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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1383722
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-02-05 
確定日 2022-04-05 
事件の表示 特願2019− 10149「磁気メモリを製造するための装置及び磁気接合を提供するための方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 5月 9日出願公開、特開2019− 71480〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯
本願は,平成25年7月19日(パリ条約による優先権主張2012年7月20日:米国)に出願した特願2013−150526号の一部を平成31年1月24日に新たな特許出願としたものであって, その手続の経緯は以下のとおりである。
平成31年1月25日 :手続補正書の提出
令和2年3月16日付け :拒絶理由通知書
令和2年5月18日 :意見書,手続補正書の提出
令和2年10月22日付け:拒絶査定
令和3年2月5日 :審判請求書,手続補正書の提出
令和3年7月29日 :上申書の提出


第2 令和3年2月5日にされた手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和3年2月5日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
ア 本件補正は,本件補正前の請求項1〜9を本件補正後の請求項1〜7とする補正を含むものであって,本件補正前の請求項3及び本件補正後の請求項1は次のとおりである。(下線は補正箇所を示す。)
(ア)本件補正前の請求項3
「【請求項3】
磁気メモリでの使用のために基板上に少なくとも1つの磁気接合を提供する方法であって,
前記磁気接合は書込み電流が前記磁気接合を通じて流れる時,多数の安定された磁気状態の間でスイッチすることができるように配置され,
前記少なくとも1つの磁気接合のための多数の磁気接合膜を提供する段階と,
前記多数の磁気接合膜上にハードマスク膜を提供する段階と,
反応性イオンエッチングチャンバーにおいて反応性イオンエッチングを使用して前記ハードマスク膜からハードマスクを形成する段階と,
前記反応性イオンエッチングを遂行した後,前記磁気メモリを大気環境へ露出させずにイオンミリングチャンバーにおいて前記多数の磁気接合膜をイオンミリングする段階と,
前記磁気接合膜をイオンミリングした後に,前記磁気メモリを大気環境へ露出させずに蒸着チャンバーにおいて蒸着膜を蒸着させる段階と,を連続的に実行することを含み,
前記反応性イオンエッチングチャンバー,前記イオンミリングチャンバー及び前記蒸着チャンバーは,直列的に連結され,
前記段階のそれぞれでは,各チャンバー専用の真空システムにて真空排気するようにし,前記イオンミリングチャンバーは前記反応性イオンエッチングチャンバーよりも高い真空度を有し,
前記多数の磁気接合膜をイオンミリングすることは前記少なくとも1つの磁気接合を目的形状となるように加工し,
前記磁気接合は20nm以下の直径を有し,前記磁気メモリは隣接する磁気接合間で200nm以下の間隔を有する方法。」

(イ)本件補正後の請求項1
「【請求項1】
磁気メモリでの使用のために基板上に少なくとも1つの磁気接合を提供する方法であって,
前記磁気接合は書込み電流が前記磁気接合を通じて流れる時,多数の安定された磁気状態の間でスイッチすることができるように配置され,
前記少なくとも1つの磁気接合のための多数の磁気接合膜を提供する段階と,
前記多数の磁気接合膜上にハードマスク膜を提供する段階と,
反応性イオンエッチングチャンバーにおいてフッ素ガス又は塩素ガスを用いた反応性イオンエッチングを使用して前記ハードマスク膜からハードマスクを形成する段階と,
前記反応性イオンエッチングを遂行した後,前記磁気メモリを大気環境へ露出させずにイオンミリングチャンバーにおいて前記多数の磁気接合膜をイオンミリングする段階と,
前記磁気接合膜をイオンミリングした後に,前記磁気メモリを大気環境へ露出させずに蒸着チャンバーにおいて蒸着膜を蒸着させる段階と,を連続的に実行することを含み,
前記反応性イオンエッチングチャンバー,前記イオンミリングチャンバー及び前記蒸着チャンバーは,直列的に連結され,
前記段階のそれぞれでは,各チャンバー専用の真空システムにて真空排気するようにし,前記イオンミリングチャンバーは前記反応性イオンエッチングチャンバーよりも高い真空度を有し,
前記多数の磁気接合膜をイオンミリングすることは前記少なくとも1つの磁気接合を目的形状となるように加工し,
前記磁気接合は20nm以下の直径を有し,前記磁気メモリは隣接する磁気接合間で200nm以下の間隔を有する方法。」

イ そして,本件補正は以下の補正事項をその内容とするものである。
(補正事項1)本件補正前の請求項1〜2を削除し,本件補正前の請求項3〜9を本件補正後の請求項1〜7とし,それに対応して,引用する請求項の番号を改めること。
(補正事項2)本件補正前の請求項3に記載された「反応性イオンエッチングを使用して前記ハードマスク膜からハードマスクを形成する」を,本件補正後の請求項1において「フッ素ガス又は塩素ガスを用いた反応性イオンエッチングを使用して前記ハードマスク膜からハードマスクを形成する」に補正すること。

2.補正目的の適否及び新規事項追加の有無について
上記補正事項1〜2について,補正目的の適否及び新規事項追加の有無を検討する。
ア 補正事項1は,補正前の請求項1〜2の削除を目的とするものである。また,補正事項1は,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面(以下「当初明細書等」という。)の範囲内でしたものである。
イ 補正事項2は,補正前の請求項1「反応性イオンエッチング」を「フッ素ガス又は塩素ガスを用いた反応性イオンエッチング」に限定するものであるから,特許請求の範囲の限定的減縮に該当する。また,補正事項2は当初明細書等の段落0050の記載に基づくものである。

以上のとおり,上記補正事項1〜2は,特許法17条の2第3項の規定に適合し,同法17条の2第5項1号及び2号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件について
上記2.のとおり,補正前の請求項3を補正後の請求項1とする補正事項2を含む本件補正は,特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含んでいる。そこで,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて,以下でさらに検討する。

3.1 本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明1」という。)は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1(上記1.ア,(イ))に記載されたとおりのものである。

3.2 引用例の記載
(1)引用例1の記載と引用発明1
ア 原査定の拒絶の理由に引用された,国際公開第2007/032379号(引用例1)には,次の記載がある。(下線は当審で付加。以下同じ。)

「 [1] 磁気抵抗効果素子を構成する多層磁性膜が形成された基板に対して,反応性イオンエッチングにより前記多層磁性膜を加工する工程を含んでいる磁気抵抗効果素子の製造方法において,前記反応性イオンエッチングにより前記多層磁性膜を加工し,次いで,前記反応性イオンエッチングが行われた前記多層磁性膜に対してイオンビームを照射する工程を含むことを特徴とする磁気抵抗効果素子の製造方法。」(請求の範囲[1])

「[2] 反応性イオンエッチングは,多層磁性膜の上表面に形成されているハードマスク層をマスクとし,エッチングガスとして水酸基を少なくとも一つ以上持つアルコールを用いて前記多層磁性膜をエッチングするものであることを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。」(請求の範囲[2])

「[8] イオンビームを照射する工程の後に続いて保護膜を形成する成膜工程が行なわれ,この保護膜を形成する成膜工程まで一貫して真空の状態で行なわれることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。」(請求の範囲[8])

「[0001] この発明は,集積化磁気メモリである MRAM (magnetic random access memory)や,薄膜磁気ヘッドなどで利用される磁気抵抗効果素子の製造方法及び製造装置に関する。」

