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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1383492
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-05-08 
確定日 2022-04-12 
事件の表示 特願2016− 13163「改良された電荷注入特性を有する印刷可能なナノ粒子導電体インク」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 8月22日出願公開、特開2016−152412〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年1月27日(パリ条約による優先権主張2015年2月17日、米国)の出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成31年 1月24日 :手続補正書の提出
令和 1年 6月 7日付け:拒絶理由通知書
令和 1年11月13日 :意見書、手続補正書の提出
令和 1年12月25日付け:拒絶査定
令和 2年 5月 8日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 2年 6月23日 :手続補正書(方式)の提出(審判請求書の請求の理由の補正)
令和 3年 1月 6日 :上申書の提出
令和 3年 3月10日付け:拒絶理由通知書
令和 3年 7月12日 :意見書、手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)の提出

第2 本願発明
令和3年7月12日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1には、以下の事項が記載されている。

「【請求項1】
トランジスタを製造する方法であって、
銀ナノ粒子を含む導電体インクを基板の上に印刷し、ソース電極およびドレイン電極を作成することであって、銀ナノ粒子は、銀ナノ粒子の仕事関数を増加させる一体化した両性界面活性剤部分を含み、印刷は、印刷の前にソース電極およびドレイン電極の仕事関数を改善するための基板の表面処理を行うことなく行われることと、
ソース電極およびドレイン電極と接触する有機半導体を印刷することによって、ソース電極とドレイン電極との間にチャネルを作成することと、
有機半導体と接触する第1の表面を有する単一のゲート誘電層を作成することと、
銀ナノ粒子を含む導電体インクを印刷し、ゲート誘電層の第2の表面と接触するゲート電極を作成し、ゲート電極を熱アニーリングすることと
を含み、
前記一体化した両性界面活性剤部分は、アルキルアミン、カルボン酸およびチオールのいずれかの界面活性剤部分を含む、方法。」(以下「本願発明」という。)

第3 拒絶の理由
当審の拒絶の理由である、令和3年3月10日付け拒絶理由通知の理由2及び理由3は、概略、次のとおりのものである。

・理由2(進歩性
この出願の請求項1〜4に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1〜3に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2013−84696号公報
引用文献2:特表2013−534726号公報
引用文献3:米国特許出願公開第2014/0042369号明細書

・理由3(実施可能要件
両性界面活性剤、双極性界面活性剤として、多数の界面活性剤が公知であり、具体的にどの界面活性剤を選択し、どのような条件で、一体化した双極性界面活性剤を含む銀ナノ粒子を製造し、どのような溶液を用いて、当該銀ナノ粒子を含む導電体インクを製造し、どのような温度、時間で、銀ナノ粒子を含む導電体インクを基板の上に印刷した後の基板を焼成すれば、「銀ナノ粒子の仕事関数を増加させる双極性界面活性剤」を含む銀ナノ粒子を得ることができるのか、明細書の記載及び技術常識からは、当業者が理解することができない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1〜4に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

第4 本願の明細書の発明の詳細な説明の記載
本願の明細書の発明の詳細な説明の記載には、以下の記載がある(審決注:下線は合議体が付加した。以下、同じ。)。

「【背景技術】
【0002】
印刷された電子機器において、インク配合物は、良好な印刷能および電気的性能の要求を満たすことが求められる。印刷された導電体インクは、多くは、種々のデバイス(例えば、ダイオードおよびトランジスタ)の電極として使用される。従って、導電体インクは、理想的には、デバイス用途の電荷注入に適した界面も与えるべきである。
【0003】
しかしながら、ほとんどの場合、現行のp型の電化注入、銀ナノ粒子または有機金属インクは、得られる電極の仕事関数を高めるためにさらなる表面改質プロセスが必要となる。これにより、さらに複雑化された製造フローが生じ、得られるデバイスの費用が高くなる。さらなる材料の使用も、費用が増加する。」

