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審決分類 |
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C08J 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08J |
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管理番号 | 1383263 |
総通号数 | 4 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-04-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-12-03 |
確定日 | 2022-01-05 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6702414号発明「プリプレグ、樹脂含浸物の製造方法および樹脂含浸物の製造装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6702414号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−8〕について訂正することを認める。 特許第6702414号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6702414号の請求項1〜3に係る特許についての出願は、平成30年3月27日(優先権主張 平成29年3月29日)を国際出願日とする出願であって、令和2年5月11日にその特許権の設定登録(請求項の数14)がされ、令和2年6月3日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和2年12月3日に特許異議申立人 伴よし子(以下、「特許異議申立人」という。)は、特許異議の申立てをした。 特許異議の申立て以降の手続の経緯は、以下のとおりである。 令和2年12月 3日 特許異議申立書の提出 令和3年 1月29日付け 取消理由通知書 同 年 4月 2日 訂正請求書、意見書の提出(特許権者) 同 年 4月16日付け 訂正拒絶理由通知書 同 年 5月21日 意見書の提出(特許権者) 同 年 6月 4日付け 通知書 同 年 7月 8日 意見書の提出(特許異議申立人) 同 年 8月20日付け 取消理由通知書(決定の予告) 同 年10月15日 訂正請求書、意見書の提出(特許権者) なお、令和3年4月2日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 また、下記「第2 訂正の適否」にあるように、令和3年10月15日になされた特許権者による訂正請求によって特許請求の範囲が相当程度減縮され、事件において提出された全ての証拠や意見等を踏まえて更に審理を進めたとしても特許を維持すべきとの結論となると当審が判断したため、当審は、特許法第120条第5項ただし書における特別の事情があると認め、特許異議申立人に対して同項の通知を行っていない。 第2 訂正の適否 1.訂正の内容 令和3年10月15日提出の訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項1のとおりである(下線部は訂正箇所を示す。)。 [訂正事項1] 特許請求の範囲の請求項1に 「前記シート状強化繊維基材が織物、シートモールディングコンパウンド、またはノンクリンプファブリックであり、」 とあるのを、 「前記シート状強化繊維基材が織物、またはノンクリンプファブリックであり、」 に訂正する。 請求項1の記載を引用する請求項2から8についても同様に訂正する。 2.一群の請求項について 訂正前の請求項1〜8について、請求項2〜8は、それぞれ請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、請求項1〜8は、一群の請求項に該当する。 したがって、訂正事項1は、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。 3.訂正の目的 訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「前記シート状強化繊維基材が織物、シートモールディングコンパウンド、またはノンクリンプファブリックであり、」から「シートモールディングコンパウンド、」を削除することにより、訂正前の請求項1に記載された「シート状強化繊維基材」の選択肢を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 4.