知され,請求人は,令和2年12月18日に令和2年11月10日付けの審理事項に対する口頭審理陳述要領書を提出し,令和3年1月25日に令和2年12月25日付けの審理事項に対する口頭審理陳述要領書(2)を提出し,被請求人は,令和2年12月18日に令和2年11月10日付けの審理事項に対する口頭審理陳述要領書を提出し,令和3年1月25日に令和2年12月25日付けの審理事項に対する口頭審理陳述要領書(2)を提出した。

6.令和3年3月15日に口頭審理を行った。

7.請求人は,令和3年3月15日に営業秘密に関する申出書を提出した。

8.合議体は,令和3年6月3日に審決の予告を行った。

9.請求人は,令和3年6月7日に上申書を提出した。

10.被請求人は,令和3年8月5日に訂正の請求と意見書の提出を行った。

11.合議体は,令和3年9月10日付けで訂正拒絶理由を通知した。

12.被請求人は,令和3年10月14日に意見書と添付書類を提出した。

13.請求人は,令和3年10月15日に弁駁書を提出した。


第2 本件発明

本件特許の請求項1〜3及び5〜7に係る特許発明は,平成27年10月28日の訂正請求書の特許請求の範囲の請求項1〜3及び5〜7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下,「本件発明1」〜「本件発明3」及び「本件発明5」〜「本件発明7」という。)

「【請求項1】
車両に取り付けられた際に,車両から約70mm以下の高さで突出するアンテナケースと,該アンテナケース内に収納されるアンテナ部からなるアンテナ装置であって,
前記アンテナ部は,面状であり,上縁が前記アンテナケースの内部空間の形状に合わせた形状であるアンテナ素子と,該アンテナ素子により受信されたFM放送及びAM放送の信号を増幅するアンプを有するアンプ基板とからなり,
前記アンテナ素子の給電点が前記アンプの入力に高さ方向において前記アンテナ素子と前記アンプ基板との間に位置するアンテナコイルを介して接続され,
前記アンテナ素子と前記アンテナコイルとが接続されることによりFM波帯で共振し,
前記アンテナ素子を用いてAM波帯を受信し,
前記アンテナコイルを介して接続される前記アンプによってFM放送及びAM放送の信号を増幅する
ことを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
前記アンテナ素子が,前記アンテナケース内に配設されている棒状のアンテナ素子から構成されていることを特徴とする請求項1記載のアンテナ装置。
【請求項3】
車両に取り付けられた際に,車両から約70mm以下の高さで突出するアンテナケースと,該アンテナケース内に収納されるアンテナ部からなるアンテナ装置であって,
前記アンテナ部は,車両に対して立設されて配置されアンテナパターンが形成されているアンテナ基板と,面状であり,上縁が前記アンテナケースの内部空間の形状に合わせた形状である前記アンテナパターンからなるアンテナ素子により受信されたFM放送及びAM放送の信号を増幅するアンプが設けられているアンプ基板とからなり,
前記アンテナ基板における前記アンテナ素子の給電点が,前記アンプ基板における前記アンプの入力に高さ方向において前記アンテナ素子と前記アンプ基板との間に位置するアンテナコイルを介して接続され,
前記アンテナ素子と前記アンテナコイルとが接続されることによりFM波で共振し,
前記アンテナ素子を用いてAM波帯を受信し,
前記アンテナコイルを介して接続される前記アンプによってFM放送及びAM放送の信号を増幅することを特徴とするアンテナ装置。
【請求項5】
前記アンテナ素子の長さが前記FM波帯の波長λに対して約1/30以下の長さとされ,前記アンテナ素子と前記アンテナコイルとからなるアンテナ部が前記FM波帯で共振するようにしたことを特徴とする請求項1または2記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記アンテナパターンの長さが前記FM波帯の波長λに対して約1/30以下の長さとされ,前記アンテナパターンと前記アンテナコイルとからなるアンテナ部が前記FM波帯で共振するようにしたことを特徴とする請求項3記載のアンテナ装置。
【請求項7】
前記アンテナケースは,先端に行くほど細くなると共に高さが低くなる流線型の外形形状とされており,前記アンプ基板は前記アンテナケースの高さが低い部位に収納されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のアンテナ装置。」


第3 請求人の主張の概要

請求人は,「特許第5237617号の請求項1〜3及び5〜7に係る発明についての特許を無効とする,審判請求費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」を請求の趣旨とし,証拠方法として甲第1号証ないし甲第79号証(後記「12.証拠方法」参照。)を提出し,無効理由1ないし11を主張している。

1.無効理由1:請求項1−3,5−7は,特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたから,同法第123条第1項第4号により無効である。

2.無効理由2:請求項1,5,7は,公然実施発明であるから特許法第29条第1項第2号新規性)に該当し,あるいは,公然実施発明より容易に発明をすることができたものであるから,同法第29条第2項進歩性)の規定に違反してされたから,同法第123条第1項第2号により無効である。

3.無効理由3:請求項1,5,7は,甲36より容易に発明をすることができたものであるから,同法第29条第2項進歩性)の規定に違反してされたから,同法第123条第1項第2号により無効である。

4.無効理由4:請求項1,5,7は,甲46より容易に発明をすることができたものであるから,同法第29条第2項進歩性)の規定に違反してされたから,同法第123条第1項第2号により無効である。

5.無効理由5:請求項1,5,7は,甲57より容易に発明をすることができたものであるから,同法第29条第2項進歩性)の規定に違反してされたから,同法第123条第1項第2号により無効である。

6.無効理由6:請求項1,5,7は,甲47より容易に発明をすることができたものであるから,同法第29条第2項進歩性)の規定に違反してされたから,同法第123条第1項第2号により無効である。

7.無効理由7:請求項1−3,5−7は,特許法第36条第6項第2号明確性)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたから,同法第123条第1項第4号により無効である。

8.無効理由8:請求項5は,特許法第36条第6項第1号(サポート要件)及び第2号(明確性要件)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたから,同法第123条第1項第4号により無効である。

9.無効理由9:請求項5に関する記載を追加した補正は新規事項の追加であって,特許法第17条の2第3項(新規事項)に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたから,同法第123条第1項第1号により無効である。

10.無効理由10:請求項7は,特許法第36条第6項第1号(サポート要件)及び第2号(明確性要件)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたから,同法第123条第1項第4号により無効である。

11.無効理由11:請求項7に関する記載を追加した補正は新規事項の追加であって,特許法第17条の2第3項(新規事項)に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたから,同法第123条第1項第1号により無効である。

