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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01C
管理番号 1383879
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-06-23 
確定日 2022-03-31 
事件の表示 特願2017−39647「情報提供システム、情報提供方法、プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成29年9月14日出願公開、特開2017−161522〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年3月2日(優先権主張平成28年3月3日)の出願であって、その手続は、以下のとおりである。
令和2年10月8日付け(発送日:同年10月13日):拒絶理由通知書
令和3年2月10日:意見書、手続補正書の提出
令和3年3月9日付け(発送日:同年3月23日):拒絶査定
令和3年6月23日:審判請求書、手続補正書の提出
令和3年8月5日:手続補正書(方式)の提出

第2 令和3年6月23日の手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
令和3年6月23日の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

〔理由〕
1 本件補正について
(1)本件補正前(令和3年2月10日の手続補正書)の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。

「【請求項1】
所定の領域内に存在する通信端末上で案内情報を提供する情報提供システムであって、
前記領域内の所定位置に存在する施設に関する情報を含む案内情報を記憶する記憶手段と、
前記領域内に存在するユーザの身体状態に関する情報を取得する第1取得手段と、
前記領域内での前記ユーザの位置に関する情報を取得する第2取得手段と、
前記ユーザの属性に関する情報を取得する第3取得手段と、
前記ユーザの身体状態に関する情報、及び、当該身体状態に関する情報に基づいて推定される前記ユーザの行動に関する情報の少なくとも一方が第1条件を満たし、且つ、前記ユーザの位置に関する情報が第2条件を満たす場合であって、前記ユーザの属性に関する情報が第3条件を満たす場合に、記憶された案内情報を前記通信端末上で提供する情報提供手段と、
を備え、
前記ユーザの属性に関する情報が、少なくとも前記ユーザの年齢に関する情報又は前記ユーザの身体的障碍の有無に関する情報を含む、情報提供システム。」

(2)そして、本件補正により、上述の本件補正前の特許請求の範囲の記載は、以下のとおり補正された(下線は、補正箇所を示すために当審で付与した。)。

「【請求項1】
ユーザの旅行先における所定の領域内に存在する通信端末上で案内情報を提供する情報提供システムであって、
前記領域内の所定位置に存在する施設に関する情報を含む案内情報を記憶する記憶手段と、
前記領域内に存在する前記ユーザの身体状態に関する情報を取得する第1取得手段と、
前記領域内での前記ユーザの位置に関する情報を取得する第2取得手段と、
前記ユーザの属性に関する情報を取得する第3取得手段と、
前記ユーザの身体状態に関する情報、及び、当該身体状態に関する情報に基づいて推定される前記ユーザの行動に関する情報の少なくとも一方が第1条件を満たし、且つ、前記ユーザの位置に関する情報が第2条件を満たす場合であって、前記ユーザの属性に関する情報が第3条件を満たす場合に、記憶された案内情報を前記通信端末上で提供する情報提供手段と、
を備え、
前記ユーザの属性に関する情報が、少なくとも前記ユーザの年齢に関する情報又は前記ユーザの身体的障碍の有無に関する情報を含む、情報提供システム。」

2 本件補正の適否
(1)本件補正の内容
本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「所定の領域内に存在する端末」に関して、「ユーザの旅行先における」という事項を付加して限定するとともに、「ユーザの身体状態」を「前記ユーザの身体状態」と補正するものであり、本件補正前の請求項1に係る発明と本件補正後の請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が、同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(2)引用文献
ア 引用文献1
原査定の拒絶理由に引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2014/083778号(以下、「引用文献1」という。)には、「情報提供方法」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は、当審が付与したものである。以下同様。)。

(ア)「[0001] 本発明は、収集したユーザ情報に基づいて有用な情報を生成して提供する情報提供方法に関する。」

(イ)「[0005] そこで、本発明は、ユーザ情報に基づいてユーザの生体機能の状態とは必ずしも相関のない有益な情報を生成して当該情報を、移動体を介して、ユーザに提供する情報提供方法を、提供する。」

(ウ)「[0037] 図1は、実施の形態1に係る情報提供システム100を示す概略図である。
[0038] 情報提供システム100は、次のような情報提供方法を実現する。概ね、ユーザの操作に応じて動作する家電機器の動作状態に関する情報である生活情報を記録し、生活情報に基づき家電機器のユーザの行動様式を推定して将来のユーザの行動を予測し、予測結果とユーザの位置情報とに基づいて生成した情報を提供する方法である。図1では、2つの家庭における2人の家電機器ユーザを想定した例で、情報提供システム100を示している。
[0039] 図1に示すように情報提供システム100は、2つの家庭(家屋101、家屋102)に設置された家電機器101a、102aと、各家電機器のユーザがそれぞれ保有する移動体101b、102bと、ユーザがそれぞれ身に付けるウェアラブルセンサ101c、102cと、情報入力端末101d、102dと、これらの機器類をサーバ104と通信可能にするためのインターネット等のネットワーク103と、サーバ104とを備える。また、情報提示装置105がネットワーク103に接続されている。ネットワーク103を介して情報を送信する各機器類は送信先となる機器類のIPアドレス等の宛先情報を予め保持している。」

