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審決分類 |
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N |
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管理番号 | 1383754 |
総通号数 | 5 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-05-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2021-03-02 |
確定日 | 2022-04-04 |
事件の表示 | 特願2019−138875「被検対象の検出方法並びにそのための免疫測定器具及びモノクローナル抗体」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年12月 5日出願公開、特開2019−207248〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成27年5月29日に出願した特願2015−110585号の一部を令和元年7月29日に新たな特許出願としたものであって、令和2年2月10日付けで拒絶理由が通知され、同年6月18日に意見書及び手続補正書が提出され、同年11月26日付けで拒絶査定されたのに対し、令和3年3月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正がなされ、さらに、同年4月8日に請求の理由を補充する手続補正書が提出され、その後、当審より同年9月13日付けで拒絶理由が通知され、同年11月15日に意見書のみが提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1〜3に係る発明は、令和3年3月2日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜3に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「【請求項1】被検対象の検出を可能とする2種類以上の抗原が存在する被検対象の検出方法であって、前記2種類以上の抗原を認識するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を用いた免疫測定方法により行う、前記被検対象の検出方法であって、前記被検対象がマイコプラズマ・ニューモニエであり、前記2種類以上の抗原が分子量250〜150kDのタンパク質と分子量37〜25kDのタンパク質であり、これらのタンパク質は、マイコプラズマ・ニューモニエをPPLO Brothで培養した培養液中に含まれる、方法。」 第3 当審の拒絶理由通知書 当審が通知した令和3年9月13日付け拒絶理由通知の理由は、次のとおりのものである。 1.(新規事項)令和3年3月2日付け手続補正書(特許請求の範囲について)及び令和2年6月18日付け手続補正書(明細書について)でした補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 具体的には、理由1として以下の内容を通知している。 (1)令和3年3月2日付け手続補正書の請求項1には「前記2種類以上の抗原が分子量250〜150kDのタンパク質と分子量37〜25kDのタンパク質であり」と記載され、また、令和2年6月18日付け手続補正書の明細書の段落【0009】にも同等な記載がある。 (2)しかしながら、当初明細書等には、「抗原のタンパク質」として、その請求項6及び10に「前記2種類以上の抗原がP1タンパク質とP30タンパク質である」、請求項11に「マイコプラズマ・ニューモニエ由来のP1タンパク質とP30タンパク質」あるいは段落【0009】に「マイコプラズマ・ニューモニエ由来のP1タンパク質とP30タンパク質」と記載されているように、P1タンパク質及びP30タンパク質が記載されているものの、上記特定のような広い分子量範囲「250〜150kD」及び「37〜25kD」のタンパク質に関する記載が存在せず、また、示唆もされていない。 一方、・・・、P1タンパク質及びP30タンパク質の分子量が、それぞれ、169kD(168kD)及び30kD(29,743D)であることは、当業者において周知であるといえる。 そうすると、P1タンパク質及びP30タンパク質の分子量が、それぞれ、本願発明の上記分子量「250〜150kD」及び「37〜25kD」の範囲内にあるとしても、文理解釈上、「分子量250〜150kDのタンパク質と分子量37〜25kDのタンパク質」が「P1タンパク質及びP30タンパク質」を意味しているとはいえず、それ以外の数多くのタンパク質を含んでおり、技術的に同等でないことは明らかである。 (3)さらに、図1について説明している段落【0049】には、本願発明の実施例として、ウエスタンブロッティングの結果が図1とともに記載されており、該図1の左下図について「左のレーンにおいて、P1タンパク質のバンドとP30タンパク質のバンドが明確である。」と記載されている。そして、右下図において、対応する分子量マーカーの「250」と「150」の間にP1タンパク質のバンドが位置し、「37」と「25」の間にP30タンパク質のバンドが位置しているといえるが、該バンドの幅が上記分子量マーカーの両範囲よりもかなり狭いことからみて、P1タンパク質の分子量が「150〜250kD」の範囲である、あるいはP30タンパク質の分子量が「25〜37kD」であることを意味していないことは明らかである。すなわち、本願発明の上記特定の「分子量250〜150kD」及び「分子量37〜25kD」の上下限値は「分子量マーカー」に対応するものであって、検出された「タンパク質の分子量」を直接示すものではないといえる。 してみれば、上記両補正書の「分子量250〜150kD」及び「分子量37〜25kD」の記載では、その範囲内のタンパク質として、「P1タンパク質」及び「P30タンパク質」だけでなく、それ以外の数多くのタンパク質が含まれていることは明らかである。また、上記段落【0049】の記載及び図1からみて、それ以外の数多くのタンパク質が当業者において自明であるともいえない。 (4)したがって、「前記2種類以上の抗原が分子量250〜150kDのタンパク質と分子量37〜25kDのタンパク質で」あるとの事項を含む上記両手続補正書でした補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内でしたものではない。 2.(サポート要件)本件出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 具体的には、理由2として以下の内容を通知している。 本願発明の「前記2種類以上の抗原が分子量250〜150kDのタンパク質と分子量37〜25kDのタンパク質であり」との特定については、発明の詳細な説明の段落【0009】にその転記が記載されているのみである(なお、これらの記載が新規事項に該当することは、上記理由1で述べたとおりである。)。しかしながら、「分子量250〜150kD」及び「分子量37〜25kD」の範囲内のタンパク質としては、「P1タンパク質」及び「P30タンパク質」だけでなく、それ以外の数多くのタンパク質が含まれているところ、本願の実施例において記載されているのは、「P1タンパク質」及び「P30タンパク質」のみであり、「P1タンパク質」及び「P30タンパク質」から「分子量250〜150kD」及び「分子量37〜25kD」を満たすタンパク質に拡張ないし一般化できるとはいえない。 よって、本願発明並びにそれを引用する請求項2及び3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。 3.(明確性)本件出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 具体的には、理由3として以下の内容を通知している。 本願発明で、「モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片」を、「2種類以上の抗原を認識する」もので「前記2種類以上の抗原が分子量250〜150kDのタンパク質と分子量37〜25kDのタンパク質」と特定されているが、抗原の分子量によって「抗体」又は「抗原結合性断片」を特定することは、不明確である。 よって、本願発明並びにそれを引用する請求項2及び3に係る発明は、不明確である。 4.(新規性)本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。 ・請求項1〜3 ・引用文献1(特開2016−223913号公報) 具体的には、理由4として以下の内容を通知している。 (1)本件出願は、上記第1の「手続の経緯」で記載したように、平成27年5月29日を出願日とする特願2015−110585号(以下「原出願」という。)の一部を新たな出願として令和元年7月29日に特許出願したものであるところ、本件出願の当初明細書等は、原出願の当初明細書等と同じである。 そうすると、上記理由1で述べた新規事項に該当する事項は、原出願の当初明細書等にも記載されておらず、本件出願は分割要件を満たさないことになるから、本件出願の出願日は、原出願の出願日に遡及せず令和元年7月29日となり、原出願の公開公報(上記引用文献1)が、本件出願前に公開されたことになる。 (2)上記理由1で述べたとおり、「P1タンパク質及びP30タンパク質」は「分子量250〜150kDのタンパク質と分子量37〜25kDのタンパク質」の範囲にあることから、請求項1〜3に係る発明と引用文献1に記載された発明とは、「P1タンパク質及びP30タンパク質の分子量」のタンパク質の点で一致するものである。 よって、「P1タンパク質及びP30タンパク質の分子量」のタンパク質の点で、請求項1〜3に係る発明と引用文献1に記載された発明とは同一である 第4 本願明細書等の記載 本願明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本願明細書等」という。)には、実施例として以下の記載がある(下線は当審において付与した。以下同様。)。 「【0040】 実施例1 抗マイコプラズマ・ニューモニエモノクローナル抗体の作製 1.マイコプラズマ・ニューモニエ抗原の調製 マイコプラズマ・ニューモニエを培養し、その培養液を60℃、30分間の熱処理で不活化したものを用いた。 【0041】 2.抗マイコプラズマ・ニューモニエモノクローナル抗体の作製 1.のマイコプラズマ不活化抗原をBALB/cマウスに免疫し、一定期間飼育したマウスから脾臓を摘出し、ケラーらの方法(Kohler et al., Nature, vol, 256, p495-497(1975))によりマウスミエローマ細胞(P3×63)と融合した。得られた融合細胞(ハイブリドーマ)を、37℃インキュベーター中で維持し、マイコプラズマ・ニューモニエP1抗原を固相したプレートとマイコプラズマ・ニューモニエP30抗原を固相したプレートを用いたELISAにより上清の抗体活性を確認しながら細胞の純化(単クローン化)を行った。 【0042】 その結果、表1に示されるとおり抗マイコプラズマ・ニューモニエP1抗体、抗マイコプラズマ・ニューモニエP30抗体及び抗マイコプラズマ・ニューモニエP1・P30抗体を産生するハイブリドーマ細胞株が複数得られた。 【0043】 【表1】 【0044】 なお、このELISAに用いたP1、P30は、ゲルろ過およびイオン交換クロマトグラフィーにより調製した。 【0045】 取得した細胞株をプリスタン処理したBALB/cマウスに腹腔投与し、約2週間後、抗体含有腹水を採取した。得られた腹水から、プロテインAカラムを用いたアフィニティクロマトグラフィー法によりIgGを精製し、精製抗マイコプラズマ・ニューモニエモノクローナル抗体を複数得た。 【0046】 以下の実施例では複数得られた抗マイコプラズマ・ニューモニエモノクローナル抗体のうち、反応性およびエピトープを考慮して選択した抗体を用いた。 【0047】 実施例2 抗マイコプラズマ・ニューモニエモノクローナル抗体の反応性 実施例1で得た各モノクローナル抗体とマイコプラズマ・ニューモニエとの反応性をウエスタンブロッティングで確認した。マイコプラズマ・ニューモニエはPPLO Brothで培養し、その培養液をサンプルとした。 【0048】 マイコプラズマ・ニューモニエの培養液と分子量マーカーを常法のSDS−PAGEで電気泳動を行った。電気泳動後、PVDF膜に転写した。スキムミルクでブロッキングを行った後、PBS−Tweenで十分に洗浄した。PBS−Tweenで1μg/mLに調整した抗P30抗体を室温で1時間反応させた。PBS−Tweenで十分に洗浄した後、3000倍に希釈したHRP標識抗マウス抗体を室温で1時間反応させた。PBS−Tweenで十分に洗浄した後、ECL 試薬(;GEヘルスケア)またはPODイムノステインキット(;和光)を用いてシグナルを検出した。 【0049】 ウエスタンブロッティングの結果を図1に示す。図1に示された通り、実施例1で得られたモノクローナル抗体はELISAの結果と同様に各抗原に特異的に反応することが確認できた。なお、図1の左上の図(ECLにて蛍光検出)が、P1AとP1Bについての結果を示しており、各右のレーンが菌体についての結果、左のレーンが分子量マーカーを示す(図1中の他の図も同様)。各右のレーンでP1タンパク質のバンドが明確である。図1の右上の図(POD染色後、デンシトメーターで撮影)は、P30AとP30Bについての結果を示す。各左のレーンにおいてP30タンパク質のバンドが明確である。図1の左下の図(POD染色後、デンシトメーターで撮影)は、P1-P30Aについての結果を示す。左のレーンにおいて、P1タンパク質のバンドとP30タンパク質のバンドが明確である。図1の右下の図(ECL試薬にて蛍光検出)は、P1-P30Bについての結果を示す。P30タンパク質のバンドが明確であり、P1タンパク質のバンドも弱いながらも確認できる。 【0050】 実施例3 マイコプラズマ・ニューモニエを測定する免疫測定器具 1.抗マイコプラズマ・ニューモニエ抗体のニトロセルロースメンブレンへの固定化 実施例1で作製した抗体を1.0mg/mLになるように精製水で希釈した液及び抗マウスIgG抗体を準備し、PETフィルムで裏打ちされたニトロセルロースメンブレンのサンプルパッド側に抗体、吸収体側に抗マウスIgG抗体をそれぞれ線状に塗布した。