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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
管理番号 1383256
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-11-04 
確定日 2021-12-23 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6742104号発明「セル間接続部材の製造方法、および固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6742104号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜8〕、〔9〜10〕について訂正することを認める。 特許第6742104号の請求項1〜2、4〜5、7〜10に係る特許を維持する。 特許第6742104号の請求項3、6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6742104号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜10に係る特許についての出願は、平成28年 2月 5日を出願日として特許出願され、令和 2年 7月30日にその特許権の設定登録がされ、同年 8月19日に特許掲載公報が発行されたものであり、本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 2年11月 4日差出 : 特許異議申立人馬場資博(以下、「申立 人」という。)による請求項1〜10に 係る特許に対する特許異議の申立て
令和 3年 5月12日付 : 取消理由通知
令和 3年 7月19日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の 提出
令和 3年 9月 9日差出 : 申立人による意見書の提出

第2 令和 3年 7月19日提出の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)について
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである(なお、下線は、当審が訂正箇所に付したものである。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「固体酸化物形燃料電池用セルに用いられるセル間接続部材の製造方法であって、安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いて導電性セラミックス材料を粉砕し、微粉末を作成する粉砕ステップと、前記微粉末を含有するスラリーを用いて前記セル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップと、塗膜を湿式成膜した前記基材に熱処理を施し、前記微粉末を焼結させて基材の表面に保護膜を形成する焼結ステップとを有する、セル間接続部材の製造方法。」とあるのを、「固体酸化物形燃料電池用セルに用いられるセル間接続部材の製造方法であって、安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いて導電性セラミックス材料を粉砕し、微粉末を作成する粉砕ステップと、前記微粉末を含有するスラリーを用いて前記セル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップと、塗膜を湿式成膜した前記基材に875℃以上の温度で熱処理を施し、前記微粉末を焼結させて基材の表面に保護膜を形成する焼結ステップとを有し、前記導電性セラミックス材料が、コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1-x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する、セル間接続部材の製造方法。」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1〜4のいずれか1項に記載のセル間接続部材の製造方法。」とあるのを、「請求項1、2、4のいずれか1項に記載のセル間接続部材の製造方法。」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1〜6のいずれか1項に記載のセル間接続部材の製造方法。」とあるのを、「請求項1、2、4、5のいずれか1項に記載のセル間接続部材の製造方法。」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1〜6のいずれか1項に記載のセル間接続部材の製造方法。」とあるのを、「請求項1、2、4、5のいずれか1項に記載のセル間接続部材の製造方法。」に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9に「固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法であって、安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いて導電性セラミックス材料を粉砕し、微粉末を作成する粉砕ステップと、前記微粉末を含有するスラリーを用いてセル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップと、固体酸化物形燃料電池用セルの単セルと塗膜を湿式成膜した前記基材とを接合してセルスタックを形成する接合ステップと、前記セルスタックに熱処理を施し、前記微粉末を焼結させて基材の表面に保護膜を形成する焼結ステップとを有する、固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法。」とあるのを、「固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法であって、安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いて導電性セラミックス材料を粉砕し、微粉末を作成する粉砕ステップと、前記微粉末を含有するスラリーを用いてセル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップと、固体酸化物形燃料電池用セルの単セルと塗膜を湿式成膜した前記基材とを接合してセルスタックを形成する接合ステップと、前記セルスタックに875℃以上の温度で熱処理を施し、前記微粉末を焼結させて基材の表面に保護膜を形成する焼結ステップとを有し、前記導電性セラミックス材料が、コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1-x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する、固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法。」に訂正する。

(8)訂正事項8
明細書の段落【0011】に「上記目的を達成するための、固体酸化物形燃料電池用セルに用いられるセル間接続部材の製造方法の特徴構成は、安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いて導電性セラミックス材料を粉砕し、微粉末を作成する粉砕ステップと、前記微粉末を含有するスラリーを用いて前記セル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップと、塗膜を湿式成膜した前記基材に熱処理を施し、前記微粉末を焼結させて基材の表面に保護膜を形成する焼結ステップとを有する点にある。」とあるのを、「上記目的を達成するための、固体酸化物形燃料電池用セルに用いられるセル間接続部材の製造方法の特徴構成は、安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いて導電性セラミックス材料を粉砕し、微粉末を作成する粉砕ステップと、前記微粉末を含有するスラリーを用いて前記セル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップと、塗膜を湿式成膜した前記基材に875℃以上の温度で熱処理を施し、前記微粉末を焼結させて基材の表面に保護膜を形成する焼結ステップとを有し、前記導電性セラミックス材料が、コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1-x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する点にある。」に訂正する。

(9)訂正事項9
明細書の段落【0014】に「安定化ジルコニアの使用により焼結温度が低くても焼結性の高い保護膜が得られる理由は明らかではないが、従来より用いられているアルミナ(Al2O3)を粉砕メディアに用いた場合に比べ、安定化ジルコニアを粉砕メディアに用いた場合は、微粉末に残留する粉砕メディア由来成分が大幅に少ないことが確認された。アルミナに比べ、安定化ジルコニアの方が削れにくく、微粉末への残留が少なくなったと考えられる。そしてアルミナは難焼結性の材料であり、微粉末に残留したアルミナが保護膜の焼結を阻害していた可能性がある。粉砕メディアとして安定化ジルコニアを用いることで、粉砕メディア由来成分の微粉末への混入が抑制され、焼結性が高まったと考えられる。」とあるのを、「安定化ジルコニアの使用により焼結温度が低くても焼結性の高い保護膜が得られる理由は明らかではないが、従来より用いられているアルミナ(Al2O3)を粉砕メディアに用いた場合に比べ、安定化ジルコニアを粉砕メディアに用いた場合は、微粉末に残留する粉砕メディア由来成分が大幅に少ないことが確認された。アルミナに比べ、安定化ジルコニアの方が削れにくく、微粉末への残留が少なくなったと考えられる。そしてアルミナは難焼結性の材料であり、微粉末に残留したアルミナが保護膜の焼結を阻害していた可能性がある。粉砕メディアとして安定化ジルコニアを用いることで、粉砕メディア由来成分の微粉末への混入が抑制され、焼結性が高まったと考えられる。なお、安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いることで、焼結ステップにおける熱処理の温度を875℃まで下げられることが実験で確認されている。」に訂正する。

(10)訂正事項10
明細書の段落【0017】、段落【0020】及び段落【0021】を削除する。

(11)訂正事項11
明細書の段落【0024】に「上記目的を達成するための、固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法の特徴構成は、安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いて導電性セラミックス材料を粉砕し、微粉末を作成する粉砕ステップと、前記微粉末を含有するスラリーを用いてセル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップと、固体酸化物形燃料電池用セルの単セルと塗膜を湿式成膜した前記基材とを接合してセルスタックを形成する接合ステップと、前記セルスタックに熱処理を施し、前記微粉末を焼結させて基材の表面に保護膜を形成する焼結ステップとを有する点にある。」とあるのを、「上記目的を達成するための、固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法の特徴構成は、安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いて導電性セラミックス材料を粉砕し、微粉末を作成する粉砕ステップと、前記微粉末を含有するスラリーを用いてセル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップと、固体酸化物形燃料電池用セルの単セルと塗膜を湿式成膜した前記基材とを接合してセルスタックを形成する接合ステップと、前記セルスタックに875℃以上の温度で熱処理を施し、前記微粉末を焼結させて基材の表面に保護膜を形成する焼結ステップとを有し、前記導電性セラミックス材料が、コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1-x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する点にある。」に訂正する。

(12)訂正事項12
明細書の段落【0025】に「上記の特徴構成によれば、安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いて導電性セラミックス材料を粉砕し、微粉末を作成する粉砕ステップと、微粉末を含有するスラリーを用いてセル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップと、固体酸化物形燃料電池用セルの単セルと塗膜を湿式成膜した基材とを接合してセルスタックを形成する接合ステップと、セルスタックに熱処理を施し、微粉末を焼結させて基材の表面に保護膜を形成する焼結ステップとを有することで、従来よりも低温で保護膜を焼結することが可能となる。これにより、保護膜焼結の際に基材に与える熱的ダメージを低減できる。そして単セルと基材とを接合してセルスタックを形成した状態で熱処理を行い、保護膜を焼結するので、熱処理のプロセスを少なくして固体酸化物形燃料電池用セルの製造コストを低減することができる。」とあるのを、「上記の特徴構成によれば、安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いて導電性セラミックス材料を粉砕し、微粉末を作成する粉砕ステップと、微粉末を含有するスラリーを用いてセル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップと、固体酸化物形燃料電池用セルの単セルと塗膜を湿式成膜した基材とを接合してセルスタックを形成する接合ステップと、セルスタックに熱処理を施し、微粉末を焼結させて基材の表面に保護膜を形成する焼結ステップとを有することで、従来よりも低温で保護膜を焼結することが可能となる。これにより、保護膜焼結の際に基材に与える熱的ダメージを低減できる。そして単セルと基材とを接合してセルスタックを形成した状態で熱処理を行い、保護膜を焼結するので、熱処理のプロセスを少なくして固体酸化物形燃料電池用セルの製造コストを低減することができる。なお、安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いることで、焼結ステップにおける熱処理の温度を875℃まで下げられることが実験で確認されている。」に訂正する。

(13)訂正事項13
明細書の段落【0039】に「湿式成膜による塗膜の形成方法としては、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、スプレーコート法、インクジェット法、スピンコート法、ディップコート、電気めっき法、無電解めっき法、電着塗装法が例示できる。」とあるのを、「湿式成膜による塗膜の形成方法としては、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、スプレーコート法、インクジェット法、スピンコート法、ディップコート、電着塗装法が例示できる。」に訂正する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、訂正前の請求項1において規定されていなかった焼結ステップにおける熱処理温度の範囲を、「875℃以上」に減縮するものであり、さらに、訂正前の請求項1において規定されていなかった導電性セラミック材料の具体的な材料条件について、「導電性セラミックス材料が、コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1-x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する」ものに減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の有無
本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書」という。)の【請求項6】に「前記焼結ステップにおける前記熱処理が、875℃以上の温度で行われる請求項1〜5のいずれか1項に記載のセル間接続部材の製造方法。」と記載されており、段落【0020】に「前記焼結ステップにおける前記熱処理が、875℃以上の温度で行われる点にある。」と記載されており、さらに、【請求項3】に「前記導電性セラミックス材料が、コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1-x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する請求項1または2に記載のセル間接続部材の製造方法。」と記載されており、段落【0017】に「前記導電性セラミックス材料が、コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1-x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する場合に好適に適用可能である。」と記載されていることから、訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、発明特定事項である焼結ステップにおける熱処理の条件、及び導電性セラミック材料の具体的な材料条件を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(2)訂正事項2
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2は特許請求の範囲の請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の有無
訂正事項2は請求項の削除であり、新規事項を追加するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、請求項の削除であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項3
ア 訂正の目的の適否
訂正事項3は、訂正事項2により請求項3を削除することに伴い、引用する請求項から請求項3を削除するものであるから、削除された請求項を引用するという明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえ、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の有無
引用する請求項から一部の請求項を削除することは、新規事項を追加するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
引用する請求項から一部の請求項を削除することは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。

(4)訂正事項4
ア 訂正の目的の適否
訂正事項4は特許請求の範囲の請求項6を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の有無
訂正事項4は請求項の削除であり、新規事項を追加するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項4は、請求項の削除であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。

(5)訂正事項5、6
ア 訂正の目的の適否
訂正事項5、6は、訂正事項2、4により請求項3、6を削除することに伴い、引用する請求項から請求項3、6を削除するものであるから、削除された請求項を引用するという明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえ、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の有無
引用する請求項から一部の請求項を削除することは、新規事項を追加するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
引用する請求項から一部の請求項を削除することは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。