(エ)「[0040] 図2は、情報提供システム100の各機器類の機能構成を示すブロック図である。同図では、家電機器101a、移動体101b、ウェアラブルセンサ101c、情報入力端末101d、サーバ104のみを示し、他の機器類は省略している。
[0041] ここで、家電機器101a、102aは、ユーザの操作に応じて動作する際の動作状態に関する情報である生活情報を記録する生活情報記録部11と、通信回路を含み生活情報を外部に送信する等を担う通信部12とを備える機器である。即ち、家電機器101a、102aは、ネットワーク103に無線接続又は有線接続する機器である。例えば無線接続には、Bluetooth(登録商標)や無線LAN等の無線通信技術が用いられる。なお、家電機器101a,102aがネットワーク103に接続された1台又は複数台の他の機器からユーザの生活情報を収集して記録する機能を含んでいてもよい。例えば、家電機器101a,102aは、コーヒーメーカー、冷蔵庫、テレビ、照明器具等の機器、或いはトイレ、システムバス、洗面台等の家庭内の設備、或いはこれらの組み合わせ等である。
[0042] また、家電機器101a、102aにより記録される生活情報としては、例えば操作情報、動作状況、消費電力、機器内部に搭載されている各種センサの出力等の情報が時刻と対応付けられたものが挙げられる。また、家電機器101a、102aは、それぞれ固有の家電機器ID(識別情報)を予め内部の不揮発性メモリ等に記憶しており、通信部12が生活情報を外部に送信する際には家電機器IDを付してその送信を行う。
[0043] 移動体101b、102bは、位置計測部41及び通信部42を備える。例えば、移動体101b、102bは、GPSやWi-Fi(登録商標)ルーターの位置情報を利用した位置情報取得機能を備えるスマートフォンや、タブレット等の携帯端末、或いはGPSを利用したカーナビゲーション装置やこれを搭載した自動車等である。この移動体101b、102bも、ネットワーク103に無線接続又は有線接続し、無線接続には例えば携帯電話網(3G/LTE)やWi-Fi(登録商標)等が用いられる。また、移動体101b、102bは、それぞれ固有の移動体IDを予め内部の不揮発メモリ等に記憶しており、通信回路を含む通信部42が位置情報を外部に送信する際には移動体IDを付してその送信を行う。
[0044] ウェアラブルセンサ101c、102cは、体温や心拍数等の生体情報を計測する生体情報計測部21と、通信回路を含み生体情報を外部に送信する等を担う通信部22とを備え、人の身体に装着され又は体内に埋め込まれたものである。例えば、ウェアラブルセンサ101c、102cは、活動量計、心拍計、体温計、呼吸数計測計、血糖計、血圧計等のセンサ装置である。
[0045] このウェアラブルセンサ101c、102cも、ネットワーク103に無線接続又は有線接続し、無線接続には例えばBluetooth(登録商標)や無線LAN等の無線通信技術が用いられる。また、ウェアラブルセンサ101c、102cは、それぞれ固有のウェアラブルセンサIDを予め内部の不揮発性メモリ等に記憶しており、通信部22が生体情報を外部に送信する際にはウェアラブルセンサIDを付してその送信を行う。
[0046] 情報入力端末101d、102dは、コンピュータ端末であり、キーボード、ポインティングデバイス、タッチパネル等を介して入力を受け付ける入力受付部31と、通信回路を含み入力に応じて情報を外部に送信するための通信部32とを備える。送信する情報としては、登録情報や属性情報がある。登録情報は、家電機器の家電機器IDと、その家電機器のユーザに保有される移動体の移動体IDと、そのユーザに係るウェアラブルセンサのウェアラブルセンサIDとユーザIDとを関連付けた情報である。また、属性情報は、家電機器のユーザについての年齢、性別等とユーザIDとを対応付けた情報である。
[0047] サーバ104は、通信装置、記憶装置、プロセッサ等を備えるコンピュータで構成され、各種情報をネットワーク103を介して取得し、家電機器のユーザの行動を予測して提供すべき情報を生成し、情報提示装置105へと提供する装置である。各種情報は、家電機器101a、102aと、ウェアラブルセンサ101c、102cと、情報入力端末101d、102dと、移動体101b、102bとから送信される。
[0048] このサーバ104は、機能面において、通信部61、生活情報取得部71、生体情報取得部72、属性情報取得部73、登録情報取得部74、位置情報取得部75、生活情報記憶部81、生体情報記憶部82、属性情報記憶部83、登録情報記憶部84、位置情報記憶部85、行動予測部91及び提供用情報生成部92を備える。
[0049] ここで、通信部61は、通信回路を含み、ネットワーク103で接続された機器と通信する機能部である。また、生活情報記憶部81、生体情報記憶部82、属性情報記憶部83、登録情報記憶部84及び位置情報記憶部85は、メモリ、ハードディスク等の記憶媒体で構成される。
[0050] 生活情報取得部71は、家電機器101a、102aから送信された生活情報及び家電機器IDを通信部61を介して取得し、生活情報記憶部81に蓄積する機能を有する。なお、蓄積される生活情報には家電機器101a、102aにおいて計測された時刻或いはサーバ104において取得された時刻等の時刻情報が付され、生活情報の履歴として管理される。なお、生活情報取得部71を、通信部61の受信機能を包含するよう構成してもよく、この場合、生活情報等は生活情報取得部71において受信されることにより取得される。
[0051] 生体情報取得部72は、ウェアラブルセンサ101c、102cから送信された生体情報及びウェアラブルセンサIDを通信部61を介して取得し、生体情報記憶部82に蓄積する機能を有する。なお、蓄積される生体情報にはウェアラブルセンサ101c、102cにおいて計測された時刻或いはサーバ104において取得された時刻等の時刻情報が付され、生体情報の履歴として管理される。
[0052] 属性情報取得部73は、情報入力端末101d、102dから送信された属性情報を通信部61を介して取得し、属性情報記憶部83に格納する機能を有する。また、登録情報取得部74は、情報入力端末101d、102dから送信された登録情報を通信部61を介して取得し、登録情報記憶部84に格納する機能を有する。
[0053] 位置情報取得部75は、移動体101b、102bから送信された位置情報を通信部61を介して取得し、位置情報記憶部85に蓄積する機能を有する。なお、蓄積される位置情報には移動体101b、102bにおいて計測された時刻或いはサーバ104において取得された時刻等の時刻情報が付され、位置情報の履歴として管理される。
[0054] また、行動予測部91は、生活情報、生体情報及び属性情報に基づきユーザの行動を予測する予測アルゴリズムを含む制御プログラムをプロセッサが実行することにより次の機能を実現する。即ち、各ユーザIDに関連付けられた家電機器ID及びウェアラブルセンサIDと対応付けられた生活情報及び生体情報と、各ユーザIDに対応する属性情報とに基づいて、各ユーザの行動様式を推定する等により、各ユーザの行動を予測する機能である。なお、行動予測部91は、登録情報記憶部84に格納された登録情報を参照することにより、生活情報、生体情報、属性情報等の対応関係を得る。」

(オ)「[0058] また、提供用情報生成部92は、行動予測部91の予測結果と位置情報とに基づき提供用情報を生成する情報生成アルゴリズムを含む制御プログラムをプロセッサが実行することにより次の機能を実現する。即ち、登録情報記憶部84に格納された登録情報を参照して、各ユーザIDに関連付けられた移動体IDに対応付けられた位置情報に基づき(例えば計測時刻を付した位置情報の複数の集合である履歴に基づき)、将来における各ユーザの移動先の位置を予測する。そして、行動予測部91の予測結果に基づき将来時点におけるユーザの行動予測を踏まえて、特定位置でのユーザ行動を予測し、その予測結果に応じて提供用情報を生成し、通信部61を介してその提供用情報を情報提示装置105に送信する機能である。なお、ここで、提供用情報の生成は、予め用意している複数の情報から1つを選定することで提供用情報として扱うことと決定することも含む。
[0059] この情報生成アルゴリズムは、例えば、将来特定の行動を実行する可能性が高いと予測されたユーザが、将来においてどの場所に位置するかを予測し、予測結果に応じてそのユーザや他の者に提供するための情報を生成するもの等として、予め定められている。なお、ユーザについての位置情報の履歴(複数の時刻それぞれにおけるユーザの位置を示す位置情報)に基づいて、将来の各時刻におけるユーザの位置を予測するアルゴリズムとしては、線形予測や他のいかなる方法を用いてもよい。」

(カ)「[0061] また、情報生成アルゴリズムにおいて、複数ユーザの位置情報を用いて時間単位、分単位、秒単位で変動する物品やサービスの需要を予測するようにしてもよい。この結果として、この情報生成アルゴリズムにより、より最適な品揃えの実現、より効果的な広告の提供、より利便性の高いサービスの提供等に必要な情報を生成して提供することが可能となる。なお、情報生成アルゴリズムにより生成される情報は、複数ユーザのそれぞれに対して異なり得るものとしてもよい。各ユーザは、情報生成アルゴリズムにより生成された情報を、自ら保有する携帯端末等を介して知得できる。
[0062] 情報提示装置105は、コンピュータ端末であり、通信回路を含みサーバ104から送信される情報を受信するための通信部52と、受信した情報を、ディスプレイに表示する或いはスピーカー等から音声で出力する等により提示する情報提示部51とを備える。この情報提示装置105は、1台又は複数台の携帯型のスマートフォンやタブレット、或いは家庭に設置されたテレビであってもよく、また、デジタルサイネージ(電子看板)等であってもよい。なお、この情報提示装置105を特定の事業者が管理し、提示された情報を、そのまま或いは加工して別の事業体や個人の保有する装置や、特定の場所に設置された装置等に提供することとしてもよい。」