その後、ニトロセルロースメンブレンを45℃、30分間乾燥させ、抗マイコプラズマ・ニューモニエ抗体固定化メンブレンを得た。本実施例において抗体固定化メンブレンと呼ぶ。 【0051】 2.抗マイコプラズマ・ニューモニエ抗体の着色ポリスチレン粒子への固定化 実施例1で作製した抗体を1.0mg/mLになるように精製水で希釈し、これに着色ポリスチレン粒子を0.1%になるように加え、攪拌後、カルボジイミドを1%になるように加え、さらに攪拌する。遠心操作により上清を除き、50mM Tris(pH9.0)、3%BSAに再浮遊し、抗マイコプラズマ・ニューモニエ抗体結合着色ポリスチレン粒子を得た。本実施例において、抗体固定化粒子と呼ぶ。 【0052】 3.マイコプラズマ・ニューモニエP1、P30及びP1とP30を測定する試験片の作製 1で作製した抗体固定化メンブレンと他部材(バッキングシート、吸収帯、サンプルパッド)とを貼り合せて5mm幅に切断し、マイコプラズマ・ニューモニ試験片とした(図2参照)。これらを本実施例において、試験片と呼ぶ。 【0053】 実施例4、比較例1、比較例2 P1、P30及びP1とP30を測定する 免疫測定器具の感度比較 実施例1で得られたモノクローナル抗体を表2の組み合わせで実施例3の手順によりP1試験片(比較例1)、P30試験片(比較例2)、P1−P30試験片(実施例4)の3種類作製した。 【0054】 【表2】 【0055】 各試験片に、任意に希釈したマイコプラズマ・ニューモニエ抗原と2で作製した抗体固定化粒子とを含む検体浮遊液を50μL滴加し、15分間静置した。 【0056】 抗マウスIgG抗体及び抗マイコプラズマ・ニューモニエ抗体の両方の塗布位置で発色を目視で確認できた場合に+と判定した。抗マウスIgG抗体の塗布位置のみで発色を目視で確認でき、抗マイコプラズマ・ニューモニエ抗体の塗布位置で発色を目視で確認できない場合は−と判定した。また、抗マウスIgG抗体の塗布位置で発色を目視で確認できない場合は無効と判定した。 【0057】 各試験片の結果を表3に示す。 【0058】 【表3】 【0059】 表3に示された通り、本発明のマイコプラズマ・ニューモニエのP1及びP30の両方を測定する免疫測定器具は、P1単独を測定する免疫測定器具の比較して16倍、P30単独を測定する免疫測定器具の比較して8倍優れた感度を示した。 【0060】 実施例5 P1−P30試験片の使用抗体をP1−P30AとP1−P30Bの組み合わせで実施例4と同様に試験した。その結果、P1−P30Aのみの組み合わせ(実施例4)と比較して2〜4倍優れた感度を示した。」 そして、上記図1として、以下の図面が記載されている。 【図1】 第5 当審の判断 事案に鑑み、理由2(サポート要件)から検討する。 1 理由2(サポート要件)について (1)判断 上記第4で摘記したように、本願明細書等の実施例には、「P1タンパク質」及び「P30タンパク質」を抗原としてマイコプラズマ・ニューモニエを検出できることのみが記載されている。 一方、上記第3の理由1の(2)で述べたように、P1タンパク質及びP30タンパク質の分子量は、それぞれ、約169kD及び約30kDであるから、P1タンパク質は「分子量250〜150kDのタンパク質」の範疇に、P30タンパク質は「分子量37〜25kDのタンパク質」の範疇に入るところ、タンパク質には様々な分子量のものがあり、分子量が「250〜150kD」を満たすタンパク質、分子量が「37〜25kD」を満たすタンパク質は、それぞれ、P1タンパク質及びP30タンパク質に限られるものではなく、それら以外のタンパク質も存在するものである。 そして、あるタンパク質を抗原としてマイコプラズマ・ニューモニエを検出できる時に、そのタンパク質と分子量が近いタンパク質を抗原としてもマイコプラズマ・ニューモニエを検出できるという生物化学上の常識は存在しない。 してみれば、「P1タンパク質」及び「P30タンパク質」を抗原としてマイコプラズマ・ニューモニエを検出できるからといって、P1タンパク質でない分子量が「250〜150kD」を満たすタンパク質、及び、P30タンパク質でない分子量が「37〜25kD」を満たすタンパク質を抗原としてもマイコプラズマ・ニューモニエを検出できるということにはならない。 よって、「前記2種類以上の抗原が分子量250〜150kDのタンパク質と分子量37〜25kDのタンパク質であ」ると特定される本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。 (2)請求人の主張 請求人は、令和3年11月15日に提出の意見書(以下「意見書」という。)で、 「請求項1では、タンパク質を分子量のみによって規定しているのではない。