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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
管理番号 1383250
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-10-09 
確定日 2022-01-27 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6712953号発明「伸縮性積層体およびそれを含む物品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6712953号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜16〕について訂正することを認める。 特許第6712953号の請求項1〜5、9〜16に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6712953号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜16に係る特許についての出願は、平成27年12月10日(優先権主張平成26年12月12日 日本国)を国際出願日とする出願であって、令和2年6月4日にその特許権の設定登録(特許掲載公報令和2年6月24日発行)がされ、その後、請求項1〜5、9〜16に係る特許について、令和2年10月9日に特許異議申立人村戸良至(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされ、令和3年3月26日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である令和3年5月27日に特許権者から意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされ、この本件訂正請求について、令和3年7月27日に申立人より意見書が提出されたものである。

第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
本件訂正請求は、「特許第6712953号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜16について訂正することを求める」ものであり、その訂正の内容は、本件特許に係る願書に添付した特許請求の範囲を、次のように訂正するものである。
なお、下線は訂正箇所を示す。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の
「該オレフィン系樹脂層が非エラストマー性オレフィン系樹脂を含み、」との記載を、
「該オレフィン系樹脂層が非エラストマー性オレフィン系樹脂を含み、
該非エラストマー性オレフィン系樹脂が、高密度ポリエチレンまたはホモポリプロピレンを含み、」と訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項8を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項11の
「請求項1から10のいずれかに記載の伸縮性積層体。」との記載を、
「請求項1から5および9から10のいずれかに記載の伸縮性積層体。」と訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項12の
「請求項1から11のいずれかに記載の伸縮性積層体。」との記載を、
「請求項1から5および9から11のいずれかに記載の伸縮性積層体。」と訂正する。

2 訂正の適否
(1)一群の請求項について
訂正前の請求項2〜16は、訂正前の請求項1を、直接的又は間接的に引用するものであって、訂正事項によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、本件訂正請求は、一群の請求項ごとにされたものである。

(2)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1記載の非エラストマー性オレフィン系樹脂が、高密度ポリエチレンまたはホモポリプロピレンを含むことを規定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1は、請求項1記載の発明特定事項をさらに具体的に規定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
訂正事項1により請求項1に新たに記載される「該非エラストマー性オレフィン系樹脂が、高密度ポリエチレンまたはホモポリプロピレンを含み」という事項は、訂正前の請求項7および8ならびに本件特許の明細書の段落【0065】に記載されており、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書」という。)に記載した事項の範囲内の訂正である。

(3)訂正事項2〜4について
訂正事項2〜4は、それぞれ、請求項6、請求項7、請求項8を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。
さらに、訂正事項2〜4は、いずれも請求項を削除する訂正であるから、独立特許要件は課されない。

(4)訂正事項5、6について
訂正事項5及び6は、それぞれ、訂正事項2〜4により請求項6〜8が削除されることに伴い、請求項11及び12が引用する請求項の整合をとるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