「【発明を実施するための形態】
【0007】
図1〜4は、一体化した双極性界面活性剤を含む底部ゲート型電極を製造する方法の一実施形態を示す。図1において、基板10(例えば、半導体、セラミック基板、またはPEN(ポリエチレンナフタレート))が提供される。ゲート12が、基板の上に印刷される。ゲートは、導電体インクを用いて印刷される。導電体インクは、流体中の銀ナノ粒子からなっていてもよく、銀ナノ粒子は、一体化した双極性界面活性剤を含む。
【0008】
一体化した双極性界面活性剤は、銀ナノ粒子の仕事関数を調節するために、適切な界面活性剤部分(例えば、アルキルアミン、カルボン酸、チオールおよびこれらのフッ素化類似体)を与える。仕事関数は、固体表面のすぐ外側の真空状態の一点へと固体から電子を除去するのに必要な最小エネルギーである。これは、この材料の表面に特徴的である。仕事関数を大きくすると、金属からp型半導体への正孔注入障壁が小さくなる。次いで、ゲート電極は、熱アニーリングを受ける。
【0009】
この具体的な実施形態の構造において、図2において、ゲート電極12は、半導体14によって覆われる。半導体は、最終的にソースとドレインとの間に配置されるチャネルを作成するだろう。この実施形態において、半導体は、有機半導体からなっていてもよい。一実施形態において、有機半導体は、p型ジケトピロロピロール系ポリマーからなっていてもよい。このような材料の一例は、Flexink 82(登録商標)である。
【0010】
図3において、ゲート誘電層16は、有機半導体14の上に作られる。図4において、ソース電極18およびドレイン電極20は、ゲート誘電層の上に作られる。ソース電極およびドレイン電極は、一体化した双極性界面活性剤を含む導電体インクから印刷される。得られるデバイスは、一体化した双極性界面活性剤を含む導電体インクで印刷された、印刷されたゲート、ソースとドレインの接点を有する、有機半導体を含む底部ゲート型トランジスタである。
【0011】
図5〜8は、一体化した双極性界面活性剤を含む銀ナノ粒子を用いた有機半導体、印刷されたソース電極、ドレイン電極およびゲート電極を用いた上部ゲート型トランジスタを製造する方法の一実施形態を示す。図5は、基板10の上に印刷されたソース電極18とゲート電極12を示す。図6は、トランジスタチャネルを与えるためのソースとドレインの上部に作られた有機半導体14を示す。次いで、ゲート誘電層16は、図7に示されるように有機半導体の上に作られる。最後に、図8は、ゲート12がゲート誘電層の上に作られる、得られる上部ゲート型デバイスを示す。
【0012】
図9〜12は、2種類の異なる有機薄膜半導体の性能特徴を比較したグラフを示す。図9および図10は、一体化した双極性界面活性剤を含む銀ナノ粒子の電極を含むトランジスタについて、ソース−ドレイン電流に対するゲート電極とソース−ドレイン(SD)電極をそれぞれ示す。図11および図12は、銀電極の仕事関数を変えない未知の界面活性剤を含む水性銀ナノ粒子を用いて印刷された同様のデバイスの特徴を示す。不飽和領域において、図9の出力プロットは、図11よりも線形の特徴を示し、これは、一体化した双極性界面活性剤を含む電極の方が、接触抵抗が良好であることを示している。図10において、ソース/ドレイン電極は、一体化した双極性界面活性剤(この場合にはアルキルアミン)の残留する界面活性剤コーティングを含む。界面活性剤は、銀電極の仕事関数を上げ、p−チャネル有機薄膜トランジスタの電荷注入を助けた。改質されていない表面の結果を図12に示す。このデバイスは、p型キャリア注入にとって理想的ではなく、このデバイスは、注入が制限され、移動性が低い。
【0013】
このプロセスの利点は、ソース電極およびドレイン電極の仕事関数を高めるために典型的に必要な表面処理が必要ないことである。あり得る欠点は、n型トランジスタと適合しないことである。しかしながら、広範囲にわたるドーパント処理を避ける上のプロセスの改質によって克服することができる。n型半導体(例えば、ペリレン誘導体)に対する接触抵抗は、50Wのアルゴンプラズマ処理を90秒行うことによって改良された。一体化した双極性界面活性剤を含む銀ナノ粒子は、広範囲にわたるドーパント処理に頼ることなく、n型トランジスタプロセスと適合させることができる。
【0014】
n型半導体を可能にするために、銀ナノ粒子材料は、電極を損傷することなくアルゴンプラズマを用いて改質することができる。これにより一体化した双極性界面活性剤を除去し、電極表面の仕事関数を下げる。これにより、電極がn型電荷注入に適するようになる。n−チャネル薄膜トランジスタの出力特徴は、図13および図14に示される。図13は、界面活性剤を含まないトランジスタの出力特徴を示し、図14は、アルゴンプラズマ処理をしたものを示す。
【0015】
この様式において、有機薄膜トランジスタは、広範囲にわたるドーピングを必要とせずに、良好な仕事関数を有する電極を印刷することによって製造することができ、さらなるドーピング工程を必要としない。p型トランジスタを製造するためのプロセスは、同様にn型トランジスタを可能にするように調節することができる。」

第5 理由3に対する当審の判断
1 本願発明
本願発明は上記第2のとおりのものである。

2 発明の詳細な説明の記載
(1)発明の詳細な説明には、図1〜4に示された、一体化した双極性界面活性剤を含む底部ゲート型電極を製造する方法の一実施形態における、ゲート電極12の形成に関して、段落【0007】に、「ゲート12が、基板の上に印刷される。ゲートは、導電体インクを用いて印刷される。導電体インクは、流体中の銀ナノ粒子からなっていてもよく、銀ナノ粒子は、一体化した双極性界面活性剤を含む。」と、段落【0008】に、「一体化した双極性界面活性剤は、銀ナノ粒子の仕事関数を調節するために、適切な界面活性剤部分(例えば、アルキルアミン、カルボン酸、チオールおよびこれらのフッ素化類似体)を与える。・・・仕事関数を大きくすると、金属からp型半導体への正孔注入障壁が小さくなる。次いで、ゲート電極は、熱アニーリングを受ける。」と記載されている。
また、当該一実施形態における、ソース18およびドレイン電極20に関して、段落【0010】には、「図4において、ソース電極18およびドレイン電極20は、ゲート誘電層の上に作られる。ソース電極およびドレイン電極は、一体化した双極性界面活性剤を含む導電体インクから印刷される。得られるデバイスは、一体化した双極性界面活性剤を含む導電体インクで印刷された、印刷されたゲート、ソースとドレインの接点を有する、有機半導体を含む底部ゲート型トランジスタである。」と記載されている。

(2)更に、図5〜8に示された、一体化した双極性界面活性剤を含む銀ナノ粒子を用いた有機半導体、印刷されたソース電極、ドレイン電極およびゲート電極を用いた上部ゲート型トランジスタを製造する方法の一実施形態について、段落【0011】には、「図5は、基板10の上に印刷されたソース電極18とゲート電極12を示す。図6は、トランジスタチャネルを与えるためのソースとドレインの上部に作られた有機半導体14を示す。次いで、ゲート誘電層16は、図7に示されるように有機半導体の上に作られる。最後に、図8は、ゲート12がゲート誘電層の上に作られる、得られる上部ゲート型デバイスを示す。」と記載されている。

(3)また、図9〜12について、段落【0012】には、「図9〜12は、2種類の異なる有機薄膜半導体の性能特徴を比較したグラフを示す。図9および図10は、一体化した双極性界面活性剤を含む銀ナノ粒子の電極を含むトランジスタについて、ソース−ドレイン電流に対するゲート電極とソース−ドレイン(SD)電極をそれぞれ示す。
図11および図12は、銀電極の仕事関数を変えない未知の界面活性剤を含む水性銀ナノ粒子を用いて印刷された同様のデバイスの特徴を示す。不飽和領域において、図9の出力プロットは、図11よりも線形の特徴を示し、これは、一体化した双極性界面活性剤を含む電極の方が、接触抵抗が良好であることを示している。図10において、ソース/ドレイン電極は、一体化した双極性界面活性剤(この場合にはアルキルアミン)の残留する界面活性剤コーティングを含む。界面活性剤は、銀電極の仕事関数を上げ、p−チャネル有機薄膜トランジスタの電荷注入を助けた。」と記載されている。