願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること、及び、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないこと 訂正事項1について、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1には、「織物、シートモールディングコンパウンド、またはノンクリンプファブリック」との記載があり、選択肢として「織物、またはノンクリンプファブリック」の場合が記載されているといえるから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかである。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 5.特許出願の際に独立して特許を受けることができること 本件においては、訂正前の請求項1〜3について特許異議の申立てがされているから、訂正前の請求項1〜3に係る訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の要件は課されない。 また、訂正事項1により同様に訂正される請求項4〜8については、訂正後の発明が独立して特許を受けることができないとする理由が見当たらない。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の規定に適合する。 6.小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項の規定に適合するとともに、同条第9項において準用する同法第126条第5項ないし第7項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−8〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 本件訂正は、上記第2で検討したとおり適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明3」といい、これらをまとめて「本件発明」ということがある。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 強化繊維からなる繊維束を含むシート状強化繊維基材と、樹脂組成物を含むマトリクス樹脂とを含むプリプレグであって、 前記シート状強化繊維基材が織物、またはノンクリンプファブリックであり、 前記シート状強化繊維基材の目付が400g/m2以上であり、 プリプレグ中のマトリクス樹脂の含有量が、33質量%以上45質量%以下であり、 プリプレグは揮発成分を含んでもよく、プリプレグが揮発成分を含む場合、プリプレグ中の前記揮発成分の含有量が0質量%を超え0.50質量%以下であり、 前記シート状強化繊維基材を構成する前記繊維束の前記マトリクス樹脂の含浸率が70%以上であるプリプレグ。 【請求項2】 任意の繊維束の繊維方向に直交する方向のプリプレグの垂直断面において、前記任意の繊維束の周囲に残存しているマトリクス樹脂の断面積Arと、前記任意の繊維束の断面積Acの(Ar/Ac)×100で表される比率が10%以下である、請求項1に記載のプリプレグ。 【請求項3】 前記シート状強化繊維基材の目付が、400g/m2以上1500g/m2以下である、請求項1または2に記載のプリプレグ。」 第4 特許異議申立人が特許異議申立書に記載した申立ての理由について 令和2年12月3日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。 1.申立理由1(実施可能要件) 本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 なお、申立理由1の概略は次のとおりである。 (1)シート状強化繊維基材がシートモールディングコンパウンドである場合、シートモールディングコンパウンドに当初から含浸されているマトリクス樹脂と、後から含浸させたマトリクス樹脂とを見分けることはできないから、マトリクス樹脂の含浸率を正確に測定することができない。 (2)シート状強化繊維基材がシートモールディングコンパウンドである場合、マトリクス樹脂が二重に含浸されたものとなるから、マトリクス樹脂の含有量を正確に測定することができない。 (3)シート状強化繊維基材がシートモールディングコンパウンドである場合、シート状強化繊維基材の目付は、プリプレグシート作成前の重量を測定した値か、マトリクス樹脂を除去した後の重量を測定した値のいずれを正しい目付とすべきか理解できない。 (4)プリプレグ中の揮発成分の含有量は、ガスクロマトグラフィーを用いて測定することが記載されているが、ガスクロマトグラフィーの測定条件が記載されておらず、絶対検量線法、内部標準法、面積分布測定法等いずれの手法を用いて測定するか記載がないので、プリプレグ中の揮発成分の含有量を正確に測定することができない。 (5)実施例A6はシートモールディングコンパウンドの実施例を示すものであるが、当該実施例には樹脂フィルムの具体的な材質や目付に関する記載がなく、チョップド繊維束との配合比率も明らかではないから、この実施例A6の記載のみからは、どのようにしてシート状強化繊維基材を得るかを理解できない。 2.申立理由2(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 なお、申立理由2の概略は次のとおりである。 (1)シート状強化繊維基材がシートモールディングコンパウンドである場合、シート状強化繊維基材としてのシートモールディングコンパウンドに既にマトリクス樹脂が含浸された上に、二重にマトリクス樹脂を含浸させようとすると「含浸対象シート状物102が厚くなり、含浸させる樹脂の量が多くなっても、樹脂流れを抑えつつ、含浸対象シート状物102に樹脂を十分に含浸させることができる。」という作用効果が得られるとは到底考えられない。 したがって、本件特許発明1には、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになるものに該当する。 (2)シート状強化繊維基材がシートモールディングコンパウンドである場合の具体的な形態として【0017】及び、実施例A6に記載があるのみであって、樹脂フィルムの具体的な材質や目付に関する記載がなく、チョップド繊維束との配合比率も明らかではないから、本件特許発明1及び3で規定する目付、本件特許発明1で規定されるマトリクス樹脂の含有量、本件特許発明1で規定されるマトリクス樹脂の含浸率、および本件特許発明2で規定される断面積の比率を具体的に算出することはできないため、本件特許発明1ないし3にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 3.申立理由3(明確性要件) 本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 なお、申立理由3の概略は次のとおりである。 ・本件特許発明1のシートモールディングコンパウンドは、シート状強化繊維基材のことを示しているのか、樹脂含浸物のことを示しているのか、一義的に定まらないから、本件特許の請求項1並びに請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2及び3には発明の明確性欠如の記載不備がある。 4.証拠方法 甲第 1号証:「P&T−GC/MS法による微量揮発性成分の分析」(ニチアス技術時報、No.328、2001 6号) 甲第 2号証:「最新ガスクロマトグラフィー」(舟阪 渡、池川 信夫 編著、廣川書店、p.307−314、昭和54年2月15日 第12版発行) 甲第 3号証:熱可塑性スタンパブルシートの研究開発(2012年度 日本複合材料学会技術賞 受賞技術の概念:日本複合材料学会誌、Vol.40、No.2、(2014)、P.81−86) 甲第 4号証:国際公開第2007/097436号 甲第 5号証:特開平4−163109号公報 甲第 6号証:特開2007−262360号公報 甲第 7号証:特許第5627803号公報 甲第 8号証:国際公開第2014/129497号 甲第 9号証:特表2007−509783号公報 甲第10号証:特開平9−286036号公報 なお、甲第3ないし10号証は、令和3年7月8日に提出された意見書に添付されたものである。 第5 令和3年8月16日付け取消理由通知書で通知した取消理由(決定の予告)について 1.取消理由(決定の予告)の概要 令和3年8月16日付け取消理由通知書により、以下の理由1、2の取消理由(決定の予告)が通知された。 (1)取消理由1(実施可能要件) 本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 本件特許発明1は「強化繊維からなる繊維束を含むシート状強化繊維基材と、樹脂組成物を含むマトリクス樹脂とを含むプリプレグであって、前記シート状強化繊維基材が…(中略)…シートモールディングコンパウンド…(中略)…であり…(中略)…前記シート状強化繊維基材を構成する前記繊維束の前記マトリクス樹脂の含浸率が70%以上である」と特定され、シート状強化繊維基材がシートモールディングコンパウンドであるものを含む。 