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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B43K
管理番号 1383640
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-11-30 
確定日 2022-04-04 
事件の表示 特願2016− 41630「熱変色性筆記具」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 9月 7日出願公開、特開2017−154444〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年3月3日の出願であって、令和1年11月22日付けで拒絶理由が通知され、令和2年3月23日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月25日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対し、同年11月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出されたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和2年11月30日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるつぎのとおりのものである。
「【請求項1】
塗布体となるボールを抱持するボールハウスを先端に有するホルダーがプラもしくは先軸を介して熱変色インクを収容する軸本体に連接され、前記ボールを前方に付勢する線径0.12mmのオーステナイト系ステンレスからなるコイルスプリングが内蔵されている熱変色性筆記具において、前記口プラもしくは先軸の内孔後端には、前記コイルスプリングの係止部が設けられ、前記口プラもしくは先軸と前記ホルダーとの連接によって形成される流動体誘導孔には、コイルスプリングの前部が前記ホルダー内孔部に納まりその後部がホルダー後部より臨出して該係止部で係止されるように前記コイルスプリングが配置され、かつ該コイルスプリングはボールと接触する小径のスプリング部分と前記コイルスプリング係止部に接触する大径のスプリング部分との二つの略円筒形スプリングが連なった形状を有し、前記軸本体は、軟質プラスチック又は半硬質プラスチックで形成された加圧作用が働く塗布液タンクであり、ゴム弾性材料からなる摩擦部材を備えないことを特徴とする熱変色性筆記具。」


第3 原査定の拒絶の理由
拒絶査定の理由である、令和1年11月22日付け拒絶理由通知の理由は、次のとおりのものである。
進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1−3
・引用文献等 1−3
<引用文献等一覧>
1.特開平8−164695号公報
2.特開平9−302299号公報(周知技術を示す文献)
3.特開2009−148968号公報(周知技術を示す文献)


