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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1383123
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-06-25 
確定日 2022-03-15 
事件の表示 特願2017−538195「ワイヤグリッドポラライザ用の酸化バリア層および吸湿バリア層」拒絶査定不服審判事件〔平成28年10月 6日国際公開、WO2016/160803、平成30年 4月26日国内公表、特表2018−511816、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2017−538195号(以下「本件出願」という。)は、2016年(平成28年)3月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2015年4月3日 米国、2015年7月8日 米国、2015年8月24日 米国、2015年9月10日 米国、2015年10月16日 米国、2015年12月10日 米国、2016年3月23日 米国)の出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成29年10月 6日提出:手続補正書
平成30年 7月30日提出:手続補正書
令和 2年 2月28日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 5月20日提出:意見書
令和 2年 5月20日提出:手続補正書
令和 2年 9月30日付け:拒絶理由通知書
令和 3年 1月 6日提出:意見書
令和 3年 1月 6日提出:手続補正書
令和 3年 4月21日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 3年 6月25日提出:審判請求書
令和 3年 6月25日提出:手続補正書

2 本件発明
本件出願の請求項1〜10に係る発明は、令和3年6月25日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1〜10に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1〜10の記載は、以下のとおりである(以下、請求項1に係る発明を「本件発明1」といい、その他の請求項に係る発明についても同様にいう。)。
「【請求項1】
透明基板の表面上に位置し、一方向に伸びており、かつ、アレイ状に配置された複数のリブと、
前記複数のリブの少なくとも一部の間の複数のギャップと、
前記複数のリブ上に位置する共形コーティングであって、
前記共形コーティングは酸化防止材、吸湿防止材、およびシラン共形コーティングを有し、
前記酸化防止材は酸化アルミニウム、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化窒化ケイ素、炭化ケイ素、レアアース酸化物またはそれらの組み合わせを含み、
前記吸湿防止材は酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、前記酸化防止材である前記レアアース酸化物とは異なるレアアース酸化物またはそれらの組み合わせを含み、
前記シラン共形コーティングは超疎水表面であり、前記複数のリブの表面上で水をCassie-Baxter(キャシー―バクスター)状態で保持することが可能であり、前記シラン共形コーティングは、下記化学式(1)および下記化学式(2)の組み合わせを含み、
【化1】

【化2】

rは、正の整数であり、各R1は、独立して炭素に結合した少なくとも1個のハロゲンを含む疎水基であり、各Xは前記複数のリブへの結合部であり、各R3は、独立して化学元素または基であり、
前記酸化防止材は、前記吸湿防止材と前記複数のリブとの間に位置し、前記シラン共形コーティングは前記共形コーティングの最外層である、
ワイヤグリッドポラライザ(WGP)。
【請求項2】
前記複数のリブと前記酸化防止材との間に境界層が存在すること、または前記複数のリブの材料と前記酸化防止材の材料とに差異が存在することにより、前記酸化防止材は、前記複数のリブとは別個である、請求項1に記載のWGP。
【請求項3】
前記複数のリブの外面の材料は、2℃で1リットル当たり少なくとも0.015グラムの水溶性を有する、請求項1または2に記載のWGP。
【請求項4】
前記酸化防止材は、酸化アルミニウムを含み、
前記吸湿防止材は、酸化ハフニウムを含む、
請求項1から3のいずれか一項に記載のWGP。
【請求項5】
前記酸化防止材は、0.5ナノメートル以上5ナノメートル未満の厚さを有し、前記吸湿防止材は、0.5ナノメートル以上5ナノメートル未満の厚さを有する、請求項1から4のいずれか一項に記載のWGP。
【請求項6】
透明基板の表面上に位置する複数のリブであって、前記複数のリブの少なくとも一部の間の複数のギャップと共に一方向に伸びている複数のリブのアレイを得る工程と、
前記複数のリブ上に共形コーティングの酸化防止材を蒸着により付着させる工程であって、
前記酸化防止材の層は、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化窒化ケイ素、炭化ケイ素、レアアース酸化物のうちの少なくとも1つを含む工程と、
前記複数のリブ上に共形コーティングの吸湿防止材を蒸着により付着させる工程であって、
前記吸湿防止材は酸化ハフニウム、前記酸化防止材である前記レアアース酸化物とは異なるレアアース酸化物および酸化ジルコニウムのうちの少なくとも1つを含む工程と、
前記酸化防止材および前記吸湿防止材を付着させた後にシラン共形コーティングの疎水層を蒸着により付着させて前記複数のリブの表面上で水をCassie-Baxter(キャシー―バクスター)状態で保持することが可能な超疎水性表面を得る工程であって、前記疎水層を付着させる工程は、下記化学式
Si(R1)d(R2)e(R3)g
(式中、
dは1、2または3、eは1、2または3、gは0、1または2、かつ、d+e+g=4であり、
各R1は、独立して、炭素に結合した少なくとも1個のハロゲンを含む疎水基であり、
R2は、シラン反応基であり、
各シラン反応基は、独立して-Cl、-OR6、-OCOR6、-N(R6)2または ‐OHであり、
各R6は、独立してアルキル基、アリール基またはそれらの組み合わせであり、かつ
各R3は、独立して任意の化学元素または化学基である。)
を有する化合物にワイヤグリッドポラライザ(WGP)を曝露する工程を含む付着させる工程を備え、
上記複数の工程を上記順序で行う、ワイヤグリッドポラライザ(WGP)を製造する方法。
【請求項7】
前記酸化防止材および前記吸湿防止材を付着させた後にホスホネート共形コーティングの疎水層を蒸着により付着させる工程であって、前記疎水層を付着させる工程は、下記化学式
(R1)iPO(R4)j(R5)k
(式中、
iは1または2、jは1または2、kは0または1、かつ、i+j+k=3であり、
各R1は、独立して、炭素に結合した少なくとも1個のハロゲンを含む疎水基であり、
R4は、ホスホネート反応基であり、
各ホスホネート反応基は、独立して‐Cl、‐OR6、‐OCOR6または‐OHであり、
各R5は、独立して任意の化学元素または化学元素のグループであり、かつ
各R6は、独立してアルキル基、アリール基またはそれらの組み合わせである。)
を有する化合物に前記WGPを曝露する工程を含む付着させる工程をさらに備える、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
工程の順序は、
前記複数のリブのアレイを得て、前記酸化防止材を付着させ、次に、前記吸湿防止材を付着させる工程からなる、
請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
各疎水基は独立して、CF3(CF2)nであり、nは1≦n≦4の範囲内の整数である、請求項1から5のいずれか1項に記載のWGP。
【請求項10】
各疎水基は独立して、CF3(CF2)nであり、nは1≦n≦4の範囲内の整数である、請求項6から8のいずれか1項に記載の方法。」

