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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
管理番号 1383210
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-07-22 
確定日 2021-12-15 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6458089号発明「裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物の製造方法および積層体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6458089号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを認める。 特許第6458089号の請求項1、2に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6458089号の請求項1、2に係る特許(以下、まとめて「本件特許」という。)についての出願は、平成29年6月29日(優先権主張平成28年10月3日)の出願であって、平成30年12月28日にその特許権の設定登録がされ、平成31年1月23日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、本件特許に対して、令和元年7月22日に特許異議申立人である佐藤知里により特許異議の申立てがされた。
本件特許異議申立事件における以降の手続の経緯は、以下のとおりである。
令和 元年10月25日付け:(当審)取消理由通知
令和 2年 1月20日 :(特許権者)意見書及び訂正請求書の提出
同年 3月 3日 :(特許異議申立人)意見書の提出
同年 4月 7日付け:(当審)取消理由通知(決定の予告)
同年 7月 2日 :(特許権者)意見書の提出

第2 本件訂正の適否についての判断

1 本件訂正の内容(訂正事項)
令和2年1月20日にされた訂正の請求(以下、当該訂正を「本件訂正」という。)は、特許法第120条の5第3項の規定に従い、独立形式の請求項である特許請求の範囲の請求項1及び2について、請求項ごとに訂正することを求めるものであって、その内容(訂正事項)は、次のとおりである(下線は訂正箇所)。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤およびアルコール系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種と、バイオマス由来成分とを含有するバイオマス由来のポリウレタンウレア樹脂を含有するバイオマス由来のポリウレタンウレア樹脂溶液を準備する工程(1)と、
該工程(1)で得られたバイオマス由来のポリウレタンウレア樹脂溶液と、色材と、溶剤とを、混合、分散し、裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物を得る工程(2)を含み、
前記溶剤が、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤およびアルコール系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記バイオマス由来成分が、バイオマス由来のポリカルボン酸を含有するポリエステルポリオールを含み、かつ、
前記バイオマス由来の前記ポリカルボン酸が、コハク酸、セバシン酸、およびダイマー酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記バイオマス由来のポリウレタンウレア樹脂溶液中のポリウレタンウレア樹脂のアミン価が1〜13mgKOH/gであり、かつ、前記バイオマス由来のポリウレタンウレア樹脂溶液中のポリウレタンウレア樹脂の重量平均分子量が10,000〜100,000であることを特徴とする裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物の製造方法であって、
当該裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物を、グラビア印刷法によりフィルム基材層上に印刷塗膜としたとき、該印刷塗膜中のバイオマス度(顔料を含まない)が3〜40質量%となるように構成された、裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物の製造方法。」
と記載されているのを、
「炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤およびアルコール系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種と、ポリウレタンウレア樹脂とを含有するポリウレタンウレア樹脂溶液を準備する工程(1)と、
該工程(1)で得られた前記ポリウレタンウレア樹脂溶液と、色材と、溶剤とを、混合、分散し、裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物を得る工程(2)と、
を含む裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物の製造方法であって、
前記溶剤が、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤およびアルコール系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記ポリウレタンウレア樹脂が、ポリカルボン酸とポリオールとの反応からなるポリエステルポリオールを用いて合成されたものであり、かつ、
前記ポリカルボン酸が、バイオマス由来のセバシン酸およびバイオマス由来のダイマー酸からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記ポリオールがジオールであり、
前記ポリウレタンウレア樹脂溶液中の前記ポリウレタンウレア樹脂のアミン価が1〜13mgKOH/gであり、かつ、前記ポリウレタンウレア樹脂溶液中の前記ポリウレタンウレア樹脂の重量平均分子量が10,000〜100,000であり、
当該裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物を、グラビア印刷法によりフィルム基材層上に印刷塗膜としたとき、該印刷塗膜中のバイオマス度(顔料を含まない)が3〜40質量%となるように構成された、裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物の製造方法。」
に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、
「フィルム基材層を準備する工程と、
該フィルム基材層の一方に、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤およびアルコール系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種と、バイオマス由来成分とを含有するバイオマス由来のポリウレタンウレア樹脂を含み、
前記バイオマス由来成分が、バイオマス由来のポリカルボン酸を含有するポリエステルポリオールを含み、かつ、
前記バイオマス由来の前記ポリカルボン酸が、コハク酸、セバシン酸、およびダイマー酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記バイオマス由来のポリウレタンウレア樹脂のアミン価が1〜13mgKOH/gであり、かつ、前記バイオマス由来のポリウレタンウレア樹脂の重量平均分子量が10,000〜100,000である裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物からなる印刷層を作成するグラビア印刷工程と、
該印刷層上にラミネート層を作成する工程と、を含み、
前記グラビア印刷工程により作成された印刷層のバイオマス度(顔料を含まない)が3〜40質量%であることを特徴とする積層体の製造方法。」
と記載されているのを、
「フィルム基材層を準備する工程と、
該フィルム基材層の一方に、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤およびアルコール系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種と、ポリウレタンウレア樹脂とを含む裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物からなる印刷層を作成するグラビア印刷工程と、
該印刷層上にラミネート層を作成する工程と、
を含む積層体の製造方法であって、
前記ポリウレタンウレア樹脂が、ポリカルボン酸とポリオールとの反応からなるポリエステルポリオールを用いて合成されたものであり、かつ、
前記ポリカルボン酸が、バイオマス由来のセバシン酸およびバイオマス由来のダイマー酸からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記ポリオールがジオールであり、
前記ポリウレタンウレア樹脂のアミン価が1〜13mgKOH/gであり、かつ、前記ポリウレタンウレア樹脂の重量平均分子量が10,000〜100,000であり、
前記グラビア印刷工程により作成された印刷層のバイオマス度(顔料を含まない)が3〜40質量%であることを特徴とする積層体の製造方法。」
に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
ア 訂正の目的について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1には、「炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤およびアルコール系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種と、バイオマス由来成分とを含有するバイオマス由来のポリウレタンウレア樹脂を含有するバイオマス由来のポリウレタンウレア樹脂溶液を準備する工程(1)」と記載されていたが、当該「ポリウレタンウレア樹脂溶液」とは、どのような成分で構成されているものであり、また、当該「準備する工程(1)」とは、何を準備する工程であるのかが、明確ではなかったところ、訂正事項1に係る訂正は、これらの明瞭化を図ることを目的とするものといえる。
また、訂正事項1は、ポリウレタンウレア樹脂の構成を、その原料をさらに特定することなどにより、限定する訂正を含むものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げられた特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。
イ 願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
上記アのとおり、訂正事項1は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「ポリウレタンウレア樹脂溶液」及び「工程(1)」の内容の明瞭化を図るとともに、「ポリウレタンウレア樹脂」の内容を限定するものであるところ、前者は、明細書の【0091】に記載されたポリウレタンウレア樹脂溶液の具体的な作製方法などに基づいて、また、後者は、明細書の【0022】〜【0028】に記載された「ポリオール(I)」、「(A)ポリエステルポリオール」及び「(A)ポリエステルポリオールのポリカルボン酸(ii)」の具体例などに基づいて、それぞれ訂正されたものといえる。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものであると認められる。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
上記アのとおり、訂正事項1は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「ポリウレタンウレア樹脂溶液」及び「工程(1)」の内容の明瞭化を図るとともに、「ポリウレタンウレア樹脂」の内容を限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
(2) 訂正事項2について
ア 訂正の目的について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2には、「該フィルム基材層の一方に、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤およびアルコール系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種と、バイオマス由来成分とを含有するバイオマス由来のポリウレタンウレア樹脂を含み・・・である裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物からなる印刷層」と記載されていたが、当該「ポリウレタンウレア樹脂」、「裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物」、「印刷層」の構成成分などが、明確ではなかったところ、訂正事項2に係る訂正は、これらの明瞭化を図ることを目的とするものといえる。
また、訂正事項2は、ポリウレタンウレア樹脂の構成を、その原料をさらに特定することなどにより、限定する訂正を含むものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げられた特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。
イ 願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
上記アのとおり、訂正事項2は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2に記載された「ポリウレタンウレア樹脂」、「裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物」、「印刷層」の内容の明瞭化を図るとともに、「ポリウレタンウレア樹脂」の内容を限定するものであって、前者は、明細書の【0091】に記載されたポリウレタンウレア樹脂溶液の具体的な作製方法や同【0117】に記載された印刷物の具体的な作製方法などに基づいて、また、後者は、明細書の【0022】〜【0028】に記載された「ポリオール(I)」、「(A)ポリエステルポリオール」及び「(A)ポリエステルポリオールのポリカルボン酸(ii)」の具体例などに基づいて、それぞれ訂正されたものといえる。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものであると認められる。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
上記アのとおり、訂正事項2は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2に記載された「ポリウレタンウレア樹脂」、「裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物」、「印刷層」の内容の明瞭化を図るとともに、「ポリウレタンウレア樹脂」の内容を限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

