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審決分類 審判 査定不服 発明同一 取り消して特許、登録 H04N
管理番号 1382878
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-01-22 
確定日 2022-03-15 
事件の表示 特願2018−206480「動画像復号化方法、および動画像復号化装置」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 3月 7日出願公開、特開2019− 36993、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年(平成24年)5月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年5月27日 米国)を国際出願日とする出願である特願2013−517856号の一部を、平成28年5月12日に新たな特許出願とした特願2016−96568号の一部を、平成29年5月11日に新たな特許出願とした特願2017−94630号の、さらにその一部を平成30年11月1日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年11月 1日 :上申書の提出
令和 元年10月17日付け:拒絶理由通知書
(送達日:同年10月29日)
令和 2年 1月24日 :意見書提出および手続補正
同年 6月12日付け:最後の拒絶理由通知書
(送達日:同年6月16日)
同年 9月 8日 :意見書提出および手続補正
同年 9月17日付け:補正の却下の決定および拒絶査定
(送達日:同年9月23日)
令和 3年 1月22日 :審判請求書の提出

第2 令和2年9月17日付けの補正の却下の決定の適否について
審判請求人は、審判請求書において、請求の趣旨を「特願2018−206480について、令和2年9月23日になされた補正の却下の決定ならびに査定を取り消す。本願発明は特許すべきものとする、との審決を求める。」としている。
そこで、まず、令和2年9月8日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下するとしている、令和2年9月17日付け(送達日:同月23日)補正の却下の決定の適否について検討する。

1 補正の内容
(1)本件補正後の記載
本件補正により、令和2年1月24日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1、2及び【0006】の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)

ア 「 【請求項1】
動画像復号化方法において、画像は複数のブロックに分割されており、ブロック毎に、復号化対象ブロックに空間的または時間的に隣接する複数の周辺ブロックの復号に用いられた動きベクトルから、前記復号化対象ブロックの復号化に用いる複数の動きベクトルの候補を持つ候補リストを生成するステップと、
前記復号化対象ブロックの動きベクトルのための動きベクトルの候補を、前記候補リストから選択するステップと、
選択された前記動きベクトルの候補を用いて、前記復号化対象ブロックを復号化するステップとを含む、動画像復号化方法であって、
前記候補リストを生成するステップは、
前記複数の周辺ブロックの一つの第1ブロックの復号に用いるための第1の動きベクトルを選択し、第1の動きベクトルの候補として前記候補リストに加えるステップと、
前記第1ブロックとは異なる第2ブロックの復号に用いるための第2の動きベクトルを選択し、第2の動きベクトルの候補として前記候補リストに加えるステップと、前記第2の動きベクトルの候補は前記第1の動きベクトルの候補とは異なる値を有し、
前記復号化対象ブロックに空間的または時間的に隣接する前記複数の周辺ブロックにおいて、前記第1の動きベクトルの候補および前記第2の動きベクトルの候補の選ばれた回数を計測するステップと、
もし、前記第2の動きベクトルの候補の選ばれた回数が、前記第1の動きベクトルの候補の選ばれた回数より多い場合は、前記第2の動きベクトルの候補に対し、値の小さい予測動きベクトルインデックスを割り当てるステップと、を含む
動画像復号化方法。」

イ 「 【請求項2】
動画像復号化装置において、画像は複数のブロックに分割されており、ブロック毎に、復号化対象ブロックに空間的または時間的に隣接する複数の周辺ブロックの復号に用いられた動きベクトルから、前記復号化対象ブロックの復号化に用いる複数の動きベクトルの候補を持つ候補リストを生成する生成部と、
前記復号化対象ブロックの動きベクトルのための動きベクトルの候補を、前記候補リストから選択する選択部と、
選択された前記動きベクトルの候補を用いて、前記復号化対象ブロックを復号化する復号化部とを含む、動画像復号化装置であって、
前記生成部は、
前記複数の周辺ブロックの一つの第1ブロックの復号に用いるための第1の動きベクトルを選択し、第1の動きベクトルの候補として前記候補リストに加える第1追加部と、
前記第1ブロックとは異なる第2ブロックの復号に用いるための第2の動きベクトルを選択し、第2の動きベクトルの候補として前記候補リストに加える第2追加部と、前記第2の動きベクトルの候補は前記第1の動きベクトルの候補とは異なる値を有し、
前記復号化対象ブロックに空間的または時間的に隣接する前記複数の周辺ブロックにおいて、前記第1の動きベクトルの候補および前記第2の動きベクトルの候補の選ばれた回数を計測する計測部と、
もし、前記第2の動きベクトルの候補の選ばれた回数が、前記第1の動きベクトルの候補の選ばれた回数より多い場合は、前記第2の動きベクトルの候補に対し、値の小さい予測動きベクトルインデックスを割り当てる並び替え部と、を含む
動画像復号化装置。」

ウ 「 【0006】
本発明の一態様に係る動画像復号化方法において、画像は複数のブロックに分割されており、ブロック毎に、復号化対象ブロックに空間的または時間的に隣接する複数の周辺ブロックの復号に用いられた動きベクトルから、前記復号化対象ブロックの復号化に用いる複数の動きベクトルの候補を持つ候補リストを生成するステップと、前記復号化対象ブロックの動きベクトルのための動きベクトルの候補を、前記候補リストから選択するステップと、選択された前記動きベクトルの候補を用いて、前記復号化対象ブロックを復号化するステップとを含む、動画像復号化方法であって、前記候補リストを生成するステップは、前記複数の周辺ブロックの一つの第1ブロックの復号に用いるための第1の動きベクトルを選択し、第1の動きベクトルの候補として前記候補リストに加えるステップと、前記第1ブロックとは異なる第2ブロックの復号に用いるための第2の動きベクトルを選択し、第2の動きベクトルの候補として前記候補リストに加えるステップと、前記第2の動きベクトルの候補は前記第1の動きベクトルの候補とは異なる値を有し、前記復号化対象ブロックに空間的または時間的に隣接する前記複数の周辺ブロックにおいて、前記第1の動きベクトルの候補および前記第2の動きベクトルの候補の選ばれた回数を計測するステップと、もし、前記第2の動きベクトルの候補の選ばれた回数が、前記第1の動きベクトルの候補の選ばれた回数より多い場合は、前記第2の動きベクトルの候補に対し、値の小さい予測動きベクトルインデックスを割り当てるステップと、を含む。」

(2)本件補正前の記載
本件補正前の、令和2年1月24日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1、2及び【0006】の記載は次のとおりである。