3 判断
(1)本願発明における、「導電体インク」が含む「銀ナノ粒子」が含む、「一体化した両性界面活性剤部分」について、発明の詳細な説明においては、上記2(1)で説示したように、上記段落【0008】において、「適切な界面活性剤部分(例えば、アルキルアミン、カルボン酸、チオールおよびこれらのフッ素化類似体)」を与える、「一体化した双極性界面活性剤」、あるいは、段落【0012】において、「一体化した双極性界面活性剤(この場合にはアルキルアミン)」とまでは記載されているものの、発明の詳細な説明の当該段落及びその他の段落を精査しても、その「両性界面活性剤」の物質名について具体的に記載されていない。
また、上記の「適切な界面活性剤部分」となる、アルキルアミン、カルボン酸、チオールの具体的な構造式及びその組合せについても記載されていない。
更に、本願発明における、上記「一体化した両性界面活性剤部分」を含む「銀ナノ粒子」をいかにして作り出すのか、その具体的な製造方法が、なんら発明の詳細な説明に記載されていない。
すなわち、発明の詳細な説明には、当該銀ナノ粒子を製造する際の原料についても、溶液に含まれる化学物質の組成や、温度・時間等の製造条件についても、具体的に記載されていない。

(2)ア 一方、両性界面活性剤として、多数の界面活性剤が本願の優先日前に公知であり(例えば、Wikipediaの「界面活性剤」の「分類」の「両性界面活性剤(双性界面活性剤)」の説明箇所、下記の周知例1(562ページ(40ページ)右欄第6〜8行)を参照。)、アルキルアミン構造を持つものも多数存在する(周知例1(562ページ(40ページ)右欄第14〜18行等を参照。)。

イ また、界面活性剤のうち、水に溶けたとき電離するイオン性界面活性剤の種類として、本願発明の銀ナノ粒子が含む「両性界面活性剤」(溶液のpHに応じて陽・両性・陰イオンとなる。)以外に、「アニオン界面活性剤(陰イオン界面活性剤)」、「カチオン界面活性剤(陽イオン界面活性剤)」、及び「双極性イオン性界面活性剤(通常のpH領域でそのイオン性が変化せず、常に双イオン型(zwitter-ionic)で存在する(二極性のイオン(dipolar ion)として存在する。)」の3種類のイオン性界面活性剤があることは、本願の優先日前の技術常識である(必要であれば、Wikipediaの「界面活性剤」の「分類」の説明箇所、下記の周知例1(562ページ(40ページ)左欄第21〜34行を参照。)、周知例2(段落【0083】、【0085】を参照。)、周知例3(段落【0026】を参照。)、周知例4(請求項1、段落【0021】、【0022】を参照。)ところ、例えば、陰イオン界面活性剤及び両性界面活性剤の両者において、カルボン酸構造を持つものは多く存在する(Wikipediaの「界面活性剤」の「分類」の「陰イオン界面活性剤(アニオン界面活性剤)」の説明箇所、同「両性界面活性剤」の「構造・用途」の説明箇所、周知例3の段落【0026】を参照。)。

ウ したがって、具体的に、どのような両性界面活性剤を選択すれば、「銀ナノ粒子の仕事関数を増加させる一体化した両性界面活性剤部分」であって、「アルキルアミン、カルボン酸およびチオールのいずれかの界面活性剤部分を含む」「一体化した両性界面活性剤部分」を含む「銀ナノ粒子」を得ることができるのか、明細書の発明の詳細な説明の記載及び本願の優先日前の技術常識からは、当業者が理解することができない。

更に、上記「一体化した両性界面活性剤部分」を含む「銀ナノ粒子」を、どのような溶液で、どのようなpHで用いて、どのような条件で、製造し、当該銀ナノ粒子を含む導電体インクを、どのような溶液を用いて製造すれば、「銀ナノ粒子の仕事関数を増加させる一体化した両性界面活性剤部分」を含む「銀ナノ粒子を含む導電体インク」を得ることができるのか、明細書の発明の詳細な説明の記載及び本願の優先日前の技術常識からは、当業者が理解することができない。

よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1〜4に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

(ア)周知例1:辻井薫、「両性界面活性剤―その特異な物性−」、油化学、1980年、第29巻、第8号、562〜571ページ(40〜49ページ)
「2 両性界面活性剤とは
・・・本来、両性界面活性剤とは溶液のpHによってそのイオン性を変化するものを指すが、どのpH領域でどのようなイオン性を有するかは当然界面活性剤分子の有するイオン基のpKa値に依存する。従って、極端にpKa値の小さいアニオン基(例えばスルホン酸基)と極端に大きいカチオン基(例えば第四級アンモニウム基)を同時に有するような両性界面活性剤の場合、通常のpH領域でそのイオン性が変化せず、常に双イオン型(zwitterionic)で存在することとなる。このような界面活性剤を双イオン界面活性剤(zwitterionic surfactant)と呼ぶこともあるが、・・・」(562ページ(40ページ)左欄第21〜34行)

「両性界面活性剤にはカチオン性を与える基とアニオン性を与える基の組み合わせにより、非常に数多くの種類が考えられる。・・・
・・・以下にその構造式及び略記号と可能なイオン平衡式を示しておく。
N―アルキルアミノプロピオン酸・・・
ジメチルアルキルアミンオキシド・・・」(562ページ(40ページ)右欄第6〜18行)

(イ)周知例2:特表2002−523612号公報
「【0083】
追加的界面活性剤
本発明の液体組成物は、すでに記載した非イオン性界面活性剤に加えて、好ましくは追加的な界面活性剤を含有してもよい。本発明において追加的な界面活性剤は、本発明組成物のクリーニング性能及び/又は光沢効果にさらに貢献するので望ましい。ここで使用する界面活性剤には、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、双極イオン性界面活性剤、及びこれらの混合物がある。本発明の組成物は両性界面活性剤を含有しない。」

「【0085】
本発明に使用するのに好ましい界面活性剤は双極イオン性界面活性剤である。それにまた、それらは本発明組成物に優れた油クリーニング能を与える。
本発明に使用するのに適した双極イオン性界面活性剤は、比較的広い範囲のpHで同じ分子においてカチオン性親水性基及びアニオン性親水性基の双方を与える内部塩を形成する塩基性基及び酸性基の双方を含有する。カチオン性基は、ホスホニウム、イミダゾリウム及びスルホニウム基のような他の正荷電の基も使用出来るが、普通、四級アンモニウム基である。アニオン性親水性基は、スルフェート、ホスホネート等のような他の基も使用できるが、普通、カルボキシレート及びスルホネートである。」

