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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61F
管理番号 1383224
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-07-10 
確定日 2021-12-22 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6631732号発明「吸収体及びそれを備える吸収性物品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6631732号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1、〔2−7〕について訂正することを認める。 特許第6631732号の請求項2〜7に係る特許を維持する。 特許第6631732号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6631732号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜7に係る特許についての出願は、平成31年2月20日の出願であって、令和元年12月20日にその特許権の設定登録がされ、令和2年1月15日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和 2年 7月10日 :特許異議申立人特許業務法人朝日奈特許事務所(以下「申立人1」という。)による請求項1〜7に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 2年 7月13日 :特許異議申立人宮本俊明(以下「申立人2」という。)による請求項1〜7に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 2年 7月15日 :特許異議申立人出川栄一郎(以下「申立人3」という。)による請求項1〜7に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 2年 9月30日付け:取消理由通知書
令和 2年12月 2日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 3年 1月27日 :申立人2による意見書の提出
令和 3年 2月 2日 :申立人3による意見書の提出
令和 3年 2月24日付け:訂正拒絶理由通知書
令和 3年 3月22日 :特許権者による意見書
令和 3年 3月30日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和 3年 5月27日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 3年 7月 8日 :申立人2による意見書の提出
令和 3年 7月 8日 :申立人3による意見書の提出

なお、令和2年12月2日の訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の請求について
1.訂正の内容
令和3年5月27日提出の訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)は、特許第6631732号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜7について訂正することを求めるものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項2の
「前記上部SAP層は、前記基材の幅方向中央部に沿って該幅方向両側に配置され、該基材の長手方向に延在しており、
前記基材の表面側には、前記幅方向中央部に、且つ、両側の前記上部SAP層に沿うように溝が形成されている、
請求項1に記載の吸収体。」
という記載を、
「不織布で形成され、液体を透過する基材と、
前記基材の表面に配置され、高吸収性重合体であるSAPの粒子からなる上部SAP層と、
前記基材の裏面に配置され、高吸収性重合体であるSAPの粒子からなる下部SAP層と、
を備え、
前記上部SAP層は、前記下部SAP層よりもSAPの量が少なく、
前記上部SAP層は、前記下部SAP層よりも液体透過性が大きく、
前記上部SAP層は、前記基材の幅方向中央部に沿って該幅方向両側に配置され、該基材の長手方向に延在しており、
前記基材の表面側には、前記幅方向中央部に、且つ、両側の前記上部SAP層に沿うように溝が形成されている、
吸収体。」
と訂正する(請求項2を直接的又は間接的に引用する請求項3〜7も同様に訂正する。)。

(3)訂正事項3
本件訂正前の請求項3の「請求項1又は2に記載」という記載を、「請求項2に記載」と訂正する(請求項3を直接的又は間接的に引用する請求項4〜7も同様に訂正する。)。

(4)訂正事項4
本件訂正前の請求項6の「請求項1から5のいずれか一項に記載」という記載を、「請求項2から5のいずれか一項に記載」と訂正する(請求項6を引用する請求項7も同様に訂正する。)。

2.訂正の適否
(1)一群の請求項
本件訂正前の請求項2〜7は、本件訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、請求項1に連動して訂正されるものであり、本件訂正請求による訂正は、一群の請求項ごとにされたものである。
また、特許権者は、本件訂正後の請求項2と、請求項2を引用する請求項3〜7について、本件訂正が認められるときには、請求項1とは別の訂正単位とすることを求めている。

(2)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであることは明らかである。

(3)訂正事項2について
ア 訂正事項2は、本件訂正前の請求項2が、請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項に改め、本件訂正前の請求項1の「上部SAP層」及び「下部SAP層」について、高吸収性重合体であるSAPの粒子からなることを特定することにより、SAPの粒子以外の材料を含む場合を除いたものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 訂正事項2の、「前記基材の表面に配置され、高吸収性重合体であるSAPの粒子からなる上部SAP層と、」「前記基材の裏面に配置され、高吸収性重合体であるSAPの粒子からなる下部SAP層と、」とする訂正は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書」という。)の【0022】に「吸収体6が吸収性物品に配置された場合に、SAP層62Lは当該吸収性物品の着用者の左側に位置し、SAP層62Rは当該吸収性物品の着用者の右側に位置する。SAP層62L、62Rは、複数のSAP粒子が接着剤で基材61の表面に付着されることで形成される。SAP層62L、62R内において、SAP粒子は略均一に配置されている。基材61は、SAP層62L、62Rを保持する。SAP層62L、62Rは、基材61の長手方向全体に亘って延在している。」と、【0023】に「また、吸収体6は、基材61の裏面に配置され、SAPの粒子を含むSAP層63(「下部SAP層」の一例)を備えている。SAP層63は、基材61の裏面の略全域に形成されている。SAP層63は、複数のSAP粒子が接着剤で基材61の表面に付着されることで形成される。SAP層63内において、SAP粒子は略均一に配置されている。基材61は、SAP層63を保持する。吸収体6は、SAP層63を設けることによって、全体としての液体の吸収、保持量を増大させる。なお、基材61内の隙間にSAPの粒子が含まれていてもよい。」と記載されており、複数のSAP粒子からなる「上部SAP層」、「下部SAP層」が、接着剤で基材に付着される旨記載されているから、訂正事項2の上記訂正は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものである。
ウ また、訂正事項2は、上記のように、本件訂正前の請求項2の発明特定事項をさらに限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。

(4)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項1の削除に伴い、本件訂正前の請求項3で「請求項1又は2に記載の吸収体」としていたものを、「請求項2に記載の吸収体」と整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであることは明らかである。

