• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H03H
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H03H
管理番号 1382962
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-03-11 
確定日 2022-04-05 
事件の表示 特願2017−157234「マルチプレクサ」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 3月 7日出願公開、特開2019− 36856、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成29年8月16日を出願日とする出願であって、その手続の経緯の概要は、以下のとおりである。

令和 2年 3月12日付け 拒絶理由通知
令和 2年 7月16日 意見書、手続補正書の提出
令和 2年 8月27日付け 拒絶理由通知
令和 2年10月30日 意見書の提出
令和 2年12月 9日付け 拒絶査定
令和 3年 3月11日 審判請求書、手続補正書の提出
令和 3年11月 5日付け 拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)通知
令和 3年12月28日 意見書、手続補正書の提出


第2 原査定の概要

原査定(令和2年12月9日付け拒絶査定)の概要は、次のとおりである。

1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項:1−7
・引用文献等:1

<引用文献等一覧>
1.特開2013−118611号公報


第3 当審拒絶理由の概要

当審拒絶理由(令和3年11月5日付け拒絶理由)の概要は、次のとおりである。

1.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

●理由1(サポート要件)について

請求項1−7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。


第4 本願発明

本願請求項1−7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」−「本願発明7」という。)は、令和3年12月28日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1−7に記載された事項により特定される、以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
高周波信号が入出力される共通接続端子、第1端子および第2端子と、
第1周波数帯域を通過帯域とし、前記共通接続端子と前記第1端子との間に接続された第1フィルタ回路と、
前記第1周波数帯域と異なる第2周波数帯域を通過帯域とし、前記共通接続端子と前記第2端子との間に接続された第2フィルタ回路と、
前記共通接続端子と前記第1端子とを結ぶ第1経路上にある第1ノードまたは前記第1端子と、前記共通接続端子と前記第2端子とを結ぶ第2経路上にある第2ノードまたは前記第2端子との間に接続され、前記第1経路および前記第2経路上を流れる所定の周波数帯域の成分を相殺するためのキャンセル回路と、を備え、
前記キャンセル回路は、少なくとも1つの縦結合型共振器を有し、当該縦結合型共振器におけるIDT電極の平均電極指ピッチは、前記第1フィルタ回路の通過帯域を構成する各共振子におけるIDT電極の平均電極指ピッチ、および、前記第2フィルタ回路の通過帯域を構成する各共振子におけるIDT電極の平均電極指ピッチのうちで最も小さく、かつ、当該縦結合型共振器の振幅特性のピークの周波数は、前記第1周波数帯域および前記第2周波数帯域より高く、当該縦結合型共振器の減衰帯域に前記第1周波数帯域および前記第2周波数帯域の全てが存在する、
マルチプレクサ。
【請求項2】
前記キャンセル回路は、前記縦結合型共振器と直列に接続された容量素子を有する、
請求項1に記載のマルチプレクサ。
【請求項3】
前記第1フィルタ回路は、ラダー型フィルタで構成され、
前記第2周波数帯域は、前記第1周波数帯域より高周波数側にあり、
前記容量素子は、前記第1フィルタ回路および前記第2フィルタ回路に含まれない直列腕共振器で構成され、
前記直列腕共振器の共振周波数は、前記第2周波数帯域内の周波数である、
請求項2に記載のマルチプレクサ。
【請求項4】
前記容量素子は、前記キャンセル回路の片側にのみ配置されている、
請求項2または3に記載のマルチプレクサ。
【請求項5】
前記容量素子は、前記第1ノードまたは前記第1端子と接続されている、
請求項2〜4のいずれか1項に記載のマルチプレクサ。
【請求項6】
前記キャンセル回路は、縦結合型共振器のみで構成されている、
請求項1に記載のマルチプレクサ。
【請求項7】
高周波信号が入出力される共通接続端子、第1端子および第2端子と、
第1周波数帯域を通過帯域とし、前記共通接続端子と前記第1端子との間に接続された第1フィルタ回路と、
前記第1周波数帯域と異なる第2周波数帯域を通過帯域とし、前記共通接続端子と前記第2端子との間に接続された第2フィルタ回路と、
前記共通接続端子と前記第1端子とを結ぶ第1経路上にある第1ノードまたは前記第1端子と、前記共通接続端子と前記第2端子とを結ぶ第2経路上にある第2ノードまたは前記第2端子との間に接続され、前記第1経路および前記第2経路上を流れる所定の周波数帯域の成分を相殺するためのキャンセル回路と、を備え、
前記キャンセル回路は、少なくとも1つの、縦結合型共振器または弾性波遅延線を有し、
前記縦結合型共振器または前記弾性波遅延線の共振周波数は、前記第1フィルタ回路の通過帯域および前記第2フィルタ回路の通過帯域より高い周波数であり、前記縦結合型共振器または前記弾性波遅延線の減衰帯域に前記第1周波数帯域および前記第2周波数帯域の全てが存在する、
マルチプレクサ。」


第5 原査定についての判断

1.引用発明

(1)引用文献1について

原査定の拒絶の理由に引用された特開2013−118611号公報(以下、「引用文献1」という。下線は、当審において付与した。)には、次の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
本発明は、分波器、フィルタ及び通信モジュールに関する。」

(イ)「【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、挿入損失を増大させることなく、分波器のアイソレーション特性又はフィルタの減衰特性を向上させることを目的とする。」