12.証拠方法

甲第1号証 本件侵害訴訟の判決(東京地裁令和2年3月24日判決(平成30年(ワ)第5506号))
甲第2号証 本件特許の出願時に提出された「特許願」及び当該「特許願」に最初に添付された「特許請求の範囲」,「明細書」,「図面」及び「要約書」
甲第3号証 審決(無効2015−800040号事件)
甲第4号証 知財高裁平成27年11月24日判決(平成27年(行ケ)第10026号)
甲第5号証 知財高裁平成30年1月29日判決(平成29年(行ケ)第10073号)
甲第6号証 知財高裁平成21年3月17日判決(平成20年(行ケ)第10357号)
甲第7号証 現在のVG社のウェブサイト(URL:https://shop.visualgarage.com/)
甲第8号証 「Prius Sharkfin Antenna」と題するウェブページ(URL:http://evnut.comm/prius_antenna.htm)
甲第9号証 「Prius Mods」と題するウェブページ(URL:http://evnut.com/prius_mods.htm)
甲第10号証 報告書
甲第11号証 VGアンテナの設計図
甲第12号証 フランク・イエ氏の宣誓供述書
甲第13号証 VGアンテナの取付けマニュアル
甲第14号証 VGアンテナの取付けマニュアル
甲第15号証 VGアンテナの販売に関する受注明細書
甲第16号証 VGアンテナの販売に関する請求書(シンガポール団体購入)
甲第17号証 VGアンテナの販売に関する請求書(#200702-1001)
甲第18号証 「MAZDA6CLUB.COM」と題するウェブサイト(URL:https://forum.mazda6club.com/group-buys/163445-gb-shark-fin-antenna-visual-garage-functional.html)
甲第19号証 「MAZDA6CLUB.COM」と題するウェブサイト(URL:https://forum.mazda6club.com/group-buys/163445-gb-shark-fin-antenna-visual-garage-functional-35.html)
甲第20号証の1 平成18年4月29日付け「3iPhotos of Sharkfin Antenna Installation」と題する電子メール及びその添付ファイル
甲第20号証の2 平成18年5月10日付け「2006Prius Shark Fin Pics」と題する電子メール及びその添付ファイル
甲第20号証の3 平成18年7月16日付け「Another Matrix Photo With Shark Antenna」と題する電子メール及びその添付ファイル
甲第20号証の4 平成19年2月20日付け「Antenna Photos」と題する電子メール及びその添付ファイル
甲第20号証の5 平成19年1月9日付け「Antenna Pics」と題する電子メール及びその添付ファイル
甲第20号証の6 平成18年5月19日付け「antenna pics」と題する電子メール及びその添付ファイル
甲第20号証の7 平成18年6月13日付け「For your Gallery...」と題する電子メール及びその添付ファイル
甲第20号証の8 平成19年5月24日付け「my pixs」と題する電子メール及びその添付ファイル
甲第20号証の9 平成18年8月14日付け「photos」と題する電子メール及びその添付ファイル
甲第20号証の10 平成18年6月12日付け「Picture Submission」と題する電子メール及びその添付ファイル
甲第20号証の11 平成18年6月3日付け「Pictures of my car」と題する電子メール及びその添付ファイル
甲第20号証の12 平成18年7月7日付け「Prius SharkFin Photos」と題する電子メール及びその添付ファイル
甲第20号証の13 平成19年2月19日付け「Shark Fin Antenna on Toyota Prius」と題する電子メール及びその添付ファイル
甲第20号証の14 平成18年8月23日付け「Shark Fin Antenna pics」と題する電子メール及びその添付ファイル
甲第20号証の15 平成18年5月31日付け「Shark Fin Installed」と題する電子メール及びその添付ファイル
甲第20号証の16 平成18年8月9日付け「shark fin pics」と題する電子メール及びその添付ファイル
甲第20号証の17 平成18年3月14日付け「Shark fin-tastic!」と題する電子メール及びその添付ファイル
甲第20号証の18 平成18年10月25日付け「Sharkfin Antenna Photos(one more)」と題する電子メール及びその添付ファイル
甲第20号証の19 平成18年8月30日付け「Sharkfin Pictures」と題する電子メール及びその添付ファイル
甲第20号証の20 平成18年6月10日付け「Your Gallery」と題する電子メール及びその添付ファイル
甲第20号証の21 平成18年8月14日付け「YOUR SHARK FIN ON MY MAZDA 3 WOW !!」と題する電子メール及びその添付ファイル
甲第21号証の1 平成18年11月7日当時のVG社のウェブサイト(URL:https://web.archive.org/web/20061107081958/http://www.visualgarage.com:80/Product_Installation.html)
甲第21号証の2 平成18年11月7日当時のVG社のウェブサイト(URL:https://web.archive.org/web/20061107081456/http://www.visualgarage.com:80/Order.html)
甲第21号証の3 平成18年11月7日当時のVG社のウェブサイト(URL:https://web.archive.org/web/20061107081456/http://www.visualgarage.com:80/Order.html)
甲第22号証 「TUNING Revolution Special Edition 07 March」
甲第23号証 「TUNING REVOLUTION Fall 07」
甲第24号証 平成19年2月24日付け「Re:Pictures」と題する電子メール
甲第25号証 写真撮影報告書
甲第26号証 「みんから」と称するソーシャルネットワーキングサービス上のブログに掲載された「Visual Garage Shark Fin Antenna」と題する平成19年(2007年)10月7日付け記事(http://minkara.carview.co.jp/userid/318926/car/224432/1031547/parts.aspx)
甲第27号証 「みんから」と称するソーシャルネットワーキングサービス上のブログに掲載された「愛車プロフィール」と題する記事(https://minkara.carview.co.jp/userid/318926/car/224432/profile.aspx)
甲第28号証 「みんから」と称するソーシャルネットワーキングサービス上のブログに掲載された「愛車一覧」と題するページ(https://minkara.carview.co.jp/userid/318926/car/)
甲第29号証 トヨタ自動車株式会社の公式ウェブサイト内の「歴代プリウスの進化」と題するページ(https://global.toyota/jp/prius20th/evolution/)
甲第30号証 審決(無効2011−800054号事件)
甲第31号証 知財高裁平成28年4月28日判決(平成27年(行ケ)第10205号)
甲第32号証 測定結果報告書
甲第33号証 測定結果報告書
甲第34号証 報告書
甲第35号証 実験結果報告書(トヨタ・2代目プリウス)
甲第36号証 国際公開第2006/061218号
甲第37号証 被請求人が本件侵害訴訟において提出した技術説明資料
甲第38号証 「基礎電子回路工学−アナログ回路を中心に−(初版)」
甲第39号証 「マグローヒル科学技術用語大辞典 第3版」
甲第40号証 「理工学事典(初版)」
甲第41号証 「科学大事典 第2版」
甲第42号証 「改訂 電子情報通信用語辞典」
甲第43号証 「新・道路運送車両の保安基準−省令・告示全条文−【平成19年2月】」
甲第44号証 「Official Journal of the European Union」と題する文書(欧州外部突起規制に関する部分)
甲第45号証 東京地裁平成27年10月29日判決・判時2295号114頁
甲第46号証 中国公開特許公報第101000977号
甲第47号証 特開2007−288757号公報
甲第48号証 「ユビキタス時代のアンテナ設計−広帯域,マルチバンド,至近距離通信のための最新技術−」
甲第49号証 「アンテナ・無線ハンドブック」
甲第50号証 職権審理結果通知書
甲第51号証 「電波・アンテナ工学入門」
甲第52号証 特開2007−77923号公報
甲第53号証 特開昭59−183502号公報
甲第54号証 特開2003−142931号公報
甲第55号証 特開平10−209897号公報
甲第56号証 実開平6−48209号公報
甲第57号証 特開平10−107542号公報
甲第58号証 「図解機械用語辞典−第3版−」
甲第59号証 特開昭56−10709号公報
甲第60号証 中国実用新案公報第2648621号
甲第61号証 手続補正書
甲第62号証 審決(訂正2014−390078号事件)
甲第63号証の1 本件侵害訴訟における平成30年2月22日付け訴状
甲第63号証の2 本件侵害訴訟における平成30年10月1日付け原告準備書面(1)
甲第63号証の3 本件侵害訴訟における平成31年2月8日付け原告準備書面(4)
甲第63号証の4 本件侵害訴訟における令和元年5月15日付け原告準備書面(5)
甲第64号証 本件侵害訴訟の控訴審判決(知財高裁令和2年12月1日判決(令和2年(ネ)第10039号))
甲第65号証 「特許技術用語集−第2版−類語索引・使用例付」
甲第66号証 「大辞泉第二版上巻」
甲第67号証 「新明解国語辞典第七版」
甲第68号証 「広辞苑第七版」
甲第69号証 「電波・アンテナ工学入門」
甲第70号証 「無線通信の基礎知識」
甲第71号証 「ユビキタス時代のアンテナ設計」
甲第72号証 特開昭62−173801号公報
甲第73号証 特開平3−192903号公報
甲第74号証 特開平3−123203号公報
甲第75号証 意見書(被請求人が本件特許に対応する欧州特許の出願過程において欧州特許庁に提出したもの)
甲第76号証 「明細書に記載されている解決すべき課題が公知技術と対比すると不適切である場合のサポート要件の判断の仕方について」(WLJ判例コラム第158号)
甲第77号証 実験結果報告書(トヨタ・2代目プリウス,フラクタルパターンとの接続を切断)
甲第78号証 「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説 〔第21版〕〔令和元年一部改正法等収録〕」
甲第79号証 「平成6・8・10・11年改正 工業所有権法の解説」
甲第80号証 最高裁令和3年(受)第460号調書(決定)