第4 当審の判断
1 引用例
(1)引用例1
本願の出願日前の平成8年6月25日に公報が発行され、原査定の拒絶の理由に引用された特開平8−164695号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 塗布体となるボールを抱持するボールハウスを先端に有するホルダーが口プラもしくは先軸を介して流動体を収容する軸本体に連接され、前記ボールを前方に付勢するコイルスプリングが内蔵されている塗布具において、前記口プラもしくは先軸の内孔後端には、前記コイルスプリングの係止部が設けられ、前記口プラもしくは先軸と前記ホルダーとの連接によって形成される流動体誘導孔には、コイルスプリングの前部が前記ホルダー内孔部に納まりその後部がホルダー後部より臨出して該係止部で係止されるように前記コイルスプリングが配置され、かつ該コイルスプリングはボールと接触する小径のスプリング部分と前記コイルスプリング係止部に接触する大径のスプリング部分との二つの略円筒形スプリングが連なった形状を有することを特徴とする塗布具。
【請求項2】 前記コイルスプリングの係止部が口プラもしくは先軸の中心軸線に沿って複数の縦リブの後端に形成されることからなる請求項1記載の塗布具。
【請求項3】 前記コイルスプリングが小径のスプリング部分から大径のスプリング部分の一部まではスプリング線間を密着させて形成されていることからなる請求項1ないし2記載の塗布具。
【請求項4】 前記コイルスプリングが小径のスプリング部分のスプリング線間に隙間を有し、小径のスプリング部分の後端から大径のスプリング部分の一部まではスプリング線間を密着させて形成されていることからなる請求項1ないし2記載の塗布具。
【請求項5】 前記のコイルスプリングの質量が、少なくともボールより大きいことからなる請求項1ないし4記載の塗布具。」
イ 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は流動体の塗布具に係わり、詳しくは、例えば修正液、水性インキ、油性インキ、液状化粧料などの流動性塗布材を紙面などの被塗布面に塗布するための塗布具に関する。」
ウ 「【0003】
【発明が解決しようとする課題】前記従来の塗布具の付勢手段において、例えば棒状の可動子が一体化して一端に有するスプリングでの付勢手段では、部品点数は少なくなるが、一端を棒状にするといった複雑なスプリングとなるのでそれ自体のコスト高になり、かつ、単位時間あたりの生産量も少ないという弊害が生じる。また、棒状可動子の先端部分は流動体誘導孔に配置されてボールの後端部を押すことになり、当然該棒状可動子の先端径はボール後端部が臨んでいるボール受座の中心孔に入る大きさ(径)でなければならない。そのため棒状の可動子部分は流動体誘導孔の径に比べてかなり細い線材(径)となり、それ自体がたわみ、ボールを押す荷重が変化し、またバラツキも多く、使用感やまた吐出口を閉止・開放するという機能まで支障をきたすことがある。一方、棒状の可動子部分を太くすれば、前記の弊害は解消されるが、当然棒状の可動子の先端部分だけは、ボール受座の中心にある中心孔に入る大きさ(径)に加工しなければならず、そのようなスプリングの製造はさらに複雑となり、また流動体誘導孔に太い棒状の可動子部分が配置されるので、流動体誘導孔と棒状可動子の隙間が狭くなり、すなわち、流動体誘導孔の流路が狭くなることになり、流動体の流通が悪くなり、円滑な塗布ができなくなる恐れがある。特に粘度の高い塗布液や、修正液のような顔料を含んだ塗布液の場合、その顔料が沈降や付着したりして、目詰まりなどが発生する。
【0004】また、質量の小さなスプリングをホルダー内に配置した場合、組立の際ホルダー後端からスプリングを落とし込んだ場合、質量が小さいため、流動体誘導孔の内壁の切削跡や流動体誘導孔に段差がある場合スプリングの先端が引っかかってしまうことがあり、ボールを付勢するという機能が損なわれる。そして先に述べたように、スプリングの外周はボール受座の中心にある中心孔に入る大きさ(径)でなければならなく、このようなホルダーの流動体誘導孔の内径に比べて非常に細い径のスプリングをホルダー内に配置すると、スプリングがくの字(図9参照)や波状(図8参照)に曲がり、ボールを押す荷重が変化し、またバラツキも多く、使用感やまた吐出口を閉止・開放するという機能まで支障をきたすことがある。 また、通常の鋼材で作成されたスプリングであれば、質量の小さいスプリングはその大きさも小さく、ホルダー内に配置するような微小のスプリングは製造も容易でなく、かつ取扱いも容易でなく、ひいては、製造コスト高となる。本発明は、前記従来の塗布具の問題点に鑑みてなされたものであって、簡単な構造でしかも、各部品の製造も容易で、かつ、塗布液の吐出口の閉止・開放という機能を損なわず、良好に流動性塗布材を吐出させる塗布具を提供することを課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、前記課題を解決するために次の(1)〜(5)の構成を有する。
(1) 塗布体となるボールを抱持するボールハウスを先端に有するホルダーが口プラもしくは先軸を介して塗布流動体を収容する軸本体に連接され、前記ボールを前方に付勢するコイルスプリングが内蔵されている塗布具において、前記口プラもしくは先軸の内孔後端には、前記コイルスプリングの係止部が設けられ、前記口プラもしくは先軸と前記ホルダーとの連接によって形成される流動体誘導孔には、該コイルスプリングの前部が前記ホルダー内孔部に納まりその後部がホルダー後部より臨出して該係止部で係止されるようにコイルスプリングが配置され、かつ該コイルスプリングはボールと接触する小径のスプリング部分と前記コイルスプリング係止部に接触する大径のスプリング部分との二つの略円筒形スプリングが連なった形状を有することを特徴とする塗布具。
(2) 前記コイルスプリングの係止部が口プラもしくは先軸の中心軸線に沿って複数の縦リブの後端に形成されることからなる(1)項記載の塗布具。
(3) 前記コイルスプリングが小径のスプリング部分から大径のスプリング部分の一部まではスプリング線間を密着させて形成されていることからなる(1)項ないし(2)記載の塗布具。
(4) 前記コイルスプリングが小径のスプリング部分のスプリング線間に隙間を有し、小径のスプリング部分の後端から大径のスプリング部分の一部まではスプリング線間を密着させて形成されていることからなる(1)項もしくは(2)項記載の塗布具。
(5) 前記のスプリングの質量が、少なくともボールより大きいことからなる(1)項もしくは(4)項記載の塗布具。