(キ)「[0152] (実施の形態3)
以下、図1、図2を用いて上述した情報提供システム100における家電機器101a、102aをトイレとした例を中心として説明する。
[0153] 本実施の形態の情報提供システムでは、家庭のトイレ(便器)である家電機器101a、102aは、通信機能を有し、各ユーザ(個人)が使用したことを検出する手段(検出機構)を備える。この検出機構としては、例えば、赤外線を用いた人感知センサや排水を検知する流水センサ等が用いられる。トイレは家庭内の各ユーザを個別に識別するための生体認証手段を備えていてもよい。これによればユーザ毎のトイレ使用履歴(使用時刻等)が生活情報として生活情報記録部11に記録され、通信部12により、生活情報とトイレを識別する家電機器IDとがネットワーク103を介してサーバ104に送信される。また、サーバ104においては、各ユーザ(個人)又は各家庭のトイレ使用履歴が得られる。サーバ104では、そのトイレ使用履歴から、ユーザの行動を予測することが可能となり、これに基づいて生成された情報を情報提示装置105に提供することが可能となる。
[0154] ユーザの行動を予測する予測アルゴリズムは、ユーザのトイレ使用時の滞在時間に基づいて、トイレ使用用途(便、尿)を区別して参照するものであってもよい。このように使用用途を区別することで、ユーザの状況をより正確に推定することが可能となる。また、トイレが、排泄物の成分分析手段を備えることとすれば、より正確に便と尿を区別して生活情報を記録することができ、サーバ104において、ユーザの状況をより正確に推定することが可能となる。
[0155] なお、家電機器101a、102aは、家庭のトイレの便器そのものでなくても、通信機能を備えたトイレの照明器具や換気扇であってもよい。照明器具や換気扇の使用履歴を生活情報とすれば、サーバ104においては、この生活情報によりトイレの使用状況は推定可能となる。また、家電機器101a、102aは、トイレの便器自体ではなく、便座に通信機能を備えた装置であってもよく、この装置が着座状況を検出することで、家庭におけるトイレの使用を示す生活情報がサーバ104に送られることになる。
[0156] 各ユーザの家庭のトイレの使用履歴を生活情報としてサーバ104が収集するこの情報提供システムによれば、サーバ104の予測アルゴリズムにより、各ユーザが外出先でトイレ(個室)を使用したくなる状態であるかを予測することができる。また、各ユーザの位置情報の履歴に基づきサーバ104の情報生成アルゴリズムにより、トイレ(個室)を使用したい状態の各ユーザがどこに移動しているかを推定することが可能となる。そして、鉄道等の公共交通機関毎や駅毎のトイレの混雑状況(例えばトイレ(個室)の待ち時間)を予測することが可能となる。予測された公共交通機関毎や駅毎のトイレの混雑状況を示す情報は、サーバ104から情報提示装置105に送信され、情報提示装置105において画面に表示又は音声として出力される。情報生成アルゴリズムにより生成された各駅等のトイレの混雑状況を示す情報は、提供用情報生成部92により、ユーザ毎の現在位置に応じてユーザの最寄り駅の情報に絞って、ユーザのスマートフォン等である情報提示装置105に配信されることとしてもよい。
[0157] 以下、情報提示装置105が、各個人が携帯するスマートフォン等の携帯端末であるとし、駅のトイレの混雑状況に注目した例を説明する。
[0158] 図13は、スマートフォン501において各駅のトイレの混雑状況を表示した画面例を示す。
[0159] スマートフォン501の画面には、同図に示すように、駅毎に区切られた枠502が表示され、枠502内には駅名510が表示される。ここで表示される駅は、例えば個人の位置情報を基に決められ、各個人が乗車中の場合は、次の停車駅(図5では○○駅)及びもう一つ先の停車駅(図5では△△駅)が表示されるようにしてもよい。これにより、各個人は現在位置の最寄り駅のトイレを確認することが可能となるため、より短時間で到着可能なトイレを確認することが可能となる。また、各個人が乗車中以外(駅のホームと改札の間)にいる場合は、滞在中の駅、周辺の駅を表示してもよい。
[0160] また、駅の枠502の中には、その駅に設置されている全てのトイレ(各個室群)それぞれを示すトイレの枠503が表示されることとしてもよい。これにより、各個人は、より短時間でトイレの利用状況を確認することが可能となる。また、各トイレの設置位置を示す位置情報(又はトイレ名)506を表示していてもよい。これにより、各個人は、より短時間でトイレの利用が可能となる。また、各トイレの個室の利用状況を示す数値505が表示されていてもよい。図13では、各トイレに設置された個室の数を分母とし、その内使用中の個室の数を分子として分数で表示している。これにより、各個人は、現在の各トイレの混雑状況を把握することが可能となる。また、各トイレの個室の利用状況等に併せて、各トイレの枠503内の背景は、異なる色やパターンで分けられていてもよい。これにより、各個人に、各トイレの混雑状況をより分かりやすく伝えることが可能となる。
[0161] また、各トイレを利用した個人による主観評価値508が表示されていてもよい。例えば、トイレの奇麗さ、清潔さについて、各トイレを利用した個人が利用後に主観で評価し、その平均値を表示することができる。これにより、各個人は、主観的に評価の高い(奇麗な或いは清潔な)トイレを選択することが可能となる。
[0162] なお、ウェアラブルセンサ101c、102cが、トイレ使用時の各ユーザの心拍数等の生体情報を記録してサーバ104に送信するものであるとしてもよい。これに応じ、サーバ104側では、心拍数等の生体情報に基づき各ユーザの交感神経、副交感神経の高まり等を推定し、これをリラックスできるトイレかどうか等の評価指標として用いることとし、トイレ毎の評価結果を提示用情報として生成することとしてもよい。これにより、各個人は客観的に評価の高い(リラックスできる)トイレを選択することが可能となる。主観評価がより多くの評価項目を設定可能となる利点を有する一方、各個人のウェアラブルセンサで得られる生体情報を用いた客観評価は、より信頼性が高いという利点を有する。
[0163] また、サーバ104で用いられる予測アルゴリズム或いは情報生成アルゴリズムを、各個人の位置情報の履歴に基づいて各個人が今後いずれの駅で降車するのかを予測するものとしてもよい。個人毎に、同じ曜日、同じ時刻、同じ経路で公共交通機関を利用することが多いと推定することにより、より正確に、トイレの混雑状況の予測ができるようになる。また、情報提示装置105をスマートフォン501であるとし、各個人の降車駅の情報を基に、各トイレの今後の混雑状況を予測した情報(混雑増件情報)については、このスマートフォン501に表示されるようにしてもよい。図13において、混雑増減情報504として、例えば、矢印で表示することができる。矢印が大きいほど今後混雑状況が増すことを表しており、これにより、各個人はより空いているトイレを把握することが可能となる。即ち、各個人は、混雑しているトイレを避けて、より短い待ち時間で駅のトイレを利用することが可能となる。
[0164] また、各個人と同じ列車に乗車中で、携帯端末等により同様に各トイレの混雑状況を確認中の他の個人が何人いるかを示す数値507を表示してもよい。これにより、各個人はより正確に空いているトイレを把握することが可能となる。
[0165] また、予測アルゴリズムを、各個人の生活情報(履歴)、生体情報等を用いて、各個人について、駅のトイレの使用確率を算定するものとしてもよい。これに合わせて、情報生成アルゴリズムを、各個人の駅のトイレの使用確率と位置情報(履歴)とに基づいて、各駅のトイレの使用可能性と時刻を算定して、この算定結果を反映した各駅のトイレの混雑増減情報504を生成するものとしてもよい。また、情報生成アルゴリズムを、例えば、日々の各個人の位置情報の履歴に基づいて、降車確率が高い駅のトイレの混雑度を増加させる(矢印を伸ばす)ように混雑増減情報504を生成するものとしてもよい。これにより、各個人はより正確に空いているトイレを把握することが可能となる。
[0166] また、図13では、スマートフォン501に駅毎の混雑増減情報504を表示した例を示したが、トイレ(個室群)毎の混雑増減情報を表示してもより。これにより、各個人は、より正確に空いているトイレを把握することが可能となる。例えば、日々の使用トイレの情報を基に、過去に使用したトイレを利用可能性が高いトイレとして、トイレの混雑度を増加させた(矢印を伸ばした)混雑増減情報を表示することとしてもよい。これにより、各個人は、より正確に空いているトイレを把握することが可能となる。
[0167] また、情報生成アルゴリズムを、各個人が乗車している車両の情報に基づいて、乗っている車両に近い位置のトイレを利用可能性が高いトイレと予測することで混雑増減情報を生成するものとしてもよい。これにより、各個人はより正確に空いているトイレを把握することが可能となる。
[0168] また、各個人のトイレ(自宅または駅、望ましくは両方)の長期(例えば1週間以上の期間)の使用履歴を記憶させる手段を用いて、予測アルゴリズムでは、この使用履歴に基づいて、トイレの利用可能性を予測してもよい。例えば、通勤前後のトイレ利用頻度が高い個人と利用頻度が低い個人を区別し、個人の習慣を推定し、通勤前の自宅のトイレ利用頻度が高く、その日、自宅トイレに行きそびれたと推定される個人ほど駅でのトイレ利用可能性が高いと予測することとしてもよい。
[0169] また、ウェアラブルセンサ101c、102cは、心拍計であってもよく、装着している者の心拍数を示す生体情報をサーバ104に送信するものであってもよい。この場合に、サーバ104の予測アルゴリズムは、心拍数が高いユーザほど、トイレに行きたい状態にあると推定し、近い将来においてトイレに行く可能性が高いと予測するものであるとしてもよい。
[0170] また、ウェアラブルセンサ101c、102cは、装着している者の発汗を計測し、発汗量を示す生体情報をサーバ104に送信するものであってもよい。この場合に、予測アルゴリズムは、普段より発汗が多いほど、ユーザがトイレに行きたい状態にあると推定し、近い将来においてトイレに行く可能性が高いと予測するものであるとしてもよい。
[0171] また、ウェアラブルセンサ101c、102cは、装着している者の血圧を計測し、血圧を示す生体情報をサーバ104に送信するものであってもよい。この場合に、予測アルゴリズムは、普段より血圧が高いほど、ユーザがトイレに行きたい状態にあると推定し、近い将来においてトイレに行く可能性が高いと予測するものであるとしてもよい。
[0172] また、サーバ104の情報生成アルゴリズムは、トイレに行く可能性が高いと予測された各ユーザの位置情報に基づき、乗車中の列車や車両を推定し、降車時刻における所在位置に近い駅のトイレの混雑度を増加させるように混雑増減情報を生成するものでもよい。この混雑増減情報が、サーバ104から、各個人のスマートフォン等に送信されることで、各個人はより正確に空いているトイレを把握することが可能となる。
[0173] 上述したように、サーバ104において、予測アルゴリズムを実行して、各個人の駅のトイレ使用確率を予測することが可能となる。そして、情報生成アルゴリズムを実行して、各個人の駅のトイレ使用確率と、各個人の日々の位置情報履歴から推定される降車駅又は頻繁に利用するトイレの位置等の情報とを統合し混雑増減情報504を生成することが可能となる。これにより、混雑増減情報504は、より正確にトイレの混雑情報を予測した結果を示すものとなる。また、この混雑増減情報504を各個人のスマートフォン501に送信して提示させることが可能となる。これにより、スマートフォン501を利用した各個人はより正確に空いているトイレを把握することが可能となる。
[0174] また、本実施の形態の情報提供システムは、更にネットワーク103に接続された環境情報取得端末を備えていてもよい。この環境情報取得端末は、気温を検出しサーバ104に伝達するものである。サーバ104においては、提供用情報生成部92が、その気温の情報に基づいて、気温が低くなるほどトイレの混雑が増すと推定し、気温を反映した混雑増減情報504を生成するようにしてもよい。サーバ104がスマートフォン501に混雑増減情報504を送信することで、各個人は、より正確にトイレの混雑増減を把握することが可能となる。
[0175] また、本実施の形態の情報提供システムにおいて、家電機器101a、102aが、トイレに加えて通信機能を備えたコーヒーメーカーも含むこととしてもよい。これにより、トイレの使用状況に加えてコーヒーメーカーの使用状況が生活情報としてサーバ104に収集されることとなる。コーヒー等の飲料は利尿作用が高いため女性の場合はトイレの個室の混雑度合いを高めることとなることから、サーバ104の予測アルゴリズムを、各ユーザが出勤前にコーヒーを飲んだか否かを識別して各ユーザのトイレ利用可能性を予測するものとしてもよい。この予測結果が反映された混雑増減情報504をスマートフォン501で確認した各個人は、より正確に空いているトイレを把握することが可能となる。なお、サーバ104が、情報入力端末101d、102dから属性情報として性別を収集して、これに基づく予測を行うことにより、男性トイレ、女性トイレ、それぞれの混雑状況を区別して生成した混雑増減情報を各個人に提示することが可能となる。なお、属性情報に性別を含ませなくても、サーバ104において駅等における男性用トイレ及び女性用トイレの位置を取得しておき、各ユーザの位置情報の履歴から、過去にいずれのトイレを利用したかを識別して各ユーザの性別を推定することとしてもよい。
[0176] なお、本実施の形態の具体例(家電機器がトイレ等である各例)においても、図2に示す移動体101bと情報入力端末101dと情報提示装置105とサーバ104とが、一体的に構成された移動体101eに置き換わったものとしてもよい(図10参照)。
[0177] 以上、家電機器101a,102aが家庭のトイレ等であり、駅等のトイレの混雑状況等の予測に係る情報提供を行う情報提供システムの例について説明した。家庭のトイレも駅等のトイレも同種の目的を達成する手段であることから、この予測は、家庭のトイレの使用状況が駅等のトイレの需要、混雑状況等と一定の関係性を有することに基づく、有効なものである。」