第4 被請求人の主張の概要

被請求人は,「本件審判の請求は成り立たない 審判費用は請求人の負担とする との審決を求める。」を答弁の趣旨とし,証拠方法として乙第1号証ないし乙第11号証(後記「1.証拠方法」参照。)を提出し,請求人の主張する無効理由はいずれも理由がないことが明らかである旨主張している。

1.証拠方法

乙第1号証 審決(訂正2014−390078号)
乙第2号証 国際公開第2008/062746号
乙第3号証 手続補正書
乙第4号証 J−Plat−Patの経過情報照会ページ
乙第5号証 国際特許出願PCT/JP2007/072360号(国際公開第2008/062746号,乙2)の優先権の基礎とされた出願(特願2006−315297)に関する書面
乙第6号証 判決(知財高判平成21年7月29日)
乙第7号証 判決(知財高判平成24年10月29日)
乙第8号証 判決(知財高判令和2年7月2日)
乙第9号証 審査基準
乙第10号証 広辞苑第六版
乙第11号証 岩波国語辞典第7版新版


第5 当審の判断

1.令和3年8月5日に被請求人が行った,願書に添付した明細書の訂正の請求(以下,「本件訂正請求」という。)について

(1)訂正の内容

ア.訂正事項1−1
明細書の段落【0005】〜【0007】及び段落【0010】を削除する。

イ.訂正事項1−2
明細書の段落【0008】について
「アンテナ装置200の水平面内の放射指向特性を図26に示す。ただし,仰角は20°とされている。図26に示す放射指向特性を参照すると,無指向性とはなっておらず,特に,アンテナ素子231が存在している方向(180°)において放射指向特性が落ち込んでいることが分かる。これは,アンプ基板234の上に設置した平面アンテナユニット235の設置高が高くなり,グランド面と平面アンテナユニット235のパッチ素子との間隔が大きくなり,平面アンテナユニットの電気的特性,特に放射指向特性に影響を及ぼすことになるからである。さらに,平面アンテナユニット235の放射界において,低仰角放射範囲に平面アンテナユニット235の動作周波数の1/2波長程度の大きな金属体であるアンテナ素子231が存在しており,このアンテナ素子231による反射・回折等の影響で,平面アンテナユニット235の放射指向特性が大きく劣化する傾向にあるからである。このように,限られた空間しか有していないアンテナケースを備えるアンテナ装置にさらにアンテナを組み込むと既設のアンテナの影響を受けて良好な電気的特性を得ることができないという問題点があった。
そこで,本発明は限られた空間しか有していないアンテナケースを備えるアンテナ装置にさらにアンテナを組み込んでも良好な電気的特性を得ることができるアンテナ装置を提供することを目的としている。」
とあるのを
「そこで,本発明は限られた空間しか有していないアンテナケースを備えるアンテナ装置でも良好な電気的特性を得ることができるアンテナ装置を提供することを目的としている。」
と訂正する。

ウ.訂正事項1−3
明細書の段落【0032】について
「【図1】本発明の実施例にかかるアンテナ装置を取り付けた車両の構成を示す図である。
【図2】本発明にかかる第1実施例のアンテナ装置の構成を示す側面図である。
【図3】本発明にかかる第1実施例のアンテナ装置の構成を示す平面図である。
【図4】本発明にかかる第1実施例のアンテナ装置の内部構成を示す平面図である。
【図5】本発明にかかる第1実施例のアンテナ装置の内部構成を示す側面図である。
【図6】本発明の第1実施例のアンテナ装置にかかるアンテナケースを省略して示す内部構成を示す正面図である。
【図7】本発明の第1実施例のアンテナ装置における平面アンテナユニットの仰角が20°の時のゲイン特性を示す図である。
【図8】本発明の第1実施例のアンテナ装置における平面アンテナユニットの仰角が30°の時のゲイン特性を示す図である。
【図9】本発明の第1実施例のアンテナ装置における平面アンテナユニットの仰角が40°の時のゲイン特性を示す図である。
【図10】本発明の第1実施例のアンテナ装置における平面アンテナユニットの仰角が50°の時のゲイン特性を示す図である。
【図11】本発明の第1実施例のアンテナ装置における平面アンテナユニットの仰角が60°の時のゲイン特性を示す図である。
【図12】本発明の第1実施例のアンテナ装置における平面アンテナユニットの仰角が20°の時の放射指向特性を示す図である。
【図13】本発明にかかる第1実施例のアンテナ装置においてアンテナ素子の高さを60mmとした時の内部構成を示す側面図である。
【図14】本発明にかかる第1実施例のアンテナ装置においてアンテナ素子の高さを70mmとした時の内部構成を示す側面図である。
【図15】本発明にかかる第1実施例のアンテナ装置においてアンテナ素子の高さを変えた時の平面アンテナユニットのゲイン特性を示す図である。
【図16】本発明にかかる第1実施例のアンテナ装置においてアンテナ素子の高さを60mmとし平面アンテナユニット有/無のVSWRの周波数特性を示す図である。
【図17】本発明にかかる第1実施例のアンテナ装置においてアンテナ素子の高さを60mmとし平面アンテナユニット有/無のゲインの周波数特性を示す図である。
【図18】本発明にかかる第1実施例のアンテナ装置においてアンテナ素子の高さを70mmとし平面アンテナユニット有/無のVSWRの周波数特性を示す図である。
【図19】本発明にかかる第1実施例のアンテナ装置においてアンテナ素子の高さを70mmとし平面アンテナユニット有/無のゲインの周波数特性を示す図である。
【図20】本発明にかかる第2実施例のアンテナ装置の内部構成を示す平面図である。
【図21】本発明にかかる第1実施例のアンテナ装置の内部構成を示す側面図である。
【図22】本発明の第2実施例のアンテナ装置にかかるアンテナケースを省略して示す内部構成を示す正面図である。
【図23】従来のアンテナ装置を車両に取り付けた構成を示す図である。
【図24】従来のアンテナ装置の内部構成を示す平面図である。
【図25】従来のアンテナ装置の内部構成を示す側面図である。
【図26】従来のアンテナ装置における平面アンテナユニットの仰角が20°の時の放射指向特性を示す図である。」
とあるのを
「【図1】本発明の実施例にかかるアンテナ装置を取り付けた車両の構成を示す図である。
【図2】本発明にかかる第1実施例のアンテナ装置の構成を示す側面図である。
【図3】本発明にかかる第1実施例のアンテナ装置の構成を示す平面図である。
【図4】本発明にかかる第1実施例のアンテナ装置の内部構成を示す平面図である。
【図5】本発明にかかる第1実施例のアンテナ装置の内部構成を示す側面図である。
【図6】本発明の第1実施例のアンテナ装置にかかるアンテナケースを省略して示す内部
構成を示す正面図である。
【図7】本発明の第1実施例のアンテナ装置における平面アンテナユニットの仰角が20°の時のゲイン特性を示す図である。
【図8】本発明の第1実施例のアンテナ装置における平面アンテナユニットの仰角が30°の時のゲイン特性を示す図である。
【図9】本発明の第1実施例のアンテナ装置における平面アンテナユニットの仰角が40°の時のゲイン特性を示す図である。
【図10】本発明の第1実施例のアンテナ装置における平面アンテナユニットの仰角が50°の時のゲイン特性を示す図である。
【図11】本発明の第1実施例のアンテナ装置における平面アンテナユニットの仰角が60°の時のゲイン特性を示す図である。
【図12】本発明の第1実施例のアンテナ装置における平面アンテナユニットの仰角が20°の時の放射指向特性を示す図である。
【図13】本発明にかかる第1実施例のアンテナ装置においてアンテナ素子の高さを60mmとした時の内部構成を示す側面図である。
【図14】本発明にかかる第1実施例のアンテナ装置においてアンテナ素子の高さを70mmとした時の内部構成を示す側面図である。
【図15】本発明にかかる第1実施例のアンテナ装置においてアンテナ素子の高さを変えた時の平面アンテナユニットのゲイン特性を示す図である。
【図16】本発明にかかる第1実施例のアンテナ装置においてアンテナ素子の高さを60mmとし平面アンテナユニット有/無のVSWRの周波数特性を示す図である。
【図17】本発明にかかる第1実施例のアンテナ装置においてアンテナ素子の高さを60mmとし平面アンテナユニット有/無のゲインの周波数特性を示す図である。
【図18】本発明にかかる第1実施例のアンテナ装置においてアンテナ素子の高さを70mmとし平面アンテナユニット有/無のVSWRの周波数特性を示す図である。
【図19】本発明にかかる第1実施例のアンテナ装置においてアンテナ素子の高さを70mmとし平面アンテナユニット有/無のゲインの周波数特性を示す図である。
【図20】本発明にかかる第2実施例のアンテナ装置の内部構成を示す平面図である。
【図21】本発明にかかる第1実施例のアンテナ装置の内部構成を示す側面図である。
【図22】本発明の第2実施例のアンテナ装置にかかるアンテナケースを省略して示す内部構成を示す正面図である。
【図23】従来のアンテナ装置を車両に取り付けた構成を示す図である。
【図24】(削除)
【図25】(削除)
【図26】(削除)」
と訂正する。