【0006】本発明の塗布具は、流動体を内部に収容した軸本体と該軸本体からの流動体が流出される吐出口が先端に設けられたボールハウスを有するホルダーとが口プラもしくは先軸を介して接続されている。前記ボールハウス内には回転自在に保持されると共に一部が前記吐出口から外部に臨んで塗布体となるボールが嵌入されている。前記ボールは前記吐出口の周囲の内壁に対して当接・離脱する方向に移動自在に収容され当接・離脱することにより前記吐出口を閉止・開放するものである。前記ボールの一部を被塗膜面に押し当てることによって前記吐出口との隙間から流動体を吐出させて被塗膜面に塗布する。口プラもしくは先軸と前記ホルダーの接続により形成される流動体誘導孔にはボールを付勢するコイルスプリングが内蔵され、そのコイルスプリングの前部が前記ホルダー内孔部に納まりその後部がホルダー後部より臨出して口プラもしくは先軸の内孔に設けられた係止部で係止されるようにコイルスプリングが配置される。また、このコイルスプリングはボールと接触する小径のスプリング部分と前記コイルスプリング係止部に接触する大径のスプリング部分との二つの略円筒形スプリングが連なった形状を有するのが特徴である。
【0007】請求項1〜2記載の発明によれば、ボールハウス内の内向きの先端縁に対して当接・離脱する方向に収容されているボールを付勢するコイルスプリングが、その前部はホルダー内部に納まり後端はホルダーより臨出して、口プラまたは先軸の内孔に設けられた係止部で係止されている。また前記コイルスプリングは、ボール後端と接触する小径のスプリング部分の外径が、口プラもしくは先軸の内孔に設けられた係止部で係止されている大径のスプリング部分の外径より小さく、小径のスプリング部分と大径のスプリング部分という2つの略円筒形が連なったコイル状スプリングである。従って、小径のスプリング部分の先端がボール後端を押してボール受座の中心にある中心孔に入り、ボールハウス内の内向きの先端縁に対してボールが当接・離脱する方向に収容されて、そのボールの移動量に対して必要充分な略円筒形の小径のスプリングが形成されれば良く、その後方は略円筒形の大径のスプリングで良い。しかも、コイルスプリングの後端は、ホルダー後端より臨出して、口プラまたは先軸で係止させているので、従来例のようにホルダー内に配置してしまうスプリングより微細なスプリングでなく、スプリングの設計自由度が大きくなり、製造が容易で、またこれらの組立作業も容易となる。また、小径のスプリングと大径のスプリングという2つの略円筒形が連なったスプリングであるため、ホルダーの座の後方の流動体誘導孔内では、その大部分は、大径のスプリング部分が配置されているので、流動体誘導孔内でスプリングがくの字状(図9参照)になったり、波状(図8参照)になったりすることがないため、ボールを押す荷重の変化やバラツキがなく、使用感が安定し、また吐出口を閉止・開放するという機能も確実に動作される。
【0008】また、請求項3の発明によれば、前記コイルスプリングが、小径のスプリング部分から大径のスプリング部分の一部までスプリングが密着して形成されているので、ボールを付勢するスプリングの荷重は、大径のスプリングに支配され、適切なボールを付勢する荷重が設定しやすくなる。
【0009】また、請求項4の発明によれば、前記コイルスプリングが、小径のスプリング部分はそのスプリングの線間に隙間を有し、小径のスプリング部分の後端から大径のスプリング部分の一部まで、スプリングを密着させて形成されている。軸本体から流入する流動体が流動体誘導孔を通る。ボール受座の中心孔に入っているボール後端を押す小径のスプリング部分は、線間に隙間があるので、その部分のスプリングの外側はもちろんスプリングの内部からの流動体の流通が可能となり、粘度の高い液や、顔料が分散された流動体には特に有効である。また、スプリングが、外径が小さい小径スプリング部分の後端から外径が大きい大径スプリング部分の一部まで、スプリングを密着させて形成されているので、スプリングの小径部分が大径部分に陥没してしまうことがなく、ボールを付勢する荷重も安定する。
【0010】また、請求項5の発明によれば、前記コイルスプリングが、質量の大きいことを特徴とする請求項1、2、3、4記載の塗布具であれば、これらを組み立てる際、ホルダーの後端からスプリングを落とし込んだ場合、質量が大きいため、流動体誘導孔の内壁の切削跡や流動体誘導孔に段差がある場合スプリングの先端が引っかかってしまうことがなく、ボールを付勢するという機能が確実に発揮される。そして、少なくとも、前記スプリングの質量がボールより大きいと、先に述べた組立の際の流動体誘導孔の内壁に引っかかることがないのはもちろんのことで、さらに、ボールにスプリングがぶつかり、充分に押すため、ボールハウス内でボールが斜めに押されたりして、吐出口に隙間が生じることがなく、ボールハウス内の内向きの先端縁に、確実に配置されることになる。なお、この際ホルダー先端からボールが脱落しないようにするには、先端のカシメも必要充分な強度にすれば良い。」
エ 「【0011】
【実施例】以下、図面を参照して本発明の塗布具の実施例を説明する。
【0012】(実施例1)図1〜3により説明する。図1は、塗布具の縦断面図である。図2および図3は、同塗布具の先端部の拡大縦断面図であって、図2は吐出口が閉止している状態を示す図、図3は吐出口が開放している状態を示す図である。塗布具8は、図1〜図3に示すように、塗布液を内部に収容した軸本体2と、軸本体2の先端部に取り付けられた口プラ14と、軸本体2からの塗布液が流出される吐出口4a1が先端に設けられたボールハウス4aを有し、かつ、口プラ14内に装入されたホルダー4と、ボールハウス4a内に回転自在に保持されると共に一部が吐出口4a1から外部に臨んで塗布面となるボール6とを備え、ボール6は吐出口4a1の周囲の内壁に対して当接・離脱する方向に移動自在に収容され当接・離脱することにより吐出口4a1を閉止・開放するものであり、ボール6の一部を被塗布面に押し当てられることによって、吐出口4a1との隙間から塗布液を吐出させて被塗布面に塗布するものである。また、ボールハウス4aの後端には、ボール6の一部が被塗布面に押し当てられてボール6が後方に移動したときに、その後面を受けるボール受座4a2が設けられている。さらに、ボール受座4a2の横断面視略中心部には、軸本体2からの塗布液が流動体誘導孔10を通じてボールハウス4aに流れる中心孔4bがあり、中心孔4bの内壁には、塗布液の流れ方向に沿って形成された複数の縦溝4cが中心孔4bを中心に配設されている。そして、中心孔4bに臨むボール6の後端に当接する付勢手段であるコイル状スプリング12aがホルダー4内部の流動体誘導孔10内に配置されホルダー4後端より臨出して、口プラ14で係止されている。
