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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E03C
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  E03C
管理番号 1383464
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-05-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2019-03-07 
確定日 2022-03-31 
事件の表示 上記当事者間の特許第5975433号「排水栓装置」の特許無効審判事件についてされた令和 2年 2月 6日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(令和2年(行ケ)第10030号、令和 3年 4月28日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1 一次審決までの主な手続の経緯
特許第5975433号(以下「本件特許」という。)の請求項1に係る発明についての出願は、平成22年5月18日に出願されたものであって、平成28年7月29日にその特許権の設定登録がされたものである。

その後、本件と同一の請求人により平成28年11月28日に別件の無効審判請求がされ、無効2016−800131号事件として審理されたところ、平成29年2月9日に訂正請求がなされ、同年9月20日に訂正を認め請求不成立の審決がされ、請求人により審決取消訴訟が提起されたものの請求棄却の判決がなされ、その後確定した。

そして、本件無効審判事件における令和2年2月6日付け審決(以下「一次審決」という。)までの主な手続の経緯は次のとおりである。
平成31年 3月 7日 審判請求書提出
令和 1年 6月 6日 審判事件答弁書提出
令和 1年 6月28日 審理事項通知(起案日)
令和 1年 7月26日 請求人より口頭審理陳述要領書提出
令和 1年 8月 8日 被請求人より口頭審理陳述要領書提出
令和 1年 9月 2日 第1回口頭審理
令和 1年 9月17日 請求人より上申書提出
令和 1年 9月17日 被請求人より上申書提出
令和 1年 9月30日 審決の予告(起案日)
令和 2年 2月 6日 一次審決(請求人送達日:同月17日)

一次審決の結論は「特許第第5975433の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」というものである。

2 審決取消訴訟
請求人は、一次審決の取消しを求めて、令和2年3月10日に知的財産高等裁判所に訴えを提起した。
上記訴えは、知的財産高等裁判所において、令和2年(行ケ)第10030号事件として審理され、令和3年4月28日に、主文を「1 特許庁が無効2019−800019号事件について令和2年2月6日にした審決を取り消す。2 訴訟費用は被告の負担とする。」とする判決(以下「取消判決」という。)の言渡しがあり、その後確定した。

3 当審における手続の経緯
その後、令和4年1月6日付けで審理再開通知がされた。

第2 取消判決の拘束力
審決を取り消す旨の判決の拘束力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたる(最三小平成4年4月28日判決、民集46巻4号245頁)。
したがって、当審の審理は、取消判決の判断、特に以下の判断に拘束されるものである(なお、当審が引用する取消判決の頁行は、知的財産高等裁判所ウェブページに掲載された判決におけるものである。)。

1 甲1発明の認定について
「前記(1)の甲1の記載事項及び本件審決認定の認定事項(ア)ないし(カ)によれば,甲1には,本件審決認定の甲1発明(前記第2の3(2)ア)が記載されていることが認められる。」
(取消判決31頁16行ないし18行)

2 本件発明と甲1発明との対比について
「本件発明と甲1発明とは,本件審決が認定した相違点1及び2(前記第2の3(2)イ)において相違することが認められる。」
(取消判決31頁19行ないし20行)

3 本件周知技術について
「前記アの記載事項(当審注:甲3,甲5及び甲8の記載事項)によれば,『水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,該円筒状陥没部の底部に内向きフランジ部を形成し,該内向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取付けること』(本件周知技術)は,本件出願当時,周知であったことが認められる。」
(取消判決35頁19行ないし22行)

4 相違点1の容易想到性について
「前記ア及びイによれば,甲1に接した当業者は,甲1発明の縁部2の構成について,取付けの強固さや水密性の点において課題があることを認識するとはいえないから,甲1発明の縁部2に本件周知技術の構成を適用する動機付けがあるものと認めることはできない。
したがって,当業者は,甲1及び本件周知技術に基づいて,甲1発明において,相違点1に係る本件発明の構成とすることを容易に想到することができたものと認めることはできない。」
(取消判決38頁1行ないし4行)

第3 本件発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、平成29年2月9日にされた訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「A.水槽の底部に,円筒状陥没部を形成し,
B.該円筒状陥没部の底部に形成された内向きフランジ部が排水口金具と接続管とで挟持取付けられて排水口部を形成し,
C.該排水口部には,排水口金具を露出しないように覆うカバーが該円筒状陥没部内に設けられ,
D.その円筒状陥没部内を上下動するカバーが,
D−1.前記排水口金具のフランジ部とほぼ同径であるとともに,
D−2.前記円筒状陥没部に接触せず,
D−3.止水時には,水槽の底部面に概ね面一とされ,
E.該カバーの下面には,排水口金具とで密閉可能に止水するパッキンを挿通保持する軸部が設けられて排水栓を構成し,
F.該排水栓の昇降でパッキンによる開閉がされることを特徴とする排水栓装置。」
(上記分説は、審判請求書5頁3〜14行による。)

第4 請求人の主張及び証拠方法
1 請求人の主張の概要
請求人は、本件特許発明の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、概ね以下のとおり主張し(審判請求書、口頭審理陳述要領書(以下「請求人要領書」という。)、上申書参照。)、証拠方法として甲第1号証、甲第3号証ないし甲第18号証を提出している。
〔無効理由〕
本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するか、または、甲第1号証に記載された発明及び周知技術(甲第3号証ないし甲第10号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。(第1回口頭審理調書参照。)
2 証拠方法
提出された証拠は、以下のとおりである。
甲第1号証 :独国実用新案第29904139号明細書
甲第3号証 :実願昭61−10011号(実開昭62−125173号 )のマイクロフィルム
甲第4号証 :特開平10−179435号公報
甲第5号証 :特開2000−220186号公報
甲第6号証 :特開平10−131255号公報
甲第7号証 :実願昭49−4545号(実開昭50−96038号)の マイクロフィルム
甲第8号証 :実願平1−1988号(実開平2−93373号) のマイクロフィルム
甲第9号証 :特開2010−37919号公報
甲第10号証:特開2008−25331号公報
甲第11号証:独国特許発明第3141878号明細書
甲第12号証:実公昭62−31487号公報
甲第13号証:実公昭63−29018号公報
甲第14号証:実公平6−25324号公報
甲第15号証:特開2007−169987号公報
甲第16号証:実願平3−36171号(実開平5−54678号)のC D−ROM
甲第17号証:実願平4−31889号(実開平5−89568号)のC D−ROM
甲第18号証:特開2005−131068号公報

なお、甲第2号証及び添付資料1と表記された書面は、証拠として提出されたものではない。(第1回口頭審理調書参照。)

3 請求人の具体的な主張
(1)甲第1号証に記載の発明
甲第1号証の図面には、
ア.浴槽の底部1に縁部2を内向きに凸となる円弧状にすることで縮径した開口部が形成されている点
イ.縁部2が排水カップ6のフランジ部と排水ケーシング3のフランジ部4とで挟持されている点
ウ.閉塞板7が、開口部内を上下動するものであり、排水カップ6のフランジ部とほぼ同径にされており、開口部に接触せず、止水時には水槽の底部1に概ね面一とされている点
エ.閉塞板7の下面には、排水カップ6とで密閉可能に止水するパッキンを挿通保持する軸部が設けられている点
オ.閉塞板7の昇降でパッキンによる開閉がされる点
が記載されている。
甲第1号証の明細書の3頁12〜31行(翻訳文3頁30行〜4頁12行)の記載及び図面の記載から、甲第1号証には、
a.浴槽の底部1に、開口部を形成し、
b.開口部の底部に形成された縁部2が排水カップ6と排水ケーシング3とで挟持取付けられ、
c.開口部には、排水カップ6を露出しないように覆う閉塞板7が設けられ、
d.開口部内を上下動する閉塞板7が、
d−1.排水カップ6のフランジ部とほぼ同径であるとともに、
d−2.開口部に接触せず、
d−3.止水時には、浴槽の底部1に概ね面一とされ、
e.閉塞板7の下面には、排水カップ6とで密閉可能に止水するパッキンを挿通保持する軸部が設けられ、
f.閉塞板7の昇降でパッキンによる開閉がされることを特徴とする排水装置の発明(甲1発明)が記載されていると言える。
(審判請求書6頁8行〜7頁21行)