エ.訂正事項1−4
明細書の【0033】について
「1 アンテナ装置,2 車両,3 アンテナ装置,10 アンテナケース,20 アンテナベース,21 ボルト部,22 ケーブル引出口,23 基板固定部,24 ボス,25 取付孔,30 アンテナ基板,30a 切欠,31 アンテナ素子,32 アンテナコイル,34 アンプ基板,35 平面アンテナユニット,40 アンテナ部,41 アンテナ素子,42 絶縁スペーサ,42a 切欠,43 取付ネジ,101 アンテナ装置,102 車両,200 アンテナ装置,210 アンテナケース,220 アンテナベース,221 ボルト部,222 ケーブル引出口,230 アンテナ基板,231 アンテナ素子,234 アンプ基板,235 平面アンテナユニット」
とあるのを
「1 アンテナ装置,2 車両,3 アンテナ装置,10 アンテナケース,20 アンテナベース,21 ボルト部,22 ケーブル引出口,23 基板固定部,24 ボス,25 取付孔,30 アンテナ基板,30a 切欠,31 アンテナ素子,32 アンテナコイル,34 アンプ基板,35 平面アンテナユニット,40 アンテナ部,41 アンテナ素子,42 絶縁スペーサ,42a 切欠,43 取付ネジ,101 アンテナ装置,102 車両(削除)」
と訂正する。

オ.訂正事項1−5
図面の【図24】,【図25】及び【図26】を削除する。

カ.訂正事項2
明細書の【0009】について
「上記目的を達成するために,本発明は,立設されて配置され面状のアンテナ素子が形成されているアンテナ基板と,アンテナ基板と重ならないように配置されているアンプ基板と,アンテナ素子の直下であって,前記アンテナ素子の面とほぼ直交するよう配置されている平面アンテナユニットとを備え,平面アンテナユニットの動作周波数帯の中心周波数の波長をλとした際に,平面アンテナユニットの上面とアンテナ素子の下端との間隔が約0.25λ以上とされていることを最も主要な特徴としている。」
とあるのを
「上記目的を達成するために,本発明は,車両に取り付けられた際に,車両から約70mm以下の高さで突出するアンテナケースと,該アンテナケース内に収納されるアンテナ部からなるアンテナ装置であって,アンテナ部は,面状であり,上縁がアンテナケースの内部空間の形状に合わせた形状であるアンテナ素子と,該アンテナ素子により受信されたFM放送及びAM放送の信号を増幅するアンプを有するアンプ基板とからなり,アンテナ素子の給電点がアンプの入力に高さ方向においてアンテナ素子とアンプ基板との間に位置するアンテナコイルを介して接続され,アンテナ素子とアンテナコイルとが接続されることによりFM波帯で共振し,アンテナ素子を用いてAM波帯を受信し,アンテナコイルを介して接続されるアンプによってFM放送及びAM放送の信号を増幅することを最も主要な特徴としている。」
と訂正する。

(2)令和3年9月10日付けの訂正拒絶理由の概要

ア. 訂正事項1−1〜1−5,2はいずれも特許法第134条の2第1項ただし書きのいずれの目的にも該当しない。

イ.訂正事項1−1〜1−5,2は平成28年6月22日に確定した無効2015−800040号における平成27年10月28日付け訂正明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「訂正前明細書等」という。)に記載した事項の範囲内であるとはいえず,特許法第134条の2第9項において読み替えて準用する特許法第126条第5項の規定に適合しない。

ウ.訂正事項1−1〜1−5,2は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものであり,特許法第134条の2第9項において読み替えて準用する特許法第126条第6項の規定に適合しない。

(3)令和3年10月14日の意見書の概要

被請求人は,外部的効果のある審判便覧によれば

ア.訂正事項1−1〜1−5及び2の目的は明瞭でない記載の釈明であるから特許法第134条の2第1項ただし書き第3号の目的に該当する。

イ.明細書の記載の削除訂正であって,明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるから,特許法第134条の2第9項において読み替えて準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。

ウ.訂正事項1−1〜1−5及び2については,特許請求の範囲で特定されていない「平面アンテナユニット」を前提とする発明の詳細な説明の記載の一部を削除するものなので,特許請求の範囲に記載された発明を実質上変更するものでないから,特許法第134条の2第9項において読み替えて準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。

