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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F16L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  F16L
審判 全部申し立て 2項進歩性  F16L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  F16L
管理番号 1383242
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-09-18 
確定日 2022-01-24 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6709309号発明「多層管」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6709309号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜6〕について訂正することを認める。 特許第6709309号の請求項1〜6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許6709309号の請求項1〜6に係る特許についての出願は、平成25年11月22日を出願日とする特願2013−241955号の一部を平成31年4月24日に新たな特許出願としたものであって、令和2年5月26日に特許権の設定登録がされ、令和2年6月10日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議申立ての経緯は、次のとおりである。
令和2年9月18日:特許異議申立人 奥村一正(以下「特許異議申立人」という。)による特許異議の申立て
令和3年2月19日付け:取消理由通知書
令和3年4月23日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和3年4月30日付け:訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項
令和3年6月4日:特許異議申立人による意見書の提出
令和3年8月27日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和3年10月22日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和3年10月28日付け:訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項
令和3年11月22日:異議申立人による意見書の提出

なお、令和3年4月23日に特許権者によりされた訂正請求については、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の請求
1 訂正の内容
令和3年10月22日の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次の事項からなる(なお、下線を付した箇所は訂正箇所である。)。
特許請求の範囲の請求項1に「前記ガラス繊維の繊維長が、0.05mm以上、5mm以下である」とあるのを、「前記ガラス繊維の繊維長が、0.05mm以上、5mm以下であり、前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層の厚みが、2mm以上、4mm以下であり、前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層において、前記ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、前記ガラス繊維の含有量が、72.7重量部以上である」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2〜6も同様に訂正する)。
2 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正の目的について
本件訂正は、「ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層」について、「前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層の厚みが、2mm以上、4mm以下であり、前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層において、前記ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、前記ガラス繊維の含有量が、72.7重量部以上である」ことを限定するものである。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
本件訂正について、本願特許明細書には、「・・・ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層の厚みは、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.3mm以上、更に好ましくは0.5mm以上、好ましくは40mm以下、より好ましくは25mm以下、更に好ましくは10mm以下である。」(【0034】)との記載があり、実施例3では、厚み4mmのポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層が用いられており、実施例4では、厚み2mmのポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層が用いることが記載されている(【0090】の表1。以下、「・・・」は、記載の省略を意味する。)。
また、本件特許明細書には、「上記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層において、上記ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、上記ガラス繊維の含有量は好ましくは1重量部以上、より好ましくは5重量部以上、更に好ましくは10重量部以上、好ましくは200重量部以下、より好ましくは150重量部以下、更に好ましくは70重量部以下である。・・・」(【0051】)との記載があり、「【0083】
(実施例3)
ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層を形成するために、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、密度:0.95g/cm3)100重量部(55重量%)と、ガラス繊維(繊維長3mm、繊維径13μm、アミノシラン表面処理)72.7重量部(40重量%)と、相溶化剤(変性ポリエチレン、密度:0.95g/cm3)9.1重量部(5重量%)とを混合した組成物を用いた。
【0084】
ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層の材料を上記のように変更したこと以外は実施例1と同様にして、多層管を得た。
【0085】
(実施例4)
ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層を形成するために、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、密度:0.95g/cm3)100重量部(55重量%)と、ガラス繊維(繊維長3mm、繊維径13μm、アミノシラン表面処理)72.7重量部(40重量%)と、相溶化剤(変性ポリエチレン、密度:0.95g/cm3)9.1重量部(5重量%)とを混合した組成物を用いた。」(【0083】〜【0084】)と記載され、さらに、表1の実施例3、4では、上記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層において、ガラス繊維が、ポリオレフィン樹脂100重量部に対して72.7重量部 (=40/55×100) の含有量で用いられている(【0090】表1)。
よって、本件訂正は、これらの記載に基づく訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正である。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
本件訂正は、上記アのように訂正前の請求項1における記載をさらに限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
3 一群の請求項について
本件訂正に係る訂正前の請求項1〜6について、請求項2〜6はそれぞれ請求項1を直接または間接的に引用するものであって、本件訂正によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、本件訂正は、訂正前の請求項〔1〜6〕の一群の請求項について請求されたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。
4 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1〜6〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正後の特許請求の範囲の記載は以下のとおりであり、本件訂正後の本件特許の請求項1〜6に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1」などという。また、まとめて、「本件訂正発明」ともいう。)は、それぞれ本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
管状の複数の層を備える多層管であって、
