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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F28D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F28D
管理番号 1383677
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-01-06 
確定日 2022-04-21 
事件の表示 特願2019−528014「シェルアンドチューブ式凝縮器およびシェルアンドチューブ式凝縮器の熱交換チューブ(複数のバージョン)」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 2月 8日国際公開、WO2018/026312、令和 1年10月 3日国内公表、特表2019−527812〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2017年7月31日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2016年8月5日、(RU)ロシア連邦、2017年7月26日、(RU)ロシア連邦)を国際出願日とする出願であって、令和2年3月26日付けで拒絶の理由が通知され、令和2年6月26日に意見書及び手続補正書が提出されたところ、令和2年8月31日付け(発送日:令和2年9月10日)で拒絶査定がなされ、それに対して、令和3年1月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

第2 令和3年1月6日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年1月6日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
(1)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和2年6月26日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
外面に溝を有し、かつ管板の適所に固定されている熱交換チューブ束と、ガイドスペーサと、チューブ空間およびシェル空間の熱媒体供給口および排出口とを収容しているシェルであって、
熱交換チューブの外面に疎水性材料のコーティングを施しており、前記ガイドスペーサ間の距離は、前記シェル空間の前記熱媒体供給口からその排出口まで減少している、シェルで構成されており、
前記熱交換チューブがその外面に溝を有し、かつ疎水性材料のコーティングも施している一方、その内面においてはリブを担持し、かつ粘性抵抗係数の高い材料のコーティングをそこに施している、
シェルアンドチューブ式凝縮器。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項1】
外面に溝を有し、かつ管板の適所に固定されている熱交換チューブ束と、ガイドスペーサと、チューブ空間およびシェル空間の熱媒体供給口および排出口とを収容しているシェルであって、
熱交換チューブの外面に疎水性材料のコーティングを施しており、前記ガイドスペーサ間の距離は、前記シェル空間の前記熱媒体供給口からその排出口まで減少している、シェルで構成されており、
前記熱交換チューブがその外面に溝を有し、かつ合成ポリアミドからなる疎水性材料のコーティングも施している一方、その内面においてはリブを担持し、かつ合成ポリアミド、フッ素含有材料およびポリテトラフルオロエチレンから選ばれる材料のコーティングをそこに施している、
シェルアンドチューブ式凝縮器。」

2 補正の適否について
本件補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「熱交換チューブ」に関して、その外面に施すコーティングを「合成ポリアミドからなる」疎水性材料と限定するとともに、その内面に施すコーティングを、補正前の「粘性抵抗係数の高い材料」を「合成ポリアミド、フッ素含有材料およびポリテトラフルオロエチレンから選ばれる材料」と限定するものであって、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

3 独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された特開昭60−36854号公報には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は当審にて付したものである。なお、「・・・」は記載の省略を意味する。以下同様。)。

(1−a)「本発明は、チユーブの外側を通る被冷却流体ガスを、チユーブの中を通る冷却媒体により冷却し凝縮せしめる凝縮器に関するものである。
この種の凝縮器において、例えば被冷却流体の入口及び出口がシエルの両端に離れて設けられている場合、バフルプレートを設けないものもあるが、バフルプレートを設けるものであつてもその間隔はほぼ等間隔に配備されている。
このような凝縮器において入口から被冷却流体のガスを導入し、シエルの中でチユーブ内の冷却水により冷却し、凝縮せしめる場合、被冷却流体は入口から出口にかけて移動しながら、次々に一部を凝縮せしめてゆく。従ってシエルの中を流過する蒸気の体積は次第に減少してゆく。
従ってシエルの中におけるガスの流れ速度は次第に遅くなり、チユーブの表面における流速が小となり、その結果総括伝熱係数が低下し、伝熱量の低下を来たし凝縮能力を大きくすることが困難であり、また、同じ凝縮能力を得るためには装置が大型となる欠点があった。」(第1頁右欄第3行〜第2頁左上欄第2行)