(2)構成Bについて
ア 甲1発明の「開口部」について
本件特許の特許公報には、本件特許発明の「円筒状陥没部」が、上下方向において内径が略一定の円筒形状の部分のみからなるものなのか、又は水槽の底部から下方に向けて先窄まり状の傾斜面や曲面を含むのかが、明確にされていない。
この点に関して、被請求人は、本件特許に係る無効審判事件(無効2016−800131)における平成29年2月9日付審判事件答弁書の第7頁第29行〜第8頁第1行において「円筒状陥没部は、上下方向において内径が略一定の円筒形状を呈するものに限定されない」とした上で、同答弁書の第9頁第8〜10行において「円筒状陥没部は、カバーが内部に設けられるとともに、カバーと接触しないことでパッキンの押圧止水作用の妨げとならない必要があり、かつ、それで足りる。」としている。
一方、甲1発明の「開口部」は、甲第1号証の明細書及び図面に記載されている通り、浴槽の底部1に形成され、縁部2を貫通する方法で下側に向かって成形して内向きに凸となる円弧状にすることで縮径したものであり、後述するように本件特許発明の「カバー」に相当する「閉塞板7」が内部に設けられているとともに、「閉塞板7」と接触しないことでパッキンの押圧止水作用の妨げとならないものであることは明らかである。したがって、甲1発明の「開口部」は、本件特許発明の「円筒状陥没部」に相当する。
(審判請求書8頁6〜22行)

イ 甲1発明の「縁部2」について
本件特許発明の「内向きフランジ部」は、円筒状陥没部の底部に形成されている。一般に「フランジ部」は、管体等の部品の接合箇所に延出して形成されるものであるところ、本件特許発明の「内向きフランジ部」は、円筒状陥没部の底部から縮径するように延出するものであり、排水口金具と接続管とで挟持取付けるものである。即ち、本件特許発明の「内向きフランジ部」は、円筒状陥没部の底部から縮径するように延出させることで排水口金具と接続管とで挟持取付けるものである必要があり、かつ、それで足りる。
一方、甲1発明の「縁部2」は、開口部の底部に位置しており、開口部を縮径するように延出させるものであり、後述するように本件特許発明の「排水口金具」に相当する「排水カップ6」と後述するように本件特許発明の「接続管」に相当する「排水ケーシング3」とで挟持取付けるものである。
甲1発明の「縁部2」は、本件特許発明の「内向きフランジ部」と、「開口部」を縮径することによって「排水カップ6」と「排水ケーシング3」とで挟持取付けられるものである点で、構造的に共通し、「開口部」の底部に位置することで排水口金具が「浴槽の底部1」に露出しない状態で排水口金具と接続管とで挟持取付けられる点で、機能及び作用において共通している。
また、複数の管体を軸方向に接合する際に、接合箇所に拡径又は縮径するように延出する接合部分を形成することは当業者における常套手段であり、フランジとは、このような管体の接合部分の一形態として軸方向に直交する鍔状にしたものに過ぎない。
したがって、甲1発明の「縁部2」は、所謂フランジ形状を呈していないとしても、本件特許発明の「内向きフランジ部」と構造、機能及び作用が共通している以上、本件特許発明の「内向きフランジ部」と実質的に同一であり、本件特許発明の「内向きフランジ部」に相当する。
(審判請求書8頁24行〜9頁6行、9頁16〜18行、9頁23行〜10頁6行)

ウ 甲第1号証の縁部2が挟持されていることについて
甲1発明と特許権者が同一である特許の特許公報である甲第11号証には、図1として、パッキン(シールリング1)が記載されている。
甲第11号証の記載を参照すると、甲第1号証の図面に示されているパッキン5は、外力が作用していない弾性変形前には、フランジ4の上面に配置されている部分であって上面の内周側に全周にわたって溝部を有する環状ディスク、環状ディスクの内周側に位置する薄肉のタートルネック、タートルネックの上端部に位置する環状の周縁突起を一体的に備えた特殊な形状を呈し、複数の部品から外力が作用することで複数の部品同士の隙間を埋めるように弾性変形するものであり、甲第11号証に記載されたシールリング1と類似する形状であると理解できる。
そうとすると、甲第1号証の図面は、特殊な形状を呈するパッキン5の弾性変形前の形状を明確にすべく、排水カップ6の排水ケーシング3に対するネジ固定作業の途中の状態を示しているものと考えられる。そして、甲第1号証の図面の記載によれば、図示された状態から排水ケーシング3に対して排水カップ6をねじ込んでいくと、排水ケーシング3が上方に移動し、排水ケーシング3の上端部のフランジ4と縁部2の下端面とが接近することで、パッキン5の弾性変形を伴いながら縁部2の下端面とパッキン5との隙間が埋められていき、縁部2の下端面とパッキン5との隙間が無くなったときにパッキン5によって排水ケーシング3の上端部のフランジ4と縁部2の下端面との間の水密性が保たれることになり、同時に、上端部がパッキン5を介して縁部2の下端面に接する排水ケーシング3と上部外側の縁部分で縁部2の内周面に接する排水カップ6とで縁部2が挟持されることは明らかである。
(請求人要領書3頁下から3〜末行、4頁19行〜5頁14行)

進歩性違反について
仮に、甲1発明の「開口部」が内向きに凸となる円弧状にされており、甲1発明の「縁部2」が所謂フランジ形状を呈していないことから、本件特許発明の「内向きフランジ部」と相違するとしても、本件特許発明は、甲1発明及び周知技術に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、進歩性を有さない。
即ち、本件特許発明における「円筒状陥没部の底部に形成された内向きフランジ部が排水口金具と接続管とで挟持取付けられて排水口部を形成し」との構成Bは、甲第3号証〜甲第6号証等、本件特許の特許出願前における多数の刊行物に記載された周知技術である。
(審判請求書12頁13〜23行)

(3)構成D−1、D−2について
甲第1号証の図面において、閉塞板7が排水カップ6のフランジ部とほぼ同径である点、及び閉塞板7が開口部に接触しない点は、当業者ならずとも万人において一目瞭然であり、甲第1号証の図面に構成d−1及び構成d−2が記載されていることは、紛れもない事実である。
被請求人は、甲第1号証の図面は、排水ケーシング3の中心軸を通る断面図ではなく、排水ケーシング3の中心軸よりも手前の位置を通る断面図であると推測しているが、切断面の位置を示す何らの注釈や図面を記載することなく1本の中心線が記載された断面図は回転対称体の中心軸を通る断面を示すことが作図時の常識である。
(請求人要領書10頁下から3行〜11頁2行、11頁7〜9、15〜17行)

(4)構成Cについて
甲第1号証の図面において、排水カップ6のフランジ部とほど同径である閉塞板7が、排水カップ6の上方で、排水カップ6を覆うようにして設けられている点は、当業者ならずとも万人において一目瞭然であり、甲第1号証の図面に構成cが記載されていることは、紛れもない事実である。
(請求人要領書12頁21〜25行)

(5)構成E、構成Fについて
甲第16号証の図2及び図3、並びに甲第17号証の図2を参照すれば、甲第1号証の図面において請求人がパッキンと主張する部分は、閉塞板7の下面に設けられた軸部に挿通保持された略矩形断面部と、この略矩形断面部の外周面から水平方向に延出した薄板状断面部と、を有する部分であることが理解できる。
甲第16号証の段落0010の記載、甲第17号証の段落0008の記載から、甲第1号証の図面において請求人がパッキンと主張する部分は、薄板状断面部の外縁部が排水カップ6の内周面に弾性変形しつつ当接することで止水性を有するパッキンであることは、明らかである。
したがって、甲1発明において請求人がパッキンと主張する部分は、閉塞板7の上昇時に薄板状断面部の外周部が排水カップ6の内周面から離間して排水口を開放し、閉塞板7の下降時に薄板状断面部の外周部が排水カップ6の内周面に弾性変形しつつ当接することで排水口を閉鎖するものであり、甲第1号証には、構成e及び構成fが記載されていることは明白である。
(請求人要領書13頁5行〜15頁下から5行)

第5 被請求人の主張及び証拠方法
1 被請求人の主張の概要
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、請求人の主張する無効理由にはいずれも理由がない旨主張している(審判事件答弁書(以下「答弁書」という。)、口頭審理陳述要領書(以下「被請求人要領書」という。)、上申書参照。)。

2 被請求人の具体的な主張
(1)構成Bについて
ア 甲第1号証に構成bが記載されているどうか
甲第1号証における明細書や図面の記載から把握することができるのは、「排水カップ6が排水ケーシング3にネジ固定」されているという明細書に記載されている事項に止まり、甲第1号証において、上記構成b.が記載されているとまでは断言できない。特に甲第1号証の図面では、「Rand 2」(縁部2)の下端面と「Dichtung 5」(パッキン5)との間に明らかに隙間が存在していることから、甲第1号証において、縁部2が排水カップ6と排水ケーシング3とで挟持されていない可能性も十分にある。
(答弁書5頁5〜11行)