管状であり、かつポリオレフィン樹脂を含む第1のポリオレフィン樹脂層(但し、ポリブテンが含まれている層を除く)と、
管状であり、かつポリオレフィン樹脂とガラス繊維とを含むポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層(但し、前記ガラス繊維が、シート状繊維複合体として含まれている層を除く)と、
管状であり、かつポリオレフィン樹脂を含む第2のポリオレフィン樹脂層と、
を備え、
前記第1のポリオレフィン樹脂層の外側に、前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層が配置されており、
前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層の外側に、前記第2のポリオレフィン樹脂層が配置されており、
前記ガラス繊維の繊維長が、0.05mm以上、5mm以下であり、
前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層の厚みが、2mm以上、4mm以下であり、
前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層において、前記ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、前記ガラス繊維の含有量が、72.7重量部以上である、多層管。
【請求項2】
前記ガラス繊維の繊維径が、1μm以上、20μm以下である、請求項1に記載の多層管。
【請求項3】
前記ガラス繊維が、シランカップリング剤により表面処理されている、請求項1又は2に記載の多層管。
【請求項4】
前記ガラス繊維が、アミノシランにより表面処理されている、請求項3に記載の多層管。
【請求項5】
前記第1のポリオレフィン樹脂層に含まれている前記ポリオレフィン樹脂が、ポリプロピレンであり、
前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層に含まれている前記ポリオレフィン樹脂が、ポリプロピレンであり、
前記第2のポリオレフィン樹脂層に含まれている前記ポリオレフィン樹脂が、ポリプロピレンである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の多層管。
【請求項6】
前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層が、相溶化剤をさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の多層管。」

第4 取消理由の概要
当審において、通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
1 取消理由の概要
(1) (新規性)本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(2) (進歩性)本件特許の請求項1〜6に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(3) 明確性要件
ア 本件特許の請求項1に係る発明は、「前記ガラス繊維の繊維長が、0.05mm以上、5mm以下である」と記載されているが、明細書又は特許請求の範囲には、ガラス繊維の繊維長の測定方法が記載されておらず、明細書に「上記繊維長は、複数のガラス繊維の長さの平均を意味する。」(【0046】)としか記載されていない。繊維長は、繊維の形状、その定義(数平均繊維長、重量平均繊維長など)や測定方法より値が変わることが想定されるものであるから、本件特許の記載では「前記ガラス繊維の繊維長が、0.05mm以上、5mm以下である」を特定することができず、不明確である。
また、請求項1を引用する請求項2〜6に係る発明についても同様である。
イ 本件特許の請求項2に係る発明は、「前記ガラス繊維の繊維径が、1μm以上、20μm以下である」と記載されているが、明細書又は特許請求の範囲には、ガラス繊維の繊維径の測定方法が記載されておらず、明細書には「上記繊維径は、1つのガラス繊維の最大径を求め、複数のガラス繊維の最大径を平均することにより求められる。」(【0048】)としか記載されていない。
しかし、繊維径は、測定方法より値が変わることが想定されるものであるから、本件特許の記載では、「前記ガラス繊維の繊維径が、1μm以上、20μm以下である」を特定することができず、不明確である。
また、請求項2を引用する請求項3〜6に係る発明についても同様である。
ウ 上記ア及びイのとおりであって、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(4) 実施可能要件
ア 本件明細書の発明の詳細な説明には、どのような測定条件で繊維長を測定すればよいのか上記のとおり十分に特定されていないと認められるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものとは認められない。
イ 本件明細書の発明の詳細な説明には、どのような測定条件で繊維径を測定すればよいのか上記のとおり十分に特定されていないと認められるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものとは認められない。
ウ 上記ア及びイのとおりであって、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
2 証拠方法
甲第1号証:特開平9−309140号公報
甲第2号証:特開平10−71639号公報
甲第3号証:特開平11−70560号公報
甲第4号証:特開2001−304463号公報
甲第5号証:特開2001−304462号公報
甲第6号証:特開2016−223525号公報
甲第7号証:特開2008−303256号公報
甲第8号証:特開2013−184879号公報
甲第9号証:特開2002−5924号公報
甲第10号証:財団法人日本規格協会、‘JIS P8226−2(ISO 16065−2)パルプ−光学的自動分析法による繊維長測定方法−第2部:非偏光法’、平成23年3月22日
(当審注:以下、上記「甲第1号証」〜「甲第10号証」を「甲1」〜「甲10」という。なお、甲6の公開日は、平成28年12月28日であり、本件特許の原出願の出願日である平成25年11月22日以降のものである。)

第5 当審の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由の理由(1)(新規性)及び理由(2)(進歩性)について
(1) 各甲号証の記載等
ア 甲1
(ア) 甲1の記載
「【請求項1】 強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む樹脂溶融混合物を、第1押出機よりこれに接続されたクロスヘッドダイの円筒状第1流路内に導入し、該円筒状第1流路の内外両側のうち少なくとも一方に、樹脂の押出方向と同方向にのびる回転軸を中心として回転する回転型を配置して、上記混合物を円筒状第1流路を通過する間にねじりせん断を受けるように賦形することにより、繊維強化管状芯材を形成し、ついで繊維強化管状芯材を、上記円筒状第1流路に連なりかつ内周面及び外周面が固定壁部によって画された円筒状第2流路内に導くとともに、第2流路内において該管状芯材の内外両面のうち少なくとも一方に、他の押出機からの溶融熱可塑性樹脂を被覆して、共押出により被覆層を有する繊維強化管状体を成形することを特徴とする、管状体の製造方法。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、周方向の強度、剛性に優れたパイプ、ポール等に使用される管状体を製造する方法に関するものである。」
「【0007】本発明の目的は、上記の従来技術の問題に鑑み、強化繊維により周方向に効率的に補強された周方向の強度・剛性に優れた管状体を連続的に成形する方法を提供しようとするにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記の目的を達成するために、強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む樹脂溶融混合物を、第1押出機よりこれに接続されたクロスヘッドダイの円筒状第1流路内に導入し、該円筒状第1流路の内外両側のうち少なくとも一方に、樹脂の押出方向と同方向にのびる回転軸を中心として回転する回転型を配置して、上記混合物を円筒状第1流路を通過する間にねじりせん断を受けるように賦形することにより、繊維強化管状芯材を形成し、ついで繊維強化管状芯材を、上記円筒状第1流路に連なりかつ内周面及び外周面が固定壁部によって画された円筒状第2流路内に導くとともに、第2流路内において該管状芯材の内外両面のうち少なくとも一方に、他の押出機からの溶融熱可塑性樹脂を被覆して、共押出により被覆層を有する繊維強化管状体を成形することを特徴としている。
【0009】本発明の方法において使用する熱可塑性樹脂としては、ABS樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、フッ素樹脂、アセタール樹脂、アミド樹脂、イミド樹脂、アミドイミド樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリフェニレンオキシド、ポリスチレン、熱可塑性ポリウレタン等、及びこれらの変性材あるいはブレンド材(アロイ材)等の溶融成形可能な樹脂が挙げられる。
【0010】他方、強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、セラミック繊維等の無機繊維や、アラミド繊維および超高分子量ポリエチレン繊維等の有機繊維、あるいは成形時に金型内でせん断力を受けることにより略繊維状補強材となる液晶ポリマー繊維化物などが用いられる。」