3 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、訂正後の請求項〔1〜16〕について訂正を認める。

第3 本件特許発明
上記のとおり、本件訂正請求が認められるから、本件特許の請求項1〜5、9〜16に係る発明(以下「本件発明1」等という。また、それらを「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1〜5、9〜16に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
エラストマー層の両側にオレフィン系樹脂層を有する伸縮性積層体であって、
該エラストマー層がプロピレン系エラストマーを90重量%〜100重量%含み、
該オレフィン系樹脂層が非エラストマー性オレフィン系樹脂を含み、
該非エラストマー性オレフィン系樹脂が、高密度ポリエチレンまたはホモポリプロピレンを含み、
該伸縮性積層体を100%伸長した状態でガラス板の上に貼付け固定し、該伸縮性積層体表面にベビーオイル(ピジョン製、ベビーオイル、主成分:トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル)を0.5mL滴下してから60分後において、該伸縮性積層体に穴が形成しない、
伸縮性積層体。
【請求項2】
前記オレフィン系樹脂層が前記エラストマー層の少なくとも一方の側に直接に積層されている、請求項1に記載の伸縮性積層体。
【請求項3】
厚みが10μm〜500μmである、請求項1に記載の伸縮性積層体。
【請求項4】
前記オレフィン系樹脂層中の前記非エラストマー性オレフィン系樹脂の含有割合が50重量%〜100重量%である、請求項1から3のいずれかに記載の伸縮性積層体。
【請求項5】
前記オレフィン系樹脂層中の前記非エラストマー性オレフィン系樹脂の含有割合が95重量%〜100重量%である、請求項4に記載の伸縮性積層体。」
「【請求項9】
前記オレフィン系樹脂層の厚みが2μm〜50μmである、請求項1に記載の伸縮性積層体。
【請求項10】
前記オレフィン系樹脂層の厚みが2μm〜8μmである、請求項1に記載の伸縮性積層体。
【請求項11】
前記エラストマー層中の前記プロピレン系エラストマーの含有割合が95重量%〜100重量%である、請求項1から5および9から10のいずれかに記載の伸縮性積層体。
【請求項12】
前記プロピレン系エラストマーが、メタロセン触媒を用いて製造されたものである、請求項1から5および9から11のいずれかに記載の伸縮性積層体。
【請求項13】
前記エラストマー層の厚みが8μm〜450μmである、請求項1に記載の伸縮性積層体。
【請求項14】
前記エラストマー層の厚みが8μm〜67μmである、請求項1に記載の伸縮性積層体。
【請求項15】
衛生用品に用いられる、請求項1に記載の伸縮性積層体。
【請求項16】
請求項1に記載の伸縮性積層体を含む物品。」

第4 当審の判断
1 取消理由の概要
(1)本件発明1〜5、9、10、13及び14は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
本件発明1〜5、9〜14は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

甲第1号証:特表2011−514178号公報
甲第3号証:田中雅人、「ポリエチレン その特性と用途分野」、化学と教育、公益社団法人日本化学会、57巻4号、2009年、208〜209頁
甲第6号証:The Dow Chemical Company、「ELITETM 5800G」Technical Data、[online]、Last Updated 2012.5.16、インターネット<URL:https://plastics.ulprospector.com/datasheet/e115292/elite-5800g>
甲第7号証:ExxonMobil、「VistamaxxTM Performance Polymer 6102」、[online]、Effective Date 2020.7.14、インターネット<URL:https://www.exxonmobilchemical.com/en/resources/product-data-sheets/Polymer-modifiers/Vistamaxx-Performance-polymers>
以下「甲第1号証」を「甲1」という。他も同様。

(2)本件特許は、特許請求の範囲の記載が次の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
当業者は、本件特許の発明の詳細な説明の記載から、エラストマー層の両側の層をHDPE又はPPとした伸縮性積層体が、「耐オイル性」と「耐ブロッキング性」に優れることを認識できるとしても、請求項1の「オレフィン系樹脂層が非エラストマー性オレフィン系樹脂」との事項まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化するための根拠は見いだせない。
したがって、本件発明1〜5、9〜16は、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものである。