「[0048] 図1(a),(b)は,本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法の好ましい実施形態における加工工程のフローチャート(図1(a))と,当該フローチャートに対応させた磁気抵抗効果素子を構成する多層磁性膜が形成された基板10の断面構造 (図1(b))を説明するものである。(以下,「磁気抵抗効果素子を構成する多層磁性膜が形成された基板10」を単に「基板10」と表すことがある。)
図1(b)において,符号11で示されている部分が多層磁性膜である。この多層磁性膜11は,例えば,TMR(トンネル磁気抵抗効果)多層体,CPP(current perpendicular to plane)構造のGMR(巨大磁気抵抗化効果)多層体,フリー層に対する磁化方向を規定するバイアス層を含んだ TMR積層体もしくはCPP構造のGMR積層体,反強磁性結合型多層膜を有するCPP構造のGMR多層体,スぺキュラ一型スピンバルブ磁性多層膜を有するCPP構造のGMR多層体,デュアルスピンバルブ型磁性多層膜を有するCPP構造のGMR多層体などで構成される(以下,総称して多層磁性膜という)。」

「[0050] 図1(b)中,符号12で示されている部分は,ハードマスク層であり,単体元素であるTa (タンタル),Ti (チタン),Al (アルミニウム),Si (シリコン)のいずれかの単層膜又は積層膜からなるマスク材,又は,Ta,Ti,Al,Siのいずれかの酸化物又は窒化物の単層膜又は積層膜からなるマスクで構成することができる。
[0051] 図2は,本発明の磁気抵抗効果素子の製造装置20における好ましい実施形態の構成を説明する構成図である。
[0052] 図2において,21は真空搬送室であり,この真空搬送室21にゲートバルブ等の遮蔽手段(図示せず)を介して,第1の反応性イオンエッチング室22,第2の反応性イオンエッチング室23,イオンビームエッチング室24,成膜室25が,それぞれ真空搬送室21と連通するようにして設けられている。
[0053] 真空搬送室21には,さらにウェハローダ26が設けられ,このウェハローダ 26を通して,基板10を真空搬送室21にローディングし,加工完了後の基板をアンローディングできるようになっている。
[0054] 真空搬送室21内には,図示しない搬送手段が設置されており,ローディングされた基板10を矢印 31,32,33,34,35のように第1の反応性イオンエッチング室 22へ,また,第1の反応性イオンエッチング室22から第2の反応性イオンエッチング室23へ,第2の反応性イオンエッチング室23からイオンビームエッチング室24へ,そしてイオンビームエッチング室24から成膜室25へと順次搬送できるようになっている。
[0055] また,図2に矢印31,32,33,34,35で示されている基板10の移送は,真空を破ることなく,真空搬送室21を介して,一貫して真空の状態で行うことができる。
[0056] すなわち,基板10は,第1の反応性イオンエッチング室22から第2の反応性イオンエッチング室23へ,次に,第2の反応性イオンエッチング室23からイオンビームエッチング室24へ,そして最後に,イオンビームエッチング室24から成膜室25へ,真空搬送室21を介して真空状態が維持された清浄な雰囲気の下で順次搬送される。そして,このような真空一貫の雰囲気の下で,イオンビームエッチング室24においてダメージ層が除去された表面の上に,成膜室25において保護膜が形成されることになる。
[0057] 成膜室25から矢印35のように搬送された加工完了後の基板10は,ウェハローダ26を通して真空搬送室21から外部にアンローディングされる。
[0058] 上記の如くの製造装置20を用いて,図1(a)に示したフローチャートに従い基板10の加工を行う。
[0059] 真空搬送室21にローディングされた基板10を先ず第1の反応性イオンエッチング室22に搬送し,ここで基板10の多層磁性膜11の表面に形成されているフォトレジスト層13をPRマスク14とし,ハードマスク層12のエッチングを行う(ステップ 101)。
[0060] 次に,基板10を第1の反応性イオンエッチング室22から第2の反応性イオンエッチング室23へ,真空状態を維持して搬送する。そして,ここで,エッチングガスとしてメタノールなどの水酸基を少なくとも一つ以上持つアルコールを用いた反応性イオンエッチングにより,ハードマスク層12をマスクとして,多層磁性膜11のエッチング加工,すなわち,多層磁性膜11の微細加工を行なう(ステップ 102)。
[0061] この反応性イオンエッチングでは,図 4に例示されている多層磁性膜11のバリア層を抜けてTa層の上の反強磁性層であるPtMn層までエッチングを行なうようにすることができる。また,MRAMの製造工程の一つであるフリー層までエッチングしてバリア層でエッチングを止めるようにすることもできる。この反応性イオンエッチングの工程(ステップ 102)では,いずれの工程でも採用可能である。
[0062] エッチングガスとして水酸基を少なくとも一つ以上持つアルコールを用いることによって,従来のアンモニアガスを添加した一酸化炭素ガスを用いた場合に比べ,エッチング速度を高くし,しかもダメージ層(主に酸化により劣化した層)を少なくできる効果が得られる。例えば,エッチングガスとして水酸基を少なくとも一つ以上持つアルコールを用いることによって,酸化により劣化した層の厚さを数十オングストローム程度に抑えることができる。
[0063] 第2の反応性イオンエッチング室23での加工によって,多層磁性膜11の側壁及び上表面,あるいは多層磁性膜11の側壁及び多層磁性膜11の上表面にその一部を残しているハードマスク層12の側壁及び上表面に,図1(b)の上から3段目の図示のように,主に酸化により劣化した層であるダメージ層15が形成される。
[0064] 第2の反応性イオンエッチング室23での加工を終了した基板10は,続いて,真空状態を維持してイオンビームエッチング室 24へと搬送される。そして,イオンビームエッチング室24でダメージ層15の除去加工が行われる(ステップ 103)。
[0065] イオンビームエッチング室24は,Ar (アルゴン),Kr (クリプトン),Xe (キセノン)等の不活性ガスを用いたイオンビームエッチングにより,前記のダメージ層15を除去する処理室である。
[0066] 前述したように,水酸基を少なくとも一つ以上持つアルコールを用いた,ダメージの少ない反応性イオンエッチングの加工でさえも,ダメージ層15が形成されることがある。そこで,この薄いダメージ層15をイオンビームエッチングの加工によって除去し,より高品質の多層磁性膜を得ようとするものである。
[0067] イオンビームエッチング室24でのイオンビームエッチングでは,プラズマクリーニングと異なり,指向性のあるイオンビームを多層磁性膜 11の積層面に対して所定の入射角度で照射することによりイオンビームの衝撃により剥離したダメージ層15の原子 ,分子の一部が多層磁性膜11の側に再付着するのを防止できる。
[0068] そこで,イオンビームエッチング室24でのイオンビームは,その入射角度(図1(b) に角度θで示す多層磁性膜11の積層面に対する角度)を所望の角度に変更できるようにしておくことが望ましい。
[0069] 発明者等の実験によれば,5〜80度,より好ましくは30〜60度の入射角度でイオンビームを照射すると,イオンビームの衝撃により剥離したダメージ層15の原子,分子の一部が多層磁性膜11の側に再付着するのを防止する上で効果的であった。
[0070] また,イオンビームエッチング室24でのイオンビームエッチングでは,基板10を回転させながらイオンビームを照射することによって,イオンビームの衝撃により剥離したダメージ層15の原子,分子の一部が多層磁性膜11の側に再付着するのを防止する上で効果的である。そこで例えば,イオンビームエッチング室24に備えられていて,イオンビーム照射の間基板10を支持する支持台(不図示)は,イオンビーム照射が行われている間,回転可能な回転支持台であることが望ましい。
[0071] 発明者等の実験によれば,30〜300rpmで基板10を回転させながらイオンビームを照射すると,イオンビームの衝撃により剥離したダメージ層15の原子,分子の一部が多層磁性膜11の側に再付着するのを防止する上で効果的であった。
[0072] 第2の反応性イオンエッチング室23で行われる,水酸基を少なくとも一つ以上持つアルコールをエッチングガスとして用いた反応性イオンエッチングの加工によって形成されるダメージ層15は,せいぜい数十オングストローム程度の厚さである。そこで,イオンビームエッチング室24で行われるイオンビームエッチングの加工も,結晶損傷等の新たなダメージを生じさせることのない低パワーで行うことが可能であり,かつ,単位時間当たりの生産量であるスループットを低下させることもなく生産効率が低下することもない。
[0073] すなわち,第2の反応性イオンエッチング室23で行われる反応性イオンエッチングの際に形成されるダメージ層15は,従来のアンモニアガスを添加した一酸化炭素ガスを用いた反応性イオンエッチングの際に形成されるダメージ層に比べて薄いため,その後のイオンビーム照射によるダメージ層除去を,製造装置の生産効率を律速する前記反応性イオンエッチングの加工時間内で行うことができる。これにより,本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法および製造装置20によれば,単位時間当たりの生産量であるスループットを低下させることもなく,生産効率が低下することもない。
[0074] ダメージ層15の除去が終了した基板10は,次に,真空状態を維持したまま成膜室25へと搬送され,ここで保護膜16の成膜が行われる (ステップ 104)。
[0075] ダメージ層15を除去して清浄にした多層磁性膜11を保護膜16で覆うことによって ,清浄な状態に維持することができる。
[0076] 成膜室25は,高周波高圧スパッタリング方法が行なわれる成膜室とすることができる。例えば,前記のステップ104における保護膜16の成膜は,高周波高圧の条件下,すなわち,高周波領域が1kHz以上100MHz以下で,真空度の領域は,1Pa以上20Pa以下の高圧で行われる高周波高圧スパッタ法による成膜にすることができる。
[0077] 保護膜16としては,例えば窒化アルミニウム (AlN)の膜とすることができる。
[0078] 図2図示の構成の本発明の磁気抵抗効果素子の製造装置20を用い,図1 (a),(b)図示の工程で磁気抵抗効果素子を製造する一例を説明する。
[0079] (1)ステップ 101 :フォトレジスト層13をPRマスク14としたハードマスク層12のエッチング
[0080] 反応性イオンエッチング装置,例えば,ICP (Inductive Coupled Plasma)プラズマ源搭載のエッチング装置の第1の反応性イオンエッチング室22において,以下の条件で,フォトレジスト層13をPRマスク14としたハードマスク層12のエッチングを行う。
[0081] エッチングガス : CF4
エッチングガスの流量 : 326mg/min (50sccm)
ハードマスク層12 : Ta層
ソース電力 : 500W
バイアス電力 : 70W
第1の反応性イオンエッチング室 22内の圧力: 0.8Pa
基板10を保持する基板ホルダーの温度 :80℃
[0082] (2)ステップ 102 :ハードマスク層12をマスクとした多層磁性膜11のエッチング加工
[0083] 前記ステップ 101の工程で使用したのと同様の,反応性イオンエッチング装置,例えば,ICP (Inductive Coupled Plasma)プラズマ源搭載のエッチング装置の第2の反応性イオンエッチング室23において,以下の条件で,ハードマスク層(Ta層)12をマスクとした多層磁性膜11のエッチング加工を行う。
[0084] エッチングガス : CH3OHガス
エッチングガスの流量 :18. 756mg/min
(15sccm)
ソース電力 : 1000W
バイアス電力 :800W
第2の反応性イオンエッチング室23内の圧力: 0. 4Pa
基板10を保持する基板ホルダーの温度 :40℃
エッチング時間 : 3min
[0085] (3)ステップ 103 :イオンビームエッチングによるダメージ層 15の除去
[0086] イオンビームエッチング装置のイオンビームエッチング室24で,以下の条件により,イオンビームの照射によってダメージ層15の除去を行った。
[0087] ソース電力 : 100W
イオンビームの入射角度(θ) : 50〜80度
加速電圧 : 250V
イオン電流 : 70mA
不活性ガス圧力(Arの場合):6mPa〜130mPa
基板の温度 :80℃
基板の回転速度 : 10rpm
エッチング時間 : 3min
(エッチング速度:0. 2オングストローム/sec)」