(ク)「[0188] また、情報入力端末101d、102dに、各ユーザが持病や体質等を入力して、これらが属性情報に含められ、サーバ104に送信されることとしてもよい。」

上記記載事項及び図面の図示内容を総合し、本件補正発明の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。なお、ユーザのスマートフォンと最寄り駅を含む領域を所定の領域とする。

「ユーザの外出先における所定の領域内に存在するスマートフォン501上で情報を提示する情報提供システム100であって、
所定の領域内の最寄り駅のトイレの設置位置を示す位置情報を含む情報を記憶するサーバ104と、
所定の領域内に存在する前記ユーザの生体情報を取得する生体情報取得部72と、
所定の領域内での前記ユーザの位置情報を取得する位置情報取得部75と、
前記ユーザの属性情報を入力する情報入力端末101d、102dと、
前記ユーザの生体情報、及び、当該生体情報に基づいて推定される前記ユーザの行動に関する情報の少なくとも一方がトイレに行く可能性が高く、且つ、前記ユーザの位置情報が最寄り駅に近い場合であって、前記ユーザの属性情報が男性又は女性である場合に、記憶された情報を前記スマートフォン501上で提供する情報提示装置105と、
を備え、
前記ユーザの属性情報が、性別に関する情報である、情報提供システム100。」