新規性進歩性に係る理由について
(1)甲1の記載事項、引用発明
ア 甲1には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
トップシートと、
外側カバーと、
前記トップシートと外側カバーとの間に配置される吸収性コアと、を含む、吸収性物品であって、
前記外側カバーが、押出接着された積層体を含み、前記押出接着された積層体が、
コア層、第1の外層、及び第2の外層を含む、多層の共押出されたエラストマーフィルムであって、前記コア層が、前記第1と第2の外層の間にある、多層の共押出されたエラストマーフィルムと、
繊維及び/又は長繊維からなる不織布と、を含み、
前記第1の外層が、押出被覆を介して前記不織布に非接着接合され、
前記外側カバーが、少なくとも約50%の工学的歪に対して弾力性があり、
前記不織布が、前記第1の外層に対して高い化学親和力を有し、
前記第1の外層が、前記コア層に対して低い化学親和力を有し、
前記多層の共押出されたエラストマーフィルムが、約40gsm以下の坪量を有する、吸収性物品。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、吸収性物品への組み込みに有用な積層体に関する。更に具体的には、本発明は、様々な押出接着された積層体を作製するための材料及び方法並びにおむつへのそれらの組み込みに関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、良好な引張特性を備えるエラストマー不織布フィルム積層体を提供することが、本発明の目的である。1つ以上のタイ層を含むこのような積層体を提供することが本発明の更なる目的であり、積層体は、層間剥離することなく機械的に活性化することが可能である。本発明の別の目的は、2台以下の押出成形機を用いて、記載されるように、エラストマー不織布フィルム積層体を提供することである。なお更に、本発明の目的は、条件を満たしたパラメーター内で、巻着、保存する、及び解巻可能なエラストマー不織布フィルム積層体を提供することである。最後に、本発明の目的は、ピンホールのない機械的活性化を可能にする緩衝剤としての役割を果たすタイ層を含むエラストマー不織布フィルム積層体を提供することである。」
「【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の吸収性物品が、トップシート、外側カバー、及びそれらの間に配置される吸収性コアを含んでもよい。外側カバーが、押出接着された積層体を含んでもよい。EBLが、エラストマーフィルムを共押出した多層及び不織布を含んでもよい。フィルムが、コア層、第1の外層、及び第2の外層を含んでもよく、コア層が、第1と第2の外層の間にある。不織布が、繊維及び/又は長繊維を含んでもよい。第1の外層が、押出被覆を介して不織布に非接着接合されてもよい。」
「【0064】
エラストマーフィルムに使用されてもよい別の有用な群のエラストマーポリマーは、オレフィン系エラストマーである。一実施形態において、エラストマーフィルムが、ポリオレフィン系エラストマー(POE)を含む。POEの例には、ポリエチレンのエラストマーコポリマーであり、Midland,MichiganのThe Dow Chemical Companyによって、商標名INFUSE(商標)下で販売されている、オレフィンブロックコポリマー(OBC)が挙げられる。POEの他の例には、Houston,TexasのExxonMobil Chemical Companyによって商標名VISTAMAXX(登録商標)及び/又はDow Chemical,Midland,MIによって、商標名VERSIFY下で販売されている、ポリプロピレン及びポリエチレンのコポリマーが挙げられる。
・・・・
【0067】
