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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02D |
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管理番号 | 1383622 |
総通号数 | 5 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-05-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-11-11 |
確定日 | 2022-04-18 |
事件の表示 | 特願2019−237408「IEI(インターミッテント・エナージー・イナーシャ)移動体及び移動体運転方法」拒絶査定不服審判事件〔令和2年4月16日出願公開、特開2020−60192〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成29年3月7日に出願された特願2017−42553号の一部を令和元年12月26日に新たな特許出願としたものであって、令和2年3月25日付け(発送日:同年4月7日)で特許法第50条の2の通知を伴う拒絶理由が通知され、令和2年6月6日に意見書(2通)及び手続補正書が提出されたが、令和2年7月16日付け(発送日:同年8月11日)で補正の却下の決定がされると同時に拒絶査定がされ、これに対して令和2年11月11日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、令和2年12月10日に手続補正書(方式)が提出され、当審において令和3年5月31日付け(発送日:同年6月8日)で拒絶理由が通知され、令和3年8月10日に意見書及び手続補正書が提出され、令和3年10月6付け(発送日:同年10月12日)で審尋を通知し、令和3年12月13日に回答書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし5に係る発明は、令和3年8月10日の手続補正により補正がされた特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された以下のとおりのものである。 「【請求項1】 移動体の加速度が第1の値を超えると駆動源を停止させて慣性で前記移動体を移動させ、前記加速度が第2の値になったことを検出した時に駆動源の駆動力によって移動体を駆動する制御を行う制御手段を有することによりエネルギを節減することを特徴とする移動体。 【請求項2】 移動体の加速度が第1の値を超えると駆動源を停止させて慣性で前記移動体を移動させ、前記加速度が第2の値になったことを検出した時に駆動源の駆動力によって移動体を駆動する制御を行う制御手段を有することによりエネルギを節減することを特徴とする移動体運転方法。 【請求項3】 移動体の加速度が第1の値となった時点で駆動源を停止させて慣性で前記移動体を移動させ、速度が第3の値まで低下した時点で駆動源の駆動力によって移動体を駆動することによりエネルギを節減することを特徴とする移動体運転方法。 【請求項4】 加速度リミッタを搭載した移動体の加速度が、第1の値になったことを前記リミッタが感知したとき、前記移動体のエンジンまたはモータを停止させて、慣性によって前記移動体を移動させ、前記移動体の加速度が第2の値になったことを前記リミッタが感知したとき、前記移動体のエンジン又はモータを稼働させて前記移動体を移動させることを特徴とする移動体。 【請求項5】 加速度リミッタを搭載した移動体の加速度が、第1の値になったことを前記リミッタが感知したとき、前記移動体のエンジンまたはモータを停止させて、慣性によって前記移動体を移動させ、前記移動体の加速度が第2の値になったことを前記リミッタが感知したとき、前記移動体のエンジン又はモータを稼働させて前記移動体を移動させることを特徴とする移動体運転方法。」 第3 当審拒絶理由の概要 令和3年5月31日付けで当審が通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)のうち、特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)についての概要は、以下のとおりである。 (実施可能要件)本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1ないし5に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 第4 当審の判断 1 発明の詳細な説明の記載 本願の発明の詳細な説明には次の記載がある(下線は当審が付与した。以下同様。)。 (1)【0011】(令和2年11月11日に補正がされたもの。) 「図4は本発明を説明する図で、移動体に加えるエネルギEと速度Vと加速度αを縦軸としこれらの関係を説明する図である。横軸は時間Tで、縦軸は移動体に加えるエネルギEと移動体の速度Vである。」 (2)【0012】(令和3年8月10日に補正がされたもの。) 「図4において、時刻t0において、移動体のエンジンをスタートさせエネルギを加えると、エネルギEと速度Vは時間の経過と共に、上昇していく。本発明は時刻t1にエネルギEを0にする。即ち、移動体駆動力を切る。移動体駆動力を切っても、移動体は「慣性」のために図4のI期間移動し続けるのを利用したのが本発明であり、移動体の受ける空気抵抗や移動体の回転損耗等移動体自身の損失で速度Vは多少低下するが0にならない。 