から,令和3年9月10日付けの訂正拒絶理由はいずれも理由がないと主張している。

(4)本件訂正請求についての判断
事案に鑑み,上記「(2)令和3年9月10日付けの訂正拒絶理由の概要」の「イ.」について審理する。

ア.訂正前の明細書には,次のような記載がある(下線は当審が付与)。
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来のアンテナ装置101では,ロッド部が車体から大きく突出しているため車両の美観・デザインを損ねると共に,車庫入れや洗車時等に倒したロッド部を起こし忘れた場合,アンテナ性能が失われたままになるという問題点があった。また,アンテナ装置101は車外に露出しているため,ロッド部が盗難にあう恐れも生じる。そこで,アンテナケース内にアンテナを収納した車載用のアンテナ装置が考えられる。この場合,車両から突出するアンテナ装置の高さは車両外部突起規制により所定の高さに制限されると共に,車両の美観を損ねないよう長手方向の長さも160〜220mm程度が好適とされる。すると,このような小型アンテナの放射抵抗Rradは,600〜800×(高さ/波長)2として表されるように高さの2乗に比例してほぼ決定されるようになる。例えば,アンテナ高を180mmから60mmに縮小すると約10dBも感度が劣化するようになる。このように,単純に既存のロッドアンテナを短縮すると性能が大きく劣化して実用化が困難になる。さらに,アンテナを70mm以下の低姿勢とすると放射抵抗Rradが小さくなってしまうことから,アンテナそのものの導体損失の影響により放射効率が低下しやすくなって,さらなる感度劣化の原因になる。
【0005】
そこで,出願人は特願2006−315297号において,70mm以下の低姿勢としても感度劣化を極力抑制することのできる車両に取り付けられるアンテナ装置を提案した。ところで,車両には地上波ラジオ放送,衛星ラジオ放送やGPS等の多種多様な用途に応じたアンテナが搭載されていることがある。しかし,各種メディア対応の各アンテナが増加するに従い,車両に搭載するアンテナの数が増加し,車両の美観は損なわれると共に,取り付けるための作業時間も増大する。そこで,アンテナ装置に複数のアンテナを組み込むことが考えられる。一例として,上記提案したアンテナ装置に,例えばSDARS(Satellite Digital Audio Radio Service:衛星デジタルラジオサービス)を受信するアンテナを組み込んだアンテナ装置の構成例を示す平面図を図24に示し,そのアンテナ装置の構成例を示す側面図を図25に示す。
【0006】
図24および図25に示すアンテナ装置200は,アンテナケース210と,このアンテナケース210内に収納されているアンテナベース220と,アンテナベース220に取り付けられているアンテナ基板230およびアンプ基板234とから構成されている。アンテナケース210は先端に行くほど細くなる流線型の外形形状とされている。アンテナケース210の下面には金属製のアンテナベース220が取り付けられる。アンテナケース210内に立設して収納できる大きさのアンテナ基板230には,アンテナ素子231のパターンが形成されている。このアンテナ素子231の下縁とアンテナベース220との間隔は約10mm以上とされている。このアンテナ基板230は,アンテナベース220に立設して固着されていると共に,アンテナ基板230の前方にアンプ基板234が固着されている。そして,アンプ基板234の上に平面アンテナユニット235が固着されている。平面アンテナユニット235は,摂動素子を備え円偏波を受信可能なパッチ素子を有している。平面アンテナユニット235をアンプ基板234の上に固着しているのは,アンテナ素子231の下には,平面アンテナユニット235の高さが高いことから配置することができず,限られた空間しか有していないアンテナケース210内において,平面アンテナユニット235を配置することができるのはアンプ基板234の上だけとなるからである。
【0007】
アンテナベース220の下面からは,アンテナ装置200を車両に取り付けるためのボルト部221と,アンテナ装置200から受信信号を車両内に導くためのケーブルを引き出すケーブル引出口222が突出して形成されている。この場合,ボルト部221およびケーブル引出口222が挿通される穴が車両のルーフに形成され,これらの穴にボルト部221およびケーブル引出口222が挿通されるようルーフ上にアンテナ装置200を載置する。そして,車両内に突出したボルト部221にナットを締着することによりアンテナ装置200を車両のルーフに固着することができる。この際に,ケーブル引出口222から引き出されたケーブルが車両内に導かれる。また,アンテナケース210内に収納されているアンプ基板234への給電ケーブルは,車両内からケーブル引出口222を介してアンテナケース210内に導かれる。なお,アンテナケース210の長手方向の長さは約200mmとされ,横幅は約75mmとされる。また,車両から突出している高さは約70mmとされて低姿勢とされている。
【0008】
アンテナ装置200の水平面内の放射指向特性を図26に示す。ただし,仰角は20°とされている。図26に示す放射指向特性を参照すると,無指向性とはなっておらず,特に,アンテナ素子231が存在している方向(180°)において放射指向特性が落ち込んでいることが分かる。これは,アンプ基板234の上に設置した平面アンテナユニット235の設置高が高くなり,グランド面と平面アンテナユニット235のパッチ素子との間隔が大きくなり,平面アンテナユニットの電気的特性,特に放射指向特性に影響を及ぼすことになるからである。さらに,平面アンテナユニット235の放射界において,低仰角放射範囲に平面アンテナユニット235の動作周波数の1/2波長程度の大きな金属体であるアンテナ素子231が存在しており,このアンテナ素子231による反射・回折等の影響で,平面アンテナユニット235の放射指向特性が大きく劣化する傾向にあるからである。このように,限られた空間しか有していないアンテナケースを備えるアンテナ装置にさらにアンテナを組み込むと既設のアンテナの影響を受けて良好な電気的特性を得ることができないという問題点があった。
そこで,本発明は限られた空間しか有していないアンテナケースを備えるアンテナ装置にさらにアンテナを組み込んでも良好な電気的特性を得ることができるアンテナ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために,本発明は,立設されて配置され面状のアンテナ素子が形成されているアンテナ基板と,アンテナ基板と重ならないように配置されているアンプ基板と,アンテナ素子の直下であって,前記アンテナ素子の面とほぼ直交するよう配置されている平面アンテナユニットとを備え,平面アンテナユニットの動作周波数帯の中心周波数の波長をλとした際に,平面アンテナユニットの上面とアンテナ素子の下端との間隔が約0.25λ以上とされていることを最も主要な特徴としている。」

イ.以上より,訂正前の明細書には,訂正前明細書等に記載される発明の前提として,従来,「平面アンテナユニット235」を組み込んだアンテナ装置には,【0006】に記載されるように「アンテナケース210と,このアンテナケース210内に収納されているアンテナベース220と,アンテナベース220に取り付けられているアンテナ基板230およびアンプ基板234とから構成されている」ものであり,該アンテナ装置には「アンテナ素子231の下には,平面アンテナユニット235の高さが高いことから配置することができず,限られた空間しか有していないアンテナケース210内において,平面アンテナユニット235を配置することができるのはアンプ基板234の上だけとなる」ために,「平面アンテナユニット235をアンプ基板234の上に固着」するが,【0008】に記載されるように「アンプ基板234の上に設置した平面アンテナユニット235の設置高が高くなり,グランド面と平面アンテナユニット235のパッチ素子との間隔が大きくなり,平面アンテナユニットの電気的特性,特に放射指向特性に影響を及ぼ」し,「平面アンテナユニット235の放射界において,低仰角放射範囲に平面アンテナユニット235の動作周波数の1/2波長程度の大きな金属体であるアンテナ素子231が存在しており,このアンテナ素子231による反射・回折等の影響で,平面アンテナユニット235の放射指向特性が大きく劣化する傾向にある」ために,水平面内の放射指向特性が「無指向性とはなっておらず,特に,アンテナ素子231が存在している方向(180°)において放射指向特性が落ち込んでいる」ように「限られた空間しか有していないアンテナケースを備えるアンテナ装置にさらにアンテナを組み込むと既設のアンテナの影響を受けて良好な電気的特性を得ることができないという問題点」が存在していたことが記載されている。
そして,訂正前明細書等に記載される発明は,この問題点を踏まえて,「限られた空間しか有していないアンテナケースを備えるアンテナ装置にさらにアンテナを組み込んでも良好な電気的特性を得ることができるアンテナ装置を提供すること」(【0008】)を目的とし,「立設されて配置され面状のアンテナ素子が形成されているアンテナ基板と,アンテナ基板と重ならないように配置されているアンプ基板と,アンテナ素子の直下であって,前記アンテナ素子の面とほぼ直交するよう配置されている平面アンテナユニットとを備え,平面アンテナユニットの動作周波数帯の中心周波数の波長をλとした際に,平面アンテナユニットの上面とアンテナ素子の下端との間隔が約0.25λ以上」(【0009】)の解決手段を備えるものと理解できる。
このことは,訂正前の明細書の【0011】〜【0026】に記載される第1実施例のアンテナ装置や,【0027】〜【0030】に記載される第2実施例のアンテナ装置のいずれもが,上記平面アンテナユニットに係る構成を備えることからも裏付けられる。

ウ.また,これは,本件特許に関する侵害訴訟の確定控訴審判決である甲第64号証(当該控訴審判決が確定していることについては甲80号証を参照)において,
「発明の詳細な説明に記載された発明は,前記(2)イ(イ)のとおりであり,アンテナ素子と,アンテナ素子の直下であって,前記アンテナ素子の面とほぼ直交するよう配置されている平面アンテナユニットとを備えるアンテナにおいて,平面アンテナユニットの上面とアンテナ素子の下端との間隔を約0.25λ以上とするものであると認められる。」(24頁17〜21行)」,及び,
「(1)アンテナ素子以外に平面アンテナユニットが組み込まれていないアンテナ装置の発明,及び(2)アンテナ素子に加えて平面アンテナユニットが組み込まれてはいるものの,アンテナ素子の下縁と平面アンテナユニットの上面との間隔が約0.25λ未満であるアンテナ装置の発明は,発明の詳細な説明に記載された発明ではない。」(24頁22行〜25頁1行)
と認定されていることとも整合する。