別の実施形態において、本発明のエラストマーフィルムが、多層を含んでもよい。更に、エラストマーフィルムが、ABA型構造を有する共押出多層フィルムを含んでもよい。2つのA層は、同一の組成物を含み、フィルムの外層を形成し得、それらはまた、「表面薄層」、「表面層」又は「タイ層」と称してもよい。本発明において、表面薄層は、タイ層に組成的に同質であってもよい。「コア層」又は「中心層」を形成するB層は、A層に組成的に同質であってもよく、又はB層は、A層以外の組成物を含んでもよい。多層エラストマーフィルムのそれぞれの層は、エラストマーポリマーを含んでもよく、又は層は、それぞれの層において、エラストマーあるいは熱可塑性の非エラストマーポリマー、単独あるいは組み合わせを含んでもよい。」
「【0094】
ドローダウン(draw down)ポリマーの多くの例がある。例えば、線状低密度ポリエチレン(例えば、Midland,MIのDow Chemical Corp.によって供給されるELITE(商標)5800)をフィルム組成物の一層に添加して、ポリマー溶解の粘度を低下させ、押出フィルムの加工性を強化することができる。・・・・」
「【0100】
本発明の吸収性物品に有用な積層体が、少なくとも約50%、約70%、約100%、及び約130%の工学的歪に対して弾性的であってもよい。」
「【0123】
本発明の実施例 押出接着された積層体の例は、表1、2、3(1つの不織布を有する二重積層体)及び表4(2つの不織布を有する三重積層体)に記載され、それぞれの例のフィルム構造(単層又は多層)、フィルム構成要素、フィルム坪量及び不織布の詳細を提供する。表4の例は、図1と関連して読み取ることができ、第1の不織布(NW1)、タイ層(A1)、コア層(B)、及び表面薄層若しくは第2のタイ層(A2)を含むフィルム、並びに第2の不織布(NW2)を例示する。全ての例(実施例5及び12を除く)のフィルムコアの組成物は、92% VISTAMAXX 6102(ExxonMobil,Houston Texasより入手可能)、1% Ampacet 10562(加工助剤)及び7% Ampacet 110361(70% TiO2を有する白色マスターバッチ)の重量%ブレンドである。・・・・実施例7及び14は、コアフィルム及び表面薄層(BA2)を備え、タイ層(A1なし)を有さない押出接着された積層体であり、表面薄層(A2)は、82% Elite 5800(ドローダウン(draw down)ポリマー)(Midland,MichiganのThe Dow Chemical Companyより入手可能)、9% Fina 3868(Houston,TexasのTotal Petrochemicalsより入手可能)、1% Luvofilm 9679(Lehmann & Voss & Company,Hamburg,Germanyより入手可能)及び8% PE 20 S(Polytechs SAS,Cany Barville,Franceより入手可能な粘着防止剤)の重量%ブレンドである。・・・・
【0124】
表1、2及び3の実施例1、2、3、4、8、9、10、11、20、及び22は、図7と関連して読み取ることができ、第1の不織布(NW1)、タイ層(A1)、コア層(B)、及びタイ層(A2)を含むフィルムを例示し、A1及びA2は、第1の押出成形機から押出され、Bは、A1、A2、及びB層がともに接合されるように、第2の押出成形機から同時に共押出される。そして、NW1は、同時に解巻され、A1層に接合される。これらの実施例において、A2は、表面薄層として機能する。これらは、タイ層(A1)及び表面薄層(A2)を含む多層フィルム(A1BA2)を備えるEBLの例であり、A1の組成物は、組成的にA2と同質である。実施例1、2、3、4、8、9、10、11、15、16、17及び18において使用されるタイ層は、Infuse 9107、Ampacet 10562及びElite 5800(ドローダウン(draw down)ポリマー)の重量%ブレンドであり、2成分(PP/PE、コア/シース)不織布へのフィルムの接着を改善するために選択され、層間剥離の発生を低減する。・・・・」
「【0125】
・・・・

