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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B29C
審判 全部申し立て 2項進歩性  B29C
管理番号 1383239
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-09-11 
確定日 2022-01-24 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6683993号発明「接合物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6683993号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1−4]について訂正することを認める。 特許第6683993号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6683993号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成30年5月7日(優先権主張 平成29年5月8日、平成30年3月5日)を出願日とする特許出願であって、令和2年3月31日にその特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、特許掲載公報が同年4月22日に発行され、その後、その特許に対し、同年9月11日に特許異議申立人 APC株式会社(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、令和3年2月26日付けで取消理由が通知され、同年5月6日に特許権者 学校法人金沢工業大学(以下、「特許権者」という。)から訂正の請求がなされるとともに意見書の提出がされ、同年同月28日付けで特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知を行ったところ、同年6月24日に異議申立人から意見書の提出がされ、同年8月20日付けで取消理由<決定の予告>が通知され、同年10月25日に特許権者から訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされるとともに意見書の提出がされたものである。
なお、令和3年5月6日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
また、すでに異議申立人に意見書の提出の機会が与えられており、本件訂正請求によって特許請求の範囲が相当程度減縮され、下記第5ないし7のとおり、提出された全ての証拠や意見等を踏まえて更に審理を進めたとしても特許を維持すべきとの結論となると合議体は判断したことから、特許法第120条の5第5項に定める特別な事情に該当し、異議申立人に再度の意見書の提出の機会は与えない。