ア 「 【請求項1】
動画像復号化方法において、画像は複数のブロックに分割されており、ブロック毎に、復号化対象ブロックの時間的および空間的に位置する複数の周辺ブロックの復号に用いられた動きベクトルから、前記復号化対象ブロックの復号化に用いる複数の動きベクトルの候補を持つ候補リストを生成するステップと、
前記復号化対象ブロックの動きベクトルのための動きベクトルの候補を、前記候補リストから選択するステップと、
選択された前記動きベクトルの候補を用いて、前記復号化対象ブロックを復号化するステップとを含む、動画像復号化方法であって、
前記候補リストを生成するステップは、
前記複数の周辺ブロックの一つの第1ブロックの復号に用いるための第1の動きベクトルを選択し、第1の動きベクトルの候補として前記候補リストに加えるステップと、
前記第1ブロックとは異なる第2ブロックの復号に用いるための第2の動きベクトルを選択し、第2の動きベクトルの候補として前記候補リストに加えるステップと、前記第2の動きベクトルの候補は前記第1の動きベクトルの候補とは異なる値を有し、
前記第1の動きベクトルの候補および前記第2の動きベクトルの候補の選ばれた回数を計測するステップと、
もし、前記第2の動きベクトルの候補の選ばれた回数が、前記第1の動きベクトルの候補の選ばれた回数より多い場合は、前記第2の動きベクトルの候補に対し、値の小さい予測動きベクトルインデックスを割り当てるステップと、を含む
動画像復号化方法。」

イ 「 【請求項2】
動画像復号化装置において、画像は複数のブロックに分割されており、ブロック毎に、復号化対象ブロックの時間的および空間的に位置する複数の周辺ブロックの復号に用いられた動きベクトルから、前記復号化対象ブロックの復号化に用いる複数の動きベクトルの候補を持つ候補リストを生成する生成部と、
前記復号化対象ブロックの動きベクトルのための動きベクトルの候補を、前記候補リストから選択する選択部と、
選択された前記動きベクトルの候補を用いて、前記復号化対象ブロックを復号化する復号化部とを含む、動画像復号化装置であって、
前記生成部は、
前記複数の周辺ブロックの一つの第1ブロックの復号に用いるための第1の動きベクトルを選択し、第1の動きベクトルの候補として前記候補リストに加える第1追加部と、
前記第1ブロックとは異なる第2ブロックの復号に用いるための第2の動きベクトルを選択し、第2の動きベクトルの候補として前記候補リストに加える第2追加部と、前記第2の動きベクトルの候補は前記第1の動きベクトルの候補とは異なる値を有し、
前記第1の動きベクトルの候補および前記第2の動きベクトルの候補の選ばれた回数を計測する計測部と、
もし、前記第2の動きベクトルの候補の選ばれた回数が、前記第1の動きベクトルの候補の選ばれた回数より多い場合は、前記第2の動きベクトルの候補に対し、値の小さい予測動きベクトルインデックスを割り当てる並び替え部と、を含む
動画像復号化装置。」

ウ 「 【0006】
本発明の一態様に係る動画像復号化方法において、画像は複数のブロックに分割されており、ブロック毎に、復号化対象ブロックの時間的および空間的に位置する複数の周辺ブロックの復号に用いられた動きベクトルから、前記復号化対象ブロックの復号化に用いる複数の動きベクトルの候補を持つ候補リストを生成するステップと、前記復号化対象ブロックの動きベクトルのための動きベクトルの候補を、前記候補リストから選択するステップと、選択された前記動きベクトルの候補を用いて、前記復号化対象ブロックを復号化するステップとを含む、動画像復号化方法であって、前記候補リストを生成するステップは、前記複数の周辺ブロックの一つの第1ブロックの復号に用いるための第1の動きベクトルを選択し、第1の動きベクトルの候補として前記候補リストに加えるステップと、前記第1ブロックとは異なる第2ブロックの復号に用いるための第2の動きベクトルを選択し、第2の動きベクトルの候補として前記候補リストに加えるステップと、前記第2の動きベクトルの候補は前記第1の動きベクトルの候補とは異なる値を有し、前記第1の動きベクトルの候補および前記第2の動きベクトルの候補の選ばれた回数を計測するステップと、もし、前記第2の動きベクトルの候補の選ばれた回数が、前記第1の動きベクトルの候補の選ばれた回数より多い場合は、前記第2の動きベクトルの候補に対し、値の小さい予測動きベクトルインデックスを割り当てるステップと、を含む。」

(3)補正事項
上記(1)及び(2)から、本件補正は、以下の補正事項からなるものである。(下線部は、補正箇所である。)

ア 補正事項1
候補リストの生成に用いる動きベクトルを、「復号化対象ブロックの時間的および空間的に位置する複数の周辺ブロックの復号に用いられた動きベクトル」から「復号化対象ブロックに空間的または時間的に隣接する複数の周辺ブロックの復号に用いられた動きベクトル」と補正する。
請求項2、【0006】についても同様である。

イ 補正事項2
「前記第1の動きベクトルの候補および前記第2の動きベクトルの候補の選ばれた回数を計測」し、「前記第2の動きベクトルの候補の選ばれた回数が、前記第1の動きベクトルの候補の選ばれた回数より多い場合は、前記第2の動きベクトルの候補に対し、値の小さい予測動きベクトルインデックスを割り当てる」ことに際し、「前記復号化対象ブロックに空間的または時間的に隣接する前記複数の周辺ブロックにおいて、」回数を計測することに限定するように補正する。
請求項2、【0006】についても同様である。

2 令和2年9月17日付け補正の却下の理由の概要
令和2年9月17日付け補正の却下の理由の概要は、次のとおりである。

補正後の請求項1には、「前記復号化対象ブロックに空間的または時間的に隣接する前記複数の周辺ブロックにおいて、前記第1の動きベクトルの候補および前記第2の動きベクトルの候補の選ばれた回数を計測するステップ」と記載されている。
そして、当該記載中の「前記復号化対象ブロックに空間的または時間的に隣接する前記複数の周辺ブロックにおいて」という記載は、前記第1の動きベクトルの候補および前記第2の動きベクトルの候補の選ばれた回数を計測する処理を行う範囲を表していると解される。
しかしながら、前記第1の動きベクトルの候補および前記第2の動きベクトルの候補の選ばれた回数を計測する処理を行う範囲が、「前記復号化対象ブロックに空間的または時間的に隣接する前記複数の周辺ブロック」であることは、当初明細書等には記載されていない。
請求項2、発明の詳細な説明の段落0006に対する補正についても同様である。
したがって、この補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでない。
よって、この補正は特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、同法第53条第1項の規定により却下する。

3 補正の却下の決定の適否についての検討
本件補正が特許法第17条の2第3項の要件に適合するものか否かについて、以下検討する。

(1)出願当初の明細書等の記載
本願の出願日における願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲、及び図面(以下、「出願当初の明細書等」という)には、以下の記載がある。(下線は、強調のため当審で付したものである。)