「[0095] 例えば,本発明の磁気抵抗効果素子の製造装置を図3図示のようなインラインタイプの製造装置とし,このようなインラインタイプの製造装置において本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法を実施することも可能である。」

イ 以上の摘記を整理すると,引用例1には以下の事項が記載されているものと理解できる。

(ア)磁気抵抗効果素子を構成する多層磁性膜が構成された基板に対して,反応性イオンエッチングにより多層磁性膜を加工し,次いで,前記反応性イオンエッチングが行われた前記多層磁性膜に対してイオンビームを照射する工程を含む磁気抵抗効果素子の製造方法。(請求の範囲[1])
(イ)イオンビームを照射する工程の後に続いて保護膜を形成する工程が行われ,この保護膜を形成する成膜工程まで一貫して真空の状態で行われること。(請求の範囲[8])
(ウ)MRAMで利用される磁気抵抗効果素子の製造方法であること。(段落0001)
(エ)多層磁性膜11が基板10に形成されること。(請求の範囲[1],段落0048)
(オ)多層磁性膜11の上表面にハードマスク層12が形成されること。(請求の範囲[2],段落0050,図1(b))
(カ)多層磁性膜11は,TMR(トンネル磁気抵抗効果)多層体,CPP(current perpendicular to plane)構造のGMR(巨大磁気抵抗化効果)多層体,フリー層に対する磁化方向を規定するバイアス層を含んだ TMR積層体もしくはCPP構造のGMR積層体,反強磁性結合型多層膜を有するCPP構造のGMR多層体,スぺキュラ一型スピンバルブ磁性多層膜を有するCPP構造のGMR多層体,デュアルスピンバルブ型磁性多層膜を有するCPP構造のGMR多層体などで構成される多層体の総称であること。(段落0048)
(キ)基板10を真空搬送室21にローディングすること。(段落0053)
(ク)ローディングされた基板10を先ず第1の反応性イオンエッチング室22に搬送し,ここで基板10の多層磁性膜11の上に形成されているフォトレジスト層13をPRマスク14とし,ハードマスク層12のエッチングを行うこと。(段落0059)
(ケ)基板10を第1の反応性イオンエッチング室22から第2の反応性イオンエッチング室23へ真空状態を維持して搬送し,反応性イオンエッチングにより,ハードマスク層12をマスクとして,多層磁性膜11のエッチング加工を行うこと。(段落0060)
(コ)第2の反応性イオンエッチング室23での加工を終了した基板10を,真空状態を維持してイオンビームエッチング室24へと搬送すること。(段落0064)
(サ)イオンビームエッチング室24では,イオンビームを多層磁性膜11の積層面に対して照射すること。(段落0067,請求の範囲[1])
(シ)保護膜16の成膜は,基板10をイオンビームエッチング室24から,真空状態を維持したまま成膜室25に搬送し,高周波高圧スパッタ法により行うこと。(段落0074,0076)
(ス)ローディングされた基板10は,第1の反応性イオンエッチング室22から,第2の反応性イオンエッチング室23,イオンビームエッチング室24を経て成膜室25まで,真空状態が維持された清浄な雰囲気下で順次搬送されること。(段落0054〜0056)
(セ)イオンビーム照射により,薄いダメージ層15を除去し,より高品質の多層磁性膜を得ること。(段落0066)
(ソ)第1の反応性イオンエッチング室22でのハードマスク層12のエッチングは,エッチングガスにCF4を用い,圧力0.8Paで行われ,イオンビームエッチング室24でのイオンビームの照射は,圧力6mPa〜130mPaで行われること。(段落0080〜0081,0086〜0087)
(タ)上記(エ),(オ)から,引用例1には,基板10上に多層磁性膜11を形成すること,及び、多層磁性膜11上にハードマスク層12を形成すること,がそれぞれ示されていると理解できる。

