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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L |
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管理番号 | 1383125 |
総通号数 | 4 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-04-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2021-06-29 |
確定日 | 2022-04-12 |
事件の表示 | 特願2017− 78140「離間装置および離間方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年11月15日出願公開、特開2018−182017、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成29年4月11日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。 令和2年12月9日付け :拒絶理由通知書 令和3年2月12日 :意見書及び手続補正書の提出 令和3年4月7日付け :拒絶査定 令和3年6月29日 :審判請求書の提出 令和3年11月24日付け :拒絶理由通知書 令和4年1月24日 :手続補正書の提出 第2 原査定の概要 原査定(令和3年4月7日付け拒絶査定)の概要は,本願の請求項1,3に係る発明は,本願出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2〜3,5に記載された技術的事項に基づいて,また,本願の請求項2,4に係る発明は,以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献4,5に記載された技術的事項に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 引用文献一覧 1.特開2006−54246号公報 2.特開2016−81974号公報 3.特開2016−111188号公報 4.特開2010−209243号公報 5.特開2013−191718号公報 第3 当審拒絶理由の概要 当審において令和3年11月24日付けで通知した拒絶理由の概要は,本願の請求項2,4に係る発明は,以下の引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものであり,また,本願の請求項1,3に係る発明は,以下の引用例1に記載された発明及び引用例2〜4に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものである。 引用例一覧 1.特開2006−54246号公報(拒絶査定の引用文献1) 2.特開2014−7257号公報 3.特開2016−81974号公報(拒絶査定の引用文献2) 4.特開2016−111188号公報(拒絶査定の引用文献3) 第4 本願発明 本願の請求項1〜4に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」〜「本願発明4」という。)は,令和4年1月24日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される発明であり,そのうちの本願発明2は以下のとおりの発明である。 「【請求項2】 一方の面のみに複数の被着体が貼付された接着シートの端部を保持する保持手段と, 前記接着シートにおける前記複数の被着体が貼付された被着体接着領域よりも外側であって,前記保持手段が保持した保持領域の内側で当該接着シートに当接する当接手段と, 前記接着シートの端部を保持した前記保持手段および当接手段を相対移動させることにより,前記接着シートを変形させて前記被着体の相互間隔を広げる離間手段とを備え, 前記接着シートは,所定のエネルギーが付与されることで硬化可能とされ, 前記離間手段で前記被着体の相互間隔を広げた状態の前記接着シートに,前記所定のエネルギーを付与することで当該接着シートを硬化させる第1エネルギー付与手段と, 前記接着シートが変形前の状態に近づこうとする力に打ち勝つ剛性を備え,前記被着体の相互間隔を広げた状態の前記接着シートの他方の面のみに当接し,間隔が広げられた前記被着体の相互間隔を維持する間隔維持部材を取り付ける維持部材取付手段を備えていることを特徴とする離間装置。」 