エ.これに対して,本件訂正請求の上記訂正事項1−1〜1−5及び2は,上記(1)に示すように,上記訂正前明細書等に記載される従来の問題点や,課題を解決するための手段から,上記「平面アンテナユニット」に係る記載をすべて削除するものであり,その結果,訂正後の明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「訂正後明細書等」という。)に記載される発明は,上記「平面アンテナユニット」に係る構成を備えないアンテナ装置をも含むようになってしまっている。
これはすなわち,上記訂正事項1−1〜1−5及び2により,訂正後明細書等に,訂正前明細書等の記載事項の範囲でなかったものが含まれてしまうことを意味する。

オ.したがって,本件訂正請求の上記訂正事項1−1〜1−5及び2は,訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められない。

カ.なお,被請求人は,令和3年10月14日付け意見書の「6.(3)ア」において,訂正事項1−1〜1−5及び2は,訂正前明細書等の記載の一部を削除する訂正であるから,訂正前明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である旨主張するが,上記のとおり,当該削除によって訂正後明細書等に,訂正前明細書等の記載事項の範囲でなかったものが含まれてしまうから,上記主張は採用できない。

(5)まとめ
以上のとおりであるから,上記「(2)令和3年9月10日付けの訂正拒絶理由の概要」の「ア.」及び「ウ.」について検討するまでもなく,本件訂正請求は,特許法第134条の2第9項において読み替えて準用する特許法第126条第5項の規定に適合しないから,認めることができない。

2.無効理由1について

(1)サポート要件の判断手法

特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
そして,サポート要件を充足するには,明細書に接した当業者が,特許請求された発明が明細書に記載されていると合理的に認識できれば足り,また,課題の解決についても,当業者において,技術常識も踏まえて課題が解決できるであろうとの合理的な期待が得られる程度の記載があれば足りるのであって,厳密な科学的な証明に達する程度の記載までは不要であると解される。なぜなら,まず,サポート要件は,発明の公開の代償として独占権を与えるという特許制度の本質に由来するものであるから,明細書に接した当業者が当該発明の追試や分析をすることによって更なる技術の発展に資することができれば,サポート要件を課したことの目的は一応達せられるからであり,また,明細書が,先願主義の下での時間的制約の中で作成されるものであることも考慮すれば,その記載内容が,科学論文において要求されるほどの厳密さをもって論証されることまで要求するのは相当ではないからである。

(2)発明の詳細な説明に記載された発明

ア.課題

上記の判断手法に照らし,まず,当該発明の課題について検討する。

本件明細書の発明の詳細な説明には,背景技術,発明が解決しようとする課題について,

「【背景技術】
【0002】
車両に取り付けられる従来のアンテナ装置は,一般にAM放送とFM放送を受信可能なアンテナ装置とされている。従来のアンテナ装置では,AM放送およびFM放送を受信するために1m程度の長さのロッドアンテナが用いられていた。このロッドアンテナの長さは,FM波帯においてはおよそ1/4波長となるが,AM波帯においては波長に対してはるかに短い長さとなることからその感度が著しく低下する。このため,従来は,ハイインピーダンスケーブルを用いてAM波帯に対してロッドアンテナをハイインピーダンス化したり,AM波帯の増幅器を用いて増幅し感度を確保していた。また,アンテナのロッド部をヘリカル状に巻回されたヘリカルアンテナとすることにより,アンテナの長さを約180mm〜400mmに短くするようにした車載用のアンテナ装置も用いられている。しかし,ロッド部を縮小化したことによる性能劣化を補うためにアンテナ直下に増幅器を入れるようにしている。
【0003】
ロッド部を短くした従来のアンテナ装置101を車両102に取り付けた構成を図23に示す。図23に示すように,従来のアンテナ装置101は車両102のルーフに取り付けられており,車両102から突出しているアンテナ装置101の高さh10は約200mmとされている。アンテナ装置101のロッド部は,ヘリカル状に巻回されたヘリカルアンテナとされている。アンテナ装置101は,上記したように車両102から突出していることから車庫入れや洗車する際にロッド部が衝突して折損するおそれがある。そこで,アンテナ装置101のロッド部を車両102のルーフに沿うよう倒すことができるようにしたアンテナ装置も知られている。
【特許文献1】 特開2005−223957
【特許文献2】 特開2003−188619
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来のアンテナ装置101では,ロッド部が車体から大きく突出しているため車両の美観・デザインを損ねると共に,車庫入れや洗車時等に倒したロッド部を起こし忘れた場合,アンテナ性能が失われたままになるという問題点があった。また,アンテナ装置101は車外に露出しているため,ロッド部が盗難にあう恐れも生じる。そこで,アンテナケース内にアンテナを収納した車載用のアンテナ装置が考えられる。この場合,車両から突出するアンテナ装置の高さは車両外部突起規制により所定の高さに制限されると共に,車両の美観を損ねないよう長手方向の長さも160〜220mm程度が好適とされる。すると,このような小型アンテナの放射抵抗Rrad は,600〜800×(高さ/波長)2として表されるように高さの2乗に比例してほぼ決定されるようになる。例えば,アンテナ高を180mmから60mmに縮小すると約10dBも感度が劣化するようになる。このように,単純に既存のロッドアンテナを短縮すると性能が大きく劣化して実用化が困難になる。さらに,アンテナを70mm以下の低姿勢とすると放射抵抗Rrad が小さくなってしまうことから,アンテナそのものの導体損失の影響により放射効率が低下しやすくなって,さらなる感度劣化の原因になる。
【0005】
そこで,出願人は特願2006−315297号において,70mm以下の低姿勢としても感度劣化を極力抑制することのできる車両に取り付けられるアンテナ装置を提案した。ところで,車両には地上波ラジオ放送,衛星ラジオ放送やGPS等の多種多様な用途に応じたアンテナが搭載されていることがある。しかし,各種メディア対応の各アンテナが増加するに従い,車両に搭載するアンテナの数が増加し,車両の美観は損なわれると共に,取り付けるための作業時間も増大する。そこで,アンテナ装置に複数のアンテナを組み込むことが考えられる。一例として,上記提案したアンテナ装置に,例えばSDARS(Satellite Digital Audio Radio Service:衛星デジタルラジオサービス)を受信するアンテナを組み込んだアンテナ装置の構成例を示す平面図を図24に示し,そのアンテナ装置の構成例を示す側面図を図25に示す。
【0006】
図24および図25に示すアンテナ装置200は,アンテナケース210と,このアンテナケース210内に収納されているアンテナベース220と,アンテナベース220に取り付けられているアンテナ基板230およびアンプ基板234とから構成されている。アンテナケース210は先端に行くほど細くなる流線型の外形形状とされている。アンテナケース210の下面には金属製のアンテナベース220が取り付けられる。アンテナケース210内に立設して収納できる大きさのアンテナ基板230には,アンテナ素子231のパターンが形成されている。このアンテナ素子231の下縁とアンテナベース220との間隔は約10mm以上とされている。このアンテナ基板230は,アンテナベース220に立設して固着されていると共に,アンテナ基板230の前方にアンプ基板234が固着されている。そして,アンプ基板234の上に平面アンテナユニット235が固着されている。平面アンテナユニット235は,摂動素子を備え円偏波を受信可能なパッチ素子を有している。平面アンテナユニット235をアンプ基板234の上に固着しているのは,アンテナ素子231の下には,平面アンテナユニット235の高さが高いことから配置することができず,限られた空間しか有していないアンテナケース210内において,平面アンテナユニット235を配置することができるのはアンプ基板234の上だけとなるからである。
【0007】
アンテナベース220の下面からは,アンテナ装置200を車両に取り付けるためのボルト部221と,アンテナ装置200から受信信号を車両内に導くためのケーブルを引き出すケーブル引出口222が突出して形成されている。この場合,ボルト部221およびケーブル引出口222が挿通される穴が車両のルーフに形成され,これらの穴にボルト部221およびケーブル引出口222が挿通されるようルーフ上にアンテナ装置200を載置する。そして,車両内に突出したボルト部221にナットを締着することによりアンテナ装置200を車両のルーフに固着することができる。この際に,ケーブル引出口222から引き出されたケーブルが車両内に導かれる。また,アンテナケース210内に収納されているアンプ基板234への給電ケーブルは,車両内からケーブル引出口222を介してアンテナケース210内に導かれる。なお,アンテナケース210の長手方向の長さは約200mmとされ,横幅は約75mmとされる。また,車両から突出している高さは約70mmとされて低姿勢とされている。
【0008】
アンテナ装置200の水平面内の放射指向特性を図26に示す。ただし,仰角は20°とされている。図26に示す放射指向特性を参照すると,無指向性とはなっておらず,特に,アンテナ素子231が存在している方向(180°)において放射指向特性が落ち込んでいることが分かる。これは,アンプ基板234の上に設置した平面アンテナユニット235の設置高が高くなり,グランド面と平面アンテナユニット235のパッチ素子との間隔が大きくなり,平面アンテナユニットの電気的特性,特に放射指向特性に影響を及ぼすことになるからである。さらに,平面アンテナユニット235の放射界において,低仰角放射範囲に平面アンテナユニット235の動作周波数の1/2波長程度の大きな金属体であるアンテナ素子231が存在しており,このアンテナ素子231による反射・回折等の影響で,平面アンテナユニット235の放射指向特性が大きく劣化する傾向にあるからである。このように,限られた空間しか有していないアンテナケースを備えるアンテナ装置にさらにアンテナを組み込むと既設のアンテナの影響を受けて良好な電気的特性を得ることができないという問題点があった。
そこで,本発明は限られた空間しか有していないアンテナケースを備えるアンテナ装置にさらにアンテナを組み込んでも良好な電気的特性を得ることができるアンテナ装置を提供することを目的としている。」