(6)訂正事項7
ア 訂正の目的の適否
訂正事項7に係る請求項9についての訂正は、訂正前の請求項9において規定されていなかった焼結ステップにおける熱処理温度の範囲を、「875℃以上」に減縮するものであり、さらに、訂正前の請求項9において規定されていなかった導電性セラミック材料の具体的な材料条件について、「導電性セラミックス材料が、コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1-x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する」ものに減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の有無
本件明細書の【請求項6】に「前記焼結ステップにおける前記熱処理が、875℃以上の温度で行われる請求項1〜5のいずれか1項に記載のセル間接続部材の製造方法。」と記載されており、段落【0020】に「前記焼結ステップにおける前記熱処理が、875℃以上の温度で行われる点にある。」と記載されており、さらに、【請求項3】に「前記導電性セラミックス材料が、コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1-x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する請求項1または2に記載のセル間接続部材の製造方法。」と記載されており、段落【0017】に「前記導電性セラミックス材料が、コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1-x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する場合に好適に適用可能である。」と記載されていることから、訂正事項7に係る請求項9についての訂正は、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項7に係る請求項9についての訂正は、発明特定事項である焼結ステップにおける熱処理の条件、及び導電性セラミック材料の具体的な材料条件を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(7)訂正事項8
ア 訂正の目的の適否
訂正事項8に係る明細書の段落【0011】についての訂正は、訂正事項1で訂正された請求項1の記載との対応関係を明瞭にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の有無
本件明細書の【請求項6】に「前記焼結ステップにおける前記熱処理が、875℃以上の温度で行われる請求項1〜5のいずれか1項に記載のセル間接続部材の製造方法。」と記載されており、段落【0020】に「前記焼結ステップにおける前記熱処理が、875℃以上の温度で行われる点にある。」と記載されており、さらに、【請求項3】に「前記導電性セラミックス材料が、コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1-x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する請求項1または2に記載のセル間接続部材の製造方法。」と記載されており、段落【0017】に「前記導電性セラミックス材料が、コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1-x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する場合に好適に適用可能である。」と記載されていることから、訂正事項8に係る明細書の段落【0011】についての訂正は、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項8に係る明細書の段落【0011】についての訂正は、訂正事項1で訂正された請求項1の記載との対応関係を明瞭にするものにすぎないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(8)訂正事項9
ア 訂正の目的の適否
訂正事項9に係る明細書の段落【0014】についての訂正は、訂正事項1〜6で訂正された特許請求の範囲の記載との対応関係を明瞭にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の有無
本件明細書の段落【0057】には、安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いた場合、焼結ステップにおける熱処理温度を875℃まで下げても、テープ剥離試験において保護膜12の欠片が付着しないことが実験例1として示されているから、訂正事項9に係る明細書の段落【0014】についての訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項9に係る明細書の段落【0014】についての訂正は、訂正事項1〜6で訂正された特許請求の範囲の記載との対応関係を明瞭にするものにすぎないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(9)訂正事項10
ア 訂正の目的の適否
訂正事項10における明細書の段落【0017】、段落【0020】及び段落【0021】を削除する訂正は、訂正事項1〜6で訂正された特許請求の範囲の記載との対応関係を明瞭にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の有無
明細書の記載の一部を削除することは、新規事項を追加するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項10における明細書の段落【0017】、段落【0020】及び段落【0021】を削除する訂正は、訂正事項1〜6で訂正された特許請求の範囲の記載との対応関係を明瞭にするものにすぎないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(10)訂正事項11
ア 訂正の目的の適否
訂正事項11に係る明細書の段落【0024】についての訂正は、訂正事項7で訂正された請求項9の記載との対応関係を明瞭にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の有無
本件明細書の【請求項6】に「前記焼結ステップにおける前記熱処理が、875℃以上の温度で行われる請求項1〜5のいずれか1項に記載のセル間接続部材の製造方法。」と記載されており、段落【0020】に「前記焼結ステップにおける前記熱処理が、875℃以上の温度で行われる点にある。」と記載されており、さらに、【請求項3】に「前記導電性セラミックス材料が、コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1-x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する請求項1または2に記載のセル間接続部材の製造方法。」と記載されており、段落【0017】に「前記導電性セラミックス材料が、コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1-x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する場合に好適に適用可能である。」と記載されていることから、訂正事項11に係る明細書の段落【0024】についての訂正は、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項11に係る明細書の段落【0024】についての訂正は、訂正事項7で訂正された請求項9の記載との対応関係を明瞭にするものにすぎないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(11)訂正事項12
ア 訂正の目的の適否
訂正事項12に係る明細書の段落【0025】についての訂正は、訂正事項7で訂正された請求項9の記載との対応関係を明瞭にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の有無
本件明細書の段落【0057】には、安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いた場合、焼結ステップにおける熱処理温度を875℃まで下げても、テープ剥離試験において保護膜12の欠片が付着しないことが実験例1として示されているから、訂正事項9に係る明細書の段落【0025】についての訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項12に係る明細書の段落【0025】についての訂正は、訂正事項7で訂正された請求項9の記載との対応関係を明瞭にするものにすぎないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(12)訂正事項13
ア 訂正の目的の適否
訂正事項13に係る段落【0039】の訂正は、令和 3年 5月12日付け取消理由通知における取消理由Bにおいて指摘された、「微粉末を含有するスラリーを用いて」「セル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップ」に、通常は「微粉末を含有するスラリーを用いて」いない湿式成膜方法である「電気めっき法」及び「無電解めっき法」をも含むのか否かが明確でないとの事項に対応するために、「微粉末を含有するスラリーを用いて」「セル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップ」に「電気めっき法」及び「無電解めっき法」が含まれないことを明確にしようとしたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の有無
明細書の記載の一部を削除することは、新規事項を追加するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項13に係る段落【0039】の訂正は、上記アで述べたとおり、明瞭でない記載の釈明を目的としたものにすぎないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(13)一群の請求項について
ア 本件訂正前の請求項1〜8について、訂正前の請求項2〜8はそれぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるので、本件訂正前の請求項1〜8は一群の請求項である。

イ 本件訂正前の請求項9〜10について、訂正前の請求項10は、訂正前の請求項9を引用するものであって、請求項9の訂正に連動して訂正されるものであるので、本件訂正前の請求項9〜10は一群の請求項である。

ウ 上記ア及びイのとおり、本件訂正請求は、上記一群の請求項〔1〜8〕、〔9〜10〕を訂正単位とする訂正を請求するものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

(14)独立特許要件について
特許異議の申立ては、訂正前の請求項1〜10全てに対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

(15)明細書の訂正に関係する請求項
訂正事項8〜10は、訂正前の請求項1に対応する明細書の記載を訂正するものであり、訂正事項11、12は、訂正前の請求項9に対応する明細書の記載を訂正するものであり、訂正事項13は、訂正前の請求項1、9に対応する明細書の記載を訂正するものであるところ、訂正前の請求項2〜8は訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用しており、訂正前の請求項10は訂正前の請求項9を引用している。そのため、訂正事項8〜13と関係する請求項は、訂正前の請求項1〜10であるといえる。
そうすると、本件訂正請求は、訂正事項8〜13と関係する請求項の全てを請求の対象としているのであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。

3 本件訂正請求についての結言
上記のとおり、本件訂正による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第4項乃至第6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の明細書、及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜8〕、〔9〜10〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2で検討したとおり、本件訂正は適法になされたものであるから、本件訂正請求により訂正された請求項1〜10に係る発明(以下、「本件発明1」等といい、総称して「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜10に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。なお、下線は訂正された箇所を表す。

「【請求項1】
固体酸化物形燃料電池用セルに用いられるセル間接続部材の製造方法であって、
安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いて導電性セラミックス材料を粉砕し、微粉末を作成する粉砕ステップと、
前記微粉末を含有するスラリーを用いて前記セル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップと、
塗膜を湿式成膜した前記基材に875℃以上の温度で熱処理を施し、前記微粉末を焼結させて基材の表面に保護膜を形成する焼結ステップとを有し、
前記導電性セラミックス材料が、コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1-x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する、セル間接続部材の製造方法。
【請求項2】
前記安定化ジルコニアが、イットリア安定化ジルコニア、スカンジウム安定化ジルコニアから選ばれる少なくとも一つを含有する請求項1に記載のセル間接続部材の製造方法。
【請求項3】削除
【請求項4】
前記導電性セラミックス材料が、コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)を主成分とする請求項1または2に記載のセル間接続部材の製造方法。
【請求項5】
前記焼結ステップにおける前記熱処理が、950℃以下の温度で行われる請求項1、2、4のいずれか1項に記載のセル間接続部材の製造方法。
【請求項6】削除
【請求項7】
前記焼結ステップにおける前記熱処理が、固体酸化物形燃料電池用セルの単セルと前記基材とを接合しない状態で行われる請求項1、2、4、5のいずれか1項に記載のセル間接続部材の製造方法。
【請求項8】
前記焼結ステップにおける前記熱処理が、固体酸化物形燃料電池用セルの単セルと前記基材とが接合され、セルスタックが形成された状態で、950℃以下の温度で行われる請求項1、2、4、5のいずれか1項に記載のセル間接続部材の製造方法。
【請求項9】
固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法であって、安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いて導電性セラミックス材料を粉砕し、微粉末を作成する粉砕ステップと、
前記微粉末を含有するスラリーを用いてセル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップと、
固体酸化物形燃料電池用セルの単セルと塗膜を湿式成膜した前記基材とを接合してセルスタックを形成する接合ステップと、
前記セルスタックに875℃以上の温度で熱処理を施し、前記微粉末を焼結させて基材の表面に保護膜を形成する焼結ステップとを有し、
前記導電性セラミックス材料が、コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1-x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する、固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法。
【請求項10】
前記焼結ステップにおける前記熱処理が、950℃以下の温度で行われる請求項9に記載の固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法。」

第4 特許異議申立について
1 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として後記する甲第1〜12号証を提出し、以下の申立理由により、本件訂正前の請求項1〜10に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。

(1)申立理由1(進歩性
本件訂正前の請求項1〜7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と甲第2〜8号証の記載事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。

(2)申立理由2(進歩性
本件訂正前の請求項1〜7に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と、甲第4〜12号証の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。

(3)申立理由3(進歩性
本件訂正前の請求項1〜7に係る発明は、甲第3号証に記載された発明と、甲第1〜2、4〜8号証の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。

(4)申立理由4(サポート要件)
本件訂正前の請求項1〜10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

(5)申立理由5(明確性要件)
本件訂正前の請求項1〜10に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

(6) 証拠方法
甲第1号証: Veronica Miguel-Perez外4名、「The effect of doping (Mn ,B)3O4 materials as protective layers in different meta llic interconnects for Solid Oxide Fuel Cells」、Journal of Power Sources、2013年6月7日、243(2013) 、p.419−430
甲第2号証:Lei Chen外3名、「Oxidation Kinetics of Mn1.5Co1.5O4 Coa ted Haynes 230 and Crofer 22 APU for Solid Oxide Fuel Ce ll Interconnects」、Journal of The Electrochemical Socie ty、2010年5月3日、157(6)、p.B931−B9 42
甲第3号証: Jung Pyung Choi外4名、「Development of MnCoO coating w ith new aluminizing process for planar SOFC stacks」、I nternational Journal of Hydrogen Energy、2011年、3 6(2011)、p.4549−4556
甲第4号証:特開平10−79308号公報
甲第5号証:特表2007−516350号公報
甲第6号証:特開平4−349170号公報
甲第7号証:特開昭58−15079号公報
甲第8号証:特開2015−201422号公報
甲第9号証:Zhenguo Yang外4名、「Ce-Modified (Mn,Co)3O4 Spinel Coa tings on Ferritic Stainless Steels for SOFC Interconnect Applications」、Electrochemical andSolid-State Letters、 2008年6月2日、11(8)、p.B140−B143
甲第10号証:特許第5230812号公報
甲第11号証:特開2014−112499号公報
甲第12号証:特許第5460915号公報

2 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1〜10に係る特許に対して、令和 3年 5月12日付けで通知した取消理由通知により、当審が特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)取消理由A−1(サポート要件)(申立理由4に対応)
本件特許明細書全体の記載から、発明の課題を解決し得る態様として確認できるのは、焼結ステップの熱処理を875℃以上で行う場合のみであるが、請求項1〜5、7〜10に係る発明は、上記課題を解決し得るとはいえない焼結ステップの熱処理を850℃で行う態様を含むものである。
したがって、請求項1〜5、7〜10に係る発明は、本件特許明細書に開示された発明の範囲を超えている。
よって、本件訂正前の請求項1〜5、7〜10に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