「 【0019】
ここでは、ピクチャB2の後方にある参照ピクチャであるピクチャP3内の、ブロックaと同じ位置にあるブロックb(以下、「co−locatedブロック」と呼ぶ)の符号化に用いられた動きベクトルvbが利用されている。動きベクトルvbは、ブロックbがピクチャP1を参照して符号化された際に用いられた動きベクトルである。」

「 【0022】
図3は、予測動きベクトル指定モードにおいて用いられる隣接ブロックの動きベクトルの一例を示す図である。図3において、隣接ブロックAは、符号化対象ブロックの左隣接の符号化済みブロックである。隣接ブロックBは、符号化対象ブロックの上隣接の符号化済みブロックである。隣接ブロックCは、符号化対象ブロックの右上隣接の符号化済みブロックである。隣接ブロックDは、符号化対象ブロックの左下隣接の符号化済みブロックである。」

「 【図3】



「 【0025】
このような場合では、符号化対象ブロックの予測動きベクトルとして、例えば、隣接ブロックA、B、C、Dの動きベクトル、および、co−locatedブロックを用いて求めた時間予測動きベクトルモードによる動きベクトルから生成された予測動きベクトル候補の中から、符号化対象ブロックの動きベクトルを最も効率よく符号化できる予測動きベクトルが選択される。」

「 【0099】
予測動きベクトルインデックスは、値が小さいほど短い符号が割り振られる。即ち、予測動きベクトルインデックスの値が小さい場合に予測動きベクトルインデックスに必要な情報量が少なくなる。一方、予測動きベクトルインデックスの値が大きくなると、予測動きベクトルインデックスに必要な情報量が大きくなる。従って、より精度が高い予測動きベクトルとなる可能性の高い予測動きベクトル候補に対して、値の小さい予測動きベクトルインデックスが割り当てられると、符号化効率が高くなる。
【0100】
そこで、予測動きベクトル候補算出部114は、例えば、予測動きベクトルとして選ばれた回数を予測動きベクトル候補毎に計測し、その回数が多い予測動きベクトル候補に対し、値の小さい予測動きベクトルインデックスを割り当ててもよい。具体的には、隣接ブロックにおいて選択された予測動きベクトルを特定しておき、対象ブロックの符号化の際に、特定した予測動きベクトル候補に対する予測動きベクトルインデックスの値を小さくすることが考えられる。」

「 【0218】
第1導出部412は、第1予測動きベクトル候補を導出する。具体的には、第1導出部412は、実施の形態2における第1導出部212と同様に第1予測動きベクトル候補を導出する。例えば、第1導出部412は、第1予測動きベクトル候補の数が最大数を超えないように第1予測動きベクトル候補を導出する。より具体的には、第1導出部412は、例えば、復号化対象ブロックに空間的または時間的に隣接するブロックの復号化に用いられた動きベクトルに基づいて第1予測動きベクトル候補を導出する。そして、第1導出部412は、例えば、このように導出された第1予測動きベクトル候補を予測動きベクトルインデックスに対応付けて予測動きベクトル候補リストに登録する。」

(2)本件補正の適否の判断
ア 補正事項1について
出願当初の明細書等には、【0218】によれば、復号化対象ブロックに空間的または時間的に隣接するブロックの復号化に用いられた動きベクトルに基づいて第1予測動きベクトル候補を導出し、このように導出された第1予測動きベクトル候補を予測動きベクトル候補リストに登録することが記載されている。
したがって、出願当初の明細書等には、復号化対象ブロックに空間的または時間的に隣接する複数の周辺ブロックの復号に用いられた動きベクトルを、候補リストの生成に用いることが記載されているといえるから、補正事項1についての補正は、出願当初の明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。

イ 補正事項2について
出願当初の明細書等の【0100】の第1文には、「予測動きベクトルとして選ばれた回数を予測動きベクトル候補毎に計測し、その回数が多い予測動きベクトル候補に対し、値の小さい予測動きベクトルインデックスを割り当て」ることが記載されている。
そして、【0100】の第2文には、「具体的には、」とあるように、上記第1文をより具体的に説明する記載として、「隣接ブロックにおいて選択された予測動きベクトルを特定しておき、対象ブロックの符号化の際に、特定した予測動きベクトル候補に対する予測動きベクトルインデックスの値を小さくすること」が記載されている。
ここで、上記第2文が、上記第1文をより具体的に説明したものであることからすれば、予測動きベクトルの特定は、予測動きベクトルとして選ばれた回数を計測し、その回数が多い予測動きベクトル候補に対し、値の小さい予測動きベクトルインデックスを割り当てるために行うものであるといえる。
また、上記第2文において、隣接ブロックは、対象ブロックの隣接ブロックと解するのが相当である。

以上のことから、上記第2文は、対象ブロックの隣接ブロックにおいて選択された予測動きベクトルを特定して選ばれた回数を予測動きベクトル候補毎に計測し、対象ブロックの符号化の際に、その回数が多い予測動きベクトル候補に対する予測動きベクトルインデックスの値を小さくことを意味するものであるといえる。

ここで、【0019】、【0022】、【0025】、【図3】によれば、「隣接ブロック」は、空間的に隣接するブロックを指し、「co−locatedブロック」と上記「隣接ブロック」とは異なるものを指している。
しかしながら、【0218】に記載されているように、予測動きベクトル候補リストには空間的のみならず時間的に隣接するブロックで用いられた動きベクトルも、予測動きベクトルインデックスに対応付けて登録されていることからすれば、時間的に隣接するブロックについても、適切な予測動きベクトルインデックスを割り当てて符号化効率を向上するために、空間的に隣接するブロックである「隣接ブロック」と同様に計測の対象とすることは自明である。

また、【0100】には対象ブロックの符号化時における予測動きベクトルインデックスの割当てについて記載されているが、【0218】にもあるように、復号化時にも符号化時と同様に予測動きベクトル候補に予測動きベクトルインデックスを対応付けることからすれば、復号化時にも同様に、【0100】に記載されるような処理を行うことは自明である。

以上のことから、出願当初の明細書等には、「前記第1の動きベクトルの候補および前記第2の動きベクトルの候補の選ばれた回数を計測」し、「前記第2の動きベクトルの候補の選ばれた回数が、前記第1の動きベクトルの候補の選ばれた回数より多い場合は、前記第2の動きベクトルの候補に対し、値の小さい予測動きベクトルインデックスを割り当てる」ことに際し、「前記復号化対象ブロックに空間的または時間的に隣接する前記複数の周辺ブロックにおいて、」回数を計測することが記載されているといえるから、補正事項2についての補正は、出願当初の明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。

ウ まとめ
上記ア及びイより、補正事項1及び補正事項2についての補正は、出願当初の明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第17条の2第3号の規定に違反するものであるとはいえない。

