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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01G 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01G |
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管理番号 | 1382856 |
総通号数 | 4 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-04-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2021-01-08 |
確定日 | 2022-03-09 |
事件の表示 | 特願2016−155063「積層電子部品及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 7月 6日出願公開、特開2017−120876〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成28年8月5日(パリ条約による優先権主張 2015年12月29日 韓国)の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 令和 2年 4月15日付け:拒絶理由通知 令和 2年 7月20日 :意見書、手続補正書の提出 令和 2年 8月31日付け:拒絶査定 令和 3年 1月 8日 :審判請求書、手続補正書の提出 第2 令和3年1月8日の手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 令和3年1月8日の手続補正を却下する。 [理由] 1.補正の内容 令和3年1月8日の手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の請求項11を本件補正における請求項11に変更する補正事項を含むものである。 そして、補正前の請求項11及び本件補正における請求項11は、それぞれ、以下のとおりである(本件補正における請求項11の下線部は、補正された箇所を示す。)。 〈補正前の請求項11〉 「【請求項11】 誘電特性を有する粉末、バインダー及び溶剤を含むスラリーで第1及び第2のセラミックグリーンシートを形成する段階と、 前記第1及び第2のセラミックグリーンシートのそれぞれの一表面上に同一のストリップ(strip)形状を1個以上含む第1及び第2の内部電極ベースパターンを印刷する段階と、 前記第1の内部電極ベースパターンを含む第1のセラミックグリーンシートと前記第2の内部電極ベースパターンを含む前記第2のセラミックグリーンシートを交互に積層する段階と、 前記積層された第1及び第2のセラミックグリーンシートの積層バー(bar)を切断して、第1の内部電極パターンと第2の内部電極パターンが交互に積層された積層構造と誘電物質を含む本体に個別化する段階と、 前記本体の互いに対向する外部面にそれぞれ第1及び第2のサイド部を配置する段階と、 前記本体の互いに対向する外部面に第1及び第2の外部電極を配置する段階と、 を含み、 前記第1の内部電極ベースパターンは、前記第1のセラミックグリーンシートの中央部から長さ方向及び幅方向に偏るように配置される、積層電子部品の製造方法。」 〈本件補正における請求項11〉 「【請求項11】 誘電特性を有する粉末、バインダー及び溶剤を含むスラリーで第1及び第2のセラミックグリーンシートを形成する段階と、 前記第1及び第2のセラミックグリーンシートのそれぞれの一表面上に同一のストリップ(strip)形状を1個以上含む第1及び第2の内部電極ベースパターンを印刷する段階と、 前記第1の内部電極ベースパターンを含む第1のセラミックグリーンシートと前記第2の内部電極ベースパターンを含む前記第2のセラミックグリーンシートを交互に積層する段階と、 前記積層された第1及び第2のセラミックグリーンシートの積層バー(bar)を切断して、第1の内部電極パターンと第2の内部電極パターンが交互に積層された積層構造と誘電物質を含む本体に個別化する段階と、 前記本体の互いに対向する外部面にそれぞれ第1及び第2のサイド部を配置する段階と、 前記本体の互いに対向する外部面に第1及び第2の外部電極を配置する段階と、 を含み、 前記第1の内部電極ベースパターンは、前記第1のセラミックグリーンシートの中央部から長さ方向及び幅方向に偏るように配置され、 前記第1及び第2のサイド部は、前記本体の第5の外部面及び第6の外部面上において、当該本体の外部面に露出する前記第1及び第2の内部電極パターンを全て覆うように配置される、積層電子部品の製造方法。」 