イ 引用文献2
原査定の拒絶理由に引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特許第3697454号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「個人の身体特性に応じた経路案内システム」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
本発明は、個人の身体特性に応じた経路案内システムに関する。」

(イ)「【0005】
本発明はこのような従来技術の問題点に着目してなされたものであって、現在又は将来の時々刻々と変動する様々な状況を勘案した上での各個人の身体特性に適した経路を検索・提供することができ、さらに、前記の検索した各個人の身体特性に適した経路情報を提供するとき、その経路に含まれる路面の段差、傾斜、材質などの情報をユーザーに直感的に認識してもらうことができる、各個人の身体特性に適した経路案内システムを提供することを目的とする。」

(ウ)「【0016】
以下に本発明の実施例1による個人の身体特性に応じた経路案内システムを説明する。本実施例1は、複合商業施設・デパート・駅・空港などの施設内部及び戸外(道路など)の地図と、各地点(各ノードと各リンクの途中部分)を示す3次元画像とを使用して、高齢者又は障害者などのユーザーに出発地から目的地までの経路を案内又はシミュレーションさせるためのシステムである。
【0017】
図1は、本実施例1による経路案内システムの構成を示す概念ブロック図である。図1において、1はユーザー側のパソコンや携帯電話などの通信機能を有するユーザー端末である。このユーザー端末1には、高齢者又は障害者などの障害の内容、身長、体重などの各個人の身体特性が記録されている。この身体特性は、例えば、車椅子利用者の場合、車椅子の種類(電動モーター式か自走式か介護用かなど)、通行可能幅、個人の経験や体力によって推測される「自力で(他者の支援なしに)越えることができる段差の高さやスロープの傾斜角度」などである。図2は、前記のユーザー端末1に記録される身体特性の一例として、身体障害者(例えば下肢不自由者)の身体特性を入力する際の基礎データの一例を示すものである。なお、このようなユーザーの身体特性は、個人情報であるため、前記ユーザー端末1内のメモリに暗号化されて記録されている。
【0018】
また、図1において、2はインターネット、3はインターネット2を介して様々なエリアの現在、過去及び/又は将来の天気情報を提供するための天気情報提供企業(気象庁など)のサーバー(以下「天気サーバー」という)、4はユーザーに施設などの案内情報を提供する企業が運営する案内サーバー、である。
【0019】
また、図1において、5は経路探索のための情報を蓄積しておくための経路データベースである。前記経路データベース5には、複数のノード(地点)、各ノードを繋ぐ複数のリンク(施設内の通路、戸外の道路など)、各リンクの種別、各リンクのバリア属性などの情報が記録されている。前記経路データベース5には、前記各リンク毎に、各リンクの種別、属性(段差の高さ、スロープの傾斜角度など)、及び天気情報との関係から見たバリア属性が記録されている。
【0020】
前記経路データベース5に記録されるバリア属性は、例えば、(a)ユーザーが経路の検索の基準となる日時(希望日時)を指定・入力したとき、その日時とその日時から遡って2時間までの間に所定降雨量以上の雨(雨又は雪。以下同様)が降った場合に、その雨によりそのリンクの表面(路面)が濡れるかどうか、濡れるとして、その濡れたリンクがユーザーの各身体特性から見て過度の負担や危険を伴わずに通過できるかどうかを示す情報、及び、(b)ユーザーが経路の検索の基準となる日時(希望日時)を指定・入力したとき、その日時とその日時から遡って2時間までの間に所定降雨量以上の雨が降らなかった場合(晴れ又は曇天時)に、そのリンクがユーザーの各身体特性から見て過度の負担や危険を伴わずに通過できるかどうかを示す情報、である。また、この場合のユーザーの身体特性には、車椅子利用、松葉杖使用、視覚障害、身長、体重など様々なものがあり得る。
【0021】
図3は前記経路データベース5の一部の構成を示す図である。前記経路データベース5は、各リンク毎に、屋内スロープ・戸外通路・戸外スロープ、フロア、道路などの種別とそれぞれのバリア属性などを記録している。
【0022】
すなわち、前記経路データベース5においては、例えば、図3に示すように、(1)幅60cm超の大型車椅子が晴れ又は曇天時に特別の負担・危険を伴わずに通過できるかどうか、(2)幅60cm超の大型車椅子が雨天時(ユーザーの希望日時とそれから遡って2時間以内に所定降雨量以上の雨が降った場合)に特別の負担・危険を伴わずに通過できるかどうか、(3)幅60cm以下の小型車椅子が晴れ又は曇天時に特別の負担・危険を伴わずに通過できるかどうか、(4)幅60cm以下の小型車椅子が雨天時(ユーザーの希望日時とそれから遡って2時間以内に所定降雨量以上の雨が降った場合)に特別の負担・危険を伴わずに通過できるかどうか、(5)松葉杖使用者が晴れ又は曇天時に特別の負担・危険を伴わずに通過できるかどうか、及び(6)松葉杖使用者が雨天時(ユーザーの希望日時とそれから遡って2時間以内に所定降雨量以上の雨が降った場合)に特別の負担・危険を伴わずに通過できるかどうか、などのバリア属性を、各リンク毎に記録している。
【0023】
図3に示す例では、リンク1(屋内のスロープ)については、大型車椅子、小型車椅子、及び松葉杖の利用者はいずれも雨天時かどうかに拘わらず特別の負担・危険を伴わずに通過できる(このことを示す”1”が入力されている)というバリア属性が記録されている。また、リンク2(戸外通路)については、大型車椅子は雨天時かどうかに拘わらず幅が狭いために通過できない(このことを示す”0”が入力されている)が、小型車椅子及び松葉杖使用者は雨天時かどうかに拘わらず特別の負担・危険を伴わずに通過できる(このことを示す”1”が入力されている)というバリア属性が記録されている。また、リンク3(戸外のスロープ)については、大型車椅子、小型車椅子、及び松葉杖使用者共に、晴れ又は曇天時には特別な負担・危険を伴わずに通過できる(このことを示す”1”が入力されている)が、雨天時(降雨後2時間以内を含む)には滑りやすいため特別な負担・危険を伴わないと通過できない(このことを示す”0”が入力されている)というバリア属性が記録されている。
【0024】
なお、前記の図3においては、屋内スロープ、戸外通路、戸外スロープなどの各リンクについての車椅子利用、松葉杖利用などの場合のバリア属性だけを例示した。しかし、本実施例1の経路データベースでは、これらに限ることなく、例えば、階段、ドア、エレベータ、エスカレータ、トイレ、駐車スペース、マンホール、横断歩道など様々なものがリンクとして記録されている。また、前記経路データベースでは、例えば、階段については階段昇降機の有無、エレベータについては障害者用エレベータの有無、エスカレータについては障害者用エスカレータの有無、トイレについては身障者用トイレの有無、駐車スペースについては身障者用駐車スペースの有無、フロアや通路については展示ブロックの有無、音声案内の有無、公衆電話の有無、自動販売機の有無、券売機の有無、清算機の有無、ATMの有無、カードキーの有無、横断歩道については信号機の有無など、さらに前記各リンクについてそれぞれ車椅子利用者が利用できるかどうか、両松葉杖・片松葉杖利用者が利用できるかどうか、ステッキ利用者が利用できるかどうか、支援者を呼べる環境があるかどうかなどの属性が、記録されている。また、戸外のリンクについては、地下鉄利用、モノレール利用、バス利用、電車利用、新幹線利用、航空機利用、自転車利用などの属性、さらに、その地下鉄、モノレール、電車などについては、車椅子利用者や松葉杖利用者などが単独で利用できるかどうか、支援者を呼べる環境があるかどうかなどの属性も記録されている。
【0025】
また、図1において、6は前記経路データベース5中の各ノード及び各リンクをそれぞれ示す3次元モデルを蓄積しておくための3次元モデルデータベースである。前記3次元モデルデータベース6には、前記各ノード及び各リンクと関連付けて、それらを示す3次元モデルが記録されている。また、前記3次元モデルデータベース6には、各ノード及び各リンク毎に複数の視点の高さ(例えば、車椅子利用者の視点の高さから見える3次元モデル、松葉杖利用者の視点の高さから見える3次元モデルなど)に応じた3次元モデルが記録されている。
【0026】
また、図1において、7は前記経路データベース5中の各ノード及び各リンクにそれぞれ対応する2次元地図を蓄積しておくための2次元地図データベースである。前記2次元地図データベース7には、前記各ノード及び各リンクと関連付けて、前記ユーザー端末1のディスプレイに表示可能な2次元地図が記録されている。なお、本実施例1では、前記経路データベース5、3Dモデルデータベース6、及び2次元地図データベース7は、施設及び地図に関するデータベースからそれぞれ経路、3Dモデル、2次元地図に関連するデータを抽出することにより生成されている。
【0027】
また、図1において、8は前記天気サーバー3からインターネット2経由で現在、過去及び/又は将来の前記各ノード、各リンク又はそれらの周辺エリアの天気情報を受信するための天気情報受信部、9は前記ユーザー端末1からの「経路案内を要求するリクエスト情報」を受信するためのリクエスト受信部である。前記リクエスト受信部9が受信するリクエスト情報には、ユーザーの出発地、ユーザーが希望する目的地、ユーザーが経路検索(又はシミュレーション)の基準時とすることを希望する日時、及びユーザーの身体特性などが含まれる。なお、前記ユーザーの身体特性は個人情報であるため暗号化して送信される。
【0028】
また、図1において、10は前記リクエスト受信部が受信したリクエスト情報及び前記天気情報受信部8が受信した天気情報に基づいて、前記経路データベース5を検索することにより、前記ユーザーの身体特性及びユーザーが希望する基準時とそれより例えば2時間前との間の時間帯の天気情報から見てユーザーにとって最も負担・危険の少ない最適経路を探索するための最適経路探索部、である。
【0029】
また、図1において、11は前記最適経路探索部10からの最適経路に基づいて前記3次元モデルデータベース6から前記最適経路に対応する3次元モデルを抽出するための3次元モデル抽出部、である。
【0030】
また、図1において、12は前記ユーザー端末1から送信された表示パラメータ(例えば、移動指示、回転指示、拡大指示、色情報、光源情報など)をインターネット2経由で受信するための表示パラメータ受信部、13は前記3次元モデル抽出部11により抽出された3次元モデルと前記表示パラメータ受信部12からの表示パラメータとに基づいてリアルタイム・レンダリングするためのレンダリング部、である。
【0031】
また、図1において、14は前記最適経路探索部10からの最適経路情報に基づいて、前記2次元地図データベース7から、前記最適経路に対応する2次元地図を抽出するための2次元地図抽出部、15はレンダリング部13により生成された3次元画像と前記2次元地図抽出部14により抽出された2次元地図とを一つの画像に合成してインターネット2経由でユーザー端末1側に送信するための画像合成送信部、である。
【0032】
次に、本実施例1の動作の一例を説明する。図4は本実施例1の動作を説明するためのフローチャート、図5は、ある複合商業施設において身体障害者が駐車場・タクシー乗り場・バス停から施設内部へ入るためのルートを示すための2次元地図である。
【0033】
今、例えば、図1のユーザー端末1から、出発地を図5のA点(障害者用駐車スペースのAで示す箇所の位置情報)、目的地を図5のBで示す店舗の入り口(両開き自動ドアBの位置情報)、ユーザー身体特性を通行可能幅が60cm以下の小型車椅子利用、経路検索(シミュレーション)希望日時を「明日の午後3時」とするリクエスト情報が送信され、これが前記案内サーバー4のリクエスト受信部9により受信されたとする(図4のステップS1)。すると、前記案内サーバー4の天気情報受信部8は前記天気サーバー3から、前記希望日時及びそれより2時間前の間である「明日の午後1−3時」の前記地点A,Bの周辺の天気情報を受信する(図4のステップS2)。」

