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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02M
管理番号 1383066
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-05-17 
確定日 2022-03-24 
事件の表示 特願2017− 77249「複合蓄電システム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年11月15日出願公開、特開2018−182856〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成29年4月10日の出願であって,令和2年8月19日付けで拒絶の理由が通知され,これに対して同年10月26日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが,令和3年2月4日付けで拒絶査定がなされた。これに対して,令和3年5月17日に審判請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。

第2 令和3年5月17日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年5月17日にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおり補正された。(下線部は,補正箇所である。)

「パワー型電池と容量型電池とを有し,
前記パワー型電池と前記容量型電池とが互いに直に並列接続され,
前記パワー型電池と前記容量型電池とが電力変換器を介してモータに接続され,
前記パワー型電池から前記電力変換器までの配線の抵抗値は,前記容量型電池から前記電力変換器までの配線の抵抗値よりも小さく,
前記パワー型電池から前記電力変換器までの配線の断面積は,前記容量型電池から前記電力変換器までの配線の断面積よりも大きく,
前記パワー型電池の容量は,前記容量型電池の容量よりも小さく,前記パワー型電池の出力密度は,前記容量型電池の出力密度よりも優れ,且つ前記パワー型電池は,電動車両の加速や減速における電流変化を供給,吸収できるものである複合蓄電システム。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,令和2年10月26日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「パワー型電池と容量型電池とを有し,
前記パワー型電池と前記容量型電池とが互いに直に並列接続され,
前記パワー型電池と前記容量型電池とが電力変換器を介してモータに接続され,
前記パワー型電池から前記電力変換器までの配線の抵抗値は,前記容量型電池から前記電力変換器までの配線の抵抗値よりも小さく,
前記パワー型電池から前記電力変換器までの配線の断面積は,前記容量型電池から前記電力変換器までの配線の断面積よりも大きく,
前記パワー型電池の容量は,前記容量型電池の容量よりも小さく,前記パワー型電池の出力密度は,前記容量型電池の出力密度よりも優れる複合蓄電システム。」

2 補正の適否
(1)補正事項
本件補正は,請求項1について,補正前の「パワー型電池」を「前記パワー型電池は,電動車両の加速や減速における電流変化を供給,吸収できるものである」との限定を加えたものである。また,本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。したがって,請求項1についての本件補正は特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か(特許出願の際独立して特許を受けることができるものか否か)を検討する。

(2)本件補正発明
本件補正発明は,上記1(1)に記載した次のとおりのものである。

「パワー型電池と容量型電池とを有し,
前記パワー型電池と前記容量型電池とが互いに直に並列接続され,
前記パワー型電池と前記容量型電池とが電力変換器を介してモータに接続され,
前記パワー型電池から前記電力変換器までの配線の抵抗値は,前記容量型電池から前記電力変換器までの配線の抵抗値よりも小さく,
前記パワー型電池から前記電力変換器までの配線の断面積は,前記容量型電池から前記電力変換器までの配線の断面積よりも大きく,
前記パワー型電池の容量は,前記容量型電池の容量よりも小さく,前記パワー型電池の出力密度は,前記容量型電池の出力密度よりも優れ,且つ前記パワー型電池は,電動車両の加速や減速における電流変化を供給,吸収できるものである複合蓄電システム。」

(3)引用文献の記載事項
原審における令和2年8月19日付けの拒絶理由(以下,「原審拒絶理由」という。)に引用された,本願の出願前に公知である,特表2007−506395号公報(以下,「引用文献1」という。)には,関連する図面とともに,次の事項が記載されている。(下線は,当審において付与した。以下同様。)

A「【0005】
電気車両にあっては,高比エネルギを持たせて最小重量を車両と共に移送できるようにするだけでなく,高エネルギ密度を持たせて最小容積をエネルギ貯蔵装置により占めるようにすることもまた望ましい。しかしながら,大バースト電力を供給することのできるエネルギ貯蔵装置を有することもまた望ましい。特に,バースト電力は通常,加速だけでなく静止的に電気駆動される車両の静止摩擦や慣性を克服するのにも必要とされる。再充電可能リチウム電池がより大電流を供給できるよう再設計する試みがなされてきたが,このことがこの種の電池装置のより低い比エネルギとより低いエネルギ密度に通ずることに留意されたい。」

