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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02G
管理番号 1383121
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-06-23 
確定日 2022-03-10 
事件の表示 特願2017− 19801「常電導接続部材及び超電導ケーブルの端末構造体」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 8月16日出願公開,特開2018−129889〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成29年2月6日の出願であって,令和2年10月5日付けで拒絶理由が通知され,これに対して令和2年12月11日に意見書が提出されたが,令和3年3月18日付けで拒絶査定がなされた(以下,「原査定」という。)。これに対して,令和3年6月23日に審判請求がなされると同時に手続補正がなされ,令和3年8月13日に前置報告がなされたものである。


第2 令和3年6月23日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年6月23日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおり補正された。(下線部は,補正箇所である。)

「【請求項1】
超電導ケーブルの外周に配置され、超電導ケーブルに接続されるケーブル接続部と、
前記ケーブル接続部の外周を囲むように配置され、前記ケーブル接続部に電気的に接続されるとともに、常温側の機器に接続される端子部が外周側に設けられる板状の導電フランジ部とを有し、
前記端子部が前記導電フランジ部に対し一体で構成され、
前記導電フランジ部には、前記端子部とケーブル接続部との間に、同心で且つ異なる直径の欠円状の複数のスロットが形成され、
前記複数のスロットのうち、前記導電フランジ部の最外周に配置される第1スロットでは、当該第1スロットの端部が挟む欠円部が、前記ケーブル接続部を挟み前記端子部とは逆側に配置されている、常電導接続部材。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,特許出願時の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
超電導ケーブルの外周に配置され、超電導ケーブルに接続されるケーブル接続部と、
前記ケーブル接続部の外周を囲むように配置され、前記ケーブル接続部に電気的に接続されるとともに、常温側の機器に接続される端子部が外周側に設けられる板状の導電フランジ部とを有し、
前記導電フランジ部には、前記端子部とケーブル接続部との間に、同心で且つ異なる直径の欠円状の複数のスロットが形成され、
前記複数のスロットのうち、前記導電フランジ部の最外周に配置される第1スロットは、当該第1スロットの端部が挟む欠円部を、前記ケーブル接続部を挟み前記端子部とは逆側に配置している、
常電導接続部材。」

2 補正の適否
本件補正において,「前記複数のスロットのうち、前記導電フランジ部の最外周に配置される第1スロットでは、当該第1スロットの端部が挟む欠円部が、前記ケーブル接続部を挟み前記端子部とは逆側に配置されている」とする補正は,不明瞭な記載の釈明を目的とするものである。
また,本件補正は,請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「端子部」について,「前記端子部が前記導電フランジ部に対し一体で構成され」るとの限定を付加したものである。
そして,本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。したがって,請求項1についての本件補正は特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か(特許出願の際独立して特許を受けることができるものか否か)を検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は,上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献,引用発明
ア 引用文献1
(ア)本願の出願前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり,原査定の理由において引用された,米国特許出願公開第2012/0289405号明細書(以下,「引用文献1」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。(下線は,当審において付加した。以下,同じ。)

A 「[0009]The object of she(当審注:「the」の誤記と認められる。) invention is to propose a contact element provided with an electrical connection element which can directly ensure the management of the thermal gradient between the temperature of the refrigerant in which a superconducting cable is located and the ambient temperature, while ensuring the passage of the current from this cable to the electrical connection element, without the need for a long bushing for managing the electrical field.
(当審訳:本発明の目的は,超電導ケーブルが配置されている冷媒の温度と周囲の温度の間の熱勾配の管理を直接確保することができる,電気接続端子を有する接触要素を提供することであって,また,接触要素は,電気的な場を管理するための長いブッシングを必要とせず,このケーブルからの電気接続端子への電流の通路を確保することができるものである。)
[0010] By virtue of the invention, the superconducting cable unit, which may be a termination or junction unit, is particularly simple, economical, compact and non-bulky in construction.
(当審訳:本発明によれば,終端または接続部である超電導ケーブルユニットは,特に単純で,経済的で,構成がコンパクトでかさばらないものである。)」