なお,本願発明1は,「保持手段」を複数有し,「当接手段」を有さない点でのみ本願発明2と相違する発明であり,本願発明3は本願発明1とカテゴリーの点でのみ相違する発明であり,本願発明4は本願発明2とカテゴリーの点でのみ相違する発明である。 第5 引用例の記載と引用発明 1.引用例1について (1)引用例1の記載 当審の拒絶の理由に引用された引用例1(特開2006−54246号公報)には,次の記載がある。 「【0023】 上述した変質層形成工程によって半導体ウエーハ10の内部に全ての分割予定ライン101に沿って変質層110を形成したならば,ウエーハの一方の面を環状のフレームに装着され外的刺激によって硬化する粘着層を備えた保持テープの表面に貼着するウエーハ支持工程を実施する。即ち,図7に示すように環状のフレーム2の内側開口部を覆うように外周部が装着された保持テープ3の表面に半導体ウエーハ10の裏面10bを貼着する。なお,上記保持テープ3は,図示の実施形態においては厚さが70μmのポリ塩化ビニル(PVC)からなるシート基材の表面に,紫外線等の外的刺激によって硬化するアクリル樹脂系の粘着層が厚さが5μm程度塗布されている。また,保持テープ3のシート基材としては,常温では伸縮性を有し所定温度(例えば70度)以上の熱によって収縮する性質を有するポリ塩化ビニル(PVC),ポリプロピレン,ポリエチレン,ポリオレフィン等の合成樹脂シートを用いることが望ましい。また,半導体ウエーハ10の裏面10bボンディング用の接着フィルムを貼着して保持テープ3に貼着すると,後述するテープ拡張工程において接着フィルムを半導体チップに対応して破断することができる。 【0024】 上述したウエーハ支持工程を実施したならば,半導体ウエーハ10が貼着されている保持テープ3を拡張して,半導体ウエーハ10を変質層110が形成された分割予定ライン101に沿って個々のチップに分割するとともに,各チップ間に間隙を形成するテープ拡張工程を実施する。このテープ拡張工程は,図8および図9に示すテープ拡張装置4を用いて実施する。 【0025】 図8にはテープ拡張装置4の斜視図が示されており,図9には図8に示すテープ拡張装置4の断面図が示されている。図示の実施形態におけるテープ拡張装置4は,上記環状のフレーム2を保持するフレーム保持手段5と,上記環状のフレーム2に装着された保持テープ3を拡張する張力付与手段6を具備している。フレーム保持手段5は,図8および図9に示すように環状のフレーム保持部材51と,該フレーム保持部材51の外周に配設された固定手段としての4個のクランプ機構52とからなっている。フレーム保持部材51の上面は環状のフレーム2を載置する載置面511を形成しており,この載置面511上に環状のフレーム2が載置される。そして,フレーム保持部材51の載置面511上に載置された環状のフレーム2は,クランプ機構52によってフレーム保持部材51に固定される。 【0026】 上記張力付与手段6は,上記環状のフレーム保持部材51の内側に配設される拡張ドラム61を具備している。この拡張ドラム61は,環状のフレーム3の内径より小さく該環状のフレーム2に装着された保持テープ3に貼着される半導体ウエーハ10の外径より大きい内径および外径を有している。また,拡張ドラム61は,下端に支持フランジ611を備えている。図示の実施形態における張力付与手段6は,上記環状のフレーム保持部材51を上下方向(軸方向)に進退可能な支持手段62を具備している。この支持手段63は,上記支持フランジ611上に配設された複数(図示の実施形態においては4個)のエアシリンダ621からなっており,そのピストンロッド622が上記環状のフレーム保持部材51の下面に連結される。このように複数のエアシリンダ621からなる支持手段62は,環状のフレーム保持部材51を載置面511が拡張ドラム61の上端と略同一高さとなる基準位置と,拡張ドラム61の上端より所定量下方の拡張位置の間を上下方向に移動せしめる。 