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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F24F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F24F
管理番号 1383895
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-06-30 
確定日 2022-04-07 
事件の表示 特願2017− 15256「空気調和システム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 8月 9日出願公開、特開2018−123998〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成29年1月31日に出願されたものであって、その手続きの経緯は以下のとおりである。
令和2年 8月25日付け 拒絶理由通知
令和2年10月26日 意見書及び手続補正書の提出
令和3年 3月29日付け 拒絶査定
令和3年 6月30日 拒絶査定不服審判の請求、同時に手続補正書 の提出

第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
令和3年6月30日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は補正箇所である。)。
「【請求項1】
同一空間(S)を空気調和する複数台の空気調和装置(20,30)と、
各空気調和装置(20,30)、及び各空気調和装置(20,30)とは独立して設けられた機器(50)の少なくとも一方から、インターネット(100)を介して各空気調和装置(20,30)を制御するための情報を取得し、取得した情報に基づいて、各空気調和装置(20,30)を個別に制御する制御部(60)と、
を備え、
前記制御部(60)は、取得した前記情報を格納する記憶装置(62)を備え、
前記記憶装置(62)に蓄積した運転データにより、前記空気調和装置(20,30)の性能などを分析し、故障の予兆をユーザに通知することを特徴とする空気調和システム。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の令和2年10月26日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
同一空間(S)を空気調和する複数台の空気調和装置(20,30)と、
各空気調和装置(20,30)、及び各空気調和装置(20,30)とは独立して設けられた機器(50)の少なくとも一方から、インターネット(100)を介して各空気調和装置(20,30)を制御するための情報を取得し、取得した情報に基づいて、各空気調和装置(20,30)を個別に制御する制御部(60)と、
を備え、
前記制御部(60)は、取得した前記情報を格納する記憶装置(62)を備え、
前記記憶装置(62)に蓄積した運転データにより、前記空気調和装置(20,30)の性能などを分析することを特徴とする空気調和システム。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1を特定するために必要な事項である「性能などを分析」することについて、性能などを分析して「故障の予兆をユーザに通知」するとの限定を新たに付加する補正であって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許請求の範囲の請求項1に関する本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。

そこで、本件補正によって補正された請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するかどうか)について、以下に検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用例の記載事項
ア 引用例1
原査定の理由に引用され、本願の出願日前に頒布された引用文献である、特開2011−247514号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の記載がある(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下、同様。)。