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)なお、当該訂正は、請求項1ないし4という一群の請求項を訂正するものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「プラズマが照射された接合面同士を、25℃より高く、前記物体に含まれる物質の融点未満の温度で接着するステップ」と記載されているのを、「プラズマが照射された接合面同士を、25℃より高く、前記物体に含まれる物質の融点未満の温度で、剪断応力が0.5MPa以上となるように接着するステップ」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項3及び4についても同様に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に
「前記2つの物体は、ポリプロピレンと、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ストロンチウムタイタネート、ランタンアルミネート、又はガラスとの組合せ、ポリアミドと、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、又はポリメタクリル酸メチルとの組合せ、ポリフェニレンサルファイドと、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、アルミニウム、銅、チタン、又はステンレス鋼との組合せ、ポリエチレンテレフタレートと、ポリカーボネート、又はポリメタクリル酸メチルとの組合せ、ポリカーボネートと、ポリメタクリル酸メチルとの組合せ、ポリメタクリル酸メチルと、ポリメタクリル酸メチルとの組合せ、ポリプロピレンを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリプロピレンを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリアミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリフェニレンサルファイドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、アルミニウム、銅、チタン、ステンレス鋼、ストロンチウムタイタネート、ランタンアルミネート、又はガラスとの組合せ、ポリアミドを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリアミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリフェニレンサルファイドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルエーテルケトンを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルイミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、エポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチック、アルミニウム、又はステンレス鋼との組合せ、ポリフェニレンサルファイドを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリフェニレンサルファイドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルエーテルケトンを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルイミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、エポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチック、アルミニウム、銅、チタン、又はステンレス鋼との組合せ、ポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、又はポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチックとの組合せ、ポリエーテルエーテルケトンを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリエーテルエーテルケトンを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルイミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、又はエポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチックとの組合せ、ポリエーテルイミドを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリエーテルイミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、又はエポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチックとの組合せ、エポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチックと、エポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチックとの組合せのうちのいずれかの組合せの物体である」
と記載されているのを、
「前記2つの物体は、ポリプロピレンと、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ストロンチウムタイタネート、ランタンアルミネート、又はガラスとの組合せ(決定注:この組合せを以下、「組合せ1」という。組合せの定義について以下同じ。)、ポリアミドと、ポリカーボネート、又はポリメタクリル酸メチルとの組合せ(以下、「組合せ2」という。)、ポリフェニレンサルファイドと、アルミニウム、銅、チタン、又はステンレス鋼との組合せ(以下、「組合せ3」という。)、ポリエチレンテレフタレートと、ポリカーボネート、又はポリメタクリル酸メチルとの組合せ(以下、「組合せ4」という。)、ポリカーボネートとポリメタクリル酸メチルとの組合せ(以下、「組合せ5」という。)、ポリメタクリル酸メチルと、ポリメタクリル酸メチルとの組合せ(以下、「組合せ6」という。)、ポリプロピレンを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリプロピレンを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリアミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリフェニレンサルファイドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、アルミニウム、銅、チタン、ステンレス鋼、ストロンチウムタイタネート、ランタンアルミネート、又はガラスとの組合せ(以下、「組合せ7」という。)、ポリアミドを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリアミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリフェニレンサルファイドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルエーテルケトンを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルイミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、エポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチック、アルミニウム、ステンレス鋼との組合せ(以下、「組合せ8」という。)、ポリフェニレンサルファイドを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリフェニレンサルファイドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルエーテルケトンを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルイミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、エポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチック、アルミニウム、銅、チタン、又はステンレス鋼との組合せ(以下、「組合せ9」という。)、ポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、又はポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチックとの組合せ(以下、「組合せ10」という。)、ポリエーテルエーテルケトンを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリエーテルエーテルケトンを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルイミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、又はエポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチックとの組合せ(以下、「組合せ11」という。)、ポリエーテルイミドを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリエーテルイミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、又はエポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチックとの組合せ(以下、「組合せ12」という。)、エポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチックと、エポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチックとの組合せ(以下、「組合せ13」という。)のうちのいずれかの組合せの物体である」
に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項3及び4についても同様に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2に「プラズマが照射された接合面同士を、室温で接着するステップ」と記載されているのを、「プラズマが照射された接合面同士を、室温で、剪断応力が0.5MPa以上となるように接着するステップ」に訂正する。
請求項2の記載を引用する請求項3及び4の訂正についても同様に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2に
「前記2つの物体は、ポリプロピレンと、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ステンレス鋼、ストロンチウムタイタネート、ランタンアルミネート、又はガラスとの組合せ、ポリアミドと、ポリアミド、又はポリメタクリル酸メチルとの組合せ、ポリエチレンテレフタレートと、ポリカーボネート、又はポリメタクリル酸メチルとの組合せ、ポリカーボネートと、ポリカーボネート、又はポリメタクリル酸メチルとの組合せ、ポリメタクリル酸メチルと、ポリメタクリル酸メチルとの組合せ、ポリプロピレンを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリプロピレンを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリアミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリフェニレンサルファイドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、アルミニウム、ステンレス鋼、ストロンチウムタイタネート、ランタンアルミネート、又はガラスとの組合せ、ポリアミドを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリアミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、又はポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチックとの組合せのうちのいずれかの組合せの物体である」と記載されているのを、
「前記2つの物体は、ポリプロピレンと、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ストロンチウムタイタネート、ランタンアルミネート、又はガラスとの組合せ(以下、「組合せ2−1」という。)、ポリアミドと、ポリカーボネート、又はポリメタクリル酸メチルとの組合せ(以下、「組合せ2−2」という。)、ポリフェニレンサルファイドと、アルミニウム、銅、チタン、又はステンレス鋼との組合せ(以下、「組合せ2−3」という。)、ポリエチレンテレフタレートと、ポリカーボネート、又はポリメタクリル酸メチルとの組合せ(以下、「組合せ2−4」という。)、ポリカーボネートとポリメタクリル酸メチルとの組合せ(以下、「組合せ2−5」という。)、ポリメタクリル酸メチルと、ポリメタクリル酸メチルとの組合せ(以下、「組合せ2−6」という。)、ポリプロピレンを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリプロピレンを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリアミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリフェニレンサルファイドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ストロンチウムタイタネート、ランタンアルミネート、又はガラスとの組合せ(以下、「組合せ2−7」という。)、ポリアミドを母材とする炭素繊維強化プラスチックとポリアミドを母材とする炭素繊維強化プラスチックとの組合せ(以下、「組合せ2−8」という。)のうちのいずれかの組合せの物体である」
に訂正する。
請求項2の記載を引用する請求項3及び4についても同様に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る請求項1の訂正は、2つの物体の接合強度について剪断応力が0.5MPa以上となるように接着することに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1に係る請求項1の訂正は、接着ステップにおいて0.5MPa未満の剪断応力の場合を除外するものであり、新たな技術的事項を導入するものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項1の記載を引用する請求項3及び4の訂正についても同様である。

(2)訂正事項2について
訂正事項2に係る請求項1の訂正は、訂正前の請求項1に記載された2つの物体の組合せのうち、ポリプロピレンとステンレス鋼、ポリアミドとポリアミド、ポリアミドとポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンサルファイドとポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンサルファイドとポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネートとポリカーボネート、ポリアミドを母材とする炭素繊維強化プラスチックと銅の組合せを削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2に係る請求項1の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
請求項1の記載を引用する請求項3及び4の訂正についても同様である。

(3)訂正事項3について
訂正事項3に係る請求項2の訂正は、2つの物体の接合強度について剪断応力が0.5MPa以上となるように接着することに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3に係る請求項2の訂正は、上記訂正事項1において検討したとおり、新たな技術的事項を導入するものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項2の記載を引用する請求項3及び4の訂正についても同様である。