3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。
(1)明確性
本件出願の(令和3年1月6日にした手続補正後の)請求項1〜10に係る発明の記載は以下の点で明確でないから、特許法36条6項2号の規定により特許を受けることができない。
ア 請求項1の「Rは、正の整数であり」という記載について、請求項1には「R」なる記載がない点。
イ 請求項1の「キャシー―バクスター状態」という記載について、これが如何なる状態を指すものか、本願の明細書や図面には説明が見いだせない点。
ウ 請求項7に記載の「酸化防止材および吸湿防止材を付着させた後にホスホネート共形コーティングの疎水層を蒸着により付着させる工程」と、請求項7が引用する請求項6に記載の「酸化防止材および吸湿防止材を付着させた後にシラン共形コーティングの疎水層を蒸着により付着させて前記複数のリブの表面上で水をCassie-Baxter(キャシー―バクスター)状態で保持することが可能な超疎水性表面を得る工程であって、前記疎水層を付着させる工程」とをいかに両立させることを指すものなのか不明である点。

(2)進歩性
本件出願の(令和3年1月6日にした手続補正後の)請求項6〜8及び10に係る発明は、本件出願の最先の優先日(以下「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明及び周知技術又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件優先日前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開2014−77972号公報
引用文献2:国際公開第2012/115059号
引用文献4:特開2014−85516号公報
引用文献5:特表2007−503016号公報
引用文献6:特表2006−507517号公報
なお、主引例は引用文献1であり、引用文献2は副引例、引用文献4〜6は周知技術を例示する文献である。

第2 明確性についての当合議体の判断
1 上記「第1」「3」「(1)ア」について、上記「第1」「2」のとおり、本件発明1において、「R」は「r」と補正がなされており、明確でないとはいえない。

2 上記「第1」「3」「(1)イ」について、「キャシー―バクスター状態」とは、本件明細書【0038】及び図4の記載を参照すると、「複数のリブ12の表面上で水41の保持が可能である」状態であり、「複数のリブ12」の間の空気層の空隙である「ギャップG」に水が入り込まない状態であると解釈できる。
また、そのような解釈は、下記参考文献の14頁「3−2」の、撥水性を高める条件の一つとして、表面構造の空隙に空気をトラップし、空気と固体の複合表面を対象とする場合を想定したものである記載とも整合する。
そうしてみると、上記「キャシー―バクスター状態」が、当業者にとって明確でないとはいえない。
(参考文献:長山暁子、鶴田隆治:「分子動力学的視点からみた固液界面の濡れ機構」、伝熱、2007年1月、46巻、194号、12〜19頁)

3 上記「第1」「3」「(1)ウ」について、請求項6に記載の「酸化防止材および前記吸湿防止材を付着させた後にシラン共形コーティングの疎水層を蒸着により付着させて前記複数のリブの表面上で水をCassie-Baxter(キャシー―バクスター)状態で保持することが可能な超疎水性表面を得る工程であって、前記疎水層を付着させる工程」と、請求項7に記載の「酸化防止材および吸湿防止材を付着させた後にホスホネート共形コーティングの疎水層を蒸着により付着させる工程」とは、その文言からみて、それぞれ特定の材料を用いて疎水層を蒸着により付着させる工程であると理解されるところ、本件出願の発明の詳細な説明の段落【0020】、【0027】等の記載によれば、蒸着する材料によって、前記複数のリブのどの部分に優先的に付着するか等の差は認められるものの、上記2つの工程が両立し得ないとまではいえないから、これらの工程が当業者にとって明確でないとはいえない。