(2)取消理由A−2(サポート要件)(職権で通知)
本件特許明細書において、発明の課題を解決できるように記載された範囲は、「導電性セラミックス材料」がMnCo2O4としたものであるのに対し、請求項1〜10に係る発明は、MnCo2O4以外の「導電性セラミックス材料」をも包含することから、上記課題を解決し得るとはいえない「導電性セラミックス材料」の態様を含むものである。
したがって、請求項1〜10に係る発明は、本件特許明細書に開示された発明の範囲を超えている。
よって、本件訂正前の請求項1〜10に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

(3)取消理由B(明確性)(申立理由5に対応)
本件訂正前の請求項1、9の「基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップ」に関して、本件明細書の段落【0039】にその具体的手段が例示されているが、段落【0039】に例示された成膜方法のうち、「電気めっき法」及び「無電解めっき法」は、通常、金属酸化物微粉末を混合した混合液(スラリー)を用いない成膜方法であるため、結局、前記「基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップ」が、通常は「微粉末を含有するスラリーを用いて」いない湿式成膜方法である「電気めっき法」及び「無電解めっき法」を含むのか否かが明確でないものとなるから、請求項1、9に係る発明、請求項1を引用する請求項2〜8に係る発明、及び請求項9を引用する請求項10に係る発明は、明確であるとはいえない。
したがって、本件訂正前の請求項1〜10に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

3 当審の判断
当審は、本件訂正請求により訂正された本件発明について、当審による取消理由はいずれも解消し、また、申立人が主張するその余の申立理由によっても、本件特許を取り消すことはできないと判断する。

(1)取消理由A−1(サポート要件)(上記2の(1))について
本件訂正によって、本件発明1、9では「塗膜を湿式成膜した前記基材に熱処理を施し、前記微粉末を焼結させて基材の表面に保護膜を形成する焼結ステップ」における熱処理温度が「875℃以上」に特定された。
そのため、本件発明は、熱処理温度を「875℃」より低い「850℃」で行う態様が含まれないことになったから、発明の課題を解決できるといえる。
したがって、上記取消理由A−1は、解消された。

(2)取消理由A−2(サポート要件)(上記2の(2))について
ア 本件訂正によって、本件発明1、9では「導電セラミックス材料」の種類が、「前記導電性セラミックス材料が、コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1-x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する」に特定された。

イ その上で、特許権者は、令和 3年 7月19日提出の意見書で、MnCo2O4と類似の性質を有する導電性セラミックス材料(コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1-x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物)を用いた場合には、MnCo2O4を用いた場合と同様に、粉砕メディアとしてアルミナを使用した場合と比較して、粉砕された導電性セラミック材料に残留する粉砕メディア成分の濃度が低下する傾向を示すことを認識できるから、本件発明1、2、4、5、7〜10における導電性セラミックス材料の場合でも、MnCo2O4を用いた場合と同様に、焼結性の高い保護膜を形成できるという課題を解決できるものである旨主張している。

ウ ここで、一般に、粉砕メディアを用いて粉砕を行う場合、(ア)粉砕された材料に残留する粉砕メディア成分の濃度を決定づける粉砕メディアの摩耗率はメディアの材料によって決まること、及び(イ)粉砕メディアとして安定化ジルコニアを用いたものの摩耗率は、アルミナを用いたものの摩耗率と比較して、小さくなることが、広く知られている。

エ また、上記「コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)」、「亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)」、及び「亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1-x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)」は、「MnCo2O4」の結晶格子に配置される元素を調整したり、「MnCo2O4」の一部の元素をZnやCoで置き換えたものであるから、結晶構造等は類似している。そうすると、上記「コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)」、「亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)」、及び「亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1-x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)」が、「MnCo2O4」と、予測困難な程度まで大きく物性等の性質が異なるものであるとは考えにくい。

オ そのため、上記ウ及びエを考慮すると、「導電セラミックス材料」が「コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)」、「亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)」、及び「亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1-x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)」であっても、「MnCo2O4」と同様に、粉砕メディアとしてアルミナを使用した場合と比較して、粉砕された導電性セラミック材料に残留する粉砕メディア成分の濃度が低下する傾向を示し、焼結温度が低く(焼結性が高く)なり得ることは認識できるといえる。

カ したがって、本件発明1、2、4、5、7〜10では、「導電セラミックス材料」の種類を「前記導電性セラミックス材料が、コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1-x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する」と特定することにより、発明の課題を解決できるといえる。

キ また、申立人は、令和 3年 9月 9日差出の意見書において、「導電性セラミックス材料の焼結性は、材料組成に応じて異なり得ることは、当業者の技術常識である。例えば、導電性セラミックス材料としてのMnCo2O4の焼結性は、MnCo2O4以外のコバルトマンガン系酸化物の焼結性と異なり得るし、亜鉛コバルトマンガン系酸化物や亜鉛コバルト系酸化物の焼結性とも異なり得る。
そのため、導電性セラミックス材料がMnCo2O4である場合に一定程度以上の高い焼結性を有するからといって、
・導電性セラミックス材料が、MnCo2O4以外のコバルトマンガン系酸化物である場合や、
・導電性セラミックス材料が、コバルトマンガン系酸化物ではなく、亜鉛コバルトマンガン系酸化物や亜鉛コバルト系酸化物である場合
においても、同程度の高い焼結性を有するか否かは明らかではない。」と主張している。
しかしながら、導電性セラミックス材料の焼結性が材料組成に応じて異なる旨の技術常識について、その具体的根拠は何ら示されておらず、サポート要件を充足しないとする合理的理由は見いだせない。また、導電性セラミックス材料の焼結性が材料組成に応じて異なり得ることが技術常識であったとしても、上記ウ〜オにおいて指摘したように、「粉砕メディアとしてアルミナを使用した場合と比較して、粉砕された導電性セラミック材料に残留する粉砕メディア成分の濃度が低下する」ことに起因する程度の焼結性の向上であれば、「コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)」、「亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)」、及び「亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1-x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)」であっても、「MnCo2O4」と同様に生じ得ることは、当業者であれば認識できるといえる。
よって、申立人の上記主張は、採用できない。

ク したがって、上記取消理由A−2は、解消された。

(3)取消理由B(明確性)(上記2の(3))について
上記取消理由Bに対して、特許権者は、令和 3年 7月19日提出の訂正請求で、明細書の段落【0039】の記載から、通常は「微粉末を含有するスラリーを用いて」いない湿式成膜方法である「電気めっき法」及び「無電解めっき法」を削除する訂正を行った。
その上で、特許権者は、同日付けの意見書において、本件発明の「前記微粉末を含有するスラリーを用いて前記セル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップ」の「湿式成膜」には、「スクリーン印刷法、ドクターブレード法、スプレーコート法、インクジェット法、スピンコート法、ディップコート、電着塗装法」が含まれ、「電気めっき法、及び、無電解めっき法」は含まれない旨を主張している。
そのため、本件発明1、9の「基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップ」に、「電気めっき法」及び「無電解めっき法」が含まれないことが明確となった。
したがって、上記取消理由Bは、解消された。

(4)申立理由1(進歩性)(取消理由として不採用)について
ア 刊行物等の記載事項
(ア)甲第1号証の記載事項
本件特許に係る出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、Veronica Miguel-Perez外4名、「The effect of doping (Mn,B)3O4 materials as protective layers in different metallic interconnects for Solid Oxide Fuel Cells」、Journal of Power Sources、2013年6月7日、243(2013)、p.419−430には、以下の事項が記載されている(下線は当審にて付したものである。以下同様。)。
a「

」(419頁右欄1〜3行)
(当審訳:SOFCの特性と費用対効果の改善における主な挑戦の1つに、最適なインターコネクト材料の開発がある。)

b「


」(419頁右欄14行〜420頁左欄9行)
(当審訳:しかしながら、金属製インターコネクトからのクロムの蒸散は、カソードと電解質層との界面への付着を引き起こし、セルの電気的特性を大幅に低下させ得る。クロム被毒に対する可能な解決は、単位面積あたりの抵抗(ASR)を最小化することに寄与し、金属材料からのクロムがカソードに移動することに対するバリアとして働く酸化物の保護コーティングを用いることによって達成され得る。バリアが、適切な熱膨張係数(TEC)に対して化学的に相性が良いこと、実用温度において酸化および還元の両環境において熱力学的に安定であること、カソード雰囲気において高い電気伝導性を示すことを確保することが重要である。)

c「

」(420頁左欄46〜49行)
(当審訳:本研究は、2つの予備酸化されたFe-Crベース合金、Crofer 22 APU(Thyssenkrupp VDM)およびSS430(Hamilton Precious Metals)と、Coベース超合金、Conicro 4023 W 188(Thyssenkrupp VDM)について行われた。)

d「

」(420頁左欄52〜54行)
(当審訳:本研究に用いられた粉末材料は、以下を含む:保護コーティングの材料としてのMnCo2O4 (MC)およびMnCo1.9Fe0.1O4 (MCF10))

e「

」(420頁右欄4〜14行)
(当審訳:参照[5]に示すように、電気化学的測定のため、湿式コロイド噴霧堆積法によって、0.25cm2の参照電極面積を有する対称ハーフセル(LSF40/SDC/YSZ)が用意された。保護コーティングの堆積は、予備酸化されたインターコネクト上への堆積と同じ堆積法を用いて実行され、大気中で1000℃、10時間焼成された。初期の懸濁液が、粉末をボールミルで1時間混合することによって準備された。エタノールとZrO2シリンダー(直径3mm)が粉砕メディアとして用いられた。インターコネクトが、スピネル保護コーティングのある状態と無い状態とで準備され、複数のセルが積み重なるようにスタッキングされた。)

f「

」(当審訳:図1。ASR測定のための設定図)

(イ)甲第2号証の記載事項
本件特許に係る出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である、Lei Chen外3名、「Oxidation Kinetics of Mn1.5Co1.5O4 Coated Haynes 230 and Crofer 22 APU for Solid Oxide Fuel Cell Interconnects」、Journal of The Electrochemical Society、2010年5月3日、157(6)、p.B931−B942には、以下の事項が記載されている。
a「

」(B931頁左欄1−4行)
(当審訳:固体酸化物形燃料電池(SOFCs)は、燃料と酸素の燃焼なしに、電気化学反応を経て電気を生じさせる固体状態のエネルギー変換装置である。SOFCスタックを設計する際に鍵となる部材はインターコネクトである。)

b「

」(B931頁左欄35−38行)
(当審訳:Fe-CrおよびNi-Crインターコネクトは、共に、揮発したCr種によるセルのコンタミネーションを避けるために、コートされる必要がある。コートは、クロミアの蒸発を抑制するためのバリアとして、および、カソードインターコネクトとカソードとの間の導電性介在物としての役割を果たす。)

c「

」(B931頁右欄5−7行)
(当審訳:より最近では、Mn1.5Co1.5O4(MCO)といったスピネルコーティングが、フェライト系鋼材について、酸化を遅らせる点、および、クロミアの蒸発を抑制する点で、有効性を示した。)

d「

」(B931頁右欄30−34行)
(当審訳:MCOスラリーが、Praxair社から購入した粉末を用いて作製された。MCOコーティングが、スラリースプレー法により塗布された。コートされたサンプルが、2.75% H2/Arおよび3% H2O雰囲気において750℃または850℃で1.5時間還元処理され、その後、大気中において950℃または750℃で酸化処理されることにより、接着性のコートが形成された。)

e「

」(B933頁左欄2−5行)
(当審訳:図1dおよびeは、それぞれ、750℃で酸化処理された、コートされたH230サンプルおよびCrofer 22 APUを示す。Crofer 22 APUの過酸化を避けるために、このワークにおいてその後750℃の焼成温度が用いられた。)

(ウ)甲第3号証の記載事項
本件特許に係る出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である、Jung Pyung Choi外4名、「Development of MnCoO coating with new aluminizing process for planar SOFC stacks」、International Journal of Hydrogen Energy、2011年、36(2011)、p.4549−4556には、以下の事項が記載されている。
a「