(ウ)周知例3:特開2010−109352号公報
「【0024】
(半導体ナノ粒子を含む塗布液)
半導体ナノ粒子を含む塗布液を構成し、上記半導体ナノ粒子を分散させる分散媒としては、水及び/又は有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどのアルコール類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチルなどのエステル類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)などのエーテル類、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素、クロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロベンゼン等の一部ハロゲン置換した炭化水素などが挙げられる。
【0025】
半導体ナノ粒子を分散媒に分散させるためには、半導体ナノ粒子が分散剤の存在下に、分散媒中に分散されていることが好ましい。分散剤としては、高分子分散剤、界面活性剤、あるいは金属や半導体と相互作用をするようなチオール基、アミノ基、水酸基、カルボキシル基などの極性官能基を有する化合物が好ましい。これらの分散剤は、半導体ナノ粒子の合成時に、ナノ粒子生成と同時にナノ粒子に被覆されるようにするのが好ましい。特に、半導体ナノ粒子を真空蒸着法などの物理的合成方法によって合成する場合には、界面活性剤を作用させて捕集すると、ナノ粒子が界面活性剤で被覆され、分散安定性の良好なナノ粒子が得られるため好ましい。
【0026】
界面活性剤としては、具体的には、カルボン酸塩系、スルホン酸塩系、硫酸エステル塩系、リン酸エステル塩系等の陰イオン界面活性剤;陽イオン界面活性剤;両性界面活性剤;エーテル系、エステルエーテル系、エステル系、含窒素系等の非イオン界面活性剤;フッ素系界面活性剤;反応性界面活性剤等が挙げられる。
このうち、含窒素系等の非イオン界面活性剤とエステル系の非イオン界面活性剤が、分散しやすさの点と分散液の安定性の点で好ましい。
【0027】
また、界面活性剤としては、カルボン酸無水物類及びカルボン酸イミド類が好ましく用いられ、塗布膜を薄く形成できる点で、カルボン酸無水物類が特に好ましい。
カルボン酸無水物類の特に好ましい具体例としては、例えば、アルキル又はアルケニル無水コハク酸、アルキル又はアルケニル無水グルタル酸、アルキル又はアルケニル無水マレイン酸、アルキル又はアルケニル無水フタル酸などが挙げられる。また、カルボン酸イミド類の特に好ましい具体例としては、例えば、アルキル又はアルケニルコハク酸イミド類、アルキル又はアルケニルグルタル酸イミド類、アルキル又はアルケニルマレイン酸イミド類、アルキル又はアルケニルフタル酸イミド類などである。これらの界面活性剤を用いることにより粒径の小さい分散粒子を形成させることができ、また、小粒径でも分散性、分散安定性、高濃度分散性に優れた半導体ナノ粒子の分散液を得ることができる。」

(エ)周知例4:特表2003−518003号公報
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 皮膚に局所的に適用するのに適切なリーブオン化粧品組成物であって
a)約6%から約20%までの多価アルコール、又はそれらの混合物;並びに、
b)カチオン性、塩基性、両向性及び双極イオン性ポリマーから選択されたカチオン含有ポリマー、又はそれらの混合物;
を含み、
ここで、前記の組成物が4%未満のアニオン性、双極イオン性又は両向性界面活性剤を含む組成物。」

「【0021】
本明細書で用いられる「コポリマー」という用語は、1種以上の化学的に異なったモノマーを組み合わせたものを意味する。
本明細書で用いる「双極イオン性(zwitterionic)」という用語は、正電荷と負電荷の両方を持ち、pHの広い範囲において二極性のイオン(dipolar ion)として存在する化合物を意味する。
【0022】
本明細書で用いられる「両向性(amphoteric)」という用語は、pHの低いところではカチオン性の性質、pHの高いところではアニオン性の性質を示す化合物を意味する。中間的なpHで等電点と呼ばれるところでは、この化合物は正電荷と負電荷の両方をもち、すなわち二極性のイオンである。
本明細書で用いられる「塩基性」という用語は、pHが低くなるにつれてカチオン性の電荷の増大を示すポリマーを意味する。」

上記「第5」において、理由3に対して、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1〜4に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないものと判断した。
次に、発明の詳細な説明が、明確かつ十分に記載されたものであるとして、念のため、理由2(進歩性)についても、以下において検討する。

第6 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載
引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と略称する)や有機薄膜トランジスタ(以下、有機TFTと略称する)、有機薄膜太陽電池等の有機電子デバイスの電極材料に関し、特に、銀ナノ粒子を適用した電極及びそれを用いた有機電子デバイスに関する。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、有機電子デバイスの電極材料として、塗布成膜が可能である前記銀ナノ粒子に着目して検討した結果、この銀ナノ粒子は、仕事関数を制御することが可能であることを見出した。
これに基づいて、本発明は、有機電子デバイスにおいて、仕事関数を制御することにより、電極から有機半導体への電荷注入障壁をより小さくすることが可能となる銀ナノ粒子を適用した電極及びそれを用いた有機電子デバイスを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電極は、有機電子デバイス用電極であって、平均粒径が30nm以下であり、沸点が100〜250℃の範囲内にある中短鎖アルキルアミンと沸点が100〜250℃の範囲内にある中短鎖アルキルジアミンを主成分とする保護分子により覆われた銀ナノ粒子からなることを特徴とする。
有機電子デバイスの電極材料として、このような銀ナノ粒子を適用することにより、仕事関数の制御が可能となり、電極から有機半導体への電荷注入障壁をより小さくすることができる。
【0008】
本発明に係る有機電子デバイスは、少なくとも1つの電極が、平均粒径が30nm以下であり、沸点が100〜250℃の範囲内にある中短鎖アルキルアミンと沸点が100〜250℃の範囲内にある中短鎖アルキルジアミンを主成分とする保護分子により覆われた銀ナノ粒子からなることを特徴とする。」