(ウ)「【0034】
ここで、アイソレーションについて図を用いて説明する。図3は、分波器のブロック図の例である。図3を参照して、分波器は、送信フィルタ136、受信フィルタ138及び整合回路140を備えている。送信フィルタ136は、アンテナ端子Antと送信端子Txの間に接続されている。受信フィルタ138は、アンテナ端子Antと受信端子Rxの間に接続されている。送信フィルタ136と受信フィルタ138の少なくとも一方とアンテナ端子Antの間に整合回路140が接続されている。
【0035】
送信フィルタ136は、送信端子Txから入力された信号のうち送信帯域の信号を送信信号としてアンテナ端子Antに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。受信フィルタ138は、アンテナ端子Antから入力された信号のうち受信帯域の信号を受信信号として受信端子Rxに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。整合回路140は、送信フィルタ136を通過した送信信号が、受信フィルタ138側に漏れずアンテナ端子Antから出力するようにインピーダンスを整合させる回路である。
【0036】
このように、理想的には、送信端子Txから入力された送信信号は、送信フィルタ136及び整合回路140を介してアンテナ端子Antから全て出力され、受信端子Rxには出力されないことが望ましい。しかしながら、現実には、送信信号の全てがアンテナ端子Antから出力されるわけではなく、一部は整合回路140及び受信フィルタ138を通過して受信端子Rxに出力されてしまう。送信端子Txに入力される送信信号の電力は、アンテナ端子Antに入力される受信信号の電力に対して非常に大きいため、受信端子Rxに出力される送信信号の割合を非常に小さくすることが求められる。送信端子Txに入力された送信信号のうち受信端子Rxに漏れる電力の割合を送信端子と受信端子間のアイソレーションといい、漏れた信号のことをアイソレーション信号という。そこで、以下にアイソレーション特性を向上させることが可能な実施例を示す。」

