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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B23K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B23K
審判 全部申し立て 2項進歩性  B23K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B23K
管理番号 1383248
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-09-28 
確定日 2022-01-14 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6674422号発明「レーザ溶接装置、及び、部材の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6674422号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−9〕、10について訂正することを認める。 特許第6674422号の請求項1−10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6674422号の請求項1−10に係る特許についての出願は、平成29年9月14日に出願され、令和2年3月10日にその特許権の設定登録がされ、令和2年4月1日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和2年9月28日に特許異議申立人笹井栄治(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされ、当審は、令和3年3月30日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和3年5月25日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)を行い、本件訂正請求に対して、申立人はその指定期間内である令和3年8月5日に意見書を提出した。

第2 本件訂正請求による訂正の適否についての判断
1 請求項1−9に係る訂正
(1)訂正の内容
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記照射部は、前記主領域における点状の中央領域にピークが生じると共に、前記副領域における前記中央領域を囲む外側領域に前記ピークが生じるよう設定された状態で前記ビームを照射し、且つ、前記主領域に照射される前記ビームの平均的な強度が、前記副領域に照射される前記ビームの平均的な強度よりも高くなるよう構成されており、」とあるのを、「前記照射部は、前記主領域における点状の中央領域にピークが生じると共に、前記副領域における前記中央領域を囲む外側領域に前記ピークが生じるよう設定された状態で前記ビームを照射し、且つ、前記主領域に照射される前記ビームの平均的な強度が、前記副領域に照射される前記ビームの平均的な強度よりも高くなるようにすることで、前記中央領域を含む領域に第1溶融池を形成すると共に、前記外側領域を含む領域に、スパッタを抑制するための溶融池であって、前記第1溶融池に隣接すると共に前記第1溶融池を囲み、前記第1溶融池よりも浅い溶融池である第2溶融池を形成するよう構成されており、」に訂正する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記外側領域は、前記中央領域を中心とした円周状の領域である」とあるのを、「前記外側領域は、前記中央領域を中心とした円周状に延びる線状の領域である」に訂正する。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「前記照射部は、前記中央領域である第1領域と、前記外側領域である第3領域と、前記第1領域と前記第3領域との間に位置する第2領域とに前記ピークが生じるように設定された状態で、前記ビームを照射する」とあるのを、「前記照射部は、前記中央領域である第1領域と、前記外側領域である第3領域と、前記第1領域と前記第3領域との間に位置し、前記第1領域を囲む領域である第2領域とに前記ピークが生じるように設定された状態で、前記ビームを照射する」に訂正する。

エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7に「前記中央領域の前記ビームの強度の測定値を100とした場合の、前記外側領域の前記ビームの強度の測定値の比率を、測定値比率とし、」とあるのを、「前記中央領域に形成される前記ビームの前記ピークの強度の測定値を100とした場合の、前記外側領域に形成される前記ビームの前記ピークの強度の測定値の比率を、測定値比率とし、」に訂正する。

オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項9に「前記中央領域の前記ビームの設定値と、前記外側領域の前記ビームの設定値との比をX1:Z1とし、」とあるのを、「前記中央領域に形成される前記ビームの前記ピークの強度の設定値と、前記外側領域に形成される前記ビームの前記ピークの強度の設定値との比をX1:Z1とし、」に訂正する。

上記訂正事項1−5は、請求項1−3、7、9についてのものであるところ、請求項1−3、7のいずれかの記載を、請求項2−9がそれぞれ引用する引用関係にあるから、訂正事項1−5を含む本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項〔1−9〕に対して請求されたものである。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び独立特許要件

本件特許異議申立ては、全ての請求項に対してされたものであるから、訂正事項1−5において、独立特許要件は課されない。

ア 訂正事項1
(ア)訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る特許発明の照射部について、「前記中央領域を含む領域に第1溶融池を形成すると共に、前記外側領域を含む領域に、スパッタを抑制するための溶融池であって、前記第1溶融池に隣接すると共に前記第1溶融池を囲み、前記第1溶融池よりも浅い溶融池である第2溶融池を形成する」との溶融池に関する事項を追加してその内容を減縮し、中央領域を含む領域である主領域及び外側領域を含む領域である副領域と、溶融池との関係を明確にするものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮と、同項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明とを目的とするものである。

(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1に関し、願書に添付した明細書の段落【0036】−【0038】の「主領域111に照射されたビームにより、下側の部材に到達する深い溶融池121が生成される。」、「副領域112に照射されたビームにより、主領域111の溶融池121を囲み、且つ、主領域111の溶融池121に隣接した状態で、浅い溶融池122が生成される。」、「主領域111の溶融池121にて溶接面に向かう母材の一部は、副領域112の溶融池122に吸収され、これにより、該母材の一部がスパッタとして外部に飛散するのが回避される。」との記載、及び図5の図示内容からみて、訂正事項1で追加される「前記中央領域を含む領域に第1溶融池を形成すると共に、前記外側領域を含む領域に、スパッタを抑制するための溶融池であって、前記第1溶融池に隣接すると共に前記第1溶融池を囲み、前記第1溶融池よりも浅い溶融池である第2溶融池を形成する」ことが、明示的に記載されているといえる。
よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(ア)に記載したとおり、訂正事項1は、照射部について、溶融池に関する事項を追加することで減縮し、中央領域を含む領域である主領域及び外側領域を含む領域である副領域と、溶融池との関係を明確にするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものでないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

イ 訂正事項2
(ア)訂正の目的について
訂正前の請求項2に係る特許発明の「前記外側領域は、前記中央領域を中心とした円周状の領域である」の発明特定事項は、「円周状の領域」の用語が多義的な解釈が可能で、径方向に幅を持った領域を表すのか、実質的に径方向に幅を有しない領域を表すのかが不明確であるのに対して、訂正後の請求項2に係る特許発明では、「外側領域」が「円周状に延びる線状の領域」であると特定することで、実質的に径方向に幅を有しない領域を表すことを明確にしたものである。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2に関し、願書に添付した明細書の段落【0028】には、「中央領域を中心とした複数の円周状の領域を、それぞれ、第1〜第3中間領域、及び、円周領域と記載する。」と記載されており、段落【0029】には、円周領域201にピークが生じることが記載されていると共に、段落【0031】には、円周領域212にピークが生じることが記載されており、図2B、3Bには、円周領域201、212が線状の領域であることが開示されている。
よって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(ア)に記載したとおり、訂正事項2は、「外側領域」を明確化するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものでないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ 訂正事項3
(ア)訂正の目的について
訂正前の請求項3に係る特許発明における「前記照射部は、前記中央領域である第1領域と、前記外側領域である第3領域と、前記第1領域と前記第3領域との間に位置する第2領域とに前記ピークが生じるように設定された状態で、前記ビームを照射する」の発明特定事項は、「第2領域」が「第1領域と第3領域との間に位置する」ことしか特定しておらず、第2領域と、第1領域及び第3領域との関係、及び第2領域の態様が不明確であるのに対して、訂正後の請求項3に係る特許発明では、「第2領域」が「第1領域と第3領域との間に位置し、前記第1領域を囲む領域である」と特定することで、第2領域と、第1領域及び第3領域との関係、並びに第2領域の態様を明確にしたものである。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3に関し、願書に添付した明細書の段落【0028】には、第1中間領域及び円周領域は、中央領域を中心とした円周状の領域であり、第1中間領域の半径は円周領域の半径よりも小さいことが記載されている。また、段落【0031】には、第1中間領域211と円周領域212とにピークが設定されることが記載されている。このため、第1中間領域211が中央領域を囲む領域であることや、第1中間領域211が第2領域の一例に相当するのは明らかである
よって、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(ア)に記載したとおり、訂正事項3は、「第2領域」を明確化するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものでないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

エ 訂正事項4
(ア)訂正の目的について
訂正前の請求項7に係る特許発明では、「前記中央領域の前記ビームの強度の測定値を100とした場合の、前記外側領域の前記ビームの強度の測定値の比率を、測定値比率」の発明特定事項が、「測定値比率」における「測定値」を、「中央領域又は外側領域のビームの強度」のものであるとしているが、これに対して、訂正後の請求項7に係る特許発明では、「測定値比率」における「測定値」を、「中央領域又は外側領域に形成されるビームのピークの強度」のものとすることで、「測定値」の内容を明確にしている。
よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項4に関し、願書に添付した明細書の段落【0028】には、中央領域が点状の領域であることが記載されている。また、上述したように、段落【0028】、図2B、3Bには、円周領域201、212が線状の領域であることが開示されている。さらに、段落【0029】には、中央領域200と円周領域201とにピークが生じることが記載されていると共に、段落【0031】、【0033】には、中央領域210と円周領域212とにピークが生じることが記載されている。さらにまた、段落【0046】には、中央領域と円周領域とにおけるビームの強度の比率を測定値比率とすることが記載されているところ、上記のとおり中央領域と円周領域とにピークが生じることから、中央領域と円周領域との各々におけるビームの強度は、ビームのピークの強度に相当する。このため、「測定値比率」における「測定値」が、「中央領域又は外側領域に形成されるビームのピークの強度の測定値」であることは明らかである。
よって、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(ア)に記載したとおり、訂正事項4は、「測定値比率」における「測定値」を明確化するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものでないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

オ 訂正事項5
(ア)訂正の目的について
訂正前の請求項9に係る特許発明では、「前記中央領域の前記ビームの設定値と、前記外側領域の前記ビームの設定値との比をX1:Z1とし、」との発明特定事項について、「前記ビームの設定値」が、ビームのピーク値の設定値以外の設定値をも含むものである一方、発明の詳細な説明においては、段落【0048】−【0055】の図2Aが示す評価結果から把握される事項に関する記載からみて、「中央領域のビームのピーク値の設定値」と、「円周領域のビームのピーク値の設定値」(円周領域は外側領域に対応。)との比をX1:Z1としたことのみが記載されているのに対して、訂正後の請求項9に係る特許発明では、「前記中央領域に形成される前記ビームの前記ピークの強度の設定値と、前記外側領域に形成される前記ビームの前記ピークの強度の設定値との比をX1:Z1とし、」と特定されたことで、発明の詳細な説明に記載されている内容に整合するよう明確化されている。
よって、当該訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項5に関し、願書に添付した明細書の段落【0052】には、中央領域のピーク値の設定値と、円周領域(外側領域)のピーク値の設定値との比をX1:Z1とすることが明示的に記載されている。
よって、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(ア)に記載したとおり、訂正事項5は、「X1:Z1」における「中央領域」及び「外側領域」の設定値を明確化するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものでないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

