• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1383771
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-03-17 
確定日 2022-04-21 
事件の表示 特願2017− 32725「リチウムイオン二次電池およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 8月30日出願公開、特開2018−137187〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年2月23日の出願であって、令和2年6月23日付けで拒絶理由が通知され、令和2年8月25日に手続補正がなされたが、令和3年1月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、令和3年3月17日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされたものである。

第2 令和3年3月17日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年3月17日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「【請求項1】
正極集電体および前記正極集電体の表面に形成された正極合材層を有する正極と、
負極集電体および前記負極集電体の表面に形成された負極合材層を有する負極と、
前記正極および前記負極の間に配置されたセパレータと、を備え、
前記正極合材層および前記負極合材層の少なくとも一方は、合材の密度が高い高密度部と前記高密度部よりも前記合材の密度が低く、かつ、前記高密度部に接する低密度部とを有し、平面視した場合、前記高密度部の面積に比べ前記低密度部の面積が小さく、
前記正極と前記負極と前記セパレータとを含む発電要素が捲回されており、前記発電要素の長手方向の一端部および他端部の少なくとも一方の端部に前記低密度部の少なくとも一部が露出しており、
前記低密度部の少なくとも一部が、前記発電要素の両端部に露出し、かつ、前記発電要素の中心から見て互いに異なる複数の方向に配置されている、
リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記高密度部と前記低密度部との境界およびその近傍部分の少なくとも一部に、前記密度が場所に依存して徐々に変化する領域である密度傾斜領域を有する、
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記低密度部の面積は、前記高密度部の面積の1/10以下である、
請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
正極集電体および前記正極集電体の表面に形成された正極合材層を有する正極を作製する第一ステップと、
負極集電体および前記負極集電体の表面に形成された負極合材層を有する負極を作製する第二ステップと、
前記正極および前記負極の間にセパレータが挟まれるように正極とセパレータと負極とを配置する第三ステップと、を含み、
前記正極合材層および前記負極合材層の少なくとも一方には、合材の密度が高い高密度部と前記高密度部よりも前記合材の密度が低く、かつ、前記高密度部に接する低密度部とを有し、平面視した場合、前記高密度部の面積に比べ前記低密度部の面積が小さく、
前記正極と前記負極と前記セパレータとを含む発電要素が捲回されており、前記発電要素の長手方向の一端部および他端部の少なくとも一方の端部に前記低密度部の少なくとも一部が露出しており、
前記低密度部の少なくとも一部が、前記発電要素の両端部に露出し、かつ、前記発電要素の中心から見て互いに異なる複数の方向に配置されている、
リチウムイオン二次電池の製造方法。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和2年8月25日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
正極集電体および前記正極集電体の表面に形成された正極合材層を有する正極と、
負極集電体および前記負極集電体の表面に形成された負極合材層を有する負極と、
前記正極および前記負極の間に配置されたセパレータと、を備え、
前記正極合材層および前記負極合材層の少なくとも一方は、合材の密度が高い高密度部と前記高密度部よりも前記合材の密度が低く、かつ、前記高密度部に接する低密度部とを有し、平面視した場合、前記高密度部の面積に比べ前記低密度部の面積が小さく、前記低密度部の面積は、前記高密度部の面積の1/20以上1/10以下である
リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記高密度部と前記低密度部との境界およびその近傍部分の少なくとも一部に、前記密度が場所に依存して徐々に変化する領域である密度傾斜領域を有する、
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記正極と前記負極と前記セパレータとを含む発電要素が捲回されており、前記発電要素の長手方向の一端部および他端部の少なくとも一方の端部に前記低密度部の少なくとも一部が露出している、
請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記低密度部の少なくとも一部が、前記発電要素の両端部に露出し、かつ、前記発電要素の中心から見て互いに異なる複数の方向に配置されている、
請求項3に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
正極集電体および前記正極集電体の表面に形成された正極合材層を有する正極を作製する第一ステップと、
負極集電体および前記負極集電体の表面に形成された負極合材層を有する負極を作製する第二ステップと、
前記正極および前記負極の間にセパレータが挟まれるように正極とセパレータと負極とを配置する第三ステップと、を含み、
前記正極合材層および前記負極合材層の少なくとも一方には、合材の密度が高い高密度部と前記高密度部よりも前記合材の密度が低く、かつ、前記高密度部に接する低密度部とを有し、平面視した場合、前記高密度部の面積に比べ前記低密度部の面積が小さく、前記低密度部の面積は、前記高密度部の面積の1/20以上1/10以下である
リチウムイオン二次電池の製造方法。」