イ 「縁部2」が「内向きフランジ部」と実質的に同一かどうか
甲第1号証に記載された縁部2は、その明細書3頁16〜19行の記載の通り(翻訳文3頁32行〜4頁2行)、単に下側に向けて延びるものであり、円筒状陥没部の底部から内向きに突出する本件特許発明の「内向きフランジ部」とは形状面で全く異なるものである。また、このように「円筒状陥没部の底部に形成された内向きフランジ部が排水口金具と接続管とで挟持取付けられて排水口部を形成する」ことを特徴とするが故に、排水口金具や接続管をより正確な(例えば傾き等のない)姿勢で、かつ、非常に安定した状態で設置できるのは明らかであり、甲1発明では奏し得ない有利な作用効果が発揮される。従って、甲1発明の「縁部2」が、本件特許発明の「内向きフランジ部」と構造、機能及び作用が共通しているとは到底言えない。
(答弁書5頁21行〜6頁5行)

ウ 甲第1号証におけるパッキン5について
甲第1号証において、パッキン5が甲第11号証に記載のシールリング1と類似する形状であるといった記載や示唆は一切なされていない。
また、甲第1号証の図面において、フランジ部4の上に位置するパッキン5に対しては網目状のハッチングが付されている一方、請求人が周縁突起に相当すると主張する部分にはこのようなハッチングは付されていない。そのため、同図面において、請求人が周縁突起に相当すると主張する部分をパッキン5の一部と解することなど到底できない。さらに、同図面において、請求人がタートルネックに相当すると主張する部分は単なる細い線で表されているに過ぎず、この線をタートルネックに相当する部分と理解することもできない。
併せて、請求人の主張する周縁突起に相当する部分と甲第11号証の周縁突起(10)とは、形状が明らかに相違している。
さらに、ドイツ特許公報である甲第11号証のみが挙げられているだけで、シールリング1のような特殊な形状のパッキンが当業者にとっての技術常識であるとも考えられない。
してみれば、甲第1号証のパッキン5が、甲第11号証に記載のシールリング1に類似する形状であって、環状ディスク、タートルネック及び周縁突起を一体的に備えた特殊形状をなすものであり、さらに、外力によって部品同士の隙間を埋めるように弾性変形するものである、と捉えることは、請求人による余りにも勝手な解釈に基づくものであって、当業者であっても極めて難しいと言わざるを得ない。
(被請求人要領書4頁8行〜5頁10行)

エ 甲1発明の「縁部2」が本件発明の「内向きフランジ部」に相当するかどうか
甲第1号証に記載された縁部2は、内側に向けて凸の円弧状をなすものの、全体としては下側に向けて延びるものであり、“円筒状陥没部の底部”から内向きに突出する本件特許発明の「内向きフランジ部」とは形状面で全く異なるものである。
さらに、請求人は、「縁部2が開口部の底部に位置する」旨を主張しているが、甲第1号証の図面において、排水カップ6のフランジ部と排水ケーシング3との間に位置する縁部2(つまり、請求人が排水カップ6及び排水ケーシング3で挟持されると主張している部分)は、開口部における上下方向の広範囲に亘って延在しており、開口部の底部に位置するとは言えないから、甲第1号証の縁部2は、本件特許発明の「内向きフランジ部」とは異なる構造を有している。
加えて、仮に甲第1号証において縁部2が挟持されているとして、縁部2における円弧状の湾曲面(上面)と面積の小さな下端面(下向き円筒状部分の下端面)とが挟持されることになる一方、本件特許発明では、円筒状陥没部の底部から突出する「内向きフランジ部」が上下に挟持されるのであるから、本件特許発明によれば、排水口金具や接続管をより正確な(例えば傾き等のない)姿勢で、かつ、非常に安定した状態で設置できるのは明らかである。
以上から、甲1発明の「縁部2」は、本件特許発明の「内向きフランジ部」と構造、機能及び作用が共通しているとは言えず、本件特許発明の「内向きフランジ部」と実質的に同一ではない。
(被請求人要領書8頁4行〜9頁10行)

(2)構成D−1、D−2について
ア そもそも図面というのは、明細書を補完し、特許を受けようとする発明に係る技術内容を当業者に理解させるために必要な程度の正確さを備えていれば足りるものである筈のところ、甲第1号証の図面が、設計図面に要求されるような正確性をもって、しかも審判請求人の主張する通り描かれているとは限らない。
特に甲第1号証というのは、あくまで排水ケーシング3の下側の末端に配置される排水エルボー16に関する発明が記載されたものである。してみれば、甲第1号証の図面において、排水カップ6や閉塞板7などの形状についてまで正確、かつ、請求人の主張通りに図示されているものと断ずることはできない。
百歩譲って甲第1号証の図面が設計図面に要求されるような正確性を有しているとしても、「排水カップ6のフランジ部」や「閉塞板7」の形状に関し、1つの断面図しか開示されていない甲第1号証から導かれることはあくまで図示された断面形状のみである。従って、閉塞板7と排水カップ6のフランジ部がほぼ同径であるとか、閉塞板7が開口部に接触しないといったことが、甲第1号証に記載されているという主張には、決して肯首できない。
(答弁書6頁15行〜7頁12行)

イ 甲第1号証の図面を参照すると、排水ケーシング3を示すための引出し線は、排水ケーシング3の断面部分(ハッチングが付された部分)と、その右横に位置する線分との間の部分を指している。つまり、甲第1号証の図面では、断面よりも奥に位置する排水ケーシング3の外周面が示されている。従って、甲第1号証の図面は、排水ケーシング3の中心軸を通る断面図ではなく、排水ケーシング3の中心軸よりも手前の位置を通る断面図であると捉えられる。
そして、甲第1号証の図面がこのような断面図であることを念頭に、「排水カップ6のフランジ部」や「閉塞板7」を見てみると、仮に「排水カップ6のフランジ部」や「閉塞板7」が平面視円形状であれば、甲第1号証の図面では、「排水カップ6のフランジ部」や「閉塞板7」の断面よりも奥にこれらの外周面が示されるはずであるが、甲第1号証の図面では、このような外周面は一切示されていない。してみれば、甲第1号証において、「排水カップ6のフランジ部」や「閉塞板7」が平面視円形状であるとは言えず、ひいては「排水カップ6のフランジ部」や「閉塞板7」がほぼ同径であると言うこともできない。
(答弁書8頁3〜16行)

ウ 以上から、甲第1号証に上記構成d−1.及び構成d−2.が記載されているとまでは言えない。
(答弁書8頁17〜18行)

(3)構成Cについて
ア 請求人の主張は、「閉塞板7」と「排水カップ6」のフランジ部とがほぼ同径であるという前提を元にしたものであるところ、上記(2)で述べた通り、甲第1号証から、「閉塞板7」と「排水カップ6」のフランジ部とがほぼ同径であると断ずることはできないから、請求人の主張は失当である。
さらに、甲第1号証から導かれることはあくまで1つ図面に基づく断面形状のみであるから、「排水カップ6のフランジ部」や「閉塞板7」の形状や位置関係に関し、断面より手前や奥の位置におけるこれらの形状や位置関係を把握することはできない以上、甲第1号証において、「排水カップ6」を覆うようにして「閉塞板7」が設けられているのか否かは不明であると言わざるを得ない。
従って、甲第1号証に構成c.が記載されているとは到底言えない。
(答弁書8頁下から4行〜9頁11行)

イ 甲第1号証の図面からは、閉塞板7の左上部にハッチングの付されていない部分(空白部分)があり、また、当該部分の直下に閉塞板7の本体部(ハッチングの付された部分)とは別体の、水平に延びる2本の線で上下挟まれた部分があることを看取でき、閉塞板7が回転対称形状(回転対称体)をなすものではないことが分かる。さらに、これら部分に関しては、請求人の挙げた各種証拠(甲第1,3〜18号証)に記載等は一切なく、また、当業者の技術常識に基づいても何なのか不明である。従って、これら部分を有する閉塞板7は、一般的な栓蓋とは異なる特殊な構成を有していると理解できる。一方、請求人の主張は、閉塞板7が一般的な円板形状(回転対称形状)の栓蓋と同一の構成を有するものであろうという前提に基づくものであると思料されるところ、上記のように、閉塞板7が一般的な栓蓋とは異なる特殊な構成を有していると理解できる以上、その前提に基づく請求人の主張は、誤りと言わざるを得ない。
(被請求人要領書12頁16〜下から3行)

(4)構成E、構成Fについて
ア 甲第1号証には、何処にもパッキンに関する記載がないことは明白である。また、請求人がパッキンと主張する部分は、「閉塞板7」の下部に位置する、網目状部分及びそこから線状に延びる部分と思料されるが、この線状に示された部分は、あまりにも薄肉であり、この部分をパッキンと捉えるのは止水性の点で相当無理があり、この部分が本当にパッキンであると断言できるものではない(パッキンとは別物である可能性すらある)。そして、パッキンであると断言できない以上、「閉塞板7」の下面にパッキンを挿通保持する軸部が設けられているとは到底言えず、また、「閉塞板7」の昇降でパッキンによる開閉がされるとも言えないはずである。
従って、甲第1号証に、構成e.や構成f.が記載されているとは到底言えない。
(答弁書9頁下から6行〜10頁5行)