「【0013】
以下、本発明について、より詳細に説明する。
本発明に係る電極は、銀ナノ粒子を用いた有機電子デバイス用電極である。
本発明でいう有機電子デバイスとは、有機層を含む積層構造を備えた電子デバイスであり、有機EL素子、有機TFT、有機薄膜太陽電池等の総称として用いる。前記有機電子デバイスは、基板上に1対の電極を備え、前記電極間に少なくとも1層の有機層を備えた構造からなる。
【0014】
前記銀ナノ粒子は、平均粒径が30nm以下であり、沸点が100〜250℃の範囲内にある中短鎖アルキルアミンと沸点が100〜250℃の範囲内にある中短鎖アルキルジアミンを主成分とする保護分子により覆われた超微粒子である。このような銀ナノ粒子は、本願出願人によって提案されたものであり、具体的な構成及び製造方法については、上述した特許文献2(特開2010−265543号公報)に開示されている。
本発明は、前記銀ナノ粒子が、低温で良好な導電性薄膜を形成し得る材料である上に、焼成温度によって仕事関数に大きな差異が生じることを見出したことに基づいてなされたものである。
このような銀ナノ粒子を有機電子デバイスの電極に応用することにより、仕事関数の制御が可能となり、電極から有機半導体への電荷注入障壁をより小さくすることができ、結果的にデバイス効率の向上を図ることができる。
【0015】
図1に、前記銀ナノ粒子の焼成温度による仕事関数の変化を表したグラフを示す。これは、下記実施例において製造した銀ナノ粒子の分散液を用いて、ガラス基板上にスピンコートにより塗布膜を形成し、各温度で焼成し、AC−3(理研計器株式会社)により各塗布膜について測定した仕事関数である。
図1から分かるように、焼成温度100℃付近を境に、高温になると銀ナノ粒子塗布膜の仕事関数は約0.5eV上昇する。
【0016】
・・・
このような焼成によって起こる銀ナノ粒子の粒子形態や粒子サイズの変化が、仕事関数の変化に影響を及ぼしていると考えられる。
【0017】
したがって、上記のような銀ナノ粒子を用いて塗布膜形成の際の焼成温度を変化させることにより、仕事関数の大小を制御することが可能となる。すなわち、仕事関数の小さい電極を形成する必要がある場合には、100℃未満の焼成温度で銀ナノ粒子塗布膜を形成し、また、仕事関数の大きい電極を形成する必要がある場合には、100℃以上の焼成温度で銀ナノ粒子塗布膜を形成すればよい。
このように、仕事関数を容易に制御可能であれば、電極から有機半導体への電荷注入障壁をより小さくすることが可能となり、動作電圧の低減化を図ることができる。」

「【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例に基づいて、さらに具体的に説明する。下記においては、有機電子デバイスのうち、有機TFTに関して例示するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0023】
(銀ナノ粒子の製造)
n−ヘキシルアミン5.78g(57.1mmol)とn−ドデシルアミン0.885g(4.77mmol)、N,N−ジメチル−1,3−ジアミノプロパン3.89g(38.1mmol)、オレイン酸(>85.0%、東京化成工業株式会社)0.251g(0.889mmol)を混合し、この混合液にシュウ酸銀7.60g(25.0mmol)を加え、約1時間撹拌し、シュウ酸イオン・アルキルアミン・アルキルジアミン・銀錯化合物の粘性のある固体物を生成させた。これを100℃で10分加熱撹拌し、二酸化炭素の発泡を伴う反応を完結させたところ、青色光沢を呈する懸濁液へと変化した。これに、メタノール10mLを加え、遠心分離により得られた沈殿物を分離し、再度、メタノール10mLを加え、沈殿物を撹拌し、遠心分離により銀ナノ粒子の沈殿物を得た。
銀ナノ粒子の沈殿物に、n−オクタンとn−ブタノールの混合溶媒(体積比1:1v/v)を加えて撹拌し、良好な銀ナノ粒子(粒径5〜20nm)の50重量%分散液を得た。
【0024】
(実施例1)P型有機TFTの作製
上記において製造した銀ナノ粒子を用いて、図3に示すような層構造からなるP型有機TFTを作製した。
ガラス基板1上に、銀ナノ粒子の塗布のパターン精度を向上させるため、フッ素系高分子であるテフロン(登録商標)AF1600をスピンコート法で、膜厚が50nm程度になるように成膜した後、ホットプレート上で150℃で1時間焼成した。
その上に、銀ナノ粒子をディスペンサ装置でゲート電極2の形状に塗布しながらパターニングした。そして、100℃で1時間、基板をホットプレート上で焼成し、塗布された銀ナノ粒子電極を焼結させた。
次に、ゲート絶縁膜3として、フッ素系高分子であるテフロン(登録商標)AF1600をスピンコート法で膜厚が200nm程度になるように成膜した後、ホットプレート上で150℃で1時間焼成した。
その上に、銀ナノ粒子をディスペンサ装置でソース電極4、ドレイン電極5の形状に塗布しながらパターニングした。そして、100℃で1時間、基板をホットプレート上で焼成し、塗布された銀ナノ粒子電極を焼結させた。ソース電極4、ドレイン電極5は、それぞれ、長さ45μm、幅475μmであった。
この基板を真空蒸着装置にセットし、P型有機半導体6であるペンタセン(化1)を真空蒸着法で50nm成膜し、P型有機TFTを作製した。」

2 引用発明
上記1からみて、引用文献1には、以下の発明が記載されている(以下、「引用発明」という。)。

「P型有機TFTを作製する方法であって、
n−ヘキシルアミンとn−ドデシルアミン、N,N−ジメチル−1,3−ジアミノプロパン、オレイン酸を混合し、この混合液にシュウ酸銀を加え、約1時間撹拌し、シュウ酸イオン・アルキルアミン・アルキルジアミン・銀錯化合物の粘性のある固体物を生成させることと、
これを100℃で10分加熱撹拌し、二酸化炭素の発泡を伴う反応を完結させて、青色光沢を呈する懸濁液へと変化したものに、メタノールを加え、遠心分離により得られた沈殿物を分離し、再度、メタノールを加え、沈殿物を撹拌し、遠心分離により銀ナノ粒子の沈殿物を得ることと、
銀ナノ粒子の沈殿物に、n−オクタンとn−ブタノールの混合溶媒を加えて撹拌し、良好な銀ナノ粒子の分散液を得ることと、
上記において製造した銀ナノ粒子を用いて、P型有機TFTを作製するために、
ガラス基板上に、銀ナノ粒子の塗布のパターン精度を向上させるため、フッ素系高分子を成膜した後、焼成することと、
その上に、銀ナノ粒子をディスペンサ装置でゲート電極の形状に塗布しながらパターニングし、100℃で1時間、基板を焼成し、塗布された銀ナノ粒子電極を焼結させることと、
次に、ゲート絶縁膜を成膜した後、焼成することと、
その上に、銀ナノ粒子をディスペンサ装置でソース電極、ドレイン電極の形状に塗布しながらパターニングし、100℃で1時間、基板を焼成し、塗布された銀ナノ粒子電極を焼結させることと、
この基板を真空蒸着装置にセットし、P型有機半導体を成膜することとを含む、方法。」