2 補正の適否
本件補正は、
(1)本件補正前の請求項1を引用する請求項3をさらに引用する請求項4について、本件補正前の請求項1における「前記低密度部の面積は、前記高密度部の面積の1/20以上1/10以下である」との要件を削除して、新たな請求項1とし、

(2)本件補正前の請求項1を引用する請求項2をさらに引用する請求項3をさらに引用する請求項4について、本件補正前の請求項1における「前記低密度部の面積は、前記高密度部の面積の1/20以上1/10以下である」との要件を削除して、新たな請求項2とし、

(3)本件補正前の請求項1を引用する請求項2をさらに引用する請求項3をさらに引用する請求項4について、「前記高密度部の面積の1/20以上」との要件を削除して、新たに請求項3とし、

(4)本件補正前の請求項5から「前記低密度部の面積は、前記高密度部の面積の1/20以上1/10以下である」との要件を削除するとともに、「前記正極と前記負極と前記セパレータとを含む発電要素が捲回されており、前記発電要素の長手方向の一端部および他端部の少なくとも一方の端部に前記低密度部の少なくとも一部が露出しており、前記低密度部の少なくとも一部が、前記発電要素の両端部に露出し、かつ、前記発電要素の中心から見て互いに異なる複数の方向に配置されている、」との要件を付加して新たな請求項4とするものである。

よって、本件補正は、上記(1)ないし(4)のとおり、「前記低密度部の面積は、前記高密度部の面積の1/20以上1/10以下である」との要件、あるいは「前記低密度部の面積は、前記高密度部の面積の1/20以上」との要件を削除しているから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものには該当しない。

また、上記(1)ないし(4)に係る本件補正は、請求項の削除、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明にも該当しない。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第5項に掲げる事項を目的とする補正ではないから、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
したがって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明
令和3年3月17日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願発明は、上記第2 1(2)に記載したとおりのものである。

第4 原査定の拒絶の理由の概要
進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
備考
・請求項 1−5
・引用文献等 2、1
<引用文献等一覧>
1.特開2000−090980号公報
2.特開2016−058247号公報

第5 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献2
(1)原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付与した。)。
「【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用電極に関するものであり、特に出力特性を向上させうるリチウムイオン二次電池用電極及びそれを用いたリチウムイオン二次電池に関するものである。」

「【0008】
集電体から活物質への電子伝導性を向上させるためには、活物質層を高密度化し、集電体と活物質、導電助剤の接点を増加させることが有効だが、活物質層の空孔体積が減少すると電解液が活物質層へ含浸しにくくなる。一方、空孔体積を十分に確保すると活物質層の電子伝導性が悪化するだけでなく、集電体への密着性が低下してサイクル特性が低下する他、電極が厚くなり電池としてのエネルギー密度が低下する。」

「【0013】
そこで本発明は、高出力が要求されるリチウムイオン二次電池用電極において、活物質層中の電子伝導性とリチウムイオン伝導性を十分に確保し、出力特性の高いリチウムイオン二次電池用電極及びリチウムイオン二次電池を提供することを目的としている。」

「【0027】
また、請求項3によれば、前記活物質層の最表面を占める前記高空隙率領域の面積を前記低空隙率領域の面積より小さくすることで、集電体に対する前記活物質層全体の密着性を高いレベルで保持することができ、サイクル特性の低下を防ぐことができる。」

「【0034】
図1は、本発明の一例を示すリチウムイオン二次電池用電極10の概略図1である。集電体1上に形成されたリチウムイオン二次電池用電極の活物質層5は、活物質4とバインダー、および導電助剤などを含む組成物から形成され、低空隙率領域(活物質の密度が高い領域、以下、高密部と記す)3と高空隙率領域(活物質の密度が低い領域、以下、低密部と記す)2とで構成されている。」



