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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1383153
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-07-26 
確定日 2022-03-15 
事件の表示 特願2017−550669「薄膜トランジスタ,当該薄膜トランジスタを有する表示基板及び表示パネル並びにその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 3月29日国際公開,WO2018/053707,令和 1年11月 7日国内公表,特表2019−532484,請求項の数(20)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2016年(平成28年)9月21日を国際出願日とする出願であって,令和2年3月25日付けで拒絶理由通知がされ,同年6月29日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ,同年11月9日付けで拒絶理由通知がされ,令和3年2月10日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ,同年3月15日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,同年7月26日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ,同年10月4日に前置報告がされ,同年12月28日に審判請求人から前置報告に対する上申がされたものである。

第2 原査定の理由の概要
原査定(令和3年3月15日付け拒絶査定)の理由の概要は次のとおりである。

理由1:この出願は,特許請求の範囲の請求項1〜20の記載が,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

理由2:本願の請求項1,4〜6,8〜11,13,14,20に係る発明は,以下の引用文献1に記載された発明に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであり,また,本願の請求項2,3,7,12,15〜19に係る発明は,以下の引用文献1〜5に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.中国特許出願公開第104779302号明細書
2.特開2011−108882号公報
3.特開2014−209601号公報
4.特開2010−080952号公報
5.特開2014−175504号公報

第3 本願発明
本願請求項1〜20に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」〜「本願発明20」という。)は,令和3年7月26日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1〜20に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
薄膜トランジスタであって,
ベース基板と,
前記ベース基板上に位置し,チャネル領域と第1電極接触領域と第2電極接触領域を含む活性層と,
前記第1電極接触領域のベース基板から離れる側に位置し,非晶質炭素材料から作製される第1電極,及び,前記第2電極接触領域のベース基板から離れる側に位置し,非晶質炭素材料から作製される第2電極とを含み,前記第1電極,第2電極の厚さは,200nm〜500nmの範囲内にあり,
前記第1電極は,ソース電極であり,前記第2電極は,ドレイン電極であり,前記薄膜トランジスタは,トップゲート型薄膜トランジスタである,薄膜トランジスタ。」

なお,本願発明2〜8は,本願発明1を減縮した発明であり,本願発明9は,請求項1〜8のいずれかの薄膜トランジスタを含む発明であり,本願発明10は,本願発明1に対応する方法の発明であって,本願発明1とカテゴリ表現が異なるだけの発明であり,本願発明11〜20は,本願発明10を減縮した発明である。

第4 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(中国特許出願公開第104779302号明細書)には,次の事項が記載されている(なお,引用文献1の記載事項は当審の訳文で記載する。下線は当審が付した。)。
「特許請求の範囲
・・・
5.薄膜トランジスタは,以下を含むことを特徴とする:
半導体層;
前記半導体層上に位置するソース電極とドレイン電極;
前記半導体層は,前記ソース電極に対応するソース領域,前記ドレイン電極に対応するドレイン領域,及び前記位置したソース領域とドレイン領域の間の且つ前記ソース電極とドレイン電極の間隙間に対応する中間領域を含み,そのうち,前記ソース領域と前記ソース電極の間,前記ドレイン領域と前記ドレイン電極の間を酸系溶液と反応しない導電膜によって接続する。
6.前記導電膜が非晶質炭素膜であることを特徴とする請求項5に記載の薄膜トランジスタ。
7.前記非晶質炭素膜の厚さが10−1000nmであることを特徴とする請求項6に記載の薄膜トランジスタ。」

「[0066] 実施例5
・・・
[0068] ステップa1:ベース基板1を準備し,ベース基板1上にゲート電極2を形成する。
・・・
[0071] ステップa2:ステップa1の後,ベース基板1にゲート絶縁層3と半導体層4を形成する。
・・・
[0074] ステップa3:工程a2の後,ベース基板1上に保護層5を形成する。
[0075] 本実施例において,保護層は以下の特性を有する:酸性エッチング液と反応しない;ドライエッチングによって除去される:良好な導電性を有している。例えば,本実施例において,保護層は,非晶質炭素膜で形成され,非晶質炭素は,グラファイト状の炭素膜であり,グラファイト状の炭素膜において,炭素原子は,主としてsp2混成状態にあり,sp2混成状態にあるC原子百分率は51%−100%を有する。
・・・
[0077] ステップa4:ステップa3の後,ベース基板1上にソース電極6とドレイン電極7を形成する。
[0078] 例えば,図4に示すように,ステップa3の後,マグネトロンスパッタリング法,熱蒸発法又は他の成膜方法が,ベース基板1上に2000-6000Åの厚さのソース・ドレイン金属層を堆積させるために使われる。ソース・ドレイン金属層はCu,Al,Ag,Mo,Cr,Nd,Ni,Mn,Ti,Ta,Wなどの金属及びこれらの金属の合金で形成されている。
ソース・ドレイン金属層は単層構造又は多層構造にでき,多層構造はCu/Mo,Ti/Cu/Ti,Mo/Al/Moなどを有している。ソース・ドレイン金属層の上にフォトレジストを塗布し,単一のトーンマスクを用いてフォトレジストを除去し,フォトレジストの保持領域を形成することにより露光され,現像されるフォトレジストの保持領域は,ソース電極とドレイン電極とが形成される領域に対応し,フォトレジストが除去された領域は,他の領域に対応する。フォトレジスト除去領域のソース・ドレイン金属層は,エッチングプロセスによって完全にエッチング除去され,フォトレジスト残留領域におけるフォトレジストを除去することで,ソース電極6及びドレイン電極7が形成される。」

