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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1383908
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-07-16 
確定日 2022-04-07 
事件の表示 特願2017− 17347「複合偏光板および液晶表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 8月 9日出願公開、特開2018−124467〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
特願2017−17347号(以下「本件出願」という。)は、平成29年2月2日の出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

令和 2年10月14日付け:拒絶理由通知書
令和 2年12月 4日提出:意見書
令和 2年12月 4日提出:手続補正書
令和 3年 4月15日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 3年 7月16日提出:審判請求書
令和 3年 7月16日提出:手続補正書


第2 令和3年7月16日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[結論]
令和3年7月16日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の令和2年12月4日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「 吸収型偏光膜と吸収型偏光膜を配向させる配向膜と反射型偏光板とをこの順に有し、
反射型偏光板の反射軸と吸収型偏光膜の吸収軸の成す角度が8°以下であり、
前記吸収型偏光膜が、重合性液晶化合物の重合体であり、二色性色素を含む、
複合偏光板。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。なお、下線は当合議体が付与したものであり、補正箇所を示す。

「 吸収型偏光膜と吸収型偏光膜を配向させる配向膜と反射型偏光板とをこの順に有し、吸収型偏光膜及び反射型偏光板は、それぞれ配向膜に隣接し、反射型偏光板の反射軸と吸収型偏光膜の吸収軸の成す角度が8°以下であり、
前記吸収型偏光膜が、スメクチック液晶相の状態で面内水平方向に配向固定した重合性液晶化合物の重合体であり、二色性色素を含み、前記吸収型偏光膜の厚さが5μm以下である、複合偏光板。」

2 補正の適否について
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するための必要な事項である「吸収型偏光膜」及び「反射型偏光板」について、本件出願の出願当初の明細書の【0072】、【0078】、【0084】、【0091】、【0100】、【0108】等の記載に基づき、「吸収型偏光膜及び反射型偏光板は、それぞれ配向膜に隣接し」を付加するとともに、「吸収型偏光膜」について、本件出願の出願当初の請求項6等の記載に基づき、「スメクチック液晶相の状態で面内水平方向に配向固定した」ことと特定し、さらに、本件出願の出願当初の請求項2等の記載に基づき、「厚さが5μm以下である」ことと特定するものである。また、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の技術分野(【0001】)及び解決しようとする課題(【0004】)が同一である。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定する要件を満たしているとともに、同条5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)が、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正後発明
本件補正後発明は、上記「1」「(2)本件補正後の特許請求の範囲」に記載したとおりのものである。

