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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1383222
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-06-03 
確定日 2022-01-05 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6616265号発明「加熱部、基板処理装置、及び半導体装置の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6616265号の特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1−5〕,6,7,〔8−14〕,15,16について訂正することを認める。 特許第6616265号の請求項1−5,6,7に係る特許を維持する。 特許第6616265号の請求項8,10−14,15,16に係る特許を取り消す。 特許第6616265号の請求項9に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6616265号の請求項1〜16に係る特許についての出願は,平成28年9月8日(優先権主張 平成27年10月16日)に出願され,令和元年11月15日にその特許権の設定登録がされ,令和元年12月4日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は,以下のとおりである。

令和2年6月3日:特許異議申立人河井清悦(以下「申立人1」という。)による請求項1〜16に係る特許に対する特許異議の申立て
令和2年6月4日:特許異議申立人本間賢一(以下「申立人2」という。)による請求項1,2,6〜13,15,16に係る特許に対する特許異議の申立て
令和2年11月27日付け:取消理由通知書
令和3年2月26日:特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
令和3年5月11日:申立人1による意見書の提出
令和3年5月12日:申立人2による意見書の提出
令和3年7月7日付け:取消理由通知書(決定の予告)

令和3年7月7日付け取消理由通知書(決定の予告)に対して,特許権者からの応答はなかった。


第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
令和3年2月26日提出の訂正請求書による訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)は,次の訂正事項1〜41からなる。

1.1 請求項1〜5に係る訂正事項
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記発熱体を包囲する包囲体」と記載されているのを,「前記発熱体を包囲する,外層部と内層部を包む包囲体」に訂正する。
請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2〜5も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記包囲体の外側に設けられ」と記載されているのを,「前記外層部の外側に設けられ」に訂正する。
請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2〜5も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「前記包囲体の一端側と他端側とが隣接した状態」と記載されているのを,「前記包囲体の長手方向の一端側と他端側とが隣接した状態」に訂正する。
請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2〜5も同様に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に「前記直管部それぞれの前記一端側及び前記他端側」と記載されているのを,「前記直管部それぞれを覆う前記包囲体の前記一端側及び前記他端側」に訂正する。
請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2〜5も同様に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1に「カバーを有する」と記載されているのを「カバーを有し,前記ガス管と前記内層部との間に,前記内層部よりも熱の蓄積度の大きい部材が設けられ,」に訂正する。
請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2〜5も同様に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項1に「前記温度検知部が,前記部材と前記ガス管との隙間に配置されている」と記載する訂正を行う。
請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2〜5も同様に訂正する。

1.2 請求項6に係る訂正事項
(1)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項6に「前記発熱体を包囲する包囲体」と記載されているのを,「前記発熱体を包囲する,外層部と内層部を含む包囲体」に訂正する。
(2)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項6に「前記包囲体の外側に設けられ」と記載されているのを,「前記外層部の外側に設けられ」に訂正する。
(3)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項6に「前記包囲体の一端側と他端側とが隣接した状態」と記載されているのを,「前記包囲体の長手方向の一端側と他端側とが隣接した状態」に訂正する。
(4)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項6に「前記直管部それぞれの前記一端側及び前記他端側」と記載されているのを,「前記直管部それぞれを覆う前記包囲体の前記一端側及び前記他端側」に訂正する。
(5)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項6に「カバーを有する」と記載されているのを「カバーを有し,前記ガス管と前記内層部との間に,前記内層部よりも熱の蓄積度の大きい部材が設けられ,」に訂正する。
(6)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項6に「前記温度検知部が,前記部材と前記ガス管との隙間に配置されている」と記載する訂正を行う。

1.3 請求項7に係る訂正事項
(1)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項7に「前記発熱体を包囲する包囲体」と記載されているのを,「前記発熱体を包囲する,外層部と内層部を含む包囲体」に訂正する。
(2)訂正事項14
特許請求の範囲の請求項7に「前記包囲体の外側に設けられ」と記載されているのを,「前記外層部の外側に設けられ」に訂正する。
(3)訂正事項15
特許請求の範囲の請求項7に「前記包囲体の一端側と他端側とが隣接した状態」と記載されているのを,「前記包囲体の長手方向の一端側と他端側とが隣接した状態」に訂正する。
(4)訂正事項16
特許請求の範囲の請求項7に「前記直管部それぞれの前記一端側及び前記他端側」と記載されているのを,「前記直管部それぞれを覆う前記包囲体の前記一端側及び前記他端側」に訂正する。
(5)訂正事項17
特許請求の範囲の請求項7に「カバーを有する」と記載されているのを「カバーを有し,前記ガス管と前記内層部との間に,前記内層部よりも熱の蓄積度の大きい部材が設けられ,」に訂正する。
(6)訂正事項18
特許請求の範囲の請求項7に「前記温度検知部が,前記部材と前記ガス管との隙間に配置されている,」と記載する訂正を行う。

1.4 請求項8〜14に係る訂正事項
(1)訂正事項19
特許請求の範囲の請求項8に「前記発熱体を包囲する包囲体」と記載されているのを,「前記発熱体を包囲する,外層部と内層部を含む包囲体」に訂正する。
請求項8の記載を引用する請求項10〜14も同様に訂正する。
(2)訂正事項20
特許請求の範囲の請求項8に「前記包囲体の外側に設けられ」と記載されているのを,「前記外層部の外側に設けられ」に訂正する。
請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する請求項10〜14も同様に訂正する。
(3)訂正事項21
特許請求の範囲の請求項8に「前記包囲体の一端側と他端側とが隣接した状態」と記載されているのを,「前記包囲体の長手方向の一端側と他端側とが隣接した状態」に訂正する。
請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する請求項10〜14も同様に訂正する。
(4)訂正事項22
特許請求の範囲の請求項8に「前記ガス管と対向する位置に配置された温度検知部」と記載されているのを,「前記フレキシブル管と対向する位置に配置された温度検知部」に訂正する。
請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する請求項10〜14も同様に訂正する。
(5)訂正事項23
特許請求の範囲の請求項8に「前記発熱体と前記発熱体が取り付けられる断熱部材とを有し,前記内層部と前記外層部との間に配置された発熱部と,」と記載する訂正を行う。
請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する請求項10〜14も同様に訂正する。
(6)訂正事項24
特許請求の範囲の請求項8に「前記発熱体は,前記内層部と前記フレキシブル管との間に形成される間隙を加熱することで温度安定性を図り,」と記載する訂正を行う。
請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する請求項10〜14も同様に訂正する。
(7)訂正事項25
特許請求の範囲の請求項8に「前記温度検知部は,前記フレキシブル管と非接触となるよう配置されている」と記載されているのを,「前記温度検知部は 前記発熱体と同様に前記発熱部に設置されるよう構成され,前記間隙,前記内層部および前記断熱部材が形成されていることにより前記フレキシブル管と非接触となり,前記フレキシブル管側よりも前記発熱体側になるよう配置されている」に訂正する。
請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する請求項10〜14も同様に訂正する。
(8)訂正事項26
特許請求の範囲の請求項9を削除する。
(9)訂正事項27
特許請求の範囲の請求項10に「前記フレキブル管の蛇腹部」と記載されているのを,「前記フレキシブル管の蛇腹部」に訂正する。

1.5 請求項15に係る訂正事項
(1)訂正事項28
特許請求の範囲の請求項15に「前記発熱体を包囲する包囲体」と記載されているのを,「前記発熱体を包囲する,外層部と内層部を含む包囲体」に訂正する。
(2)訂正事項29
特許請求の範囲の請求項15に「前記包囲体の外側に設けられ」と記載されているのを,「前記外層部の外側に設けられ」に訂正する。
(3)訂正事項30
特許請求の範囲の請求項15に「前記包囲体の一端側と他端側とが隣接した状態」と記載されているのを,「前記包囲体の長手方向の一端側と他端側とが隣接した状態」に訂正する。
(4)訂正事項31
特許請求の範囲の請求項15に「前記ガス管と対向する位置に配置された温度検知部」と記載されているのを,「前記フレキシブル管と対向する位置に配置された温度検知部」に訂正する。
(5)訂正事項32
特許請求の範囲の請求項15に「前記発熱体と前記発熱体が取り付けられる断熱部材とを有し,前記内層部と前記外層部との間に配置された発熱部と,」と記載する訂正を行う。
(6)訂正事項33
特許請求の範囲の請求項15に「前記発熱体は,前記内層部と前記フレキシブル管との間に形成される間隙を加熱することで温度安定性を図り,」と記載する訂正を行う。
(7)訂正事項34
特許請求の範囲の請求項15に「前記温度検知部は,前記フレキシブル管と非接触となるよう配置されている」と記載されているのを,「前記温度検知部は,前記発熱体と同様に前記発熱部に設置されるよう構成され,前記間隙,前記内層部および前記断熱部材が形成されていることにより前記フレキシブル管と非接触となり,前記フレキシブル管側よりも前記発熱体側になるよう配置されている」に訂正する。

1.6 請求項16に係る訂正事項
(1)訂正事項35
特許請求の範囲の請求項16に「前記発熱体を包囲する包囲体」と記載されているのを,「前記発熱体を包囲する,外層部と内層部を含む包囲体」に訂正する。
(2)訂正事項36
特許請求の範囲の請求項16に「前記包囲体の外側に設けられ」と記載されているのを,「前記外層部の外側に設けられ」に訂正する。
(3)訂正事項37
特許請求の範囲の請求項16に「前記包囲体の一端側と他端側とが隣接した状態」と記載されているのを,「前記包囲体の長手方向の一端側と他端側とが隣接した状態」に訂正する。
(4)訂正事項38
特許請求の範囲の請求項16に「前記ガス管と対向する位置に配置された温度検知部」と記載されているのを,「前記フレキシブル管と対向する位置に配置された温度検知部」に訂正する。
(5)訂正事項39
特許請求の範囲の請求項16に「前記発熱体と前記発熱体が取り付けられる断熱部材とを有し,前記内層部と前記外層部との間に配置された発熱部と,」と記載する訂正を行う。
(6)訂正事項40
特許請求の範囲の請求項16に「前記発熱体は,前記内層部と前記フレキシブル管との間に形成される間隙を加熱することで温度安定性を図り,」と記載する訂正を行う。
(7)訂正事項41
特許請求の範囲の請求項16に「前記フレキシブル管と非接触となるよう配置されている」と記載されているのを,「前記温度検知部は,前記発熱体と同様に前記発熱部に設置されるよう構成され,前記間隙,前記内層部および前記断熱部材が形成されていることにより前記フレキシブル管と非接触となり前記フレキシブル管側よりも前記発熱体側になるよう配置されている,」に訂正する。

1.7 一群の請求項について
ア 訂正前の請求項1,2,3,4,5について,訂正前の請求項2,3,4はそれぞれ請求項1を引用しているものであって,訂正事項1〜6によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。また,訂正前の請求項5は,請求項3を引用しているものであって,訂正事項1〜6によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正される請求項3に連動して訂正されるものである。
したがって,訂正前の請求項1,2,3,4,5に対応する訂正後の請求項1,2,3,4,5は,特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

イ 訂正前の請求項8,9,19,11,12,13,14について,訂正前の請求項9,10,11,14はそれぞれ請求項8を引用しているものであって,訂正事項19〜25によって記載が訂正される請求項8に連動して訂正されるものである。また,訂正前の請求項12は,請求項11を引用しているものであって,訂正事項19〜25によって記載が訂正される請求項8に連動して訂正される請求項11に連動して訂正されるものである。また,訂正前の請求項13は,請求項12を引用しているものであって,訂正事項19〜25によって記載が訂正される請求項8に連動して訂正される請求項11に連動して訂正される請求項12に連動して訂正されるものである。
したがって,訂正前の請求項8,9,10,11,12,13,14に対応する訂正後の請求項8,9,10,11,12,13,14は,特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

2.訂正の目的の適否,新規事項の有無,及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
2.1 請求項1〜5に係る訂正事項(訂正事項1〜6)について
(1)訂正事項1について
(1.1)訂正の目的の適否
訂正事項1は,「包囲体」を「外層部と内層部を含む包囲体」と限定するものであるから,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(1.2)新規事項の有無
訂正事項1は,本件特許の明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」という。)の段落0033における「ガス配管10を加熱する加熱部310は, 包囲体としてのガス配管10側の内層部510及び大気側の外層部500に囲まれている 」との記載に基づくものであるから,明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり,新規事項を追加するものではない。よって,訂正事項1は特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。
(1.3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は,「包囲体」という特定事項を「外層部と内層部を含む包囲体」という概念的に下位のものに限定するものであり,請求項1のカテゴリーや対象,目的を変更するものではなく,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当しないから,特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2について
(2.1)訂正の目的の適否
訂正事項2は,「留め部」が「包囲体の外側に設けられ」ていたものを,「外層部の外側に設けられ」ているものに限定する訂正であり,「外層部と内層部を含む包囲体」のうち,特に「外層部」の外側に設けられるものに限定する訂正であるから,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2.2)新規事項の有無
訂正事項2は,明細書等の段落0033における「包囲体(外層部500)の外側に設けられ,包囲体(外層部500)の一端側と他端側とが隣接した状態で一端側と他端側を留める留め部700」との記載に基づくものであるから,明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり,新規事項を追加するものではない。よって,訂正事項2は特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。
(2.3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は,「留め部」の設けられる位置を,「外層部と内層部を含む包囲体」のうち,特に「外層部」の外側に設けられるものに限定する訂正であり,請求項1のカテゴリーや対象,目的を変更するものではなく,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当しないから,特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。

(3)訂正事項3について
(3.1)訂正の目的の適否
訂正事項3は,訂正前の「前記包囲体の一端側と他端側とが隣接した状態」との事項を訂正後の「前記包囲体の長手方向の一端側と他端側とが隣接した状態」に限定するものであるから,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(3.2)新規事項の有無
訂正事項3は,明細書等の段落0033における「図4(b)には,加熱部310をガス配管10の外周に装着する際,包囲体の一端側と他端側を隣接させ,一端側と他端側との間の僅かな隙間を留め部700により覆う様子が示されている。」との記載,段落0040における「加熱部310は,後述する図11に示すように,包囲体を展開すると,ガス配管10の延在方向が長手方向として略長方形に構成されている。ガス配管10の外周に装着し,包囲体の長手方向の一端側と他端側とが隣接した状態とすると,ガス配管10の外周全周を覆うようになる。」との記載,段落0043における「包囲体をガス配管10に装着した際に,包囲体の一端側と他端側とが隣接した状態でガス配管10の外周を覆うように一端側と他端側とを留める留め部700が構成されている。」との記載に基づくものであるから,明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり,新規事項を追加するものではない。よって,訂正事項3は特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。
(3.3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3は,訂正前の「前記包囲体の一端側と他端側とが隣接した状態」との事項を訂正後の「前記包囲体の長手方向の一端側と他端側とが隣接した状態」に限定するものであり,請求項1のカテゴリーや対象,目的を変更するものではなく,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当しないから,特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。

(4)訂正事項4について
(4.1)訂正の目的の適否
訂正事項4は,訂正前の「前記直管部それぞれの前記一端側及び前記他端側を覆う」「カバー」を,訂正後の「前記直管部それぞれを覆う前記包囲体の前記一端側及び前記他端側を覆う」「カバー」に限定するものであり,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(4.2)新規事項の有無
訂正事項4は,明細書等の段落0040における「ガス配管10の外周に装着し,包囲体の長手方向の一端側と他端側とが隣接した状態とすると,ガス配管10の外周全周を覆うようになる。すなわち,包囲体は,ガス配管10に装着した際に,包囲体の一端側と他端側とが隣接した状態でガス配管10の外周を覆うように構成されている。」,段落0047における「留め部700は,カバー部701とカバー部701に設けられた接着部704と,包囲体の外層部500に設けられた接着部703とで構成されている。」との記載に基づくものであるから,明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり,新規事項を追加するものではない。よって,訂正事項4は特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。
(4.3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項4は,請求項1の「カバー」について「前記直管部それぞれを覆う前記包囲体の前記一端側及び前記他端側を覆う」ものであることを限定するものであり,請求項1のカテゴリーや対象,目的を変更するものではなく,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当しないから,特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。

(5)訂正事項5について
(5.1)訂正の目的の適否
訂正事項5は,訂正前の請求項1について「前記ガス管と前記内層部との間に, 前記内層部よりも熱の蓄積度の大きい部材が設けられ」と限定するものであるから,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(5.2)新規事項の有無
訂正事項5は,明細書等の段落0034における「絶縁部材600には,包囲体よりも熱の蓄熱度の大きい材質を用いると,ガス配管10の加熱具合を均一にしやすくなるため,好適である。例えば,絶縁部材600は,ガラスクロス材よりも蓄熱度の大きいアルミナクロス材で構成すると良い。」,段落0042における「また,加熱部310は,図4に示すように,内層部510よりも蓄熱度が大きい絶縁部材600がガス配管10と内層部510との間に設けられ,発熱体530からの熱エネルギーがこの絶縁部材600に吸収され,絶縁部材600からの熱伝導でガス配管10を加熱する構成としている。」との記載に基づくものである。
ここで,明細書等の上記箇所における「絶縁部材600」は,「発熱体530からの熱エネルギー」を吸収し,「絶縁部材600からの熱伝導でガス配管10を加熱する」ことで「ガス配管10の加熱具合を均一にしやすく」するためのものであって,電気的な絶縁分離を目的とするものでないことは明らかであるから,明細書等には「内層部よりも熱の蓄積度の大きい部材」が記載されているに等しいものと理解できる。
そうすると,訂正事項5は,明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり,新規事項を追加するものではないから,特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。
(5.3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項5は,訂正前の請求項1について「前記ガス管と前記内層部との間に, 前記内層部よりも熱の蓄積度の大きい部材が設けられ」と限定するものであるから,請求項1のカテゴリーや対象,目的を変更するものではなく,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当しないから,特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。