イ 甲第1号証の明細書には、何処にもパッキンに関する記載がないことは明白である。また、甲第1号証においては、閉塞板7の昇降によってパッキンによる止水がなされる点についても同様に何ら記載されていない。
さらに、請求人がパッキンの一部と主張する、甲第1号証の図面における薄板状断面部は、同図面では非常に細い線で表されているに過ぎず、甲第17号証(当審注:甲第16号証の誤記と認める。)における止水用パッキン部10のうち水平方向に突出する薄肉部分や甲第18号証(当審注:甲第17号証の誤記と認める。)におけるシール突起30と比べて明らかに薄肉である。従って、甲第16号証や甲第17号証を挙げたところで、甲第1号証の細線部分がパッキンの一部であると断言することはできず、ひいては、請求人がパッキンと主張する部分が本当にパッキンであると断言できるものではない。そして、パッキンであると断言できない以上、「閉塞板7」の下面にパッキンを挿通保持する軸部が設けられているとは言えず、さらに「閉塞板7」の昇降でパッキンによる開閉がされるとも言えないはずである。
(被請求人要領書13頁19行〜14頁3行)

(5)容易想到性について
請求人が周知例1〜4として挙げる甲第3〜6号証のそれぞれには内向きフランジ部に相当する部位が記載されているが、甲第3〜6号証で開示されている内向きフランジ部に相当する部位は、いずれも円筒状陥没部の底部(下端部)から内向きに突出するものである。従って、仮に甲1発明に対し、甲第3号証等に記載された構成を適用しようとするのであれば、縁部2の底部(下端部)に対し、当該底部から内向きに突出するようにして内向きフランジ部を設けるのが自然である。
しかしながら、甲第1号証の図面においては、「縁部2の底部と排水カップ6との間に、部品(名称等不明)が挿通設置されている」ことが看取できるところ、このように縁部2の下方部分と排水カップ6との間に前記部品が挿通されている以上、甲1発明に甲3号証等に記載の構成を適用して、縁部2の底部から突出する内向きフランジ部を設けることは困難である。
また、仮に前記部品が省略可能なものであるとしても、甲1発明に甲3号証等に記載の構成を適用するためには、甲1発明において、前記部品を省略した上で、縁部2の底部(下端)から内向きに突出する内向きフランジ部を設け、さらに、排水カップ6のフランジ部と排水ケーシング3とで内向きフランジ部を挟持するために、排水カップ6や排水ケーシング3の形状を変更するとともに、排水カップ6を下げ、さらに、下げた排水カップ6とレバー9や当該レバー9の周囲に位置する円弧状部分とが干渉しないように構成するといった具合に非常に多くの構成変更が必要となる。それ故、たとえ当業者であっても、甲1発明に甲3号証等に記載の構成を適用することが容易であるとは決して言えない。
加えて、仮に上記のようにして甲1発明に甲3号証等に記載の構成を適用することができたとしても、内向きフランジ部を挟持するために排水カップ6を下げる必要があるから、仮に請求人の主張するパッキンが排水カップ6とで密閉可能に止水するのであれば、甲第1号証において閉塞板7をそのままの位置で維持すべき理由は何ら記載も示唆もされていない以上、排水カップ6を下げるのに従い、パッキンや閉塞板7も下げることになるのが自然である。従って、仮に甲1発明に甲3号証等に記載の構成を適用することができたとしても、結果的に、閉塞板7は、浴槽の底部1よりも下がった位置に配置されることとなり、本件特許発明における「カバーが、…止水時には、水槽の底部面に概ね面一とされ、」という構成要件D−3.が満たされないことになる。つまり、甲第1号証において閉塞板7をそのままの位置で維持すべき理由が何ら記載も示唆もされていない以上、甲1発明に甲3号証等に記載の構成を適用すること、及び、閉塞板7をそのままの位置で維持することを両立させることは、たとえ当業者といえども容易に想到できるものではない。
(答弁書13頁2行〜14頁7行)

第6 当審の判断
1 各証拠について
(1)甲第1号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、次の事項が記載されている。



(明細書3頁12行〜4頁10行)

(請求人による翻訳は以下のとおり。)
「さらなる特徴、個々の詳細、並びに発明のメリットは、以下に示す本発明の推奨する設計形状の描写、並びに図面により明示される。ここでは、唯一の図面が、本発明に基づく排水装置の横断面の形状を示している。ここに示された一つの浴槽の底部1は、一つの開口部を有しており、その縁部2は、貫通する方法で下側に向かって成形されている。この開口部の中には、排水装置が挿入されており、この排水装置は、排水ケーシング3を有している。
この排水ケーシング3は、おおよそ筒状を呈している。排水ケーシング3の上端部にはフランジ4が配置されており、パッキン5を保持し固定するための役割を担う。上側からは、排水カップ6が、排水ケーシング3の中へネジ固定により挿入されており、上部外側の縁部分で浴槽の底部に接している。
排水カップ6の内側には、閉塞板7が挿入されており、一本のタペット8を用いることにより上昇させたり、下降させたりすることができる。このタペットの操作を行うために、排水ケーシング3の中に一つのレバー9を旋回可能な状態で配置する。旋回させるためには、例えばバウデンワイヤーを用いるが、このバウデンワイヤーは、その詳細は示されていない。」と記載されている。
排水ケーシング3の下側末端には、外側にパッキン11を受けるために環状の溝が取り付けられている。末端12から出て、パッキン11を受けている溝のところにこの部分13は接続する。この部分では、排水ケーシングの外側直径が、やや円錐状の面を形成するために、やや拡張されている。この円錐状の面には、さらにもう一つの環状の溝14があり、これに相対する側面は、フランジ15により形成される。フランジ15は、溝14の前の領域では、排水ケーシング3よりも大きな直径を呈している。」(下線は当審で付与した。)

イ 図は以下のとおり。

ウ 図を参照すると、以下の事項が看取できる。
(ア)縁部2は、湾曲しながら徐々に下側に向かっている。
(イ)縁部2の下端は、パッキン5に接している。
(ウ)排水カップ6の上端の径は、閉塞板7の径と略同一である。
(エ)閉塞板7は、開口部に接触しておらず、下降した際に浴槽の底部1と概ね面一となる。
(オ)閉塞板7の裏側には、径内方向に凹んだ断面コ字状の環状の溝部が設けられている。
(カ)「パッキン5」及び「パッキン11」が網がけで表示されていることから、上記(オ)の溝部にある網がけ部分は、パッキンを示していることは自明である。よって、溝部にパッキンが保持されている。

エ 上記アないしウからみて、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認める。

「浴槽の底部1は、開口部を有し、その縁部2は、貫通する方法で湾曲しながら徐々に下側に向かって成形され、
この開口部の中には、排水装置が挿入されており、この排水装置は、おおよそ筒状を呈した排水ケーシング3を有しており、
排水ケーシング3の上端部にはパッキン5を保持し固定するフランジ4が配置されて、上記縁部2の下端が該パッキン5に接しており、
上側からは、排水カップ6が、排水ケーシング3の中へネジ固定により挿入されて、上部外側の縁部分で浴槽の底部に接しており、
排水カップ6の内側には、排水カップ6の上端の径と略同径の閉塞板7が挿入されており、タペット8を用いることにより上昇させたり、下降させたりすることができ、
閉塞板7は、開口部に接触せず、閉鎖時には、浴槽の底部1に概ね面一とされ、
閉塞板7の裏側には、径内方向に凹んだ断面コ字状の環状の溝部が設けられ、該溝部にパッキンが保持されている、
排水装置」

(2)甲第3号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には、次の事項が記載されている。
ア 「3、考案の詳細な説明
産業上の利用分野
この考案は浴槽及び洗面器の排水口に関する。
従来の技術
従来、浴槽および洗面器の排水口は第3図に示すように、排水口1まわりの凹部に上部の支持片3を位置させて、排水口金具2を排水口1内に嵌挿し排水管と接続したものである。」(明細書1頁10〜17行)

イ 「第1図は、既設の浴槽および洗面所の排水口1に、排水口金具2を嵌挿させた図であり、3は排水口金具の支持片、4は排水口内径、5は排水口の傾斜部である。」(明細書4頁4〜7行)

ウ 第3図は、以下のとおり。


エ 第3図を参照すると、浴槽の底部の排水口1には、円筒状に陥没した部分と、さらにその下端から内向きにフランジが形成されていること、及び、該フランジは、排水口金具2と排水管接続金具10で挟持取り付けられていること、及び排水口金具の支持片3と内向きフランジとは、略同径であることが看取できる。