2 請求項10に係る訂正
(1)訂正の内容
ア 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項10に「前記照射部は、前記主領域における点状の中央領域にピークが生じると共に、前記副領域における前記中央領域を囲む外側領域に前記ピークが生じるよう設定された状態で前記ビームを照射し、且つ、前記主領域に照射される前記ビームの平均的な強度が、前記副領域に照射される前記ビームの平均的な強度よりも高くなるよう構成されており、」とあるのを、「前記照射部は、前記主領域における点状の中央領域にピークが生じると共に、前記副領域における前記中央領域を囲む外側領域に前記ピークが生じるよう設定された状態で前記ビームを照射し、且つ、前記主領域に照射される前記ビームの平均的な強度が、前記副領域に照射される前記ビームの平均的な強度よりも高くなるようにすることで、前記中央領域を含む領域に第1溶融池を形成すると共に、前記外側領域を含む領域に、スパッタを抑制するための溶融池であって、前記第1溶融池に隣接すると共に前記第1溶融池を囲み、前記第1溶融池よりも浅い溶融池である第2溶融池を形成するよう構成されており、」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び独立特許要件

本件特許異議申立ては、全ての請求項に対してされたものであるから、訂正事項6において、独立特許要件は課されない。

ア 訂正事項6
(ア)訂正の目的について
訂正事項6は、訂正前の請求項10に係る特許発明の照射部について、「前記中央領域を含む領域に第1溶融池を形成すると共に、前記外側領域を含む領域に、スパッタを抑制するための溶融池であって、前記第1溶融池に隣接すると共に前記第1溶融池を囲み、前記第1溶融池よりも浅い溶融池である第2溶融池を形成する」との溶融池に関する事項を追加してその内容を減縮し、中央領域を含む領域である主領域及び外側領域を含む領域である副領域と、溶融池との関係を明確にするものである。
よって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮と、同項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明とを目的とするものである。

(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項6に関し、願書に添付した明細書の段落【0036】〜【0038】の「主領域111に照射されたビームにより、下側の部材に到達する深い溶融池121が生成される。」、「副領域112に照射されたビームにより、主領域111の溶融池121を囲み、且つ、主領域111の溶融池121に隣接した状態で、浅い溶融池122が生成される。」、「主領域111の溶融池121にて溶接面に向かう母材の一部は、副領域112の溶融池122に吸収され、これにより、該母材の一部がスパッタとして外部に飛散するのが回避される。」との記載、及び図5の図示内容からみて、訂正事項6で追加される「前記中央領域を含む領域に第1溶融池を形成すると共に、前記外側領域を含む領域に、スパッタを抑制するための溶融池であって、前記第1溶融池に隣接すると共に前記第1溶融池を囲み、前記第1溶融池よりも浅い溶融池である第2溶融池を形成する」ことが、明示的に記載されているといえる。
よって、訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(ア)に記載したとおり、訂正事項6は、照射部について、溶融池に関する事項を追加することで減縮し、中央領域を含む領域である主領域及び外側領域を含む領域である副領域と、溶融池との関係を明確にするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものでないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−9〕、10について訂正することを認める。

第3 本件訂正請求による訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1−10に係る発明(以下、請求項1に係る発明を「本件発明1」、請求項2−10に係る発明を、各請求項の番号に対応させて、それぞれ「本件発明2」−「本件発明10」といい、請求項1−10に係る発明をまとめて「本件発明」ということがある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1−10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
レーザ溶接のため、複数の部材のうちの少なくとも一部における溶接面にビームを照射するよう構成されたレーザ溶接装置であって、
前記溶接面における主領域と、前記主領域を囲んだ状態で前記溶接面に設けられた副領域とに前記ビームを照射するよう構成された照射部を備え、
前記照射部は、前記主領域における点状の中央領域にピークが生じると共に、前記副領域における前記中央領域を囲む外側領域に前記ピークが生じるよう設定された状態で前記ビームを照射し、且つ、前記主領域に照射される前記ビームの平均的な強度が、前記副領域に照射される前記ビームの平均的な強度よりも高くなるようにすることで、前記中央領域を含む領域に第1溶融池を形成すると共に、前記外側領域を含む領域に、スパッタを抑制するための溶融池であって、前記第1溶融池に隣接すると共に前記第1溶融池を囲み、前記第1溶融池よりも浅い溶融池である第2溶融池を形成するよう構成されており、
前記ピークとは、前記ビームの強度が局所的に最大値になることであり、前記ピークが生じている領域を跨いだ前記ビームの強度の変化は、該領域にて増加から減少に転じる
レーザ溶接装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたレーザ溶接装置において、
前記外側領域は、前記中央領域を中心とした円周状に延びる線状の領域である
レーザ溶接装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載されたレーザ溶接装置において、
前記照射部は、前記中央領域である第1領域と、前記外側領域である第3領域と、前記第1領域と前記第3領域との間に位置し、前記第1領域を囲む領域である第2領域とに前記ピークが生じるように設定された状態で、前記ビームを照射する
レーザ溶接装置。
【請求項4】
請求項3に記載されたレーザ溶接装置において、
前記第1領域における前記ビームの強度は、前記第3領域における前記ビームの強度よりも高く、前記第3領域における前記ビームの強度は、前記第2領域における前記ビームの強度よりも高い
レーザ溶接装置。
【請求項5】
請求項3に記載されたレーザ溶接装置において、
前記第1領域における前記ビームの強度は、前記第2領域における前記ビームの強度よりも高く、前記第2領域における前記ビームの強度は、前記第3領域における前記ビームの強度よりも高い
レーザ溶接装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のうちのいずれか1項に記載されたレーザ溶接装置において、
レーザ媒体が発した光を増幅させることで、前記ビームを生成する生成部を更に備え、
前記照射部は、前記生成部にて生成された前記ビームの強度の分布を、光の進路を変更する部材により設定する
レーザ溶接装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のうちのいずれか1項に記載されたレーザ溶接装置において、
前記中央領域に形成される前記ビームの前記ピークの強度の測定値を100とした場合の、前記外側領域に形成される前記ビームの前記ピークの強度の測定値の比率を、測定値比率とし、
前記測定値比率は、0.6以上である
レーザ溶接装置。
【請求項8】
請求項7に記載されたレーザ溶接装置において、
前記測定値比率は、0.6以上3.0以下である
レーザ溶接装置。
【請求項9】
請求項1から請求項6のうちのいずれか1項に記載されたレーザ溶接装置において、
前記中央領域に形成される前記ビームの前記ピークの強度の設定値と、前記外側領域に形成される前記ビームの前記ピークの強度の設定値との比をX1:Z1とし、
6≦X1≦8、且つ、1≦Z1≦3である
レーザ溶接装置。
【請求項10】
複数の部材をレーザ溶接により溶着させることにより行われる部材の製造方法であって、
前記レーザ溶接は、前記複数の部材のうちの少なくとも一部における溶接面にビームを照射するよう構成されたレーザ溶接装置を用いて行われ、
前記レーザ溶接装置は、前記溶接面における主領域と、前記主領域を囲んだ状態で前記溶接面に設けられた副領域とに前記ビームを照射するよう構成された照射部を備え、
前記レーザ溶接の際に前記ビームが照射される領域が前記溶接面を移動する方向を、溶接方向とし、
前記副領域は、前記主領域を囲む領域であり、
前記照射部は、前記主領域における点状の中央領域にピークが生じると共に、前記副領域における前記中央領域を囲む外側領域に前記ピークが生じるよう設定された状態で前記ビームを照射し、且つ、前記主領域に照射される前記ビームの平均的な強度が、前記副領域に照射される前記ビームの平均的な強度よりも高くなるようにすることで、前記中央領域を含む領域に第1溶融池を形成すると共に、前記外側領域を含む領域に、スパッタを抑制するための溶融池であって、前記第1溶融池に隣接すると共に前記第1溶融池を囲み、前記第1溶融池よりも浅い溶融池である第2溶融池を形成するよう構成されており、
前記ピークとは、前記ビームの強度が局所的に最大値になることであり、前記ピークが生じている領域を跨いだ前記ビームの強度の変化は、該領域にて増加から減少に転じる
部材の製造方法。」

第4 取消理由通知により通知した取消理由について
本件訂正請求による訂正前の請求項1−10に係る特許に対して、当審が令和3年3月30日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
A 請求項1−2に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲第1号証に記載された発明であり、又は、請求項1−3,5,10に係る発明は、同じく甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1−3,5,10に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
B 請求項1−10に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲第1号証、甲第2号証、及び甲第3号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1−10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
C 請求項1−10に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
D 請求項9に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