3 小括
上記1、2のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第3項の規定に従い、請求項1、2について請求項ごとに訂正することを求めるものであり、その訂正事項はいずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1、2について訂正することを認める。

第3 本件発明

上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1、2に係る発明(以下、各請求項に係る発明を「本件発明1」、「本件発明2」といい、まとめて「本件発明」という。)は、本件訂正後の特許請求の範囲に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(下線は訂正箇所)。
「【請求項1】
炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤およびアルコール系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種と、ポリウレタンウレア樹脂とを含有するポリウレタンウレア樹脂溶液を準備する工程(1)と、
該工程(1)で得られた前記ポリウレタンウレア樹脂溶液と、色材と、溶剤とを、混合、分散し、裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物を得る工程(2)と、
を含む裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物の製造方法であって、
前記溶剤が、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤およびアルコール系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記ポリウレタンウレア樹脂が、ポリカルボン酸とポリオールとの反応からなるポリエステルポリオールを用いて合成されたものであり、かつ、
前記ポリカルボン酸が、バイオマス由来のセバシン酸およびバイオマス由来のダイマー酸からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記ポリオールがジオールであり、
前記ポリウレタンウレア樹脂溶液中の前記ポリウレタンウレア樹脂のアミン価が1〜13mgKOH/gであり、かつ、前記ポリウレタンウレア樹脂溶液中の前記ポリウレタンウレア樹脂の重量平均分子量が10,000〜100,000であり、
当該裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物を、グラビア印刷法によりフィルム基材層上に印刷塗膜としたとき、該印刷塗膜中のバイオマス度(顔料を含まない)が3〜40質量%となるように構成された、裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物の製造方法。
【請求項2】
フィルム基材層を準備する工程と、
該フィルム基材層の一方に、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤およびアルコール系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種と、ポリウレタンウレア樹脂とを含む裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物からなる印刷層を作成するグラビア印刷工程と、
該印刷層上にラミネート層を作成する工程と、
を含む積層体の製造方法であって、
前記ポリウレタンウレア樹脂が、ポリカルボン酸とポリオールとの反応からなるポリエステルポリオールを用いて合成されたものであり、かつ、
前記ポリカルボン酸が、バイオマス由来のセバシン酸およびバイオマス由来のダイマー酸からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記ポリオールがジオールであり、
前記ポリウレタンウレア樹脂のアミン価が1〜13mgKOH/gであり、かつ、前記ポリウレタンウレア樹脂の重量平均分子量が10,000〜100,000であり、
前記グラビア印刷工程により作成された印刷層のバイオマス度(顔料を含まない)が3〜40質量%であることを特徴とする積層体の製造方法。」

第4 令和2年4月7日付けの取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由の概要

標記取消理由は進歩性欠如に関するものであり、要するに、次のとおりのものである。
すなわち、本件発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するため、取り消すべきものである、というものである。

第5 取消理由(進歩性欠如)についての当審の判断

上記取消理由(進歩性欠如)は、本件発明、すなわち、本件訂正後の請求項1及び2に係る発明に対して通知されたものであるが、令和2年7月2日に提出された意見書における特許権者の主張を参酌しても、当該取消理由は依然として妥当なものであると判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1 証拠
(1) 主たる証拠とした引用例
特開2016−150942号公報(特許異議申立人が甲第1号証として提出した証拠。以下、単に「甲1」という。)
(2) 従たる証拠とした引用例
特開2015−38162号公報(特許異議申立人が甲第2号証として提出した証拠。以下、単に「甲2」という。)