(2)引用文献及び引用発明
ア 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用され、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である、特開2009−9062号公報(以下、同じく「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
本発明は、反射型直線偏光子と吸収型偏光子が積層された積層偏光板ならびに、それを用いた液晶表示装置に関する。
・・・省略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記に鑑み、大型の液晶表示装置に適用可能な長尺積層偏光板、ならびに長尺積層偏光板を用いた液晶表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、鋭意検討の結果、所定の積層偏光板により上記課題を解決し得ることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、フィルム長手方向と透過軸が平行である反射型直線偏光子と、フィルム長手方向と透過軸が平行である吸収型偏光子とを、それぞれ少なくとも1層有し、両者の透過軸が平行となるように配置されている長尺積層偏光板に関する。
・・・省略・・・
【発明の効果】
【0019】
本発明の長尺積層偏光板は、生産性に優れており、さらに、透過軸がフィルム長手方向と平行であるため、大型の液晶表示装置にも適用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の長尺積層偏光板(PL)は、図2(b)に示すように、フィルム長手方向と透過軸が平行である反射型直線偏光子(Pr)と、フィルム長手方向と透過軸が平行である吸収型偏光子(Pa)とが、両者の透過軸が平行となるように配置されているものである。
【0021】
長尺の積層偏光板を得るという観点から、反射型直線偏光子(Pr)と、吸収型偏光子(Pa)の透過軸は、いずれも長尺フィルムの長手方向、すなわち、フィルム搬送方向と平行であり、生産性の観点からはロール状に巻き取られたものであることが好ましい。長尺とは、連続的に生産されたものであることを意味し、その長さは特に限定されない。大型の液晶表示装置への適用性を考慮すれば、長さは1500mm以上であることが好ましいが、連続的に生産されたものであれば、さらに長尺のものも容易に生産可能であり、長さに上限はない。また、フィルムの幅の下限は特に制限されないが、65インチ以上の大型液晶表示装置への適用の観点から850mm以上であることが好ましい。フィルム幅の上限も特に制限されないが、均一性の高いフィルムを得る観点からは、2500mm以下であることが好ましく、2000mm以下であることがさらに好ましい。
【0022】
本発明の長尺積層偏光板においては、反射型直線偏光子と吸収型偏光子の透過軸が平行であるため、特表平9−507308号公報の明細書第9頁第26行目〜第10頁第15行目の段落や同公報の図1等に記載されているように、液晶表示装置に組み込んだ場合に、光源側からの光を効率よく利用して輝度を向上するとともに、視認側からの光の反射を抑制し、視認性の高い表示を得ることができる。また、反射型直線偏光子と吸収型偏光子の両者の透過軸が長手方向に平行であることにより、ロール・トゥー・ロール法等により連続的に積層して長尺の積層偏光板を得ることができる。
【0023】
さらに、本発明の長尺積層偏光板は、フィルム長手方向と透過軸方向が平行であるため、大画面の液晶表示装置への適用が可能である。ノーマリーブラックモードの液晶表示装置においては、図3に示すように、光源側偏光板(P1)と視認側偏光板(P2)の透過軸が垂直となるように配置されているが、本発明の長尺積層偏光板(PL)を図4に示すように、反射型直線偏光子(Pr)が光源(BL)に近い側に、吸収型偏光子(Pa)が液晶セル(LC)に近い側となるように光源側偏光板(P1)として配置し、ヨウ素等の幅方向に透過軸を有する偏光板(Pb)を視認側偏光板(P2)として用いることができる。このような構成とすることで、図1(b)のように、長手方向に透過軸を有する長尺偏光板(P13)と、幅方向に透過軸を有する偏光板(P14)から、大きさが等しく、透過軸が垂直である2枚の偏光板(P23、24)を切り出すことができ、長尺偏光板の幅方向と液晶表示装置の短辺方向を一致させることができる。そのため、図1(a)の場合のように幅方向に透過軸を有する2枚の長尺偏光板を用いる場合と比較すると、長尺偏光板の幅を拡げることなく、より大画面液晶表示装置への適用が可能となる。
【0024】
本発明の長尺積層偏光板に用いられる反射型直線偏光子は、直交する直線偏光のうち、透過軸に平行な振動面を有する偏光をそのまま透過させ、反射軸に平行な振動面を有する偏光を選択的に反射するものであり、液晶表示装置の視認性を高めるという観点においては、偏光度が80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。後述する樹脂積層体の積層数を増やしたり、複屈折の大きい材料の組合せを選定することによって、偏光度を高めることができる。また、複数枚の反射型直線偏光子をそれらの透過軸が平行となるように積層したものを用いることによっても偏光度を高めることができる。
