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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B65D
管理番号 1383212
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-10-08 
確定日 2021-12-13 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6499055号発明「電子レンジ加熱食品用容器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6499055号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。 特許第6499055号の請求項1、2に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6499055号(以下「本件特許」という。)の請求項1、2に係る特許についての出願は、平成27年10月28日の出願であって、平成31年3月22日にその特許権の設定登録がされ(特許掲載公報平成31年4月10日発行)、その後、その特許について、令和1年10月8日に特許異議申立人豊田敦子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和1年12月16日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である令和2年1月31日に特許権者から意見書の提出及び訂正の請求がされ、令和2年3月19日に申立人から意見書が提出され、令和2年5月27日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である令和2年7月28日に特許権者から意見書が提出され、さらに、令和2年8月14日に特許権者から意見書が提出され、令和2年9月8日及び同年10月22日に申立人から上申書が提出され、令和2年11月10日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である令和3年1月8日に特許権者から意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。また、訂正自体を「本件訂正」という。)がされたものである。
なお、本件訂正請求がされたため、令和2年1月31日の訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
また、令和2年1月31日の訂正の請求に対して、申立人に訂正の請求があった旨の通知を送付して意見書を提出する機会を既に与えており、本件訂正請求については、特許法第120条の5第5項に規定する特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないとされる特別な事情にあたると認められるため、申立人に、再度、意見書を提出する機会は与えなかった。

第2 本件訂正請求について
1.本件訂正の内容
本件訂正請求は、特許第6499055号の明細書、特許請求の範囲を、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、本件特許に係る願書に添付した特許請求の範囲を、次のとおり訂正するものである。なお、下線は訂正箇所を示す。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に記載された
「前記容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気する複数の排気細孔からなる排気孔群が、当該排気孔群を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成されていて、
前記排気細孔はレーザー光線照射により穿設されている」を、
「前記容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気するとともに異物混入を抑制する複数の排気細孔からなる排気孔群が、異物混入防止のための、当該排気孔群を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成されていて、
前記排気細孔はレーザー光線照射孔である」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
願書に添付した明細書の段落【0010】に記載された
「前記容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気する複数の排気細孔からなる排気孔群が、当該排気孔群を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成されていて、前記排気細孔はレーザー光線照射により穿設されている」を、