4 補正の却下の決定の適否についてのむすび
以上のとおりであるから、本件補正は特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、同法第53条第1項の規定により却下するとした、令和2年9月17日付け補正の却下の決定の判断は妥当なものではない。
よって、本件補正についてなされた、令和2年9月17日付け補正の却下の決定を取り消す。

第3 本願発明
1 本願の請求項1、2に係る発明
上記第2の「4 補正の却下の決定の適否についてのむすび」のとおり、令和2年9月17日付け補正の却下の決定は取り消されたから、本願の請求項1、2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、令和2年9月8日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される発明であり、それぞれ、上記第2の1(1)ア、イに記載したとおりのものである。

2 本件発明2の分説
本件発明2を分説すると、次のとおりである。
なお、各構成の符号A〜Dは、説明のために当審で付したものである。また、これらの符号が付されたものを、それぞれ、「構成A」〜「構成D」という。

「 【請求項2】
A 動画像復号化装置において、
B 画像は複数のブロックに分割されており、ブロック毎に、復号化対象ブロックに空間的または時間的に隣接する複数の周辺ブロックの復号に用いられた動きベクトルから、前記復号化対象ブロックの復号化に用いる複数の動きベクトルの候補を持つ候補リストを生成する生成部と、
C 前記復号化対象ブロックの動きベクトルのための動きベクトルの候補を、前記候補リストから選択する選択部と、
D 選択された前記動きベクトルの候補を用いて、前記復号化対象ブロックを復号化する復号化部とを含む、動画像復号化装置であって、
B 前記生成部は、
B1 前記複数の周辺ブロックの一つの第1ブロックの復号に用いるための第1の動きベクトルを選択し、第1の動きベクトルの候補として前記候補リストに加える第1追加部と、
B2 前記第1ブロックとは異なる第2ブロックの復号に用いるための第2の動きベクトルを選択し、第2の動きベクトルの候補として前記候補リストに加える第2追加部と、前記第2の動きベクトルの候補は前記第1の動きベクトルの候補とは異なる値を有し、
B3 前記復号化対象ブロックに空間的または時間的に隣接する前記複数の周辺ブロックにおいて、前記第1の動きベクトルの候補および前記第2の動きベクトルの候補の選ばれた回数を計測する計測部と、
B4 もし、前記第2の動きベクトルの候補の選ばれた回数が、前記第1の動きベクトルの候補の選ばれた回数より多い場合は、前記第2の動きベクトルの候補に対し、値の小さい予測動きベクトルインデックスを割り当てる並び替え部と、を含む
A 動画像復号化装置。」

第4 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1及び2に係る発明は、その出願の日前の外国語特許出願(特許法第184条の4第3項の規定により取り下げられたものとみなされたものを除く。)であって、その出願後に国際公開がされた下記の外国語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の外国語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記外国語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない(同法第184条の13参照)、というものである。

引用出願1:PCT/JP2011/073149(国際公開第2012/043882号、特表2013−543286号公報)

第5 先願及び先願発明
1 先願について
引用出願1であるPCT/JP2011/073149(以下、「先願」という。)は、本件の優先日より前の2010年10月1日を出願日とするUS12/896,800を優先権主張の基礎となる出願(以下、「先願の優先基礎出願」という。)とし、本件優先日後に国際公開第2012/043882号として国際公開がされた国際特許出願である。
先願の明細書、請求の範囲、又は図面(以下、「先願明細書等」という。)と、先願の優先基礎出願の明細書、特許請求の範囲、又は図面(以下、「先願の優先基礎出願の明細書等」という。)とを比較すると、少なくとも先願明細書等の第7頁第7〜19行、第8頁第12行〜第10頁第15行、FIG.1A及び2は、先願の優先基礎出願の明細書等の[0017]、[0021]〜[0023]、FIG.1A及び2と共通の記載がなされている。
そうすると、先願明細書等の上記範囲においては、先願の優先基礎出願の優先権主張の効果が及ぶものであり、以下、上記範囲から、先願に記載された発明を認定する。

2 先願に記載されている事項
先願明細書等には、以下の事項が記載されている。
なお、下線は強調のために当審で付したものであり、また、仮訳は、先願の公表公報である特表2013−543286号公報に基づき、当審で翻訳した仮訳である。

(1)「Referring to FIGS. 1A and 1B, a motion vector for a candidate block (shown in cross-hatch) in a current frame at T=0 points to the cross-hatched block in subsequent frame at t=1. This motion vector may be encoded with reference to a candidate set of motion vectors Va, Vx, Vy, and Vz. In this example, motion vector Va is a co-located motion vector in the preceding frame at t = -1 and points to block A in the current frame. Motion vectors Vx, Vy, and Vz are previously-encoded motion vectors in the current frame and point to blocks X, Y, and Z, respectively, in the subsequent frame at T=l. FIG. 1A also shows the blocks A', X', Y’ and Z' that the respective motion vectors would point to if used when encoding the candidate block.」(第7頁第7〜19行)
(仮訳:図1Aおよび1Bを参照すると、T=0時点の現フレーム内の候補ブロック(斜線で図示)の動きベクトルは、t=1時点の後続フレーム内の斜線で図示したブロックを指し示している。この動きベクトルは、動きベクトルVa、Vx、Vy、および、Vzからなる候補セットを参照して符号化してもよい。この例では、動きベクトルVaは、t=−1時点の先行フレームにおけるコロケート動きベクトルであり、現フレームにおけるブロックAを指し示している。動きベクトルVx、Vy、および、Vzは、現フレームにおいて、以前に符号化された動きベクトルであり、T=1時点の後続フレームにおけるブロックX、Y、Zをそれぞれ指し示している。図1Aは更に、候補ブロックの符号化時に使用した場合、それぞれの動きベクトルによって指し示されるブロックである、ブロックA’、X’、Y’、および、Z’を示している。)

