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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
管理番号 1383236
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-08-31 
確定日 2022-01-05 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6683213号発明「リチウムイオン二次電池用負極材料、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6683213号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1−6〕について訂正することを認める。 特許第6683213号の請求項1,2,4ないし6に係る特許を維持する。 特許第6683213号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6683213号(請求項の数6。以下「本件特許」という。)についての出願は,2013年(平成25年)10月25日(優先権主張 平成24年10月26日)を国際出願日とする特許出願(特願2014−543371)の一部を平成30年 4月26日に新たな特許出願(特願2018−85237)としたものであって,令和 2年3月30日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は,同年 4月15日である。)。
その後,令和 2年 8月31日に,本件特許の請求項1〜6(全請求項)に係る特許に対して,特許異議申立人 七滝一郎(以下「申立人七滝」という。)より,また,同年10月13日に,同特許に対して,特許異議申立人 麻生陽一郎(以下「申立人麻生」という。)より,それぞれ特許異議の申立てがされ,同年12月23日付けで取消理由が通知され,令和 3年 3月 3日に特許権者より意見書及び訂正請求書が提出され,同年 4月26日付けで訂正拒絶理由が通知され,同年 6月 8日に特許権者より意見書が提出され,同年 7月28日付けで取消理由(決定の予告)が通知され,同年 9月24日に特許権者より意見書及び訂正請求書(以下,この訂正請求書による訂正請求を「本件訂正請求」,本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)が提出され,同年11月12日に申立人麻生より意見書が提出された。なお,申立人七滝は意見書を提出しなかった。

第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
令和 3年 9月24日提出の訂正請求書による本件訂正請求の趣旨は,本件特許の特許請求の範囲を上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1〜6について訂正することを求めるものであり,その内容は,次のとおりである。下線は,訂正箇所を示す。
なお,令和 3年 3月 3日提出の訂正請求書による訂正請求は,特許法第120条の5第7項の規定に基いて,本件訂正請求により取り下げられたものとみなされる。

(1)訂正事項1
訂正前の請求項1に
「前記炭素の含有率が0.5質量%以上5.0質量%未満であり、」とあるのを,
「前記炭素の含有率が0.5質量%以上5.0質量%未満であり、前記炭素は、R値が0.5以上であり、」と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2,4,5,6も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
訂正前の請求項3を削除する。

(3)訂正事項3
訂正前の請求項4に
「請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載」とあるのを,
「請求項1又は請求項2に記載」と訂正する。

2 検討
(1)訂正事項1について
訂正事項1は,訂正前の請求項1において,炭素のR値を「0.5以上」に特定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして,炭素のR値が0.5以上であることは,訂正前の請求項3の「前記炭素は、R値が0.5以上である請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料。」との記載,発明の詳細な説明の段落【0034】の「前記負極材料が炭素を含む場合、前記炭素は低結晶性炭素であることが好ましい。前記炭素が低結晶性炭素であるとは、炭素のラマンスペクトルにおける下記R値が0.5以上であることを意味する。」との記載に照らし,願書に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内であり,また,発明のカテゴリーや対象,目的を変更するものでないから,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は,訂正前の請求項3を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして,請求項3の削除が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内であり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでないことは明らかである。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は,請求項3の削除に伴い,訂正前の請求項4における請求項3の引用を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮ないし明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして,請求項4における請求項3の引用の削除が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内であり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでないことは明らかである。

(4)独立特許要件について
本件においては,本件特許の全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので,特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(5)一群の請求項について
訂正前の請求項1〜6について,請求項2〜6は,請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって,請求項1に連動して訂正されるものである。したがって,請求項1〜6は,一群の請求項を構成する。

3 訂正の適否についてのまとめ
以上,訂正事項1〜3のいずれも,特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号を目的とするものであり,かつ,同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので,本件訂正を認める。

第3 本件発明
上記第2のとおり,本件訂正は認められるので,本件特許の請求項1〜6に係る発明は,訂正特許請求の範囲に記載された事項により特定される,次のとおりのものである(以下,各々「本件発明1〜6」という。)。
「【請求項1】
珪素酸化物と、前記珪素酸化物の表面の一部又は全部に配置された炭素と、を含み、X線回折スペクトルにおいてSi(111)に帰属される回折ピークを有し、前記回折ピークから算出される珪素の結晶子の大きさが2.0nm〜8.0nmであり、前記炭素の含有率が0.5質量%以上5.0質量%未満であり、前記炭素は、R値が0.5以上であり、但し、リチウムがドープされたもの並びにマグネシウム及び/又はカルシウムがドープされたものを除くリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項2】
前記炭素の形状が粒子状又は鱗片状である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
集電体と、
前記集電体上に設けられた、請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料を含む負極材層と、を有するリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項5】
前記負極材層が、ポリアクリロニトリル骨格に、アクリル酸及び直鎖エーテル基を付加した構造を有する有機結着剤を更に含む、請求項4に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項6】
正極と、請求項4又は請求項5に記載のリチウムイオン二次電池用負極と、電解質と、を備えるリチウムイオン二次電池。」

第4 特許異議の申立てについて
1 申立理由及び取消理由の概要
(1)申立人七滝は,本件特許に対する異議理由として下記ア,イを主張し,証拠方法として下記ウの甲第1号証ないし甲第5号証を提示した。

新規性
訂正前の請求項1,3,4,6に係る発明は,下記甲第2号証〜甲第4号証の記載を参照すれば,下記甲第1号証に記載された発明であって,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから,その発明についての特許は,同法第113条第2号に該当する。

進歩性
訂正前の請求項2〜6に係る発明は,下記甲第1号証に記載された発明及び下記甲第2号証〜甲第5号証の記載に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その発明についての特許は,同法第113条第2号に該当する。

ウ 証拠方法
甲第1号証:特開2010−225494号公報(以下「甲A」という。)
甲第2号証:特開2004−47404号公報(以下「甲B」という。)
甲第3号証:特開2004−327190号公報(以下「甲C」という。)
甲第4号証:特開2009−259723号公報(以下「甲D」という。)
甲第5号証:特開2012−124114号公報(以下「甲E」という。)

(2)申立人麻生は,本件特許に対する異議理由として下記ア,イを主張し,証拠方法として下記ウの甲第1号証ないし甲第7号証を提示した。

新規性
訂正前の請求項1〜4,6に係る発明は,下記甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であって,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから,その発明についての特許は,同法第113条第2号に該当する。

進歩性
訂正前の請求項1〜6に係る発明は,下記甲第1号証〜甲第7号証に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その発明についての特許は,同法第113条第2号に該当する。

ウ 証拠方法
甲第1号証:特開2004−47404号公報(上記「甲B」に同じ。)
甲第2号証:特開2004−327190号公報(上記「甲C」に同じ。)
甲第3号証:特開2012−151129号公報
甲第4号証:特開2009−301935号公報
甲第5号証:特開2011−192453号公報
甲第6号証:特開2011−76788号公報
甲第7号証:特開2011−76985号公報