(5)訂正事項4について
訂正事項4は、請求項1の削除に伴い、本件訂正前の請求項6で「請求項1から5のいずれか一項に記載の吸収体」としていたものを、「請求項2から5のいずれか一項に記載の吸収体」と整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであることは明らかである。

3.小括
したがって、訂正事項1〜4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正後の請求項1、〔2−7〕について訂正を認める。


第3 特許異議の申立てについて
1.本件特許発明
上記のとおり、本件訂正請求が認められるから、本件特許の請求項2〜6に係る発明(以下「本件発明2」等といい、また、本件発明2〜6を「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項2〜6に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項2】
不織布で形成され、液体を透過する基材と、
前記基材の表面に配置され、高吸収性重合体であるSAPの粒子からなる上部SAP層と、
前記基材の裏面に配置され、高吸収性重合体であるSAPの粒子からなる下部SAP層と、
を備え、
前記上部SAP層は、前記下部SAP層よりもSAPの量が少なく、
前記上部SAP層は、前記下部SAP層よりも液体透過性が大きく、
前記上部SAP層は、前記基材の幅方向中央部に沿って該幅方向両側に配置され、該基材の長手方向に延在しており、
前記基材の表面側には、前記幅方向中央部に、且つ、両側の前記上部SAP層に沿うように溝が形成されている、
吸収体。
【請求項3】
前記基材の表面を覆うように配置された第1不織布シートと、
前記基材の裏面を覆うように配置された第2不織布シートと、
を備える、請求項2に記載の吸収体。
【請求項4】
前記基材、前記上部SAP層、前記下部SAP層、前記第1不織布シート及び前記第2不織布シートを含んで構成される吸収性複合体の外周を被覆するコアラップシート
を備える、請求項3に記載の吸収体。
【請求項5】
前記コアラップシート、前記第1不織布シート及び前記基材を圧縮して形成された圧搾溝
を備える、請求項4に記載の吸収体。
【請求項6】
着用者の排出した液体を吸収する吸収性物品であって、
液不透過性のバックシートと、
前記バックシートに接合される液透過性のトップシートと、
前記バックシートと前記トップシートとの間に配置された請求項2から5のいずれか一項に記載の吸収体と、
を備える、吸収性物品。
【請求項7】
前記トップシートから前記吸収体の基材の一部を圧縮して形成された圧搾溝
を備える、請求項6に記載の吸収性物品。」

2.取消理由の概要
本件発明に対して、特許権者に通知した令和3年3月30日付け取消理由(決定の予告)の概要は以下のとおりである。
理由1)本件特許は、特許請求の範囲の記載が、以下(1)及び(2)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
理由2)請求項1、3、6に係る発明は、以下(3)の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由3)請求項1、3〜7に係る発明は、以下(3)の引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(1)明確性に係る取消理由
本件特許明細書の記載をみると、上部SAP層の液体透過性及び下部SAP層の液体透過性は、いずれも、上部SAP層と下部SAP層を構成するSAP自体の液体透過性を測定し、評価しているに過ぎず、基材の表面に配置された上部SAP層としての液体透過性、及び基材の裏面に配置された下部SAP層としての液体透過性を測定し、評価しているものではないから、本件発明の、「前記上部SAP層は、前記下部SAP層よりも液体透過性が大きい」との事項は明確でない。

(2)サポート要件に係る取消理由
上部SAP層と下部SAP層に、それぞれ、どの種類のSAPを、どの程度の量、配置するのか、それによって、上部SAP層と下部SAP層の液体透過性がどの程度になるのか、具体的な実施例は一つも示されておらず、請求項1に特定される吸収体とすることにより、「液体の漏れと逆戻りを抑制し得る技術を提供すること」(【0005】)という課題を解決し得ると認識することができないから、本件発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。

(3)新規性進歩性に係る取消理由
申立人1の提出した甲第1号証〜甲第4号証を、それぞれ「甲1−1」〜「甲1−4」といい、申立人2の提出した甲第1号証〜甲第7号証を、それぞれ「甲2−1」〜「甲2−7」といい、申立人3の提出した甲第1号証〜甲第10号証を、それぞれ「甲3−1」〜「甲3−10」という。
引用文献1:国際公開第2018/155591号(甲2−1)
引用文献2:特開2018−645号公報(甲1−3)
引用文献3:特開2017−192714号公報(甲2−6)
引用文献4:特開2001−46435号公報(甲3−7)
引用文献5:特表2018−502627号公報(甲3−8)
引用文献6:特開2013−252331号公報(甲3−9)
引用文献7:特開2012−179284号公報(甲1−4)
引用文献8:特開2016−189852号公報(甲3−5)
引用文献9:特開2015−198798号公報(甲3−10)

3.取消理由(決定の予告)についての判断
(1)明確性要件に係る取消理由について
本件発明2には、「前記基材の表面に配置され、高吸収性重合体であるSAPの粒子からなる上部SAP層と、前記基材の裏面に配置され、高吸収性重合体であるSAPの粒子からなる下部SAP層と、」を備え、その「上部SAP層」及び「下部SAP層」は、「前記上部SAP層は、前記下部SAP層よりもSAPの量が少なく」とされ、そのような「上部SAP層」及び「下部SAP層」は、「前記上部SPA層は、前記下部SAP層よりも液体透過性が大きく」なると記載されており、本件発明は明確である。