上記記載事項を総合すると、引用文献2には、次の事項(以下、「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。

「身障者用トイレの有無等を記録した経路データベースに基づき、高齢者、身体障害者という各個人の身体特性に適した経路を案内すること。」

ウ 引用文献3
原査定の拒絶理由に引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2004−37269号公報(以下、「引用文献3」という。)には、「自立移動支援システム、その方法および記録媒体」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自立移動支援システム、その方法および記録媒体に関し、特に、障害者、および高齢者のバリアフリー移動支援に適用して有効な技術に関するものである。」

(イ)「【0008】
本発明の目的は、各障害状況に応じて最適な案内経路を設定することのできる自立移動支援システム、その方法および記録媒体を提供することにある。」

(ウ)「【0025】
地図データは、一般的な地図データであり、身体情報(移動支援情報)は、各ユーザにおける住所、性別、年齢層、障害状態などの個人情報である。」

(エ)「【0053】
このB地点から目的地にかけては、図中に示した点線の経路が明らかに近道であるが、ここでは、該点線の経路を案内せずに遠回りとなるC地点を経由した経路を案内している。これは、点線の経路上に放置自転車などが多いために車いすによる移動のバリアとなるためである。
【0054】
さらに、図中のC地点においては、目的地からは少し遠回りになっているが、これは、歩道が広く、ガードレールや植え込みなどがある歩道を優先しているからである。
【0055】
これにより、ユーザは、案内経路に従って移動することにより、安全に、かつ短時間で目的地まで移動することができる。
【0056】
さらに、ユーザが、目的地までを移動する間、測定部7によって測定された各種属性情報は、歩道データとしてデータベースサーバ4に格納される(ステップS107)。この移動中に収集された属性情報は随時更新され、次回の経路検索(ステップS104の処理)に反映される。」

上記記載事項及び図面の図示内容を総合し、本件補正発明の記載ぶりに則って整理すると、引用文献3には、次の事項(以下、「引用文献3記載事項」という。)が記載されている。

「障害者、および高齢者のバリアフリー移動を案内により支援すること。」

(3)対比、判断
本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「スマートフォン501」は「通信端末」に相当し、以下同様に、「情報」は「案内情報」に、「提示する」ことは、「提供する」ことに、「情報提供システム100」は「情報提供システム」に、「最寄り駅のトイレ」は「前記領域内の所定位置に存在する施設」に、「トイレの設置位置を示す位置情報」は「(施設に関する)情報」に、「サーバ104」は「記憶手段」に、「生体情報」は「身体状態に関する情報」に、「生体情報取得部72」は「第1取得手段」に、「位置情報」は「位置に関する情報」に、「位置情報取得部75」は「第2取得手段」に、「属性情報」は「属性に関する情報」に、「情報入力端末101d、102d」は「第3取得手段」に、「トイレに行く可能性が高く」は「第1条件を満たし」に、「最寄り駅に近い」は「第2条件を満たす」に、「男性又は女性である」は「第3条件を満たす」に、「情報提示装置105」は「情報提供手段」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「外出先」と、本件補正発明の「旅行先」とは、「外出先」という限りにおいて一致する。