(3)甲第4号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証には、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、浴槽,洗面器等の水槽の底部に設けられる排水栓装置の改良に関するものである。」

イ 「【0019】本実施の形態における排水栓装置11は、遠隔操作式のものであり、図1及び図2に示す如く、排水口部材12と固定部材3とを備え、排水口部材12の雄ネジ12aを固定部材3の雌ネジ3aに螺合することにより、槽排水口1の周縁1aを水密に挟持するものである。排水栓装置11は、排水口部材12に受け部材16を着脱自在に嵌着できるようにしてある。」

ウ 【図2】は、以下のとおり。


エ 図2を参照すると、水槽の底部の槽排水口1には、陥没した部分と、さらにその下端から、内向きにフランジが形成されていることが看取できる。

(4)甲第5号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第5号証には、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、浴槽,洗面器等の水槽の底部に設けられる排水栓装置の改良に関するものである。」

イ 「【0022】次に、図5を参照して請求項1記載の本発明方法により図1、2に示す取付工具1を使用して浴槽の底部に排水栓受け部材2を取付ける態様について説明する。
【0023】図5において、3は浴槽の底板、31は底板3に設けられた排水孔、32は排水孔31の周辺の受け部である。4はエルボであり、エルボ4には立上管41が設けられ、立上管41には雌ねじが設けられた受口が設けられている。33はパッキンである。
【0024】先ず、排水栓受け部材2の短管部22を挿通し、排水栓受け部材2のフランジ23を受け部31の上に載置する。次いで、排水栓受け部材2の立上管41の受口を短管部22の下端部に当てがい、取付工具1の杆体部の大径部11を排水栓受け部材2の短管部22内に挿入する。このとき取付工具1の爪113はばね112の復元力に抗して没入され、取付工具1の杆体部の大径部11は支障なく排水栓受け部材2の短管部22内に挿入される。
【0025】取付工具1の杆体部の大径部11を排水栓受け部材2の短管部22内の奥に挿入したときにストッパー14が排水栓受け部材2のフランジ23の上面に当たり、その段階で取付工具1を徐々に回転することにより爪113が排水栓受け部材2の凹欠部24に至ると没入されていた爪113がばね112の復元力により突出し凹欠部24内に挿入嵌合される。
【0026】このような状態で取付工具1の六角部131を図示しないレンチで掴み、取付工具1を回転することにより取付工具1の回転と共に排水栓受け部材2が回転し、排水栓受け部材2の短管部22がエルボ4の立上管41の受口内にねじ込まれ、浴槽の底板3の排水孔31の周辺の受け部32に取付けられる。その後、取付工具1を排水栓受け部材2から引き抜く。引抜の際には爪113はばね112の復元力に抗して没入され、引き抜きは支障なく行われる。爪113には斜面1131が設けられているので凹欠部24からの離脱が円滑に行われる。
【0027】排水栓受け部材2には、従来のように、内面に突出される突起等は何ら設けられてはいないので、排水流量が低下するとか、突起が磨滅するとかの恐れは一切ない。」

ウ 【図5】の下半分は、以下のとおり。


エ 図5を参照すると、浴槽の底板3の排水孔31には、円筒状に陥没した部分と、さらにその下端から、内向きにフランジが形成されていること、及び、該フランジは、排水栓受け部材2のフランジ23とエルボ4の立上管41とで挟持取り付けられていること、及び、排水栓受け部材2のフランジ23と底板3の受け部32とは略同径であることが看取できる。

(5)甲第6号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第6号証には、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、洗面化粧台に関し、詳しくは洗面ボウルの排水孔に取付けられる排水金具の構造に関するものである。」

イ 「【0008】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態の一例を説明すると、図1に示すように、洗面ボウル1の底面部1aに排水孔2が設けられている。排水孔2の内周面の上端側は、排水孔面2aに向かう程内径が大きくなるテーパ面2bで形成されており、このテーパ面2bが排水栓5の外端部5aの受け面となっている。テーパ面2bの下端側は直円筒面4cで形成され、この直円筒面4cの下端には排水孔2の内方に向けて内向きつば状の係合部1bが突設されており、この係合部1bに対して後述する排水金具本体4のつば部4aが係合可能となっている。」

ウ 「【0012】排水金具本体4は、略円筒状に形成され、その上端から下端に亘って、つば部4aと、洗面ボウル11内のオーバーフロー水を排水金具本体4内に導く開口孔部50と、側面に排水孔51が設けられた配管接続部7と、連結管10を排水金具本体4の配管接続部7に取付けるための締め付けナットのようなネジ具8が下方から螺合するネジ部9と、排水栓駆動部材14を取付ける取付け部31とがこの順序で形成されている。なお、連結管10は、上下に開口し且つ側面に開口した縦筒部10aと、縦筒部10aの側面の開口部に接続される横筒部10bとから成るT字管で構成されており、配管接続部7に対して回転自在に装着される。また排水栓駆動部材14は、排水金具本体4の取付け部31の雌ネジ部に下方から螺合するネジ筒23と、ネジ筒23の下端外周に突設されたフランジ24とから成り、フランジ24の下面にケーブルガイド25の先端が取付けられている。ケーブルガイド25内にケーブル19が収納され、ケーブル19の基端部は操作用のレバー(図示せず)に連結され、ケーブル19の先端はネジ筒23内を貫通して排水栓支持部材18の下面に当接している。図中の26はケーブル19がネジ筒23から抜け止めする抜け止め部である。
【0013】また、排水金具3を排水孔2に取付けるにあたっては、排水金具本体4を排水孔2内に上方から挿入して、排水金具本体4のつば部4aを洗面ボウル1の排水孔面2aより下方位置に設けた係合部1bに係合させる。その後、排水金具本体4の下方から配管接続部7に連結管10の縦筒部10aを挿入し、続いて断面台形状のパッキン30を挿入した後に、排水金具本体4の下部に設けたネジ部9に対して締め付けナット8を締め付け固定する。このような排水金具本体4のつば部4aと洗面ボウル1の係合部1bとの係合と排水金具本体4のネジ部9と締め付けナット8との締め付け作業とによって、洗面ボウル1の排水孔2に対して排水金具3を排水管等と共に容易に組み付けることができる。尚図1中の52,53はシール剤である。」
エ 【図2】は、以下のとおり。


オ 図2を参照すると、洗面ボウル1の底部の排水孔2には円筒状に陥没した部分と、さらにその下端から、内向きにフランジが形成されていることが看取できる。

(6)甲第7号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第7号証には、次の事項が記載されている。
ア 「本考案は鋼板製ホーロー浴槽等のように内面にホーロー引きした鋼板製の槽、即ち鋼板ホーロ一槽の排出口部の改良に関する。」
(明細書1頁13〜15行)

イ 「図中Aは鋼板(1)を圧搾成形して、その内表面にホーロー(2)を焼成してなる槽本体であり、底面には排出口(3)を開設すると共に、この排出口(3)周縁部の底面を他の部分の底面に対して凹窪(4)となす。
凹窪(4)は、断面形状が略5R程度の緩円弧状をなすように形成すると共に、その上端部を略5R程度の曲面をもつて底面の偏平部に連続せしめる。
(5)は排出金具であり、フランジ(6)を有する短管状に形成すると共に、外周面下部には螺子(7)を設け、パツキン(8)を介して槽本体(A)の排出口(3)に嵌合挿通し、槽本体(A)裏側よりパツキン(10)を介して鍔付ナツト(9)を螺着して締付固定し、フランジ(6)を凹窪(4)側面に当接係合せしめる。排出金具(5)は、またフランジ(6)の周縁部裏面を適宜幅に渉って斜め下向きのテーパー状となして、外周縁部に近づくに従つて肉薄に形成し、フランジ(6)と凹窪(4)側面との当接部(12)に間隙や凹部が形成されないようになすと共に、内周面上部を下向き内方のテーパー状に形成して排水栓の係合を確実にする。
パツキン(8)は、ゴム等を内径が排出金具(5)の外径より僅かに大径な環状板体に形成し、上面には外周縁に沿つて凸部(11)を膨出形成する。」
(明細書3頁12行〜4頁17行)

ウ「凹窪を断面緩円弧状にしたので、凹窪内も排出口孔縁に至るまでなめらかにホーロー引き出来、該部の水密性向上を計ることが出来る。更に、凹窪と底面偏平部との境界部をも緩やかな曲面状とすることにより、ホーローを施す際、ホーローの焼切れを生ずる等の不都合がなく、滑らかで均一なホーロー層を得ることが出来る。」
(明細書5頁7〜15行)