(1−b)「本発明は、上記の如き従来のものの欠点を除き、冷媒ガスの速度の低下を防ぎ、総括伝熱係数の低下を招かず、また非共沸混合冷媒を用いる場合においても全体か凝縮する温度の低下を招かない凝縮器を提供することを目的とするものである。
本発明は、チユーブ外側が被冷却流体側となるシエルアンドチユーブ形の凝縮器において、前記シエルの内部に前記入口と前記出口との間に単数個又は複数個のバフルプレートを設けて被冷却流体を蛇行せしめる流路を形成し、該流路の流れに直角方向の断面積が、入口側よりも出口側の方か狭くなっていることを特徴とする凝縮器である。」(第2頁右上欄第8〜19行)

(1−c)「本発明の実施例を図面を用いて説明する。
第2図において、1はシエルであり、管板2,3により水室4,5が仕切られ、管板2,3の間に伝熱用のチユーブ6が多数配設されている。冷却水が入口7より入りチユーブ6の中を通り出口8より出る。被冷却流体として非共沸混合冷媒が入口9からシエル1の中に入りチユーブ6により冷却され凝縮して出口10より排出され、向流にて熱交換を行なうようになっている。
被冷却流体の入口9と出口10とは軸方向に隔った位置に設けられ、その間には複数個のバフルプレート11が交互に配備され、入口9より入った冷媒ガスか蛇行しながらチユーブ6と接触するようになつている。
しかしてバフルプレート11の相互の間隔は、入口9側におけるよりも出口10側における方が狭く、その間は、冷媒の流れの下流に向け次第に狭くなるようになつている。
従って、シエル1の中の冷媒の流路は、流れに直角方向の断面積か入口9側よりも出口10側の方が狭くなっている。
運転時には、チユーブ6内に冷却水を通している状態で入口9より非共沸混合冷媒ガスを供給すれば、冷媒ガスはバフルプレート11によつて形成された流路を流れながらチユーブ6により冷却され凝縮し、残余のガス状の冷媒がさらに下流側に進み、凝縮する。
この場合、冷媒ガスの体積は次第に減少するが、流路断面積も次第に減少しているので、冷媒ガスの流速をほぼ一定に保つことができる。従って、総括伝熱係数は低下せず、凝縮量の増大をはかることかできる。或いは同じ凝縮能力に対して凝縮器を小型にすることかできる。」(第2頁左下欄第4行〜同頁右下欄第16行)

(1−d)「



(1−e)第2図から、シエル1が、伝熱用のチユーブ6と、バフルプレート11と、チユーブ6の中を通る冷却水の入口7及び出口8、並びに被冷却流体の入口9及び出口10とを収容している点が把握できる。

上記(1−a)〜(1−e)の事項を総合すると、引用例1には、次の発明が記載されていると認められる(以下「引用発明」という。)。
「管板2,3の間に多数配設された伝熱用のチユーブ6と、バフルプレート11と、チユーブ6の中を通る冷却水の入口7及び出口8、並びに被冷却流体の入口9及び出口10とを収容しているシエル1であって、
バフルプレート11の相互の間隔は、被冷却流体の入口9側におけるよりも出口10側における方が狭く、その間は、被冷却流体の流れの下流に向け次第に狭くなるようになっている、シエル1で構成されている、
シエルアンドチユーブ式凝縮器。」

(2)引用例2
原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された特開2005−90798号公報には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は当審にて付したものである。)。

(2−a)「【0001】
本発明は、シェルアンドチューブ方式及びシェルアンドコイル方式等の凝縮器に組み込まれる凝縮器用伝熱管に関し、特に、水(H2O)等の粘性及び表面張力が高い冷媒を使用する凝縮器に好適な凝縮器用伝熱管に関する。」

(2−b)「【0009】
従来、これらの凝縮器の伝熱管、即ち、図7に示す伝熱管58及び図8に示す伝熱管77には平滑管が使用されていた。しかし、近時、凝縮器の熱交換性能の向上を図るために、管の内外面に螺旋状に凹凸を形成したコルゲートチューブが使用されている。図9はコルゲートチューブを示す側面断面図である。図9に示すように、コルゲートチューブ81においては、管の外面に溝82が螺旋状に形成されている。また、凝縮器用の伝熱管としてコルゲートチューブ以外にも、外面にフィン又は突起を形成した伝熱管が多く提案されている(例えば、特許文献1及び2参照。)。」