【0025】
反射型直線偏光子としては、グリッド型偏光子、屈折率差を有する2種以上の材料による2層以上の多層薄膜積層体、ビームスプリッターなどに用いられる屈折率の異なる蒸着多層薄膜、複屈折を有する2種以上の材料による2層以上の複屈折層多層薄膜積層体、複屈折を有する2種以上の樹脂を用いた2層以上の樹脂積層体を延伸したもの等が挙げられる。中でも、例えばポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネートに代表される延伸により位相差発現量の大きい材料と、ポリメチルメタクリレートに代表されるアクリル系樹脂、JSR社製のアートンに代表されるノルボルネン系樹脂等の位相差発現量の小さい材料を交互に多層積層体として、一軸延伸して得られるものを用いることが好ましく、長尺で、かつ、長手方向に透過軸を有するという観点から、複屈折を有する2種以上の樹脂を用いた2層以上の樹脂積層体を幅方向に延伸したものを用いることが好ましい。その具体例としては、3M社製のD−BEF等があげられる。反射型直線偏光子の厚さは、通常、50〜200μm程度である。
【0026】
本発明の長尺積層偏光板に用いられる吸収型偏光子は、直交する直線偏光のうち、透過軸に平行な振動面を有する偏光をそのまま透過させ、吸収軸に平行な振動面を有する偏光を選択的に吸収するものである。液晶表示装置の白輝度を上昇させる観点においては、吸収型偏光子の透過軸方向の直線偏光の吸光度は0.20以下であることが好ましく、0.15以下であることがさらに好ましい。また、液晶表示装置の黒輝度を低く抑制する観点においては、吸収軸方向の直線偏光の吸光度は0.50以上であることが好ましく、0.80以上であることがより好ましく、1.0以上であることがさらに好ましい。吸収軸方向の吸光度に上限はないが、過度に高くすると、透過軸方向の吸光度まで高くなるため、2.5以下であることが好ましく、2.0以下であることがさらに好ましい。
【0027】
吸収型偏光子としては、親水性高分子フィルムに二色性物質を吸着させて幅方向に延伸処理したものや、リオトロピック液晶性を示す二色性色素が配向しているもの、ホモジニアス配向したサーモトロピック液晶ポリマーやホモジニアス配向した架橋性液晶ポリマーのマトリックス中に二色性色素が配向しているもの等が挙げられる。
【0028】
上記のような吸収型偏光子の中でも、本発明の長尺積層偏光板においては、延伸によらず配向処理されている吸収型偏光子を用いることが好ましい。延伸フィルムは熱によって配向が小さくなったり、寸法変化を起こしやすい傾向があるため、偏光度の低下や液晶パネルから部材が剥がれたり、あるいは液晶パネルに反りを生じたりする場合がある。特に、本発明の長尺積層偏光板は主に光源側偏光板として、光源と近接して用いられ、視認側偏光板と比較して、光源からの熱の影響を受けやすいため、前述のように延伸以外の方法で配向固定されたものであることが好ましい。このような観点においては、吸収型偏光子として、リオトロピック液晶性を示す二色性色素が配向しているもの、ホモジニアス配向したサーモトロピック液晶ポリマーやホモジニアス配向した架橋性液晶ポリマーのマトリックス中に二色性色素が配向しているものを好適に用いることができる。
【0029】
中でも、リオトロピック液晶性を示す二色性色素が配向しているものは、いわゆるE型偏光子に該当し、液晶表示装置の視野角拡大に寄与する。すなわち、光源側偏光子としてE型偏光子、視認側偏光子として、ヨウ素系等のO型偏光子を用いることで、例えば国際公開WO01/63346号パンフレット、WO01/81991号国際公開パンフレット等に記載があるように、斜め方向からの光漏れが抑制できる。そのため、本発明の長尺積層偏光板においては、液晶表示装置の視野角を拡大する観点において、吸収型偏光子として、リオトロピック液晶性を示す二色性色素が配向しているものを用いることが特に好ましい。
【0030】
リオトロピック液晶性を示す二色性色素が配向しているものとしては、例えば式:(クロモゲン)(SO3M)nで表される水溶性の有機色素などを配向させたものがあげられ、クロモゲンがアゾや多環式化合物等からなって液晶性を付与し、スルホン酸又はその塩が水溶性を付与して全体としてリオトロピック液晶性を示すものを用いることができる。かかる二色性色素の具体例としては、特表平8−511109号公報、特表2002−515075号公報、特表2006−524348号公報等に記載されたものが挙げられる。また、市販品として、オプティバ社よりLCポラライザーとして販売されているもの等もある。
【0031】
他方、二色性色素含有のリオトロピック性物質も上記したリオトロピック液晶性の二色性色素に準じ、例えば、国際公開WO97/39380号国際公開パンフレットに記載されているような二色性色素を含有するリオトロピック性物質の溶液をコーティングすることで流動配向させたものを用いることができる。このような二色性色素含有のリオトロピック性物質は、ロシアンテクノロジーグループ社などより市販されている。