(ア)引用例1の記載
「【0012】
(設備制御装置10の構成)
本発明の実施形態に係る設備制御装置10は、例えば、図1に示すように、LAN(Local Area Network)規格に準拠したネットワークNを介して、オフィスエリア1内の各エリア(エリア1A〜1D)にそれぞれ配置された設備(本実施形態では、空調機2A〜2D)と通信可能に接続する。さらに、設備制御装置10は、ネットワークNを介して、空調機2A〜2Dの近傍にそれぞれ配置され、エリア1A〜1Dの温度や湿度等を検出するセンサ3A〜3Dと、オフィスエリア1のほぼ中央に配置されてオフィスエリア1全体の温度や湿度等を検出するセンサ3INと、外に配置されて外気の温度や湿度等を検出するセンサ3OUTと、空調機2A〜2Dで消費される電力を個別に計測可能な電力計測センサ4と、通信可能に接続する。なお、ネットワークNは、有線であっても無線であってもよい。設備制御装置10は、例えば、オフィスの空調管理ルーム、あるいは、その近傍に設置される。」
「【0015】
空調情報記憶部101は、空調情報を記憶する。空調情報は、各空調機2の動作状態(運転/停止、設定温度、設定湿度、風速、風向等)や各センサ3の測定結果(温度、湿度等)や電力計測センサ4の測定結果(各空調機2の消費電力)を含む情報である。空調情報記憶部101は、各空調機2及び各センサ3に対応して予め割り当てた所定のメモリ領域に、各空調機2の動作状態や消費電力及び各センサ3の検出結果をそれぞれ記憶する。さらに、空調情報記憶部101は、各空調機2において、動作状態の種別(運転/停止、設定温度、風速、風向等)毎に記憶するメモリ領域を定めていてもよい。」
「【0017】
システム通信部102は、空調機2が接続されているネットワークNに接続するためのインターフェースを備える。システム通信部102は、ネットワークNを介して各空調機2の動作状態を示す情報や、センサ3および電力計測センサ4から出力された検出値(温度、湿度、消費電力等)を受信し、空調情報記憶部101の内容を更新する。また、システム通信部102は、空調情報記憶部101に記憶されている情報の変更に基づいて空調機2を制御するための制御信号を生成し、ネットワークNを介して空調機2に送信する。」
「【0019】
状況取得部104は、ネットワークNとシステム通信部102とを介して、各空調機2の動作状態を示す情報や、各センサ3や電力計測センサ4が出力した計測値(温度、湿度、電力等)を示す情報を取得する。そして、状況取得部104は、取得した情報を計時部103が経時した現在時刻と対応付けて状況記憶部105に蓄積記憶させる。
【0020】
状況記憶部105は、各空調機2に関する情報(動作状態や消費電力)や各センサ3が計測した結果(温度や湿度等)を現在時刻と対応付けて蓄積記憶する。」
「【0026】
空調機制御部109は、制御ルール記憶部107の内容に基づいて各空調機2を制御する制御内容を決定し、空調情報記憶部101の内容を変更する。空調機制御部109が制御ルール記憶部107の内容を変更することで、空調機2は自動的に制御される。
【0027】
制御ルール調整部110は、状況記憶部105と目標記憶部108とに記憶されている情報に基づいて、制御ルール記憶部107に記憶されている制御ルール(運転スケジュールや条件等)を調整する。制御ルール調整部110の行う処理の詳細については後述する。」
「【0050】
(自動ルール調整処理の具体例2:空調機の最適出力調整)
続いて、各空調機2の出力を調整する自動ルール調整処理の詳細について説明する。なお、制御ルール記憶部107には、オフィスエリア1全体の温度を25℃に保って運転することを示す制御ルール(条件)が記憶されているものとする。また、目標記憶部108には、各空調機2の消費電力の総量を最小にすることを示す目標環境情報が記憶されているものとする。
【0051】
このような場合において、ユーザが図示せぬ操作部等を操作して、空調機2の出力を調整するルール調整処理の開始を指示してルール調整処理が実行された場合を考える。
【0052】
自動ルール調整処理が開始されると、まず、制御ルール調整部110は、状況記憶部105に蓄積記憶されている情報に基づいて、図8に示すような各空調機2の消費電力と運転効率との関係を示す曲線(運転効率曲線)を規定する情報を作成する。例えば、図8に示すグラフより、運転効率曲線S1に対応する空調機2は、運転効率曲線S2に対応する空調機2よりも低出力運転時の効率は良いが、高出力運転時の効率は悪いことがわかる。なお、図8では2本の運転効率曲線S1,S2のみを示しているが、実際には空調機2の数だけ運転効率曲線を規定する情報を作成する。なお、運転効率は、例えば、以下に示す式から算出すればよい。
運転効率=空調能力/消費電力
ここで、上式の空調能力は外気温度と室内の温度との温度差とすればよく、センサ3の検出結果から算出すればよい。
【0053】
より具体的に、例えば、空調機2Aの運転効率を求める場合には、以下の式で算出可能である。
空調機2Aの運転効率=|センサ3OUTの検出温度−センサ3Aの検出温度|/電力計測センサ4が計測した空調機2Aの消費電力
従って、状況記憶部105に記憶されている情報に基づいて複数時点での運転効率を算出していくことで、各空調機2の運転効率曲線を求めることができる。
【0054】
続いて、制御ルール調整部110は、このようにして求めた各空調機2の運転効率曲線を参照して、オフィスエリア1内の温度が設定温度25℃を満たし、且つ、空調機2全体での消費電力が最小となる各空調機2の出力を求める。
例えば、オフィスエリア1内の温度(センサ3INの測定温度)が設定温度25℃に近い温度(例えば23℃)で有る場合、制御ルール調整部110は、運転効率曲線を参照して、低出力時に運転効率の最も高い空調機2の出力を他の空調機よりも高くし、他の空調機2の出力を低くすればよい。また、オフィスエリア1内の温度(センサ3INの測定温度)が設定温度25℃から離れている温度(例えば12℃)で有る場合、制御ルール調整部110は、運転効率曲線を参照して、高出力時に運転効率の最も高い空調機2の出力を他の空調機2よりも高くし、他の空調機2の出力は低くすればよい。
また、制御ルール調整部110は、各空調機2の運転効率曲線を参照して、設定温度25℃を満たす各空調機2の出力の組み合わせを複数求め、求めた組み合わせのうち、各空調機2全体の消費電力が最小のものを選択することで、各空調機2の出力を求めてもよい。
【0055】
そして、制御ルール調整部110は、このようにして求めた出力で各空調機2を運転するように、制御ルール記憶部107に記憶されている制御ルールを更新する。以上で自動ルール調整処理は終了する。以下、通常運転処理により、この変更された出力(設定温度)で、各空調機2の運転は制御される。
【0056】
このように、自動ルール調整処理により、居住者の快適性や省エネ化を考慮した最適な出力(消費電力)になるように、空調機2(設備)の制御ルール(設定温度)が調整される。」