(エ)「【0048】
次に、比較例1に係る分波器について説明する。比較例1に係る分波器は、送信帯域が1850MHz〜1910MHz、受信帯域が1930MHz〜1990MHzの北米PCS(Personal Communications Service)に用いる分波器である。図11(a)は、比較例1に係る分波器の回路図の例であり、図11(b)及び図11(c)は、アイソレーション特性を示す図の例である。図11(a)を参照して、比較例1に係る分波器では、送信フィルタ142及び受信フィルタ144にラダー型弾性波フィルタが用いられている。送信フィルタ142は、直列共振器S11〜S14と並列共振器P11〜P13を備えている。受信フィルタ144は、直列共振器S21〜S24と並列共振器P21〜P23を備えている。整合回路146は、アンテナ端子Antとグランドの間に接続されたインダクタL1を備えている。送信端子Txに入力された送信信号は、送信フィルタ142を通過して、大部分がアンテナ端子Antから出力するが、一部はアイソレーション信号として受信端子Rxに出力する。アンテナ端子Antに入力された受信信号は、受信フィルタ144を通過して、受信端子Rxに出力する。
【0049】
図11(b)は、アイソレーション信号の振幅特性のシミュレーション結果であり、図11(c)は、アイソレーション信号の位相特性のシミュレーション結果である。図11(b)及び図11(c)を参照して、送信帯域及び受信帯域において、アイソレーション信号の抑圧度は小さく、位相は大きく変動していることが分かる。
【0050】
ここで、送信帯域及び受信帯域において、図11(b)の振幅と同程度の大きさの振幅を持ち、図11(c)の位相と逆位相となるような信号パスを作り出すことができれば、アイソレーション信号を相殺させて、アイソレーション信号の振幅を低減できると考えられる。送信帯域及び受信帯域において、アイソレーション信号と同程度の大きさの振幅で、逆位相となる信号を意図的に作り出す信号パスをキャンセルパスと呼び、キャンセルパスを構成する回路をキャンセル回路と呼ぶこととする。
【0051】
発明者が鋭意検討した結果、縦結合型弾性波共振器を用いることで、キャンセルパスを作り出せることを見出した。図12(a)は、キャンセル回路の回路図の例であり、図12(b)及び図12(c)は、キャンセル回路を通過する信号の特性を示す図の例である。図12(a)を参照して、キャンセル回路40は、入力端子Tinと出力端子Toutの間に直列に接続された静電容量42、44と縦結合型弾性波共振器46を備えている。静電容量42は縦結合型弾性波共振器46の入力側に接続され、静電容量44は出力側に接続されている。
【0052】
縦結合型弾性波共振器46は、3つの弾性波共振器R1〜R3を備えていて、例えば弾性表面波、ラブ波及び弾性境界波を用いた縦結合型弾性波共振器であり、図10(a)と同様な構成をしている。つまり、縦結合型弾性波共振器46は、反射器の間に3つのIDTが弾性波の伝搬方向に配列されている。弾性波共振器R1〜R3の互いの間隔(つまり、入力IDTと出力IDTの間隔)並びにR1〜R3それぞれの電極指間ピッチ及び開口長の少なくとも1つを調整することで、キャンセル回路40を通過する信号の振幅及び位相を調整することができる。電極指間ピッチは、1つのIDTの中で複数の電極指間ピッチが存在するように調整をしてもよい。なお、縦結合型弾性波共振器46に、図10(b)のようなバルク波を用いた縦結合型弾性波共振器を用いてもよい。この場合、誘電体膜38の厚さを調整することで、キャンセル回路40を通過する信号の振幅及び位相を調整することができる。
【0053】
図12(b)は、キャンセル回路を通過する信号の振幅特性のシミュレーション結果であり、図12(c)は、位相特性のシミュレーション結果である。図12(b)及び図12(c)では、キャンセル回路を通過する信号を太線で示し、比較例1に係る分波器のアイソレーション信号を細線で示している。図12(b)及び図12(c)を参照して、縦結合型弾性波共振器46の入力IDTと出力IDTの間隔、電極指間ピッチ及び開口長を適切に調整することで、送信帯域及び受信帯域において、キャンセル回路40を通過する信号を、アイソレーション信号と同程度の振幅でほぼ逆位相とすることができる。縦結合型弾性波共振器は、入出力IDTと出力IDTの間隔などの調整により位相を調整することが容易である点を利用している。そこで、このようなキャンセル回路を用い、アイソレーション特性を向上させることが可能な実施例1に係る分波器を以下に説明する。
【0054】
図13は、実施例1に係る分波器の回路図の例である。実施例1に係る分波器も北米PCSに用いる分波器である。図13を参照して、実施例1に係る分波器では、送信フィルタ48及び受信フィルタ50にラダー型弾性波フィルタが用いられている。送信フィルタ48、受信フィルタ50及び整合回路52の構成は、比較例1と同じであるため、ここでは説明を省略する。送信フィルタ48の共振器のうち最も送信端子Tx側に位置する直列共振器S11と送信端子Txとの間のノードと、受信フィルタ50の共振器のうち最も受信端子Rx側に位置する直列共振器S24と受信端子Rxとの間のノードと、の間にキャンセル回路40が接続されている。つまり、キャンセル回路40は、送信端子Txと受信端子Rxとの間に、送信フィルタ48の直列共振器S11〜S14及び受信フィルタ50の直列共振器S21〜S24に対して並列に接続されている。キャンセル回路40は、図12(a)で説明した構成と同じであるため、ここでは説明を省略する。
【0055】
図14(a)は、実施例1に係る分波器のアイソレーション信号の振幅特性のシミュレーション結果であり、図14(b)は、挿入損失のシミュレーション結果である。なお、図14(a)及び図14(b)では、比較のために、比較例1に係る分波器のシミュレーション結果も示しており、実施例1のシミュレーション結果を太線で、比較例1のシミュレーション結果を細線で示している。図12(b)及び図12(c)で説明したように、キャンセル回路40の縦結合型弾性波共振器46のパラメータを適切に設定することで、キャンセル回路40を通過する信号を、アイソレーション信号と同程度の振幅でほぼ逆位相とすることができる。このため、キャンセル回路40を通過する信号によってアイソレーション信号を相殺することができ、図14(a)のように、実施例1では、比較例1に比べて、送信帯域及び受信帯域において、アイソレーションを10dB程度向上させることができる。
【0056】
また、図14(b)のように、送信フィルタ48及び受信フィルタ50の挿入損失は、実施例1と比較例1とでほとんど差のない結果である。つまり、キャンセル回路40を接続しても、挿入損失はほとんど増加しない。これは、縦結合型弾性波共振器46に静電容量42、44が直列に接続されていることで、キャンセル回路40の入出力インピーダンスを高くすることができ、キャンセル回路40に流れ込む信号量を抑制することができる為である。したがって、静電容量42、44は、キャンセル回路40に流れ込む信号量やキャンセルパスを通過する信号の振幅を考慮して、容量の大きさを決めることが望まれる。
【0057】
以上説明してきたように、実施例1によれば、送信端子Txと受信端子Rxとの間に、送信フィルタ48及び受信フィルタ50に対して並列に縦結合型弾性波共振器46を含むキャンセル回路40が接続されている。このように、送信フィルタ48及び受信フィルタ50の弾性波共振器の少なくとも一部に対して並列にキャンセル回路40を接続させることで、挿入損失を増大させることなく、分波器のアイソレーション特性を向上させることができる。
【0058】
キャンセル回路40は、図12(a)で説明した構成に限られる訳ではない。図15(a)から図15(e)に示す、キャンセル回路の変形例の場合でもよい。図15(a)を参照して、出力側の静電容量44が接続されていない場合でもよい。図15(b)を参照して、入力側と出力側の両方の静電容量42、44が接続されていない場合でもよい。なお、図15(b)の場合では、静電容量42、44が接続されていないため、縦結合型弾性波共振器46の設計でキャンセル回路40の入出力インピーダンスを高くすることが求められる。図15(c)を参照して、縦結合型弾性波共振器46は、2つの弾性波共振器R1、R2を備えている場合でもよい。つまり、縦結合型弾性波共振器46は、反射器の間に少なくとも2つのIDTが弾性波の伝搬方向に配列されている場合であればよい。
【0059】
図15(d)を参照して、静電容量42、44に代えて、弾性波共振器54、56が接続されている場合でもよい。弾性波共振器54、56の共振周波数を調整することで、キャンセル回路に流れ込む信号量を抑制できる。図15(e)を参照して、弾性波共振器54と縦結合型弾性波共振器46との間のノードと、グランドとの間に弾性波共振器58が接続されている場合でもよい。これにより、縦結合型弾性波共振器46にかかる電力を抑えられ、耐電力を向上させることができる。
【0060】
また、キャンセル回路40において、縦結合型弾性波共振器46の代わりに弾性波遅延線を用いてもよい。図16は、弾性波遅延線を示す平面図の例である。図16を参照して、弾性波遅延線60は、少なくとも2つのIDT(IDT1、IDT2)を備える。IDT1の一方の櫛型電極が入力端子Tinに接続され、他方の櫛型電極がグランドに接続されている。IDT2の一方の櫛型電極が出力端子Toutに接続され、他方の櫛型電極がグランドに接続されている。IDT1とIDT2とは弾性波の伝搬方向で配列されていて、IDT1及びIDT2の外側に反射器は配置されていない。つまり、弾性波遅延線60は、共振状態にない。このような弾性波遅延線60を用いた場合でも、入力IDTと出力IDTの間隔、電極指間ピッチ及び開口長を適切に設定することで、キャンセル回路40を通過する信号を、アイソレーション信号と同程度の振幅でほぼ逆位相とすることができる。また、アポタイズの構造を適切に変化させて振幅及び位相の調整を行ってもよい。
【0061】
したがって、図12(a)及び図15(a)から図16で説明したことをまとめると、キャンセル回路40は、少なくとも2つのIDTを含む弾性波遅延線又は縦結合型弾性波共振器を有する場合であればよい。また、弾性波遅延線又は縦結合型弾性波共振器の入力側及び出力側の少なくとも一方に、弾性波遅延線又は縦結合型弾性波共振器に対して弾性波共振器又は静電容量が直列に接続されている場合が好ましく、両方に直列に接続されている場合がより好ましい。入力側及び出力側の少なくとも一方に弾性波共振器又は静電容量を直列に接続することで、挿入損失の増大を容易に抑えることができ、両方に直列に接続することで、挿入損失の増大をより容易に抑えることができる。さらに、弾性波遅延線又は縦結合型弾性波共振器と直列に接続された弾性波共振器又は静電容量との間のノードと、グランドとの間に、弾性波遅延線又は縦結合型共振器に対して弾性波共振器又は静電容量が並列に接続されている場合が好ましい。これにより、弾性波遅延線又は縦結合型弾性波共振器にかかる電力を抑えられ、耐電力を向上させることができる。
【0062】
キャンセル回路40は、図13で説明した構成で接続されている場合に限られる訳ではない。図17(a)から図17(d)に示す、キャンセル回路40の接続例の場合でもよい。図17(a)を参照して、キャンセル回路40は、送信フィルタ48内の任意のノードと受信フィルタ50内の任意のノードとの間に接続されている場合でもよい。図17(b)を参照して、キャンセル回路40は、送信端子Txとアンテナ端子Antの間に、送信フィルタ48に対して並列に接続されている場合でもよい。この場合、送信フィルタ48の減衰特性を向上させることができるため、受信帯域での抑圧度を上げることで、受信帯域のアイソレーション特性を向上させることが可能となる。図17(c)を参照して、キャンセル回路40は、受信端子Rxとアンテナ端子Antの間に、受信フィルタ50に対して並列に接続されている場合でもよい。この場合、受信フィルタ50の減衰特性を向上させることができるため、送信帯域での抑圧度を上げることで、送信帯域のアイソレーション特性を向上させることが可能となる。図17(d)を参照して、送信端子Txとアンテナ端子Antの間に、送信フィルタ48に並列にキャンセル回路40が1つ接続され、受信端子Rxとアンテナ端子Antの間に、受信フィルタ50に並列にキャンセル回路40が1つ接続されている場合でもよい。つまり、複数のキャンセル回路40を備える場合でもよい。このように、キャンセル回路40は、分波器の様々なノード間に接続されることができ、送信フィルタ48及び受信フィルタ50の弾性波共振器の少なくとも一部に対して並列に接続される構成とすることができる。」