2.補正の適否 本件補正による請求項11に係る補正は、補正前の請求項11に記載された発明を特定するために必要な事項である「第1及び第2のサイド部」について、「本体の第5の外部面及び第6の外部面上において、当該本体の外部面に露出する前記第1及び第2の内部電極パターンを全て覆うように配置される」旨限定するものであって、本件補正前の請求項11に記載された発明と本件補正による請求項11に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そして、本願明細書の段落【0018】に「図1を参照すると、上記ボディの外部面のうち第3の方向に互いに対向する第5及び第6の面状には第1及び第2のサイド部21、22が配置される。」と、段落【0022】に「上記第1及び第2のサイド部21、22は、ボディの第5の面及び第6の面上で、ボディの外部面に露出する第1及び第2の内部電極パターンの端部を覆うことができるように配置」と記載されると共に、図1に第5の面全面を覆うように第1のサイド部21を設けることが示されている。 してみると、「前記第1及び第2のサイド部は、前記本体の第5の外部面及び第6の外部面上において、当該本体の外部面に露出する前記第1及び第2の内部電極パターンを全て覆うように配置される」ことは、発明の詳細な説明に記載された事項であり、本件補正による請求項11に係る補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。 また、特許法第17条の2第4項に違反するところはない。 そこで、本件補正による請求項11に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下に検討する。 (1)本願補正発明 本願補正発明は、上記「1.」の〈本件補正における請求項11〉の欄に記載したとおりのものである。 (2)引用文献の記載事項、引用発明等 ア.引用文献1 (ア)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に公開された特開2013−165210号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「積層セラミックコンデンサの製造方法」について、図面とともに以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。 「【0021】 本実施形態では、図1〜図8を参照しながら、図9に示す積層セラミックコンデンサ1の製造方法の一例について説明する。 【0022】 (表面上に導電層21が形成されたセラミックグリーンシート20の準備) まず、図1に示すセラミックグリーンシート20を用意する。このセラミックグリーンシート20は、セラミックペーストをダイコーター法、グラビアコーター法、マイクログラビアコーター法などの印刷法によりシート状に印刷し、乾燥させることにより作製することができる。 【0023】 セラミックグリーンシート20の作製に用いられるセラミックペーストに含まれるセラミック粉末の種類は、例えば、誘電体セラミック粉末を含むセラミックペーストを用いることができる。誘電体セラミックスの具体例としては、例えば、BaTiO3、CaTiO3、SrTiO3、CaZrO3などが挙げられる。 【0024】 次に、セラミックグリーンシート20の表面上に、内部電極を構成するための矩形状の複数の導電層21を、x方向と、x方向に対して垂直なy方向に沿って相互に間隔をおいてマトリクス状に形成する。これにより、表面上に、内部電極を構成するための矩形状の複数の導電層21が、x方向及びy方向に沿って相互に間隔をおいてマトリクス状に配されたセラミックグリーンシート20を用意する。 【0025】 なお、導電層21の形成は、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、インクジェット法などの各種印刷法により行うことができる。」 「【0028】 (マザーブロック22の作製) 次に、図3に示されるように、表面上に導電層21が形成されていないセラミックグリーンシート20を複数枚積層する。その後に、図2及び図3に示されるように、表面上に複数の導電層21が形成されたセラミックグリーンシート20を複数枚積層する。この際に、積層方向であるz方向において隣り合うセラミックグリーンシート20の上に配された導電層21がx方向及びy方向のそれぞれに沿って半周期ずつずれるようにする。その後、図3に示されるように、表面上に導電層21が形成されていないセラミックグリーンシート20をさらに複数枚積層する。これにより、内部に導電層21を有するマザーブロック22を作製する。 