3 引用文献3の記載
引用文献3には、以下の事項が記載されている(審決注:翻訳文は合議体が作成した。)。

「[0102]The present formulation can be used to enable or improve the solution-processability of the OSC therein into various articles, structures, or devices. As used herein, solution-processable refers to compounds, materials, or compositions that can be used in various solution-phase processes including spin-coating, printing (e.g., inkjet printing, screen printing, pad printing, offset printing, gravure printing, flexographic printing, lithographic printing, mass-printing and the like), spray coating, electrospray coating, drop casting, dip coating, and blade coating.」
(「[0102]本配合物は、様々な物品、構造、又はデバイスへのその中のOSCの溶液プロセス可能性を可能にするか、又は改善するために使用することができる。本明細書で使用される場合、溶液プロセス可能とは、スピンコーティング、印刷(例えば、インクジェット印刷、スクリーン印刷、パッド印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、フレキソグラフィック印刷、リソグラフィー印刷、大量印刷など)、スプレーコーティング、エレクトロスプレーコーティング、ドロップキャスティング、ディップコーティング、及びブレードコーティングを含む様々な溶液プロセスで使用できる化合物、材料、又は組成物を指す。」)

「[0103]Various articles of manufacture including electronic devices, optical devices, and optoelectronic devices, such as organic field effect transistors (OFETs) (e.g., organic thin film transistors (OTFTs)), organic photovoltaics (OPVs), photodetectors, organic light emitting devices such as organic light emitting diodes (OLEDs) and organic light emitting transistors (OLETs), complementary metal oxide semiconductors (CMOSs), complementary inverters, diodes, capacitors, sensors, D flip-flops, rectifiers, and ring oscillators, can include a semiconductor component (e.g., a thin film semiconductor) that is deposited from a formulation according to the present teachings. The depositing step can be carried out by printing, including inkjet printing and various contact printing techniques (e.g., screen-printing, gravure printing, offset printing, pad printing, lithographic printing, flexographic printing, and microcontact printing). In other embodiments, the depositing step can be carried out by spin coating, drop-casting, zone casting, slot-coating, dip coating, blade coating, or spraying. In various embodiments, the semiconductor component can be deposited from the present formulation on a substrate at low temperatures. For example, the depositing step can be carried out at a temperature typically less than about 50 ℃., preferably lower than about 35 ℃., and more preferably around 25℃.」
([0103]「電子デバイス、光学デバイス、及び光電子デバイス、例えば、有機電界効果トランジスタ(OFET)(例えば、有機薄膜トランジスタ(OTFT))、有機光起電力(OPV)、光検出器、例えば有機発光ダイオード(OLED)及び有機発光トランジスタ(OLET)などの有機発光デバイス、相補型金属酸化物半導体(CMOS)、相補型インバーター、ダイオード、コンデンサー、センサー、Dフリップフロップ、整流器、及びリング発振器を含む様々な製品は、本教示による配合物から堆積される半導体コンポーネント(例えば、薄膜半導体)を含むことができる。堆積ステップは、インクジェット印刷及び様々な接触印刷技術(例えば、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、パッド印刷、リソグラフィー印刷、フレキソグラフィック印刷、及びマイクロコンタクト印刷)を含む印刷によって実行することができる。他の実施形態では、堆積ステップは、スピンコーティング、ドロップキャスティング、ゾーンキャスティング、スロットコーティング、ディップコーティング、ブレードコーティング、又はスプレーによって実行することができる。様々な実施形態において、半導体成分は、本配合物から基板上に低温で堆積させることができる。例えば、堆積工程は、典型的には約50℃未満、好ましくは約35℃よりも低く、より好ましくは約25℃の温度で実施することができる。」)

「[0105]In certain embodiments, OTFT devices can be fabricated with the present formulations on doped silicon substrates, using SiO2 as the dielectric, in top-contact geometries. In particular embodiments, the active semiconductor layer which is prepared from a formulation according to the present teachings can be deposited at room temperature, or in any event, at a temperature less than or about 50 ℃. In other embodiments, the active semiconductor layer which is prepared from a formulation according to the present teachings can be applied by spin-coating or printing as described herein. For top-contact devices, metallic contacts can be patterned on top of the films using shadow masks.」
(「[0105]特定の実施形態では、OTFTデバイスは、誘電体としてSiO2を使用して、ドープされたシリコン基板上に、トップコンタクト形状で本発明の配合物を用いて製造することができる。特定の実施形態では、本教示による配合物から調製される活性半導体層は、室温で、又はいずれにせよ、約50℃以下の温度で堆積することができる。他の実施形態では、活性半導体層は、本教示による配合物から調製され、本明細書に記載されるようにスピンコーティング又は印刷によって適用することができる。トップコンタクトデバイスの場合、シャドウマスクを使用してフィルムの上に金属コンタクトをパターン化できる。」)

「[0106]In certain embodiments, OTFT devices can be fabricated with the present formulations on plastic foils, using polymers as the dielectric, in top-gate bottom-contact geometries. In particular embodiments, the active semiconducting layer which is prepared from a formulation according to the present teachings can be deposited at room temperature, or in any event, at a temperature less than or about 50 ℃. In other embodiments, the active semiconducting layer which is prepared from a formulation according to the present teachings can be applied by spin-coating or printing as described herein. Gate and source/drain contacts can be made of Au, other metals, or conducting polymers and deposited by vapor-deposition and/or printing.」
(「[0106]特定の実施形態において、OTFTデバイスは、誘電体としてポリマーを使用して、トップゲートボトムコンタクト形状において、プラスチック箔上に本発明の配合物を用いて製造することができる。 特定の実施形態では、本教示による配合物から調製される活性半導体層は、室温で、又はいずれにせよ、約50℃以下の温度で堆積することができる。他の実施形態では、活性半導体層は、本教示による配合物から調製され、本明細書に記載されるようにスピンコーティング又は印刷によって適用することができる。ゲート及びソース/ドレインコンタクトは、Au、他の金属、または導電性ポリマーでできており、蒸着及び/又は印刷によって堆積することができる。」)

第7 理由2に対する当審の判断
1 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、以下のとおりとなる。