よって、両者は、次の点で一致する。

〔一致点〕
「ユーザの外出先における所定の領域内に存在する通信端末上で案内情報を提供する情報提供システムであって、
前記領域内の所定位置に存在する施設に関する情報を含む案内情報を記憶する記憶手段と、
前記領域内に存在するユーザの身体状態に関する情報を取得する第1取得手段と、
前記領域内での前記ユーザの位置に関する情報を取得する第2取得手段と、
前記ユーザの属性に関する情報を取得する第3取得手段と、
前記ユーザの身体状態に関する情報、及び、当該身体状態に関する情報に基づいて推定される前記ユーザの行動に関する情報の少なくとも一方が第1条件を満たし、且つ、前記ユーザの位置に関する情報が第2条件を満たす場合であって、前記ユーザの属性に関する情報が第3条件を満たす場合に、記憶された案内情報を前記通信端末上で提供する情報提供手段と、
を備える、
情報提供システム。」

そして、両者は、以下の点で相違又は一応相違する。

〔相違点1〕
本件補正発明は、ユーザの「旅行先」におけるものであるのに対し、引用発明は、ユーザの「外出先」におけるものである点。

〔相違点2〕
本件補正発明は「前記ユーザの属性に関する情報が、少なくとも前記ユーザの年齢に関する情報又は前記ユーザの身体的障碍の有無に関する情報を含む」のに対し、引用発明は「前記ユーザの属性情報が、性別に関する情報である」点。

上記相違点について検討する。

〔相違点1〕について
引用発明は、最寄り駅のトイレを確認するために使用できるものであり、一般的に、旅行先で駅のトイレを利用することは、ごく普通に行われていることである。
そして、ユーザの外出先を、ユーザの「旅行先」に限定することには格別の技術的意義は認められない。
したがって、引用発明において、ユーザの外出先を、ユーザの「旅行先」とすることは、当業者が適宜なし得たことである。
してみれば、引用発明に基いて、相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

〔相違点2〕について
引用発明は、ユーザの生体情報、及び、当該身体情報に基づいて推定される前記ユーザの行動に関する情報の少なくとも一方がトイレに行く可能性が高く、且つ、前記ユーザの位置情報が降車時刻における駅に近い場合であって、前記ユーザの属性情報が男性又は女性である場合に、記憶された情報を前記スマートフォン501上で提供するものである。
ここで、駅のトイレには、通常、男性用トイレ、女性用トイレに加え、身障者用トイレが設置されているから、男性用トイレに関する情報、女性用トイレに関する情報に加えて、身体的障碍の有無に関する情報に基づき、身障者用トイレに関する情報を提供することは、当業者が適宜なし得たと考えられる。
さらに、引用文献2には「身障者用トイレの有無等を記録した経路データベースに基づき、高齢者、身体障害者という各個人の身体特性に適した経路を案内すること。」(引用文献2記載事項)が記載され、引用文献3には「障害者、および高齢者のバリアフリー移動を案内により支援すること。」(引用文献3記載事項)が記載されているように、ユーザの属性に関する情報が、ユーザの年齢に関する情報又はユーザの身体的障碍の有無に関する情報を含み、その情報に基づいて案内をすることは、周知技術である。
そして、引用発明と、周知技術は、情報提供という共通の技術分野において、属性に応じた情報を提供するという共通の課題を解決するものである。
そうすると、引用発明において、周知技術を適用することにより、ユーザの属性に関する情報を、性別に関する情報に加えて、ユーザの身体的障碍の有無に関する情報を含むものとし、男性用トイレに関する情報、女性用トイレに関する情報に加えて、身体的障碍の有無に関する情報に基づき、身障者用トイレに関する情報を提供するものとすることは、当業者が容易に想到できたことである。
してみれば、引用発明及び周知技術に基いて、相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

〔効果について〕
本件補正発明は、全体としてみても、引用発明及び周知技術から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。

〔まとめ〕
したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。

なお、請求人は、審判請求書の「4.本願発明が特許されるべき理由」の(2)ないし(4)において、以下のように主張する。

〔請求人の主張〕
「(2)ところで、補正後の本願請求項1の情報提供システムに係る発明は、「ユーザの旅行先における所定の領域内に存在する通信端末上で案内情報を提供する情報提供システム」において、「前記領域内の所定位置に存在する施設に関する情報を含む案内情報を記憶する記憶手段」と、「前記領域内に存在する前記ユーザの身体状態に関する情報を取得する第1取得手段」と、「前記領域内での前記ユーザの位置に関する情報を取得する第2取得手段」と、「前記ユーザの属性に関する情報を取得する第3取得手段」と、「前記ユーザの身体状態に関する情報、及び、当該身体状態に関する情報に基づいて推定される前記ユーザの行動に関する情報の少なくとも一方が第1条件を満たし、且つ、前記ユーザの位置に関する情報が第2条件を満たす場合であって、前記ユーザの属性に関する情報が第3条件を満たす場合に、記憶された案内情報を前記通信端末上で提供する情報提供手段」と、を備えること、「前記ユーザの属性に関する情報が、少なくとも前記ユーザの年齢に関する情報又は前記ユーザの身体的障碍の有無に関する情報を含む」ことを技術的特徴としております。
すなわち、補正後の本願請求項1の情報提供システムに係る発明は、本願明細書段落0002に記載されているように、ユニバーサルツーリズムの普及や促進を図っていく上で問題となる課題を解決しようとするものであり、その適用対象は「ユーザの旅行先における所定の領域内に存在する通信端末上で案内情報を提供する」ものに限定されております。
そして、旅行先というのは日常の生活圏を離れた場所であり、日常生活での行動様式がそのまま通用しないことが多い場面であるといえます。そのような旅行先でのユーザに対して案内情報を適切に提供すべく、補正後の本願請求項1の情報提供システムに係る発明は、「第1取得手段」が「前記領域内に存在する前記ユーザの身体状態に関する情報」を取得し、「第2取得手段」が「前記領域内での前記ユーザの位置に関する情報」を取得し、「第3取得手段」が「少なくとも前記ユーザの年齢に関する情報又は前記ユーザの身体的障碍の有無に関する情報を含む」「前記ユーザの属性に関する情報」を取得し、「前記ユーザの身体状態に関する情報、及び、当該身体状態に関する情報に基づいて推定される前記ユーザの行動に関する情報の少なくとも一方が第1条件を満たし、且つ、前記ユーザの位置に関する情報が第2条件を満たす場合であって、前記ユーザの属性に関する情報が第3条件を満たす場合」に、「情報提供手段」が「記憶手段」によって記憶された「前記領域内の所定位置に存在する施設に関する情報を含む案内情報」を通信端末上で提供するものであります。
(3)一方、引用文献1に記載のシステムは、家電等の機器使用履歴(生活情報)から、生活状況、嗜好、習慣等といったユーザの行動様式に基づく情報を収集することで、ユーザの将来的な行動を予測する仕組みになっており、いわば日常生活を送るユーザを対象にして、その行動に関する情報を収集・活用することが前提となったシステムです。当該システムは、「ユーザの旅行先における所定の領域内に存在する通信端末上で案内情報を提供する」ものではない点で、本願請求項1に係る発明と大きく相違しています。
仮に引用文献1に記載のシステムを「ユーザの旅行先における所定の領域内に存在する通信端末上で案内情報を提供する」情報提供システムとして使おうとすると、次のような問題が生じます。
まず、ユーザの旅行先というのは非日常空間であり、旅行先における「所定の領域」においては、ユーザの行動様式に基づくデータの蓄積ができていません。引用文献1に記載のシステムには、データ蓄積がないと適切な推薦ができない、いわゆるコールドスタート問題が存在しており、引用文献1に記載のシステムを「ユーザの旅行先における所定の領域内に存在する通信端末上で案内情報を提供する」情報提供システムとして用いることには無理があります。
また、ユーザの旅行先という非日常空間では、ユーザの日常生活での行動様式が通用しない場面が多く想定されます。例えば旅行先が時差を伴う海外であれば、これまでの履歴データに基づいて案内情報を提供する引用文献1に記載のシステムでは、提供された案内情報はむしろ旅行先の環境適用の妨げとなってしまいますし、例えば旅行が自然散策を目的としたものであれば、日常生活パターンに基づいて案内情報を提供する引用文献1に記載のシステムでは、提供された案内情報が旅行先でユーザのストレスを誘発してしまいます。
加えて、ユニバーサルツーリズムのビジネスは、旅行会社等のツアー主催者が、参加者個々の身体特性や個人差に配慮しつつ、交通機関、宿、観光施設との間で調整したプログラムのもとで行う団体旅行型のツアーが中心になっています。このようなツアーにおいて、引用文献1に記載のシステムを用いて参加者(ユーザ)に案内情報の提供を行おうとすれば、参加者それぞれの日常生活における機器使用履歴の有無や利用可否によって、参加者への支援の情報量に差が出てしまい、団体行動・安全確保の妨げになるおそれがあります。
その他に、観光は非日常場面への適応体験が、新たな気づきや気分転換に繋がるものだといわれています。施設で介護を受ける高齢者や一人暮らしの高齢者は、日常生活において移動や外出機会の減少が問題となりますが、観光、旅行を楽しむことで、普段より活動量が増えて移動の機会が増えるため、外出に対する自信にもつながります。高齢者に対して引用文献1に記載のシステムを用いて案内情報の提供を行えば、そのような観光、旅行の効用が阻害されてしまうことにもなりかねません。
(4)引用文献1に記載のシステムは、審査官殿がご指摘のように、トイレの情報を提供するために生体情報取得部72によって取得した情報を利用している側面もありますが、ユーザがトイレを使用したくなる状態であるかどうかを予測するためには、生体情報取得部72によって取得した情報よりも、むしろ生活情報取得部71によって取得した情報を重用しています。
引用文献1の明細書段落0004−0007の記載からは、引用文献1に記載のシステムが「ユーザの生体機能の状態とは必ずしも相関のない有益な情報」を生成してユーザに提供するために、「ユーザが使用した機器から、当該機器の動作状態に関する情報である生活情報を、受信することにより取得する生活情報取得部により、取得された生活情報」を用いるものであると把握することができ、明細書段落0035には「各実施の形態では、主に、家電機器に対するユーザ操作に基づく情報を収集することで生活状況、嗜好、習慣等といったユーザの行動様式を推定してユーザの将来的な行動を予測しその結果に応じて有益な情報を生成して提供する情報提供方法について、説明する。」との記載があります。これらの記載内容からすると、引用文献1に記載のシステムは家電製品等の機器から収集した生活情報をどう活かすのか、ということをポイントとしており、ユーザがトイレを使用したくなる状態であるかどうかを予測するために生活情報取得部71によって取得した情報が必須であります。
このような引用文献1に記載のシステムに、引用文献3や引用文献4に記載されている周知技術を適用したとしても、「ユーザの旅行先における所定の領域内に存在する通信端末上で案内情報を提供する」情報提供システムである本願請求項1に係る発明を導き出すことはできず、当業者が本願請求項1に係る発明に容易に想到し得るとは認められません。」