1.NW1=18gsm(70/30コア/シース、PP/PE)2成分要素スパンボンド、Fiberweb(Washougal,Washington)で製造。
NW1=4=18gsm PP/PE コア/シース 2成分要素スパンボンド、Fiberweb(Peine,Germany)より#07−HH18−01
2.重量%において、VMブレンド=Vistamaxx 6102(92%)、Ampacet 10562(1%)、Ampacet 110361(7%)
重量%において、Infuseブレンド=Infuse 9107(92%)、Ampacet 10562(1%)、Ampacet 110361(7%)
3.制御された圧縮(CC)におけるニップ間隙は、2つの組み合わせたロール間の間隙であり、開口部において押圧した材料のおよその厚さ約0.012cm(約0.005”)である。」
「【図7】


イ 甲1の主に実施例4の記載と図7から、以下の「引用発明」が記載されていると認められる。
「坪量3gsmのElite5800を99%含む層、坪量19gsmのVistamaxx6102を92%含む層、坪量3gsmのElite5800を99%含む層の順に積層した、多層フィルム。」

(2)本件発明1について
ア 本件発明1を引用発明と対比する。
引用発明の「Elite5800を99%含む層」の「Elite5800」は、甲1の段落【0094】の「線状低密度ポリエチレン(例えば、Midland,MIのDow Chemical Corp.によって供給されるELITE(商標)5800)をフィルム組成物の一層に添加して、ポリマー溶解の粘度を低下させ、押出フィルムの加工性を強化することができる。」との記載から、「オレフィン系樹脂」である。そして、「ELITETM5800G」は、甲6の記載によれば、密度が「0.911g/cm3」であり、この密度のポリエチレンは、甲3の記載によれば低密度ポリエチレンに該当し、エラストマーではなく、プラスチックス(塑性変形体)であるから、引用発明の「Elite5800を99%含む層」は、本件発明1の「オレフィン系樹脂層が非エラストマー性オレフィン系樹脂を含み、該非エラストマー性オレフィン系樹脂が、高密度ポリエチレンまたはホモポリプロピレンを含」むことと、「オレフィン系樹脂層」が「非エラストマー性オレフィン系樹脂」を含むという限りで一致する。
また、引用発明の「Vistamaxx6102を92%含む層」の「Vistamaxx6102」は、甲1(【0066】)及び甲7の記載によれば、プロピレンを主に含むエラストマーであり、引用発明の「Vistamaxx6102を92%含む層」は、本件発明1の「プロピレン系エラストマーを90重量%〜100重量%含」む「エラストマー層」に相当する。
さらに、引用発明の「多層フィルム」は、プロピレンを主に含むエラストマーの「Vistamaxx6102を92%含む層」を備え、その両側に、オレフィン系樹脂層の「Elite5800を99%含む層」が設けられるものであり、この「多層フィルム」を含む積層体が「少なくとも約50%、約70%、約100%、及び約130%の工学的歪」に対して弾性的である(甲1【0100】)とされるから、引用発明の「多層フィルム」は、本件発明1の「エラストマー層の両側にオレフィン系樹脂層を有」する「伸縮性積層体」に相当するものといえる。
イ そうすると、本件発明1を引用発明とは、
「エラストマー層の両側にオレフィン系樹脂層を有し、該エラストマー層がプロピレン系エラストマーを90重量%〜100重量%含み、該オレフィン系樹脂層が非エラストマー性オレフィン系樹脂を含む、伸縮性積層体」で一致し、以下の相違点で相違する。
《相違点》
「オレフィン系樹脂層」が「非エラストマー性オレフィン系樹脂」を含むことに関して、本件発明1が「高密度ポリエチレンまたはホモポリプロピレンを含」むものであるのに対し、引用発明は低密度ポリエチレンを含むものであり、本件発明1の「伸縮性積層体」が、「伸縮性積層体を100%伸長した状態でガラス板の上に貼付け固定し、該伸縮性積層体表面にベビーオイル(ピジョン製、ベビーオイル、主成分:トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル)を0.5mL滴下してから60分後において、該伸縮性積層体に穴が形成しない」のに対し、引用発明の「多層フィルム」は、そのようなものか不明である点。
ウ 上記相違点について検討する。
本件発明1の「高密度ポリエチレンまたはホモポリプロピレン」と、引用発明の「低密度ポリエチレン」とは、樹脂層を構成する材料が相違し、相違点は実質的なものである。
よって、本件発明1は引用発明ではない。
エ さらに、本件発明1の進歩性について検討する。
本件発明1の「非エラストマー性オレフィン系樹脂」が、この「高密度ポリエチレンまたはホモポリプロピレン」を含むものとすることについて、本件特許明細書には、
「【0059】
オレフィン系樹脂層中の非エラストマー性オレフィン系樹脂の含有割合は、本発明の効果がより発現する点で、好ましくは50重量%〜100重量%であり、より好ましくは70重量%〜100重量%であり、さらに好ましくは80重量%〜100重量%であり、特に好ましくは90重量%〜100重量%であり、最も好ましくは95重量%〜100重量%である。オレフィン系樹脂層中の非エラストマー性オレフィン系樹脂の含有割合を上記範囲内に調整することにより、本発明の伸縮性積層体は、耐オイル性により一層優れ得るとともに、耐ブロッキング性により一層優れ得る。