エ 第2図は、以下のとおり。


オ 第2図を参照すると、槽本体の底面の排出口には陥没した部分と、さらにその下端から、内向きにフランジが形成されていることが看取できる。

(7)甲第8号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第8号証には、次の事項が記載されている。
ア 「〔産業上の利用分野〕
本考案は、浴室の床面を構成する床パンや浴槽等の排水部の構造の改良に関する。
〔従来の技術〕
第2図は、浴室等の床面を構成するのに用いられる床パン20を示すものである。図示の如く、床パン20は、躯体床面40の上へ適宜の支持部材50に支持されて設置される。床パン20の表面21は、排水口22に向かって緩やかな下り勾配を有する傾斜面に形成され、汚水の速やかな排出を促している。床パン20と躯体床面40との間の空間には排水管30が配設されており、これで前記排水口22から流出する汚水を集めて外部に排出するようになされている。
前記床パン20の排水口22に排水管30を接続するための従来構造は、第3図に示す如くである。すなわち、排水口22に垂下壁部26が連接され、該垂下壁部26の下端に貫通孔28を有する底部27が形成されている。
そして、上端部にフランジ24を有する排水具23をパッキン25を介して前記底部27の貫通孔28に挿通せしめ、これを前記底部28の下側へパッキン29と共に配置した排水管30の接続部30aへ螺着させて締め付ける。これにより、排水管30が排水口22に接続固定される。」
(明細書1頁14行〜2頁下から4行)

イ 「〔課題を解決するための手段〕
本考案は上記課題を解決すべく創案されたものであり、その特徴は、浴室の床パンや浴槽等における排水口と、該排水口に嵌装されて配水管へ接続される排水具とからなる排水部の構造であって、」
(明細書4頁4〜8行)

ウ 第3図は、以下のとおり。


エ 第3図を参照すると、床パン20の排水口22には、円筒状に陥没した垂下壁部26と、さらにその下端から、内向きに底部27が形成されていること、底部27は、排水具23のフランジ24と排水管30の接続部30aとで挟持取り付けられていること、及び排水具23のフランジ24と排水口の底部27とは略同径であることが看取できる。

(8)甲第9号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第9号証には、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、浴槽及び洗面台ボウルなどの排水口に排水口金具が取付けられ、該排水口金具と、排水管を接続する接続部材とをもって排水口縁が固定されてなる排水口構造に関するものである。」

イ 「【0019】
実施例1による排水口構造は、図1、2に示す如く、水槽底面1に陥没部2が形成され、該陥没部には、その底面に排水口3を設け、その排水口縁31が、排水口3に挿着した排水口金具4のフランジ41と、排水管へ接続する接続部材5とで固定される。
排水口縁31を接続部材5で固定するには、パッキン6が介在される。
陥没部2の排水口縁31が固定されるフランジ付き排水口金具4のフランジ41には、水槽と同色で軟硬質のモール材7がモールされ、該フランジ41と陥没部2側周面との間隙を埋める。そのモール材7は、フランジ41の頂面部分71と、外側周面部分72と、内側周面部分73とが施される。頂面部分71の外側には環状舌片711を形成し、陥没部2側面に馴染ませ、シームレスにする。また、内側周面部分73の下側には環状舌片731を形成し、フランジ41内側周面に馴染ませ、シームレスにする。
ところで、排水口金具4のフランジ41頂面、外側周面、及び内側周面に、予め、水槽と同色で軟硬質のモール材7をモールし、該モール材付き排水口金具4と接続部材5とをもって、陥没部2底面の排水口縁31が固定されてもよく、施工の容易性と、迅速性を得ることができる。
よって、排水口金具のフランジ41にモール材7がモールされ、施すことによって、フランジ41と陥没部22側周面との間隙32が埋められ、シームレス化され、間隙32に塵芥が溜められることなく、カビの発生を阻止し、その揚句、水垢による汚れ防止にもなる。
なお、排水口金具4のフランジ41には、その頂面及び外側周面にのみ、軟硬質のモール材7がモールされるものであってもよいことは云うまでもない。」

ウ 【図1】は、以下のとおり。


エ 図1を参照すると、水槽底面1の排水口3には、円筒状に陥没した部分と、さらにその下端から内向きにフランジが形成されていることが看取できる。

(9)甲第10号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第10号証には、次の事項が記載されている。
ア 「【0034】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1において、10はポップアップ式排水栓装置(以下単に排水栓装置とする)の本体部で、排水筒12を有している。
排水筒12は上部排水筒12Aと下部排水筒12Bとに分かれており、その下部排水筒12Bの上端内周面に形成された雌ねじが、上部排水筒12Aの下部外周面に形成された雄ねじにねじ結合されている。
尚14はリングナットである。
ここで下部排水筒12Bには管状の枝部16が一体に構成されている。
排水筒12は内部に排水路18を有しており、またその上端には手洗器等の鉢部20の底部で開口する排水口22が備えられている。
【0035】
24は上部排水筒12Aの下部外周面の雄ねじに螺合された固定ナットで、この固定ナット24を上向きにねじ込むことで、上部排水筒12Aの上端のフランジ部26と板状の挟持部材28とが鉢部20の底部を上下両側からパッキン30,32を介して挟み込む状態に排水筒12が鉢部20の底部に固定される。
【0036】
34は排水口22を開放し或いは閉鎖する排水栓で、この排水栓34は、平面形状が排水口22と同等若しくは若干大きい円形状をなしている。
この排水栓34にはリング状のパッキン72が装着されており、このパッキン72が排水口22に弾性接触することで、排水口22が水密にシールされる。
この排水栓34の下面からは、栓軸部36が下向きに延び出している。
この栓軸部36の末端部には、上下に長い長円形状のリング部38が設けられており、その内側に上下方向に長孔を成す係合孔40が形成されている。」

イ 「【0048】
次に図7〜図9は、本発明の他の実施形態を示している。
図7に示しているように、この実施形態では排水栓34が、栓軸部36及びガイド64に対し別体とされている。この実施形態では排水栓34が金属にて構成され、また栓軸部36及びガイド64が樹脂にて一体に構成されている。
排水栓34は、円筒形状をなす本体部80と、本体部80よりも大径をなす上端の平面形状が円形状をなす大径の傘部82とを有している。ここで傘部82の上面にはメッキ処理(クロムメッキ処理)が施されている。
【0049】
本体部80の下端部には、リング状を成すパッキン72が装着されており、図8(A)に示しているようにこのパッキン72が、排水口22に弾性的に接触することで、排水口22を水密にシールする。
このとき、図8に示しているように傘部82は排水口22から離隔した上側に位置して、排水口22を上側から覆い隠した状態となる。即ち傘部82は、排水口22に対する隠蔽部としての働きを有している。
この実施形態では、排水栓34の傘部82が排水口22を上側から覆い隠すことで、使用者に対し排水口22を見えないようにし、排水口22及び排水栓34周りの美観を良好とし、意匠性を高める。」

ウ 【図1】は、以下のとおり。


エ 【図8】の(B)は以下のとおり。


オ 図8をみると、排水栓34の下面には、パッキン72を挿通保持する軸部が設けられていることが看取できる。

(10)甲第11号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第11号証には、次の事項が記載されている。
ア 「


(3欄23〜47行)

(請求人による翻訳は以下のとおり。)
「シールリング1において図1に示されているものは、柔軟なゴムまたはゴム状のプラスチックから作られた円形の環状ディスク2、その下面に環状溝4、円筒形の同心円状の開口部3、から成る。その上端面には、複数の同心環状リブ5が配置されており、それらは環状ディスクのシール品質を高める。環状ディスク2の環状溝2の縁部6の外側に位置する部分は、環状溝4の丸みを帯びた断面縁部8で開口する環状溝4の内側に位置する部分7よりもわずかに薄い。環状ディスク2の上内縁には、外径が開口部3の内径よりも小さい薄肉のタートルネック9が一体的に形成されており、その上縁には、断面略円形の突起10が半径方向外向きに厚くなっている。タートルネック9は、変形していない状態では実質的に円筒形の形状を有し、その外周面には、縁突起10と環状ディスク2の上端面との間のほぼ軸方向半分から始まる円錐支持リブ11が周上に均等に配置されている。」
(請求人要領書4頁2〜15行)

イ Fig1は、以下のとおり。


ウ Fig4は、以下のとおり。


エ Fig5は、以下のとおり。


(11)甲第12号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第12号証には、次の事項が記載されている。
ア「浴槽底部壁50に開設された排水口51の上位側から排水栓体52を受載する排水本体53を同排水口51内に挿入し、下位側から締付具54を排水本体53に螺合することにより、排水口51の周縁部を排水本体53の鍔部53aと締付具54とで挟持するようにして固定する構造のものである。」
(1欄20〜26行)