」(4550頁右欄7−8行)
(当審訳:本論文の主題は、SOFCインターコネクトへのこれら2つのコート(スピネルおよびアルミナ)の適用である。)

b「


」(4550頁右欄37行−4552頁左欄1行)
(当審訳:コート材料が、ペーストの状態で、鋼材の表面に塗布された。スピネルまたはアルミニウムの粉末が、バインダー(有機ビヒクル)と混合され、3本ロールミリング工程により粉砕されることにより、均一で良く分散したペーストが作製された。スクリーン印刷またはスプレー法により、ステンレス鋼の基材上にペーストが印刷された。コーティングの塗布の後、サンプルが乾燥炉(80℃)内に約1−2時間配置された。(Mn,Co)3O4 スピネルコーティングの場合、乾燥後のサンプルが、通常通りに水素炉(純H2雰囲気)で850℃、4時間、熱処理され、その後、大気中760−800℃で酸化処理された。RAAコーティングは、通常通りに大気中1000℃、1時間、熱処理された。)

(エ)甲第4号証の記載事項
本件特許に係る出願前に日本国内で頒布された刊行物である特開平10−79308号公報には、以下の事項が記載されている。
a「【0009】
【発明が解決しようとする課題】ボールミルを使用して原料粉を混合粉砕する場合、ボールからの不純物の混入を回避することは極めて困難である。そのため、ボールの材質は原料粉の主成分と同じ成分を用いることが多く、Fe2 O3 の場合は鋼製のボールが用いられる。また、ボールミル処理時間を短縮して不純物の混入を最低限に抑えるために、比重が大きく、硬度、靭性が高いイットリア安定化ジルコニア(YTZ)ボールや純度の高いAl2 O3 ボールが用いられることも多い。」

b「【0019】ボールミルに使用するボールは、ボールからの不純物の混入を考慮して、通常、原料と同じ元素のボール、あるいは比重が大きく且つ硬度及び靭性の高いボールが選択される。原料と同じ元素のボールとして、例えば、鋼製ボールが用いられ、比重が大きく且つ硬度及び靭性の高いボールとして、イットリア安定化ジルコニア(YTZ)ボールや高純度のアルミナボールが使用される。」

(オ)甲第5号証の記載事項
本件特許に係る出願前に日本国内で頒布された刊行物である特表2007−516350号公報には、以下の事項が記載されている。
a「【0032】
実施例3:アルミナ−変性304SSサーメット
平均直径1μmのα−Al2O3粉末(純度99.99%、Alfa Aesar)70vol%、および平均直径6.7μmの変性M304SS粉末(Osprey Metals、96.2%が−16μm未満に篩い分けされる)30vol%を、HDPEミリングジャー中でエタノールを用いて分散した。エタノール中の粉末を、イットリア強化ジルコニア(YTZ)球(直径10mm、Tosoh Ceramics)と、ボールミル中100rpmで24時間混合した。」

(カ)甲第6号証の記載事項
本件特許に係る出願前に日本国内で頒布された刊行物である特開平4−349170号公報には、以下の事項が記載されている。
a「【0003】従来これらの粉砕機の内張材、メディアなどの摩耗しやすい部材には、粉砕すべき対象物の種類に応じて、天然石、磁器、アルミナ、ガラス、ゴム、プラスチックス、スチール、めのうなどが使用されている。
しかしながら、これらの材料は、一般に摩耗し易かったり、或いはそれ自身の硬度が高すぎるために、互いに接触する相手部材(例えば、内張材に対するメディア、メディアとメディアなど)損耗させて、被粉砕物中に摩耗粉が混入することが多い。」

b「【0004】【発明が解決しようとする課題】本発明は、耐摩耗性および耐衝撃圧壊性に優れており且つ適度の硬度を有しているため、粉砕機用部材として損耗率の低いジルコニア質焼結体を得ることを目的とする。」

c「【0006】すなわち、本発明は、下記のジルコニア質焼結体からなる粉砕機用部材を提供するものである:(a)Y2O3を2.0モル%以上4.0モル%以下含有するジルコニア質焼結体からなる粉砕機用部材であって、(b)該焼結体の結晶構造が鏡面仕上した焼結体表面で単斜晶系ジルコニアを実質的に含まず、且つ焼結体を熱処理し徐冷した後、粉砕処理で単斜晶系に変化する正方晶系ジルコニアを30%以上含み、残余が等軸晶系ジルコニアからなり、(c)該焼結体の平均結晶粒径が2.5μm以下であり、(d)該焼結体のかさ密度が5.98g/cm3以上であり、(e)粉砕用メディアとしての形態の上記焼結体のボールミルによる損耗率が0.1%以下であることを特徴とするジルコニア質焼結体からなる粉砕機用部材。」

d「【0019】第3表に示す結果から、本発明によるジルコニア焼結体からなるメディア(試料No.1〜3)の優れた耐摩耗性が明らかである。又、試料No.3から発生した摩耗粉の粒径は、0.1μm以下に過ぎなかった。」

(キ)甲第7号証の記載事項
本件特許に係る出願前に日本国内で頒布された刊行物である特開昭58−15079号公報には、以下の事項が記載されている。
a「従来これ等の粉砕機の内張材、メディア等の摩耗しやすい部材には、粉砕すべき対象物の種類に応じて、天然石、磁器、アルミナ、ガラス、ゴム、プラスチック、スチール、めのう等が使用されているが、これ等の材料は一般に摩耗し易いので、被砕物中に摩耗物が混入することが多く、この混入摩耗粉の分離が困難なる為、工程の簡略化及び製品純度の点で大きな障害となっている。」(1頁右下欄9行−2頁左上欄2行)

b「本発明者は、上記の如き現況に鑑み、粉砕機において摩耗され難い部材を得るべく種々研究を重ねた結果、Y2O3を特定量含むジルコニア質焼結体がその要求を満足させることを見出し、遂に本発明を完成するにいたったものである。」(2頁左上欄13行−右上欄2行)

c「内張材、メディア等として使用される本発明粉砕機用部材は、通常次の様にして製造される。」(3頁右上欄12−13行)

(ク)甲第8号証の記載事項
本件特許に係る出願前に日本国内で頒布された刊行物である特開2015−201422号公報には、以下の事項が記載されている。
a「【0044】
〔セル間接続部材〕
セル間接続部材1は、図1および図3に示すように、単セル3との間で空気流路2a、燃料流路2bを形成しつつ接続可能にする溝板状に形成されている。なお基材11の材料としては、先に述べたようにCrを含有する合金または金属酸化物が用いられる。なお、基材11の表面に、次に述べる保護膜12を設けることでCr被毒を抑制することができ、固体酸化物形燃料電池用セルとして好適である。」

b「【0045】
〔保護膜〕
基材11に設けられる保護膜12は、導電性セラミックス材料(金属酸化物微粒子)を含有する。保護膜12に含有させる金属酸化物としては、コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)または亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)用いられる。あるいは、保護膜12にコバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1−x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有させる。」

c「【0046】
基材11への保護膜12の形成は、概略次のようにして行う。まず、金属酸化物微粒子を混合した混合液(塗料)を基材11に塗布し、乾燥・加熱等により塗膜を硬化させる。続いて、基材11を500℃以上の高温で処理し、塗膜中の樹脂等の成分を焼き飛ばし、金属酸化物微粒子を焼結させる。」

イ 引用発明及び本件発明との対比・判断
(ア)上記アの(ア)におけるa及びbの摘記事項から、甲第1号証は、SOFCに用いられるインターコネクトについて検討されたものであるといえる。

(イ)そこで、上記アの(ア)における、各摘記事項を総合勘案し、特に、図1に着目すると、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「甲1発明」という。)。
「SOFCに用いられるインターコネクトの製造方法であって、ZrO2シリンダーを粉砕メディアとして用いてMnCo2O4を粉砕し、微粉末を含む懸濁液を作成するステップと、MnCo2O4の微粉末を含有する懸濁液を用いて保護コーティングの材料をインターコネクト上に堆積するステップと、保護コーティングの材料を堆積させたインターコネクトに、1000℃の熱処理を施し、MnCo2O4の微粉末を焼成させて保護コーティングを形成するステップを有するインターコネクトの製造方法。」

(ウ)そこで、本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「SOFC」、「インターコネクト」、「MnCo2O4」、「懸濁液」、「保護コーティング」は、それぞれ、本件発明1の「固体酸化物形燃料電池用セル」、「セル間接続部材」、「導電性セラミック材料」、「スラリー」、「保護膜」に相当する。

(エ)また、本件明細書の段落【0038】〜【0039】の記載を参照すれば、本件発明1の「塗膜を湿式成膜する」ことは、「スラリー」を基材上に堆積させることであるといえるから、甲1発明の「MnCo2O4の微粉末を含有する懸濁液を」「インターコネクト上に堆積」することは、本件発明1の「スラリーを用いて前記セル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する」ことに相当する。

(オ)さらに、本件明細書の段落【0046】及び【0054】の記載を参照すれば、本件発明1の「焼結」は、基材に熱処理を施すことであるといえるから、甲1発明の「焼成」は、本件発明1の「焼結」に相当する。

(カ)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、次の点で一致する。
<一致点>
「固体酸化物形燃料電池用セルに用いられるセル間接続部材の製造方法であって、導電性セラミックス材料を粉砕し、微粉末を作成する粉砕ステップと、前記微粉末を含有するスラリーを用いて前記セル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップと、塗膜を湿式成膜した前記基材に熱処理を施し、前記微粉末を焼結させて基材の表面に保護膜を形成する焼結ステップとを有するセル間接続部材の製造方法。」

(キ)一方、本件発明1と甲1発明とは、次の点で相違する。
<相違点>
本件発明1では、粉砕メディアに「安定化ジルコニア」を用いるのに対し、甲1発明では、粉砕メディアに「ZrO2シリンダー」と「ジルコニア」を用いているものの、「安定化ジルコニア」を用いていない点。

(ク)そこで、上記相違点について検討する。
a 上記アの(エ)〜(キ)から、確かに、粉砕メディアとしてイットリア安定化ジルコニアを用いること、及び、粉砕メディアとしてイットリア安定化ジルコニアを用いると、微粉末に残留する粉砕メディア由来成分が少なくなることは、本件特許に係る出願日前に広く知られていたことであるといえる。

b これに対し、甲第1号証には、実験条件として「ZrO2シリンダーを粉砕メディアとして用いてMnCo2O4を粉砕」したことが記載されるに止まる。

c そして、甲第1号証は、MnCo2O4の粉砕条件について検討するものではなく、粉砕メディアについて上記以上の具体的な記載も示唆もされていない。

d そうすると、粉砕メディアとしてイットリア安定化ジルコニアを用いることが知られていたとしても、甲1発明において、粉砕メディアを「ZrO2シリンダー」に代えて「イットリア安定化ジルコニア」にすることの積極的な動機付けは見いだせない。

e 一方、本件発明1は、「コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1-x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する」「導電セラミックス材料」を「安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いて」「粉砕し、微粉末を作成する」ことにより、粉砕メディアとしてアルミナを使用した場合と比較して、粉砕された導電性セラミック材料に残留する粉砕メディア成分の濃度が低下する傾向を示し、焼結温度が低く(焼結性が高く)なるとの格別な効果を奏するものである。

f そうすると、粉砕メディアを「安定化ジルコニア」に変更し得る動機がない、甲1発明及び甲第1〜8号証に記載された事項からでは、上記格別な効果を奏するように「導電セラミックス材料」と「粉砕メディア」の材料の組み合わせを実現するということを、容易に想到し得るということはできない。

g したがって、上記相違点に係る本件発明1の構成は、甲1発明及び甲第2〜8号証の記載事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

(ケ)よって、本件発明1は、甲1発明及び甲第2〜8号証の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(コ)また、本件発明2、4、5、7は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであって、本件発明1をさらに減縮したものであるから、本件発明1において上記(ク)で判断したのと同様の理由によって、甲1発明及び甲第2〜8号証の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、申立理由1(進歩性)について、本件特許の請求項1、2、4、5、7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当しないものであるため、取り消すことはできない。

(5)申立理由2(進歩性)(取消理由として不採用)について
ア 刊行物等の記載事項
(ア)甲第9号証の記載事項
本件特許に係る出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるZhenguo Yang外4名、「Ce-Modified (Mn,Co)3O4 Spinel Coatings on Ferritic Stainless Steels for SOFC Interconnect Applications」、Electrochemical and Solid-State Letters、2008年6月2日、11(8)、p.B140−B143には、以下の事項が記載されている。
a「