【0029】 なお、必要に応じてマザーブロック22に、静水圧プレス等の各種プレスを施してもよい。 【0030】 (生のチップ23の作製) 次に、マザーブロック22をx方向及びy方向に沿って切断することにより、マザーブロック22から、図4〜図7に示す生のチップ23を作製する。具体的には、マザーブロック22を、各導電層21のy方向(第2の方向)における中央において、x方向(第1の方向)に沿って延びる複数のカットラインL1(図2を参照)に沿って切断する。それと共に、各導電層21のx方向における中央においてy方向に沿って延びるカットラインL2に沿って切断する。これらカットラインL1,L2における切断を行うことにより、マザーブロック22を複数の生のチップ23に分断する。」 「【0033】 図4〜図7に示されるように、生のチップ23は、直方体状のチップ本体24を有する。一対の主面24a、24bと、一対の側面24c、24dと、一対の端面24e、24fとを有する。主面24a、24bは、長さ方向L及び幅方向Wに沿って延びている。側面24c、24dは、長さ方向L及び厚み方向Tに沿って延びている。端面24e、24fは、幅方向W及び厚み方向Tに沿って延びている。 【0034】 チップ本体24の内部には、導電層21から形成された矩形状の複数の第1及び第2の内部電極25,26が配されている。複数の第1の内部電極25と、複数の第2の内部電極26とは、厚み方向Tに沿って、相互に間隔をおいて交互に配されている。厚み方向Tにおいて隣接する第1の内部電極25と第2の内部電極26とは、セラミック層29を介して対向している。 【0035】 第1及び第2の内部電極25,26は、長さ方向L及び幅方向Wに沿って配されている。第1の内部電極25は、端面24e及び側面24cに露出している。第1の内部電極25は、端面24f及び側面24dには露出していない。第2の内部電極26は、端面24f及び側面24dに露出している。第2の内部電極26は、端面24e及び側面24cには露出していない。即ち、端面24e及び側面24cには、第1の内部電極25が露出している一方、第2の内部電極26は露出していない。側面24d及び端面24fには、第2の内部電極26が露出している一方、第1の内部電極25は露出していない。 【0036】 (セラミック層27a、27bの形成) 次に、図8に示されるように、第1または第2の内部電極25,26が露出した側面24c、24dの上に、セラミック層27a、27bを形成する。これにより、内部電極25,26が端面24e、24fにのみ露出している生のセラミック素体28を作製する。 【0037】 セラミック層27a、27bは、例えば、セラミックグリーンシートを貼り付けることにより形成してもよい。この場合、厚みの均一性の高いセラミック層27a、27bを形成することができる。また、セラミック層27a、27bは、セラミックペーストを塗布し、乾燥させることにより形成してもよい。」 「【0040】 (焼成) 次に、生のセラミック素体28を焼成することにより、図9に示す、第1及び第2の内部電極25,26を有するセラミック素体10を得る。その後、第1及び第2の外部電極13,14を形成することにより積層セラミックコンデンサを完成させる。なお、第1及び第2の外部電極13,14は、めっき法、ディップ法などにより導電性ペーストを塗布した後に焼成する方法等により形成することができる。 【0041】 以上、本実施形態では、焼成の後に外部電極13,14を形成する、ポストファイアの場合について説明した。但し、本発明は、これに限定されない。生のセラミック素体に導電ペーストを塗布した後に生のセラミック素体と同時に焼成するコファイアにより外部電極を形成してもよい。」 (イ)上記記載から、引用文献1には、次の技術事項が記載されているものと認められる。 ・【0021】の記載事項によれば、引用文献1には、「積層セラミックコンデンサ1の製造方法」が記載されている。 ・【0023】の記載事項によれば、「誘電体セラミック粉末を含むセラミックペーストを用い」て「セラミックグリーンシート20」は作製される。 ・【0024】、【0025】の記載事項によれば、「各種印刷法により」、「セラミックグリーンシート20の表面上に、内部電極を構成するための矩形状の複数の導電層21を、x方向と、x方向に対して垂直なy方向に沿って相互に間隔をおいてマトリクス状に形成」される。 ・【0028】の記載によれば、「積層方向であるz方向において隣り合うセラミックグリーンシート20の上に配された導電層21がx方向及びy方向のそれぞれに沿って半周期ずつずれるように」、「表面上に複数の導電層21が形成されたセラミックグリーンシート20を複数枚積層」し、「マザーブロック22を作製」する。 ・【0030】の記載によれば、「マザーブロック22をx方向及びy方向に沿って切断することにより、マザーブロック22から」「生のチップ23を作製」する。そして、【0033】の記載によれば、「生のチップ23は、直方体状のチップ本体24を有」する。 してみると、マザーブロック22をx方向及びy方向に沿って切断することにより直方体状のチップ本体24は作製されたものである。 ・【0034】の記載によれば、「チップ本体24の内部には、導電層21から形成された矩形状の複数の第1及び第2の内部電極25,26が配され」る。 ・【0035】の記載によれば、「第1の内部電極25は、端面24e及び側面24cに露出」し、「第2の内部電極26は、端面24f及び側面24dに露出」している。 ・【0036】の記載によれば、「第1または第2の内部電極25,26が露出した側面24c、24dの上に、セラミック層27a、27bを形成」することにより、「内部電極25,26が端面24e、24fにのみ露出している生のセラミック素体28を作製」する。 ・【0041】の記載によれば、「生のセラミック素体に導電ペーストを塗布し」「外部電極を形成」する。 ・図9によれば、外部電極はセラミック素体の互いに対向する外部面に形成されている。 (ウ)上記技術事項及び図面を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「誘電体セラミック粉末を含むセラミックペーストを用いてセラミックグリーンシート20を作製し、 各種印刷法により、セラミックグリーンシート20の表面上に、内部電極を構成するための矩形状の複数の導電層21を、x方向と、x方向に対して垂直なy方向に沿って相互に間隔をおいてマトリクス状に形成し、 積層方向であるz方向において隣り合うセラミックグリーンシート20の上に配された導電層21がx方向及びy方向のそれぞれに沿って半周期ずつずれるように、表面上に複数の導電層21が形成されたセラミックグリーンシート20を複数枚積層し、マザーブロック22を作製し、 マザーブロック22をx方向及びy方向に沿って切断することにより直方体状のチップ本体24を作製し、 チップ本体24の内部には、導電層21から形成された矩形状の複数の第1及び第2の内部電極25、26が配され、第1の内部電極25は端面24e及び側面24cに露出し、第2の内部電極26は端面24f及び側面24dに露出しており、 第1または第2の内部電極25、26が露出した側面24c、24dの上にセラミック層27a、27bを形成することにより、内部電極25、26が端面24e、24fにのみ露出している生のセラミック素体28を作製し、 生のセラミック素体の互いに対向する外部面に導電ペーストを塗布し外部電極を形成する 積層セラミックコンデンサ1の製造方法。」 イ.引用文献2 (ア)原査定で引用され本願の優先日前に公開された、特開2011−114265号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに以下の記載がある。 「【0001】 本発明はセラミック層と内部電極とを積層した積層セラミック電子部品に関する。」 「【0025】 (実施例) まず出発原料Mn3O4、Co3O4、Fe2O3、Al2O3の酸化物粉末を混合、乾燥した後、仮焼、粉砕してMn3O4を主成分とする負の抵抗特性を有する機能セラミック材料を得る。次に、この機能セラミック材料の粉末に有機バインダー、溶剤を加えてセラミックスラリーを作製する。 【0026】 次に図4に示すようにこのセラミックスラリーを用いてドクターブレード法等により所定厚みのグリーンシート41を得る。さらにスクリーン印刷法を用いて図5に示すスクリーン45の台形形状のメッシュ開口部46にAg−Pdの内部電極ペーストを充填しグリーンシート41に内部電極ペーストを塗布して中間電極19となる導電体層42を形成しグリーンシートAとする。」 「【0028】 次にグリーンシート41を複数枚積層して外層の下層を形成した後、さらに中間電極19となる導電体層42が形成されたグリーンシートAを積層する。続いて別のグリーンシートAを用いて下層のグリーンシートAに対し長さ方向に一定寸法ずらして下層のグリーンシートA上に積層する。この別のグリーンシートAは第1・第2の接続電極15、16となる導電体層42が形成されたグリーンシートBとなる。」 「【0031】 また上記のグリーンシートBは積層する際にグリーンシートAを一定寸法ずらしたものであったが、グリーンシートAの形成に用いたスクリーン45を長さ方向に一定寸法ずらして内部電極ペーストを塗布したグリーンシートCをグリーンシートBの代わりに用いてもよく、グリーンシートAに対しグリーンシートCを長さ方向にずらさずに積層して形成することができる。」 (イ)上記記載から、引用文献2には、次の技術事項が記載されているものと認められる。 ・【0001】および【0028】の記載事項によれば、「セラミック層と内部電極とを積層した積層セラミック電子部品」の製造方法において、「導電体層42が形成されたグリーンシートA」を「下層のグリーンシートAに対し長さ方向に一定寸法ずらして下層のグリーンシートA上に積層」する。 ・【0031】の記載事項によれば、「積層する際にグリーンシートAを」「ずらしたもの」の「代わりに」「グリーンシートAの形成に用いたスクリーン45を長さ方向に一定寸法ずらして内部電極ペーストを塗布したグリーンシートCを」「用い」、「グリーンシートAに対しグリーンシートCを長さ方向にずらさずに積層」する。ここで、【0026】の記載を考慮すれば、内部電極ペーストを塗布して導電体層を形成しているのは明らかである。 してみると、【0028】、【0031】には、グリーンシートAを下層のグリーンシートAに対し長さ方向に一定寸法ずらして下層のグリーンシートA上に積層する代わりに、長さ方向に一定寸法ずらして導電体層が形成されたグリーンシートCを用い、グリーンシートAに対しグリーンシートCを長さ方向にずらさずに積層することが記載されていると言える。 (ウ)上記技術事項から、引用文献2には、次の技術(以下、「引用文献2記載の技術」という。)が記載されているものと認められる。 「セラミック層と内部電極とを積層した積層セラミック電子部品の製造方法において、導電体層42が形成されたグリーンシートAを下層のグリーンシートAに対し長さ方向に一定寸法ずらして下層のグリーンシートA上に積層する代わりに、長さ方向に一定寸法ずらして導電体層が形成されたグリーンシートCを用い、グリーンシートAに対しグリーンシートCを長さ方向にずらさずに積層する」技術。 (3)対比 ア.引用発明の「誘電体セラミック粉末」は、本願補正発明の「誘電特性を有する粉末」に相当する。引用発明の「セラミックペースト」は「誘電体セラミック粉末」を含んだ粒子分散液であるから、本願補正発明の「スラリー」に相当する。 そして、引用発明の「セラミックグリーンシート20」は、「導電層21」が半周期ずつずれるように複数枚積層されるものであるから「導電層21」の位置が異なる2種類のシートから成り、本願補正発明の「第1及び第2のセラミックグリーンシート」に相当する。 してみると、引用発明の「誘電体セラミック粉末を含むセラミックペーストを用いてセラミックグリーンシート20を作製」することは、本願補正発明の「誘電特性を有する粉末」「を含むスラリーで第1及び第2のセラミックグリーンシートを形成する段階」に相当する。 ただし、スラリーに関して、本願補正発明は「バインダー及び溶剤を含む」のに対し、引用発明はその旨特定されていない点で相違する。 イ.引用発明の「複数の導電層21」は、導電層が形成されたセラミックグリーンシートが半周期ずつずれるように複数枚積層されることにより「複数の第1及び第2の内部電極25、26」を形成するから、位置の異なる2種類の導電層があることは明らかである。 してみると、引用発明の「複数の導電層21」は本願補正発明の「第1及び第2の内部電極ベースパターン」に相当し、引用発明の「各種印刷法により、セラミックグリーンシート20の表面上に、内部電極を構成するための矩形状の複数の導電層21を、x方向と、x方向に対して垂直なy方向に沿って相互に間隔をおいてマトリクス状に形成」することは、本願補正発明の「同一のストリップ(strip)形状を1個以上含む第1及び第2の内部電極ベースパターンを印刷する段階」に相当する。 ウ.引用発明の「導電層21がx方向及びy方向のそれぞれに沿って半周期ずつずれるように、表面上に複数の導電層21が形成されたセラミックグリーンシート20を複数枚積層」することは、本願補正発明の「前記第1の内部電極ベースパターンを含む第1のセラミックグリーンシートと前記第2の内部電極ベースパターンを含む前記第2のセラミックグリーンシートを交互に積層する段階」に相当する。 エ.引用発明の「マザーブロック22」は「複数の導電層21が形成されたセラミックグリーンシート20を複数枚積層」したものであるから、本願補正発明の「前記積層された第1及び第2のセラミックグリーンシートの積層バー(bar)」に相当する。 また、引用発明の「チップ本体24」は「マザーブロック22をx方向及びy方向に沿って切断」して作製され「内部には、導電層21から形成された矩形状の複数の第1及び第2の内部電極25、26が配され」たものであるから、本願補正発明の「第1の内部電極パターンと第2の内部電極パターンが交互に積層された積層構造と誘電物質を含む本体」に相当する。 