【0013】以下、各部の構成を詳細に説明する。軸本体2は、略円筒形状を呈するものであって、軸本体2先端部に向けてやや先細りに形成されたテーパー部2aと、このテーパー部2aの先端から連続的に形成されて、開口した円筒部2bとを有する。また、軸本体2は、可とう性に富んだ塗布液の収容タンクであって、押圧することにより内部の塗布液をボールハウス4aに供給するものである。
【0014】口プラ14の外周面形状は、先端に向けて先細るテーパー形状を呈しているテーパー部14a、テーパー部14a後端の外径よりも小さい外径の円筒部14cからなり、その間に段部14bがある。また、円筒部14c後部の内周面には、中心軸線に沿って複数の縦リブ14c1が設けられその後端がコイルスプリング係止部15となる。この口プラ14は、その段部14bが軸本体2の先端円筒部2bの前端面に当たるまで圧入されて軸本体2に組み付けられる。
【0015】ホルダー4は、前後両端で開口し、かつ、先端部が先細る略円筒形形状を呈するものであって、その後端が、口プラ14の縦リブ14c1の先端に当接するまで口プラ14内に圧入され、かつ、その前側半分が外部に露出した状態で口プラ14に接続されている。
【0016】ボールハウス4aは、横断面形状が円形の孔であって、ボール6の周りを塗布液が流通可能な程度にボール6との間にクリアランスを有するものである。また、ボールハウス4aの先端開口となる吐出口1は、一般にかしめ部と称されるものであって、ボール6がボールハウス4a内に挿入された後に、ボール6の直径よりも小さい口径となるようにかしめられており、これによってボール6は、回転・移動可能な状態でボールハウス4a内に閉じこめられ保持される。なお、ボールハウス4aとボール6とのクリアランスは、使用する塗布液によって適宜変更可能である。ボール受座4a2は、ホルダー4の内壁から内側に向けて突出したものであり、後方に行くに従いその内径が小さくなるすり鉢状の斜面である。中心孔4bは、横断面視で円形形状を呈した孔であり、複数の縦溝4cは、中心孔4bの周方向に所定の間隔をあけて、中心孔4bの内壁に各々が凹形状を呈して例えば5箇所設けられている。
【0017】付勢手段12は、コイルスプリング12aで、ボール6の後端と当接する部分のスプリングの外径が、口プラ14の縦リブ14c1の先端に当接する部分のスプリングの外径より小さく、小径のスプリング部分12a1と大径のスプリング部分12a2という2つの略円筒形が連なったスプリングである。そして、小径のスプリング部分12a1は、中心孔4bの径より小さく、また長さは、ボール6を突出口4a1の周囲の内壁に対して当接・離脱する方向に移動自在にさせる必要充分な長さで設定されている。そして小径のスプリング部分12a1の後部に連なる大径のスプリング部分12a2は、小径のスプリング部分12a1より長く、かつ、スプリングの外径が大きい。そして大径のスプリング部分12a2の外径はホルダー4内の流動体誘導孔の径に対して、少なくとも、50%以上の外径を有し、好ましくは、70%が望ましい。この様な設定であれば、スプリング12が大きいために、流動体誘導孔10内で、くの字(図9)または波状(図8)のようにに曲がることがないので、ボールを押す荷重変化が製品によって差異がないため、設計値どおりの荷重となり、使用感がよく、吐出口を確実に閉止・開放する。
【0018】以上のような各部構成を有する実施例1の塗布具8においては、次のようにして塗布液が紙面などの被塗布面に塗布される。まず、使用者が、軸本体2を持ってホルダー4が下向きになるように塗布具を立てた状態でボール6の一部を紙面などに押し当てると、ボール6は圧縮コイルスプリング12aの弾発力に抗してボール受座4a2に当接するまで後方に移動する。この時、軸本体2内の塗布液は、口プラ14とホルダー4とによって形成される流動体誘導孔10を通って中心孔4b内に流下する。なお、必要に応じて軸本体2をスクイズ(押圧)して軸本体2内の塗布液をボールハウス4a内へ押し出すようにしてもよい。そして、ボール6より中心孔4bの開口が塞がれるが、中心孔4bに達した塗布液は、縦溝4cの開口からボールハウス4a内に流入し、さらにボール6とボールハウス4aとのクリアランスをぬけて、ボール6の転動に伴い吐出口4a1とボール6との隙間から吐出される。この際、わずかに吐出口4a1から臨んで紙面などに接するボール6の一部またはホルダー4の先端が塗布面となって、吐出された塗布液は紙面などに塗布される。そしてボール6を紙面などから離すと、ボール6はスプリング12aの弾発力で、吐出口を閉止する。
【0019】以上のように構成され使用される塗布具8によれば、吐出口4a1をボール6によって開放・閉止させるためのコイルスプリング12aが、ボール後端からホルダー内部を通りホルダー後端より臨出して、口プラもしくは先軸に設けられたで係止部15に係止されていて、また前記コイル状のスプリングは、ボール後端と接触する部分の外径が、前記係止部15の外径より小さく、いわゆる小径スプリング部分と大径スプリング部分からなる2つの略円筒形のスプリングが連なったスプリングである。また、通常大径スプリング部分が小径スプリング部分より長い。本発明に係わるコイルスプリングは、従来ホルダー内に配置してしまうような微細なスプリングではなく、スプリングの設定自由度が大きいので例えばボールを弾発する荷重を適切に設定することができ、またスプリングそのものの製造が容易で、また、これらの部品を組み込む塗布具の組立作業も容易となる。
【0020】また、ホルダーの座の後方の流動体誘導孔10内では、大径のスプリング部分が大部分を占めるので、流動体誘導孔10内でスプリングがくの字状(図9)になったり、波状(図8)になったりすることがないため、ボールを押す荷重に変化やバラツキがなく、使用感が安定している。また吐出口を閉止・開放するという機能も確実に作動する。また、流動体誘導孔内の塗布液の流通も良好で、粘度の高い塗布液や、修正液のように顔料を含んだ塗布液の場合でも、従来例の棒状の可動子を配置した、特に太い棒状の可動子を配置したときの顕著な目詰まりなどによる流量の低下、や流出しないなどの問題もない。」
オ 「【0023】(実施例4)図示はしないが、実施例1の基本構成において、コイルスプリング12dを線径0.95mmとし総巻き数44、材質としてステンレスを使用しその質量を0.014gとした。…」