(3)当審は,上記(1)を取消理由として採用し,下記ア,イの取消理由(取消理由(決定の予告)も同じ。)を通知した。
新規性
訂正前の請求項1,2,4,6に係る発明は,甲Aに記載された発明であって,特許法第29条第1項第3号に該当するから,その発明についての特許は,同法第113条第2号に該当する。

進歩性
訂正前の請求項1,2,4〜6に係る発明は,甲Aに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その発明についての特許は,同法第113条第2号に該当する。

2 甲号証の記載
(1)甲A(申立人七滝の甲第1号証)の記載
甲Aには,次の記載がある。なお,「…」は省略を表し,下線は当審が付した。以下同じ。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有する複合粒子であって、珪素ナノ粒子のサイズが1〜100nmであり、かつ0<酸素/珪素(モル比)<1.0である複合粒子からなる非水電解質二次電池用負極材。

【請求項4】
複合粒子の表面が、カーボン被膜で被覆されていることを特徴とする請求項1、2又は3項記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の非水電解質二次電池用負極材を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池。」

「【0017】
本発明における非水電解質二次電池用負極材は導電性を付与することが好ましい。導電性はカーボン等導電性のある粒子と混合したり、上記複合粒子の表面を、カーボン被膜で被覆する方法、両方を組み合わせること等で得られる。カーボン被膜で被覆する方法としては、複合粒子を有機物ガス中で化学蒸着(CVD)する方法が好適であり、熱処理時に反応器内に有機物ガスを導入することで効率よく行うことが可能である。」

「【0031】
[実施例1]
平均粒子径が5μm、BET比表面積が3.5m2 /gのSiOx (x=1.01)100gを、アルゴン通気中1,000℃・3時間熱処理したものを用いた。この熱処理粒子は透過電子顕微鏡により、珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造が確認された。
室温にて、上記処理したものを2Lポリ瓶に投入し、メタノール30mLをなじませてから純水200mLを加えた。浸透させて粉体全体を純水と接触させてから、50質量%フッ化水素水溶液(フッ酸)5mLを静かに加え、攪拌した(フッ化水素濃度1.1質量%、熱処理粒子100gに対してフッ化水素2.5g)。
室温にて1時間静置後、純水で洗浄・濾過したものを120℃・5時間減圧乾燥し、粒子92.5gを得た。この粒子の酸素濃度を堀場製作所EMGA−920で測定したところ、32.3質量%であり、酸素/珪素のモル比は0.84であることが確認された。
この粒子をバッチ式加熱炉内に仕込んだ。油回転式真空ポンプで炉内を減圧しつつ炉内を1,100℃に昇温し、1,100℃に達した後にCH4 ガスを0.3NL/min流入し、5時間のカーボン被覆処理を行った。なお、この時の減圧度は800Paであった。処理後は降温し、97.5gの黒色粒子を得た。得られた黒色粒子は、平均粒子径5.2μm、BET比表面積が6.5m2 /gで、黒色粒子に対するカーボン被覆量5.1質量%の導電性粒子であった。なお、得られた粒子は、透過電子顕微鏡により、珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造が確認され、珪素ナノ粒子のサイズは5nmであった。
【0032】
<電池評価>
次に、以下の方法で、得られた粒子を負極活物質として用いた電池評価を行った。
得られた粒子45質量%と人造黒鉛(平均粒子径10μm)45質量%、ポリイミド10質量%を混合し、さらにN−メチルピロリドンを加えてスラリーとし、このスラリーを厚さ12μmの銅箔に塗布し、80℃で1時間乾燥後、ローラープレスにより電極を加圧成形し、この電極を350℃で1時間真空乾燥した後、2cm2 に打ち抜き、負極とした。ここで、得られた負極の充放電特性を評価するために、対極にリチウム箔を使用し、非水電解質として六フッ化リン酸リチウムをエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの1/1(体積比)混合液に1モル/Lの濃度で溶解した非水電解質溶液を用い、セパレータに厚さ30μmのポリエチレン製微多孔質フィルムを用いた評価用リチウムイオン二次電池を作製した。

【0034】
[実施例2]
実施例1と同じ熱処理粒子を使用し、50質量%フッ化水素水溶液(フッ酸)5mLを57.5mL(フッ化水素濃度10質量%、熱処理粒子100gに対してフッ化水素28.75g)とした他は実施例1と同様な処理を行って黒色粒子90.6gを得た。得られた黒色粒子は、カーボン被覆前の酸素濃度29.4質量%(酸素/珪素モル比0.73)で、被覆後の平均粒径5.1μm、BET比表面積が18.8m2 /g、黒色粒子に対するカーボン被覆量4.9質量%の導電性粒子であった。なお、得られた粒子は、透過電子顕微鏡により、珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造が確認され、珪素ナノ粒子のサイズは5nmであった。
【0035】
次に、実施例1と同様な方法で負極を作製し、電池評価を行った。その結果、初回充電容量2240mAh/g、初回放電容量1814mAh/g、初回充放電効率81%、50サイクル目の放電容量1469mAh/g、50サイクル後のサイクル保持率82%の高容量であり、かつ初回充放電効率及びサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池であることが確認された。」

(2)甲B(申立人七滝の甲第2号証,申立人麻生の甲第1号証)の記載
甲Bには,次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングしてなることを特徴とする導電性珪素複合体。
【請求項2】
平均粒子径0.01〜30μm、BET比表面積0.5〜20m2/g、被覆炭素量3〜70重量%である請求項1記載の導電性珪素複合体。
【請求項3】
珪素微結晶の大きさが1〜500nmであり、珪素系化合物が二酸化珪素であり、かつその表面の少なくとも一部が炭素と融着していることを特徴とする請求項1又は2記載の導電性珪素複合体。
【請求項4】
X線回折において、Si(111)に帰属される回折ピークが観察され、その回折線の半価幅をもとにシェーラー法により求めた珪素の結晶の大きさが1〜500nmであり、被覆炭素量が5〜70重量%であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の導電性珪素複合体。