B 「[0035]As represented in FIG. 1, according to a first embodiment, a contact element 4 provided with an electrical connection element 4A, of lug type, and intended for a superconducting cable unit arranged in a refrigerant, comprises an electrically conductive plate intended to be borne mechanically by the unit and to be electrically connected to the cable.
(当審訳:図1に示す第1実施の形態によれば,突出部である電気接続端子4Aを備えた接触要素4は,冷媒が中に配置される超伝導ケーブルユニットのためのものであり,ユニットによって機械的に支持され,ケーブルと電気的に接続することが意図されている導電性プレートを備えている。)
[0036] This plate is a metal circular disk, for example made of copper, and comprises through slots 4E, 4E’ and 4E” intended to form thermal conduction chicanes, in order to minimize the thermal conduction between the outside and the inside, while ensuring the passage of the electrical current.
(当審訳:このプレートは,例えば銅製の金属円板であり,電流の通過を確保しつつ,外側と内側との間の熱伝導を最小にするために,熱伝導障壁を形成するためのスロット4E,4E’および4E”から構成されている。)
[0037]These chicanes also result in a division of the current into two. There is then a parallel electrical resistance effect and, with equivalent thermal power by Joule's effect, each chicane can have a section divided into two, such that half the current passes through it. It is therefore possible, in a given space, to have a longer trajectory for the current and therefore better manage the thermal gradient by conduction.
(当審訳:これらの障壁は電流の2分割を生じさせる。そして,ジュール効果による等しい熱を伴う並列電気抵抗の効果を生じ,各障壁は2つに分割された部分を有し,その結果,半分の電流がそれを通過するようになっている。これは,所与の空間で,それゆえに,電流のためのより長い軌道を有し,従って,伝導による熱勾配をより良好に管理する。)
[0038] The plate comprises at least two of said slots in the form of portions of circle with the same center and different diameters, the ends of a first slot and the ends of a second slot being arranged on either side of the center. The angle at the center of each portion of circle is preferably greater than 270 degrees.
(当審訳:プレートは,同じ中心と異なる直径を有する円の一部である少なくとも2つの前記スロットで構成され,第1のスロットの端と第2のスロットの端は中心に対して両側に配置される。円の各部分の中心角は270度以上であることが好ましい。)
[0039]According to the example represented, the plate comprises three slots but, more generally, it may comprise N said slots in the form of portions of circle with the same center and different diameters, the ends of an nth slot and the ends of an (n+1)th slot being arranged on either side of the center. A system of chicanes is thus produced which is highly stable mechanically.」
(当審訳:図示した実施例では,プレートは,3個のスロットを有するが,より一般的には,同じ中心と異なる直径を有する円の一部の形態であるN個の前記スロットからなる場合,n番目のスロットの端部と(n+1)番目のスロットの端部は中心に対して両側に配置されている。この障壁のシステムは,機械的に非常に安定である。)
[0040] The number and the dimensions of these chicanes are optimized by computation and/or modeling depending on the dimensions of the unit and of the current.
(当審訳:これらの障壁の数,大きさは,ユニットや電流の大きさに依存しモデリングされ,コンピュータによって最適化される。)
[0041] The plate is provided with orifices 4C intended for the passage of the refrigerant.
(当審訳:プレートは冷媒が流れる通路となるオリフィス4Cが設けられている。)
[0042] According to this embodiment, the plate comprises a central internal ring 4B intended to be electrically connected to the cable, for example by means of multi-contacts. This internal ring 4B is provided with orifices 4C for the passage of the refrigerant.
(当審訳:この実施形態によれば,プレートは,多接点の手段によりケーブルに電気的に接続されるように意図された中央内部リング4Bで構成されている。この内側リング4Bは,冷媒の通路であるオリフィス4Cが設けられている。)
[0043] This internal ring 4B is provided at its periphery with deformable electrically conductive elements, which are multi-contact platelets 4’, and which connect it electrically to an external peripheral ring 4D bearing the electrical connection element 4A. These deformable elements make it possible to ensure the electrical conduction while absorbing the contraction deformations caused by she temperature of she refrigerant.
(当審訳:この内側リング4Bは,電気接続端子4Aを有する外周リング4Dに電気的に接続する多接触プレートレット4’である変形可能な導電性要素を周囲に備えている。これらの変形可能な要素は,電気的導通を確保することを可能にする,一方で,冷媒の温度による収縮変形を吸収する。)
[0044] This external ring 45)(当審注:「4D」の誤記と認められる。) comprises through slots 4E, 4E’and 4E”.
(当審訳:この外周リング4Dはスロット4E,4E’および4E”を備えている。)」

