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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
管理番号 1383223
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-06-15 
確定日 2022-01-12 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6620526号発明「遮光性積層体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6620526号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜6〕について訂正することを認める。 特許第6620526号の請求項1、3〜6に係る特許を維持する。 特許第6620526号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6620526号の請求項1〜6に係る特許についての出願は、平成27年11月18日の特許出願であって、令和元年11月29日に特許権の設定登録がされたものである(特許掲載公報発行日:同年12月18日)。
本件特許異議の申立てに係る主な手続の経緯は、以下のとおりである。

令和2年6月15日: 特許異議申立人 松本征二(以下「申立人」という。)による本件の請求項1〜6に係る特許に対する特許異議の申立て
令和2年8月25日: 取消理由の通知
(令和2年8月20日付け取消理由通知書)
同年10月23日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年12月10日 : 申立人による意見書の提出
令和3年3月15日: 取消理由の通知(決定の予告)
(令和3年3月9日付け消理由通知書(決定の予告))
同年5月13日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年7月20日 : 申立人による意見書の提出

なお、特許権者が令和2年10月23日に提出した訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

第2 本件訂正
1 訂正の内容
令和3年5月13日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という)の内容は、以下のとおりである。下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「少なくとも、印刷インキよりなる絵柄印刷層、遮蔽層、透明な基材層、及び遮光層からなる遮光性積層体」を「少なくとも、印刷インキよりなる絵柄印刷層、遮蔽層、透明な基材層、遮光層及び滑り性付与層からなる遮光性積層体」に、「該遮蔽層は、白インキよりなる1層又は2層以上の印刷層であり、該白インキは、白色顔料とバインダ樹脂との質量配合比が、白色顔料:バインダ樹脂=4〜5:1〜0.8であり、」を「該遮蔽層は、白インキよりなる1層又は2層以上の印刷層であり、該白インキは、白色顔料とバインダ樹脂との質量配合比が、白色顔料:バインダ樹脂=4〜5:1〜0.8であり、該遮蔽層の厚みは0.1〜10μmであり、」にそれぞれ訂正する。
また、同請求項1の遮光層について、訂正前の「該遮蔽層が、該基材層の一方側に位置し、かつ、該遮光層が、該基材層を挟んで該遮蔽層とは反対側に位置し、」の後に、「該遮光層は、バインダ樹脂及びアルミニウム顔料を含む遮光インキよりなる印刷層であり、」との特定を追加する訂正とし、さらに続けて滑り性付与層について、「該滑り性付与層は、前記遮光層上に配置された白インキよりなる印刷層であり、」との特定を追加する訂正をする。
(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3〜6も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3の「前記遮光層上に、さらに、インキよりなる滑り性付与層を配置した」を「滑り性付与層の白インキの白色顔料とバインダ樹脂との質量配合比が、白色顔料:バインダ樹脂=2.5:1〜3:0.8である」に訂正し、引用請求項の記載を「請求項1又は2」から「請求項1」に訂正する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4〜6も同様に訂正する。)。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1〜3のいずれか1項に記載の遮光性積層体。」
とあるのを「請求項1又は3に記載の遮光性積層体。」に訂正する(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5及び6も同様に訂正する。)。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1〜5のいずれか1項に記載の遮光性積層体を含む包装材料。」とあるのを「請求項1及び3〜5のいずれか1項に記載の遮光性積層体を含む包装材料。」に訂正する。

2 一群の請求項
本件訂正は、訂正前の請求項1と、請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2〜6が、訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正後の請求項〔1〜6〕は、一群の請求項である。

3 本件訂正の目的の適否、新規事項追加の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、遮光性積層体の構成要素として「滑り性付与層」を追加した上でその素材を「該滑り性付与層は、前記遮光層上に配置された白インキよりなる印刷層であり、」と特定し、「遮蔽層」の厚みについて「該遮蔽層の厚みは0.1〜10μmであり、」と特定し、「遮光層」の素材について「前記遮光層は、バインダ樹脂及びアルミニウム顔料を含む遮光インキよりなる印刷層であり、」と特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ そして、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)には、次の記載がある。
・「【0015】
<3>遮蔽層
遮蔽層は、遮光層の色味を遮蔽する層であって、白インキを1層又は2層以上印刷してなる層である。
白インキの層を多層にするほど、・・・したがって、遮蔽層の厚さとしては、絵柄印刷のデザイン等の条件に応じて当業者が適宜に選択することができるが、例えば0.1〜10μmであり、好ましくは0.2〜5μmである。・・・」
・「【0018】
<4>遮光層
遮光層は、外側から遮蔽層及び基材を透過してきた光(紫外線及び可視光線)を反射することにより、内部への到達を防ぐ層であって、遮光インキを印刷してなる層である。
・・・
本発明において、遮光インキは、通常のグラビアインキまたはオフセットインキ等に使用されるバインダ樹脂に、アルミニウム粒子を加え、必要に応じて任意の助剤等を加え、溶剤や希釈剤等で混錬してなる。」
・「【0026】
<6>滑り性付与層
滑り性付与層は、シュリンクフィルムとして包装容器を被覆する際に、本発明の積層体の最内面となって遮光層を保護し、且つ、包装容器の表面との滑り性をよくするために設けられる層であって、上記遮光層上にインキを印刷してなる。」
以上の記載事項からして、訂正事項1は、新規事項を追加するものではない。
ウ また、訂正事項1は、発明特定事項を直列的に付加するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
エ したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項2を削除するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項2が、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(3)訂正事項3について
ア 訂正事項3は、滑り性付与層の素材について「白インキの白色顔料とバインダ樹脂との質量配合比が、白色顔料:バインダ樹脂=2.5:1〜3:0.8である」と特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、訂正事項2によって請求項2が削除されたことに整合させるために引用する請求項を訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものでもある。
イ そして、特許明細書等には「【0027】 本発明において、滑り性付与層を形成するインキとしては、上述の遮蔽層と同じ慣用の白インキを使用することができる。白色顔料とバインダ樹脂との質量配合比は、当業者が適宜に選択することができるが、より好ましくは、白色顔料の配合比が上記遮蔽層より少ないタイプのものが好適に使用され、例えば、白色顔料:バインダ樹脂=2.5:1〜3:0.8の配合比である。白色顔料の配合比を、滑り性が保持される範囲で少なくすることにより、滑り性付与層からの照り返しによる反射光量が減少し、表側(すなわち遮蔽層側)から観察した際の白色度及び明度を一層高めることができる。」との記載があることから、訂正事項3は、新規事項を追加するものではない。
また、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(4)訂正事項4、5について
訂正事項4、5は、訂正事項2によって請求項2が削除されたことに整合させるため、訂正前の請求項4,6がそれぞれ引用する請求項を訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項4、5は、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