「【0038】
図2(b)は、本発明の一例を示す二次電池用電極10の平面模式図である。活物質層5は低密部2と高密部3から構成されており、活物質層5の面方向の端部から中心まで低密部2が連続して形成されていれば、低密部2の形状は特に限定されることはない。例えば、図1に示すように一方の端部から他方の端部まで連続した低密部2が形成されていてもよく、また図3および図4に示した概略図のように低密部が形成されてもよい。低密部2が面方向の端部から中心まで連続して形成されていない場合には、電解液の含浸が不足して、電極中心部で十分なリチウムイオン伝導性が確保されず、出力特性が低下する場合がある。
【0039】
活物質層5を構成する低密部2の面積は特に限定されず、高密部3の面積と比較して小さければよい。高密部3の面積よりも低密部2の面積が同等以上の場合には、活物質層5全体の密着性が低下してサイクル特性が低下する場合や、活物質層5全体の電子伝導性が低下して出力特性が低下する場合がある。」







「【0051】
本発明を適用した円筒型リチウムイオン二次電池20は、電池容器としてニッケルメッキを施された鉄製の有底円筒状電池缶11を有している。電池缶11には、帯状に形成された正極10a、負極10b、およびセパレータ12が断面渦巻状に捲回されて収容されている。
【0052】
セパレータ12は、対向配置された正極10aと負極10bとの間に配置されており、セパレータ12によって正極10aと負極10bは電気的に絶縁されている。セパレータ12としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン製の微孔膜、芳香族ポリアミド樹脂製の微孔膜、不織布、無機セラミック粉末を含む多孔質の樹脂コート等を用いることができる。」

「【0058】
(実施例1)
<正極の作製>
正極活物質として平均粒径(D50)が12μmのリチウムマンガン酸化物、導電助剤としてアセチレンブラック、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(_PVdF)をそれぞれ88:7:5の比率で混合してプラネタリーミキサーで混練し、溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを適量添加して粘度調整を施して、リチウムイオン二次電池用正極スラリーを得た。
【0059】
正極集電体としてはアルミニウム箔(20μm厚)を使用し、その上に上記で調整した正極スラリーを乾燥後塗膜が50μmとなるようにダイコータにて塗布し、乾燥させて塗膜を得た。次に、前記正極塗膜上に石英製モールドを設置してロールプレスし、正極を完成させた。前記モールドは幅100μm深さ30μmの溝が電極の長辺方向に200μm間隔で形成された形状を使用した。得られた正極について電子顕微鏡で膜厚を確認した結果、低密部の膜厚は33μmであり、高密部の膜厚は28μmであった。
【0060】
<負極の作製>
次に、負極活物質として天然黒鉛、導電助剤としてアセチレンブラック、バインダーとしてスチレンブタジエンゴム、増粘材としてカルボキシメチルセルロースをそれぞれ90:8:1:1の比率で混合してディスパーで混練し、溶媒として純水を適量添加して粘度調整を施して、リチウムイオン二次電池用負極スラリーを得た。
【0061】
得られた負極スラリーを負極集電体へダイコータにて塗布し、乾燥させて塗膜を得た。負極集電体としては銅箔(10μm厚)を使用した。負極活物質層は正極活物質層の容量と比較して、1.1倍になるように目付け量を調整して塗布した。
【0062】
<セルの作製>
得られた正極と負極とを、セパレータ(型番2200、セルガード製)を介して対向させて捲回し、タブ付けして電池缶へ封入し、その後下記電解液を注入してリチウムイオン二次電池を作製した。なお、電解液としてエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DMC)の3:7(体積比)の混合溶液に、LiPF6を1Mとなるように加え、さらにビニレンカーボネート(VC)を2重量%添加したものを使用した。」

「【0065】
(実施例4)
モールドとして、幅100μm深さ30μmの溝が電極の短辺方向に200μm間隔で形成された形状のモールドを使用して正極を作製した以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製した。なお、低密部の膜厚は33μmであり、高密部の膜厚は28μmであった。」

「【0069】
<比較結果>
1Cにおいては、実施例1〜4および比較例1〜2で大きな差は見られないが、2C以上の高出力条件では実施例1〜4は比較例1および比較例2よりも放電容量維持率が良好であることがわかった。よって、低密部と高密部を有する実施例1〜4は、面内での空隙率が均一な比較例1よりも電解液が含浸しやすくリチウムイオン伝導性が確保されていると考えられる。一方、比較例2は実施例1〜4と同様に低密部と高密部を有するが、膜厚が厚いため、厚み方向で電解液が浸透しにくく十分なリチウムイオン伝導性が確保できなかったと考えられる。以上より本発明の効果が確認できた。」

