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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  H01M
審判 全部申し立て 特174条1項  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
管理番号 1383226
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-07-14 
確定日 2022-02-09 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6630620号発明「蓄電デバイス用セパレータ、蓄電デバイス及びリチウムイオン二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6630620号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜9〕について訂正することを認める。 特許第6630620号の請求項1〜9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6630620号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜8に係る特許についての出願は、平成26年 1月29日に出願された特願2014−14829号の一部を平成28年 4月22日に新たな特許出願とした特願2016−86501号であって、令和 1年12月13日にその特許権の設定登録がなされ、令和2年 1月15日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和 2年 7月14日に、請求項1〜8(全請求項)に係る特許に対し、特許異議申立人である星正美(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、以下のとおりである。

令和 2年 7月14日 :特許異議の申立て
11月 9日付け:取消理由通知
3年 1月12日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の
提出
3月12日 :申立人による意見書の提出
6月28日付け:取消理由通知(決定の予告)
8月30日 :特許権者による意見書及び訂正請求書
(以下「本件訂正請求書」という。)の
提出
10月15日 :申立人による意見書の提出

なお、令和 3年 1月12日提出の訂正請求書に基づく訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

第2 訂正請求について
1 訂正請求の趣旨及び訂正の内容
(1)訂正請求の趣旨
本件訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の請求は、本件特許の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜9について訂正することを求めるものであって、その内容は以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を表す。

(2)本件訂正の内容
ア 訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーと、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーとの混合比が、質量基準で50:50〜5:95である、蓄電デバイス用セパレータ。」と記載されているのを、「前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーと、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーとの混合比が、質量基準で50:50〜5:95であり、前記熱可塑性ポリマーを含有する層が、前記基材の一面当たりの表面積に対して80%以下の割合で、当該基材の表面上に存在する、蓄電デバイス用セパレータ。」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項8も同様に訂正する。

イ 訂正事項2
本件訂正前の請求項2に「下記(1)及び(2)の少なくとも一方の剥離強度が、4mN/mm以上である、請求項1に記載の蓄電デバイス用セパレータ。(1)アルミニウム箔(冨士加工紙(株)製アルミニウム箔、厚さ:20μm)に、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを2:3の比率(体積比)にて混合した電解液に濡らした前記蓄電デバイス用セパレータを、前記熱可塑性ポリマーを含有する層の側から重ね合わせ、それらを重ね合わせた方向に80℃、10MPaの圧力で2分間加圧した後、前記アルミニウム箔と前記蓄電デバイス用セパレータとの間を引張速度50mm/分で剥離した際の90°剥離強度。(2)アルミニウム箔(冨士加工紙(株)製アルミニウム箔、厚さ:20μm)に、前記蓄電デバイス用セパレータを、前記熱可塑性ポリマーを含有する層の側から重ね合わせ、それらを重ね合わせた方向に80℃、10MPaの圧力で2分間加圧した後、前記アルミニウム箔と前記蓄電デバイス用セパレータとの間を引張速度50mm/分で剥離した際の90°剥離強度。」と記載されているのを、「ポリオレフィン微多孔膜からなる基材と、その基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された、電極と接着する熱可塑性ポリマーを含有する層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、前記熱可塑性ポリマーがガラス転移温度を少なくとも2つ有しており、前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃未満の領域に存在し、前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃以上の領域に存在し、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、芳香族ビニル化合物単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する第1の共重合体を含み、前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体を含み、前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーと、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーとの混合比が、質量基準で50:50〜5:95であり、下記(1)及び(2)の少なくとも一方の剥離強度が、4mN/mm以上であり、下記条件(i)及び(ii)の少なくとも一方を満たす、蓄電デバイス用セパレータ。(1)アルミニウム箔(冨士加工紙(株)製アルミニウム箔、厚さ:20μm)に、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを2:3の比率(体積比)にて混合した電解液に濡らした前記蓄電デバイス用セパレータを、前記熱可塑性ポリマーを含有する層の側から重ね合わせ、それらを重ね合わせた方向に80℃、10MPaの圧力で2分間加圧した後、前記アルミニウム箔と前記蓄電デバイス用セパレータとの間を引張速度50mm/分で剥離した際の90°剥離強度。(2)アルミニウム箔(冨士加工紙(株)製アルミニウム箔、厚さ:20μm)に、前記蓄電デバイス用セパレータを、前記熱可塑性ポリマーを含有する層の側から重ね合わせ、それらを重ね合わせた方向に80℃、10MPaの圧力で2分間加圧した後、前記アルミニウム箔と前記蓄電デバイス用セパレータとの間を引張速度50mm/分で剥離した際の90°剥離強度。条件(i):前記第2の共重合体が、メチルメタクリレート及びブチルアクリレートに由来する単位を含む。条件(ii):前記第2の共重合体がN−メチロールアクリルアミドに由来する単位を含む場合を除く。」に訂正する。
請求項2の記載を引用する請求項8(新たな請求項9)も同様に訂正する。

ウ 訂正事項3
本件訂正前の請求項3に「下記(3)の剥離強度が40mN/mm以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。(3)重ね合わせた20mm×100mmの前記セパレータ2枚と、それらのセパレータを挟んだ2枚のPTFEシートとを備えるサンプルを、温度25℃、圧力10MPaの条件で2分間加圧した後、前記サンプルにおけるセパレータ同士を引張速度50mm/分で剥離した際の90°剥離強度。」と記載されているのを、「ポリオレフィン微多孔膜からなる基材と、その基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された、電極と接着する熱可塑性ポリマーを含有する層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、前記熱可塑性ポリマーがガラス転移温度を少なくとも2つ有しており、前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃未満の領域に存在し、前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃以上の領域に存在し、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、芳香族ビニル化合物単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する第1の共重合体を含み、前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体を含み、前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーと、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーとの混合比が、質量基準で50:50〜5:95であり、下記(3)の剥離強度が40mN/mm以下であり、下記条件(i)及び(ii)の少なくとも一方を満たす、蓄電デバイス用セパレータ。(3)重ね合わせた20mm×100mmの前記セパレータ2枚と、それらのセパレータを挟んだ2枚のPTFEシートとを備えるサンプルを、温度25℃、圧力10MPaの条件で2分間加圧した後、前記サンプルにおけるセパレータ同士を引張速度50mm/分で剥離した際の90°剥離強度。条件(i):前記第2の共重合体が、メチルメタクリレート及びブチルアクリレートに由来する単位を含む。条件(ii):前記第2の共重合体がN−メチロールアクリルアミドに由来する単位を含む場合を除く。」に訂正する。
請求項3の記載を引用する請求項8(新たな請求項9)も同様に訂正する。

エ 訂正事項4
本件訂正前の請求項4に「前記(メタ)アクリル酸エステル単量体が、(メタ)アクリル酸の炭化水素エステルを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。」と記載されているのを、「ポリオレフィン微多孔膜からなる基材と、その基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された、電極と接着する熱可塑性ポリマーを含有する層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、前記熱可塑性ポリマーがガラス転移温度を少なくとも2つ有しており、前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃未満の領域に存在し、前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃以上の領域に存在し、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、芳香族ビニル化合物単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する第1の共重合体を含み、前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体を含み、前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーと、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーとの混合比が、質量基準で50:50〜5:95であり、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体が、(メタ)アクリル酸の炭化水素エステルを含み、前記第2の共重合体が、メチルメタクリレート及びブチルアクリレートに由来する単位を含む、蓄電デバイス用セパレータ。」に訂正する。
請求項4の記載を引用する請求項8(新たな請求項9)も同様に訂正する。

オ 訂正事項5
本件訂正前の請求項5に「前記第1の共重合体が有する、740cm-1〜770cm-1の波数における赤外吸収ピーク強度に対する1720cm-1〜1750cm-1の波数における赤外吸収ピーク強度の比が、1〜18である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。」と記載されているのを、「ポリオレフィン微多孔膜からなる基材と、その基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された、電極と接着する熱可塑性ポリマーを含有する層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、前記熱可塑性ポリマーがガラス転移温度を少なくとも2つ有しており、前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃未満の領域に存在し、前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃以上の領域に存在し、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、芳香族ビニル化合物単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する第1の共重合体を含み、前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体を含み、前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーと、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーとの混合比が、質量基準で50:50〜5:95であり、前記第1の共重合体が有する、740cm-1〜770cm-1の波数における赤外吸収ピーク強度に対する1720cm-1〜1750cm-1の波数における赤外吸収ピーク強度の比が、1〜18であり、前記第1の共重合体が、ガラス転移温度が20℃以上120℃以下の領域に存在する共重合体粒子であり、前記熱可塑性ポリマーを含有する層が、ドット状、格子目状、線状、縞状及び亀甲模様状からなる群より選択される少なくとも1つの形態で、当該基材の表面上に存在する、蓄電デバイス用セパレータ。」に訂正する。
請求項5の記載を引用する請求項8も同様に訂正する。

カ 訂正事項6
本件訂正前の請求項6に「前記第1の共重合体における単量体単位としての前記(メタ)アクリル酸エステル単量体は、炭素原子数が4以上の鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体及びシクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体からなる群より選ばれる1種以上の単量体である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。」と記載されているのを、「ポリオレフィン微多孔膜からなる基材と、その基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された、電極と接着する熱可塑性ポリマーを含有する層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、前記熱可塑性ポリマーがガラス転移温度を少なくとも2つ有しており、前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃未満の領域に存在し、前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃以上の領域に存在し、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、芳香族ビニル化合物単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する第1の共重合体を含み、前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体を含み、前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーと、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーとの混合比が、質量基準で50:50〜5:95であり、前記第1の共重合体における単量体単位としての前記(メタ)アクリル酸エステル単量体は、炭素原子数が4以上の鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体及びシクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体からなる群より選ばれる1種以上の単量体であり、ここで、前記第2の共重合体がN−メチロールアクリルアミドに由来する単位を含む場合を除く、蓄電デバイス用セパレータ。」に訂正する。
請求項6の記載を引用する請求項8(新たな請求項9)も同様に訂正する。

キ 訂正事項7
本件訂正前の請求項7に「前記熱可塑性ポリマーを含有する層の担持量は、固形分として0.05g/m2以上1.50g/m2以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。」と記載されているのを、「ポリオレフィン微多孔膜からなる基材と、その基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された、電極と接着する熱可塑性ポリマーを含有する層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、前記熱可塑性ポリマーがガラス転移温度を少なくとも2つ有しており、前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃未満の領域に存在し、前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃以上の領域に存在し、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、芳香族ビニル化合物単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する第1の共重合体を含み、前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体を含み、前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーと、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーとの混合比が、質量基準で50:50〜5:95であり、前記熱可塑性ポリマーを含有する層の担持量は、固形分として0.05g/m2以上1.50g/m2以下であり、下記条件(i)及び(ii)の少なくとも一方を満たす、蓄電デバイス用セパレータ。条件(i):前記第2の共重合体が、メチルメタクリレート及びブチルアクリレートに由来する単位を含む。条件(ii):前記第2の共重合体がN−メチロールアクリルアミドに由来する単位を含む場合を除く。」に訂正する。
請求項7の記載を引用する請求項8(新たな請求項9)も同様に訂正する。

ク 訂正事項8
本件訂正前の請求項8に「請求項1〜7のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータを備える蓄電デバイス。」とあるうち、請求項1,5を引用するものについて、それらのみに従属する形式に改め、「請求項1又は5に記載の蓄電デバイス用セパレータを備える蓄電デバイス。」に訂正する。

ケ 訂正事項9
本件訂正前の請求項8に「請求項1〜7のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータを備える蓄電デバイス。」とあるうち、請求項2,3,4,6,7を引用するものについて、それらのみに従属する形式に改め、「請求項2,3,4,6及び7のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータを備える蓄電デバイス。」と記載し、新たな請求項9とする。

コ 別の訂正単位とする求めについて
訂正後の請求項2〜7の各々及びそれらを引用する訂正後の請求項8,9について、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正する。

2 本件訂正についての当審の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項1による訂正は、本件訂正前の請求項1における発明特定事項である「熱可塑性ポリマーを含有する層」が、ポリオレフィン微多孔膜からなる基材の「少なくとも一部に形成された」ものであったところ、その「少なくとも一部」について、「基材の一面当たりの表面積に対して80%以下の割合で、当該基材の表面上に存在する」ものに限定して特定する訂正であることから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

新規事項の追加の有無について
本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の段落【0079】には、「ポリマー層が、基材の一面当たりの表面積に対して、80%以下の表面被覆率で基材の表面上に存在する」と記載されているから、訂正事項1は、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
上記アのとおり、訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項2による訂正は、本件訂正前の請求項2において引用していた本件訂正前の請求項1を独立形式に改めるものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正である。
また、訂正事項2による訂正は、本件訂正前の請求項2における発明特定事項である「(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体」について、(i)「メチルメタクリレート及びブチルアクリレートに由来する単位を含む」もの及び/又は(ii)「N−メチロールアクリルアミドに由来する単位を含む場合を除く」ものに限定して特定する訂正であることから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正でもある。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

新規事項の追加の有無について
引用形式を解消して独立形式に改める訂正が新規事項の追加に該当しないことは明らかである。
また、本件明細書の段落【0144】の表1には、水分散体A7、A9、A10として、メチルメタクリレート及びブチルアクリレートに由来する単位を含むものが記載されているから、第2の共重合体を(i)に限定して特定することは、新規事項の追加に該当しない。
さらに、第2の共重合体を(ii)に限定して特定することは、令和 3年 6月28日付け取消理由通知で引用した国際出願番号PCT/JP2013/081715号(国際公開第2014/081035号(甲第1号証))の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明及び国際公開第2013/141140号(甲第3号証)に記載された発明との重なりのみを除くものであるところの、いわゆる「除くクレーム」とする補正であるから、新規事項を追加するものではない。
よって、訂正事項2は、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
上記アのとおり、訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項3による訂正は、本件訂正前の請求項3において引用していた本件訂正前の請求項1を独立形式に改めるものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正である。
また、訂正事項3による訂正は、本件訂正前の請求項3における発明特定事項である「(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体」について、(i)「メチルメタクリレート及びブチルアクリレートに由来する単位を含む」もの及び/又は(ii)「N−メチロールアクリルアミドに由来する単位を含む場合を除く」ものに限定して特定する訂正であることから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正でもある。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

新規事項の追加の有無について
引用形式を解消して独立形式に改める訂正が新規事項の追加に該当しないことは明らかである。
また、本件明細書の段落【0144】の表1には、水分散体A7、A9、A10として、メチルメタクリレート及びブチルアクリレートに由来する単位を含むものが記載されているから、第2の共重合体を(i)に限定して特定することは、新規事項の追加に該当しない。
さらに、第2の共重合体を(ii)に限定して特定することは、令和 3年 6月28日付け取消理由通知で引用した国際出願番号PCT/JP2013/081715号(国際公開第2014/081035号(甲第1号証))の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明及び国際公開第2013/141140号(甲第3号証)に記載された発明との重なりのみを除くものであるところの、いわゆる「除くクレーム」とする補正であるから、新規事項を追加するものではない。
よって、訂正事項3は、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
上記アのとおり、訂正事項3による訂正は、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項4による訂正は、本件訂正前の請求項4において引用していた本件訂正前の請求項1を独立形式に改めるものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正である。
また、訂正事項4による訂正は、本件訂正前の請求項4における発明特定事項である「(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体」について、「メチルメタクリレート及びブチルアクリレートに由来する単位を含む」ものに限定して特定する訂正であることから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正でもある。
よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

新規事項の追加の有無について
引用形式を解消して独立形式に改める訂正が新規事項の追加に該当しないことは明らかである。
また、本件明細書の段落【0144】の表1には、水分散体A7、A9、A10として、メチルメタクリレート及びブチルアクリレートに由来する単位を含むものが記載されているから、第2の共重合体を限定して特定することは、新規事項の追加に該当しない。
よって、訂正事項4は、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
上記アのとおり、訂正事項4による訂正は、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項5による訂正は、本件訂正前の請求項5において引用していた本件訂正前の請求項1を独立形式に改めるものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正である。
また、訂正事項5による訂正は、本件訂正前の請求項5における発明特定事項である「熱可塑性ポリマーを含有する層」について、「ドット状、格子目状、線状、縞状及び亀甲模様状からなる群より選択される少なくとも1つの形態で、当該基材の表面上に存在する」ものに限定して特定する訂正であることから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正でもある。
さらに、訂正事項5による訂正は、本件訂正前の請求項5における発明特定事項である熱可塑性ポリマーに含まれる「第1の共重合体」について、「ガラス転移温度が20℃以上120℃以下の領域に存在する共重合体粒子であ」るものに限定して特定する訂正であることから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正でもある。
よって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

新規事項の追加の有無について
引用形式を解消して独立形式に改める訂正が新規事項の追加に該当しないことは明らかである。
また、本件明細書の段落【0082】には、ポリマー層の基材上での存在形態(パターン)について、「ドット状(例えば図1の(A))、格子目状(例えば図1の(B))、線状(例えば図1の(C))、縞状(例えば図1の(D))、亀甲模様状(例えば図1の(E))等のような平面形状で存在してもよい。」と記載されているから、熱可塑性ポリマーを含有する層を限定して特定することは、新規事項の追加に該当しない。
さらに、本件明細書の段落【0088】には、「用いる熱可塑性ポリマーのガラス転移温度のうち少なくとも1つが20℃以上120℃以下の領域に存在することがより好ましく、更に好ましくは50℃以上120℃以下である。」と記載され、段落【0099】には、「共重合体が共重合体粒子を含み」と記載されているから、熱可塑性ポリマーに含まれる第1の共重合体を限定して特定することは、新規事項の追加に該当しない。
よって、訂正事項5は、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
上記アのとおり、訂正事項5による訂正は、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(6)訂正事項6について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項6による訂正は、本件訂正前の請求項6において引用していた本件訂正前の請求項1を独立形式に改めるものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正である。
また、訂正事項6による訂正は、本件訂正前の請求項6における発明特定事項である「(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体」について、「N−メチロールアクリルアミドに由来する単位を含む場合を除く」ものに限定して特定する訂正であることから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正でもある。
よって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

新規事項の追加の有無について
引用形式を解消して独立形式に改める訂正が新規事項の追加に該当しないことは明らかである。
また、第2の共重合体を限定して特定することは、令和 3年 6月28日付け取消理由通知で引用した国際出願番号PCT/JP2013/081715号(国際公開第2014/081035号(甲第1号証))の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明及び国際公開第2013/141140号(甲第3号証)に記載された発明との重なりのみを除くものであるところの、いわゆる「除くクレーム」とする補正であるから、新規事項を追加するものではない。
よって、訂正事項6は、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
上記アのとおり、訂正事項6による訂正は、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(7)訂正事項7について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項7による訂正は、本件訂正前の請求項7において引用していた本件訂正前の請求項1を独立形式に改めるものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正である。
また、訂正事項7による訂正は、本件訂正前の請求項7における発明特定事項である「(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体」について、(i)「メチルメタクリレート及びブチルアクリレートに由来する単位を含む」もの及び/又は(ii)「N−メチロールアクリルアミドに由来する単位を含む場合を除く」ものに限定して特定する訂正であることから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正でもある。
よって、訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

新規事項の追加の有無について
引用形式を解消して独立形式に改める訂正が新規事項の追加に該当しないことは明らかである。
また、本件明細書の段落【0144】の表1には、水分散体A7、A9、A10として、メチルメタクリレート及びブチルアクリレートに由来する単位を含むものが記載されているから、第2の共重合体を(i)に限定して特定することは、新規事項の追加に該当しない。
さらに、第2の共重合体を(ii)に限定して特定することは、令和 3年 6月28日付け取消理由通知で引用した国際出願番号PCT/JP2013/081715号(国際公開第2014/081035号(甲第1号証))の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明及び国際公開第2013/141140号(甲第3号証)に記載された発明との重なりのみを除くものであるところの、いわゆる「除くクレーム」とする補正であるから、新規事項を追加するものではない。
よって、訂正事項7は、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
上記アのとおり、訂正事項7による訂正は、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(8)訂正事項8について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項8による訂正は、訂正前の請求項8において引用していた本件訂正前の請求項1〜7の一部の請求項間の引用関係を解消し、請求項2、3、4、6、7の記載を引用しないものとし、請求項1、5のみを引用するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正である。
よって、訂正事項8は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