してみると、引用発明の「マザーブロック22をx方向及びy方向に沿って切断することにより直方体状のチップ本体24を作製」することは、本願補正発明の「前記積層された第1及び第2のセラミックグリーンシートの積層バー(bar)を切断して、第1の内部電極パターンと第2の内部電極パターンが交互に積層された積層構造と誘電物質を含む本体に個別化する段階」に相当する。 オ.引用発明の「直方体状のチップ本体24」の「側面24c、24dの上に、セラミック層27a、27bを形成」することは、本願補正発明の「前記本体の互いに対向する外部面にそれぞれ第1及び第2のサイド部を配置する段階」に相当する。 カ.引用発明の「生のセラミック素体の互いに対向する外部面に導電ペーストを塗布し外部電極を形成する」ことは、本願補正発明の「前記本体の互いに対向する外部面に第1及び第2の外部電極を配置する段階」に相当する。 キ.本願補正発明は「前記第1の内部電極ベースパターンは、前記第1のセラミックグリーンシートの中央部から長さ方向及び幅方向に偏るように配置され」るのに対して、引用発明は「隣り合うセラミックグリーンシート20の上に配された導電層21がx方向及びy方向のそれぞれに沿って半周期ずつずれるように、表面上に複数の導電層21が形成されたセラミックグリーンシート20を複数枚積層」する点で相違する。 ク.引用発明は「第1または第2の内部電極25、26が露出した側面24c、24dの上にセラミック層27a、27bを形成することにより、内部電極25,26が端面24e、24fにのみ露出している」ものであるから、「側面24c、24d」に露出した「第1または第2の内部電極25,26」は「セラミック層27a、27b」により全て覆われている。 してみると、引用発明の「第1または第2の内部電極25、26が露出した側面24c、24dの上にセラミック層27a、27bを形成」することは、本願補正発明の「前記第1及び第2のサイド部は、前記本体の第5の外部面及び第6の外部面上において、当該本体の外部面に露出する前記第1及び第2の内部電極パターンを全て覆うように配置される」ことに相当する。 ケ.積層セラミックコンデンサは積層電子部品であるから、引用発明の「積層セラミックコンデンサ1の製造方法」は、本願補正発明の「積層電子部品の製造方法」に相当する。 コ.したがって、本願補正発明と引用発明とは、次の一致点及び相違点を有するといえる。 〈一致点〉 「誘電特性を有する粉末を含むスラリーで第1及び第2のセラミックグリーンシートを形成する段階と、 前記第1及び第2のセラミックグリーンシートのそれぞれの一表面上に同一のストリップ(strip)形状を1個以上含む第1及び第2の内部電極ベースパターンを印刷する段階と、 前記第1の内部電極ベースパターンを含む第1のセラミックグリーンシートと前記第2の内部電極ベースパターンを含む前記第2のセラミックグリーンシートを交互に積層する段階と、 前記積層された第1及び第2のセラミックグリーンシートの積層バー(bar)を切断して、第1の内部電極パターンと第2の内部電極パターンが交互に積層された積層構造と誘電物質を含む本体に個別化する段階と、 前記本体の互いに対向する外部面にそれぞれ第1及び第2のサイド部を配置する段階と、 前記本体の互いに対向する外部面に第1及び第2の外部電極を配置する段階と、 を含み、 前記第1及び第2のサイド部は、前記本体の第5の外部面及び第6の外部面上において、当該本体の外部面に露出する前記第1及び第2の内部電極パターンを全て覆うように配置される、積層電子部品の製造方法。」 〈相違点1〉 スラリーに関して、本願補正発明は「バインダー及び溶剤を含む」のに対し、引用発明はその旨特定されていない点 〈相違点2〉 本願補正発明は「前記第1の内部電極ベースパターンは、前記第1のセラミックグリーンシートの中央部から長さ方向及び幅方向に偏るように配置され」るのに対して、引用発明は「隣り合うセラミックグリーンシート20の上に配された導電層21がx方向及びy方向のそれぞれに沿って半周期ずつずれるように、表面上に複数の導電層21が形成されたセラミックグリーンシート20を複数枚積層」する点 (4)判断 以下、相違点について検討する。 ア.相違点1について 粒子分散液であるスラリーやペーストは、通常バインダーと溶剤を含有するものである。(必要あれば、引用文献2の段落【0025】参照。) してみると、引用発明の「ペースト」もバインダー及び溶剤を含むものと認められ、相違点1に係る構成は実質的な相違とは認められない。 イ.相違点2について 引用文献2記載の技術(上記「(2)イ.(ウ)」参照)のように、積層セラミック電子部品において、同一位置に導電体層が形成された複数のグリーンシートをずらして積層する代わりに、導電体層の形成される位置をずらして形成されたグリーンシートをずらさずに積層することは、本願の優先日前周知技術であったものと認められる。 