(1)引用発明の「P型有機TFTを作製する方法」は、本願発明の「トランジスタを作製する方法」に対応する。

(2)引用発明における「銀ナノ粒子をディスペンサ装置でゲート電極の形状に塗布しながらパターニングし、基板を焼成し、塗布された銀ナノ粒子電極を焼結させること」、「ゲート絶縁膜を成膜した後、焼成すること」、「銀ナノ粒子をディスペンサ装置でソース電極、ドレイン電極の形状に塗布しながらパターニングし、基板を焼成し、塗布された銀ナノ粒子電極を焼結させること」、「P型有機半導体を成膜すること」は、それぞれ本願発明における「銀ナノ粒子を含む導電体インクを印刷し、ゲート誘電層の第2の表面と接触するゲート電極を作成し、ゲート電極を熱アニーリングすること」、「有機半導体と接触する第1の表面を有する単一のゲート誘電層を作成すること」、「銀ナノ粒子を含む導電体インクを基板の上に印刷し、ソース電極およびドレイン電極を作成すること」、「ソース電極およびドレイン電極と接触する有機半導体を印刷すること」に対応する。

(3)本願発明の「銀ナノ粒子を含む導電体インクを基板の上に印刷し、ソース電極およびドレイン電極を作成することであって、銀ナノ粒子は、銀ナノ粒子の仕事関数を増加させる一体化した両性界面活性剤部分を含み、印刷は、印刷の前にソース電極およびドレイン電極の仕事関数を改善するための基板の表面処理を行うことなく行われること」 、「前記一体化した両性界面活性剤部分は、アルキルアミン、カルボン酸およびチオールのいずれかの界面活性剤部分を含む」と、引用発明の「銀ナノ粒子をディスペンサ装置でソース電極、ドレイン電極の形状に塗布しながらパターニングし、基板を焼成し、塗布された銀ナノ粒子電極を焼結させること」とを対比する。

引用発明は、「n−ヘキシルアミンとn−ドデシルアミン、N,N−ジメチル−1,3−ジアミノプロパン、オレイン酸を混合し、この混合液にシュウ酸銀を加え、約1時間撹拌し、シュウ酸イオン・アルキルアミン・アルキルジアミン・銀錯化合物の粘性のある固体物を生成させることと、これを100℃で10分加熱撹拌し、二酸化炭素の発泡を伴う反応を完結させて、青色光沢を呈する懸濁液へと変化したものに、メタノールを加え、遠心分離により得られた沈殿物を分離し、再度、メタノールを加え、沈殿物を撹拌し、遠心分離により銀ナノ粒子の沈殿物を得ることと、銀ナノ粒子の沈殿物に、n−オクタンとn−ブタノールの混合溶媒を加えて撹拌し、良好な銀ナノ粒子の分散液を得ることと」、「上記において製造した銀ナノ粒子を用いて、P型有機TFTを作製するために」、「その上に、銀ナノ粒子をディスペンサ装置でソース電極、ドレイン電極の形状に塗布しながらパターニングし、100℃で1時間、基板を焼成し、塗布された銀ナノ粒子電極を焼結させることと」を含むものであるところ、上記「分散液」は、本願発明の「導電体インク」に相当するといえる。
また、引用文献1の段落【0014】には、沸点が100〜250℃の範囲内にある中短鎖アルキルアミンと沸点が100〜250℃の範囲内にある中短鎖アルキルジアミンを主成分とする保護分子により覆われた銀ナノ粒子が開示されており、段落【0017】には、「仕事関数の大きい電極を形成する必要がある場合には、100℃以上の焼成温度で銀ナノ粒子塗布膜を形成すればよい。」と記載されているから、遠心分離により得た、引用発明の上記の「銀ナノ粒子の沈殿物」において、銀ナノ粒子は保護分子で覆われ、保護分子の主成分のアルキルアミン部分で修飾されており、当該銀ナノ粒子は、「銀ナノ粒子の仕事関数を増加させる一体化した部分」である、「アルキルアミン部分」を含むものと解される。
したがって、本願発明の「銀ナノ粒子は、銀ナノ粒子の仕事関数を増加させる一体化した」「部分を含み」の点は、本願優先日時点において当業者が引用文献1に記載されている事項から導き出せる事項(記載されているに等しい事項)と認められる。
よって、本願発明と引用発明とは、「銀ナノ粒子を含む導電体インクを基板の上に形成し、ソース電極およびドレイン電極を作成することであって、銀ナノ粒子は、銀ナノ粒子の仕事関数を増加させる一体化した部分を含み、印刷は、印刷の前にソース電極およびドレイン電極の仕事関数を改善するための基板の表面処理を行うことなく行われること」、「前記一体化した部分は、アルキルアミン部分を含む」点で共通する。

(4)本願発明の「ソース電極およびドレイン電極と接触する有機半導体を印刷することによって、ソース電極とドレイン電極との間にチャネルを作成すること」と、引用発明の「この基板を真空蒸着装置にセットし、P型有機半導体を成膜すること」とを対比する。

引用発明において、当該「この基板」は、「ソース電極、ドレイン電極」が形成されたものであるといえるから、引用発明において、「有機半導体」は「ソース電極およびドレイン電極と接触する」ものであること、並びに、「P型有機半導体を成膜すること」によって、「ソース電極とドレイン電極との間にチャネルを作成する」こととなることは明らかである。
したがって、本願発明と引用発明とは、「ソース電極およびドレイン電極と接触する有機半導体を形成することによって、ソース電極とドレイン電極との間にチャネルを作成すること」である点で共通する。

(5)本願発明の「有機半導体と接触する第1の表面を有する単一のゲート誘電層を作成すること」と、引用発明の「ゲート絶縁膜を成膜した後、焼成すること」とを対比する。

引用発明の「この基板を真空蒸着装置にセットし、P型有機半導体を成膜すること」における、当該「この基板」は、「ゲート絶縁膜を成膜した後、焼成」されたものであるところ、引用発明において、「ゲート絶縁膜」は「有機半導体と接触する第1の表面」を有することは明らかであるから、本願発明と引用発明は、「有機半導体と接触する第1の表面を有する単一のゲート誘電層を作成すること」を含む点で一致する。

(6)本願発明の「銀ナノ粒子を含む導電体インクを印刷し、ゲート誘電層の第2の表面と接触するゲート電極を作成し、ゲート電極を熱アニーリングすること」と、引用発明の「銀ナノ粒子をゲート電極の形状に塗布しながらパターニングし、100℃で1時間、基板を焼成し、塗布された銀ナノ粒子電極を焼結させること」とを対比する。