【請求項12】
請求項1乃至6のいずれか1項記載の導電性珪素複合体を用いた非水電解質二次電池用負極材。
…」

「【0014】
この場合、本発明の導電性珪素複合体は、下記性状を有していることが好ましい。
i.銅を対陰極としたX線回折(Cu−Kα)において、2θ=28.4°付近を中心としたSi(111)に帰属される回折ピークが観察され、その回折線の広がりをもとに、シェーラーの式によって求めた珪素の結晶の粒子径が好ましくは1〜500nm、より好ましくは2〜200nm、更に好ましくは2〜20nmである。珪素の微粒子の大きさが1nmより小さいと、充放電容量が小さくなる場合があるし、逆に500nmより大きいと充放電時の膨張収縮が大きくなり、サイクル性が低下するおそれがある。なお、珪素の微粒子の大きさは透過電子顕微鏡写真により測定することができる。
ii.固体NMR(29Si−DDMAS)測定において、そのスペクトルが−110ppm付近を中心とするブロードな二酸化珪素のピークとともに−84ppm付近にSiのダイヤモンド結晶の特徴であるピークが存在する。なお、このスペクトルは、通常の酸化珪素(SiOx:x=1.0+α)とは全く異なるもので、構造そのものが明らかに異なっているものである。また、透過電子顕微鏡によって、シリコンの結晶が無定形の二酸化珪素に分散していることが確認される。
iii.リチウムイオン二次電池負極において、リチウムイオンを吸蔵・放出しうるゼロ価の珪素が、炭化珪素微粉末中遊離珪素を測定する方法であるISO DIS 9286に準じた方法である、水酸化アルカリを作用させる時に水素が生成することによって水素発生量として測定ができ、水素発生量から換算して1重量%以上、好ましくは5重量%以上、より好ましくは10重量%以上、更に好ましくは20重量%以上で、上限として35重量%以下、特に30重量%以下であることが好ましい。ゼロ価の珪素が1重量%未満では、Li吸蔵・放出の活物質量が少ないため、リチウムイオン二次電池とした場合の充放電容量が小さくなるし、逆に35重量%より多くなると、リチウムイオン二次電池とした場合の充放電容量は大きくなるものの、充放電時の電極の膨張・収縮が大きくなりすぎて、結果としてサイクル性が低下するおそれがある。
iv.粒子の表面部分を透過電子顕微鏡で観察すると、カーボンが層状に整列し、これによって導電性が高まり、更に、その内側は二酸化珪素との融合状態にあることによって、カーボン層の脱落防止ができ、安定した導電性が確保される。
v.ラマン分光スペクトルより、1580cm−1付近にグラファイトに帰属されるスペクトルを有することより、炭素の一部又はすべてがグラファイト構造である。」

「【0037】
[実施例1]
本発明で得られた導電性珪素複合体の構造について、一例として、酸化珪素(SiOx)を原料として用いて得られた導電性珪素複合体について説明する。
【0038】
酸化珪素(SiOx:x=1.02)を、ヘキサンを分散媒としてボールミルで粉砕し、得られた酸化珪素粉末をロータリーキルン型の反応器を用いて、メタン−アルゴン混合ガス通気下で1150℃、平均滞留時間約2時間の条件で酸化珪素の不均化と同時に熱CVDを行った。こうして得られたものの固体NMR、X線回折測定結果、透過電子顕微鏡写真及びラマンスペクトル(励起光:532nm)をそれぞれ図1〜4に示した。まず、原料である酸化珪素と導電性珪素複合体の固体29Si−NMR測定結果より、リチウムイオン二次電池負極活物質として、その性能の優れる導電性珪素複合体では、珪素の集合体である−84ppm付近のピークが出現しており、原料の酸化珪素の構造である二酸化珪素と珪素との全くのランダムな構造とは異なっていることを示している。また、Cu−Kα線によるX線回折パターンより、得られた導電性珪素複合体では、これも酸化珪素とは異なり、2θ=28.4°付近のSi(111)に帰属される回折線が存在し、この回折線の半価幅よりシェーラー法により求めた二酸化珪素中に分散した珪素の結晶の大きさは11nmであり、このことからも微細な珪素(Si)の結晶が、二酸化珪素(SiO2)の中に分散しているものが好ましいことが分かる。更に、この粒子の表面付近の透過電子顕微鏡写真より、炭素原子が粒子表面に沿って層状に整列しており、図4のラマン分光スペクトルにおいてもグラファイト構造が確認され、このことによって粉末としての導電率が高くなるものである。更に、炭素層の下部では基材との融着が観察され、これによってリチウムイオンの吸蔵・放出に伴う粒子の破壊や導電率の低下が抑えられ、特にサイクル性の向上に結びついているものである。

【0041】
図3の導電性珪素複合体粉末及びその表面部の透過電子顕微鏡写真から、最外殻部では炭素原子が層状に配列していることが分かる。また、図4の導電性珪素複合体のラマンスペクトルは、1580cm−1付近のスペクトルより炭素の一部あるいは全部がグラファイト構造であることを示している。結晶性がよいと1330cm−1付近のスペクトルが減少する。」

「【0043】
[実施例2]
酸化珪素(SiOx:x=1.02)を、ヘキサンを分散媒としてボールミルで粉砕し、得られた懸濁物をろ過し、窒素雰囲気下で脱溶剤後、平均粒子径が約0.8μmの粉末を得た。この酸化珪素粉末をロータリーキルン型の反応器を用いて、メタン−アルゴン混合ガス通気下で1150℃、平均滞留時間約2時間の条件で酸化珪素の不均化と同時に熱CVDを行った。こうして得られたものは、蒸着炭素量が16.5%であり、水酸化カリウム水溶液との反応による水素量より求めたゼロ価の珪素である活性珪素は26.7%であった。また、X線回折(Cu−Kα)を行い、2θ=28.4°のSi(111)に帰属される回折線の半価幅からシェーラー法により求めた二酸化珪素中に分散した珪素の結晶の大きさは約11nmであった。熱CVD後、導電性珪素複合体をらいかい器で解砕し、平均粒子径が約2.8μmの粉末を得た。…」

「【0051】
[実施例5]
工業グレードの金属珪素粉末(Elkem社製 Sirgrain Powder 10μm品)をWilly A Bachofen AG社製粉砕装置DYNO−MILL Type KDL−Pilot A(0.1mmのジルコニアビーズ使用)を用いて、ヘキサンを分散媒として粉砕し、得られた珪素微粉末(平均粒子径約90nm)100grとヒュームドシリカ(日本アエロジル製 アエロジル200)を200grの割合で混合し、ここに水を加えて固く練ったものを150℃で乾燥して固形化した。その後、このものを窒素雰囲気下で1000℃、3時間焼結した。冷却後、ボールミルでヘキサンを分散媒として平均粒子径8μmまで粉砕した。この珪素−二酸化珪素複合物粉末をロータリーキルン型の反応器を用いて、メタン−アルゴン混合ガス通気下で1150℃、平均滞留時間約2時間の条件で熱CVDを行った。こうして得られたものは、蒸着炭素量が18.5%であり、水酸化カリウム水溶液との反応による水素量より求めたゼロ価の珪素である活性珪素は29.7%であった。熱CVD後、導電性珪素複合体をらいかい器で解砕し、平均粒子径が約9.2μmの粉末を得た。」