そして、引用発明は、積層セラミック電子部品である積層セラミックコンデンサの製造方法において、導電層がx方向及びy方向のそれぞれに沿って半周期ずつずれるようにセラミックグリーンシートを積層するものであるから、引用発明に上記周知技術を適用し、セラミックグリーンシートをずらして積層することに代え、導電層の形成される位置をx方向及びy方向のそれぞれに沿って半周期ずつずらして形成したグリーンシート、すなわち、導電層がグリーンシートの中央部から長さ方向及び幅方向に偏るように配置されたものであるグリーンシートを用いて相違点2に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たことである。 ウ.また、本願補正発明の奏する効果は、引用発明に周知技術を適用したことにより得られる効果に対して、当業者が想起し得ないものとも認められない。 エ.審判請求書での請求人の主張について 審判請求書において請求人は、概略、いずれの引用文献にも、本願の請求項1に係る発明の「前記第1の内部電極パターンが前記本体の第4の外部面から離隔した距離は、前記第2の外部電極が前記本体の第5の外部面及び第6の外部面の少なくとも1つに延びた距離より大きく、」かつ、「前記第1及び第2のサイド部は、前記本体の第5の外部面及び第6の外部面上において、当該本体の外部面に露出する前記第1及び第2の内部電極パターンを全て覆うように配置される」という特徴について何らの記載も示唆もされていない旨、本願の請求項11に係る発明についても同様である旨主張している。 しかしながら、請求項11に係る発明は、「前記第1の内部電極パターンが前記本体の第4の外部面から離隔した距離は、前記第2の外部電極が前記本体の第5の外部面及び第6の外部面の少なくとも1つに延びた距離より大きく、」との構成を有するものではなく、請求人の主張は採用できない。 (5)まとめ 以上のとおりであるから、本願補正発明は引用文献に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項11に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和2年7月20日付の手続補正書の請求項11に記載されたとおりのものであり、上記「第2」の「1.」の〈補正前の請求項11〉に摘記されたとおりのものである。 2.原査定の拒絶の理由の概要 原査定の拒絶の理由のうち、請求項11については以下のとおりである。 請求項11に係る発明は、その出願前に日本国内において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 <引用文献等一覧> 1.特開2013−165210号公報 4.特開2011−114265号公報(周知技術を示す文献) 3.引用文献の記載及び引用発明等 原査定の引用文献1の記載事項及び引用発明は、上記「第2」の「2.(2)ア.」に記載したとおりである。 また、原査定の引用文献4の記載事項および引用文献4に記載された技術は、上記「第2」の「2.(2)イ.」に引用文献2として記載したとおりである。 4.対比・判断 本願発明は、上記「第2[理由]1.」で検討した本願補正発明から「前記第1及び第2のサイド部は、前記本体の第5の外部面及び第6の外部面上において、当該本体の外部面に露出する前記第1及び第2の内部電極パターンを全て覆うように配置される」という事項を削除したものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2[理由]2.(3)及び(4)」に記載したとおり、引用発明及び周知技術から当業者が容易になし得たものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び周知技術から当業者が容易になし得たものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願の請求項11に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 審判長 酒井 朋広 出訴期間として在外者に対し90日を附加する。 |
審理終結日 | 2021-09-30 |
結審通知日 | 2021-10-05 |
審決日 | 2021-10-19 |
出願番号 | P2016-155063 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01G)
P 1 8・ 575- Z (H01G) |
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
酒井 朋広 |
特許庁審判官 |
山田 正文 山本 章裕 |
発明の名称 | 積層電子部品及びその製造方法 |
代理人 | 龍華国際特許業務法人 |