第5 甲号証の記載
以下、甲第1号証を「甲1」、甲第2号証−甲第8号証を、各甲号証の番号に対応させて、それぞれ「甲2」−「甲8」と、甲1−甲8に記載された発明を、同様にそれぞれ「甲1発明」−「甲8発明」という。
1 甲1:国際公開第2012/102138号
(1)甲1の記載事項(下線は、当審で付与した。以下、同じ。)
ア 明細書
「【技術分野】
[0001]
本発明は、レーザ光を伝搬するための光ファイバ、及びそれを備えたレーザ加工装置に関する。
背景技術
[0002]
従来から、金属等の加工(切断や溶接等)に高出力のレーザ光を発振するYAGレーザ加工装置が広汎に利用されている。
[0003]
YAGレーザ加工装置は、一般的に、レーザ発振器から発振されたレーザ光を光ファイバで出射ユニットに導き、該出射ユニットに設けられた光学系によりワークに集光させて加工を行うように構成されている。
・・・・・
[0012]
本発明は、このような課題を考慮してなされたものであり、レーザ光の出力を低下させることなくピーク強度が低下することを抑えることができ、これにより、基本波のレーザ光を用いて高反射率のワークを安定して加工することが可能となる光ファイバ及びそれを備えたレーザ加工装置を提供することを目的とする。
・・・・・
[0014]
本発明に係る光ファイバによれば、例えば、ガウス分布状のレーザ光を光ファイバの一端面に入射した際に、該レーザ光の中心部を第1のコアで伝搬すると共に、該レーザ光の外周部を第2のコアで伝搬することができる。これにより、レーザ光の出力を低下させることなく、ピーク強度が低下することを抑えることができる。よって、基本波のレーザ光を用いて高反射率のワークを加工する場合に、レーザ光の出力を低下させることなく該ワーク上でのレーザ光のピーク強度を反応閾値よりも高くすることができので、該ワークを安定して加工することができる。
・・・・・
[0041]
(第1の実施の形態)
先ず、第1の実施の形態に係るレーザ加工装置10Aは、いわゆるYAGレーザ加工装置として構成されており、1.064[μm]の波長を有するレーザ光L1を光ファイバ12aで伝搬してワークWに照射することにより、加工(切断又は溶接等)を行うための装置である。なお、ワークWとしては、任意に選択することが可能であるが、例えば、赤外領域の光の反射率が高い(吸収率が低い)金属材料(銅、銅合金、金等)が用いられる。
[0042]
図1に示すように、レーザ加工装置10Aは、加工用のレーザ光L1を出力するレーザ出力部14と、前記レーザ光L1を伝搬するための光ファイバ12aと、前記レーザ出力部14から出力されたレーザ光L1を所定方向に反射するミラー15と、前記ミラー15で反射されたレーザ光L1を前記光ファイバ12aの一端面に入射するレーザ入射部18と、前記光ファイバ12aの他端面から出射されたレーザ光L3をワークWの加工対象部位に照射するレーザ出射部20と、前記ワークWを位置決め保持する加工テーブル22と、制御部24とを備える。
・・・・・
[0047]
図2及び図3に示すように、光ファイバ12aは、軸線Ax上に延在して円柱状に形成された第1のコア50に対して同心円状に第1のクラッド52、第2のコア54、第2のクラッド56、及び分厚いサポート層58を順次配設して形成されている。
[0048]
つまり、第1のクラッド52が第1のコア50の外周面を、第2のコア54が第1のクラッド52の外周面を、第2のクラッド56が第2のコア54の外周面を、サポート層58が第2のクラッド56の外周面をそれぞれ被覆している。
[0049]
図4Aに示すように、光ファイバ12aの一端面に入射する前のレーザ光L1は、概ねガウス分布状となっており、そのビーム径(ピークビーム強度P3の1/e2レベルのビーム強度P0の幅)d0は、上述したレーザ入射部18の集光レンズ42によって、第1のコア50の直径d1以上、且つ第2のコア54の外径d2以下に集光される。
・・・・・
[0051]
なお、以下の説明では、光ファイバ12aの一端面に入射するレーザ光L1のうち第1のコア50に入射した部分を第1レーザ光L1aと、第1のクラッド52に入射した部分を第2レーザ光L1bと、第2のコア54に入射した部分を第3レーザ光L1cと称することがある(図2及び図5参照)。なお、説明の便宜上、図5では第3レーザ光L1cの図示を省略している。
・・・・・
[0064]
そうすると、前記レーザ光L1は、第1のコア50に入射する第1レーザ光L1aと、第1のクラッド52に入射する第2レーザ光L1bと、第2のコア54に入射する第3レーザ光L1cとに分かれることになる。つまり、第1レーザ光L1aが第1のコア50内を伝搬すると共に、第2レーザ光L1b及び第3レーザ光L1cが第2のコア54内を伝搬することになる。そして、光ファイバ12aから出射した第1〜第3レーザ光L1a〜L1cは、合成されてレーザ光L3となる。図4Bに示すように、このレーザ光L3では、第1レーザ光L1aの平均強度がピークビーム強度P5として現れ、第2レーザ光L1b及び第3レーザ光L1cの平均強度がビーム強度P4として現れる。その結果、レーザ光L3のピーク強度P5がワークの反応閾値PLよりも充分に高くなる。
[0065]
その後、前記レーザ光L3は、コリメートレンズ46で平行化された後に、集光レンズ48にてワークWの加工対象部位に集光される。これにより、ビーム強度P5を有するレーザ中心部がワークWの加工対象部位の加工の契機となり、ビーム強度P4を有するレーザ外周部で該加工を進行(拡張)させることができる。よって、1.064[μm]の波長を有するレーザ光L1を用いて高反射率のワークWを安定して加工することができる。
・・・・・
[0116]
(第3の実施の形態)
次に、本発明の第3の実施の形態に係るレーザ加工装置10Cについて図17〜図24を参照しながら説明する。図17に示すように、本実施の形態に係るレーザ加工装置10Cは、YAGレーザ溶接機として構成されており、レーザ入射部18に代えてレーザ入射部200が設けられている。
[0117]
レーザ入射部200は、集光レンズ42と光ファイバ12aの一端面との相対位置を調整する位置調整機構201を備える。位置調整機構201は、集光レンズ42を支持するためのレンズホルダ202と、光ファイバ12aの一端側(集光レンズ42に近い側)を支持するための光ファイバホルダ204とを有する。
[0118]
図18に示すように、レンズホルダ202は、集光レンズ42を保持するホルダ本体206と、前記ホルダ本体206をレーザ光L1の光軸方向に沿って移動可能に支持する支持部208と、前記支持部208に設けられて前記ホルダ本体206をレーザ光L1の光軸方向に沿って移動させるための位置調整ねじ210と、支持部208に固定されたロッド212とを有する。
[0119]
図19に示すように、光ファイバホルダ204は、光ファイバ12aの一端側を保持するホルダ本体214と、ホルダ本体214をレーザ光L1の光軸と直交する方向(光ファイバ12aの中心軸Axと直交する方向)に沿って移動可能に支持する支持部216と、前記支持部216に設けられて前記ホルダ本体214をレーザ光L1の光軸と直交する方向に沿って移動させるための位置調整ねじ218、220と、支持部216に固定されたロッド222とを有する。
[0120]
このように構成される光ファイバホルダ204によれば、位置調整ねじ218を回すことにより、ロッド222の延在方向に沿ってホルダ本体214を支持部216に対して移動することができ、位置調整ねじ220を回すことにより、ロッド222の延在方向と直交する方向に沿ってホルダ本体214を支持部216に対して移動することができる。
[0121]
本実施の形態では、レンズホルダ202の位置調整ねじ210を回すことによりホルダ本体206をレーザ光L1の光軸に沿って移動させることができるので、光ファイバ12aの一端面(入射側端面)と集光レンズ42との距離(レーザ光L1の焦点位置)を変えることができる。
[0122]
具体的には、例えば、ホルダ本体206が図18に示す位置に配置されている状態において光ファイバ12aに入射する前のレーザ光L1の強度分布は図21Aに示す二点鎖線A1のようになる。そして、光ファイバ12aから出射されたレーザ光L3の強度分布は、図21Bに示す二点鎖線A2のようになる。
[0123]
すなわち、レーザ光L3は、その中心部のピーク強度が比較的高く維持されると共にその外周部の強度が比較的低くなる。このようなレーザ光L3は、ワークWに対する溶け込みが比較的深くなると共に溶融部300の幅(直径)が狭くなるため、例えば、厚板302、304の重ね溶接等を好適に行うことができる(図22参照)。
[0124]
一方、例えば、レンズホルダ202の位置調整ねじ210を回してホルダ本体206を光ファイバ12aの一端面側に移動すると(図20参照)、光ファイバ12aに入射する前のレーザ光L1の強度分布は図21Aに示す実線B1のようになる。そうすると、第1のコア50に入射するレーザ光L1のエネルギ量が減少すると共に第2のコア54に入射するレーザ光L1のエネルギ量が増加する。そのため、光ファイバ12aから出射したレーザ光L3の強度分布は、図21Bに示す実線B2のようになる。
[0125]
すなわち、レーザ光L3は、その中心部のピーク強度が比較的低くなると共にその外周部の強度が比較的高くなる。このようなレーザ光L3は、ワークWに対する溶け込みが比較的浅くなると共に溶融部306の幅(直径)が広くなるため、例えば、薄板308、310の重ね溶接等を好適に行うことができる(図23参照)。
[0126]
このように、本実施の形態では、レンズホルダ202の位置調整ねじ210を回してホルダ本体206をレーザ光L1の光軸方向に沿って移動させて集光レンズ42の焦点位置を変えることができるので、光ファイバ12aから出射したレーザ光L3の中心部と外周部の強度比(エネルギバランス、パワーバランス)を自在に調節することができる。これにより、ワークWの板厚等の溶接条件(加工条件)に応じて好適な強度分布を有するレーザ光L3を簡単に得ることができる。」

イ 図面
[図1]「


[図2]「


[図4A]「

[図4B]「



[図21B]「



[図22]「



[図23]「



ウ 上記ア,イの記載事項を整理すると甲1には以下の技術的事項が記載されているものと認められる。
(ア)段落[0001],[0123],[0125]、及び図1の図示内容からみて、甲1のレーザ加工装置は、厚板302,304、薄板308,310など複数のワークのうちの加工対象部位にレーザ光を照射するよう構成されたものである。
(イ)段落[0064]−[0065]の記載、特に段落[0065]の「ビーム強度P5を有するレーザ中心部がワークWの加工対象部位の加工の契機となり、ビーム強度P4を有するレーザ外周部で該加工を進行(拡張)させることができる」の記載と、図1,4Bの図示内容からみて、レーザ出射部20は、ワークWの加工対象部位におけるレーザ中心部と、このレーザ中心部を囲んだ状態で設けられたレーザ外周部とにレーザ光を照射するよう構成されている。
(ウ)上記(イ)で指摘したと同じ記載、及び図示内容から、レーザ光は、レーザ中心部にはビーム強度P5のピークが生じると共に、レーザ中心部を囲むレーザ外周部にビーム強度P4のピークが生じるよう設定された状態で照射されており、さらに、段落[0064]の記載からみて、レーザ中心部に照射されるレーザ光の平均的な強度が、レーザ外周部に照射されるレーザ光より高くなることが認められる。
(エ)図4Bの図示内容からみて、ビーム強度P5のピーク、及びビーム強度P4のピークでは、ビームの強度が局所的に最大値になっており、ピークが生じている領域を跨いだ前記レーザ光の強度の変化は、該領域にて増加から減少に転じることが認められる。
(オ)段落[0124]、[0125]の記載から、レーザ光の中心部のピーク強度と外周部の強度とを変えて溶け込みの深さと幅を調整することで、薄板や厚板の溶接に適用させ得ることが認められる。