上記(ア)〜(タ)から,引用例1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「MRAMで利用される磁気抵抗効果膜の製造方法であって,
基板10の上に多層磁性膜11を形成する工程と,
多層磁性膜11上にハードマスク層12を形成する工程と,
基板10を真空搬送室21にローディングする工程と,
ローディングされた基板10を先ず第1の反応性イオンエッチング室22に搬送し,基板10の多層磁性膜11の表面に形成されているフォトレジスト層13をPRマスク14とし,ハードマスク層12のエッチングを行う工程と,
基板10を第1の反応性イオンエッチング室22から第2の反応性イオンエッチング室23へ真空状態を維持して搬送し,反応性イオンエッチングにより,ハードマスク層12をマスクとして,多層磁性膜11のエッチング加工を行う工程と,
第2の反応性イオンエッチング室23での加工を終了した基板10を,真空状態を維持してイオンビームエッチング室24へと搬送し,多層磁性膜11の積層面に対してイオンビームを照射する工程と,
イオンビームを照射する工程の後に続いて保護膜16を形成する工程であって,保護膜16の成膜は,基板10をイオンビームエッチング室24から,真空状態を維持したまま成膜室25に搬送し,高周波高圧スパッタ法により行われる工程と,
を備え,
第1の反応性イオンエッチング室22におけるハードマスク層12のエッチングを行う工程から,成膜室25における保護膜16を形成する工程まで,真空状態が維持された状態で基板10を順次搬送しながら行われ,
ハードマスク層12のエッチングを行う工程は,エッチングガスにCF4を用い,圧力0.8Paで行われ,イオンビームを照射する工程は,圧力6mPa〜130mPaで行われ,
イオンビームを照射する工程により,薄いダメージ層15を除去し,より高品質の多層磁性膜11を得る
磁気抵抗効果素子の製造方法。」

(2)引用例2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された,特開2005−203772号公報(引用例2)には,次の記載がある。
「【0019】
図4Aないし図4Hは,このような本発明に係るMTJセルの製造方法を順を追って示す断面図である。図4Aから図4Dまでの過程は,図2Aから図2Dに示す従来のMTJセルの形成過程と同一である。この過程についてさらに具体的に説明すれば,次の通りである。まず,半導体基板10上にMTJ層20を積層する。ここで,前記半導体基板10はSiまたはSiO2のような材料を主に用い,MTJ層20の厚さは400Åないし1500Å程度であることが望ましい。」
「【0023】
次いで,図4Cに示されたように,再び前記ハードマスク30をマスクとして前記ハードマスク30が塗布された部分を除いたMTJ層20をドライエッチングすることによってMTJセルの形成領域を形成する。この際,ドライエッチング過程でMTJ層20を全てエッチングするものではなく,MTJ層20のベース層21が露出されるまでエッチングを行う。すなわち,ベース層21の成分のTiやTiNなどが検出されたとき,ドライエッチングを終了させる。ベース層21は,後でMRAMが完成された時,MTJセルの下部でMTJセルを制御するCMOS(図示せず)およびデータライン(図示せず)と連結される導電線の役割を有する。この過程でMTJセルの形成領域上にハードマスク30が少し残っていても良い。」
「【0025】
このようにMTJセルの形成領域が形成されたならば,図4Dに示されたように,プラズマ化学蒸着(PECVD)またはマグネトロンスパッタリング法を用いて,MTJ層20の全面に亙り,例えば,SiO2やSi3N4よりなる絶縁層40を蒸着する。絶縁層40は,後で金属層50が最終的に蒸着された時,前記金属層50がキャップ層25とだけ電気的に接続され,他の部分との電気的接続を遮断する役割を有する。したがって,前記MTJ層20上に形成された絶縁層40のうち前記MTJセルの形成領域以外の部分に形成された絶縁層40(すなわち,MTJ層20のベース層21上に形成された絶縁層40)の部分の高さ(すなわち,図4Dで絶縁層40の最も低い部分の高さ)は,少なくともMTJセルの形成領域内のキャップ層25より高くなければならない。」

(3)引用例3の記載
原査定の拒絶の理由に引用された,特開2012−014779号公報(引用例3)には,次の記載がある。
「【0016】
[磁気記録媒体の製造装置]
図1は,本発明の一実施形態に係る磁気記録媒体の製造装置を概略的に示す平面図である。本実施形態の製造装置100は,ロード室101と,イオン注入室102と,アッシング室103と,成膜室104と,アンロード室105と,これら各室101〜105の間に設置されたゲートバルブGとを有する。
【0017】
製造装置100は,矢印Aで示すように,ロード室101からアンロード室105へ向かって基板を搬送するインライン式の搬送機構を備えている。搬送機構は,基板を垂直方向に直立させた状態で搬送する縦型搬送機構でもよいし,基板を水平方向に横臥させた状態で搬送する横型搬送機構でもよい。また,各室101〜105には図示せずとも真空ポンプがそれぞれ接続されており,各室が独立して真空排気可能とされている。」
引用例3の図1として,以下の図面が示されている。


(4)引用例4の記載
原査定の拒絶の理由に引用された,特開2005−101441号公報(引用例4)には,次の記載がある。
「【0033】
次に,上記実施形態の磁気抵抗多層膜の製造について説明する。
上記のような磁気抵抗多層膜は,各層の薄膜をスパッタリングにより作製される。従って,装置は,各層の薄膜を作製する複数の成膜チャンバーよりなる構成とされる。複数の成膜チャンバーのレイアウトは,大きく分けて,クラスターツール型とインライン型に分類される。クラスターツール型の場合,搬送ロボットを内部に備えた搬送チャンバーが中央に設けられ,その周囲に成膜チャンバーが気密に接続される。基板は,搬送ロボットにより各成膜チャンバーに順次搬送される。また,インライン型の場合,直線移動するキャリア上に基板が搭載され,キャリアの搬送ラインに沿って各成膜チャンバーが気密に縦設される。いずれのタイプにおいても,基板は大気に取り出されることなく,真空中で連続的に各層の薄膜が作製される。」