2 甲1及び甲2の記載事項
(1) 甲1の記載
甲1には、「グラビアまたはフレキソ印刷インキ用ポリウレタンウレア樹脂組成物」(発明の名称)に関する、次の記載がある。
ア 「【請求項1】
高分子ポリオールと、ジイソシアネートとを反応させてなる末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを、有機ジアミンと反応させてなるポリウレタンウレア樹脂、および
有機溶剤を含有するグラビアまたはフレキソ印刷インキ用ポリウレタンウレア樹脂組成物であって、
下記(1)〜(3)であることを特徴とするグラビアまたはフレキソ印刷インキ用ポリウレタンウレア樹脂組成物。
(1)前記高分子ポリオールは、ポリエステルポリオールを前記高分子ポリオールに対して50重量%以上含有する。
(2)前記ポリエステルポリオールは、グリコールと二塩基酸との反応からなる。
(3)前記ポリエステルポリオールの全グリコールは、2−メチル−1,3−プロパンジオールと、3−メチル−1,5−ペンタンジオールとを前記ポリエステルポリオールの全グリコールに対してそれぞれ20重量%以上含有する。
【請求項2】
請求項1記載のポリウレタンウレア樹脂組成物を用いてなる印刷インキ組成物。」
イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は包装材料として用いられる各種プラスチックフィルム基材に対し、有用な印刷インキに用いられるグラビアまたはフレキソ印刷インキ用ポリウレタンウレア樹脂組成物に関する。より詳しくは、ノントルエン系の溶剤系においても良好な印刷適性を示し、種々の印刷物性に優れたグラビアまたはフレキソ印刷インキ用ポリウレタンウレア樹脂組成物に関する。」
ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記状況を鑑み鋭意検討を重ねた結果、ポリウレタンウレア樹脂に使用するポリエステルポリオールの全グリコール中、2−メチル−1,3−プロパンジオールと、3−メチル−1,5−ペンタンジオールとをそれぞれ20重量%以上含有するポリウレタンウレア樹脂組成物は、低温安定性が良好であり、さらに該ポリウレタンウレア樹脂組成物を使用したグラビア印刷インキは、ノントルエン系の溶剤系における印刷適性、ラミネート強度、耐ブロッキング性、レトルト適性の印刷物性がいずれも良好であることを見出し、本発明に至った。」
エ 「【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のグラビアまたはフレキソ印刷インキ用ポリウレタンウレア樹脂組成物について説明する。
【0011】
本発明におけるポリウレタンウレア樹脂は、高分子ポリオールと、ジイソシアネートとを反応させてなる末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを、有機ジアミンと反応させてなる。つまり、ポリウレタンウレア樹脂の合成法は、まずプレポリマー反応として高分子ポリオールとジイソシアネート化合物を、必要に応じイソシアネート基に不活性な溶媒を用い、また、更に必要であれば触媒を用いて10〜100℃の温度で反応させ、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを製造し、次いで、鎖延長反応としてウレタンプレポリマーと有機ジアミンとを、10〜80℃で反応させる。プレポリマー反応および鎖延長反応の終点は、粘度測定、IR測定によるNCOピ−ク、滴定によるアミン価測定等により判断される。
【0012】
本発明でいう高分子ポリオールは、グラビアインキ用として周知のポリオールであり、重合反応や、縮合反応や、天然物などで入手でき、その多くは、平均重量分子量が400〜10000のものである。
本発明における使用する高分子ポリオールとしては、高分子ポリオール中、ポリエステルポリオールを50重量%以上含有する。さらに、ポリエステルポリオールを70重量%以上であると好ましい。また、高分子ポリオール中、50重量%以下であれば、ポリエステルポリオール以外の高分子ポリオール、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリカプロラクトン等を用いることができ、それぞれ1種または2種以上を併用してもよい。ポリエステルポリオールの他に併用する高分子ポリオールとしては、耐ブロッキング性、版かぶり性の観点からポリエーテルポリオールが好ましく、さらにポリプロピレングリコールが好ましい。
【0013】
本発明におけるポリエステルポリオールは、グリコールと二塩基酸との反応からなる。さらに、グリコールとしては、2−メチル−1,3−プロパンジオール(以下、MPOとも記載する)および3−メチル−1,5−ペンタンジオール(以下、MPDとも記載する)を共に含有し、それぞれ全グリコール中20重量%以上含有する。MPOを20重量%以上含有すると、ラミネート強度が良好となり、MPDを20重量%以上含有すると、耐ブロッキング性が良好となる。MPOおよびMPDをそれぞれ全グリコール中30重量%以上含有すると、さらに好ましい。
【0014】
なお、MPOおよびMPDは、MPOと、MPDと二塩基酸を一緒に反応させ、ひとつのポリエステルポリオール中にMPOおよびMPDを存在させても良いし、MPDを含まずMPOを含むポリオールと二塩基酸との反応からなるポリエステルポリオール、およびMPOを含まずMPDを含むポリオールと二塩基酸との反応からなるポリエステルポリオールの混合物として利用しても良い。
【0015】
上記範囲内であれば、MPO、MPD以外に、公知のグリコールを併用することもできる。例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、1,4−ブチンジオール、1,4−ブチレンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、ソルビトール、ペンタエスリトール等が挙げられる。
【0016】
二塩基酸としては、アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、フマル酸、こはく酸、しゅう酸、マロン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等が挙げられる。
【0017】
課題のひとつでもある包装内容物への溶出が課題となっている環状ジエステルは、ポリエステルポリオール生成時の副生成物として混入する。一般的に生成するポリエステルポリオールの炭素主鎖が長い方が、環状ジエステルの生成が容易となるため、本発明において、二塩基酸はアジピン酸が好ましい。」
オ 「【0020】
本発明において、ポリウレタンウレア樹脂は、アミン価を有することが好ましい。ポリウレタンウレア樹脂のアミン価は1.0〜13.0mgKOH/gであることが好ましく、この範囲内であると、ラミネート強度および耐ブロッキング性のバランスが取りやすい。」
カ 「【0022】
本発明におけるポリウレタンウレア樹脂の重量平均分子量は10000〜100000であることが好ましい。さらに好ましくは20000〜60000である。重量平均分子量が10000〜100000の範囲内であると、ラミネート強度および耐ブロッキング性のバランスが取りやすい。」
キ 「【0023】
本発明におけるポリウレタンウレア樹脂組成物に使用される有機溶剤は、エステル系溶剤とアルコール系溶剤の混合溶剤を含む。エステル系溶剤としては、酢酸エチル、ノルマルプロピルアセテート、イソプロピルアセテート、イソブチルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなど、アルコール系溶剤としては、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロピルアルコール、ノルマルブタノール、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのアルコール系溶剤など公知の溶剤を使用することが好ましい。」
ク 「【0027】
本発明におけるグラビア印刷インキは、顔料をバインダー樹脂等により分散機を用いて有機溶剤中に分散し、得られた顔料分散体にバインダー樹脂、各種添加剤や有機溶剤等を混合して製造できる。分散機としては一般に使用される、例えばローラーミル、ボールミル、ペブルミル、アトライター、サンドミルなどを用いることができる。顔料分散体における顔料の粒度分布は、分散機の粉砕メディアのサイズ、粉砕メディアの充填率、分散処理時間、顔料分散体の吐出速度、顔料分散体の粘度などを適宜調節することにより、調整することができる。また、本発明においては顔料を含有しないメジウム等に関しても適用できる。」
ケ 「【0032】
本発明におけるグラビア印刷インキに使用される有機溶剤としては、酢酸メチル、酢酸エチル、ノルマルプロピルアセテート、イソプロピルアセテート、イソブチルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエステル系溶剤、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロピルアルコール、ノルマルブタノール、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのアルコール系溶剤、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどの炭化水素系溶剤など、公知の溶剤を使用できる。近年、作業環境の観点からトルエン、キシレンといった芳香族有機溶剤や、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンといったケトン系溶剤を排除する要望があり、本発明の印刷インキ組成物では、これを排除した溶剤が好適に用いられる。」
コ 「【0039】
本発明における印刷インキ組成物を印刷してなる印刷物は、さらに、積層体とすることができる。当該積層体は、印刷インキ組成物を印刷した印刷物に少なくとも一層のラミネート加工を施すことで得られる。ラミネート加工には様々な加工法があるが、代表的なものとして、(1)押出しラミネート法、(2)ドライラミネート法等が挙げられる。
【0040】
(1)押出しラミネート法とは、得られた印刷物の印刷面に、熱可塑性樹脂を溶融して、Tダイと呼ばれるスリット状のダイからフィルム状に押し出したものを、基材に積層する方法である。印刷物の印刷面には、予めアンカーコート剤を塗布してから、ラミネートすることが多い。また、溶融樹脂を印刷物の印刷面に押し出し、別の巻出し機からシーラントを貼り合わせることもできる。アンカーコート剤としてはイミン系、ブタジエン系、イソシアネート系のアンカーコート剤が使用できる。具体的には、東洋モートン株式会社製・EL−420(イミン系)、EL−452(ブタジエン系)、EL−530A/B(イソシアネート系)、EL−540/CAT−RT32(イソシアネート系)等が挙げられる。溶融樹脂としては低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が使用できる。具体的には、日本ポリエチレン株式会社製ノバテックLD LC600A(低密度ポリエチレン)等が挙げられる。シーラントとしては、基材で用いた前記各種フィルム、セロハン、紙もしくはアルミニウム箔など、もしくはこれらの複合材料からなるフィルム状、またはシート状のものが挙げられる。具体的には、三井化学東セロ株式会社製TUX-FCD(LLDPE)、フタムラ化学株式会社製FCMN(CPP)、麗光株式会社製ダイアラスター(VMPET)等がある。
【0041】
(2)ドライラミネート法とは、接着剤を有機溶剤で適当な粘度に希釈して、得られた印刷物の印刷面に塗布し、乾燥後シーラントと圧着して積層する方法である。接着剤としてはポリオール/イソシアネートの2液型が主流であり、具体的には東洋モートン株式会社製・TM−250HV/CAT−RT86L−60、TM−550/CAT−RT37、TM−314/CAT−14B等が挙げられる。シーラントとしては、基材で用いた前記各種フィルム、セロハン、紙もしくはアルミニウム箔など、もしくはこれらの複合材料からなるフィルム状、またはシート状のものが挙げられる。具体的には、三井化学東セロ株式会社製TUX-FCD(LLDPE)、東レ株式会社製ZK93KM(CPP)、麗光株式会社製ダイアラスター(VMPET)、東レ株式会社製2203(VMCPP)等がある。
【0042】
上記の方法で得られた積層体は、シーラント面同士がヒートシールされることで包装袋となる。そのため、包装袋での最も内側に当たるシーラントには、ヒートシール性を付与するためのフィルムが使用される。例えば、無延伸のポリエチレンもしくはポリプロピレン等のポリオレフィン等が挙げられる。」
サ 「【0044】
<アミン価の測定方法>
試料を0.5〜2g精秤する。(試料量:Sg)精秤した試料に中性エタノール(BDG中性)30mLを加え溶解させる。得られた溶液を0.2mol/lエタノール性塩酸溶液(力価:f)で滴定を行なう。溶液の色が緑から黄に変化した点を終点とし、この時の滴定量(AmL)を用い次の(式1)によりアミン価を求めた。
(式1) アミン価=(A×f×0.2×56.108)/S
【0045】
<数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)の測定方法>
数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)の測定は、昭和電工社製GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)「ShodexGPCSystem−21」を用いた。GPCは溶媒に溶解した物質をその分子サイズの差によって分離定量する液体クロマトグラフィーであり、溶媒としてはテトロヒドロフラン、分子量の決定はポリスチレン換算で行った。」
シ 「【0048】
(ポリエステルポリオールの合成)
[合成例1−1]
攪拌機、温度計、分水器および窒素ガス導入管を備えた丸底フラスコに、2−メチル−1,3−プロパンジオール(以下MPOとも略す)9.546部、3−メチル−1,5−ペンタンジオール(以下MPDとも略す)37.556部、アジピン酸52.896部、テトラブチルチタネート0.002部を仕込み、窒素気流下に230℃で縮合により生じる水を除去しながらエステル化を8時間行った。ポリエステルの酸価が15以下になったことを確認後、真空ポンプにより徐々に真空度を上げ反応を終了した。これにより水酸基価56.1mgKOH/g(水酸基価から算出される数平均分子量2000)、酸価0.3mgKOH/gのポリエステルポリオ−ル(A1)を得た。
【0049】
[合成例1−2〜1−15]
表1の仕込み比にて、合成例1−1と同様の操作で、ポリエステルポリオール(A2〜A15)を得た。
・・・
【0051】
(ポリウレタンウレア樹脂組成物の合成)
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、ポリエステルポリオ−ル(A1)22.887部、イソホロンジイソシアネート(以下IPDIとも略す)5.087部、酢酸エチル7.500部、2−エチルヘキサン酸スズ0.003部を仕込み、窒素気流下に120℃で6時間反応させ、酢酸エチル7.500部を加え冷却し、末端イソシアネートプレポリマーの溶液を得た。次いでイソホロンジアミン(以下IPDAとも略す)2.026部、酢酸エチル34.000部およびイソプロピルアルコール(以下IPAとも略す)21.000部を混合したものへ、得られた末端イソシアネートプレポリマーの溶液を室温で徐々に添加し、次に50℃で1時間反応させ、固形分30.0%、重量平均分子量35000、アミン価4.0mgKOH/樹脂1gのポリウレタンウレア樹脂組成物(B1)を得た。
【0052】
[合成例2−2〜2−19]
表2および表3の仕込み比にて、合成例2−1と同様の操作で、ポリウレタンウレア樹脂組成物(B2〜B19)を得た。
・・・
【0055】
(塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体ワニスの調製)
塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(日信化学工業株式会社製ソルバインTA5R)30部を、酢酸エチル70部に混合溶解させて、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体ワニスを調整した。
【0056】
(藍色印刷インキ組成物の調製)
[実施例1]
銅フタロシアニン藍(トーヨーカラー株式会社製LIONOLBLUEFG−7330)12.0部、ポリウレタンウレア樹脂組成物(B1)10.0部、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体ワニス10.0部、混合溶剤(ノルマルプロピルアセテート/イソプロピルアルコール=75/25(重量比))10.0部を撹拌混合しサンドミルで練肉した後、ポリウレタンウレア樹脂組成物(B1)20.0部、混合溶剤(ノルマルプロピルアセテート/イソプロピルアルコール=75/25(重量比))38.0部を攪拌混合し、藍色印刷インキ(C1)を得た。」
ス 「【0061】
[印刷物の作成]
印刷インキの粘度をノルマルプロピルアセテート/イソプロピルアルコール混合溶剤(重量比70/30)で希釈し、ザーンカップ#3(離合社製)で15秒(25℃)に調整し、版深35μmグラビア版を備えたグラビア校正機により、片面コロナ処理OPPフィルム(東洋紡株式会社製パイレンP2161)、コロナ処理PETフィルム(東洋紡株式会社製E5100#12)に印刷して40〜50℃で乾燥し、印刷物を得た。」
セ 「【0065】
[レトルト適性]
上記のPETフィルムの印刷物に、ドライラミネート用接着剤(東洋モートン株式会社製TM−550/CAT−RT37)を塗工し、ライン速度40m/分でドライラミネート機を用いて、CPPフィルム(東レ株式会社製ZK93KM)と張り合わせ、ラミネート物を得た。得られたラミネート物は40℃で48時間エージングを行った。その後、CPP面を内側としてヒートシール(温度:190℃、圧:2kgf、時間:1秒)して袋体を作り、得られた袋体に、1:1:1スープ(ケチャップ:酢:水=重量比で1:1:1)を充填し、120℃30分のレトルト処理を行い、外観の変化を以下の基準で目視評価した。○が実用
レベルである。
○:外観に変化は見られなかった。
×:外観にブリスター痕またはラミネート浮きが見られた。」