(2)甲1発明
したがって、甲1には以下の発明(甲1発明)が記載されている。
「レーザ溶接のため、複数のワークWのうちの加工対象部位にレーザ光を照射するよう構成されたレーザ加工装置10A,10Cであって、
前記加工対象部位におけるレーザ中心部と、前記レーザ中心部を囲んだ状態で前記加工対象部位に設けられたレーザ外周部とに前記レーザ光を照射するよう構成されたレーザ出射部20を備え、
前記レーザ出射部20は、前記レーザ中心部にビーム強度P5のピークが生じると共に、前記レーザ中心部を囲むレーザ外周部にビーム強度P4のピークが生じるよう設定された状態で前記レーザ光を照射し、且つ、前記レーザ中心部に照射される前記レーザ光の平均的な強度が、前記レーザ外周部に照射される前記レーザ光の平均的な強度よりも高くなるよう構成されており、
前記ピークとは、前記ビームの強度が局所的に最大値になることであり、前記ピークが生じている領域を跨いだ前記レーザ光の強度の変化は、該領域にて増加から減少に転じる
レーザ溶接装置。」

2 甲2:国際公開第2013/186862号
(1)甲2の記載事項
ア 明細書
「[0007]
本発明は、レーザ溶接において、溶融池の深部に酸化皮膜が残存することなく、所望の溶け込み深さを達成可能な技術を提供することを課題とする。
・・・・・
[0028]
重畳レーザのプロファイルにおいて、第一レーザに対応する部分は、熱伝導型溶接を行える程度のパワー密度を有し、第二レーザに対応する部分は、キーホール型溶接を行える程度のパワー密度を有している。
ここで、熱伝導型溶接とは、比較的低いパワー密度のレーザを用いた溶接法である。熱伝導型溶接においては、母材の表面に吸収されたレーザの熱によって当該母材を溶融する。
また、キーホール型溶接とは、比較的高いパワー密度のレーザを用いた溶接法である。キーホール型溶接においては、金属蒸気の圧力によって溶融池に形成される穴(キーホール)を利用して溶接を行う。
・・・・・
[0031]
・・・・・
そのため、一般的に、各ワークの酸化皮膜をレーザによって直接溶融することは困難であり、溶融池Mの深部(図5における楕円Dで囲まれた部分)においては、熱対流の力が小さく、各ワークの酸化皮膜を熱対流によって破壊することが困難である。
しかしながら、重畳レーザを用いることにより、重畳レーザのビーム径に対応した大きさの溶融池Mが形成されると共に、溶融池MにキーホールKが形成されることとなり、金属蒸気の圧力によって形成されたキーホールKによって溶融池Mが攪拌される。
これにより、溶融池Mの深部においても、溶融金属が流動し、良好に各ワークの酸化皮膜を破壊することが可能となる。
したがって、溶融池Mの深部に酸化皮膜が残存することなく、所望の溶け込み深さを達成することができる。
・・・・・
[0034]
また、重畳レーザのプロファイルにおいて、光強度がピークとなる位置(以下、「ピーク位置」と記す)は、ビーム径を直径とする円の中心から、ビーム径の1/4以内の範囲にあることが好ましい。
これは、重畳レーザのプロファイルにおける、第二レーザに対応する部分が、重畳レーザのプロファイルの中心近傍に位置することを意味する。溶融池Mの中心近傍にキーホールKを形成することにより、溶融池Mを効率的に攪拌することができるのである。
本実施形態においては、前述のように、第一レーザ及び第二レーザを加工点Pにて重畳する際に、第一レーザのビーム中心と、第二レーザのビーム中心とを一致させているため、重畳レーザのプロファイルにおけるピーク位置は、重畳レーザのプロファイルにおけるビーム径を直径とする円の中心に一致する。
[0035]
また、重畳レーザのプロファイルにおいて、半値幅は、ビーム径の30%以下であること(0<(半値幅/ビーム径)≦0.3が成り立つこと)が好ましい。なお、半値幅とは、レーザのプロファイルにおける、光強度がピーク値の50%となる部分の幅である(図4参照)。
これは、重畳レーザのプロファイルにおいて、第一レーザに対応する部分の幅に対する、第二レーザに対応する部分の幅の比率の条件を表している。溶融池Mの大きさは、重畳レーザのプロファイルにおける、第一レーザに対応する部分の幅に比例し、キーホールKの大きさは、重畳レーザのプロファイルにおける、第二レーザに対応する部分の幅に比例する。溶融池Mに対して、キーホールKが大き過ぎると、溶融池Mの一部が飛散し、溶接不良を招く恐れがある。
そのため、重畳レーザのプロファイルにおいて、半値幅をビーム径の30%以下にすることが好ましい。
本実施形態においては、半値幅が0.05mmであり、ビーム径が0.80mmであるため、半値幅/ビーム径は、0.0625である。
・・・・・
[0050]
[第三実施形態]
以下では、図10を参照して、本発明に係る溶接装置の第三実施形態である溶接装置3について説明する。
[0051]
溶接装置3は、回折光学素子(Diffractive Optical Element:DOE)を具備する(不図示)。溶接装置3は、前記回折光学素子により、加工点Pにおいて所望のプロファイルを有するレーザを照射可能に構成されている。
なお、溶接装置3としては、一般的にレーザ溶接に用いられるトーチの他、ガルバノスキャナ等を採用可能である。溶接速度及び走査軌跡の自由度の向上の観点から、溶接装置3としてガルバノスキャナを採用することが好ましい。
以下では、溶接装置3から照射されるレーザを「単一レーザ」と記す。
[0052]
図10に、単一レーザのプロファイル(光強度分布)を示す。
図10は、単一レーザのプロファイルを示す図である。図10における横軸は、位置を表し、縦軸は、当該位置における単一レーザの光強度を表す。
本実施形態においては、単一レーザのビーム径は、0.8mmであり、単一レーザの総出力は、2200Wである。
[0053]
本実施形態の単一レーザのプロファイルにおいて、光強度がピーク値の50%となる部分のパワー密度は、3500kW/cm2である。
[0054]
本実施形態の単一レーザのプロファイルにおいて、ピーク位置は、ビーム径を直径とする円の中心に一致する。
[0055]
本実施形態の単一レーザのプロファイルにおいて、半値幅が0.05mmであり、ビーム径が0.8mmであるため、半値幅/ビーム径は、0.0625である。
[0056]
本実施形態の単一レーザのプロファイルにおいて、光強度がピーク(100%)である部分を基点として算出された、重畳レーザの総出力の20%を占める領域、を除く部分の総出力は、1760Wである。
[0057]
溶接装置3は、前記回折光学素子を備えているため、溶接装置1及び溶接装置2によって形成された重畳レーザと同様のプロファイルを有する単一レーザを形成することができる。
したがって、溶接装置3によって複数の母材を溶接する際、溶融池の深部に酸化皮膜が残存することなく、所望の溶け込み深さを達成することができる。
ここで、「重畳レーザと同様のプロファイル」とは、重畳レーザと完全に同一のプロファイルの他、溶接装置3によって形成された単一レーザのように、重畳レーザと同一の効果を奏するレーザのプロファイルを含む。
なお、単一レーザは、連続波であるかパルス波であるかを問わない。」

イ 図面
[図10]「



ウ 上記ア,イの記載事項を整理すると甲2には以下の技術的事項が記載されているものと認められる。
(ア)段落[0051]−[0057]、及び図10の第三実施形態である溶接装置3に関する記載から、この溶接装置3は、「レーザ溶接のため、複数の母材のうちの少なくとも一部における加工点Pに単一レーザを照射するよう構成されて」いるものである。
(イ)図10に図示された単一レーザのプロファイル(光強度分布)について、溶接装置3の単一レーザは、回折光学素子を備えているため、第一実施形態の溶接装置1によって形成された重畳レーザと同様のプロファイルを有する(段落[0057])もので、この単一レーザのプロファイルのピーク位置は、ビーム径を直径とする円の中心に一致する(段落[0054])。上記第三実施形態の溶接装置3は、回折光学素子により、図10に図示されたように、上記単一レーザのプロファイルのピーク位置は、ビーム径を直径とする円の中心に一致して、この中心近傍の半値幅に対応する部分に比例する大きさのキーホールが形成される(段落[0035])ものであり、当該中心近傍の半値幅に対応する領域を囲んだ領域にも、他のピークが生じるように設定されるものである。
以上のことから、上記第三実施形態の溶接装置3は、「加工点Pにおける単一レーザ光のビーム径を直径とする円の中心近傍に比較的高いパワー密度でキーホールが形成される領域と、ビーム径内でこのキーホールが形成される領域を囲んだ領域に、ビームを照射するよう構成された回折光学素子を備える」ものであり、また、「回折光学素子は、単一レーザ光のプロファイルのピーク位置がビーム径を直径とする円の中心に一致すると共に、この円の中心を囲む領域にも他のピークが生じるよう設定された状態でビームを照射する」ものである。
(ウ)また、この溶接装置3について、段落[0035],[0052]−[0056]の記載、及び図10の図示内容からみて、さらに、「単一レーザ光のビーム径を直径とする円の中心近傍の半値幅に対応する領域に照射されるビームの平均的な強度は、当該領域を囲む領域に照射されるビームの平均的な強度よりも高くなるよう構成されて」いることが認められる。
(エ)加えて、段落[0035]の記載から、単一レーザ光のビーム径を直径とする円の中心近傍の半値幅に対応する領域に照射されるビームである第二レーザは、対応する部分の幅に比例する大きさのキーホールKを形成し、第二レーザが照射される当該領域を囲む領域に照射されるビームである第一レーザは、対応する部分の幅に比例する溶融池Mを形成するよう構成されていることが認められる。
(オ)そして、溶接装置3の単一レーザのプロファイルのピークも、図10図示のように、「ビームの強度が局所的に最大値になることであり、ピークが生じている領域を跨いだビームの強度の変化は、該領域にて増加から減少に転じるものであること」が、明らかである。

(2)甲2発明
したがって、甲2には以下の発明(甲2発明)が記載されている。
「レーザ溶接のため、複数の母材のうちの少なくとも一部における加工点Pに単一レーザを照射するよう構成された溶接装置3であって、
加工点Pにおける単一レーザ光のビーム径を直径とする円の中心近傍に比較的高いパワー密度でキーホールが形成される領域と、ビーム径内でこのキーホールが形成される領域を囲んだ領域に、ビームを照射するよう構成された回折光学素子を備え、
回折光学素子は、単一レーザ光のプロファイルのピーク位置がビーム径を直径とする円の中心に一致すると共に、この円の中心を囲む領域にも他のピークが生じるよう設定された状態でビームを照射し、且つ、単一レーザ光のビーム径を直径とする円の中心近傍の半値幅に対応する領域に照射されるビームである第二のレーザの平均的な強度は、当該領域を囲む領域に照射されるビームである第一のレーザの平均的な強度よりも高くなるようにすることで、第二レーザに対応する部分の幅に比例する大きさのキーホールKを形成するとともに、第一レーザに対応する部分の幅に比例する溶融池Mを形成するよう構成されており、
ピークは、ビームの強度が局所的に最大値になることであり、ピークが生じている領域を跨いだビームの強度の変化は、該領域にて増加から減少に転じる
溶接装置。」