第3 進歩性についての当合議体の判断
1 引用文献1の記載及び引用発明
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献1(特開2014−77972号公報)は、本件出願の最先の優先日(以下「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に利用した箇所を示す。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルタ及び該光学フィルタを備える撮像装置、並びに光学フィルタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでは、単体ワイヤグリッド(WG)について開発を行ってきた。広い波長帯域で利用できる偏光素子として、金属の細線がグレーティング状に配列された構造を持つワイヤグリッド素子が利用されている。ワイヤグリッド素子は、金属細線の高さ分の厚みがあれば機能を発現できるため薄型化が容易、無機材料を利用しているため温度変化に強い、等の特徴がある。
・・・中略・・・
【0004】
ワイヤグリッドを用いた応用素子として、ワイヤグリッド上にカラーフィルタ(CF)を積層した素子の開発が近年行われている。偏光機能を持つワイヤグリッドと分光機能を持つカラーフィルタを積層することにより、輝度情報、分光情報、および偏光情報の光の3成分の情報を画像出力可能な撮像装置、及び撮像装置を用いて車両周辺情報を取得してヘッドライトやワイパーなどを制御する撮像ユニットに応用される。ワイヤグリッドとカラーフィルタを積層する技術としては、ワイヤグリッド上にSOG層(Spin On Glass)を形成し、ワイヤグリッド間の充填及びワイヤグリッド上に平坦化層を形成し、その上にカラーフィルタを形成するものがある。このSOG層は、充填及び平坦化が同時に行える手法としてよく用いられている。
【0005】
ところで、SOG形成プロセスは、シリカ粒子が分散された溶媒をスピンコートした後、ベークし溶媒を揮発させて充填性と平坦性を満たす膜を形成している。しかしながら、シリカ粒径による充填性の限界や光学特性(透過率)の劣化がある。 それゆえ、SOG形成工程中によるワイヤグリッドへのダメージや、SOG形成後もSOG層中やSOGを通気した水分によるワイヤグリッドの腐蝕の懸念がある。また、平坦化についても限界があり、ある程度の段差は発生する。SOGを厚くしていけば、段差を小さくしていけるが、SOGを厚くすると、平面度劣化、クラックの発生、透過率の低下などのデメリットが発生する。
・・・中略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであり、SOG形成プロセスに起因するワイヤグリッドの腐蝕防止のみならず、製品完成後にもより高い信頼性が得られると共に、平坦性の改善で高精度であり、加工ばらつきの小さい積層構造を高歩留まりで得られる光学フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、上記課題を解決するための本発明に係る光学フィルタは、使用帯域の光に対して透明な基板10と、該基板10上に設けられ、透過偏光軸が異なる複数の偏光子パターンを有する偏光フィルタ層11と、該偏光フィルタ層11を覆う無機材料が充填されてなる無機材料充填層12を介して、当該偏光フィルタ層11の上に、透過波長帯域の異なる複数の分光フィルタパターンを有する分光フィルタ層13と、をこの順に備え、前記偏光フィルタ層11は、前記使用帯域の光の波長よりも小さい周期で形成されたワイヤグリッド構造を有し、前記無機材料充填層12が形成される前に予め酸化物で被覆されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い信頼性が得られると共に、平坦性の改善で高精度であり、加工ばらつきの小さい積層構造を高歩留まりで得られる光学フィルタを提供することができる。」

イ 「【0013】
本発明では、WG(ワイヤグリッド;偏光フィルタ層)/SOG(Spin On Glass;無機材料充填層)/CF(カラーフィルタ;分光フィルタ層)の積層構造において、ワイヤグリッドはSOG層形成前に予め酸化物で被覆されているので、保護層として機能する。このため、ウエットプロセスであるSOG形成工程中によるWGへのダメージ発生を防止することができる。また、SOG形成後も、SOG層中やSOG層を通気した水分によるWGの腐蝕を防止することができる。
【0014】
また、本発明ではSOG形成後にCMP(Chemical Mechanical Polishing)を用いて、研磨による平坦化を行うことが好ましい。 ワイヤグリッド上部にはSOGとは異なる酸化物が形成されているので、SOG研磨のストッパー構造の役割がある。このため、その後に積層して形成される、CF(多層膜、レジスト)を高精度で形成することができる。また、WG上部にはSOGとは異なる酸化物が形成されているので、SOG研磨のストッパー構造になり、SOG研磨の終点規定、Alが研磨されることの防止になる。」

ウ 「【0017】
次に、本発明に係る光学フィルタ及び該光学フィルタを備える撮像装置、並びに光学フィルタの製造方法についてさらに詳細に説明する。
・・・中略・・・
【0018】
<<撮像装置の全体構成>>
図1に撮像装置201の構成を示す。撮像装置は撮像レンズ204、光学フィルタ205、撮像素子206を含むセンサ基板601、信号処理部602から構成される。
・・・中略・・・
【0022】
[フィルタ部構成:各層詳細]
以降、無機材料充填層にSOG層のみを採用した場合を例にとり、説明する。 光学フィルタ205の撮像素子206側の面205bには、基板上に偏光フィルタ層、SOG層、分光フィルタ層の順に各層が形成されてなる。基板、並びに偏光フィルタ層、SOG層(無機材料充填層)及び分光フィルタ層の各層の構成について説明する。
【0023】
<基板10>
基板10は、使用帯域の光(本実施形態では可視光域)に対して透明な(透過する割合が高いほど好ましい)材料、例えば、ガラス、サファイア、水晶などで構成されている。
本実施形態では、ガラス、特に、安価で、また耐久性もある石英(屈折率1.46)やテンパックスガラス(屈折率1.51)が用いられている。」