(2) 甲2の記載
甲2には、「ポリエステル樹脂及びその用途」(発明の名称)に関する、次の記載がある。
ア 「【請求項5】
ジカルボン酸単量体は、コハク酸及びセバシン酸からなる群から選択される少なくとも1のジカルボン酸(a)を含有し、
ジオール単量体は、1,4−ブタンジオール及び/又は1,3−プロパンジオール(b)を含有し、
3以上の官能基を有するポリオール、ポリカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸からなる群から選択される少なくとも1の多官能単量体(c)を含有し、
植物由来の原料を全樹脂原料に対して40〜95質量%の割合で含有する単量体組成物から得られ、
数平均分子量(Mn):500〜5000
であり、非晶質であることを特徴とするポリエステル樹脂。
・・・
【請求項18】
請求項1,2,3,4又は5記載のポリエステル樹脂(A)とポリイソシアネート(B−1)との反応によって得られたことを特徴とする末端水酸基を有する樹脂組成物。
【請求項19】
請求項18記載の樹脂組成物を含有することを特徴とする印刷インキ組成物。」
イ 「【0024】
(ポリエステル樹脂)
第1の本発明のポリエステル樹脂は、炭素数8以上の直鎖状の構造を分子内に有し、かつ、非晶質であるポリエステル樹脂である。このような構造を有することによって、塗膜、樹脂粒子等に弾性を付与することができる。更に、非晶質であることから、他の成分との混和性にも優れ、他の成分と併用して使用する用途においても適している。
【0025】
また、本発明のポリエステル樹脂は、原料として植物由来の成分を高い割合で使用して得ることができる点でも好ましいものである。
現在、プラスチックは生活と産業のあらゆる分野で使用されており、その生産量は莫大な量になっている。このようなプラスチックの大半は石油や天然ガス等の鉱物系の原料を用いて化学合成によって得られるものである。このようなプラスチックからなる廃棄物を焼却処理すると、二酸化炭素が発生する。このような二酸化炭素が地球温暖化ガス増大の一因となっている。
【0026】
プラスチックを原料とするコーティング剤に関しても、使用後に不要になったコ−ティング物は、基材からコーティング膜を剥離した後、焼却したり土中に廃棄したりなどして処理されるのが一般的であることから、上述の問題があった。
そこで、上述の問題を生じる石油や石炭などの化石資源を原料とする従来のプラスチックに代わるものとして、天然素材のプラスチックが提案されており、例えば、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリコハク酸アルキレン、多糖類などの植物由来の高分子が提案されている(非特許文献1参照)。
【0027】
このような植物由来の高分子は、かつては生分解性という機能を期待して検討がなされてきたものであり、土中で微生物等によって分解される性能が求められていた。しかし、近年は二酸化炭素排出量の低減という観点からの検討が重要視されるようになりはじめている。このため、生分解性とは異なる観点から植物由来の高分子を検討する必要が生じ始めた。更に、塗料や化粧品用途において使用される樹脂粒子や、エネルギー線硬化型塗料の材料としても植物由来の高分子成分の利用が望まれている。第1の本発明のポリエステル樹脂は、その化学構造において植物由来の原料から得られるものを主要な構成単位とすることができるため、植物由来の原料の割合を高くすることができ、これによって二酸化炭素排出量の低減という課題をも達成することができるものである。
【0028】
第1の本発明のポリエステル樹脂は、炭素数8以上の直鎖状ジカルボン酸及び/又はジオール(I)を10〜90質量%含有するものである。
・・・
【0031】
上記炭素数8以上の直鎖状ジカルボン酸及び/又はジオール(I)は、一部又は全部がセバシン酸であることが特に好ましい。セバシン酸は、植物由来のものの入手が比較的容易であり、得られる樹脂において、耐傷付性、耐水性、耐湿性、耐候性、硬度という物性が優れていることから、特に好ましいものである。
・・・
【0048】
第2の本発明のポリエステル樹脂は、ジカルボン酸(a)、ジオール(b)及び多官能単量体(c)を必須成分とし、ジカルボン酸由来骨格は、コハク酸及び/又はセバシン酸単位を有し、ジオール由来骨格は、1,4−ブタンジオール及び/又は1,3−プロパンジオールを有し、植物由来の原料を全樹脂原料に対して40〜95質量%の割合で含有し、かつ、非晶性のポリエステル樹脂である。
【0049】
このような組成のポリエステル樹脂とすることで、植物由来成分を高い割合を配合する樹脂とすることができる点で好ましい。また、このような組成のポリエステル樹脂は、非晶質であることから、塗料等に配合した場合に他の成分との相溶性において優れるものである。よって、上述した第1の本発明のポリエステル樹脂と同様の用途において使用することができる。
【0050】
第2の本発明のポリエステル樹脂の原料となる単量体成分のうち、コハク酸、1,4−ブタンジオール、1,3−プロパンジオールは、現在、工業的には石油原料を用いたものも多く販売されている。しかし、他方では、植物由来の合成方法が確立されており、よって、植物由来の原料として容易に入手可能な化合物である。本発明においては、植物由来の原料を全樹脂原料に対して40〜95質量%の割合で含有するものであることから、このような植物由来の原料から合成することが容易である単量体を主成分として使用することが重要となる。
【0051】
なお、本発明においては、植物由来の原料を全樹脂原料に対して40〜95質量%の割合で含有するものである限りにおいて、石油原料を用いて得られたコハク酸、セバシン酸、1,4−ブタンジオール、1,3−プロパンジオールを原料として併用してもよい。但し、より好ましくは、植物由来の原料より得られたコハク酸、セバシン酸、1,4−ブタンジオール、1,3−プロパンジオールを全樹脂原料に対して40〜95質量%の割合で含有するものであることが好ましい。
【0052】
第2の本発明においては、上述した原料以外の植物由来の原料を併用するものであってもよい。上記その他の植物由来の原料としては特に限定されず、例えば、グリセリン、乳酸、アジピン酸、3−ヒドロキシブタン酸等を挙げることができる。
【0053】
但し、第2の本発明のポリエステル樹脂は、上記その他の植物由来の原料は含有せず、コハク酸、セバシン酸、1,4−ブタンジオール、1,3−プロパンジオールを全原料の40〜95質量%の割合で使用し、石油系原料から得られた単量体を全原料の60〜5質量%の割合で使用して得られたものであることが好ましい。
【0054】
第2の本発明のポリエステル樹脂は、このような植物由来の原料を全原料質量に対して40質量%以上とすることによって、二酸化炭素削減に寄与するものである。但し、塗料、接着剤、ウレタンフォーム原料等としての使用に適した性能を得る上では100質量%の割合で植物由来の原料を使用することは困難であることから、95%以下であることが必要である。
【0055】
植物由来の原料を多量に含む単量体組成物から製造された樹脂は、焼却等の処理をされた場合であっても二酸化炭素をわずかしか環境中に排出しないものとして扱われる。よって、二酸化炭素の排出量の規制が厳しくなりつつある近年においては、環境への負荷が小さい樹脂として使用することができる。」
ウ 「【0142】
(印刷インキ組成物)
本発明は、上述した末端水酸基を有する樹脂組成物を含有する印刷インキ組成物でもある。上記印刷インキ組成物は、上記末端水酸基を有する樹脂組成物に、各種顔料および溶剤を加え、必要に応じてブロッキング防止剤、可塑剤などの添加剤、流動性および分散性を改良するための顔料分散剤、繊維素樹脂、マレイン酸樹脂、ポリビニルブチラール等の樹脂を併用し、サンドミルなどの公知公用の顔料分散機を用いて製造することができる。
【0143】
本発明の印刷インキ組成物において使用される溶剤としては、通常、印刷インキ用の溶剤としてよく知られている、アルコール系、エステル系が使用できる。また、フレキソ印刷で使用される樹脂版への悪影響があるため使用の制限はあるが、グラビア印刷や後加工において支障のない範囲において、ケトン系や芳香族系の溶剤が使用できる。
【0144】
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール、ノルマルブタノール、イソブタノール、ターシャリーブタノール等の炭素数1〜7の脂肪族アルコール;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、プロピレングリコールイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類等が挙げられる。このうち炭素数1〜7のアルコール系溶剤が好ましく、なかでもイソプロパノール、エタノ−ル、ノルマルプロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルが特に好ましい。これらは単独でも2種以上を併用してもよい。
【0145】
また、エステル系溶剤では、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ノルマルブチル、酢酸イソブチル等のエステル系溶剤が挙げられる。」
エ 「【実施例】
【0161】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。また実施例中、「部」、「%」は特に断りのない限り「質量部」、「質量%」を意味する。
【0162】
合成例1
温度調節計、攪拌翼、窒素導入口、ディーンスタークトラップ、還流管を備えた1Lのセパラブルフラスコに、トリメチロールプロパン135g、ネオペンチルグリコール156g、セバシン酸404g、キシレン42g、p−トルエンスルホン酸1.2gを仕込んだ。また、ディーンスタークトラップにはキシレンを上限まで満たした。窒素気流下、系内の温度を140℃に上昇させて1時間保持し、更に195℃に昇温して5時間、縮合反応を継続し、樹脂酸価が4mgKOH/g(樹脂固形分)になったのを確認して冷却を開始した。冷却後、酢酸ブチルを添加して、固形分率を75%に調節した。
・・・
【0185】
(植物化度)
植物由来光硬化性材料の原料の中に占める植物由来原料の割合から算出した。
・・・
【0208】
合成例20〜22
合成例1と同様の反応器に、表10に示した配合で各成分を混合し、120℃で5時間反応させて、IRスペクトルにてイソシアネート基の消失を確認し、樹脂溶液を得た。なお、表中の単位はgである。
【0209】
【表10】