イ 第1図は、以下のとおり。


(12)甲第13号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第13号証には、次の事項が記載されている。
ア 「浴槽1の底部1aは排水孔3付近まで平坦であり、排水溝は設けておらず、排水孔3の縁部3aは下方に湾曲して形成され、この縁部3aにはパッキング9を介して連結金具7のフランジ7bが係合する。連結金具7の先端部には雄ネジ7cが形成されており、雄ネジ7cが前記排水金具8の中央に穿設した孔8aのメネジ8bに螺着し、この螺着により浴槽1の縁部3aは、パッキング9を介してフランジ7bと排水金具7の上面との管に緊密に挟持される。」
(3欄11〜20行)

イ 第7図は、以下のとおり。


(13)甲第14号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第14号証には、次の事項が記載されている。
ア「なお図中(3h)(3i)は容器本体(1)に対する位置決めを兼用する補強用リブである。」
(4欄2〜3行)

イ 第4図は、以下のとおり。


(14)甲第15号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第15号証には、次の事項が記載されている。
ア「【0001】
本発明は、下水管や内部にケーブルが布設されている保護管等の地中埋設管を補修する地中埋設管補修方法に関する。」

イ「【0025】
前記管状補修材1を構成する弾性基材2aの表面には、多数の突起8が形成されている。本例では、前記突起8は、前記管状補修材の周方向および軸方向に形成されたリブ9,10となっている。前記周方向のリブ9と前記軸方向のリブ10にあっては、前記周方向のリブ9よりも前記軸方向のリブ10の方が高くなるように形成されている(図2)。本例では、前記突起8は、前記周方向のリブ9と前記軸方向のリブ10となっているが、前記周方向のリブ9と前記軸方向のリブ10の何れか一方であってもよい。
・・・
【0039】
本例では、前記突起8が前記管状補修材1の周方向および軸方向に形成された前記リブ9,10になっているので、これらリブ9,10により前記管状補修材1の周方向および軸方向の強度を向上させることができるとともに、前記周方向のリブ9よりも前記軸方向のリブ10の方が高くなるように形成されているので、前記管状補修材1を前記地中埋設管16の他方の開口部側へ移動させたときの摩擦抵抗が小さく、前記管状補修材1を前記地中埋設管16内へ挿入し、この地中埋設管16の他方の開口部側へ容易に移動させることができる。」

ウ 図1は、以下のとおり。


(15)甲第16号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第16号証には、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、浴槽の底部に装設される排水栓装置に関し、さらに詳しくは、遠隔操作により開閉させるように構成した、所謂ポップアップ開閉形式による浴槽の排水栓装置の改良に関する。」

イ 「【0009】
【実施例】
以下に、本考案の実施例を添付図面に基づいて説明すれば、図1乃至図4において、Aは浴槽1の槽底1aに装設した排水栓装置本体を示し、Bは該排水栓装置本体Aを開閉する遠隔操作機構を示している。
【0010】
而して、上記排水栓装置本体Aは、浴槽1の槽底1aに貫設した通孔2の下側部において立上り状に設備した排水管3と、該排水管3に螺挿してフランジ部4を通孔2の口縁に係着した排水栓本体5と、該排水栓本体5を閉塞止水する栓蓋6とから構成されている。また、該栓蓋6は、その下面中央部に上端を螺着した所要長さのスプリング収容筒7と、該収容筒7内に収容した金属コイルバネ8と、該収容筒7の下方開口部から挿入して、その上面でコイルバネ8の下端を支受させると共に、その下方部を排水管3内に挿通した栓蓋6の昇降杆9を備えており、且つ該昇降杆9の上端周縁は収容筒7の下端周縁上に夫々のフランジ部を介して接離自在に係合されている。なお、図において、10は栓蓋6の外周縁に嵌着した止水用パッキング、11は排水管3の上縁と排水栓本体5の下縁との間に密嵌した洩水防止用パッキングを夫々示す。」

ウ 【図3】は、以下のとおり。


エ 図3を参照すると、栓蓋6の下面には、止水用パッキング10を挿通保持する軸部が設けられていることが看取できる。

(16)甲第17号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第17号証には、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、洗面化粧台または流し台等の排水口に設置される排水栓装置に関するものである。」

イ 「【0007】
【実施例】
以下、本考案を図示された実施例に基づいて詳述する。
排水栓装置は洗面化粧台や流し台等のボウル体11に設けられるようになっており、図1に示されるように排水口1と連続する排水管7内に設けられた高さ調整部材6と、排水口1に配置される排水栓2と、排水栓2の下方に配された栓体支持部材5とで構成されている。
【0008】
排水栓2の上面には端部間にわたって突条3aが突設されており、この突条3aによって排水栓2を指で掴んで水平回転させるための指掛け部3が形成されている。排水栓2の周端面からは排水栓2による排水口1の閉塞時に排水口1の上部内周面に沿って線接触するシール突起30が突設されている。このシール突起30は図3に示されるような弾性を有する環状のシール部材40の周端部より外側方に向けて突設されており、環状のシール部材40は図2に示されるように排水栓2の周端部に凹設された凹所15に係合されている。ここで、シール突起30は排水栓2の周端面より外側方に突出した状態となっており、排水栓2にて排水口1を閉じた場合にはシール突起30が弾性変形しながら排水口1の上部内周面に沿って線接触するようになっている。」

ウ 【図2】は、以下のとおり。


エ 図2を参照すると、排水栓3の下面には、シール突起30を挿通保持する軸部が設けられていることが看取できる。

(17)甲第18号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第18号証には、次の事項が記載されている。
ア「【0001】
本発明はプレス絞り加工により製作されるステンレス製の流し台用シンクに関するものである。」

イ「【0009】
図1乃至3は本発明の実施の形態例を示し、Wは流し台用のシンク部であって、ステンレス板のプレス絞り加工により製作され、使用されるブランクたるステンレス板の材質としては、一般的な流し台に用いられ、シンクの形態が単純な長方形状のものに用いられるフェライト系のJIS G 4305 SUS430[SUS430SUS430(18%Cr)]、又は、システムキッチンなどの高級流し台に用いられ、矩形、異形と呼ばれるシンクの形態が複雑な形状をしているものに用いられるオーステナイト系のJIS G 4305 SUS304[SUS430SUS304(18%Cr−8%Ni)]の二種類のステンレス鋼が用いられ、その他、抗菌性や絞り性をよくするためにCuを添加した材質(SUS304J1)なども用いられる。
【0010】
これらシンク部Wは、上型装置及び下型装置の協動によりプレス絞り加工により製作され、底面部W1、周囲の側壁部W2、周縁鍔部W3及び水返し部W4、更には、排水口部W5が形成される。」

ウ 図1は、以下のとおり


2 無効理由の判断
(1)対比
本件発明と甲1発明を対比する。
ア 甲1発明の「浴槽」、「底部1」、「排水カップ6」、「排水ケーシング3」、「開口部」、「閉塞板7」、「パッキン」、「径内方向に凹んだ断面コ字状の環状の溝部」、「排水装置」は、その構造および機能からみて、それぞれ、本件発明の「水槽」、「底部」、「排水口金具」、「接続管」、「排水口部」、「カバー」及び「排水栓」、「パッキン」、「軸部」、「排水栓装置」に相当する。
甲1発明の「貫通する方法で湾曲しながら徐々に下側に向かって成形され」ている「縁部2」と、本件発明の「円筒状陥没部を形成し、該円筒状陥没部の底部に形成された内向きフランジ部」とは、「貫通する方法で下側に向かって成形されている縁部」で共通している。

イ 甲1発明において、「排水ケーシング3の上端部にはパッキン5を保持し固定するフランジ4が配置されて、上記縁部2の下端が該パッキン5に接して」いることから、その上下関係を考慮すると、縁部2の下端は、パッキン5を介して排水ケーシング3に支持されているといえる。
また、「上側から、排水カップ6が、排水ケーシング3の中へネジ固定により挿入されて、上部外側の縁部分で浴槽の底部に接して」いることから、排水カップ6は、縁部2に接しているだけではなく、ある程度の力で押さえていることは自明である。
よって、甲1発明の「縁部2」は、排水カップ6と排水ケーシング3とで挟持取付けられているといえる。

ウ 甲1発明において、「排水カップ6の内側に」「挿入され」た「排水カップ6の上端の径と略同径の閉塞板7」は、本件発明の「排水口金具を露出しないように覆うカバー」に相当する。