第6 当審の判断
1 取消理由A
特許法第29条第1項違反について
(1)甲1発明を引用発明とした場合
ア 本件発明1と甲1発明の対比
甲1発明の「ワークW」は本件発明1の「部材」に相当し、以下同様に、「加工対象部位」は「少なくとも一部における溶接面」に、「レーザ光」は「ビーム」に、「レーザ加工装置10A,10C」は「レーザ溶接装置」に、「レーザ中心部」は「主領域」に、「レーザ外周部」は「副領域」に相当する。
そして、甲1発明の「前記レーザ中心部にビーム強度P5のピークが生じる」ことは、図4Bの図示内容からみて、レーザ中心部の点状の領域にビーム強度P5のピークが生じているから、本件発明1の「前記主領域における点状の中央領域にピークが生じる」ことに相当する。同様に、甲1発明の「前記レーザ中心部を囲むレーザ外周部にビーム強度P4のピークが生じる」ことは、やはり図4Bの図示内容からみて、レーザ外周部のビーム強度P5のピークを囲むようにビーム強度P4のピークが生じているから、本件発明1の「前記副領域における前記中央領域を囲む外側領域に前記ピークが生じる」ことに相当する。
また、甲1発明の「レーザ出射部20」は、レーザ中心部にビーム強度P5のピークが生じると共に、レーザ中心部を囲むレーザ外周部にビーム強度P4のピークが生じるよう設定された状態でレーザ光を照射し、且つ、レーザ中心部に照射されるレーザ光の平均的な強度が、レーザ外周部に照射される前記レーザ光の平均的な強度よりも高くなるよう構成されたものであるから、その限りにおいて本件発明1の「照射部」に相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明は、以下の(ア)の点で一致し、(イ)の点で相違する。

(ア)一致点
「レーザ溶接のため、複数の部材のうちの少なくとも一部における溶接面にビームを照射するよう構成されたレーザ溶接装置であって、
前記溶接面における主領域と、前記主領域を囲んだ状態で前記溶接面に設けられた副領域とに前記ビームを照射するよう構成された照射部を備え、
前記照射部は、前記主領域における点状の中央領域にピークが生じると共に、前記副領域における前記中央領域を囲む外側領域に前記ピークが生じるよう設定された状態で前記ビームを照射し、且つ、前記主領域に照射される前記ビームの平均的な強度が、前記副領域に照射される前記ビームの平均的な強度よりも高くなるよう構成されており、
前記ピークとは、前記ビームの強度が局所的に最大値になることであり、前記ピークが生じている領域を跨いだ前記ビームの強度の変化は、該領域にて増加から減少に転じる
レーザ溶接装置。」

(イ)相違点
本件発明1の照射部が、「前記中央領域を含む領域に第1溶融池を形成すると共に、前記外側領域を含む領域に、スパッタを抑制するための溶融池であって、前記第1溶融池に隣接すると共に前記第1溶融池を囲み、前記第1溶融池よりも浅い溶融池である第2溶融池を形成するよう」構成されているのに対して、甲1発明のレーザ出射部20は、形成される溶融池の態様が不明である点。

イ 相違点の検討
本件発明1と甲1発明は、上記(イ)の点で相違するから、本件発明1は甲1に記載された発明ではない。
また、甲1発明を引用発明として、特許法第29条第1項違反の取消理由Aを通知した本件発明2、及び取消理由Aを通知していない本件発明3−9は、本件発明1の発明特定事項の全てを備えるものであるから、甲1に記載された発明ではない。

本件発明10は、本件発明1のレーザ溶接装置で複数の部材を溶着させることにより行われる部材の製造方法に係るものであるところ、甲1には、甲1発明に対応する部材の製造方法の発明が記載されているといえるが、本件発明10は、上記相違点に係る本件発明1と同様の特定事項を備えるものであるから、甲1に記載された発明ではない。

(2)甲2発明を引用発明とした場合
ア 本件発明1と甲2発明の対比
甲2発明の「複数の母材」は本件発明1の「複数の部材」に相当し、以下同様に、「加工点P」は「溶接面」に、「単一レーザ」は「ビーム」に、「溶接装置3」は「レーザ装置」に相当する。

甲2発明の「単一レーザ光のビーム径を直径とする円の中心近傍に比較的高いパワー密度でキーホールが形成される領域」は本件発明1の「主領域」に、甲2発明の「ビーム径内でこのキーホールが形成される領域を囲んだ領域」は本件発明1の「副領域」に相当する。
また、甲2発明において「単一レーザ光のプロファイルのピーク位置がビーム径を直径とする円の中心に一致する」ことは、円の中心が、加工面Pの点状の中央領域であることから、本件発明1の「主領域における点状の中央領域にピークが生じる」ことに相当し、甲2発明において、「この円の中心を囲む領域にも他のピークが生じるよう設定」されることは、当該円の中心を囲む領域に、円の中心位置に一致するピークとは他のピークが存在することであるから、本件発明1の「前記副領域における前記中央領域を囲む外側領域に前記ピークが生じる」ことに相当する。
加えて、甲2発明において、「単一レーザ光のビーム径を直径とする円の中心近傍の半値幅に対応する領域に照射されるビームの平均的な強度は、当該領域を囲む領域に照射されるビームの平均的な強度よりも高くなるよう構成されて」いることは、円の中心近傍の半値幅に対応する領域にキーホールが形成されることから、本件発明1の「前記主領域に照射される前記ビームの平均的な強度が、前記副領域に照射される前記ビームの平均的な強度よりも高くなるよう構成されて」いることに相当する。
また、甲2発明の「回折光学素子」は、単一レーザ光のプロファイルのピーク位置がビーム径を直径とする円の中心に一致すると共に、この円の中心を囲む領域にも他のピークが生じるよう設定された状態でビームを照射し、且つ、単一レーザ光のビーム径を直径とする円の中心近傍の半値幅に対応する領域に照射されるビームである第二のレーザの平均的な強度は、当該領域を囲む領域に照射されるビームである第一のレーザの平均的な強度よりも高くなるようにするものであるから、その限りにおいて本件発明1の「照射部」に相当する。
そして、ピークが、「ビームの強度が局所的に最大値になることであり、ピークが生じている領域を跨いだビームの強度の変化は、該領域にて増加から減少に転じる」ものであることは、甲2発明と本件発明1に共通である。
したがって、本件発明1と甲2発明は、以下のイの点で一致し、ウの点で相違する。

(ア)一致点
「レーザ溶接のため、複数の部材のうちの少なくとも一部における溶接面にビームを照射するよう構成されたレーザ溶接装置であって、
前記溶接面における主領域と、前記主領域を囲んだ状態で前記溶接面に設けられた副領域とに前記ビームを照射するよう構成された照射部を備え、
前記照射部は、前記主領域における点状の中央領域にピークが生じると共に、前記副領域における前記中央領域を囲む外側領域に前記ピークが生じるよう設定された状態で前記ビームを照射し、且つ、前記主領域に照射される前記ビームの平均的な強度が、前記副領域に照射される前記ビームの平均的な強度よりも高くなるよう構成されており、
前記ピークとは、前記ビームの強度が局所的に最大値になることであり、前記ピークが生じている領域を跨いだ前記ビームの強度の変化は、該領域にて増加から減少に転じる
レーザ溶接装置。」

(イ)相違点
本件発明1の照射部が、「前記中央領域を含む領域に第1溶融池を形成すると共に、前記外側領域を含む領域に、スパッタを抑制するための溶融池であって、前記第1溶融池に隣接すると共に前記第1溶融池を囲み、前記第1溶融池よりも浅い溶融池である第2溶融池を形成するよう」構成されているのに対して、甲2発明の回折光学素子は、第二レーザに対応する部分の幅に比例する大きさのキーホールKを形成するとともに、第一レーザに対応する部分の幅に比例する溶融池Mを形成するよう構成されているものの、外側領域である第一レーザに対応する部分に形成される溶融池Mがスパッタを抑制するための溶融池であるか不明であるとともに、第二レーザに対応する部分に形成されるものはキーホールであって、溶融池Mよりも浅い溶融池ではない点。

イ 相違点の検討
本件発明1と甲2発明は、上記(イ)の点で相違するから、本件発明1は甲2に記載された発明ではない。
また、甲2発明を引用発明として、特許法第29条第1項違反の取消理由Aを通知した本件発明2−3,5、及び取消理由Aを通知していない本件発明4,6−9は、本件発明1の発明特定事項の全てを備えるものであるから、甲2に記載された発明ではない。

本件発明10は、本件発明1のレーザ溶接装置で複数の部材を溶着させることにより行われる部材の製造方法に係るものであるところ、甲2には、甲2発明に対応する部材の製造方法の発明が記載されているといえるが、本件発明10は、上記相違点に係る本件発明1と同様の特定事項を備えるものであるから、甲2に記載された発明ではない。

(3)小括
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由Aによっては、請求項1、及び請求項10に係る特許を取り消すことはできず、請求項1を引用する請求項2−9に係る特許も同様である。

2 取消理由B
特許法第29条第2項違反について
(1)甲1発明を主引用発明とした場合
ア 本件発明1と甲1発明の一致点、相違点は、上記1(1)で検討したのと同じである。