(4)訂正事項4について
訂正事項4に係る請求項2の訂正は、訂正前の請求項2に記載されていた2つの物体の組合せのうち、ポリプロピレンとステンレス鋼、ポリカーボネートとポリカーボネート、ポリアミドを母材とする炭素繊維強化プラスチックとポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリプロピレンを母材とする炭素繊維強化プラスチックとアルミニウム、ポリプロピレンを母材とする炭素繊維強化プラスチックとステンレス鋼との組合せを削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項4に係る請求項2の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
請求項1の記載を引用する請求項3及び4の訂正についても同様である。

3 訂正の適否についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1−4]について訂正することを認める。

第3 本件発明

上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明4」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
2つの物体を接合して接合物を製造する方法であって、
2つの物体のそれぞれの接合面に、5〜40Paの圧力の二酸化炭素、アルゴン、窒素、又は酸素に1.5〜3.5kVの電圧を印加して生じさせたプラズマを照射するステップと、
プラズマが照射された接合面同士を、25℃より高く、前記物体に含まれる物質の融点未満の温度で、剪断応力が0.5MPa以上となるように接着するステップと、
を備え、
前記2つの物体は、組合せ1、組合せ2、組合せ3、組合せ4、組合せ5、組合せ6、組合せ7、組合せ8、組合せ9、組合せ10、組合せ11、組合せ12、組合せ13のうちのいずれかの組合せの物体である
ことを特徴とする接合物の製造方法。
【請求項2】
2つの物体を接合して接合物を製造する方法であって、
2つの物体のそれぞれの接合面に、5〜40Paの圧力の二酸化炭素、アルゴン、窒素、又は酸素に1.5〜3.5kVの電圧を印加して生じさせたプラズマを照射するステップと、
プラズマが照射された接合面同士を、室温で、剪断応力が0.5MPa以上となるように接着するステップと、
を備え、
前記2つの物体は、組合せ2−1、組合せ2−2、組合せ2−3、組合せ2−4、組合せ2−5、組合せ2−6、組合せ2−7、組合せ2−8のうちのいずれかの組合せの物体である
ことを特徴とする接合物の製造方法。
【請求項3】
前記接合面にプラズマを照射した後に、前記接合面の1cm×1cm×10nmの体積中に、ポリフェニレンサルファイドの場合は4.63×1015以上のヒドロキシ基及び2.72×1015以上のカルボキシ基が含まれ、ポリエチレンテレフタレートの場合は1.01×1016以上のヒドロキシ基及び9.42×1015以上のカルボキシ基が含まれ、ポリカーボネートの場合は9.25×1015以上のヒドロキシ基及び2.28×1015以上のカルボキシ基が含まれるように、前記接合面にプラズマが照射される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の接合物の製造方法。
【請求項4】
前記2つの物体の双方と接合可能なフィルムの一方の面と前記2つの物体のうちの一方とを接合するステップと、
前記フィルムの他方の面と前記2つの物体のうちの他方とを接合するステップと、
を更に備えることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の接合物の製造方法。」

第4 特許異議申立書に記載した異議申立ての理由の概要

令和2年9月11日に異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した異議申立ての理由の概要は次のとおりである。

1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

2 申立理由2(甲第1号証に基づく進歩性
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし4号証に記載の技術事項に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有するもの(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

3 申立理由3(甲第2号証に基づく進歩性
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明及び甲第1、3及び4号証に記載の技術事項に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

4 証拠方法
甲第1号証:與倉三好、三重大学博士論文、プラズマ照射によるプラスチックフィルムの直接接合と機構解明、2015年3月
甲第2号証:特開2008−183868号公報
甲第3号証:特開2013−132822号公報
甲第4号証:国際公開第2014/112506号
なお、証拠の表記は、おおむね特許異議申立書の記載に従った。以下、順に「甲1」のようにいう。

第5 取消理由<決定の予告>通知書に記載した取消理由の概要

当審が令和3年8月20日付けで特許権者に通知した取消理由<決定の予告>通知書に記載した取消理由の概要は、次のとおりである。

取消理由1(進歩性) 本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明及び甲2に記載の技術事項並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