(2)サポート要件に係る取消理由について
ア 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定される要件(サポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。以下、本件特許の特許請求の範囲の記載について検討する。
イ 特許請求の範囲の請求項2には、次のように記載されている。
「不織布で形成され、液体を透過する基材と、
前記基材の表面に配置され、高吸収性重合体であるSAPの粒子からなる上部SAP層と、
前記基材の裏面に配置され、高吸収性重合体であるSAPの粒子からなる下部SAP層と、
を備え、
前記上部SAP層は、前記下部SAP層よりもSAPの量が少なく、
前記上部SAP層は、前記下部SAP層よりも液体透過性が大きく、
前記上部SAP層は、前記基材の幅方向中央部に沿って該幅方向両側に配置され、該基材の長手方向に延在しており、
前記基材の表面側には、前記幅方向中央部に、且つ、両側の前記上部SAP層に沿うように溝が形成されている、
吸収体。」
ウ 他方、本件特許の発明の詳細な説明には、次のように記載されている。
本件発明の解決しようとする課題については、
「【0004】
吸収体においては液体を着用者の肌から遠位で保持することが好ましい。しかしながら、SAP粒子を不織布基材に固定させた吸収体において、SAP粒子を着用者の肌から遠位の基材裏面側のみに所定量の液体の吸収保持に必要量なSAPを配置すると、裏面側におけるSAPの密度が高くなりすぎるため、SAPが液体を吸収した後にゲルブロッキングを起こしやすい。よって不織布基材の両面にSAPを配置することが好ましいが、不織布基材表面に配置されたSAPがゲル状になると、当該表面側の液体透過性を低下させて吸収体全体に液体が拡散するのを阻害し液体の漏れを生じさせてしまう。このため、吸収体における不織布基材表面では液体吸収性と液体透過性との両立が求められる。更に、SAPがゲル状になって液体の保持量が低下すると、吸収体が一旦吸収した液体が着用者の肌側に出でしまう逆戻りが生じてしまう。
【0005】
そこで、本発明は、液体の漏れと逆戻りを抑制し得る技術を提供することを目的とする。」と記載されている。
また、その課題を解決する具体的な実施形態について、
「【0020】
吸収体6は、基材61を備えている。基材61は、長方形のシート状に形成されている。基材61には、エアスルー法やニードルパンチ法等で製造された厚さが約1mm〜10mmの嵩高の不織布が用いられる。基材61は、液体を透過して拡散する。
【0021】
吸収体6は、基材61の表面に配置され、高吸収性重合体であるSAP(SuperAbsorbentPolymer)の粒子を含むSAP層62L、62R(「上部SAP層」の一例)を備えている。ここで、吸収体6を吸収性物品に配置した場合に、基材61の表面は肌対向面側に配置され、基材61の裏面は肌対向面側と反対側の肌非対向面側に配置される。SAP層62L、62Rは、基材61の表面に、且つ、基材61の幅方向中央部に沿って幅方向両側に配置され、基材61の長手方向に延在する。なお、基材61の長手方向は、基材61の幅方向と直交する。
【0022】
吸収体6が吸収性物品に配置された場合に、SAP層62Lは当該吸収性物品の着用者の左側に位置し、SAP層62Rは当該吸収性物品の着用者の右側に位置する。SAP層62L、62Rは、複数のSAP粒子が接着剤で基材61の表面に付着されることで形成される。SAP層62L、62R内において、SAP粒子は略均一に配置されている。基材61は、SAP層62L、62Rを保持する。SAP層62L、62Rは、基材61の長手方向全体に亘って延在している。
【0023】
また、吸収体6は、基材61の裏面に配置され、SAPの粒子を含むSAP層63(「下部SAP層」の一例)を備えている。SAP層63は、基材61の裏面の略全域に形成されている。SAP層63は、複数のSAP粒子が接着剤で基材61の表面に付着されることで形成される。SAP層63内において、SAP粒子は略均一に配置されている。基材61は、SAP層63を保持する。吸収体6は、SAP層63を設けることによって、全体としての液体の吸収、保持量を増大させる。なお、基材61内の隙間にSAPの粒子が含まれていてもよい。」
「【0025】
ここで、SAP層62L、62Rの方が、SAP層63よりもSAPの量を少なくする。SAP層における液体吸収量(液体保持量)は、SAPの量に比例する。本実施形態に係る吸収体6は、SAP層62L、63Rよりも大量のSAPを含むSAP層63を備えることで、全体としての液体の吸収、保持量を低下させることがなく液体の漏れを抑制できる。更に、吸収体6は、SAP層62L、62RをSAP層63よりもSAPの量を少なくすることで、吸収性物品に配置された場合に着用者の肌から近位に配置されるSAP層62よりも当該肌から遠位に配置されるSAP層63でより大量の液体を吸収して、保持することができる。これにより、吸収体6は、相対的に大量の尿を着用者の肌から遠位に配置されるSAP層63で保持するので、肌面の濡れ感を抑え、着用感の低下を抑制できる。なお、SAP層におけるSAPの量は、目付けで規定してもよいし、散布量(g)で規定してもよい。」
「【0028】
SAP層62L、62Rは、液体透過性が30(ml/min)以上であるSAPが用いられてもよい。この場合、SAP層62L、62Rは、SAP層63よりも液体透過性が30(ml/min)以上である。なお、SAP層63は、液体透過性が30(ml/min)より小さい。」
「【0030】
本実施形態に係る吸収体6は吸収性物品に配置された場合に、SAP層62L、62Rは肌対向面側に位置し、SAP層63は肌非対向面側に位置する。言い換えると、SAP層63は、SAP層62L、62Rよりも着用者の肌の遠位に配置される。そして吸収体6において、SAP層62L、62Rの方が、SAP層63よりも液体透過性が大きい。このため、吸収体6は、尿を複数回吸収した後においても、着用者の肌に近い方に配置されるSAP層62L、62Rの液体透過性を確保し、基材61の内部やSAP層63に尿が入りこみ易くして、この尿が漏れるのを抑制できる。また、吸収体6は、基材61の表面及び裏面にSAP層を配置しており、所定量の液体の吸収保持に必要量なSAPをSAP層62L、62R、63に分けて配置することができ、SAP層62L、62R、63におけるSAPの密度が高くなりすぎるのを防いで、ゲルブロッキングが起こるのを防ぐことができる。更に、吸収体6は、SAP層62L、62R、63におけるSAPがゲル状になるのを防ぐことができ、SAP層62L、62R、63における液体の吸収保持量の低下を防ぐことで、一旦吸収した液体が着用者の肌側に出でしまう逆戻りを抑制できる。
【0031】
また、基材61の表面側(肌対向面側)において、幅方向中央部にSAPを設けず、幅方向両側にSAP層62L、62Rを配置する。基材61の表面側幅方向中央部は、吸収体6が吸収性物品に配置された場合に、尿道口に対向する位置(以下、「尿道口対向位置」と称する)に配置される。吸収体6において、尿道口対向位置にSAPを設けないことにより、排出された尿を基材61に導入して全体に拡散することができる。なお、基材61の表面側全体にSAP層を形成してもよい。この場合であっても、吸収体6は、着用者の肌に近い方に配置されるSAP層の液体透過性が上記の通り大きいので、基材61の内部やSAP層63に尿が入りこみ易くして、この尿が漏れるのを抑制できる。」と記載されている。
エ 発明の詳細な説明の記載から、上部SAP層は下部SAP層よりもSAPの量が少ないこと(【0025】)、上部SAP層は液体透過性が30(ml/min)以上であり、下部SAP層は、液体透過性が30(ml/min)より小さいこと(【0028】)、着用者の肌に近い方に配置される上部SAP層の液体透過性が下部SAP層の液体透過性よりも大きいことにより、迅速に尿を吸収し尿が漏れるのを抑制でき、肌面の濡れ感を抑え着用感の低下を抑制できること(【0030】)、及び幅方向中央部の尿道口対向位置にSAPを設けないことにより、排出された尿を基材61に導入して全体に拡散することができること(【0031】)が、それぞれ理解できる。
オ 上記のように、本件発明の解決しようとする課題は、上部SAP層のSAPの量を下部SAP層のSAPの量よりも少なくし、上部SAP層の液体透過性を下部SAP層の液体透過性よりも大きくすることで解決し得るものといえるから、上部SAP層と下部SAP層に配置されるSAPの種類及び量について、本件発明に特定されることを必要とするものとはいえない。