(オ)「
【図3】


【図13】


【図14】


【図17】



図13の記載によれば、アンテナ端子Antを備え、アンテナ端子Antで、送信フィルタ48と受信フィルタ50とが、共通に接続されている。
また、送信フィルタ48が、アンテナ端子Antと送信端子Txとの間に接続され、受信フィルタ50が、アンテナ端子Antと受信端子Rxとの間に接続されている。

上記(ア)〜(オ)の記載によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

<引用発明>
「北米PCS(Personal Communications Service)に用いる分波器であって(【0054】)、
アンテナ端子Antを備え、アンテナ端子Antで、送信フィルタ48と受信フィルタ50とが、共通に接続されており、また、送信フィルタ48が、アンテナ端子Antと送信端子Txとの間に接続され、受信フィルタ50が、アンテナ端子Antと受信端子Rxとの間に接続され(【図13】)、
送信フィルタ48の共振器のうち最も送信端子Tx側に位置する直列共振器S11と送信端子Txとの間のノードと、受信フィルタ50の共振器のうち最も受信端子Rx側に位置する直列共振器S24と受信端子Rxとの間のノードと、の間にキャンセル回路40が接続されており(【0054】)、
送信フィルタ48、受信フィルタ50及び整合回路52の構成は、比較例1と同じであり(【0054】)、
ここで、比較例1に係る分波器は、送信帯域が1850MHz〜1910MHz、受信帯域が1930MHz〜1990MHzの北米PCSに用いる分波器であり、送信フィルタ142及び受信フィルタ144にラダー型弾性波フィルタが用いられており(【0048】)、
キャンセル回路40の縦結合型弾性波共振器46のパラメータを適切に設定することで、キャンセル回路40を通過する信号を、アイソレーション信号と同程度の振幅でほぼ逆位相とすることができ、このため、キャンセル回路40を通過する信号によってアイソレーション信号を相殺することができ(【0055】)、
ここで、送信端子Txに入力された送信信号のうち受信端子Rxに漏れる電力の割合を送信端子と受信端子間のアイソレーションといい、漏れた信号のことをアイソレーション信号といい(【0036】)、
キャンセル回路40において、縦結合型弾性波共振器46の代わりに弾性波遅延線を用いてもよく、弾性波遅延線60を用いた場合でも、入力IDTと出力IDTの間隔、電極指間ピッチ及び開口長を適切に設定することで、キャンセル回路40を通過する信号を、アイソレーション信号と同程度の振幅でほぼ逆位相とすることができ(【0060】)、
キャンセル回路40は、少なくとも2つのIDTを含む弾性波遅延線又は縦結合型弾性波共振器を有する場合であればよい(【0061】)、
分波器。」