(6)訂正事項6について
(6.1)訂正の目的の適否
訂正事項6は,訂正前の請求項1において「前記温度検知部が,前記部材と前記ガス管との隙間に配置されている」と限定するものであるから,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(6.2)新規事項の有無
訂正事項6は,明細書等の段落0035における「また,加熱部310は,絶縁部材600とガス配管10の隙間に,例えば板状に形成された集熱板等の温度検知部555を備えている。」との記載に基づくものであるから,明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり,新規事項を追加するものではない。よって,訂正事項6は特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。
(6.3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項6は,訂正前の請求項1において「前記温度検知部が,前記部材と前記ガス管との隙間に配置されている」と限定するものであるから,請求項1のカテゴリーや対象,目的を変更するものではなく,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当しないから,特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。

2.2 請求項6に係る訂正事項(訂正事項7〜12)について
訂正事項7〜12の内容は,訂正事項1〜6の内容にそれぞれ対応する。そうすると,訂正事項7〜12は,請求項6に対し訂正事項1〜6と同旨の訂正を行うものであるから,上記2.1で検討したのと同様にして,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。

2.3 請求項7に係る訂正事項(訂正事項13〜18)について
訂正事項13〜18の内容は,訂正事項1〜6の内容にそれぞれ対応する。そうすると,訂正事項13〜18は,請求項7に対し訂正事項1〜6と同旨の訂正を行うものであるから,上記2.1で検討したのと同様にして,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。

2.4 請求項8〜14に係る訂正事項(訂正事項19〜27)について
(1)訂正事項19〜21について
訂正事項19〜21の内容は,訂正事項1〜3の内容にそれぞれ対応する。そうすると,訂正事項19〜21は,請求項8〜14に対し訂正事項1〜3と同旨の訂正を行うものであるから,上記2.1の(1)〜(3)で検討したのと同様にして,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。

(2)訂正事項22について
(2.1)訂正の目的の適否
訂正事項22は,「前記ガス管」を「前記フレキシブル管」に限定する訂正であるから,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2.2)新規事項の有無
訂正事項22は,明細書等の段落0052における「ガス配管10のうち,特にフレキシブル管10を覆う場合に使用される」との記載に基づくものであり,明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり,新規事項を追加するものではない。よって,訂正事項22は特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。
(2.3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項22は,「前記ガス管」を「前記フレキシブル管」に限定する訂正であるから,請求項8のカテゴリーや対象,目的を変更するものではなく,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当しないから,特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。

(3)訂正事項23について
(3.1)訂正の目的の適否
訂正事項23は,訂正前の請求項8について「前記発熱体と前記発熱体が取り付けられる断熱部材とを有し,前記内層部と前記外層部との間に配置された発熱部」との限定をするものであるから,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(3.2)新規事項の有無
訂正事項23は,明細書等の段落0054における「図10(c)に示すように,フレキシブル管10に装着される加熱部310は,包囲体としての内層部510及び外層部500との間に,発熱体530と該発熱体530を支持するための支持部としての断熱部材540を含む発熱部と発熱体530のガス配管10とは反対側に配置される断熱部520とを積層したもので主として構成されている。」,訂正前の請求項9における「前記発熱体と前記発熱体が取り付けられる断熱部材とを有する発熱部を設け」との記載に基づくものであるから,明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり,新規事項を追加するものではない。よって,訂正事項23は特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。
(3.3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項23は,訂正前の請求項8について「前記発熱体と前記発熱体が取り付けられる断熱部材とを有し,前記内層部と前記外層部との間に配置された発熱部」との限定をするものであり,請求項8のカテゴリーや対象,目的を変更するものではなく,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当しないから,特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。

(4)訂正事項24について
(4.1)訂正の目的の適否
訂正事項24は,訂正前の請求項8について「前記発熱体は,前記内層部と前記フレキシブル管との間に形成される間隙を加熱することで温度安定性を図り」との限定をするものであり,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(4.2)新規事項の有無
訂正事項24は,明細書等の段落0053における「図10(b)に示す断面図からわかるように,加熱部310とフレキシブル管10間に間隙が形成されている。これは,加熱部310の内径をフレキシブル管10の径よりも大きくしているためである。形成した間隙を加熱していることで温度安定性の確保を図っている。」との記載に基づくものであるから,明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり,新規事項を追加するものではない。よって,訂正事項24は特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。
(4.3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項24は,訂正前の請求項8について「前記発熱体は,前記内層部と前記フレキシブル管との間に形成される間隙を加熱することで温度安定性を図り」との限定をするものであり,請求項8のカテゴリーや対象,目的を変更するものではなく,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当しないから,特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。

(5)訂正事項25について
(5.1)訂正の目的の適否
訂正事項25は,訂正前の請求項8の「前記温度検知部は,前記フレキシブル管と非接触となるように配置されている」との事項を「前記温度検知部は 前記発熱体と同様に前記発熱部に設置されるよう構成され,前記間隙,前記内層部および前記断熱部材が形成されていることにより前記フレキシブル管と非接触となり,前記フレキシブル管側よりも前記発熱体側になるよう配置されている」と限定するものであるから,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(5.2)新規事項の有無
訂正事項25は,明細書等の段落0053「加熱部310とフレキシブル管10間に間隙が形成されている。」,段落0055「温度検知部をフレキシブル管10に設置し温度制御すると,フレキシブル管10の温度は,直管部の温度よりも上昇し,1つのガス配管10内で温度差が生じ,温度均一性が悪化する。よって,図10(c)に示す加熱部310でフレキシブル管10を加熱し,熱電対550は,発熱部に設置するように構成される。例えば,熱電対550は,発熱体530と同様に断熱部材540に縫製して取り付けられている。」,段落0057「本実施における加熱部310は,フレキシブル管10と加熱部310の内層部510との間に間隙を設けており,熱電対550を加熱部310内部に設置(発熱部に設置)しているので,熱電対550とフレキシブル管10を接触させることによる局所的な温度変化の測定に起因する温度制御の不安定さが解消され,フレキシブル管10全体を均等に加熱することができる。」,段落0035「集熱板等の温度検知部555」との記載及び図10に基づくものである。
ここで,明細書等における「温度検知部」が集熱板や熱電対等を包含する事項であることは,上記段落0035の記載や,段落0057において「温度検知部をフレキシブル管10に設置し温度制御すると,・・・温度均一性が悪化する。よって,・・・熱電対550は,発熱部に設置するように構成される。」との記載からも明らかである。
そうすると,訂正事項25は明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり,新規事項を追加するものではないから,特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。
(5.3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項25は,訂正前の請求項8の「前記温度検知部は,前記フレキシブル管と非接触となるように配置されている」との事項を「前記温度検知部は 前記発熱体と同様に前記発熱部に設置されるよう構成され,前記間隙,前記内層部および前記断熱部材が形成されていることにより前記フレキシブル管と非接触となり,前記フレキシブル管側よりも前記発熱体側になるよう配置されている」と限定するものであるから,請求項8のカテゴリーや対象,目的を変更するものではなく,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当しないから,特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。

(6)訂正事項26について
(6.1)訂正の目的の適否
訂正事項26は,請求項の削除を目的とするものであるから,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(6.2)新規事項の有無
訂正事項26は,請求項を削除するものであるから,明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。
(6.3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項26は,請求項を削除するものであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,または変更するものではなく,特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。

(7)訂正事項27について
(7.1)訂正の目的の適否
訂正事項27は,「前記フレキブル管」を「前記フレキシブル管」に訂正するものであるから,特許法120条の5第2項ただし書2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものである。
(7.2)新規事項の有無
訂正事項27は,「前記フレキブル管」を「前記フレキシブル管」に訂正するものであるから,明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。
(7.3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項27は,誤記を訂正するものであるから,請求項10のカテゴリーや対象,目的を変更するものではなく,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当しないから,特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。

2.5 請求項15に係る訂正事項(訂正事項28〜34)について
ア 訂正事項28〜30の内容は訂正事項1〜3の内容にそれぞれ対応する。そうすると,訂正事項28〜30は請求項15に対し訂正事項1〜3と同旨の訂正を行うものであるから,上記1.2で検討したのと同様にして,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
イ 訂正事項31〜34の内容は,訂正事項22〜25の内容にそれぞれ対応する。そうすると,訂正事項31〜34は請求項15に対し訂正事項22〜25と同旨の訂正を行うものであるから,上記2.4の(2)〜(5)で検討したのと同様にして,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。

2.6 請求項16に係る訂正事項(訂正事項35〜41)について
ア 訂正事項35〜37の内容は,訂正事項1〜3の内容にそれぞれ対応する。そうすると,訂正事項35〜37は請求項16に対し訂正事項1〜3と同旨の訂正を行うものであるから,上記2.1の(1)〜(3)で検討したのと同様にして,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
イ 訂正事項38〜41の内容は,訂正事項22〜25の内容にそれぞれ対応する。そうすると,訂正事項38〜41は請求項16に対し訂正事項22〜25と同旨の訂正を行うものであるから,上記2.4の(2)〜(5)で検討したのと同様にして,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。

3.小括
以上のとおり,本件訂正請求による訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
したがって,特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1−5〕,6,7,〔8−14〕,15,16について訂正することを認める。


第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1〜16に係る発明(以下,それぞれ「本件発明1」〜「本件発明16」という。)は,訂正特許請求の範囲の請求項1〜16に記載された以下の事項により特定されるとおりのものである。

【請求項1】
直線状に形成された複数の直管部と該直管部間を連接する屈曲された屈曲部とを有するガス管の表面を覆い,加熱する加熱部であって,
発熱体の外側に配置される断熱部と,
前記断熱部および前記発熱体を包囲する,外層部と内層部を含む包囲体と,
前記外層部の外側に設けられ,前記包囲体の長手方向の一端側と他端側とが隣接した状態で前記一端側と前記他端側とを留める留め部と,
前記ガス管と対向する位置に配置された温度検知部と,を備え,
前記直管部と前記屈曲部とを覆う前記留め部は,前記直管部それぞれを覆う前記包囲体の前記一端側及び前記他端側を覆うカバーを有し,
前記ガス管と前記内層部との間に,前記内層部よりも熱の蓄積度が大きい部材が設けられ,
前記温度検知部が,前記部材と前記ガス管との隙間に配置されている
加熱部。
【請求項2】
前記温度検知部は,前記ガス管の表面に沿って前記ガス管側の主面が湾曲するよう構成されている請求項1記載の加熱部。
【請求項3】
前記屈曲部には,前記カバーに巻き込んで,前記屈曲部を覆う補助カバーが設けられる請求項1記載の加熱部。
【請求項4】
前記カバーには,その内部に該カバーの強度を高めるシートが設けられている請求項1記載の加熱部。
【請求項5】
前記補助カバーは,その内部に該補助カバーの強度を高めるシートを設けない構成である請求項3記載の加熱部。
【請求項6】
基板を処理する処理室と,前記処理室内に原料ガスを供給するガス管を有するガス供給系と,前記ガス管の表面を覆い,加熱する加熱部と,を備え,
前記ガス管は,直線状に形成された複数の直管部と該直管部間を連接する屈曲された屈曲部を有し,
前記加熱部は,
前記ガス管を加熱する発熱体の外側に配置される断熱部と,
前記断熱部および前記発熱体を包囲する,外層部と内層部を含む包囲体と,
前記外層部の外側に設けられ,前記包囲体の長手方向の一端側と他端側とが隣接した状態で前記一端側と前記他端側とを留める留め部と,
前記ガス管と対向する位置に配置された温度検知部と,を備え,
前記直管部と前記屈曲部とを覆う前記留め部は,前記直管部それぞれを覆う前記包囲体の前記一端側及び前記他端側を覆うカバーを有し,
前記ガス管と前記内層部との間に,前記内層部よりも熱の蓄積度が大きい部材が設けられ,
前記温度検知部が,前記部材と前記ガス管との隙間に配置されている
基板処理装置。
【請求項7】
発熱体の外側に配置される断熱部と,前記断熱部および前記発熱体を包囲する,外層部と内層部を含む包囲体と,前記外層部の外側に設けられ,前記包囲体の長手方向の一端側と他端側とが隣接した状態で前記一端側と前記他端側とを留める留め部と,直線状に形成された複数の直管部と該直管部間を連接する屈曲された屈曲部とを有するガス管と対向する位置に配置された温度検知部と,を備え,前記直管部と前記屈曲部とを覆う前記留め部は,前記直管部それぞれを覆う前記包囲体の前記一端側及び前記他端側を覆うカバーを有し,前記ガス管と前記内層部との間に,前記内層部よりも熱の蓄積度が大きい部材が設けられ,前記温度検知部が,前記部材と前記ガス管との隙間に配置されている,前記ガス管の表面を覆う加熱部により,前記ガス管を加熱しつつ前記温度検知部で温度検知しながら,前記ガス管を介して処理室内に原料ガスを供給して基板を処理する工程を有する半導体装置の製造方法。
【請求項8】
蛇腹状に形成されたフレキシブル管を含むガス管の表面を覆い,加熱する加熱部であって,
発熱体の外側に配置される断熱部と,
前記断熱部および前記発熱体を包囲する,外層部と内層部を含む包囲体と,
前記外層部の外側に設けられ,前記包囲体の長手方向の一端側と他端側とが隣接した状態で前記一端側と前記他端側とを留める留め部と,
前記フレキシブル管と対向する位置に配置された温度検知部と,
前記発熱体と前記発熱体が取り付けられる断熱部材とを有し,前記内層部と前記外層部との間に配置された発熱部と,を備え,
前記発熱体は,前記内層部と前記フレキシブル管との間に形成される間隙を加熱することで温度安定性を図り,
前記温度検知部は,前記発熱体と同様に前記発熱部に設置されるよう構成され,前記間隙,前記内層部及び前記断熱部材が形成されていることにより前記フレキシブル管と非接触となり,前記フレキシブル管側よりも前記発熱体側になるよう配置されている加熱部。
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
前記フレキシブル管を覆う前記加熱部の前記発熱体は,前記フレキシブル管を基軸として前記フレキシブル管の蛇腹部の山折部と谷折部とに一部が平行となるように形成されている請求項8記載の加熱部。
【請求項11】
前記フレキシブル管を覆う前記加熱部の前記断熱部は複数の断熱層で構成され,
前記断熱層それぞれは,前記フレキシブル管内のガスの流れ方向に対して垂直方向に切り込まれ,複数に分割されている請求項8記載の加熱部。
【請求項12】
前記断熱層それぞれは,前記フレキシブル管内のガスの流れ方向に対して垂直方向に延在するスリットが設けられている請求項11記載の加熱部。
【請求項13】
隣接する前記断熱層それぞれのスリットの位置がずらされて配置されている請求項12記載の加熱部。
【請求項14】
前記包囲体には,前記フレキシブル管内のガス流れ方向に対して垂直方向に延在する折り目が設けられている請求項8記載の加熱部。
【請求項15】
基板を処理する処理室と,前記処理室内に原料ガスを供給するガス管を有するガス供給系と,前記ガス管の表面を覆い,加熱する加熱部と,を備え,
前記ガス管は,蛇腹状に形成されたフレキシブル管を含み,
前記加熱部は,
発熱体の外側に配置される断熱部と,
前記断熱部および前記発熱体を包囲する,外層部と内層部を含む包囲体と,
前記外層部の外側に設けられ,前記包囲体の長手方向の一端側と他端側とが隣接した状態で前記一端側と前記他端側とを留める留め部と,
前記フレキシブル管と対向する位置に配置された温度検知部と,
前記発熱体と前記発熱体が取り付けられる断熱部材とを有し,前記内層部と前記外層部との間に配置された発熱部と,を有し,
前記発熱体は,前記内層部と前記フレキシブル管との間に形成される間隙を加熱することで温度安定性を図り,
前記温度検知部は,前記発熱体と同様に前記発熱部に設置されるよう構成され,前記間隙,前記内層部および前記断熱部材が形成されていることにより前記フレキシブル管と非接触となり,前記フレキシブル管側よりも前記発熱体側になるよう配置されている
基板処理装置。
【請求項16】
発熱体の外側に配置される断熱部と,前記断熱部および前記発熱体を包囲する,外層部と内層部を含む包囲体と,前記外層部の外側に設けられ,前記包囲体の長手方向の一端側と他端側とが隣接した状態で前記一端側と前記他端側とを留める留め部と,蛇腹状に形成されたフレキシブル管を含むガス管の前記フレキシブル管と対向する位置に配置された温度検知部と,前記発熱体と前記発熱体が取り付けられる断熱部材とを有し,前記内層部と前記外層部との間に配置された発熱部と,を有し,前記発熱体は,前記内層部と前記フレキシブル管との間に形成される間隙を加熱することで温度安定性を図り,前記温度検知部は,前記発熱体と同様に前記発熱部に設置されるよう構成され,前記間隙,前記内層部および前記断熱部材が形成されていることにより前記フレキシブル管と非接触となり前記フレキシブル管側よりも前記発熱体側になるよう配置されている,加熱部により前記ガス管を加熱しつつ前記温度検知部で温度検知しながら,前記ガス管を介して処理室内に原料ガスを供給して基板を処理する工程を有する半導体装置の製造方法。」