エ 「【0024】
<偏光フィルタ層(ワイヤグリッド)11>
・ワイヤグリッド偏光子
上述したような透過偏光軸が異なる複数の偏光子パターンを有する偏光子としては、ワイヤグリッド偏光子で形成されてなる。
ワイヤグリッドは、アルミなどの金属で構成された導電体線が特定のピッチで格子状に配列されてなるものであり、そのピッチが入射光(例えば、可視光の波長400nmから800nm)に比べてかなり小さいピッチ(例えば、2分の1以下)であれば、導電体線に対して平行に振動する電場ベクトル成分の光をほとんど反射し、導電体線に対して垂直な電場ベクトル成分の光をほとんど透過させるため、単一偏光を作り出す偏光子として使用できる。
なおワイヤグリッド偏光子においては、金属ワイヤ断面積が増加すると、消光比が増加すること、更に周期幅に対する所定の幅以上の金属ワイヤでは透過率が減少する。また、金属ワイヤの長手方向に直交する断面形状がテーパ形状であると、広い帯域において透過率、偏光度の波長分散性が少なく、高消光比特性を示す。
図4はワイヤグリッドの断面構造の一例を示す写真である。溝方向の偏光方向の光が入射したときは遮光し、溝と直交する方向の偏光方向の光が入射したときは透過する。
【0025】
・ワイヤグリッド偏光子の効果
本実施の形態ではワイヤグリッド構造を選択しているため、以下のような効果を奏する。
ワイヤグリッド構造は、よく知られる半導体プロセス、すなわちアルミ薄膜を蒸着した後にパターニングを行いメタルエッチングなどの手法によりワイヤグリッドのサブ波長凹凸構造を形成すればよい。よって、撮像素子の画素サイズ相当(数ミクロンレベル)で偏光子の方向を調整することが可能であるため、本実施の形態のような画素単位で透過偏光軸が選択できる。
またワイヤグリッド構造は上述のとおり、アルミなどの金属で作製されるため、耐熱性に優れるため、車載用途には好適な偏光子の方式である。」

オ 「【0026】
<無機材料充填層(SOG層)12>
・SOG層構成
使用帯域の光に対して透明な基板と、基板上で直線状に延びたワイヤグリッドの凸部は使用帯域の光の波長よりも小さいピッチで配列されている。そのアルミ凸部の間には基板よりも屈折率の低いか同等の無機材料が充填された充填部が形成されてなる。この充填部はワイヤグリッド構造の凸部も覆うように形成されてなる。
【0027】
・SOG層材料
SOG層の形成材料としては、偏光子の偏光特性を劣化させないために、その屈折率が空気の屈折率=1に極力近い低屈折率材料であることが好ましい。例えば、セラミックス中に微細な空孔を分散させて形成してなる多孔質のセラミックス材料が好ましく、ポーラスシリカ(SiO2)、ポーラスフッ化マグネシウム(MgF)、ポーラスアルミナ(Al2O3)などが挙げられる。また、これらの低屈折率の程度はセラミックス中の空孔の数や大きさ(ポーラス度)によって決まるものである。このうち、とくに基板11に主成分がシリカの水晶やガラスからなる場合にはポーラスシリカ(n=1.22〜1.26)であれば、基板11よりも屈折率が小さくなり好適である。
【0028】
・SOG層形成方法
このSOG層の形成方法としては、無機系塗布膜(SOG:Spin On Glass)生成方法を用いればよい。すなわち、シラノール[Si(OH)4]をアルコールに溶かした溶剤を基板上にスピン塗布し、その後に熱処理によって溶媒成分を揮発させ、シラノール自体を脱水重合反応させるような経緯で形成される。
【0029】
・SOG層の効果
偏光フィルタ層がサブ波長サイズのワイヤグリッド構造であるため、SOG層の上に形成される分光フィルタ層に比べ強度的には弱い。とくに光学フィルタ205は、撮像素子206に密着配置することが望まれるため、そのハンドリングにおいては光学フィルタと撮像素子面が接触する可能性もあるが、強度的に弱い偏光フィルタ層はSOG層で保護されているため、ワイヤグリッド構造を損傷することなく光学フィルタを実装できる。SOG層を設けることによりワイヤグリッド部への異物進入も抑制できる。
ワイヤグリッドの凸部の高さは一般に使用波長の半分以下で構成される。一方、分光フィルタは使用波長同等から数倍の高さとなり、かつ厚みを増すほど遮断波長での透過率特性を急峻に出来る。

カ 「【0030】
<分光フィルタ13構成>
・分光フィルタの膜構成
分光フィルタは多層膜構造によって作製できる。多層膜構造とは、高屈折率と低屈折率の薄膜を交互に多層重ねた波長フィルタのことを指す。光の干渉を利用することで分光透過率を自由に設定でき、薄膜を多数層重ねることで、特定波長に対して100%近い反射率を得ることもできる。」