(2)「Referring to FIG. 2, and continuing with the preceding example, the selected motion vector Vz will need to be encoded. One straightforward approach is for an encoder 10 to assign a value to each candidate motion vector in a table 14 of symbols, which assuming a variable-length entropy encoding method such as Huffman or arithmetic encoding, might look something like:
Motion Vector CandidateSymbol
Va0
Vx10
Vy110
Vz1110
Note that none of the symbols are a prefix of another symbol, so that the decoder 12 can correctly parse the received bitstream by, in this example, stopping at a received zero and decode the received bitstream with reference to a corresponding table 16. Moreover, the encoder and decoder will preferably collect statistics as the bitstream is encoded and decoded and rearrange the assignments of symbols to the motion vector candidates, in the respective tables 14 and 16, so that at any given time the motion vector having the highest frequency receives the shortest symbol, etc. This process is generally referred to as entropy coding, and will usually result in significant, lossless compression of the bitstream. The encoder 10 and the decoder 12 use the same methodology to construct and update the tables 14 and 16 initialized from the beginning of the bitstream, respectively, so that for every symbol, the table 16 used to encode that symbol is identical to the table used to decode the symbol.」 (第8頁第12行〜第9頁第15行)
(仮訳:図2を参照して上述の例を続けると、選択した動きベクトルVzは符号化される必要がある。直接的なアプローチは、エンコーダ10が、テーブル14における各動きベクトル候補にシンボルの値を割り当てることであり、これは、ハフマン符号化法または算術符号化法などの可変長エントロピー符号化方法を前提としたものであり、以下のようになり得る:
動きベクトル候補シンボル
Va0
Vx10
Vy110
Vz1110
なお、上記シンボルの何れも他のシンボルの前置ではなく、よってこの例では、デコーダ12は、受信ビットストリーム内の0を受信した時点で中断することで当該受信ビットストリームを正確に解析し、対応するテーブル16を参照して当該受信ビットストリームを復号することができる。更に、エンコーダおよびデコーダは、好ましくは、ビットストリームの符号化および復号化が行われている間に統計を収集して、テーブル14およびテーブル16の各々において、動きベクトル候補へのシンボルの割り当てを再編成し、例えば、常に、最も頻度の高い動きベクトルに最も短いシンボルが割り当てられるようにする。この処理法は、一般的にエントロピー符号化と称され、通常、ビットストリームの飛躍的な可逆圧縮をもたらす。エンコーダ10およびデコーダ12は同一の手法を使用して、ビットストリームの開始時点で初期化されるテーブル14およびテーブル16を、それぞれ構築およびアップデートし、これにより、全てのシンボルに関して、シンボル符号化に使用されるテーブル16とシンボル復号化に使用されるテーブルとが、同一のテーブルになる。)

(3)「Even with entropy coding, the system shown in FIG. 2 can result in significant overhead when signaling which predictor is chosen from the set of candidate motion vectors. This is particularly true if the number of predictors is large. However, the more predictors used, the more efficiency is gained when encoding the differential motion vector. In order to further reduce the overhead of signaling which predictor is chosen, additional techniques may be employed.
First, the set of candidate motion vector predictors may be trimmed to eliminate duplicate vectors. Here, two motion vectors are duplicate vectors when the two vectors have the same horizontal value, vertical value and reference index. The term duplicate vector is equivalent to duplicate motion vector, identical vector or identical motion vector. For example, in FIG. 1A, the vectors Vx, Vy are identical, hence one of the motion vectors can be trimmed, and as a result, the largest symbol 1110 in the table above can be eliminated. Second, knowing the size of the trimmed motion predictor set means that the last bit of the last symbol in the trimmed set can be omitted, e.g. in the previous example where one of Vx, Vy was trimmed, leaving 110 as the last symbol, this symbol may simply be encoded as 11 give that this bit sequence distinguishes over all the previous symbols in the table, and the decoder knows from the size of the trimmed set that there are no further symbols.」 (第9頁第16行〜第10頁第15行)
(仮訳:エントロピー符号化を行ったとしても、図2に示すシステムでは、動きベクトル候補のセットからどの予測が選択されるかを示す信号を送信する場合、深刻なオーバーヘッドが発生することがある。これは、予測の数が多い場合に特に当てはまる。一方で、より多くの予測を使用するほど、差分動きベクトルの符号化効率を高めることができる。どの予測が選択されるか示す信号を送信する場合に発生するオーバーヘッドを更に低減させるために、更なる技術を採用してもよい。
第一に、動きベクトル予測候補のセットを、重複したベクトルを削除するためにトリミングしてもよい。ここで、2つの動きベクトル間において水平方向の値と、垂直方向の値と、参照インデクスとが等しい場合、当該2つの動きベクトルは重複したベクトルである。重複したベクトルとの用語は、重複した動きベクトル、同一のベクトル、または、同一の動きベクトルと均等な意味を有する用語である。例えば、図1Aでは、ベクトルVx、Vyは同一のベクトルであるため、これら動きベクトルのうち一方にトリミングを行うことができる。この結果、テーブルにおける最大のシンボルである1110を削除することができる。第二に、トリミングが行われた予測動きベクトルセットのサイズを知ることは、当該予測動きベクトルセットのうち最後のシンボルの最後のビットを省略できることを意味する。例えば、上述の例では、Vx、Vyの一方にトリミングが行われ、その結果110が最後のシンボルとなっている。このシンボル110について、ビット配列11がテーブルに格納される他の全ての先行シンボルから区別できる場合、110を単にビット配列11として符号化してもよく、デコーダは、トリミングされたセットのサイズに基づいて、これ以上シンボルが存在しないと判断する。)

(4)「

」(FIG.1A)

(5)「

」(FIG.2)


3 先願発明
(1)上記2(1)より、T=0時点の現フレーム内の候補ブロックの動きベクトルは、動きベクトルVa、Vx、Vy、および、Vzからなる候補セットを参照して符号化してもよく、一例では、動きベクトルVaは、T=−1時点の先行フレームにおけるコロケート動きベクトルであり、動きベクトルVx、Vy、および、Vzは、現フレームにおいて、以前に符号化された動きベクトルであるといえる。
さらに、上記2(4)のFIG.1Aにおける、T=0時点の図の記載において、Vx、Vy、および、Vzは、斜線で図示される候補ブロックの左上方、左方、上方に隣接するブロックにおける動きベクトルであることが看て取れることから、動きベクトルVx、Vy、および、Vzは、現フレームにおいて、候補ブロックに対して空間的に隣接するブロックにおいて以前に符号化された動きベクトルであるといえる。

(2)上記2(2)より、エンコーダ10が、テーブル14における各動きベクトル候補にシンボルの値を割り当てること、具体的には動きベクトル候補Vaにシンボル0、動きベクトル候補Vxにシンボル10、動きベクトル候補Vyにシンボル110、動きベクトル候補Vzにシンボル1110を割り当てることがいえる。
そして、デコーダ12は、受信ビットストリーム内の0を受信した時点で中断することで当該受信ビットストリームを正確に解析し、対応するテーブル16を参照して当該受信ビットストリームを復号することができることがいえる。

(3)上記2(2)より、先願明細書等には「エンコーダ10が、テーブル14における各動きベクトル候補にシンボルの値を割り当てる」、「デコーダ12は、受信ビットストリーム内の0を受信した時点で中断することで当該受信ビットストリームを正確に解析し、対応するテーブル16を参照して当該受信ビットストリームを復号することができる。」と記載されている。
また、上記2(5)より、FIG.2においてはエンコーダ10にテーブル14が接続され、デコーダ12にテーブル16が接続されていることが看て取れることから、エンコーダ10がテーブル14をシンボル符号化に使用し、また、デコーダ12がテーブル16をシンボル復号化に使用するといえる。
したがって、上記2(2)において、「全てのシンボルに関して、シンボル符号化に使用されるテーブル16とシンボル復号化に使用されるテーブルとが、同一のテーブルになる。」と記載されているが、これは、「全てのシンボルに関して、シンボル符号化に使用されるテーブル14とシンボル復号化に使用されるテーブル16とが、同一のテーブルになる。」の誤記であると認める。
そうすると、上記2(2)より、先願明細書等には、デコーダ12はエンコーダ10と同一の手法を使用して、ビットストリームの開始時点で初期化されるテーブル16を構築およびアップデートし、これにより、全てのシンボルに関して、シンボル符号化に使用されるテーブル14とシンボル復号化に使用されるテーブル16とが、同一のテーブルになることが記載されているといえる。