「【図4】



(3)甲C(申立人七滝の甲第3号証,申立人麻生の甲第2号証)の記載
甲Cには,次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料の表面を黒鉛皮膜で被覆した導電性粉末であり、黒鉛被覆量が3〜40重量%、BET比表面積が2〜30m2/gであって、該黒鉛皮膜が、ラマン分光スペクトルより、ラマンシフトが1330cm−1と1580cm−1付近にグラファイト構造特有のスペクトルを有することを特徴とする非水電解質二次電池用負極材。
【請求項2】
リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料が、珪素、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合構造を有する粒子、一般式SiOx(1.0≦x<1.6)で表される酸化珪素又はこれらの混合物であることを特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項3】
複合構造粒子における珪素の微粒子の大きさが1〜500nmであり、かつその表面が黒鉛と融合していることを特徴とする請求項2記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項4】
複合構造粒子における珪素系化合物が二酸化珪素であることを特徴とする請求項2又は3記載の非水電解質二次電池用負極材。
…」

「【0012】
また、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した微細な構造を有する粒子において、珪素系化合物については、不活性なものが好ましく、製造しやすさの点において二酸化珪素が好ましい。またこの粒子は、下記性状を有していることが好ましい。
i.銅を対陰極としたX線回折(Cu−Kα)において、2θ=28.4°付近を中心としたSi(111)に帰属される回折ピークが観察され、その回折線の広がりをもとに、シェーラーの式によって求めた珪素の結晶の粒子径が好ましくは1〜500nm、より好ましくは2〜200nm、更に好ましくは2〜20nmである。珪素の微粒子の大きさが1nmより小さいと、充放電容量が小さくなる場合があるし、逆に500nmより大きいと充放電時の膨張収縮が大きくなり、サイクル性が低下するおそれがある。なお、珪素の微粒子の大きさは透過電子顕微鏡写真により測定することができる。
ii.固体NMR(29Si−DDMAS)測定において、そのスペクトルが−110ppm付近を中心とするブロードな二酸化珪素のピークとともに−84ppm付近にSiのダイヤモンド結晶の特徴であるピークが存在する。なお、このスペクトルは、通常の酸化珪素(SiOx:x=1.0+α)とは全く異なるもので、構造そのものが明らかに異なっているものである。また、透過電子顕微鏡によって、シリコンの結晶が無定形の二酸化珪素に分散していることが確認される。」

「【0021】
本発明におけるリチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料表面を被覆する黒鉛被覆膜は、ラマン分光スペクトルより、ラマンシフトが1330cm−1と1580cm−1付近にグラファイト特有のスペクトルを有することが必須である。この黒鉛皮膜を有する導電性材料を非水電解質二次電池用負極材として用いることで電池特性が飛躍的に向上する。この原因については、不明であるが、結果として、上記構造を有することにより、充放電時に伴う電極材料の膨張・収縮による電極破壊を防止できることで、黒鉛皮膜が、強度を維持する外殻の役割を果たしていることが推測できる。」

「【0041】
[実施例1]
平均粒子径4μmの一般式SiOx(x=1.02)で表される酸化珪素粉末200gを流動層型処理装置内に仕込んだ。その後、Arガスを2NL/min流入しながら、300℃/hrの昇温速度で1150℃まで昇温、保持した。次に、CH4ガスを1NL/min追加流入し、5時間の黒鉛被覆処理を行った。処理後は降温し、約240gの黒色粉末を得た。得られた黒色粉末は、平均粒子径=4.2μm、BET比表面積=15.2m2/g、黒鉛被覆量22重量%の導電性粉末であった。なお、ラマン分光スペクトル(図1参照)により、ラマンシフトが1330cm−1と1580cm−1付近にグラファイト特有のスペクトルを有していた。」

「【図1】



(4)甲D(申立人七滝の甲第4号証)の記載
甲Dには,次の記載がある。
「【0023】
被覆酸化珪素粒子は酸化珪素粒子の表面を黒鉛皮膜で被覆したものであり、本発明においては、酸化珪素粒子の表面を皮膜する黒鉛の種類及びその割合を特定範囲にし、被覆酸化珪素粒子の黒鉛皮膜が、ラマンスペクトル分析において、1330cm-1と1580cm-1に散乱ピークを有し、それらの強度比I1330/I1580が1.5<I1330/I1580<3.0とすることが重要である。一般的に黒鉛材は三つの同素体すなわちダイヤモンド、グラファイト(黒鉛)、アモルファスカーボン(無定形炭素)に分けられる。これら黒鉛材料はそれぞれ特徴的な物性を有している。すなわち、ダイヤモンドは高強度、高密度、高絶縁性であり、グラファイトは電気伝導性に優れている。本発明では酸化珪素粒子の表面を被覆する黒鉛材として上記ダイヤモンド構造を有する黒鉛材とグラファイト構造を有する黒鉛材の割合を最適化することで上記それぞれの特徴が最適化され、結果として充放電時に伴う電極材料の膨張・収縮による電極破壊を防止でき、かつ導電ネットワークを有する負極材となし得る。

【0025】
本発明者らの知見では、ラマンシフトが1330cm-1の散乱ピークとラマンシフトが1580cm-1の散乱ピークの強度比I1330/I1580が1.5<I1330/I1580<3.0、好ましくは1.7<I1330/I1580<2.5の範囲の黒鉛皮膜を有する酸化珪素をリチウムイオン二次電池負極材として用いた場合、電池特性が良好なリチウムイオン二次電池が得られる。

【0027】
上記の強度比を有する黒鉛剤で被覆された被覆酸化珪素粒子は、例えば、酸化珪素粒子の表面を、有機物ガス及び/又は蒸気中、50〜30000Paの減圧下、600〜1100℃で化学蒸着することにより得ることができる。上記圧力は、100〜20000Paが好ましく、1000〜20000Paがより好ましい。減圧度が50Paより小さいと、ダイヤモンド構造を有する黒鉛材の割合が大きくなり、リチウムイオン二次電池負極材として用いた場合、導電性が不足し、サイクル性が低下するおそれがある。逆に30000Paより大きいと、グラファイト構造を有する黒鉛材の割合が大きくなり過ぎて、リチウムイオン二次電池負極材として用いた場合、電池容量の低下に加えてサイクル性が低下するおそれがある。上記温度は800〜1050℃がより好ましい。処理温度が600℃より低いと、長時間の処理が必要となるおそれがある。逆に1100℃より高いと、化学蒸着処理により粒子同士が融着、凝集を起こす可能性があり、凝集面で導電性皮膜が形成されず、リチウムイオン二次電池負極材として用いた場合、サイクル性能が低下するおそれがある。また、酸化珪素の不均化反応が進行し、上記固体NMRでのシグナル比が1.1を超えるおそれがある。なお、処理時間は目的とする黒鉛被覆量、処理温度、有機物ガスの濃度(流速)や導入量等によって適宜選定されるが、通常、1〜10時間、特に2〜7時間程度が経済的にも効率的である。」