第4 取消理由通知書(決定の予告)における取消理由の概要
訂正後の請求項8,10〜16に係る特許に対して,当審が令和3年7月7日付けの取消理由通知書(決定の予告)により特許権者に通知した取消理由(以下,「取消理由(決定の予告)」という。)の概要は,以下のとおりである。

・取消理由1
請求項8,10〜16に係る発明は,その優先権主張の日前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献1又は文献16に記載された発明及び文献5〜15,17〜20に記載された周知技術及び技術的事項に基づいて,その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,請求項8,10〜16に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,取り消されるべきものである。

・取消理由2
請求項8,10〜16に係る発明は,その優先権主張の日前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献16に記載された発明及び文献14,21に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,請求項8,10〜16に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,取り消されるべきものである。

文献1(甲1−1):「PRODUCTS GUIDE 総合カタログ」,第3版,株式会社豊中ホット研究所,2014年 1月
文献5(甲1−5):「クリーンルーム用マントルヒーター」,INTERNET ARCHIVE WAYBACK MACHINE,[online],2015年7月2日,株式会社東京技術研究所のホームページ,インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20150702131828/http://tt-labo.co.jp/seihin01/seihin01_03.html>
文献6(甲1−6,甲2−2):特表2013−500451号公報
文献7(甲1−7):特開平1−145537号公報
文献8(甲1−8):特開2012−88171号公報
文献9(甲1−9,甲2−3):特開2014−85185号公報
文献10(甲1−10):「初心者のための測定技術入門」−温度を測るテクニック(熱電対を正しく使う)−,熱物性,1994年10月,第8巻,第4号,pp.276〜280
文献11(甲1−12):特開平9−232295号公報
文献12(甲1−15):特開2010−276184号公報
文献13(甲1−16):特開平9−229285号公報
文献14(甲1−13,甲2−4):実願昭60−92号(実開昭61−116282号)のマイクロフィルム
文献15(甲1−14):「真空機器に使用するベローズ」,真空,1983年10月,第26巻,第10号,pp.757〜769
文献16(甲2−1):特開2002−352941号公報
文献17(甲1−17):特開2002−295783号公報
文献18(甲1−18):特開平7−305796号公報
文献19(甲1−19,甲2−6):特開2003−294192号公報
文献20(甲1−20):特開平10−141587号公報
文献21(甲2−5):特開2009−230454号公報

なお,上記において,「文献1」等の表記は,令和2年11月27日付け取消理由通知書の表記による。また,上記において,特許異議申立人河井清悦(申立人1)の提出した甲第1号証〜甲第20号証を,それぞれ「甲1−1」〜「甲1−20」と記載し,特許異議申立人本間賢一(申立人2)の提出した甲第1号証〜甲第6号証を,それぞれ「甲2−1」〜「甲2−6」と記載した。

第5 文献に記載された事項
1.文献1の記載と引用発明2
(1)文献1の記載
取消理由(決定の予告)において引用した文献1(甲1−1)(「PRODUCTS GUIDE 総合カタログ」,第3版,株式会社豊中ホット研究所,2014年 1月)には,次の記載がある。(下線は当審により付加。)

「カバーヒーター/マントルヒーター

特長
ヒーター・保温材一体型で,ヒータートレースや保温工事のよけいな手間を省略でき,ランニングコストに優れた効果を発揮。
ほとんどの形状に対して対応可能。

使用用途
●半導体製造装置の排気系配管の加熱・保温
●配管設備の加熱・保温(エルボ,配管,バルブ,フランジ,U字管,V字管,Y字管,変形パイプ,枝管,ホッパー,etc.)
・・・(以下略)」(26頁)




「■製作には下記情報などをご提示下さい
・・・(中略)・・・
●温度センサー:熱電対K(CA),J(IC)やPt−100Ωなど
」(27頁下から14行〜4行)

(2)引用発明2
文献1(甲1−1)の26頁には,「カバーヒーター/マントルヒーター」として,以下の図(当審による。以下同じ。追記は,特許異議申立人河井清悦の提出した特許異議申立書の23頁の写真を利用した。)に示す構成が記載されているものと理解できる。

上記図から,次の事項が見て取れる。
・直線状に形成された複数の直管部と直管部間を連接する屈曲された屈曲部とを有する配管。
・包囲体に含まれる表面層の一端側と他端側とが隣接した状態で一端側と他端側とを留める表面層の外側にある留め部を備えること。
・蛇腹状の形成されたフレキシブル管の表面をカバーヒーターで覆うこと。
ここで,文献1の26頁に記載された「使用用途」を参照すると,文献1には,「半導体製造装置の排気系配管」の「フレキシブル管」の表面を,上記図のように「カバーヒーター」で覆うことが記載されているものと理解できる。
また,文献1の27頁に示された「構造図」から,発熱層の外側に配置される保温層と,保温層及び発熱層を包囲する表面層及び内面層とが見てとれる。
さらに,文献1の27頁に示された「材料」によれば,「発熱層」は「ニッケルクロム+Eグラス二重編組」で構成されることが記載されている。

以上によれば,文献1(甲1−1)には次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「蛇腹状に形成されたフレキシブル管を含む半導体製造装置の排気系配管の表面を覆い,加熱・保温するカバーヒーターであって,
ニッケルクロム及びEグラス二重編組で構成された発熱層と,
発熱層の外側に配置される保温層と,
保温層及び発熱層を包囲する,表面層及び内面層と,
表面層の一端側と他端側とが隣接した状態で表面層の長手方向の一端側と他端側とを留める表面層の外側にある留め部と,
温度センサーと,
を備えるカバーヒーター。」

2.文献16の記載と引用発明3
(1)文献16の記載
取消理由(決定の予告)で引用した文献16(甲2−1)(特開2002−352941号公報)には,次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は耐熱クロス上にヒーター線を取り付けて外装カバーを縫着してなる脱着可能なヒーターカバーに関するが,詳しくは内側発熱体に外装カバーを取り付けたヒーター内蔵式の脱着カバーとその成形法に関するものである。」
「【0009】
【実施例】以下,図面によって本発明の実施例について説明する。図1から図4は,本発明の外装カバー付ヒーター内蔵式の脱着カバーとその成形方法を示したものであり,1はその脱着カバー本体である。この脱着カバー1は,ヒーターなどの発熱体と断熱材とからなる内生地2と外装クロス3とリード線4とから構成されている。内生地2は筒状に形成されている袋体に発熱体と断熱材とが装着されている。また,このように構成された内生地2の外周面にはリード線4が外側に取り出されるように外装クロス3で巻き付けられている。なお,5はベルクロであり内生地2に外装クロス3の装着用貼着部である。また,袋体の耐熱用のクロスに挿入されている内側発熱体と外装クロス3とが別体に構成されており,その外装クロス3の内側と外側とが縫製されている。したがって,発熱体とリード線4とが一体化されているとともにリード線4が耐熱用の内側クロスから外側に取り出すことが可能となる。
【0010】図5と図6は本発明の他の実施例を示したものであり,6が外装カバー,8が袋体,9がヒーターケーブル,10がアルミ箔,11がリード線である。この実施例による脱着カバーは,所望付法に裁断した内生地2で袋体8を成形加工する工程と,前記袋体8に発熱体と断熱材を装着する工程と,前記内生地2から発熱体のリード線11を取り出し外装カバー6を取り付ける工程とからなる工程により成形されている。本図からも明らかのように,この場合の脱着カバーは内生地2の袋体8内がアルミ箔10にヒーターケーブル9が装着されており,更にリード線11の外側への取り出しを可能になるように外装カバー6が装着されている。具体的な成形方法は,まず所望の寸法に裁断された内生地2で袋体を成形する。その際,必要に応じて内生地2内にヒーターケーブル9を固定若しくは縫い付ける。次に,袋体8にヒーターケーブル9と袋体8の内側に挿着されている断熱材とをセットして内生地2からヒーターケーブル9のリード線11を外側に取り出す。その際,小さな穴からリード線11の先端を引き出してリード線11の接続作業を行なう。このようにリード線11の接続作業終了したならば外装カバー6を取り付ける。なお,7は接続部でPはパイプである。」

文献16(甲2−1)の図1,4,5として,以下の図面が示されている。






上記図1,4から,直線状のパイプPや屈曲部を有するパイプPの表面を覆う脱着カバー1において,内生地2の外側に設けられ,内生地2の一端側と他端側とが隣接した状態で前記一端側と前記他端側とを留める外装クロス3とベルクロ5を備えることが見てとれる。
また,上記図1,4,5から,発熱体であるヒーターケーブル9の外側に配置される断熱材が見てとれる。

(2)引用発明3
以上によれば,文献16(甲2−1)には次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されているものと認められる。
「直線状のパイプPや屈曲部を有するパイプPの表面を覆う脱着カバー1にお
いて,
発熱体であるヒーターケーブル9の外側に配置される断熱材と,
ヒーターケーブル9が装着されるアルミ箔10と,
断熱材及びヒーターケーブル9を装着する内生地2で成形された袋体8と,
内生地2の外側に設けられ,内生地2の一端側と他端側とが隣接した状態で前記一端側と前記他端側とを留める外装クロス3とベルクロ5と,を備える
脱着カバー1。」

3.文献5の記載
取消理由(決定の予告)で引用した文献5(甲1−5)(「クリーンルーム用マントルヒーター」,INTERNET ARCHIVE WAYBACK MACHINE,[online],2015年7月2日,株式会社東京技術研究所のホームページ,インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20150702131828/http://tt-labo.co.jp/seihin01/seihin01_03.html>)には,次の記載がある。
「クリーンルーム用マントルヒーター|マントルヒーター|東京技術研究所」



クリーンルーム用マントルヒーター
クリーンルームでの使用を目的に開発した製品です。」

「仕様
最高耐熱温度:200℃・400℃
構造:ヒーターと断熱材一体型
固定:ワンタッチ固定(マジップテープ等)
発熱設計:省エネ安全設計
付属品:センサー等内蔵設計可

製作時に必要な情報
使用方法:何を何度に加熱,保温するのか,被加熱物の材質は何なのか,できるだけ詳細な情報
形状:被加熱物の図面,マンガ図或いは現物
使用温度:被加熱物を何度に加熱したいか
使用電圧:ヒーターを使用される電圧
電気容量:特にご指定がなければ弊社にて算出
固定方法:通常マジックテープとめ
リード長:特にご指定がなければ1000mm
オプション:熱電対,サーモスタット,温度ヒューズ内蔵
※使用に関してはご要望に応じて製作可能ですので,ご相談ください。

用途
半導体製造装置の排気系配管の加熱・保温
配管設備の加熱・保温(エルボ,配管,バルブ,フランジ,U字管,V字管,Y字管,変形パイプ,枝管,ホッパー,etc)」

4.文献6〜10の記載と周知技術2
(1)文献6〜10の記載
ア 取消理由(決定の予告)で引用した文献6(甲1−6,甲2−2)(特表2013−500451号公報)には,次の記載がある。
【0001】
本発明は,パイプ加熱装置に関するものである。より詳細には,半導体の製造工程, LCD工程または化学工程等に必要とされる気体や液体を供給するために設置されるパイプラインを加熱するパイプ加熱装置に関する。」
「【0044】
温度制御のために,パイプラインの温度を測定する温度センサーをさらに設けることができる。温度センサーは,内部シート14の表面に設けられ,パイプライン12の温度を制御部が読み込む。」
「【0055】
半導体の製造工程,LCD工程,または化学工程におけるパイプラインは,線形,エルボ形,T字型等様々な形状のパイプが連結されて形成されるが,この様々な形状のパイプを加熱するためには,各形状に対応するパイプ加熱装置を用意する必要がある。
【0056】
図5は,エルボ形パイプと線形パイプとが連結されているパイプライン12に,本実施例に係るパイプ加熱装置を装着した状態を示すものである。」
「【0060】
線形パイプを加熱するためのパイプ加熱装置とエルボ形パイプを加熱するためのパイプ加熱装置とを互いに接するようにパイプラインに設置し,ベルクロ28を用いてパイプラインにパイプ加熱装置をホルディングする。パイプ加熱装置間の隣接部位から熱が放出されるおそれがある場合は,隣接部位にテーピング処理をすることができる。」

イ 取消理由(決定の予告)で引用した文献7(甲1−7)(特開平1−145537号公報)には,次の記載がある。
「〔産業上の利用分野〕
本発明は,被測温体の表面温度を検出ための熱電対に関する。」(第1頁左下欄第16〜18行)
「本実施例は以上のように構成されているので,第4図に示すように,例えば内部に水が存在するボイラチューブ7の表面にニッケル薄板2をスポット溶接6等によって取付けることにより,この薄板2は,ボイラチューブ7の曲面に沿って密着する。また,鞘管1も熱容量が小さく,ニッケル薄板2の被測温体であるボイラチューブ7との接触面積が広く,且つ,温接点5がニッケル薄板2の厚さだけの小間隔をおいて被測温体側壁面の近くに位置している。そのために応答性が良く,特に被測温体の温度が変動する場合でも時間遅れがなく,正確な温度が測定できる。」(第2頁右下欄第7〜18行)

ウ 取消理由(決定の予告)で引用した文献8(甲1−8)(特開2012−88171号公報)には,次の記載がある。
【0001】
本発明は,被測温体の表面温度を検出するための温度測定用熱電対及びその製造方法に関する。」
「【0026】
先ず,図1〜図5に基づき,本発明の第1実施形態を説明する。
【0027】
本実施形態の温度測定用熱電対1は,図1〜図3に示すように,異種金属からなる熱電対素線3,3を,先端封止される金属シース2に電気絶縁材5とともに内装し,該金属シース2の外面に,被測温体表面9に取り付けるための金属薄板4を固着したものである。
・・・
【0030】
金属シース2を被測温体表面9に取り付けるための金属薄板4は,金属シース2の被測温体表面9に対向する側の外面に接触状態で配されるベース薄板40と,金属シース2の被測温体表面9に対向しない側の外面に接触状態で被着され,且つベース薄板40に接合一体化させるカバー薄板41とより構成されている。
これらベース薄板40やカバー薄板41の素材は,熱伝導率の違いによる温度分布の乱れを避けるべく,被測温体と同材質が好ましいが,他の材質を採用することも可能である。本例では例えば厚さ0.1mm程の薄いステンレス板が用いられるが,使用場所及び目的に応じて各種の金属材料が使用可能で,またその厚さも適宜調整することができる。互いに溶接固着されるベース薄板40やカバー薄板41,金属シース2は,同一素材にすることで互いの溶接時の固着性が向上し,溶接パワーを絞って熱破壊を防止しつつ,しっかりとした溶接固着強度を保つことができるメリットがある。
【0031】
カバー薄板41は,少なくとも金属シース2の先端部20の外面21に溶接することにより固着され,本例では,先端部20の外面21に溶接される主接合部61,及び同じく金属シース2の先端封止部より基端側の外周面22に溶接される複数の副接合部62,…により金属シース2に固着されている。主接合部61及び副接合部62の溶接は,薄板の溶接に適した電気抵抗溶接である。ここで,主接合部61の溶接に比べ,副接合部62の溶接のパワーは小さく設定されている。具体的には,溶接電源電圧をより小さく設定している。
【0032】
被測温体としては,例えば内部に水が存在するボイラチューブであり,図2に示すようにその表面9にベース薄板40をスポット溶接等による溶接接合部64によって取り付けることにより,このベース薄板40はカバー薄板41とともにボイラチューブの曲面に沿って密着することとなる。溶接以外の他の取付手段でベース薄板40を被測温体表面9に固着することもできる。被測温体表面へのベース薄板40の溶接は,電気抵抗溶接以外に種々の溶接を用いることができ,Tig溶接やレーザ溶接も好適に用いられる。」

エ 取消理由(決定の予告)で引用した文献9(甲1−9,甲2−3)(特開2014−85185号公報)には,次の記載がある。
「【0032】
第二温度センサ9は,流量を算出する処理装置(図示せず)と電気的に接続されるとともに,ヒータ2の下部に設置され,ヒータ2の下部における配管10の表面温度を計測する。第二温度センサ9は,配管10の形状(第一実施形態では曲面)に沿って変形自在であることが好ましく,例えばフィルム型温度センサによって構成することができる。また,第二温度センサ9は,配管表面に沿って充分に変形自在な程度に素線の径が細ければ,熱電対であってもよい。なお,図2,図3では,説明の便宜上,第二温度センサ9が強調して記載されている。実際には,第二温度センサ9の厚みは,ヒータ2よりも大幅に薄くすることができる。また,第二温度センサ9はヒータ2の下部に,例えばアルミテープ等で固定することが出来る。」