新規事項の追加の有無について
訂正事項8は、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、新規事項を追加するものではない。
よって、訂正事項8は、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
上記アのとおり、訂正事項8による訂正は、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(9)訂正事項9について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項9による訂正は、訂正前の請求項8において引用していた本件訂正前の請求項1〜7の一部の請求項間の引用関係を解消し、請求項1、5の記載を引用しないものとし、請求項2、3、4、6、7のみを引用するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正である。
よって、訂正事項9は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

新規事項の追加の有無について
訂正事項9は、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、新規事項を追加するものではない。
よって、訂正事項9は、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
上記アのとおり、訂正事項9による訂正は、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(10)独立特許要件について
本件特許異議の申立ては、本件訂正前のすべての請求項に対してされているので、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する特許法126条7項に規定する独立特許要件は課されない。

(11)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1〜8について、請求項2〜8は、それぞれ請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、上記訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1〜8は一群の請求項であって、本件訂正は、その一群の請求項について請求がされたものである。

(12)別の訂正単位とする求めについて
特許権者は、訂正後の請求項2〜7の各々及びそれらを引用する訂正後の請求項8、9について、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めている。
しかしながら、訂正後の請求項2〜7は、訂正後の請求項8又は9で引用されるものであるから、訂正後の請求項2〜9を別の訂正単位とすることはできない。

3 小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜9〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
本件訂正は、上記第2で検討したとおり適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜9に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明9」といい、総称して「本件発明」ともいう。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1〜9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
ポリオレフィン微多孔膜からなる基材と、その基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された、電極と接着する熱可塑性ポリマーを含有する層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、
前記熱可塑性ポリマーがガラス転移温度を少なくとも2つ有しており、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃未満の領域に存在し、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃以上の領域に存在し、
前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、芳香族ビニル化合物単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する第1の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーと、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーとの混合比が、質量基準で50:50〜5:95であり、
前記熱可塑性ポリマーを含有する層が、前記基材の一面当たりの表面積に対して80%以下の割合で、当該基材の表面上に存在する、蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項2】
ポリオレフィン微多孔膜からなる基材と、その基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された、電極と接着する熱可塑性ポリマーを含有する層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、
前記熱可塑性ポリマーがガラス転移温度を少なくとも2つ有しており、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃未満の領域に存在し、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃以上の領域に存在し、
前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、芳香族ビニル化合物単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する第1の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーと、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーとの混合比が、質量基準で50:50〜5:95であり、
下記(1)及び(2)の少なくとも一方の剥離強度が、4mN/mm以上であり、
下記条件(i)及び(ii)の少なくとも一方を満たす、蓄電デバイス用セパレータ。
(1)アルミニウム箔(冨士加工紙(株)製アルミニウム箔、厚さ:20μm)に、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを2:3の比率(体積比)にて混合した電解液に濡らした前記蓄電デバイス用セパレータを、前記熱可塑性ポリマーを含有する層の側から重ね合わせ、それらを重ね合わせた方向に80℃、10MPaの圧力で2分間加圧した後、前記アルミニウム箔と前記蓄電デバイス用セパレータとの間を引張速度50mm/分で剥離した際の90°剥離強度。
(2)アルミニウム箔(冨士加工紙(株)製アルミニウム箔、厚さ:20μm)に、前記蓄電デバイス用セパレータを、前記熱可塑性ポリマーを含有する層の側から重ね合わせ、それらを重ね合わせた方向に80℃、10MPaの圧力で2分間加圧した後、前記アルミニウム箔と前記蓄電デバイス用セパレータとの間を引張速度50mm/分で剥離した際の90°剥離強度。
条件(i):前記第2の共重合体が、メチルメタクリレート及びブチルアクリレートに由来する単位を含む。
条件(ii):前記第2の共重合体がN−メチロールアクリルアミドに由来する単位を含む場合を除く。
【請求項3】
ポリオレフィン微多孔膜からなる基材と、その基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された、電極と接着する熱可塑性ポリマーを含有する層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、
前記熱可塑性ポリマーがガラス転移温度を少なくとも2つ有しており、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃未満の領域に存在し、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃以上の領域に存在し、
前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、芳香族ビニル化合物単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する第1の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーと、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーとの混合比が、質量基準で50:50〜5:95であり、
下記(3)の剥離強度が40mN/mm以下であり、
下記条件(i)及び(ii)の少なくとも一方を満たす、蓄電デバイス用セパレータ。
(3)重ね合わせた20mm×100mmの前記セパレータ2枚と、それらのセパレータを挟んだ2枚のPTFEシートとを備えるサンプルを、温度25℃、圧力10MPaの条件で2分間加圧した後、前記サンプルにおけるセパレータ同士を引張速度50mm/分で剥離した際の90°剥離強度。
条件(i):前記第2の共重合体が、メチルメタクリレート及びブチルアクリレートに由来する単位を含む。
条件(ii):前記第2の共重合体がN−メチロールアクリルアミドに由来する単位を含む場合を除く。
【請求項4】
ポリオレフィン微多孔膜からなる基材と、その基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された、電極と接着する熱可塑性ポリマーを含有する層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、
前記熱可塑性ポリマーがガラス転移温度を少なくとも2つ有しており、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃未満の領域に存在し、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃以上の領域に存在し、
前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、芳香族ビニル化合物単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する第1の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーと、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーとの混合比が、質量基準で50:50〜5:95であり、
前記(メタ)アクリル酸エステル単量体が、(メタ)アクリル酸の炭化水素エステルを含み、
前記第2の共重合体が、メチルメタクリレート及びブチルアクリレートに由来する単位を含む、蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項5】
ポリオレフィン微多孔膜からなる基材と、その基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された、電極と接着する熱可塑性ポリマーを含有する層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、
前記熱可塑性ポリマーがガラス転移温度を少なくとも2つ有しており、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃未満の領域に存在し、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃以上の領域に存在し、
前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、芳香族ビニル化合物単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する第1の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーと、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーとの混合比が、質量基準で50:50〜5:95であり、
前記第1の共重合体が有する、740cm-1〜770cm-1の波数における赤外吸収ピーク強度に対する1720cm-1〜1750cm-1の波数における赤外吸収ピーク強度の比が、1〜18であり、
前記第1の共重合体が、ガラス転移温度が20℃以上120℃以下の領域に存在する共重合体粒子であり、
前記熱可塑性ポリマーを含有する層が、ドット状、格子目状、線状、縞状及び亀甲模様状からなる群より選択される少なくとも1つの形態で、当該基材の表面上に存在する、蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項6】
ポリオレフィン微多孔膜からなる基材と、その基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された、電極と接着する熱可塑性ポリマーを含有する層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、
前記熱可塑性ポリマーがガラス転移温度を少なくとも2つ有しており、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃未満の領域に存在し、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃以上の領域に存在し、
前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、芳香族ビニル化合物単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する第1の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーと、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーとの混合比が、質量基準で50:50〜5:95であり、
前記第1の共重合体における単量体単位としての前記(メタ)アクリル酸エステル単量体は、炭素原子数が4以上の鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体及びシクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体からなる群より選ばれる1種以上の単量体であり、
ここで、前記第2の共重合体がN−メチロールアクリルアミドに由来する単位を含む場合を除く、蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項7】
ポリオレフィン微多孔膜からなる基材と、その基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された、電極と接着する熱可塑性ポリマーを含有する層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、
前記熱可塑性ポリマーがガラス転移温度を少なくとも2つ有しており、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃未満の領域に存在し、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃以上の領域に存在し、
前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、芳香族ビニル化合物単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する第1の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーと、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーとの混合比が、質量基準で50:50〜5:95であり、
前記熱可塑性ポリマーを含有する層の担持量は、固形分として0.05g/m2以上1.50g/m2以下であり、
下記条件(i)及び(ii)の少なくとも一方を満たす、蓄電デバイス用セパレータ。
条件(i):前記第2の共重合体が、メチルメタクリレート及びブチルアクリレートに由来する単位を含む。
条件(ii):前記第2の共重合体がN−メチロールアクリルアミドに由来する単位を含む場合を除く。
【請求項8】
請求項1又は5に記載の蓄電デバイス用セパレータを備える蓄電デバイス。
【請求項9】
請求項2,3,4,6及び7のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータを備える蓄電デバイス。」

第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要
1 特許異議の申立ての理由の概要
申立人は、証拠方法として、後記する甲第1号証〜甲第5号証を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項1〜8に係る特許は取り消されるべきものであると主張している。

(1)申立理由1(拡大先願)
本件訂正前の請求項1〜8に係る発明は、本件特許に係る出願の原出願の出願日前の特許出願であって、本件特許に係る出願の原出願の出願後に国際公開された国際出願番号PCT/JP2013/081715号(国際公開第2014/081035号(甲第1号証))の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許に係る出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また、本件特許に係る出願の原出願の出願時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないから、同発明に係る特許は特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)申立理由2(拡大先願)
本件訂正前の請求項1〜8に係る発明は、本件特許に係る出願の原出願の出願日前の特許出願であって、本件特許に係る出願の原出願の出願後に国際公開された国際出願番号PCT/JP2013/083715号(国際公開第2014/103791号(甲第2号証))の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許に係る出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また、本件特許に係る出願の原出願の出願時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないから、同発明に係る特許は特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)申立理由3(新規性
本件訂正前の請求項1、2、4〜6及び8に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であるから、同発明に係る特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(4)申立理由4(進歩性
本件訂正前の請求項3及び7に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(5)申立理由5(新規事項)
本件特許に係る出願について平成30年 5月31日付けでした手続補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、本件訂正前の請求項1〜8に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであり、同法第113条第1号に該当し、取り消されるべきものである。

(6)証拠方法
・甲第1号証:国際公開第2014/081035号
・甲第2号証:国際公開第2014/103791号
・甲第3号証:国際公開第2013/141140号
・甲第4号証:国際公開第2013/146515号
・甲第5号証:国際公開第2013/151144号

(7)令和 3年 3月12日提出の意見書と共に提出された証拠方法
・参考資料1−1:特開2007−59271号公報
・参考資料1−2:特開2004−342572号公報
・参考資料1−3:特開2013−219006号公報
・参考資料1−4:特開2013−203894号公報
・参考資料1−5:特開平9−157203号公報
・参考資料1−6:東京化成工業株式会社 安全データシート
化学名又は一般名:トリメチロールプロパントリアク
リラート

(8)令和 3年10月15日提出の意見書と共に提出された証拠方法
・参考資料2−1:Acrylic latexes functionalized by N-methylol
acrylamide and crosslinked films from these
latexes, New Polymeric Mater., Vol. 2, No. 4,
pp. 295-314 (1991)
・参考資料2−2:国際公開第2011/013604号
・参考資料2−3:特開2005−166756号公報
・参考資料2−4:特開2011−243464号公報
・参考資料2−5:特開2007−59271号公報
(参考資料1−1)
・参考資料2−6:特開2004−342572号公報
(参考資料1−2)
・参考資料2−7:特開2013−219006号公報
(参考資料1−3)

2 取消理由の概要
(1)令和 2年11月 9日付けで通知した取消理由の概要
ア 取消理由1−1(申立理由1を採用)
本件訂正前の請求項1〜8に係る発明は、本件特許に係る出願の原出願の出願日前の特許出願であって、本件特許に係る出願の原出願の出願後に国際公開された国際出願番号PCT/JP2013/081715号(国際公開第2014/081035号(甲第1号証))の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許に係る出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また、本件特許に係る出願の原出願の出願時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないから、同発明に係る特許は特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

イ 取消理由2−1(申立理由3を採用すると共に、職権により請求項3、7を追加)
本件訂正前の請求項1〜8に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であるから、同発明に係る特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

ウ 取消理由3−1(申立理由4を採用すると共に、職権により請求項1、2、4〜6、8を追加)
本件訂正前の請求項1〜8に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)令和 3年 6月28日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要
ア 取消理由1−2(上記(1)アの取消理由1−1と同旨)
令和 3年 1月12日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1〜3、5、7、8に係る発明は、本件特許に係る出願の原出願の出願日前の特許出願であって、本件特許に係る出願の原出願の出願後に国際公開された国際出願番号PCT/JP2013/081715号(国際公開第2014/081035号(甲第1号証))の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許に係る出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また、本件特許に係る出願の原出願の出願時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないから、同発明に係る特許は特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

イ 取消理由3−2(上記(1)ウの取消理由3−1と同旨)
令和 3年 1月12日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1〜3、5、8に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

第5 甲第1号証〜甲第5号証の記載事項
1 甲第1号証の記載事項
上記甲第1号証には、「電極/セパレータ積層体の製造方法およびリチウムイオン二次電池」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。なお、下線は当審が付与し、「・・・」は記載の省略を表すものであって、以下同様である。

「[0001] 本発明は、電極/セパレータ積層体の製造方法に関し、特にリチウムイオン二次電池の構成要素として用いられる電極/セパレータ積層体の製造方法、ならびに該電極/セパレータ積層体を組み込んだリチウムイオン二次電池に関する。」

「[0014] (接着層付セパレータ)
接着層付セパレータは、多孔性ポリオレフィンフィルムの片面もしくは両面に接着層を有する。
[0015] 多孔性ポリオレフィンフィルムとしては、従来よりリチウムイオン二次電池のセパレータとして使用されてきた、各種の多孔性ポリオレフィンフィルムが特に制限されることなく用いられる。多孔性ポリオレフィンフィルムを構成するポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のホモポリマー、コポリマー、更にはこれらの混合物が挙げられる。」

「[0018] 多孔性ポリオレフィンフィルムを作製する方法としては、公知の方法が挙げられる。例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンを溶融押し出しフィルム製膜した後に、低温でアニーリングさせ結晶ドメインを成長させて、この状態で延伸を行い、非晶領域を延ばすことにより微多孔膜を形成する乾式方法;炭化水素溶媒やその他低分子材料とポリプロピレン、ポリエチレンを混合した後に、フィルム形成させて、次いで、非晶相に溶媒や低分子が集まり島相を形成し始めたフィルムを、この溶媒や低分子を他の揮発し易い溶媒を用いて除去する事で微多孔膜が形成される湿式方法;などが選ばれる。この中でも、抵抗を下げる目的で、大きな空隙を得やすい点で、乾式方法が好ましい。」

「[0022] 接着層は、ガラス転移温度が比較的低い粒子状重合体Aと、ガラス転移温度が比較的高い粒子状重合体Bとを含み、平均厚さが0.2〜1.0μmである。
[0023] 粒子状重合体Aのガラス転移温度は、−50〜5℃、好ましくは−45〜−10℃、さらに好ましくは−40〜−20℃の範囲にある。粒子状重合体Aは、ガラス転移温度が低く、接着性が高い。しかし、ガラス転移温度が低すぎる場合には、粘着性(タック)が過大になり、接着層付セパレータのブロッキングを引き起こすことがあり、また多孔性ポリオレフィンフィルムの空孔を塞ぎ、イオン伝導性を損ない、電池のレート特性、サイクル特性が低下することがある。粒子状重合体Aとして、上記のガラス転移温度を有する重合体を選択することで、接着層は十分な接着性を有し、接着層からの粉落ちが防止され、その一方で接着層付セパレータのブロッキングも低減され、さらに電池のレート特性、サイクル特性も向上する。なお、接着層付セパレータのブロッキングとは、接着層同士が融着等してしまうことをいう。
[0024] 粒子状重合体Bのガラス転移温度は、50〜120℃、好ましくは60〜110℃、さらに好ましくは65〜105℃の範囲にある。粒子状重合体Bは、ガラス転移温度が比較的高く、接着性は高くはないが、粒子状重合体Bを用いることで、接着層表面のべたつきを制御でき、接着層付セパレータのブロッキングを防止できる。しかし、ガラス転移温度が高すぎる場合には、接着性が不十分となり、接着層から粒子状重合体Bが脱落する(粉落ち)ことがあり、それによりサイクル特性が損なわれることがある。粒子状重合体Bとして、上記のガラス転移温度を有する粒子状重合体を選択することで、接着層は十分な接着性を有し、接着層からの粉落ちが防止され、また接着層付セパレータのブロッキングも低減され、さらに電池のレート特性、サイクル特性も向上する。」

「[0026] 接着層の平均厚さは、0.2〜1.0μm、好ましくは0.4〜0.9μm、さらに好ましくは0.5〜0.9μmである。接着層の平均厚さは、任意に選択した5か所において高精度膜厚計にて測定した厚さの平均値である。接着層の平均厚さを上記範囲とすることで、十分な接着性が得られ、かつ多孔性ポリオレフィンフィルムの空孔を塞ぐことがないため、イオン伝導性も維持される。一方、接着層の平均厚さが上記範囲を超えると、接着層が多孔性ポリオレフィンフィルムの空孔を塞ぎ、イオン伝導性が損なわれることがある。また、接着層の平均厚さが上記範囲未満であると、接着力が不十分になり、電極とセパレータとが剥離しやすくなり、電池のサイクル特性が損なわれることがある。」

「[0029] 接着層における粒子状重合体Aと粒子状重合体Bとの重量比(A/B)は特に限定はされないが、好ましくは1/99〜40/60、さらに好ましくは5/95〜30/70、特に好ましくは10/90〜20/80の範囲にある。粒子状重合体Aが過剰であると、粒子状重合体Aが多孔性ポリオレフィンフィルムの空孔を塞ぎ、イオン伝導性が損なわれることがある。また、粒子状重合体Bが過剰であると、接着性が不十分になり、粒子状重合体が接着層から脱落しやすくなり、電池のサイクル特性が損なわれることがある。」

「[0038] 粒子状重合体Aおよび粒子状重合体Bは、上記の物性を満足する限り特に限定はされず、従来電池用バインダーとして用いられてきた粒子状重合体を使用することができる。このような粒子状重合体としては、例えば、アクリル重合体、ジエン重合体、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタン等の高分子化合物が挙げられ、中でも、接着性や耐電解液性等の観点から、アクリル重合体またはジエン重合体が好ましく、アクリル重合体が特に好ましい。
[0039] アクリル重合体は、一般式(1):CH2 =CR1−COOR2(式中、R1は水素原子またはメチル基を、R2はアルキル基またはシクロアルキル基を表す。)で表される化合物由来の単量体単位を10質量%以上含む重合体である。一般式(1)で表される化合物の単量体単位を構成する単量体の具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸n−アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリルなどのメタクリル酸エステル等が挙げられる。これらの中でも、アクリル酸エステルが好ましく、アクリル酸n−ブチルおよびアクリル酸2−エチルヘキシルが、接着強度を向上できる点で、特に好ましい。」

「[0042] さらに、前記アクリル重合体に含ませることのできる共重合可能な単量体単位を構成する単量体の具体例としては、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートなどの2つ以上の炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸エステル類;パーフルオロオクチルエチルアクリレートやパーフルオロオクチルエチルメタクリレートなどの側鎖にフッ素を含有する不飽和エステル類;スチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、クロロメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系単量体;アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのアミド系単量体;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類;N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物;アリルグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル類;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどのグリシジルエステル類などが挙げられる。」

「[0051](接着層付セパレータの製造方法)
接着層付セパレータは、上述した多孔性ポリオレフィンフィルムの片面もしくは両面に、前述した粒子状重合体AおよびBを含む接着層を形成して得られる。接着層の形成方法は特に限定はされないが、粒子状重合体AおよびBを含む、所定粘度に調整された接着層用水分散スラリーを多孔性ポリオレフィンフィルムの片面もしくは両面に塗布、乾燥する方法が簡便であり、作業衛生上の点からも好ましい。
・・・
[0057] 接着層用水分散スラリーの塗工法は、特に限定はされず、例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、およびハケ塗り法などの方法が挙げられる。」


「[0090](リチウムイオン二次電池)
本発明に係るリチウムイオン二次電池は、上記した電極/セパレータ積層体を備え、非水電解液を有する。」

「[0105](実施例1)
(1−1.粒子状重合体A1の製造)
・・・
[0106] 一方、別の容器でイオン交換水50部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5部、並びに、重合性単量体として、ブチルアクリレート94.8部、アクリロニトリル2部、メタクリル酸2部、およびN−メチロールアクリルアミド1.2部を混合して単量体混合物を得た。この単量体混合物を4時間かけて前記反応器に連続的に添加して重合を行った。添加中は、60℃で反応を行った。添加終了後、さらに70℃で3時間撹拌して反応を終了し、粒子状重合体A1の水分散液を製造した。
[0107] 得られた粒子状重合体A1の数平均粒子径は0.36μm、ガラス転移温度は−38℃であった。また、得られた粒子状重合体A1について、電解液膨潤率を測定した。結果を表1に示す。」