キ 「【0035】
本発明において、ワイヤグリッド11/SOG層12/フィルタ層13の一連の作製プロセスの中で、ワイヤグリッドに関しては、以下の特徴を有する。 即ち本発明において、ワイヤグリッド11はSOG層12形成前に予め酸化物で被覆されている。本実施の形態では、ワイヤグリッドの上部11a(SOG層側)を珪素酸化物(SiO2)、側面11bをアルミニウム酸化物(Al2O3)で被覆した構成を例示している。
ただし、本発明はこれに何ら限定されるものではなく、後付の保護層として、例えば、ALD(Atomic Layer Deposition)法によるZrO2膜がより高い信頼性(防湿性)が得られるものとして挙げられる。また、それらが合算した構成になっていても良い。
このとき、ZrO2膜は光学的には透過率で劣るが、5nm程度の膜厚で良いので、それほど大きな問題ではない。よって、光学特性及び信頼性の両観点からは、ZrO2膜の膜厚は、5nm以下が好ましい。
【0036】
このワイヤグリッドの特徴について、以下の図面を用いて詳細に解説する。 図6(a)および図6(b)に標準的なワイヤグリッドの製造プロセスで作製したワイヤグリッドを用いたワイヤグリッド/SOG層/フィルタ層の模式図を示している。ワイヤグリッドは、透明基板(厚さ0.6mm)上にワイヤグリッドとなるアルミニウム膜200nmをスパッタリング等で成膜した後、レジストにてナノパターン(周期は150nm)を形成する。次に、形成されたレジストパターンをマスクとして、塩素系のガスを用いて、アルミニウム膜の異方性ドライエッチングを行い、形成される。
【0037】
図7(a)に本発明の実施の形態である、ワイヤグリッドの上部11aを珪素酸化物(SiO2)、側面11bをアルミニウム酸化物(Al2O3)で被覆した構成のワイヤグリッド断面の模式図を示す。図6(a)および図6(b)の標準的なワイヤグリッドの製造プロセスと違い、アルミ膜をドライエッチングするマスクをレジストではなく、珪素酸化物(SiO2)を用いている。最終的にはこの珪素酸化物(SiO2)を残して、保護層の役目を持たせている。
【0038】
アルミニウムと珪素酸化物(SiO2)は連続成膜できることから、アルミニウムを大気にさらす工程を極力減らすことができる。また、アルミニウム酸化物に関しては、アルミニウムのドライエッチング工程と連続して、エッチング箇所を大気にさらす前に酸素プラズマなどの簡易なプロセスにより形成できる。したがって、本構成では、新たに保護膜材料を用意するなどのプロセスは不要であり、コストの増加に繋がらないという利点がある。
【0039】
その他の実施の形態として、図7(b)および図7(c)に後付の保護層11cを形成した例を示す。後付の保護層11cとしては、ALD法によるZrO2膜がより高い信頼性(防湿性)が得られるため、Al2O3よりもZrO2の方が好ましい。ZrO2は光学的には透過率で劣るが、5nm以下の膜厚で良いので、それほど大きな問題とはならない。 この二例の構造では、図7(a)に示した構造に比べてWG全面を同一膜で被覆することができるので、より信頼性が向上する。工程が増加するデメリットがあるが、車載用等のより高い信頼性が要求されるものに対しては、有効である。
・・・中略・・・
【0043】
図8(b)に示す実施の形態では、図8(a)に示す実施の形態のSOG層12の形成の前にALD法によるSiO2膜11dを全面(上面側)に形成し、その上にSOG層12を積層した構成となっている。
【0044】
図8(c)に示す実施の形態では、図8(b)に示す実施の形態のALD法によるSiO2膜11dの形成の前にZrO2からなる後付の保護層11cを全面(上面側)に形成し、その上にSiO2膜11d、SOG層12を順に積層した構成となっている。
【0045】
図9には実際の本発明のワイヤグリッド11/SOG層12断面のSEM写真を示す。ワイヤグリッド(アルミニウム膜)11の保護層の役目を果たすように、ワイヤグリッドの上部11aを珪素酸化物(SiO2)、側面11bをアルミニウム酸化物(Al2O3)でコンフォーマルに被覆した構成となっている。
【0046】
図10(a)には更なる平坦化を目指してCMP研磨を用いた、本発明に係る分光フィルタの製造方法におけるワイヤグリッド11/SOG層12/フィルタ層13の製造プロセスを示している。ワイヤグリッドの上部11aを珪素酸化物(SiO2)で被覆している目的は、図9を見てもわかるように、SOG層は20nm程度のシリカが凝集したものであり、決して緻密な膜ではないので、例えば研磨中にワイヤグリッドのアルミニウム膜が局所的に露出してしまいダメージを受けてしまう可能性があり、それを防止する為である。
なお、図10(b)に示すSOG研磨後の他の実施の形態は、図8(c)の構造をSOG研磨した後の構成を示している。
【0047】
また、ここでは、偏光フィルタ層11とその上に形成する分光フィルタ層13との界面には、無機単層膜(例えばSiO2)14を形成している。分光フィルタ層はSiO2/Ta2O5の積層膜を蒸着法等で成膜し、フォトリソ及びCF系ガスを用いたドライエッチングにて加工している。界面に無機単層膜(例えばSiO2)14を形成している目的として以下の二つ考えている。」

