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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D02J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D02J
管理番号 1383221
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-04-30 
確定日 2022-01-08 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6597020号発明「ポリプロピレン繊維の製造方法と高強度のポリプロピレン繊維」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6597020号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項7について訂正することを認める。 特許第6597020号の請求項〔1−6〕,7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6597020号の請求項1−7に係る特許についての出願は、平成27年7月24日に出願され、令和元年10月11日にその特許権の設定登録がされ、令和元年10月30日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立て以降の経緯は、次のとおりである。
令和2年4月30日 特許異議申立人柏木里実(以下「申立人」という。)による請求項1−7に係る特許に対する本件特許異議の申立て
令和2年7月10日付け 取消理由通知
令和2年8月27日 特許権者による意見書の提出
令和3年1月19日付け 取消理由通知(決定の予告)
令和3年3月12日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和3年5月7日 申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否についての判断
1. 訂正の内容
令和3年3月25日に提出された手続補正書により補正された、令和3年3月12日に提出された訂正請求書による訂正請求(以下「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。(下線は訂正箇所である。)
本件訂正前の請求項7に「引張強度が6.5cN/dtex以上10cN/dtex以下、引張弾性率が85cN/dtex以上170cN/dtex以下であり、単繊維繊度が3.5dtex以上20dtex以下であるポリプロピレン繊維。」と記載されているのを「引張強度が6.5cN/dtex以上10cN/dtex以下、引張弾性率が85cN/dtex以上170cN/dtex以下であり、破断伸度が15.5%以上30%以下であり、単繊維繊度が3.5dtex以上20dtex以下であるポリプロピレン繊維。」に訂正する。

2. 訂正の目的の適否、新規事項追加の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正の目的の適否
本件訂正は、訂正前の請求項7の「引張強度が6.5cN/dtex以上10cN/dtex以下、引張弾性率が85cN/dtex以上170cN/dtex以下であり、単繊維繊度が3.5dtex以上20dtex以下であるポリプロピレン繊維」について、「破断伸度が15.5%以上30%以下であり、」との構成を付加し限定するものであるから、本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2) 新規事項追加の有無
本件特許明細書の段落【0044】には、「本発明のポリプロピレン繊維の破断伸度は10%以上30%以下が好ましい」という記載があり、本件特許明細書の段落【0066】の【表2】には、破断点の値から算出した伸度について「実施例5」及び「実施例7」のものは、「15.5」と記載があるから、本件訂正は、新規事項を追加するものではない。

(3) 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
本件訂正は、発明特定事項を直列的に付加するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないことは明らかであるから、特許請求の範囲の拡張・変更をするものではない。

3. 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項7について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1−7に係る発明(以下「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1−7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
ポリプロピレン未延伸糸を2段以上で延伸する延伸工程を含むポリプロピレン繊維の製造方法であって、1段目の延伸終了時点の工程糸を、小角X散乱測定による赤道方向の強度に対する子午線方向の強度比が1.01以上1.60以下の範囲とし、続いて2段目以降の延伸を行うポリプロピレン繊維の製造方法。
【請求項2】
1段目の延伸終了時の前記工程糸を、DSC測定による168℃以上174℃以下の融解ピークに対する、160℃以上166℃以下の融解ピークの面積比が50%以上57.5%以下の範囲とする、請求項1に記載のポリプロピレン繊維の製造方法。
【請求項3】
1段目の延伸倍率を5倍以上15倍以下とする、請求項1又は2に記載のポリプロピレン繊維の製造方法。
【請求項4】
1段目に延伸する糸温度を110℃以上160℃以下として延伸する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリプロピレン繊維の製造方法。
【請求項5】
前記未延伸糸は、結晶構造の割合が40質量%以下であり、複屈折値が0.1×10−3以上2.5×10−3以下である請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリプロピレン繊維の製造方法。
【請求項6】
前記ポリプロピレン未延伸糸は、メルトフローレートが12g/分以上28g/分以下のポリプロピレン樹脂を融解し、ポリプロピレン樹脂の融点の80℃以上150℃以下の温度で紡糸ノズルの吐出孔から吐出し、次いで冷却固化して、200m/分以上500m/分以下で引取る未延伸糸である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリプロピレン繊維の製造方法。
【請求項7】
引張強度が6.5cN/dtex以上10cN/dtex以下、引張弾性率が85cN/dtex以上170cN/dtex以下であり、破断伸度が15.5%以上30%以下であり、単繊維繊度が3.5dtex以上20dtex以下であるポリプロピレン繊維。」