「【0012】また樹脂に混合する強化繊維の形状としては、ガラス繊維やカーボン繊維のような連続繊維を適当な長さでカットしたものでもよいし、炭化珪素、窒化珪素等のウィスカー状のものでもよい。また強化繊維の長さは、特に限定されないが、アスペクト比1以上のものが望ましい。すなわち、強化繊維としては、直径1〜50μm、好ましくは5〜30μm、長さ1μm〜50mm、好ましくは5μm〜5mm程度のものが、好適に使用される。」
「【0040】本発明の方法により製造された図3に示す管状体成形品(55)について説明すると、管状体成形品(55)の内径および外径は、その用途に応じて適宜設定され、管状芯材(51)の厚みおよび樹脂被覆層(52)(53)の厚みは、管状体成形品(55)の内外径の範囲内で適宜設定できる。しかし、管状体成形品(55)の周方向の強度および剛性向上の効果を発現させるためには、管状芯材(51)の厚みは、0.5mm以上とするのが好ましく、通常、0.5〜30.0mm、望ましくは1.0〜20.0mmとする。また樹脂被覆層(52)(53)の厚みは、0.1mm以上とするのが好ましく、通常、0.1〜5.0mm、望ましくは1.0〜3.0mmとする。」
「【0044】実施例1
本発明の方法により図3に示す強化繊維(40)と熱可塑性樹脂(41)とよりなる管状芯材(51)の外周面に、熱可塑性樹脂被覆層(52)(53)が設けられた管状体成形品(55)を製造した。
・・・
【0047】ここで、管状芯材(51)の強化繊維(40)としては、直径10μm、長さ3mmのガラス繊維チョップドストランド(日東紡績社製、CS3E−471S)を用い、熱可塑性樹脂(41)としては、ポリエチレン(昭和電工社製、TR418)を用いた。
【0048】なお、ポリエチレンに対するガラス繊維の混合量を10重量%とし、タンブラーミキサーによりポリエチレンとガラス繊維との予備混合を行った。
【0049】そして、上記図1に示す1軸押出機よりなる第1押出機(11)において、ガラス繊維混合ポリエチレンを、スクリュー径50mm、および樹脂温度180℃に設定して押出成形した。
【0050】この時、内側の回転型(22)の外径を91mm、クロスヘッドダイ外型(21)中間部の固定壁部(21a)の内径を109mmとした。また、回転型(22)の回転数は、20rpmとした。
【0051】これにより、内径91mmおよび外径109mmの繊維強化管状芯材(51)が成形された。
【0052】つぎに、この繊維強化管状芯材(51)を、円筒状第1流路(31)に延設された回転しない円筒状第2流路(32)内の中央部に導いた。
【0053】そして、該円筒状第2流路(32)内において該管状芯材(51)の内周面及び外周面に、それぞれスクリュー径40mmの単軸押出機よりなる他の第2及び第3押出機(12)(13)から、第2および第3熱可塑性樹脂(42)(43)として、上記熱可塑性樹脂(41)と同じポリエチレンよりなるものを、180℃の樹脂温度で押し出した。
【0054】この時、円筒状第2流路(32)内周面の固定内型(23)の径大部(23b)の外径を90mm、同第2流路(32)外周面のクロスヘッドダイ外型(21)の押出方向前端部の固定壁部(21b)内径を110mmとした。
【0055】そして、円筒状第2流路(32)の内周部分に管状芯材(51)の軸方向と平行な内部流路(33)を経て、内側の溶融熱可塑性樹脂(42)が導入され、かつ第2流路(32)の外周部分に分岐流路(マニホルド)(35)を経て、溶融熱可塑性樹脂(43)が円筒状に展開されて導入されて、共押出により管状芯材(51)の内外両側に熱可塑性樹脂被覆層(52)(53)が設けられて、樹脂被覆繊維強化管状体(54)が成形された。
【0056】つぎに、クロスヘッドダイ(14)を通過した樹脂被覆繊維強化管状体(54)を、冷却槽(16)により常温まで冷却し、引き取り機(15)にて引き取り、外径110mm、内径90mmの管状体成形品(55)を得た。」(「・・・」は文の省略を意味する。以下同様である。)



「【図3】


・上記【0048】には、ポリエチレンに対するガラス繊維の混合量は10重量%とあるが、これは、表1の実施例1の強化繊維+樹脂混合組成(重量%)において、繊維が10重量%、樹脂が90重量%とあることを併せてみると、混合組成全体に対する割合を示しているものと理解できる。そうすると、ポリエチレン100重量部に対して、ガラス繊維は、10÷90×100=11.1重量部といえる。
・上記【0051】より、繊維強化管状芯材(51)の厚みは、(外径109mm−内径91mm)÷2=9mmであることがわかる。
(イ) 甲1発明
上記(ア)の記載事項を総合すると、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「管状芯材(51)の内外両側に熱可塑性樹脂被覆層(52)(53)が設けられた、管状体成形品(55)であって、
管状芯材(51)は強化繊維(40)と熱可塑性樹脂(41)とよりなり、
管状芯材(51)の強化繊維(40)としては、直径10μm、長さ3mmのガラス繊維チョップドストランド(日東紡績社製、CS3E−471S)を用い、熱可塑性樹脂(41)としては、ポリエチレン(昭和電工社製、TR418)を用い、
管状芯材(51)の内外両側の熱可塑性樹脂被覆層(52)(53)をなす第2および第3熱可塑性樹脂(42)(43)として、熱可塑性樹脂(41)と同じポリエチレンよりなるものを用い、
前記ポリエチレンとガラス繊維チョップドストランドとからなる管状芯材(51)の厚みが、9mmであり、
前記ポリエチレンとガラス繊維チョップドストランドとからなる管状芯材(51)において、前記ポリエチレン100重量部に対して、前記ガラス繊維チョップドストランドの含有量が、11.1重量部である、
管状体成形品(55)。」
イ 甲2
(ア) 甲2の記載
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、強化材により強化された管状体の製造方法、及び管状体製造用金型に関するものである。」
「【0034】なお、繊維径は1〜100μm程度、繊維長は1μm〜100mm程度が好ましい。」
「【0090】合成樹脂に混合した強化材としては、直径が15μm、長さが5mmであるガラス繊維のチョップドストランド4体積%をミキサーにてドライ混合した。」
(イ) 甲2記載事項
上記(ア)の記載事項を総合すると、甲2には以下の事項(以下「甲2事項」という。)が記載されていると認められる。
「管状体に補強材として用いるガラス繊維は、繊維径が1〜100μm程度、繊維長が1μm〜100mm程度であること。」
ウ 甲3
甲3には、以下の事項が記載されている。
「【0027】
【実施例】以下に実施例および比較例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例および比較例においては、使用した成分はガラス繊維を除いてすべてヘンシェル型混合機を用いて前混合したものを用意し、日本製鋼所製44mmφ同方向回転二軸混練機に初めから供給し、途中から集束させた直径13μm,長さ3000μmのガラス繊維を投入して加熱溶融混合したものを用いた。混合した組成物はペレット状にして採取し、乾燥後押出機に供給した。
【0028】実施例1
ポリアミド6(宇部興産株式会社製1022B)70重量%とガラス繊維30重量%とからなる組成物を、図1に示す様な装置を用いてシリンダ温度240℃に設定したプラスチック工学研究所製50mmφ単軸押出機で、θ=90度の拡散ダイから1.5m/分の速度で押出した。押出物は、押出機ダイリップから15mm離した真空冷却サイジングダイを用いてサイジングした後、10℃の冷却水槽で冷却固化させ,3mm×18mmの断面を有する成形品を得た。この時、サイジングダイとして、その入口の内径寸法が拡散ダイ出口の内径寸法よりも0.2mm大きいものを使用した。」
エ 甲4
甲4には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】合成樹脂と繊維状フィラーを含む組成物からなる繊維強化樹脂製パイプであって、繊維状フィラーがパイプ表面と平行な面に沿って面配向していることを特徴とする繊維強化樹脂製パイプ。
【請求項2】繊維状フィラーがパイプ表面と平行な面に対し、20°以内の角度で配置するものが50%以上あり、かつ、該パイプの長手方向の軸に対し、20°以内の角度で配置するものが50%以下であることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化樹脂製パイプ。
【請求項3】繊維状フィラーの含有量が5〜60質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の繊維強化樹脂製パイプ。
【請求項4】繊維状フィラーがガラス繊維であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の繊維強化樹脂製パイプ。
【請求項5】合成樹脂がポリオレフィン、ポリアミド、ポリアリーレンスルフィド及びポリ塩化ビニルからなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項1ないし4のいずれかに記載の繊維強化樹脂製パイプ。」
「【0014】具体的に、熱可塑性樹脂としては、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン等のα−オレフィンとエチレンまたはプロピレンとの共重合体等のオレフィン系共重合体、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−フェニルマレイミド共重合体等のスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド4・6、ポリアミド6・6、ポリアミド6・10、ポリアミド6・12、ポリアミド6T、ポリアミド6I、ポリアミド6T/6I、ポリアミドMXD6、ポリアミド6/6・6共重合体、ポリアミド6/6・10等のポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリアリーレンスルフィド、ポリメチルメタクリレート、ポリサルホン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリアセタール、ポリアミドイミド、ポリアリレート、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素含有エチレン系共重合体等が挙げられる。」
