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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04W
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H04W
管理番号 1383614
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-10-29 
確定日 2022-04-25 
事件の表示 特願2019−534619「向上された分散チャネルアクセスを使用する無線通信方法及びそれを使用する無線通信端末」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 3月15日国際公開,WO2018/048229,令和 1年 9月19日国内公表,特表2019−527005,請求項の数(8)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2017年(平成29年)9月7日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2016年9月7日 大韓民国(KR),2016年9月10日 大韓民国(KR),2016年9月12日 大韓民国(KR),2016年9月13日 大韓民国(KR),2016年9月23日 大韓民国(KR),2016年11月6日 大韓民国(KR),2017年2月20日 大韓民国(KR))を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

令和元年 7月26日 上申書
令和元年 9月27日 手続補正書
令和元年12月 6日付け 拒絶理由通知書
令和2年 3月10日 意見書及び手続補正書の提出
令和2年 6月17日付け 拒絶査定
令和2年10月29日 審判請求書及び手続補正書の提出
令和3年 1月 8日 上申書
令和3年 2月26日 上申書
令和3年 9月29日付け 拒絶理由通知書(当審)
令和3年12月28日 意見書及び手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和2年6月17日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

理由2.(明確性)この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
理由3.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
●理由2(明確性)について
請求項10記載の「前記CWの値が,前記維持されているパラメータセットで伝送される前記データの優先度に対応する前記CWの最大値(CWmax)より大きければ」との記載は,不明確である。

●理由3(進歩性)について
・請求項1ないし16に対して,引用文献1及び2

<引用文献等一覧>
1.Laurent Cariou (Intel),2 sets of EDCA parameters,IEEE 802.11-16/0998r0,IEEE,2016年 7月,検索日[2019.12.05],インターネット<URL:https://mentor.ieee.org/802.11/dcn/16/11-16-0998-00-00ax-rules-for-2-edca-parameters.pptx>(以下,「引用文献1」という。)
2.国際公開第2016/112146号(以下,「引用文献2」という。)

第3 当審拒絶理由の概要
当審における令和3年9月29日付け拒絶理由通知書で通知した拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)の概要は次のとおりである。

理由1.(サポート要件)この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由2.(明確性)この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


●理由1(サポート要件),及び理由2(明確性)について
(1)請求項 1ないし9
請求項1の「前記トリガー基盤PPDUに含まれる前記MPDUが即時応答を要請した場合,即時応答を受信した前記MPDUのアクセスカテゴリに対して前記第2パラメータセットタイマーを設定し、」との記載は,発明の詳細な説明に記載されていない。
したがって,上記請求項1に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものではない。また,同様の記載がなされている請求項9に係る発明,及び上記請求項1を引用する請求項2ないし8に係る発明も,発明の詳細な説明に記載したものではない。(サポート要件)
(2)請求項 1ないし9
請求項1に記載された「前記トリガーフレームのユーザ情報フィールドが前記無線通信端末を示すかどうかに基づいて、チャネルにアクセスするために使用されるパラメータのセットであるパラメータセットを、第1パラメータセットから第2パラメータセットに転換し、」との発明特定事項は,その技術的意味が明確でなく,また「第1パラメータセットから第2パラメータセットに転換」する際に,“第1パラメータセットが適用されている時に,「トリガーフレーム」により「UL MU伝送がスケジューリングされる」又は「UL MU伝送の参加をトリガーする」場合”であることに関する発明特定事項が不足していることは明らかである。
よって,請求項1に係る発明は,明確でない。また,同様の記載がなされている請求項9,及び請求項1を引用する請求項2ないし8についても,明確でない。(明確性
(3)請求項 1ないし9
請求項1には「前記第2パラメータセットタイマーが満了すると、第2パラメータセットのアプリケーションを終了し、」との記載があるが,終了する「第2パラメータセットのアプリケーション」とは,どのようなものを表しているのか明確でない。
よって,請求項1に係る発明は,明確でない。また,同様の記載がなされている請求項9,及び請求項1を引用する請求項2ないし8についても,明確でない。(明確性
(4)請求項 4
請求項4に係る発明において,「第2パラメータセットタイマーを設定する」のが,請求項4に記載されたような「前記第1パラメータセットから前記第2パラメータセットに転換する際」であるのか,当該請求項4で引用する請求項1の「(即時応答を要請しない場合)前記トリガー基盤PPDUの送信が終了した時点」であるのか,明確でない。
したがって,請求項4に係る発明は,明確でない。(明確性
(5)請求項 6
請求項6には「前記CWの値が,前記パラメータセットが変更された後に維持されている前記パラメータセットで伝送される前記データの優先度に対応する前記CWの最大値(CWmax)より大きければ、前記CWの値をCWmaxに設定する」との記載がある。当該記載における「前記CWの値」がどのような「値」を表しているのか,また「前記CWの値をCWmaxに設定する」との記載における「CWmax」がどのような「CWmax」を表しているのか,明確でない。
したがって,請求項6に係る発明は,明確でない。(明確性