【0027】 図示のテープ拡張装置4は,図9に示すように上記拡張ドラム61内に配設された紫外線照射ランプ7を備えている。この紫外線照射ランプ7は,上記フレーム保持手段5に保持された環状のフレーム2に装着された保持テープ3における半導体ウエーハ10が貼着されている領域に外的刺激としての紫外線を付与する。また,テープ拡張装置4は,上記拡張ドラム61の上部外周面に装着された加熱手段としての環状の赤外線ヒータ8を具備している。この赤外線ヒータ8は,上記フレーム保持手段5に保持された環状のフレーム2に装着された保持テープ3における環状のフレーム3の内周と半導体ウエーハ10との間の領域を加熱する。 【0028】 以上のように構成されたテープ拡張装置4を用いて実施するテープ拡張工程について図10を参照して説明する。即ち,上記図7に示すように半導体ウエーハ10(分割予定ライン101に沿って変質層110が形成されている)を保持テープ3を介して支持した環状のフレーム2を,図10の(a)に示すようにフレーム保持手段5を構成するフレーム保持部材51の載置面511上に載置し,クランプ機構52によってフレーム保持部材51に固定する。このとき,フレーム保持部材51は図10(a)に示す基準位置に位置付けられている。 【0029】 次に,張力付与手段6を構成する支持手段62としての複数のエアシリンダ621を作動して,環状のフレーム保持部材51を図10の(b)に示す拡張位置に下降せしめる。従って,フレーム保持部材51の載置面511上に固定されている環状のフレーム2も下降するため,図10の(b)に示すように環状のフレーム2に装着された保持テープ3は拡張ドラム61の上端縁に当接して拡張せしめられる。この結果,保持テープ3に貼着されている半導体ウエーハ10には放射状に引張力が作用するため,半導体ウエーハ10は変質層110が形成されることによって強度が低下せしめられた分割予定ライン101に沿って破断され個々の半導体チップ100に分割される。このテープ拡張工程においては上述したように保持テープ3は拡張されているので,半導体ウエーハ10が個々の半導体チップ100に分割されると,各チップ間に間隙Sが形成される。なお,上記テープ拡張工程における保持テープ3の拡張量即ち伸び量は,フレーム保持部材51の下方への移動量によって調整することができ,本発明者等の実験によると保持テープ3を20mm程度引き伸ばしたときに半導体ウエーハ10を変質層110が形成されている分割予定ライン101に沿って破断することができた。このとき,個々に分割された各半導体チップ100間の間隙Sは,1mm程度となった。 【0030】 上述したようにテープ拡張工程を実施したならば,上述したように各チップ間に間隙Sが形成された状態で,保持テープ3における半導体ウエーハ10が貼着されている領域に外的刺激を付与し,保持テープに塗布された粘着層を硬化して各チップ間の間隙Sを維持せしめるチップ間間隙維持工程を実施する。このチップ間間隙維持工程は,上述したテープ拡張工程を実施した上記図10の(b)に示す状態で実施する。即ち,図11に示すように上述したテープ拡張工程を実施した状態で,紫外線照射ランプ7を点灯して保持テープ3における半導体ウエーハ10が貼着されている領域3aに紫外線を照射する。この結果,保持テープ3に塗布されている粘着層が硬化して,各半導体チップ100間の間隙Sは間隙が形成された状態に維持される。従って,個々に分割された半導体チップ100同士が接触することはなく,搬送時等において半導体チップ100同士が接触することによる損傷を防止することができる。」 引用例1の図7,8及び10として,以下の図面が示されている。 ![]() ![]() ![]() (2)摘記の整理 以上の摘記によれば,引用例1には,次の事項が記載されているものと理解できる。 ア テープ拡張装置によりテープ拡張工程を行うこと。(段落0024) イ 半導体ウエーハ10の分割予定ラインに沿って変質層110を形成した後,保持テープ3の表面に半導体ウエーハ10の裏面10bを貼着すること。(段落0023) ウ 保持テープ3は,環状フレームの内側開口部を覆うように外周部が装着されていること。(段落0023,図7) エ テープ拡張装置4は,半導体ウエーハ10が貼着されている保持テープ3を拡張して半導体ウエーハ10を個々のチップに分割するとともに,各チップ間に間隙を形成するテープ拡張工程を実施すること。