第6 当審の判断

以下に述べるように、当審が令和3年8月20日付けで特許権者に通知した取消理由<決定の予告>には理由がないと判断する。

1 甲1の記載事項等
(1) 甲1の記載事項
甲1には以下の記載がある。下線については当審において付与した。以下同じ。
ア 「第2章 本研究で開発したプラズマ接合プラスチックフィルムの実用化例
2−1 はじめに
プラスチックフィルムは、融点以下の温度では直接接合しないとされてきた。小川らは、2000年にプラズマ照射した各種の高分子樹脂フィルムが同種または異種材料と融点以下の温度で直接接合することを見いだした71)。低密度ポリエチレンシートとPETフィルムの表面を酸素プラズマ照射し、照射後直ちに100℃で熱プレスした結果、強固に直接接合し、剥離実験時に界面は凝集破壊したと報告している。Chi-An Dai, Yi-Huan Leeらは、PETフィルムとpoly(st ylene-co-maleic anhydride)表面を窒素プラズマ照射した後、150℃で熱プレスすると強固に直接接合し、接合にはプラズマ照射によって表面に形成されたアミノ基とアミド基の関与が大きいことを報告している72)。しかし、我々は、小川ら71)の論文よりも早く、独自に開発したプラズマ装置で照射したパーフロロアルコキシエチレンや4フッ化エチレン−パーフロロアルコキシエチレン共重合体樹脂フィルムなどのフッ素樹脂フィルムが、プラズマ照射面同士を重ね合わせて熱プレスすると直接接合することを見いだし、1987年に特許を出願している73)。これが引き金になり種々のプラスチックフィルムを直接接合できることを見いだした。例えばPET同士74,75)、アラミド紙とPET76,77)、アラミド紙とPPS78,79)PETとエチレンビニルアセテート樹脂(EVA)75)などに関しても特許を得ている。
我々の研究では、さらに大きな成果として、8年前にプラズマ照射したPETが直接接合することを見いだした。この結果は、照射活性化表面が8年間もその効果が消失せずに持続していることを示すものである。公知のプラズマ技術では、効果がすぐに減少するので、従来のプラズマ技術とは異なる特長を有することを確認している。各種高分子樹脂フィルムについて照射条件などを詳細に検討した結果、各種の組み合わせで強固に接合する結果を得た。表2-1にその組み合わせと、熱特性(ガラス転移温度Tgおよび融点Tm)を示す。更に、同種フィルム間の接合開始温度も示す。PETフィルムのTmは258℃であり、従来Tm以下の温度では接合しないとされてきたが、プラズマ照射PET同士が、常用使用温度の125℃よりも低い、100℃で接合することが判った。[PPS/PPS]については、Tm(285℃)より85℃低い熱プレス温度200℃で接合できた。さらに融点がなく超耐熱性フィルムであるPIは、230℃で接合した。アラミド紙は耐熱H種(180℃)の電気絶縁材料であり、常用使用温度(180℃)以下の150℃で接合できた。アラミド紙とPPSの接合したシートは、180℃で長時間(2000時間)加熱した後でも、接合強さが低下しないことを確認している。



イ 「第3章 実験方法
3−1 プラズマ照射装置と照射方法
本実験に用いたプラズマ照射には、ベルジャー型の内部電極方式のプラズマ照射装置(エステック(株)製KVB型)を用いた。その概略図とプラズマ照射状態の写真を図3−1に示す。

プラスチックフィルム試料を、所定の寸法に切り出し、回転するドラム電極に粘着テープを用いて固定した。次いで、真空チャンバーをロータリポンプで10Pa以下まで排気した。その後、以下のガスを所定流量でチャンバー内に導入した。PETフィルムには酸素ガス(O2、純度99.99%)または二酸化炭素ガス(CO2、純度99.99%)を用い、ポリフッ化ビニル(PVF)とPPSフィルムおよびアラミド紙にはアルゴンガス(Ar、純度99.99%)を用いた。この流量を保持しながらチャンバー内の圧力を所定圧力に調整した。圧力が安定してから対向電極に所定の電力(W)を印加してプラズマを発生させ、次いでドラム電極を所定速度v(m/min)で回転させた。照射エネルギーE値(W・min/m2)は式<1>で計算した。試料
E=W/v・L <1>
はプラズマが発生している領域(長さL(m))を1回通した。ガス種などの照射条件は、各種のフィルムに応じて設定した。詳細は各章で記述する。」

ウ 「4−2 実験方法(試料、プラズマ照射、剥離試験)
4−2−1 試料
試料には厚さ100μmのPETフィルム(“ルミラー”T-60:光学用途)を用いた。・・・
4−2−2 プラズマ照射
プラズマ照射には、第3章で述べたベルジャー型のプラズマ照射装置を用いた。PETフィルムは、幅10cm、長さ20cmにカットし、回転するドラム電極に固定した。次いで、真空チャンバーを排気し、CO2(純度99.99%)ガスを流量20CCMで導入し、これを保持しながら圧力を15Paに調整した。圧力が安定してから対向電極に1kVから2.5kvの範囲で電圧を印加してプラズマを発生させた。・・・」

エ 「

」(41頁)