オ 取消理由(決定の予告)で引用した文献10(甲1−10)(「初心者のための測定技術入門」−温度を測るテクニック(熱電対を正しく使う)−,熱物性,1994年10月,第8巻,第4号,pp.276〜280)には,次の記載がある。
「4.熱電対の取り付けによる温度測定の誤差について
熱電対による温度測定の誤差は,素線の個体差などを含む素線自身の温度特性や測定回路を構成する各要素(接点,導線,測定器など)によるのはもちろんですが,この他にともすれば忘れがちなのが,熱電対を挿入することによる測温場の乱れによる影響です.熱電対による温度測定は熱電対の測温接点を被測温物に接触させ,測温接点が被測温物と等しい温度になることでその物体の温度が計測できるというものですが,実際には,熱電対素線や保護管に沿って熱が伝わり測温接点やその付近の物体の温度が変わってしまったり,素線 や保護管を測温点まで引き回すためにまわりの流体や熱の流れが乱され,結果的に測温点の温度が変わってしまうことがあります.なるべく細い熱電対を用いればこれらの影響は小さくなります(特に銅−コンスタンタン熱電対では銅の熱伝導率が高いので線径を太くできない4))が,細い熱電対には前述(2章)の問題もあるので注意が必要です.」(279頁右欄13行〜29行)

(2)周知技術2
上記文献6(特に段落0001,0044を参照。)及び文献7〜10の記載によれば,次の技術的事項(以下「周知技術2」という。)が周知であったといえる。
・ガス管の加熱装置において,ガス管と対向する位置に温度検知部を配置すること。

5.文献11の記載
取消理由(決定の予告)で引用した文献11(甲1−12)(特開平9−232295号公報)には,次の記載がある。
「【0010】
【発明の実施の形態】次に,本発明の実施形態を図面を参照して説明する。図1は本発明を減圧CVD装置に適用した一例を示す構成図である。反応室1はガス配管3を介してSiH2Cl2 ガス及びNH3 ガスの各ガス源であるガスボンベ2に接続される。ガス配管3には第1ないし第4の各バルブ4,5,6,7が介挿配置され,これらのバルブの切り換え制御と,ガス配管3に設けたマスフローコントローラ8によって反応室1に供給されるガス流量が制御されるように構成される。また,反応室1は真空ポンプ9によって所定の負圧に制御される。そして,前記ガス配管3では,ガスボンベ2に近い第1バルブ4からマスフローコントローラ8の直前の第2バルブ5までの間に断熱材10を設け,この断熱材10によってガス配管3のその領域を被っている。また,この断熱材10で被われたガス配管3の領域では,その下流側の一部に電気ヒータ11が設けられ,温度制御回路12によって電気ヒータ11の加熱温度を制御するように構成される。なお,前記電気ヒータ11には温度センサ13が付設されており,この温度センサ13の検出温度に基づいて加熱温度を所定の温度に制御することが行われる。
【0011】この構成においては,温度制御回路12により電気ヒータ11を加熱制御し,ガス配管3のその部分を40℃に調整する。また,ガス配管3は断熱材10によって覆われているために,外気や風等による放熱の影響を配管が受けないので,ガス配管3では第2バルブ5から第1バルブ4に向かって緩やかに下降する温度勾配が構成される。このため,ガスボンベ2から反応室1に向けて通流されるSiH2Cl2 及びNH3 ガスは,第1バルブ4から第2バルブ5に向かって断熱材10内のガス配管3を僅かながら温度が上がる方向に通流されることになる。このように,温度が上がる方向にガスが流れるので,同一圧力下では飽和蒸気圧は大きくなる方向になり,このガスがガス配管3内で再液化することはなくなる。なお,ガスはマスフローコントローラ8にてSiH2Cl2 は0.1SLM ,NH3 は0.9SLM に流量制御され,第3バルブ6を経て圧力30Pa,温度800℃の反応室1へ導入される。反応室1において,窒化膜成長に関与しなかった残ガスは真空ポンプ9により排出される。」




上記図1から,ガス配管3は,直線状に形成された複数の直管部と直管部間を連接する屈曲された屈曲部を有することが見てとれる。

6.文献12の記載
取消理由(決定の予告)で引用した文献12(甲1−15)(特開2010−276184号公報)には,次の記載がある。
【0001】
本発明は,種々の熱処理装置や成形装置等における可動部と固定部の間に連結されるフレキシブル管,特に内部に加熱流体を流通させるフレキシブル管用の断熱カバーと,この断熱カバーを用いたフレキシブル管の断熱構造に関する。」
「【0032】
加えて,この断熱カバーC1にあっては,断熱材2がカバー本体1に縫い付けられているから,フレキシブル管Fの動きに追従して屈伸変形する際,カバー本体1内で断熱材2がずれ動くことがなく,もって断熱材2の偏りによる断熱作用の不均一化を回避できると共に,該断熱材2の折れや断裂もより確実に防止できる。また,断熱材2に用いるガラス繊維マットは長手方向の一定間隔置き形成したスリット2aによって曲げ変形性がよいため,フレキシブル管Fの動きに断熱カバーC1がより円滑に追従できる。更に,断熱カバーC1とフレキシブル管Fとは,非密着状態であるため,互いに拘束されずに無理なく変形でき,それだけ各々の疲労劣化が軽減されて長寿命化する。」
「【0042】
その他,カバー本体1の縫製形態やサイズ,該カバー本体1に対する断熱材2の縫い付け状態等,細部構成については実施形態以外に種々設計変更可能である。更に,本発明の断熱カバーを適用するフレキシブル管Fについても,図8で例示したようなステンレス鋼線やステンレス鋼帯板の編組による被覆を施したものに限らず,一般的なステンレス鋼等の薄肉金属製の蛇腹管も適用対象となる。」

7.文献13の記載
取消理由(決定の予告)で引用した文献13(甲1−16)(特開平9−229285号公報)には,次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,板状センサの配管用取付具に係り,特に板状に形成された温度センサを小径の配管に取り付けるための板状センサの配管用取付具に関する。」
「【0017】このように構成することにより,前記実施の形態の配管用取付具10よりも更に配管16への取り付けが容易になる。また,本実施の形態では,上側のブロック18Aを分割可能に形成し,センサ12を配管16に直接接触させて温度を測定するように構成したが,センサ12と配管16とは直接接触させずに,ブロック18Aに伝達される熱を測定するように構成してもよい。すなわち,図4に示すように,上側のブロック18Aを一体物として構成し,その上面にセンサ12を取り付ける。そして,配管16からブロック18Aに伝達される熱をセンサ12で測定する。この際,図4に示すように,前記実施の形態で開放されていたケーシング20の前部及び後部を側板20a3 ,20b3 で覆う(但し,上側ケーシング20の後部はセンサ12の光ファイバー16をガイドできる開口部を形成する)とともに,ケーシング20の内側に断熱材26A,26Bを敷設して,センサ12とブロック18A,18Bとを断熱材26A,26Bで覆うことにより,センサ12を直接配管16に接触させて測定した状態と近い状態で配管16の温度測定を行うことができる。また,この場合,ブロック18A,18Bを金属(例えばアルミ)等の熱伝導率の高い物質で形成することにより,より高い精度の測定値を得ることができる。」

8.文献14〜15の記載と周知技術3
(1)文献14〜15の記載
ア 取消理由(決定の予告)で引用した文献14(甲1−13,甲2−4)(実願昭60−92号(実開昭61−116282号)のマイクロフィルム)には,次の記載がある。
「2.実用新案登録請求の範囲
ジャバラ形状を有するフレキシブルな内管と,該内管の外方に位置し該内管に取り付けられたヒータと,該昇温ヒータ及び前記内管を包囲するフレキシブルな外管とを有するフレキシブルチューブ。」(明細書1頁4行〜9行)
「3.考案の詳細な説明
(産業上の利用分野)
本考案は真空プロセスを用いる半導体装置と,ガス供給源又は排気装置等とを接続するフレキシブルチューブに関する。」(明細書1頁11行〜14行)
「(従来の技術)
近年,半導体装置の微細化に伴って特公昭57−52953号公報にみられる様なCVD装置,スパッタ装置,あるいは,エッチング装置等の真空プロセスを用いる半導体製造装置が多様される様になった。この様な真空プロセスを用いる装置では,真空度を保ちつつレイアウト上の自由度を増加させる為に,ガス供給源又は排気装置との接続部分にジャバラ形状のフレキシブルチューブを用いる様になった。これは,ストレート管は硬質材料が用いられているのでフレキシブルに曲げることはできず,又,ストレート管のままで軟質材料を用いると内圧と外圧との気圧の差によりつぶれてしまうという不都合があるからである。」(明細書1頁15行〜2頁8行)
「 以下,本実施例の作用を説明する。真空プロセスを用いる半導体製造装置は概ね第3図の様な構成となっている。
図においてガスはフレキシブルチューブ31から反応管32へ導入される。反応管32は反応ヒータ33により加熱されており,この中でガスの反応が生ずる。反応により反応管32中に置かれた図示しない半導体基板上には,反応生成物が析出する。」(明細書5頁15行〜6頁3行)
「又,ガスの導入部のフレキシブルチューブ31について説明すれば,この中を通るガスは前述の様に一部液体のまま通るが,これを反応管32に達するまで強制的に昇温し,完全に気化する作用をする。この場合のヒータ部6の温度は,ガス排出部のフレキシブルチューブ35に使われるもの程高温にする必要はない。この温度は,用いるガスの沸点,フレキシブルチューブ31までの配管条件等を考慮して決定するのが好ましい。」(明細書7頁19行〜8頁7行)
「本考案の実施例のフレキシブルチューブを半導体製造装置,特にCVD装置の排気側に用いた場合,・・・(中略)・・・又,ガス供給側に用いた場合,ここを通るガスを完全に気化することができるようになり膜質の向上に寄与する。」(明細書8頁11行〜9頁10行)

文献14の第1図及び第3図として,以下の図面が示されている。





イ 取消理由(決定の予告)で引用した文献15(甲1−14)(「真空機器に使用するベローズ」,真空,1983年10月,第26巻,第10号,pp.757〜769)には,次の記載がある。
「1.まえがき
ベローズは単純であまり目立たない存在ではあるが,真空機器の駆動部分に用いられる重要な機能部品のひとつである。
真空産業は今さら述べるまでもなく,近年急速に発展している分野であり,内容的にも中性粒子である気体分子だけを扱っていた真空から,電子,イオン,プラズマといった荷電粒子を利用する真空まで,その取扱い範囲が拡がった。
このためベローズも,従来のOリングに代表されるようなパッキンシールでは困難な高真空用のシール部品として,例えば各種の半導体製造設備,核融合実験装置,荷電粒子加速器などの駆動部分のシールやバルブの部品として,多く利用されるようになっている。」(757頁左欄1行〜14行)

(2)周知技術3
上記文献14(特に「従来の技術」参照。)及び文献15の記載によれば,次の技術的事項(以下「周知技術3」という。)が周知であったといえる。
・半導体製造装置において,蛇腹状に形成されたフレキシブルチューブを用いること。

9.文献17の記載
取消理由(決定の予告)で引用した文献17(甲1−17)(特開2002−295783号公報)には,次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,マントルヒータ及びその製造方法に係り,詳しくは精密器具や装置などの直管や曲管の配管,継手,弁など(以下,配管という)の他,その精密器具や装置自体の保温または加熱を目的として用いるマントルヒータ及びその製造方法に関するものである。」
「【0021】発熱体300は,図1(a)に示す断熱クロス301に絶縁被覆された発熱線302を無機繊維製シート303のガラスクロスに縫い糸304で縫い付けられたり,図1(b)の示すようにシート状発熱体305など所定の形状や容量を有するものが使用できる。また,発熱線302には,リード線306を介して電源接続用コネクタ307が取り付けられている。なお,この発熱体300は,次の不燃難燃繊維製シート400に取り付けてもよい。
【0022】不燃難燃繊維製シート400は,無機繊維製シート,有機繊維製シートとを使用でき,無機質繊維製シートは,ガラスファイバー,セラミックファイバー,シリカファイバーなどの無機繊維材にニードル加工を施してコロイダルシリカ,アルミナゾル,ケイ酸ソーダなどの無機質バインダーでシート状に形成させたものが好ましい。また,アラミド,ポリアミド,ポリイミドなどの有機繊維製シートも使用できる。」
文献17(甲1−17)の図8として,以下の図面が示されている。


10.文献18〜20の記載と周知技術4
(1)文献18〜20の記載
ア 取消理由(決定の予告)で引用した文献18(甲1−18)(特開平7−305796号公報)には,次の記載がある。
「【0010】
【作用】本発明の断熱ホースは,上記のような構造としたものであるから,ホースが急角度に曲げられたり,曲げて包装されたり,外部から衝撃を受けたりした場合にあっても,断熱材3を内外2層以上の複数層とし,内層31の継目3a部分と外層32の継目3b部分とをホースの軸線方向に変位させてあるので,内壁1から外壁2に通じるような間隙が生じることがなく,また,このことは屈曲状に配管された配管箇所における大径側部分においても同じであるから,局部的に断熱効果を損なうことがなく,また,ホース全体の断熱効果も充分に発揮し,しばしばホースの外周面に発生していた結露現象を解消することができる。
【0011】
【実施例】以下本発明の実施例について,図面に基づいて説明する。図1は,本発明の第1実施例を示す図であって,上半部分を破断した図である。該実施例に示したホースHは,内壁1に補強線4を配設してある構造の実施例に関するものであって,内壁1は,肉厚0.3〜0.5mm程度の軟質のポリ塩化ビニール(PVC)樹脂素材で形成したテープの一方(図において右側)の側縁部分を折り返して,その折り返し部分の間隙5中に直径1.5〜2.0mm硬質ポリプロピレン製の補強線4を非接着状態にして抱き込ませ,折り返した二重壁部分11bを接着し,このようにしながら,または前工程でこのようにしたものを,ホース形成筒体上において螺旋状に順次巻回し,他方(図において左側)の側縁部分を補強線4の上側において重合させて,この重合部分11aを接着させた構造としたものである。
【0012】断熱材3は,ポリエチレン(PE)樹脂製の発泡率20倍〜40倍程度の高発泡独立気泡のスポンジ体を2〜3mm厚さの断面長方形状に裁断した2本の帯材を,前記内壁1の形成中に内壁1の外周面上において,内壁1を形成するテープと螺旋ピッチを相互に半ピッチ宛ずらせながら巻回形成した内層31と外層32との2層からなっている。外層2は,内壁1形成テープと同様に軟質のPVC樹脂素材で肉厚0.3〜0.5mm程度に形成したテープを,断熱材3の外層32の外周面上において,断熱材3を圧縮させながら,スポンジ帯材と同ピッチで後続縁側(図において左側)の約半幅を重ね合わせながら螺旋状に巻回し,この重合部分21を接着させてある。」

文献18(甲1−18)の図1として,以下の図面が示されている。



イ 取消理由(決定の予告)で引用した文献19(甲1−19,甲2−6)(特開2003−294192号公報)には,次の記載がある。
「【0015】
【発明の実施の形態】本発明の好ましい実施の形態を図1〜図3に示す。なお,図6と同一または類似する部材には同じ符号が付されている。図1〜図3において,1は配管,2は硬質ポリウレタンフォームからなる内層側の割り筒型成形断熱材,3は緊縛用金属バンド,4a,4bは前記内層側の割り筒型成形断熱材の円周方向の突き合わせ目地部および管軸方向の突き合わせ目地部に充填されたグラスウールのクッション材,5は目地部を被覆する金属箔テープ,6は内層側の断熱材の外周面に巻き付けた耐冷性フィルムからなる被覆テープであり,7は硬質ポリウレタンフォームからなる外層側の割り筒型成形断熱材,8は緊縛用バンド,9a,9bは前記外層側の割り筒型成形断熱材の円周方向の突き合わせ目地部および管軸方向の突き合わせ目地部に充填されたグラスウールのクッション材,10,11はその目地部に貼り付けた防湿粘着テープ,12は金属外装材であって,この外層側の断熱材を装着する前に,外層側の管軸方向の目地部に対向する内層側成形断熱材の表面に保護材13を介在させた構成としている。」

文献19(甲1−19,甲2−6)の図1〜3として,以下の図面が示されている。







ウ 取消理由(決定の予告)で引用した文献20(甲1−20)(特開平10−141587号公報)には,次の記載がある。
「【0012】【発明の実施の形態及び実施例】以下,本発明を図面を参照して,更に詳細に説明する。図1は,本発明の一構成例にかかる断熱材付きフレキシブル管を示すもので,この断熱材付きフレキシブル管1は,フレキシブル管本体2の外周面に第1断熱材シート3を巻き付け,更にこのシート3の上に第2断熱材シート4を巻き付けたものであり,第1断熱材シート3及び第2断熱材シート4には,それぞれ多数のスリット5,6が入っている。なお,断熱材付きフレキシブル管1の構成を説明するために,図1では,各断熱材シート3,4の一部を破断して示す。
【0013】このフレキシブル管本体2としては,従来より使用されているものを使用することができ,例えば亜鉛めっき箔やステンレス箔のような金属箔によって蛇腹状の管体に形成したものを使用することができ,具体的には,スチール箔ダクト,アルミ箔ダクト,ステンレス箔ダクト等を挙げることができる。ここで,フレキシブル管本体2を形成する金属箔の厚さ,管の内径は特に制限されるものではなく,金属の種類,使用目的等によって適宜選定することができるが,通常,金属箔の厚さは0.03〜0.3mm,好ましくは0.08〜0.12mm程度のものが好適に使用され,内径は50〜1000mm程度のものが好適に使用される。」