請求項1には、「これらのタンパク質は、マイコプラズマ・ニューモニエをPPLO Brothで培養した培養液中に含まれる」という必須の構成要件が明記されている。 拒絶理由通知書には、この構成要件については一言も触れられていない。すなわち、拒絶理由通知は、請求項1中の必須の構成要件を考慮せず(見落としか)になされたものと解され、この一事をもってしても審理不尽であることは明らかである。 実施例に具体的に記載されているとおり、マイコプラズマ・ニューモニエをPPLO Brothで培養した培養液中には、分子量250〜150kDのタンパク質及び分子量37〜25kDのタンパク質がそれぞれ1つずつ確認されており(バンドが1本ずつ見える)、これらのタンパク質を抗原としてマイコプラズマ・ニューモニエを検出できることは明らかであるから、請求項1〜3の記載はサポート要件を満足するものと思料する。」と主張している。 (3)請求人の主張に対する判断 上記請求人の主張の「分子量250〜150kDのタンパク質及び分子量37〜25kDのタンパク質がそれぞれ1つずつ確認されており(バンドが1本ずつ見える)」ことについては、以下の3「理由1(新規事項)について」で論ずることとする。 ア ここでは、まず、「分子量250〜150kDのタンパク質及び分子量37〜25kDのタンパク質が・・・、これらのタンパク質を抗原としてマイコプラズマ・ニューモニエを検出できることは明らかである」ことについて検討する。 上記(1)で述べたように、本願明細書等の実施例には、「P1タンパク質」及び「P30タンパク質」を抗原としてマイコプラズマ・ニューモニエを検出できることのみが記載されており、あるタンパク質を抗原としてマイコプラズマ・ニューモニエを検出できる時に、そのタンパク質と分子量が近いタンパク質を抗原としてもマイコプラズマ・ニューモニエを検出できるという生物化学上の常識は存在しないことから、「P1タンパク質」及び「P30タンパク質」を抗原としてマイコプラズマ・ニューモニエを検出できるからといって、P1タンパク質でない分子量が「250〜150kD」を満たすタンパク質、及び、P30タンパク質でない分子量が「37〜25kD」を満たすタンパク質を抗原としてもマイコプラズマ・ニューモニエを検出できるということにはならない。 よって、請求人の「分子量250〜150kDのタンパク質及び分子量37〜25kDのタンパク質が・・・、これらのタンパク質を抗原としてマイコプラズマ・ニューモニエを検出できることは明らかである」との主張は根拠に欠けることである。 イ また、請求人は、「これらのタンパク質は、マイコプラズマ・ニューモニエをPPLO Brothで培養した培養液中に含まれる」という必須の構成要件を考慮していないことも主張しているが、上記第4の【0047】〜【0048】の実施例2には「実施例1で得た各モノクローナル抗体とマイコプラズマ・ニューモニエとの反応性をウエスタンブロッティングで確認した。マイコプラズマ・ニューモニエはPPLO Brothで培養し、その培養液をサンプルとした。マイコプラズマ・ニューモニエの培養液と分子量マーカーを常法のSDS−PAGEで電気泳動を行った。」と記載されるのみであり、当該記載を考慮しても、P1タンパク質でない分子量が「250〜150kD」を満たすタンパク質、及び、P30タンパク質でない分子量が「37〜25kD」を満たすタンパク質を抗原としてもマイコプラズマ・ニューモニエを検出できるということにはならない。 (4)まとめ よって、請求人の主張を考慮しても、P1タンパク質でない分子量が「250〜150kD」を満たすタンパク質、及び、P30タンパク質でない分子量が「37〜25kD」を満たすタンパク質を抗原としてもマイコプラズマ・ニューモニエを検出できるということにはならないことから、特許請求の範囲の記載は、依然として特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 2 理由3(明確性)について (1)判断 本願発明で、「モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片」を、「2種類以上の抗原を認識する」もので「前記2種類以上の抗原が分子量250〜150kDのタンパク質と分子量37〜25kDのタンパク質」と特定されているが、そもそも、抗原の「分子量」によって「抗体」又は「抗原結合性断片」を特定することは明確とはいえない。そして、本願明細書等には「P1タンパク質」及び「P30タンパク質」以外のタンパク質が具体的に記載されておらず、P1タンパク質及びP30タンパク質以外の「分子量250〜150kDのタンパク質と分子量37〜25kDのタンパク質」として、いかなるタンパク質を特定しているのか不明であることから、「モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片」を、2種類以上の抗原を認識するもので、前記2種類以上の抗原が「分子量250〜150kDのタンパク質と分子量37〜25kDのタンパク質」と特定することは、不明確である。 (2)請求人の主張 請求人は、意見書で、 「上述のとおり、請求項1では、タンパク質を分子量のみによって規定しているのではない。請求項1には、「これらのタンパク質は、マイコプラズマ・ニューモニエをPPLO Brothで培養した培養液中に含まれる」という必須の構成要件が明記されている。 拒絶理由通知書には、この構成要件が一言も触れられていないが、この構成要件を併せて考えれば、本願請求項1〜3は、明確であると思料する。」と主張している。 (3)請求人の主張に対する判断 請求人が主張する「これらのタンパク質は、マイコプラズマ・ニューモニエをPPLO Brothで培養した培養液中に含まれる」という必須の構成要件については、上記1「理由2(サポート要件)について」の(3)イで述べたように、本願明細書等の【0047】〜【0048】の実施例2に「実施例1で得た各モノクローナル抗体とマイコプラズマ・ニューモニエとの反応性をウエスタンブロッティングで確認した。マイコプラズマ・ニューモニエはPPLO Brothで培養し、その培養液をサンプルとした。マイコプラズマ・ニューモニエの培養液と分子量マーカーを常法のSDS−PAGEで電気泳動を行った。」と記載されている。 しかし、「マイコプラズマ・ニューモニエをPPLO Brothで培養」することで、タンパク質の物質名、配列番号等が限定されるものではないから、請求人の主張するとおり、「これらのタンパク質は、マイコプラズマ・ニューモニエをPPLO Brothで培養した培養液中に含まれる」という構成要件を併せて考えても、分子量が「250〜150kD」を満たすタンパク質、及び、分子量が「37〜25kD」を満たすタンパク質が、どのようなタンパク質であるのか明確に特定することはできない。 (4)まとめ よって、請求人の主張を考慮しても、「モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片」を、「2種類以上の抗原を認識する」もので「前記2種類以上の抗原が分子量250〜150kDのタンパク質と分子量37〜25kDのタンパク質」と特定することは不明確であるから、特許請求の範囲の記載は、依然として特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 3 理由1(新規事項)について (1)判断 令和3年3月2日付け手続補正書の請求項1には「前記2種類以上の抗原が分子量250〜150kDのタンパク質と分子量37〜25kDのタンパク質であり」と記載され、また、令和2年6月18日付け手続補正書の明細書の段落【0009】にも同等な記載があるが、当初明細書等には、「抗原のタンパク質」として、その請求項6及び10に「前記2種類以上の抗原がP1タンパク質とP30タンパク質である」、請求項11に「マイコプラズマ・ニューモニエ由来のP1タンパク質とP30タンパク質」、【0009】に「マイコプラズマ・ニューモニエ由来のP1タンパク質とP30タンパク質」と記載され、そして、上記第4で摘記した実施例においても「P1タンパク質」及び「P30タンパク質」のみが記載されており、上記分子量範囲である「250〜150kD」及び「37〜25kD」のタンパク質に関する記載が存在せず、また、示唆もされていない。 さらに、図1及びそれについて説明している【0049】を参照しても、マイコプラズマ・ニューモニエの検出を可能とする抗原となるタンパク質として、P1タンパク質及びP30タンパク質以外の「分子量250〜150kDのタンパク質」及び「分子量37〜25kDのタンパク質」を読み取ることはできない。 そして、P1タンパク質及びP30タンパク質以外の「分子量250〜150kDのタンパク質」及び「分子量37〜25kDのタンパク質」が、マイコプラズマ・ニューモニエの検出を可能とする抗原となり得るという生物化学上の常識も存在しない。 したがって、「前記2種類以上の抗原が分子量250〜150kDのタンパク質と分子量37〜25kDのタンパク質で」あるとの事項を含む上記両手続補正書でした補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内でしたものではない。 (2)請求人の主張 請求人は、意見書で、 「以下に、図1の右下の図を示す。 上記図中、中央の列の楕円形で囲んだ2つのバンドが、それぞれ、分子量250〜150kDのタンパク質及び分子量37〜25kDのタンパク質である。 これらのタンパク質は、出願当初の図1に示されているから、「前記2種類以上の抗原が分子量250〜150kDのタンパク質と分子量37〜25kDのタンパク質であり、」との記載は新規事項を導入するものではない。