【0032】
このような吸収型偏光子は、基材として長尺のフィルム(以下、「長尺基材」という場合がある)を用い、リオトロピック液晶性を示す二色性色素を含有する溶液を、長尺基材の長手方向のせん断を溶液に加えながら、基材上に塗設し、配向を固定して製造することができる。
【0033】
特に、本発明においては、前記長尺基材として、長手方向に透過軸を有する長尺の反射型直線偏光子を用いることが好ましい。反射型直線偏光子を用いることで、反射型直線偏光子上に吸収型偏光子を形成でき、後述する積層の工程が不要となるため、生産性に優れる。
【0034】
反射型直線偏光子以外に、前記長尺基材として適用できる基材としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系ポリマー、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体等のスチレン系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ないしノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体等のオレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、ナイロンや芳香族ポリアミド等のアミド系ポリマー、さらにイミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アクリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー、エポキシ系ポリマー等の透明ポリマーやこれらポリマーのブレンド物からなるフィルム等が挙げられる。これらの長尺基材を用いる場合は、長尺基材上に吸収偏光子を形成後、得られた吸収型偏光子をフィルム長手方向と透過軸が平行である反射型直線偏光子上に積層することにより、長尺積層偏光板を得ることができる。また、反射型直線偏光子との積層後に、吸収型偏光子を形成するために用いた長尺基材を剥離して用いてもよいし、剥離することなく本発明の長尺積層偏光板と一体となって、偏光子の保護層や光学機能層等として用いることもできる。
【0035】
リオトロピック液晶性を示す二色性色素を含有する溶液を基材に塗設する方法は特に限定されないが、基材の長手方向のせん断を溶液に加えるためには、バーコート法、グラビアコート法、リップコート法など、長尺基材を長手方向に移動させながら塗設する方法を好適に用いることができる。さらに、このような塗設方法であれば、長尺のフィルムが得られる点で好ましい。
【0036】
塗設に際しては、必要に応じて事前に長尺基材にアルカリ処理、プライマー処理、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線処理等、耐溶剤処理等の表面処理を施すこともできる。特に、反射型直線偏光子に直接吸収型偏光子を形成する場合は、接着性を向上させる目的で、プライマー処理、コロナ処理、プラズマ処理等を行うことが好ましい。
【0037】
ホモジニアス配向したサーモトロピック液晶ポリマーや架橋性液晶ポリマー中に二色性色素が配向しているものとしては、特開平11−101964号公報、特開平11−160538号公報、特開2001−330726号公報、特開2001−133630号公報、特開2005−99065号公報、日東技報Vo135,No.1,p79(1997)等に記載されているものが挙げられる。このような吸収型偏光子は、サーモトロピック液晶ポリマーと二色性色素の溶液を、幅方向に配向軸を有する長尺配向基材上に塗布し、液晶転移温度以上に加熱した後冷却して配向を固定する方法や、重合性官能基を有する液晶モノマーと二色性色素の混合物を、幅方向に配向軸を有する長尺配向基材上に塗布し、重合性開始剤等の存在下紫外線照射等により液晶モノマーを重合することで配向する方法等により得られる。
【0038】
特に高い偏光度の偏光子を得る目的においては、液晶モノマーを紫外線照射等により重合したものを用いることが好ましく、液晶モノマーが重合性官能基を2つ以上有する架橋性液晶モノマーであることがさらに好ましい。このようにして、長尺配向基材上に液晶ポリマーが幅方向ホモジニアス配向するのに伴って二色性色素も幅方向配向するため、幅方向に吸収軸、長手方向に透過軸を有する吸収型偏光子が得られる。
【0039】
二色性色素は、入射光に対して分子の長軸と短軸とで異なる吸光度を呈するものであり、液晶ポリマー等の一軸配向に合わせて分子の長軸が該所定の方向に整列しており、入射光に含まれる振動成分を選択的に吸収、透過して偏光に変換する。かかる高二色比を有する色素としては、染料系偏光子に好ましく用いられているアゾ系、ペリレン系、アントラキノン系の色素、あるいはこれらの混合色素が好ましく、例えば、特開昭54−76171号公報等に詳しい。また、液晶ポリマーマトリックス中に二色性色素を配合する代わりに、例えば特開2005−140986号公報等に記載されているような液晶性二色性色素を含有する材料をホモジニアス配向させることによっても、吸収型偏光子を得ることができる。