「前記容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気するとともに異物混入を抑制する複数の排気細孔からなる排気孔群が、異物混入防止のための、当該排気孔群を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成されていて、前記排気細孔はレーザー光線照射孔である」に訂正する。

(3)訂正事項3
願書に添付した明細書の段落【0012】に記載された
「前記容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気する複数の排気細孔からなる排気孔群が、当該排気孔群を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成されていて、前記排気細孔はレーザー光線照射により穿設されている」を、
「前記容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気するとともに異物混入を抑制する複数の排気細孔からなる排気孔群が、異物混入防止のための、当該排気孔群を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成されていて、前記排気細孔はレーザー光線照射孔である」と訂正する。

2.訂正の適否
(1)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2は、訂正前の請求項1を引用するものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、また、訂正事項2、3による明細書の訂正に係る請求項は、請求項1及びこの請求項1を引用する請求項2であり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項及び特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項に規定する、一群の請求項ごとにされたものである。

(2)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1について、「排気細孔」が「異物混入を抑制する」ものであると限定し、「排気孔群を被覆又は包皮する部材」が「異物混入防止のための」ものであると限定し、「前記排気細孔はレーザー光線照射により穿設されている」を、「前記排気細孔はレーザー光線照射孔である」と製造方法を含まない記載とするものであり、それぞれ、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするもの、同第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
イ 本件特許の明細書の段落【0037】に、「本発明の食品用容器(電子レンジ加熱食品用容器)における排気細孔の直径を勘案すると、極めて微細であることから昆虫等の異物侵入を有効に抑制できる。そのため、本発明の食品用容器では、従前の容器に見られた蓋体部の排気を担う穴を被覆したり包皮したりするフィルム等の部材は省略可能となる。」と、排気細孔が異物侵入を抑制できること、フィルム等の部材が異物混入防止のためであることが記載されていることから、訂正事項1の「前記容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気するとともに異物混入を抑制する複数の排気細孔からなる排気孔群が、異物混入防止のための、当該排気孔群を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成されていて」は、本件特許の明細書に記載された事項の範囲内においてするものである。
また、同じく段落【0025】に、「蓋体部10の蓋面部11に排気孔群20を構成する個々の排気細孔21に際し、その貫通のための加工方法は適宜であり、例えば、針刺しやドリル等である。しかし、これらの物理的な加工方法の場合、時間を多く要することに加え、十分な加工精度が得られない等の点が挙げられる。また、孔形成に際し、微粉末の発生の問題も払拭できず、事後の洗浄の手間も必要となる。そこで、簡便かつ迅速に蓋面部に排気細孔を穿設するべく、レーザー光線の照射が用いられる。」と記載され、排気細孔はレーザー光線を照射して貫通した孔であるから、訂正事項1の「排気細孔はレーザー光線照射孔である」は、本件特許の明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ さらに、「排気細孔」、「排気孔群を被覆又は包皮する部材」について、それらの用途を限定し、さらに、本件訂正前に「前記排気細孔はレーザー光線照射により穿設されている」には、製造方法に係る「穿設」という用語が含まれていたものを、「穿設」により得られる構造として「孔」と記載したものであるから、訂正事項1は、「物」の発明として、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項2及び訂正事項3について
訂正事項2及び訂正事項3は、訂正事項1で特許請求の範囲の請求項1の記載を訂正するのに伴い、明細書の記載を、請求項1の記載と整合させるために訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、本件特許の明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