2.本願発明7について

(1)本願発明7と引用発明との対比

事案に鑑み、まず本願発明7と引用発明とを対比する。

(1−1)本願発明7の『高周波信号が入出力される共通接続端子、第1端子および第2端子と、』について

(1−1−1)引用発明の「分波器」は、「アンテナ端子Ant」、「送信端子Tx」及び「受信端子Rx」を備えている。

(1−1−2)引用発明の「アンテナ端子Ant」は、送信フィルタ48と受信フィルタ50とが、共通に接続されているから、『共通接続端子』であるといえる。
また、一般的に、アンテナ端子には、送信信号や受信信号といった高周波信号が入出力される。
よって、引用発明の「アンテナ端子Ant」は、『高周波信号が入出力される共通接続端子』であるといえる。

(1−1−3)引用発明の「送信端子Tx」は、第1端子と称することは任意であるから、『第1端子』であるといえる。

(1−1−4)引用発明の「受信端子Rx」は、第2端子と称することは任意であるから、『第2端子』であるといえる。

(1−1−5)上記(1−1−1)〜(1−1−4)で言及した事項を踏まえると、引用発明の「分波器」は、『高周波信号が入出力される共通接続端子、第1端子および第2端子』を備えているといえる。


(1−2)本願発明7の『第1周波数帯域を通過帯域とし、前記共通接続端子と前記第1端子との間に接続された第1フィルタ回路と、前記第1周波数帯域と異なる第2周波数帯域を通過帯域とし、前記共通接続端子と前記第2端子との間に接続された第2フィルタ回路と、』について

(1−2−1)引用発明の「分波器」は、送信帯域が1850MHz〜1910MHz、受信帯域が1930MHz〜1990MHzの北米PCS(Personal Communications Service)に用いるものである。
また、北米PCSの送信帯域と受信帯域とは異なる周波数帯域であり、第1周波数帯域、第2周波数帯域と称することは任意であるから、送信帯域の1850MHz〜1910MHzは『第1周波数帯域』であり、受信帯域の1930MHz〜1990MHzは『第2周波数帯域』であるといえる。

(1−2−2)一般的に、送信フィルタは送信帯域を通過帯域とし、受信フィルタは受信帯域を通過帯域とするものであるから、引用発明の「送信フィルタ48」は、送信帯域を『通過帯域』とし、「受信フィルタ50」は、受信帯域を『通過帯域』としていると解される。

(1−2−3)引用発明の「送信フィルタ48」は、アンテナ端子Antと送信端子Txとの間に接続されている。

(1−2−4)引用発明の「受信フィルタ50」は、アンテナ端子Antと受信端子Rxとの間に接続されている。

(1−2−5)引用発明の「分波器」は、北米PCSに用いるものであり、上記(1−1)、(1−2−1)〜(1−2−4)で言及した事項を踏まえると、引用発明の「送信フィルタ48」は、『第1周波数帯域を通過帯域とし、前記共通接続端子と前記第1端子との間に接続された第1フィルタ回路』であり、「受信フィルタ50」は、『前記第1周波数帯域と異なる第2周波数帯域を通過帯域とし、前記共通接続端子と前記第2端子との間に接続された第2フィルタ回路』であるといえる。

(1−2−6)上記(1−2−5)で言及した事項を踏まえると、引用発明の「分波器」は、『第1周波数帯域を通過帯域とし、前記共通接続端子と前記第1端子との間に接続された第1フィルタ回路と、前記第1周波数帯域と異なる第2周波数帯域を通過帯域とし、前記共通接続端子と前記第2端子との間に接続された第2フィルタ回路と』を備えているといえる。


(1−3)本願発明7の『前記共通接続端子と前記第1端子とを結ぶ第1経路上にある第1ノードまたは前記第1端子と、前記共通接続端子と前記第2端子とを結ぶ第2経路上にある第2ノードまたは前記第2端子との間に接続され、前記第1経路および前記第2経路上を流れる所定の周波数帯域の成分を相殺するためのキャンセル回路と、を備え、』について

(1−3−1)引用発明の「キャンセル回路40」は、送信フィルタ48の共振器のうち最も送信端子Tx側に位置する直列共振器S11と送信端子Txとの間のノードと、受信フィルタ50の共振器のうち最も受信端子Rx側に位置する直列共振器S24と受信端子Rxとの間のノードと、の間に接続されている。

(1−3−2)引用発明の「送信フィルタ48の共振器のうち最も送信端子Tx側に位置する直列共振器S11と送信端子Txとの間のノード」は、アンテナ端子Antと送信端子Txとを結ぶ経路上にあるノードであって、第1ノードと称することは任意であり、また、アンテナ端子Antと送信端子Txとを結ぶ経路を第1経路と称することも任意であるから、アンテナ端子Antと送信端子Txとを結ぶ『第1経路』上にある『第1ノード』であるといえる。

(1−3−3)引用発明の「受信フィルタ50の共振器のうち最も受信端子Rx側に位置する直列共振器S24と受信端子Rxとの間のノード」は、アンテナ端子Antと受信端子Rxとを結ぶ経路上にあるノードであって、第2ノードと称することは任意であり、また、アンテナ端子Antと受信端子Rxとを結ぶ経路を第2経路と称することも任意であるから、アンテナ端子Antと受信端子Rxとを結ぶ『第2経路』上にある『第2ノード』であるといえる。

(1−3−4)上記(1−1)、(1−3−1)〜(1−3−3)で言及した事項を踏まえると、引用発明の「キャンセル回路40」は、『前記共通接続端子と前記第1端子とを結ぶ第1経路上にある第1ノードまたは前記第1端子と、前記共通接続端子と前記第2端子とを結ぶ第2経路上にある第2ノードまたは前記第2端子との間に接続され』ているといえる。

(1−3−5)引用発明の「キャンセル回路40」は、送信端子Txに入力された送信信号のうち受信端子Rxに漏れた信号である「アイソレーション信号」を相殺するためのものである。