「【0020】また、繊維状フィラーは合成樹脂との接着性を改良するため、各種の表面処理を施すことが好ましい。表面処理に使用される表面処理剤としては、例えば、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤等が挙げられる。」
オ 甲5
甲5には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】ポリアミド樹脂と繊維状フィラーを含む組成物からなる繊維強化樹脂製パイプであって、繊維状フィラーがパイプ表面と平行な面に沿って面配向していることを特徴とするヒートシステム用樹脂製パイプ。
【請求項2】繊維状フィラーがパイプ表面と平行な面に対し、20°以内の角度で配置するものが50%以上あり、かつ、該パイプの長手方向の軸に対し、20°以内の角度で配置するものが50%以下であることを特徴とする請求項1に記載のヒートシステム用樹脂製パイプ。
【請求項3】繊維状フィラーの含有量が10〜50質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載のヒートシステム用樹脂製パイプ。
【請求項4】繊維状フィラーがアミノシラン系カップリング剤で表面処理されたガラス繊維であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のヒートシステム用樹脂製パイプ。」
「【0014】本発明に用いられる繊維状フィラーとしては、公知の各種繊維状フィラーが使用され、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、気相法炭素繊維、金属繊維、全芳香族ポリアミド繊維、鉱物繊維、各種ウィスカー(金属酸化物、ホウ酸アルミニウム、窒化珪素、チタン酸カリウム等)が挙げられる。これらの繊維状フィラーは、1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。また、繊維状フィラーは線状のものでも、分岐を有するものでも使用できる。これらのうち好ましくはガラス繊維、炭素繊維が用いられる、より好ましくはガラス繊維である。
【0015】本発明におけるガラス繊維としては、具体的には、従来からポリアミド樹脂等に配合されているものであり、特に制限はない。ガラス繊維の径は5μm〜15μmが好ましい。また、パイプ中におけるガラス繊維の長さは長い方が良く、好ましくは平均アスペクト比10以上、更に好ましくは平均アスペクト比100以上である。ガラス繊維はポリアミド樹脂との接着性を改良するため、各種の表面処理を施すことが好ましい。
【0016】本発明におけるガラス繊維用の表面処理剤としては、例えば、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤等が挙げられる。これらの表面処理剤のうち、好ましくはシランカップリング剤であり、より好ましくは、ポリアミド樹脂との相容性が良いと言う点から、アミノシラン系カップリング剤である。
【0017】アミノシラン系カップリング剤としては、具体的にN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピル−トリス(2−メトキシ−エトキシ)シラン、N−メチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ビニルベンジル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン,トリアミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。」
カ 甲6
甲6には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
軸心から外周への方向に、第1層、第2層および第3層をこの順で含み、
前記第1層および前記第3層がポリオレフィン系樹脂を主成分として含み、
前記第2層が、ポリオレフィン系樹脂とガラス繊維とを含み、前記ガラス繊維の配合量が15重量%以上45重量%以下であり、成形後の前記第2層中に含まれる前記ガラス繊維の平均繊維長が200μm以上700μm以下かつ繊維長100μm以下のガラス繊維の含有率が15重% 以下であり、かつ、前記ガラス繊維が前記軸心に沿う方向に配向された配向層を含む、ポリオレフィン系樹脂多層配管。」
「【0032】
[1−3−2.ガラス繊維の含有量]
第2層120中のガラス繊維の含有量は、低線膨張性、剛性および常温環境下での強度を良好に得る観点から15%以上であり、低線膨張性、剛性および常温環境下での強度をより良好に得る観点から、好ましくは20%以上である。当該含有量の範囲内の上限値は、低温環境下での強度、耐圧性、第1層110および第3層130との界面融着性を良好に得る観点から45%以下であり、低温環境下での強度、耐圧性、第1層110および第3層130との界面融着性をより良好に得る観点から、好ましくは40%である。」
「【0041】
[1−3−6.ガラス繊維の平均繊維径]
ガラス繊維の平均繊維径は、たとえば1μm以上30μm以下であってよい。繊維径が上記下限値以上であることは、低線膨張性能および強度の点で好ましく、無配向層が存在する場合は耐圧性の点でも好ましい。繊維径が上記上限値以下であることにより、繊維の配向のコントロールが容易である点で好ましい。これらの効果を一層効果的に得る観点からは、ガラス繊維の繊維径は好ましくは5μm以上20μm以下、より好ましくは5μm以上15μm以下である。なお、平均繊維径とは、第2層120に含まれる繊維それぞれの最大径の平均値である。」
キ 甲7
甲7には、以下の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、耐加水分解性、機械強度に優れ、成形体製造時の成形サイクルの短縮化が可能な成形加工にも優れるポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体樹脂組成物に関するものである。」
「【0018】
本発明に用いられるガラス繊維は、表面処理剤で表面処理してあることが好ましい。表面処理剤としては、例えばシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、脂肪酸及びその金属塩、アルミニウム系カップリング剤、クロム系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤、ボラン系カップリング剤等を挙げることができ、これらのうち1種以上が好適に使用される。中でも、ポリ3−ヒドロキシブチレート系重合体樹脂組成物が良好な耐加水分解性を示すことからシランカップリング剤が好ましく用いられる。
【0019】
シランカップリング剤としては、例えばγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−( アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−N’−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン類;γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン類; γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等のクロルシラン類;γ−メルカプトトリメトキシシランビニルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン類; ビニルメトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のビニルシラン類;γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリルシラン類; 等が挙げられ、アミノシラン類が特に好ましい。」
ク 甲8
甲8には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
ガラス繊維の集束に用いられるガラス繊維用集束剤であって、
重量平均分子量が40,000〜60,000の第一のポリプロピレン樹脂と、
重量平均分子量が90,000〜130,000の第二のポリプロピレン樹脂と、
シランカップリング剤と、を含有し、
前記第一のポリプロピレン樹脂の前記ガラス繊維用集束剤に含有される重量に対する前記第二のポリプロピレン樹脂の前記ガラス繊維用集束剤に含有される重量の比率は、0.10以上、1.0未満である、
ことを特徴とするガラス繊維用集束剤。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維用集束剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維と加工性に優れる熱可塑性樹脂との複合材である繊維強化プラスチック(FRTP:Fiberglass Reinforced Thermoplastic)は、自動車部品、家電等、幅広い分野の工業製品に使用されている。そして、ガラス繊維は、その表面を集束剤によってサイジング処理がなされた後、FRTP成形体等の樹脂成形体に用いられる。ここで、ガラス繊維をサイジング処理する集束剤はその組成に関して、例えば、カップリング剤を組成中に含有するもの、異なる分子量のポリプロピレンを含有するものがあることが知られている。」
「【0051】