イ 相違点の検討
甲1発明は、段落[0012]に記載のとおり、レーザ光の出力を低下させることなくピーク強度が低下することを抑えることができ、これにより、基本波のレーザ光を用いて高反射率のワークを安定して加工することが可能となる光ファイバ及びそれを備えたレーザ加工装置を提供することを目的とするものである。
そして、段落[0014]の記載によれば、甲1記載の光ファイバは、ガウス分布状のレーザ光を光ファイバの一端面に入射した際に、該レーザ光の中心部を第1のコアで伝搬すると共に、該レーザ光の外周部を第2のコアで伝搬することより、レーザ光の出力を低下させることなく、ピーク強度が低下することを抑え、これにより、基本波のレーザ光を用いて高反射率のワークを加工する場合に、レーザ光の出力を低下させることなく該ワーク上でのレーザ光のピーク強度を反応閾値よりも高くし得ることで、該ワークを安定して加工することができるものである。
さらに、段落[0123]、[0125]の記載によれば、甲1記載の装置は、レーザ光の中心部のピーク強度と外周部の強度とを変えて溶け込みの深さと幅を調整すること、すなわち、溶融部の形状を調整でき、薄板や厚板の溶接に適用し得ることが記載されてはいるものの、甲1発明について、スパッタの発生やその抑制との関係は記載されていない。
加えて、図22及び図23に図示された溶融部300、306を見ると、いずれも全体として一体となった溶融部を形成するものであって、「中央領域を含む領域に第1溶融池を形成すると共に、外側領域を含む領域に、スパッタを抑制するための溶融池であって、第1溶融池に隣接すると共に第1溶融池を囲み、第1溶融池よりも浅い溶融池である第2溶融池を形成する」ものではない。
したがって、甲1発明が、図4Bに図示されたビーム強度の波形が「主領域における点状の中央領域にピークが生じると共に、副領域における前記中央領域を囲む外側領域に前記ピークが生じる」点で、本件発明1と共通するとしても、甲1発明のビーム強度を、本件発明1の第1溶融池及び第2溶融池を形成するように設定することが、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
また、甲1以外の他の甲号証についてみても、甲2記載のものは、単一レーザ光のビーム径を直径とする円の中心近傍の半値幅に対応する領域に照射されるビームである第二レーザ及び当該領域を囲む領域に照射されるビームである第一レーザについて、段落[0035]の記載からみて、「第二レーザに対応する部分の幅に比例する大きさのキーホールKを形成するとともに、第一レーザに対応する部分の幅に比例する溶融池Mを形成するよう」構成されているものであり、「溶融池Mに対して、キーホールKが大き過ぎると、溶融池Mの一部が飛散し、溶接不良を招く恐れがある」ため、「重畳レーザのプロファイルにおいて、半値幅をビーム径の30%以下にすることが好ましい」ものである。よって、甲2記載のものは、溶融池Mの一部を飛散させないものであって、本件発明1のように、深い溶融池から外部に向かって飛散する母材の一部を浅い溶融池で吸収してスパッタを抑制するものではなく、すなわち「スパッタを抑制するための溶融池であって、第1溶融池に隣接すると共に第1溶融池を囲み、第1溶融池よりも浅い溶融池である第2溶融池を形成するもの」とは異なる。
さらに、甲3−甲6についてみても、レーザ光のビーム強度の分布に関する事項は記載されているものの、これらのビーム強度の分布を伴うレーザ光により溶融池を形成することは記載されていない。
よって、これらの甲1以外の各甲号証記載の技術的事項を、甲1発明に適用しても、上記相違点を伴う本件発明1に容易には至らない。
したがって、本件発明1は、甲1発明に基づいて、もしくは甲1発明及び他の各甲号証記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
そして、請求項1を引用し、本件発明1の発明特定事項の全てを備える本件発明2−9、及び本件発明1のレーザ溶接装置で複数の部材を溶着させることにより行われる部材の製造方法に相当する本件発明10も、上記相違点を備えたものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明に基づいて、もしくは甲1発明及び他の各甲号証記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)甲2発明を主引用発明とした場合
ア 本件発明1と甲2発明の一致点、相違点は、上記1(2)で検討したのと同じである。

イ 相違点の検討
甲2発明は、段落[0007]記載のとおり、レーザ溶接において、溶融池の深部に酸化皮膜が残存することなく、所望の溶け込み深さを達成可能な技術を提供するという課題を解決するために、段落[0031]の記載から理解できるように、重畳レーザのビーム径に対応した大きさの溶融池Mが形成されると共に、溶融池MにキーホールKが形成されることで、金属蒸気の圧力によって形成されたキーホールKによって溶融池Mが攪拌され,溶融池Mの深部においても、溶融金属が流動し、良好に各ワークの酸化皮膜を破壊することが可能となるものである。
そして、甲2の段落[0035]の記載、及び第三実施形態に関する[0057]の記載と図10の単一レーザのプロファイルの図示内容からみて、単一レーザ光のビーム径を直径とする円の中心近傍の半値幅に対応する領域に照射されるビームである第二レーザ及び当該領域を囲む領域に照射されるビームである第一レーザについて、「第二レーザに対応する部分の幅に比例する大きさのキーホールKを形成するとともに、第一レーザに対応する部分の幅に比例する溶融池Mを形成する」ものであるから、そもそも「中央領域を含む領域に第1溶融池を形成すると共に、外側領域を含む領域に、スパッタを抑制するための溶融池であって、第1溶融池に隣接すると共に第1溶融池を囲み、第1溶融池よりも浅い溶融池である第2溶融池を形成する」ものではない。
甲2における図10に図示されたレーザのプロファイルは、「前記主領域における点状の中央領域にピークが生じると共に、前記副領域における前記中央領域を囲む外側領域に前記ピークが生じるよう設定された状態で前記ビームを照射し、且つ、前記主領域に照射される前記ビームの平均的な強度が、前記副領域に照射される前記ビームの平均的な強度よりも高くなるよう」な構成であるが、段落[0035]の「溶融池Mに対して、キーホールKが大き過ぎると、溶融池Mの一部が飛散し、溶接不良を招く恐れがある」ため、「重畳レーザのプロファイルにおいて、半値幅をビーム径の30%以下にすることが好ましい」という記載から、甲2発明は、キーホールKの形成により溶融池Mが攪拌されるとしても、本件発明1のように、深い溶融池から外部に向かって飛散する母材の一部を浅い溶融池で吸収してスパッタを抑制するという動機を有しないものである。
よって、甲2発明は、本件発明1のように「中央領域を含む領域に第1溶融池を形成すると共に、外側領域を含む領域に、スパッタを抑制するための溶融池であって、第1溶融池に隣接すると共に第1溶融池を囲み、第1溶融池よりも浅い溶融池である第2溶融池を形成する」ものではないし、そのようにする動機もないから、甲2発明のビーム強度を、本件発明1の第1溶融池及び第2溶融池を形成するように設定することが、当業者が容易に想到し得たものではない。
また、甲2以外の他の甲号証についてみても、甲1には、「中央領域を含む領域に第1溶融池を形成すると共に、外側領域を含む領域に、スパッタを抑制するための溶融池であって、第1溶融池に隣接すると共に第1溶融池を囲み、第1溶融池よりも浅い溶融池である第2溶融池を形成する」ことが記載されていないし、甲3−甲6にも、レーザ光のビーム強度の分布に関する事項は記載されているものの、これらのビーム強度の分布を伴うレーザ光により溶融池を形成することは記載されていない。
よって、これらの甲2以外の各甲号証記載の技術的事項を、甲2発明に適用しても、上記相違点を伴う本件発明1に容易には至らない。
したがって、本件発明1は、甲2発明に基づいて、もしくは甲2発明及び他の各甲号証記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
そして、請求項1を引用し、本件発明1の発明特定事項の全てを備える本件発明2−9、及び本件発明1のレーザ溶接装置で複数の部材を溶着させることにより行われる部材の製造方法に相当する本件発明10も、上記相違点を備えたものであるから、本件発明1と同様に、甲2発明に基づいて、もしくは甲2発明及び他の各甲号証記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)小括
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由Bによっては、請求項1、及び請求項10に係る特許を取り消すことはできず、請求項1を引用する請求項2−9に係る特許も同様である。

3 取消理由C
特許法第36条第6項第2号の要件違反について
(1)取消理由通知において通知した理由の内容
各請求項で用いられている「主領域」、「副領域」、「外側領域」、「第2領域」、及び「第3領域」の各用語の概念と、これら各用語で規定された各領域に中央領域」、及び「第1領域」を含めた各領域間の相互の関係が、以下のア−ウの点で不明瞭である。
ア 請求項1に記載した「外側領域」については、上記のとおり請求項2に「前記外側領域は、前記中央領域を中心とした円周状の領域である」と特定されているのに対して、請求項1にはこの特定がされずに「前記副領域における前記中央領域を囲む外側領域に前記ピークが生じるよう設定された状態で」とのみ特定されていることから、副領域におけるビームのピークが、中央領域を囲む不定の領域において任意の態様で設定されるものとなるが、この場合、副領域に生成する浅い溶融池がスパッタの発生を抑制し得るとは限らず、「外側領域」の技術的意味が不明である。
イ 請求項2の「前記外側領域は、前記中央領域を中心とした円周状の領域である」ことの発明特定事項について、「円周状の領域」の用語が多義的な解釈が可能で、径方向に幅を有する面積も持った領域を表すのか、実質的に径方向に幅を有しない領域を表すのかが不明である。
ウ 各請求項に記載した「第2領域」について、「外側領域」との関係が不明であり、「円周状の領域」、あるいはそれ以外の態様であるかも不明である。
さらに、以下の点で、請求項に係る発明が明確でない。
エ 上記イのとおり、「円周状の領域」が多義的に解釈される結果、請求項7−10記載の「ビームの強度の測定値」あるいは「ビームの設定値」について、それぞれの値自体なのか、領域内の平均値かなど、内容が不明である。
オ 請求項1に記載した「主領域」及び「副領域」と、溶接池との関係が不明であり、適度な溶接強度を保ちつつ、スパッタの発生を抑制する手段としての技術的内容を把握することができない。

(2)上記(1)の理由が解消しているか否かについて
ア (1)アの理由について
特許権者は、令和3年5月25日提出の意見書の5(6)ア「理由C(1)について」において、「副領域112に照射されるビームのピークが中央領域を中心とした円周状の領域に形成されなくても、同様にして深い溶融池121と浅い溶融池122とが形成されれば、スパッタの抑制効果が得られる。」こと、取消理由における「円周領域212、201が、溶接面に照射されるビームのピークが生じるように設定された中央領域を中心とした円周状の領域となっており、このことが、スパッタの発生を抑制できる主領域の深い溶融池と、副領域の浅い溶融池の生成に寄与する課題解決のための技術的課題であると認められる。」との認定が誤りであること、訂正事項1及び訂正事項6による訂正により、本件発明1及び本件発明10において、中央領域を含む領域に第1溶融池が形成されると共に、外側領域を含む領域に、第1溶融池を囲み、且つ、これに隣接して、スパッタを抑制するための浅い第2溶融池が形成されることが明らかであることを主張する。
これらの主張を考慮した上で、段落【0010】−【0012】の記載をみると、「副領域は、主領域を囲む領域であって」、「照射部は、主領域に位置する第1領域と、副領域に位置する第3領域と、第1領域と第3領域との間に位置する第2領域とにピークが生じるように設定された状態で、ビームを照射」すれば、「レーザ溶接を行う複数の部材の溶着強度が向上する」のであり、「外側領域」に該当する「第2領域」及び「第3領域」は、「前記副領域における前記中央領域を囲む」ものであれば、円周領域でなくても本件発明の課題を解決し得ることが理解される。
したがって、「外側領域」の技術的意味は明らかであり、したがって、本件発明1−10は、上記(1)アの理由を解消したものと認められる。