(2)上記記載から、引用文献2には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
ア 段落【0001】より、引用文献2は、「リチウムイオン二次電池」に関するものであることがわかる。

イ 段落【0051】、【0052】より、「円筒型リチウムイオン二次電池20」は、「有底円筒状電池缶11を有し」、「電池缶11には、帯状に形成された正極10a、負極10b、およびセパレータ12が断面渦巻状に捲回されて収容され」、「セパレータ12は、対向配置された正極10aと負極10bとの間に配置」されていることを読み取ることができる。

ウ 段落【0058】、【0059】より、「正極活物質」、「導電助剤」、「バインダー」を「混合」、「混練し、溶媒」を「適量添加し」、「リチウムイオン二次電池用正極スラリーを得」、「正極集電体」「の上に」「正極スラリーを」「塗布し、乾燥させて塗膜を得」、「次に」「ロールプレスし、正極を完成させ」、「正極」には「低密部」と「高密部」が形成されていることを読み取ることができる。

エ 段落【0060】、【0061】より、「負極活物質」、「導電助剤」、「バインダー」を「混合」、「混練し、溶媒として純水を適量添加し」、「リチウムイオン二次電池用負極スラリーを得」、「得られた負極スラリーを負極集電体へ」「塗布し、乾燥させて塗膜を得」、「負極」を「作製」することを読み取ることができる。

オ 段落【0062】より、「得られた正極と負極とを、セパレータ」「を介して対向させて捲回し、」「電解液を注入してリチウムイオン二次電池を作製し」たことを読み取ることができる。

カ 段落【0034】、【0038】及び【0039】より、「活物質層5は、活物質4とバインダー、および導電助剤などを含む組成物から形成され」、「高密部」「3と」「低密部」「2とで構成され」、「活物質層5の面方向の端部から中心まで低密部2が連続して形成されていれば、低密部2の形状は特に限定されることはな」く、「低密部2の面積は」、「高密部3の面積と比較して小さ」いことを読み取ることができる。

(3)上記(2)アないしカより、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「円筒型リチウムイオン二次電池20であって、
有底円筒状電池缶11を有し、電池缶11には、帯状に形成された正極10a、負極10b、およびセパレータ12が断面渦巻状に捲回されて収容され、セパレータ12は、対向配置された正極10aと負極10bとの間に配置され、
正極活物質、導電助剤、バインダーを混合、混練し、溶媒を適量添加し、リチウムイオン二次電池用正極スラリーを得、正極集電体の上に正極スラリーを塗布し、乾燥させて塗膜を得、次にロールプレスし、正極を完成させ、正極には低密部と高密部が形成され、
負極活物質、導電助剤、バインダーを混合、混練し、溶媒として純水を適量添加し、リチウムイオン二次電池用負極スラリーを得、得られた負極スラリーを負極集電体へ塗布し、乾燥させて塗膜を得、負極を作製し、
得られた正極と負極とを、セパレータを介して対向させて捲回し、電解液を注入して作製され、
活物質層5は、活物質4とバインダー、および導電助剤などを含む組成物から形成され、高密部3と低密部2とで構成され、活物質層5の面方向の端部から中心まで低密部2が連続して形成されていれば、低密部2の形状は特に限定されることはなく、低密部2の面積は、高密部3の面積と比較して小さい、
円筒型リチウムイオン二次電池20。」

2 引用文献1
(1)同じく原査定に引用された引用文献1には、次の記載がある(下線は、当審で付与した。)。
「【0003】 リチウム二次電池には、コイン型、ボタン型等の扁平型電池、円筒型、角型等の筒型電池など種々の形状のものがある。このうち、帯状正極と帯状負極との間に帯状セパレータを介装し、帯長方向に渦巻き状に巻回して成る渦巻電極体を電池缶内に収納し、封口時に電解液を電池缶内に注液して作製する筒型電池においては、渦巻電極体の高さ方向中央部における電解液量が不足しがちである。これは、注液した電解液は、渦巻電極体の高さ方向両端部から高さ方向中央部に向けて浸透するが、高エネルギー密度化のために通常きつく巻回して作製されている渦巻電極体の高さ方向中央部には、電解液が浸透しにくいからである。電解液量の部分的な不足は、電解液量が不足している部分(渦巻電極体の高さ方向中央部)での過充電及び過放電を引き起こし、充放電サイクルにおける電解液の分解及び活物質の劣化を促進する。このため、従来の筒型電池には、充放電サイクル特性が良くないという課題があった。
【0004】 本発明は、以上の事情に鑑みなされたものであり、充放電サイクル特性が良いリチウム二次電池を提供することを目的とする。」