【0040】
二色性色素は、偏光特性の波長域などに応じて1種又は2種以上を用いることができ、その使用量は液晶ポリマー又は液晶モノマーに対して1〜20重量%が一般的である。
【0041】
前記液晶性分子を幅方向にホモジニアス配向させ、幅方向に吸収軸を有する、すなわち、長手方向に透過軸を有する吸収型偏光子を得る観点において、長尺配向基材は前述のごとく、予め配向処理されたものが用いられる。長尺配向基材の配向処理としは、例えば、ポリビニルアルコール、ポリイミド等のポリマーの薄膜をラビングしたもの、SiOxまたはIn2O3/SnO2等を斜方蒸着したもの、摩擦転写法で形成したポリテトラフルオロエチレン等の薄膜、光配向膜などの各種配向膜を形成する方法や、フィルムを延伸する方法が挙げられる。中でも、連続的に生産し長尺フィルムを得るという観点においては、少なくとも幅方向に延伸処理したものを用いることが好ましい。
【0042】
長尺配向基材の材料としては前述のリオトロピック液晶性の吸収型偏光子に用いられる基材と同様のものを好適に用いることができる。また、塗設方法としては、長尺の吸収型偏光子を得る観点から、バーコート法、グラビアコート法、リップコート法など、基材を移動させながら塗設する方法を好適に用いることができる。
【0043】
前記反射型直線偏光子と、吸収型偏光子はいずれもフィルム長手方向に透過軸を有しており、両者の透過軸が平行となるように積層することで積層偏光板が得られる。積層は、長尺の積層偏光板を得るという目的、および、軸の平行関係を制御し易いことから、各偏光子の形成材料を積層しておき、同時に偏光機能を発現させる処理(たとえば、延伸処理)を行なう方法、一方の層の上にもう一方の層を形成する方法、ロール・トゥー・ロール法により連続的に積層する方法が好ましい。特に、偏光特性の制御の観点から、反射型直線偏光子と吸収型偏光子を個別に用意し、ロール・トゥー・ロール法により積層することが好ましい。また、積層に際しては、接着力(密着力)を調整する目的で、必要に応じて事前にアルカリ処理、プライマー処理、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線処理等の表面処理を施すこともできる。また、耐溶剤性の付与や、表面硬度の向上を目的として、耐溶剤コーティングやハードコート処理を施すこともできる。
【0044】
ロール・トゥー・ロール法により積層する方法には、転写による積層も含まれる。例えば、図5(a)に示すように、長尺(配向)基材(B)上に吸収型偏光子(Pa)を形成しておき、これを図5(b)に示すように反射型直線偏光子(Pr)上にロール・トゥー・ロールで連続的に積層した後、長尺(配向)基材(B)を剥離することによって図5(c)に示すように、反射型直線偏光子(Pr)上に吸収型偏光子(Pa)を転写することができる。特に、配向基材は一般に複屈折を有しているため、液晶表示装置に組み込んだ際に、吸収型偏光子を透過した光の偏光状態を変換する働きを有するが、これが光学設計上不都合である等の場合は、長尺配向基材を剥離、除去することが好ましい。
【0045】
また、二色性色素を有する液晶ポリマー層からなる吸収型偏光子は、厚みが小さく、自己支持性に乏しいため、配向基材を除去する場合でも、一旦配向基材ごと反射型直線偏光子上に積層した後、配向基材を剥離する転写法により積層することが好ましい。
【0046】
積層方法としては、重ね置いただけでも良いが、作業性や、光の利用効率の観点より各層を接着剤や粘着剤を用いて空気間隙なく積層することが望ましい。
・・・省略・・・
【0054】
このようにして得られた長尺積層偏光板は、液晶表示装置等の画像表示装置に適用することができる。液晶表示装置の形成は、従来に準じて行いうる。すなわち液晶表示装置は一般に、液晶セルと偏光板または光学フィルム、及び必要に応じて光源等の構成部品を適宜に組立てて駆動回路を組込むこと等により形成される。特に本発明の長尺積層偏光板(PL)は、図4に示すように、光源側偏光板(P1)、すなわち、液晶セル(LC)と光源(BL)の間に配置される偏光板として、反射型直線偏光子(Pr)が光源(BL)側、吸収型偏光子(Pa)が液晶セル(LC)側となるように配置して用いられる。
【0055】
本発明の液晶表示装置には、図3に示すように、視認側偏光板(P2)の透過軸と、光源側偏光板(P1)の透過軸が垂直に配置されており、液晶表示装置の視認性を高める観点から、視認側偏光板(P2)として、幅方向に透過軸を有する吸収型偏光板(Pb)を用いることが好ましい。吸収型偏光板(Pb)としては、ヨウ素系の偏光板を用いることが好ましい。
【0056】
さらに、本発明の液晶表示装置においては、光源側偏光板として用いられる本発明の長尺積層偏光板の透過軸が液晶表示装置の長辺方向と平行であり、視認側偏光板の透過軸が液晶表示装置の短辺方向と平行であることが好ましい。このような配置とすることで、図1(b)に示すように、長尺偏光板の幅方向と液晶表示装置の短辺方向が平行となるように偏光板を切り出すことができるため、図1(a)のような従来の偏光板を用いた場合と比較して、大画面の液晶表示装置とすることができる。
・・・省略・・・