(2−c)「

【図9】




(3)引用例3
原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用された実願昭52−177328号(実開昭54−101649号)のマイクロフィルムには、図面とともに以下の事項が記載されている。

(3−a)「この種凝縮器においては、内管の冷媒との接触面積を大として、凝縮器の凝縮効率を高めるべく、従来内管の外周面に種々の加工を施している。例えば前記内管の外周面に、その円周方向に溝を附して多数の横フイン(ローフイン)を形成したり、或は内管外周面長手方向に溝を附すことにより多数の縦フインを形成したり、また内容の外周に帯状フインを巻付けたりしている。」(明細書第1頁第18行〜第2頁第5頁)

(3−b)「また本考案は前述した二重管式の凝縮器に限らず、シエルアンドチューブ式凝縮器の内管に施すことも可能である。
・・・
また内管(4)内においては、コルゲート溝(7)により膨出部(7a)が形成されているので、冷却水は該膨出部(7a)により撹拌されて、内管(4)を均一に冷却し、この内管(4)との間で冷媒が均一に熱交換されるのである。」(明細書第5頁第20行〜第6頁第18行)

(3−c)「



(4)引用例4
原査定の拒絶の理由に引用文献4として引用された特表2016−516100号公報のマイクロフィルムには、図面とともに以下の事項が記載されている。

「【0005】
水の凝縮は、発電および淡水化を含む、多くの産業において非常に重要なプロセスである。世界に設置されている発電プラントのおおよそ85%および世界中の淡水化プラントの50%は、水蒸気表面凝縮器、すなわち、冷却液を流す複数の管がそれらの外面で蒸気と接触するタイプの熱交換器に依存している。これらのプロセスの普及規模を考えると(Given the widespread scale if these processes)、サイクル効率のわずかな向上でさえ、世界のエネルギー消費に有意な影響を及ぼすことになる。
【0006】
凝縮器の伝熱性能の1つの有用な尺度は熱伝達率であり、これは、kW/m2Kの単位で面積あたりの流束として定義される。滴状モードでの凝縮時に経験される熱伝達率は、膜状モードでのものより一桁大きい。膜状凝縮中の断熱性液膜の存在は、伝熱に対する有意な熱障壁となるが、滴状凝縮中の離散液滴の離脱は、凝縮面を蒸気に曝露する。滴状凝縮中に経験される、より高い熱伝達率は、大規模熱流体用途、例えば水蒸気発電プラントおよび淡水化プラントではもちろん、小規模高熱流束用途、例えば電子機器冷却でもその利用を魅力的なものにする。しかし、発電、淡水化および他の用途での液膜凝縮の実用的な実装は、材料が有意な課題となっており、数ある要因の中でも、金属伝熱面についての既存疎水性官能基化の耐久性による制約を受ける。金属は、伝熱を最大にするための高い熱伝導度と構造的支持体の必要を最小にする高い引張強度の両方を提供するが、金属は、概して水および殆どの他の熱流体により湿潤され、結果として膜様凝縮を呈示する。金属表面が所望の滴状凝縮を呈示するためには、伝熱に使用される表面を改質する必要がある。伝熱が起こる金属表面で滴状凝縮を実現するための1つの方法は、疎水性コーティングでの金属表面の改質である。」

(5)引用例5
原査定の拒絶の理由に引用文献5として引用された特表2010−526270号公報には、図面とともに以下の事項が記載されている。

「【0001】
本発明は、滴状凝縮(Tropfenkondensation)を達成するための凝縮器の疎水性被覆の製造方法ならびに製造された被覆に関する。
【0002】
凝縮装置では、凝縮する媒体が熱伝達表面で凝縮する。蒸気タービンの場合、たとえば凝縮器において、タービンからの放圧された水蒸気の凝縮が行われる。慣用の凝縮器は、多数の凝縮管を有しており、これらは主として金属から、多くの場合、合金鋼またはチタンからなる。
【0003】
凝縮では、滴状凝縮と液膜凝縮(Filmkondensation)とを区別することができる。高い表面エネルギーを有する金属材料上では、主として液膜凝縮が行われる。この場合、凝縮液は金属表面上に連続した液膜を形成する。これに対して滴状凝縮の場合には、液滴が形成され、この液滴は迅速にしたたり落ち、このことによって凝縮器の効率が高められる。
【0004】
従来技術では、凝縮管の疎水化により滴状凝縮を生じることが公知である。
【0005】
たとえばDE833049から、凝縮器表面のシリコーン被覆が公知である。さらに、テトラフルオロエチレン樹脂(テフロン)により凝縮器を被覆することが公知である。しかしこの場合の欠点は、この付加的な材料層を凝縮器上に施与することによって、付加的な熱伝達抵抗が生じることである。さらに、疎水化被覆の安定性はしばしば限定されている。」