との記載があるから,

背景技術において,アンテナを小型化するために単純に既存のロッドアンテナを短縮すると性能が大きく劣化して実用化が困難になり,さらに,アンテナを70mm以下の低姿勢とすると放射抵抗Rrad が小さくなってしまうことから,アンテナそのものの導体損失の影響により放射効率が低下しやすくなって,さらなる感度劣化の原因になるという課題があったが(【0004】),出願人は,特願2006−315297において,70mm以下の低姿勢としても感度劣化を極力抑制することのできる車両に取り付けられるアンテナ装置を提案することにより,そのような課題を解決したこと(【0005】)が記載されていると認められる。
そして,そのような背景技術の課題が解決されても,さらに,車両には多種多様な用途に応じたアンテナが搭載されていることがあり,車両に搭載するアンテナの数が増大すると車両の美観が損なわれるとともに取り付けるための作業時間も増大するため,アンテナ装置に複数のアンテナを組み込むことが考えられるが(【0005】),限られた空間しか有していないアンテナケースを備えるアンテナ装置に,既設の立設されたアンテナ素子に加えてさらに平面アンテナユニットを組み込むと相互に他のアンテナの影響を受けて良好な電気的特性を得ることができないという課題が示され(【0008】)ているから,発明の詳細な説明に記載された発明の目的は,限られた空間しか有していないアンテナケースを備えるアンテナ装置に既設の立設されたアンテナ素子に加えてさらに平面アンテナユニットを組み込んでも良好な電気的特性を得ることができるアンテナ装置を提供する,という上記課題に対応したものと認められる。

イ.発明の詳細な説明に記載された発明

そして,本件明細書の発明の詳細な説明には,課題を解決するための手段について,

「【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために,本発明は,立設されて配置され面状のアンテナ素子が形成されているアンテナ基板と,アンテナ基板と重ならないように配置されているアンプ基板と,アンテナ素子の直下であって,前記アンテナ素子の面とほぼ直交するよう配置されている平面アンテナユニットとを備え,平面アンテナユニットの動作周波数帯の中心周波数の波長をλとした際に,平面アンテナユニットの上面とアンテナ素子の下端との間隔が約0.25λ以上とされていることを最も主要な特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば,立設されて配置され面状のアンテナ素子が形成されているアンテナ基板と,アンテナ基板と重ならないように配置されているアンプ基板と,アンテナ素子の直下であって,前記アンテナ素子の面とほぼ直交するよう配置されている平面アンテナユニットとを備え,平面アンテナユニットの動作周波数帯の中心周波数の波長をλとした際に,平面アンテナユニットの上面とアンテナ素子の下端との間隔が約0.25λ以上とされていることから,アンテナ素子の影響を受けることなく平面アンテナユニットの水平面内の放射指向特性を無指向性とすることができると共に,良好なゲイン特性が得られるようになる。」

との記載があるから,

発明の詳細な説明に記載された発明は,前記アに記載したように「限られた空間しか有していないアンテナケースを備えるアンテナ装置に,既設の立設されたアンテナ素子に加えてさらに平面アンテナユニットを組み込むと相互に他のアンテナの影響を受けて良好な電気的特性を得ることができない」という課題を解決するために,アンテナ素子と,アンテナ素子の直下であって,前記アンテナ素子の面とほぼ直交するよう配置されている平面アンテナユニットとを備えるアンテナにおいて,平面アンテナユニットの上面とアンテナ素子の下端との間隔を約0.25λ以上とするものであると認められる。

さらに,本件明細書の発明の詳細な説明には,実施例に関し,

「【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施例にかかるアンテナ装置を取り付けた車両の構成を図1に示す。(後略)」

「【0023】
ここで,本発明にかかる第1実施例のアンテナ装置1における設計手法について説明する。ただし,平面アンテナユニット35は,SDARS(Satellite Digital Audio Radio Service:衛星ディジタルラジオサービス)受信用のアンテナとされ,その中心周波数は2338.75MHzとされている。この場合,衛星デジタルラジオの中心周波数の波長λは約128mmであり,波長λに換算した設計値として以下に表現するものとする。
(1)アンテナ素子31の下縁と平面アンテナユニット35の上面の間隔Dを,約0.25λ以上とする。
(2)アンテナ素子31の長さLを,およそ0.5λ程度,或いはそれ以下とする。
(3)アンテナ素子31の縦方向の幅hを,およそ0.2λ〜0.25λ程度,或いは0.2λ以下とする。
(4)アンテナ素子31は厚みより縦方向の幅が大きくされアンテナ基板30にプリントする,あるいは,厚さが1〜2mmの板状とする。
この様なアンテナ素子31の寸法・位置関係とすることにより,アンテナ素子31と平面アンテナユニット35が,相互に影響を及ぼすことが低減され,それぞれ単独で存在する場合の各アンテナと同等の電気的特性を示すことが可能となる。」

「【0027】
次に,本発明の車載用にかかる第2実施例のアンテナ装置3の構成を図20ないし図22に示す。(後略)」

「【0030】
上記したように,本発明の第2実施例のアンテナ装置3においてもAM/FM受信用のアンテナ素子41の直下に衛星ラジオ放送を受信する平面アンテナユニット35が配置されている。平面アンテナユニット35は,摂動素子を備え円偏波を受信可能なパッチ素子を有している。また,本発明の第2実施例のアンテナ装置3において,平面アンテナユニット35が動作する衛星デジタルラジオの中心周波数の波長をλ とした際に,アンテナ素子41の下縁と平面アンテナユニット35の上面の間隔Dを約0.25λ以上としている。さらに,アンテナ素子41の長さLを,およそ0.5λ程度,或いはそれ以下とし,アンテナ素子41の高さ方向の幅hを,およそ0.2λ〜0.25λ程度,或いは約0.2λ以下としている。さらにまた,アンテナ素子41は厚みより縦方向の幅が大きくされ,その厚さは1〜2mmの板状,あるいは60〜百数十分の一λ程度の棒状としている。
アンテナ素子41の寸法・位置関係をこのようにすることにより,アンテナ素子41と平面アンテナユニット35が,相互に影響を及ぼすことが低減され,それぞれ単独で存在する場合の各アンテナと同等の電気的特性を示すことが可能となる。」