【0059】
本発明においては、長尺積層偏光板の反射型直線偏光子と吸収型偏光子の間、あるいは吸収型偏光子と液晶セルの間や、視認側偏光板の片面または両面に、常法に従って、透明保護層を設けた偏光板として用いることもできる。このような透明保護層は、液晶表示装置を形成する際に積層することもできるが、作業性等の観点からは、ポリマーによる塗布層として、または透明保護層のラミネート層等として事前に偏光子と積層した上で液晶表示装置に組み込むことが好ましい。
・・・省略・・・
【実施例】
【0108】
以下に、本発明を実施例をあげて説明するが、本発明は以下に示した実施例に制限されるものではない。
【0109】
(実施例1)
長手方向に透過軸を有する1300mm幅の長尺反射型直線偏光子(3M製、D−BEF、偏光度:87%)にコロナ処理を施した。その上にロールコーターを用いて、リオトロピック液晶性色素(オプティバ製、LCポラライザー)を塗工幅1250mmで塗設したのち、80℃で2分間乾燥することで長手方向に透過軸を有する吸収型偏光子を形成し、長尺積層偏光板を得た。
【0110】
(参考例1)
トリアセチルセルロース(TAC)フィルム上に、実施例1と同様にリオトロピック液晶性色素の吸収型偏光子を塗設・形成した。この吸収型偏光子の吸収スペクトルを、偏光子を塗設していないTACフィルムをリファレンスとして、日立製作所製分光光度計U4100を用い、プリズム偏光子にて透過軸方向(塗設時のフィルム搬送方向)の直線偏光、吸収軸方向(搬送方向と垂直方向)の直線偏光のそれぞれについて測定した。吸収スペクトルを図6に示す。なお、550nmの光に対する吸光度は、透過軸方向が0.117、吸収軸方向が1.163であった。
【0111】
(実施例2)
ジアクリル液晶モノマー(BASF製 PalioColor LC-242)、重合開始剤(チバスペシャリティーケミカルズ製 イルガギュアー906)、二色性色素(三井化学製 S−428)を97:3:0.5の重量比で配合した20重量%のシクロペンタノン溶液を、幅方向に配向軸を有する1330mm幅のPETフィルム(東レ製 ルミラー)にグラビアロールコーターを用いて、塗工幅1250mmで塗設し、80℃で2分間乾燥後、積算光量300mJの紫外線照射により硬化させ、長手方向に透過軸を有する吸収型偏光子層を形成した。
【0112】
得られた吸収型偏光子層を、アクリル粘着剤を用いて、実施例1で用いたのと同様の長尺反射型直線偏光子に、両者の透過軸が平行となるようにロール・トゥー・ロールでPETフィルム上から転写し、長尺積層偏光板を得た。
【0113】
(参考例2)
実施例2と同様の吸収型偏光子層をPETフィルム上からTACフィルム上に転写し、参考例1と同様に吸収スペクトルを測定した。吸収スペクトルを図7に示す。なお、550nmの光に対する吸光度は、透過軸方向が0.143、吸収軸方向が0.589であった。
【0114】
(実施例3)
反射型直線偏光子として、実施例1と同様の長尺反射型直線偏光子2枚を、両者の透過軸が平行となるようにロール・トゥー・ロールで積層して用いた以外は、実施例1と同様にして、長尺積層偏光板を得た。反射型偏光子を二枚積層した状態での偏光度は95%であった。
【0115】
(実施例4)
吸収型偏光子の液晶層の塗設厚みを大きくした以外は、実施例1と同様にして長尺積層偏光板を得た。なお、参考例1と同様に、吸収型偏光子層のみの吸収スペクトルを測定したところ、550nmの光に対する吸光度は、透過軸方向が0.210、吸収軸方向が2.037であった。
【0116】
(実施例5)
吸収型偏光子の液晶層の塗設厚みを小さくした以外は実施例1と同様にして長尺積層偏光板を得た。なお、参考例1と同様に、吸収型偏光子層のみの吸収スペクトルを測定したところ、550nmの光に対する吸光度は、透過軸方向が0.047、吸収軸方向が0.458であった。
【0117】
(実施例6)
市販のIPSモード液晶パネル(日立製、WOO7000)に、光源側偏光板として、実施例1で得られた長尺積層偏光板を、透過軸がパネルの長辺方向と平行となるように切り出して配置し、視認側偏光板として、ヨウ素系偏光板(日東電工製 SEG1423DU)を、透過軸がパネル短辺方向と平行となるように配置して液晶表示装置を得た。得られた液晶表示装置を照度200ルクスの外光下で、黒表示(電圧がOFFの状態)とした場合の正面観察時の視認性および、方位角45°、極角60°方向から斜視した場合の視認性、ならびに、白表示(電源ONの状態)での正面観察時の視認性を確認した。結果を表1に示す。
【0118】
(実施例7〜10、比較例1〜2)
光源側偏光板として、実施例2〜5の長尺積層偏光板、ならびに、反射型直線偏光子(D−BEF)、ヨウ素系吸収型偏光板(日東電工製 SEG1423DU)を用いた以外は実施例6と同様に液晶表示装置を作成し、視認性および斜視時視認性を確認した。結果を表1に示す。また、前記の実施例および比較例に関して、画面のアスペクト比が16:9のワイド型液晶表示装置に、光源側偏光板と視認側偏光板の透過軸が垂直となるように配置した場合に、最大対応可能な画面サイズ(長辺方向)の計算結果を表1に併せて記載する。
【0119】
【表1】