「[0108](1−2.粒子状重合体B1の製造)
・・・
[0109] 一方、別の容器でイオン交換水50部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5部、並びに、重合性単量体として、スチレン80部、ブチルアクリレート18部、アクリロニトリル2部、メタクリル酸2部、アクリルアミド1.2部を混合して単量体混合物を得た。この単量体混合物を3時間かけて前記反応器に連続的に添加して重合を行った。添加中は、70℃で反応を行った。添加終了後、さらに70℃で3時間撹拌して反応を終了し、粒子状重合体B1の水分散液を製造した 。
[0110] 得られた粒子状重合体B1の数平均粒子径は0.35μm 、ガラス転移温度は72℃であった。また、得られた粒子状重合体B1について、電解液膨潤率を測定した。結果を表1に示す。
[0111](1−3.接着層用スラリーの製造)
上記工程(1−1)で得られた粒子状重合体A1の水分散液、上記工程(1−2)で得られた粒子状重合体B1の水分散液を、固形分重量比(A1/B1)が15/85となるように、インペラー式攪拌機を用いて、水中で混合した後、粒子状重合体A1および粒子状重合体B1の合計の固形分100部に対して、湿潤剤(サンノプコ株式会社製、商品名:SNウエット980)を固形分割合が5部となるように混合し、次いで、粒子状重合体A1、粒子状重合体B1および湿潤剤全体の固形分濃度が3質量%となるようイオン交換水で希釈することにより、接着層用水分散スラリーを得た。」

「[0113](1−4.接着層付セパレータの製造)
多孔性ポリオレフィンフィルムとして、多孔性ポリエチレンフィルム(厚さ16μm、ガーレー値147sec/100cc)を用意した。用意した多孔性ポリエチレンフィルムの片面に、前記接着層用水分散スラリーを塗布し、50℃で10分乾燥させた。次に多孔性ポリエチレンフィルムのもう一方の面にも同様に塗布し、これにより、多孔性ポリエチレンフィルムの両面に接着層を有する、接着層付セパレータを得た。得られたセパレータの接着層の片面の平均厚さは、0.8μmであった。得られたセパレータについて、透気性の評価と、後述する負極との電極接着性の評価を行った。結果を表2に示す。」

「[0119] 上記で得られた負極/接着層付セパレータ/正極積層体/アルミ包材容器中に電解液を空気が残らないように注入し、150℃ヒートシーラーにて熱溶着させて容器を封止して、9cm×9cmのリチウムイオンニ次電池(ラミネートセル)を製造した。電解液としてはエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とをEC/DEC=1/2(20℃での容積比)で混合してなる混合溶媒にLiPF6を1モル/リットルの濃度で溶解させた溶液を用いた。得られた電池について、レート特性、高温サイクル特性を測定した。結果を表2に示す。」

「[0126]・・・



「[0153]・・・



「[請求項1] 少なくとも片面に接着層を有する多孔性ポリオレフィンフィルムからなる接着層付セパレータと、電極活物質および電極用結着剤を含む電極活物質層を有する電極とを、前記接着層と前記電極活物質層とが当接するように積層し、熱圧着する工程を含む、電極/セパレータ積層体の製造方法であって、
前記接着層が、ガラス転移温度−50〜5℃である粒子状重合体Aと、ガラス転移温度50〜120℃である粒子状重合体Bとを含み、
前記接着層の平均厚さが0.2〜1.0μmであり、
前記熱圧着を50〜100℃で行う、電極/セパレータ積層体の製造方法。」

2 甲第2号証の記載事項
上記甲第2号証には、「二次電池セパレーターの多孔膜用スラリー、二次電池セパレーター用多孔膜及びその製造方法、二次電池用セパレーター並びに二次電池」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。

「[0033] 多孔膜用バインダーAの材料となりうる重合体のうち好適な例としては、スチレン・ブタジエン共重合体(SBR)、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体(NBR)、水素化SBR、水素化NBR、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、アクリル重合体などが挙げられる。中でも、正極側及び負極側のいずれの多孔膜においても用いうるため汎用性に優れることから、アクリル重合体がより好ましい。
[0034] アクリル重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含む重合体である。ここで(メタ)アクリル酸エステル単量体単位とは、(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合して形成される構造を有する構造単位を表す。(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、例えば、CH2=CRa−COORbで表される化合物が挙げられる。ここで、Raは水素原子またはメチル基を表し、Rbはアルキル基またはシクロアルキル基を表す。
[0035] (メタ)アクリル酸エステル単量体の例を挙げると、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸−2−メトキシエチル、アクリル酸−2−エトキシエチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、ベンジルアクリレートなどのアクリレート;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸n−アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸イソデシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリル、ベンジルメタクリレートなどのメタアクリレート等が挙げられる。これらの中でも、アクリレートが好ましく、アクリル酸n−ブチルおよびアクリル酸2−エチルヘキシルが、多孔膜の強度を向上できる点で、特に好ましい。また、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。」

「[0040] また、アクリル重合体は、スチレン単量体単位を含みうる。ここで、スチレン単量体単位とは、スチレンを重合して形成される構造を有する構造単位である。スチレン単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位とを組み合わせて含むアクリル重合体は、酸化還元に安定であるので、高寿命の電池を得やすい。」

「[0043] また、アクリル重合体は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を含みうる。ここでエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位とは、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を重合して形成される構造を有する構造単位を表す。
[0044] エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、エチレン性不飽和モノカルボン酸及びその誘導体、エチレン性不飽和ジカルボン酸及びその酸無水物並びにそれらの誘導体などが挙げられる。エチレン性不飽和モノカルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。エチレン性不飽和モノカルボン酸の誘導体の例としては、2−エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α−アセトキシアクリル酸、β−trans−アリールオキシアクリル酸、α−クロロ−β−E−メトキシアクリル酸、β−ジアミノアクリル酸などが挙げられる。エチレン性不飽和ジカルボン酸の例としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。エチレン性不飽和ジカルボン酸の酸無水物の例としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられる。エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体の例としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸等のマレイン酸メチルアリル;マレイン酸ジフェニル、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキル等のマレイン酸エステルなどが挙げられる。これらの中でも、多孔膜用バインダーAの水に対する分散性を高める観点では、アクリル酸、メタクリル酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸が好ましい。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。」

「[0065] 多孔膜用バインダーBの材料となりうる重合体のうち好適な例としては、スチレン・ブタジエン共重合体(SBR)、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体(NBR)、水素化SBR、水素化NBR、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、アクリル重合体などが挙げられる。中でも、正極側及び負極側のいずれの多孔膜においても用いうるため汎用性に優れることから、アクリル重合体がより好ましい。
[0066] 多孔膜用バインダーBの材料となりうるアクリル重合体において、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位に対応する(メタ)アクリル酸エステル単量体の例としては、多孔膜用バインダーAの材料となりうるアクリル重合体の説明において挙げたのと同様の例が挙げられる。また、それらの(メタ)アクリル酸エステル単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。」

「[0091][2.二次電池セパレーター用多孔膜]
本発明の多孔膜は、非導電性粒子及び多孔膜用バインダーを含む。多孔膜において非導電性粒子間の空隙は孔を形成しているので、多孔膜は多孔質構造を有する。このため、イオンは多孔膜を透過できる。したがって、二次電池において、多孔膜によっては電池反応は阻害されない。また、非導電性粒子は導電性を有さないので、多孔膜に絶縁性を発現させることができる。
[0092] また、前記の多孔膜用バインダーは、上述した多孔膜用バインダーA、多孔膜用バインダーB及び多孔膜用バインダーCを組み合わせて含む。すなわち、粒子状の多孔膜用バインダーA、非粒子状の多孔膜用バインダーB、及び、非粒子状の多孔膜用バインダーCを組み合わせて含む。また、これらの多孔膜用バインダーA、多孔膜用バインダーB及び多孔膜用バインダーCは、上述した範囲の膨潤度を有する。このように組み合わせた多孔膜用バインダーA、多孔膜用バインダーB及び多孔膜用バインダーCを多孔膜が含むことにより、安全性と、サイクル特性と、高電位且つ高温での保存特性のいずれにも優れる二次電池を実現できる。」

「[0094] また、前記のように優れたサイクル特性が得られる理由は定かでは無いが、本発明者の検討によれば、以下のように推察される。
図1は、非水電解液に湿潤していない状態の多孔膜の表面近傍を拡大して模式的に示す断面図である。また、図2は、非水電解液に湿潤した状態の多孔膜の表面近傍を拡大して模式的に示す断面図である。図1及び図2に示すように、非水電解液に湿潤していない状態の多孔膜に比べて、非水電解液に湿潤した状態の多孔膜では、非水電解液に膨潤することにより、多孔膜用バインダーB(10)の体積が大きくなる。そのため、多孔膜の表面にある多孔膜用バインダーB(10)の一部(10S)は、膨潤により、多孔膜の表面から突出した状態となる。このような状態では、多孔膜の表面に電極を貼り合わせると、電極の表面に多孔膜用バインダーB(10)が大面積で接触することができる。したがって、多孔膜用バインダーB(10)により、電極と多孔膜とを強力に結着させることができる。
前記のようにして電極と多孔膜との結着性を向上させることができるので、充放電を繰り返した場合でも、電極と多孔膜との剥離を防止できる。仮に電極と多孔膜との剥離が生じると、正極と負極との間の距離が大きくなり、そのため二次電池の抵抗が大きくなると考えられる。しかし、本発明の多孔膜を用いれば、電極と多孔膜との剥離を防止できるので、前記のような抵抗の増加を防止できるため、サイクル特性を高くできると推察される。」

「[0102] 多孔膜用スラリーの塗布方法に制限は無い。塗布方法の例を挙げると、ドクターブレード法、ディップ法、ダイコート法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などが挙げられる。多孔膜用スラリーの塗布量は、通常、所望の厚みの多孔膜が得られる範囲にする。」

「[0107][3.二次電池用セパレーター]
本発明の二次電池用セパレーターは、有機セパレーター層、及び、この有機セパレーター層上に形成された本発明の多孔膜を備える。二次電池用セパレーターが備える有機セパレーター層及び多孔膜はいずれも多孔質構造を有するので、二次電池用セパレーターによっては電池反応は阻害されない。また、二次電池用セパレーターは本発明の多孔膜を備えるので、この二次電池用セパレーターを用いることにより、安全性、サイクル特性、及び、高電位且つ高温での保存特性のいずれにも優れる二次電池を実現できる。
[0108] 有機セパレーター層としては、例えば、微細な孔を有する多孔性基材を用いうる。このような有機セパレーター層を用いることにより、二次電池において電池の充放電を妨げることなく電極の短絡を防止することができる。有機セパレーター層の具体例を挙げると、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂などを含む微孔膜または不織布などが挙げられる。」

「[0112][4.二次電池]
本発明の二次電池は、正極、負極、本発明の二次電池用セパレーター及び電解液を備える。具体的には、本発明の二次電池は、正極、本発明の二次電池用セパレーター及び負極をこの順に備え、更に電解液を備える。本発明の二次電池は、安全性、サイクル特性、及び、高電位且つ高温での保存特性のいずれにも優れる。」

「[0155][実施例1]
(1−1.粒子状の多孔膜用バインダーAの製造)
撹拌機を備えた反応器に、ドデシル硫酸ナトリウムを0.06部、過硫酸アンモニウムを0.23部、及びイオン交換水を100部入れて混合し混合物Aとし、80℃に昇温した。
一方、別の容器中でアクリル酸ブチル93.8部、メタクリル酸2.0部、アクリロニトリル2.0部、アリルグリシジルエーテル1.0部、N−メチロールアクリルアミド1.2部、ドデシル硫酸ナトリウム0.1部、及びイオン交換水100部を混合して、単量体混合物1の分散体を調製した。」

「[0158] (1−2.非粒子状の多孔膜用バインダーBの製造)
撹拌機を備えた反応器に、ドデシル硫酸ナトリウムを0.2部、過硫酸アンモニウムを0.2部、及びイオン交換水を100部入れて混合し混合物Bとし、70℃に昇温した。
一方、別の容器中でアクリル酸ブチル25.0部、メタクリル酸25.0部、アクリロニトリル25.0部、スチレン20.0部、アリルグリシジルエーテル5.0部、ドデシル硫酸ナトリウム0.3部、及びイオン交換水100部を混合して、単量体混合物2の分散体を調製した。」

「[0160] (1−3.多孔膜用スラリーの製造)
非導電性粒子としてアルミナ粒子(住友化学社製「AKP−3000」;個数平均粒子径0.5μm)100部、多孔膜用バインダーAとして工程(1−1)で得た水分散体を固形分換算量で6部、多孔膜用バインダーBとして工程(1−2)で得た水溶液を固形分換算量で6部、多孔膜用バインダーCとしてカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(ダイセルファインケム社製「ダイセルCMC1220」)1.5部、及び湿潤剤としてポリエチレングリコール型界面活性剤(サンノプコ株式会社製「SNウエット366」)0.2部を混合し、さらにイオン交換水を混合して固形分濃度が40重量%になるように調整し、撹拌することで、多孔膜用スラリーを得た。この場合、アルミナ粒子100体積部に対し、多孔膜用バインダーAは23.1体積部、多孔膜用バインダーBは23.1体積部、多孔膜用バインダーCは3.7体積部であり、多孔膜中の多孔膜用バインダーの総量は、33体積%である。
[0161] (1−4.二次電池用セパレーター(多孔膜付セパレーター)の製造)
湿式法により製造された単層のポリエチレン製セパレーター(厚さ9μm)を、有機セパレーター層として用意した。この有機セパレーター層の両面に、工程(1−3)で得た多孔膜用スラリーを、乾燥後の厚みがそれぞれ2μmとなるように塗布してスラリー層を得た。その後、スラリー層を50℃で10分間乾燥し(プレ乾燥)、さらに105℃で3時間乾燥すること(本乾燥)で多孔膜を形成し、有機セパレーター層の両面に多孔膜を有するセパレーターを得た。」

「[0164] (1−7.二次電池の製造)
工程(1−5)で得た正極と、工程(1−6)で得た負極とを、工程(1−4)で得た多孔膜付のセパレーターとともにゼリーロール(Jelly Roll)状に捲回して、電極群を作製した。この電極群をパウチ型の電池ケース内に挿入し、電解液を注液した後に、ヒートシーラーで電池ケースの開口を封口した。さらに、この二次電池を100℃、1MPaの条件で60秒間プレスすることで、電池を完成させた。電池の設計容量は2000mAhとした。ここで、電解液は、濃度1.0MのLiPF6溶液にVC(ビニレンカーボネート)を2容量%添加したものを用いた。前記LiPF6溶液の溶媒は、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合溶媒(EC/EMC=3/7重量比)である。」

「[0191][表1]

[0192][表2]


「請求の範囲
・・・
[請求項4]
非導電性粒子及び多孔膜用バインダーを含む、二次電池セパレーター用多孔膜であって、
前記多孔膜用バインダーが、
粒子状であり、非水電解液に対しての膨潤度が10倍未満である多孔膜用バインダーA、
非粒子状であり、非水電解液に対しての膨潤度が10倍〜50倍である多孔膜用バインダーB、及び、
非粒子状であり、非水電解液に対しての膨潤度が5倍未満である多孔膜用バインダーCを含む、二次電池セパレーター用多孔膜。
・・・
[請求項7]
有機セパレーター層、及び
前記有機セパレーター層上に形成された、請求項4又は5記載の二次電池セパレーター用多孔膜を備える、二次電池用セパレーター。
[請求項8]
正極、負極、請求項7記載の二次電池用セパレーター及び電解液を備える、二次電池。」

3 甲第3号証の記載事項
上記甲第3号証には、「二次電池用多孔膜及びその製造方法、二次電池用電極、二次電池用セパレーター並びに二次電池」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。

「[0001] 本発明は、二次電池用多孔膜及びその製造方法、並びに、その二次電池用多孔膜を備えた二次電池用電極、二次電池用セパレーター及び二次電池に関する。」

「発明が解決しようとする課題
[0004] 通常のセパレーターは、例えばポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン系の有機セパレーターからなる。これらのセパレーターは、内部及び外部の刺激によって二次電池が高温になった場合に、収縮する可能性がある。かかる収縮は、正極及び負極の短絡、電気エネルギーの放出などを招くおそれがある。
[0005] そこで、前記のような高温での収縮を抑制するために、セパレーターに、非導電性粒子を含有する多孔膜を設けることが検討されている。セパレーターに多孔膜を設けることでセパレーターの強度が上がり、安全性が向上する。」

「[0009] 本発明は上述した課題に鑑みて創案されたもので、接着性及び耐ブロッキング性に優れ、粉落ちを生じにくく、且つ、有機セパレーターと組み合わせてセパレーターを構成した場合にセパレーターの収縮を抑制しうる二次電池用多孔膜及びその製造方法、並びに、その二次電池用多孔膜を備えた二次電池用電極、二次電池用セパレータ及び二次電池を提供することを目的とする。」

「[0015] i.接着性
本発明に係る非導電性粒子のシェル部は、低温の温度範囲に軟化開始点を有する。このため、加熱された場合に容易に融解する。したがって、有機セパレーターと多孔膜と電極とをこの順に重ねてヒートプレスを行うと、非導電性粒子のシェル部の重合体が融解し、融解した重合体が有機セパレーター及び電極に密着する。その後、多孔膜を冷ますと融解した重合体は密着した状態を維持したままで再び硬化する。これにより、非導電性粒子は有機セパレーター及び電極に強固に固着するため、多孔膜の接着性を高めることができる。また、粒子状重合体は一般に結着性を有する。よって、粒子状重合体の結着性によっても、多孔膜の接着性を高めることができる。
ここで、非導電性粒子のコア部は軟化開始点又は分解点が高いので、ヒートプレスの際に加熱されても融解せず、粒子形状を維持する。このため、多孔膜の孔が塞がることはない。」

「[0021] ここで、軟化開始点は、以下のようにして測定しうる。まず、測定試料10mgをアルミパンに計量し、示差熱分析測定装置にて、リファレンスとして空のアルミパンを用い、測定温度範囲−100℃〜500℃の間で、昇温速度10℃/minで、常温常湿下で、DSC曲線を測定する。この昇温過程で、微分信号(DDSC)が0.05mW/min/mg以上となるDSC曲線の吸熱ピークが出る直前のベースラインと、吸熱ピーク後に最初に現れる変曲点でのDSC曲線の接線との交点を、ガラス転移点(Tg)とする。そして、さらにそのガラス転移点より25℃高い温度を、軟化開始点とする。
なお、非導電性粒子のコア部の軟化開始点より分解点の方が低い場合には、分解により軟化開始点が観測されない場合がある。」

「[0030] (シェル部)
非導電性粒子のシェル部は、通常85℃以上、好ましくは87℃以上、より好ましくは89℃以上、また、通常145℃以下、好ましくは125℃以下、より好ましくは115℃以下の温度範囲に、軟化開始点を有する。軟化開始点が前記範囲の下限値以上であることにより、多孔膜の耐ブロッキング性を向上させることができる。また、二次電池の使用温度においてシェル部が融解し難くなるので、多孔膜の孔が塞がることを安定して防止できる。このため、二次電池のレート特性を向上させることが可能である。また、軟化開始点が前記範囲の上限値以下であることにより、ヒートプレスの際にシェル部を容易に融解させることができるので、多孔膜の接着性を向上させることができる。このため、二次電池のサイクル特性を向上させることができる。
[0031] シェル部を形成する重合体としては、(メタ)アクリレート単位を含む重合体を用いることが好ましい。ここで、(メタ)アクリレート単位とは、アクリレート及びメタクリレートの一方又は両方を重合して形成される構造単位のことをいう。(メタ)アクリレート単位を含む重合体によってシェル部を形成することにより、多孔膜の電気的安定性を向上させることができる。また、シェル部及び粒子状重合体の両方が(メタ)アクリレート単位を含む場合には、シェル部と粒子状重合体との親和性が向上し、耐粉落ち性を向上させることができる。
[0032] アクリレートとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルエチルアクリレート等が挙げられる。
また、例えば、メタクリレートとしては、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等が挙げられる。
これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
[0033] シェル部を形成する重合体における(メタ)アクリレート単位の比率は、通常50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上であり、100重量%以下である。これにより、多孔膜の電気的安定性を向上させることができる。また、シェル部及び粒子状重合体の両方が(メタ)アクリレート単位を含む場合に、耐粉落ち性を向上させることができる。シェル部を形成する重合体における(メタ)アクリレート単位の比率は、通常、シェル部を形成する重合体の全モノマーにおけるアクリレート及びメタクリレートの比率(仕込み比)に一致する。
[0034] シェル部は、アクリレート及びメタクリレート以外のモノマーの重合体であってもよく、アクリレート及びメタクリレートの一方又は両方とそれ以外のモノマーとの共重合体であってもよい。アクリレート及びメタクリレート以外のモノマーの例としては、1、3−ブタジエン、2−メチル−1、3−ブタジエン、2、3−ジメチル−1、3ブタジエン、2−クロル−1、3−ブタジエン等の脂肪族共役ジエン系モノマー;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル系モノマー;などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
[0035] (非導電性粒子の大きさ)
非導電性粒子の個数平均粒子径は、通常100nm以上、好ましくは200nm以上、より好ましくは300nm以上であり、通常1500nm以下、好ましくは1200nm以下、より好ましくは1000nm以下である。非導電性粒子の個数平均粒径をこのような範囲とすることにより、非導電性粒子同士が接触部を有しつつ、イオンの移動が阻害されない程度に、非導電性粒子同士の隙間を形成できる。したがって、多孔膜の強度が向上し、且つ電池の短絡を防止することができる。また、二次電池のサイクル特性を向上させることも可能である。」