そうすると、上記事項ア乃至オより、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が示されているものと認められる。
「塗布体となるボールを抱持するボールハウスを先端に有するホルダーが口プラもしくは先軸を介して流動体を収容し可とう性に富んだ塗布液の収容タンクである軸本体に連接され、前記ボールを前方に付勢するステンレスを使用したコイルスプリングが内蔵されている修正液、水性インキ、油性インキ、液状化粧料などの流動性塗布材を紙面などの被塗布面に塗布するための塗布具において、前記口プラもしくは先軸の内孔後端には、前記コイルスプリングの係止部が設けられ、前記口プラもしくは先軸と前記ホルダーとの連接によって形成される流動体誘導孔には、コイルスプリングの前部が前記ホルダー内孔部に納まりその後部がホルダー後部より臨出して該係止部で係止されるように前記コイルスプリングが配置され、かつ該コイルスプリングはボールと接触する小径のスプリング部分と前記コイルスプリング係止部に接触する大径のスプリング部分との二つの略円筒形スプリングが連なった形状を有し、軸本体をスクイズ(押圧)して軸本体内の塗布液をボールハウス内へ押し出すようにする塗布具。」

(2)引用例2
本願の出願日前の平成9年11月25日に公報が発行され、原査定の拒絶の理由に引用された特開平9−302299号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は剪断減粘性水性ボールペンインキの調製方法、剪断減粘性水性ボールペンインキ及びそれを用いたボールペンに関する。」
イ 「【0031】上記の着色剤は1種もしくは2種以上を混合して使用でき、これらの使用量は、1から35重量%が好ましく、添加量の設定については顔料自体の呈色性や使用目的に応じ適宜決めることができる。更に、有用な顔料の応用例として、可逆性熱変色性マイクロカプセル顔料が使用可能である。ここで、可逆性熱変色性マイクロカプセル顔料を着色剤として用いた本発明の水性ボールペン組成物について説明する。
【0032】前記可逆性熱変色性マイクロカプセル顔料は、電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物及び変色温度調整剤の均質相溶体からなる熱変色性材料からなり、電子の授受反応により所定温度で可逆的に発色・消色するタイプの従来より公知のもの、例えば特公昭51−44706号、特公昭51−44708号、特公昭52−7764号、特公昭51−35414号、特公平1−29398号公報や、大きなヒステリシス特性を示して変色し、低温側変色点と高温側変色点の間の温度域において、着色状態と無色状態或いは有色(A)と有色(B)の両相が互変的に記憶保持される、特公平4−17154号公報、特開平7−33997号公報、特開平7−179777号公報で開示されている熱変色性材料を公知のマイクロカプセル化方法によって微細粒子状に内包もしくは樹脂マトリックス化することによって得られたものが適用できる。
【0033】前記可逆性熱変色性マイクロカプセル顔料は、本発明に適用の水性媒体中に分散状態に存在させてなり、該熱変色性マイクロカプセル顔料は、電子供与性有機化合物、電子受容性化合物及び変色温度を調節する反応媒体を必須成分とする均質相溶体を壁膜で被覆してなる、粒子分布が0.5μm〜20μmの範囲に95%(体積%)以上を占める顔料、更に好ましくは、可逆性熱変色性マイクロカプセル顔料は、外面の少なくとも一部に窪みを有する界面重合または界面重縮合法により形成された壁膜からなる顔料であり、より好ましくは粒子分布が0.5μm〜20μmの範囲に95体積%以上を占める可逆性熱変色温度マイクロカプセル顔料を5〜35重量%(固形分)を配合してなり、粘度が30〜160m.Pa.s(25℃でのEM型回転粘度計における回転数100rpmでの値)の範囲にあり、インキの剪断減粘指数が0.1〜0.6の範囲にあることが好ましい。」
ウ 「【0062】
【発明の効果】本発明は、特定のノニオン系界面活性剤を特定量配合し、特定の水性液性状に構成することに所期の剪断減粘性を発現させて、ボールペンインキとして好適な適性を満たし、筆跡の線割れ、かすれ、ボテ現象等のない特性を有し、かつ経時的に安定な粘度特性を有しており、種々の着色剤を含む水性ボールペンインキとして実用性能を満たしている。又、着色剤として、諸種の顔料や染料が適用でき、多彩な色調を呈するボールペンを提供できる。更に、前記着色剤として熱変色性マイクロカプセル顔料を適用した系では、熱変色性筆跡を与える軽便なボールペンを供することができ、新たな用途を展開できる。以下に応用用途とその効果について例示する。