以上によれば,引用文献1には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ベース基板,
ベース基板上の半導体層,
前記半導体層上に位置するソース電極とドレイン電極を含み,
前記半導体層は,前記ソース電極に対応するソース領域,前記ドレイン電極に対応するドレイン領域,及び前記ソース領域とドレイン領域の間かつ前記ソース電極とドレイン電極の間の隙間に対応する中間領域を含み,
前記ソース領域と前記ソース電極の間,前記ドレイン領域と前記ドレイン電極の間を酸系溶液と反応しない導電膜によって接続する薄膜トランジスタであって,
前記導電膜は,非晶質炭素膜であり,厚さが10−1000nmであり,
前記ソース電極と前記ドレイン電極は,Cu,Al,Ag,Mo,Cr,Nd,Ni,Mn,Ti,Ta,Wなどの金属及びこれらの金属の合金からなる,薄膜トランジスタ。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「ベース基板」,「前記ソース電極に対応するソース領域」,「前記ドレイン電極に対応するドレイン領域」,「前記ソース領域とドレイン領域の間且つ前記ソース電極とドレイン電極の間の隙間に対応する中間領域」,「前記ソース電極に対応するソース領域,前記ドレイン電極に対応するドレイン領域,及び前記ソース領域とドレイン領域の間かつ前記ソース電極とドレイン電極の間の隙間に対応する中間領域を含」む「半導体層」は,それぞれ,本願発明1の「ベース基板」,「第1電極接触領域」,「第2電極接触領域」,「チャネル領域」,「チャネル領域と第1電極接触領域と第2電極接触領域を含む活性層」に相当する。

イ 引用発明の「前記ソース領域と前記ソース電極の間」の「導電膜」,及び,「前記ドレイン領域と前記ドレイン電極の間」の「導電膜」は,いずれも「非晶質炭素膜」であり,導電性を有しているから,電極として機能するといえる。
また,引用発明において,「前記ソース領域と前記ソース電極の間」の「導電膜」は,「ソース領域」の「ベース基板」から離れる側に位置し,「前記ドレイン領域と前記ドレイン電極の間」の「導電膜」は,「ドレイン領域」の「ベース基板」から離れる側に位置しているといえる。
さらに,引用発明の「導電膜」は,「非晶質炭素膜」であるから,非晶質炭素材料から作製されているといえる。
そうすると,引用発明の「前記ソース領域と前記ソース電極の間」の「非晶質炭素膜」である「導電膜」,「前記ドレイン領域と前記ドレイン電極の間」の「非晶質炭素膜」である「導電膜」は,それぞれ,本願発明1の「前記第1電極接触領域のベース基板から離れる側に位置し,非晶質炭素材料から作製される第1電極」,「前記第2電極接触領域のベース基板から離れる側に位置し,非晶質炭素材料から作製される第2電極」に相当する。

ウ 引用発明は,「前記ソース領域と前記ソース電極の間」の「導電膜」,及び,「前記ドレイン領域と前記ドレイン電極の間」の「導電膜」とは別に,「Cu,Al,Ag,Mo,Cr,Nd,Ni,Mn,Ti,Ta,Wなどの金属及びこれらの金属の合金からなる」「ソース電極とドレイン電極」を有している。

エ 以上から,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。
<一致点>
「薄膜トランジスタであって,
ベース基板と,
前記ベース基板上に位置し,チャネル領域と第1電極接触領域と第2電極接触領域を含む活性層と,
前記第1電極接触領域のベース基板から離れる側に位置し,非晶質炭素材料から作製される第1電極,及び,前記第2電極接触領域のベース基板から離れる側に位置し,非晶質炭素材料から作製される第2電極とを含む,
薄膜トランジスタ。」