」(B140頁右欄17−20行)
(当審訳:MCおよびCe0.05Mn1.475Co1.475O4 (Ce-MC)スピネル粉末が、グリシン・ニトラート燃焼合成によって準備され、その後、ボールミルによる粉砕およびバインダー溶液との混合が行われることにより、スラリーが形成された。)

(イ)甲第10号証の記載事項
本件特許に係る出願前に日本国内で頒布された刊行物である特許第5230812号公報には、以下の事項が記載されている。
a「【0085】
次に、試料No.1用のMn2O3の粉末、3質量%のAlが固溶したZnOの粉末、Zn−Mn系のスピネルの粉末およびZn−Al系のスピネルの粉末を平均粒径0.5μmにボールミルを用いて粉砕し、粉砕した粉末と、アクリル系バインダーと、希釈材としてのミネラルスピリッツと、分散材としてのDBPとを調合し、各ディッピング液を作製した。」

b「【0087】
ディッピングにて各層を形成する場合、上記の合金を各試料用の各層のディッピング液中に浸漬し、合金全面に塗布した。この後、130℃で1時間乾燥を行ない、500℃で2時間脱バインダー処理した後、950〜1050℃で2時間、炉内で焼付を行なった。」

(ウ)甲第11号証の記載事項
本件特許に係る出願前に日本国内で頒布された刊行物である特開2014−112499号公報には、以下の事項が記載されている。
a「【0042】
前記保護膜12を形成するための導電性金属酸化物は、Mn,Co,Zn,Fe,Ni,Cr,Ti,V,Y,W,ランタノイドから選ばれる2種以上の金属を含むスピネル型酸化物を主材とするものが好適に採用されるが、下記実施の形態では、NiMn2O4、CoxMn3-xO4、MnxFe3-xO4、Znx(CoyMn1-y)3-xO4(0<x≦1、0≦x≦1)、ZnFe2O4から選ばれる少なくとも一種を主材とするからなるスピネル型酸化物が特に好適に使用できる。」

b「【0044】
<コーティング方法>
まず、ボールミル等で粒子径を調整してなる導電性金属酸化物の粉末および、焼結助剤の粉末をそれぞれ分散媒に添加し、所定濃度のペースト状に調整する。」

c「【0048】
スキージを用い、導電性金属酸化物のペーストを基材11上に塗布する。」

d「【0051】
得られた第一、第二塗膜は、空気中800℃〜1200℃に昇温することにより焼結されて単一の層の保護膜12となる。さらに好ましい焼結温度は1000℃以上1200℃以下である。」

(エ)甲第12号証の記載事項
本件特許に係る出願前に日本国内で頒布された刊行物である特許第5460915号公報には、以下の事項が記載されている。
a「【0049】
次に、ステンレス板の表面にCr2O3を主成分とする第1被覆膜を形成した。サンプルNo.1では、予め合成されたCr2O3粒子を所定の粒度に粉砕及び調整した原料を用いてスラリーを作製し、このスラリーを塗布及び乾燥した後に焼成することによって、球状粒子によって構成される第1被覆膜を形成した。」

イ 引用発明及び本件発明との対比・判断
(ア)上記(4)のア(イ)におけるa及びbの摘記事項から、甲第2号証は、SOFCsに用いられるインターコネクトについて検討されたものであるといえる。

(イ)そして、上記(4)のア(イ)における、各摘記事項を総合勘案すると、甲第2号証には、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「甲2発明」という。)。
「SOFCsに用いられるインターコネクトの製造方法であって、Mn1.5Co1.5O4(MCO) スラリーが、Praxair社から購入した粉末を用いて作製され、スラリースプレー法によりインターコネクトに塗布され、950℃または750℃で酸化処理されることにより、接着性のコートが形成されるインターコネクトの製造方法。」

(ウ)そこで、本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「SOFCs」、「インターコネクト」、「Mn1.5Co1.5O4(MCO)」、「接着性のコート」は、それぞれ、本件発明1の「固体酸化物形燃料電池用セル」、「セル間接続部材」、「導電性セラミック材料」、「保護膜」に相当する。

(エ)また、明細書の段落【0039】の記載を参照すれば、本件発明1の「塗膜を湿式成膜する」に、「スプレーコート法」が例示されているから、甲2発明の「スラリースプレー法」は、本件発明1の「スラリーを用いて前記セル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する」ことに相当する。

(オ)さらに、明細書の段落【0046】及び【0054】の記載を参照すれば、本件発明1の「焼結」は、基材に熱処理を施すことであるといえるから、甲2発明の「950℃または750℃」での「酸化処理」は、本件発明1の「焼結」に相当する。

(カ)そうすると、本件発明1と甲2発明とは、次の点で一致する。
<一致点>
「固体酸化物形燃料電池用セルに用いられるセル間接続部材の製造方法であって、微粉末を含有するスラリーを用いて前記セル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップと、塗膜を湿式成膜した前記基材に熱処理を施し、前記微粉末を焼結させて基材の表面に保護膜を形成する焼結ステップとを有するセル間接続部材の製造方法。」

(キ)一方、本件発明1と甲2発明とは、次の点で相違する。
<相違点>
本件発明1では、「安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いて導電性セラミックス材料を粉砕し、微粉末を作成する粉砕ステップ」を有するのに対し、甲2発明では、前記粉砕ステップがない点。

(ク)そこで、上記相違点について検討する。
a 上記(4)のア(エ)〜(キ)から、確かに、粉砕メディアとしてイットリア安定化ジルコニアを用いること、及び、粉砕メディアとしてイットリア安定化ジルコニアを用いると、微粉末に残留する粉砕メディア由来成分が少なくなることは、本件特許に係る出願日前に広く知られていたことであるといえる。なお、上記ア(ア)〜(エ)から、甲第9〜12号証には、原料粉末を粉砕してスラリーを作成することが記載されているといえるが、粉砕メディアとしてイットリア安定化ジルコニアを用いることを示すものではない。

b これに対し、甲第2号証には、実験条件として「Mn1.5Co1.5O4(MCO) スラリーが、Praxair社から購入した粉末を用いて作製され」たことが記載されるに止まる。

c そして、甲第2号証は、粉末の粉砕条件について検討するものではなく、粉砕メディアについて具体的な記載も示唆もされていない。

d そうすると、甲2発明において、粉砕メディアをイットリア安定化ジルコニアとして粉砕を行うことの積極的な動機付けは見いだせない。

e 一方、本件発明1は、「コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1-x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する」「導電セラミックス材料」を「安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いて」「粉砕し、微粉末を作成する」ことにより、粉砕メディアとしてアルミナを使用した場合と比較して、粉砕された導電性セラミック材料に残留する粉砕メディア成分の濃度が低下する傾向を示し、焼結温度が低く(焼結性が高く)なるとの格別な効果を奏するものである。

f そうすると、粉砕メディアを「安定化ジルコニア」に変更し得る動機がない、甲2発明及び甲第4〜8号証、更に甲第9〜12号証に記載された事項からでは、上記格別な効果を奏するように「導電セラミックス材料」と「粉砕メディア」の材料の組み合わせを実現するということを、容易に想到し得るということはできない。

g したがって、上記相違点に係る本件発明1の構成は、甲2発明及び甲第4〜12号証の記載事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

(ケ)よって、本件発明1は、甲2発明及び甲第4〜12号証の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(コ)また、本件発明2、4、5、7は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであって、本件発明1をさらに減縮したものであるから、本件発明1において上記(ク)で判断したのと同様の理由によって、甲2発明及び甲第4〜12号証の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、申立理由2(進歩性)について、本件特許の請求項1、2、4、5、7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当しないものであるため、取り消すことはできない。

(6)申立理由3(進歩性)(取消理由として不採用)について
ア 引用発明及び本件発明との対比・判断
(ア)上記(4)のア(ウ)における、各摘記事項を総合勘案すると、甲第3号証には、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「甲3発明」という。)。
「SOFCに用いられるインターコネクトの製造方法であって、(Mn,Co)3O4粉末が3本のロールミリング工程により粉砕されペーストを作成し、スクリーン印刷またはスプレー法によりステンレス鋼の基材上にペーストが印刷され、水素炉において850℃で熱処理され、その後大気中760〜800℃で酸化処理されてコートが形成されるインターコネクトの製造方法。」

(イ)そこで、本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明において、「SOFC」、「インターコネクト」、「(Mn,Co)3O4粉末」、「ペースト」、「コート」は、それぞれ、本件発明1の「固体酸化物形燃料電池用セル」、「セル間接続部材」、「導電性セラミック材料」の「微粉末」、「スラリー」、「保護膜」に相当する。

(ウ)また、明細書の段落【0039】の記載を参照すれば、本件発明1の「塗膜を湿式成膜する」に、「スクリーン印刷法」及び「スプレーコート法」が例示されているから、甲3発明の「スクリーン印刷またはスプレー法によりステンレス鋼の基材上にペーストが印刷され」ることは、本件発明1の「スラリーを用いて前記セル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する」ことに相当する。

(エ)さらに、明細書の段落【0046】及び【0054】の記載を参照すれば、本件発明1の「焼結」は、基材に熱処理を施すことであるといえるから、甲3発明の「水素炉において850℃で熱処理され、その後大気中760〜800℃で酸化処理」することは、本件発明1の「焼結」に相当する。

(オ)そうすると、本件発明1と甲3発明とは、次の点で一致する。
<一致点>
「固体酸化物形燃料電池用セルに用いられるセル間接続部材の製造方法であって、微粉末を含有するスラリーを用いて前記セル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップと、塗膜を湿式成膜した前記基材に熱処理を施し、前記微粉末を焼結させて基材の表面に保護膜を形成する焼結ステップとを有するセル間接続部材の製造方法。」

(カ)一方、本件発明1と甲3発明とは、次の点で相違する。
<相違点>
本件発明1では、「安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いて導電性セラミックス材料を粉砕し、微粉末を作成する粉砕ステップ」を有するのに対し、甲3発明は、「3本のロールミリング工程により粉砕されペーストを作成」する点。

(キ)そこで、上記相違点について検討する。
a 上記(4)のア(エ)〜(キ)から、確かに、粉砕メディアとしてイットリア安定化ジルコニアを用いること、及び、粉砕メディアとしてイットリア安定化ジルコニアを用いると、微粉末に残留する粉砕メディア由来成分が少なくなることは、本件特許に係る出願日前に広く知られていたことであるといえる。

b これに対し、甲第3号証には、実験条件として「(Mn,Co)3O4粉末が3本のロールミリング工程により粉砕されペーストを作成し」たことが記載されるに止まる。

c そして、甲第3号証は、(Mn,Co)3O4粉砕条件について検討するものではなく、粉砕メディアの材料について具体的な記載も示唆もされていない。

d そうすると、粉砕メディアとしてイットリア安定化ジルコニアを用いることが知られていたとしても、甲3発明において、粉砕メディアをイットリア安定化ジルコニアとして粉砕を行うことの積極的な動機付けが見いだせない。

e 一方、本件発明1は、「コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1-x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する」「導電セラミックス材料」を「安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いて」「粉砕し、微粉末を作成する」ことにより、粉砕メディアとしてアルミナを使用した場合と比較して、粉砕された導電性セラミック材料に残留する粉砕メディア成分の濃度が低下する傾向を示し、焼結温度が低く(焼結性が高く)なるとの格別な効果を奏するものである。

f そうすると、粉砕メディアを「安定化ジルコニア」に変更し得る動機がない、甲3発明及び甲第1〜2,4〜8号証に記載された事項からでは、上記格別な効果を奏するように「導電セラミックス材料」と「粉砕メディア」の材料の組み合わせを実現するということを、容易に想到し得るということはできない。

g したがって、上記相違点に係る本件発明1の構成は、甲3発明及び甲第1〜2,4〜8号証の記載事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

(ク)よって、本件発明1は、甲3発明及び甲第1〜2,4〜8号証の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ケ)また、本件発明2、4、5、7は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであって、本件発明1をさらに減縮したものであるから、本件発明1において上記(キ)で判断したのと同様の理由によって、甲3発明及び甲第1〜2,4〜8号証の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 小括
以上のとおりであるから、申立理由3(進歩性)について、本件特許の請求項1、2、4、5、7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当しないものであるため、取り消すことはできない。