(5)引用例5の記載
原査定の拒絶の理由に引用された,特開2005−194589号公報(引用例5)には,次の記載がある。
「【0002】
光学ディスクや半導体の製造工程においては様々の真空装置が用いられるが,近年最も広く利用されている真空装置の一つとして,隣接する複数の真空チャンバを有する真空装置がある。
【0003】
図12は,隣接する複数の真空チャンバを有する真空装置を示す模式図である。図12に示すように,この真空装置は,真空チャンバ1011〜1014と,扉(バルブ)1061〜1065と,真空ポンプ(図12中,VP)1021〜1024と,流量制御装置(図12中,MFC)1041〜1044とを備える。
【0004】
真空チャンバ1011〜1014が一列をなすように隣接している。扉1062〜1064がそれぞれ真空チャンバ1011〜1014の間に設けられている。列をなす真空チャンバ1011〜1014の一端に位置する真空チャンバ1011には扉1061が設けられ,他端に位置する真空チャンバ1014には扉1065が設けられている。列をなす真空チャンバ1011〜1014の両端には,図示を省略したロード・ロック室が設けられている。
【0005】
真空チャンバ1011〜1014はそれぞれ,排気管を介して真空ポンプ1021〜1024に接続される。真空チャンバ1011〜1014がそれぞれ,ガス導入管を介して流量制御装置1041〜1044に接続される。流量制御装置1041〜1044にはそれぞれ,ガス(プロセスガス)g101〜g104が供給される。
【0006】
真空ポンプ1021〜1024はそれぞれ,真空チャンバ1011〜1014を真空引きする。流量制御装置1041〜1044はそれぞれ,真空チャンバ1011〜1014に導入するガスg101〜g104の流量を制御する。扉1062〜1064はそれぞれ,真空チャンバ1011〜1014間を開閉可能に構成されている。扉1061は,図示を省略したロード・ロック室と真空チャンバ1011との間を開閉可能に構成されている。扉1065は,図示を省略したロード・ロック室と真空チャンバ1014との間を開閉可能に構成されている。
【0007】
以下に,上述の真空装置の制御方法について説明する。まず,基板などの対象物(アクト)107が保持された真空チャンバ1011〜1014内を排気し,真空チャンバ1011〜1014内にガスg101〜g104を導入しながら,スパッタリングや反応性イオンエッチング(RIE;Reactive Ion Etching)などのプロセスを対象物107に対して施す。その後,扉1061〜1065を一斉に開けて,プロセスを施した対象物107を一度に次のプロセスを施す真空チャンバ1011〜1014に移動させる。このように,扉1061〜1065を一斉に開け,プロセスを施した対象物107を一度に移動させることで,タクトアップおよび真空装置(生産装置)の簡易化を実現できる。」
引用例5の図12として,以下の図面が示されている。


(6)引用例6の記載
原査定の拒絶の理由に引用された,国際公開第2009/060539号(引用例6)には,次の記載がある。
「[0004] 従来のインライン型のウェハ搬送装置の平面図を図1に示す(例えば,特許文献1を参照)。ウェハ搬送装置10において,各プロセスモジュール13a乃至13gは隣接して配置され,インラインに接続される。各プロセスモジュールはゲートバルブ(図示せず)により分離されている。ウェハはロボットチャンバ11内のロボット12によりロードチャンバ14から最初のプロセスモジュール13aに搬送され,各プロセスモジュールにおいて順次に処理される。処理を終えたウェハはロボット12により最後のプロセスモジュール13gからアンロードチャンバ15へと搬送される。ウェハを搬送するための余分なロボットやロボットチャンバが不要であるので,ウェハ搬送装置10に必要とされるフットプリントは比較的小さい。
[0005] 図1に示すインライン型のウェハ搬送装置10の一部の断面図を図2に示す。ウェハ21は,キャリア23に載せられて,あるプロセスモジュールから次のプロセスモジュールへと搬送される。各プロセスモジュール内において,ウェハ21はリフト台26によりキャリア23から持ち上げられて処理され,再びキャリア23に載せられて次のプロセスモジュールへと搬送される。キャリア23はローラ25などの移送機構を利用して移動される。ウェハ21が隣接する次のプロセスモジュールに搬送される際には,ゲートバルブ24が開かれ,隣接するプロセスモジュール同士が互いに密閉されない状態となる。あるプロセスモジュールにおける処理を終えたウェハ21は,次のプロセスモジュールが空くまで待機する。」
引用例6の図1として,以下の図面が示されている。

引用例6の図2として,以下の図面が示されている。


(7)引用例7の記載
原査定の拒絶の理由に引用された,特開2012−007194号公報(引用例7)には,次の記載がある。
「【0039】
「第1の実施形態の成膜装置」
図1は,本発明の第1の実施形態に係る成膜装置の概略構成を模式的に示す図である。
本実施形態の成膜装置1は,成膜用基板Sに対してCIGS系半導体膜(以下において単に「CIGS膜」と表記する。)を成膜するためのインライン式多元同時蒸着成膜装置であり,直線状に順に連結配置された,基板導入室10,第1蒸着室11,第2蒸着室12,冷却室13および基板排出室14からなる5つのチャンバーと,成膜用基板Sを導入室10から排出室14に直線状に移動させる基板搬送機構16とを備えている。」

(8)引用例8の記載
原査定の拒絶の理由に引用された,特開2012−124491号公報(引用例8)には,次の記載がある。
「【0029】
まず,本発明の一実施形態による磁気メモリ素子について説明する。この過程で,磁気異方性物質の自由層を含むストレージノードについての説明も伴う。
図1は,本発明の一実施形態による磁気メモリ素子を示す。」
「【0031】
次いで,図1を参照すれば,ストレージノードS1はまた,下部磁性層48の側面を覆うスペーサ絶縁膜54を含む。スペーサ絶縁膜54は,例えば,シリコン酸化物などの酸化物保護膜でありうる。スペーサ絶縁膜54の側面は傾斜面である。この時,前記傾斜面の幅は,下方へ行くほど広くなる。ストレージノードS1はまた,順次に積層されたトンネルバリア56及び自由磁性層58(以下,自由層)を含む。トンネルバリア56は,下部磁性層48の上部面を覆って下方に拡張されてスペーサ絶縁膜54の側面を覆うように備えられる。自由層58は,かかるトンネルバリア56の外部面を覆うように備えられる。結果的に,トンネルバリア56のように直接接触してはいないが,自由層58も,下部磁性層48の上部面を覆って下方に拡張されてスペーサ絶縁膜54の側面を覆うように備えられる。これにより,自由層58の備えられた形態は,既存の2次元平板構造とは異なって3次元構造になる。トンネルバリア56は,例えば,MgO膜でありうる。自由層58は,磁気分極の方向が臨界値以上の外部磁場またはスピン分極電流によりスイッチングされる(反転される)磁性層でありうる。」
「【0035】
一方,自由層58が垂直磁気異方性物質層であるとき,自由層58は,図5に示したように,平面形態は円形でありうる。このとき,自由層58の直径D1は,デザインルール(D/R)が15nmであるとき,例えば,19nmであり,デザインルールが20nmであるときには26nmである。
傾斜角(θ)の最小角は,例えば70゜以上であり,75゜以上であってもよい。」
「【0054】
図13は,ストレージノードS1の自由層58が垂直磁気異方性物質層である時,図1のメモリ素子を4F2構造で具現したセルレイアウトを示す。この時,セルレイアウトのデザインルール(D/R)は15nmまたは20nmである。
【0055】
図13で,ストレージノードS1の直径D1は19nmまたは26nmでありうる。図13のレイアウトでストレージノードS1の横方向間隔w1は,デザインルールによって11nm(D/R 15nm,直径D1 19nmである時)または14nm(D/R 20nm,直径D1 26nmである時)になる。縦方向の間隔は横方向の間隔と同一である。D/R 15nm,直径D1 19nmで1F=15nmであり,D/R 20nm,直径D1 26nmで1F=20nmである。」
引用例8の図13として,以下の図面が示されている。


