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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A47J
管理番号 1383188
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-11-02 
確定日 2022-03-17 
事件の表示 特願2017−251365「加熱調理機」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 7月18日出願公開、特開2019−115508〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年12月27日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 3年 3月18日付け:拒絶理由通知書
令和 3年 5月20日 :意見書及び手続補正書の提出
令和 3年 8月 5日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 3年11月 2日 :審判請求書、同時に手続補正書の提出

第2 令和3年11月2日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年11月2日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「上面を調理面とし加熱調理を可能とする調理台と、
前記調理台の内部からの排気が流れる流路を有する排気ダクトと、
断熱構造を有し、前記調理台の上側にて昇降可能に設けられ、当該調理台の前記調理面からの調理排気を捕集する排気部と、を備え、
前記排気ダクトからの排気と前記排気部で捕集された調理排気とを収集して排気することを特徴とする加熱調理機。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和3年5月20日の手続補正による特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「上面を調理面とし加熱調理を可能とする調理台と、
断熱構造を有し、前記調理台の上側にて昇降可能に設けられ、当該調理台からの排気を行なう排気部と、を備えることを特徴とする加熱調理機。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「排気部」に対して「当該調理台の前記調理面からの調理排気を捕集する」という限定事項を付加するとともに、排気の態様について、本件補正前における、「排気部」が「当該調理台からの排気を行う」という事項を、「前記調理台の内部からの排気が流れる流路を有するダクト」「を備え」、「前記排気ダクトからの排気と前記排気部で捕集された調理排気とを収集して排気する」という事項に限定するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許請求の範囲の請求項1に関する本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するかどうか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用例の記載事項
ア 引用例1
原査定の拒絶の理由で引用され、本願出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例である、実願昭63−25437号(実開平1−136328号)のマイクロフィルム(平成1年9月19日出願公開。以下「引用例1」という。)には、図面とともに次の記載がある(なお、下線は理解の一助のために当審が付与した。以下同様。)。

(ア)引用例1の記載
a 明細書第2ページ第5〜15行
「〔考案が解決しようとする課題〕
しかし、この構造では、レンジからレンジフードまでの間の空間は開放された状態にあったので、レンジからの排気がすべてレンジフードに吸い込まれることはなく、排気の一部は室内側に流れ込んでいた。そのため、室内の空気が汚染されていた。また、夏期においては排気の熱により室内の冷房効率を低下させるという問題があった。
したがって、この考案の目的は、室内空気の汚染が防止できると同時に、冷暖房効率の低下が防止できるレンジフードを提供することである。」

b 明細書第3ページ第20行〜第4ページ第16行
「〔実施例〕
この考案の一実施例を第1図ないし第4図に基づいて説明する。第1図はこの考案の部分斜視図、第2図はそのレンジフードの水平断面図、第3図はその天板および前板を取り除いた状態の部分斜視図、第4図はカバー材を下降させた状態のレンジフードの部分斜視図である。
レンジフード1の前板および両側板の内側にはそれぞれ一対のレール受け1aが固定してあり、このレール受け1aにカバー材2の外面に固定したレール2aが係合している(第4図参照)。レンジフード1の内部には、鉛直方向に一対の隔て板3が固定してあり、この隔て板3で内部を3つの空間に区画している。3つの空間のうち中央の空間の外壁6側の側面には換気扇4が設けてあり、両側の空間の外壁6側には外気取入口1bが形成してある。」

c 明細書第4ページ第17行〜第5ページ第7行
「カバー材2は、内側が透視できる耐熱強化ガラス等により形成してある。このカバー材2は子字形断面に形成してあり、レンジフード1の前板および両側板の内面に沿って昇降自在に設けてある。カバー材2の上端には、第4図に示すように、係止具7が固定されており、この係止具7はレンジフード1の天板に設けたウィンチ8にワイヤ9を介して連結されている。カバー材2の昇降は、ウィンチ8にワイヤ9を巻き取ることにより行う。ウィンチ8の作動は、レンジフード1の外部に設けたスイッチ(図示せず)により行う。」