(3)ヒステリシス特性を有する色彩記憶性の熱変色性顔料を適用した系では、学習用途、例えば、問題集、テスト、ドリル、白地図、英文翻訳用に、必要回答や補足事項を筆記し、加熱により前記筆跡を消去させ、完全にリセットされた回答やメモのない状態で再度問題に取り組むことができる利点がある。10℃変色の筆跡を与える系にあっても、前記用途を満足でき、冷水、或いは氷片等を冷媒とする変色具と組み合わせたセット商品を構成できる。」

(3)引用例3
本願の出願日前の平成21年7月9日に公報が発行され、原査定の拒絶の理由に引用された特開2009−148968号公報(以下「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明はボールペンに関する。内方への押圧変形により形成した複数の内方突起からなるボール受け座を有する、金属製パイプよりなるボールペンチップと、ボールを前方に付勢するスプリングとを備えたボールペンに関する。」
イ 「【0016】
前記第4の発明のボールペン1により、筆跡が途切れたり、筆跡の濃度が不十分となることがなく、十分なインキ吐出性を備えた熱変色性ボールペンを得る。尚、前記第4の発明のボールペン1において、前記熱変色性インキの筆跡を摩擦しその際に生じる摩擦熱で該筆跡を熱変色可能な摩擦体を外面(例えば、軸筒外面またはキャップ外面)に備えることが好ましい。さらに、前記摩擦体による熱変色性インキの変色温度は、25℃〜95℃に設定されることが好ましい。」
ウ 「【0030】
・熱変色性インキ
前記インキ収容筒8内には、熱変色性インキと、前記熱変色性インキの後端に接触配置され且つ熱変色性インキの消費に伴って前進する高粘度流体からなる追従体とが収容される。前記熱変色性インキは、平均粒子径0.5μm〜5μmの熱変色性顔料が水性媒体中に分散され、粘度が40mpa・s〜160mpa・s(EM型回転粘度計による回転数100rpm、25℃での値)に設定される。前記熱変色性インキは、高温側変色点(完全消色温度)が36℃〜90℃に設定され、低温側変色点(完全発色温度)が−30℃〜+10℃の範囲に設定される。尚、前記追従体は、高粘度流体のみからなる構成の他、高粘度流体と固形物とを併用した構成や、弾性材料よりなる可動栓等が挙げられる。」

(4)引用例4
本願の出願日前の平成25年1月24日に公報が発行され、原査定の拒絶の理由に引用された特開2013−14033号公報(以下「引用例4」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記部材としてのボールと、このボールを先端開口部より一部突出状態に抱持するボールホルダーと、ボールを前方付勢するコイルスプリングとから少なくともなり、ボールホルダーは、貫通穴としてのインキ通孔内に、ボールの後方移動規制部となる内方突出部を有すると共に、インキ通孔の一部として内方突出部の中心孔と、隣り合った内方突出部間に形成される放射状溝とを備えるボールペンチップに関する。」
イ 「【0020】
コイルスプリング14は、SUS304ステンレスの線状体で形成されており、外側面と内面との間にインキ流通が可能となる隙間15を設けている。この隙間15は、インキ流通性を阻害することが無いように適宜調整されており、この場合、隙間15を0.05mmに設定している。尚、コイルスプリング14の線径は0.09mm、また当該部材のコイルスプリングの巻き部14aの最先端巻き部の外径を0.47mm、直状部14bの長さを0.4mmとしている。また、ボールペンチップのボール1の径を0.5mm、ボールホルダー2の後孔12の内径を0.50mm、内方突出部8の中心に形成されている中心孔10の内径(内方突出部8のボールホルダー2の中心側の頂点を結んだ内接円径)を0.25mm、ボールを最前方に位置させたときのボールの最後端部から内方突出部の最後端部までの距離(A)を0.25mmと設定している。
即ち、前記直状部14bの長さ(L)が、ボール径(D)の2.0倍以下であり、且つ直状部14bの長さ(L)が、ボールを最前方に位置させたときのボールの最後端部から内方突出部の最後端部までの距離(A)以上であるので、コイルスプリングの先端が確実にボールの後方に接触して前方へ押圧付勢され、また、コイルスプリングのコイル部が中心孔の後端かつ放射状溝の後端に近接し、コイル部が、中心孔や放射状溝に存在したインキがボールペンチップの後孔に後退することの障害となり、ボールの周囲にインキが少なくなることが抑制されている。」

(5)引用例5
本願の出願日前の平成23年7月14日に公報が発行され、原査定の拒絶の理由に引用された特開2011−136511号公報(以下「引用例5」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明はボールペンレフィルに関し、さらに詳細としては、ボールの後端にコイルスプリングを配設したボールペンチップを具備してなるボールペンレフィルに関するものである。」
イ 「【0037】
実施例1
図1、図2に示す実施例1のボールペンレフィル1は、インキ収容筒2の先端に、ボール径がφ0.7mmのボール3を回転自在に抱時したボールペンチップ4を装着するとともに、インキ収容筒2内に、インキ配合1のボールペン用インキ11及びインキ追従体12を直に収容してボールペンレフィル1を得ている。また、ボールペンチップ4内には、ボールの後端に、ボール3をチップ先端縁5aの内壁に常に押圧するコイルスプリング10を配設してある。尚、コイルスプリングには、SUS304の裸線を用いており、ボール押力は10gであった。」