4 小括
以上のとおり、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正後の請求項〔1〜6〕についての訂正を認める。

第3 本件発明
上記のとおり、本件訂正は、認められるから、本件特許の請求項1、3〜6は、それぞれ、令和3年5月13日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、3〜6に記載された、次のとおりのものである。
以下、この訂正特許請求の範囲の請求項1、3〜6に係る発明を、以下「本件発明1」等という。
「【請求項1】
少なくとも、印刷インキよりなる絵柄印刷層、遮蔽層、透明な基材層、遮光層及び滑り性付与層からなる遮光性積層体であって、
該遮蔽層は、白インキよりなる1層又は2層以上の印刷層であり、該白インキは、白色顔料とバインダ樹脂との質量配合比が、白色顔料:バインダ樹脂=4〜5:1〜0.8であり、
該遮蔽層の厚みは0.1〜10μmであり、
該遮蔽層が、該基材層の一方側に位置し、かつ、該遮光層が、該基材層を挟んで該遮蔽層とは反対側に位置し、
該遮光層は、バインダ樹脂及びアルミニウム顔料を含む遮光インキよりなる印刷層であり、
該滑り性付与層は、前記遮光層上に配置された白インキよりなる印刷層であり、かつ、
該基材層が、熱収縮性フィルムからなり、熱収縮後に、積層体の絵柄印刷層を設けていない部分において、基材層の遮光層を設けた側と反対側から測定したL*a*b*表色系の明度L*値が82以上であることを特徴とする、遮光性積層体。」
「【請求項3】
滑り性付与層の白インキの白色顔料とバインダ樹脂との質量配合比が、白色顔料:バインダ樹脂=2.5:1〜3:0.8である請求項1に記載の遮光性積層体。
【請求項4】
前記遮蔽層上に、さらに、印刷インキよりなる絵柄印刷層を配置した、請求項1又は3に記載の遮光性積層体。
【請求項5】
前記絵柄印刷層上に、さらに、オーバープリントニスよりなる表面保護層を配置した、請求項4に記載の遮光性積層体。
【請求項6】
請求項1及び3〜5のいずれか1項に記載の遮光性積層体を含む包装材料。」

第4 取消理由の概要
本件訂正の前の本件特許の請求項1、3〜6に係る特許に対して、当審が特許権者に通知した令和2年8月20日付けの取消理由の要旨は、次のとおりである。
1 理由1(特許法第29条第2項について)
本件特許の請求項1、3〜6に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・甲第1号証:特開2001−80019号公報
・甲第2号証:特開平11−105201号公報
・甲第3号証:特開2003−26252号公報
・甲第4号証:特開2006−16484号公報

2 理由2(特許法第36条第6項第1号について)
本件特許の特許請求の範囲の記載は、下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

本件特許明細書等には、白インキにおける白色顔料とバインダ樹脂との質量配合比「白色顔料:バインダ樹脂=4〜5:1〜0.8」の全範囲に亘って課題を解決できると当業者が認識できるような具体的な記載はなく、本件発明1〜6は、課題を解決できないものを含むものである。