〔請求人の主張に対する検討〕
しかしながら、列車で「外出する」ことも「旅行する」ことも一般的であり、今までに行ったことがないところへ「外出する」こともあり、日帰りで「旅行する」こともあることから、「外出先」と「旅行先」の間に本質的な違いはないと考えられる。また、「外出先」及び「旅行先」において駅のトイレを利用することは、ごく普通に行われていることである。
したがって、ユーザの外出先を、ユーザの「旅行先」に限定することには格別の技術的意義は認められない。
この点に関し、請求人は、非日常空間では、日常空間のデータに基づく案内情報を提供しても適切に案内できない旨主張するが、トイレの使用状況のデータは、引用文献1の段落[0177]に記載されているように、トイレの場所を問わず予測に有効であると理解できるから、引用発明を旅行先で用いることはできないとはいえない。
したがって、引用発明において、ユーザの外出先を、ユーザの「旅行先」とすることは、当業者が適宜なし得たことである。
次に、駅のトイレには、通常、男性用トイレ、女性用トイレに加え、身障者用トイレが設置されているから、男性用トイレに関する情報、女性用トイレに関する情報に加えて、身体的障碍の有無に関する情報に基づき、身障者用トイレに関する情報を提供することは、当業者が適宜なし得たと考えられる。
また、引用文献2には「身障者用トイレの有無等を記録した経路データベースに基づき、高齢者、身体障害者という各個人の身体特性に適した経路を案内すること。」(引用文献2記載事項)が記載され、引用文献3には「障害者、および高齢者のバリアフリー移動を案内により支援すること。」(引用文献3記載事項)が記載されているように、ユーザの属性に関する情報が、ユーザの年齢に関する情報又はユーザの身体的障碍の有無に関する情報を含み、その情報に基づいて案内をすることは、周知技術である。
そして、引用発明と、周知技術は、情報提供という共通の技術分野において、属性に応じた情報を提供するという共通の課題を解決するものである。
そうすると、引用発明において、周知技術を適用することにより、ユーザの属性に関する情報を、性別に関する情報に加えて、ユーザの身体的障碍の有無に関する情報を含むものとし、男性用トイレに関する情報、女性用トイレに関する情報に加えて、身体的障碍の有無に関する情報に基づき、身障者用トイレに関する情報を提供するものとすることは、当業者が容易に想到できたことである。
してみれば、引用発明及び周知技術に基いて、相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。
したがって、請求人の主張を採用することはできない。

(4)むすび
上記のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、令和3年2月10日の手続補正書により手続補正された請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、第2〔理由〕1(1)に記載したとおりのものである。

2 原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶理由の概要は以下のとおりである。

進歩性)本願の下記の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前に発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項 1−3、5−6
・引用文献等 1、3−4

・請求項 4
・引用文献等 1−4

<引用文献等一覧>
1.国際公開第2014/083778号(本審決における引用文献1)
2.特開2002−64853号公報
3.特許第3697454号公報(本審決における引用文献2)
4.特開2004−37269号公報(本審決における引用文献3)

3 引用文献1ないし3、引用発明、引用文献2記載事項、引用文献3記載事項及び周知技術
原査定の拒絶の理由で引用された本審決における引用文献1ないし3、引用発明、引用文献2記載事項、引用文献3記載事項及び周知技術は、前記第2〔理由〕2(2)に記載したとおりである。

4 対比、判断
本願発明は、前記第2〔理由〕2で検討した本件補正発明における「所定の領域内」に関する「ユーザの旅行先における」という限定を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2〔理由〕2(3)に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も実質的に同様の理由により、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-01-18 
結審通知日 2022-01-25 
審決日 2022-02-08 
出願番号 P2017-039647
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01C)
P 1 8・ 575- Z (G01C)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 山本 信平
特許庁審判官 金澤 俊郎
星名 真幸
発明の名称 情報提供システム、情報提供方法、プログラム  
代理人 早川 裕司  
代理人 早川 裕司  
代理人 村雨 圭介  
代理人 村雨 圭介  

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