第4 本願発明
本願の請求項1ないし8に係る発明(以下,「本願発明1」ないし「本願発明8」という。)は,令和3年12月28日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
ベース無線通信端末と無線で通信する無線通信端末において、
送受信部と、
プロセッサと、を含み、
前記プロセッサは、
1つ以上の無線通信端末の上り伝送をトリガーするトリガーフレームを受信し、前記上り伝送は直交周波数分割多元接続(OFDMA)を用いて実行され、
前記送受信部を使用して、前記トリガーフレームに応答して、前記上り伝送のためのトリガー基盤物理層プロトコルデータユニット(PPDU)を、前記ベース無線通信端末に送信し、
前記ベース無線通信端末が前記無線通信端末のマルチユーザ上り伝送の参加をトリガーするか否かに基づいて、チャネルにアクセスするために使用されるパラメータのセットであるパラメータセットを、第1パラメータセットから第2パラメータセットに転換し、
前記トリガー基盤PPDUに含まれるMACプロトコルデータユニット(MPDU)が即時応答を要請しない場合、前記トリガー基盤PPDUの送信が終了した時点で、前記MPDUのアクセスカテゴリに対して第2パラメータセットタイマーを設定し、
前記第2パラメータセットタイマーが満了すると、前記第2パラメータセットの適用を終了し、
前記無線通信端末がチャネルにアクセスする場合に維持されるパラメータセットにおける、前記無線通信端末が前記ベース無線通信端末に伝送するデータの優先度に対応するパラメータを用いて前記チャネルにアクセスする
ように構成されている、無線通信端末。
【請求項2】
前記トリガー基盤PPDUが含むMPDUは、QoSデータフレームである
請求項1に記載の無線通信端末。
【請求項3】
前記プロセッサは、
前記ベース無線通信端末からビーコンフレームを受信し、
前記第2パラメータセットタイマーの期間を示す情報を前記ビーコンフレームから獲得する
ように構成されている請求項1に記載の無線通信端末。
【請求項4】
前記プロセッサは、
競争ウィンドウ(Contention Window、CW)のうちから無作為の整数値を算出し、
前記無作為の整数値に基づいてバックオフタイマーを設定し、
前記バックオフタイマーと予め指定されたスロットタイムに基づいて前記チャネルにアクセスする、
ように構成され、
前記パラメータセットは、
前記CWの最小値(CWmin)と前記CWの最大値(CWmax)を含む
請求項1に記載の無線通信端末。
【請求項5】
前記パラメータセットは、
競争ウィンドウ(Contention Window、CW)の最小値(CWmin)と前記CWの最大値(CWmax)を含み、
前記プロセッサは、
前記CW内で無作為の整数値を算出し、
前記無作為の整数値に基づいてバックオフタイマーを設定し、
前記バックオフタイマーと予め指定されたスロットタイムに基づいて前記チャネルにアクセスし、
前記CWの値が、前記パラメータセットが変更された後に維持されている前記パラメータセットで伝送される前記データの優先度に対応する前記CWの前記CWmaxより大きければ、前記CWの値を前記CWmaxに設定する
ように構成されている請求項1に記載の無線通信端末。
【請求項6】
前記プロセッサは、
キューに貯蔵されるデータのアクセスカテゴリに応じて区分される複数のキューを運営し、前記複数のキューそれぞれにおいてバックオフタイマーに当たる時間に基づいてチャネルにアクセスするバックオフ手順を行い、
前記キューに貯蔵されたデータがなく、前記キューに当たるバックタイマー0であれば、前記バックオフタイマーのスロットの境界でいかなる動作も行わない、
ように構成され、
前記バックオフタイマーは、競争ウィンドウ(CW)のうちから算出された無作為の整数値に基づいて設定され、前記予め指定されたスロットタイムの間に前記チャネルが遊休であれば減少される
請求項1に記載の無線通信端末。
【請求項7】
前記プロセッサは、
前記キューに貯蔵されたデータがなく、前記キューに当たる前記バックオフタイマーが0であれば、前記バックオフタイマーを0に維持する
ように構成されている請求項6に記載の無線通信端末。
【請求項8】
ベース無線通信端末と無線で通信する無線通信端末の動作方法において、
1つ以上の無線通信端末の上り伝送をトリガーするトリガーフレームを受信するステップであって、前記上り伝送は直交周波数分割多元接続(OFDMA)を用いて実行される、ステップと、
前記上り伝送のためのトリガー基盤物理層プロトコルデータユニット(PPDU)を、前記ベース無線通信端末に送信するステップと、
前記ベース無線通信端末が前記無線通信端末のマルチユーザ上り伝送の参加をトリガーする否かに基づいて、チャネルアクセスのために使用されるパラメータのセットであるパラメータセットを、第1パラメータセットから第2パラメータセットに転換するステップと、
前記トリガー基盤PPDUに含まれるMPDUが即時応答を要請しない場合、前記トリガー基盤PPDUの送信が終了した時点で前記MPDUのアクセスカテゴリに対して第2パラメータセットタイマーを設定するステップと、
前記第2パラメータセットタイマーが満了すると、前記第2パラメータセットの適用を終了するステップと、
前記無線通信端末がチャネルにアクセスする場合に維持されるパラメータセットにおける、前記ベース無線通信端末に伝送するデータの優先度に対応するパラメータを用いて前記チャネルにアクセスするステップと、
前記チャネルを介して前記データを伝送するステップと、を含む
動作方法。」

第5 引用文献,引用発明及び技術的事項
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由で引用され,本願優先日前に公開された引用文献1(Laurent Cariou (Intel),2 sets of EDCA parameters(当審仮訳:2つのEDCAパラメータセット),IEEE 802.11-16/0998r0,IEEE,2016年 7月,検索日[2019.12.05],インターネット<URL:https://mentor.ieee.org/802.11/dcn/16/11-16-0998-00-00ax-rules-for-2-edca-parameters.pptx>)には,図面とともに以下の記載がある。(なお,下線は当審で付与した。)

(1)「Motivation:Improving HE STAs UL performance
・802.11ax defines UL MU channel access, where AP triggers STAs transmissions
・HE STAs can also access the channel with EDCA

・To ensure overall improved HE STAs performance, we need to ensure that the access delay for trigger frame transmissions is short and there are no collisions
・This can be achieve by the combination of:
− Increasing AP channel access
− Decreasing STAs EDCA access when scheduled」(スライド12)
(当審仮訳:動機:
HE STAのULパフォーマンスの向上
・802.11axは,APがSTA送信をトリガーするUL MUチャネルアクセスを定義する。
・HE STAは,EDCAを使用してそのチャネルにアクセスすることもできる。

・HE STAのパフォーマンスを全体的に向上させるには,トリガーフレーム送信に対するアクセス遅延が短く,衝突がないことを確認する必要がある。
・これは,次の組み合わせによって実現できる。
− APチャネルアクセスを増加。
− スケジュール時におけるSTAのEDCAアクセスの低減。)

(2)「2 set of EDCA parameters
・We propose to define 2 set of EDCA parameters.:
− One that we call legacy EDCA parameters that are used by legacy STA and HE STA in SU mode
− Another one that we call MU EDCA parameters that are used by HE STA in MU mode and are defined to be more restrictive than legacy EDCA parameters to favor MU transmission.
・A set of rules is required for the HE-STAs to choose between two sets of parameters so that the needs of improving efficiency and reducing latency can be satisfied 」(スライド14)
(当審仮訳:2つのEDCAパラメータセット
・2つのEDCAパラメータセットを定義することを提案する。:
−一つはレガシーのSTA及びシングルユーザモードのHE STAによって使われるレガシーEDCAパラメータと呼ばれるもの。
−もう一つは,マルチユーザモードのHE STAによって使われるMU EDCAパラメータと呼ばれるものであり,MU送信を優先するためにレガシーEDCAパラメータよりも制限が厳しく定義される。
・効率向上と遅延低減の必要性を満たすために,HE−STAが2つのパラメータセットから選択するためのルールセットが必要である。)