B「【0020】
本発明のさらなる利点は,鉛蓄電池を使用するが故に,既存のエネルギ回収技術を用いることができる点にある。特に,車両を停止させたときに,制動期間中に生成されたエネルギを利用して鉛蓄電池のエネルギレベルを補充することができる。この手順は,しばしば回生制動と呼ばれる。
【0021】
幾つかの負荷が時折或いは周期的なエネルギのバーストを必要とする矢先に,一部の充電源はエネルギバーストを時々利用することができる。車両の回生制動は,この種「バースト型」の充電源の一例である。エネルギ貯蔵装置が大定格でもって電荷を受容可能である場合,これらのバーストエネルギは効率的に受け入れることができる。本発明の利点は,時折或いは定期的なバースト電力を用いてエネルギ電池によっては効率的に受容できないか或いはエネルギ電池を損傷し得る定格でもってパワー電池を急速に再充電できる点にある。後続の重負荷は,パワー電池から直接にこの「バースト型」充電源からのエネルギを使用し得る。さもなくば,パワー電池はより長期の時間期間に亙りより低い定格でもってエネルギ電池を再充電するのに用い得る。いずれかの特定用途にてエネルギのどの振り分けが最も効果的であるかは,無論,電気的負荷の時間依存エネルギ要求とエネルギ貯蔵装置の特定用途とともに変化する。」

C「【0034】
電気的負荷がモータ100である実施形態では,モータ100は例えば75〜500アンペアで動作する96ボルトモータとすることができる。この場合,パワー電池30が少なくとも5キロワット時以上の容量を有することが好都合であり好ましい。短い大電流パルスの大バースト電力をモータ100へ供給できるよう,鉛蓄電池30が好ましい。しかしながら,ニッケル金属やニッケル合金混成担持電池やニッカド電池等の他の高出力電池を鉛蓄電池に代えて使用することもできる。
・・・(略)・・・
【0037】
好適な実施形態では,エネルギ電池20はリチウム電池であるが,この機能が可能な他の任意の電池を用いることができる。さらに好ましくは,非水性再充電可能リチウムイオン電池をエネルギ電池20として用いる。」

D「【0051】
エネルギ電池20は再充電により多くの時間を必要とするようであるが,それはより大きなエネルギ貯蔵及び動作容量を有し,コントローラ60が概ね先ずパワー電池30の再充電を停止する結果をもたらすからである。少なくともパワー電池30がエネルギ電池20により再充電できるが故に,再充電器50がパワー電池30を再充電しなければならない必要のないこともまた理解されたい。換言すれば,一実施形態ではエネルギ電池20だけが再充電器50を介して外部電源8により再充電され,続いてエネルギ電池20がパワー電池30を再充電する。本実施形態では,第4の結線24の電圧V−4と電流I−4に関する関連制御回路網だけでなくコネクタ18と第4の結線24もまた不要であり,それによってコスト全体が低減される。しかしながら,コネクタ18と第4の結線24を再充電器50からパワー電池30へ直結させることは概ね好ましく,何故ならそのことで両電池20,30を同時に再充電させ,かくして装置15の全体的な充電時間を減らすからである。」

E「【0052】
図2Aは,パワー電池30の時間に対する放電をプロットしたグラフを示す。図2に示す如く,本実施形態では好ましくは鉛蓄電池30であるパワー電池30の容量は,モータ100が必要とする急激な電力バースト210に対応する刻みでもって減少する。急激な電力バースト210は,例えば慣性を克服して車両が静止状態から動いてまた加速するときの静止摩擦を克服するのに必要とされよう。しかしながら,これらの初期バースト210が一旦発生すると,たとえパワー電池30がモータ100へ電力を供給していようとも容量は増大し始め,何故ならリチウム電池20が鉛蓄電池30を連続的に再充電するからである。換言すれば,初期バースト210が発生した後にモータ100が定常状態で動作して車両をほぼ一定の速度で動かすと,非水性リチウム電池20はパワー電池30がモータ100へエネルギを供給するのを上回るレベルでパワー電池30を再充電しなければならない。こうして,パワー電池30の容量はそれが安定状態のモータ100へエネルギを供給する際でさえ増加することがある。」