d 明細書第5ページ第8〜9行
「レンジ部5は、上部に複数のレンジが設けてあり、下部にオーブン等が設けてある。」

e 明細書第5ページ第10行〜第6ページ第5行
「この実施例による動作を説明する。調理に先立ち換気扇4を作動させておく。レンジに鍋等を載せて点火した状態においてスイッチを操作してカバー材2を下降させる。カバー材2が下降してレンジ部5の上面に立設すると、レンジ部5からレンジフード1の間に略密閉空間が形成される。レンジから生じる排気は、カバー材2の内部を上昇し、レンジフード1内に隔て板3により形成された3つの空間のうち中央の空間に吸い込まれ、外壁6側に設けた換気扇4から屋外に排出される。排気の排出と同時に、レンジフード1内の両側部の空間の外壁6側に設けた外気取入口1bから外気が流入降下する。外気の流入により酸素が供給され、レンジ部5での燃焼が安定した状態で行われる。調理が終わったことを確認してカバー材2をレンジフード1内に上昇させ、鍋等を下ろす。」

f 明細書第6ページ第6行〜第7ページ第2行
「この実施例の構成によると、レンジフード1に昇降自在のカバー材2を設けたので、カバー材2を下降させることによりレンジ部5からレンジフード1までの間を周囲から隔絶された略密閉空間に形成することができる。したがって、調理の際に生じる排気が室内側に逃れるのを防止することができ、空内空気を汚染するのを防止することができる。同時に、レンジ部5から生じる熱気および外気取入口1bから流入する冷気をカバー材2で遮ることができるので、室内側を冷暖房していてもその効率を下げることがない。また、レンジフード1の内部を一対の隔て板3を設けることにより3つの空間に区画し、中央の空間の外壁6側に換気扇4を設け、両側の空間の外壁6側に外気取入口1bを形成したので、排気の排出と外気の供給が効果的に行え、レンジ部5での燃焼を安定した状態で行うことができる。」

g 第1図




h 第2図




i 第3図




j 第4図




(イ)上記記載から、引用例1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 上記(ア)a〜jの記載から、引用例1には、「レンジフード1、レンジ部5等の組み合わせ構造体」について記載されているといえる。

b 上記(ア)d、eの記載から、「上部にレンジが設けてあり、燃焼調理が行われるレンジ部5」があるといえ、上記eの記載及び第1図からは、「レンジ部5の上面が、鍋等を載せてレンジによる調理を行う面となっている」ことが把握できるため、「レンジフード1、レンジ部5等の組み合わせ構造体」の「レンジ部5」は、「上面を調理面とし燃焼調理が行われる」ものであることがわかる。

c 上記(ア)dの記載、及び、通常オーブンは内部からの排気を行うものであり、その際に排気が流れる部分のことを流路と呼べることから、「レンジフード1、レンジ部5等の組み合わせ構造体が、レンジ部5のオーブンの内部からの排気が流れる流路を備える」ことがわかる。

d 上記(ア)c、e、(イ)bの記載から、「レンジフード1、レンジ部5等の組み合わせ構造体が、昇降自在に設けられ、下降すると調理面(レンジ部5の上面)に立設し、レンジから生じる排気が内部を上昇するカバー材2を備える」ことがわかる。

e 上記(ア)eの記載から、「カバー材2の内部を上昇した排気は、レンジフード1内に吸い込まれ、換気扇4から屋外に排出される」ことがわかる。

(ウ)上記(ア)、(イ)から、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「上面を調理面とし燃焼調理が行われるレンジ部5と、
レンジ部5のオーブンの内部からの排気が流れる流路と、
昇降自在に設けられ、下降すると調理面に立設し、レンジから生じる排気が内部を上昇するカバー材2と、を備え、
カバー材2の内部を上昇した排気は、レンジフード1内に吸い込まれ、換気扇4から屋外に排出される、レンジフード1、レンジ部5等の組み合わせ構造体。」

イ 引用例2
本願出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例である、特開2008−202852号公報(平成20年9月4日出願公開。以下「引用例2」という。)には、図面とともに次の記載がある。

(ア)引用例2の記載

「【0003】
また、従来、図9に示すレンジフード装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。このレンジフード装置は、レンジ71に設けられた焼き物器72、ガスコンロ73及びオーブン78と、コアンダ作用板74、背板75、レンジフード76、蓋77及び排気ファン79からなり、焼き物器72からの排ガスを排ガス通路80によりレンジフード76に導くと共に、ガスコンロ73で発生した排ガスをコアンダ作用板74によるコアンダ効果によりレンジフード76に導くようにしたものである。」