(6)引用例6
原査定の拒絶の理由に引用文献6として引用された特開2010−249405号公報には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(6−a)[【0001】
本発明は、エアコン、給湯器、冷凍機、床暖房等の、ヒートポンプ機器において、熱交換器用の伝熱管として用いられる内面溝付管及びその製造方法に関する。」
(6−b)「【0015】
以下に、本実施形態の内面溝付管の内部を説明する。図1は、本実施形態の内面溝付管を管軸に対して直角に切断した一部を示す断面図である。内面溝付管11は、外径D、肉厚tを有する断面略円形の管である。
【0016】
内面溝付管11の内部は、複数のフィン1、複数の溝2、及び皮膜3からなる。溝2は、内面溝付管11の内部に、螺旋状に複数形成されている。フィン1は、高さH、頂角αを有し、断面略三角形の突起であり、隣り合う溝2の間に螺旋状に複数形成されている。
【0017】
フィン1の高さHを0.1mm以上とすると、内面溝付管11の内部の表面積を増加させ、内部を通る冷媒の乱流が促進するため、伝熱性能を向上させることができて好ましい。
【0018】
皮膜3は、内面溝付管11の内面全体を覆っている。皮膜3は、フッ素樹脂からなり、撥油性を有する。これにより、冷凍機油が付着しても油膜を形成することを防止することができる。皮膜3の厚さhは1〜200μmとすると、油膜形成の防止を効果的に防止でき、圧力損失の抑制とも両立できる。好ましくは、10〜100μm、より好ましくは20〜80μmである。」

(7)引用例7
原査定の拒絶の理由に引用文献7として引用された特開2011−99614号公報には、図面とともに以下の事項が記載されている。

「【0002】
従来の一般的な熱交換器として、内部を流体が流通する複数本の伝熱管と、伝熱管を内部に収容するシェルと、伝熱管の両端部を夫々固定する一対の管板を備えた構造を有するシェルアンドチューブ型熱交換器が知られている。
【0003】
通常、この種の熱交換器においては、伝熱管は機械的強度及び熱伝導性に優れた炭素鋼やステンレス鋼等の金属素材から形成されている。しかし、金属製の管は、酸やアルカリ等の高腐食性液体を流通させると腐食してしまうため、高腐食性液体の処理には使用することができない。また、金属イオンが処理液中に溶出する虞があるため、医薬や半導体等の高清浄性を要求される用途には使用することができない。
【0004】
上記した金属製の伝熱管を備えた熱交換器が有する問題点を解決し得る熱交換器として、フッソ樹脂製の伝熱管を使用した熱交換器(特許文献1参照)が知られている。
しかしながら、フッソ樹脂製の伝熱管を使用した熱交換器は、伝熱管の機械 的強度が低いために強度を確保するために肉厚を厚くしなければならない。ところが、フッソ樹脂は元々金属に比べて熱伝導率が低いため、肉厚を厚くすることによって熱交換効率が大きく低下してしまう。
【0005】
上記した金属製の伝熱管を備えた熱交換器とフッソ樹脂製の伝熱管を備えた熱交換器の双方の問題点を解決するために、金属管の内面をフッ素樹脂により被覆した伝熱管を備えた熱交換器が提案されている(特許文献2参照)。
特許文献2に記載された熱交換器は、伝熱管が金属とフッ素樹脂の二層構造となっていることにより、金属の優れた機械的強度及び熱伝導率と、フッ素樹脂の優れた耐食性及び高清浄性を併せ持つことができる。」