【0060】
非エラストマー性オレフィン系樹脂としては、例えば、α−オレフィンのホモポリマー、2種類以上のα−オレフィンの共重合体、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、1種または2種以上のα−オレフィンと他のビニルモノマーの共重合体などが挙げられる。共重合体における共重合の形態としては、例えば、ブロック形態やランダム形態が挙げられる。
・・・・
【0062】
α−オレフィンのホモポリマーとしては、例えば、ポリエチレン(PE)、ホモポリプロピレン(PP)、ポリ(1−ブテン)、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)などが挙げられる。
【0063】
ポリエチレン(PE)としては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)などが挙げられる。
【0064】
ホモポリプロピレン(PP)の構造は、アイソタクチック、アタクチック、シンジオタクチックのいずれであってもよい。」と記載され、
この「耐オイル性」の評価については、
「【0093】
<滴下耐オイル性の評価>
実施例および比較例にて得られた伸縮性積層体または積層体を長手方向に50mm、幅方向に10mmで切断し、長手方向に100%伸長した状態で、ガラス板の上に貼付け固定した。伸長された伸縮性積層体または積層体の表面にベビーオイル(ピジョン製、ベビーオイルQ、主成分:トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル)を0.5mL滴下し、下記の基準で評価した。
×:60分後に伸縮性積層体または積層体に、ベビーオイルによって溶解することによる穴や亀裂が発生して破断している。
△:60分後に伸縮性積層体または積層体に、ベビーオイルによって溶解することによる穴や亀裂ができているが破断まで至っていない。
○:60分後に伸縮性積層体または積層体に、ベビーオイルによって溶解することによる穴や亀裂が形成していない。
なお、本発明において、滴下耐オイル性の試験に使用される「ベビーオイル」としては、上記「ベビーオイルQ」以外にも、ピジョン株式会社から販売されている「ベビーオイルP」等のトリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルを主成分とする「ベビーオイル」を使用することができる。」と記載されている。
ここで、ベビーオイルがオレフィン系樹脂層およびエラストマー層を構成する樹脂を溶解するか否かは、溶質となる対象樹脂を分子レベルに分解し、ベビーオイル中に分散させることができるか否かにより決まるから、本件発明1の「60分後」という十分長い時間では、「10〜500μm」(本件特許明細書の段落【0036】)の厚さの樹脂が溶解して穴が形成されるか否かは、ベビーオイルの主成分の含有割合や香料等の他の成分が決定的な要因にはならないものと理解される。
そうすると、本件発明1は、非エラストマー性オレフィン系樹脂を、「高密度ポリエチレンまたはホモポリプロピレンを含」むことで、この非エラストマー性オレフィン系樹脂を用いた伸縮性積層体を、ベビーオイルに対して60分後でも穴が形成されないという「耐オイル性」を有するものとすることができるものといえる。
一方、引用発明においては、エラストマー層としての「Vistamaxx6102を92%含む層」の両側に設けたオレフィン系の樹脂層は、低密度ポリエチレンを主成分とする「Elite5800を99%含む層」であり、この低密度ポリエチレンを主成分とする「Elite5800を99%含む層」のみを、「高密度ポリエチレンまたはホモポリプロピレンを含」むものに換える動機付けはない。
また、他に、耐オイル性の向上のために、エラストマー層の両側に、「高密度ポリエチレンまたはホモポリプロピレンを含」む層を配置することを示唆する証拠は提出されていない。
よって、上記相違点に係る本件発明1の構成は、引用発明に基づき、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
オ 申立人は、令和3年7月27日の意見書(2〜6頁)で、甲1の実施例7に基づき、甲1には、「坪量25gsmのVistamaxx6102を92%含む層と、坪量4gsmのElite5800を82%とFina3868を9%含む層とを押出積層した、多層フィルム」の発明も記載されており、この発明に基づき、本件発明1は当業者が容易に発明をすることができた旨主張する。
しかし、申立人がいう甲1の実施例7の上記発明は、コアフィルムと表面薄層の2層であり、本件発明1のように、エラストマー層と、その両側のオレフィン系樹脂層からなる積層体ではない。また、Fina3868がホモポリプロピレンを含むとしても層中に9%であり、Vistamaxx6102を92%含む層の両側に設けたとしても、本件発明1と同様に、「ベビーオイル(ピジョン製、ベビーオイル、主成分:トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル)を0.5mL滴下してから60分後において、該伸縮性積層体に穴が形成しない」ものとなるとは、必ずしもいえない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
カ 以上より、本件発明1は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明2〜5、9〜14について