【0210】
実施例17
(グラビアインキの調製と評価)
合成例20で得られた樹脂溶液120部と、ベータ型フタロシアニン顔料30部、ポリエチレンワックス3部、イソプロピルアルコール30部および酢酸エチル120部を混合し、横型サンドミルを用いて分散し、グラビア印刷インキを調製した。得られた印刷インキを酢酸エチルとイソプロピルアルコールの混合溶剤(質量比40:60)でザーンカップNo.3で18秒に調整し、175線/インチのヘリオ版を使用したグラビア印刷機によりコロナ処理延伸ポリプロピレンフィルム及び、コロナ処理ポリエステルフィルムに印刷して50℃で乾燥し、印刷物を得た。得られた印刷物について、テープ接着試験による接着性、耐ブロッキング性を評価した。その結果を表11に示す。
・・・
【0215】
【表11】

【0216】
上記表11の結果から、実施例17のグラビアインキは、優れた性能を有することが明らかである。」

3 甲1に記載された発明(「甲1発明1」〜「甲1発明3」)
(1) 甲1の請求項1には、次のポリウレタンウレア樹脂組成物(以下、単に「甲1の請求項1に係るポリウレタンウレア樹脂組成物」という。)が記載されている。
「高分子ポリオールと、ジイソシアネートとを反応させてなる末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを、有機ジアミンと反応させてなるポリウレタンウレア樹脂、および有機溶剤を含有するグラビアまたはフレキソ印刷インキ用ポリウレタンウレア樹脂組成物であって、
下記(1)〜(3)であることを特徴とするグラビアまたはフレキソ印刷インキ用ポリウレタンウレア樹脂組成物。
(1)前記高分子ポリオールは、ポリエステルポリオールを前記高分子ポリオールに対して50重量%以上含有する。
(2)前記ポリエステルポリオールは、グリコールと二塩基酸との反応からなる。
(3)前記ポリエステルポリオールの全グリコールは、2−メチル−1,3−プロパンジオールと、3−メチル−1,5−ペンタンジオールとを前記ポリエステルポリオールの全グリコールに対してそれぞれ20重量%以上含有する。」

(2) そして、甲1の請求項2には、上記「甲1の請求項1に係るポリウレタンウレア樹脂組成物」を用いた印刷インキ組成物が記載されている。

(3) また、印刷インキ組成物の製造方法については、甲1の【0027】に、「本発明におけるグラビア印刷インキは、顔料をバインダー樹脂等により分散機を用いて有機溶剤中に分散し、得られた顔料分散体にバインダー樹脂、各種添加剤や有機溶剤等を混合して製造」することが記載され、より具体的な製造方法は、後記(5)の実施例1に示されたとおりである。

(4) 上記(1)〜(3)によると、上記請求項2記載の印刷インキ組成物は、まず、「甲1の請求項1に係るポリウレタンウレア樹脂組成物」を準備し、これと、顔料と、有機溶剤とを、混合、分散して製造(調製)されるものであることが分かる(なお、このような製造工程自体は、至極普通のものと解される。)。

(5) さらに、実施例についてみると、甲1の【0056】には、「藍色印刷インキ組成物の調製」に関する「実施例1」として、「銅フタロシアニン藍(トーヨーカラー株式会社製LIONOLBLUEFG−7330)12.0部、ポリウレタンウレア樹脂組成物(B1)10.0部、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体ワニス10.0部、混合溶剤(ノルマルプロピルアセテート/イソプロピルアルコール=75/25(重量比))10.0部を撹拌混合しサンドミルで練肉した後、ポリウレタンウレア樹脂組成物(B1)20.0部、混合溶剤(ノルマルプロピルアセテート/イソプロピルアルコール=75/25(重量比))38.0部を攪拌混合し、藍色印刷インキ(C1)を得た」ことが記載されている。
ここで、当該実施例1中の「ポリウレタンウレア樹脂組成物(B1)」は、【0048】に記載された「ポリエステルポリオ−ルの合成例1−1」に従って合成された「ポリエステルポリオ−ル(A1)」を用いて、【0051】に記載された「ポリウレタンウレア樹脂組成物の合成例2−1」に従って合成されたものである(なお、【0051】には、「合成例2−1」との表題はないが、【0052】の記載からみて、当該【0051】記載の合成例を「合成例2−1」と解した。)。