(段落0024) オ テープ拡張装置4は,フレーム保持手段5と,張力付与手段6と,紫外線照射ランプ7を備えること。(段落0025,0027) カ フレーム保持手段は,環状フレームを保持すること。(段落0026) キ 張力付与手段6は,拡張ドラム61と支持手段62を備えること。(段落0026) ク 拡張ドラム61は,環状のフレーム3の内径より小さく該環状のフレーム2に装着された保持テープ3に貼着される半導体ウエーハ10の外径より大きい内径および外径を有していること。(段落0026) ケ 支持手段62は,フレーム保持部材51を拡張ドラム61の上端と略同一高さとなる基準位置と,拡張ドラム61の上端より所定量下方の拡張位置の間を上下方向に移動せしめること。(段落0026) コ テープ拡張工程において,環状のフレーム保持部材51を拡張位置に下降せしめることで,環状のフレーム2に装着された保持テープ3は拡張ドラム61の上端縁に当接して拡張せしめられ,半導体ウエーハ10が個々の半導体チップに分割されて,各チップ間に間隔Sが形成されること。(段落0029) サ テープ拡張工程により,半導体ウエーハ10が分割予定ライン101に沿って個々の半導体チップ100に分割され,各チップ間に間隙Sが形成されること。(段落0029) シ 紫外線照射ランプ7は,テープ拡張工程を実施した状態で点灯され,それにより,保持テープ3に塗布されている粘着層が硬化して,各半導体チップ100間の間隙Sは間隙が形成された状態に維持されること。(段落0030) 上記イ,ウ,カから,引用例1の「フレーム保持手段5」は,「保持テープ3」の外周部に装着された「環状フレーム2」を保持するものであり,当該「保持テープ3」は,分割予定ライン101に沿って変質層110が形成された半導体ウエーハ10が表面に貼着されたものであることが理解できる。 (3)引用発明1 以上によれば,引用例1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 「テープ拡張工程を実施するテープ拡張装置であって, 分割予定ライン101に沿って変質層110が形成された半導体ウェーハ10が表面に貼着された保持テープ3と, 保持テープ3の外周部に装着された環状フレーム2を保持するフレーム保持手段5と, 環状フレーム2の内径より小さく,該環状フレーム2に装着された保持テープ3に貼着される半導体ウェーハ10の外径よりも大きい内径及び外径を有する拡張ドラム61と, フレーム保持手段5を拡張ドラム61の上端と略同一高さとなる基準位置と拡張ドラムの上端より所定量下方の拡張位置の間を上下方向に移動せしめる支持手段62とを備え, テープ拡張工程により,環状のフレーム保持部材51を拡張位置に下降せしめることで,環状のフレーム2に装着された保持テープ3は拡張ドラム61の上端縁に当接して拡張せしめられ,半導体ウエーハ10が個々の半導体チップに分割されて,各チップ間に間隔Sが形成され, テープ拡張工程により分割予定ライン101に沿って分割された各チップ間に間隙Sが形成された状態で点灯され,保持テープに塗布されている粘着層が硬化して,各本導体チップ100間の間隙Sが形成された状態で維持させる紫外線照射ランプ7とを備えたテープ拡張装置4。」 2.引用例2について (1)引用例2の記載 当審の拒絶の理由に引用された引用例2(特開2014−7257号公報)には,次の記載がある。 「【0036】 テープ拡張工程では,拡張準備工程を実施した後に,図7に示すように,移動用駆動源により円筒状部材26を上昇させて,円筒状部材26とフレーム保持手段25とをエキスパンドテープT1に直交する方向に相対移動させて,ウエーハWが貼着されたエキスパンドテープT1を粘着層Ta側から押圧して拡張する。そして,ウエーハWを改質層Kが形成された分割予定ラインSに沿って隣接するチップDT間に間隙Gを形成する。そして,第2環状フレーム装着工程に進む。 【0037】 また,第2環状フレーム装着工程に進むまでの間に,第2環状フレーム準備工程を実施する。第2環状フレーム準備工程では,図8に示すように,第2環状フレームF2の開口部にテンションを張った状態で粘着テープT2を貼着した第2環状フレームF2を準備する。 