第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
1. 取消理由の概要
訂正前の請求項7に係る特許に対して、当審が令和3年1月19日付けで特許権者に通知した取消理由<決定の予告>の概要は、次のとおりである。

請求項7に係る発明(以下「本件発明7」という。)は、下記の引用文献1に記載された発明により、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件発明7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、特許法第113条第2号に該当することを理由として、取り消されるべきものである。


<引 用 文 献 一 覧>
1. 特開2003−166139号公報(申立人が提出した「甲第8号証」である。)

第5 当審の判断
1. 引用文献1
(1) 引用文献1に記載された事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である引用文献1には、次の事項が記載されている。(なお、アンダーラインは当審が付したものである。)
ア. 「【0002】
【従来の技術】縫製糸用の材料に関しては、天然繊維やレーヨンで代表される破断伸度15%程度の繊維が、縫製用機械適性が最もよいとされている。また、ポリプロピレン系繊維も縫製糸として用いられているが、以下に示すような問題があった。
【0003】縫製糸用のポリプロピレン系繊維を得る際の延伸方法としては、様々な方法、例えば金属加熱ロールや金属加熱板などを用いる接触加熱延伸、あるいは温水、常圧〜0.2MPa程度の水蒸気、遠赤外線などを用いる非接触加熱延伸などが適用されている。しかしながら、これらの延伸方法においては、さらに熱セット加工を追加して得られた繊維でさえ、破断伸度が25%程度であり、このようなポリプロピレン系繊維を縫製糸として使用すると、縫製条件が厳しい場合、特に高速縫製した場合には、生地と針との摩擦によって発生する熱により糸が伸びて、縫い目の目飛びが発生したり、生地の固定が弱くなる場合があり、最悪の場合糸が溶融状態に近くなって糸切れを起こすなどの問題があった。
【0004】このように、従来のポリプロピレン系繊維の延伸方法では、高破断伸度(25%程度)のものは得られるが、低破断伸度のものは得られず、したがって、従来の延伸方法で得られたポリプロピレン系延伸繊維は、特に縫製条件が厳しい高速縫製糸用としては、適していないのが実状であった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、このような事情のもとで、低破断伸度、高クリープ性および優れた耐摩耗性を有し、かつ熱収縮率が低く、縫製特性に優れ、特に高速縫製糸用として好適なポリプロピレン系縫製糸を提供することを目的とするものである。」

イ. 「【0012】
【発明の実施の形態】本発明のポリプロピレン系縫製糸は、ポリプロピレン系繊維のフィラメント束からなるものであって、以下に示す物性を有している。まず、140℃における乾熱収縮率は6.0%以下である。この乾熱収縮率が6.0%を超えるものでは寸法安定性に劣る。なお、該乾熱収縮率は、JISL1013の熱収縮率(B法)に基づき、温度140℃のオーブン乾燥機中に30分間保持した際の熱収縮率を測定した値である。
【0013】次に、25℃における破断伸度は、20%以下、好ましくは15%以下であり、低破断伸度を有している。この破断伸度が20%を超えると所望のクリープ率が得られにくく、縫製用機械適性に劣るものとなる。また、初期引張り抵抗は、86cN/dTex(800kg/mm2)以上、好ましくは100cN/dTex以上である。初期引張り抵抗の上限については特に制限はないが、通常215cN/dTex以下である。さらに、破断強度は、一般に8cN/dTex以上であり、その上限については特に制限はないが、通常20cN/dTex以下である。上記初期引張り抵抗が86cN/dTex未満であったり、破断強度が8cN/dTex未満であると、縫製時に糸が伸びて目飛びが発生したり、糸切れが生じ、また縫製糸としての強度が不十分であり、糸切れなどが生じるおそれがある。なお、上記破断伸度、初期引張り抵抗および破断強度は、60本一束のマルチフィラメントを、JIS L1013に準拠し、つかみ間隔200mm、引張速度200mm/分の定速伸長形条件で、温度25℃にて引張破断試験を行い、それぞれ測定した値である。
【0014】一方、20℃における荷重1cN/dTex下での200時間後クリープ率は2.0%以下、好ましくは1.5%以下である。このクリープ率が2.0%を超えると縫製用機械適性に劣り、本発明の目的が達せられない。なお、上記クリープ率は、以下に示す方法により、測定した値である。
【0015】〈クリープ率の測定〉20℃の恒温室中で無荷重時の測定長200mmの印を付けた後、繊維を直径約50mmの円柱パイプに10周以上巻き付け、巻き付けた先はテープで固定する(繊維はパイプに直接結ぶと重い荷重の場合、結び目で切れやすいためパイプに巻き付ける)。荷重は指定の荷重分の重りを円形パイプ内にバランス良く取り付けて固定し、指定時間中荷重を掛け続けた後、糸長を測定してクリープ率を、式
クリープ率(%)=[(L2−L1)/L1]×100
(L1:原糸長(mm)、L2:指定時間後の糸長(mm)]
より算出する。
【0016】また、耐磨耗性については、従来のポリプロピレン系縫製糸よりも切断までの摩擦回数が2倍であり、縫製後の糸の磨耗による耐久性能は2倍高いものを有している。なお、上記耐摩耗性はJISL1095の一般紡績糸試験方法における7.10.1A法に準拠し(耐水研磨紙は400番を使用)、磨耗強さを求め、耐摩耗性を評価した結果である。
【0017】本発明のポリプロピレン系縫製糸を構成するポリプロピレン系モノフィラメントの繊度は、通常1〜33dTex、好ましくは3〜17dTexの範囲であり、そして該モノフィラメントの数は、通常3〜4500本程度である。また、フィラメント束からなる縫製糸の繊度は、糸の用途にもよるが、通常3〜7500dTex、好ましくは180〜4500dTexの範囲である。」