よって、本実施形態のガラス繊維用集束剤に用いられるシランカップリング剤としては、樹脂成形体のマトリクスとして使用される樹脂や、集束剤に含まれる第一のポリプロピレン樹脂及び/又は第二のポリプロピレン樹脂の種類によって、最適なものが選択されることとなるが、例えば、アミノシラン、エポキシシラン、メタクリルシラン等が好ましい。また、本実施形態のガラス繊維用集束剤は、複数種のシランカップリング剤を含むこととしてもよい。」
「【0055】
また、本実施形態のガラス繊維用集束剤に用いられるシランカップリング剤としては、アミノシランが特に好ましい。また、アミノシランは、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、およびこれらの混合物からなる群から選択される化合物であることは、第一及び/又は第二のポリプロピレンとの結合力が増加し、樹脂成形体の力学的性質が向上するため好ましい。」
ケ 甲9
甲9には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】ガラス繊維を含有する熱可塑性樹脂におけるガラス繊維の繊維長分布を以下の工程(1)〜(4)で測定することを特徴とするガラス繊維長分布測定方法。
(1)ガラス繊維を含有する熱可塑性樹脂を500〜700℃の温度で灰化させる。
(2)灰化後のガラス繊維の重量の1000倍以上の重量の液体中に均一分散させる。
(3)均一分散液からガラス繊維の重量が0.1〜2mgの範囲になるように均一分散液の一部を取り出す。
(4)ろ過または乾燥により該均一分散液の一部からガラス繊維を取り出し、ガラス繊維の全数について繊維長を測定する。」
「【0016】[実施例1]互いに平行に配列されたガラス繊維を含有するガラス長繊維強化ポリプロピレン(ガラス繊維含有量=40重量%)をペレットサイズに切断する前のストランドから、5mm長さのもの80本と10mm長さのもの40本を切断して作成し、それらをブレンドした。このサンプルを550℃電気炉で一時間加熱し、灰化させた。灰化後のサンプル重量は2gであった。灰化物を5.0リットルの水で分散させた。ガラス繊維の重量に対する液体の重量は2500倍である。この液体中でガラス繊維を均一に分散した状態で0.5リットルを採取し、これに4.5リットルの水を加え、5.0リットルの希釈液体とした。この希釈液体中でガラス繊維を均一に分散した状態で10ミリリットルを 採取した。10ミリリットル中のガラス繊維の重量は希釈率の計算から0.4mgであった。この10ミリリットルの分散液体をろ紙によりろ過し、ろ紙が半透明の状態でろ紙上のガラス繊維全数の繊維長を画像処理装置(ニレコ社製「ルーゼックスFS」)を用いて測定した。この方法を数回繰り返して得られた平均繊維長を表1に示す。また、数平均繊維長の計算式を式1に、重量平均繊維長の計算式を式2に示す。式中のLiは繊維長であり、qiは繊維長Liの本数である。

【0017】
【表1】


コ 甲10
甲10には、以下の事項が記載されている。







「9.2 繊維長分布特性値
9.2.1 繊維長
繊維長分布及び平均繊維長は,次の式(3)〜(5)によって求める。
a) 数平均繊維長(L)
L = Σnili / Σni ・・・・・・・・(3)
注記 数平均繊維長は,短い繊維の影響が強調されるので最もよい指標とは限らない。長さ加重平均繊維長の方がよい場合が多い。
b) 長さ加重平均繊維長(Ll)
Ll= Σnili2/ Σnili ・・・・・・・・(4)
c) 長さ−長さ加重平均繊維長(Lw)
Lw = Σnili3/ Σnili2・・・・・・・・(5)
注記 長さ加重平均繊維長は,全ての繊維が同じ粗度であるとの仮定の上に成り立っている。また,長さ−長さ加重平均繊維長も,繊維の粗度が長さに比例するという仮定の上に成り立っている。機械パルプ及び混合パルプでは,この比例に関わる仮定は成立しない。 」
(2) 理由(1)(新規性)についての判断
ア 請求項1
(ア) 本件訂正発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「管状芯材(51)の内外両側に熱可塑性樹脂被覆層(52)(53)が設けられた、管状体成形品(55)」は、多層管といえるもので、各層は、その態様から管状であることは明らかであり、本件訂正発明1の「管状の複数の層を備える多層管」に相当する。
甲1発明の「管状芯材(51)の内外両側の熱可塑性樹脂被覆層(52)(53)をなす第2および第3熱可塑性樹脂(42)(43)として、熱可塑性樹脂(41)と同じポリエチレンよりなるものを用いた」もののうち、内側の「ポリエチレン」からなる「熱可塑性樹脂被覆層(52)」は、本件訂正発明1の「管状であり、かつポリオレフィン樹脂を含む第1のポリオレフィン樹脂層(但し、ポリブテンが含まれている層を除く)」に相当する。
甲1発明の「強化繊維(40)と熱可塑性樹脂(41)とよりな」る「管状芯材(51)」は、「管状芯材(51)の強化繊維(40)としては、直径10μm、長さ3mmのガラス繊維チョップドストランド(日東紡績社製、CS3E−471S)を用い」ており、シート状繊維複合体をなすものではなく、「熱可塑性樹脂(41)としては、ポリエチレン(昭和電工社製、TR418)を用い」ているので、本件訂正発明1の「管状であり、かつポリオレフィン樹脂とガラス繊維とを含むポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層(但し、前記ガラス繊維が、シート状繊維複合体として含まれている層を除く)」に相当する。
甲1発明の「管状芯材(51)の内外両側の熱可塑性樹脂被覆層(52)(53)をなす第2および第3熱可塑性樹脂(42)(43)として、熱可塑性樹脂(41)と同じポリエチレンよりなるものを用いた」もののうち、外側の「ポリエチレン」からなる「熱可塑性樹脂被覆層(53)」は、本件訂正発明1の「管状であり、かつポリオレフィン樹脂を含む第2のポリオレフィン樹脂層」に相当する。
そうすると、甲1発明の「管状芯材(51)の内外両側に熱可塑性樹脂被覆層(52)(53)が設けられた」態様は、その配置からみて、本件訂正発明1の「前記第1のポリオレフィン樹脂層の外側に、前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層が配置されており、
前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層の外側に、前記第2のポリオレフィン樹脂層が配置されて」いる態様に相当する。
さらに、甲1発明の「管状芯材(51)の強化繊維(40)としては、直径10μm、長さ3mmのガラス繊維チョップドストランド(日東紡績社製、CS3E−471S)を用い」ていることは、本件訂正発明1の「前記ガラス繊維の繊維長が、0.05mm以上、5mm以下である」ことに包含されるものである。
甲1発明の「前記ポリエチレンとガラス繊維チョップドストランドとからなる管状芯材(51)の厚みが、9mmであ」ることは、本件訂正発明1の「前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層の厚みが、2mm以上、4mm以下であ」ることと、「前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層が所定の厚みを有し」ている限りで一致している。
甲1発明の「前記ポリエチレンとガラス繊維チョップドストランドとからなる管状芯材(51)において、前記ポリエチレン100重量部に対して、前記ガラス繊維チョップドストランドの含有量が、11.1重量部である」ることと、本件訂正発明1の「前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層において、前記ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、前記ガラス繊維の含有量が、72.7重量部以上である」こととは、「前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層において、前記ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、前記ガラス繊維の含有量が所定量である」限りで一致する。

そうすると、本件訂正発明1と甲1発明とは、
「管状の複数の層を備える多層管であって、
管状であり、かつポリオレフィン樹脂を含む第1のポリオレフィン樹脂層(但し、ポリブテンが含まれている層を除く)と、
管状であり、かつポリオレフィン樹脂とガラス繊維とを含むポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層(但し、前記ガラス繊維が、シート状繊維複合体として含まれている層を除く)と、
管状であり、かつポリオレフィン樹脂を含む第2のポリオレフィン樹脂層と、
を備え、
前記第1のポリオレフィン樹脂層の外側に、前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層が配置されており、
前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層の外側に、前記第2のポリオレフィン樹脂層が配置されており、
前記ガラス繊維の繊維長が、0.05mm以上、5mm以下であり、
前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層が所定の厚みを有し、
前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層において、前記ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、前記ガラス繊維の含有量が所定量である、多層管。」の点で一致し、以下の相違点を有する。

<相違点1>
ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層におけるガラス繊維の含有量の所定量について、本件訂正発明1は、「72.7重量部以上である」のに対して、甲1発明は、「11.1重量部である」点。

<相違点2>
ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層の所定の厚みについて、本件訂正発明1は、「2mm以上、4mm以下であ」るのに対して、甲1発明は、「9mmであ」る点。

そして、上記相違点1及び相違点2は、実質的な相違点であるから、本件訂正発明1は甲1発明であるとはいえない。
イ 請求項2
本件訂正発明2は、「ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層」に含まれる「ガラス繊維」に関して、本件訂正発明1における発明特定事項である「前記ガラス繊維の繊維長が、0.05mm以上、5mm以下である」点に加え、「前記ガラス繊維の繊維径が、1μm以上、20μm以下である」という事項をさらに限定したものである。
そして、甲1発明は、「管状芯材(51)の強化繊維(40)としては、直径10μm、長さ3mmのガラス繊維チョップドストランド(日東紡績社製、CS3E−471S)を用い」ていることから、本件訂正発明2の「前記ガラス繊維の繊維径が、1μm以上、20μm以下である」ことに包含されるものである。
そうすると、本件訂正発明2と、甲1発明とは、上記相違点1及び相違点2を有し、その余の点で一致する。
そして、上記相違点1及び相違点2は、実質的な相違点であるから、本件訂正発明2は甲1発明であるとはいえない。
したがって、本件訂正発明2は甲1発明であるとはいえない。
(3) 理由(2)(進歩性)についての判断
ア 本件訂正発明1について
(ア) 本件訂正発明1と甲1発明とを対比する。
上記「理由1について」で述べたとおりであるから、本件訂正発明1と、甲1発明との間に、上記相違点1及び相違点2とを有している。
(イ) 相違点1及び相違点2は、ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層に関するものであるので、以下に、纏めて検討する。
甲1発明は、管状芯材(51)の厚みやガラス繊維チョップドストランドの含有量について、「前記ポリエチレンとガラス繊維チョップドストランドとからなる管状芯材(51)の厚みが、9mmであり、
前記ポリエチレンとガラス繊維チョップドストランドとからなる管状芯材(51)において、前記ポリエチレン100重量部に対して、前記ガラス繊維チョップドストランドの含有量が、11.1重量部である」との事項を有するものである。
しかしながら、甲1には、その課題として、「強化繊維により周方向に効率的に補強された周方向の強度・剛性に優れた管状体を連続的に成形する方法を提供しようとするにある。」(【0007】)とされ、具体的には「強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む樹脂溶融混合物」を、「円筒状第1流路を通過する間にねじりせん断を受けるように賦形することにより、繊維強化管状芯材を形成」(【0008】)するものの、管状芯材の厚み、ガラス繊維チョップドストランドの含有量を調整することにより、特定の物性(熱線膨張係数)を備えた管状体成形品(55)を得ることについて、特段、着目するところはない。
そして、甲1発明の「管状芯材(1)の厚み」である「9mm」は、本件訂正発明1で特定されている「前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層の厚み」である「2mm以上、4mm以下」の2.25倍以上大きく、さらに、甲1発明の「ポリエチレン100重量部に対して、前記ガラス繊維チョップドストランドの含有量」である「11.1重量部」は、本件訂正発明1で特定されている「前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層において、前記ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、前記ガラス繊維の含有量」である「72.7重量部以上」の0.153倍以下小さく、いずれも大きく異なるものである。
さらに、他の甲各号証においても、ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層において、厚みが2mm以上、4mm以下である多層管において、ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、ガラス繊維の含有量が72.7重量部以上とすることについては、記載も示唆もなされていない。
そうすると、甲1発明において、上記相違点1及び2に係る本件訂正発明1の「前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層の厚みが、2mm以上、4mm以下」である構成において、「前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層において、前記ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、前記ガラス繊維の含有量が72.7重量部以上」であるという構成とを組み合わせて採用する動機付けを見いだすことができない。
また、上記相違点1及び2を有する本件訂正発明1は、本件特許明細書に記載された「樹脂管を冷温水配管として用いると、熱収縮が生じたり、ガスバリア性に劣ったりするという問題がある。」(【0003】)ことに対処するべく、多層管における、ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層の厚みが2mm以上、4mm以下の範囲であって、各層の厚みが、同じ多層管を比較したものにおいて、熱線膨張係数が3.8(本件特許明細書の実施例1)→1.8(同じく実施例3)、9(同じく実施例2)→5.1(同じく実施例4)へと、ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、ガラス繊維の含有量を増加することにより、それぞれ、寸法安定性をより改善したものを得ることができており、上記相違点1及び2に係る本件訂正発明1の構成を採用することが単なる設計事項とすることもできない。
したがって、本件訂正発明1は、甲1発明及び甲各号証に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件訂正発明2〜6について
本件訂正発明2〜6は、本件訂正発明1を引用するものであって、本件訂正発明1の発明特定事項の全てを含むものである。
そして、上記アで述べたとおり、本件訂正発明1が甲1発明及び甲各号証に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件訂正発明2〜6も、甲1発明及び甲各号証に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないことが明らかである。
(4) 理由(3)(明確性)についての判断
ア 特許法第36条第6項第2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は、仮に、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者の利益が不当に害されることがあり得るので、そのような不都合な結果を防止することにある。そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである(平成29年(行ケ)第10138号)。
これを踏まえて、以下検討を行う。
イ 本件特許明細書には、ガラス繊維の繊維長について、以下の事項が記載されている。
「【0046】
上記繊維長は、複数のガラス繊維の長さの平均を意味する。」
ウ そうすると、ガラス繊維の測定方法について、特段、長さの平均を求めることについて、具体的な記載がなされていないことからすると、通常の測定方法によるものと理解され、「ガラス繊維一般試験方法 JIS R 3420:2013」(乙1)において、「20本の測定結果の算術平均を求め」るとされていること(「7.8.3 結果の表し方」参照)を参酌すると、ガラス繊維の繊維長は、数平均繊維長によるものと理解できる。
エ また、ガラスの繊維径について、以下の事項が記載されている。
「【0048】
上記繊維径は、1つのガラス繊維の最大径を求め、複数のガラス繊維の最大径を平均することにより求められる。」
オ そうすると、ガラス繊維の繊維径の測定は、1つのガラス繊維の最大径を求め、複数のガラス繊維の最大径を平均することにより得ることが理解できる。また、平均は、特段、特定されていないことからすると、単純に数平均によるものと理解できる。
カ よって、本件明細書の発明の詳細な説明に接した当業者であれば、繊維長、繊維径を測定する方法が理解できるので、本件訂正発明1〜6の記載は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとは認められず、本件訂正発明1〜6は明確である。
(5) 理由(4)(実施可能要件)についての判断
ア 特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明には、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載しなければならない旨規定するところ、実施可能要件を充足するためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があることを要する(平成29年(行ケ)第10138号)。
これを踏まえて、以下検討を行う。
イ ガラス繊維の繊維長及び繊維径については、上記(4)で検討したとおり、当業者が明確に理解できる。
そうすると、本件訂正発明1〜6は、上記「第3 訂正後の本件発明」に記載されているもののとおり理解でき、その実施についても、過度の試行錯誤を要するものとするところはない。
ウ よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明1〜6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているということができる。