ク 「【図6】

【図7】


【図8】


【図10】



(2)引用発明
引用文献1(【0004】〜【0009】)の記載によれば、引用文献1に記載されている「光学フィルタ」は、「使用帯域の光に対して透明な基板10と、該基板10上に設けられ、透過偏光軸が異なる複数の偏光子パターンを有するワイヤグリッド11と、該ワイヤグリッド11を覆う無機材料が充填されてなるSOG層12を介して、当該ワイヤグリッド11の上に、透過波長帯域の異なる複数の分光フィルタパターンを有する分光フィルタ層13と、をこの順に備え」るものであり、「SOG層12」は「ワイヤグリッド間の充填及びワイヤグリッド上に平坦化層」として形成されるものであることが理解できる。そして、上記「ワイヤグリッド11」は、例えば、同文献の【0024】に記載されたとおりの構造ないし機能を備えたものである。
さらに、引用文献1の【0035】〜【0047】には、上記「光学フィルタ」及びその製造方法の具体例(実施の形態)の1つとして、後付の保護膜としてのALD法によるZrO2膜11c、ALD法によるSiO2膜11d、SOG層12及び分光フィルタ層13からなる「光学フィルタ」(図7(c)、図8(c)、図10(b))及びその製造方法が開示されている。
ここで、同文献の【0036】〜【0037】の記載によれば、上記「製造方法」の上記「ワイヤグリッド11」のパターニング(異方性ドライエッチング)は、「透明基板上」に「アルミニウム膜」「をスパッタリングで成膜した」ものに対して、「レジスト」に換えて「酸化珪素(SiO2)」を「マスク」として行われるものであることが理解される。また、同文献の【0046】の記載によれば、図10(b)の工程の後には、図10(a)の「多層膜成膜」工程及び「フォトリソ、多層膜エッチング」工程がこの順で続くこと分かる。

以上によれば、引用文献1には、以下に示す、「光学フィルタの製造方法」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
なお、引用文献1に記載の「偏光フィルタ層11」と「ワイヤグリッド11」、「無機材料充填層12」と「SOG層12」及び「アルミニウム膜」と「アルミ膜」は、それぞれ同じものを指すことが明らかであるから、以降、「ワイヤグリッド11」、「SOG層12」及び「アルミニウム膜」に用語を統一する。

「ワイヤグリッド11/SOG層12/フィルタ層1からなり、ワイヤグリッド11の上部11aを珪素酸化物(SiO2)、側面11bをアルミニウム酸化物(Al2O3)で被覆し、さらにその上に後付の保護層11cを被覆した構成の光学フィルタの製造方法であって、
透明基板上にワイヤグリッドとなるアルミニウム膜200nmをスパッタリングで成膜した後、珪素酸化物(SiO2)にてナノパターンを形成し、次に、形成された珪素酸化物(SiO2)のパターンをマスクとして、アルミニウム膜の異方性ドライエッチングを行うことで、アルミなどの金属で構成された導電体線が特定のピッチで格子状に配列されてなる、単一偏光を作り出す偏光子を形成する工程、
ここで、珪素素酸化物(SiO2)は、アルミニウム膜をドライエッチングするマスクを珪素酸化物(SiO2)を用いて、この珪素酸化物(SiO2)を残したものであり、
アルミニウム酸化物(Al2O3)は、アルミニウムのドライエッチング工程と連続して、エッチング箇所を大気にさらす前に酸素プラズマのプロセスにより形成したものであって、
次に、ワイヤグリッド11、珪素酸化物(SiO2)及びアルミニウム酸化物(Al2O3)を被覆する後付の保護層11cを、ALD法によるZrO2膜により形成し、その上にALD法によるSiO2膜11dを形成し、その上に、SOG層12を形成し、さらなる平坦化を目指してCMP研磨を用い、ワイヤグリッド間の充填及びワイヤグリッド上に平坦化層を形成し、
さらに平坦化されたSOG層12上に分光フィルタ層13を形成する工程を含む、
光学フィルタの製造方法。」

2 対比及び判断
(1)本件発明6と引用発明との対比
ア ワイヤグリッドポラライザ(WGP)
引用発明の「ワイヤグリッド11」は、「透明基板上に」「アルミなどの金属で構成された導電体線が特定のピッチで格子状に配列されてなる」「偏光子」である。
そうすると、引用発明の「ワイヤグリッド11」は、本件発明6の「透明基板上に位置する複数のリブ」を有するという要件を備える「ワイヤグリッドポラライザ(WGP)」に相当するといえる。

イ アレイを得る工程
上記アによれば、引用発明の「ワイヤグリッド11」は、「導電体線」が各格子状の部分において「特定のピッチ」で(ギャップとともに)一方向に並ぶように製造されたものである。
そうすると、引用発明の「ワイヤグリッド11」からなる「偏光子を形成する工程」が、本件発明6の「複数のリブの少なくとも一部の間の複数のギャップとともに一方向に伸びている複数のリブのアレイを得る工程」に相当といえる。

ウ 共形コーティング
引用発明の「珪素酸化物(SiO2)」及び「アルミニウム酸化物(Al2O3)」は、それぞれ「ワイヤグリッド上部11a」及び「側面11b」を被覆する。
また、引用発明の「ZrO2膜」は、「ワイヤグリッド11の上部11aを珪素酸化物(SiO2)、側面11bをアルミニウム酸化物(Al2O3)で被覆し、さらにその上」に「被覆した」「「後付の保護層11c」である。
そうすると、引用発明の「珪素酸化物(SiO2)」、「アルミニウム酸化物(Al2O3)」及び「ZrO2膜」が、本件発明6の「共形コーティング」を形成しているといえる。