C 「[0052] As can be seen in FIG. 4, each cylindrical modular element 1, 2, 3 therefore comprises an external thermal and electrical insulation jacket 1A, 2A, 3A containing a section of superconducting cable 7, 8, 9 contained in an internal jacket 1B, 2B, 3B containing a refrigerant, for example liquid nitrogen.
(当審訳:図4に見られるように,各円筒状モジュラー部材1,2,3は,例えば液体窒素である冷媒を含む内側ジャケット1B, 2B, 3B内にある超電導ケーブル7, 8, 9の各部を含む外側熱および電気絶縁ジャケット1A, 2A, 3Aからなる。)
・・・中略・・・
[0056] As can be seen in particular in FIG. 5, each contact element, for example 4, consists of an electrically conductive plate, for example made of copper or of aluminum, borne mechanically by the adjacent external jackets 1A, 2A of the adjacent modular elements, by means of screws 10.1, 10.2 passing through a corresponding flange of the jackets and the plate, and by the adjacent internal jackets 1B, 2B of the adjacent modular elements by means of screws 11.1, 11.2 passing through a corresponding flange of the jackets and the plate.
(当審訳:特に図5に見られるように,例えば4として示す各接触要素は,例えば銅またはアルミからなる導電性プレートからなり,導電性プレートは,隣接するモジュール部材の隣接する外側ジャケット1A, 2Aとプレートのフランジ部を貫通するねじ10.1,10.2によって,外側ジャケット1A, 2Aで機械的に支持される,さらに,隣接するモジュール部材の内側ジャケット1B, 2Bとプレートのフランジ部を貫通するねじ11.1,11.2によって内側ジャケット1B, 2Bでプレートは支持される。」

D 「Fig.1



E 「Fig.5



F 上記Aには,「本発明の目的は,超電導ケーブルが配置されている冷媒の温度と周囲の温度の間の熱勾配の管理を直接確保することができる,電気接続端子を有する接続要素を提供することであ」ると,また,上記Bの段落[0035]には,「第1の実施形態によれば,突出部である電気接続端子4Aを備えた接触要素4は,冷媒が中に配置される超伝導ケーブルユニットのためのものであり,ユニットによって機械的に支持され,ケーブルと電気的に接続することが意図されている導電性プレートを備えている,」と記載されている。
してみると,引用文献1には,“超電導ケーブルが配置されている冷媒の温度と周囲の温度の間の熱勾配の管理を直接確保することができ,ケーブルと電気的に接続することが意図されている導電性プレートからなる,突出部である電気接続端子4Aを有する接触要素4”が記載されている。

G 上記Bの段落[0036]には,“導電性プレートは,金属円板であって,電流の通過を確保しつつ,外側と内側との間の熱伝導を最小にするために,熱伝導障壁を形成するためのスロット4E,4E’および4E”から構成されて”いることが記載されている。

H 上記Bの段落[0038]には,「プレートは,同じ中心と異なる直径を有する円の一部である少なくとも2つの前記スロットで構成され,第1のスロットの端と第2のスロットの端は中心に対して両側に配置される。円の各部分の中心角は270度以上であること」が記載され,段落[0039]には,「図示した実施例では,プレートは,3個のスロットを有する」ことが記載され,また,この実施例の図であるFig.1(上記D)によれば,“最外周のスロット4E”の欠円部である端と,電気接続端子4Aは中心に対して同じ側にあ”ることが看取できる。
してみれば,引用文献1には,“スロットは,同じ中心と異なる直径を有する円の一部である3つのスロットであって,第1のスロットの端と第2のスロットの端は中心に対して両側に配置され,各円の一部の中心角は270度以上であり,最外周のスロット4E”の欠円部である端と,電気接続端子4Aは中心に対して同じ側にある”ことが記載されているといえる。