なお、各数値範囲の数値は、右端の分子量マーカーのレーンに記載されている数値である。 拒絶理由通知書の内容から、審判官殿は大きな誤解をされているように思われる。審判官殿は、分子量250〜150kDのタンパク質がP1タンパク質、分子量37〜25kDのタンパク質がP30タンパク質を意味していると考えられているように思われるが、それは全くの誤解である。これらのタンパク質は、上記図1右下図の中に楕円で囲んだバンドを形成しているタンパク質であり、P1タンパク質及びP30タンパク質とは異なるタンパク質である。 以上のとおり、本願請求項1中に規定される分子量のタンパク質は、出願当初の図1に示されているから、審判請求人がこれまでに行ってきた補正は、いずれも新規事項を導入するものではない。」と主張している。 なお、本願に添付された図1の右下の図(上記第4参照)には、上記楕円形は記載されていない。 (3)請求人の主張に対する判断 ア 図1の右下の図の中央レーンについて 請求人は、図1の右下の図の中央レーンに楕円形を書き込み、「上記図中、中央の列の楕円形で囲んだ2つのバンドが、それぞれ、分子量250〜150kDのタンパク質及び分子量37〜25kDのタンパク質である。これらのタンパク質は、出願当初の図1に示されているから、「前記2種類以上の抗原が分子量250〜150kDのタンパク質と分子量37〜25kDのタンパク質であり、」との記載は新規事項を導入するものではない。」と主張していることから、まず、図1の右下の図の中央レーンについて検討する。 (ア)まず、当初明細書等には、図1の右下の図において、中央レーンが抗原(菌体)のタンパク質の結果であるとは一切記載されていない。 上記第4で摘記した【0048】〜【0049】の記載を参照すると、「マイコプラズマ・ニューモニエの培養液と分子量マーカーを常法のSDS−PAGEで電気泳動を行った。」、「各右のレーンが菌体についての結果、左のレーンが分子量マーカーを示す(図1中の他の図も同様)」、「図1の左下の図・・・は、P1-P30Aについての結果を示す。左のレーンにおいて、P1タンパク質のバンドとP30タンパク質のバンドが明確である。」と記載されているが、図1の右下の図については、「図1の右下の図(ECL試薬にて蛍光検出)は、P1-P30Bについての結果を示す。P30タンパク質のバンドが明確であり、P1タンパク質のバンドも弱いながらも確認できる。」と記載されていることから、図1の右下の図においては、左のレーンがP30タンパク質、P1タンパク質の菌体の結果が示されており、中央のレーンは、分子量マーカーの結果を示していると解するのが相当である。 したがって、請求人の図1の右下の図の中央レーンに楕円形を書き込み、マイコプラズマ・ニューモニエの検出を可能とする抗原となるタンパク質として、「分子量250〜150kDのタンパク質」及び「分子量37〜25kDのタンパク質」を読み取ることはできない。 (イ)仮に、図1の右下の図において、右のレーンが分子量マーカーの結果を示し、中央のレーンがタンパク質の菌体の結果が示されていると仮定するなら、中央のレーンの下側のバンドについては、分子量が0以下(マイナス)ということになり、事実上あり得ないことである。 また、中央のレーンには、バンドが9個見て取れることから、中央のレーンがタンパク質の菌体の結果が示されているとすると、抗原が9種類あることになるが、マイコプラズマ・ニューモニエの検出を可能とする抗原となるタンパク質として、このように9種類あることも当初明細書等には記載されていない。 したがって、図1の右下の図において、右のレーンが分子量マーカーの結果であり、中央のレーンをタンパク質の菌体の結果として、その分子量の量を読み取ることはできない。 (ウ)そうすると、図1の右下の図の中央レーンに楕円形を書き込み、「中央の列の楕円形で囲んだ2つのバンドが、それぞれ、分子量250〜150kDのタンパク質及び分子量37〜25kDのタンパク質である。これらのタンパク質は、出願当初の図1に示されているから、「前記2種類以上の抗原が分子量250〜150kDのタンパク質と分子量37〜25kDのタンパク質であ」るとの主張は受け入れられない。 イ 分子量の読み取り 仮に、図1の右下の図において、左のレーンが抗原であるP1タンパク質及びP30タンパク質の結果、中央のレーンがその他のタンパク質の結果、右のレーンが分子量マーカーの結果を示しているとしても、中央のレーンの数あるバンドの中から上記楕円形で囲まれた2つを選ぶ根拠が示されておらず、さらに、それらのバンドの位置及び幅から、上の楕円形で囲まれたバンドで示されるタンパク質が、その分子量の上限が250kDであり下限が150kDである分子量250〜150kDのタンパク質を、下の楕円形で囲まれたバンドで示されるタンパク質が、その分子量の上限が37kDであり下限が25kDである分子量37〜25kDのタンパク質を示しているとはいえない。 