(3)引用文献1を主引用例とする新規性進歩性に係る取消理由について
ア 引用文献1の記載事項、引用文献1に記載された発明
引用文献1には、次のように記載されている。
「[0026] 〔1〕用語の定義
〔1−1〕「吸水性樹脂」
本発明における「吸水性樹脂」とは、水膨潤性水不溶性の高分子ゲル化剤を指し、以下の物性を満たすものをいう。即ち、「水膨潤性」として、ERT441.2−02で規定されるCRCが5g/g以上、かつ、「水不溶性」として、ERT470.2−02で規定されるExtが50質量%以下の物性を満たす高分子ゲル化剤を指す。
[0027] 上記吸水性樹脂は、その用途に応じて適宜、設計が可能であり、特に限定されないが、カルボキシル基を有する不飽和単量体を架橋重合させた親水性架橋重合体であることが好ましい。また、全量(100質量%)が重合体である形態に限定されず、上記物性(CRC、Ext)を満足する範囲内で、添加剤等を含んだ吸水性樹脂組成物であってもよい。
[0028] さらに、本発明における吸水性樹脂は、最終製品に限らず、吸水性樹脂の製造工程における中間体(例えば、重合後の含水ゲル状架橋重合体や乾燥後の乾燥重合体、表面架橋前の吸水性樹脂粉末等)を指す場合もあり、上記吸水性樹脂組成物と合わせて、これら全てを包括して「吸水性樹脂」と総称する。なお、吸水性樹脂の形態として、シート状、繊維状、フィルム状、粒子状、ゲル状等が挙げられるが、本発明では粒子状の吸水性樹脂が好ましい。
[0029] 〔1−2〕「粒子状吸水剤」
本明細書において、吸水剤とは、吸水性樹脂を主成分として含む、水性液の吸収ゲル化剤を意味する。本明細書において粒子状吸水剤とは、粒子状(別称;粉末状)の吸水剤を意味し、一粒の粒子状吸水剤であっても、複数個の粒子状吸水剤の集合体であっても粒子状吸水剤と称する。「粒子状」とは、粒子の形態を有することを意味し、粒子とは、測定可能な大きさを持つ、固体又は液体の粒状小物体(JIS工業用語大辞典第4版、2002頁)をいう。なお、本明細書において、粒子状吸水剤を単に吸水剤と称する場合もある。」
「[0050] 〔1−6〕「通液性」
本発明における粒子状吸水剤又は吸水性樹脂の「通液性」とは、荷重下又は無荷重下での膨潤ゲルの粒子間を通過する液の流れ性のことをいい、代表的な測定方法として、SFC(Saline Flow Conductivity/食塩水流れ誘導性)、又はGBP(Gel Bed Permeablity)がある。
[0051] 「SFC」は、2.07kPa荷重下での粒子状吸水剤又は吸水性樹脂に対する0.69質量%塩化ナトリウム水溶液の通液性をいい、特許文献15(米国特許第5669894号)に開示されるSFC試験方法に準拠して測定される。」
「[0629] その後、比較製造例1と同様の操作を行うことによって、比較粒子状吸水剤(3)を得た。表3〜5に比較粒子状吸水剤(3)の物性を示した。
[表3−1]