2 取消理由通知で採用しなかった異議申立理由について
特許異議申立人は、以下の点について概略主張している。
(1) 特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号
請求項6に係る発明は、「前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層が、相溶化剤をさらに含む、」と規定しているが、相溶化剤には特に定義や構造を限定する記載はなく、本件特許明細書の【0053】には、「相溶化剤」について、具体例が数種例示されているにすぎず、そのため、「相溶化剤」には、それらの具体例以外に具体的にどのようなものまで含まれ得るのか、その範囲が曖昧である(特許異議申立書11ページ、13ページ)。
(2) 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
ア 請求項1〜6について
(ア) 高い寸法安定性を得るためには、ポリオレフィン樹脂層およびポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層の厚みが一定値以上必要であることに加えて、ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層におけるガラス繊維の含有量も一定値以上必要とする。
本件特許発明の実施例に記載されているポリオレフィン樹脂層の厚みは1mm〜2mmであり、ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層の厚みは2mm〜4mmであり、ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層におけるガラス繊維の含有量の範囲は20重量%〜40重量%であり、それ以外の場合に高い寸法安定性を有する多層管が得られることは示されていない。
そうすると、請求項1に係る発明において、ポリオレフィン樹脂層およびポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層の厚みやポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層におけるガラス繊維の含有量が特定されていないため、課題を解決することができない構成をも含んでいる(特許異議申立書11〜12ページ)。
(イ) ガラス繊維の繊維長および繊維径は一義的に定まるものではないため、不明確であるところ、本件特許発明の実施例ではガラス繊維の繊維長が3mmおよび繊維径が13mmのガラス繊維のみが使用されており、それ以外の場合に高い寸法安定性を有するという本件特許発明の効果は示されていない(特許異議申立書12ページ)。
イ 請求項5について
実施例において、ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレンのみが使用されており、ポリプロピレンを使用した多層管については、高い寸法安定性を有するという本件特許発明の効果は示されていない。そして、そのような効果を有するかが不明な多層管までも包含する請求項5に係る発明の範囲まで、実施例の多層管についての効果を拡張ないし一般化できるとはいえない(特許異議申立書12〜13ページ)。
(3) 当審の判断
ア 上記(1)について
本件訂正発明6は、「前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層が、相溶化剤をさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の多層管。」であって、文言上不明確とするところはなく、本件特許明細書には、相溶化剤について、以下の事項が記載されている。
「【0052】
(相溶化剤)
多層管の耐衝撃強度、寸法安定性及びガスバリア性を効果的に高める観点からは、上記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層は相溶化剤を含むことが好ましい。上記相溶化剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0053】
上記相溶化剤としては、例えば、マレイン酸変性ポリオレフィン、シラン変性ポリオレフィン、及び塩素化ポリオレフィン等が挙げられる。なお、これらの相溶化剤は、上記ポリオレフィン樹脂に含まれない。上記相溶化剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0054】
多層管の耐衝撃強度、寸法安定性及びガスバリア性を効果的に高める観点からは、上記相溶化剤は、マレイン酸変性ポリオレフィン又はシラン変性ポリオレフィンであることが好ましく、シラン変性ポリオレフィンであることがより好ましい。
【0055】
上記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層において、上記ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、上記相溶化剤の含有量は好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.5重量部以上、更に好ましくは1重量部以上、好ましくは50重量部以下、より好ましくは30重量部以下、更に好ましくは15重量部以下である。上記相溶化剤の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、多層管の耐衝撃強度、寸法安定性及びガスバリア性がより一層高くなる。」
そうすると、上記記載に基づき、本件訂正発明6は、ガラス繊維を含有させるポリオレフィン樹脂に応じて、その相溶化のために、当業者が通常用いる、マレイン酸変性ポリオレフィン、シラン変性ポリオレフィン、及び塩素化ポリオレフィン等の相溶化剤を採用すればよいことと理解でき、本件訂正発明6の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとは認められず、本件訂正発明6は明確である。
イ 上記(2)ア(ア)について
請求項1に係る発明は、本件訂正により、「管状の複数の層を備える多層管であって、
管状であり、かつポリオレフィン樹脂を含む第1のポリオレフィン樹脂層(但し、ポリブテンが含まれている層を除く)と、
管状であり、かつポリオレフィン樹脂とガラス繊維とを含むポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層(但し、前記ガラス繊維が、シート状繊維複合体として含まれている層を除く)と、
管状であり、かつポリオレフィン樹脂を含む第2のポリオレフィン樹脂層と、
を備え、
前記第1のポリオレフィン樹脂層の外側に、前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層が配置されており、
前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層の外側に、前記第2のポリオレフィン樹脂層が配置されており、
前記ガラス繊維の繊維長が、0.05mm以上、5mm以下であり、
前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層の厚みが、2mm以上、4mm以下であり、
前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層において、前記ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、前記ガラス繊維の含有量が、72.7重量部以上である、多層管。」と訂正された。
そうすると、本件訂正発明1及び本件訂正発明1を直接又は間接的に引用する本件訂正発明2〜6は、「前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層の厚みが、2mm以上、4mm以下であり、前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層において、前記ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、前記ガラス繊維の含有量が、72.7重量部以上である」ことが特定された。
また、「ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層」の内側及び外側に配置される「第1のポリオレフィン樹脂層」及び「第2のポリオレフィン樹脂層」の厚みについては特定されていないが、本件特許明細書には、「多層管の耐衝撃強度、寸法安定性及びガスバリア性を効果的に高める観点からは、ポリオレフィン樹脂層の厚み(第1,第2のポリオレフィン樹脂層のそれぞれの厚み)は、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.3mm以上、更に好ましくは0.5mm以上、好ましくは40mm以下、より好ましくは25mm以下、更に好ましくは10mm以下である。」(【0033】)とされ、空調用の冷温水配管に用いられる多層管として、比較的広い範囲が許容されており、本件訂正発明1で特定される「前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層の厚みが、2mm以上、4mm以下であり、
前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層において、前記ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、前記ガラス繊維の含有量が、72.7重量部以上である」ことを考慮して、ポリオレフィン樹脂層の厚みは、適宜定めればよいことから、ポリオレフィン樹脂の厚みがないことから、本件訂正発明が、「高い寸法安定性を有する多層管を提供する」(【0009】)との課題を解決し得ないものでもない。
よって、本件訂正発明は、本件特許明細の発明の詳細な説明に記載したものであるから、特許異議申立人の主張は、採用できない。