「[0039] (非導電性粒子の量)
本発明の多孔膜における非導電性粒子の含有割合は、通常70重量%以上、好ましくは75重量%以上、より好ましくは80重量%以上であり、通常98重量%以下、好ましくは96重量%以下、より好ましくは94重量%以下である。本発明の多孔膜における非導電性粒子の含有割合をこの範囲内とすることにより、非導電性粒子同士が接触部を有しつつ、イオンの移動が阻害されない程度に、非導電性粒子同士の隙間を形成できる。したがって、非導電性粒子の含有割合が前記範囲内であれば、本発明の多孔膜の強度を向上させ、電池の短絡を安定して防止することができる。」

「[0041] [1.2.粒子状重合体]
粒子状重合体は、多孔膜において結着剤として機能しうる成分である。粒子状重合体を形成する重合体は、結着性を有するものであれば種々のものを用いうる。中でも、非導電性粒子のシェル部との親和性を高めて耐粉落ち性を向上させる観点では、(メタ)アクリレート単位を含む重合体を用いることが好ましい。(メタ)アクリレート単位を形成するアクリレート及びメタアクリレートの例としては、非導電性粒子の説明の項において挙げたものと同様の例が挙げられる。また、アクリレート及びメタアクリレートは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。」

「[0056] また、粒子状重合体のガラス転移点は、通常−80℃以上、好ましくは−70℃以上、より好ましくは−60℃以上であり、通常60℃以下、好ましくは30℃以下、より好ましくは0℃以下である。粒子状重合体のガラス転移点を前記範囲の下限値以上とすることにより、多孔膜の孔が塞がることを防止して透液性を向上させることができる。このため、二次電池のレート特性を高くできる。また、上限値以下とすることにより、粒子状重合体の結着性を高くして非導電性粒子の粉落ちを安定して防止できる。」

「[0060] [1.3.水溶性重合体]
水溶性重合体は、多孔膜において、非導電性粒子同士を結着する作用を有する。また、水溶性重合体は、通常、非導電性粒子及び粒子状重合体の表面を硬化した状態で覆っているので、多孔膜の剛性を高めたりブロッキングを抑制したりする作用を有する。さらに、多孔膜用スラリーにおいて、水溶性重合体は、通常、当該スラリーの粘度を調整しうる増粘剤として機能する。」

「[0075] 多孔膜用スラリーの塗布方法としては、例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。中でも、均一な多孔膜が得られる点で、ディップ法及びグラビア法が好ましい。」

「[0114][3.二次電池用セパレーター]
本発明のセパレーター(二次電池用セパレーター)は、有機セパレーターと、有機セパレーター上に形成された本発明の多孔膜とを備える。本発明のセパレーターが本発明の多孔膜を備えていても、本発明の多孔膜には電解液が浸透できるので、レート特性等に対して悪影響を及ぼすことは無い。また、本発明のセパレーターは、高温においても変形せず高い剛性を有しうる本発明の多孔膜を備えるので、高温環境においても収縮し難い。さらに、本発明の多孔膜を備えているので、本発明のセパレーターはブロッキングを生じにくくなっている。
[0115] 一般に、有機セパレーターは、電極の短絡を防止するために正極と負極との間に設けられる部材である。有機セパレーターとしては、例えば、微細な孔を有する多孔性基材が用いられ、通常は有機材料からなる多孔性基材が用いられる。有機セパレーターの具体例を挙げると、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂などを含む微孔膜または不織布などが挙げられる。」

「[0119][4.二次電池]
本発明の二次電池は、正極、負極、セパレーター及び電解液を備える。また、本発明の二次電池は、正極、負極及びセパレーターの少なくともいずれかが、本発明の多孔膜を備える。すなわち、本発明の二次電池は、下記の要件(A)及び(B)の一方又は両方を満たす。
(A)正極及び負極の少なくとも一方として、本発明の電極を備える。
(B)セパレーターとして、本発明のセパレーターを備える。」

「[0146][実施例1]
・・・
[0148] (1−3.非導電性粒子Aの製造)
次に、撹拌機を備えた反応器に、単量体として、メタクリル酸メチル87.0部、アクリル酸ブチル13.0部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを1.0部、重合開始剤としてt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(日油社製「パーブチルO」)を4.0部、及びイオン交換水を200部入れ、粗い液滴が目視で確認できなくなるまで撹拌した。これを、インライン型乳化分散機(太平洋機工社製「キャビトロン」)を用いて、15、000rpmの回転数で1分間高速剪断攪拌して、重合性単量体組成物の分散液を得た。これに、工程(1−2)で得たシードポリマー粒子Aの水分散体を固形分基準(即ち、シードポリマー粒子Aの重量基準)で100部入れ、35℃で12時間撹拌することで、シードポリマー粒子Aに単量体及び重合開始剤を完全に吸収させた。その後、これを90℃で5時間重合させた。その後、スチームを導入して未反応の単量体及び開始剤分解生成物を除去した。
これにより、個数平均粒子径650nmのコアシェル構造を有する非導電性粒子Aの水分散体を得た。
[0149] (1−4.粒子状重合体の製造)
撹拌機を備えた反応器に、ドデシル硫酸ナトリウムを0.06部、過硫酸アンモニウムを0.23部、及びイオン交換水を100部入れて混合し混合物Bとし、80℃に昇温した。
一方、別の容器中でアクリル酸ブチル66.8部、アクリル酸エチル17.0部、メタクリル酸2.0部、アクリロニトリル12.0部、アリルグリシジルエーテル1.0部、N−メチロールアクリルアミド1.2部、ドデシル硫酸ナトリウム0.1部、及びイオン交換水100部を混合して、単量体混合物2の分散体を調製した。
この単量体混合物2の分散体を、4時間かけて、上で得た混合物B中に、連続的に添加して重合させた。単量体混合物2の分散体の連続的な添加中の反応系の温度は80℃に維持し、反応を行った。連続的な添加の終了後、さらに90℃で3時間反応を継続させた。これにより、粒子状重合体の水分散体を得た。
得られた粒子状重合体の水分散体を25℃に冷却後、これにアンモニア水を添加してpHを7に調整し、その後スチームを導入して未反応の単量体を除去した。その後、イオン交換水で固形分濃度の調整を更に行いながら、200メッシュ(孔径:約77μm)のステンレス製金網でろ過を行った。これにより、平均粒子径370nm、固形分濃度40%の粒子状重合体の水分散液を得た。
[0150] (1−5.多孔膜用スラリーの製造)
工程(1−3)で得た非導電性粒子Aの水分散体、工程(1−4)で得た粒子状重合体の水分散液、水溶性重合体としてカルボキシメチルセルロース(ダイセル化学社製「ダイセル1220」)、及び湿潤剤(サンノプコ株式会社製「SNウエット980」)を、固形分重量比が82:12:5:1となるように水中で混合して、固形分濃度20%の多孔膜用スラリーを得た。
[0151] (1−6.二次電池用セパレーター(多孔膜付セパレーター)の製造)
湿式法により製造された単層のポリエチレン製セパレーター(厚さ16μm)を、有機セパレーターとして用意した。この有機セパレーターの一方の面に、工程(1−5)で得た二次電池用スラリーを、乾燥後の厚みが4μmとなるように塗布してスラリー層を得た。その後、スラリー層を50℃で10分間乾燥し、多孔膜を形成した。続いて、有機セパレーターのもう一方の面にも、同様に多孔膜を形成し、両面に多孔膜を有する、多孔膜付セパレーターを得た。」

「[0156] 上記の積層体をアルミ包材に配置した。このアルミ包材の中に、電解液を空気が残らないように注入した。さらに150℃のヒートシールを行うことで、アルミ包材の開口を密封してラミネート型のリチウムイオン二次電池を製造した。なお、電解液は、濃度1.0MのLiPF6溶液にVC(ビニレンカーボネート)を2容量%添加したものを用いた。また、前記LiPF6溶液の溶媒は、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との混合溶媒(EC/DEC=1/2容量比)である。」

「[0178][実施例19]
工程(1−3)において、メタクリル酸メチル87.0部の代わりに、メタクリル酸メチル37.0部及びスチレン50.0部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、多孔膜付セパレーター及び二次電池を製造し、評価した。」

「[0190]



「[請求項1] 非導電性粒子、粒子状重合体及び水溶性重合体を含み、
前記非導電性粒子が、コアシェル構造を有する重合体の粒子であり、
前記非導電性粒子のコア部の軟化開始点又は分解点が、175℃以上であり、
前記非導電性粒子のシェル部が、85℃〜145℃に軟化開始点を有する、二次電池用多孔膜。
[請求項2] 前記粒子状重合体のガラス転移点が、−80℃〜60℃であり、
前記水溶性重合体の軟化開始点が、85℃以上である、請求項1記載の二次電池用多孔膜。
[請求項3] 前記非導電性粒子のシェル部及び前記粒子状重合体が、(メタ)アクリレート単位を50重量%以上含む、請求項1又は2記載の二次電池用多孔膜。」

「[請求項9] 有機セパレーター、及び
前記有機セパレーター上に形成された請求項1〜5のいずれか一項に記載の多孔膜を備える、二次電池用セパレーター。
[請求項10] 正極、負極、セパレーター及び電解液を含む二次電池であって、
前記正極、前記負極及び前記セパレーターの少なくともいずれかが、請求項1〜5のいずれか一項に記載の多孔膜を備える、二次電池。」

4 甲第4号証の記載事項
上記甲第4号証には、「二次電池用多孔膜及びその製造方法、二次電池用電極、二次電池用セパレーター並びに二次電池」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。

「[0014][1.多孔膜]
本発明の二次電池用多孔膜(以下、適宜「多孔膜」ということがある。)は、非導電性粒子及び多孔膜用バインダーを含む。また、非導電性粒子は、コアシェル構造を有する重合体の粒子である。ここで、コアシェル構造とは、粒子の内部にあるコア部と、このコア部を被覆するシェル部とを備える粒子の構造のことをいう。本発明に係る非導電性粒子において、コア部は所定の温度範囲にガラス転移点を有し、且つ、シェル部はコア部よりも所定温度以上に高いガラス転移点を有する。また、シェル部の厚さが、非導電性粒子の個数平均粒子径に対して所定の範囲にある。さらに、非導電性粒子の個数平均粒子径(A)と、前記多孔膜用バインダーの個数平均粒子径(B)が、(A)>(B)を満たす。
このような構成により、本発明の多孔膜は、接着性及び耐ブロッキング性に優れ、粉落ちを生じにくい。本発明の多孔膜がこのように優れた効果を発揮できる理由は定かではないが、本発明者の検討によれば、以下のように推察される。
[0015] i.接着性
本発明に係る非導電性粒子において、通常、コア部は相対的に低いガラス転移点を有するので、ヒートプレス時の熱によって融解しうる。しかし、通常、シェル部は相対的に高いガラス転移点を有するので、ヒートプレス時の熱によっても融解しない。そのため、ヒートプレス時には、硬化状態を維持したシェル部の内部で、コア部が融解する。ここで、ヒートプレス時に加えられる圧力によりシェル部が壊れると、壊れたシェル部の隙間からコア部の重合体の一部が融解状態で出てくる。この出てきた重合体は、別の非導電性粒子並びに有機セパレーター及び電極に密着する。その後、多孔膜を冷ますと前記の重合体は密着した状態を維持したままで硬化する。これにより、非導電性粒子は別の非導電性粒子並びに有機セパレーター及び電極に強固に固着するため、多孔膜の接着性を高めることができる。また、多孔膜用バインダーは一般に結着性を有する。よって、多孔膜用バインダーの結着性によっても、多孔膜の接着性を高めることができる。
ここで、前記のようにヒートプレス時に加えられる圧力によってシェル部が壊れうるようにするために、非導電性粒子のシェル部の厚みは所定の薄い範囲に制御されている。これにより、高い接着性を発現しうるコア部の重合体がシェル部の外に出てこられるようになっている。
他方、シェル部がヒートプレスにより壊れた場合、シェル部が過度に細かく粉砕されると、多孔膜の孔が塞がることが考えられる。そこで、本発明に係る非導電性粒子のシェル部の厚みは、非導電性粒子の隙間が塞がるほど細かくシェル部が粉砕されないように、所定の厚み以上となるように制御されている。そのため、多孔膜の孔が塞がることは無い。また、シェル部が細かく粉砕されるものではないため、ヒートプレスの後でもコア部の一部はシェル部の内部に留まり、非導電性粒子のコアシェル構造は維持される。」

「[0019] (コア部)
非導電性粒子のコア部は、通常30℃以上、好ましくは35℃以上、より好ましくは40℃以上に、ガラス転移点を有する。これにより、ヒートプレス時にコア部の重合体の流動性が過度に高くならないようにできるので、多孔膜の空隙率の低下を防止し、二次電池のレート特性を高くすることができる。また、二次電池の使用環境におけるシェル部から出てきたコア部の重合体の融解を防止して耐ブロッキング性を高めることができる。
また、非導電性粒子のコア部は、通常90℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは75℃以下に、ガラス転移点を有する。これにより、ヒートプレス時にコア部が融解しうるので、破損したシェル部の外部にコア部の重合体が出られるようになる。そのため、多孔膜の接着性及び耐粉落ち性を向上させて、二次電池のサイクル特性を高めることができる。」

「[0022] (シェル部)
非導電性粒子のシェル部は、コア部よりも通常10℃以上高く、好ましくは20℃以上高く、より好ましくは30℃以上高いガラス転移点を有する。このように高いガラス転移点を有することにより、シェル部はヒートプレス時においても融解せず、また、通常の二次電池の使用状態においても融解しない。このため、非導電性粒子の表面は摩擦の小さい硬化状態となっているので、ブロッキングを防止することができる。また、シェル部が融解しないことにより非導電性粒子は粒子形状を維持できるので、多孔膜の多孔性及び剛性を維持することができる。また、シェル部のガラス転移点の上限は、通常、コア部のガラス転移点よりも200℃高い温度である。」

「[0025] シェル部を形成する重合体における(メタ)アクリレート単位の比率は、通常50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上であり、通常100重量%以下である。これにより、多孔膜の電気的安定性を向上させることができる。また、シェル部及び多孔膜用バインダーの両方が(メタ)アクリレート単位を含む場合に、耐粉落ち性を向上させることができる。シェル部を形成する重合体における(メタ)アクリレート単位の比率は、通常、シェル部を形成する重合体の全モノマーにおけるアクリレート及びメタクリレートの比率(仕込み比)に一致する。
[0026] シェル部は、アクリレート及びメタクリレート以外のモノマーの重合体であってもよく、アクリレート及びメタクリレートの一方又は両方とそれ以外のモノマーとの共重合体であってもよい。アクリレート及びメタクリレート以外のモノマーの例としては、1、3−ブタジエン、2−メチル−1、3−ブタジエン、2、3−ジメチル−1、3ブタジエン、2−クロル−1、3−ブタジエン等の脂肪族共役ジエン系モノマー;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル系モノマー;などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。」

5 甲第5号証の記載事項
上記甲第5号証には、「二次電池用セパレータ」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。

「[0012] 本願発明は上記事情を鑑み、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、耐熱層及び接着剤層を、有機セパレータ層上に形成し、さらに前記接着剤層を構成する重合体として特定の重合体を用いることにより、十分な耐熱性を有し、且つ、集電体に積層された電極活物質層との接着性及び、耐ブロッキング性に優れる二次電池用セパレータが得られることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の二次電池用セパレータ、その製造方法及び用途等を提供するものである。」

「[0022] (1.二次電池用セパレータ)
本発明の二次電池用セパレータは、有機セパレータ層、前記有機セパレータ層の少なくとも一面上に隣接して形成された耐熱層、及び前記耐熱層上に形成された接着剤層を有する二次電池用セパレータであって、前記耐熱層は、非導電性粒子及びバインダーを含有し、前記接着剤層は、ガラス転移温度(Tg)が10〜100℃である粒子状重合体を含有する。以下において、有機セパレータ層、耐熱層、接着剤層の順に詳述する。」

「[0085] (1.3.1.粒子状重合体)
粒子状重合体を構成する重合体としては、例えば、共役ジエン重合体、ウレタン重合体、(メタ)アクリル重合体などが挙げられる。中でも、高い接着性、及び適度な電解液への膨潤度を有している点から、(メタ)アクリル重合体が好ましい。
[0086] (メタ)アクリル重合体は、アクリル酸エステル単量体単位及び/又はメタクリル酸エステル単量体単位を含む重合体である。
アクリル酸エステル単量体単位は、アクリル酸エステル単量体を重合して得られる繰り返し単位であり、メタアクリル酸エステル単量体単位は、メタアクリル酸エステル単量体を重合して得られる繰り返し単位である。
アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルとしては、上記耐熱層を構成するバインダーで説明したものと同様のものが挙げられる。その中でも、接着性及びガラス転移温度(Tg)の点で、エチルアクリレート、メチルアクリレート及びブチルアクリレートが好ましく、エチルアクリレート及びメチルアクリレートがより好ましく、エチルアクリレートが特に好ましい。
(メタ)アクリル重合体における(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合は、1〜95重量%であることが好ましく、5〜90重量%であることがより好ましく、10〜85重量%であることが特に好ましい。(メタ)アクリル重合体における(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合が上記範囲であることにより、電解液への膨潤性及びイオン伝導度を適度に保ちつつ、電極への密着性を向上させることができる。」

「[0092] 本発明に用いる粒子状重合体は、上記単量体単位に加えて、任意の単量体単位を含んでいてもよい。
かかる任意の単量体単位としては、芳香族ビニル単量体単位、(メタ)アクリロニトリル単量体単位などが挙げられる。
[0093] 芳香族ビニル単量体単位は、芳香族ビニル単量体を重合して得られる繰り返し単位である。
芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。中でも、スチレンが好ましい。芳香族ビニル単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
[0094] 粒子状重合体における芳香族ビニル単量体単位の含有割合は、0.1〜95重量%であることが好ましく、0.5〜90重量%であることがより好ましく、1〜85重量%であることが特に好ましい。粒子状重合体における芳香族ビニル単量体単位の含有割合が上記範囲であることにより、電極活物質層との接着性及び耐ブロッキング性をより向上させることができる。」

「[0211][表1]



第6 当審の判断
以下に述べるように、特許異議申立書の申立理由及び当審から通知した取消理由によっては、本件特許の請求項1〜9に係る特許を取り消すことはできない。

1 取消理由1−2、取消理由1−1、申立理由1(拡大先願)
(1)甲第1号証に記載された発明
上記第5の1の摘示において、特に請求項1の記載における「接着層付セパレータ」に着目し、段落[0001]、[0018]及び[0029]の記載を勘案すれば、甲第1号証には、「ガラス転移温度−50〜5℃である粒子状重合体Aと、ガラス転移温度50〜120℃である粒子状重合体Bとを含む接着層を少なくとも片面に有し、微多孔膜が形成された多孔性ポリオレフィンフィルムからなり、接着層における粒子状重合体Aと粒子状重合体Bとの重量比(A/B)は5/95〜30/70の範囲であって、リチウムイオン二次電池の構成要素として用いられる接着層付セパレータ。」が記載されており、さらに、実施例1及び6〜9、実施例4、実施例5、実施例10及び11、実施例12、実施例13並びに実施例14のそれぞれについてみれば、以下の8つの発明(以下、それぞれ「甲1A発明」〜「甲1H発明」という。)が記載されているものと認められる。