【0120】
全体の視認性を総合的に評価すると、実施例8>比較例1>実施例6>実施例7>実施例10>実施例9>>比較例2の順であった。比較例1は特に正面方向からの視認性には優れていたものの、本発明の実施例と比較すると、大画面への適用性に欠けるものであった。」

イ 上記アの記載に基づけば、引用文献1には、実施例1として得られた長尺積層偏光板として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「 長手方向に透過軸を有する長尺反射型直線偏光子にコロナ処理を施し、その上にリオトロピック液晶性色素を塗設したのち、乾燥することで長手方向に透過軸を有する吸収型偏光子を形成し、得た長尺積層偏光板。」

(3)対比
本件補正後発明と引用発明とを対比する。

ア 吸収型偏光膜、反射型偏光板、複合偏光板
引用発明の「長尺積層偏光板」は、「長手方向に透過軸を有する長尺反射型直線偏光子にコロナ処理を施し、その上にリオトロピック液晶性色素を塗設したのち、乾燥することで長手方向に透過軸を有する吸収型偏光子を形成し」たものである。
上記製法及び構成からみて、引用発明の「吸収型偏光子」は、膜状であるといえる。
また、本件明細書の【0079】には、「反射型偏光板は、具体的には一方の振動方向の直線偏光を透過し、他方の振動方向の直線偏光を反射することができる異方性多重薄膜であることができる。この異方性多重薄膜の市販品として、例えば商品名「DBEF」や「APF」(3M社製、住友スリーエム(株))を好適に用いることができる。」と記載されているところ、本件補正後発明の「反射型偏光板」の組成や機能は特段特定されていない。そうすると、引用発明の「反射型直線偏光子」(引用文献1の【0025】に「具体例としては、3M社製のD−BEF等」とある。)と本件補正後発明の「反射型偏光板」について、偏光子か偏光板かは、表現上の差異にすぎない。
そうしてみると、引用発明の「吸収型偏光子」、「長尺反射型直線偏光子」及び「長尺積層偏光板」は、それぞれ、本願発明の「吸収型偏光膜」、「反射型偏光板」及び「複合偏光板」に相当する。
また、引用発明の「長尺積層偏光板」は、本件補正後発明の「複合偏光板」と、「吸収型偏光膜と」「反射型偏光板とを」「有」する点で共通する。

イ 反射軸と吸収軸の成す角度
上記アの製法及び構成からみて、引用発明の「吸収型偏光子」の透過軸と「長尺反射型直線偏光子」の透過軸の成す角度は、0°であるから、引用発明の「長尺反射型直線偏光子」の反射軸と「吸収型偏光子」の吸収軸との成す角度は、0°である。
そうしてみると、引用発明の「長尺積層偏光板」は、本件補正後発明の「反射型偏光板の反射軸と吸収型偏光膜の吸収軸の成す角度が8°以下であり」との要件を満たす。

(4)一致点及び相違点
ア 一致点
以上の対比結果を踏まえると、本件補正後発明と引用発明は、以下の点で一致する。

「 吸収型偏光膜と反射型偏光板とを有し、反射型偏光板の反射軸と吸収型偏光膜の吸収軸の成す角度が8°以下である、複合偏光板。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は、以下の点で相違する。

(相違点1)
本件補正後発明は、「吸収型偏光膜と吸収型偏光膜を配向させる配向膜と反射型偏光板とをこの順に有し、吸収型偏光膜及び反射型偏光板は、それぞれ配向膜に隣接」するのに対して、引用発明は、配向膜を有さず、このような構成でない点。

(相違点2)
「吸収型偏光膜」が、本件補正後発明は、「スメクチック液晶相の状態で面内水平方向に配向固定した重合性液晶化合物の重合体であり、二色性色素を含み、前記吸収型偏光膜の厚さが5μm以下である」のに対して、引用発明の「吸収型偏光子」は、「リオトロピック液晶性色素」であり、厚さは明らかでない点。

(5)判断
事案に鑑み、上記相違点1及び2について検討する。
引用文献1の【0037】、【0038】及び【0041】には、それぞれ、「このような吸収型偏光子は、・・・重合性官能基を有する液晶モノマーと二色性色素の混合物を、幅方向に配向軸を有する長尺配向基材上に塗布し、重合性開始剤等の存在下紫外線照射等により液晶モノマーを重合することで配向する方法等により得られる。」、「特に高い偏光度の偏光子を得る目的においては、液晶モノマーを紫外線照射等により重合したものを用いることが好ましく、液晶モノマーが重合性官能基を2つ以上有する架橋性液晶モノマーであることがさらに好ましい。」及び「前記液晶性分子を幅方向にホモジニアス配向させ、幅方向に吸収軸を有する、すなわち、長手方向に透過軸を有する吸収型偏光子を得る観点において、長尺配向基材は前述のごとく、予め配向処理されたものが用いられる。長尺配向基材の配向処理としは・・・光配向膜などの各種配向膜を形成する方法」と記載されている。上記記載から、引用文献1には、光配向膜などの各種配向膜を形成した長尺配向基材上に、重合性官能基を有する液晶モノマーと二色性色素の混合物を塗布し、液晶モノマーを重合することで得られる吸収型偏光子が示唆されているといえる。
そして、特開2015−165302号公報(以下「引用文献2」という。)の【0083】、【0093】、【0162】〜【0167】、特開2016−170368号公報(以下「引用文献3」という。)の【0044】〜【0046】、【0060】、【0139】〜【0145】に記載されているように、光配向膜などの各種配向膜を形成した長尺配向基材上に、重合性官能基を有するスメクチック液晶モノマーと二色性色素の混合物を塗布し、液晶モノマーを重合することで得られる吸収型偏光子は、周知技術である。ここで、引用文献2〜3に記載された吸収型偏光子が、スメクチック液晶相の状態で面内水平方向に配向固定した重合性液晶化合物の重合体であることは、当業者にとって明らかである。
上記周知技術を心得た当業者が引用文献1の上記記載に接すれば、引用発明の「リオトロピック液晶性色素を塗設したのち、乾燥することで」「形成」された「吸収型偏光子」を引用文献2〜3に記載された、光配向膜などの各種配向膜を形成した長尺配向基材上に、重合性官能基を有するスメクチック液晶モノマーと二色性色素の混合物を塗布し、液晶モノマーを重合することで得られる吸収型偏光子とすることは、当然想起するものである。
そして、引用発明に引用文献2〜3に記載された事項を適用するにあたって、吸収型偏光子の膜厚を引用文献2の【0134】、【0166】、引用文献3の【0011】、【0152】に記載された範囲内である5μm以下とすることは、当業者にとって適宜選択可能な設計事項にすぎない。
そうしてみると、引用発明に引用文献2〜3に記載された事項を適用して上記相違点1及び2に係る本件補正後発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(6)効果について
本件明細書の【0006】には、「本発明によれば、薄型複合偏光板およびそれを用いた液晶表示装置が提供できる。」と記載されている。また、同【0120】の表2には、実施例1〜7の複合偏光板の視感度補正偏光度(Py)が比較例1よりも優れていることが記載されている。
しかしながら、前者の効果については、引用発明においても複合偏光板であり、後者の効果については、単にθの差異によるものであるから、いずれも格別のものではない。
したがって、本件明細書に記載された効果は、引用発明の奏する効果であるか、又は引用発明及び引用文献2〜3に記載された事項から予測できる範囲内である。