「【0023】 (実施例8)帯状正極及び帯状負極の作製において、電極面積の7%の面積を有する帯状部分を帯幅方向中央部(低活物質充填密度領域)としたこと以外は、実施例1と同様にして、本発明電池(A8)を作製した。」

「【0028】 (実施例13)帯状正極及び帯状負極の作製において、電極面積の7%の面積を有する帯状部分を帯幅方向中央部(低活物質充填密度領域)としたこと、及び、帯幅方向中央部を除く他の部分に、帯幅方向中央部の塗布量が他の部分の総塗布量に比べて3%少なくなるようにスラリーを重ね塗りしたこと以外は、実施例1と同様にして、本発明電池(A13)を作製した。」

(2)上記記載から、引用文献1には、次の技術(以下、「引用文献1に記載された技術」という。)が記載されていると認められる。
「筒型電池の形状のリチウム二次電池(【0003】)において、帯状正極及び帯状負極の電極面積の7%の面積を有する帯状部分を帯幅方向中央部(低活物質充填密度領域)(【0023】、【0028】)とすることで、充放電サイクル特性が良いリチウム二次電池を提供する(【0004】)」技術。

第6 対比・判断
1 対比
(1)本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)と引用発明とを対比する。
ア 引用発明における「正極集電体」、および、「正極活物質、導電助剤、バインダーを混合、混練し、溶媒を適量添加し」た「正極スラリー」を「正極集電体の上に」「塗布し、乾燥させて」「得」た「塗膜」が、それぞれ本願発明1における「正極集電体」、および、「前記正極集電体の表面に形成された正極合材層」に相当する。
よって、引用発明における「正極活物質、導電助剤、バインダーを混合、混練し、溶媒を適量添加し、リチウムイオン二次電池用正極スラリーを得、正極集電体の上に正極スラリーを塗布し、乾燥させて塗膜を得、次にロールプレスし」て「完成」させた「正極」が、本願発明1における「正極集電体および前記正極集電体の表面に形成された正極合材層を有する正極」に相当する。

イ 引用発明における「負極集電体」、および、「負極活物質、導電助剤、バインダーを混合、混練し、溶媒として純水を適量添加し」た「負極スラリーを負極集電体へ塗布し、乾燥させて」「得」た「塗膜」が、それぞれ本願発明1における「負極集電体」、および、「前記負極集電体の表面に形成された負極合材層」に相当する。
よって、引用発明における「負極活物質、導電助剤、バインダーを混合、混練し、溶媒として純水を適量添加し、リチウムイオン二次電池用負極スラリーを得、得られた負極スラリーを負極集電体へ塗布し、乾燥させて塗膜を得」て「作製」された「負極」が、本願発明1における「負極集電体および前記負極集電体の表面に形成された負極合材層を有する負極」に相当する。

ウ 引用発明における「セパレータ」は、「正極」と「負極」「との間に配置され」たものであるから、「本願発明1における「前記正極および前記負極の間に配置されたセパレータ」に相当する。

エ 引用発明では「正極集電体の上に正極スラリーを塗布し、乾燥させて」「得」た「塗膜」は、「ロールプレス」によって「低密部と高密部が形成され」ているから、引用発明において、該「塗膜」における「低密部」が「高密部」と接していることは明らかである。
そして、引用発明における、「正極活物質」を含む「活物質層5」(つまり、上記「正極集電体の上に」「正極活物質」を含む「正極スラリーを塗布し、乾燥させて」「得」たものである「塗膜」)は、「高密部3と低密部2とで構成され、活物質層5の面方向の端部から中心まで低密部2が連続して形成されていれば、低密部2の形状は特に限定されることはなく、低密部2の面積は、高密部3の面積と比較して小さい」ものである。
よって、引用発明における上記「正極集電体の上に正極スラリーを塗布し、乾燥させて」「得」た「塗膜」は、本願発明1における「前記正極合材層および前記負極合材層の少なくとも一方は、合材の密度が高い高密度部と前記高密度部よりも前記合材の密度が低く、かつ、前記高密度部に接する低密度部とを有し、平面視した場合、前記高密度部の面積に比べ前記低密度部の面積が小さ」いとの要件を満たしている。