本件発明2〜5、9〜14は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるところ、本件発明1は、上記(2)で述べたように、引用発明ではなく、また、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2〜5、9、10、13及び14は、引用発明ではなく、また、本件発明2〜5、9〜14は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 サポート要件に係る理由について
本件発明の解決しようとする課題は、「耐オイル性に優れるとともに、耐ブロッキング性に優れる、伸縮性積層体を提供すること」(本件特許明細書の段落【0007】)にあるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、上記課題は、エラストマー層の両方の側にオレフィン系樹脂層を有すること(【0032】)、オレフィン系樹脂層中の非エラストマー性オレフィン系樹脂として、α−オレフィンのホモポリマー等、例えば、ホモポリプロピレン、高密度ポリエチレンを用いること(【0059】〜【0064】)により解決できるとされる。
そして、実施例1〜10、12及び13において、オレフィン系樹脂層中の非エラストマー性オレフィン系樹脂として、高密度ポリエチレン又はホモポリプロピレンを用いることで、上記課題を解決できることを確認している。
そうすると、本件発明は、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものとはいえない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1〜5、9〜16に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜5、9〜16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマー層の両側にオレフィン系樹脂層を有する伸縮性積層体であって、
該エラストマー層がプロピレン系エラストマーを90重量%〜100重量%含み、
該オレフィン系樹脂層が非エラストマー性オレフィン系樹脂を含み、
該非エラストマー性オレフィン系樹脂が、高密度ポリエチレンまたはホモポリプロピレンを含み、
該伸縮性積層体を100%伸長した状態でガラス板の上に貼付け固定し、該伸縮性積層体表面にベビーオイル(ピジョン製、ベビーオイル、主成分:トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル)を0.5mL滴下してから60分後において、該伸縮性積層体に穴が形成しない、
伸縮性積層体。
【請求項2】
前記オレフィン系樹脂層が前記エラストマー層の少なくとも一方の側に直接に積層されている、請求項1に記載の伸縮性積層体。
【請求項3】
厚みが10μm〜500μmである、請求項1に記載の伸縮性積層体。
【請求項4】
前記オレフィン系樹脂層中の前記非エラストマー性オレフィン系樹脂の含有割合が50重量%〜100重量%である、請求項1から3のいずれかに記載の伸縮性積層体。
【請求項5】
前記オレフィン系樹脂層中の前記非エラストマー性オレフィン系樹脂の含有割合が95重量%〜100重量%である、請求項4に記載の伸縮性積層体。
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】
前記オレフィン系樹脂層の厚みが2μm〜50μmである、請求項1に記載の伸縮性積層体。
【請求項10】
前記オレフィン系樹脂層の厚みが2μm〜8μmである、請求項1に記載の伸縮性積層体。
【請求項11】
前記エラストマー層中の前記プロピレン系エラストマーの含有割合が95重量%〜100重量%である、請求項1から5および9から10のいずれかに記載の伸縮性積層体。
【請求項12】
前記プロピレン系エラストマーが、メタロセン触媒を用いて製造されたものである、請求項1から5および9から11のいずれかに記載の伸縮性積層体。
【請求項13】
前記エラストマー層の厚みが8μm〜450μmである、請求項1に記載の伸縮性積層体。
【請求項14】
前記エラストマー層の厚みが8μm〜67μmである、請求項1に記載の伸縮性積層体。
【請求項15】
衛生用品に用いられる、請求項1に記載の伸縮性積層体。
【請求項16】
請求項1に記載の伸縮性積層体を含む物品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-01-19 
出願番号 P2016-563730
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (B32B)
P 1 652・ 537- YAA (B32B)
P 1 652・ 113- YAA (B32B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 石井 孝明
特許庁審判官 井上 茂夫
藤原 直欣
登録日 2020-06-04 
登録番号 6712953
権利者 日東電工株式会社
発明の名称 伸縮性積層体およびそれを含む物品  
代理人 籾井 孝文  
代理人 籾井 孝文  

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