ウ 上記(2)ア(イ)について
上記1(4)ア〜カで述べたとおり、ガラス繊維の繊維長及び繊維径は一義的に定まることができるものであるから、特許異議申立人の主張は、採用できない。
エ 上記(2)イについて
本件特許明細書には、「上記ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びエチレン−α−オレフィン共重合体等が挙げられる。多層管の強度、寸法安定性及び高温での伸びをより一層効果的に高める観点からは、ポリエチレン又はポリプロピレンが好ましく、ポリエチレンがより好ましい。また、ポリエチレンの場合には、耐衝撃性、耐震性及び長期クリープ特性を効果的に高めることができる。」(【0040】)とポリエチレン及びポリプロピレンが好ましい旨の記載がなされている。また、多層管における、ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層の厚みが2mm以上、4mm以下の範囲であって、各層の厚みが、同じ多層管を比較したものにおいて、熱線膨張係数が3.8(本件特許明細書の実施例1)→1.8(同じく実施例3)、9(同じく実施例2)→5.1(同じく実施例4)へと、ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、ガラス繊維の含有量を増加することにより、それぞれ、寸法安定性をより改善したものを得ることができており、熱線膨張係数に、ガラス線の含有量が大きく寄与することを踏まえると、ポリエチレンと同様に、同じポリオレフィンであるポリプロピレンにおいても、多層管における上記効果を奏するものといえる。
3 特許異議申立人の、令和3年11月22日に提出した意見書について
(1) 特許異議申立人は、以下の点について概略主張している。
「(2−2) サポート要件違反、訂正要件違反
本件明細書中の実施例である実施例3および4においては、構成I1の規定範囲(前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層において、前記ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、前記ガラス繊維の含有量が、72.7重量部以上である場合)のうち、当該含有量が72.7重量部である場合の実施例しか記載されていない。
したがって、例えば当該含有量が72.7重量部より大幅に多いような場合については、何ら実施例による裏付けがなく、72.7重量部のみの実施例3および4を構成I1の全範囲にまで拡張ないし一般化し得る根拠も見いだせない。
・・・本件明細書の[0051]には、「ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、ガラス繊維の含有量は好ましくは1重量部以上、より好ましくは5重量部以上、更に好ましくは10重量部以上、好ましくは200重量部以下、より好ましくは150重量部以下、更に好ましくは70重量部以下である」と記載されている。したがって、本件発明1の構成を満足する実施例3および4の多層管は、本件発明1の構成を満足しない実施例1および2と比べて、寸法安定性をより一層高めることができるとの特許権者の主張は、矛盾が生じている。
以上より、訂正後の請求項1の構成I1は、実施例によりサポートされた範囲規定であると言うことはできない。
なお、上記のように、本件明細書の[0051]の記載と、構成I1の規定とは、必ずしも一致するものではないため、当所明細書等に記載されていない新規事項を追加するものであり、訂正要件違反に該当するものと考えられる。」(第6〜7ページ)
(2) 以下に、特許異議申立人の上記主張について検討する。
本件特許明細書の【0051】には、「上記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層において、上記ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、上記ガラス繊維の含有量は好ましくは1重量部以上、より好ましくは5重量部以上、更に好ましくは10重量部以上、好ましくは200重量部以下、より好ましくは150重量部以下、更に好ましくは70重量部以下である。上記ガラス繊維の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、多層管の耐衝撃強度、寸法安定性及びガスバリア性がより一層高くなる。」と記載されており、ガラス繊維の含有量が下限以上及び上限以下であると、多層管の耐衝撃強度、寸法安定性及びガスバリア性がより一層高くなる範囲として、例示するものである。
また、本件特許明細書の表1に示される実施例は、上記1(3)ア(イ)で述べたように、多層管における、ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層の厚みが2mm以上、4mm以下の範囲であって、各層の厚みが、同じ多層管を比較したものにおいて、熱線膨張係数が3.8(本件特許明細書の実施例1)→1.8(同じく実施例3)、9(同じく実施例2)→5.1(同じく実施例4)へと、ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、ガラス繊維の含有量を増加することにより、それぞれ、寸法安定性をより改善する傾向を見て取れるから、本件訂正発明1が「前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層において、前記ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、前記ガラス繊維の含有量が、72.7重量部以上である」としたことが、明細書にサポートされていないといえるものではなく、また、新たな技術的事項を導入するものとすることもできないから、上記(1)の特許異議申立人の主張は採用できない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1〜6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1〜6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状の複数の層を備える多層管であって、
管状であり、かつポリオレフィン樹脂を含む第1のポリオレフィン樹指層(但し、ポリブテンが含まれている層を除く)と、
管状であり、かつポリオレフィン樹脂とガラス繊維とを含むポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層(但し、前記ガラス繊維が、シート状繊維複合体として含まれている層を除く)と、
管状であり、かつポリオレフィン樹脂を含む第2のポリオレフィン樹脂層と、
を備え、
前記第1のポリオレフィン樹脂層の外側に、前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層が配置されており、
前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層の外側に、前記第2のポリオレフィン樹脂層が配置されており、
前記ガラス繊維の繊維長が、0.05mm以上、5mm以下であり、
前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層の厚みが、2mm以上、4mm以下であり、
前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層において、前記ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、前記ガラス繊維の含有量が、72.7重量部以上である、多層管。
【請求項2】
前記ガラス繊維の繊維径が、1μm以上、20μm以下である、請求項1に記載の多層管。
【請求項3】
前記ガラス繊維が、シランカップリング剤により表面処理されている、請求項1又は2に記載の多層管。
【請求項4】
前記ガラス繊維が、アミノシランにより表面処理されている、請求項3に記載の多層管。
【請求項5】
前記第1のポリオレフィン樹脂層に含まれている前記ポリオレフィン樹脂が、ポリプロピレンであり、
前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層に含まれている前記ポリオレフィン樹脂が、ポリプロピレンであり、
前記第2のポリオレフィン樹脂層に含まれている前記ポリオレフィン樹脂が、ポリプロピレンである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の多層管。
【請求項6】
前記ポリオレフィン樹脂/ガラス繊維層が、相溶化剤をさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の多層管。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-01-12 
出願番号 P2019-082924
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (F16L)
P 1 651・ 113- YAA (F16L)
P 1 651・ 536- YAA (F16L)
P 1 651・ 121- YAA (F16L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 松下 聡
特許庁審判官 山崎 勝司
田村 佳孝
登録日 2020-05-26 
登録番号 6709309
権利者 積水化学工業株式会社
発明の名称 多層管  
代理人 特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所  
代理人 特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所  

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