イ (1)イの理由について
訂正事項2により、請求項2の「前記外側領域は、前記中央領域を中心とした円周状の領域である」の発明特定事項は、「前記外側領域は、前記中央領域を中心とした円周状に延びる線状の領域である」に訂正されたから、「円周状の領域」の用語は、実質的に径方向に幅を有しない領域を表すことが明確になったから、上記(1)イの理由は解消したものと認められる。

ウ (1)ウの理由について
訂正事項3により、請求項3の「前記照射部は、前記中央領域である第1領域と、前記外側領域である第3領域と、前記第1領域と前記第3領域との間に位置する第2領域とに前記ピークが生じるように設定された状態で、前記ビームを照射する」の発明特定事項は、「前記照射部は、前記中央領域である第1領域と、前記外側領域である第3領域と、前記第1領域と前記第3領域との間に位置し、前記第1領域を囲む領域である第2領域とに前記ピークが生じるように設定された状態で、前記ビームを照射する」に訂正され、本件発明3においては、第3領域が外側領域であり、第2領域は、この第3領域と第1領域との間で、第1領域を囲む領域であることが明確化されたから、上記(1)ウの理由は解消したものと認められる。

エ (1)エの理由について
訂正事項4により、請求項7の「前記中央領域の前記ビームの強度の測定値を100とした場合の、前記外側領域の前記ビームの強度の測定値の比率を、測定値比率とし、」の発明特定事項は、「前記中央領域に形成される前記ビームの前記ピークの強度の測定値を100とした場合の、前記外側領域に形成される前記ビームの前記ピークの強度の測定値の比率を、測定値比率とし、」に訂正され、訂正事項5により、請求項9の「前記中央領域の前記ビームの設定値と、前記外側領域の前記ビームの設定値との比をX1:Z1とし、」の発明特定事項は、「前記中央領域に形成される前記ビームの前記ピークの強度の設定値と、前記外側領域に形成される前記ビームの前記ピークの強度の設定値との比をX1:Z1とし、」に訂正された。
そして、これらの訂正により、中央領域及び外側領域のビームの強度が中央領域及び外側領域に形成されるビームのピークの強度であることが明確化され、中央領域及び外側領域のビームの設定値が、中央領域及び外側領域に形成されるビームのピークの強度の設定値であることが明確化され、これらの強度及び設定値は、それぞれの値自体であることが理解できるようになったから、上記(1)エの理由は解消したものと認められる。

オ (1)オの理由について
訂正事項1及び訂正事項6により、本件発明1及び本件発明10において、「前記中央領域を含む領域に第1溶融池を形成すると共に、前記外側領域を含む領域に、スパッタを抑制するための溶融池であって、前記第1溶融池に隣接すると共に前記第1溶融池を囲み、前記第1溶融池よりも浅い溶融池である第2溶融池を形成する」ことが明確化されたから、「主領域」及び「副領域」と「溶接池」との関係は、「中央領域」及び「外側領域」と溶接池との関係が規定されたことで明確となり、適度な溶接強度を保ちつつ、スパッタの発生を抑制する手段としての技術的内容を把握することができるようになったから、上記(1)オの理由は解消したものと認められる。

(3)小括
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由Cによっては、請求項1−10に係る特許を取り消すことはできない。

4 取消理由D
特許法第36条第6項第1号の要件違反について
(1)取消理由通知において通知した理由の内容
請求項9に係る発明の「前記中央領域の前記ビームの設定値と、前記外側領域の前記ビームの設定値との比をX1:Z1とし、6≦X1≦8、且つ、1≦Z1≦3である」の発明特定事項に対して、発明の詳細な説明の段落【0051】−【0055】には、「中央領域のビームのピーク値の設定値と、円周領域のビームのピーク値の設定値との比をX1:Z1とし、6≦X1≦8、1≦Z1≦3である」ことが記載されており、上記発明特定事項と設定値の内容が整合していない。

(2)上記(1)の理由が解消しているか否かについて
訂正事項5により、請求項9の「前記中央領域の前記ビームの設定値と、前記外側領域の前記ビームの設定値との比をX1:Z1とし、」の発明特定事項が、「前記中央領域に形成される前記ビームの前記ピークの強度の設定値と、前記外側領域に形成される前記ビームの前記ピークの強度の設定値との比をX1:Z1とし、」に訂正されたことで、発明の詳細な説明の段落【0051】−【0055】の特に段落【0052】の内容と整合することとなったから、本件発明9では、上記(1)の理由は解消したものと認められる。

(3)小括
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由Dによっては、請求項9に係る特許を取り消すことはできない。

第7 申立人の意見について
申立人は、令和3年8月5日提出の意見書において、訂正請求の訂正要件違反、及び取消理由が解消していないことについて主張するので、以下、検討する。
1 令和3年5月25日付け訂正請求の訂正要件違反について
申立人は、上記訂正請求の訂正事項4及び訂正事項5について訂正要件違反である旨を主張するが、既に第2で検討したとおり、これらの訂正事項は訂正要件に適合するものであり、申立人の主張は採用できない。

2 取消理由が解消しないことについて
(1)取消理由A,B
ア 申立人は、訂正により請求項1,10に「前記中央領域を含む領域に第1溶融池を形成すると共に、前記外側領域を含む領域に、スパッタを抑制するための溶融池であって、前記第1溶融池に隣接すると共に前記第1溶融池を囲み、前記第1溶融池よりも浅い溶融池である第2溶融池を形成する」ことの発明特定事項が付加されたことについて、請求項1の「レーザ溶接装置」あるいは請求項10の「部材の製造方法」の作用効果を記載したものにすぎないことを主張する。
これに対して、当該特定事項は、中央領域及び外側領域、第1溶融池及び第2溶融池の相互関係を規定するものであって、単に、「前記照射部は、前記主領域における点状の中央領域にピークが生じると共に、前記副領域における前記中央領域を囲む外側領域に前記ピークが生じるよう設定された状態で前記ビームを照射し、且つ、前記主領域に照射される前記ビームの平均的な強度が、前記副領域に照射される前記ビームの平均的な強度よりも高くなるようにする」という構成による作用効果のみを表したものではないから、申立人の主張は採用できない。

イ また、申立人は、上記の訂正により請求項1,10に付加された「前記中央領域を含む領域に第1溶融池を形成すると共に、前記外側領域を含む領域に、スパッタを抑制するための溶融池であって、前記第1溶融池に隣接すると共に前記第1溶融池を囲み、前記第1溶融池よりも浅い溶融池である第2溶融池を形成する」ことの発明特定事項における本件図5にも図示される溶融池の形状が、甲1の段落【0123】及び図22から把握される溶融池の形状と同様であり、第2溶融池は、第1溶融池からのスパッタを抑制することは、意見書で新たに引用する甲7(特開2015−217422号公報)の段落【0042】、甲8(特開2012−110905号公報)の段落【0026】に記載されるように、当業者において自明な技術的事項であることから、甲1に上記発明特定事項が記載されていることを主張する。
(ア)しかしながら、溶融池の形状に関し、本件の図5が、本件発明1の第1溶融池に相当する深い溶融池121と、第2溶融池に相当する浅い溶融池122を明示しているのに対して、甲1図面の図22は、これらの溶融池を示していない。
(イ)また、スパッタの抑制に関し、甲7の段落【0042】の記載内容は、図2も参照すれば、「第1のレーザビーム30の内側の溶融部30aに第2のレーザビーム31を照射することによって、溶融部30aの内部により高温の第1のキーホール31aを生じさせ」るものであるが、第1のレーザビーム30の照射によりすでに溶融中である溶融部30a上へ、第2のレーザビーム31を照射することで、スパッタの発生を抑制するものである。
さらに、甲8の段落【0026】の記載内容は、図1−2も参照すれば、ビーム部分101aで所定の照射点である観測点の温度を融点Tmの近くまで上昇させてから、ビーム部分101bで観測点の温度を融点Tmまで上昇させることから、観測点での温度変化を小さくすることで、溶融後の表面からの突沸を抑制して、スパッタの発生を低減するものである。
したがって、甲7及び甲8をみても、「第1溶融池に隣接すると共に前記第1溶融池を囲み、前記第1溶融池よりも浅い溶融池である第2溶融池は、第1溶融池からのスパッタを抑制すること」が当業者において自明な技術的事項であるということはできない。
(ウ)以上(ア)及び(イ)より、甲1に、上記発明特定事項が記載されているとする根拠はなく、申立人の主張は採用できない。

ウ また、申立人は、甲2についても、ビームのプロファイルが図10で示されるように「前記主領域における点状の中央領域にピークが生じると共に、前記副領域における前記中央領域を囲む外側領域に前記ピークが生じるよう設定された状態で前記ビームを照射し、且つ、前記主領域に照射される前記ビームの平均的な強度が、前記副領域に照射される前記ビームの平均的な強度よりも高くなるよう」な構成であることを根拠として、上記の訂正により請求項1,10に付加された「前記中央領域を含む領域に第1溶融池を形成すると共に、前記外側領域を含む領域に、スパッタを抑制するための溶融池であって、前記第1溶融池に隣接すると共に前記第1溶融池を囲み、前記第1溶融池よりも浅い溶融池である第2溶融池を形成する」ことの発明特定事項が記載されていることを主張する。
しかしながら、甲2の図10のプロファイルが申立人の主張する上記の構成であったとしても、上記第6の2(2)イ「相違点の検討」において検討したとおり、甲2発明は、本件発明1のように、深い溶融池から外部に向かって飛散する母材の一部を浅い溶融池で吸収してスパッタを抑制する動機を有しないものである。
したがって、甲2発明には、上記発明特定事項は記載されていないし、上記発明特定事項に至る動機はないから、申立人の主張は採用できない。

エ 申立人は、本件発明2−10についても、取消理由A及び取消理由Bが解消していないことを主張するが、上記のとおり、本件発明1が取消理由A及び取消理由Bを解消しているから、本件発明1の発明特定事項を全て含む本件発明2−10も同様に解消しているものと認められる。