(6) さらに、甲1に記載された印刷インキ組成物の用途についてみると、上記「甲1の請求項1に係るポリウレタンウレア樹脂組成物」は、請求項1中にも記載されるとおり、グラビア印刷インキ用のものであるところ、当該ポリウレタンウレア樹脂組成物を使用したグラビア印刷インキは、甲1の【0006】のとおり、ラミネート強度やレトルト適性といった印刷物性を課題とし、同【0039】、【0041】、【0042】のとおり、当該グラビア印刷インキを印刷してなる印刷物は、最終的に、ドライラミネート法により、その印刷面に、シーラントを圧着するなどして、ラミネート加工を施して積層体とし、得られた積層体は、当該シーラント面同士をヒートシールして、当該シーラントを内面とする包装袋とすることを予定したものであることが分かる。そして、実際、同【0061】、【0065】のとおり、上記(5)の実施例1に係る「藍色印刷インキ(C1)」は、PETフィルムにグラビア印刷して印刷物とされ、これにCPPフィルムをドライラミネートして、ラミネート物を得て、当該CPP面を内面としてヒートシールして作った袋体に対して、レトルト適性が確認されているところ、このようなラミネート物の製造工程は、レトルト食品の包装などにみられる裏刷り構成の一般的な製造工程と解されるから、甲1に記載された印刷インキ組成物は、裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物を想定したものであることは明らかである。

(7) 以上をまとめると、特に、甲1の請求項1、2に着目した場合、甲1には、その請求項1記載の上記「甲1の請求項1に係るポリウレタンウレア樹脂組成物」を用いた、その請求項2記載の「印刷インキ組成物」の製造方法として、次の発明が記載されているということができる。
『「甲1の請求項1に係るポリウレタンウレア樹脂組成物」を準備し、これと、顔料と、有機溶剤とを、混合、分散して製造(調製)する、裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物の製造方法』(以下、「甲1発明1」という。)

(8) 同様に、甲1の実施例1に着目した場合、甲1には、藍色印刷インキ(C1)の製造方法として、次の発明が記載されているということができる。
『「ポリエステルポリオ−ルの合成例1−1」に従って合成されたポリエステルポリオ−ル(A1)を用いて、「ポリウレタンウレア樹脂組成物の合成例2−1」に従って合成した、「ポリウレタンウレア樹脂組成物(B1)」を準備し、「銅フタロシアニン藍(トーヨーカラー株式会社製LIONOLBLUEFG−7330)」と、「ポリウレタンウレア樹脂組成物(B1)」と、「塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体ワニス」と、「混合溶剤(ノルマルプロピルアセテート/イソプロピルアルコール=75/25(重量比))」とを、撹拌混合しサンドミルで練肉した後、「ポリウレタンウレア樹脂組成物(B1)」、「混合溶剤(ノルマルプロピルアセテート/イソプロピルアルコール=75/25(重量比))」を攪拌混合する、裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物である藍色印刷インキ(C1)の製造方法』(以下、「甲1発明2」という。)

(9) そして、これら「甲1発明1」又は「甲1発明2」により製造された印刷インキ組成物は、上記(6)のとおり、最終的には、PETフィルムなどのフィルム基材にグラビア印刷して印刷物とされ(すなわち印刷層が形成され)、その印刷面(すなわち印刷層上)に、CPPフィルムなどのシーラントフィルムをドライラミネートして、ラミネート物とされるのであるから、甲1には、当該ラミネート物の製造方法として、次の発明が記載されているといえる。
『「甲1発明1」又は「甲1発明2」により製造された印刷インキ組成物を、フィルム基材にグラビア印刷して印刷層とし、その印刷層上にシーラントフィルムをラミネートする、ラミネート物の製造方法』(以下、「甲1発明3」という。)

4 甲1発明1に基づく本件発明1の容易想到性について
(1) 甲1発明1との対比
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
ア 甲1発明1の「甲1の請求項1に係るポリウレタンウレア樹脂組成物」は、ポリウレタンウレア樹脂と有機溶剤を含有するものであるから、本件発明1の「ポリウレタンウレア樹脂溶液」に相当するものであり、当該「甲1の請求項1に係るポリウレタンウレア樹脂組成物」を準備する過程は、本件発明1における工程(1)と、「有機溶剤と、ポリウレタンウレア樹脂とを含有するポリウレタンウレア樹脂溶液を準備する工程」である点で共通するといえる。
イ また、甲1発明1の「甲1の請求項1に係るポリウレタンウレア樹脂組成物」のポリウレタンウレア樹脂は、高分子ポリオールと、ジイソシアネートとを反応させてなる末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを、有機ジアミンと反応させてなるものであるところ、当該高分子ポリオールは、グリコールと二塩基酸との反応からなるポリエステルポリオールを含有するものであり、当該グリコールと二塩基酸は、本件発明1における「ポリオール」(「ジオール」)と「ポリカルボン酸」にそれぞれ対応するものであるから、本件発明1の「ポリウレタンウレア樹脂」とは、「ポリカルボン酸とポリオールとの反応からなるポリエステルポリオールを用いて合成されたもの」であり、かつ、「ポリオールがジオール」である点で共通するものといえる。
ウ そして、甲1発明1における顔料は、本件発明1の色材に相当するものである。
エ そうすると、両者は、次の一致点及び相違点を有するものと認められる。
(ア) 一致点
「有機溶剤と、ポリウレタンウレア樹脂とを含有するポリウレタンウレア樹脂溶液を準備する工程と、
該工程で得られたポリウレタンウレア樹脂溶液と、色材と、溶剤とを、混合、分散し、裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物を得る工程と、を含む裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物の製造方法であって、
前記ポリウレタンウレア樹脂が、ポリカルボン酸とポリオールとの反応からなるポリエステルポリオールを用いて合成されたものであり、かつ、
前記ポリオールがジオールである、裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物の製造方法」
(イ) 相違点1(溶剤について)
本件発明1は、ポリウレタンウレア樹脂溶液中の有機溶剤、及び、当該ポリウレタンウレア樹脂溶液に対して混合される溶剤の種類について、「炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤およびアルコール系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種」と特定しているのに対して、甲1発明1は、この点の明示がない点
(ウ) 相違点2(バイオマス由来成分とバイオマス度について)
本件発明1は、「ポリカルボン酸が、バイオマス由来のセバシン酸およびバイオマス由来のダイマー酸からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み」と特定するとともに、「裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物を、グラビア印刷法によりフィルム基材層上に印刷塗膜としたとき、該印刷塗膜中のバイオマス度(顔料を含まない)が3〜40質量%となるように構成された」ものと特定しているのに対して、甲1発明1には、そのような特定がない点
(エ) 相違点3(ポリウレタンウレア樹脂のアミン価及び重量平均分子量について)
本件発明1は、ポリウレタンウレア樹脂溶液中のポリウレタンウレア樹脂について、そのアミン価が1〜13mgKOH/gであり、その重量平均分子量が10,000〜100,000であると特定しているのに対して、甲1発明1には、この点の明示がない点