(1−3−6)引用発明の「アイソレーション信号」は、送信端子Txに入力された送信信号のうち受信端子Rxに漏れた信号であるであるから、アンテナ端子Antと受信端子Rxとを結ぶ経路上を流れているといえる。
また、「アイソレーション信号」は、何らかの周波数帯域の『成分』であり、当該周波数帯域を『所定の周波数帯域』と称することは任意である。

(1−3−7)上記(1−3−3)、(1−3−5)〜(1−3−6)で言及した事項を踏まえると、引用発明の「キャンセル回路40」は、『前記第2経路上を流れる所定の周波数帯域の成分を相殺するための』ものであるといえる。

(1−3−8)上記(1−3−4)、(1−3−7)で言及した事項を踏まえると、引用発明の「分波器」は、本願発明7でいう『前記共通接続端子と前記第1端子とを結ぶ第1経路上にある第1ノードまたは前記第1端子と、前記共通接続端子と前記第2端子とを結ぶ第2経路上にある第2ノードまたは前記第2端子との間に接続され、前記第2経路上を流れる所定の周波数帯域の成分を相殺するためのキャンセル回路』を備えている点で共通する。

(1−3−9)なお、引用発明の「キャンセル回路40」が、本願発明7でいう『前記第1経路および前記第2経路上を流れる所定の周波数帯域の成分を相殺するための』ものである旨は、引用文献1には開示されていない。


(1−4)本願発明7の『前記キャンセル回路は、少なくとも1つの、縦結合型共振器または弾性波遅延線を有し、』について

(1−4−1)引用発明の「キャンセル回路40」は、少なくとも2つのIDTを含む弾性波遅延線又は縦結合型弾性波共振器を有する場合であればよく、「縦結合型弾性波共振器」が『縦結合型共振器』であるといえるから、『少なくとも1つの、縦結合型共振器または弾性波遅延線を有し』ているといえる。


(1−5)本願発明7の『前記縦結合型共振器または前記弾性波遅延線の共振周波数は、前記第1フィルタ回路の通過帯域および前記第2フィルタ回路の通過帯域より高い周波数であり、前記縦結合型共振器または前記弾性波遅延線の減衰帯域に前記第1周波数帯域および前記第2周波数帯域の全てが存在する、』について

(1−5−1)引用発明の「キャンセル回路40」において、本願発明7でいう『前記縦結合型共振器または前記弾性波遅延線の共振周波数は、前記第1フィルタ回路の通過帯域および前記第2フィルタ回路の通過帯域より高い周波数であり、前記縦結合型共振器または前記弾性波遅延線の減衰帯域に前記第1周波数帯域および前記第2周波数帯域の全てが存在する』旨は、引用文献1には開示されていない。


(1−6)本願発明7の『マルチプレクサ。』について

(1−6−1)本願発明7の「マルチプレクサ」とは、本願明細書の【0025】によれば「送信側フィルタ10と、受信側フィルタ20と、キャンセル回路30と、共通接続端子5と、送信側端子6と、受信側端子7とを備えている」ものである。
一方、引用発明の「分波器」は、「アンテナ端子Antを備え、アンテナ端子Antで、送信フィルタ48と受信フィルタ50とが、共通に接続されており、また、送信フィルタ48が、アンテナ端子Antと送信端子Txとの間に接続され、受信フィルタ50が、アンテナ端子Antと受信端子Rxとの間に接続され、送信フィルタ48の共振器のうち最も送信端子Tx側に位置する直列共振器S11と送信端子Txとの間のノードと、受信フィルタ50の共振器のうち最も受信端子Rx側に位置する直列共振器S24と受信端子Rxとの間のノードと、の間にキャンセル回路40が接続されて」いるものである。
そうすると、本願発明7の「マルチプレクサ」と引用発明の「分波器」は、いずれも「送信側フィルタ」と、「受信側フィルタ」と、「キャンセル回路」と、「共通接続端子」と、「送信側端子」と、「受信側端子」とを備えているから、引用発明の「分波器」は、本願発明7でいうところの『マルチプレクサ』であるといえる。


上記(1−1)〜(1−6)で言及した事項を踏まえると、本願発明7と引用発明とは、次の点で一致する。

<一致点>
「高周波信号が入出力される共通接続端子、第1端子および第2端子と、
第1周波数帯域を通過帯域とし、前記共通接続端子と前記第1端子との間に接続された第1フィルタ回路と、
前記第1周波数帯域と異なる第2周波数帯域を通過帯域とし、前記共通接続端子と前記第2端子との間に接続された第2フィルタ回路と、
前記共通接続端子と前記第1端子とを結ぶ第1経路上にある第1ノードまたは前記第1端子と、前記共通接続端子と前記第2端子とを結ぶ第2経路上にある第2ノードまたは前記第2端子との間に接続され、前記第2経路上を流れる所定の周波数帯域の成分を相殺するためのキャンセル回路と、を備え、
前記キャンセル回路は、少なくとも1つの、縦結合型共振器または弾性波遅延線を有する、
マルチプレクサ。」

そして、本願発明7と引用発明とは、次の点で相違する。

<相違点1>
本願発明7では、『前記第1経路および前記第2経路上を流れる所定の周波数帯域の成分を相殺するためのキャンセル回路』であるのに対し、引用発明では、キャンセル回路40が、アンテナ端子Antと受信端子Rxとを結ぶ経路上を流れる所定の周波数帯の成分を相殺するためのものであるものの、アンテナ端子Antと送信端子Txとを結ぶ経路上を流れる所定の周波数帯の成分を相殺するためのものなのか否かが不明な点。