ウ. 【0062】【表1】




エ. 上記摘記事項ウ.の表1によれば、「実施例1」で得られた延伸マルチフィラメントはフィラメント本数が60本で、繊度が204dTexであるから、フィラメント1本当たり、すなわちモノフィラメントの繊度は下式より、3.4dTexである。
204(dTex)÷60(本)=3.4(dTex/本)

(2) 引用発明
上記(1)の摘記事項ア.〜ウ.及び認定事項エを総合すると、引用文献1には、特に、実施例1に着目すると、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「破断強度が8.6cN/dTex、初期引張り抵抗が129cN/dTexであり、破断伸度が11.4%であり、モノフィラメントの繊度が3.4dTexであるポリプロピレン繊維」

2. 対比
本件発明7と、引用発明とを対比する。
引用発明の「破断強度」は、本件発明7の「引張強度」に相当する。
引用発明の「初期引張り抵抗」は、引張りを行った際に繊維が弾性変形を行う範囲における弾性率を示すものであり、本件発明7の「引張弾性率」に相当する。
そうすると、本件発明7は、引用発明と以下の点で一致し、相違する。

<一致点>
「引張強度が6.5cN/dtex以上10cN/dtex以下、引張弾性率が85cN/dtex以上170cN/dtex以下であるポリプロピレン繊維。」

<相違点1>
本件発明7の「単繊維繊度」は3.5dtex以上20dtex以下であり、破断伸度は15.5%以上30%以下であるのに対し、
引用発明の「モノフィラメントの繊度」は3.4dTexであり、破断伸度は11.4%である点。