(2)取消理由C
申立人は、訂正後の本件発明1−10についても、依然、取消理由Cは解消していないとし、その根拠として、「『外側領域』は、『前記中央領域を囲む外側領域』としか特定されておらず、『外側領域』が任意の態様であっても発明の課題を解決するとは認められないから、依然として、訂正後の請求項1の『外側領域』」は明確ではない。」旨主張する。
しかしながら、上記第6の3(2)ア「(1)アの理由について」で検討したとおり、第6の3(1)アの理由に関し、「外側領域」の技術的意味は明らかであるから、申立人の主張は採用できない。
また、申立人は、訂正後の請求項1について、訂正で付加された「前記中央領域を含む領域に第1溶融池を形成すると共に、前記外側領域を含む領域に、スパッタを抑制するための溶融池であって、前記第1溶融池に隣接すると共に前記第1溶融池を囲み、前記第1溶融池よりも浅い溶融池である第2溶融池を形成する」ことの発明特定事項が、作用効果を記載しているに過ぎない旨を指摘するが、上記(1)アで検討したとおり、この発明特定事項は単なる作用効果の記載ではなく、また、この記載の追加により、本件発明2が明確でなくなったことの事情も見出せない。

第8 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許法第36条第6項第1号の要件違反について
(1)請求項4−6について
申立人は、特許異議申立書の3(4)エ「取消理由3」で、請求項4に係る発明については、発明の詳細な説明における第3モードとして説明され、請求項5に係る発明については、発明の詳細な説明における第2モードとして説明されるものであるが、第3モードと第2モードのいずれも、第1−3ピーク値の比率に関し、それぞれ段落【0033】及び【0031】に一例の数値が開示されているのみであることを指摘する。
そして、これらの発明の詳細な説明の記載内容は、請求項4の「前記第1領域における前記ビームの強度は、前記第3領域における前記ビームの強度よりも高く、前記第3領域における前記ビームの強度は、前記第2領域における前記ビームの強度よりも高い」こと、及び請求項5の「前記第1領域における前記ビームの強度は、前記第2領域における前記ビームの強度よりも高く、前記第2領域における前記ビームの強度は、前記第3領域における前記ビームの強度よりも高い」ことにまで一般化することができず、請求項4及び請求項5に係る発明、並びにこれらの請求項を引用する請求項6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである旨の主張をする。
これに対して、第3モード及び第2モードに関しては、第1−3ピークの比率に関して、発明の詳細な説明の段落【0031】及び【0033】に、「該大小関係が維持される範囲で、適宜変更されても良い。」とそれぞれ記載されている。
そうすると、発明の詳細な説明において、請求項4及び請求項5に記載した発明特定事項に対応する第3モード及び第2モードは、例示された数値に限られることはないことが示され、さらに、段落【0063】には、第3モード及び第2モードに関し、第1−3ピークの比率の大小関係が規定されることによる作用効果について、特に数値を限らず具体的に開示されていることが認められる。
したがって、発明の詳細な説明に開示された内容を、請求項に記載した内容にまで一般化することが不可能ではないから、申立人の主張は採用できない。

(2)請求項7−8について
申立人は請求項7に係る発明のそれぞれに関し、引用する請求項1−6による6つのパターンの発明の全てがサポート要件を満たす必要があるのに対して、発明の詳細な説明には、上記各パターンの発明に対して特定の設定値及び測定値比率の実施例の開示しかないことから、請求項7,及び請求項7を引用する請求項8に係る発明はサポート要件を満たしていない旨、主張する。
しかしながら、請求項7−8及び請求項1−6のそれぞれについて、対応する事項は、発明の詳細な説明に記載されており、特定の設定値及び測定値比率の実施例の開示しかないことをもって、請求項7−8に係る発明が、発明の詳細な説明に記載した発明でないとする根拠は認められないから、申立人の主張は採用できない。

(3)請求項9について
申立人は、請求項9に係る発明についても、上記(2)で検討した請求項7−8に係る発明と同様に、請求項9が引用する請求項1−6により6つのパターンの発明が含まれ、全てのパターンの発明が、サポート要件を満たす必要があるのに対して、発明の詳細な説明には、上記各パターンに対して特定の設定値及び測定値比率の実施例の開示しかないことから、サポート要件を満たしていない旨、主張する。
しかしながら、上記(2)と同様の理由により、申立人の主張は採用できない。

2 特許法第36条第4項第1号の要件違反について
申立人は、特許異議申立書の3(4)オ「取消理由4」で、「本件発明1〜本件発明10は『主領域を囲んだ状態で前記溶接面に設けられた副領域』および『前記副領域における前記中央領域を囲む外側領域に前記ピークが生じるよう設定された状態』という構成要件により特定されているが、この構成要件をどのように実施するかについて発明の詳細な説明には具体的な記載はなく、発明の詳細な説明は前記構成要件を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載していない。」旨を主張する。
しかしながら、発明の詳細な説明の段落【0028】−【0034】には、図2−図4とともに、主領域と副領域が設けられる態様として第1−3モードが具体的に記載されており、これらの記載の中では、「主領域を囲んだ状態で前記溶接面に設けられた副領域」と、外側領域としてはその具体例としての円周領域と記載されてはいるものの、「前記副領域における前記中央領域を囲む外側領域に前記ピークが生じるよう設定された状態」について、具体的に記載されている。
したがって、発明の詳細な説明には、本件発明1−10を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているから、申立人の主張は採用できない。

第9 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1−10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1−10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ溶接のため、複数の部材のうちの少なくとも一部における溶接面にビームを照射するよう構成されたレーザ溶接装置であって、
前記溶接面における主領域と、前記主領域を囲んだ状態で前記溶接面に設けられた副領域とに前記ビームを照射するよう構成された照射部を備え、
前記照射部は、前記主領域における点状の中央領域にピークが生じると共に、前記副領域における前記中央領域を囲む外側領域に前記ピークが生じるよう設定された状態で前記ビームを照射し、且つ、前記主領域に照射される前記ビームの平均的な強度が、前記副領域に照射される前記ビームの平均的な強度よりも高くなるようにすることで、前記中央領域を含む領域に第1溶融池を形成すると共に、前記外側領域を含む領域に、スパッタを抑制するための溶融池であって、前記第1溶融池に隣接すると共に前記第1溶融池を囲み、前記第1溶融池よりも浅い溶融池である第2溶融池を形成するよう構成されており、
前記ピークとは、前記ビームの強度が局所的に最大値になることであり、前記ピークが生じている領域を跨いだ前記ビームの強度の変化は、該領域にて増加から減少に転じる
レーザ溶接装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたレーザ溶接装置において、
前記外側領域は、前記中央領域を中心とした円周状に延びる線状の領域である
レーザ溶接装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載されたレーザ溶接装置において、
前記照射部は、前記中央領域である第1領域と、前記外側領域である第3領域と、前記第1領域と前記第3領域との間に位置し、前記第1領域を囲む領域である第2領域とに前記ピークが生じるように設定された状態で、前記ビームを照射する
レーザ溶接装置。
【請求項4】
請求項3に記載されたレーザ溶接装置において、
前記第1領域における前記ビームの強度は、前記第3領域における前記ビームの強度よりも高く、前記第3領域における前記ビームの強度は、前記第2領域における前記ビームの強度よりも高い
レーザ溶接装置。
【請求項5】
請求項3に記載されたレーザ溶接装置において、
前記第1領域における前記ビームの強度は、前記第2領域における前記ビームの強度よりも高く、前記第2領域における前記ビームの強度は、前記第3領域における前記ビームの強度よりも高い
レーザ溶接装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のうちのいずれか1項に記載されたレーザ溶接装置において、
レーザ媒体が発した光を増幅させることで、前記ビームを生成する生成部を更に備え、
前記照射部は、前記生成部にて生成された前記ビームの強度の分布を、光の進路を変更する部材により設定する
レーザ溶接装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のうちのいずれか1項に記載されたレーザ溶接装置において、
前記中央領域に形成される前記ビームの前記ピークの強度の測定値を100とした場合の、前記外側領域に形成される前記ビームの前記ピークの強度の測定値の比率を、測定値比率とし、
前記測定値比率は、0.6以上である
レーザ溶接装置。
【請求項8】
請求項7に記載されたレーザ溶接装置において、
前記測定値比率は、0.6以上3.0以下である
レーザ溶接装置。
【請求項9】
請求項1から請求項6のうちのいずれか1項に記載されたレーザ溶接装置において、
前記中央領域に形成される前記ビームの前記ピークの強度の設定値と、前記外側領域に形成される前記ビームの前記ピークの強度の設定値との比をX1:Z1とし、
6≦X1≦8、且つ、1≦Z1≦3である
レーザ溶接装置。
【請求項10】
複数の部材をレーザ溶接により溶着させることにより行われる部材の製造方法であって、
前記レーザ溶接は、前記複数の部材のうちの少なくとも一部における溶接面にビームを照射するよう構成されたレーザ溶接装置を用いて行われ、
前記レーザ溶接装置は、前記溶接面における主領域と、前記主領域を囲んだ状態で前記溶接面に設けられた副領域とに前記ビームを照射するよう構成された照射部を備え、
前記レーザ溶接の際に前記ビームが照射される領域が前記溶接面を移動する方向を、溶接方向とし、
前記副領域は、前記主領域を囲む領域であり、
前記照射部は、前記主領域における点状の中央領域にピークが生じると共に、前記副領域における前記中央領域を囲む外側領域に前記ピークが生じるよう設定された状態で前記ビームを照射し、且つ、前記主領域に照射される前記ビームの平均的な強度が、前記副領域に照射される前記ビームの平均的な強度よりも高くなるようにすることで、前記中央領域を含む領域に第1溶融池を形成すると共に、前記外側領域を含む領域に、スパッタを抑制するための溶融池であって、前記第1溶融池に隣接すると共に前記第1溶融池を囲み、前記第1溶融池よりも浅い溶融池である第2溶融池を形成するよう構成されており、
前記ピークとは、前記ビームの強度が局所的に最大値になることであり、前記ピークが生じている領域を跨いだ前記ビームの強度の変化は、該領域にて増加から減少に転じる
部材の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照
異議決定日 2022-01-05 
出願番号 P2017-176603
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (B23K)
P 1 651・ 113- YAA (B23K)
P 1 651・ 537- YAA (B23K)
P 1 651・ 121- YAA (B23K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 見目 省二
特許庁審判官 河端 賢
田々井 正吾
登録日 2020-03-10 
登録番号 6674422
権利者 フタバ産業株式会社
発明の名称 レーザ溶接装置、及び、部材の製造方法  
代理人 名古屋国際特許業務法人  
代理人 名古屋国際特許業務法人  

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