<相違点2>
本願発明7では、『前記縦結合型共振器または前記弾性波遅延線の共振周波数は、前記第1フィルタ回路の通過帯域および前記第2フィルタ回路の通過帯域より高い周波数であり、前記縦結合型共振器または前記弾性波遅延線の減衰帯域に前記第1周波数帯域および前記第2周波数帯域の全てが存在する』のに対し、引用発明では、キャンセル回路40の縦結合型弾性波共振器または弾性波遅延線の共振周波数が、送信フィルタ48の通過帯域および受信フィルタ50の通過帯域より高い周波数であり、縦結合型弾性波共振器または弾性波遅延線の減衰帯域に送信帯域および受信帯域の全てが存在するのか否かが不明な点。


(2)相違点1〜2についての判断

事案に鑑み、まず相違点2について検討する。

引用文献1には、キャンセル回路40の縦結合型弾性波共振器または弾性波遅延線については、「キャンセル回路40を通過する信号を、アイソレーション信号と同程度の振幅でほぼ逆位相とする」ものであることが記載されているだけであって、キャンセル回路の共振周波数や減衰帯域については記載されていないから、当然、『前記第1フィルタ回路の通過帯域』や『前記第2フィルタ回路の通過帯域』との関係や、減衰帯域と『前記第1周波数帯域および前記第2周波数帯域』の関係についても、記載されていない。
また、「キャンセル回路40を通過する信号を、アイソレーション信号と同程度の振幅でほぼ逆位相とする」ためには、共振周波数を『前記第1フィルタ回路の通過帯域および前記第2フィルタ回路の通過帯域より高い周波数』とし、減衰帯域を『前記第1周波数帯域および前記第2周波数帯域の全てが存在する』ように構成する必要がある、ことは周知技術ではない。
よって、引用発明において、キャンセル回路40の縦結合型弾性波共振器または弾性波遅延線の共振周波数が、送信フィルタ48の通過帯域および受信フィルタ50の通過帯域より高い周波数であり、縦結合型弾性波共振器または弾性波遅延線の減衰帯域に送信帯域および受信帯域の全てが存在する構成にすることは、当業者が容易に想到しえたものであるとはいえない。

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明7は、当業者であっても、引用発明に基いて容易に発明できたものとはいえない。


3.本願発明1について

(1)本願発明1と引用発明との対比

本願発明1と引用発明とを対比する。

(1−1)本願発明1の『高周波信号が入出力される共通接続端子、第1端子および第2端子と、
第1周波数帯域を通過帯域とし、前記共通接続端子と前記第1端子との間に接続された第1フィルタ回路と、
前記第1周波数帯域と異なる第2周波数帯域を通過帯域とし、前記共通接続端子と前記第2端子との間に接続された第2フィルタ回路と、
前記共通接続端子と前記第1端子とを結ぶ第1経路上にある第1ノードまたは前記第1端子と、前記共通接続端子と前記第2端子とを結ぶ第2経路上にある第2ノードまたは前記第2端子との間に接続され、前記第1経路および前記第2経路上を流れる所定の周波数帯域の成分を相殺するためのキャンセル回路と、を備え、』について

(1−1−1)上記「“2.本願発明7について”の(1−1)〜(1−3)」で言及した事項を踏まえると、引用発明の「分波器」は、本願発明1でいう『高周波信号が入出力される共通接続端子、第1端子および第2端子と、第1周波数帯域を通過帯域とし、前記共通接続端子と前記第1端子との間に接続された第1フィルタ回路と、前記第1周波数帯域と異なる第2周波数帯域を通過帯域とし、前記共通接続端子と前記第2端子との間に接続された第2フィルタ回路と、前記共通接続端子と前記第1端子とを結ぶ第1経路上にある第1ノードまたは前記第1端子と、前記共通接続端子と前記第2端子とを結ぶ第2経路上にある第2ノードまたは前記第2端子との間に接続され、前記第2経路上を流れる所定の周波数帯域の成分を相殺するためのキャンセル回路』を備えている点で共通する。

(1−1−2)なお、引用発明の「キャンセル回路40」が、本願発明1でいう『前記第1経路および前記第2経路上を流れる所定の周波数帯域の成分を相殺するための』ものである旨は、引用文献1には開示されていない。


(1−2)本願発明1の『前記キャンセル回路は、少なくとも1つの縦結合型共振器を有し、』について

(1−2−1)引用発明の「キャンセル回路40」は、少なくとも2つのIDTを含む弾性波遅延線又は縦結合型弾性波共振器を有する場合であればよく、「縦結合型弾性波共振器」が『縦結合型共振器』であるといえるから、『少なくとも1つの縦結合型共振器を有し』ているといえる。


(1−3)本願発明1の『当該縦結合型共振器におけるIDT電極の平均電極指ピッチは、前記第1フィルタ回路の通過帯域を構成する各共振子におけるIDT電極の平均電極指ピッチ、および、前記第2フィルタ回路の通過帯域を構成する各共振子におけるIDT電極の平均電極指ピッチのうちで最も小さく、』について

(1−3−1)引用発明の「キャンセル回路40」において、本願発明1でいう『当該縦結合型共振器におけるIDT電極の平均電極指ピッチは、前記第1フィルタ回路の通過帯域を構成する各共振子におけるIDT電極の平均電極指ピッチ、および、前記第2フィルタ回路の通過帯域を構成する各共振子におけるIDT電極の平均電極指ピッチのうちで最も小さ』い旨は、引用文献1には開示されていない。


(1−4)本願発明1の『かつ、当該縦結合型共振器の振幅特性のピークの周波数は、前記第1周波数帯域および前記第2周波数帯域より高く、当該縦結合型共振器の減衰帯域に前記第1周波数帯域および前記第2周波数帯域の全てが存在する、』について