(イ)上記(ア)から分かること
1a)段落【0012】、【0054】、図1の記載から、オフィスエリア1を複数台の空調機2A〜2Dで空気調和することが分かる。

1b)段落【0027】には、「制御ルール調整部110は、状況記憶部105と目標記憶部108とに記憶されている情報に基づいて、制御ルール記憶部107に記憶されている制御ルール(運転スケジュールや条件等)を調整する。」との記載、段落【0026】には、「制御ルール記憶部107の内容に基づいて各空調機2を制御する制御内容を決定し、空調情報記憶部101の内容を変更する」との記載及び段落【0017】には、「システム通信部102は、空調情報記憶部101に記憶されている情報の変更に基づいて空調機2を制御するための制御信号を生成し、ネットワークNを介して空調機2に送信する。」との記載があるので、状況記憶部105に記憶されている情報に基づいて、各空調機2(空調機2A〜2D)を個別に制御していることが分かる。
また、段落【0019】の「状況取得部104は、ネットワークNとシステム通信部102とを介して、各空調機2の動作状態を示す情報や、各センサ3や電力計測センサ4が出力した計測値(温度、湿度、電力等)を示す情報を取得する。そして、状況取得部104は、取得した情報を計時部103が経時した現在時刻と対応付けて状況記憶部105に蓄積記憶させる。」との記載から、状況記憶部105に記憶された情報は、各空調機2A〜2D、並びに各空調機2A〜2Dとは独立して設けられたセンサ3及び電力計測センサ4の少なくとも一方から、ネットワークNを介して取得された情報であることが分かる。
そして、図2の記載から、空調情報記憶部101、システム通信部102、状況取得部104、状況記憶部105、制御ルール記憶部107及び制御ルール調整部110等は設備制御装置10に含まれるものであることが分かるので、これらの記載から、設備制御装置10は、各空調機2A〜2D、並びに各空調機2A〜2Dとは独立して設けられたセンサ3及び電力計測センサ4の少なくとも一つから、ネットワークNを介して各空調機2A〜2Dを制御するための情報を取得し、取得した情報に基づいて、各空調機2A〜2Dを個別に制御していることが分かる。

1c)上述のとおり、状況記憶部105は設備制御装置10に含まれるものであることが分かるので、設備制御装置10は、取得した情報を格納する状況記憶部105を備えていることが分かる。