文献20の図1として,以下の図面が示されている。


(2)周知技術4
上記18〜20の記載によれば,次の事項(以下「周知技術4」という。)が周知であったといえる。
・管を覆う断熱材を複数の断熱層で構成し,断熱層それぞれは,管内の流れ方向に対して垂直方向に切り込まれたスリットにより分割され,隣接する異なる断熱層のスリットの位置がずれた配置とすること。

11.文献21の記載
取消理由(決定の予告)で引用した文献21(甲2−5)(特開2009−230454号公報)には,次の記載がある。
「【0001】
本発明は温度調節器及び温度調節器の取付方法に関し,特に,パイプの外周面を覆って加熱するジャケットヒーターの温度調節用のものに適用し得るものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製品の製造では各種のガスが利用される。例えば,CVD装置では,反応室から排気ポンプはパイプで連結され,このパイプを介して反応ガス(排気ガス)が排気される。この排気ガスは,凝固によって流路壁面に固形膜を生成し,排気ポンプの負荷を増大させるなどの悪影響を生じやすい。そのため,パイプ内部でガスが凝結しないように,パイプを一定温度に保つことが行われる。内部に面状の柔軟なヒーターを有する面状のジャケットヒーターで,パイプの外周面を覆い,ジャケットヒーターと温度調節器とを接続して,温度調節器からジャケットヒーターに加熱用の電力供給を行うと共に,ジャケットヒーターの内部に設けられている温度センサの出力を温度調節器にフィードバックし,温度調節器が一定温度に保つように調節する。」
「【0013】
長手方向に沿う一側面から上面にかけての角には,図示しないジャケットヒーターに加熱用の電力供給を行う一対のリード線(図示せず)を取り付けるスプリングコネクタでなるコネクタ部2と,ジャケットヒーターの内部に設けられている温度センサに繋がっている一対のリード線(図示せず)を取り付けるスプリングコネクタでなるコネクタ部3と,スプリングコネクタに接続するリード線から被覆部分を除外する長さの目安を与える小さな半円筒状の窪みでなるゲージ4とが設けられている。」


第6 当審の判断
1.取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由について
取消理由通知書(決定の予告)において以下のように記載したとおり,本件発明8,10〜16は,引用発明2及び文献5〜15,17〜20に記載された技術的事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。また,本件発明8,10〜16は,引用発明3及び文献14,21に記載された技術的事項に基づき当業者が容易に発明することができたものである。

1.1 本件発明8について
(1)引用発明2からの容易想到性について
(1.1)一致点及び相違点
本件発明8と引用発明2を比較する。
ア 引用発明2における「蛇腹状に形成されたフレキシブル管を含む半導体製造装置の排気系配管の表面を覆い,加熱・保温するカバーヒーター」が,本件発明8における「蛇腹状に形成されたフレキシブル管を含むガス管の表面を覆い,加熱する加熱部」に相当する。
イ 引用発明2における「保温層」が本件発明8における「断熱部」に相当し,以下同様に,「表面層」が「外層部」に,「内面層」が「内層部」に,「温度センサー」が「温度検知部」に,それぞれ相当する。
ウ 引用発明2における「表面層の一端側と他端側とが隣接した状態で表面層の長手方向の一端側と他端側とを留める表面層の外側にある留め部」が,本件発明8における「前記外層部の外側に設けられ,前記包囲体の長手方向の一端側と他端側とが隣接した状態で前記一端側と前記他端側とを留める留め部」に相当する。
エ 引用発明2における「ニッケルクロム」は周知のヒーター線材料であり,本件発明8における「発熱体」に相当する。また,引用発明2における「Eグラス二重編組」は,Eガラスファイバーを二重編組したものであるから,本件発明8における「断熱部材」に相当する。
オ 引用発明2における「表面層」及び「内面層」が,本件発明8における「包囲体」に相当する。
カ 引用発明2における「発熱層」は,「表面層」と「内面層」との間に配置されているから,本件発明8における「発熱部」と引用発明2における「発熱層」とは,ともに「前記発熱体と」「断熱部材とを有し,前記内層部と前記外層部との間に配置された発熱部と,を備え」る点で共通する。

そうすると,本件発明8と引用発明2の一致点及び相違点は,以下のとおりとなる。
<一致点>
蛇腹状に形成されたフレキシブル管を含むガス管の表面を覆い,加熱する加熱部であって,
発熱体の外側に配置される断熱部と,
前記断熱部および前記発熱体を包囲する,外層部と内層部を含む包囲体と,
前記外層部の外側に設けられ,前記包囲体の長手方向の一端側と他端側とが隣接した状態で前記一端側と前記他端側とを留める留め部と,
温度検知部と,
前記発熱体と断熱部材とを有し,前記内層部と前記外層部との間に配置された発熱部と,を備える加熱部。」
<相違点2−1>
本件発明8では,「温度検知部」が「前記フレキシブル管と対向する位置に配置され」ているのに対し,引用発明2では,「温度センサー」の配置が特定されていない点。
<相違点2−2>
本件発明8では,「断熱部材」は「前記発熱体が取り付けられる」ものであるのに対し,引用発明2では,「Eグラス二重編組」は「ニッケルクロム」が取り付けられるものであることは特定されていない点。
<相違点2−3>
本件発明8では,「前記発熱体は,前記内層部と前記フレキシブル管との間に形成される間隙を加熱することで温度安定性を図」るのに対し,引用発明2では,そのことが特定されていない点。
<相違点2−4>
本件発明8では,「前記温度検知部は,前記発熱体と同様に前記発熱部に設置されるよう構成され,前記間隙,前記内層部及び前記断熱部材が形成されていることにより前記フレキシブル管と非接触となり,前記フレキシブル管側よりも前記発熱体側になるよう配置されている」のに対し,引用発明2では,「温度センサー」の取り付けと配置について特定されていない点。

(1.2)相違点に対する判断
(1.2.1)相違点2−1について
上記第5の4.(2)において文献6〜10に記載の周知技術2として示したとおり,ガス管を加熱する装置において,ガス管と対向する位置に温度検出部を配置することは,当業者の周知技術であるから,引用発明2において「温度センサー」を「フレキシブル管と対向する位置に配置」することは,当業者が適宜なし得たことである。
(1.2.2)相違点2−2について
引用発明2における「発熱層」は,「ニッケルクロム及びEグラス二重編組」で構成された層であるから,上記「ニッケルクロム」が上記「Eグラス二重編組」に取り付けられて1つの層を成していることは技術的に明らかである。そうすると,相違点2−2は実質的な相違点ではない。
仮にそうでないとしても,ヒーター線を断熱部材に取り付けることは,文献17(段落0021参照)に記載された公知の技術であるから,引用発明2において相違点2−2に係る構成とすることは,当業者が格別の困難なくなし得たことである。
(1.2.3)相違点2−3について
引用発明2の「カバーヒーター」は,「蛇腹状に形成されたフレキシブル管」の表面を覆うものであるところ,フレキシブル管は山折部と谷折部を有するから,「カバーヒーター」で「フレキシブル管」の表面を覆う際には,「カバーヒーター」の「内面層」と「フレキシブル管」の「谷折部」とによって「間隙」が形成されるものと認められる。そうすると,本件発明8と引用発明2は,いずれも「前記発熱体は,前記内層部と前記フレキシブル管との間に形成される間隙を加熱することで温度安定性を図」るものであって,この点において両者に構成上の差異を認めることはできない。
たとえそうでないとしても,フレキシブル管と断熱カバーを非密着状態で覆う構成は文献12(段落0032参照)に記載された公知の構成であるから,引用発明2において相違点3に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
(1.2.4)相違点2−4について
文献5(「仕様」の欄参照)には,マントルヒーターすなわち「カバーヒーター」に熱電対,サーモスタット,温度ヒューズを内蔵させることが記載されており,文献13(段落0017参照)には,温度センサーを配管に直接接触させずに測定を行うことが記載されている。そうすると,引用発明2において「温度センサー」を「フレキシブル管」と直接接触しないように「カバーヒーター」に内蔵させることは,上記文献5,13に記載の技術的事項から容易に想到し得たことである。
そして,上記「カバーヒーター」への内蔵を具体化するに当たり,「カバーヒーター」内のどこに配置するかは当業者が適宜選択する設計事項であるところ,「ニッケルクロム」の取り付けられている「Eグラス二重編組」に設置することを選択することも,当業者が適宜なし得たことである。それにより,「前記間隙,前記内層部及び前記断熱部材が形成されていることにより前記フレキシブル管と非接触となり,前記フレキシブル管側よりも前記発熱体側になるよう配置されている」との事項は自ずと充足されることになる。
したがって,引用発明2において相違点2−4に係る構成とすることは,当業者が容易になし得たことである。
(1.2.5)小括
以上のとおり,本件発明8は,引用発明2に文献6〜10に記載の周知技術及び文献5,12,13,17に記載の技術的事項を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)引用発明3からの容易想到性について
(2.1)一致点及び相違点
本件発明8と引用発明3を比較する。
ア 引用発明3の「パイプP」は,本件発明8の「管」に対応し,引用発明3の「脱着カバー1」は,「直線状のパイプPや屈曲部を有するパイプPの表面を覆う」ものであり,発熱体を含むことから,本件発明8と引用発明3とは,「管の表面を覆い,加熱する加熱部」である点で共通する。
イ 引用発明3における「ヒーターケーブル9」は,本件発明8の「発熱体」に相当し,以下同様に,「断熱材」は「断熱部」に,「袋体8」は「包囲体」に,「外装クロス3とベルクロ5」は「留め部」に,それぞれ相当する。
ウ 引用発明3の「袋体8」は「内生地2」を成形したものであるところ,当該「内生地2」のうち,外側(リード線を引き出す側)にあるものが,本件発明8の「外層部」に相当し,内側(リード線を引き出す側と反対側)にあるものが,本件発明8の「内層部」に相当する。
エ 引用発明3の「外装クロス3」及び「ベルクロ5」は,「内生地2の外側に設けられ,内生地2の長手方向の一端側と他端側とが隣接した状態で前記一端側と他端側を留める」ものであるから,本件発明8と引用発明3は,ともに「前記包囲体の外側に設けられ,前記包囲体の一端側と他端側とが隣接した状態で前記一端側と前記他端側とを留める留め部と,を備える」点で一致する。
オ 引用発明3の「ヒーターケーブル9」は「アルミ箔10」に装着されており,「袋体8」内に装着されるものであるから,当該「ヒーターケーブル9」及び「アルミ箔10」は,本件発明8における「発熱部」に対応する。すなわち,本件発明8と引用発明3は,「前記発熱体と前記発熱体が取り付けられる部材とを有し,前記内層部と前記外層部との間に配置された発熱部と,を備え」る点で共通する。

そうすると,本件発明8と引用発明3の一致点及び相違点は以下のとおりとなる。
<一致点>
「管の表面を覆い,加熱する加熱部であって,
発熱体の外側に配置される断熱部と,
前記断熱部および前記発熱体を包囲する,外層部と内層部を含む包囲体と,
前記外層部の外側に設けられ,前記包囲体の長手方向の一端側と他端側とが隣接した状態で前記一端側と前記他端側とを留める留め部と,
前記発熱体と前記発熱体が取り付けられる部材とを有し,前記内層部と前記外層部との間に配置された発熱部と,を備える加熱部。」
<相違点3−1>
本件発明8は「蛇腹状に形成されたフレキシブル管を含むガス管の表面を覆い,加熱する加熱部」であるのに対し,引用発明3は,「蛇腹状に形成されたフレキシブル管を含むガス管の表面」を覆うことが特定されていない点。
<相違点3−2>
本件発明8は「前記フレキシブル管と対向する位置に配置された温度検知部」を有するのに対し,引用発明3は,温度検知部について特定されていない点。
<相違点3−3>
本件発明8は「発熱体が取り付けられる断熱部材とを有し」ているのに対し,引用発明3は,「ヒーターケーブル9」が取り付けられる断熱部材を有することが特定されていない点。
<相違点3−4>
本件発明8では「前記発熱体は,前記内層部と前記フレキシブル管との間に形成される間隙を加熱することで温度安定性を図」るのに対し,引用発明3では,当該事項が特定されていない点。
<相違点3−5>
本件発明8では,「前記温度検知部は,前記発熱体と同様に前記発熱部に設置されるよう構成され,前記間隙,前記内層部及び前記断熱部材が形成されていることにより前記フレキシブル管と非接触となり,前記フレキシブル管側よりも前記発熱体側になるよう配置されている」のに対し,引用発明3では,当該事項が特定されていない点。

(2.2)相違点に対する判断
(2.2.1)相違点3−1について
文献14から,半導体装置とガス供給源を接続するジャバラ形状のフレキシブルチューブを加熱することは,一般的に行われていることであるといえる。そうすると,パイプの表面を覆って加熱する「脱着カバー1」の発明である引用発明3を,文献14のようなジャバラ形状のフレキシブルチューブに適用するで,相違点3−1に係る構成とすることは,当業者が容易になし得たことである。
(2.2.2)相違点3−2について
文献21には,「パイプの外周面を覆って加熱するジャケットヒーターであって,ジャケットヒーターの内部に設けられている温度センサ。」の技術的事項が記載されている。ここで,対象物の加熱を行う際,所定の温度で加熱するために温度測定を行うことは通常の技術課題であり,引用発明3の「脱着カバー1」もパイプを所定の温度で加熱するためのものであるから,引用発明3に文献21の技術を適用し,「脱着カバー1」の内部に温度センサ(温度検知部)を設けることは,当業者が容易になし得たことである。その際,当該温度センサがパイプと対向する位置となることは自明である。
(2.2.3)相違点3−3について
本件発明8における「断熱部材」とは,熱をわずかでも遮断し得るあらゆる部材を含むものと解されるから,引用発明3の「アルミ箔10」も,本件発明8の「断熱部材」に含まれるものといえる。すなわち,相違点3は実質的な相違点ではない。
(2.2.4)相違点3−4について
上記(2.2.1)で検討したとおり,引用発明3を「ジャバラ形状のフレキシブルチューブ」(フレキシブル管)に適用することは,当業者が容易になし得たことである。
ここで,文献16の図1から見てとれるように,引用発明3の「脱着カバー1」は,パイプ表面と接するように覆うものである。一方,フレキシブル管は山折部と谷折部を有するから,引用発明3をフレキシブル管に適用した際には,「脱着カバー1」の内側の「内生地2」とフレキシブル管の谷折部とによって「間隙」が形成されることになる。そうすると,引用発明3において相違点3−1に係る構成とすること,すなわち引用発明3をフレキシブル管に適用することにより,引用発明3においても,自ずと「前記発熱体は,前記内層部と前記フレキシブル管との間に形成される間隙を加熱することで温度安定性を図」ることになるといえる。よって,引用発明3において相違点3−4に係る構成とすることは,当業者が容易になし得たことである。
(2.2.5)相違点3−5について
上記(2.2.2)で検討したとおり,引用発明3の「脱着カバー1」の内部に温度センサ(温度検知部)を設けることは当業者が容易になし得たことであるところ,その具体化において,「脱着カバー1」内部のどこに温度センサ(温度検知部)を設けるかは,当業者が適宜選択する設計事項であり,「ヒーターケーブル9」とともに「アルミ箔10」に配置することも,適宜なし得たことであるといえる。そして,当該配置は,自ずと「前記間隙,前記内層部及び前記断熱部材が形成されていることにより前記フレキシブル管と非接触となり,前記フレキシブル管側よりも前記発熱体側になる」との事項を充足する配置である。よって,引用発明3において相違点3−5に係る構成とすることは,当業者が適宜なし得たことである。
(2.2.6)小括
したがって,本件発明8は,引用発明3に,文献14及び文献21に記載された技術的事項を適用することにより,当業者が容易になし得たものである。