「[表3−3]


「[0656] [実施例8]
ポリプロピレン製不織布(2)(中間基材に相当する。目付量:50.6g/m2。厚みのあるもの。厚さは無荷重下で約4〜6mm程度)の表面に、粒子状吸水剤(7)(第2粒子状吸水剤に相当する)を、2.10g(散布量:164g/m2)均一に散布した。
[0657] 次に、縦8cm、横16cmに切断したパルプ繊維製不織布(1)(第2基材に相当する。目付量:42g/m2)の表面に、スチレンブタジエンゴムを含む接着剤(スプレーのり77、スリーエムジャパン株式会社製)を、0.1〜0.2g散布した(散布量:7.8〜15.6g/m2)。
[0658] 次に、ポリプロピレン製不織布(2)の粒子状吸水剤を散布した面とパルプ繊維製不織布(1)の接着剤を散布した面が対合するように(接触するように)重ね、加圧圧着した。
[0659] 次に、上記粒子状吸水剤と面していない側のポリプロピレン製不織布(2)の表面に、粒子状吸水剤(6)(第1粒子状吸水剤に相当する)を、0.700g(散布量:55g/m2)均一に散布した。
[0660] さらにその上に、スチレンブタジエンゴムを含む接着剤(スプレーのり77、スリーエムジャパン株式会社製)を0.1〜0.2g(散布量:7.8〜15.6g/m2)散布したパルプ繊維製不織布(1)(第1基材に相当する。目付量:15g/m2)を、粒子状吸水剤を散布した面と接着剤を散布した面が対合するように(接触するように)重ね、加圧圧着した。このようにして、吸水性シート(8)を得た。
[0661] なお、本実施例で使用したパルプ繊維製不織布(1)およびポリプロピレン製不織布(2)は、いずれも透水性である。」
「[0665] [実施例11]
実施例8と同様の操作を、第1粒子状吸水剤として比較粒子状吸水剤(1)を、第2粒子状吸水剤として粒子状吸水剤(7)を用いて行った。このようにして、吸水性シート(11)を得た。得られた吸水性シート(11)の吸収体評価(液吸収速度及び逆戻り量の測定)を行い、表6−3にその結果を示した。
[0666] [実施例12]
実施例8と同様の操作を、第1粒子状吸水剤として粒子状吸水剤(23)を、第2粒子状吸水剤として粒子状吸水剤(3)を用いて行った。このようにして、吸水性シート(12)を得た。得られた吸水性シート(12)の吸収体評価(液吸収速度及び逆戻り量の測定)を行い、表6−3にその結果を示した。」

上記記載からみて、引用文献1には、次の「引用発明1」が記載されている。
「中間基材としての透水性のポリプロピレン製不織布と、
ポリプロピレン製不織布の表面に散布された第1粒子状吸収剤と、
ポリプロピレン製不織布の裏面に散布された第2粒子状吸水剤と、を備え、
第1粒子状吸収剤及び第2粒子状吸水剤の散布量はそれぞれ、55g/m2及び164g/m2であり、
第1粒子状吸収剤及び第2粒子状吸収剤の通液性として、SFC(Saline Flow Conductivity/食塩水流れ誘導性)の値がそれぞれ、12及び5(第1粒子状吸収剤が粒子状吸収剤(6)であり、第2粒子状吸収剤が粒子状吸収剤(7)である実施例8)、13及び6(第1粒子状吸収剤が比較粒子状吸収剤(1)であり、第2粒子状吸収剤が粒子状吸収剤(7)である実施例11)、又は20及び6(第1粒子状吸収剤が粒子状吸収剤(23)であり、第2粒子状吸収剤が粒子状吸収剤(3)である実施例12)であり、
ポリプロピレン製不織布の第1粒子状吸収剤を散布した面にパルプ繊維製不織布が重ねられて加熱圧着され、
ポリプロピレン製不織布の第2粒子状吸収剤を散布した面にパルプ繊維製不織布が重ねられて加熱圧着されている、
吸水性シート。」