第5 当審の判断
1 理由1(特許法第29条第2項)について
(1)証拠の記載
以下、甲第1号証等の証拠を「甲1」等と略記し、甲1等に記載された事項を「甲1記載事項」等という。
ア 甲1について
(ア)甲1には、以下の記載がある。
a「【請求項1】 少なくともベタ印刷層を有する印刷絵柄層と、該印刷絵柄層と印刷形状が同一か若干小さい相似形の銀ベタ印刷層とを介在層を介して対向するように設けたことを特徴とする積層体。
【請求項2】 前記銀ベタ印刷層面に熱接着性樹脂層を形成したことを特徴とする請求項1記載の積層体。
【請求項3】 前記印刷絵柄層面に表面層を形成したことを特徴とする請求項1、2のいずれかに記載の積層体。
【請求項4】 前記ベタ印刷層が白ベタ印刷層であることを特徴とする請求項1記載の積層体。」
b「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、銀ベタ印刷層を設けることにより遮光性機能を付与した積層体に関し、さらに詳しくは、銀ベタ印刷層を設けることにより、少なくともベタ印刷層を有する印刷絵柄層を正規の状態で見た場合に前記印刷絵柄層に「くすみ」を生じることなく、却って前記印刷絵柄層に深みのある意匠性を付与することができる積層体に関する。」
c「【0005】
【発明が解決しようとする課題】そこで本発明は、アルミニウム箔やアルミニウム蒸着を施した蒸着フィルムを用いることなく、遮光性を有し、意匠性においても印刷絵柄層に「くすみ」を生じることなく深みのある印刷絵柄層とすることができると共に、コストにおいても安価な積層体を提供することにある。」
d「【0010】以上のように構成することにより、アルミニウム箔やアルミニウム蒸着フィルムを用いることなく、遮光性を有し、意匠性においても印刷絵柄層に銀ベタ印刷層が影響することがなくて深みのある印刷絵柄層とすることができ、しかもアルミニウム箔やアルミニウム蒸着フィルムを用いたものと比べて安価にすることができる。」
e「【0012】まず、図1は本発明にかかる積層体の第1の実施形態を示す断面図であって、積層体1は合成樹脂製フィルムからなる介在層10の一方の面に白ベタ印刷層11を設け、該白ベタ印刷層11の上に絵柄印刷層12を設けた印刷絵柄層13を印刷により形成すると共に、前記介在層10の他方の面に前記白ベタ印刷層11と印刷形状が同一かないし若干小さい相似形の銀ベタ印刷層14を前記白ベタ印刷層11と対向する位置に印刷により設けたものである。このように構成することにより、前記絵柄印刷層12側から前記印刷絵柄層13を見たときに前記白ベタ印刷層11が前記銀ベタ印刷層14の影響を受けて「くすみ」を生じることなく、その結果、前記印刷絵柄層13が深みのある優れた意匠性を発揮する。また、前記銀ベタ印刷層14により太陽光を遮光することができる。・・・」
f「【0013】前記介在層10に用いる合成樹脂製フィルムとしては、・・・また、前記合成樹脂製フィルムは、顔料等の着色剤で透明あるいは不透明に着色されたものであってもよい。
【0014】前記積層体1の具体的な実施形態としては、太陽光により品質が劣化するような内容物を収納した透明な瓶やプラスチック容器等を覆うシュリンク包装やストレッチ包装等の用途に適している。・・・
【0015】図2は本発明にかかる積層体の第2の実施形態を示す断面図であって、積層体2は、図1に示した積層体1の前記銀ベタ印刷層14の表出面に熱接着性樹脂層15を設けたものであって、これ以外は積層体1と同じである。
【0016】前記熱接着性樹脂層15を形成する材料としては、前記積層体2を用いる用途、たとえば、包装袋として用いる用途、あるいは、容器の蓋材として用いる用途、あるいは、射出成形品に射出成形と同時に絵付けを行うインモールドラベルとして用いる用途等が考えられ、包装袋の用途とする場合には積層体2を包装袋とするときに熱接着により封止できるものであればよく、また、容器の蓋材の用途とする場合には容器本体と熱接着により封止できるものであればよく、また、インモールドラベルの用途とする場合には射出成形する樹脂と射出成形時の溶融熱で熱接着できるものであればよいのであって、使用用途により適宜選択して用いればよいが、たとえば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状(線状)低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体等の樹脂の一種ないしそれ以上からなる樹脂ないしはこれらをフィルム化したシート、あるいは、塩素化ポリエチレン,塩素化ポリプロピレンなどの変性ポリオレフィン樹脂、あるいは、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂などのホットメルト型樹脂等を挙げることができる。」
g「【0017】また、前記積層体2は、前記印刷絵柄層13面にOPニス層を表面層(図示せず)として設けて前記印刷絵柄層13に外力による擦れ傷等が付かないようにしてもよいし、必要に応じて、たとえば、前記介在層10に用いる合成樹脂製フィルムとして説明したものを前記印刷絵柄層13上にドライラミネーション法等の周知の積層手段を用いて積層することにより表面層(図示せず)を形成してもよい。」
h「【0021】ところで、本発明の積層体1、2、3に印刷により形成する銀ベタ印刷層14はグラビア印刷法で形成するものであり、銀ベタ印刷層14を形成する印刷インキとしてはビヒクルにアルミニウム粉末、顔料、溶剤、各種補助剤等を加えてインキ化したものを用いることができる。・・・」
i「【0022】
【実施例】次に、本発明の積層体について、以下に実施例を挙げて説明する。
実施例1
20μmの2軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)のコロナ処理面に美麗な絵柄印刷と白ベタ印刷を1液汎用ウレタン樹脂からなる印刷インキでグラビア印刷して印刷刷本Aを作製した。また、他方において未延伸の30μmの線状低密度ポリエチレンフィルムのコロナ放電処理面に銀ベタ印刷をビヒクル100重量部に対して15重量部アルミニウム粉を混練りした1液汎用ウレタン樹脂からなる印刷インキでグラビア印刷して印刷刷本Bを作製した。次に、前記印刷刷本Aと前記印刷刷本Bとの印刷面同士を2液硬化型ウレタン樹脂からなる接着剤を用いて周知のドライラミネーション法で積層して本発明の積層体を得た(接着剤の乾燥後の塗工量は3g/m2であった)。
実施例2
熱収縮タイプの50μmのポリエステルフィルムの一方の面に白ベタ印刷と該白ベタ印刷の上に美麗な絵柄印刷とを1液汎用ウレタン樹脂からなる印刷インキでグラビア印刷すると共に、他方の面に前記白ベタ印刷と見当を合わせて銀ベタ印刷をビヒクル100重量部に対して15重量部アルミニウム粉を混練りした1液汎用ウレタン樹脂からなる印刷インキでグラビア印刷して本発明の積層体を得た。
比較例1
実施例1で作製した印刷刷本Aの印刷面と片面にアルミニウム蒸着を施した30μmの線状低密度ポリエチレンフィルムの蒸着面とを2液硬化型ウレタン樹脂からなる接着剤を用いて周知のドライラミネーション法で積層して比較例とする積層体を得た(接着剤の乾燥後の塗工量は3g/m2であった)。
比較例2
20μmの2軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)のコロナ処理面に美麗な絵柄印刷と白ベタ印刷を1液汎用ウレタン樹脂からなる印刷インキでグラビア印刷すると共に、前記白ベタ印刷の上に銀ベタ印刷をビヒクル100重量部に対して15重量部アルミニウム粉を混練りした1液汎用ウレタン樹脂からなる印刷インキでグラビア印刷して印刷刷本Cを作製し、該印刷刷本Cの印刷面と未延伸の30μmの線状低密度ポリエチレンフィルムのコロナ放電処理面とを2液硬化型ウレタン樹脂からなる接着剤を用いて周知のドライラミネーション法で積層して比較例とする積層体を得た(接着剤の乾燥後の塗工量は3g/m2であった)。
比較例3
熱収縮タイプの片面にアルミニウム蒸着を施したポリプロピレンフィルムの非蒸着面に白ベタ印刷と該白ベタ印刷の上に美麗な絵柄印刷とを1液汎用ウレタン樹脂からなる印刷インキでグラビア印刷して比較例とする積層体を得た。
比較例4
熱収縮タイプの50μmのポリエステルフィルムの一方の面に美麗な絵柄印刷と白ベタ印刷とを1液汎用ウレタン樹脂からなる印刷インキでグラビア印刷すると共に、前記白ベタ印刷上に見当を合わせて銀ベタ印刷をビヒクル100重量部に対して15重量部アルミニウム粉を混練りした1液汎用ウレタン樹脂からなる印刷インキでグラビア印刷して比較例とする積層体を得た。」
j「【図1】