(8)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「管板2,3の間に多数配設された伝熱用のチユーブ6」は、本願補正発明の「管板の適所に固定されている熱交換チューブ束」に相当する。
また、引用発明の「バフルプレート11」は、本願補正発明の「ガイドスペーサ」に相当する。さらに、引用発明の「チユーブ6の中を通る冷却水の入口7及び出口8、並びに被冷却流体の入口9及び出口10」は、本願補正発明の「チューブ空間およびシェル空間の熱媒体供給口および排出口」に相当する。
よって、引用発明の「管板2,3の間に多数配設された伝熱用のチユーブ6と、バフルプレート11と、チユーブ6の中を通る冷却水の入口7及び出口8、並びに被冷却流体の入口9及び出口10とを収容しているシエル1」は、本願補正発明の「管板の適所に固定されている熱交換チューブ束と、ガイドスペーサと、チューブ空間およびシェル空間の熱媒体供給口および排出口とを収容しているシェル」に相当する。

イ 引用発明の「バフルプレート11の相互の間隔」は、本願発明の「ガイドスペーサ間の距離」に相当する。
よって、引用発明の「バフルプレート11の相互の間隔は、被冷却流体の入口9側におけるよりも出口10側における方が狭く、その間は、冷媒の流れの下流に向け次第に狭くなるようになっている」点は、本願補正発明の「ガイドスペーサ間の距離は、シェル空間の熱媒体供給口からその排出口まで減少している」点に相当する。

したがって、本願補正発明と引用発明とは、
「管板の適所に固定されている熱交換チューブ束と、ガイドスペーサと、チューブ空間およびシェル空間の熱媒体供給口および排出口とを収容しているシェルであって、
前記ガイドスペーサ間の距離は、前記シェル空間の前記熱媒体供給口からその排出口まで減少している、シェルで構成されている、
シェルアンドチューブ式凝縮器。」
である点で一致し、以下の点で一応相違する。

[相違点1]
本願補正発明は、「熱交換チューブ」が「外面に溝を有し」ているのに対し、引用発明は、そのような構成を有していない点。

[相違点2]
本願補正発明は、「熱交換チューブ」がその外面に「合成ポリアミドからなる疎水性材料のコーティングも施して」いるのに対し、引用発明は、そのような構成を有していない点。

[相違点3]
本願補正発明は、「熱交換チューブ」が「その内面においてはリブを担持し」ているのに対し、引用発明は、そのような構成を有していない点。

[相違点4]
本願補正発明は、「熱交換チューブ」がその内面に「合成ポリアミド、フッ素含有材料およびポリテトラフルオロエチレンから選ばれる材料のコーティングをそこに施している」のに対し、引用発明は、そのような構成を有していない点。

(9)判断
ア 上記[相違点1]について検討する。
シェルアンドチューブ式凝縮器において、熱交換性能を高めるために、伝熱管の外面に溝を形成することは、周知の技術である(例えば、引用例2の段落【0001】、【0009】、図9、引用例3の明細書第1頁第18行〜第2頁第5頁、第5頁第20行〜第6頁第18行、図3参照、以下「周知技術A」という。)。
よって、シエルアンドチユーブ式凝縮器である引用発明に周知技術Aを適用し、相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

イ 上記[相違点2]について検討する。
凝縮器等の熱交換器の表面にポリアミド樹脂等からなる疎水性材料のコーティングを施すことは周知の技術である(例えば、特開2014−77600号公報の段落【0007】、【0009】に記載されたフィンチューブ型熱交換器の伝熱管の表面に親水性あるいは撥水性のポリアミド樹脂のコーティング層を形成した点、特開昭58−102073号公報の第2頁左上欄第1〜12行に記載された冷暖房空調機器の熱交換器表面に水切れ性のよいポリアミド等の樹脂からなる有機高分子被膜を形成した点、及び引用例4の段落【0006】、引用例5の【0001】〜【0003】参照、以下「周知技術B」という。)。
よって、被冷却流体が伝熱用のチユーブ6の中を通る冷却水で冷却され凝縮されることが明らかな引用発明に周知技術Bを適用し、相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