(7)申立理由4(サポート要件)(取消理由A−1以外)について
ア 異議申立書及び令和 3年 9月 9日付けで申立人から提出された意見書では、本件特許発明の課題は、1000℃より低い温度で熱処理を行っても高い焼結性の保護膜を得ることであるが、本件発明では熱処理温度が1000℃未満であることについて特定されていないから、1000℃以上で熱処理を行う態様を包含しており、前記態様では、前記本件特許発明の課題を解決することができないから、サポート要件を満たさない旨主張しているので検討する。

イ 明細書の段落【0008】〜【0010】には、以下の記載がある(下線は当審が付した。)。
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
焼結による保護膜の形成の際に基材を高温に加熱すると、基材にダメージを与える可能性がある。上述の通りSOFCの作動温度が700〜800℃程度に低下し、基材に合金が使われるようになっている。保護膜の焼結の際の短時間の加熱であれば、基材を1000℃まで昇温しても問題はないものと考えられているが、高い焼結性の保護膜を、より低い温度にて熱処理を行っても得られるのであれば、固体酸化物形燃料電池用セルの耐久性・信頼性が向上できる可能性がある。
【0009】
また製造工程の改善によるコストダウンを目的として、基材の保護膜の焼成のための熱処理と、その後の熱処理(単セルと基材との接合、ガラスシール部材等を用いた封止など)とを一度に行うことが要望されている。しかし、例えばガラスシール部材は耐熱温度の上限が低く、1000℃まで昇温すると封止する部位に損傷が生じる恐れがあった。そこで、より低い温度で熱処理を行っても高い焼結性の保護膜を得ることが求められていた。
【0010】
本発明は上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、焼結性の高い保護膜を得ることが可能なセル間接続部材の製造方法、および固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法を提供することにある。」

ウ 上記イでの摘示箇所には、1000℃未満の温度の熱処理で焼結を行いたいこと、及び1000℃の熱処理で焼結を行うと封止部位に損傷が生じる恐れがある等の懸念があることについては記載されているが、熱処理の温度の上限を1000℃未満にしなければならない旨の記載は認められない。むしろ、熱処理の時間を調整すれば、1000℃に昇温しても問題がない旨が記載されている。

エ さらにいえば、申立人は、上記アで本件発明の課題を「1000℃より低い温度で熱処理を行っても高い焼結性の保護膜を得ること」と説明しているが、前記説明には、焼結のための熱処理温度を1000℃より低くすることは含まれているものの、焼結のための熱処理を1000℃未満で行わなければならないことは含まれていないことは明らかである。

オ したがって、上記ウ及びエから、熱処理温度の上限を設定することは、本件発明の課題に含まれているとはいえない。

カ そして、本件発明は、「コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1-x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する」「導電セラミックス材料」を「安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いて」「粉砕し、微粉末を作成する」ことにより、粉砕メディアとしてアルミナを使用した場合と比較して、粉砕された導電性セラミック材料に残留する粉砕メディア成分の濃度が低下する傾向を示し、焼結温度が低く(焼結性が高く)なるという、本件明細書の段落【0010】に記載された「焼結性の高い保護膜を得ることが可能なセル間接続部材の製造方法、および固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法を提供する」との発明の課題を解決できる範囲を超えるものではないといえる。

キ したがって、本件発明は、サポート要件を満たしているといえるので、申立理由4(サポート要件)についての申立人の主張は、採用できない。
そうすると、申立理由4(サポート要件)(取消理由A−1以外)について、本件特許の請求項1、2、4、5、7〜10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してなされたものとはいえず、同法第113条第4号に該当しないものであるため、取り消すことはできない。

(8)申立理由5(明確性)(取消理由B以外)について
(8−1)「セル間接続部材」の構成について
申立人は、異議申立書において、請求項1の「セル間接続部材」が不明確である旨主張している。
しかし、上記「セル間接続部材」は、「セル」の「間」を「接続」する「部材」であり、それ自体の意味には、焼結後の処理の有無や、基材と保護膜以外の部材を含むか否かに拘わらず、セルの間を接続する部材一般が含まれることは明らかである。したがって、「セル間接続部材」の意味するところは明確であり、申立人の主張は、採用できない。

(8−2)「導電性セラミックス材料」について
ア 申立人は、異議申立書において、「導電性セラミック材料」がどのような材料を意味しているのか不明であり、「導電性セラミック材料」と「保護膜」との関係が規定されていないため、「導電性セラミック材料」が、保護膜の形成材料を意味しているのか否か不明である旨主張している。

イ しかし、「導電性セラミック材料」とは、「導電性」を有する「セラミック」製の「材料」を意味し、一般に、「導電性」とは、電気を流す性質を意味するから、「導電性セラミック材料」は、「電気を流す性質」を有する「セラミック」製の「材料」との意味であることは明確である。

ウ また、本件発明1、9の記載全体を参照すれば、「導電性セラミック材料」と「保護膜」との関係が、原料と完成品との関係であることは、当業者であれば、理解できることである。

エ したがって、上記イ〜ウから、「導電性セラミック材料」の意味するところは明確であり、申立人の主張は、採用できない。

(8−3)「前記微粉末を含有するスラリーを用いて前記セル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップ」について
ア 申立人は、異議申立書において、本件発明1、9の「基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップ」に関して、本件明細書の段落【0039】にその具体的手段が例示されているが、段落【0039】に例示された成膜方法のうち、「電着塗装法」は、通常、金属酸化物微粉末を混合した混合液(スラリー)を用いない成膜方法であるため、結局、前記「基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップ」が、どのような成膜方法を含み、どのような成膜方法を含まないのか不明である旨主張している。

イ しかし、例えば、特開2008−277210号公報には、以下の記載がある。
「【0045】
・・・ここで、電着塗装法とは、被覆対象物に電圧を印加して電着塗料等により被覆物を電気化学的に積層させる方法である。」
これより、電着塗装法は、被覆対象物に電圧印加して電着塗料により塗装を行う方法を意味し、塗料はスラリーである。

ウ そのため、「電着塗装法」は、通常、スラリーを用いる成膜方法であるため、「湿式成膜による塗膜の形成方法」として、段落【0039】に例示されていることに、矛盾はない。

エ したがって、本件発明1、9の「基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップ」は、その意味するところが明確であるから、申立人の主張は、採用できない。