「【図9】



(イ)上記記載から、引用例2には、次の技術(以下「引2技術」という。)が記載されていると認められる。

「レンジフード装置に、レンジ71に設けられたオーブン78からの排ガスをレンジフード76に導く排ガス通路80を備えさせ、排ガス通路80からの排ガスとガスコンロ73で発生した排ガスとをレンジフード76に導き、排気ファン79から排気するという技術。」

ウ 引用例3
本願出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例である、韓国公開特許第10−2005−0046150号公報(2005年5月18日出願公開。以下「引用例3」という。)には、図面とともに次の記載がある(なお、日本語訳は当審が翻訳した。)。

(ア)引用例3の記載



」(第3ページ第48〜51行)
(当審訳:レンジフード(40)の具体的な構成や形状については添付図面に詳細に示されていないが、キッチンの汚染源及び余剰熱を上昇させて結集させる動力源となる送風機と、様々な種類と形態のフィルターなどを含めて構成することができる。レンジフード(40)の具体的な形状も図1に示されたものに限定されるものではなく、オーブン排気ダクト(50)を通じて調理用オーブン(20)の内部で発生した汚染源及び余剰熱とクックトップ(30)で発生した汚染源及び余剰熱を収集して室外に排出することができる構造があれば充分である。)




(当審訳:図1)

(イ)上記記載から、引用例3には、次の技術(以下「引3技術」という。)が記載されていると認められる。

「レンジフード(40)、クックトップ(30)、調理用オーブン(20)等の組み合わせ構造体に、調理用オーブン(20)からの排気が通るオーブン排気ダクト(50)を備えさせ、オーブン排気ダクト(50)からの排気とクックトップ(30)からの排気とをレンジフード(40)に収集して、送風機で室外に排出するという技術。」

エ 引用例4
本願出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例である、特開平10−292940号公報(平成10年11月4日出願公開。以下「引用例4」という。)には、図面とともに次の記載がある。

(ア)引用例4の記載

「【0013】以下、本発明の調理器ユニットの実施例について、図面を用いて説明する。
(実施例1)図1は本発明の実施例1の調理器ユニットの側面断面図である。図1において、調理器5は上部にこんろ2と下部にグリル3とオーブン4とを複合したもので、キッチンカウンター1の上面にはこんろ2を臨ませ下部にグリル3とオーブン4とが配設されるように構成し、またグリル3の排気口6とオーブン4の排気口7はそれぞれ器具後面に配設している。
【0014】一方、キッチン後壁面12に沿って排気ダクト13、14及び15を調理器5の後部に設け、その上端は排気ファン9の吸引側に臨ませ、排気ダクト13、14の下端はオーブンの排気口7およびグリルの排気口6にそれぞれ連通させ、排気ダクト15の下端はこんろ2の後方上部でこんろ2の排気等を最も効率よく吸引できる位置に臨ませてある。
【0015】さらに、キッチンカウンター1の下方で調理器5の後部となるキッチン後壁面12の一部に、排気ファン9の排出量に見合った空気を室外から供給する給気口11を備える構成である。
【0016】このように構成された調理器ユニットにおいては次のような作用効果がある。
(1)グリル及びオーブンの排気はそれぞれ排気ダクトによって排気ファンに導かれ、こんろの排気等も効率よく吸引できるので室内空気を汚染することは少なくなる。」

「【図1】



(イ)上記記載から、引用例4には、次の技術(以下「引4技術」という。)が記載されていると認められる。

「調理器ユニットに、調理機5のオーブン4の排気口7からの排気を排気ファン9に導く排気ダクト13を備えさせ、排気ダクト13からのオーブン4の排気とキッチンカウンター1の上面に臨むこんろ2の排気とを、排気ファン9で吸引して排気するという技術。」

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)上記(2)ア(ア)a、fの記載によると、引用発明は、レンジからの排気の熱による室内の冷房効率の低下を防止するレンジフードを提供することを目的とし、調理の際に生じる排気が室内側に逃れるのを防止する技術であるため、引用発明と本件補正発明とは、技術分野が共通し、室内への熱の拡散を防止する点においては、課題も共通している。

(イ)上記(2)ア(ア)eの記載から、引用発明における「レンジ部5」が、調理時に鍋等を載せる台としての役割を果たすことが把握できるため、引用発明における「上面を調理面とし燃焼調理が行われるレンジ部5」は、本件補正発明における「上面を調理面とし加熱調理を可能とする調理台」に相当する。

(ウ)引用発明における「レンジ部5のオーブンの内部からの排気が流れる流路」は、上記(イ)も考慮すると、本件補正発明における「前記調理台の内部からの排気が流れる流路」に相当する。