(2) 相違点1〜3の検討
ア 相違点1(溶剤について)
甲1発明1の「甲1の請求項1に係るポリウレタンウレア樹脂組成物」は、有機溶剤を含有するものであり、また、これを用いて印刷インキ組成物を調製する際にも、当該「甲1の請求項1に係るポリウレタンウレア樹脂組成物」に対して有機溶剤が混合されるところ、これらの有機溶剤について、甲1の【0023】には、「本発明におけるポリウレタンウレア樹脂組成物に使用される有機溶剤は、エステル系溶剤とアルコール系溶剤の混合溶剤を含む。エステル系溶剤としては、酢酸エチル・・・など、アルコール系溶剤としては、メタノール・・・などのアルコール系溶剤など公知の溶剤を使用することが好ましい。」と記載され、同【0032】には、「本発明におけるグラビア印刷インキに使用される有機溶剤としては、酢酸メチル、酢酸エチル、ノルマルプロピルアセテート、イソプロピルアセテート・・・などのエステル系溶剤、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロピルアルコール・・・などのアルコール系溶剤、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどの炭化水素系溶剤など、公知の溶剤を使用できる。近年、作業環境の観点からトルエン、キシレンといった芳香族有機溶剤や、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンといったケトン系溶剤を排除する要望があり、本発明の印刷インキ組成物では、これを排除した溶剤が好適に用いられる。」と記載されている。そして、実際、上記実施例1をみると、ポリウレタンウレア樹脂組成物(B1)の合成においては有機溶剤として「酢酸エチル」が使用され(【0051】)、藍色印刷インキ組成物の調製においては有機溶剤として「混合溶剤(ノルマルプロピルアセテート/イソプロピルアルコール=75/25(重量比))」が使用されていることから(【0056】)、甲1発明1において、「甲1の請求項1に係るポリウレタンウレア樹脂組成物」が含有する有機溶剤、及び、印刷インキ組成物を調製する際に混合される有機溶剤は、いずれも、エステル系溶剤やアルコール系溶剤などが想定されていることが分かる(なお、このような有機溶剤自体は、裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物における一般的なものと解される。甲2の【0143】〜【0145】なども参照した。)。
したがって、本件発明1と甲1発明1とは、使用される有機溶剤ないし溶剤の種類において、実質的な差異は認められない。仮に、両者に、溶剤に係る相違があるとしても、本件発明1は、単に、甲1発明1における有機溶剤ないし溶剤として、裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物における一般的なものを採用したにすぎず、この点に格別の創意は認められない。
イ 相違点2(バイオマス由来成分とバイオマス度について)
(ア) 印刷インキの分野においては、本件優先日当時、既に二酸化炭素排出量の低減などの地球温暖化防止という観点から環境対応型インキが所望されており(甲2の【0027】の記載なども参照した。)、当該環境対応型インキというにふさわしい商品には、バイオマスマークやインキグリーンマークをはじめとする環境ラベルを表示しているところ、当該環境ラベルの表示が可能となるバイオマス度の下限値は、例えば、バイオマスマークにおいては10%とされている(環境省ホームページの「環境ラベル等データベース」に掲載されたバイオマスマークの紹介ページを参照した。URLは、https://www.env.go.jp/policy/hozen/green/ecolabel/a04_28.html)。
そうすると、当業者は、印刷インキに課された自明な課題として、環境対応型のものを認識し、そのバイオマス度としては10%程度以上とすることを目途としていると解するのが相当である。
(イ) 上記の自明な課題は、当業者間において、印刷インキを製造する際に広く認知されているものであるから、甲1発明1においても当然に内在する課題であると解するのが合理的である。
(ウ) そうである以上、甲1発明1の「甲1の請求項1に係るポリウレタンウレア樹脂組成物」の原料として、バイオマス由来成分を使用することは、技術的にみて当然の流れというべきである。そして、当該バイオマス由来成分の含有量は、高いほど環境対応という点では望ましいものの、印刷インキ本来の特性が損なわれては意味がないから、上記のとおり、印刷塗膜のバイオマス度(印刷インキ組成物のバイオマス度)を10%以上とすることを目途にしながら、所望する印刷物性(甲1の【0006】などに記載されたラミネート強度、耐ブロッキング性、レトルト適性など)に応じて、当業者が適宜決定すべき事項というべきであって、本件発明1が規定するバイオマス度の数値範囲自体に格別の創意は認められない。
(エ) 加えて、バイオポリウレタン樹脂の原料(バイオマス由来成分)についてみると、甲2の【請求項5】及び【0051】などには、バイオマス由来のコハク酸やセバシン酸などを用いることが記載されており、このようなバイオマス由来成分を原料とすることは、バイオポリウレタン樹脂を調製する際の常套の手法と解することができる(要すれば、特許異議申立人が甲第3号証(以下、「甲3」という。)として提出した特開2011−225863号公報の【請求項5】なども参照のこと)。そして、甲2の【請求項18】、【請求項19】、【0142】〜【0145】には、印刷インキの用途について記載され、同【0210】、【0215】(合成例については、【0162】の合成例1及び【0209】の合成例20を参照のこと)には、実際に、実施例17として、セバシン酸を用いてグラビアインキを調製し、植物化度30.2%としたことが記載され、さらに、同【0031】には、セバシン酸は、植物由来のものの入手が比較的容易であり、得られる樹脂においては、耐傷付性、耐水性、耐湿性、耐候性、硬度といった物性が優れていることが記載されている(要すれば、上記甲3の【0025】なども参照のこと)。
これらを併せ考えると、甲1発明1において、環境対応型の印刷インキとする際、バイオポリウレタン樹脂の常套の原料であり、かつ、入手がたやすい、「バイオマス由来のセバシン酸」に着目し、これを用いたポリエステルポリオールを選択することに何ら困難なところは見当たらない。
(オ) してみると、甲1発明1において、「甲1の請求項1に係るポリウレタンウレア樹脂組成物」を準備するにあたり、その原料として、「バイオマス由来のセバシン酸」を含む二塩基酸とグリコール(ジオール)との反応からなるポリエステルポリオールを用いて、バイオマス度10%以上を目途に調製することは、当業者にとって容易なことと認められる(なお、バイオマス度を高めるためのバイオマス由来成分として、セバシン酸以外の成分を併用することも可能であることはいうまでもない。)。
ウ 相違点3(ポリウレタンウレア樹脂のアミン価及び重量平均分子量について)
甲1発明1は、「甲1の請求項1に係るポリウレタンウレア樹脂組成物」中のポリウレタンウレア樹脂のアミン価及び重量平均分子量を明示するものではないが、甲1の【0020】、【0022】及び【0051】の記載からみて、本件発明1と同程度のものを予定していることは明らかであるから、当該相違点3は実質的なものではないか、容易想到の事項というべきである。
そして、当該アミン価及び重量平均分子量は、上記イのように、甲1発明1において、環境対応型の印刷インキとする際に、特段変更すべき理由は見当たらないから、当業者であれば、上記甲1の記載の数値範囲をそのまま、調製の目安とすると考えるのが合理的である。

(3) 相違点2についての特許権者の主張について
特許権者は、令和2年7月2日提出の意見書において、「実験成績証明書−2」(以下、「乙2」という。)を論拠としながら、ポリウレタンウレア樹脂の原料として、バイオマス由来のセバシン酸および/またはダイマー酸を選択することで、インキ性能とバイオマス度とのトレードオフのバランスをより高水準で実現することができる、という有利な効果について主張する。
しかしながら、当該論拠をそのまま受け入れて、当該主張を採用することはできない。
その理由は以下のとおりである。
特許権者が論拠とする乙2の評価結果をみると(特に上記意見書8頁の表1を参酌した。)、確かに、バイオマス由来のセバシン酸またはダイマー酸を選択した本件発明に属するインキは、バイオマス由来のジオールやコハク酸を選択したインキよりも、耐版カブリ性及びフィルム密着性(以下、まとめて「評価特性」という。)において優れていることが見て取れる。
しかしながら、当該評価結果は、本件特許明細書に記載された実施例の評価手法とは異なる評価手法により得られたものであり、当然のことながら、本件特許明細書記載の評価結果とは異なる結果となっている。すなわち、乙2の評価結果では、「バイオマス由来のセバシン酸またはダイマー酸を選択した本件発明に属するインキ」と「バイオマス由来のジオールやコハク酸を選択したインキ」との間で評価特性の優劣が顕在化しているが、このような優劣は、本件特許明細書の【0147】【表15】の記載からは看取できない。むしろ、同表15に接した当業者は、実施例に係るインキはいずれも優れた評価特性を示すものであるから、それらのインキに優劣はなく、同列のものであると認識すると考えるのが合理的である。また、本件特許明細書を子細にみても、バイオマス由来成分の選択により、評価特性に優劣が生じることについては何ら記載されていない。
そうである以上、特許権者が主張する、「バイオマス由来のセバシン酸またはダイマー酸」を選択することによる、ある種の選択的効果は、乙2の評価結果によりはじめて露呈した事実であって、本件特許明細書に記載されていた事実であるとは到底いうことはできず、当該乙2の実験を行った時点で発覚した後発的な効果であるというほかない。
そして、このような後発的な効果は、本件発明の出願時点では認識されていなかった新規な事項であるというほかなく、安易にこれを受け入れてしまうと、出願前に多くの実験を重ねて、そこから得られる知見(効果)を、出願時にもらさず明細書に書き込んでいた出願人との間の公正性に欠けることとなってしまう。
確かに、新規性ないし進歩性欠如の証拠とされた引用発明との違いを主張するために、追試実験の結果を提出して釈明することが普通に行われているところはあるが、これは、出願時に出願人があらゆる先行技術(引用発明)を把握して明細書を作成すること(引用発明に対する有利な効果を網羅的に記載しておくこと)は困難であるという事情によるものである。これに対して、乙2の評価結果は、引用発明に対する有利な効果を立証しようとするものではなく、単に、本件特許明細書に記載された実施例を、事後的に新たな観点から序列化しようとするものであり、上記の追試実験とは事情が異なるものである。そして、上記の選択的効果に関する知見が、出願時に存在していたのであれば、これを最初から明細書に書き込んでおくことは十分に可能であったのであり、そうすべきであったといわざるを得ない。
以上の点に照らすと、乙2の評価結果に基づく論拠をそのまま受け入れることは到底できないから、当該論拠に基づく上記特許権者の主張を採用することはできない。