(2) 甲1に記載された発明
甲1には、上記(1)アないしエの記載があり、表2−1から各種高分子フィルムを直接接合する方法として、次のとおりの発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「ポリエチレンテレフタレートと、ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」という。)、ポリフェニレンサルファイド(以下、「PPS」という。)、又はアラミド(以下、「Aramid」という。)との組合せ、PPSと、PPS、又はAramidとの組合せ、ポリイミド(以下、「PI」という。)と、PI、又はAramidとの組合せ、Aramidと、Aramidの組合せが可能であり、接合温度が、PET同士を組合せたものが100℃であり、PPS同士を組合せたものが200℃であり、PI同士を組み合わせたものが230℃であり、Aramid同士を組み合わせたものが150℃である、それぞれの接合面にプラズマ照射して直接接合する方法」

2 取消理由(甲1に基づく進歩性)について
(1)本件発明1と甲1発明との対比・判断
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「PETと、PET、PPS、又はAramidとの組合せ、PPSと、PPS、又はAramidとの組合せ、PIと、PI、又はAramidとの組合せ、Aramidと、Aramidの組合せ」におけるそれぞれの樹脂は、本件発明1における「物体」に相当するから、甲1発明の「直接接合する方法」は、本件発明1における「接合物の製造方法」であって「2つの物体を接合して接合物を製造する方法」に相当する。
甲1発明も「2つの物体のそれぞれの接合面に」、「プラズマ照射するステップ」を有することは明らかである。
また、甲1のそれぞれの組合せの接合温度からみて、甲1発明も「プラズマが照射されたそれぞれの接合面同士を、25℃より高く前記物体に含まれる物質の融点未満の温度で接着するステップ」を有するといえる。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「2つの物体を接合して接合物を製造する方法であって、
2つの物体のそれぞれの接合面に、プラズマ照射するステップと、
プラズマが照射された接合面同士を、25℃より高く前記物体に含まれる物質の融点未満の温度で接着するステップと、
を備える、
接合物の製造方法」
で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1−1>
照射するプラズマが、本件発明1は、「5〜40Paの圧力の二酸化炭素、アルゴン、窒素、又は酸素に1.5〜3.5kVの電圧を印加して生じさせた」ものであるのに対し、甲1発明においては、そのようなものであるか不明な点

<相違点1−2>
接着する具体的な2つの物体として、本件発明1は、「組合せ1、組合せ2、組合せ3、組合せ4、組合せ5、組合せ6、組合せ7、組合せ8、組合せ9、組合せ10、組合せ11、組合せ12、組合せ13のうちのいずれかの組合せの物体である」と特定するのに対して、甲1発明は、そのような組合せではない点

<相違点1−3>
本件発明1は、「剪断応力が0.5MPa以上となるように」接着するとされているのに対し、甲1発明は、接着時の剪断強度は不明である点

事案に鑑み、相違点1−2から検討する。
相違点1−2に係る具体的な組合せについて、甲1には記載がなく、その他提示されたいずれの証拠にも記載はない。そして、それらの組合せにおいて手で引っ張ることによる接合の強度が○となることは、いずれの証拠にも記載されておらず当業者においても予測可能といえず、格別顕著な効果といえる。
してみれば、甲1発明において相違点1−2に係る組合せを特定することは、当業者といえども想到容易なこととはいえない。
そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2と甲1発明との対比・判断
本件発明2は、本件発明1とは、接着温度及び「組合せ」のみ異なる発明である。
そうすると、本件発明2と甲1発明とを対比すると、上記(1)における対比のとおりであるから、本件発明2と甲1発明とは、
「2つの物体を接合して接合物を製造する方法であって、
2つの物体のそれぞれの接合面に、プラズマを照射するステップと、
プラズマが照射された接合面同士を、接着するステップと、
を備えた、
接合物の製造方法」
で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1−4>
照射するプラズマが、本件発明2は、「5〜40Paの圧力の二酸化炭素、アルゴン、窒素、又は酸素に1.5〜3.5kVの電圧を印加して生じさせた」ものであるのに対し、甲1発明は、そのようなものであるか不明な点

<相違点1−5>
接着を、本件発明2は、「室温で」と特定するのに対し、甲1発明は、この点を特定しない点

<相違点1−6>
接合を行う2つの物体について、本件発明2は、「組合せ2−1、組合せ2−2、組合せ2−3、組合せ2−4、組合せ2−5、組合せ2−6、組合せ2−7、組合せ2−8のうちのいずれかの組合せの物体である」と特定するのに対し、甲1発明は、そのような2つの物体は特定されていない点

<相違点1−7>
本件発明1は、「剪断応力が0.5MPa以上となるように」接着するとされているのに対し、甲1発明は、接着時の剪断強度は不明である点

事案に鑑み、相違点1−6から検討する。
相違点1−6に係る具体的な組合せについて、甲1には記載がなく、その他提示されたいずれの証拠にも記載はない。そして、それらの組合せにおいて手で引っ張ることによる接合の強度が○となることは、いずれの証拠にも記載されておらず当業者においても予測可能といえず、格別顕著な効果といえる。
してみれば、甲1発明において相違点1−6に係る組合せを特定することは、当業者といえども想到容易なこととはいえない。
そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明3及び4と甲1発明との対比・判断
本件発明1又は2が、甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのは上記(1)及び(2)に記載のとおりであるから、本件発明1又は本件発明2の特定事項をすべて有し、更に限定する本件発明3及び4についても同様に、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、取消理由<決定の予告>の取消理由には理由がない。