F「【図2A】



G「【図2B】



H「
【0064】
エネルギ電池20の重量は103kgあり,一方でパワー電池は105kgあり,全体で約210kgであった。エネルギ電池が占める体積は50リットルであり,パワー電池は60リットルであり,全体では110リットルであった。これらの重量と体積はここでも,改善されたシステムにあってはより軽量かつ小型の電池システムが故にそれ自体を軽量かつ小型にし得る装着・収容・冷却系を含んでいない。
【0065】
かくして,本発明の複合或いは混成電池貯蔵装置15はそれが置換した従来の単一バンク電池よりもずっと軽量でかつずっと小型でずっと効果的であった。本例のエネルギ電池20は48アンペア(それぞれ4アンペアで1グループ12個の並列セル)の定格電流を有し,パワー電池30が給送しモータ100が要求する385アンペア加速パルスを恐らくは給送し得ない。しかしながら,従来の単一バンク電池により図示したパワー電池30はずっと重量がありより大きいものであった。かくして,本発明の貯蔵装置15は従来の単一バンク電池を上回る幾つかの便宜をもたらした。
【0066】
さらなる実施形態では,コントローラ60は「固有制御」を用い,電池20.30とモータ100等の負荷との間で電気エネルギの流れを制御する。本実施形態では,コントローラ60は先ずパワー電池をエネルギ電池と並列に配置するよう動作することができる。さらにまた,本実施形態では,コントローラ60は両電池20,30をモータ100に並列に配置することができる。これは,例えば図3と,図4の電気系統線図に示してある。」

I「【図3】



J「【図4】



K「【0073】
パワー電池30がより低いエネルギ密度を有するであろうが故に,それはまた概ねより低い総括インピーダンスを有し,かくしてパワー電池30は通常特にモータ100により電池20,30に対し大きな要求が課せられたときにより大きな電流I−2を供給することになる。さらにまた,大きな要求が発生すると,エネルギ電池20からの追加の電力ならびに電流I−2がモータ100の要件を満たす方向へ行く。セルの固有の概括インピーダンスと電池20,30の電圧及び電流供給能力の関数でもある電池20,30の総括インピーダンスと同様,それらが電力を供給することのできる電流及び電圧等の電池20,30の固有特性が故に,これは固有に生起する。」

L「【0078】
図4は,固有制御を用いるさらなる好適な実施形態になる図3に示した電気システムの電気系統の接続線図を示す。図4に示す如く,鉛パワー電池30は負荷100に対しリチウムイオンエネルギ電池20と並列に接続してある。図4はまた,スイッチS1,S2を介してエネルギ電池20とエネルギ電池30に接続した外部電力結線8を示している。スイッチS1,S2は,再充電器50を装置15へ接続するよう図3に示した結線16,24に対応する。加えて,再充電器回路600も配設できるが,それは明瞭さに配慮し図4には図示していない。」

M「【0080】
エネルギ電池20とパワー電池30は共に,それらの電圧を等しく保つたべく謹んで電流I1,I2を供給する。さらにまた,エネルギ電池30がより低い総括インピーダンスを有するが故に,それが鉛蓄電池である一実施形態の如きエネルギ電池30はより大きな電流I2を供給し,この電流I2は負荷100の異なる電流要件に応えるべくもっと変動することがある。しかしながら,負荷100の電力要件は負荷100が大電力要件にて動作しているときのエネルギ電池20とパワー電池30の両方により供給できることは理解されたい。換言すれば,本実施形態では電流I1,I2とかくして電力をエネルギ電池20とパワー電池30から受給するが,異なる比率でもってである。さらにまた,エネルギ電池30からの電流I2,かくして電力はより変動し,それによって負荷100に対する異なる電流及び電力要件に応えることを理解されたい。」

N「【0081】
エネルギは,少なくとも上記した理由から,エネルギ電池20からよりもパワー電池30からの方がより速く受給できることは,理解されたい。従って,パワー電池30が蓄えるエネルギが低下し,パワー電池30の電圧V2の対応低下を招くことがある。これが発生すると,エネルギ電池20からの電流I1はエネルギ電池30に受給され,パワー電池30の充電を支援する。このことは,例えば負荷100が動作していないときでさえ起き得る。」

O「【0086】
本発明の電池貯蔵装置15のさらなる利点は,二つの電池20,30の配置の柔軟性により提示される。大電流パルスを供給するパワー電池30は,好ましくはモータ近くに配置して高価でかつ重量のある抵抗結線の長さを最小化する。元来の従来車両では,その大きさと重量が故に電池全体をモータ近くに配置することは出来ず,それ故に別のコストと総重量にて追加のケーブルが必要であった。再構成された車両では,パワー電池30をモータ100の近くに配置し,第2の結線22に沿う重量のある高価なケーブルに関連するコストと重量を低減する。しかしながら,その比較的低電流を伴うエネルギ電池20はパワー電池30への第1の結線21に関しより軽量でかつ安価なケーブルを用いることができ,かくして重量のある高価なケーブルを必要とすることなくモータ100とパワー電池30から遠くに配置することができる。」