3. 相違点についての検討
「モノフィラメントの繊度」に関し、上記1.(1)イ.に摘記した引用文献1の「本発明のポリプロピレン系縫製糸を構成するポリプロピレン系モノフィラメントの繊度は、通常1〜33dTex、好ましくは3〜17dTexの範囲であり」(【0017】)との記載によれば、引用文献1のモノフィラメントの繊度は3〜17dTexの範囲のものが好ましいとされている。
また、破断伸度に関し、同所に摘記した引用文献1の「25℃における破断伸度は、20%以下、好ましくは15%以下であり、低破断伸度を有している。この破断伸度が20%を超えると所望のクリープ率が得られにくく、縫製用機械適性に劣るものとなる。」(【0013】)との記載によれば、引用文献1のポリプロピレン繊維の25℃における破断伸度は、20%以下、好ましくは15%以下であり、低破断伸度を有し、この破断伸度が20%を超えると所望のクリープ率が得られにくく、縫製用機械適性に劣るものとなるとされている。
すなわち、引用文献1には、一応、本件発明7の「3.5dtex以上20dtex以下」の範囲と重複する範囲の「モノフィラメントの繊度」が取り得るものとして開示されているし、「15.5%以上30%以下」と重複する範囲の「破断伸度」が取り得るものとして記載されている。
しかし、引用文献1の段落【0003】−【0005】に、
「【0003】縫製糸用のポリプロピレン系繊維を得る際の延伸方法としては、様々な方法、例えば金属加熱ロールや金属加熱板などを用いる接触加熱延伸、あるいは温水、常圧〜0.2MPa程度の水蒸気、遠赤外線などを用いる非接触加熱延伸などが適用されている。しかしながら、これらの延伸方法においては、さらに熱セット加工を追加して得られた繊維でさえ、破断伸度が25%程度であり、このようなポリプロピレン系繊維を縫製糸として使用すると、縫製条件が厳しい場合、特に高速縫製した場合には、生地と針との摩擦によって発生する熱により糸が伸びて、縫い目の目飛びが発生したり、生地の固定が弱くなる場合があり、最悪の場合糸が溶融状態に近くなって糸切れを起こすなどの問題があった。
【0004】このように、従来のポリプロピレン系繊維の延伸方法では、高破断伸度(25%程度)のものは得られるが、低破断伸度のものは得られず、したがって、従来の延伸方法で得られたポリプロピレン系延伸繊維は、特に縫製条件が厳しい高速縫製糸用としては、適していないのが実状であった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、このような事情のもとで、低破断伸度、高クリープ性および優れた耐摩耗性を有し、かつ熱収縮率が低く、縫製特性に優れ、特に高速縫製糸用として好適なポリプロピレン系縫製糸を提供することを目的とするものである。」
と示されるように、引用文献1のポリプロピレン繊維は、低破断伸度のポリプロピレン系縫製糸を提供することを目的としたものであり、引用発明の破断伸度(11.4%)を高いものとすることは当該目的と相反するものであるから、引用発明の「11.4%」の破断伸度を当該相違点に係る本件発明の構成に換えることの動機付けがあるとはいえず、むしろ、阻害事由が存在する。
さらに、破断強度、初期引張り抵抗、破断伸度、モノフィラメントの繊度といった物性は互いに独立した物性とはいえず、引用発明のモノフィラメントの繊度と破断伸度を段落【0017】、【0013】の示唆に基づいて変更しようとした際に、破断強度、初期引張り抵抗、破断伸度、モノフィラメントの繊度のすべてが本件発明7と重複するように変更できるかは不明であるし、そのような変更を当業者が行おうとするであろうと解すべき事情もない。
したがって、本件発明7は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4. 申立人の意見について
申立人は、令和3年5月7日に提出された意見書において、引用文献1の段落【0004】の記載から当業者は破断伸度が20%を超えないものは低破断伸度であると把握することができるから、特許権者が主張する、引用発明の11.4%という破断伸度をわざわざ高速縫製して不利になる15%を超え20%以下と高くすることに動機付けがなく阻害要因とさえいえるとの理由は失当である旨主張する。
しかし、引用文献1の段落【0003】−【0005】に示されるように、引用文献1のポリプロピレン繊維は、低破断伸度のポリプロピレン系縫製糸を提供することを目的としたものであり、引用発明の破断伸度を高いものとすることは当該目的と相反するものであるから、申立人の上記主張は採用できない。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1.申立人は、特許異議申立書において、請求項1−6に記載の発明は、特許異議申立書に添付された、以下の甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明、及び甲第3−7号証に記載された事項に基き容易に想到し得たものである旨主張する。
甲第1号証:特開平9−176916号公報
甲第2号証:特開平9−170111号公報
甲第3号証:特表2008−519180号公報
甲第4号証:特開2009−7727号公報
甲第5号証:中国特許出願公開第1128811号明細書
甲第6号証:大阪市立工業研究所プラスチック読本編集委員会、プラスチック技術協会共編、「プラスチック読本」、改訂第18版、(株)プラスチックス・エージ発行、1992年8月15日、151頁
甲第7号証:特開平8−92813号公報