第7 取消理由<決定の予告>において採用しなかった異議申立ての理由について

取消理由<決定の予告>において採用しなかった特許異議の申立ての理由は、申立理由1(甲1に基づく新規性)及び申立理由3(甲2に基づく進歩性)であるので、以下、検討する。

1 申立理由1(甲1に基づく新規性)について
上記第6 2(1)で検討したとおり、本件発明1と甲1発明とを対比すると、相違点1−1ないし1−3で相違しており、そのうち、相違点1−3は実質的な相違点であるので、本件発明1は、甲1発明であるとはいえず、すなわち、甲1に記載された発明とはいえないから、申立理由1は理由がない。

2 申立理由3(甲2に基づく新規性)について
(1)甲2の記載事項
甲2には以下の記載がある。

ア 「【請求項1】
アラミド繊維とアラミドパルプとからなり、プラズマ表面処理されたアラミド紙と、プラズマ処理されたポリエステルフィルムとが、室温〜200℃の温度で、加圧ロールを用いて連続的に積層接着されたことを特徴とする無接着剤アラミド−ポリエステル積層体。
・・・
【請求項3】
前記積層体はアラミド紙−ポリエステルフィルム−アラミド紙の3層構造を有することを特徴とする請求項1又は2記載の無接着剤アラミド−ポリエステル積層体。
・・・
【請求項7】
前記積層体はアラミド紙−ポリエステルフィルム−アラミド紙の3層構造を有することを特徴とする請求項5又は6記載の無接着剤アラミド−ポリエステル積層体の製造方法。」

イ 「【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、接着剤を使用せずに、アラミド紙及びポリエステルの特徴を損なうことなく、かつポリエステルの柔軟性を損なうことなく、環境対策を容易にした環境適合型アラミド積層体、その製造方法及び製造装置を実現することができる。」

ウ 「【0016】
前記アラミド−ポリエステル積層体において、前記温度は、用いるポリエステルフィルムのガラス転移温度以下であることが好ましい。加熱温度がガラス転移温度よりも高いと、積層体中のポリエステルが冷却する際に再度結晶化し、柔軟性を失い又は脆くなり、その取り扱い性が悪くなり、特性も低下する。また、前記積層体はアラミド紙−ポリエステルフィルム−アラミド紙の3層構造を有することが好ましい。更に、前記ポリエステルがポリエチレンテレフタレート(PET)又はポリエチレンナフタレート(PEN)であることが、機械的強度、柔軟性、コスト、絶縁性等の観点から望ましい。前記温度は、用いるポリエステルフィルムのガラス転移温度以下であることが必要である。加熱温度がポリエステルのガラス転移温度よりも高いと、積層体の冷却時にポリエステルの再結晶化のために、その柔軟性が失われる。PENの具体例としては帝人・デユポン(株)からテオネックスという商品名で販売されていて、これは二軸延伸ポリエチレンナフタレートである。なお、PETのガラス転移温度は約78℃、PENのガラス転移温度は約121℃である。」

エ 「【0020】
少なくとも前記ロールは温度制御可能な雰囲気内に配置されていることが好ましい。少なくとも積層体を加圧積層する手段を所望の温度に保つため、例えば予熱・徐冷ゾーンを備えた温度調節装置を設ける。室温でも加圧下で積層・接着は可能であるが、接着速度を高め、加圧力を十分低くするため、ポリエステルフィルムを、室温よりも高く、かつポリエステルフィルムのガラス転移温度よりも低い温度に保つことが望ましい。」

(2)甲2に記載された発明
上記(1)ア〜エの記載からみて、甲2には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。

「アラミド繊維とアラミドパルプとからなるプラズマ処理したアラミド紙と、プラズマ表面処理したポリエステルフィルムを重ね合わせ、室温〜200℃の一対の加圧ロールで押圧することで、接着剤を用いずにアラミド紙−ポリエステル積層体を製造する方法」