P「【0087】
本発明はエネルギ電池20が非水性リチウムイオン電池である好適な実施形態として説
明してきたが,エネルギ電池20はこの種電池に拘束されないことは理解されたい。むしろ,例えばナトリウム−硫黄電池やリチウム空気電池や化学的等価物等のパワー電池のエネルギ密度を上回るエネルギ密度を有する任意種の電池を用いることもできる。好適な実施形態のうちの一つにあっては,エネルギ電池20を各種形状に成形し,かくしてエネルギ貯蔵装置15の有効体積を低減できる高分子リチウムイオン電池で構成する。
【0088】
同様に,本発明は鉛蓄電池30を備えるパワー電池30として説明してきたが,本発明はこれに限定はされない。むしろ,リチウム電池等のエネルギ電池20により再充電することができ,負荷100が要求する異なる定格で電気エネルギを供給することのできる任意種のパワー電池30を例えば大定格リチウム或いはリチウムイオン電池や大定格ニッケル水素電池等に用いることができる。
・・・(略)・・・
【0090】
本発明が図1に示す如く,装置15を駆動する上で当分野では周知であるが明瞭さに配慮して省略したフィルタやコンデンサやコイルやセンサを含む他の装置や構成要素を含ませることができることもまた,理解されたい。また,たとえ好適な実施形態が負荷について電気車両内のモータであると説明してきても,負荷100は異なる定格で電力を受給する任意種の電気負荷にできることもまた理解されたい。この点に関し,電気自動車が自動車やトラックやオートバイや電動自転車を含む任意種の車両とすることができることは理解されたい。」

(4)引用文献1に記載の発明
ア 上記Hに引用した段落【0066】には,「両電池20,30をモータ100に並列に配置することができる。」と記載されている。ここで,当該「両電池20,30」は,直前の段落【0064】及び【0065】の「エネルギ電池20」,「パワー電池30」との記載から,それぞれ「エネルギ電池20」及び「パワー電池30」を指し示すことは明らかである。また,上記段落【0066】には,上記記載に続いて「これは,例えば・・・図4の電気系統線図に示してある。」と記載されているところ,図4を説明する上記Lに引用した段落【0078】によれば,図4は図3に示した電気システムの電気系統の接続線図を示すものであり,鉛パワー電池30とリチウムイオンエネルギ電池20が負荷100に対して並列に接続されることが記載されている。ここで,「鉛パワー電池30」との表現は,上記Cに引用した段落【0034】などの記載から,パワー電池30の一実施形態として鉛蓄電池を採用したものを意味することは明らかである。また,「リチウムイオンエネルギ電池20」との表現についても同様に,上記Cに引用した段落【0037】などの記載から,エネルギ電池20の一実施形態としてリチウムイオン電池20を採用したものを意味することは明らかである。以上の記載から,引用文献1には,“パワー電池30とエネルギ電池20とを有し,パワー電池30とエネルギ電池20とが互いに直に並列に接続され,また,前記パワー電池30と前記エネルギ電池20とがモータ100に接続される電気システム”が記載されていると認められる。
イ 上記Oに引用した段落【0086】には,“パワー電池30とモータ100とは,大電流パルスが供給されるケーブルによって接続される”旨が記載されていると認められる。
ウ 上記Kに引用した段落【0073】,上記Mに引用した段落【0080】には,パワー電池30とエネルギ電池20を並列に接続する実施例において,パワー電池30がモータ100に大きな電流を供給して,モータ100の電流要件に応える旨が記載されている(なお,段落【0080】の「エネルギ電池30」は「パワー電池30」の誤記であることは明らかである。)。また,上記Pに引用した段落【0090】には,負荷の一実施形態として,電気車両内のモータがある旨が記載されている。以上の記載から,引用文献1には,“パワー電池30とエネルギ電池20を並列に接続する実施例において,パワー電池30が電気車両内のモータ100に大きな電流を供給して,モータ100の電流要件に応える”旨が記載されていると認められる。
エ 上記アないしウにおいて検討した事項から,引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「パワー電池30とエネルギ電池20とを有し,
前記パワー電池30と前記エネルギ電池20とが互いに直に並列接続され,
前記パワー電池30と前記エネルギ電池20とがモータ100に接続され,
前記パワー電池30と前記モータ100とは,大電流パルスが供給されるケーブルによって接続され,
前記パワー電池30は,電気車両内の前記モータ100の電流要件に応えることができるものである
電気システム。」