エ 甲1発明の「タペット8を用いることにより上昇させたり、下降させたりさせたりすることができ」る「閉塞板7は、開口部に接触せず、閉鎖時には、浴槽の底部1に概ね面一とされ」ていることと、本件発明の「上下動するカバーが、前記排水口金具のフランジ部とほぼ同径であるとともに、前記円筒状陥没部に接触せず、止水時には、水槽の底部面に概ね面一とされ」ていることとは、「上下動するカバーが、縁部に接触せず、止水時には、水槽の底部面に概ね面一とされ」ていることで共通している。

オ 甲1発明は、浴槽の排水装置であるから、「閉塞板7」及び「パッキン」によって、その「開口部」を閉鎖して止水する必要があることは、当業者において自明な事項である。
よって、甲1発明の「閉塞板7の裏側には、径内方向に凹んだ断面コ字状の環状の溝部が設けられ、該溝部にパッキンが保持されている」ことは、本件発明の「該カバーの下面には、排水口金具とで密閉可能に止水するパッキンを挿通保持する軸部が設けられて」いることに相当する。

カ 甲1発明の、「裏側には、径内方向に凹んだ断面コ字状の環状の溝部が設けられ、該溝部にパッキンが保持されている」「閉塞板7」が「タペット8を用いることにより上昇させたり、下降させたりすることができ」ることは、本件発明の「排水栓の昇降でパッキンによる開閉が行われること」に相当する。

キ 上記アないしカからみて、本件発明と甲1発明とは、
「水槽の底部に、貫通する方法で下側に向かって形成された縁部が、
排水口金具と接続管とで挟持取付けられて排水口部を形成し、
該排水口部には、排水口金具を露出しないように覆うカバーが設けられ、 上下動するカバーが、
前記排水口金具のフランジ部とほぼ同径であるとともに、
前記縁部に接触せず、
止水時には、水槽の底部面に概ね面一とされ、
該カバーの下面には、排水口金具とで密閉可能に止水するパッキンを挿通保持する軸部が設けられて排水栓を構成し、
該排水栓の昇降でパッキンによる開閉がされる排水栓装置。」で一致するものの、以下の点で相違している。

〔相違点1〕
縁部について、本件発明は、円筒状陥没部を形成し、該円筒状陥没部の底部に形成された内向きフランジ部が排水口金具と接続管とで挟持取付けられているのに対し、甲1発明は、貫通する方法で湾曲しながら徐々に下側に向かって縁部2が形成されて、該縁部2が挟持取付けられている点。
〔相違点2〕
排水口部のカバーが、本件発明は、円筒状陥没部内に設けられ、その円筒状陥没部内を上下動し、円筒状陥没部に接触しないのに対し、甲1発明は、円筒状陥没部や内向きフランジ部が形成されていないので、本件発明のような構成を備えていない点。

(2)新規性についての判断
甲1発明の「縁部2」は、本件発明の円筒形陥没部の底部に形成された内向き「フランジ部」とは部材の構造が異なっているとともに、甲1発明において、「縁部2」に対して「排水カップ6」及び「排水ケーシング3」を配置したものと、本件発明において、円筒形陥没部の底部に形成された内向きフランジ部を「排水口金具」及び「接続管」で挟持したものとでは、排水口部の態様が異なるから、上記相違点1及び2は、実質的な相違点であるといえる。
よって、本件発明は、甲第1号証に記載された発明ではない。

(3)進歩性についての判断
上記各相違点について検討する。
ア 相違点1について
(ア)周知技術(甲第3号証、甲第5号証、甲第8号証)の適用の検討
甲第3号証、甲第5号証、甲第8号証によれば、水槽において、水槽の底部に、円筒状陥没部を形成し、該円筒状陥没部の底部に内向きフランジ部を形成し、該内向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取付けることは、本件特許の出願前に周知技術(以下「本件周知技術」という。)であったと認められる。
そして、甲1発明は、前記第6の1(1)エのとおりであり、甲第1号証の図1から、縁部2は、断面形状が内側に湾曲しながら徐々に下側に向かって縮径する構成を有し、縁部2の湾曲面に上部外側の縁部分が当接する排水カップ6と、縁部2の下端に接するパッキン5を保持し、固定するフランジ4を含む排水ケーシング3とで挟持取付けられていることを理解できる。 しかしながら、甲第1号証には、縁部2が排水カップ6と排水ケーシング3とで挟持取付けられていることやその作用等について明示的に述べた記載はないし、甲第1号証の記載事項全体をみても、縁部2が排水カップ6と排水ケーシングとで挟持取付けられている構成について、取付けの強固さや水密性等の観点から、改良すべき課題があることを示唆する記載もない。
また、本件周知技術に係る甲第3号証、甲第5号証及び甲第8号証には、円筒状陥没部の底部に形成した内向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取付ける構成の作用等について述べた記載はなく、また、取付けの強固さや水密性等の観点から、内向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取付ける構成が、甲第1号証の図面記載の縁部2が排水カップ6と排水ケーシング3とで挟持取付けられる構成よりも優れていることを示唆する記載はない。
以上によれば、甲第1号証に接した当業者は,甲1発明の縁部2の構成について、取付けの強固さや水密性の点において課題があることを認識するとはいえないから、甲1発明の縁部2に本件周知技術の構成を適用する動機付けがあるものと認めることはできない。
よって、当業者は、甲第1号証及び本件周知技術に基いて、甲1発明において、相違点1に係る本件発明の構成とすることを容易に想到することができたものと認めることはできない。

(イ)甲第4号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第9ないし18号証に記載された事項の適用の検討
甲第4号証には、排水栓装置に関し、「排水口部材12と固定部材3とを備え、排水口部材12の雄ネジ12aを固定部材3の雌ネジ3aに螺合することにより、槽排水口1の周縁1aを水密に挟持」することが記載されている。
また、甲第6号証、甲第7号証、甲第9号証には、排水栓装置に関して、円筒状陥没部ないしは陥没部の底部に内向きフランジ部を形成した構成を有している点が記載されている。
しかしながら、甲1発明については上記(ア)で説示したとおり、甲第1号証には、縁部2が排水カップ6と排水ケーシング3とで挟持取付けられていることやその作用等について明示的に述べた記載はないし、甲第1号証の記載事項全体をみても、縁部2が排水カップ6と排水ケーシングとで挟持取付けられている構成について、取付けの強固さや水密性等の観点から、改良すべき課題があることを示唆する記載もない。
また、甲第4号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第9号証には、円筒状陥没部ないしは陥没部の底部に形成した内向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取付ける構成の作用等について述べた記載はなく、また、取付けの強固さや水密性等の観点から、内向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取付ける構成が、甲第1号証の図面記載の縁部2が排水カップ6と排水ケーシング3とで挟持取付けられる構成よりも優れていることを示唆する記載はないから、甲第4号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第9号証に記載の事項を、甲1発明の「縁部2」に適用する動機付けがあると認めることはできない。
さらに、甲第10〜18号証には、そもそも、円筒状陥没部の底部に形成した内向きフランジ部を排水口金具と接続管とで挟持取付ける構成は記載されていない。
したがって、当業者は、甲第4号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第9ないし18号証に記載の事項を考慮したとしても、甲1発明において、相違点1に係る本件発明の構成とすることを容易に想到することができたものと認めることはできない。

イ 相違点2について
上記相違点1で検討したとおり、甲1発明に、周知技術として例示した甲第3号証、甲第5号証及び甲第8号証、並びに甲第6号証及び甲第9号証に記載の事項を適用することができないことから、甲1発明において、相違点2に係る本件発明の構成のように、排水口部のカバーが円筒状陥没部内に設けられるようにすること、そして、その円筒状陥没部内を上下動し、円筒状陥没部に接触しないように構成することはできない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、本件発明は、甲1発明及び甲第3号証ないし甲第18号証に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)請求人の主張について
請求人は、本件特許発明における「円筒状陥没部の底部に形成された内向きフランジ部が排水口金具と接続管とで挟持取付けられて排水口部を形成し」との構成Bは、甲第3号証〜甲第6号証(周知例1〜4)に記載された周知技術であり、本件特許発明は、甲1発明及び周知技術に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、進歩性を有さない旨、主張している(上記第4の3(2)エ)。
しかしながら、甲1発明に、周知技術を適用する動機付けがないことは、上記(3)アにおいて説示したとおりである。
よって、請求人の主張を採用することができない。

(5)無効理由の判断のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件請求項1に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-01-28 
結審通知日 2022-02-02 
審決日 2022-02-17 
出願番号 P2010-127272
審決分類 P 1 113・ 121- Y (E03C)
P 1 113・ 113- Y (E03C)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 長井 真一
特許庁審判官 奈良田 新一
西田 秀彦
登録日 2016-07-29 
登録番号 5975433
発明の名称 排水栓装置  
代理人 川口 光男  
代理人 大嶋 泰貴  
代理人 小澤 壯夫  
代理人 松本 好史  
代理人 竹田 千穂  

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