(6)引用例6
本願の出願日前の平成18年6月29日に公報が発行され、原査定の拒絶の理由に引用された特開2006−170302号公報(以下「引用例6」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールペン等の筆記具に内蔵されるバネ部材、およびバネ部材の製造方法に関する。」
イ 「【0031】
また、内筒部24には、バネ部材40が設けられている。バネ部材40は、バネ鋼線を材質として形成されている。このバネ鋼線の例としては、SUS304等のステンレス鋼線が挙げられる。しかしながら、バネ鋼線は、SUS304等のステンレス鋼には限られず、硬鋼線、ピアノ線、オイルテンパ線、銅合金線、クラッドワイヤ等、種々のバネ材料を利用可能である。なお、バネ鋼線は、裸線を用いても良く、また裸線に例えばニッケルコーティング等の表面コーティングが為されているものを用いても良い。」

2 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)後者の「塗布体となるボール」、「ボールハウス」、「ホルダー」、「口プラもしくは先軸」、「軸本体」、「ボールを前方に付勢するコイルスプリング」、「コイルスプリングの係止部」、「口プラもしくは先軸とホルダーとの連接によって形成される流動体誘導孔」、「ボールと接触する小径のスプリング部分」及び「コイルスプリング係止部に接触する大径のスプリング部分」は、それぞれ、前者の「塗布体となるボール」、「ボールハウス」、「ホルダー」、「口プラもしくは先軸」、「軸本体」、「ボールを前方に付勢するコイルスプリング」、「コイルスプリングの係止部」、「口プラもしくは先軸とホルダーとの連接によって形成される流動体誘導孔」、「ボールと接触する小径のスプリング部分」及び「コイルスプリング係止部に接触する大径のスプリング部分」に相当する。
(2)後者の「塗布具」は、修正液、水性インキ、油性インキ、液状化粧料などの流動性塗布材を紙面などの被塗布面に塗布するためのものであるから、前者の「筆記具」に相当する。してみると、後者の「流動体」は前者の「インク」に相当する。
(3)上記(1)、(2)及び後者の「塗布具」は、「塗布体となるボールを抱持するボールハウスを先端に有するホルダーが口プラもしくは先軸を介して流動体を収容する軸本体に連接され、前記ボールを前方に付勢するコイルスプリングが内蔵されている修正液、水性インキ、油性インキ、液状化粧料などの流動性塗布材を紙面などの被塗布面に塗布するための」ものであるから、前者の「筆記具」と後者の「塗布具」とは、「塗布体となるボールを抱持するボールハウスを先端に有するホルダーが口プラもしくは先軸を介してインクを収容する軸本体に連接され、前記ボールを前方に付勢するコイルスプリングが内蔵されている」ものである点で一致する。
(4)後者の「コイルスプリングの係止部」は、「口プラもしくは先軸の内孔後端」に設けられているから、前者の「コイルスプリングの係止部」と後者の「コイルスプリングの係止部」とは、「口プラもしくは先軸の内孔後端」に設けられているものである点で一致する。
(5)後者の「コイルスプリング」は、「口プラもしくは先軸とホルダーとの連接によって形成される流動体誘導孔に、前部が前記ホルダー内孔部に納まりその後部がホルダー後部より臨出して係止部で係止されるように」配置されているから、前者の「コイルスプリング」と後者の「コイルスプリング」とは、口プラもしくは先軸とホルダーとの連接によって形成される流動体誘導孔に、前部が前記ホルダー内孔部に納まりその後部がホルダー後部より臨出して係止部で係止されるように」配置されているものである点で一致する。
(6)後者の「コイルスプリング」は、「ボールと接触する小径のスプリング部分と前記コイルスプリング係止部に接触する大径のスプリング部分との二つの略円筒形スプリングが連なった形状を有する」ものであるから、前者の「コイルスプリング」と後者の「コイルスプリング」とは、「ボールと接触する小径のスプリング部分と前記コイルスプリング係止部に接触する大径のスプリング部分との二つの略円筒形スプリングが連なった形状を有する」ものである点で一致する。

本願発明と引用発明とは、以下の一致点で一致し、以下の各相違点で相違する。
[一致点]
「塗布体となるボールを抱持するボールハウスを先端に有するホルダーが口プラもしくは先軸を介してインクを収容する軸本体に連接され、前記ボールを前方に付勢するコイルスプリングが内蔵されている筆記具において、前記口プラもしくは先軸の内孔後端には、前記コイルスプリングの係止部が設けられ、前記口プラもしくは先軸と前記ホルダーとの連接によって形成される流動体誘導孔には、コイルスプリングの前部が前記ホルダー内孔部に納まりその後部がホルダー後部より臨出して該係止部で係止されるように前記コイルスプリングが配置され、かつ該コイルスプリングはボールと接触する小径のスプリング部分と前記コイルスプリング係止部に接触する大径のスプリング部分との二つの略円筒形スプリングが連なった形状を有する、筆記具」

[相違点1]
コイルスプリングが、本願発明は、「線径0.12mmのオーステナイト系ステンレス」からなるものであるのに対し、引用発明は、ステンレスを使用したものである点。

[相違点2]
本願発明が、「熱変色インク」を収容する「熱変色性」筆記具であるのに対し、引用発明は、水性インキ、油性インキ、液状化粧料などの流動性塗布材を塗布する塗布具であるものの、熱変色性であるのか否か不明である点。