引用発明は、「銀ナノ粒子の沈殿物に、n−オクタンとn−ブタノールの混合溶媒を加えて撹拌し、良好な銀ナノ粒子の分散液を得ることと」、「上記において製造した銀ナノ粒子を用いて、P型有機TFTを作製するために」、「その上に、銀ナノ粒子をゲート電極の形状に塗布しながらパターニングし、100℃で1時間、基板を焼成し、塗布された銀ナノ粒子電極を焼結させることと、次に、ゲート絶縁膜を成膜した後、焼成することと」を含むものであるところ、上記(3)のとおり、上記「分散液」は、本願発明の「導電体インク」に相当するといえるとともに、引用発明において、「ゲート電極」は「ゲート絶縁膜の第2の表面と接触する」ものであることは明らかである。
したがって、本願発明と引用発明とは、「銀ナノ粒子を含む導電体インクを形成し、ゲート誘電層の第2の表面と接触するゲート電極を作成し、ゲート電極を熱アニーリングすること」を含む点で共通する。

(7)したがって、本願発明と引用発明の一致点と相違点は、以下のとおりとなる。
<一致点>
「トランジスタを製造する方法であって、
銀ナノ粒子を含む導電体インクを基板の上に形成し、ソース電極およびドレイン電極を作成することであって、銀ナノ粒子は、銀ナノ粒子の仕事関数を増加させる一体化した部分を含み、形成は、形成の前にソース電極およびドレイン電極の仕事関数を改善するための基板の表面処理を行うことなく行われることと、
ソース電極およびドレイン電極と接触する有機半導体を形成することによって、ソース電極とドレイン電極との間にチャネルを作成することと、
有機半導体と接触する第1の表面を有する単一のゲート誘電層を作成することと、
銀ナノ粒子を含む導電体インクを形成し、ゲート誘電層の第2の表面と接触するゲート電極を作成し、ゲート電極を熱アニーリングすることと
を含み、
前記一体化した部分は、アルキルアミン部分を含む、方法。」

<相違点>
<相違点1>
「ソース電極およびドレイン電極を作成すること」、並びに「ゲート電極を作成」することについて、本願発明では、導電体インクを「印刷」し、作成するのに対し、引用発明では、そのような特定はなされていない点。

<相違点2>
「チャネルを作成すること」について、本願発明では、有機半導体を「印刷」し、作成するのに対し、引用発明では、「P型有機半導体」の成膜について、そのような特定はなされていない点。

<相違点3>
「ソース電極およびドレイン電極を作成すること」における「導電体インク」が含む「銀ナノ粒子」について、本願発明では、「銀ナノ粒子は、銀ナノ粒子の仕事関数を増加させる一体化した両性界面活性剤部分」を含むものであるのに対し、引用発明では、そのような特定はなされていない点。

2 判断
上記相違点について判断する。

(1)相違点1について
トランジスタを製造する方法であって、導電体インクを用いて、ソース電極およびドレイン電極並びにゲート電極を作成する方法において、導電体インクを印刷して、これらの電極を形成することは、慣用手段である(例えば、上記第6の3で摘記の引用文献3の段落[0106]を参照。)から、引用発明において、相違点1に係る本願発明の構成とすることは当業者であれば容易になし得たことである。

(2)相違点2について
トランジスタを製造する方法であって、有機半導体を用いて、チャネルを作成する方法において、有機半導体を印刷することによって行うことは、慣用手段である(例えば、上記第6の3で摘記の引用文献3の段落[0103]、[0105]、[0106]を参照。)から、引用発明において、相違点2に係る本願発明の構成とすることは当業者であれば容易になし得たことである。

(3)相違点3について
上記第4のとおり、本願の明細書の発明の詳細な説明の段落【0012】には「ソース/ドレイン電極は、一体化した双極性界面活性剤(この場合にはアルキルアミン)の残留する界面活性剤コーティングを含む。」と記載されている。したがって、発明の詳細な説明には、ソース/ドレイン電極が含む、アルキルアミンの残留する界面活性剤部分は、双極性界面活性剤部分であることが開示されているといえる。
一方、上記第7の3のとおり、引用発明における、遠心分離により得た、上記の「銀ナノ粒子の沈殿物」において、銀ナノ粒子は保護分子で覆われ、保護分子の主成分のアルキルアミン部分で修飾されており、当該銀ナノ粒子は、「銀ナノ粒子の仕事関数を増加させる一体化した部分」である、「アルキルアミン部分」を含むものと解される。
したがって、引用発明において、当該銀ナノ粒子が含む、「銀ナノ粒子の仕事関数を増加させる一体化した部分」である、「アルキルアミン部分」は、「双極性界面活性剤」、すなわち「両性界面活性剤部分」であると認められる。
よって、相違点3は実質的なものではない。

3 請求人の主張について
請求人は、令和3年1月6日に提出した上申書、及び同年7月12日に提出した意見書において、本発明は、「界面活性剤であって、アルキルアミンなどの界面活性作用を有する部分が、双極子結合により、銀ナノ粒子の表面に付着するようなものです。本発明では、このような一体化した双極性界面活性剤を採用することにより、引例1に記載されている発明のように100℃以上の温度で銀ナノ粒子を焼成することを要することなく、銀ナノ粒子で形成した電極の仕事関数を改善することを可能にしたものです(本願明細書の段落[0008]等)。」と主張している。
しかしながら、発明の詳細な説明には、本願発明の「両性界面活性剤部分」(審決注:上記第5の3(2)のとおり、「両性界面活性剤(溶液のpHに応じて陽・両性・陰イオンとなる。)は、「双極性イオン性界面活性剤(通常のpH領域でそのイオン性が変化せず、常に双イオン型(zwitter-ionic)で存在する(二極性のイオン(dipolar ion)として存在する。))」とは、通常は区別されることに留意されたい。)に関して、界面活性剤であって、界面活性作用を有する部分が、「双極子結合により、銀ナノ粒子の表面に付着する」ことは、記載も示唆もされていない。
したがって、請求人の当該主張を採用することはできない。

4 理由2に対する当審の判断のまとめ
上記のとおりであるから、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易になし得たものである。

第8 むすび
以上のことから、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
また、本願発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 辻本 泰隆
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-11-04 
結審通知日 2021-11-08 
審決日 2021-11-24 
出願番号 P2016-013163
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (H01L)
P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 小田 浩
恩田 春香
発明の名称 改良された電荷注入特性を有する印刷可能なナノ粒子導電体インク  
代理人 大塚 文昭  
代理人 那須 威夫  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 須田 洋之  
代理人 西島 孝喜  
代理人 那須 威夫  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 上杉 浩  
代理人 近藤 直樹  
代理人 上杉 浩  
代理人 近藤 直樹  
代理人 須田 洋之  
代理人 西島 孝喜  
代理人 大塚 文昭  

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