(8−4)申立理由5(明確性)(取消理由B以外)についての小括
以上のとおり、申立理由5(明確性)(取消理由B以外)について、本件特許の請求項1、2、4、5、7〜10に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものとはいえず、同法第113条第4号に該当しないものであるため、取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、当審の取消理由及び異議申立理由によっては、本件特許の請求項1、2、4、5、7〜10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1、2、4、5、7〜10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項3、6に係る特許は、以上のとおり、本件訂正により削除され、同請求項に係る特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】セル間接続部材の製造方法、および固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、セル間接続部材の製造方法、および固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池用セル(以下「SOFC用セル」と記載する場合がある。)は、電解質膜の一方面側に空気極を接合するとともに、同電解質膜の他方面側に燃料極を接合してなる単セルを、電子伝導性の基材(セル間接続部材)により挟み込んだ構造を有する。そしてこのようなSOFC用セルは、700〜900℃程度の作動温度で作動し、空気極側から燃料極側への電解質膜を介した酸化物イオンの移動に伴って、電極間に起電力を発生させる。セル間接続部材は、単セル同士を電気的に接続する部材であり、また燃料と空気の隔壁となる部材でもある。
【0003】
近年の開発の進展に伴い、SOFCの作動温度が下がってきている。従来の作動温度は1000℃程度であり、耐熱性の観点からランタンクロマイトに代表される金属酸化物が使用されていた。最近は作動温度が700℃〜800℃まで下がっており、SOFC用セルの構成部材として合金が使用できるようになってきた。合金の使用により、SOFCのコストダウン、ロバスト性の向上が期待できる。
【0004】
合金としては、接合される金属酸化物の熱膨張率との整合性から、フェライト系ステンレス鋼が用いられることが多い。一方、耐熱性により優れたオーステナイト系ステンレス鋼であるFe−Cr−Ni合金や、ニッケル基合金であるNi−Cr合金などが用いられることもある。また(La,Ca)CrO3(カルシウムドープランタンクロマイト)に代表される金属酸化物が用いられることもある。
【0005】
これらの合金は、ほぼ例外なくCrを含んでおり、作動環境である高温大気雰囲気にて表面にCr2O3やMnCr2O4の酸化物皮膜を形成する。この酸化物皮膜は経時的に膜厚が厚くなり、電気抵抗が増大するとともに、作動環境である高温大気雰囲気で6価クロムの化合物として蒸発し、空気極を劣化させることが知られている(Cr被毒と呼ばれる)。また、(La,Ca)CrO3を用いた場合でも、合金の場合よりも少ないが、同様にCr被毒が生じる場合がある。そこで合金や(La,Ca)CrO3の表面に、耐熱性に優れた金属酸化物材料をコーティングして、空気極の劣化を抑制する試みがなされている。
【0006】
特許文献1の固体酸化物形燃料電池用セルでは、セル間接続部材の基材はフェライト系ステンレス合金製であり、その基材の表面に金属酸化物材料(Znx(CoyMn(1−y))(3−x)O4)を含む保護膜が形成されている。保護膜の形成は詳しくは、金属酸化物材料の微粉末を含有するスラリー状の塗膜形成用材料をディッピング法により基材に塗布し、乾燥の後、1000℃で2時間焼成して金属酸化物材料を焼結させることにより、行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−229317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
焼結による保護膜の形成の際に基材を高温に加熱すると、基材にダメージを与える可能性がある。上述の通りSOFCの作動温度が700〜800℃程度に低下し、基材に合金が使われるようになっている。保護膜の焼結の際の短時間の加熱であれば、基材を1000℃まで昇温しても間題はないものと考えられているが、高い焼結性の保護膜を、より低い温度にて熱処理を行っても得られるのであれば、固体酸化物形燃料電池用セルの耐久性・信頼性が向上できる可能性がある。
【0009】
また製造工程の改善によるコストダウンを目的として、基材の保護膜の焼成のための熱処理と、その後の熱処理(単セルと基材との接合、ガラスシール部材等を用いた封止など)とを一度に行うことが要望されている。しかし、例えばガラスシール部材は耐熱温度の上限が低く、1000℃まで昇温すると封止する部位に損傷が生じる恐れがあった。そこで、より低い温度で熱処理を行っても高い焼結性の保護膜を得ることが求められていた。
【0010】
本発明は上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、焼結性の高い保護膜を得ることが可能なセル間接続部材の製造方法、および固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための、固体酸化物形燃料電池用セルに用いられるセル間接続部材の製造方法の特徴構成は、
安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いて導電性セラミックス材料を粉砕し、微粉末を作成する粉砕ステップと、
前記微粉末を含有するスラリーを用いて前記セル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップと、
塗膜を湿式成膜した前記基材に875℃以上の温度で熱処理を施し、前記微粉末を焼結させて基材の表面に保護膜を形成する焼結ステップとを有し、
前記導電性セラミックス材料が、コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y3、x+=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1−x)Co2o4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する点にある。
【0012】
発明者らは鋭意検討の末、保護膜の材料となる導電性セラミックス材料を粉砕する際の粉砕メディアの種類により、保護膜の焼結に必要な温度が大きく異なることを見出した。そして、安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いると、焼結性の高い保護膜を、焼結ステップにおける熱処理温度が従来より低くても得ることができることを実験で確認し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち上記の特徴構成によれば、安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いて導電性セラミックス材料を粉砕し、微粉末を作成する粉砕ステップと、微粉末を含有するスラリーを用いてセル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップと、塗膜を湿式成膜した基材に熱処理を施し、微粉末を焼結させて基材の表面に保護膜を形成する焼結ステップとを有することで、焼結性の高い保護膜を、従来よりも低温で得ることが可能となる。
【0014】
安定化ジルコニアの使用により焼結温度が低くても焼結性の高い保護膜が得られる理由は明らかではないが、従来より用いられているアルミナ(Al2O3)を粉砕メディアに用いた場合に比べ、安定化ジルコニアを粉砕メディアに用いた場合は、微粉末に残留する粉砕メディア由来成分が大幅に少ないことが確認された。アルミナに比べ、安定化ジルコニアの方が削れにくく、微粉末への残留が少なくなったと考えられる。そしてアルミナは難焼結性の材料であり、微粉末に残留したアルミナが保護膜の焼結を阻害していた可能性がある。粉砕メディアとして安定化ジルコニアを用いることで、粉砕メディア由来成分の微粉末への混入が抑制され、焼結性が高まったと考えられる。
なお、安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いることで、焼結ステップにおける熱処理の温度を875℃まで下げられることが実験で確認されている。
【0015】
本発明に係るセル間接続部材の製造方法の別の特徴構成は、前記安定化ジルコニアが、イットリア安定化ジルコニア、スカンジウム安定化ジルコニアから選ばれる少なくとも一つを含有する点にある。
【0016】
イットリア安定化ジルコニア、スカンジウム安定化ジルコニアは、いずれも入手性が高く、セル間接続部材の製造方法に用いる粉砕メディアとして好適である。
【0017】削除
【0018】
本発明に係るセル間接続部材の製造方法の別の特徴構成は、前記焼結ステップにおける前記熱処理が、950℃以下の温度で行われる点にある。
【0019】
安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いることで、950℃以下の熱処理温度にて保護膜を焼結させることが可能となる。950℃以下という比較的低温での保護膜の焼結は、粉砕メディアとしてアルミナを用いていた従来の方法では不可能であった。
【0020】削除
【0021】削除
【0022】
上述したセル間接続部材の製造方法において、前記焼結ステップにおける前記熱処理は、固体酸化物形燃料電池用セルの単セルと前記基材とを接合しない状態で好適に行うことができる。
【0023】
また上記したセル間接続部材の製造方法において、前記焼結ステップにおける前記熱処理は、固体酸化物形燃料電池用セルの単セルと前記基材とが接合され、セルスタッグが形成された状態で好適に行うことができる。そして熱処理を950℃以下の温度で行うことで、セルスタックの状態でのガラスシール部材等を用いた封止などを保護膜の焼結と同時に行うことができるから、熱処理のプロセスを少なくして製造コストの低減が可能となる。
【0024】
上記目的を達成するための、固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法の特徴構成は、
安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いて導電性セラミックス材料を粉砕し、微粉末を作成する粉砕ステップと、
前記微粉末を含有するスラリーを用いてセル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップと、
固体酸化物形燃料電池用セルの単セルと塗膜を湿式成膜した前記基材とを接合してセルスタックを形成する接合ステップと、
前記セルスタックに875℃以上の温度で熱処理を施し、前記微粉末を焼結させて基材の表面に保護膜を形成する焼結ステップとを有し、
前記導電性セラミックス材料が、コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1−x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する点にある。
【0025】
上記の特徴構成によれば、安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いて導電性セラミックス材料を粉砕し、微粉末を作成する粉砕ステップと、微粉末を含有するスラリーを用いてセル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップと、固体酸化物形燃料電池用セルの単セルと塗膜を湿式成膜した基材とを接合してセルスタックを形成する接合ステップと、セルスタックに熱処理を施し、微粉末を焼結させて基材の表面に保護膜を形成する焼結ステップとを有することで、従来よりも低温で保護膜を焼結することが可能となる。これにより、保護膜焼結の際に基材に与える熱的ダメージを低減できる。そして単セルと基材とを接合してセルスタックを形成した状態で熱処理を行い、保護膜を焼結するので、熱処理のプロセスを少なくして固体酸化物形燃料電池用セルの製造コストを低減することができる。
なお、安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いることで、焼結ステップにおける熱処理の温度を875℃まで下げられることが実験で確認されている。
【0026】
本発明に係る固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法の別の特徴構成は、前記焼結ステップにおける前記熱処理が、950℃以下の温度で行われる点にある。
【0027】
上記の特徴構成によれば、セルスタックの状態での熱処理が950℃以下の温度で行われるので、例えばガラスシール部材等を用いた封止などを保護膜の焼結と同時に行うことができるから、熱処理のプロセスをさらに少なくして固体酸化物形燃料電池用セルの製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】固体酸化物形燃料電池用セルの概略図
【図2】固体酸化物形燃料電池の作動時の反応の説明図
【図3】セル間接続部材の断面図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、固体酸化物形燃料電池用セルおよびセル間接続部材を説明し、製造方法および実験例を示す。なお以下に本発明の好適な実施例を記すが、これら実施例はそれぞれ本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0030】
〔固体酸化物形燃料電池(SOFC)〕
図1および図2に示すSOFC用セルCは、酸素イオン伝導性の固体酸化物の緻密体からなる電解質膜30の一方面側に、酸素イオンおよび電子伝導性の多孔体からなる空気極31を接合するとともに、同電解質膜30の他方面側に電子伝導性の多孔体からなる燃料極32を接合してなる単セル3を備える。
さらに、SOFC用セルCは、この単セル3を、空気極31または燃料極32に対して電子の授受を行うとともに空気および水素を供給するための溝2が形成された一対の電子伝導性の合金または酸化物からなるセル間接続部材1により、適宜外周縁部においてガスシール体を挟持した状態で挟み込んだ構造を有する。空気極31とセル間接続部材1とが密着配置されることで、空気極31側の溝2が空気極31に空気を供給するための空気流路2aとして機能する。燃料極32とゼル間接続部材1が密着配置されることで、燃料極32側の上記溝2が燃料極32に水素を供給するための燃料流路2bとして機能する。セル間接続部材1はインターコネクタとセルC間を電気的に接続する部材が接続された構成となることもある。
【0031】
なお、上記SOFC用セルCを構成する各要素で利用される一般的な材料について説明を加えると、例えば、上記空気極31の材料としては、LaMO3(例えばM=Mn,Fe,Co,Ni)中のLaの一部をアルカリ土類金属AE(AE=Sr,Ca)で置換した(La,AE)MO3のペロブスカイト型酸化物を利用することができ、上記燃料極32の材料としては、Niとイットリア安定化ジルコニア(YSZ)とのサーメットを利用することができ、さらに、電解質膜30の材料としては、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)を利用することができる。
【0032】
さらに、これまで説明してきたSOFC用セルCでは、セル間接続部材1の材料としては、電子伝導性および耐熱性の優れた材料であるLaCrO3系等のペロブスカイト型酸化物や、フェライト系ステンレス鋼であるFe−Cr合金、オーステナイト系ステンレス鋼であるFe−Cr−Ni合金、ニッケル基合金であるNi−Cr合金などのように、Crを含有する合金または酸化物が利用されている。
【0033】
そして、複数のSOFC用セルCが積層配置された状態で、複数のボルトおよびナットにより積層方向に押圧力を与えて挟持され、セルスタックとなる。
このセルスタックにおいて、積層方向の両端部に配置されたセル間接続部材1は、燃料流路2bまたは空気流路2aの一方のみが形成されるものであればよく、その他の中間に配置されたセル間接続部材1は、一方の面に燃料流路2bが形成され他方の面に空気流路2aが形成されるものを利用することができる。なお、このような積層構造のセルスタックでは、上記セル間接続部材1をセパレータと呼ぶ場合がある。
セルスタックは、燃料ガス(水素)を供給するマニホールドに、ガラスシール材等の接着材により取り付けられる。ガラスシール材としては、例えば結晶化ガラスが用いられる。ガラスシール材は、マニホールドの接着の他、単セル3とセル間接続部材1の間など、封止(シール)が必要な箇所に用いられる。
このようなセルスタックの構造を有するSOFCを一般的に平板型SOFCと呼ぶ。本実施形態では、一例として平板型SOFCについて説明するが、本発明はその他の構造のSOFCについても適用可能である。
【0034】
そして、このようなSOFC用セルCを備えたSOFCの作動時には、図2に示すように、空気極31に対して隣接するセル間接続部材1に形成された空気流路2aを介して空気を供給するとともに、燃料極32に対して隣接するセル間接続部材1に形成された燃料流路2bを介して水素を供給し、例えば800℃程度の作動温度で作動する。すると、空気極31において酸素分子O2が電子e−と反応して酸素イオンO2−が生成され、そのO2−が電解質膜30を通って燃料極32に移動し、燃料極32において供給されたH2がそのO2−と反応してH2Oとe−とが生成されることで、一対のセル間接続部材1の間に起電力Eが発生し、その起電力Eを外部に取り出し利用することができる。
【0035】
〔セル間接続部材〕
セル間接続部材1は、図1および図3に示すように、単セル3との間で空気流路2a、燃料流路2bを形成しつつ接続可能にする溝板状に形成されている。基材11の材料としては、先に述べたようにCrを含有する合金または金属酸化物が用いられる。基材11の表面に、次に述べる保護膜12を設けることでCr被毒を抑制することができ、固体酸化物形燃料電池用セルとして好適である。
【0036】
〔保護膜〕
基材11に設けられる保護膜12は、導電性セラミックス材料(金属酸化物)を含有する。保護膜12に含有させる導電性セラミックス材料としては、コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1−x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物が用いられる。具体的には、平均粒径が0.1μm以上2μm以下のZn(Co,Mn)O4またはCo1.5Mn1.5O4、ZnCo2O4、MnCo2O4、Co3O4の微粉末が好適に用いられる。
【0037】
保護膜12の材料となる金属酸化物の微粉末は、導電性セラミックス材料を細かく粉砕して作成される。粉砕は例えば、筒状のボールミルに導電性セラミックス材料と粉砕メディアを投入し、ボールミルを回転させ、粉砕メディアの落下衝撃で導電性セラミックス材料を粉砕して行う。粉砕メディアはボール状(ビーズ状)すなわち球形状のものが用いられる。本実施形態では、粉砕メディアの材料は安定化ジルコニアであり、イットリア安定化ジルコニア、スカンジウム安定化ジルコニアから選ばれる少なくとも一つを含有するものが特に好適に用いられる。
【0038】
基材11への保護膜12の形成は、概略次のようにして行う。まず、金属酸化物微粉末を混合した混合液(スラリー)を用いて基材11に塗膜を湿式成膜し、乾燥・加熱等により塗膜を硬化させる。続いて、基材11を高温で処理し、塗膜中の樹脂等の成分を焼き飛ばし、金属酸化物微粉末を焼結させて、保護膜12を形成する。
【0039】
湿式成膜による塗膜の形成方法としては、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、スプレーコート法、インクジェット法、スピンコート法、ディップコート、電着塗装法が例示できる。
【0040】
例えば電着塗装法によれば、以下のようにして基材11に保護膜12を形成することができる。
(1)ポリアクリル酸等のアニオン型樹脂を含有する電着液に、金属酸化物微粉末を1リットル当たり100gになるように分散させ、混合液を作成する。具体的には、質量比で(金属酸化物微粉末:アニオン型樹脂)=(1:1)〜(2:1)とする。
(2)混合液を満たした通電漕の中に基材11を浸して陽極とし、別に設けた陰極板との間に通電することにより、基材11の表面に未硬化の電着塗膜が形成される。
(3)続いて、基材11に加熱処理を行うことで、基材11の表面に硬化した電着塗膜が形成される。加熱処理としては、電着塗膜を乾燥させる予備乾燥と、それに続いて電着塗膜を硬化させる硬化乾燥とを行う。
(4)最後に、基材11を電気炉を使用して2時間焼成し、保護膜12を備えたセル間接続部材1を得る。
【0041】
なお、電着塗装の条件は特に制限されず、塗装する金属の種類、混合液の種類、通電槽の大きさおよび形状、目標膜厚などの各種条件に応じて広い範囲から適宜選択できるが、通常は、浴温度(混合液温度)10〜40℃、印加電圧10〜450V、電圧印加時間1〜10分とすればよい。
【0042】
〔セル間接続部材の製造方法〕
次にセル間接続部材の製造方法について説明する。セル間接続部材の製造方法は、粉砕ステップと、成膜ステップと、焼結ステップとを有する。
【0043】
〔粉砕ステップ〕
粉砕ステップでは、安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いて導電性セラミックス材料を粉砕し、微粉末を作成する。
【0044】
粉砕ステップは、ボールミルに導電性セラミックス材料と粉砕メディアを投入して乾式で行ってもよい。また、ボールミルに導電性セラミックス材料と溶媒、バインダ樹脂等を投入して湿式で行ってもよい。この場合、導電性セラミックス材料の微粉末の作成と、微粉末を含有するスラリーの生成とが同時に行われる。
【0045】
〔成膜ステップ〕
成膜ステップでは、微粉末を含有するスラリーを用いてセル間接続部材1の基材11に塗膜を湿式成膜する。微粉末を含有するスラリーは、乾式で粉砕した微粉末と溶媒、バインダ樹脂等を混合して作成してもよいし、湿式で生成された微粉末を含有するスラリーを用いてもよい。濾過等で粉砕メディアを除去してから塗布を行ってもよい。湿式成膜は、スラリーに基材11を浸けて(ディップ)引き上げることで行ってもよいし、電着塗装法により行ってもよいし、先に例示した方法のいずれかを用いてもよい。湿式成膜は、基材11の全体に対して行ってもよいし、平板状の基材11の一方の面のみに行ってもよい。なお後者の場合、湿式成膜が行われ保護膜12が形成された面が、単セル3の空気極31に接合されることになる。湿式成膜が行われず基材11の素材が露出している面が、単セル3の燃料極32に接合されることになる。
【0046】
〔焼結ステップ〕
焼結ステップでは、塗膜を湿式成膜した基材11に熱処理を施し、微粉末を焼結させて基材11の表面に保護膜12を形成する。熱処理は、875℃以上950℃以下の温度で行われると好適であり、875℃以上900℃以下の温度で行われるとさらに好適である。
【0047】
焼結ステップにおける熱処理は、固体酸化物形燃料電池用セルの単セル3と基材11とを接合しない状態で行われてもよい。熱処理の際の雰囲気としては、種々選択が可能である。微粉末を含有するスラリーの塗布が基材11の一方の面に対して行われ、他方の面では基材11の素材が露出している場合には、熱処理を不活性ガスや還元ガスの雰囲気下で行うと、基材11の素材が露出した面の酸化を抑制することができ好適である。
【0048】
〔固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法〕
続いて固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法について説明する。固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法は、粉砕ステップと、成膜ステップと、接合ステップと、焼結ステップとを有する。粉砕ステップと成膜ステップについては、上述したセル間接続部材の製造方法と同様であるため、説明を省略する。
【0049】
〔接合ステップ〕
接合ステップでは、固体酸化物形燃料電池用セルの単セル3とスラリーを塗布した基材11とを接合してセルスタックを形成する。セルスタックの形成は、例えば次の様に行う。単セル3と基材11との間に接合材を挟んで(あるいは塗布して)、単セル3と基材11とを交互に積み重ねる。なお、ガラスシール材によるシール(封止)が必要な部位(例えに、マニホールドとの接合部位や、単セル3と基材11との間など)に、結晶化ガラス含有するスラリーを塗布してもよい。そして、積層した単セル3と基材11の全体をボルト等で固定する。
【0050】
〔焼結ステップ〕
焼結ステップでは、セルスタックに熱処理を施し、微粉末を焼結させて基材11の表面に保護膜12を形成する。熱処理は、セル間接続部材の製造方法と同様、875℃以上950℃以下の温度で行われると好適であり、875℃以上900℃以下の温度で行われるとさらに好適である。
【0051】
熱処理は、空気流路2aに空気を流し、燃料流路2bに水素(燃料ガス)を流した状態で行う。そうすると、基材11の水素(燃料ガス)と接する面は、酸化物皮膜の形成を抑制することができ好適である。セルスタックにガラスシール材を使用した封止を行っている場合には、ガラスシール材の耐熱温度よりも低い温度で熱処理を行うと好ましい。例えば、ガラスシール材の耐熱温度が950℃の場合には、熱処理を900℃で行うと、ガラスシール材に与える熱的ダメージを低減できるため好ましい。また焼結ステップの熱処理において、燃料極32の還元処理を同時に行うよう構成してもよい。
【0052】
〔実験例1:イットリア安定化ジルコニアによる粉砕〕
粉砕メディアとしてイットリア安定化ジルコニアを用いた場合(実験例1)とアルミナを用いた場合(実験例2)について、保護膜12の性能評価(テープ剥離試験)と、粉砕された導電性セラミックス材料の微粉末に残留する粉砕メディア由来成分の濃度測定を行った。
【0053】
導電性セラミックス材料として、MnCo2o4を用い、セル間接続部材1の基材11としてSUS445J1(フェライト系ステンレス)の部材を用いた。実験例1では、粉砕メディアとして、イットリア安定化ジルコニア(以下「YSZ」と記す。)のボールを用いた。YSZボールにて粉砕したMnCo2O4の微粉末15g(平均粒径約0.5μm)と、溶媒としてのアルコール(1−メトキシ−2−プロパノール)30gと、バインダ樹脂としてのヒドロキシプロピルセルロース2.7gと、混合促進のための分散メディア(YSZボール)とを、ペイントシェーカーにて混合し、スラリーを作成した。スラリーに基材11をディップし、引き上げ後、室温で乾燥させた。その後、箱形電気炉で加熱して熱処理を行い、溶媒およびバインダ樹脂の分解・脱離と、保護膜12の焼結を行った。
【0054】
実験例1では、850℃、875℃、900℃、925℃、950℃、1000℃の6種類の熱処理温度にて、6種類のサンプルを作成した。これらのサンプルに対し、テープ剥離試験を行った。テープ剥離試験は、テープ(ダイヤテックス製、パイオラン養生用粘着テープY−09−GR)を保護膜12に貼り付け、テープを剥がして行い、テープに保護膜12の欠片が付着しているか否かを目視で確認することにより行った。テープに保護膜12の欠片が付着していない場合に、保護膜12が適切に形成されていると判断した。
【0055】
粉砕メディアとしてアルミナボールを用い、他は実験例1と同様にしてサンプルを作成した。熱処理の温度は、875℃、900℃、950℃、975℃、1000℃、1050℃の6種類である。
【0056】
〔テープ剥離試験の結果〕
テープ剥離試験の結果を表1に示す。実験例1では、875℃以上1000℃以下の温度範囲にて、テープに保護膜12の欠片が付着せず、保護膜12が適切に形成されていた。一方実験例2では、1000℃以上の温度範囲でテープに保護膜12の欠片が付着せず、保護膜12が適切に形成されていた。875℃以上975℃以下の温度範囲では、保護膜12が剥離し、テープに保護膜12の欠片が付着した。すなわち、保護膜12が適切に形成されなかった。
【0057】