[相違点3]
本願発明が、軸本体は、「軟質プラスチック又は半硬質プラスチックで形成された加圧作用が働く塗布液タンクであり、ゴム弾性材料からなる摩擦部材を備えない」ものであるのに対し、軸本体は、可とう性に富んだ塗布液の収容タンクであり、軸本体をスクイズ(押圧)して軸本体内の塗布液をボールハウス内へ押し出すようにしてなるものである点。

3 判断
(1)[相違点1]について
塗布体となるボールを抱持するボールハウスを先端に有するホルダーが口プラもしくは先軸を介してインクを収容する軸本体に連接され、前記ボールを前方に付勢するコイルスプリングが内蔵されている筆記具のスプリングとして、オーステナイト系ステンレスは、引用例4乃至6に示されているように、当該技術分野において周知の技術事項(以下「周知技術1」という。)であり、その線経は、筆記具の仕様に応じて適宜定める事項である。
してみると、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項は、上記周知技術1から当業者が容易になし得るものである。

(2)[相違点2]について
筆記具のインクとしての熱変色性インクは、引用例2及び3に示されているように、当該技術分野において周知の技術事項(以下「周知技術2」という。)である。
してみると、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項は、上記周知技術2から当業者が容易になし得るものである。

(3)[相違点3]について
引用発明の塗布具は、軸本体は、可とう性に富んだ塗布液の収容タンクであり、軸本体をスクイズ(押圧)して軸本体内の塗布液をボールハウス内へ押し出すようにするものであるから、軸本体は、軟質プラスチック又は半硬質プラスチックで形成された加圧作用が働くものと推認し得る。
そして、軸本体が、軟質プラスチック又は半硬質プラスチックで形成されたものであるのであれば、ゴム弾性材料からなる摩擦部材を備えないものであることは明らかである。
そうすると、上記相違点3は実質的な相違点とはいえない。
引用発明の軸本体の材料が定かでないから、上記相違点3が実質的な相違点であったとしても、引用発明は、軸本体をスクイズ(押圧)して軸本体内の塗布液をボールハウス内へ押し出すようにするものであるから、軸本体を軟質プラスチック又は半硬質プラスチックで形成することは、当業者であれば、何ら困難性のないことである。
そして、上述の通り、軸本体が、軟質プラスチック又は半硬質プラスチックで形成するのであるのであれば、ゴム弾性材料からなる摩擦部材を備えないものであることは明らかである。
さらに、引用例2(ウ参照。)及び引用例3(イ参照。)には、熱変色性インクを収容する熱変性筆記具において、ゴム弾性材料からなる摩擦部材を備えないことが記載されていることからすれば、引用発明に上記周知技術2を適用することにより、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項及び上記相違点3における「ゴム弾性材料からなる摩擦部材を備えない」ものとすることは、当業者が容易になし得るものである。

(4)請求人の主張について
請求人は、“本件発明は、摩擦部材を備えない「軸筒に摩擦部材を備えない」構成を必須とし、「長期間未使用であっても軸本体の表面への埃等の汚れの付着を防ぎ、また汚れが付着しても容易に取り除くことができる。」効果を奏することは文献2、文献3には、開示されてなく、摩擦部材を設けないことを積極的に着想することは容易に想到するものではございません。(以下「主張1」という。)また、文献2、文献3は、同一の出願人であることから公知ではありますが、周知技術に基づくものとはいえないと思料致します。(以下「主張2」という。)更に補正前の請求項2(新請求項1)におきましては、文献1と文献2、3と文献4〜6を組み合わせれば、容易に想到し得るものとありますが、それは仮に容易に想到し得たとしても、文献1に基づき、文献2、3と組み合わせ、更に文献4〜6との組み合わせという、2つの段階を経て相違点に係る本願発明の請求項1の構成に至ることになるものですから、格別な努力を要するものといえ、当業者にとって容易であったということはできないものと思料致します。(以下「主張3」という。)”と主張する。
ア 主張1について
上記(3)のとおり、軸本体を「ゴム弾性材料からなる摩擦部材を備えない」ものとすることが実質的な相違点でないか、少なくとも、当業者が容易に想到し得るものであるのであるから、「軸本体の表面への埃等の汚れの付着を防ぎ、また汚れが付着しても容易に取り除くことができる。」との効果は、当業者が当然予測可能なものである。
イ 主張2について
引用例2及び引用例3が同一出願人ものであったとしても、刊行物として発行され、一般に知られるものとなった技術であるのだから、周知技術といえる。
ウ 主張3について
相違点1と相違点2とは、同じ筆記具における事項であるものの、不可分一体的な発明特定事項ではないのであるから、それぞれの相違点について容易想到性を検討することに何ら誤りはない。

本願発明の効果も、引用発明及び上記周知技術1及び2から、当業者が予測し得る程度のものといえる。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、本願出願の出願前に出願公開された引用文献に記載された発明、上記周知技術1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

したがって、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-02-01 
結審通知日 2022-02-04 
審決日 2022-02-15 
出願番号 P2016-041630
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B43K)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 藤田 年彦
特許庁審判官 藤本 義仁
佐々木 創太郎
発明の名称 熱変色性筆記具  

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