3.訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項〜第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1.本件発明
上記のとおり、本件訂正請求が認められたから、本件特許の請求項1、2に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
電子レンジ加熱のための食品を収容する容器本体部と、前記容器本体部の開口部と嵌合する蓋体部とを備えた蓋嵌合容器であって、
前記蓋体部の蓋面部には、前記容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気するとともに異物混入を抑制する複数の排気細孔からなる排気孔群が、異物混入防止のための、当該排気孔群を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成されていて、
前記排気細孔はレーザー光線照射孔であるとともに、
前記排気細孔の直径は0.15ないし0.59mmであり、
前記排気細孔の個数は8ないし1000個であり、
かつ前記排気孔群における前記排気細孔の開口面積の合計は0.25ないし100mm2である
ことを特徴とする電子レンジ加熱食品用容器。
【請求項2】
前記排気孔群が平面図形として構成されている請求項1に記載の電子レンジ加熱食品用容器。」

2.取消理由の要旨
本件発明1、2に係る特許に対して、令和2年11月10日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。

本件発明1、2は、その出願前日本国内または外国において頒布された以下の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
《引用刊行物》
引用文献1:特開平7−237658号公報(甲2)
引用文献2:特開平11−11543号公報(甲3)
引用文献3:特開平10−218250号公報(甲4)
引用文献4:実願平2−106124号(実開平4−62684号)のマイクロフィルム
引用文献5:実願平2−71089号(実開平4−29977号)のマイクロフィルム
引用文献6:特開2014−227185号公報
引用文献7:特開2012−1265号公報(甲5)

3.当審の判断
(1)引用文献1に記載された発明
ア 引用文献1には、次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 周壁の内側に被嵌合部を有する容器本体と上記被嵌合部に嵌合する縁部を有する蓋体からなる合成樹脂製の食品容器において、上記蓋体上面の少なくとも一部を凹部とし、この凹部内に蓋面表裏を貫通し得る連通部を設けたことを特徴とする食品容器。」
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、弁当、惣菜その他の食品収納に好適であり、具体的には圧空、真空成形等のサーモフォーミング法により成形された蓋付きの食品容器に関する。
【0002】
【従来の技術】従来のこの種食品容器として、図8(A)に示す構造のものが知られている。これは、容器本体1の周壁の内側上部に、段部2とこの段部2から容器内方に傾斜して立ち上げた傾斜面3と外方へ折り返し形成された縁部4とからなる被嵌合部5を設け、この被嵌合部5に蓋体6の周縁折曲部7を密接に圧嵌し、収納した食品の液や汁の漏出が防止されるようになっていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記従来構造の食品容器は、密封性に優れ、液漏れを効果的に防止できるものの、容器内部に空気を密封するため周縁折曲部7が被嵌合部5に嵌入し難く、また、電子レンジ等で容器を加熱したときに、密封された空気が加熱膨張して蓋体6を容器本体1から浮き上がらせてしまうことがあった。
【0004】これを解決する方法として、図8(B)に示すように、蓋体6の頂部に小孔8を穿設し、この小孔8から膨張空気や水蒸気を容器外部に排出させる方法が考えられる。しかし、この方法によると、蓋体6にラベルLを貼ったり、容器全体を塩化ビニル、ポリプロピレン等のストレッチフィルムFで包被したりしたときに、小孔8を閉塞させやすく、かかる状態で容器を加熱すると、容器に密封された膨張空気が小孔8から排出できず、容器を圧迫変形させ、蓋体6が弾けて外れ、場合によっては収納物の一部を飛散させてしまう等の欠点があった。
【0005】本発明は、従来の蓋構造及びその解決方法における上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高い密封性を維持しつつ液漏れを効果的に防止できると共に、電子レンジ等による加熱時や高温に熱せられた食品収納時にも、容器内の膨張空気を効率的に排出し、容器を変形させることのない食品容器を提供することにある。」
「【0009】