加速度αは図に示すように時刻t2において加速度αが0になる。本発明は時刻t3で再びエネルギEを加え、加速度αが時刻t3で再び上昇に転じる。時刻t4で駆動力を少なくし、エネルギEを0にする。図の時刻t1からt3の間はエネルギEの積分値(斜線)は0であり、この間、移動体は慣性のみで移動していることになる(エネルギを切って慣性のみで移動するモード)。t3でエンジンを作動させると、移動体は速度が上昇していき、加速度αは再び増加に転じる。 エネルギEが所定の値になると、移動体の速度は上昇し復帰する。移動体の動きが復帰したのを確認すると、時刻t4でエンジンやモータを切る。エンジンやモータを切ると、エネルギEは0になり、移動体は再び慣性のみで移動するモードになる。 速度は時刻t4から減少に転ずる。以下、同様の動作を繰り返し(E+E→0→E+E→0…)、移動体は移動していく。」 (3)【0014】 「本発明のエネルギEの制御は手動で行ってもよいが、図5は制御を自動的に行う本発明装置の原理構成図である。図において、10は移動中の車の加速度αを検出する加速度メータ(αM)、11は加速度の上下範囲の限定を可変できるコンピュータ構成のリミッタ(L)、12はリミッタ11によりバッテリ13のオンオフを行うスイッチ(SW)、14は該バッテリ13により駆動されるモータ(M)又はエンジンである。スイッチ12はバッテリ13の出力をモータ又はエンジン14に伝える動作を行うものである。つまり、スイッチがオンの時にはバッテリ13をモータ又はエンジン14に接続し、スイッチがオフの時にはバッテリ13をモータ又はエンジン14から切り離す。このように構成された車の動作を説明すると、以下の通りである。」 (4)【0015】(令和3年8月10日補正に補正がされたもの。) 「移動体を移動する時、リミッタ11はスイッチ12をオンにする。この結果、バッテリ13はモータ又はエンジン14に接続され、モータ又はエンジン14は所定の回転数で回転する。このモータ又はエンジン14で車の動輪を回転させる。動輪が回転すると車1(図2参照)は所定の速度、例えば60km/時に速度を上げ走行する。リミッタ11は加速度メータ10の出力を監視している。図4でt1でエネルギEを0にすると、加速度αが所定値をリミッタ11が感知するようにしておく。リミッタ11がスイッチ12に作用してその接点をオンにすると、自動的にモータ又はエンジン14が動き出す。リミッタ11がスイッチ12に作用してその接点をオフにすると、モータ又はエンジン14には動力が与えられていないので、車の速度は漸次減少し、車は慣性で走行する。しかしやがて速度Vが徐々に下がり、加速度αはt2で0になる。」 (5) 【図4】(令和2年11月11日に補正がされたもの。) 2 発明の詳細な説明の記載についての検討 上記記載事項1 (1)ないし(5)には、時刻t1にエネルギEを0にすると、移動体は「慣性」のために図4のI期間移動し続け、加速度αは時刻t2において0になり、時刻t3で再びエネルギEを加えると、加速度αが時刻t3で再び上昇に転じることが記載されているから、エネルギEを0にした後の「慣性」による移動中である時刻t1からt2の間で正の加速度が存在することになる。また、時刻t3で再びエネルギEを加えると、加速度αが再び上昇に転じると記載されている。 しかしながら、通常の状況では、エネルギを加えると速度は上昇するが、加速度は上昇するとは限らない。また、エネルギを0にすると加速度は即座に0以下となり、移動体の慣性での移動中は加速度は0以下である。 そうすると、上記記載事項1 (1)ないし(4)及び(5)の図4は、技術常識と整合しておらず、本願の発明の詳細な説明の記載及び図面の記載は技術常識に反するものである。 また、図4の場合に、技術常識から考えると、t1からt3の期間の加速度αは、移動体の抵抗が増大する等の特殊な状況でない限り負の略一定値となるから、本願発明1、2、4及び5の「加速度が第2の値になったことを検出した時」がt3となるような「第2の値」を設定することは不可能である。 そうすると、本願発明1、2、4及び5における「加速度」の「第2の値」とはどのようなものなのか理解できない。 したがって、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明1、2、4及び5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。 3 請求人の主張について (1)令和3年8月10日の意見書の主張 請求人は、令和3年8月10日の意見書(以下、「意見書」という。)において次のように主張している。 ア 「例えば、坂道や駆動源が働かない「慣性」で移動している状態であり下る移動体の場合では、「移動体の加速度が所定の値を超えている」との記載は、技術的に矛盾してるわけではありません。 また、この場合、慣性で移動体を移動させる時間を取れ、「慣性で移動体を移動させる時間は実質的に無い」のは間違いであり、エネルギを節約する事が可能です。 よって、本発明の請求項1、2の技術を適用すると、エネルギ削減に貢献する事となります。」 イ 「下り坂を走行する場合では、移動体が慣性で移動中も正の加速度が存在することもあり、また、「通常、エネルギを加えると速度は上昇するが、加速度は上昇するとは限らない」事だとしても、必ずしも、「エネルギを0にすると加速度は即座に0以下と」なるわけではなく、また、「移動体の慣性での移動中は加速度は0以下」となるとは限りません。 そして、本願図4での、t2の時刻における加速度が0になる事は、単に状況を示しているのみで有ります。