そして、発明の詳細な説明には、シート状強化繊維基材を構成する繊維束のマトリクス樹脂の含浸率の含浸率の測定方法として、「図11に示すように繊維束の未含浸部の断面積Aui、1ブロック当たりの面積(Aui+Ai+Ar)を測定する。繊維束の面積(Aui+Ai)は樹脂を含浸する前のトウ束面積を測定しておき、…(中略)…繊維束の含浸部断面積Aiを算出する。含浸率は下記式(11)…(中略)…によって定義する。」(【0066】)、「Ai/(Aui+Ai)×100 ・・・(11)」(【0067】)と記載されている。 この発明の詳細な説明に記載されたマトリクス樹脂の含浸率の測定方法は、あくまで、樹脂が含浸されていない繊維束に対してマトリクス樹脂を含浸する場合の測定方法であって、樹脂が既に含浸された繊維束(シートモールディングコンパウンド内部の繊維束)に対してマトリクス樹脂を含浸する場合のマトリクス樹脂の含浸率の測定方法ではない。 そして、樹脂が既に含浸された繊維束(シートモールディングコンパウンド内部の繊維束)に対してマトリクス樹脂を含浸する場合のマトリクス樹脂の含浸率の測定方法が、出願時の技術常識であるともいえない。 そうすると、本件特許発明1は、シート状強化繊維基材がシートモールディングコンパウンドであるものを含むから、そのようなものについては、シートモールディングコンパウンド内部の繊維束のマトリクス樹脂の含浸率をどのように測定するのか当業者が理解できず、本件特許発明1のプリプレグを作成するにあたり、当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤を要求するものである。 また、この点は、請求項1を引用する本件特許発明2ないし3についても同様である。 (2)取消理由2(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 発明の詳細な説明の段落【0016】及び【0017】、実施例A1ないしA5、表2及び3には、「シート状強化繊維基材」を、「織物」とすることが記載され、段落【0016】及び【0017】、実施例A7、表2及び3には、「シート状強化繊維基材」を、「ノンクリンプファブリック」とすることが記載され、段落【0058】、実施例A1ないしA5及びA7、表2及び3には、「シート状強化繊維基材の目付」を「400g/m2以上」とすることが記載され、段落【0061】、実施例A1ないしA5及びA7、表2及び3には、「プリプレグ中のマトリクス樹脂の含有量」を「33質量%以上45質量%以下」とすることが記載されている。そして、段落【0065】、実施例A1ないしA5及びA7、表2及び3には、「シート状強化繊維基材」を、「織物又はノンクリンプファブリック」とした場合に、「織物又はノンクリンプファブリックを構成する繊維束のマトリクス樹脂の含浸率」が「70%以上」となり、発明の課題を解決することが具体例とともに記載されている。 一方で、シート状強化繊維基材を、シートモールディングコンパウンドとした場合に、マトリクス樹脂の含浸率が70%以上となることの説明はなされていないし、それが確認できる実施例も記載されていない。さらに、シートモールディングコンパウンドにマトリクス樹脂を含浸させた際の含浸率が70%以上となることが、出願時の技術常識であるともいえない。 そうすると、発明の詳細な説明には、シート状強化繊維基材を、シートモールディングコンパウンドとした場合に、マトリクス樹脂の含浸率が70%以上となり、発明の課題を解決することは、記載されていないといえる。 以上のことからすると、当業者は、強化繊維からなる繊維束を含むシート状強化繊維基材と、樹脂組成物を含むマトリクス樹脂とを含むプリプレグにおいて、シート状強化繊維基材が織物又はノンクリンプファブリックであり、シート状強化繊維基材の目付が400g/m2以上であり、プリプレグ中のマトリクス樹脂の含有量が、33質量%以上45質量%以下であり、シート状強化繊維基材が織物又はノンクリンプファブリックであって、マトリクス樹脂の含浸率が70%以上という特定事項を有するものであれば、発明の課題を解決すると認識する。 しかし、本件特許発明1は、「シート状強化繊維基材」が、「織物又はノンクリンプファブリック」であるもののみならず、マトリクス樹脂の含浸率が70%以上とならないシートモールディングコンパウンドが含まれているから、本件特許発明1は、発明の課題を解決しないものを含むものである。 そして、この点は、請求項1を引用する本件特許発明2ないし3についても同様である。 したがって、本件特許発明1ないし3に関して、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえないし、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。 