【実施例】以下、本発明の一実施例を図面により説明する。図1乃至図5において、9は容器本体、10は蓋体であり、何れも圧空、真空成形等のサーモフォーミング法により、夫々の周縁が図8に示す従来例と同様な内嵌合構成で平面視略円形の嵌合部形状に成形されている。両者の嵌合は、蓋体10の周縁が容器本体9の外側に被るように嵌合する構成や、上下に重合して嵌合する構成のものでもよく、また平面視楕円状等に成形してあるものでもよい。
【0010】蓋体10の上面中央部には、当該蓋面10aに貼着される任意大きさのラベルLよりも小寸法の凹部11が、蓋面10aの頂部から適宜の深さ凹ませて形成され、この凹部11の底面には蓋体10の表裏を貫通するピンホール状の小孔12が穿設されている。小孔12は、容器内の加熱状態の空気の排出を確実に行なうことのできる適宜な大きさ、例えば0.5〜1mm径前後で適宜な個数形成される。この小孔12は、例えば加熱針を蓋面に押し当てる等の任意方法を用いて空けることができるが、孔を空けるときに蓋内面側から外面側へ向かって空けることがより好ましい。また、凹部11及び小孔12を設ける位置は、容器が傾いても液に浸りにくい位置として蓋面10aの中央部付近が好ましいが、この範囲に限定するものではない。」
「【0017】図6はストレッチフィルムFで容器を包被せず、ラベルLのみを貼着する場合の本発明の実施例を示しており、これは上記実施例と同様の嵌合構成を有する蓋体16の蓋面16aに星型に凹んだ凹部17を形成し、この凹部17の底部に小孔18を穿設したものである。図中、破線はラベルLを示しているが、このようにラベルLを貼ったときに凹部17の一部が容器表面に露出していれば、容器加熱時に膨張空気をここから容器外部に排出し得(同図(B)参照)、容器内部の気圧を一定に保つことができる。なお、凹部17は、当該容器に使用するラベルLよりも大きく形成し、その形状は任意である。」
「【0019】
【発明の効果】以上、本発明によれば、蓋面に凹部を形成し、この凹部の底部に蓋体の表裏を貫通する小孔若しくは切り込み片を設けるようにしたので、蓋面にラベルを貼着しても小孔や切り込み片が閉塞することはなく、容器内外を常に連通させることができる。また、上記凹部と蓋体周側面とを連通させておくことにより、ストレッチフィルムで容器を包被した場合でも、容器内外を連通させることができる。従って、容器加熱時や高温の食品等の収納時に、容器内部で膨張した空気や水蒸気を適宜外部に排出し得、容器内部の気圧を加熱冷却状態に関わらず一定に保つことができ、容器を圧迫変形させることなく、容器本体と蓋体との確実な嵌合状態を維持することができる。」



イ 上記記載からみて、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「電子レンジ等による加熱のための食品を収容する容器本体と、容器本体の周壁の内側の被嵌合部に嵌合する縁部を有する蓋体からなり、蓋体の蓋面に凹部を形成し、この凹部の底部に、容器内の加熱状態の空気や水蒸気の排出を確実に行なうことのできる、適宜な大きさの0.5〜1mm径前後で適宜な個数の小孔を形成した合成樹脂製の食品容器において、ストレッチフィルムFで容器を包被せず、ラベルLのみを、凹部の一部が容器表面に露出するように貼着した、電子レンジ等による加熱に用いる食品容器。」

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と引用発明を対比すると、引用発明の「電子レンジ等による加熱のための食品」、「容器本体」、「容器本体の周壁の内側の被嵌合部に嵌合する縁部を有する蓋体」、「合成樹脂製の食品容器」、「蓋体の蓋面」、「電子レンジ等による加熱に用いる食品容器」は、それぞれ、本件発明1の「電子レンジ加熱のための食品」、「容器本体部」、「容器本体部の開口部と嵌合する蓋体部」、「蓋嵌合容器」、「蓋体部の蓋面部」、「電子レンジ加熱食品用容器」に相当する。
また、引用発明の「蓋体の蓋面に凹部を形成し、この凹部の底部に、容器内の加熱状態の空気や水蒸気の排出を確実に行なうことのできる、適宜な大きさの0.5〜1mm径前後で適宜な個数の小孔を形成した合成樹脂製の食品容器において、ストレッチフィルムFで容器を包被せず、ラベルLのみを、凹部の一部が容器表面に露出するように貼着した」と、本件発明1の「前記蓋体部の蓋面部には、前記容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気するとともに異物混入を抑制する複数の排気細孔からなる排気孔群が、異物混入防止のための、当該排気孔群を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成されていて、前記排気細孔はレーザー光線照射孔であるとともに、前記排気細孔の直径は0.15ないし0.59mmであり、前記排気細孔の個数は8ないし1000個であり、かつ前記排気孔群における前記排気細孔の開口面積の合計は0.25ないし100mm2である」とは、「蓋体部の蓋面部」に形成された「容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気する複数の孔」という限りにおいて一致する。
そうすると、本件発明1と引用発明とは、
「電子レンジ加熱のための食品を収容する容器本体部と、前記容器本体部の開口部と嵌合する蓋体部とを備えた蓋嵌合容器であって、前記蓋体部の蓋面部には、前記容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気する複数の孔が形成されている、電子レンジ加熱食品用容器。」である点で一致し、