【0038】 第2環状フレーム装着工程では,図9に示すように,押さえ部材28を上昇させてウエーハWの表面WSに接触させるとともに,テープ拡張工程によって拡張された円筒状部材26上のエキスパンドテープT1の粘着層Taと反対の面に第2環状フレームF2の開口部の粘着テープT2を貼着する。そして,押さえローラ29を粘着テープT2上で転動させて,粘着テープT2をエキスパンドテープT1に密に貼着させて,エキスパンドテープT1の拡張を維持する。そして,エキスパンドテープ切断工程に進む。 【0039】 エキスパンドテープ切断工程では,第2環状フレーム装着工程を実施した後に,図10に示すように,切断装置17の切断刃30をテープ拡張工程で拡張された状態のエキスパンドテープT1の円筒状部材26よりも外側で第1環状フレームF1の開口縁よりも内側の間を円周上に移動させる。そして,テープ拡張工程で拡張された状態のエキスパンドテープT1の円筒状部材26よりも外側で第1環状フレームF1の開口縁よりも内側を環状に切断する。 【0040】 すると,図11に示すように,隣接するチップDT間に間隙Gが形成されたウエーハWの表面WSの全体にエキスパンドテープT1と粘着テープT2とが順に貼着され,粘着テープT2の外周縁が全周に亘って第2環状フレームF2の開口部に貼着される。粘着テープT2にテンションが張られ,かつウエーハWの表面WSの全体に貼着された粘着テープT2の外周縁が全周に亘って第2環状フレームF2の開口部に貼着されているので,エキスパンドテープT1と粘着テープT2が,ウエーハWに対して位置ずれすることを抑制でき,粘着テープT2がウエーハWの表面WSから剥がれることを抑制でき,隣接するチップDT間の間隙Gを確実に維持できる。」 (2)引用例2に記載された公知技術 上記(1)によれば,チップDT間に間隙Gが形成された状態のエキスパンドテープT1の粘着層Taと反対の面に粘着テープT2を貼着することにより,隣接するチップDT間の間隔Gを確実に維持する技術が,引用例2に記載された公知技術であったと認められる。 3.引用例3〜4の記載 (1)引用例3の記載 当審の拒絶の理由に引用された引用例3(特開2016−81974号公報)には,次の記載がある。 「【0013】 図1,2において,離間装置10は,接着シートAS上の板状部材としての四角形のウエハWFに+X軸方向,−X軸方向,+Y軸方向,−Y軸方向の4方向の張力を付与して,ウエハWFから形成される複数の片状体としてのチップCPの相互間隔を広げる離間装置であって,接着シートASの第1方向としての+X軸方向側を第1支持手段20で支持し,当該第1支持手段20を+X軸方向に移動させて接着シートASに+X軸方向への張力を付与する第1張力付与手段30と,接着シートASの第2方向としての−X軸方向側を第2支持手段40で支持し,当該第2支持手段40を−X軸方向に移動させて接着シートASに−X軸方向への張力を付与する第2張力付与手段50と,接着シートASの第3方向としての+Y軸方向側を第3支持手段60で支持し,当該第3支持手段60を+Y軸方向に移動させて接着シートASに+Y軸方向への張力を付与する第3張力付与手段70と,接着シートASの第4方向としての−Y軸方向側を第4支持手段80で支持し,当該第4支持手段80を−Y軸方向に移動させて接着シートASに−Y軸方向への張力を付与する第4張力付与手段90と,接着シートASを介してウエハWFを支持する支持テーブル100とが設けられ,接着シートASにおけるウエハWFが貼付された被着体貼付領域AWを囲む多角形の包囲領域ACの各頂部APからそれぞれ接着シートASの外縁方向に延びて,当該包囲領域ACに対して各張力方向の合成方向に張力が付与されることを防止する不干渉切込CUを形成して離間用接着シートAUを形成可能な切断手段110を備えている。なお,ウエハWFは,切断刃や加圧水等のウエハ切断手段によりチップCPに個片化されるか,レーザ光や薬液等のウエハ脆弱化手段によりチップCPに個片化可能とされ,接着シートASが貼付されて一体物WKとされている。」 (2)引用例4の記載 当審の拒絶の理由に引用された引用例4(特開2016−111188号公報)には,次の記載がある。 