(9)引用例9の記載
原査定の拒絶の理由に引用された,特開2010−080476号公報(引用例9)には,次の記載がある。
「【0024】
このメモリセル1の積層構造は,軟磁性下地層20上に形成された金属下地層22上に設けられる。そして,例えば,磁気記録層2にはFePt(5nm),第1磁性挿入層12にはFe−Co合金(1.5nm),第1バリア層4にはMgO(1.5nm),第2磁性挿入層14にはFe−Co合金(1.5nm),磁気参照層6にはNiFe(10nm),第3磁性挿入層16にはFe−Co合金(1.5nm),第2バリア層8にはMgO(2.5nm),第4磁性挿入層18にはFe−Co合金(1.5nm),第2磁気記録層10にはFePt(15nm)が用いられる。第2磁気記録層10上にキャップ層19としてRu(3nm)が形成される。なお,括弧内の数字は層厚を示す。これらの層が積層された積層構造は直径が20nmの円柱に加工されている。この円柱をメモリセル1と呼ぶ。メモリセル1の下には金属下地層22としてTa層(1nm),その下に軟磁性下地層20としてNi−Fe合金層(50nm)が形成されている。
【0025】
本実施形態の磁気メモリにおいては,金属下地層22を共通としてそれに接して複数のセル1が近くに形成されており,例えば10nm離れたところに別のセル1が形成された構成となっている。すなわち,本実施形態の磁気メモリにおいては,金属下地層22を共通としてメモリセル1がマトリクス状に配列された構成となっている。」

(10)引用例10の記載
原査定の拒絶の理由に引用された,特開2011−198416号公報(引用例10)には,次の記載がある。
「【0014】
[1.磁気抵抗素子の構成]
図1は,本発明の一実施形態に係る磁気抵抗素子(MTJ素子)10の構成を示す断面図である。MTJ素子10は,下部電極11,記録層(記憶層,自由層ともいう)12,非磁性層13,参照層(固定層ともいう)14,上部電極15が順に積層されて構成されている。なお,積層順序は逆転していても構わない。」
「【0018】
非磁性層13としては,非磁性金属,非磁性半導体,絶縁体などを用いることができる。非磁性層13として絶縁体を用いた場合はトンネルバリア層と呼ばれ,非磁性層13として金属を用いた場合はスペーサ層と呼ばれる。トンネルバリア層としては,MgOやAl2O3等の絶縁酸化膜を用いることができる。絶縁酸化膜の厚さは,トンネル電流による面抵抗(sheet resistivity)が数10Ω・μm2程度以下になるように,1nm程度以下に設定することが望ましい。MTJ素子10のサイズは,スピン注入を効率よく行うために,直径(φ)100nm以下,特にφ40nm以下であることが望ましい。」

(11)引用例11の記載
原査定の拒絶の理由に引用された,特開2008−218829号公報(引用例11)には,次の記載がある。
「【0028】
次に,MTJ素子10の製造方法の一例について図面を参照しながら説明する。例えば半導体基板(図示せず)上には,MTJ素子10の数に対応する複数のコンタクトプラグが形成され,これら複数のコンタクトプラグ11の間は,層間絶縁層21で満たされている。層間絶縁層21としては,例えばシリコン酸化膜が用いられる。
【0029】
図3及び図4に示すように,複数のコンタクトプラグ11上に,下部電極12,第1の固定層13,第1のトンネルバリア層14,自由層15,第2のトンネルバリア層16,第2の固定層17を順に堆積する。固定層13,17,及び自由層15としては,例えばCo−Fe−B合金が用いられる。第1のトンネルバリア層14としては酸化マグネシウム,第2のトンネルバリア層16としては銅(Cu)が用いられる。
【0030】
続いて,固定層17上に,MTJ素子10の数に対応する複数のハードマスク18を形成する。ハードマスク18は,その平面形状が,所望の固定層17の平面形状と同じになるように形成される。本実施形態では,例えばハードマスク18の平面形状は円形である。ハードマスク18としては,導電体(例えば,タンタル)が用いられる。本実施形態では,ハードマスク18は,上部電極として使用される。
【0031】
続いて,図5及び図6に示すように,イオンミリング工程などにより,ハードマスク18をマスクとして固定層17のみをエッチングし,トンネルバリア層16の上面を露出させる。
【0032】
続いて,図7に示すように,装置全面に,シリコン窒化膜からなる絶縁膜19を堆積する。この工程の際,絶縁膜19が固定層17及びハードマスク18の側面に形成されるようにする。
【0033】
続いて,図8及び図9に示すように,RIE(Reactive Ion Etching)工程により,絶縁膜19を異方性エッチングし,トンネルバリア層16の上面を露出させる。これにより,固定層17及びハードマスク18の側面上に側壁19が形成される。
【0034】
続いて,図10及び図11に示すように,イオンミリング工程などにより,側壁19をマスクとしてトンネルバリア層16及び自由層15をエッチングし,トンネルバリア層14の上面を露出させる。この工程の際,固定層17は側壁19で覆われているため,エッチングによる反応生成物(エッチング生成物)が固定層17に付着するのを防ぐことができる。これにより,固定層17と自由層15とがショートするのを防ぐことができる。
【0035】
続いて,図12に示すように,装置全面に,シリコン窒化膜からなる絶縁膜20を堆積する。この工程の際,絶縁膜20が自由層15及びトンネルバリア層16の側面に形成されるようにする。
【0036】
続いて,図13及び図14に示すように,RIE工程により,絶縁膜20を異方性エッチングし,トンネルバリア層14の上面を露出させる。これにより,自由層15,トンネルバリア層16,及び側壁19の側面上に側壁20が形成される。
【0037】
続いて,図15及び図16に示すように,イオンミリング工程などにより,側壁20をマスクとしてトンネルバリア層14,固定層13,及び下部電極12をエッチングし,層間絶縁層21の上面を露出させる。このようにして,MTJ膜が複数の磁気トンネル接合に分離される。この工程の際,自由層15は側壁20で覆われているため,エッチング生成物が自由層15に付着するのを防ぐことができる。これにより,固定層13と自由層15とがショートするのを防ぐことができる。
【0038】
続いて,図17に示すように,装置全面に,層間絶縁層21を堆積する。そして,ハードマスク18上にコンタクトプラグを形成し,このコンタクトプラグ上に配線23を形成する。このようにして,MTJ素子10が形成される。」

3.3 補正発明1と引用発明1の対比
補正発明1と引用発明1とを対比する。

ア 引用発明1における「MRAM」及び「磁気抵抗効果素子」は,それぞれ補正発明1における「磁気メモリ」及び「磁気接合」に相当するから,引用発明1における「MRAMで利用される磁気抵抗効果素子の製造方法」は,補正発明1における「磁気メモリでの使用のために基板上に少なくとも1つの磁気接合を提供する方法」に相当する。また,引用発明1の「磁気抵抗効果素子」は「MRAM」で利用される素子であるから,当然に「書込み電流が前記磁気接合を通じて流れる時,多数の安定された磁気状態の間でスイッチすることができるように配置」されているといえる。

イ 引用発明1における「多層磁性膜11」は,「TMR(トンネル磁気抵抗効果)多層体,CPP(current perpendicular to plane)構造のGMR(巨大磁気抵抗化効果)多層体,フリー層に対する磁化方向を規定するバイアス層を含んだ TMR積層体もしくはCPP構造のGMR積層体,反強磁性結合型多層膜を有するCPP構造のGMR多層体,スぺキュラ一型スピンバルブ磁性多層膜を有するCPP構造のGMR多層体,デュアルスピンバルブ型磁性多層膜を有するCPP構造のGMR多層体」などで構成される多層体の総称であるから(引用例1の段落0048),引用発明1における「多層磁性膜11」は,補正発明1における「多数の磁気接合膜」に相当する。また,引用発明1における「ハードマスク層12」は補正発明1における「ハードマスク膜」に相当する。