k「【図2】



(イ)上記a〜kから、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認める。
「印刷インキで印刷された絵柄印刷層12と、白ベタ印刷層11と、透明な介在層10と、遮光性の銀ベタ印刷層14と、熱接着性樹脂層15とからなる積層体1であって、
該白ベタ印刷層11は、印刷インキで印刷されたものであり、
該白ベタ印刷層11が該介在層10の一方側に位置し、かつ、該銀ベタ印刷層14が該介在層10を挟んで該白ベタ印刷層11とは反対側に位置し、
該銀ベタ印刷層14は、ビヒクルにアルミニウム粉末、顔料、溶剤、各種補助剤等を加えてインキ化した印刷インキを印刷したものであり、
該介在層10が合成樹脂フィルムからなり、
該白ベタ印刷層11上に、印刷インキで印刷された該絵柄印刷層12が配置され、
該白ベタ印刷層11の上に該絵柄印刷層12を設けた印刷絵柄層13面にOPニス層を表面層として設けてあり、
透明な瓶やプラスチック容器等を覆うシュリンク包装やストレッチ包装等の用途に適している、積層体1。」
イ 甲2について
(ア)甲2には、以下の記載がある。
a「【0001】
【発明の技術分野】この発明は、食品や医薬品等の包装容器の蓋や包装袋に用いられる遮光性包装材に関する。」
b「【0005】この発明の課題は、金属箔などを用いることなく遮光性が高く、外観的にも良好な包装材を提供することである。」
c「【0007】
【課題の解決手段】上記の課題を解決するため、この発明は、表面保護フィルムと、酸化チタン含有樹脂層と、バインダー樹脂100重量部に対して250〜2400重量部の酸化チタンと3〜30重量部のカーボンブラックを含有する遮光層と、熱封緘層を積層して遮光性包装材を形成したのである。
【0008】前記酸化チタン含有樹脂層は、紫外線を遮断するばかりでなく白色を呈し、また遮光層は可視光線を完全に遮断しかつ黒色を極力抑制してあるので、全体として表層面の色差を小さくできる。」
d「【0012】前記酸化チタン含有樹脂層12は、紫外線を遮断する効果と共に白色を目立たせる効果を狙ったものである。そのためには、粒径0.05〜2.0μm、好ましくは0.2〜0.5μmの酸化チタンを樹脂1重量部に対して0.5〜10.0重量部混入し、メチルエチルケトン、トルエン、イソプロピルアルコール等の適当な有機溶媒に溶解してインキを作成し、前記表面保護フィルム11に塗布する。塗布量は、乾燥後の厚みが0.5〜10μm程度とする。0.5μm未満では層12による隠ぺい性が劣り、下層の遮光層13の影響が現れて色調が黒っぽくなり、10μmを超えると塗布作業が困難となる。・・・」
e「【0018】
【実施例1〜5】表面保護フィルムとして厚さ12μmのポリエステルフィルムを用い、この裏面に透明性の高い透明顔料で塩素を含まない「ラミエクセル透明黄」インキ(大日本インキ化学工業株式会社製)を使用して乾燥後の厚みが約1μmとなるように印刷した。さらに、酸化チタン含有樹脂層として隠ぺい性の良い「ラミエクセル特濃白(顔料分45%、樹脂分10%、溶剤45%)」(大日本インキ化学工業株式会社製)を所定の粘度に調整し、乾燥後の厚みが約1μmとなるように全面着色した。さらにもう一度、同じ「ラミエクセル特濃白」を乾燥後の厚みが約1μmとなるように全面着色した。」
(イ)上記a〜eから、甲2には、次の事項(以下「甲2記載事項」という。)が記載されているものと認める。
「酸化チタン含有樹脂層12は、遮光性包装材に積層されるものであって、遮光層13に対する隠ぺい性を備えた白色であり、隠ぺい性の良い「ラミエクセル特濃白(顔料分45%、樹脂分10%、溶剤45%)」(大日本インキ化学工業株式会社製)を乾燥後の厚みが約1μmとなるように用いること。」
ウ 甲3について
甲3には、以下の記載がある。
「【0007】またその一例として、白色又は乳白色のシュリンクフィルムの片面に黒色印刷を施して遮光性を有する面とし、その機能を異とする2面性のシュリンクフィルムを用いて、その裏面に青色印刷を施した場合に、青色印刷部分と白色又は乳白色部分との明度差が32以上であり、且つ白色又は乳白色部分の明度が80以上であることを特徴としたシュリンクフィルムを取り付けた請求項1に記載の食品用容器としても提供してもよい。ここで、白色又は乳白色のベースフィルムを使用することで、透明若しくは黒色のベースフィルムに白色の印刷を施すよりも、ホワイトチタン等の含量濃度を高くできる。これにより、当該シュリンクフィルムの片面に黒色印刷を施しても、その裏面の白色又は乳白色面の明度を80以上にすることができる。」
「【0011】一方で、商品の宣伝・説明のためのデザインを施す面は、白色又は乳白色に着色されたシュリンクフィルムを用いる(図1(2))。・・・従来はシュリンクフィルムの片面に黒色印刷をすることにより、その黒色が透けて、ネズミ色・灰色となり、暗い又はくすんだ印象を持たれるものであったが、本発明において、白色、乳白色のベースフィルムを用いたシュリンクフィルムの表面、すなわちデザイン面は、従来の黒色印刷を施していない程度の十分な明度・明度差を得ることができる(図1(2))。・・・
【0012】
【試験例1】本発明におけるシュリンクフィルムの明度・明度差を測定した。ここで、明度はL値(JIS規格)をいう。・・・
【0013】
【表1】