(5)本件補正発明と引用発明との対比
ア 引用発明の「パワー電池30」は,以下の各相違点は別として,本件補正発明の「パワー型電池」に相当する。
イ 引用発明の「エネルギ電池20」は,以下の各相違点は別として,本件補正発明の「容量型電池」に相当する。
ウ 引用発明において,「前記パワー電池30と前記エネルギ電池20とが互いに直に並列接続され」ることは,本件補正発明において「前記パワー型電池と前記容量型電池とが互いに直に並列接続され」ることに相当する。
エ 引用発明において,「前記パワー電池30と前記エネルギ電池20とがモータ100に接続され」ることは,本件補正発明において「前記パワー型電池と前記容量型電池とが」「モータに接続され」ることに相当する。
オ 引用発明の「電気システム」は,複数の電池からなるシステムである点で,本件補正発明の「複合電池システム」と共通する。
カ 上記ア〜オにおいて検討した事項から,本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりである。

[一致点]
「パワー型電池と容量型電池とを有し,
前記パワー型電池と前記容量型電池とが互いに直に並列接続され,
前記パワー型電池と前記容量型電池とがモータに接続されるものである複合蓄電システム。」

[相違点1]
本件補正発明では,「パワー型電池」と「容量型電池」とが「電力変換器を介してモータに接続され」るのに対して,引用発明においては,パワー電池30とエネルギ電池20とがモータ100に接続されるものの,電力変換器を介して接続されることについては言及されていない点。

[相違点2]
本件補正発明では,「前記パワー型電池から前記電力変換器までの配線の抵抗値は,前記容量型電池から前記電力変換器までの配線の抵抗値よりも小さ」いのに対して,引用発明においては,そのような構成について言及されていない点。

[相違点3]
本件補正発明では,「前記パワー型電池から前記電力変換器までの配線の断面積は,前記容量型電池から前記電力変換器までの配線の断面積よりも大き」いのに対して,引用発明においては,そのような構成について言及されていない点。

[相違点4]
本件補正発明では,「前記パワー型電池の容量は,前記容量型電池の容量よりも小さ」いのに対して,引用発明においては,「パワー電池30」と「エネルギ電池20」の容量の大小関係について明示的には言及されていない点。

[相違点5]
本件補正発明では,「前記パワー型電池の出力密度は,前記容量型電池の出力密度よりも優れ」ているのに対して,引用発明においては,「パワー電池30」と「エネルギ電池20」の出力密度の大小関係について明示的には言及されていない点。

[相違点6]
本件補正発明では,「パワー型電池」は,「前記パワー型電池は,電動車両の加速や減速における電流変化を供給,吸収できるものである」のに対して,引用発明の「前記パワー電池30は,電気車両内の前記モータ100の電流要件に応えることができる」ものであるものの,電気車両の加速や減速における電流変化を供給,吸収できるものであることについて明示的には言及されていない点。

(6)相違点についての当審の判断
ア [相違点1]について
電池とモータの接続にあたっては,電池の出力電力をモータに入力,あるいはモータの出力電力を電池に入力する場合に,当該出力電力を,それぞれが要求する入力の要件に適合させるために,電力変換器を介して接続することが通常採られている構成である。ここで,上記(3)Pで引用した段落【0087】及び【0088】の記載から,パワー電池30及びエネルギ電池20として,各種のものを採用できる旨が示唆されており,また,モータ100についても,上記(3)Pで引用した段落【0090】の「負荷100は異なる定格で電力を受給する任意種の電気負荷にできる」と記載されているように,各種のものを採用できる旨が示唆されている。してみると,引用発明において,パワー電池30及びエネルギ電池20とモータ100との接続を,それぞれの出力電力を,それぞれの入力の要件に適合させるために,電力変換器を介して接続することは,当業者が容易になし得たことである。

イ [相違点2]及び[相違点3]について
上記(3)Oに引用した段落【0086】には,パワー電池30とモータ100とを接続するケーブルと,エネルギ電池20とモータ100とを接続するケーブルとを,当該ケーブルを流れる電流の大小の観点から別のものとすることが示唆されている。ここで,配線に大電流を流す場合に,当該配線を保護するために,当該配線の断面積を大きくして抵抗値を下げることは通常行われていることであり,引用発明において,上記示唆に基づいて,大電流パルスが供給されるケーブルとして,配線の断面積を大きくし,抵抗値を小さくしたものを用いることは,当業者が容易になし得たことである。