○:付着なし ×:付着あり −:サンプル作成せず
【0058】
以上の結果から、粉砕メディアとしてアルミナを用いた場合(実験例2)は、熱処理の温度を1000℃以上にしないと保護膜12を適切に形成できないと分かった。一方、粉砕メディアとしてYSZ(イットリア安定化ジルコニア)を用いた場合(実験例1)は、熱処理の温度をより低くしても保護膜12の形成が可能であり、875℃以上の温度で保護膜12の適切な形成が可能であると分かった。特に875℃以上950℃以下の温度範囲では、実験例2では保護膜12が適切に形成できないが、実験例1では保護膜12を適切に形成することができた。
【0059】
〔粉砕メディア由来成分の濃度測定〕
実験例1および2に用いたMnCo2O4粉末について、粉末中に残留している粉砕メディア由来成分の濃度を、ICP(プラズマ発光分析)により測定した。すなわち、実験例1のYSZボールで粉砕したMnCo2O4粉末については、Zrの濃度を測定し、実験例2のアルミナボールで粉砕したMnCo2O4粉末については、Alの濃度を測定した。結果を表2に示す。
【0060】

【0061】
以上の結果から、粉砕メディアとしてアルミナを用いた場合(実験例2)に比べ、粉砕メディアとしてYSZ(イットリア安定化ジルコニア)を用いた場合(実験例1)では、粉砕されたMnCo2O4粉末に残留する粉砕メディア由来成分の濃度が約1/30に低減されることが分かった。
【0062】
(他の実施形態)
上述の実施形態では、セル間接続部材の製造方法において、焼結ステップにおける熱処理が単セル3と基材11とを接合しない状態、すなわち基材11単独にて行われた。これを変更し、固体酸化物形燃料電池用セルの単セル3と基材11とが接合され、セルスタックが形成された状態で行われてもよい。この場合、保護膜12の焼結と、単セル3と基材11との間の接合材の焼成が一度に行われるので、製造プロセスのコスト低減が可能となり好適である。また熱処理が900℃以下の温度で行われると、ガラスシール材による封止・接合(セルスタックとマニホールドとの間、単セル3と基材11との間など)までも一度に行うことができ、製造プロセスの大幅なコスト低減ができさらに好適である。また、微粉末を含有するスラリーの塗布が基材11の一方の面に対して行われ、他方の面では基材11の素材が露出している場合には、スラリーが塗布された一方の面に単セル3の空気極31を接合し、素材が露出した他方の面には単セル3の燃料極32を接合する。そして、空気流路2aに空気を流し、燃料流路2bに水素(燃料ガス)を流して熱処理を行う。この場合、基材11の水素(燃料ガス)と接する面は、酸化物皮膜の形成を抑制することができ好適である。
【符号の説明】
【0063】
1 :セル間接続部材
2 :溝
2a :空気流路
2b :燃料流路
3 :単セル
4 :接合材
11 :基材
12 :保護膜
30 :電解質膜
31 :空気極
32 :燃料極
C :固体酸化物形燃料電池用セル
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物形燃料電池用セルに用いられるセル間接続部材の製造方法であって、
安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いて導電性セラミックス材料を粉砕し、微粉末を作成する粉砕ステップと、
前記微粉末を含有するスラリーを用いて前記セル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップと、
塗膜を湿式成膜した前記基材に875℃以上の温度で熱処理を施し、前記微粉末を焼結させて基材の表面に保護膜を形成する焼結ステップとを有し、
前記導電性セラミックス材料が、コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1−x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する、セル間接続部材の製造方法。
【請求項2】
前記安定化ジルコニアが、イットリア安定化ジルコニア、スカンジウム安定化ジルコニアから選ばれる少なくとも一つを含有する請求項1に記載のセル間接続部材の製造方法。
【請求項3】削除
【請求項4】
前記導電性セラミックス材料が、コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)を主成分とする請求項1または2に記載のセル間接続部材の製造方法。
【請求項5】
前記焼結ステップにおける前記熱処理が、950℃以下の温度で行われる請求項1、2、4のいずれか1項に記載のセル間接続部材の製造方法。
【請求項6】削除
【請求項7】
前記焼結ステップにおける前記熱処理が、固体酸化物形燃料電池用セルの単セルと前記基材とを接合しない状態で行われる請求項1、2、4、5のいずれか1項に記載のセル間接続部材の製造方法。
【請求項8】
前記焼結ステップにおける前記熱処理が、固体酸化物形燃料電池用セルの単セルと前記基材とが接合され、セルスタックが形成された状態で、950℃以下の温度で行われる請求項1、2、4、5のいずれか1項に記載のセル間接続部材の製造方法。
【請求項9】
固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法であって、
安定化ジルコニアを粉砕メディアとして用いて導電性セラミックス材料を粉砕し、微粉末を作成する粉砕ステップと、
前記微粉末を含有するスラリーを用いてセル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する成膜ステップと、
固体酸化物形燃料電池用セルの単セルと塗膜を湿式成膜した前記基材とを接合してセルスタックを形成する接合ステップと、
前記セルスタックに875℃以上の温度で熱処理を施し、前記微粉末を焼結させて基材の表面に保護膜を形成する焼結ステップとを有し、
前記導電性セラミックス材料が、コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1−x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する、固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法。
【請求項10】
前記焼結ステップにおける前記熱処理が、950℃以下の温度で行われる請求項9に記載の固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-12-13 
出願番号 P2016-020791
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (H01M)
P 1 651・ 121- YAA (H01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 粟野 正明
太田 一平
登録日 2020-07-30 
登録番号 6742104
権利者 大阪瓦斯株式会社
発明の名称 セル間接続部材の製造方法、および固体酸化物形燃料電池用セルの製造方法  
代理人 特許業務法人R&C  
代理人 特許業務法人R&C  

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