「【0064】
[調製例1:被覆酸化珪素粒子1]
二酸化珪素粒子(BET比表面積=200m2/g)とケミカルグレード金属珪素粒子(BET比表面積=4m2/g)を等モルの割合で混合した混合粒子を、1350℃、10Paの高温減圧雰囲気で熱処理し、発生した酸化珪素ガスを800℃に保持したSUS製基体に析出させた。次にこの析出物を回収した後、ジョークラッシャーで粗砕した。この粗砕物をジェットミル(ホソカワミクロン社製AFG−100)を用いて分級機の回転数9000rpmにて粉砕し、D50=7.6μm、D90=11.9μmの酸化珪素粒子(SiOx:x=1.02)をサイクロンにて回収した。得られた粒子の固体NMR(29Si−DDMAS)を測定したところ、−110ppm付近を中心とするブロードな二酸化珪素のシグナル面積と−84ppm付近のダイヤモンド構造珪素のシグナル面積との比(S-84/S-110)は0.69であった。
さらに、得られた酸化珪素粒子を横型加熱炉にて、油回転式真空ポンプを作動させながら1000℃/2000Paの条件で、CH4ガスを0.5NL/min流入し、5時間の黒鉛被覆処理を行った。運転終了後冷却し黒色粒子を回収した。
得られた黒色粒子は、平均粒子径が8.2μm、炭素量が5%(黒色粒子中)である導電性粒子であった。この粒子について、固体NMR(29Si−DDMAS)測定したところ(図1参照)、−110ppm付近を中心とするブロードな二酸化珪素のシグナル面積と−84ppm付近のダイヤモンド構造珪素のシグナル面積との比(S-84/S-110)は0.69であり、顕微ラマン分析を行った結果(図4参照)、ラマンシフトが1330cm-1と1580cm-1付近にスペクトルを有しており、強度比I1330/I1580は2.0であった。
【0065】
[比較調製例1:被覆酸化珪素粒子2]
調製例1で用いた酸化珪素粒子を、油回転式真空ポンプを作動せず、常圧下(Ar/CH4=2.0/0.5NL/min混合ガス流入)、1150℃で黒鉛被覆処理を行った他は、調製例1と同様な方法で黒色粒子を得た。得られた黒色粒子は、平均粒子径が8.5μm、炭素量が5%(黒色粒子中)である導電性粒子であった。この粒子について、固体NMR(29Si−DDMAS)を測定したところ(図2参照)、−110ppm付近を中心とするブロードな二酸化珪素のシグナル面積と−84ppm付近のダイヤモンド構造珪素のシグナル面積との比(S-84/S-110)は1.21であり、顕微ラマン分析を行った結果(図4参照)、ラマンシフトが1330cm-1と1580cm-1付近にスペクトルを有しており、強度比I1330/I1580は1.4であった。」

「【図4】



(5)甲E(申立人七滝の甲第5号証)の記載
甲Eには,次の記載がある。
「【0102】
これらの有機結着剤は、それぞれの物性によって、水に分散、あるいは溶解したもの、また、N‐メチル‐2‐ピロリドン(NMP)などの有機溶剤に溶解したものがある。これらの中でも、密着性に優れることから、主骨格がポリアクリロニトリル、ポリイミド、又はポリアミドイミドである有機結着剤が好ましく、主骨格がポリアクリロニトリルである有機結着剤が後述するように熱処理温度が低く、電極の柔軟性が優れることから更に好ましい。ポリアクリロニトリルを主骨格とする有機結着剤としては、例えば、ポリアクリロニトリル骨格に、接着性を付与するアクリル酸、柔軟性を付与する直鎖エーテル基を付加した製品(日立化成工業株式会社製、LSR7)が使用できる。」

(6)申立人麻生の甲第3〜7号証の記載
ア 申立人麻生の甲第3号証には,微細なSi相および,SiO2と炭素質物の三層を含む化合物である非水電解質二次電池用負極活物質について記載されている(要約,請求項3)。

イ 申立人麻生の甲第4号証には,珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子の表面をカーボン皮膜で被覆した導電性粉末について記載されている(要約,請求項1)。

ウ 申立人麻生の甲第5号証には,非水電解質を用いる二次電池用の負極材であって,珪素が二酸化珪素に分散した構造を有する珪素複合体に,珪素,酸素以外の元素が50〜100000ppmの濃度で含まれているものについて記載されている(要約,請求項1)。

エ 申立人麻生の甲第6号証には,非水電解質を用いる二次電池用の負極材の製造方法において,酸化珪素粒子上にカーボン皮膜を形成するにあたり,カーボン皮膜の蒸着量は,酸化珪素粒子に対して0.5〜50wt%とすることについて記載されている(段落【0034】)。

オ 申立人麻生の甲第7号証には,リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を構成するバインダーについて記載されている(段落【0066】〜【0071】)。

第5 当審の判断
当審は,本件訂正による訂正後の本件発明は取消理由を解消しており,また,申立理由によって本件特許を取り消すことはできないと判断する。

1 甲Aに記載された発明を引用発明とする場合
(1)甲Aに記載された発明
上記第4の2(1)の摘示(特に,請求項1,4,実施例2の記載)よりみて,甲Aには,次の発明が記載されていると認められる。

<引用発明A>
「透過電子顕微鏡により、珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造が確認され、珪素ナノ粒子のサイズが5nmである複合粒子であって、粒子の表面がカーボン被膜で被覆されており、カーボン被覆量4.9質量%である、非水電解質二次電池用負極材。」

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と,引用発明Aとを対比する。
引用発明Aの「複合粒子」は,「珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造」を有し,かつ,「表面がカーボン被膜で被覆」されているものであるところ,このうち,「酸化珪素」及び「カーボン被膜」は,各々,本件発明1の「珪素酸化物」及び「表面の一部または全部に配置された炭素」に相当する。
また,引用発明Aの「カーボン被覆量4.9質量%」は,本件発明1の「炭素の含有率が0.5質量%以上5.0質量%未満」に含まれる。
更に,引用発明Aがリチウム,マグネシウムないしカルシウムをドープしたものでないことは,その製造工程よりみて明らかである。
そして,本件特許明細書の例えば段落【0066】に,本発明のリチウムイオン二次電池に用いられる電解液が非水系であることが記載されていることを勘案すると,「負極材料」の用途に関して,引用発明Aの「非水電解質二次電池用」は,本件発明1の「リチウムイオン二次電池用」に相当する。

よって,両者は,
「珪素酸化物と、前記珪素酸化物の表面の一部又は全部に配置された炭素と、を含み、前記炭素の含有率が0.5質量%以上5.0質量%未満であり、但し、リチウムがドープされたもの並びにマグネシウム及び/又はカルシウムがドープされたものを除くリチウムイオン二次電池用負極材料。」
である点で一致し,次の相違点を有する。

<相違点A−1>
珪素酸化物に関して,本件発明1は,「X線回折スペクトルにおいてSi(111)に帰属される回折ピークを有し、前記回折ピークから算出される珪素の結晶子の大きさが2.0nm〜8.0nm」であるのに対して,引用発明Aは,「透過電子顕微鏡により、珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造が確認され、珪素ナノ粒子のサイズが5nm」である点。