【0014】この結果の明度(L値(JIS規格))は、その数値が高ければ明度が向上、つまり、明るいことを表し、また、明度差の数値も高ければ、印刷した文字等(試験では青色部分)もはっきり分かることとなる。結果は、本発明にかかるフィルム1は、十分な遮光度が得られた上に、明度差も39.29を示した。この値は、その裏面に何らの印刷をしないフィルム(フィルム2)の43.04、及び透明なベースフィルムに白色を印刷したフィルム(フィルム3)の40.13と非常に近い値を示していることが分かる。さらに、フィルム1の明度自体も88.05と高く、フィルム2及び3とほとんど変わらない値であった。この結果は従来の技術における、シュリンクフィルムの片面に黒色を印刷した場合の明度の低下によるデザイン面が灰色等になることを完全に防いでいることが示されている。しかも、その明度差も高いことからデザイン面に文字等の情報を印刷した場合も、明確に読みとることができる特徴を持つことが示された。」
エ 甲4について
甲4には、以下の記載がある。
「【0002】
近年、飲食料品などにおいては、消費者の趣向の多様化から様々な形態の容器が用いられるようになってきた。例えば、飲料などに用いられるガラスボトル、プラスチックボトルなどにおいても多種多様な形状の容器が使用される。それらの容器に意匠性、情報性を付与するために絵柄や文字が印刷されたフィルムラベルが装着されることがある。
【0003】
前記フィルムラベルをボトル等の容器に装着する際に求められる性能の一つとして、該ラベルの滑り性が挙げられる。滑りが悪いとボトル等に装着する際に、しわ、破れなどのトラブルが発生する。この滑り性は該フィルムに印刷されるインキ皮膜の滑り性の影響が大であり、優れた装着適性を得る為には皮膜が優れた滑り性を有する印刷インキの開発が望まれている。
【0004】
従来、フィルムラベル等に印刷されるインキの皮膜に滑り性を付与する方法としては、印刷インキ中にポリエチレンワックスやフッ素ワックス、二酸化珪素粉末などを添加する方法が知られている。」
「【0007】
特許文献3には、表面が水濡れ状態にあるボトル等の容器に対してスムースに装着できる筒状シュリンクラベルが記載されている。該文献にはラベル内表面の白インキ層の濡れ指数を34以下、動摩擦係数を0.6以下にする事により、装着適性を向上させるとの表記がある。しかしながら該文献の段落18などによれば、インキ中の顔料や、シリコーンの種類や含有量を変えて濡れ指数等の値を調節するとの説明があるものの、それら値を出す為の具体的な方法や配合量は記載されていない。顔料の濃度や種類は絵柄によってある程度決まってしまうものであって滑り性のための選択や調整の余地は小さく、シリコーンは微量でもインキの特性全般に与える影響が大きいのでやはり調整の余地は小さい。よって顔料やシリコーンの選択や、それらの配合量の調整によって滑り性を調節することは実質的に難しい場合が多いと考えられる。」
「【0015】
本発明の印刷インキ組成物は、球状の硬化型樹脂微粒子及びまたは架橋型樹脂微粒子を全インキ組成物中に0.1〜10質量%含有する事が好ましい。これより含有量が高いとインキの流動性が悪くなり、印刷が困難になる。またこれより低いと十分な滑り性を得る事ができない。含有量としてより好ましくは、0.1〜5.0質量%であり、さらに好ましくは0.1%〜2.0質量%である。その理由はグラビア印刷特有のドクター筋の発生が少なく、圧胴汚れ性のない良好な印刷適性を持つインキを得る為である。
・・・
【0018】
前記の硬化型樹脂微粒子として、ベンゾグアナミン樹脂やメラミン樹脂の微粒子を用いることができる。架橋型樹脂微粒子としてアクリル樹脂を用いることができる。これらの樹脂微粒子は一種類のみ用いても良いし、混合して用いることもできる。
【0019】
従来用いられる微粒子添加剤としては炭酸マグネシウム、二酸化珪素などの無機微粒子もあるが、これらは形状が一定しない為、安定した滑り性を得ることが難しく、本発明には適しない。」
「【0026】
本発明においては、フィルムの最内面(ボトルに接触する側)に本発明の印刷インキを印刷することで、皮膜の滑り性を生かすことができる。当然、上記印刷インキを単独で用いてフィルムに印刷してもよいし、プラスチックフィルムに白インキ及び又は絵柄のインキと、本発明のインキとを積層しても良い。絵柄のインキには例えば、黄・紅・藍・墨色のプロセス色カラーインキなどが用いられる。」