イ 本件発明2について
(ア)本件発明2と引用発明1を対比する。
引用発明1の「中間基材としての透水性のポリプロピレン製不織布」及び「吸水性シート」は、それぞれ本件発明2の「不織布で形成され、液体を透過する基材」及び「吸収体」に相当する。
また、引用文献1の段落[0029]には、「本明細書において、吸水剤とは、吸水性樹脂を主成分として含む、水性液の吸収ゲル化剤を意味する。本明細書において粒子状吸収剤とは、粒子状(別称;粉末状)の吸収剤を意味し、」と記載され、段落[0026]には、「本発明における「吸水性樹脂」とは、水膨潤性水不溶性の高分子ゲル化剤を指し」と記載され、段落[0027]には、「上記吸水性樹脂は、その用途に応じて適宜、設計が可能であり、特に限定されないが、カルボキシル基を有する不飽和単量体を架橋重合させた親水性架橋重合体であることが好ましい。」と記載されているから、引用発明1の「第1粒子状吸収剤」及び「第2粒子状吸収剤」は、本件発明2の「高吸収性重合体であるSAPの粒子」に相当する。
そして、引用発明1において、ポリプロピレン製不織布の表面に第1粒子状吸収剤が散布されることにより、ポリプロピレン製不織布の表面に第1粒子状吸収剤の層が形成され、ポリプロピレン製不織布の裏面に第2粒子状吸収剤が散布されることにより、ポリプロピレン製不織布の裏面に第2粒子状吸収剤の層が形成されることは明らかであるから、引用発明1において、「吸水性シート」が、「ポリプロピレン製不織布の表面に散布された第1粒子状吸収剤と、ポリプロピレン製不織布の裏面に散布された第2粒子状吸水剤と、を備え」る点は、本件発明2の、「前記基材の表面に配置され、高吸収性重合体であるSAPの粒子からなる上部SAP層と、前記基材の裏面に配置され、高吸収性重合体であるSAPの粒子からなる下部SAP層と、を備え」る点に相当する。
また、引用発明1において「第1粒子状吸収剤及び第2粒子状吸水剤の散布量はそれぞれ、55g/m2及び164g/m2であ」る点は、第1粒子状吸収剤の散布量が第2粒子状吸水剤の散布量よりも少ないから、本件発明2の「前記上部SAP層は、前記下部SAP層よりもSAPの量が少な」い点に相当する。
また、引用発明1の「通液性」は、引用文献1の[0050]及び[0051]を参照すると、引用発明1の「通液性」を示すSFCは、20.7kPa荷重下での粒子状吸水剤又は吸水性樹脂に対する0.69質量%の塩化ナトリウム水溶液の通液性をいい、引用発明1の「第1粒子状吸収剤及び第2粒子状吸収剤の通液性として、SFC(Saline Flow Conductivity/食塩水流れ誘導性)の値がそれぞれ、12及び5(第1粒子状吸収剤が粒子状吸収剤(6)であり、第2粒子状吸収剤が粒子状吸収剤(7)である実施例8)、13及び6(第1粒子状吸収剤が比較粒子状吸収剤(1)であり、第2粒子状吸収剤が粒子状吸収剤(7)である実施例11)、又は20及び6(第1粒子状吸収剤が粒子状吸収剤(23)であり、第2粒子状吸収剤が粒子状吸収剤(3)である実施例12)であ」ることは、本件発明2の「前記上部SAP層は、前記下部SAP層よりも液体透過性が大き」いことと、「上部SAP層のほうが、下部SAP層よりも液体の通液性が大きい」という限りで一致する。
そうすると、本件発明2と引用発明1とは、
「不織布で形成され、液体を透過する基材と、
前記基材の表面に配置され、高吸収性重合体であるSAPの粒子からなる上部SAP層と、
前記基材の裏面に配置され、高吸収性重合体であるSAPの粒子からなる下部SAP層と、
を備え、
前記上部SAP層は、前記下部SAP層よりもSAPの量が少なく、
前記上部SAP層のほうが、前記下部SAP層よりも液体の通液性が大きい
吸収体。」
で一致し、次の<相違点1>及び<相違点2>で相違する。
<相違点1>
「上部SAP層のほうが、下部SAP層よりも液体の通液性が大きい」ことに関して、本件発明2は、「前記上部SAP層は、前記下部SAP層よりも液体透過性が大き」いのに対して、引用発明1は、「第1粒子状吸収剤及び第2粒子状吸収剤の通液性として、SFC(Saline Flow Conductivity/食塩水流れ誘導性)の値がそれぞれ、12及び5(第1粒子状吸収剤が粒子状吸収剤(6)であり、第2粒子状吸収剤が粒子状吸収剤(7)である実施例8)、13及び6(第1粒子状吸収剤が比較粒子状吸収剤(1)であり、第2粒子状吸収剤が粒子状吸収剤(7)である実施例11)、又は20及び6(第1粒子状吸収剤が粒子状吸収剤(23)であり、第2粒子状吸収剤が粒子状吸収剤(3)である実施例12)であ」る点。
<相違点2>
本件発明2は、「前記上部SAP層は、前記基材の幅方向中央部に沿って該幅方向両側に配置され、該基材の長手方向に延在しており、前記基材の表面側には、前記幅方向中央部に、且つ、両側の前記上部SAP層に沿うように溝が形成されている」のに対し、引用発明1は、そのように特定されていない点。
(イ)上記<相違点2>について検討する。
引用発明1に係る引用文献1には、上部SAP層を、中間基材としての透水性のポリプロピレン製不織布の幅方向中央部に沿って該幅方向両側に配置し、該基材の長手方向に延在させ、前記基材の表面側には、前記幅方向中央部に、且つ、両側の前記上部SAP層に沿うように溝を形成することを示唆する記載はない。
(ウ)申立人3は、令和3年7月8日の意見書で、「前記上部SAP層は、前記基材の幅方向中央部に沿って該幅方向両側に配置され、該基材の長手方向に延在している」という構成は、参考資料1〜13にも記載されている旨主張する(意見書6〜11頁)
しかし、参考資料1(再公表特許WO01/089439号)には、第1不織布2に吸水性樹脂粉末非存在領域としての中間領域2bに沿って、両側に吸水性樹脂粉末3を配置したことが記載されているものの、この参考資料1(20頁25〜27行)に「吸水性樹脂粉末3の保持効果の高い第2ホットメルト接着剤層S2を下側に、第1不織布2を着用者側にして使い捨て吸収性物品に組み込むことが好ましい。」と記載されるように、中間領域2bの両側の吸水性樹脂粉末3の層は、人の肌から遠い側に配置される本件発明2の「下部SAP層」に該当するものであるから、参考資料1には、「前記上部SAP層は、前記基材の幅方向中央部に沿って該幅方向両側に配置され、該基材の長手方向に延在している」という構成は記載されていない。
同様に、同構成は参考資料2〜13にも記載されておらず、申立人3の上記主張は採用できない。
(エ)そして、本件発明2の上記<相違点2>に係る構成は、申立人1、申立人2及び申立人3が提出した他の証拠にも、記載ないし示唆がされておらず、引用発明1に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。
(オ)よって、本件発明2は、引用発明1ではなく、また、<相違点1>について検討するまでもなく、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