(4)上記2(3)より、動きベクトル予測候補のセットを、重複したベクトルを削除するためにトリミングしてもよく、ここで、2つの動きベクトル間において水平方向の値と、垂直方向の値と、参照インデクスとが等しい場合、当該2つの動きベクトルは重複したベクトルであり、重複したベクトルとの用語は、重複した動きベクトル、同一のベクトル、または、同一の動きベクトルと均等な意味を有する用語であり、例えば、図1Aでは、ベクトルVx、Vyは同一のベクトルであるため、これら動きベクトルのうち一方にトリミングを行うことができるといえる。

(5)上記2(2)より、エンコーダおよびデコーダは、好ましくは、ビットストリームの符号化および復号化が行われている間に統計を収集して、テーブル14およびテーブル16の各々において、動きベクトル候補へのシンボルの割り当てを再編成し、例えば、常に、最も頻度の高い動きベクトルに最も短いシンボルが割り当てられるようにするといえる。

したがって、上記(1)〜(5)から、先願明細書等には次の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されていると認められる。
なお、各構成の符号a〜fは、説明のために当審で付したものである。また、これらの符号が付されたものを、それぞれ、「構成a」〜「構成f」という。

(先願発明)
「a T=0時点の現フレーム内の候補ブロックの動きベクトルは、動きベクトルVa、Vx、Vy、および、Vzからなる候補セットを参照して符号化してもよく、一例では、動きベクトルVaは、T=−1時点の先行フレームにおけるコロケート動きベクトルであり、動きベクトルVx、Vy、および、Vzは、現フレームにおいて、候補ブロックに対して空間的に隣接するブロックにおいて以前に符号化された動きベクトルであり、
b エンコーダ10が、テーブル14における各動きベクトル候補にシンボルの値を割り当て、具体的には動きベクトル候補Vaにシンボル0、動きベクトル候補Vxにシンボル10、動きベクトル候補Vyにシンボル110、動きベクトル候補Vzにシンボル1110を割り当て、デコーダ12は、受信ビットストリーム内の0を受信した時点で中断することで当該受信ビットストリームを正確に解析し、対応するテーブル16を参照して当該受信ビットストリームを復号することができ、
c デコーダ12はエンコーダ10と同一の手法を使用して、ビットストリームの開始時点で初期化されるテーブル16を構築およびアップデートし、これにより、全てのシンボルに関して、シンボル符号化に使用されるテーブル14とシンボル復号化に使用されるテーブル16とが、同一のテーブルになり、
d 動きベクトル予測候補のセットを、重複したベクトルを削除するためにトリミングしてもよく、ここで、2つの動きベクトル間において水平方向の値と、垂直方向の値と、参照インデクスとが等しい場合、当該2つの動きベクトルは重複したベクトルであり、重複したベクトルとの用語は、重複した動きベクトル、同一のベクトル、または、同一の動きベクトルと均等な意味を有する用語であり、例えば、ベクトルVx、Vyは同一のベクトルであるため、これら動きベクトルのうち一方にトリミングを行うことができ、
e エンコーダおよびデコーダは、好ましくは、ビットストリームの符号化および復号化が行われている間に統計を収集して、テーブル14およびテーブル16の各々において、動きベクトル候補へのシンボルの割り当てを再編成し、例えば、常に、最も頻度の高い動きベクトルに最も短いシンボルが割り当てられるようにする、
f デコーダ12。」

第6 対比、判断
1 本件発明2について
(1)対比
本件発明2と先願発明とを対比する。

ア 構成Aについて
構成eの「デコーダ12」は、動画像を復号化するものであることが明らかであり、この点で、本件発明2の「動画像復号化装置」に相当する。
したがって、本件発明2と先願発明は、「動画像復号化装置」の発明である点で一致する。

イ 構成B〜B4について
(ア) 構成Bについて
構成aより、候補ブロックの動きベクトルを、候補ブロックに対して空間的に隣接するブロックにおいて以前に符号化された動きベクトルを含む候補セットを参照して符号化していることからすれば、符号化の対象となるフレームは複数のブロックに分割されており、候補ブロックはそのうちの1つであるといえる。
ここで、構成aの「候補ブロック」は、符号化の対象となる点で相違するものの、本件発明2の「復号化対象ブロック」と、処理対象のブロックである点で共通する。
また、構成aより、先願発明の「動きベクトルVx、Vy、および、Vz」は、候補ブロックに対して空間的に隣接するブロックにおいて予め符号化された動きベクトルであることから、符号化されたものである点で相違するものの、本件発明2の「復号化対象ブロックに空間的に隣接する」「複数の周辺ブロックの復号に用いられた動きベクトル」と、処理対象のブロックに空間的に隣接する複数の周辺ブロックの処理に用いられた動きベクトルである点で共通する。
さらに、構成aより、先願発明の「動きベクトルVa」は、候補ブロックの存在するT=0の1つ前の時点であるT=−1時点の先行フレームにおけるコロケート動きベクトルであることから、時間的に隣接するブロックの符号化に用いられた動きベクトルであるといえる。したがって、先願発明の「動きベクトルVa」は、符号化されたものである点で相違するものの、本件発明2の「復号化対象ブロックに」「時間的に隣接する」「周辺ブロックの復号に用いられた動きベクトル」と、処理対象のブロックに時間的に隣接する周辺ブロックの処理に用いられた動きベクトルである点で共通する。
そして、構成bのテーブル14は、エンコーダ10が動きベクトル候補Vx、Vy、Vz及びVaにシンボルの値を割り当てることにより生成したものであり、エンコーダ10が符号化に用いるものである点で相違するものの、本件発明2の「前記復号化対象ブロックの復号化に用いる複数の動きベクトルの候補を持つ候補リスト」と、処理対象のブロックの処理に用いる複数の動きベクトルの候補を持つ候補リストである点で共通する。

したがって、以上のことから、先願発明においては、符号化時の処理である点で相違するものの、本件発明2と、画像は複数のブロックに分割されており、処理対象のブロックに空間的または時間的に隣接する複数の周辺ブロックの処理に用いられた動きベクトルから、前記処理対象のブロックの処理に用いる複数の動きベクトルの候補を持つ候補リストを生成する点で共通する。