以下の点で相違する。
《相違点1》
本件発明1が「前記蓋体部の蓋面部には、前記容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気するとともに異物混入を抑制する複数の排気細孔からなる排気孔群が、異物混入防止のための、当該排気孔群を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成されていて、前記排気細孔はレーザー光線照射孔であるとともに、前記排気細孔の直径は0.15ないし0.59mmであり、前記排気細孔の個数は8ないし1000個であり、かつ前記排気孔群における前記排気細孔の開口面積の合計は0.25ないし100mm2である」のに対し、
引用発明は「蓋体の蓋面に凹部を形成し、この凹部の底部に、容器内の加熱状態の空気や水蒸気の排出を確実に行なうことのできる、適宜な大きさの0.5〜1mm径前後で適宜な個数の小孔を形成」し、「ストレッチフィルムFで容器を包被せず、ラベルLのみを、凹部の一部が容器表面に露出するように貼着した」ものである点。
イ 上記相違点1について検討する。
(ア)引用発明の小孔は、「容器内の加熱状態の空気や水蒸気の排出を確実に行なうことのできる、適宜な大きさの0.5〜1mm径前後で適宜な個数」、形成されるものであるから、容器内の内容物から発生する水蒸気の量が変われば、適切に水蒸気を逃がすためには、水蒸気を逃がす孔の大きさ(径)と個数も、それに合わせて変えることが必要であることは、当業者に明らかであり(例えば、引用文献2(「【0018】・・・・細孔12の、数及び個々の細孔12の大きさは固定されたものではなく、容器内に存在する液体の成分、粘度等により前記の範囲を逸脱したものとしてもよい。また、前記切り込みを設ける場合の切り込みの長さとその数は、蒸気の発生の量との関係を考慮して設計することができる。」)、引用発明の小孔の大きさ(径)と個数は、発生する水蒸気の量に応じて、適宜設定されるものであるといえる。
引用発明の「適宜な大きさの0.5〜1mm径前後で適宜な個数の小孔」のうち、直径「0.5〜0.59mm」の小孔は、本件発明1の「排気細孔」の直径「0.15ないし0.59mm」の範囲内であるところ、電子レンジで加熱される容器から発生する水蒸気を逃す孔として小さい孔を多数設けることは、周知の技術(例えば、引用文献2(【0018】直径1〜500μm(0.5mm)の細孔を10〜1000ケ/cm2)、引用文献3(【0025】孔径0.1〜5mmの孔を1〜10個/cm2)であり、引用発明の適宜個数の「0.5mm」の小孔を、発生する水蒸気の量に応じて調整し、上記相違点1に係る本件発明1の構成のように、「直径は0.15ないし0.59mm」、「個数は8ないし1000個」、「開口面積の合計は0.25ないし100mm2」の排気孔群とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。
その際、引用文献1の記載によれば、「この小孔12は、例えば加熱針を蓋面に押し当てる等の任意方法を用いて空けることができる」(段落【0010】)とされており、引用発明の小孔を、食品包装容器に小孔を空ける方法として周知技術(例えば、上記引用文献2(【0026】)、上記引用文献3(【0025】))であるレーザー光線照射を用いて、レーザー光線照射孔とすることも、適宜なし得たものである。
(イ)また、引用発明の食品容器は、容器にラベルLを貼着するものであるが、ラベルよりも凹部の方が大きく形成されて膨脹空気を排出し得るようにしており、その場合、ラベルLと凹部の隙間から異物が入り得ることになるから、ラベルLは、異物が小孔から混入することを防止するために設けられた部材には該当しないものと理解できる。
そして、本件特許明細書において、「排気孔群を被覆又は包皮する部材」が省略されることにより、「本発明の食品用容器は、電子レンジ加熱または加温時の開封等の手間も必要なく、包装資材費の軽減にも貢献し得る。」(【0037】)との効果が得られるとされ、「排気孔群を被覆又は包皮する部材」が存在すると、逆に「電子レンジ加熱または加温時の開封等の手間が必要になる」ことを意味しているものといえるが、引用発明のものは、電子レンジ加熱又は加温時に、ラベルLを取り付けたままで調理できるものであり、このことは、引用発明のラベルLが、異物が小孔から混入することを防止するために設けられた部材には該当しないという上記理解と整合する。
(ウ)さらに、食品包装容器において、通気孔が大きいと虫等の異物が混入する可能性を考慮すると、通気孔が小さい方が好ましいことは、例えば、引用文献3(「【0003】・・・・米穀用袋において、通気性が大き過ぎる場合には、その通気孔から虫等が侵入し、思いもしない事故を起こすことがあるものである。」)や、引用文献4(「孔の大きさは・・・・殊に、1mm以下の大きさとすると、虫の侵入が防止できるので好ましい。」(明細書5頁3〜6行))に示されるように周知の事項であって、本件出願前に、小さい孔は、それ自体、容器内への虫等の混入を防ぐ効果を奏することが、当業者にとって自明であったことから、引用発明の「0.5〜1mm径前後で適宜な個数の小孔」は、「容器内の加熱状態の空気や水蒸気の排出を確実に行なう」とともに、「異物混入を抑制する」ものといえる。