(7)審判請求人の主張について
審判請求人は、令和3年7月16日提出の審判請求書において、「引用文献1は、吸収型偏光子の厚さを小さくすると、黒表示の性能が低下し、特に重要な正面からみた黒表示の性能が実用的なレベルを下回るほど低下することを示唆しています。」、「引用文献1には、吸収型偏光子膜が、スメクチック液晶相の状態で存在することは何ら開示も示唆もされていません。」、「引用文献1には、・・・実施例においては、反射型直線偏光子上に直接吸収型偏光子を形成した複合偏光板(実施例1)や、反射型直線偏光子と吸収型偏光子とをアクリル粘着剤を介して積層した複合偏光板(実施例2)を使用しており、配向膜を積層した複合偏光板は開示されていません。」、「引用文献2に係る発明は、長尺位相差フィルムと長尺偏光膜とを組み合わせた長尺偏光フィルム、すなわち、長尺楕円偏光板に関するものであり(引用文献2の段落[0137]等)、反射型偏光板と吸収型偏光膜という2つの偏光層を組み合わせるという技術的思想は全くありません。」、「引用文献1には、長尺積層偏光板の反射型直線偏光子と吸収型偏光子の間、あるいは吸収型偏光子と液晶セルの間や、視認側偏光板の片面または両面に、常法に従って、透明保護層を設けてよいことが記載されており(引用文献1の段落[0059])、透明保護層として、位相差フィルムが用いられることが記載されています(引用文献1の段落[0082]等)。」、「引用文献3に係る発明は、1つの偏光層を有する円偏光板等を想定した発明であり、反射型偏光板と吸収型偏光膜という2つの偏光層を組み合わせるという技術的思想は全く存在しません。」、「・・・優れた偏光機能を有することができます。」と主張している。
しかしながら、上記(5)〜(6)で述べたとおりであるから、審判請求人の主張は、いずれも採用することができない。

(8)小括
本件補正後発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2〜3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3 補正却下の決定のむすび
本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項に規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記「第2 令和3年7月16日にされた手続補正についての補正の却下の決定」[結論]のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概略、本件出願の請求項1に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

引用文献1:特開2009−9062号公報
引用文献2:特開2015−165302号公報
引用文献3:特開2016−170368号公報
(当合議体注:引用文献1は主引用例であり、引用文献2〜3は周知技術を示す文献である。)

3 引用文献及び引用発明
引用文献1の記載及び引用発明は、上記第2[理由]2(2)アないしウに記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は、上記第2[理由]2で検討した本件補正後発明から、上記第2[理由]1の補正事項に係る限定を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに限定した本件補正後発明も、上記第2[理由]2に記載したとおり、引用文献1に記載された発明及び引用文献2〜3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用文献1に記載された発明及び引用文献2〜3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-01-31 
結審通知日 2022-02-01 
審決日 2022-02-16 
出願番号 P2017-017347
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 榎本 吉孝
特許庁審判官 関根 洋之
井口 猶二
発明の名称 複合偏光板および液晶表示装置  
代理人 松谷 道子  
代理人 森住 憲一  

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