一方で、構成cより、デコーダ12はエンコーダ10と同一の手法を使用して、ビットストリームの開始時点で初期化されるテーブル16を構築およびアップデートし、これにより、全てのシンボルに関して、シンボル符号化に使用されるテーブル14とシンボル復号化に使用されるテーブル16とが、同一のテーブルになる。すなわち、先願発明においては、符号化時と同様にして、復号化時に用いるテーブル16を生成しているといえる。

よって、先願発明においては、本件発明2と同様に、「画像は複数のブロックに分割されており」、「復号化対象ブロックに空間的または時間的に隣接する複数の周辺ブロックの復号に用いられた動きベクトルから、前記復号化対象ブロックの復号化に用いる複数の動きベクトルの候補を持つ候補リストを生成する」しているということができる。

また、構成dより、先願発明においては、動きベクトル予測候補のセットにおいて、例えば、ベクトルVx、Vyが同一のベクトルの場合に、重複したベクトルとして削除してもよい。
ここで、動きベクトル予測候補のセット中の各ベクトルは、復号化の対象となるブロック毎に異なり得ることから、削除の対象となる同一のベクトルの有無や、動きベクトル予測候補のセット中のどの2つのベクトルが同一であるかについても、ブロック毎に異なり得るものであるといえる。
そして、構成dの「動きベクトル予測候補」と構成bの「動きベクトル候補」は、いずれもVxやVyを含むものであり、同一のものを指すことが明らかであるところ、重複した動きベクトル候補を削除することにより得られたテーブル16は、ブロック毎に異なり得るものである。すなわち、ブロック毎にテーブル16が生成されるものであるといえる。

以上のことから、先願発明においては、本件発明2と同様に、「画像は複数のブロックに分割されており、ブロック毎に、復号化対象ブロックに空間的または時間的に隣接する複数の周辺ブロックの復号に用いられた動きベクトルから、前記復号化対象ブロックの復号化に用いる複数の動きベクトルの候補を持つ候補リストを生成する」しており、当該動作を実現する生成部をデコーダ12が含むものであるといえる。

(イ) 構成B1、B2について
構成dより、動きベクトル予測候補のセットについて、2つの動きベクトル間において水平方向の値と、垂直方向の値と、参照インデクスとが等しい場合、重複したベクトルとして削除する場合、重複したベクトルを削除することにより得られたテーブル16に含まれる動きベクトル候補のそれぞれは、水平方向の値と、垂直方向の値と、参照インデクスについて、それぞれ異なる値を有するといえる。
また、動きベクトル予測候補のセット中の全ての動きベクトル予測候補が同一でない場合も、当然想定されることから、重複したベクトルを削除する場合においても、テーブル16に含まれる動きベクトルは2つ以上存在し得るものであるといえる。
したがって、先願発明においては、本件発明2と同様に、前記生成部が、「前記複数の周辺ブロックの一つの第1ブロックの復号に用いるための第1の動きベクトルを選択し、第1の動きベクトルの候補として前記候補リストに加え」、「前記第1ブロックとは異なる第2ブロックの復号に用いるための第2の動きベクトルを選択し、第2の動きベクトルの候補として前記候補リストに加え」るものであって、「前記第2の動きベクトルの候補は前記第1の動きベクトルの候補とは異なる値を有」しており、当該動作を実現する第1追加部と、第2追加部を生成部が含むものであるといえる。

(ウ) 構成B3、B4について
構成eより、デコーダは、ビットストリーム復号化が行われている間に統計を収集して、テーブル16の動きベクトル候補へのシンボルの割り当てを再編成し、例えば、常に、最も頻度の高い動きベクトルに最も短いシンボルが割り当てられるようにしており、ここで、「頻度」とは、所定の期間あるいは範囲における回数を示すものであることが技術常識であることを鑑みれば、統計の収集に際し、頻度を評価するために所定の期間あるいは範囲における回数を計測しているといえる。
ここで、デコーダ12は、構成eより、ビットストリームの復号化が行われている間に統計を収集して、テーブル16の動きベクトル候補へのシンボルの割り当てを再編成し、常に、最も頻度の高い動きベクトルに最も短いシンボルが割り当てられるようにし、また、構成cより、ビットストリームの開始時点で初期化されるテーブル16を構築およびアップデートするものといえる。

また、構成eにおいて、先願発明の「頻度の高いベクトル」が、本件発明2の構成B4の「もし、前記第2の動きベクトルの候補の選ばれた回数が、前記第1の動きベクトルの候補の選ばれた回数より多い場合」における「第2の動きベクトル」に相当し、また、先願発明の「頻度の高いベクトル」以外のベクトルが、本件発明2の「第1の動きベクトル」に相当する。
そして、構成eにおいて、「頻度の高い動きベクトルに最も短いシンボルが割り当てられるように」することは、本件発明2の「前記第2の動きベクトルの候補に対し、値の小さい予測動きベクトルインデックスを割り当てる」ことに相当する。
したがって、先願発明においては、本件発明2と同様に、「前記第1の動きベクトルの候補および前記第2の動きベクトルの候補の選ばれた回数を計測」し、「もし、前記第2の動きベクトルの候補の選ばれた回数が、前記第1の動きベクトルの候補の選ばれた回数より多い場合は、前記第2の動きベクトルの候補に対し、値の小さい予測動きベクトルインデックスを割り当て」ており、当該動作を実現する計測部と並び替え部をデコーダ12が含むものであるといえる。

(エ) 小括
上記(ア)〜(ウ)から、本件発明2と先願発明は、動画像復号化装置が、「画像は複数のブロックに分割されており、ブロック毎に、復号化対象ブロックに空間的または時間的に隣接する複数の周辺ブロックの復号に用いられた動きベクトルから、前記復号化対象ブロックの復号化に用いる複数の動きベクトルの候補を持つ候補リストを生成する生成部」を含み、「前記生成部は、前記複数の周辺ブロックの一つの第1ブロックの復号に用いるための第1の動きベクトルを選択し、第1の動きベクトルの候補として前記候補リストに加える第1追加部と、前記第1ブロックとは異なる第2ブロックの復号に用いるための第2の動きベクトルを選択し、第2の動きベクトルの候補として前記候補リストに加える第2追加部と、前記第2の動きベクトルの候補は前記第1の動きベクトルの候補とは異なる値を有し、」「前記第1の動きベクトルの候補および前記第2の動きベクトルの候補の選ばれた回数を計測する計測部と、もし、前記第2の動きベクトルの候補の選ばれた回数が、前記第1の動きベクトルの候補の選ばれた回数より多い場合は、前記第2の動きベクトルの候補に対し、値の小さい予測動きベクトルインデックスを割り当てる並び替え部と、を含む」点で一致する。
一方で、本件発明2においては、第1の動きベクトルの候補および第2の動きベクトルの候補の選ばれた回数を計測し、前記第2の動きベクトルの候補の選ばれた回数が、前記第1の動きベクトルの候補の選ばれた回数より多い場合は、前記第2の動きベクトルの候補に対し、値の小さい予測動きベクトルインデックスを割り当てるのに際し、復号化対象ブロックに空間的または時間的に隣接する複数の周辺ブロックにおいて、前記第1の動きベクトルの候補および前記第2の動きベクトルの候補の選ばれた回数を計測するのに対し、先願発明においては、ビットストリームの復号化が行われている間に統計を収集して、テーブル16の動きベクトル候補へのシンボルの割り当てを再編成し、常に、最も頻度の高い動きベクトルに最も短いシンボルが割り当てられるようにし、また、ビットストリームの開始時点で初期化されるテーブル16を構築およびアップデートするものの、動きベクトル候補の選ばれた回数の計測を行う範囲を復号化対象ブロックに空間的または時間的に隣接する複数の周辺ブロックとすることが特定されていない点で相違する。