<相違点A−2>
炭素に関して,本件発明1は,「R値が0.5以上」であるのに対して,引用発明Aは,R値が明らかでない点。

イ 事案にかんがみ,上記相違点A−2について検討する。
(ア)甲Aには,炭素のR値(ラマンスペクトルにおける分析において,1360cm−1付近に現れるピークの強度Idと,1580cm−1付近に現れるピークの強度Igとの比Id/Igのこと。本件特許明細書段落【0034】参照。)については記載も示唆もされていないから,相違点A−2は実質的な相違点である。
よって,相違点A−1について検討するまでもなく,本件発明1は,引用発明Aであるとはいえない。

(イ)a 申立人七滝は,甲Aの実施例2の酸化珪素粒子に対するカーボン被覆処理条件を確認すると,甲B,甲C及び甲Dに記載された熱CVD条件と近似しており,炭素(グラファイト)の結晶化が大きく相違するとは考え難いことから,甲A実施例2の熱CVD処理条件で形成した炭素層のR値は甲B,甲C及び甲Dに記載された炭素層のR値と同等,すなわち0.5以上であることは明らかである旨主張する(特許異議申立書第11〜12頁)。

b しかしながら,まず,甲Aの実施例2の酸化珪素粒子は,珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有する酸化珪素粒子を,フッ化水素水溶液でエッチング処理したものであり(段落【0034】),同様な表面処理が明示されていない甲B,甲C及び甲Dに係る被処理物とは,その表面状態が同じであるとはいえない。

c また,甲A実施例2のカーボン被覆処理物及びその処理方法と,甲B,甲C及び甲Dに記載された処理物及びその処理方法とは,次のとおり,温度や流量や時間など熱CVD条件が必ずしも近似しているとはいえない上に,炭素の含有率も一致せず,お互いに大きく異なっている。

甲A:1,100℃,CH4 ガスを0.3NL/min流入,5時間(段落【0031】実施例1(実施例2の製造条件と同じ))
カーボン被覆量4.9質量%(段落【0034】実施例2)

甲B:メタン−アルゴン混合ガス通気下で1150℃,平均滞留時間約2時間(段落【0043】,【0051】)
蒸着炭素量16.5%(段落【0043】実施例2),18.5%(段落【0051】実施例5)

甲C:Arガスを2NL/min流入しながら1150℃まで昇温,CH4ガスを1NL/min追加流入し,5時間(段落【0041】実施例1)
黒鉛被覆量22重量%(段落【0041】実施例1)

甲D:1000℃/2000Paの条件で,CH4ガスを0.5NL/min流入し,5時間(段落【0064】調製例1)
炭素量5%(段落【0064】調製例1)

d 更に,甲B図4に示される4本のスペクトルはいずれも実施例1と何らかの関係があるものとは考えられるものの,実施例1そのものであるのか実施例1に何らかの処理を施したものであるか,その関係が不明であるうえ,各スペクトルにおけるピーク強度の算出根拠となるベースラインも不明である。また,甲C図1に示されるスペクトルは縦軸が任意目盛りであるうえ,実施例1のスペクトルにおけるピーク強度の算出根拠となるベースラインも不明である。

e そうすると,上記甲B,甲C及び甲Dに記載された熱CVD処理条件と必ずしも近似するとはいえない処理条件であることにより,甲A実施例2のカーボン被覆処理物における炭素のR値が0.5以上であることが明らかであるとまではいうことができない。よって,上記主張は採用できない。

ウ 次に,上記相違点A−2の容易想到性について検討する。
(ア)甲Bには,珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングしてなることを特徴とする導電性珪素複合体のラマンスペクトル(図4)について,1580cm−1付近のスペクトルより炭素の一部あるいは全部がグラファイト構造であること,及び,結晶性がよいと1330cm−1付近のスペクトルが減少することが説明されている(段落【0041】)。
しかしながら,上記イ(イ)のとおり,引用発明Aに係る酸化珪素粒子はエッチング処理したものであり,甲Bに係る被処理物とは表面状態が同じであるとはいえないこと,甲Aと甲Bとは熱CVD条件等において異なること,甲B図4に示される4本のスペクトルと実施例1との関係が不明であるうえ,各スペクトルにおけるピーク強度の算出根拠となるベースラインも不明であることを踏まえると,引用発明Aに甲Bの記載事項を適用する動機付けがあるということはできない。

(イ)甲Cには,「リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料表面を被覆する黒鉛被覆膜は、ラマン分光スペクトルより、ラマンシフトが1330cm−1と1580cm−1付近にグラファイト特有のスペクトルを有することが必須である」(段落【0021】)と記載され,実施例1で上記特有のスペクトルを有する旨が説明されている(段落【0041】,図1)。
しかしながら,上記イ(イ)のとおり,引用発明Aに係る酸化珪素粒子はエッチング処理したものであり,甲Cに係る被処理物とは表面状態が同じであるとはいえないこと,甲Aと甲Cとは熱CVD条件等において異なること,甲C図1に示されるスペクトルは縦軸が任意目盛りであるうえ,実施例1のスペクトルにおけるピーク強度の算出根拠となるベースラインも不明であることを踏まえると,引用発明Aに甲Cの記載事項を適用する動機付けがあるということはできない。

(ウ)甲Dには,黒鉛皮膜が,ラマンスペクトル分析において,1330cm−1と1580cm−1に散乱ピークを有し,それらの強度比が1.5<I1330/I1580<3.0とすることが重要であること,及び,そのような負極材を製造する方法として,特定の熱CVD処理条件が示されている。
しかしながら,上記イ(イ)のとおり,引用発明Aに係る酸化珪素粒子はエッチング処理したものであり,甲Dに係る被処理物とは表面状態が同じであるとはいえないこと,甲Aと甲Dとは熱CVD条件等において異なることを踏まえると,引用発明Aに甲Dの記載事項を適用する動機付けがあるということはできない。

(エ)なお,甲Eには,リチウムイオン二次電池用負極に用いる有機結着剤に関して,「ポリアクリロニトリル骨格に、接着性を付与するアクリル酸、柔軟性を付与する直鎖エーテル基を付加した製品」(段落【0102】)が使用できることが記載されるに止まり,炭素のR値については記載も示唆もされていない。
更に,申立人麻生が提示したその余の甲号証をみても,炭素のR値を0.5以上とすることは,記載も示唆もされていない。

(オ)a 申立人麻生は,甲B図4,甲C図1を見ると,明らかに1360cm−1付近のピークの強度の方が,1580cm−1付近のピークの強度より大きく,両ピークの強度比であるR値が1以上となるから,「R値が0.5以上」を具備していることが明らかである旨主張するが(意見書第2〜4頁),上記(ア),(イ)及びイ(イ)に反するものであり,採用できない。
b 申立人七滝は,甲Dの開示によれば,甲A実施例2の負極材において,電池特性を更に良好とさせるために,上記甲Dに開示の熱CVD条件で処理すればよいことは,当業者なら容易に想到し得ることである旨主張するが(特許異議申立書第12〜13頁),上記(ウ)及びイ(イ)に反するものであり,採用できない。