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明(以下「後者」ということがある)の「絵柄印刷層12」は、本件発明1(以下「前者」ということがある)の「絵柄印刷層」に相当し、以下同様に、「白ベタ印刷層11」は「遮蔽層」に、「透明な介在層10」は「透明な基材層」に、「遮光性の銀ベタ印刷層14」は「遮光層」に、「積層体1」は「遮光性積層体」にそれぞれ相当する。
後者の「白ベタ印刷層11」を構成する「印刷インキ」が白色であることは自明であるから、後者の「白ベタ印刷層11は、印刷インキで印刷されたもの」であることは、前者の「遮蔽層は、白インキよりなる1層又は2層以上の印刷層」であることに相当する。
後者の「白ベタ印刷層11が介在層10の一方側に位置し、かつ、銀ベタ印刷層14が介在層10を挟んで白ベタ印刷層11とは反対側に位置」することは、前者の「該遮蔽層が、該基材層の一方側に位置し、かつ、該遮光層が、該基材層を挟んで該遮蔽層とは反対側に位置」することに相当する。
後者の「銀ベタ印刷層14は、ビヒクルにアルミニウム粉末、顔料、溶剤、各種補助剤等を加えてインキ化した印刷インキを印刷したものであ」ることは、前者の「遮光層は、バインダ樹脂及びアルミニウム顔料を含む遮光インキよりなる印刷層であ」ることに相当する。
以上を踏まえると、両発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点1>
「少なくとも、印刷インキよりなる絵柄印刷層、遮蔽層、透明な基材層、及び遮光層を備えた遮光性積層体であって、
該遮蔽層は、白インキよりなる1層又は2層以上の印刷層であり、
該遮蔽層が、該基材層の一方側に位置し、かつ、該遮光層が、該基材層を挟んで該遮蔽層とは反対側に位置し、
該遮光層は、バインダ樹脂及びアルミニウム顔料を含む遮光インキよりなる印刷層である、
遮光性積層体。」
<相違点1>
遮蔽層の白インキについて、本件発明1は、「白インキは、白色顔料とバインダ樹脂との質量配合比が、白色顔料:バインダ樹脂=4〜5:1〜0.8であ」るのに対して、甲1発明では、そのように特定されていない点。
<相違点2>
本件発明1は、「遮蔽層の厚みは0.1〜10μmであ」るのに対して、甲1発明の遮蔽層の厚みは特定されていない点。
<相違点3>
本件発明1は、「基材層が、熱収縮性フィルムからな」るものであり、「熱収縮後に、積層体の絵柄印刷層を設けていない部分において、基材層の遮光層を設けた側と反対側から測定したL*a*b*表色系の明度L*値が82以上である」のに対して、甲1発明は、そのように特定されていない点。
<相違点4>
本件発明1は、「遮光層上に配置された白インキよりなる印刷層」である「滑り性付与層」を配置したのに対して、甲1発明は、銀ベタ印刷層14(本件発明1の「遮光層」に相当。)上に熱接着性樹脂層15が配置されている点。
イ 相違点についての検討
(ア)事案に鑑み、相違点4から検討する。
a 甲1発明は、銀ベタ印刷層14上に、熱接着性樹脂層15を配置するものである。
甲4には、フィルムラベルを容器に装着する場合に滑り性が求められること、及び、そのために、当該フィルムラベルに印刷されるインキ中にポリエチレンワックスやフッ素ワックス、二酸化珪素粉末等を添加することが記載されている(上記(1)エ)。このように、フィルムラベルと容器との接触面に滑り性の良いインキを印刷することは周知技術といえる。
b しかし、甲1発明に係る積層体は、直ちに銀ベタ印刷層14上に滑り性の良い層を形成することが求められるものではない。この積層体を透明な瓶やプラスチック容器等を覆うシュリンク包装やストレッチ包装等の用途に適用するとしても、甲1発明を開示する甲1において積層体を“安価”とすることも課題として記載されているから(上記(1)ア(ア)c)、特にそのような層を付加することが動機付けられるものではない。
そして、銀ベタ印刷層14上に設けられる層は、熱接着性樹脂層15であるから、これに滑り性を持たせることは、上記のような周知技術が存在するとしても、当業者が容易に想起し得たこととはいえない。
なお、申立人が令和3年7月20日に提出した意見書に添付された参考資料を考慮しても、当該判断が変わるものではない。
c したがって、相違点4に係る本件発明1の発明特定事項は、当業者が甲1発明、甲2記載事項及び周知技術に基づいて容易に想到し得たものではない。
(イ)そうすると、他の相違点1〜3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、甲2記載事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明し得たものとはいえない。

(3)本件発明3〜6について
本件発明3〜6は、いずれも、本件発明1の発明特定事項を全て含んだ上で他の発明特定事項を付加したものであるから、本件発明1についての上記判断を踏まえれば、いずれも、甲1発明、甲2記載事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明し得たものとはいえない。

(4)小括
以上のとおり、本件発明1、3〜6は、甲1発明、甲2記載事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に該当しない。