I 上記Bの段落[0042]には,“導電性プレートは,多接点の手段によりケーブルの外周に電気的に接続されるように意図された中央内部リング4Bで構成され”ることが記載されている。

J 上記Bの段落[0043]には,「内側リング4Bは,電気接続端子4Aを有する外周リング4Dに電気的に接続する多接触プレートレット4’である変形可能な導電性要素を周囲に備えている」ことが記載されている。

K 上記Bの段落[0044]には,「外周リング4Dはスロット4E,4E’および4E”を備えている」ことが記載されている。

L 上記Cの段落[0056]には,「導電性プレートは,隣接するモジュール部材の隣接する外側ジャケット1A, 2Aとプレートのフランジ部を貫通するねじ10.1,10.2によって,外側ジャケット1A, 2Aで機械的に支持される」ことが記載されている。

M 上記Bの段落[0039]には,「より一般的には,同じ中心と異なる直径を有する円の一部の形態であるN個の前記スロットからなる場合,n番目のスロットの端部と(n+1)番目のスロットの端部は中心に対して両側に配置されている。この障壁のシステムは,機械的に非常に安定である」と記載され,段落[0040]には,「これらの障壁の数,大きさは,ユニットや電流の大きさに依存しモデリングされ,コンピュータによって最適化される」ことが記載されている。

(イ) 上記AないしLの記載内容(特に,下線部を参照)からすると,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。

「超電導ケーブルが配置されている冷媒の温度と周囲の温度の間の熱勾配の管理を直接確保することができ,ケーブルと電気的に接続することが意図されている導電性プレートからなる,突出部である電気接続端子4Aを有する接触要素4において,
導電性プレートは,金属円板であって,電流の通過を確保しつつ,外側と内側との間の熱伝導を最小にするために,熱伝導障壁を形成するためのスロット4E,4E’および4E”から構成されており,
スロットは,同じ中心と異なる直径を有する円の一部である3つのスロットであって,第1のスロットの端と第2のスロットの端は中心に対して両側に配置され,各円の一部の中心角は270度以上であり,最外周のスロット4E”の欠円部である端と,電気接続端子4Aは中心に対して同じ側にあるものであって,
導電性プレートは,多接点の手段によりケーブルの外周に電気的に接続されるように意図された中央内部リング4Bで構成され,
内側リング4Bは,電気接続端子4Aを有する外周リング4Dに電気的に接続する多接触プレートレット4’である変形可能な導電性要素を周囲に備えており,
外周リング4Dはスロット4E,4E’および4E”を備え,
導電性プレートは,隣接するモジュール部材の隣接する外側ジャケット1A, 2Aとプレートのフランジ部を貫通するねじ10.1,10.2によって,外側ジャケット1A, 2Aで機械的に支持される,
接触要素4。」

さらに,上記Mの記載内容からすると,引用文献1には次の技術(以下,「引用文献1に記載された技術」という。)が記載されている。

「導電性プレートに設けられるスロットの数は,ユニットや電流の大きさに依存しモデリングされ,コンピュータによって最適化されるものであって,一般的には,同じ中心と異なる直径を有する円の一部の形態であるN個の前記スロットからなる場合,n番目のスロットの端部と(n+1)番目のスロットの端部は中心に対して両側に配置されることで,機械的に非常に安定である。」