「【0014】 図1,図2において,離間装置10は,接着シートAS上の板状部材としての四角形のウエハWFに+X軸方向,+Y軸方向,−X軸方向,−Y軸方向(図3(A)参照)の4方向に張力を付与して当該ウエハWFから形成される複数の片状体としてのチップCPの相互間隔を広げる装置であって,接着シートASをそれぞれ4体の保持部材25で保持する4体の保持手段20と,それぞれのスライダ31で各保持手段20を支持し,各保持手段20を前記4方向に移動させて接着シートASに張力を付与する駆動機器である張力付与手段としての4体のリニアモータ30と,チップCPの相互間隔を測定する光学センサやカメラ等の測定手段40とを備えている。・・・(以下略)・・・」 (3)引用例3〜4に示された周知技術 上記引用例3,4の記載から,「離間装置において接着シートの端部を保持する保持手段を複数備えること」が周知技術であったと認められる。 第6 対比・判断 1.本願発明2について (1)本願発明2と引用発明1の対比 本願発明2と引用発明1を対比すると,次のようになる。 ア 引用発明1における「保持テープ3」は,「分割予定ライン101に沿って変質層110が形成された半導体ウェーハ10が表面に貼着された」ものであり,当該「半導体ウェーハ10」は「テープ拡張工程により分割予定ライン101に沿って」「各チップ」に分割されるものであるから,引用発明1における「保持テープ3」の一方の面には,分割前後の「チップ」が貼着されているものと理解できる。そうすると,引用発明1における「保持テープ3」及び「チップ」は,本願発明2における「接着シート」及び「被着体」に相当する。 イ 引用発明1における「フレーム保持手段5」は,「保持テープ3の外周部に装着された環状フレーム2を保持する」ものであるから,本願発明2における「保持手段」に相当し,両者はともに「一方の面のみに複数の被着体が貼付された接着シートの端部を保持する」点で一致する。 ウ 引用発明1における「拡張ドラム61」は,「テープ拡張工程」において「保持テープ3」と当接し,かつ,「環状フレーム2の内径より小さく,該環状フレーム2に装着された保持テープ3に貼着される半導体ウェーハ10の外径よりも大きい内径及び外径を有する」ものであるから,本願発明2における「当接手段」に相当し,両者はともに「前記接着シートにおける前記複数の被着体が貼付された被着体接着領域よりも外側であって,前記保持手段が保持した保持領域の内側で当該接着シートに当接する」点で一致する。 エ 引用発明1における「支持手段62」は,「フレーム保持手段5を拡張ドラム61の上端と略同一高さとなる基準位置と拡張ドラム61の上端より所定量下方の拡張位置の間を上下方向に移動せしめる」ものであり,「テープ拡張工程」において,「環状のフレーム保持部材51を拡張位置に下降せしめる」ことで,「環状のフレーム2に装着された保持テープ3」を「拡張ドラム61」に当接させて拡張し,「各チップ間に間隔S」を形成するものである。そうすると,引用発明1における「支持手段62」は本願発明2における「離間手段」に相当し,両者はともに「前記接着シートの端部を保持した前記保持手段および当接手段を相対移動させることにより,前記接着シートを変形させて前記被着体の相互間隔を広げる」点で一致する。 オ 引用発明1における「紫外線照射ランプ7」は,「テープ拡張工程により分割予定ライン101に沿って分割された各チップ間に間隙Sが形成された状態で点灯され,保持テープに塗布されている粘着層が硬化して,各本導体チップ100間の間隙Sが形成された状態で維持させる」ものであるから,本願発明2における「第1エネルギー付与手段」に相当し,両者はともに「テープ拡張工程により分割予定ライン101に沿って分割された各チップ間に間隙Sが形成された状態で点灯され,保持テープに塗布されている粘着層が硬化して,各本導体チップ100間の間隙Sが形成された状態で維持させる」点で一致する。 カ 引用発明1における「テープ拡張装置4」は,本願発明2における「離間装置」に対応する。 以上によれば,本願発明2と引用発明1の一致点及び相違点は,以下のとおりである。 (一致点) 「一方の面のみに複数の被着体が貼付された接着シートの端部を保持する保持手段と, 前記接着シートにおける前記複数の被着体が貼付された被着体接着領域よりも外側であって,前記保持手段が保持した保持領域の内側で当該接着シートに当接する当接手段と, 前記接着シートの端部を保持した前記保持手段および当接手段を相対移動させることにより,前記接着シートを変形させて前記被着体の相互間隔を広げる離間手段とを備え, 前記接着シートは,所定のエネルギーが付与されることで硬化可能とされ, 前記離間手段で前記被着体の相互間隔を広げた状態の前記接着シートに,前記所定のエネルギーを付与することで当該接着シートを硬化させる第1エネルギー付与手段と, を備えていることを特徴とする離間装置。」 (相違点) 本願発明2は「前記接着シートが変形前の状態に近づこうとする力に打ち勝つ剛性を備え,前記被着体の相互間隔を広げた状態の前記接着シートの他方の面のみに当接し,間隔が広げられた前記被着体の相互間隔を維持する間隔維持部材を取り付ける維持部材取付手段を備えている」のに対し,引用発明1は,当該「維持部材取付手段」を備えることが特定されていない点。 (2)相違点についての判断 上記第5の2.(2)に示したとおり,チップDT間に間隙Gが形成された状態のエキスパンドテープT1の粘着層Taと反対の面に粘着テープT2を貼着することにより,隣接するチップDT間の間隔Gを確実に維持する技術は,引用例2に記載された公知技術であり,当該公知技術における「チップDT」「エキスパンドテープT1」及び「粘着テープT2」が,本願発明2における「被着体」「接着シート」及び「間隔維持部材」に対応する。すなわち,引用例2には,離間装置において,「前記被着体の相互間隔を広げた状態の前記接着シートの他方の面のみに当接し,間隔が広げられた前記被着体の相互間隔を維持する間隔維持部材を取り付ける維持部材取付手段」を備えるようにすることが示唆されているといえる。 しかしながら,引用例2には,「粘着テープT2」が備える剛性については特に記載されていない。ここで,本願明細書段落0036に照らすと,本願発明2における「剛性を備えたもの」とは,「硝子板」「金属,樹脂,木材,陶器等」のような剛性を備えたものであると理解できる。そうすると,引用例2の「粘着テープT2」は,本願発明2でいう「剛性を備えたもの」とはいえない。加えて,引用例2には,「粘着テープ」に代えて「硝子板」等の「剛性を備えたもの」を貼着することは記載も示唆もされていない。 また,引用例3〜4は離間装置において複数の保持手段を備えることを示すものであり,本願発明2の「間隔維持部材」が「剛性を備え」との事項については,記載も示唆もされていない。 以上のとおり,「剛性を備え」た「間隔維持部材」との特定事項を含む上記相違点に係る構成は,引用例2〜4に記載も示唆もされていない構成である。さらに,上記相違点に係る構成は,当業者の周知技術でもない。よって,引用発明1において上記相違点に係る本願発明2の構成とすることは,当業者が容易になし得たことではない。 したがって,本願発明2は,引用発明1及び引用例2〜4から当業者が容易に発明できたものとはいえない。 2.本願発明1,3〜4について 本願発明1,3〜4は,本願発明2と同じ「間隔維持部材」が「剛性を備え」との技術的事項を有する発明であるから,本願発明2と同じ理由により,引用発明1及び引用例2〜4に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 第7 原査定についての判断 令和4年1月24日付けの手続補正により,補正後の請求項1〜4は「間隔維持部材」が「剛性を備え」との技術的事項を有する発明となった。そして,当該技術的事項は,原査定で引用された引用文献1〜5のいずれにも,記載も示唆もされていない事項であるから,補正後の請求項1〜4に係る発明は,原査定で引用された引用文献1〜5に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。 したがって,原査定を維持することはできない。 第8 結言 以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2022-03-22 |
出願番号 | P2017-078140 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01L)
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最終処分 | 01 成立 |
特許庁審判長 |
恩田 春香 |
特許庁審判官 |
小川 将之 ▲吉▼澤 雅博 |
発明の名称 | 離間装置および離間方法 |
代理人 | 杉浦 正知 |
代理人 | 杉浦 拓真 |