2 理由2(特許法第36条第6項第1号)について
(1)本件各訂正発明が解決しようとする課題
本件特許明細書等によれば、
「このため、アルミニウム箔やアルミニウム蒸着フィルムに代えて、基材フィルムに、黒色系や灰色系の着色剤を含むインキないし塗料による遮光性塗膜を形成することが行われている。しかしながら、このような遮光性塗膜を形成すると、製造条件の許す限り最大の厚みで白インキ層を設けてその黒色や灰色の色調を遮蔽しようとても、フィルムは十分な白色度及び明度を得ることができない。そのため、その表面に設けられる絵柄印刷層は、遮光層の黒系の色調の影響を受け、包装製品として所望の発色が得られず、意匠性及び装飾性が損なわれるという問題がある。」(段落【0003】)(下線部は当審が付した。以下同様。)
ことを背景として、
「本発明は、上記の問題を解決し、全層を印刷することにより積層できるため、製造にラミネート工程や蒸着工程が不要であり、優れた白色度及び明度を有する遮光性積層体を提供することを目的とする。」(段落【0005】)
と記載されているから、本件発明は、従来の白インキ層では製造条件上の最大厚みでも得られなかった白色度及び明度を達成することを解決すべき課題とするものであると理解する。
(2)本件発明1は、遮蔽層を構成する白インキについて、「該白インキは、白色顔料とバインダ樹脂との質量配合比が、白色顔料:バインダ樹脂=4〜5:1〜0.8」であることが規定されている。
本件特許明細書等における遮蔽層を構成する白インキの質量配合比についての説明は、「また、白色顔料とバインダ樹脂との質量配合比は、所望の白色度・明度や遮蔽層の厚み等に応じて、当業者が適宜に選択することができるが、例えば、白色顔料:バインダ樹脂=4〜5:1〜0.8である。高い白色遮蔽性を発揮するために、コンクタイプの白インキを用いることが好ましい。 このような白インキを、上記の厚さで基材層上に印刷することにより、遮光層の色味を遮蔽するだけでなく、紫外線に対して遮断性を発揮する。」(段落【0017】)といったものにとどまり、実施例をみても、白インキにおける白色顔料とバインダ樹脂との質量配合比がただちに明らかではない。
(3)本件特許明細書等には、「遮蔽層を形成する白インキとして、ウレタン樹脂及びアクリル樹脂からなるバインダ樹脂中に、酸化チタン顔料及び各種添加剤を添加し、溶剤を用いて混錬した白インキ(大日精化工業株式会社製OS−M S−HC 表用白)を用意し」てなる実施例1につき、L*値が89.84であること等が開示されている。この実施例1は、全層が印刷されて積層されており、高い遮光性、高い白色度・明度を示すものである。
したがって、実施例1により、所与の課題が解決されることが確認されているといえる。
ところで、この実施例1における白インキは、“大日精化工業株式会社製OS−M S−HC 表用白”と称される市販の白インキであったが、本件特許明細書等には、それにおける白色顔料とバインダ樹脂との質量配合比は、記載されていない。
しかし、白インキにおける白色顔料のバインダ樹脂に対する質量配合比が大きくなれば遮光性積層体として呈される白色度が向上することは自明であるから、白色顔料:バインダ樹脂=4〜5:1〜0.8という白色顔料の質量配合比が大きい白インキを用い、それとともに白インキの厚みを0.1〜10μmの範囲内で調整すること等により、82以上のL*値を得ることができて、所与の課題が解決できることは、当業者にとって十分認識し得たことといえる。
そうすると、本件各訂正発明は、所与の課題を解決することができるものであり、本件特許明細書等の発明の詳細な説明に記載されたものといえる。
(4)申立人は、令和3年7月20日に提出した意見書においてサポート要件に関して種々指摘しているので、それらについての合議体の見解を付しておく。
ア 申立人は、白インキにおける白色顔料とバインダ樹脂の質量配合比、厚みが本件発明1の数値範囲内であっても、課題を解決できない場合もあり得る旨指摘する(当該意見書33〜34頁)が、それぞれの数値範囲内で具体的にどの数値のものが82以上のL*値が得られないと断定できるのか明らかでないし、既に(3)で述べたように、それらの数値範囲内で質量配合比、厚みを選定すること等で82以上のL*値が得られると考えられるので、申立人のこの点の指摘にしたがってサポート要件が欠如しているとすることはできない。
また、申立人は、上記数値範囲外であれば課題を解決することができないような記載は存在しない点も合わせて指摘する(当該意見書33頁)のであるが、上記数値範囲外で課題が解決できるか否かは直接サポート要件の存否にかかる事柄ではない。
イ 申立人は、L*値を82以上とすることで課題が解決できることは示されていない旨指摘する(当該意見書35〜36頁)。
実施例1のL*値が89.84であるのに対して、比較例1、2、3のL*値は、それぞれ、87.80、85.70、78.58である。これらについての光透過率の値も見れば、比較例1、2は、光透過率が実施例より相当劣っておりこれにより課題解決の点で不適であること、及び、比較例3のL*値78.58が課題解決の点で不適であることがそれぞれ理解できるのであるが、比較例1、2は、必ずしもそのL*値自体に問題があるとされているとは言えず、比較例1、2のL*値も、“優れた白色度・明度”を示すものと言い得ると考える。そして、L*値は、78.58では不適であるとしても、それよりも十分大きい値である82以上であれば、白色度・明度が十分高いと言い得て、十分課題の解決に供し得るものと考える。
ウ 申立人は、滑り性付与層によって段落【0027】記載の事項が奏されない旨指摘する(当該意見書37頁)が、そうであっても課題を解決できることに変わりはないから、この指摘もサポート要件の欠如に結びつくものではない。
エ 申立人は、本件発明3に関し、実施例1で滑り性付与層を形成する白インキの白色顔料とバインダ樹脂の質量配合比が不明で遮蔽層を形成する白インキと同じ白インキが採用されている点を指摘する(当該意見書p.38-40)が、滑り性付与層を形成する白インキの白色顔料とバインダ樹脂の質量配合比にかかわらず、所与の課題は、既に他の発明特定事項を備えたことで解決されているとみるべきであり、この指摘も妥当なものではない。
オ 以上のとおりであるから、申立人の指摘に沿って取消理由があるとすることはできない。
(5)以上から、請求項1、3〜6の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものといえる。

第6 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 サポート要件
(1)申立人は、本件発明は、遮蔽層の厚さが特定されていないから課題を解決できないものを含むものである旨の主張をしている。
しかし、本件訂正により、請求項1において「該遮蔽層の厚みは0.1〜10μmであ」ることが規定された。
そして、本件特許明細書等には、
「白インキの層を多層にするほど、あるいは層厚を厚くするほど、遮蔽効果が高まり、より明るくくすみのない白色が得られるが、印刷工程における色数制限によるデザイン自由度の低下や、コストの高騰等の問題から、遮蔽層の厚さや層数には限界がある。したがって、遮蔽層の厚さとしては、絵柄印刷のデザイン等の条件に応じて当業者が適宜に選択することができるが、例えば0.1〜10μmであり、好ましくは0.2〜5μmである。遮蔽層が薄過ぎると、遮光層の色味を十分に隠蔽できず、白色度が低下する。」(段落【0015】)
と記載されているから、上記課題を解決するために遮蔽層厚さの下限があり、また、製造上の要求から遮蔽層厚さの上限があるとされ、その具体的な数値範囲も明示されている。
そして、実施例1(段落【0040】)においては、遮蔽層の厚さを2μmという上記数値範囲内の数値としていることからも、遮蔽層厚さが所定の範囲内であれば上記課題を解決できることが裏付けられている。
よって、「該遮蔽層の厚みは0.1〜10μmであ」ることを発明特定事項とする本件発明は、課題を解決することができると当業者が認識できるものであるから、本件特許明細書等に記載されているものである。