本発明t3では加速度は基本的にマイナスとなっており、エネルギを加え始める設定値もマイナスです。」 (2)令和3年12月13日の回答書の主張 当審は、令和3年10月6日付けの審尋において、本願発明を適用した場合の移動体の運動状態について、具体的に、時刻・坂道の状態(上り坂か下り坂か等)と速度・加速度の関係をグラフ等に示すとともに、これと加速度の第1の値、加速度の第2の値、速度の第3の値の関係について図示して説明するように求めた。また、そのようなケースが、願書に最初に添付した明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載から自明である理由も説明するように求めた。 これに対して、請求人は令和3年12月13日の回答書(以下、「回答書」という。)において、次のように回答している。 ア 「図2は、平地より発進し下り坂、上り坂、平地の順に通過する時の、横軸が時刻で、速度、加速度を示す図であります。 平地に停止し、アクセルを所定開度としても即には、アクセルの開度に見合った実速度には即にはなりませんが、遅れて弓なりに速度が上がり、加速度も上がります。ここで、本図2では、下り坂(約3%)走行に入り、更に速度及び加速度が上昇し、加速度が上限(第1の値)を超え、駆動源は停止し、下り坂で慣性による移動となり、速度も緩やかに減少し、マイナスの値である加速度も減少がみられます。図2では次に、上り坂にさしかった時速度の変化により、加速度の減少があり下限限(第2の値)を下回り、駆動源が稼働し始め、アクセルは踏み込まれていて所定開度であるので、速度が増し、プラスの加速度が発生しております。又、続けて平地を走行するとアクセル開度とギアに合った速度に徐々に上昇していきます。加速度は、アクセルを大きく踏み込んだ場合で第1の値を超える事になりますので、その後、駆動源は停止します。以上の動作を繰り返すこととなります。」 イ 「審査官殿の、「また、この時の、(補正後の請求項1ないし5に記載の)加速度の第1の値、加速度の第2の値、速度の第3の値の関係についても図示して説明されたい。」とのご質問に対して、図2にてお答いたします。 アクセルを所定開度としたとき、アクセルの開度に見合った実速度には即にはなりません。車の質量や転がり摩擦もあり、遅れ時間があります。よって加速しながら、徐々に速度が上がってくることとなり、加速度も正の値で徐々に上昇します。そして、加速度上限値(第1の設定値)は、定速走行となる前(定速走行では加速度の値は0に近くなるので)で、正の値に設定いたします。 慣性での移動中は、前記斜面の有無、転がり摩擦、空気の風圧、移動体機関のロス等がありますので、速度が等速に減少するとは限りません。また、加速度もマイナスの値となり上記ロス等により一定値とは限りません。即座に加速度が0以下となるかもしれませんが、即座に所定の値を下回ることの無い、例えば上り坂になるときの加速度の低下を検知可能なマイナスの値である加速度下限値(第2の設定値)を設定いたします。 そして、請求項1および2においては、加速度がマイナスの値である加速度下限値(第2の設定値)となると駆動源が動き出します。 また、請求項3においては、駆動源が動き出す時点を、図3における速度下限値(第3の設定値値)と致します。」 ウ [図2] (3)請求人の主張についての検討 上記意見書や回答書で主張するようなケースは極めて特殊なケースであり、発明の詳細な説明には坂道を前提とする旨の記載はない。 また、発明の詳細な説明の段落【0015】には「しかしやがて速度Vが徐々に下がり、加速度αはt2で0になる。」(上記1 (4))と記載されており、回答書の[図2]のように加速度が負の値から減少し、負の値である下限(第2の設定値)となることは記載も示唆もされていない。 なお、「慣性」とは、「力が働いていない限り、物体がその運動状態を維持する性質。惰性。」であるから、下り坂で重力が働いている状態は、厳密には「慣性」とはいえない。 そうすると、本願の発明の詳細な説明には、請求人が意見書や回答書で主張するようなケースが記載してあったということはできない。また、このようなケースが、本願の発明の詳細な説明の記載から自明であったともいえない。 よって、請求人の主張は採用できない。 4 小括 したがって、意見書や回答書を参酌しても、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明1、2、4及び5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明1、2、4及び5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 したがって、本願発明3を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているかについて検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 |
審理終結日 | 2022-02-01 |
結審通知日 | 2022-02-08 |
審決日 | 2022-02-22 |
出願番号 | P2019-237408 |
審決分類 |
P
1
8・
536-
WZ
(F02D)
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最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
佐々木 正章 |
特許庁審判官 |
鈴木 充 金澤 俊郎 |
発明の名称 | IEI(インターミッテント・エナージー・イナーシャ)移動体及び移動体運転方法 |