(4) まとめ
以上のとおり、上記相違点1〜3に係る本件発明1の構成は、既に甲1発明1が具備するものであるか、容易想到の事項にすぎないから、本件発明1は、甲1発明1に基づいて当業者が容易に想到し得るものと認められる。
また、本件特許明細書の上記表15の記載などを斟酌しても、本件発明1が上記相違点1〜3に係る構成を具備することにより奏され、甲1〜3及び技術常識などからは予測できない効果(例えば、特許権者が上記(3)において主張する選択的効果など)を認めるに足りる根拠を見いだすことはできない。

5 甲1発明2に基づく本件発明1の容易想到性について
(1) 甲1発明2との対比
本件発明1と甲1発明2とを対比する。
ア 甲1発明2の「ポリウレタンウレア樹脂組成物(B1)」は、「ポリウレタンウレア樹脂組成物の合成例2−1」(【0051】)に従って合成されたものであり、酢酸エチル(エステル系溶剤にあたるもの)を含有するものであるから、甲1発明2の当該「「ポリウレタンウレア樹脂組成物(B1)」を準備する過程と、本件発明1における工程(1)とは、「炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤およびアルコール系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種と、ポリウレタンウレア樹脂を含有するポリウレタンウレア樹脂溶液を準備する工程」である点で共通するものといえる。
イ また、当該「ポリウレタンウレア樹脂組成物(B1)」は「固形分30.0%、重量平均分子量35000、アミン価4.0mgKOH/樹脂1g」(【0051】)であるから、本件発明1の「ポリウレタンウレア樹脂溶液中のポリウレタンウレア樹脂」のアミン価の数値(1〜13mgKOH/g)及び重量平均分子量の数値(10,000〜100,000)を満足するものである。
ウ さらに、甲1発明2の「銅フタロシアニン藍(トーヨーカラー株式会社製LIONOLBLUEFG−7330)」は、本件発明1の色材に相当するものであるし、甲1発明2の「混合溶剤(ノルマルプロピルアセテート/イソプロピルアルコール=75/25(重量比))」は、本件発明1の「前記溶剤が、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤およびアルコール系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種」との要件を満足するものである。
エ そうすると、両者は、次の一致点及び相違点を有するものと認められる。
(ア) 一致点
「炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤およびアルコール系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種と、ポリウレタンウレア樹脂を含有するポリウレタンウレア樹脂溶液を準備する工程と、
該工程で得られたポリウレタンウレア樹脂溶液と、色材と、溶剤とを、混合、分散し、裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物を得る工程を含み、
前記溶剤が、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤およびアルコール系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記ポリウレタンウレア樹脂溶液中のポリウレタンウレア樹脂のアミン価が1〜13mgKOH/gであり、かつ、前記ポリウレタンウレア樹脂溶液中のポリウレタンウレア樹脂の重量平均分子量が10,000〜100,000である裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物の製造方法」
(イ) 相違点4(バイオマス由来成分とバイオマス度について)
本件発明1は、「ポリカルボン酸が、バイオマス由来のセバシン酸およびバイオマス由来のダイマー酸からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み」と特定するとともに、「裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物を、グラビア印刷法によりフィルム基材層上に印刷塗膜としたとき、該印刷塗膜中のバイオマス度(顔料を含まない)が3〜40質量%となるように構成された」ものと特定しているのに対して、甲1発明2には、そのような特定がない点

(2) 相違点4の検討
上記の相違点4(バイオマス由来成分とバイオマス度について)は、既に上記4(2)イにおいて検討した相違点2と同様の事項であり、当該相違点2と同様の理由により、甲1発明2において、「ポリウレタンウレア樹脂組成物(B1)」を準備するにあたり、その原料(バイオマス由来成分)として、バイオマス由来のセバシン酸を含有するポリエステルポリオールを用いて、バイオマス度10%以上を目途に調製することは、当業者にとって容易なことと認められる。

(3) まとめ
以上のとおり、上記相違点4に係る本件発明1の構成は容易想到の事項にすぎず、また、当該構成による格別顕著な作用効果も見当たらないから、本件発明1は、甲1発明2に基づいて当業者が容易に想到し得るものと認められる。

6 甲1発明3に基づく本件発明2の容易想到性について
(1) 甲1発明3との対比
本件発明2と甲1発明3とを対比する。
本件発明2は、端的にいうと、フィルム基材層を準備して、その一方に、本件発明1により製造した裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物からなる印刷層を作成し、該印刷層上にラミネート層を作成する積層体の製造方法であるということができる。
他方、甲1発明3は、『「甲1発明1」又は「甲2発明2」により製造された印刷インキ組成物を、フィルム基材にグラビア印刷して印刷層とし、その印刷層上にシーラントフィルムをラミネートする、ラミネート物の製造方法』であり、当該「フィルム基材」、「シーラントフィルム」及び「ラミネート物」は、本件発明2の「フィルム基材層」、「ラミネート層」及び「積層体」に相当するものといえることから、甲1発明3も、フィルム基材層を準備して、該フィルム基材層の一方に、裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物からなる印刷層を作成し、該印刷層上にラミネート層を作成する積層体の製造方法であるということができる。
そうすると、本件発明2と甲1発明3とは、結局のところ、使用する裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物に関する次の相違点を有するにすぎず、その余の点では一致するものと認められる。
・相違点5(裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物について)
本件発明2は、裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物として、本件発明1の製造方法により製造されたものを使用しているのに対して、甲1発明3は、上記「甲1発明1」又は「甲2発明2」により製造されたものを使用している点

(2) 相違点5の検討
上記4、5において検討したとおり、本件発明1に係る裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物の製造方法は、甲1発明1又は甲1発明2に基づいて当業者が容易に想到し得るものと認められるから、同様の理由により、上記相違点5に係る本件発明2の裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物についても容易想到のものというべきである。

(3) まとめ
以上のとおりであるから、本件発明2は、甲1発明3に基づいて当業者が容易に想到し得るものと認められる。

第6 結び

以上の検討のとおり、本件発明、すなわち、本件請求項1及び2に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明にあたる甲1発明1〜3に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者である当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許、すなわち、本件請求項1及び2係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものである。
したがって、本件特許は、特許法第113条第第2号に該当するため、取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この決定に対する訴えは、この決定の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤およびアルコール系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種と、ポリウレタンウレア樹脂とを含有するポリウレタンウレア樹脂溶液を準備する工程(1)と、
該工程(1)で得られた前記ポリウレタンウレア樹脂溶液と、色材と、溶剤とを、混合、分散し、裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物を得る工程(2)と、
を含む裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物の製造方法であって、
前記溶剤が、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤およびアルコール系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記ポリウレタンウレア樹脂が、ポリカルボン酸とポリオールとの反応からなるポリエステルポリオールを用いて合成されたものであり、かつ、
前記ポリカルボン酸が、バイオマス由来のセバシン酸およびバイオマス由来のダイマー酸からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記ポリオールがジオールであり、
前記ポリウレタンウレア樹脂溶液中の前記ポリウレタンウレア樹脂のアミン価が1〜13mgKOH/gであり、かつ、前記ポリウレタンウレア樹脂溶液中の前記ポリウレタンウレア樹脂の重量平均分子量が10,000〜100,000であり、
当該裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物を、グラビア印刷法によりフィルム基材層上に印刷塗膜としたとき、該印刷塗膜中のバイオマス度(顔料を含まない)が3〜40質量%となるように構成された、裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物の製造方法。
【請求項2】
フィルム基材層を準備する工程と、
該フィルム基材層の一方に、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤およびアルコール系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種と、ポリウレタンウレア樹脂とを含む裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物からなる印刷層を作成するグラビア印刷工程と、
該印刷層上にラミネート層を作成する工程と、
を含む積層体の製造方法であって、
前記ポリウレタンウレア樹脂が、ポリカレボン酸とポリオールとの反応からなるポリエステルポリオールを用いて合成されたものであり、かつ、
前記ポリカルボン酸が、バイオマス由来のセバシン酸およびバイオマス由来のダイマー酸からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記ポリオールがジオールであり、
前記ポリウレタンウレア樹脂のアミン価が1〜13mgKOH/gであり、かつ、前記ポリウレタンウレア樹脂の重量平均分子量が10,000〜100,000であり、
前記グラビア印刷工程により作成された印刷層のバイオマス度(顔料を含まない)が3〜40質量%であることを特徴とする積層体の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-09-15 
出願番号 P2017-126910
審決分類 P 1 651・ 121- ZAA (C09D)
最終処分 06   取消
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 日比野 隆治
門前 浩一
登録日 2018-12-28 
登録番号 6458089
権利者 東京インキ株式会社
発明の名称 裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物の製造方法および積層体の製造方法  
代理人 速水 進治  
代理人 速水 進治  

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