(エ)特許権者は、令和3年1月8日の意見書(22頁「5.(1)本件発明1の解決課題に係る引用文献はない」)で、
「本件で提示された引用文献1〜6に記載された発明ないし技術事項において、 本件発明1の解決課題である、「電子レンジ加熱食品用嵌合容器」の「蓋体部」の「蒸気孔」によって、 「良好な水蒸気排気」と「異物混入抑止」を両立して実現したもの、あるいはそれを示唆するものは、 全く存在せず、従って、これらの引用文献によって本件発明1の進歩性を否定することは、不可能である、根拠がなく、理由がない。」と主張する。
しかし、本件出願前に、小さい孔が、それ自体、容器内への虫等の混入を防ぐ効果を奏することが、当業者にとって自明であり、引用発明の「0.5〜1mm径前後で適宜な個数の小孔」は、「容器内の加熱状態の空気や水蒸気の排出を確実に行なう」とともに、「異物混入を抑制する」ものともいえることは、上記イ(ウ)で述べたとおりであるから、引用発明の小孔は、それ自体が、「良好な水蒸気排気」とともに「異物混入抑止」を実現するものであり、特許権者の上記主張は採用できない。
(オ)よって、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、引用発明及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に想到し得たものである。
ウ(ア)本件発明1の効果について、本件特許明細書の【0012】には、「現実の市場にて流通する多くの食品の包装に対応でき、後述する実施例に示されるように、従前の水蒸気の排気構造に代わり、排気細孔群を形成するのみで、良好な水蒸気排気とともに異物混入抑制効果を備えることができる。さらに加えて、請求項1の発明によれば、前記排気細孔がレーザー光線照射孔であるため、簡便かつ迅速に蓋面部に排気細孔を穿設することができる。」と記載されている。
しかし、食品包装容器において、通気孔が大きいと虫等の異物が混入する可能性があり、小さい孔は、それ自体、容器内への虫等の混入を防ぐ効果を奏することが当業者にとって自明であることは上述(イ(ウ))のとおりであって、特許権者が主張する良好な水蒸気排気とともに異物混入抑制効果を備えるという効果は、引用発明及び上記引用文献3及び4に記載された周知の事項から、当業者が予測できるものである。
また、レーザー光線照射孔による効果についても、引用発明及び上記引用文献2、3に記載された周知技術から、当業者が予測できるものである。
(イ)この点、特許権者は、令和2年7月28日の意見書(第1部7.(2)本件発明1の効果に係る本件決定の判断の誤り)で、
「(い)周知引例(当審注:上記引用文献4)の孔(空気孔)は、本件発明1のような電子レンジ加熱時における高温の加熱蒸気の排出という機能を全く有しておらない。「飯」からのせいぜい人の手で触ることができる程度の湯気(水分)の通気を対象とするものである。つまり、周知技術は食品調理のために容器内の高温の加熱蒸気(気体)の排出を対象とする「電子レンジ蒸気孔」としての機能を有せず、本件発明1の細孔とは技術的意義が全く相違する。しかも、周知技術は、本件発明1の細孔(蒸気孔)が有する「水蒸気を効率よく排気する」効果とともに、あわせて当該「電子レンジ蒸気孔」によって「昆虫等の異物混入を有効に抑制できる」という効果を実現できるものでもない。・・・・」、
「(え)・・・・そもそも、本件発明1は、近年のコンビニエンスストアの猛烈な店舗数の拡大と電子レンジ機器の幅広い普及とあいまって、そこで取り扱われる電子レンジ加熱食品(近時の造語では「レンチン食品」)による新しい飲食形態に伴うビジネスモデル上のニーズに迫られ開発、現出されるに至ったものであって、少なくとも、20、30年ほど前には、電子レンジ加熱食品用容器の蓋部の蒸気孔に、良好な水蒸気排気を可能とし同時に異物混入抑制を実現する、被覆材を不要とする構造などは到底考えられもしなかったニーズであったということができる。・・・・」、
「(お)そうであるとすると、引用周知技術の孔(空気穴)による「防虫効果」が、本件発明1の「電子レンジ加熱容器の蓋部に設けた電子レンジ蒸気孔のみによって、(I)食品から発生する水蒸気を効率よく排気するものであるとともに、(II)昆虫等の異物混入を有効に抑制できる(従って、異物混入防止のための排気穴を被覆したり包皮したりする部材が不要となる)という、2つの課題を同時に解決できる」という(【0009】)効果を否定する根拠とはならないことは、明らかであり、また、前記のように、本件発明1における、「蒸気孔」の構成のみ(被覆部材を設けることなく)によって、良好な電子レンジ排気とともに、虫等の異物混入防止を効率よく図れるという解決課題及びそれによって実現される効果は、本件発明1の出願当時において、斬新なものであったから、本件発明1の効果が当業者にとって自明で、甲1発明及び甲3に記載された事項等から当業者が予測できるものであるとの、本件決定の判断は、本件発明1(の本質)を全く理解しておらず、その判断は誤ったものであるというほかない。」と主張する。