(エ)引用発明における「カバー材2」は、「下降すると調理面に立設」するものであるから、第1図も参酌すると、調理台の調理面の上側において昇降自在であると認められる。
また、引用発明における「カバー材2」の「内部を」「排気が」「上昇する」ことから、カバー材2は排気を捕集しているものと認められる。
そうすると、引用発明における「昇降自在に設けられ、下降すると調理面に立設し、レンジから生じる排気が内部を上昇するカバー材2」は、本件補正発明における「前記調理台の上側にて昇降可能に設けられ、当該調理台の前記調理面からの調理排気を捕集する排気部」に相当するといえる。

(オ)引用発明における「カバー材2の内部を上昇した排気」は、上記(エ)も考慮すると、本件補正発明における「前記排気部で捕集された調理排気」に相当する。引用発明における「排気は、レンジフード1内に吸い込まれ、換気扇4から屋外に排出される」という事項は、レンジフード1内に排気を集めているといえるから、本件補正発明における「排気」「を収集して排気する」という事項に相当する。

(カ)引用発明における「レンジフード1、レンジ部5等の組み合わせ構造体」は、レンジ部5において燃焼調理を行うものであるため、本件補正発明における「加熱調理機」に相当する。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「上面を調理面とし加熱調理を可能とする調理台と、
前記調理台の内部からの排気が流れる流路と、
前記調理台の上側にて昇降可能に設けられ、当該調理台の前記調理面からの調理排気を捕集する排気部と、を備え、
前記排気部で捕集された調理排気を収集して排気する加熱調理機。」

<相違点1>
「排気部」の構造について、
本件補正発明では、「排気部」が「断熱構造を有」するのに対し、
引用発明では、排気部がそのような構造を有するのか否か明らかでない点。

<相違点2>
「加熱調理機」が、
本件補正発明では、「前記調理台の内部からの排気が流れる流路を有する排気ダクト」「を備え、」「前記排気ダクトからの排気と前記排気部で捕集された調理排気とを収集して排気する」のに対し、
引用発明では、調理台の内部からの排気が流れる流路を備えることまでは特定されているものの、当該流路を有する排気ダクトを備えることまでは特定されておらず、さらに、排気部で捕集された調理排気を収集して排気することまでは特定されているものの、排気ダクトからの排気と当該調理排気とを収集して排気することまでは特定されていない点。

(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア 相違点1について
引用発明における「カバー材2」は、上記(2)ア(ア)fの記載によると、「レンジ部5から生じる熱気および外気取入口1bから流入する冷気を」「遮ることができる」ものであり、「室内側を冷暖房していてもその効率を下げることがない」という効果を奏するものであるところ、引用例1に明記はないものの、「カバー材2」が断熱性能を有することが、室内側の冷暖房効率を下げない効果をより強く発揮し得ることは、当業者にとって明らかである。そうすると、引用発明には、カバー材2に断熱性能を備えさせるという課題が内在しているといえる。
さらに、カバー材2がレンジ部5から生じる熱気により加熱され、室内側からユーザーが高温となったカバー材2に触れると、火傷などの危険性があることは明らかであり、引用発明にはカバー材2に断熱性能を備えさせるという課題が内在しているといえる。
そして、断熱性能を備えさせる際に、断熱構造を設けることは、引用例を示すまでもなく周知な技術である(以下「周知技術1」という。)。
よって、引用発明に、引用発明が内在する課題を考慮して周知技術1を適用することには動機があるといえる。
なお、上記(2)ア(ア)cの記載を参酌すると、引用発明のカバー材2は、「内側が透視できる耐熱強化ガラス等により形成してある」と例示はあるものの、ガラスにおける断熱性能を備える断熱構造として、例えば二重ガラス構造は、引用例を示すまでもなく周知な構造であるから、上記判断に影響するものではない。
したがって、引用発明に、引用発明が内在する課題を考慮して周知技術1を適用し、相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
引用例1に明記はないものの、引用発明がオーブンの内部からの排気を流す流路を有する排気ダクトを備える蓋然性は高く、本件補正発明と引用発明とは、相違点2のうち、「引用発明では、調理台の内部からの排気が流れる流路を備えることまでは特定されているものの、当該流路を有する排気ダクトを備えることまでは特定されておらず」という事項においては、実質的には相違していないといえる。そういえないとしても、加熱調理機の技術分野において、「加熱調理機に、調理台のオーブンの内部からの排気が流れる流路を有する排気ダクトを備えさせ、排気ダクトからの排気と調理台の調理面からの調理排気とを収集して排気する技術」は、周知技術である(例えば、引2技術、引3技術及び引4技術等参照。以下「周知技術2」という。)。
そして、引用発明が排気ダクトを備えるか否かにかかわらず、引用発明と周知技術2とは、調理台の調理面からの調理排気と、調理台のオーブンの内部からの排気とが発生する点及び調理排気を収集して排気する点において作用ないし機能が共通している。また、引用発明において、「レンジ部5のオーブンの内部からの排気」が、収集されることなく室内に流出すると、「レンジからの排気の熱による室内の冷房効率の低下を防止するレンジフードを提供する」という引用発明の目的に反することになるため、引用発明において、「レンジ部5のオーブンの内部からの排気」を、「レンジから生じる排気」と同様に、収集してから換気扇4を介して「屋外」に排出することに動機があるといえる。そうすると、引用発明が排気ダクトを備えるといえるか否かにかかわらず、引用発明に、オーブンの内部からの排気と調理排気とを収集して排気する技術である周知技術2を適用しようとする動機があるといえる。
よって、引用発明に周知技術2を適用して、相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明、周知技術1及び周知技術2の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