エ したがって,相違点A−1について検討するまでもなく,本件発明1は,甲Aに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明2,4〜6について
本件発明2に係る負極材料,本件発明4,5に係る負極及び本件発明6に係る電池はいずれも,本件発明1に係る負極材料を直接又は間接的に引用して特定するものであるから,引用発明Aとの対比において,少なくとも,上記相違点A−1,A−2を有する。
そして,相違点A−2については,上記のとおり実質的な相違点であって,かつ,容易に想到することができたものでない。
したがって,相違点A−1について検討するまでもなく,本件発明2,4〜6は,甲Aに記載された発明であるとはいえず,また,甲Aに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(4)甲Aに記載された発明を引用発明とする場合のまとめ
以上のとおり,甲A(申立人七滝の甲第1号証)に記載された発明を引用発明とする新規性進歩性によっては,訂正後の請求項1,2,4〜6に係る特許を取り消すことはできない。

2 甲Bに記載された発明を引用発明とする場合
(1)甲Bに記載された発明
上記第4の2(2)の摘示(特に,請求項1,12及び実施例1の記載)よりみて,甲Bには,次の発明が記載されていると認められる。

<引用発明B>
「珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングしてなる導電性珪素複合体であって、2θ=28.4°付近のSi(111)に帰属される回折線が存在し、この回折線の半価幅よりシェーラー法により求めた二酸化珪素中に分散した珪素の結晶の大きさは11nmであり、この粒子の表面付近の透過電子顕微鏡写真より、炭素原子が粒子表面に沿って層状に整列しており、ラマン分光スペクトルにおいてグラファイト構造が確認される導電性珪素複合体を用いた、非水電解質二次電池用負極材。」

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と,引用発明Bとを対比する。
引用発明Bの「導電性珪素複合体」は,「珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造」を有し,かつ,「表面を炭素でコーティング」してなるものであるところ,このうち,「酸化珪素」及び「カーボン被膜」は,各々,本件発明1の「珪素酸化物」及び「表面の一部または全部に配置された炭素」に相当する。
また,引用発明Bの「2θ=28.4°付近のSi(111)に帰属される回折線が存在」する事項は,本件発明1の「X線回折スペクトルにおいてSi(111)に帰属される回折ピークを有」する事項に相当する。
更に,引用発明Bがリチウム,マグネシウムないしカルシウムをドープしたものでないことは,その製造工程よりみて明らかである。
そして,本件特許明細書の例えば段落【0066】に,本発明のリチウムイオン二次電池に用いられる電解液が非水系であることが記載されていることを勘案すると,「負極材料」の用途に関して,引用発明Bの「非水電解質二次電池用」は,本件発明1の「リチウムイオン二次電池用」に相当する。

よって,両者は,
「珪素酸化物と、前記珪素酸化物の表面の一部又は全部に配置された炭素と、を含み、X線回折スペクトルにおいてSi(111)に帰属される回折ピークを有し、但し、リチウムがドープされたもの並びにマグネシウム及び/又はカルシウムがドープされたものを除くリチウムイオン二次電池用負極材料。」
である点で一致し,次の相違点を有する。

<相違点B−1>
Si(111)に帰属される回折ピークから算出される珪素の結晶子の大きさについて,本件発明1は,「2.0nm〜8.0nm」であるのに対して,引用発明Bは,「11nm」である点。

<相違点B−2>
炭素について,本件発明1は,「炭素の含有率が0.5質量%以上5.0質量%未満」であるのに対して,引用発明Bは,炭素の含有率が明らかでない点。

<相違点B−3>
炭素について,本件発明1は,「R値が0.5以上」であるのに対して,引用発明Bは,炭素のR値が明らかでない点。

イ 事案にかんがみ,上記相違点B−3について検討する。
甲Bには,炭素のR値(ラマンスペクトルにおける分析において,1360cm−1付近に現れるピークの強度Idと,1580cm−1付近に現れるピークの強度Igとの比Id/Ig)については何ら記載されていない。敷衍するに,甲B図4に示される4本のスペクトルはいずれも実施例1と何らかの関係があるものとは考えられるものの,実施例1そのものであるのか実施例1に何らかの処理を施したものであるか,その関係が不明であるうえ,各スペクトルにおけるピーク強度の算出根拠となるベースラインも不明である。そうすると,相違点B−3は実質的な相違点である。
よって,相違点B−1,B−2について検討するまでもなく,本件発明1は,引用発明Bであるとはいえない。

ウ 次に,上記相違点B−3の容易想到性について検討する。
(ア)上記1(2)イ(イ)のとおり,甲Aは,酸化珪素粒子をエッチング処理したものであり,同様な表面処理が明示されていない甲Bに係る被処理物とは,その表面状態が同じであるとはいえず,また,熱CVD条件においても異なるものであるから,引用発明Bに適用しようとする動機付けがあるということはできない。

(イ)同じく上記1(2)イ(イ)のとおり,甲C及び甲Dも,甲Bとは熱CVD処理条件において異なるものであるから,引用発明Bに適用しようとする動機付けがあるということはできない。

(ウ)なお,甲Eには,リチウムイオン二次電池用負極に用いる有機結着剤に関して,「ポリアクリロニトリル骨格に、接着性を付与するアクリル酸、柔軟性を付与する直鎖エーテル基を付加した製品」(段落【0102】)が使用できることが記載されるに止まり,炭素のR値については記載も示唆もされていない。
更に,申立人麻生が提示したその余の甲号証をみても,炭素のR値を0.5以上とすることは,記載も示唆もされていない。

エ したがって,相違点B−1,B−2について検討するまでもなく,本件発明1は,甲Bに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明2,4〜6について
本件発明2(負極材料),本件発明4,5(負極)及び本件発明6(電池)はいずれも,本件発明1を直接又は間接的に引用して特定するものであるから,引用発明Bとの対比において,少なくとも,上記相違点B−1,B−2,B−3を有する。
そして,相違点B−3については,上記のとおり実質的な相違点であって,かつ,容易に想到することができたものでない。
したがって,相違点B−1,B−2について検討するまでもなく,本件発明2,4〜6は,甲Bに記載された発明であるとはいえず,また,甲Bに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(4)甲Bに記載された発明を引用発明とする場合のまとめ
以上のとおり,甲B(申立人七滝の甲第2号証,申立人麻生の甲第1号証)に記載された発明を引用発明とする新規性進歩性によっては,訂正後の請求項1,2,4〜6に係る特許を取り消すことはできない。