<甲1A発明>(実施例1及び6〜9)
ガラス転移温度−38℃であって、重合性単量体としてブチルアクリレート及びN−メチロールアクリルアミドを含む粒子状重合体A1と、ガラス転移温度72℃であって、重合性単量体としてブチルアクリレート及びスチレンを有する粒子状重合体B1とを含む接着層を少なくとも片面に有し、微多孔膜が形成された多孔性ポリオレフィンフィルムからなり、接着層における粒子状重合体A1と粒子状重合体B1との重量比(A1/B1)は15/85であリ、リチウムイオン二次電池の構成要素として用いられる接着層付セパレータ。

<甲1B発明>(実施例4)
ガラス転移温度−45℃であって、重合性単量体としてブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート及びN−メチロールアクリルアミドを含む粒子状重合体A3と、ガラス転移温度72℃であって、重合性単量体としてブチルアクリレート及びスチレンを有する粒子状重合体B1とを含む接着層を少なくとも片面に有し、微多孔膜が形成された多孔性ポリオレフィンフィルムからなり、接着層における粒子状重合体A3と粒子状重合体B1との重量比(A3/B1)は15/85であリ、リチウムイオン二次電池の構成要素として用いられる接着層付セパレータ。

<甲1C発明>(実施例5)
ガラス転移温度−38℃であって、重合性単量体としてブチルアクリレート及びN−メチロールアクリルアミドを含む粒子状重合体A1と、ガラス転移温度55℃であって、重合性単量体としてブチルアクリレート及びスチレンを有する粒子状重合体B3とを含む接着層を少なくとも片面に有し、微多孔膜が形成された多孔性ポリオレフィンフィルムからなり、接着層における粒子状重合体A1と粒子状重合体B3との重量比(A1/B3)は15/85であリ、リチウムイオン二次電池の構成要素として用いられる接着層付セパレータ。

<甲1D発明>(実施例10及び11)
ガラス転移温度−38℃であって、重合性単量体としてブチルアクリレート及びN−メチロールアクリルアミドを含む粒子状重合体A4又はA5と、ガラス転移温度72℃であって、重合性単量体としてブチルアクリレート及びスチレンを有する粒子状重合体B4又はB5とを含む接着層を少なくとも片面に有し、微多孔膜が形成された多孔性ポリオレフィンフィルムからなり、接着層における粒子状重合体A4又はA5と粒子状重合体B4又はB5との重量比(A4/B4又はA5/B5)は15/85であリ、リチウムイオン二次電池の構成要素として用いられる接着層付セパレータ。

<甲1E発明>(実施例12)
ガラス転移温度−38℃であって、重合性単量体としてブチルアクリレート及びN−メチロールアクリルアミドを含む粒子状重合体A1と、ガラス転移温度72℃であって、重合性単量体としてブチルアクリレート及びスチレンを有する粒子状重合体B1とを含む接着層を少なくとも片面に有し、微多孔膜が形成された多孔性ポリオレフィンフィルムからなり、接着層における粒子状重合体A1と粒子状重合体B1との重量比(A1/B1)は5/95であリ、リチウムイオン二次電池の構成要素として用いられる接着層付セパレータ。

<甲1F発明>(実施例13)
ガラス転移温度−38℃であって、重合性単量体としてブチルアクリレート及びN−メチロールアクリルアミドを含む粒子状重合体A1と、ガラス転移温度72℃であって、重合性単量体としてブチルアクリレート及びスチレンを有する粒子状重合体B1とを含む接着層を少なくとも片面に有し、微多孔膜が形成された多孔性ポリオレフィンフィルムからなり、接着層における粒子状重合体A1と粒子状重合体B1との重量比(A1/B1)は35/65であリ、リチウムイオン二次電池の構成要素として用いられる接着層付セパレータ。

<甲1G発明>(実施例14)
ガラス転移温度4℃であって、重合性単量体としてエチルアクリレート及びN−メチロールアクリルアミドを含む粒子状重合体A8と、ガラス転移温度72℃であって、重合性単量体としてブチルアクリレート及びスチレンを有する粒子状重合体B1とを含む接着層を少なくとも片面に有し、微多孔膜が形成された多孔性ポリオレフィンフィルムからなり、接着層における粒子状重合体A8と粒子状重合体B1との重量比(A8/B1)は15/85であリ、リチウムイオン二次電池の構成要素として用いられる接着層付セパレータ。

<甲1H発明>
甲1A発明〜甲1G発明の接着層付セパレータを含むリチウムイオン二次電池。

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1A発明の対比・判断
(ア)対比
a 本件発明1と甲1A発明とを対比すると、甲1A発明の「微多孔膜が形成された多孔性ポリオレフィンフィルム」、「接着層」及び「リチウムイオン二次電池の構成要素として用いられる接着層付セパレータ」は、本件発明1の「ポリオレフィン微多孔膜からなる基材」、「電極と接着する」、「層」及び「蓄電デバイス用セパレータ」にそれぞれ相当する。
b また、「ブチルアクリレート」、「N−メチロールアクリルアミド」及び「スチレン」が「熱可塑性ポリマー」であることは技術常識であるから、甲1A発明の接着層に含まれる「ブチルアクリレート」、「N−メチロールアクリルアミド」及び「スチレン」は、本件発明1の電極と接着する層に含有される「熱可塑性ポリマー」に相当する。
c さらに、「ブチルアクリレート」が「(メタ)アクリル酸エステル単量体」に含まれ、「スチレン」が「芳香族ビニル化合物単量体」に含まれることは技術常識であるから、甲1A発明の「ガラス転移温度72℃であって、重合性単量体としてブチルアクリレート及びスチレンを有する粒子状重合体B1」は、本件発明1の「ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマー」である「芳香族ビニル化合物単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する第1の共重合体」に相当する。
d また、前記のとおり「ブチルアクリレート」が「(メタ)アクリル酸エステル単量体」に含まれることは技術常識であるから、甲1A発明の「ガラス転移温度−38℃であって、重合性単量体としてブチルアクリレート及びN−メチロールアクリルアミドを含む粒子状重合体A1」は、本件発明1の「ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマー」である「(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体」に相当する。
e そして、甲1A発明の「粒子状重合体A1と粒子状重合体B1との重量比(A1/B1)は15/85」は、本件発明1の「前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーと、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーとの混合比が、質量基準で50:50〜5:95」に相当する。
f してみると、本件発明1と甲1A発明とは、以下の一致点1において一致するとともに、以下の相違点1Aにおいて相違する。

<一致点1>
「ポリオレフィン微多孔膜からなる基材と、その基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された、電極と接着する熱可塑性ポリマーを含有する層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、
前記熱可塑性ポリマーがガラス転移温度を少なくとも2つ有しており、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃未満の領域に存在し、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃以上の領域に存在し、
前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、芳香族ビニル化合物単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する第1の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーと、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーとの混合比が、質量基準で50:50〜5:95である、
蓄電デバイス用セパレータ。」である点。

<相違点1A>
基材の表面上に存在する熱可塑性ポリマーを含有する層について、本件発明1は、「基材の一面当たりの表面積に対して80%以下の割合で、当該基材の表面上に存在する」ものであるのに対し、甲1A発明は、基材の表面上に存在する割合が不明な点。

(イ)判断
a 申立人が、令和3年3月12日付けの意見書とともに提出した参考資料1−1〜1−3には、以下の事項が記載されている。
b 参考資料1−1:特開2007−59271号公報
「【請求項1】
架橋構造を有すると共に、反応性官能基を有し、5倍以上の膨潤度と5〜100%のゲル分率を有する反応性ポリマー粒子を相互に融着させて形成した接着剤層を基材多孔質フィルムに担持させてなることを特徴とする電池用セパレータのための接着剤担持多孔質フイルム。」
「【0044】
また、反応性ポリマーからなる接着剤層を基材多孔質フィルム上に形成し、担持させるに際して、接着剤層を基材多孔質フィルムの全面に形成し、担持させてもよく、また、基材多孔質フィルム上に、例えぱ、線状、斑点状、格子目状、縞状、亀甲模様状等のように、部分的に形成し、担持させてもよい。
【0045】
反応性ポリマー粒子担持多孔質フイルムを電池用セパレータとして用いることを考慮すれば、電極との接着性や電池特性の観点から、基材多孔質フィルムの表面積の5%以上、好ましくは、10%以上の割合にて接着剤層を担持させることが望ましく、他方、得られた電池において、イオン透過性にすぐれるように、基材多孔質フィルムの表面積の95%以下、特に、80%以下の割合にて接着剤層を担持させることもできる。」
c 参考資料1−2:特開2004−342572号公報
「【請求項1】
分子内に官能基を有し、この官能基に対して反応性を有する多官能化合物と反応することによって架橋し得る反応性ポリマーを用意し、これに多官能化合物を反応させ、一部、架橋させてなる部分架橋接着剤を基材多孔質フィルムに担持させてなることを特徴とする、電池用セパレータのための部分架橋接着剤担持多孔質フィルム。」
「【0046】
更に、本発明によれば、基材多孔質フィルムに反応性ポリマーと多官能化合物とからなる架橋性接着剤を塗布する際に、部分的に、即ち、例えば、筋状、斑点状、格子目状、縞状、亀甲模様状等に部分的に塗布するのが好ましく、特に、接着剤を塗布する基材多孔質フィルムの表面の面積の5〜95%の範囲で上記架橋性接着剤を塗布し、反応性ポリマーを一部、架橋させることによって、電極と多孔質フィルム(従って、セパレータ)との間に強固な接着を得ると共に、そのような電極/セパレータ接合体を用いることによって、すぐれた特性を有する電池を得ることができる。
【0047】
以下、本発明において、多孔質フィルムがその表面に部分架橋接着剤を担持している割合を部分架橋接着剤の担持率という。例えば、多孔質フィルムがその一表面の全面に部分架橋接着剤を担持しているとき、その一表面における担持率は100%であり、例えば、多孔質フィルムがその表表裏両面に筋状や点状に部分架橋接着剤を有し、部分架橋接着剤を担持している割合が各表面においてその面積の50%であるとき、担持率は表裏両面においてそれぞれ50%である。
【0048】
このようにして、本発明によれば、基材多孔質フィルムの表面に担持率5〜95%の範囲で部分架橋接着剤を担持させるのが好ましく、担持率10〜90%の範囲の一層好ましく、担持率20〜80%が最も好ましい。
【0049】
このように、基材多孔質フィルムに部分的に部分架橋接着剤の層を設けることによって、多孔質フィルムのイオン透過性を確保しつつ、他方において、部分架橋接着剤の層の厚みを0.5μm以上に大きくして、最終的に得られる電池において、電極と多孔質フィルム(セパレータ)との間に強固な接着を得ることができる。」
d 参考資料1−3:特開2013−219006号公報
「【請求項1】
接着樹脂を含み、二次電池用セパレータと二次電池用電極とを接着させるための二次電池用接着樹脂組成物であって、
接着樹脂が、下記(A)及び(B)を含み、かつ、(A)及び(B)からなる相がコアシェル異相構造及び/又は海島状異相構造である組成物。
(A)ガラス転移温度が−30℃〜+20℃である樹脂
(B)(A)よりガラス転移温度が高く、その差が20℃〜200℃である樹脂」
「【0049】
(塗布方法)
本発明の組成物を塗布する場合、セパレータ又は電極の表面の全面に略均一に塗布(以下「連続塗布」と記載することがある)してもよいし、セパレータ又は電極の表面の一部に塗布(以下「不連続塗布」と記載することがある)してもよい。」
「【0051】
乾燥後の接着層の膜厚は、0.005〜100μmであることが好ましく、0.005〜20μmであることがより好ましく、0.005〜10μmであることがさらに好ましい。
また、乾燥後の接着層の被覆率は、5〜100%であることが好ましい。接着層の被覆率とは、セパレータ又は電極の塗布面全体の面積に対する、接着層の面積の割合であり、例えば、マイクロスコープを用いて、接着層を1〜1000倍の視野で観察することにより、求めることができる。
連続塗布で得られる積層体の場合、乾燥後の接着層の被覆率は、30〜100%であることが好ましく、50〜100%であることがより好ましく、70〜100%であることがさらに好ましい。
不連続塗布で得られる積層体の場合、乾燥後の接着層の被覆率は、5〜80%であることが好ましく、10〜70%であることがより好ましく、10〜60%であることがさらに好ましい。
膜厚及び塗布面積が上記の範囲内であると、得られる二次電池の内部抵抗を大幅には上昇させない傾向にあるため、好ましい。」
e 上記参考資料1−1〜1−3の記載から、二次電池における、基材となる電池用セパレータに設けられるポリマーである接着層について、基材表面積の80%以下の割合にて接着剤層を担持させるという上記相違点1Aに係る事項は、本件発明が属する技術分野における周知の技術的手段であると認められるとともに、当該手段により、セパレータである基材多孔質フィルムのイオン透過性確保や二次電池の内部抵抗を大幅には上昇させないという効果を奏するものであるといえる。
f 一方、甲第1号証には、接着層の形成方法に関し以下の事項が記載されている。
「[0051](接着層付セパレータの製造方法)
接着層付セパレータは、上述した多孔性ポリオレフィンフィルムの片面もしくは両面に、前述した粒子状重合体AおよびBを含む接着層を形成して得られる。接着層の形成方法は特に限定はされないが、粒子状重合体AおよびBを含む、所定粘度に調整された接着層用水分散スラリーを多孔性ポリオレフィンフィルムの片面もしくは両面に塗布、乾燥する方法が簡便であり、作業衛生上の点からも好ましい。
・・・
[0057] 接着層用水分散スラリーの塗工法は、特に限定はされず、例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、およびハケ塗り法などの方法が挙げられる。」
「[0105](実施例1)
(1−1.粒子状重合体A1の製造)
・・・
[0108](1−2.粒子状重合体B1の製造)
・・・
[0111](1−3.接着層用スラリーの製造)
上記工程(1−1)で得られた粒子状重合体A1の水分散液、上記工程(1−2)で得られた粒子状重合体B1の水分散液を、固形分重量比(A1/B1)が15/85となるように、インペラー式攪拌機を用いて、水中で混合した後、粒子状重合体A1および粒子状重合体B1の合計の固形分100部に対して、湿潤剤(サンノプコ株式会社製、商品名:SNウエット980)を固形分割合が5部となるように混合し、次いで、粒子状重合体A1、粒子状重合体B1および湿潤剤全体の固形分濃度が3質量%となるようイオン交換水で希釈することにより、接着層用水分散スラリーを得た。
・・・
[0113](1−4.接着層付セパレータの製造)
多孔性ポリオレフィンフィルムとして、多孔性ポリエチレンフィルム(厚さ16μm、ガーレー値147sec/100cc)を用意した。用意した多孔性ポリエチレンフィルムの片面に、前記接着層用水分散スラリーを塗布し、50℃で10分乾燥させた。次に多孔性ポリエチレンフィルムのもう一方の面にも同様に塗布し、これにより、多孔性ポリエチレンフィルムの両面に接着層を有する、接着層付セパレータを得た。得られたセパレータの接着層の片面の平均厚さは、0.8μmであった。得られたセパレータについて、透気性の評価と、後述する負極との電極接着性の評価を行った。結果を表2に示す。」
g 上記のとおり、甲第1号証には、セパレータである多孔性ポリエチレンフィルムの両面に接着層用水分散スラリーを塗布することが記載されているに過ぎず、甲第1号証においては、セパレータの表面上に存在する接着層の割合を調整することが想定されていないから、甲1A発明に上記周知技術を適用することが想定されているとはいえない。また、上記周知技術の適用により、セパレータである基材多孔質フィルムのイオン透過性確保や二次電池の内部抵抗を大幅には上昇させないという新たな効果を奏するから、上記相違点1Aは、課題解決のための具体化手段における微差とはいえない。
h してみると、本件発明1と甲1A発明とは実質同一であるとはいえない。

イ 本件発明1と甲1B発明〜甲1G発明の対比・判断
(ア)対比
本件発明1と甲1B発明〜甲1G発明とを対比すると、甲1B発明〜甲1G発明における粒子状重合体の組成(重合性単量体の種類や粒子状重合体の重量比)も含め、いずれも上記ア(ア)と同様であることから、両者は、上記一致点1において一致するとともに、以下の相違点1Bにおいて相違する。

<相違点1B>
基材の表面上に存在する熱可塑性ポリマーを含有する層について、本件発明1は、「基材の一面当たりの表面積に対して80%以下の割合で、当該基材の表面上に存在する」ものであるのに対し、甲1B発明〜甲1G発明は、基材の表面上に存在する割合が不明な点。

(イ)判断
上記相違点1Bについての判断は、上記ア(イ)における相違点1Aについての判断と同様であるから、本件発明1と甲1B発明〜甲1G発明とは実質同一であるとはいえない。

ウ 本件発明1についての小括
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明と同一であるとはいえない。

エ 申立人の主張について
(ア)申立人は、令和 3年10月15日提出の意見書(以下、単に「意見書」という。)の3.(3−1 決定の予告における取消理由1について)において、特許権者の「引用発明に周知技術を付加することが適切か否か」についての検討に対し、概略以下a、bの主張をしている。
a 甲第1号証の段落[0023]には、空孔を塞がないように粒子状重合体特性を制御されており、また、参考資料5〜7には、空孔を塞がない手法として、接着層を全面に形成しないことが記載されているから、表面被覆率に関する周知技術は、明細書自体から知ることができる具体的内容に関連するものである。
b イオン導電性を維持するという観点から、甲1発明において表面被覆率に係る構成を付加する必要性は十分に生じており、相違点に係る構成を付加しても、イオン導電性が維持されることに変わりはないから、それにより新たな効果を奏することはない。(当審注:「甲1発明」は「甲1A発明」〜「甲1G発明」の総称。以下同様。)

(イ)しかしながら、申立人の上記主張は以下のとおり採用することができない。
a 甲第1号証では、空孔を塞がないように粒子状重合体特性を制御しているため、接着層を全面としない必要性が生じておらず、そのような周知技術を付加することが想定されているとはいえない。
b 甲第1号証では、すでにイオン導電性が維持されているのだから、周知技術を付加することが想定されているとはいえない。

(3)本件発明2について
ア 本件発明2と甲1A発明の対比・判断
(ア)対比
本件発明2と甲1A発明とを対比すると、本件発明1と甲1A発明との対比に係る上記(2)ア(ア)a〜eと同様であることから、両者は、上記一致点1において一致するとともに、以下の相違点2A−1及び相違点2A−2において相違する。

<相違点2A−1>
本件発明2は、「(1)アルミニウム箔(冨士加工紙(株)製アルミニウム箔、厚さ:20μm)に、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを2:3の比率(体積比)にて混合した電解液に濡らした前記蓄電デバイス用セパレータを、前記熱可塑性ポリマーを含有する層の側から重ね合わせ、それらを重ね合わせた方向に80℃、10MPaの圧力で2分間加圧した後、前記アルミニウム箔と前記蓄電デバイス用セパレータとの間を引張速度50mm/分で剥離した際の90°剥離強度。」及び「(2)アルミニウム箔(冨士加工紙(株)製アルミニウム箔、厚さ:20μm)に、前記蓄電デバイス用セパレータを、前記熱可塑性ポリマーを含有する層の側から重ね合わせ、それらを重ね合わせた方向に80℃、10MPaの圧力で2分間加圧した後、前記アルミニウム箔と前記蓄電デバイス用セパレータとの間を引張速度50mm/分で剥離した際の90°剥離強度。」の「少なくとも一方の剥離強度が、4mN/mm以上」であるのに対し、甲1A発明は、その剥離強度が不明な点。

<相違点2A−2>
本件発明2は、「条件(i):前記第2の共重合体が、メチルメタクリレート及びブチルアクリレートに由来する単位を含む。」及び「条件(ii):前記第2の共重合体がN−メチロールアクリルアミドに由来する単位を含む場合を除く。」の少なくとも一方を満たすのに対し、甲1A発明は、その両方を満たさない点。