エ したがって、本件補正発明は、引用発明、周知技術1及び周知技術2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

オ 請求人は審判請求書において、「そして、本願発明は、上記した特徴的な構成を有することにより、例えば調理台内部に設けられた燃焼部から生じる調理台の内部からの排気と、例えば加熱容器から生じる調理面からの排気と、が一体的に処理される、という独自の効果を奏する。」(審判請求書第4ページ第27行〜第5ページ第1行)と主張している。
しかしながら、本件補正発明における発明特定事項、特に「前記排気ダクトからの排気と前記排気部で捕集された調理排気とを収集して排気する」という発明特定事項を参酌しても、「排気ダクトからの排気」と「調理排気」とが「(個別に収集されて)個別に排気される」のか、「一体的に排気される」のかまでは特定されておらず、本件補正発明が当該主張に係る効果を奏するとは認められない。
また、仮に、本件補正発明が当該主張に係る効果を奏するとしても、引用例2の【図9】からは「排ガス通路80からの排ガスとガスコンロ73で発生した排ガスとをレンジフード76に導き、一体的に排気ファン79から排気する」態様が看取でき、引用例3の図1からは「オーブン排気ダクト(50)からの排気とクックトップ(30)からの排気とをレンジフード(40)に収集して、一体的に送風機で室外に排出する」態様が看取でき、引用例4の【図1】からは「排気ダクト13からのオーブン4の排気とキッチンカウンター1の上面に臨むこんろ2の排気とを、一体的に排気ファン9で吸引して排気する」態様が看取できることから、周知技術2は、「排気ダクトからの排気と調理台の調理面からの調理排気とを収集して、一体的に排気する技術」であるといえるから、当該主張に係る効果は、周知技術2から当業者が予測し得るものである。
よって、請求人の上記主張を採用することができない。また、仮に採用することができたとしても、請求人の上記主張は結論を左右するものではない。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和3年5月20日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用例1に記載された発明及び引用例を示すまでもなく周知な事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

引用例1:実願昭63−25437号(実開平1−136328号)のマイクロフィルム

3 引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例1及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「排気部」に対する「当該調理台の前記調理面からの調理排気を捕集する」という限定事項を削除するとともに、排気の態様について、「前記調理台の内部からの排気が流れる流路を有するダクト」「を備え」、「前記排気ダクトからの排気と前記排気部で捕集された調理排気とを収集して排気する」という事項を、「排気部」が「当該調理台からの排気を行う」という事項にしたものである。
そうすると、本願発明は、上記相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項を有しないから、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は上記相違点1においてのみ相違する。
そして、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用例1に記載された発明である引用発明に引用例を示すまでもなく周知な事項である周知技術1を適用して、上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるから、本願発明は、引用例1に記載された発明及び引用例を示すまでもなく周知な事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-01-06 
結審通知日 2022-01-11 
審決日 2022-01-26 
出願番号 P2017-251365
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A47J)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 林 茂樹
特許庁審判官 山崎 勝司
河内 誠
発明の名称 加熱調理機  
代理人 古部 次郎  
代理人 尾形 文雄  

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