(3)「Set of rules to select the EDCA parameters
・Condition to switch from legacy EDCA parameters to MU EDCA parameters is TBD
− (TBD) EDCA parameter changes can be AC-specific or for all ACs」(スライド16)
(当審仮訳:EDCAパラメータを選択するためのルールセット
・レガシーEDCAパラメータからMU EDCAパラメータへ切り替え条件は未確定である。
−(未確定)EDCAパラメータの切り替えはAC個別になされる,又は全てのACに対してなされる)

(4)「Set of rules to select the EDCA parameters
・Condition to switch from MU EDCA parameters to legacy EDCA parameters
− the STA can switch back to the legacy EDCA parameters if the STA has not been scheduled after a pre-defined TimeOut after the last time the STA was scheduled by Basic variant Trigger frame in UL MU.
・timeout starts from end of basic variant Trigger」(スライド17)
(当審仮訳:EDCAを選択するためのルールセット
・MU EDCAパラメータからレガシーEDCAパラメータへの切り替え条件
−STAが,UL MUの基本的な変形されたトリガーフレームによってスケジュールされた最後の時から,当該STAが事前定義されたタイムアウト後においてスケジュールされてない場合,当該STAはレガシーEDCAパラメータに切り戻すことができる。
・タイムアウトは基本的な変形されたトリガーフレームの終わりから開始される。)

引用文献1の上記記載,及びこの分野における技術常識を考慮すると,次のことがいえる。

ア 上記「(1)」には「トリガーフレーム送信に対するアクセス」との記載もあり,当該記載によれば,アクセスは,トリガーフレーム送信に対して行われるものである。そうすると,上記「802.11axは,APがSTA送信をトリガーするUL MUチャネルアクセスを定義する。」との記載におけるトリガーは,APがSTAに送信する「トリガーフレーム送信」により行われるといえる。以上のことから,802.11axにおけるSTAは,APがSTA送信をトリガーするトリガーフレーム送信を受信し,トリガーフレーム送信に対してSTA送信のアクセスを行うといえる。
さらに,上記「(1)」の「802.11axは,APがSTA送信をトリガーするUL MUチャネルアクセスを定義する。」との記載によれば,802.11axでは,APがトリガーするSTA送信に対して,UL MUチャネルアクセスが定義されているといえる。
また,上記「(2)」には「2つのEDCAパラメータセットを定義する」ものであって,「もう一つは,マルチユーザモードのHE STAによって使われるMU EDCAパラメータと呼ばれるもの」と記載されていることから,2つのEDCAパラメータセットのうちの1つとして,MU EDCAパラメータセットが定義されているといえる。ここで,「MU」がMulti User(マルチユーザ),「EDCA」がEnhanced Distributed Channel Access(拡張された分散型チャネルアクセス)の略であることが技術常識であることを考慮すれば,上記「(2)」に記載された「MU EDCAパラメータセット」は,マルチユーザモード用のチャネルアクセスに関するパラメータであることは明らかである。また,上記「(2)」に記載された「マルチユーザモードのSTA」とは,STAが,上記「ア」で説示したようなUL MUチャネルアクセスのSTA送信を行う場合のSTAを表していることは明らかである。以上のことを考慮すれば,上記「(1)」の「HE STAは,EDCAを使用してそのチャネルにアクセスする」との記載は,STAは,UL MUチャネルアクセスのSTA送信を行う場合,MU EDCAパラメータセットを使用すると言い換えることができる。
以上のことを考慮すれば,引用文献1には,802.11axにおけるSTAが,APがSTA送信をトリガーするトリガーフレーム送信を受信し,前記トリガーフレーム送信に対してアクセスを行い,前記STA送信に対して,UL MUチャネルアクセスが定義されており,UL MUチャネルアクセスのSTA送信を行う場合,MU EDCAパラメータセットを使用していることが記載されている。

イ 上記「(4)」には「MU EDCAパラメータからレガシーEDCAパラメータへの切り替え条件」として,「当該STAが事前定義されたタイムアウト後において・・・(中略)・・・当該STAはレガシーEDCAパラメータに切り戻すことができる。」,「タイムアウトは基本的な変形されたトリガーフレームの終わりから開始される。」ことが記載されている。ここで,「トリガーフレーム」とは,上記「(1)」の「トリガーフレーム送信」と同じものを表していることは明らかであることを考慮すれば,上記記載は,STAにおいて,タイムアウトはトリガーフレーム送信の終わりから開始され,タイムアウト後にMU EDCAパラメータからレガシーEDCAパラメータに切り戻し(切り替え)を行うことが記載されているといえる。
また,上記「(3)」の「EDCAパラメータの切り替えはAC個別になされる」との記載を考慮すれば,前記MU EDCAパラメータからレガシーEDCAパラメータへの切り戻しはAC個別になされるといえる。
ここで,上記のようにEDCAパラメータの切り戻しはAC個別になされることから,EDCAパラメータ内にはAC別のパラメータが含まれることは明らかである。つまり,EDCAパラメータは複数のパラメータからなるセットといえる。また,上記「(2)」の「2つのEDCAパラメータセットを定義する」ものであって,「一つはレガシーのSTA及びシングルユーザモードのHE STAによって使われるレガシーEDCAパラメータと呼ばれるもの。」,「もう一つは,マルチユーザモードのHE STAによって使われるMU EDCAパラメータと呼ばれるもの」との記載があることからも,EDCAパラメータはパラメータのセットであるといえる。そうすると,MU EDCAパラメータ,レガシーEDCAパラメータは,それぞれAC別のパラメータが含まれる,MU EDCAパラメータセット,レガシーEDCAパラメータセットといえる。
以上のことから,STAは,タイムアウトはトリガーフレーム送信の終わりから開始され,タイムアウト後にMU EDCAパラメータセットからレガシーEDCAパラメータセットに切り戻しを行い,前記切り戻しはAC個別になされるといえる。