1d)段落【0019】には、各空調機2の動作状態を示す情報や、各センサ3や電力計測センサ4が出力した計測値(温度、湿度、電力等)を示す情報を状況記憶部105に蓄積記憶させることが記載されており、段落【0052】、【0053】には、温度や消費電力から運転効率を算出することが記載されているので、これらの記載から状況記憶部105に蓄積した温度や消費電力の情報により、前記空調機2A〜2Dの運転効率などを分析していることが分かる。
また、当該温度や消費電力の情報は空調機の運転に関する情報であることは明らかである。

1e)段落【0050】〜【0056】、図1、図2の記載から空調機2A〜2Dを設備制御装置10で制御するためのシステムが構成されていることが分かるので、当該システムは、空調機2A〜2Dと設備制御装置10とを備えたものであることが分かる。

(ウ)引用発明
上記(ア)及び(イ)からみて、引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「オフィスエリア1を空気調和する複数台の空調機2A〜2Dと、
各空調機2A〜2D、並びに各空調機2A〜2Dとは独立して設けられたセンサ3及び電力計測センサ4の少なくとも一つから、ネットワークNを介して各空調機2A〜2Dを制御するための情報を取得し、取得した情報に基づいて、各空調機2A〜2Dを個別に制御する設備制御装置10と、
を備え、
前記設備制御装置10は、取得した前記情報を格納する状況記憶部105を備え、
前記状況記憶部105に蓄積した温度や消費電力の情報により、前記空調機2A〜2Dの運転効率などを分析するシステム。」

イ 引用例2
原査定の理由に引用され、本願の出願日前に頒布された引用文献である、特開2008−164228号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の記載がある。

(ア)引用例2の記載
「【0035】
≪一実施形態に係る空調管理システム≫
図1は、本発明の実施形態に係る空調管理システム1の全体構成を示したものである。空調管理システム1は、中央管理装置10と、同中央管理装置10とインターネット等の公衆回線網30を介して通信可能なコントローラ21とを備える。」
「【0040】
制御パラメータ設定部12は、制御履歴データ14と、気象データ15と、空調機運転データ16から取得した情報、及び目的情報17から取得した情報に基づいて制御パラメータを設定し、時間設定部11に渡す。
【0041】
制御データ13は、制御パラメータ設定部12によって設定された制御パラメータと、制御パラメータに対し時間設定部11によって設定された時間とを対応させた情報である。制御データ13は、コントローラ21からの要求や時間に応じて通信部19、公衆回線網30、ローカル側の通信部29を介してコントローラ21に送信される。」
「【0044】
空調機運転データ16は、空調機25の運転データを収集したものである。なお、空調機運転データ16には、空調機の室外機運転データの他、冷暖房の有無、消費電力、異常データ、試運転データ等が含まれる。また、室内機の運転データとして、吸込温度平均値、設定温度平均値、運転時間の積算値、サーモON時間の積算値、サーモON時間の回数、膨張弁開度等が含まれる。」
「【0053】
このようにして、目的情報に応じて設定された制御データは、図3に示すように、コントローラ21に送信され(S107ステップ)、同コントローラ21は制御データに応じて空調機に制御指令を出す(S108ステップ)。制御データは、室外機のID情報に対応させて送信される。」




(イ)上記(ア)から分かること
2a)段落【0040】、【0044】、図1の記載から、中央管理装置10は、空調機25の運転データを収集して、空調機運転データ16とし、当該空調運転データ16から制御パラメータを設定することが分かる。
そして、空調機25の運転データを収集するには、空調機25側からデータを収集する必要があるので、中央管理装置10は、インターネットを介して空調機運転データ16を取得していることが分かる。

2b)段落【0035】の記載から、公衆回線網30はインターネットであることが分かる。

2c)段落【0041】、【0053】の記載から、制御パラメータに対応する制御データ13に基づき空調機25を制御することが分かり、上記のとおり、空調運転データ16から制御パラメータを設定することが分かるので、空調運転データ16に基づき空調機25を制御していることが分かる。