(イ)判断
a 事案に鑑み相違点2A−2から判断すると、甲第1号証において、粒子状重合体Aは、接着層に十分な接着性を与え、接着層から粒子状重合体Bが脱落すること(粉落ち)を防止することを目的として、接着層に含まれる成分(段落[0023]、[0024])であって、その具体例として、甲1A発明(実施例1及び6〜9)では、重合性単量体としてブチルアクリレート及びN−メチロールアクリルアミドを含む粒子状重合体A1が選択されている。
b 条件(i)について、粒子状重合体A1にメチルメタクリレートを加えることが、周知技術又は慣用技術であると認める理由はないから、条件(i)は、課題解決のための具体化手段における微差とはいえない。
c 条件(ii)について、申立人は意見書の3.(2−1)において、「NMAが取り扱いの難しい単量体であることが周知であることは明らかであるから、接着性の低下を考慮するまでもなく、取り扱いの難しいNMAを工業的観点から使用を避けようとすることも周知である。すなわち、構成6は周知技術の付加である。
また、参考資料1には、第2の共重合体がNMAを含む場合、架橋した重合体の変形性が損なわれ、接着性が低下することが記載されているから、この点からも、構成6は周知技術の付加である。」また、参考文献2〜4を参照すると、「NMAを含まず、ガラス転移温度が20℃未満であり、(メタ)アクリル酸エステル単量体を含む共重合体を接着層として用いた場合に、良好な接着性が得られることは周知であるから、相違点6は、新たな効果を奏するとは言えない。すなわち、相違点6は課題解決のための具体化手段における微差に相当する。」と主張する。(当審注:NMAは「N−メチロールアクリルアミド」であり、構成6は、「前記第2の共重合体が、N−メチロールアクリルアミドに由来する単位を含む場合を除く」である。)
d しかしながら、甲第1号証においては、NMAの使用を避けようとする上記周知技術があっても、NMAを使用することが記載されているのであるから、甲第1号証には、N−メチロールアクリルアミドを除くことが記載されているとはいえない。
e また、申立人が述べるとおり、「参考資料2(国際公開第2011/013604号)の実施例(特に、実施例3、4、11、12および13)、参考資料3(特開2005−166756号公報)の実施例1および2、参考資料4(特開2011−243464号公報)の実施例1〜3、5〜7には、訂正発明6の第2の共重合体と同様に、NMAを含まず、ガラス転移温度が20℃未満であり、(メタ)アクリル酸エステル単量体を含む共重合体を、本件特許が属する技術分野において接着層として用いることが開示されている。これらの共重合体は接着層として機能することを期待されているから、その接着性が良好であることは明らかである。たとえば、参考資料3の表2では、実施例1および2はピール強度が良好であることが記載されている。」から、NMAを除くことで、接着性が向上するという新たな効果を奏するから、条件(ii)は、課題解決のための具体化手段における微差とはいえない。
f したがって、相違点2A−1について検討するまでもなく、本件発明2と甲1A発明とは実質同一であるとはいえない。

イ 本件発明2と甲1B発明〜甲1G発明の対比・判断
(ア)対比
本件発明2と甲1B発明〜甲1G発明とを対比すると、本件発明1と甲1B発明〜甲1G発明との対比に係る上記(2)イ(ア)a〜eと同様であることから、両者は、上記一致点1において一致するとともに、以下の相違点2B−1及び相違点2B−2において相違する。

<相違点2B−1>
本件発明2は、「(1)アルミニウム箔(冨士加工紙(株)製アルミニウム箔、厚さ:20μm)に、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを2:3の比率(体積比)にて混合した電解液に濡らした前記蓄電デバイス用セパレータを、前記熱可塑性ポリマーを含有する層の側から重ね合わせ、それらを重ね合わせた方向に80℃、10MPaの圧力で2分間加圧した後、前記アルミニウム箔と前記蓄電デバイス用セパレータとの間を引張速度50mm/分で剥離した際の90°剥離強度。」及び「(2)アルミニウム箔(冨士加工紙(株)製アルミニウム箔、厚さ:20μm)に、前記蓄電デバイス用セパレータを、前記熱可塑性ポリマーを含有する層の側から重ね合わせ、それらを重ね合わせた方向に80℃、10MPaの圧力で2分間加圧した後、前記アルミニウム箔と前記蓄電デバイス用セパレータとの間を引張速度50mm/分で剥離した際の90°剥離強度。」の「少なくとも一方の剥離強度が、4mN/mm以上」であるのに対し、甲1B発明〜甲1G発明は、その剥離強度が不明な点。

<相違点2B−2>
本件発明2は、「条件(i):前記第2の共重合体が、メチルメタクリレート及びブチルアクリレートに由来する単位を含む。」及び「条件(ii):前記第2の共重合体がN−メチロールアクリルアミドに由来する単位を含む場合を除く。」の少なくとも一方を満たすのに対し、甲1B発明〜甲1G発明は、その両方を満たさない点。

(イ)判断
a 事案に鑑み相違点2B−2から判断すると、相違点2B−2についての判断は、上記ア(イ)における相違点2A−2についての判断と同様であるから、相違点2B−1について検討するまでもなく、本件発明2と甲1B発明〜甲1G発明とは実質同一であるとはいえない。

ウ 本件発明2についての小括
したがって、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明と同一であるとはいえない。

(4)本件発明3について
ア 本件発明3と甲1A発明〜甲1G発明の対比・判断
(ア)対比
本件発明3と甲1A発明〜甲1G発明とを対比すると、本件発明1と甲1A発明〜甲1G発明との対比に係る上記(2)ア(ア)a〜e、(2)イ(ア)と同様であることから、両者は、上記一致点1において一致するとともに、以下の相違点3−1及び相違点3−2において相違する。

<相違点3−1>
本件発明3は、「(3)重ね合わせた20mm×100mmの前記セパレータ2枚と、それらのセパレータを挟んだ2枚のPTFEシートとを備えるサンプルを、温度25℃、圧力10MPaの条件で2分間加圧した後、前記サンプルにおけるセパレータ同士を引張速度50mm/分で剥離した際の90°剥離強度。」が「40mN/mm以下」であるのに対し、甲1A発明〜甲1G発明は、その剥離強度が不明な点。

<相違点3−2>
本件発明3は、「条件(i):前記第2の共重合体が、メチルメタクリレート及びブチルアクリレートに由来する単位を含む。」及び「条件(ii):前記第2の共重合体がN−メチロールアクリルアミドに由来する単位を含む場合を除く。」の少なくとも一方を満たすのに対し、甲1A発明〜甲1G発明は、その両方を満たさない点。

(イ)判断
事案に鑑み相違点3−2から判断すると、相違点3−2についての判断は、上記(3)アにおける相違点2A−2についての判断と同様であるから、相違点3−1について検討するまでもなく、本件発明3と甲1A発明〜甲1G発明とは実質同一であるとはいえない。

イ 本件発明3についての小括
したがって、本件発明3は、甲第1号証に記載された発明と同一であるとはいえない。

(5)本件発明4について
ア 本件発明4と甲1A発明の対比・判断
(ア)対比
本件発明4と甲1A発明とを対比すると、甲1A発明の「ブチルアクリレート」は、本件発明4の「(メタ)アクリル酸の炭化水素エステル」に含まれ、その余の点については、本件発明1と甲1A発明との対比に係る上記(2)ア(ア)a〜eと同様であることから、両者は、以下の一致点4において一致するとともに、以下の相違点4Aにおいて相違する。

<一致点4>
「ポリオレフィン微多孔膜からなる基材と、その基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された、電極と接着する熱可塑性ポリマーを含有する層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、
前記熱可塑性ポリマーがガラス転移温度を少なくとも2つ有しており、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃未満の領域に存在し、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃以上の領域に存在し、
前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、芳香族ビニル化合物単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する第1の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーと、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーとの混合比が、質量基準で50:50〜5:95であり
前記(メタ)アクリル酸エステル単量体が、(メタ)アクリル酸の炭化水素エステルを含む、
蓄電デバイス用セパレータ。」である点。

<相違点4A>
本件発明4は、「前記第2の共重合体が、メチルメタクリレート及びブチルアクリレートに由来する単位を含む」のに対し、甲1A発明は、メチルメタクリレートを含まない点。

(イ)判断
a 甲第1号証において、粒子状重合体Aは、接着層に十分な接着性を与え、接着層から粒子状重合体Bが脱落すること(粉落ち)を防止することを目的として、接着層に含まれる成分(段落[0023]、[0024])であって、その具体例として、甲1A発明(実施例1及び6〜9)では、重合性単量体としてブチルアクリレート及びN−メチロールアクリルアミドを含む粒子状重合体A1が選択されている。
b そうすると、粒子状重合体A1において、メチルメタクリレートを加えることが、甲第1号証に記載されているとはいえない。
c したがって、本件発明4と甲1A発明とは実質同一であるとはいえない。

イ 本件発明4と甲1B発明〜甲1G発明の対比・判断
(ア)対比
a 本件発明4と甲1B発明〜甲1G発明とを対比すると、甲1B発明〜甲1G発明における粒子状重合体の組成(重合性単量体の種類や粒子状重合体の重量比)も含め、いずれも上記ア(ア)と同様であることから、両者は、上記一致点4において一致するとともに、以下の相違点4Bにおいて相違する。

<相違点4B>
本件発明4は、「前記第2の共重合体が、メチルメタクリレート及びブチルアクリレートに由来する単位を含む」のに対し、甲1B発明〜甲1F発明は、メチルメタクリレートを含まず、甲1G発明は、メチルメタクリレート及びブチルアクリレート含まない点。

(イ)判断
相違点4Bについての判断は、上記ア(イ)における相違点4Aについての判断と同様であるから、本件発明4と甲1B発明〜甲1G発明とは実質同一であるとはいえない。

ウ 本件発明4についての小括
したがって、本件発明4は、甲第1号証に記載された発明と同一であるとはいえない。

(6)本件発明5について
ア 本件発明5と甲1A発明の対比・判断
(ア)対比
本件発明5と甲1A発明とを対比すると、甲1A発明の「ガラス転移温度72℃であって、重合性単量体としてブチルアクリレート及びスチレンを有する粒子状重合体B1」は、本件発明5の「ガラス転移温度が20℃以上120℃以下の領域に存在する共重合体粒子であ」る「第1の共重合体」に相当し、その余の点については、本件発明1と甲1A発明との対比に係る上記(2)ア(ア)a〜eと同様であることから、両者は、以下の一致点5において一致するとともに、以下の相違点5A−1及び相違点5A−2において相違する。

<一致点5>
「ポリオレフィン微多孔膜からなる基材と、その基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された、電極と接着する熱可塑性ポリマーを含有する層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、
前記熱可塑性ポリマーがガラス転移温度を少なくとも2つ有しており、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃未満の領域に存在し、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃以上の領域に存在し、
前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、芳香族ビニル化合物単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する第1の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーと、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーとの混合比が、質量基準で50:50〜5:95であり
前記第1の共重合体が、ガラス転移温度が20℃以上120℃以下の領域に存在する共重合体粒子である、
蓄電デバイス用セパレータ。」である点。

<相違点5A−1>
本件発明5は、「第1の共重合体が有する、740cm-1〜770cm-1の波数における赤外吸収ピーク強度に対する1720cm-1〜1750cm-1の波数における赤外吸収ピーク強度の比が、1〜18」であるのに対し、甲1A発明は、そのような赤外吸収ピーク強度の比を有するのか不明な点。

<相違点5A−2>
基材の表面上に存在する熱可塑性ポリマーを含有する層について、本件発明5は、「ドット状、格子目状、線状、縞状及び亀甲模様状からなる群より選択される少なくとも1つの形態で、当該基材の表面上に存在する」ものであるのに対し、甲1A発明は、基材の表面上に存在する形態が不明な点。

(イ)判断
a 事案に鑑み相違点5A−2から判断するに、上記(2)ア(イ)eと同様に、基材多孔質フィルムに形成する接着剤層について、「線状」又は「筋状」、「斑点状、格子目状、縞状、亀甲模様状」等のように部分的に設けるという上記相違点5A−2に係る事項(ここで、「斑点状」は、本件発明5における「ドット状」に相当するものといえる。)は、本件発明が属する技術分野における周知の技術的手段であると認められる。
b しかしながら、上記(2)ア(イ)fのとおり、甲第1号証には、セパレータである多孔性ポリエチレンフィルムの両面に接着層用水分散スラリーを塗布することが記載されているに過ぎず、甲第1号証においては、セパレータの表面上に存在する接着層の割合を調整することが想定されていないから、甲1A発明に上記周知技術を適用することが想定されているとはいえない。また、上記周知技術の適用により、セパレータである基材多孔質フィルムのイオン透過性確保や二次電池の内部抵抗を大幅には上昇させないという新たな効果を奏するから、上記相違点5A−2は、課題解決のための具体化手段における微差とはいえない。
c してみると、相違点5A−1について検討するまでもなく、本件発明5と甲1A発明とは、実質同一であるとはいえない。

イ 本件発明5と甲1B発明〜甲1G発明の対比・判断
(ア)対比
本件発明5と甲1B発明〜甲1G発明とを対比すると、甲1B発明〜甲1G発明における粒子状重合体の組成(重合性単量体の種類や粒子状重合体の重量比)も含め、いずれも上記ア(ア)と同様であることから、両者は、上記一致点5において一致するとともに、以下の相違点5B−1及び相違点5B−2において相違する。

<相違点5B−1>
本件発明5は、「第1の共重合体が有する、740cm-1〜770cm-1の波数における赤外吸収ピーク強度に対する1720cm-1〜1750cm-1の波数における赤外吸収ピーク強度の比が、1〜18」であるのに対し、甲1B発明〜甲1G発明は、そのような赤外吸収ピーク強度の比を有するのか不明な点。

<相違点5B−2>
基材の表面上に存在する熱可塑性ポリマーを含有する層について、本件発明5は、「ドット状、格子目状、線状、縞状及び亀甲模様状からなる群より選択される少なくとも1つの形態で、当該基材の表面上に存在する」ものであるのに対し、甲1B発明〜甲1G発明は、基材の表面上に存在する形態が不明な点。

(イ)判断
a 事案に鑑み相違点5B−2から判断するに、相違点5B−2についての判断は、上記ア(イ)における相違点5A−2についての判断と同様であるから、相違点5B−1について検討するまでもなく、本件発明5と甲1B発明〜甲1G発明とは、実質同一であるとはいえない。

ウ 本件発明5についての小括
したがって、本件発明5は、甲第1号証に記載された発明と同一であるとはいえない。

(7)本件発明6について
ア 本件発明6と甲1A発明の対比・判断
(ア)対比
a 本件発明6と甲1A発明とを対比すると、甲1A発明の「ブチルアクリレート」は、本件発明6の「炭素原子数が4以上の鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸の炭化水素エステル」であり、その余の点については、本件発明1と甲1A発明との対比に係る上記(2)ア(ア)a〜eと同様であることから、両者は、以下の一致点6において一致するとともに、以下の相違点6Aにおいて相違する。

<一致点6>
「ポリオレフィン微多孔膜からなる基材と、その基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された、電極と接着する熱可塑性ポリマーを含有する層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、
前記熱可塑性ポリマーがガラス転移温度を少なくとも2つ有しており、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃未満の領域に存在し、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃以上の領域に存在し、
前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、芳香族ビニル化合物単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する第1の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーと、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーとの混合比が、質量基準で50:50〜5:95であり
前記第1の共重合体における単量体単位としての前記(メタ)アクリル酸エステル単量体は、炭素原子数が4以上の鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体及びシクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体からなる群より選ばれる1種以上の単量体である、
蓄電デバイス用セパレータ。」である点。

<相違点6A>
本件発明6は、「前記第2の共重合体が、N−メチロールアクリルアミドに由来する単位を含む場合を除く」のに対し、甲1A発明は、N−メチロールアクリルアミドを含む点。

(イ)判断
相違点6Aについての判断は、上記(3)ア(イ)における相違点2A−2についての判断と同様であるから、本件発明6と甲1A発明とは実質同一であるとはいえない。

イ 本件発明6と甲1B発明〜甲1G発明の対比・判断
(ア)対比
a 本件発明6と甲1B発明〜甲1G発明とを対比すると、甲1B発明〜甲1F発明における粒子状重合体の組成(重合性単量体の種類や粒子状重合体の重量比)も含め、いずれも上記ア(ア)と同様であり、甲1G発明の「エチルアクリレート」も、本件発明6の「炭素原子数が4以上の鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸の炭化水素エステル」であることから、両者は、上記一致点6において一致するとともに、以下の相違点6Bにおいて相違する。

<相違点6B>
本件発明6は、「前記第2の共重合体が、N−メチロールアクリルアミドに由来する単位を含む場合を除く」のに対し、甲1B発明〜甲1G発明は、N−メチロールアクリルアミドを含む点。

(イ)判断
相違点6Bについての判断は、上記(3)ア(イ)における相違点2A−2についての判断と同様であるから、本件発明6と甲1B発明〜甲1G発明とは実質同一であるとはいえない。

ウ 本件発明6についての小括
したがって、本件発明6は、甲第1号証に記載された発明と同一であるとはいえない。


(8)本件発明7について
ア 本件発明7と甲1A発明〜甲1G発明の対比・判断
(ア)対比
本件発明7と甲1A発明〜甲1G発明とを対比すると、本件発明1と甲1A発明〜甲1G発明との対比に係る上記(2)ア(ア)a〜e、(2)イ(ア)と同様であることから、両者は、上記一致点1において一致するとともに、以下の相違点7−1及び相違点7−2において相違する。

<相違点7−1>
本件発明7は、「前記熱可塑性ポリマーを含有する層の担持量は、固形分として0.05g/m2以上1.50g/m2以下」であるのに対し、甲1A発明〜甲1G発明は、その担持量が不明な点。

<相違点7−2>
本件発明7は、「条件(i):前記第2の共重合体が、メチルメタクリレート及びブチルアクリレートに由来する単位を含む。」及び「条件(ii):前記第2の共重合体がN−メチロールアクリルアミドに由来する単位を含む場合を除く。」の少なくとも一方を満たすのに対し、甲1A発明〜甲1G発明は、その両方を満たさない点。

(イ)判断
事案に鑑み相違点7−2から判断すると、相違点7−2についての判断は、上記(3)アにおける相違点2A−2についての判断と同様であるから、相違点7−1について検討するまでもなく、本件発明7と甲1A発明〜甲1G発明とは実質同一であるとはいえない。

イ 本件発明7についての小括
したがって、本件発明7は、甲第1号証に記載された発明と同一であるとはいえない。

(9)本件発明8について
ア 本件発明8と甲1H発明の対比・判断
(ア)本件発明8と甲1H発明とを対比すると、上記(2)、(6)のとおりであるから、本件発明8と甲1H発明とは実質同一であるとはいえない。

イ 本件発明8についての小括
したがって、本件発明8は、甲第1号証に記載された発明と同一であるとはいえない。

(10)本件発明9について
ア 本件発明9と甲1H発明の対比・判断
(ア)本件発明9と甲1H発明とを対比すると、上記(3)〜(5)、(7)、(8)のとおりであるから、本件発明9と甲1H発明とは実質同一であるとはいえない。

イ 本件発明9についての小括
したがって、本件発明9は、甲第1号証に記載された発明と同一であるとはいえない。

(11)まとめ
以上のとおり、本件発明1〜9は、甲第1号証に記載された発明と同一であるとはいえない。
したがって、取消理由1−2、取消理由1−1、申立理由1(拡大先願)によっては、本件特許の請求項1〜9に係る特許を取り消すことはできない。

2 取消理由2−1、申立理由3(新規性
取消理由3−2、取消理由3−1、申立理由4(進歩性
(1)甲第3号証に記載された発明
上記第5の3の摘示のうち、特に[請求項1]〜[請求項3]を引用する[請求項9]並びに[請求項10]を踏まえつつ、段落[0190]の[表7]における実施例19に着目すると、甲第3号証には、以下の2つの発明(以下、それぞれ「甲3A発明」及び「甲3B発明」という。)が記載されているものと認められる。