(2)申立人は、遮光層を構成する遮光インキについて特定しない本件発明は、課題を解決できないものを含むものである旨の主張をしている。
しかし、本件訂正により、請求項1において「前記遮光層は、バインダ樹脂及びアルミニウム顔料を含む遮光インキよりなる印刷層であ」ることが規定された。
そして、本件特許明細書等には、「本発明において、遮光インキは、通常のグラビアインキまたはオフセットインキ等に使用されるバインダ樹脂に、アルミニウム粒子を加え、必要に応じて任意の助剤等を加え、溶剤や希釈剤等で混錬してなる。」(段落【0018】)と記載されているから、本件発明の遮光層を構成する遮光インキは、アルミニウム粒子を必須の成分とするものであると解される。
そして、「アルミニウム顔料を含む遮光層と、白インキを印刷してなる遮蔽層とが、隣接せず、それぞれが基材層の異なる面上に印刷されているため、アルミニウム顔料を含む遮光インキが白インキへ浸透するのを防ぎ、これらを隣接して設ける場合に比べて、一層高い白色度及び明度が達成される。」(段落【0008】)及び「本発明の積層体は、遮光層が銀色を呈し、且つ、白インキからなる遮蔽層と隣接しておらず、基材層の反対側に設けられているため、遮蔽層及び絵柄印刷層に滲みやくすみが生じず、鮮明な絵柄を得ることができる。」(段落【0029】)との記載から、遮光層を構成する遮光インキがアルミニウム粒子(顔料)を含むことにより銀色であるために、上記課題を解決していることが理解できる。
このことは、実施例1(段落【0038】)で「ノンリーフィングタイプアルミニウムペースト(大日精化工業株式会社製TFG遮光シルバー、鱗片状アルミニウム粒子、粒子の平均粒径7μm及び平均厚み0.2μm、アルミニウム粒子含有量約10質量%)」が用いられていることにも裏付けられている。
よって、「前記遮光層は、バインダ樹脂及びアルミニウム顔料を含む遮光インキよりなる印刷層であ」ることを発明特定事項とする本件発明は、課題を解決することができると当業者が認識できるものであるから、本件特許明細書等に記載されているものである。

(3)申立人は、概略、次の主張をしている。
本件発明は、「遮光性積層体」に関する発明であるところ、遮光性を有すると判断される遮光率(透光率)の基準が、本件特許明細書等には定義されてないことから、本件特許明細書等では、実施例1における最も低い透光率をみても「1.89%」であるから、上記した包装材料の技術分野における遮光性を満たしていない。そして、本件特許明細書等には、包装材料の技術分野における遮光性を満たしていると理解できる記載はない。よって、本件発明1〜6は、課題を解決できないものを含むものである。
しかし、本件発明1は、「遮光性積層体」に関する発明であるところ、遮光性を有すると判断される遮光率(透光率)について、本件特許明細書等には、以下の記載がある。
「【0021】
本発明の積層体において、波長500〜600nmの可視光線の領域にわたって、熱収縮後に、透過率が10%以下となるように、さらには3%以下となるように遮光層を設けることが好ましい。
波長500〜600nmの可視光線透過率が上記の範囲であることにより、内容物、例えばヨーグルト等の飲料や液体調味料、各種液体医薬品、化学薬品における菌の繁殖を防ぐことができ、変質や変色、風味の劣化等を長期にわたって防ぎ、保存性を顕著に向上させることができる。
遮光層が所望の遮光性を発揮するものとなるように、当業者は、遮光インキ中のアルミニウム粒子の濃度や、遮光層の厚さ等を適宜に設定することができる。」
上記の記載によれば、本件発明において遮光性を有すると判断される遮光率(透光率)は、波長500〜600nmの可視光線の領域にわたって、熱収縮後に、「透過率が10%以下」、さらには「3%以下」であることが理解できる。
よって、本件発明の「遮光性積層体」が遮光性を有すると判断される遮光率(透光率)は、本件特許明細書等に記載されているものといえる。

第7 むすび
以上のとおり、本件請求項1、3〜6に係る特許は、特許権者に通知された取消理由によって取り消されるべきものではない。
また、本件請求項2は、本件訂正により削除された。このことにより、本件請求項2に係る特許についての特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、印刷インキよりなる絵柄印刷層、遮蔽層、透明な基材層、遮光層及び滑り性付与層からなる遮光性積層体であって、
該遮蔽層は、白インキよりなる1層又は2層以上の印刷層であり、該白インキは、白色顔料とバインダ樹脂との質量配合比が、白色顔料:バインダ樹脂=4〜5:1〜0.8であり、
該遮蔽層の厚みは0.1〜10μmであり、
該遮蔽層が、該基材層の一方側に位置し、かつ、該遮光層が、該基材層を挟んで該遮蔽層とは反対側に位置し、
該遮光層は、バインダ樹脂及びアルミニウム顔料を含む遮光インキよりなる印刷層であり、
該滑り性付与層は、前記遮光層上に配置された白インキよりなる印刷層であり、かつ、
該基材層が、熱収縮性フィルムからなり、熱収縮後に、積層体の絵柄印刷層を設けていない部分において、基材層の遮光層を設けた側と反対側から測定したL*a*b*表色系の明度L*値が82以上であることを特徴とする、遮光性積層体。
【請求項2】 削除
【請求項3】
滑り性付与層の白インキの白色顔料とバインダ樹脂との質量配合比が、白色顔料:バインダ樹脂=2.5:1〜3:0.8である請求項1に記載の遮光性積層体。
【請求項4】
前記遮蔽層上に、さらに、印刷インキよりなる絵柄印刷層を配置した、請求項1又は3に記載の遮光性積層体。
【請求項5】
前記絵柄印刷層上に、さらに、オーバープリントニスよりなる表面保護層を配置した、請求項4に記載の遮光性積層体。
【請求項6】
請求項1及び3〜5のいずれか1項に記載の遮光性積層体を含む包装材料。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-12-24 
出願番号 P2015-225713
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B32B)
P 1 651・ 537- YAA (B32B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 藤井 眞吾
藤原 直欣
登録日 2019-11-29 
登録番号 6620526
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 遮光性積層体  
代理人 結田 純次  
代理人 竹林 則幸  
代理人 結田 純次  
代理人 竹林 則幸  

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