ウ P1タンパク質及びP30タンパク質以外のタンパク質について 請求人は、分子量250〜150kDのタンパク質、分子量37〜25kDのタンパク質について、「これらのタンパク質は、上記図1右下図の中に楕円で囲んだバンドを形成しているタンパク質であり、P1タンパク質及びP30タンパク質とは異なるタンパク質である。」と主張しているが、当初明細書等には、マイコプラズマ・ニューモニエの検出を可能とする抗原となるタンパク質として、P1タンパク質及びP30タンパク質以外のものは一切記載されておらず、分子量250〜150kDのタンパク質、分子量37〜25kDのタンパク質が、マイコプラズマ・ニューモニエの検出を可能とする抗原となり得るという生物化学上の常識も存在しない。 (4)まとめ よって、請求人の主張を考慮しても、「前記2種類以上の抗原が分子量250〜150kDのタンパク質と分子量37〜25kDのタンパク質」を追加する補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものとはいえない。 したがって、上記事項を含む、令和3年3月2日付け手続補正書(特許請求の範囲について)及び令和2年6月18日付け手続補正書(明細書について)でした補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 4 理由4(新規性)について (1)判断 上記3「理由1(新規事項)について」で述べた新規事項に該当する事項は、原出願の当初明細書等にも記載されておらず、本件出願は分割要件を満たさないことになるから、本件出願の出願日は、原出願の出願日に遡及せず令和元年7月29日となり、原出願の公開公報(上記引用文献1)が、本件出願前に公開されたことになる。 そして、「P1タンパク質及びP30タンパク質」は「分子量250〜150kDのタンパク質と分子量37〜25kDのタンパク質」の範疇にあることから、本願発明並びに請求項2及び3に係る発明と引用文献1に記載された発明とは、「P1タンパク質及びP30タンパク質の分子量」のタンパク質の点で一致するものである。 よって、「P1タンパク質及びP30タンパク質の分子量」のタンパク質の点で、本願発明並びに請求項2及び3に係る発明と引用文献1に記載された発明とは同一である (2)請求人の主張 請求人は、意見書で、「これまでの補正は、出願当初の明細書等の範囲内で行ったものであり、遡及効は認められるべきである。出願日が原出願の出願日まで遡及すれば、原出願の公開公報は、引用文献にはなり得ない。」と主張する。 (3)請求人の主張に対する判断 上記3「理由1(新規事項)について」で述べたとおり、令和3年3月2日付け手続補正書(特許請求の範囲について)及び令和2年6月18日付け手続補正書(明細書について)でした補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないことから、上記請求人の主張は受け入れられない。 (4)まとめ よって、本願発明並びに請求項2及び3に係る発明は、「P1タンパク質及びP30タンパク質の分子量」のタンパク質の点で、引用文献1に記載された発明とは同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当する。 第5 むすび 以上のことから、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法36条6項2号に規定する要件及び特許法36条6項1号に規定する要件を満たしておらず、令和3年3月2日付け手続補正書及び令和2年6月18日付け手続補正書でした補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、請求項1〜3に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができないことから、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 |
審理終結日 | 2022-01-28 |
結審通知日 | 2022-01-31 |
審決日 | 2022-02-16 |
出願番号 | P2019-138875 |
審決分類 |
P
1
8・
113-
WZ
(G01N)
P 1 8・ 537- WZ (G01N) P 1 8・ 55- WZ (G01N) |
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
井上 博之 |
特許庁審判官 |
蔵田 真彦 三崎 仁 |
発明の名称 | 被検対象の検出方法並びにそのための免疫測定器具及びモノクローナル抗体 |
代理人 | 特許業務法人谷川国際特許事務所 |