1.2 本件発明10〜14について
(1)引用発明2からの容易想到性について
(1.1)本件発明10
本件発明10と引用発明2を比較すると,引用発明2は,上記1.1の(1)(1.1)で述べた相違点2−1〜2−4に加え,「前記フレキシブル管を覆う前記加熱部の前記発熱体は,前記フレキシブル管を基軸として前記フレキブル管の蛇腹部の山折部と谷折部とに一部が平行となるように形成されている」ことが特定されていない点で,本件発明10と相違する。
しかしながら,文献14の第1図には,フレキシブル管1のジャバラ形状の山折部と谷折部に沿ってシースヒータ3を配置することが記載され,文献17の段落0021及び図8には,発熱線302が,曲管の長手方向に一部が平行となるように配置された構成が記載され,いずれも公知であるから,引用発明2において文献14,17の構成を採用し,「前記フレキシブル管を覆う前記加熱部の前記発熱体は,前記フレキシブル管を基軸として前記フレキブル管の蛇腹部の山折部と谷折部とに一部が平行となるように形成されている」構成とすることは,当業者が容易になし得たことである。
また,相違点2−1〜2−4の構成とすることは,上記1.1の(1)(1.2)に示したとおり,文献6〜10に記載の周知技術及び文献5,12,13,17に記載の技術的事項から,当業者が容易になし得たことである。
(1.2)本件発明11〜13
本件発明11〜13と引用発明2を比較すると,引用発明2は,上記相違点2−1〜2−4に加え,訂正特許請求の範囲の請求項11〜13に特定される事項について特定されていない点で,本件発明11〜13とそれぞれ相違する。
しかしながら,上記第5の10.(2)において文献18〜20に記載の周知技術4として示したとおり,管を覆う断熱材を複数の断熱層で構成し,断熱層それぞれは,管内の流れ方向に対して垂直方向に切り込まれたスリットにより分割し,隣接する異なる断熱層のスリットの位置がずれた配置とすることは,当業者の周知技術であるから,引用発明2において,「保温層」を複数の断熱層で構成し,断熱層それぞれは管内の流れ方向に対して垂直方向に切り込まれたスリットにより分割し(本件発明11,12),隣接する異なる断熱層のスリットの位置がずれた配置とする(本件発明13)ことは,周知技術4に照らし当業者が適宜なし得たことである。また,相違点2−1〜2−4は,上記1.1の(1)(1.2)に示したとおり,文献6〜10に記載の周知技術及び文献5,12,13,17から,当業者が容易になし得たことである。
(1.3)本件発明14
本件発明14と引用発明2を比較すると,引用発明2は,上記相違点2−1〜2−4に加え,「前記包囲体には,前記フレキシブル管内のガス流れ方向に対して垂直方向に延在する折り目が設けられている」ことが特定されていない点で本件発明14と相違する。
しかしながら,「フレキシブル管」の曲がりに追従できるように「表面層」に折り目を設けることは,当業者の通常の創作能力の発揮により適宜なし得た程度のことである。また,相違点2−1〜2−4は,上記1.1の(1)(1.2)に示したとおり,文献6〜10に記載の周知技術及び文献5,12,13,17から,当業者が容易になし得たことである。

(2)引用発明3からの容易想到性について
(2.1)本件発明10
本件発明10と引用発明3を比較すると,引用発明3は,上記1.1(2)(2.1)で述べた相違点3−1〜3−5に加え,「前記フレキシブル管を覆う前記加熱部の前記発熱体は,前記フレキシブル管を基軸として前記フレキブル管の蛇腹部の山折部と谷折部とに一部が平行となるように形成されている」ことが特定されていない点で,本件発明10と相違する。
しかしながら,文献14の第1図には,フレキシブル管1のジャバラ形状の山折部と谷折部に沿ってシースヒータ3を配置することが記載され公知であるから,引用発明3において文献14の構成を採用し,「前記フレキシブル管を覆う前記加熱部の前記発熱体は,前記フレキシブル管を基軸として前記フレキブル管の蛇腹部の山折部と谷折部とに一部が平行となるように形成されている」構成とすることは,当業者が容易になし得たことである。また,相違点3−1〜3−5の構成とすることは,上記1.1の(2)(2.2)に示したとおり,文献14及び文献21に記載された技術的事項から,当業者が容易になし得たことである。

(2.2)本件発明11〜13
本件発明11〜13と引用発明3を比較すると,引用発明3は,上記相違点3−1〜3−5に加え,訂正特許請求の範囲の請求項11〜13に特定される事項について特定されていない点で,本件発明11〜13とそれぞれ相違する。
しかしながら,上記第5の10.(2)において文献18〜20に記載の周知技術4として示したとおり,管を覆う断熱材を複数の断熱層で構成し,断熱層それぞれは,管内の流れ方向に対して垂直方向に切り込まれたスリットにより分割し,隣接する異なる断熱層のスリットの位置がずれた配置とすることは,当業者の周知技術であるから,引用発明3において,「保温層」を複数の断熱層で構成し,断熱層それぞれは管内の流れ方向に対して垂直方向に切り込まれたスリットにより分割し(本件発明11,12),隣接する異なる断熱層のスリットの位置がずれた配置とする(本件発明13)ことは,周知技術4に照らし当業者が適宜なし得たことである。また,相違点3−1〜3−5の構成とすることは,上記1.1の(2)(2.2)に示したとおり,文献14及び文献21に記載された技術的事項から,当業者が容易になし得たことである。

1.3 本件発明15について
(1)引用発明2からの容易想到性について
本件発明15と引用発明2を比較すると,引用発明2は,上記相違点2−1〜2−4に加え,「基板を処理する処理室と,前記処理室内に原料ガスを供給するガス管を有するガス供給系と」を備えた「基板処理装置」であることが特定されていない点で本件発明15と相違する。
しかしながら,基板処理装置が処理室やガス供給系を備える構成は上記文献11などに見られる一般的な装置構成であり,半導体製造装置においてフレキシブルチューブを用いることは,文献14〜15に記載の周知技術3のとおり,当業者に周知の技術であるから,引用発明2において上記相違点に係る構成とすることは,文献11及び文献14〜15に記載の周知技術3から当業者が容易になし得たことである。また,上記相違点2−1〜2−4は,上記1.1の(1)(1.2)に示したとおり,文献6〜10に記載の周知技術及び文献5,12,13,17から,当業者が容易になし得たことである。

(2)引用発明3からの容易想到性について
本件発明15と引用発明3を比較すると,引用発明3は,上記相違点3−1〜3−5に加え,「基板を処理する処理室と,前記処理室内に原料ガスを供給するガス管を有するガス供給系と」を備えた「基板処理装置」であることが特定されていない点で本件発明15と相違する。
しかしながら,文献14には,ガスをフレキシブルチューブ31から反応管32へ導入し,反応管32中に置かれた半導体基板上に反応生成物を析出する半導体製造装置が記載され,当該装置において,フレキシブルチューブを昇温ヒータで加熱することが記載されている。すなわち,「基板を処理する処理室と,前記処理室内に原料ガスを供給するガス管を有するガス供給系と」を備えた「基板処理装置」,及び,当該装置において「ガス管」を加熱することは,いずれも文献14に記載された公知の構成である。そうすると,引用発明3において上記相違点に係る構成とすることは,文献14に記載された技術的事項から当業者が容易になし得たことである。また,相違点3−1〜3−5の構成とすることは,上記1.1の(2)(2.2)に示したとおり,文献14及び文献21に記載された技術的事項から,当業者が容易になし得たことである。

1.4 本件発明16について
(1)引用発明2からの容易想到性について
本件発明16と引用発明2を比較すると,引用発明2は,上記相違点2−1〜2−4に加え,「加熱部により前記ガス管を加熱しつつ前記温度検知部で温度検知しながら,前記ガス管を介して処理室内に原料ガスを供給して基板を処理する工程を有する半導体装置の製造方法」であることが特定されていない点で,本件発明16と相違する。
しかしながら,「加熱部により前記ガス管を加熱しつつ前記温度検知部で温度検知しながら,前記ガス管を介して処理室内に原料ガスを供給して基板を処理する工程を有する半導体装置の製造方法」は,例えば文献11の段落0011に記載された製造方法であり,また,文献14〜15に記載の周知技術3に示すとおり,「フレキシブル管」は半導体製造装置のガス管として周知であるから,引用発明2において上記相違点に係る構成とすることは,文献11及び文献14〜15に記載の周知技術3から当業者が容易になし得たことである。さらに,相違点2−1〜2−4は,上記1.の(1)(1.2)に示したとおり,文献6〜10に記載の周知技術及び文献5,12,13,17から,当業者が容易になし得たことである。

(2)引用発明3からの容易想到性について
本件発明16と引用発明3を比較すると,引用発明3は,上記相違点3−1〜3−5に加え,「加熱部により前記ガス管を加熱しつつ前記温度検知部で温度検知しながら,前記ガス管を介して処理室内に原料ガスを供給して基板を処理する工程を有する半導体装置の製造方法」であることが特定されていない点で,本件発明16と相違する。
しかしながら,文献14には,ガスの導入部のフレキシブルチューブ31を加熱して反応管32内にガスを導入して,半導体基板上に反応生成物を析出する半導体装置の製造方法が記載されている。また,加熱において温度検知部で温度検知を行うことは,当業者が普通に行うことである。そうすると,引用発明3において上記相違点に係る構成とすることは,文献14に記載された技術的事項から当業者が容易になし得たことである。また,相違点3−1〜3−5の構成とすることは,上記1.1の(2)(2.2)に示したとおり,文献14及び文献21に記載された技術的事項から,当業者が容易になし得たことである。

1.5 小括
以上のとおり,本件発明8,10〜16は,引用発明2及び文献5〜15,17〜20に記載された技術的事項に基づき,又は,引用発明3及び文献14,21に記載された技術的事項に基づき,当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明である。


2.取消理由通知書(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
2.1 異議申立理由の概要
(1)申立人1による特許異議の申立てについて
申立人1による,令和2年6月3日付け特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由の概要は,本件特許の請求項1〜16に係る特許は,下記の申立理由のとおり,特許法113条2号又は4号に該当する,というものである。

・申立理由1−A(進歩性
本件訂正前の請求項1〜7に係る発明は,甲第1号証(文献1)に記載された発明並びに甲第2号証〜甲第5号(文献2〜5)証及び甲第6号証〜甲第10号証(文献6〜10)に記載の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,同法113条2号に該当する。

・申立理由1−B(進歩性
本件訂正前の請求項8〜16に係る発明は,甲第1号証(文献1)に記載された発明並びに甲第2号証〜甲第5号証(文献2〜5),甲第13号証〜甲第14号証(文献14〜15)及び甲第5,15,16号証(文献5,12,13)に記載の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,同法113条2項に該当する。

・申立理由1−C(明確性
本件訂正前の請求項1〜16に係る発明は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号の規定に適合するものではないから,本件特許の請求項1〜16に係る特許は,同法113条4号に該当する。

(2)申立人2による特許異議の申立てについて
申立人2による,令和2年6月4日付け特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由の概要は,本件特許の請求項1,2,6〜13,15,16に係る特許は,下記の申立理由のとおり,特許法113条2号又は4号に該当する,というものである。

・申立理由2−A(進歩性
本件訂正前の請求項1,2,6,7に係る発明は,甲第1号証(文献16)に記載された発明及び甲第2号証(文献6)又は甲第3号証(文献9)に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,同法113条2号に該当する。

・申立理由2−B(進歩性
本件訂正前の請求項8〜13,15,16に係る発明は,甲第1号証(文献1)に記載された発明並びに甲第4号証(文献14),甲第5号証(文献21)及び甲第6号証(文献19)に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,同法113条2項に該当する。

・申立理由2−C(サポート要件)
本件訂正前の請求項1,2,6〜13,15,16に係る発明は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号の規定に適合するものではないから,本件特許の請求項1,2,6〜13,15,16に係る特許は,同法113条4号に該当する。

・申立理由2−D(明確性
本件訂正前の請求項1,2,6,7に係る発明は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号の規定に適合するものではないから,本件特許の請求項1,2,6,7に係る特許は,同法113条4号に該当する。

2.2 証拠方法
上記特許異議申立書とともに提出された証拠方法は,以下のとおりである。

(1)申立人1により提出された証拠方法
・甲第1号証(文献1):「PRODUCTS GUIDE 総合カタログ」,第3版,株式会社豊中ホット研究所,2014年 1月
・甲第2号証(文献2):「マントルヒータ」,INTERNET ARCHIVE WAYBACK MACHINE,[online],2015年8月9日,ワッティー株式会社のホームページ,インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20150809044421 /http://www.watty.co.jp/heater/mantle.html>
・甲第3号証(文献3):「マントルヒーター/ジャケットヒーター」,INTERNET ARCHIVE WAYBACK MACHINE,[online],2015年10月2日,株式会社東京技術研究所のホームページ,インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20151002234054/http://tt-labo.co.jp/seihin01/seihin01_01.html>
甲第4号証(文献4):「製品情報 応用製品 ジャケットヒーター」,INTERNET ARCHIVE WAYBACK MACHINE,[online],2014年5月28日,有明マテリアル株式会社のホームページ,インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20140528104603/http://www.ariake-materials.co.jp/j/products/jacket.html>
甲第5号証(文献5):「クリーンルーム用マントルヒーター」,INTERNET ARCHIVE WAYBACK MACHINE,[online],2015年7月2日,株式会社東京技術研究所のホームページ,インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20150702131828/http://tt-labo.co.jp/seihin01/seihin01_03.html>
甲第6号証(文献6):特表2013−500451号公報
甲第7号証(文献7):特開平1−145537号公報
甲第8号証(文献8):特開2012−88171号公報
甲第9号証(文献9):特開2014−85185号公報
甲第10号証(文献10):「初心者のための測定技術入門」−温度を測るテクニック(熱電対を正しく使う)−,熱物性,1994年10月,第8巻,第4号,pp.276〜280
甲第11号証:特開平9−89190号公報
甲第12号証(文献11):特開平9−232295号公報
甲第13号証(文献14):実願昭60−92号(実開昭61−116282号)のマイクロフィルム
甲第14号証(文献15):「真空機器に使用するベローズ」,真空,1983年10月,第26巻,第10号,pp.757〜769
甲第15号証(文献12):特開2010−276184号公報
甲第16号証(文献13):特開平9−229285号公報
甲第17号証(文献17):特開2002−295783号公報
甲第18号証(文献18):特開平7−305796号公報
甲第19号証(文献19):特開2003−294192号公報
甲第20号証(文献20):特開平10−141587号公報

(2)申立人2により提出された証拠方法
甲第1号証(文献16):特開2002−352941号公報
甲第2号証(文献6):特表2013−500451号公報
甲第3号証(文献9):特開2014−85185号公報
甲第4号証(文献14):実願昭60−92号(実開昭61−116282号)のマイクロフィルム
甲第5号証(文献21):特開2009−230454号公報
甲第6号証(文献19):特開2003−294192号公報

(なお,上記において「文献1」等の表記は,令和2年11月27日付け取消理由通知書の表記による。)


2.3 甲号証の記載
ア 申立人1により提出された甲第1号証〜甲第20号証(以下「甲1−1〜甲1−20」という。),及び,申立人2により提出された甲第1号証〜甲第6号証(以下「甲2−1〜甲2−6」という。)のうち,取消理由通知書(決定の予告)において文献1,5〜21として引用された文献に記載された事項は,上記第5において摘記したとおりである。

イ 申立人1により提出された甲第2号証(文献2)の記載は,以下のとおりである。
甲第2号証(文献2)の1/2ページには,下記のとおり,「ヒータ一覧」として「マントルヒータ」が示されている。
「マントルヒータ|ヒータ一覧|ワッティー株式会社」


配管部品,容器の均一加熱を実現
クリーンルーム対応
断熱材の施工が不要
被加熱部の温度測定・制御も確実に」
ウ 申立人1により提出された甲第3号証(文献3)の記載は,以下のとおりである。
甲第3号証(文献3)の1/2ページには,下記のとおり,「マントルヒーター」として「ジャケットヒーター」が示されている。
「ジャケットヒーター|マントルヒーター|東京技術研究所」



マントルヒーター/ジャケットヒーター
様々な形状の装置の加熱保温ができるジャケットタイプのヒーターです。」
「ジャケットヒーターの特長
様々なタイプのタンク・容器・配管・ボンベ・ガラス器具・特殊装置等,お客様がお使いのものの形状に合わせて製作致します。
写真は配管用のヒーターです。
他にも,食品の加熱,車の塗装ライン,樹脂の射出成形機等,業種を問わず様々な工場・施設に導入しております。
発熱体と断熱材が一体になっていますので,ヒーターと断熱材が分かれている従来のヒーターと比較すると取り扱いがとても簡単で,ヒーターの脱着も早く,機器のメンテナンスも楽になり,作業性が上がります。」

エ 申立人1により提出された甲第4号証(文献4)の記載は,以下のとおりである。
甲第4号証(文献4)の1/2ページには,下記のとおり,「製品情報」として「ジャケットヒーター」が示されている。
「ジャケットヒーター|製品情報|有明マテリアル株式会社」
「製品情報
応用製品
ジャケットヒーター
・・・
当社製ジャケットヒーターはご要望に応じ,設計・作製を行います。複雑形状や細配管にも対応可能です。
ジャケットヒーターとは;
工業用ヒーターであり,配管過熱用(〜800℃程度)です。脱着=取り外し 取り付け が容易なように,ジャケットのような構造を有しています。マジックテープ留め,ベルト留め,ホック留め,ボタン留め など各種選択可能です。」