ウ 上記「(1)」には「HE STAは,EDCAを使用してそのチャネルにアクセスする」ことが記載されている。また,上記「(2)」には「2つのEDCAパラメータセットを定義する」ものであって,「一つはレガシーのSTA及びシングルユーザモードのHE STAによって使われるレガシーEDCAパラメータと呼ばれるもの。」,及び「もう一つは,マルチユーザモードのHE STAによって使われるMU EDCAパラメータと呼ばれるもの」であることが記載されている。ここで,上記「イ」で説示したように,「EDCA」がEnhanced Distributed Channel Access(拡張された分散型チャネルアクセス),「MU」がMulti User(マルチユーザ)の略であることが技術常識であることを考慮すれば,上記「(2)」に記載された「レガシーEDCAパラメータ」は,シングルユーザモード用のチャネルアクセスに関するパラメータであり,「MU EDCAパラメータセット」は,マルチユーザモード用のチャネルアクセスに関するパラメータであること,HE STAはこの2つのパラメータが定義され,使用することができることは明らかである。さらに,上記「ウ」で説示したように,MU EDCAパラメータ,レガシーEDCAパラメータは,それぞれMU EDCAパラメータセット,レガシーEDCAパラメータセットといえる。してみれば,STAは,レガシーEDCAパラメータセット又はMU EDCAパラメータセットを使用してチャネルにアクセスするといえる。

したがって,上記「ア」ないし「ウ」を総合すると,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「802.11axにおけるSTAにおいて,
APがSTA送信をトリガーするトリガーフレーム送信を受信し,
前記トリガーフレーム送信に対してアクセスを行い,
前記STA送信に対して,UL MUチャネルアクセスが定義されており,UL MUチャネルアクセスのSTA送信を行う場合,MU EDCAパラメータセットを使用し,
タイムアウトは前記トリガーフレーム送信の終わりから開始され,タイムアウト後にMU EDCAパラメータセットからレガシーEDCAパラメータセットに切り戻しを行い,前記切り戻しはAC個別になされ,
前記レガシーEDCAパラメータセット又はMU EDCAパラメータセットを使用してチャネルにアクセスする
STA。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由で引用され,本願優先日前に公開された引用文献2(国際公開第2016/112146号)には,図面とともに以下の事項が記載されている。(なお,下線は当審で付与した。)

(1)「[0057] Typically, STAs send UL MU frames after receiving a trigger frame (TF) from an AP. The present disclosure addresses various issues for MU communications, such as when an AP sends trigger frames and when STAs operating in MU mode can access the medium, other than when responding to a received TF. Aspects of the present disclosure provide mechanism that may be used for contention-based medium access by STAs, even when operating in MU mode. 」
(当審仮訳:[0057]通常,STAは,APからのトリガーフレーム(TF)を受信した後に,UL MUフレームを送る。本開示は,APがいつトリガーフレームを送るか,及びMUモードで動作するSTAが,受信したTFへの応答時以外にいつ媒体にアクセスすることができるかなどのような,MU通信に関する様々な問題に対処する。本開示の態様は,MUモードで動作しているときでさえ,STAによる競合ベースの媒体アクセスのために使用され得るメカニズムを提供する。)

(2)「[0059] According to certain aspects, the UL signal or the DL signal may be transmitted using, for example, MU multiple-input multiple-output (MU-MIMO), MU (Orthogonal) frequency division multiple access (MU-(O)FDMA). Specifically, FIGs. 4-8 illustrate uplink MU-MIMO (UL-MU-MIMO) transmissions and that would apply equally to UL-(0)FDMA transmissions. In these embodiments, UL-MU-MIMO or UL-(0)FDMA transmissions can be sent simultaneously from multiple STAs to an AP and may create efficiencies in wireless communication. 」

(当審仮訳:[0059]ある特定の態様に従って,UL信号又はDL信号は,例えば,MU他入力多出力(MU−MIMO),MU(直交)周波数分割多元接続(MU−(O)FDMA)を使用して送信され得る。具体的には,図4−8は,アップリンクMU−MIMO(UL−MU−MIMO)送信を図示しており,さらにUL−(O)FDMAに等しく適用できるだろう。これらの実施形態では,UL−MU−MIMOまたはUL−(O)FDMA送信は,複数のSTAからAPに同時に送られ得,ワイヤレス通信における効率をもたらし得る。)

(3)「[0060] FIG. 4 is an example UL/DL frame exchange 400 for MU communications, in accordance with certain aspects of the present disclosure. As shown in FIG. 4, the AP (e.g., AP 110) may transmit a trigger frame 410 (e.g., a clear-to-transmit (CTX) frame) to multiple STA1, STA2, and STA3 indicating which stations may participate in the MU communications, such that a particular STA knows to start an UL MU transmission. 」
(当審仮訳:[0060]図4は,本開示のいくつかの態様による,MU通信のための例示的なUL/DLフレーム交換400である。図2に示すように,本実施形態の方法は以下のステップを含む。図4に示すように,AP(たとえば,AP100)は,特定のSTAがUL MU送信を開始することを知るように,どの局がMU通信に参加し得るかを示すトリガーフレーム410(たとえば,送信可(CTX)フレーム)を複数のSTA1,STA2,及びSTA3に送信し得る。)

(4)「[0073] In an example implementation, the AP may set "ad-hoc" EDCA Access parameters for these SU transmissions. For example, , a first set of EDCA parameters used by the STA may be different than regular EDCA parameters used by the STA when the STA is not configured to communicate with the AP via MU transmissions. The AP may set different EDCA Access parameters for MU-operating STAs than for SU-operating STAs. As an example, the AP may set shorter TXOP limits, larger minimum contention window (CW), a larger maximum CW, or longer arbitration interframe space numbers (AIFSNs) for unsolicited SU frames. 」
(当審仮訳:[0073]例示的な実装形態では,APは,これらのSU送信のためのアドホックEDCAアクセスパラメータを設定し得る。例えば,STAによって使用されるEDCAパラメータの第1のセットは,STAがMU送信を介してAPと通信するように構成されていないときのSTAによって使用される通常のEDCAパラメータとは異なり得る。APは,SU動作STAのためのEDCAアクセスパラメータとは異なるMU動作STAのためのEDCAアクセスパラメータを設定し得る。一例として,APは,勝手に送りつけられてくるSUフレームに対して,より短いTXOP限界,より大きい最小コンテンションウィンドウ(CW),より大きい最大CW,またはより長いアービトレーションフレーム間スペース番号(AIFSN)を設定し得る。)