ウ 構成C、Dについて
構成bより、デコーダ12は、受信ビットストリーム内の0を受信した時点で中断することで当該受信ビットストリームを正確に解析し、対応するテーブル16を参照して当該受信ビットストリームを復号しているが、このとき、デコーダ12はテーブル16を参照して、その中の動きベクトル候補を選択し、これに基づいてビットストリームを復号化しているといえる。
また、上記イ(ア)で検討したとおり、先願発明において対象となる画像は複数のブロックに分割されていることから、ビットストリームの復号化においても、ブロックを復号化しているものであるといえる。
したがって、先願発明においては、本件発明2と同様に、「前記復号化対象ブロックの動きベクトルのための動きベクトルの候補を、前記候補リストから選択」し、「選択された前記動きベクトルの候補を用いて、前記復号化対象ブロックを復号化」しており、当該動作を実現する選択部と、復号化部を先願発明のデコーダ12が含むものであるといえる。
以上のことから、本件発明2と先願発明は、動画像復号化装置が、「前記復号化対象ブロックの動きベクトルのための動きベクトルの候補を、前記候補リストから選択する選択部と、選択された前記動きベクトルの候補を用いて、前記復号化対象ブロックを復号化する復号化部とを含む」点で一致する。

エ 一致点及び相違点
上記ア〜ウより、本件発明2と先願発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

【一致点】
「 動画像復号化装置において、画像は複数のブロックに分割されており、ブロック毎に、復号化対象ブロックに空間的または時間的に隣接する複数の周辺ブロックの復号に用いられた動きベクトルから、前記復号化対象ブロックの復号化に用いる複数の動きベクトルの候補を持つ候補リストを生成する生成部と、
前記復号化対象ブロックの動きベクトルのための動きベクトルの候補を、前記候補リストから選択する選択部と、
選択された前記動きベクトルの候補を用いて、前記復号化対象ブロックを復号化する復号化部とを含む、動画像復号化装置であって、
前記生成部は、
前記複数の周辺ブロックの一つの第1ブロックの復号に用いるための第1の動きベクトルを選択し、第1の動きベクトルの候補として前記候補リストに加える第1追加部と、
前記第1ブロックとは異なる第2ブロックの復号に用いるための第2の動きベクトルを選択し、第2の動きベクトルの候補として前記候補リストに加える第2追加部と、前記第2の動きベクトルの候補は前記第1の動きベクトルの候補とは異なる値を有し、
前記第1の動きベクトルの候補および前記第2の動きベクトルの候補の選ばれた回数を計測する計測部と、
もし、前記第2の動きベクトルの候補の選ばれた回数が、前記第1の動きベクトルの候補の選ばれた回数より多い場合は、前記第2の動きベクトルの候補に対し、値の小さい予測動きベクトルインデックスを割り当てる並び替え部と、を含む
動画像復号化装置。」

【相違点】
本件発明2においては、第1の動きベクトルの候補および第2の動きベクトルの候補の選ばれた回数を計測し、前記第2の動きベクトルの候補の選ばれた回数が、前記第1の動きベクトルの候補の選ばれた回数より多い場合は、前記第2の動きベクトルの候補に対し、値の小さい予測動きベクトルインデックスを割り当てるのに際し、復号化対象ブロックに空間的または時間的に隣接する複数の周辺ブロックにおいて、前記第1の動きベクトルの候補および前記第2の動きベクトルの候補の選ばれた回数を計測するのに対し、先願発明においては、ビットストリームの復号化が行われている間に統計を収集して、テーブル16の動きベクトル候補へのシンボルの割り当てを再編成し、常に、最も頻度の高い動きベクトルに最も短いシンボルが割り当てられるようにし、また、ビットストリームの開始時点で初期化されるテーブル16を構築およびアップデートするものの、動きベクトル候補の選ばれた回数の計測を行う範囲を復号化対象ブロックに空間的または時間的に隣接する複数の周辺ブロックとすることが特定されていない点。

(2)相違点についての判断
本件発明2においては、現在復号化しようとしている復号化対象ブロックに空間的または時間的に隣接する複数の周辺ブロックのそれぞれにおける、動きベクトルの候補として、第1の動きベクトルの候補および第2の動きベクトルの候補が選ばれた回数を計測し、当該回数に基づいて予測ベクトルインデックスを割り当てるものと認められる。
しかしながら、先願発明においては、ビットストリームの復号化が行われている間に統計を収集して、テーブル16の動きベクトル候補へのシンボルの割り当てを再編成し、常に、最も頻度の高い動きベクトルに最も短いシンボルが割り当てられるようにし、また、ビットストリームの開始時点で初期化されるテーブル16を構築およびアップデートするものの、統計を収集する範囲を、現在復号化しようとしている復号化対象ブロックに空間的または時間的に隣接する複数の周辺ブロックとすることについては特定されていない。
そして、動きベクトルの候補が選ばれた回数等の統計を収集して予測動きベクトルインデックスを割り当てるのに際し、動きベクトルの候補の選ばれた回数等の統計を計測する範囲を、現在復号化しようとしている復号化対象ブロックに空間的または時間的に隣接する複数の周辺ブロックとすることは、周知技術ないし慣用技術であるとはいえないから、上記相違点が、課題解決のための具体化手段における微差であるとはいえない。
したがって、本件発明2は先願発明と同一でないから、本件発明2は、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないとはいえない。

2 本件発明1について
本件発明1は、本件発明2の「動画像復号化装置」に対応する「動画像復号化方法」の発明であり、本件発明2と同様の理由により先願発明と同一でないから、本件発明1は、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないとはいえない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2022-02-22 
出願番号 P2018-206480
審決分類 P 1 8・ 161- WY (H04N)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 川崎 優
新井 寛
発明の名称 動画像復号化方法、および動画像復号化装置  
代理人 新居 広守  

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