エ 酸化防止材及び吸湿防止材
上記ウで述べた、引用発明の「珪素酸化物(SiO2)」、「アルミニウム酸化物(Al2O3)」及び「ZrO2膜」の材料及び積層順からみて、引用発明の「珪素酸化物(SiO2)」及び「アルミニウム酸化物(Al2O3)」が、本件発明6の「共形コーティングの酸化防止材」に相当し、引用発明の「ZrO2膜」が、本件発明6の「共形コーティングの吸湿防止材」に相当するといえる。

オ 酸化防止材を付着させる工程及び吸湿防止剤を付着させる工程
上記ウ〜エの対比結果によれば、引用発明の「珪素酸化物(SiO2)」及び「アルミニウム酸化物(Al2O3)」を形成する工程が、本件発明6の「複数のリブ上に共形コーティングの酸化防止材」を「付着させる工程」及び「酸化防止材の層は、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化窒化ケイ素、炭化ケイ素、レアアース酸化物のうちの少なくとも1つを含む工程」に相当し、引用発明の「ZrO2膜」を形成する工程が、本件発明6の「複数のリブ上に共形コーティングの吸湿防止材」を「付着させる工程」及び「吸湿防止材は酸化ハフニウム、酸化防止材であるレアアース酸化物とは異なるレアアース酸化物および酸化ジルコニウムのうちの少なくとも1つを含む工程」に相当するといえる。

カ 工程の順序
引用発明の「ZrO2膜」は、「珪素酸化物(SiO2)」及び「アルミニウム酸化物(Al2O3)」の形成後に「後付の保護層11c」として形成されるものである。また、「珪素酸化物(SiO2)」及び「アルミニウム酸化物(Al2O3)」は、「透明基板」上に形成された「ワイヤグリッド11」の上部及び側面を被覆する工程により形成されるものである。
そうすると、引用発明の「ワイヤグリッド11」からなる「偏光子を形成する工程」、「珪素酸化物(SiO2)」及び「アルミニウム酸化物(Al2O3)」を形成する工程及び「ZrO2膜」を形成する工程は、本件発明6の「透明基板の表面上に」「複数のリブのアレイを得る工程」、「共形コーティングの酸化防止材」を「付着させる工程」及び「共形コーティングの吸湿防止材」を「付着する工程」を、「上記順序で行う」という要件を満たす。

(2)一致点及び相違点
ア 一致点
本件発明6と引用発明は、以下の点で一致する。
「透明基板の表面上に位置する複数のリブであって、前記複数のリブの少なくとも一部の間の複数のギャップと共に一方向に伸びている複数のリブのアレイを得る工程と、
前記複数のリブ上に共形コーティングの酸化防止材を付着させる工程であって、
前記酸化防止材の層は、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化窒化ケイ素、炭化ケイ素、レアアース酸化物のうちの少なくとも1つを含む工程と、
前記複数のリブ上に共形コーティングの吸湿防止材を付着させる工程であって、
前記吸湿防止材は酸化ハフニウム、前記酸化防止材である前記レアアース酸化物とは異なるレアアース酸化物および酸化ジルコニウムのうちの少なくとも1つを含む工程と、を備え、
上記複数の工程を上記順序で行う、ワイヤグリッドポラライザを製造する方法。」

イ 相違点
本件発明6と引用発明は、以下の点で相違する。
(相違点1)
「共形コーティングの酸化防止材を」「付着させる工程」が、本件発明6は、「蒸着により付着させる工程」であるのに対して、引用発明は、「アルミ膜をドライエッチングするマスク」である「珪素酸化物(SiO2)を残し」て付着させる工程及びアルミニウム酸化物(Al2O3)を「酸素プラズマのプロセスにより形成」して付着させる工程である点。
(相違点2)
本件発明6は、共形コーティングの吸湿防止材を「蒸着により」付着させる工程であるのに対して、引用発明は、ZrO2膜を「ALD法」により付着する工程である点。
(相違点3)
本件発明6は、「前記酸化防止材および前記吸湿防止材を付着させた後にシラン共形コーティングの疎水層を蒸着により付着させて前記複数のリブの表面上で水をCassie-Baxter(キャシー―バクスター)状態で保持することが可能な超疎水性表面を得る工程であって、前記疎水層を付着させる工程は、下記化学式
Si(R1)d(R2)e(R3)g
(式中、
dは1、2または3、eは1、2または3、gは0、1または2、かつ、d+e+g=4であり、
各R1は、独立して、炭素に結合した少なくとも1個のハロゲンを含む疎水基であり、
R2は、シラン反応基であり、
各シラン反応基は、独立して‐Cl、‐OR6、‐OCOR6、‐N(R6)2または ‐OHであり、
各R6は、独立してアルキル基、アリール基またはそれらの組み合わせであり、かつ
各R3は、独立して任意の化学元素または化学基である。)
を有する化合物にワイヤグリッドポラライザ(WGP)を曝露する工程を含む付着させる工程を備え」ているのに対して、引用発明は、そのような工程を備えていない点。