(5)「[0081] As shown in the example exchange 600 of FIG. 6, a first station (STA1) may send a request at 610 (e.g., for an SU TXOP or an MU TXOP). As shown, the AP may respond with an ACK 620 (acknowledgment of receipt of the request) and may immediately grant a TXOP for an SU transmission 630. Similarly, STA2 may send a request at 640 for an SU TXOP and the AP may respond with an ACK 650 granting a TXOP for an SU transmission 660. Allowing the SU TXOPs may allow the STAs to send data sooner than having to wait for a subsequent TF.
[0082] As an alternative, the AP may respond to a STA request with an immediate MU trigger frame-or with an ACK that indicates a time of a subsequent MU trigger frame. For example, STA2 may have already indicated it has buffered data, therefore, the AP may decide to wait until the MU trigger frame so STA1 and STA2 can send data-rather than grant an immediate SU TXOP to STA1. 」
(当審仮訳:[0081]図2の例示的な交換600に示されるように,UEは,UEのIDを交換する。図6に示すように,第1の局(STA1)は,610において(例えば,SU TXOPまたはMU TXOPのための)要求を送り得る。図示のように,APは,ACK620(要求の受信の肯定応答)で応答することができ,SU送信630のためのTXOPを直ちに許可することができる。同様に,640において,STA2は,SU TXOPのための要求を送り得,APは,SU送信660のためのTXOPを許可するACK650で応答し得る。SU TXOPを可能にすることは,STAが,後続のTFを待つ必要があるよりも早くデータを送ることを可能にし得る。
[0082]代替として,APは,即時MUトリガーフレームを用いて,又は後続のMUトリガーフレームの時間を示すACKを用いて,STA要求に応答し得る。例えば,STA2は,それがバッファリングされたデータを有することをすでに示している場合があり,したがって,APは,STA1及びSTA2がSTA1に即時SU TXOPを許可するのではなく,データを送ることができるように,MUトリガーフレームまで待つことを決定する場合がある。)

(6)「[0085] In some cases, a STA may adjust the first set of EDCA parameters in response to detecting one or more conditions related to MU operation (e.g., with the adjustment of various parameters to achieve a desired result). For example, if the AP does not successfully send an MU trigger (e.g., if triggers collided, if an AP is an exposed node that is not able to access the medium to send the trigger, or if the AP is badly implemented) to an MU-operating STA within a reasonable time, the STA data delay may be impacted. According to certain aspects, such an MU-operating STA may revert to regular SU operation (and to the use of SU EDCA Access parameters) if the STA is not granted a TXOP by the AP after a certain time following the last TXOP request. In such cases, the STA may also ignore limitations on the types of frames that can be transmitted in SU. Such escape techniques may help the STAs to avoid starvation and/or delay when MU operations are not performing adequately. In another example, a STA may revert to SU operation if the obtained throughput or delay does not reach a pre-negotiated level with the AP. 」
(当審仮訳:[0085]いくつかの場合には,STAは,(例えば,所望の結果を達成するための様々なパラメータの調整を用いて)MU動作に関係する1つまたは複数の条件を検出したことに応答して,EDCAパラメータの第1のセットを調整し得る。例えば,APがMUトリガーを正常に送信しない場合(例えば,トリガーが衝突した場合,APがトリガーを送信するために媒体にアクセスすることができない露出ノードである場合,またはAPが不適切に実装された場合),STAデータ遅延は,妥当な時間内にMU動作STAに影響を及ぼされ得る。いくつかの態様によれば,そのようなMU動作STAは,STAが最後のTXOP要求に続くある時間後にAPによってTXOPを与えられない場合,通常のSU動作(及びSU EDCAアクセスパラメータの使用)に戻り得る。そのような場合,STAはまた,SU中で送信され得るフレームのタイプに対する制限を無視し得る。そのようなエスケープ技法は,MU動作が適切に実行されていないとき,STAが不足及び/又は遅延を回避するのを助け得る。別の例では,STAは,取得されたスループット又は遅延がAPとの事前ネゴシエートされたレベルに達しない場合,SU動作に戻り得る。)

(7)「[0090] In priority-based contention, the AP may pre-determine a few sets of contention parameters with different levels of priority. In such cases, the AP may specify the contention parameter set for each polled STA based on its priority, which may be determined according to certain polling criteria. In a contention-free approach, the AP may specify a unique time slot for each polled STA. 」
(当審仮訳:[0090]優先度ベースの競合では,APは,異なる優先度レベルをもつ競合パラメータのいくつかのセットをあらかじめ決定し得る。そのような場合,APは,特定のポーリング基準に従って決定され得るその優先度に基づいて,各ポーリングされたSTAのための競合パラメータセットを指定し得る。無競合手法では,APは,ポーリングされたSTAごとに一意のタイムスロットを指定することができる。)

(8)図6として,以下の図が示されている。




引用文献2の上記記載,及びこの分野における技術常識を考慮すると,次のことがいえる。

ア 上記「(5)」の段落[0081]の「第1の局(STA1)は,610において(例えば,SU TXOPまたはMU TXOPのための)要求を送り得る。図示のように,APは,ACK620(要求の受信の肯定応答)で応答する」との記載,及び上記「(8)」の図6によれば,STAは,MU TXOPのための要求をAPに送るといえる。

イ 上記「(5)」の段落[0082]の「APは,即時MUトリガーフレームを用いて,又は後続のMUトリガーフレームの時間を示すACKを用いて,STA要求に応答し得る。」との記載,及び上記「(8)」の図6によれば,APは,STA要求に応答して,MUトリガーフレームをSTAに送信し,STAは,APから送信されるMUトリガーフレームを受信するといえる。