<相違点>
相違点1:「前記第1電極,第2電極の厚さ」について,本願発明1は,「200nm〜500nmの範囲内にあ」るのに対し,引用発明は,「10−1000nm」である点
相違点2:本願発明1は,「非晶質炭素材料から作製される第1電極」が「ソース電極」であり,「非晶質炭素材料から作製される第2電極」が「ドレイン電極」であるのに対し,引用発明は,「前記ソース領域と前記ソース電極の間」の「非晶質炭素膜」である「導電膜」,及び,「前記ドレイン領域と前記ドレイン電極の間」の「非晶質炭素膜」である「導電膜」とは別に,「Cu,Al,Ag,Mo,Cr,Nd,Ni,Mn,Ti,Ta,Wなどの金属及びこれらの金属の合金からなる」「ソース電極とドレイン電極」を有している点。
相違点3:本願発明1は,「トップゲート型薄膜トランジスタである」のに対し,引用発明は,そのような構成を備えているかどうか不明な点。

(2)相違点についての判断
ア 事案に鑑み相違点2から検討する。
本願発明1は,「従来のTFTは,ゲート電極,ソース電極,ドレイン電極などの各種電極を製造するための金属材料を用いるのが一般的であ」り,「金属材料が不透明であるため,従来のTFTの開口率は,相対的に低い。」(本願明細書【0027】)との課題を解決するために,「第1電極と第2電極とを非晶質炭素材料から作製することによって,本薄膜トランジスタを有する表示パネルの開口率を大幅に向上させることができる。」(本願明細書【0049】)との効果を奏するものである。
そうすると,本願発明1は,薄膜トランジスタのソース電極及びドレイン電極を,従来,金属材料から作製されていたものに換えて,非晶質炭素材料から作製されるものとすることで,上記課題を解決するものであるから,本願発明1の「ソース電極であ」る「第1電極」及び「ドレイン電極であ」る「第2電極」は,いずれも金属材料から作製されるものは排除されているといえる。
一方,引用発明の「ソース電極とドレイン電極」は,「Cu,Al,Ag,Mo,Cr,Nd,Ni,Mn,Ti,Ta,Wなどの金属及びこれらの金属の合金からなる」ものであるから,本願発明1で排除されている,金属材料から作製されるものである。
そして,引用文献1には,「ソース電極とドレイン電極」として,「Cu,Al,Ag,Mo,Cr,Nd,Ni,Mn,Ti,Ta,Wなどの金属及びこれらの金属の合金からなる」ものを用いずに,「非晶質炭素膜」である「導電膜」を「ソース電極とドレイン電極」に用いることは,記載も示唆もされていない。
また,薄膜トランジスタの「ソース電極とドレイン電極」として,「Cu,Al,Ag,Mo,Cr,Nd,Ni,Mn,Ti,Ta,Wなどの金属及びこれらの金属の合金からなる」ものを用いずに,「非晶質炭素膜」である「導電膜」を「ソース電極とドレイン電極」に用いることは,拒絶査定で引用された引用文献2〜5のいずれにも記載されていないし,本願出願前において周知技術であるともいえない。
したがって,引用発明において,相違点2に係る本願発明1の構成とすること,又は,引用発明において,引用文献2〜5に記載された発明を適用し,相違点2に係る本願発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

イ 小括
よって,相違点1及び3について判断するまでもなく,本願発明1は,引用文献1に記載された発明,又は,引用文献1〜5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

2 本願発明2〜9について
本願発明2〜8は,本願発明1を減縮した発明であり,本願発明9は,本願発明2〜8のいずれかの薄膜トランジスタを含む発明であり,いずれも相違点2に係る本願発明1の構成を有しているから,本願発明1と同様の理由により,本願発明2〜9は,引用文献1に記載された発明,又は,引用文献1〜5に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。

3 本願発明10〜20について
本願発明10は,本願発明1に対応する方法の発明であって,本願発明1とカテゴリ表現が異なるだけの発明であり,本願発明11〜20は,本願発明10を減縮した発明であり,いずれも相違点2に係る本願発明1の構成を有しているから,本願発明1と同様の理由により,本願発明10〜20は,引用文献1に記載された発明,又は,引用文献1〜5に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。

第6 原査定について
1 理由1(特許法第36条第6項第2号)について
審判請求時の補正により,請求項1の「前記ベース基板に位置し,チャネル領域と第1電極接触領域と第2電極接触領域を含む活性層」との記載は,「前記ベース基板上に位置し,チャネル領域と第1電極接触領域と第2電極接触領域を含む活性層」(当審注:下線は補正箇所を示すため合議体が付与した。以下,同様である。)に補正され,請求項10の「活性層をベース基板に形成する」との記載は,「活性層をベース基板上に形成する」に補正されており,いずれの記載も明確であるから,原査定の理由1を維持することはできない。

2 理由2(特許法第29条第2項)について
前記第5で検討したとおり,本願発明1〜20は,引用文献1に記載された発明,又は,引用文献1〜引用文献5に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものではないから,原査定の理由2を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2022-02-24 
出願番号 P2017-550669
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 河本 充雄
小川 将之
発明の名称 薄膜トランジスタ、当該薄膜トランジスタを有する表示基板及び表示パネル並びにその製造方法  
代理人 大渕 一志  
代理人 松永 宣行  

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