(ウ)引用例2に記載された技術
上記(ア)及び(イ)からみて、引用例2には、以下の技術(以下、「引用例2技術」という。)が記載されている。
「中央管理装置10は、インターネットを介して空調機25を制御するための空調機運転データ16を取得し、空調機25の制御を行うこと」

(3)対比・判断
引用発明における「オフィスエリア1」は本願補正発明における「同一空間(S)」に相当し、以下同様に、「空調機2A〜2D」は「空気調和装置(20,30)」に、「センサ3及び電力計測センサ4」は「機器(50)」に、「設備制御装置10」は「制御部(60)」に、「状況記憶部105」は「記憶装置(62)」に、「蓄積した温度や消費電力の情報」は「蓄積した運転データ」に、「システム」は「空気調和システム」に、それぞれ相当する。
また、引用発明における「ネットワークNを介して各空調機2A〜2Dを制御するための情報を取得」は、本願補正発明の「インターネット(100)を介して各空気調和装置(20,30)を制御するための情報を取得」と「ネットワークを介して各空気調和装置(20,30)を制御するための情報を取得」との限りにおいて一致し、引用発明における「空調機2A〜2Dの運転効率などを分析」は、本願補正発明の「空気調和装置(20,30)の性能などを分析し、故障の予兆をユーザに通知する」と「空気調和装置(20,30)の性能などを分析」の限りにおいて、一致する。

したがって、両者の一致点及び相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「同一空間(S)を空気調和する複数台の空気調和装置(20,30)と、
各空気調和装置(20,30)、及び各空気調和装置(20,30)とは独立して設けられた機器(50)の少なくとも一方から、ネットワークを介して各空気調和装置(20,30)を制御するための情報を取得し、取得した情報に基づいて、各空気調和装置(20,30)を個別に制御する制御部(60)と、
を備え、
前記制御部(60)は、取得した前記情報を格納する記憶装置(62)を備え、
前記記憶装置(62)に蓄積した運転データにより、前記空気調和装置(20,30)の性能などを分析する空気調和システム。」

[相違点1]
「ネットワークを介して各空気調和装置(20,30)を制御するための情報を取得」することに関して、本願の請求項1に係る発明は、「インターネット(100)を介して」情報を取得するものであるのに対して、引用発明は「ネットワークNを介して」情報を取得するものである点。

[相違点2]
「空気調和装置(20,30)の性能などを分析」することに関して、本願の請求項1に係る発明は、分析して「故障の予兆をユーザに通知する」ものであるのに対して、引用発明は分析して「故障の予兆をユーザに通知する」ものであるのか特定されていない点。

以下、相違点について検討する。
[相違点1について]
引用発明と引用例2技術は、ともにネットワークを介して、空調機を制御するためのデータを取得するという技術分野で共通するものである。
そうしてみると、引用発明に引用例2技術を適用して、ネットワークNとして、引用例2技術のインターネットを採用することは、当業者が容易になし得たことである。

[相違点2について]
経年劣化に伴い故障や省エネ効率の悪化が発生しやすくなるため、異常の予兆としてユーザに通知することは、例えば、特開2010−210121号公報(段落【0069】−【0088】、特に段落【0069】を参照。)に開示されているように周知技術(以下、「周知技術」という。)である。
そして、引用発明における運転効率についても、省エネ効率と同様に経年劣化に応じて悪化することは明らかであるので、異常の予兆があるときは、ユーザに通知を行う必要が生じるという課題は内在するものである。
そうしてみると、引用発明に上記周知技術を適用して、空気調和機の性能である運転効率を分析し、異常の予兆をユーザに通知するように構成することは、当業者が容易になし得たことであり、具体的な報知内容を「異常」と呼称するか、「故障」と呼称するかは、当業者が適宜選択し得た設計的事項である。

そして、本願補正発明は、引用発明、引用例2技術及び周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

したがって、本願補正発明は、引用発明、引用例2技術及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条第2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