<甲3A発明>
「ポリオレフィン樹脂を含む微孔膜である多孔性基材としてポリエチレン製のものが用いられた有機セパレーター、及び
前記有機セパレーター上に形成された以下の二次電池用多孔膜を備える、二次電池用セパレーターであって、
前記二次電池用多孔膜が、
非導電性粒子、粒子状重合体及び水溶性重合体を含み、
前記非導電性粒子が、コアシェル構造を有する重合体の粒子であり、
前記非導電性粒子のコア部の分解点が、270℃であり、
前記非導電性粒子のコア部は分解点が高いので、ヒートプレスの際に加熱されても融解せず、粒子形状を維持するものであり、
前記非導電性粒子のシェル部が、97℃に軟化開始点を有し、
前記非導電性粒子のシェル部は、ヒートプレスを行うと融解して有機セパレーター及び電極に密着し、冷ますと硬化して有機セパレーター及び電極に強固に固着し、多孔膜の接着性を高めるものであり、
前記非導電性粒子のシェル部は、単量体として、メタクリル酸メチル(MMA)37.0部、アクリル酸ブチル(BA)13.0部、スチレン(ST)50.0部を重合したものであり、
前記粒子状重合体のガラス転移点が、−35℃であり、
前記粒子状重合体は、当該粒子状重合体が有する結着性によって多孔膜の接着性を高めることができるものであり、
前記粒子状重合体は、単量体として、アクリル酸ブチル(BA)66.8部、アクリル酸エチル(EA)17.0部、メタクリル酸(MAA)2.0部、アクリロニトリル(AN)12.0部、アリルグリシジルエーテル(AGE)1.0部、N−メチロールアクリルアミド(NMA)1.2部を重合したものであり、
前記水溶性重合体の軟化開始点が、85℃以上であり、
前記水溶性重合体は、多孔膜において非導電性粒子同士を結着する作用や、多孔膜の剛性を高めたりブロッキングを抑制したりする作用を有し、多孔膜用スラリーにおいて粘度を調整しうる増粘剤として機能するものであり、
前記非導電性粒子のシェル部及び前記粒子状重合体が、(メタ)アクリレート単位を50重量%以上含む、二次電池用多孔膜である、二次電池用セパレーター。」

<甲3B発明>
「甲3A発明の二次電池用セパレーターを備える、二次電池。」

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲3A発明の対比・判断
(ア)対比
a 本件発明1と甲3A発明とを対比すると、甲3A発明の「ポリエチレン製のものが用いられた」「ポリオレフィン樹脂を含む微孔膜である多孔性基材」は、本件発明1の「ポリオレフィン微多孔膜からなる基材」に含まれるものである。
b また、甲3A発明に含まれる重合体のうち、「非導電性粒子のシェル部」及び「粒子状重合体」が、多孔膜の接着性を高めるものであり、「非導電性粒子のシェル部」及び「粒子状重合体」は、(メタ)アクリレート単位を50重量%以上含むものであって、(メタ)アクリレートが熱可塑性ポリマーであることは技術常識であるから、甲3A発明の「非導電性粒子のシェル部」及び「粒子状重合体」は、本件発明1の「電極と接着する熱可塑性ポリマー」に相当し、さらに、甲3A発明の「非導電性粒子のシェル部」及び「粒子状重合体」を含む「二次電池用多孔膜」並び「二次電池用セパレーター」は、本件発明1の「電極と接着する熱可塑性ポリマーを含有する層」並びに「蓄電デバイス用セパレータ」にそれぞれ相当し、甲3A発明の「有機セパレーター上に形成された」「二次電池用多孔膜」は、本件発明1の「基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された」「層」に相当する。
c そして、甲3A発明の「粒子状重合体」のガラス転移点は−35℃であり、甲3A発明の「非導電性粒子のシェル部」の軟化開始点は97℃であるところ、甲第3号証の段落[0021]には、「ガラス転移点より25℃高い温度を、軟化開始点とする」と記載されており、「非導電性粒子のシェル部」のガラス転移点は72℃であるといえることから、甲3A発明が「非導電性粒子のシェル部」及び「粒子状重合体」を有することは、本件発明1の「前記熱可塑性ポリマーがガラス転移温度を少なくとも2つ有しており、前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃未満の領域に存在し、前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃以上の領域に存在し」に相当する。
d また、甲3A発明の「非導電性粒子のシェル部」は、芳香族ビニル化合物単量体である「スチレン(ST)」と、(メタ)アクリル酸エステル単量体である「メタクリル酸メチル(MMA)」及び「アクリル酸ブチル(BA)」を含むもので構成されることから、本件発明1の「前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、芳香族ビニル化合物単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する第1の共重合体を含み」に相当する。
e さらに、甲3A発明の「粒子状重合体が、(メタ)アクリレート単位を50重量%以上含み」は、本件発明1の「前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体を含み」に相当する。
f してみると、本件発明1と甲3A発明とは、以下の一致点8において一致するとともに、以下の相違点8−1及び相違点8−2において相違する。

<一致点8>
「ポリオレフィン微多孔膜からなる基材と、その基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された、電極と接着する熱可塑性ポリマーを含有する層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、
前記熱可塑性ポリマーがガラス転移温度を少なくとも2つ有しており、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃未満の領域に存在し、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃以上の領域に存在し、
前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、芳香族ビニル化合物単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する第1の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体を含む、
蓄電デバイス用セパレータ。」である点。

<相違点8−1>
本件発明1は、「前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーと、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーとの混合比が、質量基準で50:50〜5:95である」のに対し、甲3A発明は、その混合比が不明な点。

<相違点8−2>
基材の表面上に存在する熱可塑性ポリマーを含有する層について、本件発明1は、「基材の一面当たりの表面積に対して80%以下の割合で、当該基材の表面上に存在する」ものであるのに対し、甲3A発明は、基材の表面上に存在する割合が不明な点。

(イ)判断
a 事案に鑑み相違点8−2から判断すると、上記1(2)ア(イ)eのとおり、二次電池における、基材となる電池用セパレータに設けられるポリマーである接着層について、基材表面積の80%以下の割合にて接着剤層を担持させるという上記相違点8−2に係る事項は、本件発明が属する技術分野における周知の技術的手段であると認められる。
b しかしながら、甲第3号証に記載される二次電池用セパレーターは、正極及び負極の短絡や電気エネルギーの放出の原因となる高温での収縮を抑制することを目的として、セパレーターに多孔膜を設けるものであり(段落[0004]、[0009])、多孔膜は、セパレーターに多孔膜用スラリーを塗布することで製造されている(段落[0075]、[0151])。
c そして、甲第3号証には、セパレータである多孔性ポリエチレンフィルムの両面に接着層用水分散スラリーを塗布することが記載されているに過ぎず、甲第3号証においては、セパレータの表面上に存在する接着層(多孔膜)の割合を調整することが想定されていないから、甲3A発明に上記周知技術を適用することが動機付けられるとはいえない。
d したがって、相違点8−1について検討するまでもなく、本件発明1は甲第3号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件発明1についての小括
本件発明1は甲第3号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 申立人の主張について
(ア)申立人は意見書の3.(3−2 決定の予告における取消理由3について)において、「リチウムイオンニ次電池では、セパレータの空孔を通じてイオンが移動することにより、電池反応が進行する。したがって、セパレータの空孔が塞がれていないかどうかは、電池性能に関わる重大な問題である。そうすると、電池性能の向上につながるセパレータの透過性の向上は、本件特許の属する技術分野では自明の課題である。
したがって、本件特許と同じ技術分野に属する甲3においては、セパレータの透過性の向上という技術的課題を見出すことができる。
さらに、たとえば、参考資料5の【0045】には、「…得られた電池において、イオン透過性にすぐれるように、基材多孔質フィルムの表面積の95%以下、特に、30%以下の割合にて接着剤層を担持させることもできる。」と記載されている(下線は特許異議申立人が付した)。
そうすると、セパレータの透過性の向上という技術的課題が、甲3と参考資料5とで共通しているから、この技術的課題を解決するために、参考資料5の記載に基づき、甲3発明において、表面被覆率を80%以下にすることは当業者が容易になし得る事項である。
なお、甲3において言及されているセパレータの収縮は、甲3の[0004]等に記載されているように、セパレータが高温になった場合に生じる現象である。
そうすると、セパレータの透過性に関する技術的課題を解決するにあたり、高温でのセパレータの収縮を考慮する必要性は低く、表面被覆率を低くする動機を妨げるものではない。」と主張する。
(イ)しかしながら、甲第3号証に記載される多孔膜は、イオンの移動が阻害されない程度に、非導電性粒子同士の隙間を形成することで強度を向上させ、正極及び負極の短絡や電気エネルギーの放出の原因となる高温での収縮を抑制することを目的として、セパレーターに設けるものである(段落[0004]、[0009]、[0035]、[0039])。
そして、正極及び負極が短絡すると二次電池が発火するおそれがあるから、「高温でのセパレータの収縮を考慮する必要性」が低いとはいえず、安全性を犠牲にしてまで、イオンの透過性を向上させるために表面被覆率を低くすることが動機付けられるとはいえない。
(ウ)したがって、申立人の上記主張は採用できない。

(3)本件発明2について
ア 本件発明2と甲3A発明の対比・判断
(ア)対比
本件発明2と甲3A発明とを対比すると、本件発明1と甲3A発明との対比に係る上記(2)ア(ア)a〜eと同様であることから、両者は、上記一致点8において一致するとともに、以下の相違点9−1〜相違点9−3において相違する。

<相違点9−1>
本件発明2は、「前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーと、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーとの混合比が、質量基準で50:50〜5:95である」のに対し、甲3A発明は、その混合比が不明な点。

<相違点9−2>
本件発明2は、「(1)アルミニウム箔(冨士加工紙(株)製アルミニウム箔、厚さ:20μm)に、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを2:3の比率(体積比)にて混合した電解液に濡らした前記蓄電デバイス用セパレータを、前記熱可塑性ポリマーを含有する層の側から重ね合わせ、それらを重ね合わせた方向に80℃、10MPaの圧力で2分間加圧した後、前記アルミニウム箔と前記蓄電デバイス用セパレータとの間を引張速度50mm/分で剥離した際の90°剥離強度。」及び「(2)アルミニウム箔(冨士加工紙(株)製アルミニウム箔、厚さ:20μm)に、前記蓄電デバイス用セパレータを、前記熱可塑性ポリマーを含有する層の側から重ね合わせ、それらを重ね合わせた方向に80℃、10MPaの圧力で2分間加圧した後、前記アルミニウム箔と前記蓄電デバイス用セパレータとの間を引張速度50mm/分で剥離した際の90°剥離強度。」の「少なくとも一方の剥離強度が、4mN/mm以上」であるのに対し、甲3A発明は、その剥離強度が不明な点。

<相違点9−3>
本件発明2は、「条件(i):前記第2の共重合体が、メチルメタクリレート及びブチルアクリレートに由来する単位を含む。」及び「条件(ii):前記第2の共重合体がN−メチロールアクリルアミドに由来する単位を含む場合を除く。」の少なくとも一方を満たすのに対し、甲3A発明は、その両方を満たさない点。

(イ)判断
a 事案に鑑み相違点9−3から判断すると、甲第3号証において、粒子状重合体は、多孔膜において結着剤として機能しうる成分であり、中でも、非導電性粒子のシェル部との親和性を高めて耐粉落ち性を向上させるために選択された成分(段落[0041])であって、実施例19では、ブチルアクリレート及びN−メチロールアクリルアミドを含む粒子状重合体が選択されている。
b 条件(i)について、粒子状重合体にメチルメタクリレートを加える理由はないから、条件(i)が動機付けられるとはいえない。
c 条件(ii)について、申立人は意見書の3.(3−2 決定の予告における取消理由3について)において、意見書の3.(2−1)と同様の主張(上記1(3)ア(イ)c参照)をしている。
d しかしながら、甲第3号証においては、NMAの使用を避けようとする上記周知技術があっても、NMAを使用することが記載されているのであるから、甲第3号証には、N−メチロールアクリルアミドを除くことが動機付けられるとはいえない。
e したがって、相違点9−1及び相違点9−2について検討するまでもなく、本件発明2は甲第3号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件発明2についての小括
本件発明2は甲第3号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明3について
ア 本件発明3と甲3A発明の対比・判断
(ア)対比
本件発明3と甲3A発明とを対比すると、本件発明1と甲3A発明との対比に係る上記(2)ア(ア)a〜eと同様であることから、両者は、上記一致点8において一致するとともに、以下の相違点10−1〜相違点10−3において相違する。

<相違点10−1>
本件発明3は、「前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーと、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーとの混合比が、質量基準で50:50〜5:95である」のに対し、甲3A発明は、その混合比が不明な点。

<相違点10−2>
本件発明3は、「(3)重ね合わせた20mm×100mmの前記セパレータ2枚と、それらのセパレータを挟んだ2枚のPTFEシートとを備えるサンプルを、温度25℃、圧力10MPaの条件で2分間加圧した後、前記サンプルにおけるセパレータ同士を引張速度50mm/分で剥離した際の90°剥離強度。」が「40mN/mm以下」であるのに対し、甲3A発明は、その剥離強度が不明な点。

<相違点10−3>
本件発明3は、「条件(i):前記第2の共重合体が、メチルメタクリレート及びブチルアクリレートに由来する単位を含む。」及び「条件(ii):前記第2の共重合体がN−メチロールアクリルアミドに由来する単位を含む場合を除く。」の少なくとも一方を満たすのに対し、甲3A発明は、その両方を満たさない点。

(イ)判断
事案に鑑み相違点10−3から判断すると、相違点10−3についての判断は、上記(3)ア(イ)における相違点9−3についての判断と同様であるから、相違点10−1及び相違点10−2について検討するまでもなく、本件発明3は甲第3号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件発明3についての小括
本件発明3は甲第3号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)本件発明4について
ア 本件発明4と甲3A発明の対比・判断
(ア)対比
a 本件発明4と甲3A発明とを対比すると、甲3発明の「アクリル酸ブチル(BA)」は、本件発明4の「(メタ)アクリル酸の炭化水素エステル」に含まれ、その余の点については、本件発明1と甲3A発明との対比に係る上記(2)ア(ア)a〜eと同様であることから、両者は、以下の一致点11において一致するとともに、以下の相違点11−1及び相違点11−2において相違する。

<一致点11>
「ポリオレフィン微多孔膜からなる基材と、その基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された、電極と接着する熱可塑性ポリマーを含有する層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、
前記熱可塑性ポリマーがガラス転移温度を少なくとも2つ有しており、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃未満の領域に存在し、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃以上の領域に存在し、
前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、芳香族ビニル化合物単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する第1の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体を含み、
前記(メタ)アクリル酸エステル単量体が、(メタ)アクリル酸の炭化水素エステルを含む、
蓄電デバイス用セパレータ。」である点。

<相違点11−1>
本件発明4は、「前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーと、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーとの混合比が、質量基準で50:50〜5:95である」のに対し、甲3A発明は、その混合比が不明な点。

<相違点11−2>
本件発明4は、「前記第2の共重合体が、メチルメタクリレート及びブチルアクリレートに由来する単位を含む」のに対し、甲3A発明は、メチルメタクリレートを含まない点。

(イ)判断
事案に鑑み相違点11−2から判断すると、相違点11−2についての判断は、上記(3)ア(イ)における相違点9−3についての判断と同様であるから、相違点11−1について検討するまでもなく、本件発明4は甲第3号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件発明4についての小括
本件発明4は甲第3号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(6)本件発明5について
ア 本件発明5と甲3A発明の対比・判断
(ア)対比
本件発明5と甲3A発明とを対比すると、本件発明1と甲3A発明との対比に係る上記(2)ア(ア)a〜eと同様であることから、両者は、上記一致点8において一致するとともに、以下の相違点12−1〜相違点12−4において相違する。

<相違点12−1>
本件発明5は、「前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーと、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーとの混合比が、質量基準で50:50〜5:95である」のに対し、甲3A発明は、その混合比が不明な点。

<相違点12−2>
本件発明5は、「第1の共重合体が有する、740cm-1〜770cm-1の波数における赤外吸収ピーク強度に対する1720cm-1〜1750cm-1の波数における赤外吸収ピーク強度の比が、1〜18」であるのに対し、甲3A発明は、そのような赤外吸収ピーク強度の比を有するのか不明な点。

<相違点12−3>
本件発明5は、「前記第1の共重合体が、ガラス転移温度が20℃以上120℃以下の領域に存在する共重合体粒子」であるのに対し、甲3A発明は、軟化開始点は97℃であるのが非導電性粒子のシェル部である点。

<相違点12−4>
基材の表面上に存在する熱可塑性ポリマーを含有する層について、本件発明5は、「ドット状、格子目状、線状、縞状及び亀甲模様状からなる群より選択される少なくとも1つの形態で、当該基材の表面上に存在する」ものであるのに対し、甲3A発明は、基材の表面上に存在する形態が不明な点。

(イ)判断
a 事案に鑑み相違点12−4から判断すると、上記1(2)ア(イ)eと同様に、基材多孔質フィルムに形成する接着剤層について、「線状」又は「筋状」、「斑点状、格子目状、縞状、亀甲模様状」等のように部分的に設けるという上記相違点12−4に係る事項(ここで、「斑点状」は、本件発明5における「ドット状」に相当するものといえる。)は、本件発明が属する技術分野における周知の技術的手段であると認められる。
b しかしながら、甲第3号証に記載される二次電池用セパレーターは、高温での収縮を抑制することを目的として、セパレーターに多孔膜を設けるものであり(段落[0009])、多孔膜は、セパレーターに多孔膜用スラリーを塗布することで製造されている(段落[0075]、[0151])。
c そして、甲第3号証には、セパレータである多孔性ポリエチレンフィルムの両面に接着層用水分散スラリーを塗布することが記載されているに過ぎず、甲第3号証においては、セパレータの表面上に存在する接着層(多孔膜)の割合を調整することが想定されていないから、甲3A発明に上記周知技術を適用することが動機付けられるとはいえない。
d したがって、相違点12−1〜相違点12−3について検討するまでもなく、本件発明5は甲第3号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件発明5についての小括
本件発明5は甲第3号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 申立人の主張について
(ア)申立人は意見書の3.(3−2 決定の予告における取消理由3について)において、「上述したように、甲3実施例19に関して、表面被覆率を下げる方向に変更しても、課題を十分に解決できる。さらに、セパレータの透過性の向上という技術的課題が、甲3と参考資料5とで共通しているから、この技術的課題を解決するために、参考資料5の記載に基づき、甲3発明において、接着層の形態を、表面被覆率が100%未満であるドット状等にすることは当業者が容易になし得る事項である。
したがって、甲3において、表面被覆率を低くする動機は生じ得ないとの特許権者の主張は失当である。」と主張する。
(イ)しかしながら、甲第3号証に記載される多孔膜は、イオンの移動が阻害されない程度に、非導電性粒子同士の隙間を形成することで強度を向上させ、正極及び負極の短絡や電気エネルギーの放出の原因となる高温での収縮を抑制することを目的として、セパレーターに設けるものである(段落[0004]、[0009]、[0035]、[0039])。
そして、正極及び負極が短絡すると二次電池が発火するおそれがあるから、「高温でのセパレータの収縮を考慮する必要性」が低いとはいえず、安全性を犠牲にしてまで、イオンの透過性を向上させるために表面被覆率を低くすることが動機付けられるとはいえない。
(ウ)したがって、申立人の上記主張は採用できない。

(7)本件発明6について
ア 本件発明6と甲3A発明の対比・判断
(ア)対比
a 本件発明6と甲3A発明とを対比すると、甲3発明の「アクリル酸ブチル(BA)」は、本件発明6の「炭素原子数が4以上の鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸の炭化水素エステル」であり、その余の点については、本件発明1と甲3A発明との対比に係る上記(2)ア(ア)a〜eと同様であることから、両者は、以下の一致点13において一致するとともに、以下の相違点13−1及び相違点13−2において相違する。

<一致点13>
「ポリオレフィン微多孔膜からなる基材と、その基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された、電極と接着する熱可塑性ポリマーを含有する層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、
前記熱可塑性ポリマーがガラス転移温度を少なくとも2つ有しており、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃未満の領域に存在し、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃以上の領域に存在し、
前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、芳香族ビニル化合物単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する第1の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体を含み、
前記第1の共重合体における単量体単位としての前記(メタ)アクリル酸エステル単量体は、炭素原子数が4以上の鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体及びシクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体からなる群より選ばれる1種以上の単量体である、
蓄電デバイス用セパレータ。」である点。

<相違点13−1>
本件発明6は、「前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーと、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーとの混合比が、質量基準で50:50〜5:95である」のに対し、甲3A発明は、その混合比が不明な点。

<相違点13−2>
本件発明6は、「前記第2の共重合体が、N−メチロールアクリルアミドに由来する単位を含む場合を除く」のに対し、甲3A発明は、N−メチロールアクリルアミドを含む点。

(イ)判断
事案に鑑み相違点13−2から判断すると、相違点13−2についての判断は、上記(3)ア(イ)における相違点9−3についての判断と同様であるから、相違点13−1について検討するまでもなく、本件発明6は甲第3号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件発明6についての小括
本件発明6は甲第3号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(8)本件発明7について
ア 本件発明7と甲3A発明の対比・判断
(ア)対比
本件発明7と甲3A発明とを対比すると、本件発明1と甲3A発明との対比に係る上記(2)ア(ア)a〜eと同様であることから、両者は、上記一致点8において一致するとともに、以下の相違点14−1〜相違点14−3において相違する。