ウ 上記「(1)」の「STAは,APからのトリガーフレーム(TF)を受信した後に,UL MUフレームを送る。」との記載,及び上記「(8)」の図6においてTF(トリガーフレーム)の後に「UL MU PPDU」が記載されていることによれば,STAは,トリガーフレームを受信後に,UL MU PPDUを送信するといえる。

エ 上記「(2)」の「UL信号又はDL信号は,・・・(中略)・・・MU(直交)周波数分割多元接続(MU−(O)FDMA)を使用して送信され得る。」との記載を考慮すれば,UL信号である上記「ウ」で説示した「UL MU PPDU」は,直交周波数分割多元接続(OFDMA)を使用して送信されるといえる。

オ 上記「(3)」の「AP(たとえば,AP100)は,特定のSTAがUL MU送信を開始することを知るように,どの局がMU通信に参加し得るかを示すトリガーフレーム410(たとえば,送信可(CTX)フレーム)を複数のSTA1,STA2,及びSTA3に送信し得る。」との記載によれば,トリガーフレームは特定のSTAがUL MU送信に参加し得るかを示すものといえる。

カ 上記「(4)」の「STAによって使用されるEDCAパラメータの第1のセットは,STAがMU送信を介してAPと通信するように構成されていないときのSTAによって使用される通常のEDCAパラメータとは異なり得る。APは,SU動作STAのためのEDCAアクセスパラメータとは異なるMU動作STAのためのEDCAアクセスパラメータを設定し得る。」との記載によれば,STAが使用するMU動作STAのためのEDCAアクセスパラメータのセットは,SU動作STAのためのEDCAアクセスパラメータのセットとは異なるといえる。

キ 上記「(6)」の「MU動作STAは,STAが最後のTXOP要求に続くある時間後にAPによってTXOPを与えられない場合,通常のSU動作(及びSU EDCAアクセスパラメータの使用)に戻り得る。」との記載によれば,STAは,MU動作において最後のTXOP要求に続くある時間後にAPによってTXOPが与えられない場合,通常のSU EDCAアクセスパラメータの使用に戻るといえる。

ク 上記「(7)」の「優先度ベースの競合では,APは,異なる優先度レベルをもつ競合パラメータのいくつかのセットをあらかじめ決定し得る。」との記載によれば,APによって異なる優先度レベルをもつ競合パラメータのセットが予め決定されているといえる。

したがって,上記「ア」ないし「ク」を総合すると,引用文献2には,次の技術的事項が記載されていると認められる。

「STAは,MU TXOPのための要求をAPに送り,
APから送信されるMUトリガーフレームを受信し,
前記トリガーフレームを受信後に,UL MU PPDUを送信し,
前記UL MU PPDUは,直交周波数分割多元接続(OFDMA)を使用して送信されるものであり,
前記トリガーフレームは特定のSTAがUL MU送信に参加し得るかを示すものであり,
前記STAが使用するMU動作STAのためのEDCAアクセスパラメータのセットは,SU動作STAのためのEDCAアクセスパラメータのセットとは異なり,
前記MU動作において最後のTXOP要求に続くある時間後に前記APによってTXOPが与えられない場合,通常のSU EDCAアクセスパラメータの使用に戻るものであって,
APによって異なる優先度レベルをもつ競合パラメータのセットが予め決定されている。」

第6 対比及び判断
1 本願発明1について
本願発明1と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「802.11ax」とは,無線通信の標準規格の一つであり,当該標準規格の中で端末のことをSTA(Station)と呼称することが技術常識であることを考慮すれば,引用発明の「STA」は,本願発明1の「無線通信端末」若しくは「無線で通信する無線通信端末」に含まれる。

(2)引用発明の「UL MUチャネルアクセスのSTA送信」は,ULすなわち上り伝送であって,MUすなわち複数のユーザー(STA)がアクセスする送信を表しているといえるから,引用発明の「UL MUチャネルアクセスのSTA送信」は,本願発明1の「1つ以上の無線通信端末の上り伝送」に含まれる。また,引用発明の「トリガーフレーム送信」は,本願発明1の「トリガーフレーム」に含まれる。
そうすると,引用発明の「APがSTA送信をトリガーするトリガーフレーム送信を受信」することであり,STA通信が「UL MUチャネルアクセスのSTA送信」であることは,本願発明1の「1つ以上の無線通信端末の上り伝送をトリガーするトリガーフレームを受信」することに含まれる。

(3)引用発明の「802.11axにおけるSTA」において,「UL MUチャネルアクセスが定義されており,UL MUチャネルアクセスのSTA送信を行う場合,MU EDCAパラメータセットを使用」するものである。一方で「STA」は「レガシーEDCAパラメータ又はMU EDCAパラメータセットを使用してチャネルにアクセスする」ことから,「UL MUチャネルアクセスのSTA送信」だけでなく,それ以外のSTA送信(「レガシーEDCAパラメータセットを使用してチャネルにアクセスする」レガシーチャネルアクセスのSTA送信)にも対応していることは明らかである。そうすると,引用発明の「トリガーフレーム送信」は,UL MUチャネルアクセスのSTA送信をトリガーする場合とそれ以外をトリガーする場合があるといえる。
そして,引用発明は「UL MUチャネルアクセスのSTA送信」をトリガーする場合,「MU EDCAパラメータセットを使用」するものであるから,引用発明の「EDCAパラメータセット」は,本願発明1の「チャネルにアクセスするために使用されるパラメータのセットであるパラメータセット」に相当し,引用発明の「MU EDCAパラメータセット」は,本願発明1の「第2パラメータセット」に含まれる。また,引用発明は「タイムアウト後にMU EDCAパラメータからレガシーEDCAパラメータに切り戻し」を行うものであるから,「MU EDCAパラメータセット」の適用以前は,「レガシーEDCAパラメータセット」が適用されていたものといえる。そうすると,引用発明の「レガシーEDCAパラメータ」は,本願発明1の「第1パラメータセット」に含まれる。そして,引用発明において「トリガーフレーム送信」が「UL MUチャネルアクセスのSTA送信」をトリガーする場合,「UL MUチャネルアクセスのSTA送信」をトリガーする以前に「レガシーEDCAパラメータセット」が設定されていれば,「MU EDCAパラメータ」に転換するのは自明である。
そうすると,引用発明の「802.11axにおけるSTA」は「UL MUチャネルアクセスが定義されており,UL MUチャネルアクセスのSTA送信を行う場合,MU EDCAパラメータを使用」することは,本願発明1の「無線通信端末のマルチユーザ上り伝送の参加をトリガーするか否かに基づいて、チャネルにアクセスするために使用されるパラメータのセットであるパラメータセットを、第1パラメータセットから第2パラメータセットに転換」することに含まれる。