イ 技術常識を示す文献
(ア)引用文献2
A 本願の出願日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり,前置報告において引用された,特開2016−195484号公報(以下,「引用文献2」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

a 「【0048】
接続電極部13は、銅等の導電部材により形成されており、円環板状の電極本体132を有する。電極本体132には、接続片部134が突設されており、この接続片部134に内中間導体31(図3参照)が接続されている。」

b 「【図4】



(イ)引用文献3
A 本願の出願日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり,前置報告において引用された,特開2016−171025号公報(以下,「引用文献3」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

a 「【0031】
導電フランジ32は、図3に示されるように、金属材料(例えば、アルミや銅)で形成された円環状部材であり、上述のように碍子管42の上端部と碍子管44の下端部とで挟まれ、かつ図示しないねじ部材によって碍子管42の上端部と碍子管44の下端部とともに締結固定されている。また、導電フランジ32には、外周部から径方向外側へ突出した端子接続部33が形成されている。この端子接続部33には、変電所などの実系統側の図示しない端子がねじ止めされる。」

b 「【図3】



(3)引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「超電導ケーブル」は,本件補正発明の「超電導ケーブル」に相当する。
そして,引用発明の「多接点の手段」は,「ケーブルの外周に電気的に接続される」ものであるから,本件補正発明の「超電導ケーブルの外周に配置され、超電導ケーブルに接続されるケーブル接続部」に相当する。

イ 引用発明の「導電性プレート」は,「多接点の手段によりケーブルの外周に電気的に接続されるように意図された中央内部リング4Bで構成され」るものであるから,「導電性プレート」は「多接点の手段」の外周を囲むように配置されているといえる。
また,引用発明の「導電性プレート」は,「金属円板であって,電流の通過を確保しつつ,外側と内側との間の熱伝導を最小にするために,熱伝導障壁を形成するためのスロット4E,4E’および4E”から構成され」るものである。さらに,「導電性プレート」の「中央内部リング4B」は多接触プレートレット4’」を介して「スロット4E,4E’および4E”を備え」た「電気接続端子4Aを有する外周リング4D」に接続されるものであるから,「導電性プレート」は,「電気接続端子4Aを有する外周リング4D」で構成され,「電気接続端子4A」は「導電性プレート」に設けられているといえ,また,「電気接続端子4A」が,常温側の機器に接続されるための端子であることは明らかである。
そして,引用発明の「導電性プレート」は,「ねじ10.1,10.2」が貫通するフランジ部を有するものである。
したがって,引用発明の「電気接続端子4A」は,本件補正発明の「端子部」に相当し,引用発明の「導電性プレート」は,本件補正発明の「前記ケーブル接続部の外周を囲むように配置され、前記ケーブル接続部に電気的に接続されるとともに、常温側の機器に接続される端子部が外周側に設けられる板状の導電フランジ部」に相当する。

ウ 引用発明の「導電性プレート」は,「外側と内側との間の熱伝導を最小にするために,熱伝導障壁を形成するためのスロット4E,4E’および4E”から構成され」ており,また,「スロットは,同じ中心と異なる直径を有する円の一部である3個」である。
したがって,引用発明の「スロット4E,4E’および4E”」は,本件補正発明の「前記端子部とケーブル接続部との間に、同心で且つ異なる直径の欠円状の複数のスロット」に相当し,引用発明の「導電性プレートは,金属円板であって,電流の通過を確保しつつ,外側と内側との間の熱伝導を最小にするために,熱伝導障壁を形成するためのスロット4E,4E’および4E”から構成され」ることは,本件発明の「前記導電フランジ部には,前記端子部とケーブル接続部との間に,同心で且つ異なる直径の欠円状の複数のスロットが形成され」ることに相当する。

エ 引用発明の「接触要素4」は,「多接点の手段」,「導電性プレート」を有するものであって,超電導ケーブルを周囲の温度の常電導部に接続するものであるから,本件補正発明の「常電導接続部材」に相当する。

したがって,本件補正発明と引用発明とを対比すると,両者は,以下の点で一致し,また,相違している。

<一致点>
「超電導ケーブルの外周に配置され,超電導ケーブルに接続されるケーブル接続部と,
前記ケーブル接続部の外周を囲むように配置され,前記ケーブル接続部に電気的に接続されるとともに,常温側の機器に接続される端子部が外周側に設けられる板状の導電フランジ部とを有し,
前記導電フランジ部には,前記端子部とケーブル接続部との間に,同心で且つ異なる直径の欠円状の複数のスロットが形成されている,
常電導接続部材。」

<相違点1>
本件補正発明では,「前記端子部が前記導電フランジ部に対し一体で構成され」ているのに対して,引用発明では,電気接続端子4Aと導電性プレートとが一体であるとは特定されていない点。