(3)本件発明1と甲2発明との対比・判断
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「アラミド紙」と「ポリエステルフィルム」は、本件発明1における「物体」に相当するから、甲2発明の「アラミド紙−ポリエステル積層体を製造する方法」は、本件発明1における「接合物の製造方法」であって「2つの物体を接合して接合物を製造する方法」に相当する。
甲2発明も「2つの物体のそれぞれの接合面に」「プラズマ照射するステップ」を有することは明らかである。
また、甲2発明の「室温〜200℃の一対の加圧ロールで押圧すること」は、本件発明1における「プラズマが照射された接合面同士を、25℃より高く前記物体に含まれる物質の融点未満の温度で接合するステップ」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲2発明とは、
「2つの物体を接合して接合物を製造する方法であって、
2つの物体のそれぞれの接合面に、プラズマを照射するステップと、
プラズマが照射された接合面同士を、25℃より高く前記物体に含まれる物質の融点未満の温度で接着するステップと、
を備える、
接合物の製造方法」
で一致し、以下の点で相違する。

<相違点2−1>
照射するプラズマが、本件発明1は、「5〜40Paの圧力の二酸化炭素、アルゴン、窒素、又は酸素に1.5〜3.5kVの電圧を印加して生じさせた」ものであるのに対し、甲2発明は、そのようなものであるか不明な点

<相違点2−2>
接着する具体的な2つの物体として、本件発明1は、「組合せ1、組合せ2、組合せ3、組合せ4、組合せ5、組合せ6、組合せ7、組合せ8、組合せ9、組合せ10、組合せ11、組合せ12、組合せ13のうちのいずれかの組合せの物体である」と特定するのに対して、甲2発明は、「アラミド紙とポリエステルフィルム」である点

<相違点2−3>
本件発明1は、「剪断応力が0.5MPa以上となるように」接着するとされているのに対し、甲2発明は、接着時の剪断強度は不明である点

事案に鑑み、相違点2−2から検討する。
甲2発明は、「アラミド紙とポリエステルフィルム」という特定な部材を接合するものであって、甲2には、それ以外の部材を接合することに関する記載ないし示唆はない。また、その他提示されたいずれの証拠にも相違点2−2の組み合わせについての記載はない。そして、それらの組合せにおいて手で引っ張ることによる接合の強度が○となることは、いずれの証拠にも記載されておらず当業者においても予測可能といえず、格別顕著な効果といえる。
してみれば、甲2発明において相違点2−2に係る組合せを特定することは、当業者といえども想到容易なこととはいえない。
そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明2と甲2発明との対比・判断
本件発明2は、本件発明1とは、接着温度及び「組合せ」のみ異なる発明である。
そうすると、本件発明2と甲2発明とを対比すると、上記(3)における対比のとおりであるから、本件発明2と甲2発明とは、
「2つの物体を接合して接合物を製造する方法であって、
2つの物体のそれぞれの接合面に、プラズマ照射するステップと、
プラズマが照射された接合面同士を、室温で接着するステップと、
を備える、
接合物の製造方法」
で一致し、以下の点で相違する。

<相違点2−4>
照射するプラズマが、本件発明2は、「5〜40Paの圧力の二酸化炭素、アルゴン、窒素、又は酸素に1.5〜3.5kVの電圧を印加して生じさせた」ものであるのに対し、甲2発明においては、この点を特定しない点

<相違点2−5>
接合する具体的な2つの物体として、本件発明2は、「組合せ2−1、組合せ2−2、組合せ2−3、組合せ2−4、組合せ2−5、組合せ2−6、組合せ2−7、組合せ2−8のうちのいずれかの組合せの物体である」と特定するのに対し、甲2発明は、「アラミド紙とポリエステルフィルム」である点

<相違点2−6>
本件発明2は、「剪断応力が0.5MPa以上となるように」接着するとされているのに対し、甲2発明は、接着時の剪断強度は不明である点

事案に鑑み、相違点2−5から検討する。
甲2発明は、「アラミド紙とポリエステルフィルム」という特定な部材を接合するものであって、甲2には、それ以外の部材を接合することに関する記載ないし示唆はない。また、その他提示されたいずれの証拠にも相違点2−5の組み合わせについての記載はない。そして、それらの組合せにおいて手で引っ張ることによる接合の強度が○となることは、いずれの証拠にも記載されておらず当業者においても予測可能といえず、格別顕著な効果といえる。
してみれば、甲2発明において相違点2−5に係る組合せを特定することは、当業者といえども想到容易なこととはいえない。
そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲2発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)本件発明3及び4について
本件発明1又は2が、甲2発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのは上記(3)及び(4)に記載のとおりであるから、本件発明1又は本件発明2の特定事項をすべて有し、更に限定する本件発明3及び4についても同様に、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(6) まとめ
特許異議申立書に記載の申立理由3(甲2に基づく進歩性)は理由がない。