との記載があるから,

発明の詳細な説明に,発明を実施するための最良の形態として記載されているいずれの実施例(第1実施例,第2実施例)も,アンテナ素子の下に平面アンテナユニットを配置し,アンテナ素子の下縁と平面アンテナユニットの上面の間隔を約0.25λ以上としたものであり,そのような位置関係とすることによって,アンテナ素子と平面アンテナユニットが,相互に影響を及ぼすことが低減されて,それぞれ単独で存在する場合の各アンテナと同等の電気的特性を示すことを具体的に示している。

そして,【0018】〜【0026】,図7〜図12,図15〜図19には,アンテナ素子の下縁と平面アンテナユニットの上面との間隔Dをパラメータとして変化させた場合の平面アンテナユニットのゲイン特性を測定した結果が記載されている。

そうすると,発明の詳細な説明に記載された実施例は,アンテナ素子の下に平面アンテナユニットを配置し,アンテナ素子の下縁と平面アンテナユニットの上面の間隔を約0.25λ以上であるアンテナ装置の実施の形態を具体的に示し,その発明の「既設の立設されたアンテナ素子に加えてさらに平面アンテナユニットを組み込んでも良好な電気的特性を得ることができるアンテナ装置を提供する」という課題を解決するという効果を生ずることを示すものであると認められる。

(3)本件発明1は,発明の詳細な説明に記載された発明であるか否か

ア.本件発明1のアンテナ装置は,前記第2のとおり,面状のアンテナ素子とアンプ基板とからなっており,平面アンテナユニットは構成要件とされてはおらず,平面アンテナユニットが構成要件ではないから,当然,アンテナ素子に加えて平面アンテナユニットを組み込んだ場合に,アンテナ素子の下縁と平面アンテナユニットの上面との間隔が約0.25λ以上であることも構成要件とされていない。
したがって,本件発明1は,
(ア)そもそも,平面アンテナユニットが組み込まれていないアンテナ装置
(イ)アンテナ素子に加えて平面アンテナユニットが組み込まれてはいるものの,アンテナ素子の下縁と平面アンテナユニットの上面との間隔が約0.25λ未満であるアンテナ装置
(ウ)アンテナ素子に加えて平面アンテナユニットを組み込み,アンテナ素子の下縁と平面アンテナユニットの上面との間隔を約0.25λ以上とするアンテナ装置
の発明を含むものである。

イ.これに対し,発明の詳細な説明に記載された発明は,前記(2)のとおり,アンテナ素子と,アンテナ素子の直下であって,前記アンテナ素子の面とほぼ直交するよう配置されている平面アンテナユニットとを備えるアンテナにおいて,平面アンテナユニットの上面とアンテナ素子の下端との間隔を約0.25λ以上とするものである。

ウ.そうすると,本件発明1のうち,
(ア)そもそも,平面アンテナユニットが組み込まれていないアンテナ装置
(イ)アンテナ素子に加えて平面アンテナユニットが組み込まれてはいるものの,アンテナ素子の下縁と平面アンテナユニットの上面との間隔が約0.25λ未満であるアンテナ装置
の発明は,発明の詳細な説明に記載された発明ではない。
したがって,本件発明1は,発明の詳細な説明に記載された発明以外の発明を含むものであって,発明の詳細な説明に記載された発明であるとは認められない。

(4)本件発明1は,発明の詳細な説明の記載若しくは示唆又は出願時の技術常識に照らし,当業者が課題を解決できると認識できる範囲のものであるか

発明の詳細な説明に記載された発明の課題は,前記(2)アに記載したように,限られた空間しか有していないアンテナケースを備えるアンテナ装置に,既設の立設されたアンテナ素子に加えてさらに平面アンテナユニットを組み込むと相互に他のアンテナの影響を受けて良好な電気的特性を得ることができないという課題であり,このような課題を当業者が認識するためには,限られた空間しか有しないアンテナ装置において,既設の立設されたアンテナ素子に加えて新たに平面アンテナユニットを組み込むことが前提となる。
しかし,本件発明1は,前記(3)ア(ア)に記載したように,そもそも平面アンテナユニットが組み込まれていないアンテナ装置の発明を含んでおり,平面アンテナユニットが組み込まれていないアンテナ装置の発明の課題は,発明の詳細な説明には記載されていない。そのため,本件発明1は,当業者が発明の詳細な説明の記載によって課題を認識できない発明を含むものであり,当業者が課題を解決できると認識できる範囲を超えたものである。

また,本件発明1は,前記(3)ア(イ)に記載したように,アンテナ素子に加えて平面アンテナユニットが組み込まれてはいるものの,アンテナ素子の下縁と平面アンテナユニットの上面との間隔が約0.25λ未満であるアンテナ装置の発明を含んでいるが,発明の詳細な説明には,課題を解決する方法として,平面アンテナユニットの上面とアンテナ素子の下端との間隔を約0.25λ以上とすることが記載されているから,アンテナ素子の下縁と平面アンテナユニットの上面との間隔を約0.25λ未満とするならば,発明の詳細な説明に記載された課題を解決することはできない。
つまり,本件発明1は,この点においても当業者が発明の詳細な説明に記載された解決手段によって課題を解決できると認識できない発明を含むものであり,当業者が課題を解決できると認識できる範囲を超えたものである。

その他,本件発明1が,発明の詳細な説明の記載若しくは示唆又は出願時の技術常識に照らし,当業者が課題を解決できると認識できる範囲のものであることを認めるに足りる証拠はない。
したがって,本件発明1は,発明の詳細な説明の記載若しくは示唆又は出願時の技術常識に照らし,当業者が課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められない。

(5)本件発明2〜3及び5〜7について

本件発明2〜3及び5〜7についても,平面アンテナユニットは構成要件とされていないから,前記(3)及び(4)に記載した同様の理由により,発明の詳細な説明の記載若しくは示唆又は出願時の技術常識に照らし,当業者が課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められない。

(6)被請求人の主張に対する考察

被請求人は,発明の詳細な説明には,「既設の立設されたアンテナ素子に加えてさらに平面アンテナユニットを組み込んでも良好な電気的特性を得ることができるアンテナ装置を提供する」だけでなく,「高さ約70mm以下のアンテナケース内に収容されながらも,受信性能が良好なFM・AM共用アンテナを提供する」という課題も記載されており,本件発明1の課題は,高さ約70mm以下のアンテナケース内に収容されながらも,受信性能が良好なFM・AM共用アンテナを提供するという課題である,と主張しているが,【0005】に「出願人は特願2006−315297号において,70mm以下の低姿勢としても感度劣化を極力抑制することのできる車両に取り付けられるアンテナ装置を提案した。」と記載されているように,被請求人が主張する課題は特願2006−315297号において既に提案し,解決されているから,既に提案して解決されている課題が本件発明の課題であるとの被請求人の主張は採用できない。

(7)まとめ

したがって,本件発明1〜3及び5〜7は,発明の詳細な説明の記載若しくは示唆又は出願時の技術常識に照らし,当業者が課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められないから,無効理由1は理由がある。

3.無効理由2〜11について

無効理由2〜11は,いずれも理由がない。


第6 むすび

以上のとおり,本件発明1〜3及び5〜7に係る特許は,特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,同法第123条第1項第4号により無効とすべきものである。

審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは,この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は,その日数を附加します。)以内に,この審決に係る相手方当事者を被告として,提起することができます。
 
審理終結日 2021-12-10 
結審通知日 2021-12-15 
審決日 2022-01-07 
出願番号 P2007-309993
審決分類 P 1 113・ 112- ZB (H01Q)
P 1 113・ 537- ZB (H01Q)
P 1 113・ 121- ZB (H01Q)
P 1 113・ 561- ZB (H01Q)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 佐藤 智康
特許庁審判官 衣鳩 文彦
吉田 隆之
登録日 2013-04-05 
登録番号 5237617
発明の名称 アンテナ装置  
代理人 高橋 雄一郎  
代理人 福原 裕次郎  
代理人 中島 慧  
代理人 ▲高▼橋 宗鷹  
代理人 阿部 実佑季  
代理人 荒井 康行  
代理人 三村 量一  
代理人 福永 健司  
代理人 林 佳輔  
代理人 相田 義明  

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