(1−4−1)引用発明の「キャンセル回路40」において、本願発明1でいう『かつ、当該縦結合型共振器の振幅特性のピークの周波数は、前記第1周波数帯域および前記第2周波数帯域より高く、当該縦結合型共振器の減衰帯域に前記第1周波数帯域および前記第2周波数帯域の全てが存在する』旨は、引用文献1には開示されていない。


(1−5)本願発明1の『マルチプレクサ。』について

(1−5−1)上記「“2.本願発明7について”の(1−6)」で言及した事項を踏まえると、引用発明の「分波器」は、本願発明1でいうところの『マルチプレクサ』であるといえる。


上記(1−1)〜(1−5)で言及した事項を踏まえると、本願発明1と引用発明とは、次の点で一致する。

<一致点>
「高周波信号が入出力される共通接続端子、第1端子および第2端子と、
第1周波数帯域を通過帯域とし、前記共通接続端子と前記第1端子との間に接続された第1フィルタ回路と、
前記第1周波数帯域と異なる第2周波数帯域を通過帯域とし、前記共通接続端子と前記第2端子との間に接続された第2フィルタ回路と、
前記共通接続端子と前記第1端子とを結ぶ第1経路上にある第1ノードまたは前記第1端子と、前記共通接続端子と前記第2端子とを結ぶ第2経路上にある第2ノードまたは前記第2端子との間に接続され、前記第2経路上を流れる所定の周波数帯域の成分を相殺するためのキャンセル回路と、を備え、
前記キャンセル回路は、少なくとも1つの縦結合型共振器を有する、
マルチプレクサ。」

そして、本願発明1と引用発明とは、次の点で相違する。

<相違点3>
本願発明1では、『前記第1経路および前記第2経路上を流れる所定の周波数帯域の成分を相殺するためのキャンセル回路』であるのに対し、引用発明では、キャンセル回路40が、アンテナ端子Antと受信端子Rxとを結ぶ経路上を流れる所定の周波数帯の成分を相殺するためのものであるものの、アンテナ端子Antと送信端子Txとを結ぶ経路上を流れる所定の周波数帯の成分を相殺するためのものなのか否かが不明な点。

<相違点4>
本願発明1では、『当該縦結合型共振器におけるIDT電極の平均電極指ピッチは、前記第1フィルタ回路の通過帯域を構成する各共振子におけるIDT電極の平均電極指ピッチ、および、前記第2フィルタ回路の通過帯域を構成する各共振子におけるIDT電極の平均電極指ピッチのうちで最も小さく』であるのに対し、引用発明では、「縦結合型弾性波共振器」におけるIDT電極の平均電極指ピッチが、「送信フィルタ48」の通過帯域を構成する各共振子におけるIDT電極の平均電極指ピッチ、及び、「受信フィルタ50」の通過帯域を構成する各共振子におけるIDT電極の平均電極指ピッチのうちで最も小さいか否かが不明な点。

<相違点5>
本願発明1では、『当該縦結合型共振器の振幅特性のピークの周波数は、前記第1周波数帯域および前記第2周波数帯域より高く、当該縦結合型共振器の減衰帯域に前記第1周波数帯域および前記第2周波数帯域の全てが存在する』のに対し、引用発明では、キャンセル回路40の縦結合型弾性波共振器の振幅特性のピーク周波数が、送信帯域および受信帯域より高く、縦結合型弾性波共振器の減衰帯域に送信帯域および受信帯域の全てが存在するのか否かが不明な点。


(2)相違点3〜5についての判断

事案に鑑み、まず相違点5について検討する。

引用文献1には、キャンセル回路40の縦結合型弾性波共振器については、「キャンセル回路40を通過する信号を、アイソレーション信号と同程度の振幅でほぼ逆位相とする」ものであることが記載されているだけであって、キャンセル回路の共振周波数や減衰帯域については記載されていないから、当然、『前記第1フィルタ回路の通過帯域』や『前記第2フィルタ回路の通過帯域』との関係や、減衰帯域と『前記第1周波数帯域および前記第2周波数帯域』の関係についても、記載されていない。
また、「キャンセル回路40を通過する信号を、アイソレーション信号と同程度の振幅でほぼ逆位相とする」ためには、共振周波数を『前記第1フィルタ回路の通過帯域および前記第2フィルタ回路の通過帯域より高い周波数』とし、減衰帯域を『前記第1周波数帯域および前記第2周波数帯域の全てが存在する』ように構成する必要がある、ことは周知技術ではない。
よって、引用発明において、キャンセル回路40の縦結合型弾性波共振器の共振周波数が、送信フィルタ48の通過帯域および受信フィルタ50の通過帯域より高い周波数であり、縦結合型弾性波共振器の減衰帯域に送信帯域および受信帯域の全てが存在する構成にすることは、当業者が容易に想到しえたものであるとはいえない。

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明に基いて容易に発明できたものとはいえない。


4.本願発明2−6について

本願発明2−6は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明に基いて容易に発明できたものとはいえない。


第6 当審拒絶理由についての判断

令和3年12月28日付けの補正により、本願発明1−7は、縦結合型共振器または弾性波遅延線の減衰帯域に第1周波数帯域および第2周波数帯域の全てが存在する旨が特定され、発明の詳細な説明に記載したものとなった。


第7 結び

以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2022-03-08 
出願番号 P2017-157234
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H03H)
P 1 8・ 121- WY (H03H)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 伊藤 隆夫
特許庁審判官 吉田 隆之
福田 正悟
発明の名称 マルチプレクサ  
代理人 傍島 正朗  
代理人 吉川 修一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