2.そこで検討する。本件発明1−6は、「ポリプロピレン未延伸糸を2段以上で延伸する」工程を含む製造方法であって、1段目の延伸終了時点の工程糸を、小角散乱測定による赤道方向の強度に対する子午線方向の強度比を特定するものである。
一方、甲第1号証は、多段階での延伸工程について「紡糸及び延伸工程は1段階及び多段階のいずれでも行うことができる」(【0029】)と記載するのみであり、実施例には多段階の延伸工程を採用したものはない。また、多段階の延伸工程を採用した場合の1段目の延伸終了の時点の工程糸の小角X散乱測定による赤道方向の強度に対する子午線方向の強度比を測定することも記載されていない。
仮に甲第3−5号証を参照し延伸を二段階以上で行うことを周知の方法と認定し、甲1号証に記載された発明に二段階以上の延伸工程を適用したとしても、多段階の延伸工程を採用した場合の1段目の延伸終了の時点の工程糸の小角X散乱測定による赤道方向の強度に対する子午線方向の強度比は依然として不明である。
また、甲第2号証は、2段以上で延伸する延伸する延伸工程を開示しておらず、多段階の延伸工程を採用した場合の1段目の延伸終了の時点の工程糸の小角X散乱測定による赤道方向の強度に対する子午線方向の強度比に関する記載もない。
仮に甲第3−5号証を参照し延伸を二段階以上で行うことを周知の方法と認定し、甲第2号証に記載された発明に二段階以上の延伸工程を適用したとしても、多段階の延伸工程を採用した場合の1段目の延伸終了の時点の工程糸の小角X散乱測定による赤道方向の強度に対する子午線方向の強度比は依然として不明である。
甲第3−5号証は、延伸を二段階以上で行うことが周知技術であったこと等を示そうとするものに過ぎない。甲第6号証は、本件請求項6に記載の発明で特定される、ポリプロピレンのホモポリマーの融点を示そうとするものに過ぎない。甲第7号証は、本件請求項5に係る発明で特定される、複屈折率を示そうとするものに過ぎない。
したがって、本件請求項1に記載の発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明、及び甲第3−7号証に基き容易に想到し得たものとはいえない。本件請求項2−6は、請求項1を直接的または間接的に引用するものであるから、本件請求項2−6に記載の発明も、甲第1−7号証に基き容易に想到し得たものとはいえない。


第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1−7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1−7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。



 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン未延伸糸を2段以上で延伸する延伸工程を含むポリプロピレン繊維の製造方法であって、1段目の延伸終了時点の工程糸を、小角X散乱測定による赤道方向の強度に対する子午線方向の強度比が1.01以上1.60以下の範囲とし、続いて2段目以降の延伸を行うポリプロピレン繊維の製造方法。
【請求項2】
1段目の延伸終了時の前記工程糸を、DSC測定による168℃以上174℃以下の融解ピークに対する、160℃以上166℃以下の融解ピークの面積比が50%以上57.5%以下の範囲とする、請求項1に記載のポリプロピレン繊維の製造方法。
【請求項3】
1段目の延伸倍率を5倍以上15倍以下とする、請求項1又は2に記載のポリプロピレン繊維の製造方法。
【請求項4】
1段目に延伸する糸温度を110℃以上160℃以下として延伸する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリプロピレン繊維の製造方法。
【請求項5】
前記未延伸糸は、結晶構造の割合が40質量%以下であり、複屈折値が0.1×10−3以上2.5×10−3以下である請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリプロピレン繊維の製造方法。
【請求項6】
前記ポリプロピレン未延伸糸は、メルトフローレートが12g/分以上28g/分以下のポリプロピレン樹脂を融解し、ポリプロピレン樹脂の融点の80℃以上150℃以下の温度で紡糸ノズルの吐出孔から吐出し、次いで冷却固化して、200m/分以上500m/分以下で引取る未延伸糸である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリプロピレン繊維の製造方法。
【請求項7】
引張強度が6.5cN/dtex以上10cN/dtex以下、引張弾性率が85cN/dtex以上170cN/dtex以下であり、破断伸度が15.5%以上30%以下であり、単繊維繊度が3.5dtex以上20dtex以下であるポリプロピレン繊維。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-12-27 
出願番号 P2015-146868
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (D02J)
P 1 651・ 113- YAA (D02J)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 久保 克彦
柳本 幸雄
登録日 2019-10-11 
登録番号 6597020
権利者 三菱ケミカル株式会社
発明の名称 ポリプロピレン繊維の製造方法と高強度のポリプロピレン繊維  
代理人 林 司  
代理人 小林 均  
代理人 小林 均  
代理人 林 司  

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