第6 取消理由(決定の予告)についての判断 1.取消理由1(実施可能要件)について 本件発明1においては、シート状強化繊維基材がシートモールディングコンパウンドを含まなくなったため、上記の取消理由には理由がない。 そして、この点は、請求項1を引用する本件発明2ないし3についても同様である。 2.取消理由2(サポート要件)について 本件発明1においては、シート状強化繊維基材がシートモールディングコンパウンドを含まなくなったため、上記の取消理由には理由がない。 そして、この点は、請求項1を引用する本件発明2ないし3についても同様である。 3.小括 以上のとおり、令和3年8月16日付け取消理由通知書で通知した取消理由(決定の予告)は、いずれも理由がない。 第7 取消理由(決定の予告)で採用しなかった申立ての理由についての判断 1.申立理由1(実施可能要件)について 上記第4 1.のうち、(1)は第5 1.(1)のとおり、取消理由1として採用したものであるから、以下(2)〜(5)について検討する。 (2)マトリクス樹脂の含有量について 本件発明は「シートモールディングコンパウンド」を含まないので、当該申立理由には理由がない。 (3)シート状強化繊維基材の目付について 本件発明は「シートモールディングコンパウンド」を含まないので、当該申立理由には理由がない。 (4)プリプレグ中の揮発成分の含有量について 明細書【0064】に「プリプレグ中の揮発成分の測定は、具体的には所定の大きさに切断したプリプレグをMEKやアセトンなどの溶媒に浸漬させ、超音波洗浄機に入れて残留溶剤(揮発成分)の抽出を行い、抽出後の溶液はバイアル瓶に移し、ガスクロマトグラフィーを用いてプリプレグ中に含まれる残留溶剤(揮発成分)の成分量を定量する事が出来る。」と記載されており、揮発成分は残留溶媒であることが明らかであるから、残留溶媒であるプリプレグ中の揮発成分の含有量を正確に測定するための適切な条件・測定法を採用することは、当業者が通常行う事項であり、実施可能と認められる。 よって、当該申立理由では、本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。 (5)実施例A6について 本件発明は「シートモールディングコンパウンド」を含まないので、当該申立理由には理由がない。 2.申立理由2(サポート要件)について 上記第4 2.のうち、(1)は、第5 1.(2)のとおり取消理由2として採用したものであるから、以下(2)について検討する。 ・シート状強化繊維基材がシートモールディングコンパウンドである場合の具体的な形態の記載が不十分である点について 本件発明は「シートモールディングコンパウンド」を含まないので、当該申立理由には理由がない。 3.申立理由3(明確性要件)について 本件発明は「シートモールディングコンパウンド」を含まないので、当該申立理由には理由がない。 第8 むすび 以上のとおりであるから、取消理由(決定の予告)及び特許異議申立書に記載された申立ての理由によっては、本件特許の請求項1〜3に係る特許を取り消すことはできない。また、他に当該特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 強化繊維からなる繊維束を含むシート状強化繊維基材と、樹脂組成物を含むマトリクス樹脂とを含むプリプレグであって、 前記シート状強化繊維基材が織物、またはノンクリンプファブリックであり、 前記シート状強化繊維基材の目付が400g/m2以上であり、 プリプレグ中のマトリクス樹脂の含有量が、33質量%以上45質量%以下であり、 プリプレグは揮発成分を含んでもよく、プリプレグが揮発成分を含む場合、プリプレグ中の前記揮発成分の含有量が0質量%を超え0.50質量%以下であり、 前記シート状強化繊維基材を構成する前記繊維束の前記マトリクス樹脂の含浸率が70%以上であるプリプレグ。 【請求項2】 任意の繊維束の繊維方向に直交する方向のプリプレグの垂直断面において、前記任意の繊維束の周囲に残存しているマトリクス樹脂の断面積Arと、前記任意の繊維束の断面積Acの(Ar/Ac)×100で表される比率が10%以下である、請求項1に記載のプリプレグ。 【請求項3】 前記シート状強化繊維基材の目付が、400g/m2以上1500g/m2以下である、請求項1または2に記載のプリプレグ。 【請求項4】 開口率が0.5%以下である、請求項1〜3のいずれかに記載のプリプレグ。 【請求項5】 40℃におけるカンチレバー値が10mm以上50mm以下である、請求項1〜4のいずれかに記載のプリプレグ。 