オ 申立人1により提出された甲第11号証の記載は,以下のとおりである。
「【0002】
【従来の技術】工場等の建築物内外において,冷却水,温水等の流体の配管に保温材を巻いて保温及び断熱処理が行われる場合がある。この場合,配管を覆った保温材を保護するため,保温材を配管に保持するための補助材や,外部からの輻射熱の遮断及び装飾のための外装材等の被覆材を用いて上記保温材を被覆することが必要である。外装材や補助材の種類は配管のある位置等で規定されているが,例として次のようなものがあげられる。外装材としては,綿布,アルミガラスクロス,アスファルトテープ,カラー亜鉛鉄板,アルミニウム板,ステンレス鋼板等があげられ,また,補助材としては,鉄線,原紙,粘着テープ,ポリエチレンフィルム,防水麻布等があげられる。」
「【0031】図4(a)に示すように,両端部24,24’のなす角度が直角である保温材の屈曲部21の外湾側の屈曲部分の外湾曲部の中央部22に,被覆シート1の本体片2の離形紙を剥がしてその中央部をあわせて貼着する。次いで,両端部の被覆片3aの離形紙をそれぞれ剥がし,本体片2の端辺5から連続する直線で形成される被覆片3aの一側辺を保温材の側面と端面24,24’との境界の端部に沿って貼着する。そして,中央の被覆片3bの離形紙を剥がし,貼る位置が既に貼着された上記被覆片3aの間のほぼ中央になるように貼着する。このとき,既に貼着された被覆片の間に,3本の未貼着の被覆片3c,3d及び3eが残っている。このうち中央に位置する被覆片3cを既に貼着された上記被覆片3aと3bの間のほぼ中央になるように貼着する。そして,残った各被覆片3d及び3eを順に貼着することにより,被覆シート1を全部貼着する。被覆シート1の被覆片3の全部を貼着した様子は,図4(b)に示しており,各被覆片3が一部重なりながら,隙間なく貼着されている。このように,始めに両端の被覆片を貼着した後,貼着された被覆片間の中央に相当する被覆片を順に貼着することにより,特に技能を用いる必要なく,容易に,密着させて貼着することができる。」

2.4 申立理由についての判断
上記申立理由のうち,申立理由1−B及び申立理由2−Bは,取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由1〜2と同様の理由であるから,申立理由1−Bについての当審の判断は,上記1.において引用発明2からの容易想到性として示したとおりであり,申立理由2−Bについての当審の判断は,上記1.において引用発明3からの容易想到性として示したとおりである。
そして,他の申立理由についての当審の判断は以下のとおりである。

(1)申立理由1−A(進歩性)について
(1.1)本件発明1について
(1.1.1)引用発明1の認定
上記第5の1.(2)示した文献1(甲1−1)の26頁の図から,直線状に形成された複数の直管部と直管部間を連接する屈曲された屈曲部を有する配管を覆うカバーヒーターが見てとれる。また,包囲体に含まれる表面層の一端側と他端側とが隣接した状態で一端側と他端側とを留める表面層の外側にある留め部を備えること,直管部と屈曲部とを覆う留め部は,カバーを有することが見てとれる。
そうすると,文献1(甲1−1)には,次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「直線状に形成された複数の直管部と直管部間を連接する屈曲された屈曲部を有する配管を有する半導体製造装置の排気系配管の表面を覆い,加熱・保温するカバーヒーターであって,
ニッケルクロム及びEグラス二重編組で構成された発熱層と,
発熱層の外側に配置される保温層と,
保温層及び発熱層を包囲する,表面層及び内面層と,
表面層の一端側と他端側とが隣接した状態で表面層の長手方向の一端側と他端側とを留める表面層の外側にある留め部と,
温度センサーと,を備え,
直管部と屈曲部とを覆う留め部はカバーを有する,カバーヒーター。」

(1.1.2)一致点及び相違点
本件発明1と引用発明1を対比する。
ア 引用発明1における「直線状に形成された複数の直管部と直管部間を連接する屈曲された屈曲部を有する配管を有する半導体製造装置の排気系配管の表面を覆い,加熱・保温するカバーヒーター」が,本件発明1における「線状に形成された複数の直管部と該直管部間を連接する屈曲された屈曲部とを有するガス管の表面を覆い,加熱する加熱部」に相当する。
イ 引用発明1における「保温層」が本件発明1における「断熱部」に相当し,以下同様に,「発熱層」が「発熱体」に,「表面層」が「外層部」に,「内面層」が「内層部」に,「温度センサー」が「温度検知部」に,「カバー」が「カバー」に,それぞれ相当する。
ウ 引用発明1における「表面層」及び「内面層」が,本件発明1における「包囲体」に相当する。
エ 引用発明1における「表面層の一端側と他端側とが隣接した状態で表面層の長手方向の一端側と他端側とを留める表面層の外側にある留め部」が,本件発明1における「前記外層部の外側に設けられ,前記包囲体の長手方向の一端側と他端側とが隣接した状態で前記一端側と前記他端側とを留める留め部」に相当する。

そうすると,本件発明1と引用発明1の一致点及び相違点は,以下のとおりとなる。
<一致点>
「直線状に形成された複数の直管部と該直管部間を連接する屈曲された屈曲部とを有するガス管の表面を覆い,加熱する加熱部であって,
発熱体の外側に配置される断熱部と,
前記断熱部および前記発熱体を包囲する,外層部と内層部を含む包囲体と,
前記外層部の外側に設けられ,前記包囲体の長手方向の一端側と他端側とが隣接した状態で前記一端側と前記他端側とを留める留め部と,
温度検知部と,を備え,
前記直管部と前記屈曲部とを覆う前記留め部は,カバーを有する,
加熱部。」
<相違点1a>
本件発明1では,「温度検知部」が「前記ガス管と対向する位置に配置された」ものであるのに対し,引用発明1では,「温度センサー」が「排気系配管」と「対向する位置に配置された」とは特定されていない点。
<相違点1b>
本件発明1では,「留め部」が有する「カバー」が「前記直管部それぞれを覆う前記包囲体の前記一端側及び前記他端側を覆う」のに対し,引用発明1では,「カバー」についてそのような特定はされていない点。
<相違点1c>
本件発明1では,「前記ガス管と前記内層部との間に,前記内層部よりも熱の蓄積度が大きい部材が設けられ」,「前記温度検知部が,前記部材と前記ガス管との隙間に配置されている」のに対して,引用発明1では,当該「前記内層部よりも熱の蓄積度が大きい部材が設けられ」ることについて特定されていない点。

(1.1.3)相違点についての判断
事案に鑑み,はじめに相違点1cについて検討する。
配管と内層部との間に,内層部よりも熱の蓄積度が大きい部材を設け,温度センサーを当該部材と配管との隙間に配置する構成は,文献2〜10(甲1−1〜甲1−10)のいずれにも記載されていない構成であり,また,当業者に周知の構成であるともいえない。
したがって,他の相違点について検討するまでもなく,本件発明1は引用発明1及び文献2〜10に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(1.1.4)申立人1の主張について
令和3年5月11日付け意見書において申立人1は,「引用発明1のカバーヒーターにおいて,ガス管を均一に加熱することは技術常識であることから,内面層の材料として,適宜複数種類の材料を積層して組み合わせ,最内面に熱の蓄積度の大きい材料で形成された部材(例えば,アルミナクロス)を設けることは,当業者が適宜なし得る設計事項である。」から,本件発明1は当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張している。
しかしながら,カバーヒーターにおいて,ガス管を均一に加熱すること」との技術課題を解決する手段は様々に考えられるところ,特に「内面層の材料として,適宜複数種類の材料を積層して組み合わせ,最内面に熱の蓄積度の大きい材料で形成された部材(例えば,アルミナクロス)を設けること」が周知の解決手段であることが,具体的証拠により示されていないから,申立人1の上記主張は採用できない。

(1.2)本件発明2〜7について
本件発明2〜7は,いずれも上記相違点1cに係る構成を含む発明であるから,本件発明1と同様の理由により,引用発明1及び文献2〜10に記載された周知技術から当業者が容易に発明することができたものではない。

(1.3)まとめ
したがって,申立理由1−Aによって本件発明1〜7に係る特許を取り消すことはできない。

(2)申立理由2−A(進歩性)について
(2.1)本件発明1について
(2.1.1)本件発明1と引用発明3の対比
本件発明1と引用発明3を対比する。
ア 引用発明3の「パイプP」は,本件発明1の「管」に対応し,引用発明3の「脱着カバー1」は,「直線状のパイプPや屈曲部を有するパイプPの表面を覆う」ものであり,発熱体を含むことから,本件発明1と引用発明3とは,「管の表面を覆い,加熱する加熱部」である点で共通する。
イ 引用発明3における「ヒーターケーブル9」は,本件発明1の「発熱体」に相当し,以下同様に,「断熱材」は「断熱部」に,「袋体8」は「包囲体」に,「外装クロス3とベルクロ5」は「留め部」に,それぞれ相当する。
ウ 引用発明3の「袋体8」は「内生地2」を成形したものであるところ,当該「内生地2」のうち,外側(リード線を引き出す側)にあるものが,本件発明1の「外層部」に相当し,内側(リード線を引き出す側と反対側)にあるものが,本件発明8の「内層部」に相当する。
エ 引用発明3の「外装クロス3」及び「ベルクロ5」は,「内生地2の外側に設けられ,内生地2の長手方向の一端側と他端側とが隣接した状態で前記一端側と他端側を留める」ものであるから,本件発明1と引用発明3は,ともに「前記包囲体の外側に設けられ,前記包囲体の長手方向の一端側と他端側とが隣接した状態で前記一端側と前記他端側とを留める留め部と,を備える」点で一致する。
オ 引用発明3の「外装クロス3」は「内生地2の一端側と他端側」を覆うものであるから,本件発明1の「カバー」に対応し,本件発明1と引用発明3は「前記留め部は,前記直管部それぞれの前記一端側及び前記他端側を覆うカバーを有する。」点で共通する。

そうすると,本件発明1と引用発明3の一致点及び相違点は以下のとおりとなる。
<一致点>
「管の表面を覆い,加熱する加熱部であって,
発熱体の外側に配置される断熱部と,
前記断熱部および前記発熱体を包囲する,外層部と内層部を含む包囲体と,
前記外層部の外側に設けられ,前記包囲体の長手方向の一端側と他端側とが隣接した状態で前記一端側と前記他端側とを留める留め部と,
前記留め部は,前記直管部それぞれを覆う前記包囲体の前記一端側及び前記他端側を覆うカバーを有している,
加熱部。」
<相違点3a>
本件発明1は「蛇腹状に形成されたフレキシブル管を含むガス管の表面を覆い,加熱する加熱部」であるのに対し,引用発明3は,「蛇腹状に形成されたフレキシブル管を含むガス管の表面」を覆うことが特定されていない点。
<相違点3b>
本件発明1は「前記フレキシブル管と対向する位置に配置された温度検知部」を有するのに対し,引用発明3は,温度検知部について特定されていない点。
<相違点3c>
本件発明1は「留め部」が「前記直管部と前記屈曲部とを覆う」ものであるのに対し,引用発明3では,「外装クロス3とベルクロ5」についてそのような特定はなされていない点。
<相違点3d>
本件発明1は,「前記ガス管と前記内層部との間に,前記内層部よりも熱の蓄積度が大きい部材が設けられ」「前記温度検知部が,前記部材と前記ガス管との隙間に配置されている」のに対し,引用発明3では,当該「部材」を設けることが特定されていない点。

(2.1.2)相違点についての判断
事案に鑑み,はじめに相違点3dについて検討する。
文献6(甲2−2)及び文献9(甲2−3)には「前記ガス管と前記内層部との間に,前記内層部よりも熱の蓄積度が大きい部材が設けられ」「前記温度検知部が,前記部材と前記ガス管との隙間に配置されている」構成は記載も示唆もされておらず,また,当該構成が周知の技術であるともいえない。
したがって,本件発明1は,引用発明3並びに文献6及び文献9に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2.2)本件発明2,6,7について
本件発明2,6,7は,いずれも上記相違点3dの構成を含む発明であるから,本件発明1と同様の理由により,引用発明3並びに文献6及び文献9に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2.3)まとめ
したがって,申立理由2−Aによって本件発明1,2,6,7に係る特許を取り消すことはできない。

(3)申立理由1−C(明確性)について
ア 申立理由1−Cは,訂正前の請求項1は次の(ア)〜(イ)の点で不明確であり,訂正前の請求項2〜16も同様の理由により不明確であり,訂正前の請求項16は次の(ウ)の点で不明確であるというものである。
(ア)訂正前の請求項1には「前記直管部と前記屈曲部とを覆う前記留め部は,前記直管部のそれぞれの前記一端側及び前記他端側を覆うカバーを有する」と記載されているものの,当該記載より前に「前記直管部それぞれ」の「一端側及び他端側」の記載がなく,不明確である。
(イ)訂正前の請求項1において,「直管部」や「包囲体」における「一端側」や「他端側」の方向の基準・定義が一義的に特定できず,不明確である。
(ウ)訂正前の請求項16には「前記フレキシブル管と非接触となるように配置されている加熱部により前記ガス管を加熱しつつ前記温度検知部で温度検知しながら,前記ガス管を介して処理室内に原料ガスを供給して基板を処理する工程」と記載されているところ,本件特許明細書の段落0012によれば「加熱部」はジャケットヒータ等の「ガス配管用ヒータ22」であり,「フレキシブル管」を覆うように装着されるものであるから,上記における「前記フレキシブル管と非接触となるように配置」との記載は不明確である。

イ これに対し,訂正後の請求項1には,「外層部と内層部を含む包囲体と」「前記外層部の外側に設けられ,前記包囲体の長手方向の一端側と他端側とが隣接した状態で前記一端側と他端側とを留める留め部」「前記直管部と前記屈曲部とを覆う前記留め部は,前記直管部それぞれを覆う前記包囲体の前記一端側及び前記他端側を覆うカバーを有し」(下線部は訂正箇所を示す。)と記載されており,当該記載によれば,「前記」の指示内容や「一端側」及び「他端側」の具体的意味は明確であるといえる。
また,訂正後の請求項16には,「前記温度検知部は,前記発熱体と同様に前記発熱部に設置されるよう構成され,前記間隙,前記内層部および前記断熱部材が形成されていることにより前記フレキシブル管と非接触となり前記フレキシブル管側よりも前記発熱体側になるよう配置されている」(下線は訂正箇所を示す。)と記載されており,当該記載によれば,「温度検知部」と「フレキシブル管」が非接触に配置されることが明確に特定されているといえる。
以上のとおり,訂正後の請求項1〜16においては,上記(ア)〜(ウ)の記載不備は解消されているものと認められる。

ウ 申立人1は,令和3年5月11日提出の意見書において,本件特許明細書の段落0040の記載によれば,ガス配管10の延在方向が長手方向であるとすると,ガス配管に装着する際には,包囲体の「短手方向の」一端側と他端側が隣接した状態とするものであり,訂正後の請求項1〜8,10〜16は依然として不明確である旨主張している。しかしながら,本件特許明細書の段落0040,0062及び図11から,訂正後の請求項1における「長手方向の一端側と他端側」が,長方形において2組ある一端側と他端側のうち,長手方向(長手に沿った辺)を含む一端側と他端側を指すことは明らかである。
また,申立人1は上記意見書において,訂正後の請求項1,6,7における「内層部よりも熱の蓄積度が大きい部材」との記載では,当該部材の形状等(厚みや密度,クロス材であれば繊維の太さや目付など)が何ら特定されておらず,同様に内層部の形状等(厚みや密度など)が何ら特定されていないから,部材を特定できず不明確であると主張している。しかしながら,「内層部の熱の蓄積度」は当業者にとって一義的に把握できる特性値であり,当該特性値を基準に,それよりも「熱の蓄積度の大きい部材」を選択することは,当業者が何の困難もなく理解し実施できることであるから,訂正後の請求項1,6,7の記載は明確である。
したがって,申立人1の上記意見書における主張は採用できない。

エ 以上のとおり,訂正後の特許請求の範囲の請求項1〜8,10〜16の記載は明確であるから,申立理由1−C(明確性)によっては,本件発明1〜8,10〜16に係る特許を取り消すことはできない。

(4)申立理由2―C(サポート要件)について
ア 本件特許明細書段落0005によれば,本件発明1の課題は,「ヒータにより加熱されるガス管の温度ムラを低減する構成を提供すること」であるといえる。また,本件発明1に特定される各構成は,本件特許明細書の以下に摘記する箇所に記載されている。(下線は当審による。)