(3)判断
上記相違点3について検討する。
引用発明の「光学フィルタ」は、引用文献1の【0004】の記載によれば、「偏光機能を持つワイヤグリッドと分光機能を持つカラーフィルタを積層することにより、輝度情報、分光情報、および偏光情報の光の3成分の情報を画像出力可能な撮像装置、及び撮像装置を用いて車両周辺情報を取得してヘッドライトやワイパーなどを制御する撮像ユニットに応用」することを想定して、「開発が近年行われている」「ワイヤグリッド上にカラーフィルタ(CF)を積層した素子」である。
そして、「ワイヤグリッドとカラーフィルタを積層する技術としては、ワイヤグリッド上にSOG層(Spin On Glass)を形成し、ワイヤグリッド間の充填及びワイヤグリッド上に平坦化層を形成し、その上にカラーフィルタを形成するものがある。このSOG層は、充填及び平坦化が同時に行える手法としてよく用いられている。」(【0004】)
しかしながら、「SOG形成プロセスは、シリカ粒子が分散された溶媒をスピンコートした後、ベークし溶媒を揮発させて充填性と平坦性を満たす膜を形成している。しかしながら、シリカ粒径による充填性の限界や光学特性(透過率)の劣化がある。 それゆえ、SOG形成工程中によるワイヤグリッドへのダメージや、SOG形成後もSOG層中やSOGを通気した水分によるワイヤグリッドの腐蝕の懸念がある。また、平坦化についても限界があり、ある程度の段差は発生する。SOGを厚くしていけば、段差を小さくしていけるが、SOGを厚くすると、平面度劣化、クラックの発生、透過率の低下などのデメリットが発生する。」(【0005】)という問題がある。
そこで、引用発明は、「以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであり、SOG形成プロセスに起因するワイヤグリッドの腐蝕防止のみならず、製品完成後にもより高い信頼性が得られると共に、平坦性の改善で高精度であり、加工ばらつきの小さい積層構造を高歩留まりで得られる光学フィルタを提供することを目的とする。」(【0008】)ものである。
そして、その解決手段は、「使用帯域の光に対して透明な基板10と、該基板10上に設けられ、透過偏光軸が異なる複数の偏光子パターンを有する偏光フィルタ層11と、該偏光フィルタ層11を覆う無機材料が充填されてなる無機材料充填層12を介して、当該偏光フィルタ層11の上に、透過波長帯域の異なる複数の分光フィルタパターンを有する分光フィルタ層13と、をこの順に備え、前記偏光フィルタ層11は、前記使用帯域の光の波長よりも小さい周期で形成されたワイヤグリッド構造を有し、前記無機材料充填層12が形成される前に予め酸化物で被覆されていることを特徴とする。」(【0009】)ものである。
以上によれば、引用発明の「光学フィルタ」における、「ワイヤグリッド間」を「充填」する「SOG層12」、すなわち、「平坦化層」は、上記課題を解決するための必須の構成といえる。
ところで、相違点3に係る本件発明1の構成は、「リブの表面上で水をCassie-Baxter(キャシー―バクスター)状態で保持することが可能な超疎水性表面を得る工程」を含む。ここで、上記「(キャシー―バクスター)状態」が、複数のリブ12の表面上で水41の保持が可能である状態であり、複数のリブ12の間の空気層の空隙であるギャップGに水が入り込まない状態を意味することは、上記「第2」「2」で述べたとおりである。
以上総合すると、課題解決のための前提手段である、引用発明における「ワイヤグリッド11の間を充填する平坦化層としてのSOG層12」を取り除いてまで、相違点3に係る本件発明1の構成(特に、上記下線部のような、リブの間に空気層の空隙であるギャップGに水が入り込まない構成であるCassie-Baxter(キャシー―バクスター)状態))を採用するような改変を、引用文献1に接した当業者が試みることには阻害要因があるといえる。

したがって、引用発明において、相違点3に係る本件発明6の構成を採用することが当業者にとって容易であるということはできない。
そして、引用文献2〜6に記載された事項を考慮しても上記判断は変わらない。
そうしてみると、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明6が、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(4)小活
本件発明6は、引用文献1に記載された発明並びに引用文献2に記載された発明及び引用文献3〜6に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(5)請求項7、8及び10に係る発明について
請求項7、8及び10に係る発明は、本件発明6の「光学フィルタの製造方法」に対して、さらに他の発明特定事項を付加してなる「光学フィルタの製造方法」の発明である。
したがって、これらの発明も、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された発明及び引用文献3〜6に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

第4 原査定について
前記「第2」及び「第3」で述べたとおりであるから、原査定を維持することはできない。

第5 まとめ
以上のとおり、本件出願の特許請求の範囲の記載は、請求項1〜10に係る発明について、明確でないとはいえない。
また、本件出願の請求項6、7、8及び10に係る発明は、いずれも引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された発明及び引用文献3〜6に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
したがって、原査定の理由によっては、本件出願を拒絶することはできない。
また、他に本件出願の請求項1〜10に係る発明を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。


 
審決日 2022-02-22 
出願番号 P2017-538195
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
P 1 8・ 537- WY (G02B)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 小濱 健太
清水 康司
発明の名称 ワイヤグリッドポラライザ用の酸化バリア層および吸湿バリア層  
代理人 龍華国際特許業務法人  

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