ウ 上記イから,引用発明1における「基板10の上に多層磁性膜11を形成する工程」は,補正発明1における「前記少なくとも1つの磁気接合のための多数の磁気接合膜を提供する段階」に相当し,引用発明1における「多層磁性膜11上にハードディスク層12を形成する工程」は,補正発明1における「前記多数の磁気接合膜上にハードマスク膜を提供する段階」に相当する。

エ 引用発明1における「第1の反応性イオンエッチング室22」は,補正発明1における「反応性イオンエッチングチャンバー」に相当する。そして,引用発明1における「ローディングされた基板10を先ず第1の反応性イオンエッチング室22に搬送し,基板10の多層磁性膜11の表面に形成されているフォトレジスト層13をPRマスク14とし,ハードマスク層12のエッチングを行う工程」は,補正発明1の「反応性イオンエッチングチャンバーにおいて」「反応性イオンエッチングを使用して前記ハードマスク膜からハードマスクを形成する段階」に対応する。

オ 引用発明1における「イオンビームエッチング室24」は,補正発明1における「イオンミリングチャンバー」に相当し,引用発明1における「多層磁性膜11の積層面に対してイオンビームを照射する工程」は,補正発明1の「前記多数の磁気接合膜をイオンミリングする」ことに相当する。そして,引用発明1における「イオンビームを照射する工程」は,「第2の反応性イオンエッチング室23での加工を終了した基板10を,真空状態を維持してイオンビームエッチング室24へと搬送」して行われるものであるから,補正発明1と同様に「前記反応性イオンエッチングを遂行した後,前記磁気メモリを大気環境へ露出させずに」行うものであるといえる。そうすると,引用発明1における「第2の反応性イオンエッチング室23での加工を終了した基板10を,真空状態を維持してイオンビームエッチング室24へと搬送し,多層磁性膜11の積層面に対してイオンビームを照射する工程」は,補正発明1における「前記反応性イオンエッチングを遂行した後,前記磁気メモリを大気環境へ露出させずにイオンミリングチャンバーにおいて前記多数の磁気接合膜をイオンミリングする段階」に相当する。

カ 引用発明1における「保護膜16」は,補正発明1における「蒸着膜」に対応する。また,引用発明1における「成膜室25」は補正発明1における「蒸着チャンバー」に対応し,両者は「チャンバー」である点で共通する。さらに,引用発明1における「高周波高圧スパッタ法により行われる」「成膜」する工程は,補正発明1における「蒸着膜を蒸着させる段階」に対応し,両者は「膜を形成する段階」である点で共通する。そして,引用発明1における「イオンビームを照射する工程の後に続いて保護膜16を形成する工程」は,「基板10をイオンビームエッチング室24から,真空状態を維持したまま成膜室25に搬送し」て行うものであるから,補正発明1と引用発明1は,「前記磁気接合膜をイオンミリングした後に,前記磁気メモリを大気環境へ露出させずにチャンバーにおいて膜を形成する段階」である点で共通する。

キ 引用発明1は「第1の反応性イオンエッチング室22におけるハードマスク層12のエッチングを行う工程から,成膜室25における保護膜16を形成する工程まで,真空状態が維持された状態で基板10を順次搬送しながら行われ」るものであるから,補正発明1と引用発明1は「連続的に実行することを含」む点で一致する。

ク 引用発明1において,「ハードマスク層12のエッチングを行う工程」は,「圧力0.8Paで行われ」,「イオンビームを照射する工程は,圧力6mPa〜130mPaで行われる」から,補正発明1と引用発明1は,ともに「前記イオンミリングチャンバーは前記反応性イオンエッチングチャンバーよりも高い真空度を有し」ている点で一致する。

ケ 引用発明1は,「イオンビームを照射する工程により,薄いダメージ層15を除去し,より高品質の多層磁性膜11を得る」ものであるから,イオンビームを照射する工程により目的形状である「磁気抵抗効果素子」自体の形状が得られるものと理解できる。そうすると,補正発明1と引用発明1はともに「前記多数の磁気接合膜をイオンミリングすることは前記少なくとも1つの磁気接合を目的形状となるように加工し」ている点で一致する。

以上のア〜ケによれば,補正発明1と引用発明1の一致点及び相違点は,以下のとおりである。
<一致点>
「磁気メモリでの使用のために基板上に少なくとも1つの磁気接合を提供する方法であって,
前記磁気接合は書込み電流が前記磁気接合を通じて流れる時,多数の安定された磁気状態の間でスイッチすることができるように配置され,
前記少なくとも1つの磁気接合のための多数の磁気接合膜を提供する段階と,
前記多数の磁気接合膜上にハードマスク膜を提供する段階と,
反応性イオンエッチングチャンバーにおいて反応性イオンエッチングを使用して前記ハードマスク膜からハードマスクを形成する段階と,
前記反応性イオンエッチングを遂行した後,前記磁気メモリを大気環境へ露出させずにイオンミリングチャンバーにおいて前記多数の磁気接合膜をイオンミリングする段階と,
前記磁気接合膜をイオンミリングした後に,前記磁気メモリを大気環境へ露出させずにチャンバーにおいて膜を形成させる段階と,を連続的に実行することを含み,
前記イオンミリングチャンバーは前記反応性イオンエッチングチャンバーよりも高い真空度を有し,
前記多数の磁気接合膜をイオンミリングすることは前記少なくとも1つの磁気接合を目的形状となるように加工する,
方法。」

<相違点1>
補正発明1では反応性イオンエッチングを使用して「ハードマスク膜からハードマスクを形成する段階」において「フッ素ガス又は塩素ガスを用いた」反応性イオンエッチングを使用しているのに対し,引用発明1では「ハードマスク層12のエッチングを行う工程は,エッチングガスにCF4を用い」て行っている点。

<相違点2>
補正発明1では「チャンバーにおいて膜を形成する段階」が「蒸着チャンバーにおいて蒸着膜を蒸着させる段階」であるのに対し,引用発明1では「成膜室25」において,「高周波高圧スパッタ法により」「成膜」する工程であり,保護膜16の成膜が蒸着によるものとは特定されていない点。

<相違点3>
補正発明1では「前記反応性イオンエッチングチャンバー,前記イオンミリングチャンバー及び前記蒸着チャンバーは,直列的に連結され」ているのに対し,引用発明1では,「第1の反応性イオンエッチング室22」「イオンビームエッチング室24」及び「成膜室25」が「直列的に連結」されているとは特定されていない点。

<相違点4>
補正発明1では,「前記段階のそれぞれでは,各チャンバー専用の真空システムにて真空排気するようにし」ているのに対し,引用発明1では,各室専用の真空システムで真空排気することは特定されていない点。

<相違点5>
補正発明1では「前記磁気接合は20nm以下の直径を有し,前記磁気メモリは隣接する磁気接合間で200nm以下の間隔を有する」のに対し,引用発明1では,「磁気抵抗効果素子」の直径及び隣接する磁気接合間の間隔について特定されていない点。