<相違点14−1>
本件発明7は、「前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーと、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーとの混合比が、質量基準で50:50〜5:95である」のに対し、甲3A発明は、その混合比が不明な点。

<相違点14−2>
本件発明7は、「前記熱可塑性ポリマーを含有する層の担持量は、固形分として0.05g/m2以上1.50g/m2以下」であるのに対し、甲3A発明は、その担持量が不明な点。

<相違点14−3>
本件発明7は、「条件(i):前記第2の共重合体が、メチルメタクリレート及びブチルアクリレートに由来する単位を含む。」及び「条件(ii):前記第2の共重合体がN−メチロールアクリルアミドに由来する単位を含む場合を除く。」の少なくとも一方を満たすのに対し、甲3A発明は、その両方を満たさない点。

(イ)判断
事案に鑑み相違点14−3から判断すると、相違点14−3についての判断は、上記(3)ア(イ)における相違点9−3についての判断と同様であるから、相違点14−1及び相違点14−2について検討するまでもなく、本件発明7は甲第3号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件発明7についての小括
本件発明7は甲第3号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(9)本件発明8について
ア 本件発明8と甲3B発明の対比・判断
(ア)本件発明8と甲3B発明とを対比すると、上記(2)、(6)のとおりであるから、本件発明8は甲第3号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件発明8についての小括
したがって、本件発明8は甲第3号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(10)本件発明9について
ア 本件発明9と甲3B発明の対比・判断
(ア)本件発明9と甲3B発明とを対比すると、上記(3)〜(5)、(7)、(8)のとおりであるから、本件発明9は甲第3号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件発明9についての小括
したがって、本件発明9は甲第3号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(11)まとめ
以上のとおり、本件発明1〜9は甲第3号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、取消理由2−1、申立理由3(新規性)、取消理由3−2、取消理由3−1、申立理由4(進歩性)によっては、本件特許の請求項1〜9に係る特許を取り消すことはできない。

3 申立理由2(拡大先願)
(1)甲第2号証に記載された発明
上記第5の2の摘示のうち、特に[請求項4]を引用する[請求項7]及び[請求項7]を引用する[請求項8]を踏まえつつ、段落[0191]の[表1]及び段落[0192]の[表2]の実施例1〜10に着目すると、甲第2号証には、以下の2つの発明(以下、それぞれ「甲2A発明」及び「甲2B発明」という。)が記載されているものと認められる。

<甲2A発明>
「ポリオレフィン樹脂を含む微孔膜である多孔性基材としてポリエチレン製のものが用いられた有機セパレーター層、及び
前記有機セパレーター層上に形成された以下の二次電池用多孔膜を備える、二次電池用セパレーターであって、
前記二次電池用多孔膜が、
非導電性粒子及び多孔膜用バインダーを含み、
前記多孔膜用バインダーが、
粒子状であり、非水電解液に対しての膨潤度が10倍未満である多孔膜用バインダーA、
非粒子状であり、非水電解液に対しての膨潤度が10倍〜50倍である多孔膜用バインダーB、及び、
非粒子状であり、非水電解液に対しての膨潤度が5倍未満である多孔膜用バインダーCを含み、
前記多孔膜用バインダーAが、アクリル酸ブチルを単量体として含む重合体であり、
前記多孔膜用バインダーBが、アクリル酸ブチル、スチレン及びアクリロニトリルを単量体として含む重合体であって、電極と多孔膜とを強力に結着させる成分であり、
前記多孔膜用バインダーAと前記多孔膜用バインダーBとが、固形分換算量で等量含まれる、二次電池セパレーター用多孔膜を備える、二次電池用セパレーター。」

<甲2B発明>
「甲2A発明の二次電池用セパレーターを備える、二次電池。」

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲2A発明の対比・判断
(ア)対比
a 本件発明1と甲2A発明とを対比すると、甲2A発明の「ポリエチレン製のものが用いられた」「ポリオレフィン樹脂を含む微孔膜である多孔性基材」は、本件発明1の「ポリオレフィン微多孔膜からなる基材」に含まれるものである。
b また、甲2A発明に含まれる重合体のうち、「多孔膜用バインダーB」は、多孔膜の接着性を高めるものであり、「多孔膜用バインダーA」は、アクリル酸ブチルを含み、「多孔膜用バインダーB」は、アクリル酸ブチル、スチレン、アクリロニトリルを含むものであって、アクリル酸ブチル、スチレン、アクリロニトリルが熱可塑性ポリマーであることは技術常識であるから、甲2A発明の「多孔膜用バインダーA」及び「多孔膜用バインダーB」は、本件発明1の「電極と接着する熱可塑性ポリマー」に相当し、さらに、甲2A発明の「多孔膜用バインダーA」及び「多孔膜用バインダーB」を含む「二次電池用多孔膜」並び「二次電池用セパレーター」は、本件発明1の「電極と接着する熱可塑性ポリマーを含有する層」並びに「蓄電デバイス用セパレータ」にそれぞれ相当し、甲2A発明の「有機セパレーター上に形成された」「二次電池用多孔膜」は、本件発明1の「基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された」「層」に相当する。
c そして、甲2A発明の「多孔膜用バインダーA」は、アクリル酸ブチルを含むことから、本件発明1の「熱可塑性ポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体」に相当し、「多孔膜用バインダーB」は、アクリル酸ブチルとスチレンを含むことから、本件発明1の「熱可塑性ポリマーが、芳香族ビニル化合物単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する第1の共重合体」に相当する。また、「多孔膜用バインダーA」及び「多孔膜用バインダーB」はそれぞれ異なる成分を含むことから、両者のガラス転移温度は異なると推認される。
d してみると、本件発明1と甲2A発明とは、以下の一致点15において一致するとともに、以下の相違点15−1〜相違点15−3において相違する。

<一致点15>
「ポリオレフィン微多孔膜からなる基材と、その基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された、電極と接着する熱可塑性ポリマーを含有する層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、
前記熱可塑性ポリマーがガラス転移温度を少なくとも2つ有しており、
一方の熱可塑性ポリマーが、芳香族ビニル化合物単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する第1の共重合体を含み、
他方の熱可塑性ポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体を含む、
蓄電デバイス用セパレータ。」である点。

<相違点15−1>
本件発明1は、「第1の共重合体」の「ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在し」、「第2の共重合体」の「ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在」するのに対し、甲2A発明は、「多孔膜用バインダーB」及び「多孔膜用バインダーA」のガラス転移温度が不明である点。

<相違点15−2>
本件発明1は、「前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーと、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーとの混合比が、質量基準で50:50〜5:95である」のに対し、甲2A発明は、その混合比が不明な点。

<相違点15−3>
基材の表面上に存在する熱可塑性ポリマーを含有する層について、本件発明1は、「基材の一面当たりの表面積に対して80%以下の割合で、当該基材の表面上に存在する」ものであるのに対し、甲2A発明は、基材の表面上に存在する割合が不明な点。

(イ)判断
a 相違点15−1から判断すると、甲第2号証には、「多孔膜用バインダーA」及び「多孔膜用バインダーB」のガラス転移温度が記載されていないから、相違点15−1は実質的な相違点である。また、上記相違点が、課題解決のための具体化手段における微差ともいえない。
b したがって、相違点15−2及び相違点15−3について検討するまでもなく、本件発明1と甲2A発明とは実質同一であるとはいえない。

イ 本件発明1についての小括
したがって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明と同一であるとはいえない。

(3)本件発明2〜7について
ア 本件発明2〜7と甲2A発明の対比・判断
(ア)対比
本件発明2〜7と甲2A発明とを対比すると、本件発明1と甲2A発明との対比に係る上記(2)ア(ア)a〜cと同様であることから、両者は、少なくとも、相違点15−1と同様の点で相違するが、この相違点についての判断は、上記(2)ア(イ)における相違点15−1についての判断と同様であるから、本件発明2〜7と甲2A発明とは実質同一であるとはいえない。

イ 本件発明2〜7についての小括
したがって、本件発明2〜7は、甲第2号証に記載された発明と同一であるとはいえない。

(4)本件発明8について
ア 本件発明8と甲2B発明の対比・判断
(ア)本件発明8と甲2B発明とを対比すると、上記(2)、(3)のとおりであるから、本件発明8は、甲第2号証に記載された発明と実質同一であるとはいえない。

イ 本件発明8についての小括
したがって、本件発明8は、甲第2号証に記載された発明と同一であるとはいえない。

(5)本件発明9について
ア 本件発明9と甲2B発明の対比・判断
(ア)本件発明9と甲2B発明とを対比すると、上記(3)のとおりであるから、本件発明9は、甲第2号証に記載された発明と実質同一であるとはいえない。

イ 本件発明9についての小括
したがって、本件発明9は、甲第2号証に記載された発明と同一であるとはいえない。

(6)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の第29ページ第17行〜第30ページ第4行において、
「なお、多孔膜用バインダーA−1〜A−5および多孔膜用バインダーB−1〜B−8について、ガラス転移温度は記載されていない。
しかしながら、本件特許明細書の段落【0048】に記載されているFOXの式を用いて、ガラス転移温度を計算すると、A−1のガラス転移温度が−50℃・・・、B−8のガラス転移温度が167℃ となる。
したがって、A−1〜A−5、B−1〜 B−4、B−6およびB−8のガラス転移温度が、要件[D]に記載のガラス転移温度を満足する。
FOXの式を用いて算出されるガラス転移温度は、本件特許発明1において規定される実測値としてのガラス転移温度とは異なるものの、要件[D]に記載のガラス転移温度の範囲を考慮すると、A−1〜A−5、B−1〜 B−4、B−6およびB−8のガラス転移温度の実測値が、要件[D]に記載のガラス転移温度の範囲から外れることを示す技術常識は存在しない。
そうすると、A−1〜A−5、B−1〜 B−4、B−6およびB−8のガラス転移温度を測定した場合であっても、甲第2号証の実施例1〜11に係る二次電池用セパレーターを構成する二次電池セパレーター用多孔膜は、ガラス転移温度が20℃未満である共重合体と、ガラス転移温度が20℃以上である共重合体とを含む蓋然性は極めて高い。
したがって、甲第2号証に記載の二次電池用セパレーターは、本件特許発明1の要件[D]、[D−1]および[D−2]を満足する。」と主張する。
しかしながら、本件明細書の段落【0048】には、FOXの式により求められるポリマーのTgが概算である旨記載されており、また、申立人も認めるとおり、「FOXの式を用いて算出されるガラス転移温度は、」「実測値としてのガラス転移温度とは異なるもの」である。
そうすると、A−1〜A−5、B−1〜 B−4、B−6およびB−8のガラス転移温度が実測値で何℃となるかは不明であるから、甲第2号証に、熱可塑性ポリマーのガラス転移温度が記載されているとは認められない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

(7)まとめ
以上のとおり、本件発明1〜9は、甲第2号証に記載された発明と同一であるとはいえない。
したがって、申立理由2(拡大先願)によっては、本件特許の請求項1〜9に係る特許を取り消すことはできない。

4 申立理由5(新規事項)
(1)申立人の主張
申立人は、平成30年 5月31日付け手続補正書により補正された請求項1に「前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体を含み」との発明特定事項が追加されたが、上記の補正は新たな技術的事項を導入するものである旨主張する。

(2)判断
本件明細書の段落【0144】の【表1】、段落【0151】の【表2】には、水分散体A7として、ガラス転移温度が−10℃の熱可塑性ポリマーが、メチルメタクリレート(MMA)及びブチルアクリレート(BA)を単量体単位として有することが記載されているから、上記補正は、本件明細書に記載した事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。

(3)申立人の補足説明について
申立人は、特許異議申立書の第42ページ第14〜16行において、「表1に基づく『芳香族ビニル化合物単量体を含まない、(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する共重合体のガラス転移温度が20℃未満である』という発明特定事項は自明な事項とはいえない。」と主張しているが、上記水分散体A7は、芳香族ビニル化合物単量体であるスチレンを含まない共重合体であるから、上記の補正は新たな技術的事項を導入するものであるとはいえず、申立人の上記主張は採用できない。

(4)まとめ
以上のとおり、平成30年 5月31日付けの手続補正は、本件明細書に記載した事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。
したがって、申立理由5(新規事項)によっては、本件特許の請求項1〜9に係る特許を取り消すことはできない。

第7 まとめ
以上のとおりであるから、特許異議申立書の申立理由及び当審から通知した取消理由によっては、本件特許の請求項1〜9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1〜9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン微多孔膜からなる基材と、その基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された、電極と接着する熱可塑性ポリマーを含有する層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、
前記熱可塑性ポリマーがガラス転移温度を少なくとも2つ有しており、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃未満の領域に存在し、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃以上の領域に存在し、
前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、芳香族ビニル化合物単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する第1の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーと、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーとの混合比が、質量基準で50:50〜5:95であり、
前記熱可塑性ポリマーを含有する層が、前記基材の一面当たりの表面積に対して80%以下の割合で、当該基材の表面上に存在する、蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項2】
ポリオレフィン微多孔膜からなる基材と、その基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された、電極と接着する熱可塑性ポリマーを含有する層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、
前記熱可塑性ポリマーがガラス転移温度を少なくとも2つ有しており、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃未満の領域に存在し、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃以上の領域に存在し、
前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、芳香族ビニル化合物単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する第1の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーと、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーとの混合比が、質量基準で50:50〜5:95であり、
下記(1)及び(2)の少なくとも一方の剥離強度が、4mN/mm以上であり、
下記条件(i)及び(ii)の少なくとも一方を満たす、蓄電デバイス用セパレータ。
(1)アルミニウム箔(冨士加工紙(株)製アルミニウム箔、厚さ:20μm)に、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを2:3の比率(体積比)にて混合した電解液に濡らした前記蓄電デバイス用セパレータを、前記熱可塑性ポリマーを含有する層の側から重ね合わせ、それらを重ね合わせた方向に80℃、10MPaの圧力で2分間加圧した後、前記アルミニウム箔と前記蓄電デバイス用セパレータとの間を引張速度50mm/分で剥離した際の90°剥離強度。
(2)アルミニウム箔(冨士加工紙(株)製アルミニウム箔、厚さ:20μm)に、前記蓄電デバイス用セパレータを、前記熱可塑性ポリマーを含有する層の側から重ね合わせ、それらを重ね合わせた方向に80℃、10MPaの圧力で2分間加圧した後、前記アルミニウム箔と前記蓄電デバイス用セパレータとの間を引張速度50mm/分で剥離した際の90°剥離強度。
条件(i):前記第2の共重合体が、メチルメタクリレート及びブチルアクリレートに由来する単位を含む。
条件(ii):前記第2の共重合体がN−メチロールアクリルアミドに由来する単位を含む場合を除く。
【請求項3】
ポリオレフィン微多孔膜からなる基材と、その基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された、電極と接着する熱可塑性ポリマーを含有する層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、
前記熱可塑性ポリマーがガラス転移温度を少なくとも2つ有しており、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃未満の領域に存在し、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃以上の領域に存在し、
前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、芳香族ビニル化合物単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する第1の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーと、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーとの混合比が、質量基準で50:50〜5:95であり、
下記(3)の剥離強度が40mN/mm以下であり、
下記条件(i)及び(ii)の少なくとも一方を満たす、蓄電デバイス用セパレータ。
(3)重ね合わせた20mm×100mmの前記セパレータ2枚と、それらのセパレータを挟んだ2枚のPTFEシートとを備えるサンプルを、温度25℃、圧力10MPaの条件で2分間加圧した後、前記サンプルにおけるセパレータ同士を引張速度50mm/分で剥離した際の90゜剥離強度。
条件(i):前記第2の共重合体が、メチルメタクリレート及びブチルアクリレートに由来する単位を含む。
条件(ii):前記第2の共重合体がN−メチロールアクリルアミドに由来する単位を含む場合を除く。
【請求項4】
ポリオレフィン微多孔膜からなる基材と、その基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された、電極と接着する熱可塑性ポリマーを含有する層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、
前記熱可塑性ポリマーがガラス転移温度を少なくとも2つ有しており、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃未満の領域に存在し、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃以上の領域に存在し、
前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、芳香族ビニル化合物単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する第1の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーと、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーとの混合比が、質量基準で50:50〜5:95であり、
前記(メタ)アクリル酸エステル単量体が、(メタ)アクリル酸の炭化水素エステルを含み、
前記第2の共重合体が、メチルメタクリレート及びブチルアクリレートに由来する単位を含む、蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項5】
ポリオレフィン微多孔膜からなる基材と、その基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された、電極と接着する熱可塑性ポリマーを含有する層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、
前記熱可塑性ポリマーがガラス転移温度を少なくとも2つ有しており、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃未満の領域に存在し、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃以上の領域に存在し、
前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、芳香族ビニル化合物単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する第1の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーと、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーとの混合比が、質量基準で50:50〜5:95であり、
前記第1の共重合体が有する、740cm−1〜770cm−1の波数における赤外吸収ピーク強度に対する1720cm−1〜1750cm−1の波数における赤外吸収ピーク強度の比が、1〜18であり、
前記第1の共重合体が、ガラス転移温度が20℃以上120℃以下の領域に存在する共重合体粒子であり、
前記熱可塑性ポリマーを含有する層が、ドット状、格子目状、線状、縞状及び亀甲模様状からなる群より選択される少なくとも1つの形態で、当該基材の表面上に存在する、蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項6】
ポリオレフィン微多孔膜からなる基材と、その基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された、電極と接着する熱可塑性ポリマーを含有する層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、
前記熱可塑性ポリマーがガラス転移温度を少なくとも2つ有しており、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃未満の領域に存在し、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃以上の領域に存在し、
前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、芳香族ビニル化合物単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する第1の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーと、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーとの混合比が、質量基準で50:50〜5:95であり、
前記第1の共重合体における単量体単位としての前記(メタ)アクリル酸エステル単量体は、炭素原子数が4以上の鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体及びシクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体からなる群より選ばれる1種以上の単量体であり、
ここで、前記第2の共重合体がN−メチロールアクリルアミドに由来する単位を含む場合を除く、蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項7】
ポリオレフィン微多孔膜からなる基材と、その基材の少なくとも片面上の少なくとも一部に形成された、電極と接着する熱可塑性ポリマーを含有する層と、を備える蓄電デバイス用セパレータであって、
前記熱可塑性ポリマーがガラス転移温度を少なくとも2つ有しており、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃未満の領域に存在し、
前記ガラス転移温度のうち少なくとも1つは20℃以上の領域に存在し、
前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、芳香族ビニル化合物単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを単量体単位として有する第1の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル単量体を単量体単位として有する第2の共重合体を含み、
前記ガラス転移温度が20℃未満の領域に存在する熱可塑性ポリマーと、前記ガラス転移温度が20℃以上の領域に存在する熱可塑性ポリマーとの混合比が、質量基準で50:50〜5:95であり、
前記熱可塑性ポリマーを含有する層の担持量は、固形分として0.05g/m2以上1.50g/m2以下であり、
下記条件(i)及び(ii)の少なくとも一方を満たす、蓄電デバイス用セパレータ。
条件(i):前記第2の共重合体が、メチルメタクリレート及びブチルアクリレートに由来する単位を含む。
条件(ii):前記第2の共重合体がN−メチロールアクリルアミドに由来する単位を含む場合を除く。
【請求項8】
請求項1又は5に記載の蓄電デバイス用セパレータを備える蓄電デバイス。
【請求項9】
請求項2,3,4,6及び7のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータを備える蓄電デバイス。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-01-31 
出願番号 P2016-086501
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01M)
P 1 651・ 55- YAA (H01M)
P 1 651・ 161- YAA (H01M)
P 1 651・ 113- YAA (H01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 佐藤 陽一
井上 猛
登録日 2019-12-13 
登録番号 6630620
権利者 旭化成株式会社
発明の名称 蓄電デバイス用セパレータ、蓄電デバイス及びリチウムイオン二次電池  
代理人 北澤 誠  
代理人 大貫 敏史  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 大貫 敏史  
代理人 江口 昭彦  
代理人 赤堀 龍吾  
代理人 内藤 和彦  
代理人 北澤 誠  
代理人 江口 昭彦  
代理人 赤堀 龍吾  
代理人 内藤 和彦  
代理人 稲葉 良幸  

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