<相違点2>
本件補正発明では,「前記複数のスロットのうち、前記導電フランジ部の最外周に配置される第1スロットでは、当該第1スロットの端部が挟む欠円部が、前記ケーブル接続部を挟み前記端子部とは逆側に配置されている」のに対して,引用発明では,最外周のスロット4E”の欠円部と,電気接続端子4Aは中心に対して同じ側にある点。

(4)判断
上記各相違点について検討する。
<相違点1>について
上記第2の2(2)イの(ア)引用文献2及び(イ)引用文献3にも記載されるように,超電導ケーブルに接続される常電導接続部材において,端子部と導電フランジ部とを一体で構成することは周知技術である。
したがって,引用発明の「電気接続端子4A」と「導電性プレート」に該周知技術を適用して,上記相違点1の構成とすることは当業者が容易になし得たことである。

<相違点2>について
上記第2の2(2)ア(イ)のとおり引用文献1には,「導電性プレートに設けられるスロットの数は,ユニットや電流の大きさに依存しモデリングされ,コンピュータによって最適化されるものであって,一般的には,同じ中心と異なる直径を有する円の一部の形態であるN個の前記スロットからなる場合,n番目のスロットの端部と(n+1)番目のスロットの端部は中心に対して両側に配置されることで,機械的に非常に安定である」という技術(引用文献1に記載された技術)が記載されている。
してみると,最外周のスロットの端部と「電気接続端子4A」とが中心に対して反対側であるか同じ側であるかによらず,隣接するスロットの端部(欠円部)が互いに中心に対して両側に配置されていれば,機械的に非常に安定なものとなるのであって,最外周のスロットの端部と「電気接続端子4A」とが中心に対して反対側とすることができないものではない。
また,「導電性プレートに設けられるスロットの数は,ユニットや電流の大きさに依存しモデリングされ,コンピュータによって最適化されるものであ」り,引用発明のものをより大きな電流を扱う場合などに,スロットの数を4つとすることは十分に想定されることである。
してみると,引用発明のものを,より大きな電流で用いるために,「最外周のスロット4E”」の外側に,「最外周のスロット4E”」とは端部(欠円部)が中心に対して反対となるようにさらにスロットを1つ設けることで,上記相違点2の構成とすることは当業者が容易になし得たことである。

したがって,本件補正発明は,引用発明,引用文献1に記載された技術,及び周知の技術に基づいて本件補正発明をすることは,当業者にとって容易である。したがって,本件補正発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

(5)結語
以上検討したとおり,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
令和3年6月23日付けの手続補正(本件補正)は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1ないし4に係る発明は,出願時の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は上記第2の1(2)に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由の概要

(理由1)この出願の請求項1,2,4に係るに発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に基づいて,また,請求項3に係るに発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1,2に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.米国特許出願公開第2012/0289405号明細書
2.特開2010−232014号公報

3 引用文献,引用発明
原査定の拒絶の理で引用された引用文献1及びその記載事項並びに引用発明は,上記第2の2(2)ア 引用文献1で説示したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は,概ね,上記第2の2で検討した本件補正発明の発明特定事項である「前記端子部が前記導電フランジ部に対し一体で構成され」についての限定を省いたものである。
そうすると,本願発明と引用発明は,上記相違点2でのみ相違し,相違点2は,上記第2の2(4)で相違点について説示したのと同様の理由で当業者が容易になし得たことである。
したがって,本願発明は,引用発明,引用文献1に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。


第4 むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,引用発明,引用文献1に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは,この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は,その日数を附加します。)以内に,特許庁長官を被告として,提起することができます。
 
審理終結日 2021-12-27 
結審通知日 2022-01-04 
審決日 2022-01-21 
出願番号 P2017-019801
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02G)
P 1 8・ 575- Z (H02G)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 田中 秀人
特許庁審判官 山澤 宏
山崎 慎一
発明の名称 常電導接続部材及び超電導ケーブルの端末構造体  
代理人 特許業務法人鷲田国際特許事務所  

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