3.4 相違点についての判断
(1)相違点1について
下記周知例1及び周知例2に記載のとおり,磁気抵抗効果素子の形成に用いるハードマスクを反応性イオンエッチングにより形成する工程において,塩素ガスを用いた反応性イオンエッチングは,CF4ガスを用いた反応性イオンエッチングとともに,当業者の周知技術である。よって,当該反応性イオンエッチングにおいて塩素ガスを用いるか,又は,CF4ガスを用いるかは,当業者が適宜選択し得た事項であったといえる。

○周知例1:特開2012−114289号公報
上記周知例1には,次の記載がある。
「【0010】
図1は,一実施形態における磁気抵抗素子MREの例を示している。例えば,磁気抵抗素子MREは,不揮発性半導体メモリの一種であるスピン注入型MRAMまたは配線電流磁界型MRAMの記憶素子として形成される。磁気抵抗素子MREは,下部電極BEL上に積層される反強磁性層AFL,強磁性トンネル接合素子MTJ,ストッパー層STOPおよびハードマスクHMを有している。」
「【0013】
自由層FL1はCoFeB(厚さ0.5〜2nm)により形成される。・・・(中略)・・・ハードマスクHMは,Ta(厚さ2〜10nm)あるいはTiNにより形成される。」
「【0015】
次に,図2(B)に示すように,フォトレジストRESが塗布され,フォトリソグラフィ技術を用いて,フォトレジストRESによるマスクが選択的に形成される。そして,Cl(塩素)やCF4等のハロゲン系のガスにより1回目の反応性イオンエッチング(RIE;Reactive Ion Etching)が実施される。フォトレジストRESで覆われていない部分のハードマスクHMはエッチングされ,強磁性トンネル接合素子MTJの横断面形状に対応する形状を有するハードマスクHMが形成される。・・・(以下略)・・・」

○周知例2:特開2005−44848号公報
上記周知例2には,次の記載がある。
「【0048】
磁気抵抗効果膜31は図1,図2に示したMTJ素子を形成するための複合膜構造を持ち,図1に示した配線層28を形成するために堆積された配線層膜27上に順次形成された反強磁性層32,強磁性層33,絶縁バリア層34,および強磁性層35を含む。磁気抵抗効果膜31の上にハードマスク膜36Aを形成する為,材料にTaを用い,その膜厚は150nmの厚さとなるようにスパッタにより形成する。」
「【0052】
続いて,このように形成されたハードマスク37を用いて,ハードマスク膜36Aを,CHF3,CF4およびO2を用い,チャンバ圧力5Pa,高周波電力150Wの条件でのRIEによりエッチングする。または,Cl2を用いたRIEによりエッチングしてもよい。この結果,図3(c)に示すように,上側のハードマスク37の形状がハードマスク膜36Aに転写され,ハードマスク36が形成される。」

そうすると,引用発明1におけるハードマスク層12のエッチングを,塩素ガスを用いた反応性イオンエッチングにより行うことは,上記周知技術に照らし当業者が容易になし得たことである。

(2)相違点2について
上記引用例2によれば,MTJ層をドライエッチングすることにより形成されたMTJセルの形成領域に,他の部分との電気的接続を遮断する絶縁層を形成する方法として,プラズマ化学蒸着やマグネトロンスパッタリングを用いることが当業者に知られていたといえる。
そうすると,引用発明1の「保護膜16を形成する工程」において,「高周波高圧スパッタ法」に代えて「蒸着法」を用いることは,当業者が容易になし得た変更であるといえ,また,当該変更に伴い,引用発明1の「成膜室」を「蒸着チャンバー」に,「保護膜16」を「蒸着膜」とすることは,いずれも形式的な変更であって格別のものではない。

(3)相違点3について
複数のチャンバーを直列的に連結し,大気に取り出さずに連続的に基板処理を行う製造装置は,上記引用例3〜7に記載されているとおり,インライン型の製造装置として当業者に周知の装置構成である。加えて,引用例1の段落0095には,「インラインタイプの製造装置において本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法を実施することも可能である。」と記載されている。
そうすると,引用発明1においてインライン型の製造装置を採用し,「第1の反応性イオンエッチング室22」「イオンビームエッチング室24」及び「成膜室26」を「直列的に連結」された製造装置で処理を行うことは,当業者が容易になし得たことである。

(4)相違点4について
各チャンバー専用の真空システムで真空排気する構成は,上記引用例3の段落0017や引用例5の段落0005〜0006段落に記載されているように,インライン型製造装置における周知の構成であり,各チャンバーを最適な真空度に調整することも,当業者が普通に行うことである。
そうすると,引用発明1において,周知であるインライン型の製造装置を採用することに併せて,各チャンバー専用の真空システムで真空排気する構成とすることも,当業者が容易になし得たことであるといえる。

(5)相違点5について
上記引用例10によれば,磁気接合の直径として40nm以下が望ましいことが当業者に周知であり,上記引用例8〜9によれば,磁気接合の直径として19nmや20nm,磁気接合間の間隔を11nmや10nmのものが当業者に周知であったと認められる。
そうすると,引用発明1において,磁気抵抗効果素子の直径を20nm以下,隣接する磁気接合間の間隔を200nm以下とすることは,上記周知の事項に照らし当業者が容易になし得たことである。

(6)小括
以上のとおり,上記相違点1〜5に係る補正発明1は,引用発明1において引用例2〜10に記載された技術的事項及び周知例1〜2に示される周知技術を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.5 独立特許要件についてのまとめ
上記3.4のとおり,補正発明1は引用発明1並びに引用例2〜10に記載された技術的事項及び周知例1〜2に示される周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.補正却下の決定についてのまとめ
したがって,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合しないものであるから,特許法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1.本願発明
令和3年2月5日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1〜9に係る発明は,令和2年5月18日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜9に記載された事項により特定されるものであり,その内の請求項3に係る発明(以下「本願発明」という。)は,上記第2,1.アの(ア)に本件補正前の請求項3として摘記したとおりのものである。

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,この出願の請求項1〜9に係る発明は,本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用例1に記載された発明及び引用例2〜11に記載された事項に基いて,その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引用例1.国際公開第2007/032379号
引用例2.特開2005−203772号公報
引用例3.特開2012−014779号公報
引用例4.特開2005−101441号公報
引用例5.特開2005−194589号公報
引用例6.国際公開第2009/060539号
引用例7.特開2012−007194号公報
引用例8.特開2012−124491号公報
引用例9.特開2010−080476号公報
引用例10.特開2011−198416号公報
引用例11.特開2008−218829号公報

3.引用例の記載
原査定の拒絶の理由で引用された引用例1〜11の記載は,上記第2の3.2(1)〜(11)に記載したとおりである。

4.対比・判断
上記第2の2.で検討したように,補正発明1は,本件補正前の請求項3について,上記第2の1.イに示した補正事項2の点を限定したものである。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含みこれをさらに限定したものである補正発明1が,上記第2の3.で示した理由のとおり,引用発明1並びに引用例2〜10に記載された技術的事項及び周知例1〜2に示される周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.本願発明についての結論
上述のとおり,本願発明は,引用発明1並びに引用例2〜10に記載された技術的事項及び周知例1〜2に示される周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。


第4 結言
以上のとおりであるから,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。


 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 恩田 春香
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2021-10-25 
結審通知日 2021-11-01 
審決日 2021-11-17 
出願番号 P2019-010149
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 小川 将之
▲吉▼澤 雅博
発明の名称 磁気メモリを製造するための装置及び磁気接合を提供するための方法  
代理人 阿部 達彦  
代理人 崔 允辰  
代理人 実広 信哉  

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