ウ 上記[相違点3]について検討する。
シェルアンドチューブ式凝縮器において、熱交換性能を高めるために、伝熱管の内面にリブを形成することは、周知の技術である(例えば、引用例2の段落【0001】、【0009】、図9、引用例3の明細書第1頁第18行〜第2頁第5頁、第5頁第20行〜第6頁第18行、図3参照、以下「周知技術C」という。)。
よって、シエルアンドチユーブ式凝縮器である引用発明に周知技術Cを適用し、相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

エ 上記[相違点4]について検討する。
熱交換器の伝熱管内における他の不純物の付着防止等のために、伝熱管の内面にフッ素樹脂等のコーティングを施すことは、周知の技術である(例えば、引用例6の段落【0018】、引用例7の段落【0005】参照、以下「周知技術D」という。)。
よって、熱交換する伝熱用のチユーブ6を有する引用発明に周知技術Dを適用し、相違点4に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

オ 請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、「拒絶査定においては、蒸気凝縮面に疎水性コーティングを施すことは引用文献4や5から周知としていますが、引用文献4に開示されているコーティング材料はポリテトラフルオロエチレンであり、また引用文献5に開示されているコーティング材料(高分子膜)フルオロポリマーであります。つまり、引用文献4や5にはポリアミドでコーティングすることについて何らの開示も示唆もありません。
よって、引用文献の開示内容から、その外面は合成ポリアミドからなる疎水性材料のコーティングが施され、その内面はリブを担持するとともに合成ポリアミド、フッ素含有材料およびポリテトラフルオロエチレンから選ばれる材料のコーティングが施されている、という本願補正後の請求項に係る発明の構成に、当業者が想到したであろうということはできません。これにより、本願補正後の請求項に係る発明は引用文献に対して進歩性を有するものと思料いたします。」と主張する(「3.本願発明が特許されるべき理由」)。
しかしながら、上記3(9)イで検討したとおり、凝縮器等の熱交換器の表面にポリアミド樹脂等からなる疎水性材料のコーティングを施すことは周知技術Bである。
そして、上記相違点2、3及び4は、それぞれ、上記3(9)で検討したとおり、当業者が容易になし得たことであって、「その外面は合成ポリアミドからなる疎水性材料のコーティングが施され、その内面はリブを担持するとともに合成ポリアミド、フッ素含有材料およびポリテトラフルオロエチレンから選ばれる材料のコーティングが施されている」ことは、当業者が想到し得たことであるといえる。
したがって、請求人の主張は採用できない。

(10)まとめ
以上のように、本願補正発明は、引用発明及び周知技術A〜Dに基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4 むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1〜13に係る発明は、令和2年6月26日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜13に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2[理由]1(1)」に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、次の理由を含むものである。
この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開昭60−036854号公報
引用文献2:特開2005−090798号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:実願昭52−177328号(実開昭54−101649号)のマイクロフィルム(周知技術を示す文献)
引用文献4:特表2016−516100号公報(周知技術を示す文献)
引用文献5:特表2010−526270号公報(周知技術を示す文献)
引用文献6:特開2010−249405号公報(周知技術を示す文献)
引用文献7:特開2011−099614号公報(周知技術を示す文献)

3 引用例
引用例1〜7及びその記載事項は、前記「第2[理由]3(1)〜(7)」に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、本願補正発明を特定するために必要な事項である「熱交換チューブ」に関して、その外面に施すコーティングについて「合成ポリアミドからなる」疎水性材料との限定を削除するとともに、その内面に施すコーティングを、「合成ポリアミド、フッ素含有材料およびポリテトラフルオロエチレンから選ばれる」材料から、補正前の「粘性抵抗係数の高い材料」に戻すものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記「第2[理由]3(9)、(10)」に記載したとおり、引用発明及び周知技術A〜Dに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び周知技術A〜Dに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項に該当し、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。



 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 山崎 勝司
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-11-04 
結審通知日 2021-11-09 
審決日 2021-11-25 
出願番号 P2019-528014
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F28D)
P 1 8・ 575- Z (F28D)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 山崎 勝司
特許庁審判官 平城 俊雅
松下 聡
発明の名称 シェルアンドチューブ式凝縮器およびシェルアンドチューブ式凝縮器の熱交換チューブ(複数のバージョン)  
代理人 関口 一哉  

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