(4)引用発明は「タイムアウト後にMU EDCAパラメータセットからレガシーEDCAパラメータセットに切り戻しを行」うものであり,当該「タイムアウト」とは,MU EDCAパラメータセットから切り戻すタイマーが満了することを意味し,「切り戻す」とはMU EDCAパラメータセットの適用を終了し,レガシーEDCAパラメータセットの適用を行うことであることは明らかである。そして,上記「(3)」で説示したように,引用発明の「MU EDCAパラメータセット」は本願発明1の「第2パラメータセット」に相当するものであるから,引用発明の「タイムアウト後にMU EDCAパラメータセットからレガシーEDCAパラメータセットに切り戻しを行」うことは,本願発明1の「第2パラメータセットタイマーが満了すると、前記第2パラメータセットの適用を終了」することに含まれる。

(5)引用発明は「UL MUチャネルアクセスのSTA送信を行う場合,MU EDCAパラメータセットを使用」するものであり,パラメータセットの「切り戻しはAC個別になされ」る,すなわちパラメータセットに含まれるACに対応するパラメータに切り戻しされるといえる。ここで「AC」とはAccess Classを表し,データの種別(データが音声であるのか,映像であるのか等)ごとの優先度クラスを表すことが技術常識であるから,パラメータセットを切り戻して使用されるACに対応するパラメータは,パラメータセットにおける,STA送信されるデータの優先度に対応するパラメータといえる。そして,使用されるパラメータセットが,現在適用が維持されているパラメータセットであることは自明である。つまり,引用発明は,STAがチャネルアクセスする場合に維持されているパラメータセットにおける,STA送信されるデータの優先度に対応するパラメータを使用してチャネルアクセスするといえる。
そうすると,本願発明1の「無線通信端末がチャネルにアクセスする場合に維持されるパラメータセットにおける、前記無線通信端末がベース無線通信端末に伝送するデータの優先度に対応するパラメータを用いて前記チャネルにアクセスする」ことと,引用発明の「UL MUチャネルアクセスのSTA送信を行う場合,MU EDCAパラメータを使用」するものであり,パラメータセットの「切り戻しはAC個別になされ」ることは,「無線通信端末がチャネルにアクセスする場合に維持されるパラメータセットにおける,前記無線通信端末が伝送するデータの優先度に対応するパラメータを用いて前記チャネルにアクセスする」点で共通する。

したがって,上記「(1)」ないし「(5)」を総合すれば,本願発明1と引用発明は,以下の点で一致し,また相違する。

<一致点>
「 無線で通信する無線通信端末において,
1つ以上の無線通信端末の上り伝送をトリガーするトリガーフレームを受信し,
前記無線通信端末のマルチユーザ上り伝送の参加をトリガーするか否かに基づいて,チャネルにアクセスするために使用されるパラメータのセットであるパラメータセットを,第1パラメータセットから第2パラメータセットに転換し,
第2パラメータセットタイマーが満了すると,前記第2パラメータセットの適用を終了し,
前記無線通信端末がチャネルにアクセスする場合に維持されるパラメータセットにおける,前記無線通信端末が伝送するデータの優先度に対応するパラメータを用いて前記チャネルにアクセスする
ように構成されている,無線通信端末。」

<相違点1>
本願発明1の「無線通信端末」の通信先(送信先,受信元)が「ベース無線通信端末」であるのに対し,引用発明の「STA」の通信先は「AP」であって,「ベース無線通信端末」ではない点。

<相違点2>
本願発明1は「送受信部と,プロセッサと,を含み,前記プロセッサ」が送受信制御を行うのに対し,引用発明では当該本願発明1の発明特定事項が特定されていない点。

<相違点3>
本願発明1の「上り伝送は直交周波数分割多元接続(OFDMA)を用いて実行され」るのに対し,引用発明では当該本願発明1の発明特定事項が特定されていない点。

<相違点4>
本願発明1が「送受信部を使用して,トリガーフレームに応答して,上り伝送のためのトリガー基盤物理層プロトコルデータユニット(PPDU)を」「送信」するのに対し,引用発明は「トリガーフレーム送信に対してアクセスを行」うものであって,当該本願発明1の発明特定事項が特定されていない点。

<相違点5>
本願発明1が「トリガー基盤PPDUに含まれるMACプロトコルデータユニット(MPDU)が即時応答を要請しない場合,前記トリガー基盤PPDUの送信が終了した時点で,前記MPDUのアクセスカテゴリに対して第2パラメータセットタイマーを設定」するのに対し,引用発明の「タイムアウトはトリガーフレームの終わりから開始され」るものであって,当該本願発明1の発明特定事項が特定されていない点。

上記相違点について検討するにあたり,事案に鑑みて,上記相違点5について先に検討する。
引用文献2には,上記「第5」の「2」に記載されているように,「MU動作において最後のTXOP要求に続くある時間後に前記APによってTXOPが与えられない場合,通常のSU EDCAアクセスパラメータの使用に戻る」ことは記載されている。しかしながら,上記相違点5に係る「トリガー基盤PPDUに含まれるMACプロトコルデータユニット(MPDU)が即時応答を要請しない場合,前記トリガー基盤PPDUの送信が終了した時点で,前記MPDUのアクセスカテゴリに対して第2パラメータセットタイマーを設定」するという発明特定事項は,引用文献2には,記載も示唆もされてない。また,当該技術分野における周知技術であるともいえない。
したがって,引用発明において,上記相違点5に係る「トリガー基盤PPDUに含まれるMACプロトコルデータユニット(MPDU)が即時応答を要請しない場合,前記トリガー基盤PPDUの送信が終了した時点で,前記MPDUのアクセスカテゴリに対して第2パラメータセットタイマーを設定」することは,当業者といえども,容易に想到し得たとはいえない。
よって,上記相違点1ないし4について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2ないし7について
本願発明2ないし7は,本願発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから,り,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 本願発明8について
本願発明8は,「無線通信端末」という物の発明である本願発明1を,「無線通信端末の動作方法」という方法の発明としたものである。そして,本願発明8は,上記「1」に記載された上記相違点5に対応する「トリガー基盤PPDUに含まれるMPDUが即時応答を要請しない場合,前記トリガー基盤PPDUの送信が終了した時点で前記MPDUのアクセスカテゴリに対して第2パラメータセットタイマーを設定するステップ」という発明特定事項を少なくとも備えるものであるから,本願発明1と同様の理由により,当業者であっても引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 原査定についての判断
1 特許法第36条第6項第2号(拒絶査定の理由2)について
令和2年3月10日にされた手続補正により補正された請求項10の「前記CWの値が,前記維持されているパラメータセットで伝送される前記データの優先度に対応する前記CWの最大値(CWmax)より大きければ」との記載は,令和3年12月28日にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)により,上記請求項10に対応する請求項5において「前記CWの値が、前記パラメータセットが変更された後に維持されている前記パラメータセットで伝送される前記データの優先度に対応する前記CWの前記CWmaxより大きければ」との記載になり,発明が明確になったため,この拒絶の理由は解消した。