3 甲Cに記載された発明を引用発明とする場合
(1)甲Cに記載された発明
上記第4の2(3)の摘示(特に,請求項1,2及び実施例1の記載)よりみて,甲Cには,次の発明が記載されていると認められる。

<引用発明C>
「リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料の表面を黒鉛皮膜で被覆した導電性粉末である非水電解質二次電池用負極材であって、酸化珪素粉末を黒鉛被覆処理して得られた黒色粉末であり、黒鉛被覆量22重量%の導電性粉末であり、ラマン分光スペクトルにより、ラマンシフトが1330cm−1と1580cm−1付近にグラファイト特有のスペクトルを有している、非水電解質二次電池用負極材。」

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と,引用発明Cとを対比する。
引用発明Cの「非水電解質二次電池用負極材」は,「酸化珪素粉末を黒鉛被覆処理して得られた黒色粉末」であるところ,このうち,「酸化珪素」及び「カーボン被膜」は,各々,本件発明1の「珪素酸化物」及び「表面の一部または全部に配置された炭素」に相当する。
また,引用発明Cがリチウム,マグネシウムないしカルシウムをドープしたものでないことは,その製造工程よりみて明らかである。
そして,本件特許明細書の例えば段落【0066】に,本発明のリチウムイオン二次電池に用いられる電解液が非水系であることが記載されていることを勘案すると,「負極材料」の用途に関して,引用発明Cの「非水電解質二次電池用」は,本件発明1の「リチウムイオン二次電池用」に相当する。

よって,両者は,
「珪素酸化物と、前記珪素酸化物の表面の一部又は全部に配置された炭素と、を含み、但し、リチウムがドープされたもの並びにマグネシウム及び/又はカルシウムがドープされたものを除くリチウムイオン二次電池用負極材料。」
である点で一致し,次の相違点を有する。

<相違点C−1>
珪素について,本件発明1は,「X線回折スペクトルにおいてSi(111)に帰属される回折ピークから算出される珪素の結晶子の大きさが2.0nm〜8.0nm」であるのに対して,引用発明Cは,珪素の微粒子を含むか不明であり,珪素の微粒子の大きさが明らかでない点。

<相違点C−2>
炭素について,本件発明1は,「炭素の含有率が0.5質量%以上5.0質量%未満」であるのに対して,引用発明Cは,炭素の含有率が明らかでない点。

<相違点C−3>
炭素について,本件発明1は,「R値が0.5以上」であるのに対して,引用発明Cは,「ラマン分光スペクトルにより、ラマンシフトが1330cm−1と1580cm−1付近にグラファイト特有のスペクトルを有している」ものの,R値が明らかでない点。

イ 事案にかんがみ,上記相違点C−3について検討する。
甲Cには,炭素のR値(ラマンスペクトルにおける分析において,1360cm−1付近に現れるピークの強度Idと,1580cm−1付近に現れるピークの強度Igとの比Id/Ig)については何ら記載されていない。敷衍するに,甲C図1に示されるスペクトルは縦軸が任意目盛りであるうえ,実施例1のスペクトルにおけるピーク強度の算出根拠となるベースラインも不明である。そうすると,相違点C−3は実質的な相違点である。
よって,相違点C−1,C−2について検討するまでもなく,本件発明1は,引用発明Cであるとはいえない。

ウ 次に,上記相違点C−3の容易想到性について検討する。
(ア)上記1(2)イ(イ)のとおり,甲Aは,酸化珪素粒子をエッチング処理したものであり,同様な表面処理が明示されていない甲Cに係る被処理物とは,その表面状態が同じであるとはいえず,また,熱CVD条件においても異なるものであるから,引用発明Cに適用しようとする動機付けがあるということはできない。

(イ)同じく上記1(2)イ(イ)のとおり,甲B及び甲Dも,甲Cとは熱CVD処理条件において異なるものであるから,引用発明Cに適用しようとする動機付けがあるということはできない。

(ウ)なお,甲Eには,リチウムイオン二次電池用負極に用いる有機結着剤に関して,「ポリアクリロニトリル骨格に、接着性を付与するアクリル酸、柔軟性を付与する直鎖エーテル基を付加した製品」(段落【0102】)が使用できることが記載されるに止まり,炭素のR値については記載も示唆もされていない。
更に,申立人麻生が提示したその余の甲号証をみても,炭素のR値を0.5以上とすることは,記載も示唆もされていない。

エ したがって,相違点C−1,C−2について検討するまでもなく,本件発明1は,甲Cに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明2,4〜6について
本件発明2(負極材料),本件発明4,5(負極)及び本件発明6(電池)はいずれも,本件発明1を直接又は間接的に引用して特定するものであるから,引用発明Cとの対比において,少なくとも,上記相違点C−1,C−2,C−3を有する。
そして,相違点C−3については,上記のとおり実質的な相違点であって,かつ,容易に想到することができたものでない。
したがって,相違点C−1,C−2について検討するまでもなく,本件発明2,4〜6は,甲Cに記載された発明であるとはいえず,また,甲Cに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(4)甲Cに記載された発明を引用発明とする場合のまとめ
以上のとおり,甲C(申立人七滝の甲第3号証,申立人麻生の甲第2号証)に記載された発明を引用発明とする新規性進歩性によっては,訂正後の請求項1,2,4〜6に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおり,当審が通知した取消理由,及び,特許異議申立書に記載した申立理由によっては,請求項1,2,4〜6に係る特許を取り消すことはできず,また,外に請求項1,2,4〜6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また,請求項3に係る特許は訂正により削除されたから,請求項3に係る特許異議の申立ては,その対象が存在しないものとなったため,特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって,結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪素酸化物と、前記珪素酸化物の表面の一部又は全部に配置された炭素と、を含み、X線回折スペクトルにおいてSi(111)に帰属される回折ピークを有し、前記回折ピークから算出される珪素の結晶子の大きさが2.0nm〜8.0nmであり、前記炭素の含有率が0.5質量%以上5.0質量%未満であり、前記炭素は、R値が0.5以上であり、但し、リチウムがドープされたもの並びにマグネシウム及び/又はカルシウムがドープされたものを除くリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項2】
前記炭素の形状が粒子状又は鱗片状である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
集電体と、
前記集電体上に設けられた、請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料を含む負極材層と、
を有するリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項5】
前記負極材層が、ポリアクリロニトリル骨格に、アクリル酸及び直鎖エーテル基を付加した構造を有する有機結着剤を更に含む、請求項4に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項6】
正極と、請求項4又は請求項5に記載のリチウムイオン二次電池用負極と、電解質と、を備えるリチウムイオン二次電池。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-12-22 
出願番号 P2018-085237
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01M)
P 1 651・ 113- YAA (H01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 平塚 政宏
祢屋 健太郎
登録日 2020-03-30 
登録番号 6683213
権利者 昭和電工マテリアルズ株式会社
発明の名称 リチウムイオン二次電池用負極材料、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  
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