【請求項6】 前記樹脂組成物の硬化開始温度が80〜150℃であり、かつ、前記硬化開始温度における粘度(最低粘度)が0.1〜10Pa・Sである、請求項1〜5のいずれかに記載のプリプレグ。 【請求項7】 前記樹脂組成物が、エポキシ樹脂組成物である、請求項1〜6のいずれかに記載のプリプレグ。 【請求項8】 前記強化繊維が炭素繊維である、請求項1〜7のいずれかに記載のプリプレグ。 【請求項9】 含浸対象シート状物と樹脂層とを重ねた積層体を、プレスロールと前記プレスロールに対向配置された対向ロールとの間に通して加圧することによって前記含浸対象シート状物に樹脂が含浸した樹脂含浸物を製造する方法であり、 前記積層体を、前記プレスロールと前記対向ロールとの間に通した後、前段と同じまたは前段とは異なるプレスロールと対向ロールとの間に通すことによって、プレスロールと対向ロールとの間に合計でm(ただしmは2以上の整数である。)回通過させ、 前記プレスロールが、外周面に複数の凸部と前記凸部間に形成された連続した凹部とを有し、かつ、下記条件(α)を満足する凹凸プレスロールである、樹脂含浸物の製造方法。 <条件(α)> 前記積層体をa回目に通過させる凹凸プレスロールについて下記式(1)から求めたXaと、前記積層体をb回目に通過させる凹凸プレスロールについて下記式(1)から求めたXbとが、下記式(2)の関係を満足するaおよびbが存在する。ただし、aおよびbは、1≦a<b≦mの整数である。 Xa>Xb・・・(2) Xi=Ai×Wi・・・(1) ただし、iは1〜mの整数であり、Aiは前記凸部および前記凹部が形成された領域における前記凹部の面積の割合であり、Wiは凹部の幅(mm)である。 【請求項10】 前記式(1)から求めたXiが、0.5〜6である、請求項9に記載の樹脂含浸物の製造方法。 【請求項11】 前記凹凸プレスロールが、さらに下記条件(β)を満足する、請求項9または10に記載の樹脂含浸物の製造方法。 <条件(β)> 前記領域から無作為に選ばれた20箇所の凹部の深さを測定し、これらを平均化して求めた凹部の深さDと、前記凹部の幅Wとが、下記式(3)の関係を満足する。 D≧W×0.35・・・(3) 【請求項12】 含浸対象シート状物と樹脂層とを重ねた積層体を、プレスロールと前記プレスロールに対向配置された対向ロールとの間に通して加圧することによって前記含浸対象シート状物に樹脂が含浸した樹脂含浸物を製造する装置であり、 前記積層体の移動方向に間隔をあけて配置されたm(ただしmは2以上の整数である。)本のプレスロールと、前記プレスロールに対向配置された対向ロールとを備え、 前記プレスロールが、外周面に複数の凸部と前記凸部間に形成された連続した凹部とを有し、かつ、下記条件(α)を満足する凹凸プレスロールである、樹脂含浸物の製造装置。 <条件(α)> 前記積層体の移動方向の最も上流側からa本目の凹凸プレスロールについて下記式(1)から求めたXaと、前記積層体の移動方向の最も上流側からb本目、の凹凸プレスロールについて前記式(1)から求めたXbとが、下記式(2)の関係を満足するaおよびbが存在する。ただし、aおよびbは、1≦a<b≦mの整数である。 Xa>Xb・・・(2) Xi=Ai×Wi・・・(1) ただし、iは1〜mの整数であり、Aiは前記凸部および前記凹部が形成された領域における前記凹部の面積の割合であり、Wiは凹部の幅(mm)である。 【請求項13】 前記式(1)から求めたXiが、0.5〜6である、請求項12に記載の樹脂含浸物の製造装置。 【請求項14】 前記凹凸プレスロールが、さらに下記条件(β)を満足する、請求項12または13に記載の樹脂含浸物の製造装置。 <条件(β)> 前記領域から無作為に選ばれた20箇所の凹部の深さを測定し、これらを平均化して求めた凹部の深さDと、前記凹部の幅Wとが、下記式(3)の関係を満足する。 D≧W×0.35・・・(3) |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2021-12-17 |
出願番号 | P2018-521132 |
審決分類 |
P
1
652・
536-
YAA
(C08J)
P 1 652・ 537- YAA (C08J) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
加藤 友也 |
特許庁審判官 |
奥田 雄介 植前 充司 |
登録日 | 2020-05-11 |
登録番号 | 6702414 |
権利者 | 三菱ケミカル株式会社 |
発明の名称 | プリプレグ、樹脂含浸物の製造方法および樹脂含浸物の製造装置 |
代理人 | 田▲崎▼ 聡 |
代理人 | 伏見 俊介 |
代理人 | 田▲崎▼ 聡 |
代理人 | 伏見 俊介 |
代理人 | 大浪 一徳 |
代理人 | 大浪 一徳 |