2 特許法第29条第2項(拒絶査定の理由3)について
本件補正により,本願発明1ないし7は,いずれも「トリガー基盤PPDUに含まれるMACプロトコルデータユニット(MPDU)が即時応答を要請しない場合,前記トリガー基盤PPDUの送信が終了した時点で,前記MPDUのアクセスカテゴリに対して第2パラメータセットタイマーを設定」するという発明特定事項を備え,本願発明8は「トリガー基盤PPDUに含まれるMPDUが即時応答を要請しない場合,前記トリガー基盤PPDUの送信が終了した時点で前記MPDUのアクセスカテゴリに対して第2パラメータセットタイマーを設定するステップ」という発明特定事項を備えるものとなった。してみれば,上記「第6」の「1」ないし「3」で説示したとおり,本願発明1ないし8は,当業者であっても,拒絶査定で引用された引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。したがって,原査定の理由を維持することはできない。

第8 当審拒絶理由についての判断
1 本件補正前の請求項1の「前記トリガー基盤PPDUに含まれる前記MPDUが即時応答を要請した場合,即時応答を受信した前記MPDUのアクセスカテゴリに対して前記第2パラメータセットタイマーを設定し、」との記載は,本件補正により削除されたたことにより,請求項1に係る発明,及び当該請求項1を引用する請求項2ないし7に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものとなった。したがって,この拒絶の理由は解消した。
また,本件補正前に上記請求項1の記載と同様の記載がなされていた請求項9についても「前記トリガー基盤PPDUに含まれる前記MPDUが即時応答を要請した場合、即時応答を受信した前記MPDUのアクセスカテゴリに対して前記第2パラメータセットタイマーを設定するステップと、」との記載が削除されたことにより,本件補正前の請求項9に対応する請求項8に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものとなった。したがって,この拒絶の理由は解消した。
2 本件補正前の請求項1の「前記トリガーフレームのユーザ情報フィールドが前記無線通信端末を示すかどうかに基づいて、チャネルにアクセスするために使用されるパラメータのセットであるパラメータセットを、第1パラメータセットから第2パラメータセットに転換し、」との記載が,本件補正により「前記ベース無線通信端末が前記無線通信端末のマルチユーザ上り伝送の参加をトリガーするか否かに基づいて,チャネルにアクセスするために使用されるパラメータのセットであるパラメータセットを,第1パラメータセットから第2パラメータセットに転換し、」と補正されたことにより,請求項1に係る発明,及び当該請求項1を引用する請求項2ないし7に係る発明について明確になった。したがって,この拒絶の理由は解消した。
また,本件補正前に上記請求項1の記載と同様の記載がなされていた本件補正前の請求項9に対応する請求項8についても「前記ベース無線通信端末が前記無線通信端末のマルチユーザ上り伝送の参加をトリガーする否かに基づいて、チャネルアクセスのために使用されるパラメータのセットであるパラメータセットを、第1パラメータセットから第2パラメータセットに転換するステップと、」と補正されたことにより,発明が明確になった。しがって,本件補正前の請求項9に対応する請求項8に係る発明について,この拒絶の理由は解消した。
3 本件補正前の請求項1の「前記第2パラメータセットタイマーが満了すると、第2パラメータセットのアプリケーションを終了し、」との記載が,本件補正により,「前記第2パラメータセットタイマーが満了すると、前記第2パラメータセットの適用を終了し、」と補正されたことにより,請求項1に係る発明,及び当該請求項1を引用する請求項2ないし7に係る発明について明確になった。したがって,この拒絶の理由は解消した。
また,本件補正前に上記請求項1の記載と同様の記載がなされていた請求項9についても,本件補正前の請求項9に対応する請求項8の記載が,本件補正により「第2パラメータセットタイマーが満了すると、前記第2パラメータセットの適用を終了するステップと、」となり,発明が明確になった。したがって,この拒絶の理由は解消した。
4 本件補正前の請求項4は削除されたので,この拒絶の理由は解消した。
5 本件補正前の請求項6の「前記CWの値が,前記パラメータセットが変更された後に維持されている前記パラメータセットで伝送される前記データの優先度に対応する前記CWの最大値(CWmax)より大きければ、前記CWの値をCWmaxに設定する」との記載が,本件補正により,本件補正前の請求項6に対応する請求項5において「CW内で無作為の整数値を算出し、」,「前記CWの値が、前記パラメータセットが変更された後に維持されている前記パラメータセットで伝送される前記データの優先度に対応する前記CWの前記CWmaxより大きければ、前記CWの値を前記CWmaxに設定する」となり,発明が明確になった。したがって,この拒絶の理由は解消した。

第9 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2022-04-05 
出願番号 P2019-534619
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H04W)
P 1 8・ 121- WY (H04W)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 國分 直樹
特許庁審判官 廣川 浩
中木 努
発明の名称 向上された分散チャネルアクセスを使用する無線通信方法及びそれを使用する無線通信端末  
代理人 実広 信哉  
代理人 実広 信哉  
代理人 村山 靖彦  
代理人 阿部 達彦  
代理人 村山 靖彦  
代理人 阿部 達彦  

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