ウ [相違点4]について
上記(3)Dに引用した段落【0051】には「エネルギ電池20は再充電により多くの時間を必要とするようであるが,それはより大きなエネルギ貯蔵及び動作容量を有し,コントローラ60が概ね先ずパワー電池30の再充電を停止する結果をもたらすからである。少なくともパワー電池30がエネルギ電池20により再充電できるが故に,再充電器50がパワー電池30を再充電しなければならない必要のないこともまた理解されたい。」と記載されており,エネルギ電池20の容量がより大きいこと,また,それによってエネルギ電池20がパワー電池30を充電することができる旨が記載されていると認められる。当該記載は,両電池を並列に接続する実施例とは別の実施例に関する記載ではあるが,並列に接続する実施例を説明する上記(3)Nに引用した段落【0081】には「これが発生すると,エネルギ電池20からの電流I1はエネルギ電池30に受給され,パワー電池30の充電を支援する。」との記載があり(当審注:当該「エネルギ電池30」は「パワー電池30」の誤記であることは明らかである。),当該記載などから同実施例においてもエネルギ電池20の役割の一つとして,パワー電池30の充電の支援があることが認められることから,同実施例においてもエネルギ電池20の容量をパワー電池30の容量より大きいものとすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

エ [相違点5]について
上記(3)Nに引用した段落【0081】の「エネルギ電池20からよりもパワー電池30からの方がより速く受給できる」などの記載から,パワー電池30の出力密度をエネルギ電池20よりも大きいものとすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

オ [相違点6]について
上記(4)ウのとおり,引用文献1には,パワー電池30とエネルギ電池20を並列に接続する実施例において,「パワー電池30が電気車両内のモータ100に大きな電流を供給して,モータ100の電流要件に応える」旨が記載されている。
また,上記(3)Eに引用した段落【0052】には,加速時に急激な電力バースト210をモータ100に供給することが,上記(3)Bに引用した段落【0020】及び【0021】には,停止時にパワー電池30がバーストエネルギを受け入れることが記載されており,これらの記載から,両電池を並列に接続する実施例においてもパワー電池30が,電気車両の加速や減速における電流変化を供給,吸収できるものとすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

カ 上記ア〜オにおいて検討したとおり,[相違点1]〜[相違点6]は,いずれも格別なものではなく,そして,本件補正発明の構成によってもたらされる効果も,当業者であれば当然に予測可能なものに過ぎず格別なものとは認められない。
したがって,本件補正発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により,特許出願の際,独立して特許を受けることができないものである。

3 補正却下むすび
よって,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和3年5月17日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,令和2年10月26日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,その請求項1に記載された事項により特定される,上記「第2 令和3年5月17日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の[理由]「1 本件補正について」において,本件補正前の請求項1として引用した,次のとおりのものである。

「パワー型電池と容量型電池とを有し,
前記パワー型電池と前記容量型電池とが互いに直に並列接続され,
前記パワー型電池と前記容量型電池とが電力変換器を介してモータに接続され,
前記パワー型電池から前記電力変換器までの配線の抵抗値は,前記容量型電池から前記電力変換器までの配線の抵抗値よりも小さく,
前記パワー型電池から前記電力変換器までの配線の断面積は,前記容量型電池から前記電力変換器までの配線の断面積よりも大きく,
前記パワー型電池の容量は,前記容量型電池の容量よりも小さく,前記パワー型電池の出力密度は,前記容量型電池の出力密度よりも優れる複合蓄電システム。」

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,この出願の請求項1ないし3に係る発明は,本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引用文献1:特表2007−506395号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は,上記「第2 令和3年5月17日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の[理由]「2 補正の適否」における「(3)引用文献の記載事項」及び「(4)引用文献1に記載の発明」に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は,上記「第2 令和3年5月17日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の[理由]「2 補正の適否」において検討した本件補正発明から,上記「第2 令和3年5月17日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の[理由]「2 補正の適否」における「(1)補正事項」において指摘した限定事項を取り除いたものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が,上記「第2 令和3年5月17日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の[理由]「2 補正の適否」における「(5)本件補正発明と引用発明との対比」及び「(6)相違点についての当審の判断」に記載したとおり,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-01-17 
結審通知日 2022-01-18 
審決日 2022-02-01 
出願番号 P2017-077249
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02M)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 篠原 功一
特許庁審判官 金子 秀彦
山澤 宏
発明の名称 複合蓄電システム  
代理人 ポレール特許業務法人  
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