「【0033】
図4(b)及び図4(c) に示すように,SUS等の金属部材で構成されるガス配管10の表面を覆うように取り付けられた状態で,ガス配管10を加熱する加熱部310は,包囲体としてのガス配管10側の内層部510及び大気側の外層部500に囲まれている。この包囲体は,加熱源である例えばヒータ素線等の発熱体530と,該発熱体530の外側に配置される断熱部520と,を少なくとも包囲するように構成されている。また,加熱部310は,包囲体(外層部500)の外側に設けられ,包囲体(外層部500)の一端側と他端側とが隣接した状態で一端側と他端側を留める留め部700と,包囲体(内層部510)よりもガス配管10側であって,ガス配管10の表面と対向する位置に配置され,ガス配管10側を主面として板状に形成された温度検知部555とを備えるように構成されている。好適には,図4に示すように,例えばヒータ素線等の発熱体530と,発熱体530と外層部500の間に配置される断熱部520と,発熱体530および断熱部520を包囲する包囲体(内層部510と外層部500)とを有する。また,加熱部310は,発熱体530と,該発熱体530を支持するための支持部としての断熱部材540を含む発熱部と,発熱体530の外側に配置される断熱部520とを積層したものを備えている。更に,図4(c)に示すように,発熱部と内層部510との間には,金属薄板400が介在されており,また,内層部510とガス配管10との間に絶縁部材600を介在するように構成されている。発熱体530は糸のような繊維状のもので断熱部材540に縫い付けられる等により,断熱部材540に支持されるように構成されている。そして,図4(b)には,加熱部310をガス配管10の外周に装着する際,包囲体の一端側と他端側を隣接させ,一端側と他端側との間の僅かな隙間を留め部700により覆う様子が示されている。尚,留め部700に関しては後述する。
【0034】
この断熱部材540の材質は,ガラスクロス材にて構成されている。また,包囲体の材質は,内層部510及び外層部500の両方共にフッ素樹脂材,好適にはフッ素樹脂材の一つであるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)材で構成されると良い。絶縁部材600は,好適には包囲体と材質が異なる断熱部材で構成されると良い。絶縁部材600には,包囲体よりも熱の蓄熱度の大きい材質を用いると,ガス配管10の加熱具合を均一にしやすくなるため,好適である。例えば,絶縁部材600は,ガラスクロス材よりも蓄熱度の大きいアルミナクロス材で構成すると良い。また,金属薄板400も金属である必要はなく,例えば,グラファイトであってもよい。断熱部520の部材は,発熱体530からの熱逃げを抑制するための断熱部材であればよく,例えば,ガラスファイバーやセラミックファイバー,シリカファイバー等を集成し,ニードル加工を施した無機繊維マットを使用できる。また,コロイダルシリカやアルミナゾル,ケイ酸ソーダ等の無機質バインダーや,でんぷんなどの有機質バインダーでマット状に成形してもよい。あるいは,アラミドやポリアミド,ポリイミド等の耐熱性の有機樹脂製多孔質成形体とすることもできる。
【0035】
また,加熱部310は,絶縁部材600とガス配管10の隙間に,例えば板状に形成された集熱板等の温度検知部555を備えている。例えば,温度検知部555に熱電対550が接続されるように構成されると良い。好適には,ガス配管10の温度が所定温度以上になると通電を遮断するための温度スイッチとしてのサーモスタット560を設けると良い。尚,図では,サーモスタット560が包囲体の外側に設けられているが,加熱部310の内側に設置されていてもよい。これらにより,加熱部310では,ガス配管10を所定の温度を保つようにサーモスタット560や熱電対550等を含む温度検知部を用いて発熱体への通電を制御している。」

「【0041】
以上,図4,図5に示されるように,加熱部310は,熱電対550に板状の温度検知部555が設けられ,この温度検知部555をガス配管10と対向する位置に設けられる構成であるため,温度検知部555を用いない場合より,ガス配管10の測定温度が安定するので,温度再現性及び温度均一性を確保することができ,ガス配管10を均等に所定温度程度に加熱することができる。更に,温度検知部555の形状をガス配管10の曲げ形状に合致させることにより,ガス配管10の測定温度の安定性及び温度再現性がよりいっそう確保でき,ガス配管10の温度制御の信頼性が向上する。」

「【0043】
図6は,加熱部310でガス配管10を覆ったときの概観図である。包囲体をガス配管10に装着した際に,包囲体の一端側と他端側とが隣接した状態でガス配管10の外周を覆うように一端側と他端側とを留める留め部700が構成されている。」

「【0047】
留め部700は,カバー部701とカバー部701に設けられた接着部704と,包囲体の外層部500に設けられた接着部703とで構成されている。例えば,接着部704および接着部703は,面ファスナーとして構成されており,接着部703と接着部704とを合せて押し付けると貼り付き,カバー部701の一部を掴み,外層部500から引き離すように引っ張ると接着部703と接着部704とが剥がれるように,貼り付けたり剥がしたりすることが自在にできるように構成されている。カバー部701の材質は,PTFE等のフッ素樹脂材で構成されている。好適にはカバー部701は,フッ素樹脂材720,721の複数枚(ここでは2枚)で構成し,接着部704をフッ素樹脂材の外層部500側に縫い,取付け,外層部500側と反対側となる加熱部310の外側には接着部704の縫い目が見えなくなるように構成されている。好適には,図7(b)に断面図で示す通り,フッ素樹脂材720,721の中に例えばガラスクロス材等の補強材722を内包するように構成すると,カバー部701の強度が高まり,形状が安定し,接着しやすくなり,隣接した状態の一端側と他端側との間のわずかな間隙からの熱逃げを抑制しやすくなる等の効果を奏することができる。」

そして,本件発明1は「ガス管と対向する位置に配置された温度検知部」を備えるものであり,本件特許明細書段落0041によれば,当該構成により,「温度検知部555を用いない場合より,ガス配管10の測定温度が安定するので,温度再現性及び温度均一性を確保することができ,ガス配管10を均等に所定温度程度に加熱することができる」ものである。そうすると,本件発明1は,少なくとも当該構成を備えることにより上記の課題を解決するものと認められる。また,本件発明2〜5,6,7,8,10〜16も,当該構成と同様な構成を備えており,それにより上記の課題を解決するものと認められる。
以上のとおり,本件発明1,2〜5,6,7,8,10〜16は発明の詳細な説明に記載された発明であるから,特許法36条6項1号の規定に適合するものである。

イ 申立理由2−Cの要旨は,(ア)訂正前の請求項1,2,6,7に係る発明は,屈曲部を覆う留め部に関してカバーを含まない実施形態を包含するが,そのような実施形態で「温度均一性を維持」との課題を解決できることは本件特許明細書には記載されていない,(イ)訂正前の請求項8〜13,15,16に係る発明は「補助カバー」を含まない実施態様を包含するから,本件特許明細書に記載されていない発明である,(ウ)訂正前の請求項1,2,6〜13,15,16に係る発明では,温度検知部が板状であることが特定されていない。一方,本件特許明細書には,任意の形状の温度検知部で課題解決できることは記載されていないから,訂正前の請求項1,2,6〜13,15,16に係る発明は,本件特許明細書に記載されていない発明である,というものである。
しかしながら,上記アで検討したとおり,本件発明1は発明の詳細な説明に記載された発明であり,上記(ア)〜(ウ)の主張は上記アの検討を覆すものではない。
したがって,申立理由2−Cによっては本件発明1,2,6〜8,10〜13,15,16に係る特許を取り消すことはできない。

(5)申立理由2−D(明確性)について
ア 申立理由2−Dは,訂正前の請求項1,6,7の「直管部それぞれの前記一端側及び前記他端側を覆うカバーを有する」との記載は,「直管部それぞれ」が「一端側及び他端側」を有すると解釈できる記載であり,その意味が不明確であり,訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2も,同様に不明確であるというものである。
これに対し,訂正後の請求項1には「前記直管部それぞれを覆う前記包囲体の前記一端側及び前記他端側を覆うカバーを有し」と記載されており,上記の不明確な点は解消されている。訂正後の請求項2,6,7についても同様である。
したがって,申立理由2−Dによっては本件発明1,2,6,7に係る特許を取り消すことはできない。

イ 申立人2は,令和3年5月12日提出の意見書において,訂正後の請求項1,6,7に記載の「前記屈曲部を覆う留め部」がいかなる構成であるのか不明確である旨主張しているが,当該構成は,本件特許明細書の図6,7から明らかであるから,上記の主張は採用できない。
さらに,申立人2は同意見書において,訂正後の請求項8,15,16の記載について,(ア)「前記温度検知部は,前記発熱体と同様に前記発熱部に設置されるよう構成され」との発明特定事項は,温度検知部が有する構成,及び,温度検知部が有するいずれの構成が「発熱体と同様に発熱部に設置される」のか不明確である,(イ)「前記温度検知部は,・・・前記フレキシブル管側よりも前記発熱体側になるように配置されている」との発明特定事項の意味が不明確である,(ウ)「前記発熱体と前記発熱体が取り付けられる断熱部材とを有し,前記内層部と前記外層部との間に配置された発熱部」及び「前記温度検知部は,前記発熱体と同様に前記発熱部に設置されるように構成され」との発明特定事項について,「温度検知部」がどこに取り付けられるのかが一義的に特定できず不明確である,旨を主張している。
しかしながら,上記(ア)は「温度検知部」の全体が「発熱部」に設置されることを意味し,上記(イ)は「フレキシブル管」と「発熱体」の中間位置よりも発熱体側に配置することを意味し,上記(ウ)は「温度検知部」が「断熱部材」に取り付けられることを意味することは,本件特許明細書及び図面等の記載に照らし明らかであるから,上記の主張は採用できない。


第7 結言
したがって,本件請求項8,10〜16に係る特許は,いずれも,特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから,特許法113条2号に該当し,取り消されるべきものである。
また,本件請求項1〜7に係る特許は,申立人1又は申立人2による特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,取り消すことはできない。さらに,他に本件請求項1〜7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして,本件請求項9は訂正により削除されたため,申立人1又は申立人2による同請求項に係る特許に対する特許異議の申立てについては,対象となる請求項が存在しないものとなったため,特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって,結論のとおり決定する。


 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この決定に対する訴えは、この決定の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線状に形成された複数の直管部と該直管部間を連接する屈曲された屈曲部とを有するガス管の表面を覆い、加熱する加熱部であって、
発熱体の外側に配置される断熱部と、
前記断熱部および前記発熱体を包囲する、外層部と内層部を含む包囲体と、
前記外層部の外側に設けられ、前記包囲体の長手方向の一端側と他端側とが隣接した状態で前記一端側と前記他端側とを留める留め部と、
前記ガス管と対向する位置に配置された温度検知部と、を備え、
前記直管部と前記屈曲部とを覆う前記留め部は、前記直管部それぞれを覆う前記包囲体の前記一端側及び前記他端側を覆うカバーを有し、
前記ガス管と前記内層部との間に、前記内層部よりも熱の蓄積度の大きい部材が設けられ、
前記温度検知部が、前記部材と前記ガス管との隙間に配置されている
加熱部。
【請求項2】
前記温度検知部は、前記ガス管の表面に沿って前記ガス管側の主面が湾曲するよう構成されている請求項1記載の加熱部。
【請求項3】
前記屈曲部には、前記カバーに巻き込んで、前記屈曲部を覆う補助カバーが設けられる請求項1記載の加熱部。
【請求項4】
前記カバーには、その内部に該カバーの強度を高めるシートが設けられている請求項1記載の加熱部。
【請求項5】
前記補助カバーは、その内部に該補助カバーの強度を高めるシートを設けない構成である請求項3記載の加熱部。
【請求項6】
基板を処理する処理室と、前記処理室内に原料ガスを供給するガス管を有するガス供給系と、前記ガス管の表面を覆い、加熱する加熱部と、を備え、
前記ガス管は、直線状に形成された複数の直管部と該直管部間を連接する屈曲された屈曲部を有し、
前記加熱部は、
前記ガス管を加熱する発熱体の外側に配置される断熱部と、
前記断熱部および前記発熱体を包囲する、外層部と内層部を含む包囲体と、
前記外層部の外側に設けられ、前記包囲体の長手方向の一端側と他端側とが隣接した状態で前記一端側と前記他端側とを留める留め部と、
前記ガス管と対向する位置に配置された温度検知部と、を備え、
前記直管部と前記屈曲部とを覆う前記留め部は、前記直管部それぞれを覆う前記包囲体の前記一端側及び前記他端側を覆うカバーを有し、
前記ガス管と前記内層部との間に、前記内層部よりも熱の蓄積度の大きい部材が設けられ、
前記温度検知部が、前記部材と前記ガス管との隙間に配置されている
基板処理装置。
【請求項7】
発熱体の外側に配置される断熱部と、前記断熱部および前記発熱体を包囲する、外層部と内層部を含む包囲体と、前記外層部の外側に設けられ、前記包囲体の長手方向の一端側と他端側とが隣接した状態で前記一端側と前記他端側とを留める留め部と、直線状に形成された複数の直管部と該直管部間を連接する屈曲された屈曲部とを有するガス管と対向する位置に配置された温度検知部と、を備え、前記直管部と前記屈曲部とを覆う前記留め部は、前記直管部それぞれを覆う前記包囲体の前記一端側及び前記他端側を覆うカバーを有し、前記ガス管と前記内層部との間に、前記内層部よりも熱の蓄積度の大きい部材が設けられ、前記温度検知部が、前記部材と前記ガス管との隙間に配置されている、前記ガス管の表面を覆う加熱部により、前記ガス管を加熱しつつ前記温度検知部で温度検知しながら、前記ガス管を介して処理室内に原料ガスを供給して基板を処理する工程を有する半導体装置の製造方法。
【請求項8】
蛇腹状に形成されたフレキシブル管を含むガス管の表面を覆い、加熱する加熱部であって、
発熱体の外側に配置される断熱部と、
前記断熱部および前記発熱体を包囲する、外層部と内層部を含む包囲体と、
前記外層部の外側に設けられ、前記包囲体の長手方向の一端側と他端側とが隣接した状態で前記一端側と前記他端側とを留める留め部と、
前記フレキシブル管と対向する位置に配置された温度検知部と、
前記発熱体と前記発熱体が取り付けられる断熱部材とを有し、前記内層部と前記外層部との間に配置された発熱部と、を備え、
前記発熱体は、前記内層部と前記フレキシブル管との間に形成される間隙を加熱することで温度安定性を図り、
前記温度検知部は、前記発熱体と同様に前記発熱部に設置されるよう構成され、前記間隙、前記内層部および前記断熱部材が形成されていることにより前記フレキシブル管と非接触となり、前記フレキシブル管側よりも前記発熱体側になるよう配置されている加熱部。
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
前記フレキシブル管を覆う前記加熱部の前記発熱体は、前記フレキシブル管を基軸として前記フレキシブル管の蛇腹部の山折部と谷折部とに一部が平行となるように形成されている請求項8記載の加熱部。
【請求項11】
前記フレキシブル管を覆う前記加熱部の前記断熱部は複数の断熱層で構成され、
前記断熱層それぞれは、前記フレキシブル管内のガスの流れ方向に対して垂直方向に切り込まれ、複数に分割されている請求項8記載の加熱部。
【請求項12】
前記断熱層それぞれは、前記フレキシブル管内のガスの流れ方向に対して垂直方向に延在するスリットが設けられている請求項11記載の加熱部。
【請求項13】
隣接する前記断熱層それぞれのスリットの位置がずらされて配置されている請求項12記載の加熱部。
【請求項14】
前記包囲体には、前記フレキシブル管内のガス流れ方向に対して垂直方向に延在する折り目が設けられている請求項8記載の加熱部。
【請求項15】
基板を処理する処理室と、前記処理室内に原料ガスを供給するガス管を有するガス供給系と、前記ガス管の表面を覆い、加熱する加熱部と、を備え、
前記ガス管は、蛇腹状に形成されたフレキシブル管を含み、
前記加熱部は、
発熱体の外側に配置される断熱部と、
前記断熱部および前記発熱体を包囲する、外層部と内層部を含む包囲体と、
前記外層部の外側に設けられ、前記包囲体の長手方向の一端側と他端側とが隣接した状態で前記一端側と前記他端側とを留める留め部と、
前記フレキシブル管と対向する位置に配置された温度検知部と、
前記発熱体と前記発熱体が取り付けられる断熱部材とを有し、前記内層部と前記外層部との間に配置された発熱部と、を有し、
前記発熱体は、前記内層部と前記フレキシブル管との間に形成される間隙を加熱することで温度安定性を図り、
前記温度検知部は、前記発熱体と同様に前記発熱部に設置されるよう構成され、前記間隙、前記内層部および前記断熱部材が形成されていることにより前記フレキシブル管と非接触となり、前記フレキシブル管側よりも前記発熱体側になるよう配置されている
基板処理装置。
【請求項16】
発熱体の外側に配置される断熱部と、前記断熱部および前記発熱体を包囲する、外層部と内層部を含む包囲体と、前記外層部の外側に設けられ、前記包囲体の長手方向の一端側と他端側とが隣接した状態で前記一端側と前記他端側とを留める留め部と、蛇腹状に形成されたフレキシブル管を含むガス管の前記フレキシブル管と対向する位置に配置された温度検知部と、前記発熱体と前記発熱体が取り付けられる断熱部材とを有し、前記内層部と前記外層部との間に配置された発熱部と、を有し、前記発熱体は、前記内層部と前記フレキシブル管との間に形成される間隙を加熱することで温度安定性を図り、前記温度検知部は、前記発熱体と同様に前記発熱部に設置されるよう構成され、前記間隙、前記内層部および前記断熱部材が形成されていることにより前記フレキシブル管と非接触となり前記フレキシブル管側よりも前記発熱体側になるよう配置されている、加熱部により前記ガス管を加熱しつつ前記温度検知部で温度検知しながら、前記ガス管を介して処理室内に原料ガスを供給して基板を処理する工程を有する半導体装置の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-11-25 
出願番号 P2016-175856
審決分類 P 1 651・ 121- ZDA (H01L)
P 1 651・ 537- ZDA (H01L)
最終処分 08   一部取消
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 小田 浩
小川 将之
登録日 2019-11-15 
登録番号 6616265
権利者 株式会社東京技術研究所 株式会社KOKUSAI ELECTRIC
発明の名称 加熱部、基板処理装置、及び半導体装置の製造方法  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  

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