ウ 本件発明3〜7について
本件発明3〜7は、本件発明2の発明特定事項を全て備えるものであるところ、本件発明2は、引用発明1ではなく、また、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明3、6は、引用発明1ではなく、また、本件発明3〜7は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

4.取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)新規性進歩性について
ア 申立人1による、請求項1に係る発明に対する、国際公開第2013/99634号(甲1−1)に基づく新規性に係る理由(特許異議申立書(1)19〜21頁)

イ 申立人1による、請求項1〜7に係る発明に対する、甲1−1に記載された発明、特開2015−150056号公報(甲1−2)に記載された事項、引用文献2(甲1−3)に記載された事項及び引用文献7(甲1−4)に記載された事項に基づく進歩性に係る理由(特許異議申立書(1)21〜29頁)

ウ 申立人2による、請求項2〜7に係る発明に対する、引用文献1(甲2−1)に記載された発明、特開2015-150056号公報(甲2−3)に記載された事項、特開2015-150057号公報(甲2−4)に記載された事項、特開2015-150059号公報(甲2-5)に記載された事項、引用文献3(甲2-6)に記載された事項、及び特開2015-213643号公報(甲2-7)に記載された事項に基づく進歩性に係る理由(特許異議申立書(2)13〜18頁)

エ 申立人3による、請求項1〜7に係る発明に対する、再公表特許WO2013/99634(甲3−1)に記載された発明及び特開2007−144101号公報(甲3−2)に記載された事項、特開平11−286611号公報(甲3−3)に記載された事項、特表2010−532204号公報(甲3−4)に記載された事項、引用文献8(甲3−5)に記載された事項、特開2015−188624号公報(甲3−6)に記載された事項、引用文献4(甲3−7)に記載された事項、引用文献5(甲3−8)に記載された事項、引用文献6(甲3−9)に記載された事項、引用文献9(甲3−10)に記載された事項に基づく進歩性に係る理由(特許異議申立書(3)26〜37頁)

オ 上記(1)ア、イ及びエにおける請求項1について
本件訂正により、本件訂正前の請求項1に係る発明は削除されたため、本申立理由が対象とする請求項はない。

カ 上記(1)イ及びウにおける請求項2〜7について
申立人1及び申立人2は、特開2015−150056号公報(甲1−2、甲2−3)には、第1吸収体11は、吸収性積層体の幅方向中央部に沿って該幅方向両側に配置され、該吸収性積層体の長手方向に延在しているものが記載され、特開2015−150057号公報(甲2−4)及び特開2015−150059号公報(甲2−5)にも同様の構成のものが記載されている旨主張する(特許異議申立書(1)21〜23頁、特許異議申立書(2)13〜14頁)。
しかし、甲1−2又は甲2−3の第1吸収体は、「第1吸収体11は、複数層のシート部材12を含み、シート部材12の間に吸水性樹脂13を有しパルプ繊維を有しないように構成され、前後方向yに延びる開口18を有する」(甲1−2又は甲2−3の【0077】)ものである。
一方、引用発明1は、「ポリプロピレン製不織布の第1粒子状吸収剤を散布した面にパルプ繊維製不織布が重ねられて加熱圧着され、ポリプロピレン製不織布の第2粒子状吸収剤を散布した面にパルプ繊維製不織布が重ねられて加熱圧着されている」ものであって、甲1−2又は甲2−3に記載されたような「複数層のシート部材12を含み、シート部材12の間に吸水性樹脂13を有しパルプ繊維を有しないように構成され」たものではなく、引用発明1の「第1粒子状吸収剤を散布した」「パルプ繊維製不織布」と甲1−2又は甲2−3に記載された「第1吸収体11」とは構成が異なるため、引用発明1に甲1−2又は甲2−3に記載された事項を適用する動機付けはない。
また、本件発明2の「上部SAP層」は、「高吸収性重合体であるSAPの粒子からなる」ものであって、甲1−2又は甲2−3に記載された事項は、上記<相違点1>に係る本件発明2の構成とは異なるものであるから、仮に、引用発明1に甲1−2又は甲2−3に記載された事項を適用できたとしても、上記<相違点2>に係る本件発明2の構成とすることを想到することはできない。

キ 上記(1)エにおける請求項2〜7について
申立人3は、特表2010−532204号公報(甲3−4)のY字形状の貫通孔8が形成された上側吸収層のSAPの配置が、本件発明2の「上部SAP層は、基材の幅方向中央部に沿って該幅方向両側に配置され、該基材の長手方向に延在している」ことに該当する旨主張する(特許異議申立書(3)30頁)。
しかし、甲3−4のY字形状の貫通孔8は、甲3−4に「用品の前方および中間部分に所望のお椀形状を形成するために、孔8のY字形状は、Y字の分岐脚部8b,8cの間の角度を変更することによって、かつY字の他の脚部の相対的な長さを変更することによって変更可能である。」(【0039】)、「上述したように、孔8の脚部は、吸収コアのための折り曲げ線として機能する。それによって、使用時に使用者の大腿部の間に配置される用品の中間部分は、脚部8aの縁部の周囲の折り曲げの角度が変化することのみによって、吸収コアが変形することなく、大腿部の動きに容易に追従するようになる。」(【0040】)と記載されるように、折り曲げ線として機能させるために設けられるものであって、本件発明2のように、基材の幅方向中央部にSAPを設けず、幅方向両側にSAP層を配置して、尿道口対向位置にSAPを設けないことにより、排出された尿を基材に導入して全体に拡散することを意図したものではない。
そのため、甲3−4のY字形状の貫通孔8が形成された上側吸収層のSAPの配置は、基材の幅方向中央部の尿道口対向位置にSAPを設けず、幅方向両側にSAP層を配置したものではないから、引用発明1及び甲3−4の上記構造からは、本件発明2の「上部SAP層は、基材の幅方向中央部に沿って該幅方向両側に配置され、該基材の長手方向に延在している」ことを想到することはできない。