第8 結語

以上のとおりであるから、当審において通知した取消理由<決定の予告>及び特許異議申立人が主張する申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの物体を接合して接合物を製造する方法であって、
2つの物体のそれぞれの接合面に、5〜40Paの圧力の二酸化炭素、アルゴン、窒素、又は酸素に1.5〜3.5kVの電圧を印加して生じさせたプラズマを照射するステップと、
プラズマが照射された接合面同士を、25℃より高く、前記物体に含まれる物質の融点未満の温度で、剪断応力が0.5MPa以上となるように接着するステップと、
を備え、
前記2つの物体は、ポリプロピレンと、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ストロンチウムタイタネート、ランタンアルミネート、又はガラスとの組合せ、ポリアミドと、ポリカーボネート、又はポリメタクリル酸メチルとの組合せ、ポリフェニレンサルファイドと、アルミニウム、銅、チタン、又はステンレス鋼との組合せ、ポリエチレンテレフタレートと、ポリカーボネート、又はポリメタクリル酸メチルとの組合せ、ポリカーボネートとポリメタクリル酸メチルとの組合せ、ポリメタクリル酸メチルと、ポリメタクリル酸メチルとの組合せ、ポリプロピレンを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリプロピレンを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリアミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリフェニレンサルファイドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、アルミニウム、銅、チタン、ステンレス鋼、ストロンチウムタイタネート、ランタンアルミネート、又はガラスとの組合せ、ポリアミドを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリアミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリフェニレンサルファイドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルエーテルケトンを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルイミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、エポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチック、アルミニウム、又はステンレス鋼との組合せ、ポリフェニレンサルファイドを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリフェニレンサルファイドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルエーテルケトンを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリェーテルイミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、エポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチック、アルミニウム、銅、チタン、又はステンレス鋼との組合せ、ポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、又はポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチックとの組合せ、ポリエーテルエーテルケトンを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリエーテルエーテルケトンを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエーテルイミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、又はエポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチックとの組合せ、ポリエーテルイミドを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリエーテルイミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、又はエポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチックとの組合せ、エポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチックと、エポキシ樹脂を母材とする炭素繊維強化プラスチックとの組合せのうちのいずれかの組合せの物体である
ことを特徴とする接合物の製造方法。
【請求項2】
2つの物体を接合して接合物を製造する方法であって、
2つの物体のそれぞれの接合面に、5〜40Paの圧力の二酸化炭素、アルゴン、窒素、又は酸素に1.5〜3.5kVの電圧を印加して生じさせたプラズマを照射するステップと、
プラズマが照射された接合面同士を、室温で、剪断応力が0.5MPa以上となるように接着するステップと、
を備え、
前記2つの物体は、ポリプロピレンと、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ストロンチウムタイタネー卜、ランタンアルミネート、又はガラスとの組合せ、ポリアミドと、ポリアミド、又はポリメタクリル酸メチルとの組合せ、ポリエチレンテレフタレートと、ポリカーボネート、又はポリメタクリル酸メチルとの組合せ、ポリカーボネートとポリメタクリル酸メチルとの組合せ、ポリメタクリル酸メチルと、ポリメタクリル酸メチルとの組合せ、ポリプロピレンを母材とする炭素繊維強化プラスチックと、ポリプロピレンを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリアミドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリフェニレンサルファイドを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリエチレンテレフタレートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ポリカーボネートを母材とする炭素繊維強化プラスチック、ストロンチウムタイタネート、ランタンアルミネート、又はガラスとの組合せ、ポリアミドを母材とする炭素繊維強化プラスチックとポリアミドを母材とする炭素繊維強化プラスチックとの組合せのうちのいずれかの組合せの物体である
ことを特徴とする接合物の製造方法。
【請求項3】
前記接合面にプラズマを照射した後に、前記接合面の1cm×lcm×10nmの体積中に、ポリフェニレンサルファイドの場合は4.63×1015以上のヒドロキシ基及び2.72×1015以上のカルボキシ基が含まれ、ポリエチレンテレフタレートの場合は1.01×1016以上のヒドロキシ基及び9.42×1015以上のカルボキシ基が含まれ、ポリカーボネートの場合は9.25×1015以上のヒドロキシ基及び2.28×1015以上のカルボキシ基が含まれるように、前記接合面にプラズマが照射される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の接合物の製造方法。
【請求項4】
前記2つの物体の双方と接合可能なフィルムの一方の面と前記2つの物体のうちの一方とを接合するステップと、
前記フィルムの他方の面と前記2つの物体のうちの他方とを接合するステップと、
を更に備えることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の接合物の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-01-13 
出願番号 P2018-089044
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B29C)
P 1 651・ 113- YAA (B29C)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 細井 龍史
特許庁審判官 大島 祥吾
奥田 雄介
登録日 2020-03-31 
登録番号 6683993
権利者 学校法人金沢工業大学
発明の名称 接合物の製造方法  
代理人 森下 賢樹  
代理人 特許業務法人 サトー国際特許事務所  

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