オ 本願発明1では「前記低密度部の面積は、前記高密度部の面積の1/20以上1/10以下である」のに対し、引用発明では、そのような特定はされていない点で相違する。

カ 引用発明における「円筒型リチウムイオン二次電池20」が、本願発明1における「リチウムイオン二次電池」に相当する。

(2)以上のことから、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)
「正極集電体および前記正極集電体の表面に形成された正極合材層を有する正極と、
負極集電体および前記負極集電体の表面に形成された負極合材層を有する負極と、
前記正極および前記負極の間に配置されたセパレータと、を備え、
前記正極合材層および前記負極合材層の少なくとも一方は、合材の密度が高い高密度部と前記高密度部よりも前記合材の密度が低く、かつ、前記高密度部に接する低密度部とを有し、平面視した場合、前記高密度部の面積に比べ前記低密度部の面積が小さい、
リチウムイオン二次電池。」

(相違点1)
本願発明1では「前記低密度部の面積は、前記高密度部の面積の1/20以上1/10以下である」のに対し、引用発明では、そのような特定はされていない点。

2 判断
以下、相違点1について検討する。
なお、引用文献2の段落【0034】の記載によれば、引用文献2に記載された「高空隙率領域」は引用発明の「低密部2」に相当し、「低空隙率領域」は引用発明の「高密部3」に相当するから、以下、その点を括弧内に付記した。
(1)引用文献2の段落【0008】には「集電体から活物質への電子伝導性を向上させるためには、活物質層を高密度化し、集電体と活物質、導電助剤の接点を増加させることが有効だが、活物質層の空孔体積が減少すると電解液が活物質層へ含浸しにくくなる。一方、空孔体積を十分に確保すると活物質層の電子伝導性が悪化するだけでなく、集電体への密着性が低下してサイクル特性が低下する他、電極が厚くなり電池としてのエネルギー密度が低下する。」と記載され、引用文献2の段落【0027】には「前記活物質層の最表面を占める前記高空隙率領域(低密部2)の面積を前記低空隙率領域(高密部3)の面積より小さくすることで、集電体に対する前記活物質層全体の密着性を高いレベルで保持することができ、サイクル特性の低下を防ぐことができる。」と記載されている。

(2)すると、引用文献2の上記各記載より、引用発明において低密部2の面積と高密部3の面積との面積比は、「低密部2の面積は、高密部3の面積と比較して小さ」いとの条件を満たす範囲内で、電解液の活物質層への含浸と、活物質層の集電体への密着性低下に伴うサイクル特性の低下とを比較考量して、当業者が適宜決定すべきことであることがわかる。

(3)ここで、引用文献1に記載された技術は、引用文献2と同様に「電解液が浸透しにくい」(引用文献1の段落【0003】参照。)との認識を契機として採用された技術であって、「筒型電池の形状のリチウム二次電池において、帯状正極及び帯状負極の電極面積の7%の面積を有する帯状部分を帯幅方向中央部(低活物質充填密度領域)としたことで、充放電サイクル特性が良いリチウム二次電池を提供する」ものである。

(4)よって、引用発明において低密部2の面積と高密部3の面積との面積比を決定するにあたり、サイクル特性の低下を防ぐことを重視し、「低密部2」と「高密部3」との面積比として引用文献1に具体的に例示された7%:93%(=100%−7%)の値を検討し、そのサイクル特性に基づいて該面積比を採用することは、当業者が容易になし得たことといえる。

(5)したがって、引用発明において、引用文献1に記載された技術を参酌し、「低密部2」と「高密部3」の面積比を例えば7%:93%、つまり「低密部2」の面積が、「高密部3」の面積の7/93となるようにし、上記相違点1に係る「1/20以上1/10以下」の条件を満たようにすることは、当業者が適宜なし得たことと認められる。

3 まとめ
よって、本願の請求項1に係る発明は、引用文献2に記載された発明及び引用文献1に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
したがって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-02-08 
結審通知日 2022-02-15 
審決日 2022-03-01 
出願番号 P2017-032725
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01M)
P 1 8・ 572- Z (H01M)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 山田 正文
特許庁審判官 清水 稔
棚田 一也
発明の名称 リチウムイオン二次電池およびその製造方法  
代理人 新居 広守  
代理人 寺谷 英作  
代理人 道坂 伸一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