(2)実施可能要件について
申立人1は、「どのような態様であれば、上部SAP層の液体透過性を下部SAP層の液体透過性よりも大きくなるよう調整でき、これによって本件特許発明の課題を解決し得るのか、何ら本件特許明細書には開示も示唆もない」から、本件発明は、発明の詳細な説明に基づいて実施可能ではない旨主張する(特許異議申立書(1)29〜32頁)。
しかし、上記3.(2)で述べたとおり、本件特許明細書の【0025】には、「SAP層62L、62Rの方が、SAP層63よりもSAPの量を少なくする。SAP層における液体吸収量(液体保持量)は、SAPの量に比例する。本実施形態に係る吸収体6は、SAP層62L、63Rよりも大量のSAPを含むSAP層63を備えることで、全体としての液体の吸収、保持量を低下させることがなく液体の漏れを抑制できる。」と記載されており、上部SAP層のSAPの量を、下部SAP層のSAPの量よりも少なくすることで上部SAP層の液体透過性が下部SAP層の液体透過性よりも大きくなるよう調整することができることが開示されている。

(3)サポート要件について
申立人3は、上部SAP層について、発明の詳細な説明では、幅方向中央部にSAPを設けず、幅方向両側にSAP層62L、62Rを配置した構成が示されているが、「幅方向中央部にSAPを設ける」構成は記載されていないため、請求項2に記載の発明は、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えている旨主張する(特許異議申立書(3)37〜38頁)。
しかし、請求項2の、「前記上部SAP層は、前記基材の幅方向中央部に沿って該幅方向両側に配置され、該基材の長手方向に延在しており、前記基材の表面側には、前記幅方向中央部に、且つ、両側の前記上部SAP層に沿うように溝が形成されている」の記載から、「上部SAP層」は「基材」の「幅方向中央部」ではなく、「幅方向両側」に配置されるものであることは明らかである。

(4)明確性について
申立人3は、請求項2は、その文言上、幅方向中央部にSAPを設けるものも含むため、幅方向中央部にSAPが設けられているのか否かが不明確である旨主張する(特許異議申立書(3)38〜39頁)。
しかし、請求項2の、「前記上部SAP層は、前記基材の幅方向中央部に沿って該幅方向両側に配置され、該基材の長手方向に延在しており、前記基材の表面側には、前記幅方向中央部に、且つ、両側の前記上部SAP層に沿うように溝が形成されている」の記載から、「上部SAP層」は「基材」の「幅方向中央部」ではなく、「幅方向両側」に配置されるものであり、また、「基材」の「幅方向中央部」に設けられているのは溝である、すなわち、SAPは、基材の幅方向中央部設けられるものでないことは明確である。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本件発明2〜7に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件発明2〜7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正請求に係る訂正により、請求項1に係る特許は削除されたため、請求項1に対して申立人がした特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第120条の8第1項で準用する特許法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】
不織布で形成され、液体を透過する基材と、
前記基材の表面に配置され、高吸収性重合体であるSAPの粒子からなる上部SAP層と、
前記基材の裏面に配置され、高吸収性重合体であるSAPの粒子からなる下部SAP層と、
を備え、
前記上部SAP層は、前記下部SAP層よりもSAPの量が少なく、
前記上部SAP層は、前記下部SAP層よりも液体透過性が大きく、
前記上部SAP層は、前記基材の幅方向中央部に沿って該幅方向両側に配置され、該基材の長手方向に延在しており、
前記基材の表面側には、前記幅方向中央部に、且つ、両側の前記上部SAP層に沿うように溝が形成されている、
吸収体。
【請求項3】
前記基材の表面を覆うように配置された第1不織布シートと、
前記基材の裏面を覆うように配置された第2不織布シートと、
を備える、請求項2に記載の吸収体。
【請求項4】
前記基材、前記上部SAP層、前記下部SAP層、前記第1不織布シート及び前記第2不織布シートを含んで構成される吸収性複合体の外周を被覆するコアラップシート
を備える、請求項3に記載の吸収体。
【請求項5】
前記コアラップシート、前記第1不織布シート及び前記基材を圧縮して形成された圧搾溝
を備える、請求項4に記載の吸収体。
【請求項6】
着用者の排出した液体を吸収する吸収性物品であって、
液不透過性のバックシートと、
前記バックシートに接合される液透過性のトップシートと、
前記バックシートと前記トップシートとの間に配置された請求項2から5のいずれか一項に記載の吸収体と、
を備える、吸収性物品。
【請求項7】
前記トップシートから前記吸収体の基材の一部を圧縮して形成された圧搾溝
を備える、請求項6に記載の吸収性物品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-12-10 
出願番号 P2019-028700
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A61F)
P 1 651・ 113- YAA (A61F)
P 1 651・ 121- YAA (A61F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 村山 達也
藤井 眞吾
登録日 2019-12-20 
登録番号 6631732
権利者 王子ホールディングス株式会社
発明の名称 吸収体及びそれを備える吸収性物品  
代理人 特許業務法人秀和特許事務所  
代理人 特許業務法人秀和特許事務所  
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