(4)請求人の主張について
審判請求人は、令和3年6月30日提出の審判請求書において、次のとおり主張している。
「審判請求人は、別途提出の手続補正書によって、特許請求の範囲を補正しました。具体的に審判請求人は、請求項1の補正を行いました。
補正後の請求項1(以下、新請求項1という)にかかる発明(本件発明1という)は、特許請求の範囲に記載の通りであり、以下の事項によって特定されます。
(A) 同一空間(S)を空気調和する複数台の空気調和装置(20,30)と、
(B) 各空気調和装置(20,30)、及び各空気調和装置(20,30)とは独立して設けられた機器(50)の少なくとも一方から、インターネット(100)を介して各空気調和装置(20,30)を制御するための情報を取得し、取得した情報に基づいて、各空気調和装置(20,30)を個別に制御する制御部(60)と、
を備え、
(C) 前記制御部(60)は、取得した前記情報を格納する記憶装置(62)を備え、
(D) 前記記憶装置(62)に蓄積した運転データにより、前記空気調和装置(20,30)の性能などを分析し、故障の予兆をユーザに通知する
(E) ことを特徴とする空気調和システム。」、
「拒絶査定では、引用文献1に関して『段落0052には,蓄積した運転データEにより,空気調和装置の性能など(運転効率曲線)を分析する事項が示されている』とされています。
そこで、引用文献1を確認しましと、引用文献1の運転効率曲線は、制御ルールを調整するために用いられています(引用文献1の段落[0054]−[0056]参照)。すなわち、引用文献1の発明(以下、引用発明1)における分析は、制御ルールの調整を目的とした分析です。
一方、本件発明1における分析は、故障の予兆を得るための分析です(構成要件(D)参照)。すなわち、本件発明と引用発明1とでは、「分析」の意味合いが異なります。本件発明1では、いわば、システム診断に近い意味合いで「分析」を行っています。
本件発明1と引用発明1とは、このように相違点を有します。また、挙げられた他の引用文献を見ても、本件発明1における構成要件(D)については、記載も示唆もありません。
以上の通り、本件発明1は、引用文献の発明とは、全く異なる技術思想の下に創作されたものです。よって、本件発明1は、引用文献に記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることはできません。請求項1を引用する請求項の発明も同様に、当業者が容易に発明をすることはできません。」
しかしながら、上記[相違点2について]で上述したとおり、経年劣化に伴い故障や省エネ効率の悪化が発生しやすくなるため、異常の予兆としてユーザに通知することは周知技術である。
そして、引用発明における運転効率についても、省エネ効率と同様に経年劣化に応じて悪化することは明らかであるので、引用発明に上記周知技術を適用して、空気調和機の性能である運転効率を分析し、異常の予兆をユーザに通知するように構成することは、当業者が容易になし得たことであり、具体的な報知内容を「異常」と呼称するか、「故障」と呼称するかは、当業者が適宜選択し得た設計的事項である。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし8に係る発明は、令和2年10月26日提出の手続補正書により補正された請求項1ないし8に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2 1(2)に記載したとおりである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1ないし8に係る発明は、本願の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

・請求項1ないし8に対して、引用例1ないし5

<引用例一覧>
1.特開2011−247514号公報
2.特開2008−164228号公報
3.米国特許出願公開第2016/0246269号明細書
4.特開2011−202832号公報
5.特許第6028174号公報

3 引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例1、引用例2の記載事項は、前記第2 2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は前記第2 2で検討した本願補正発明から、「故障の予兆をユーザに通知」との限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本願補正発明が、上記第2[理由]2(3)に記載したとおり、引用発明、引用例2技術及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用例2技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定による特許を受けることができないから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-01-27 
結審通知日 2022-02-01 
審決日 2022-02-16 
出願番号 P2017-015256
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F24F)
P 1 8・ 121- Z (F24F)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 林 茂樹
特許庁審判官 田村 佳孝
槙原 進
発明の名称 空気調和システム  
代理人 特許業務法人前田特許事務所  

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