(ウ)しかし、電子レンジで加熱する容器においても、水蒸気を排出する孔から塵埃や虫などの異物が混入する恐れがあることは、引用文献5(「近年、オーブン、ガスレンジおよび電子レンジ等の加熱調理機器が家庭内に普及するに至り、これに対応したインスタント食品が数々販売されるようになった。・・・・容器の蓋に孔があいていると容器内部に常に、ホコリ、虫等の異物が混入するおそれがあり、また、外気の出入を許すため、食品衛生・保存の見地からも好ましくない。」(明細書3頁13行〜5頁5行))、引用文献6(「【0002】・・・・このような食品包装用容器には、蓋をしたまま電子レンジなどで加熱できるように、蓋の天板部に孔や切込みなどからなる通気部を設け、蒸気等が抜けるようにしたものがある。」、「【0006】食品包装用容器を複数段に棚積みして陳列した場合、蓋の天板部は荷重を受けるため変形しやすくなる。従来の如く、天板部に孔や切込みなどの通気部を設けた蓋は、天板部の変形により通気部が変形して隙間が大きくなり、塵埃などが容器内に侵入するおそれがあった。」)に示されるように、本件特許出願前に周知の課題であり、本件特許の出願時において、「電子レンジ加熱食品用容器の蓋部の蒸気孔に、良好な水蒸気排気を可能とし同時に異物混入抑制を実現する、被覆部材を不要とする構造などは到底考えられもしなかったニーズであった」というものではない。
そして、本件発明1の電子レンジ加熱食品用容器の排気細孔が、昆虫等の異物混入を抑制する効果を奏するのは、主に工場等で容器内に食品を収容して店舗で販売されるまでの段階であって、この段階で虫等の混入を防止する効果を奏することは、上記引用文献3及び4の周知技術においても同様であり、引用文献4の「孔の大きさは・・・・殊に、1mm以下の大きさとすると、虫の侵入が防止できるので好ましい。」との示唆も踏まえれば、引用発明の小孔が、電子レンジ加熱時に水蒸気を排出できるともに、虫等の異物混入の抑制に効果があることは、当業者であれば予測できるものである。
よって、特許権者の上記主張は採用できない。
エ したがって、本件発明1は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(3)本件発明2について
ア 本件発明2と引用発明を対比すると、上記一致点で一致し、上記相違点1で相違するほか、次の相違点2でも相違する。
《相違点2》
本件発明2の「排気孔群が平面図形として構成されている」のに対し、引用発明は、そのように特定されていない点、
イ 上記相違点1、2について検討する。
上記相違点1については、上記(2)イで述べたとおりである。
また、上記相違点2についても、引用文献7に、多数の通気孔を配列させて、星形やハート型、リング状等の平面図形とすることが記載されているように、通気孔で平面図形を構成することは周知の技術であり、引用発明の「適宜の個数の小孔」を、平面図形として構成することは、当業者が容易に想到することができたものである。
よって、本件発明2は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおり、本件発明1及び2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1及び2に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この決定に対する訴えは、この決定の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子レンジ加熱のための食品を収容する容器本体部と、前記容器本体部の開口部と嵌合する蓋体部とを備えた蓋嵌合容器であって、
前記蓋体部の蓋面部には、前記容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気するとともに異物混入を抑制する複数の排気細孔からなる排気孔群が、異物混入防止のための、当該排気孔群を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成されていて、
前記排気細孔はレーザー光線照射孔であるとともに、
前記排気細孔の直径は0.15ないし0.59mmであり、
前記排気細孔の個数は8ないし1000個であり、
かつ前記排気孔群における前記排気細孔の開口面積の合計は0.25ないし100mm2である
ことを特徴とする電子レンジ加熱食品用容器。
【請求項2】
前記排気孔群が平面図形として構成されている請求項1に記載の電子レンジ加熱食品用容器。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-03-24 
出願番号 P2015-211834
審決分類 P 1 651・ 121- ZAA (B65D)
最終処分 06   取消
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 石井 孝明
井上 茂夫
登録日 2019-03-22 
登録番号 6499055
権利者 アテナ工業株式会社
発明の名称 電子レンジ加熱食品用容器  
代理人 鬼頭 優希  
代理人 加藤 大輝  
代理人 加藤 大輝  
代理人 後藤 憲秋  
代理人 後藤 憲秋  
代理人 鬼頭 優希  

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