• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 訂正 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正する C07D
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する C07D
審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正する C07D
審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する C07D
審判 訂正 判示事項別分類コード:857 訂正する C07D
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する C07D
審判 訂正 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正する C07D
管理番号 1383981
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-05-27 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2021-05-11 
確定日 2022-02-07 
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第5805880号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5805880号の明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
本件訂正審判の請求に係る特許第5805880号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2012年(平成24年)10月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年10月5日 大韓民国(KR))を国際出願日とする特願2014−534478号の請求項1〜15に係る発明について、平成27年9月11日に特許権の設定登録がなされ、同年11月10日に特許掲載公報が発行された。令和3年5月11日に本件訂正審判の請求がなされた。その後の手続の経緯は、以下のとおりである。

令和3年 9月17日付け 訂正拒絶理由通知
同年10月22日 面接
同年11月 4日 意見書、手続補正書及び甲第1号証の提出
同年11月25日付け 審尋
同年12月17日 回答書及び甲第2号証の提出

第2 令和3年11月4日提出の手続補正書による訂正審判の審判請求書の補正及びその適否
1 訂正審判の審判請求書の補正
令和3年11月4日提出の手続補正書の補正の内容のうち、訂正の要旨に関する補正は、審判請求書の訂正事項のうち、訂正事項6を削除する補正である。

2 補正の適否
審判請求書においては、訂正事項として訂正事項1〜6を請求していたところ、上記審判請求書の補正は、令和3年9月17日付け訂正拒絶理由に対応して、当該訂正事項のうちの一部の訂正事項である訂正事項6を削除する補正であるから、当該補正は、審判請求書の要旨を変更するものではなく、当該補正を認める。
そして、当該補正により、上記訂正拒絶理由は解消している。

第3 請求の趣旨及び訂正の内容
本件訂正審判の請求の趣旨は、「特許第5805880号の明細書、特許請求の範囲を本件審判請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり訂正することを認める、との審決を求める。」というものである。
そして、上記第2のとおり、審判請求書の補正は認められたので、その訂正の内容は、令和3年11月4日付けの手続補正により補正された訂正事項1〜5からなるものである。

[訂正事項1]
特許請求の範囲の請求項1に「(3)塩基の存在下、不活性極性プロトン性溶媒中において、該式(V)の化合物を式(IX)の化合物と反応させて式(IV)の化合物を製造すること;」と記載されているのを、「(3)塩基の存在下、不活性極性非プロトン性溶媒中において、該式(V)の化合物を式(IX)の化合物と反応させて式(IV)の化合物を製造すること;」に訂正する。(請求項1を引用する請求項2〜15も同様に訂正する。)

[訂正事項2]
特許請求の範囲の請求項6に「工程(3)における該不活性極性プロトン性溶媒が、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリジン−2−オン、ジメチルスルホキシドおよびそれらの混合物からなる群から選択される、」と記載されているのを、「工程(3)における該不活性極性非プロトン性溶媒が、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリジン−2−オン、ジメチルスルホキシドおよびそれらの混合物からなる群から選択される、」に訂正する。

[訂正事項3]
願書に添付した明細書の段落【0015】に「(3)塩基の存在下、不活性極性プロトン性溶媒中において、該式(V)の化合物を式(IX)の化合物と反応させて式(IV)の化合物を製造すること;」と記載されているのを、「(3)塩基の存在下、不活性極性非プロトン性溶媒中において、該式(V)の化合物を式(IX)の化合物と反応させて式(IV)の化合物を製造すること;」に訂正する。

[訂正事項4]
願書に添付した明細書の段落【0023】に「工程(3)において、反応スキーム3に示される通り、不活性極性プロトン性溶媒中で塩基の存在下において、式(V)の化合物を式(IX)のtert−ブチル 4−(トシルオキシ)ピペリジン−1−カルボキシレートと反応させて式(IV)のtert−ブチル 4−(4−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシキナゾリン−6−イルオキシ)ピペリジン−1−カルボキシレートを製造する。」と記載されているのを、「工程(3)において、反応スキーム3に示される通り、不活性極性非プロトン性溶媒中で塩基の存在下において、式(V)の化合物を式(IX)のtert−ブチル 4−(トシルオキシ)ピペリジン−1−カルボキシレートと反応させて式(IV)のtert−ブチル 4−(4−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシキナゾリン−6−イルオキシ)ピペリジン−1−カルボキシレートを製造する。」に訂正する。

[訂正事項5]
願書に添付した明細書の段落【0024】に「本方法の工程(3)で用いられる不活性極性プロトン性溶媒は、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロリジン−2−オン、ジメチルスルホキシドおよびそれらの混合物からなる群から選択されてもよい。」と記載されているのを、本方法の工程(3)で用いられる不活性極性非プロトン性溶媒は、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロリジン−2−オン、ジメチルスルホキシドおよびそれらの混合物からなる群から選択されてもよい。」

第4 当審の判断
1 訂正事項1について
(1)訂正の目的について
審判請求人は、訂正事項1について、令和3年11月4日付けの手続補正により補正された6(3)ア(ア)aにおいて、訂正事項1は特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とする訂正である旨主張しているので、以下検討する。

ア 誤記の訂正について
(ア)「誤記の訂正」を目的とする訂正が認められる前提
訂正が、誤記の訂正を目的としたものとして認められるためには、請求項中の記載が、それ自体で、又は特許がされた明細書の記載との関係で、誤りであることが明らかであり、かつ特許がされた明細書、特許請求の範囲又は図面の記載全体から、正しい記載が自明な事項として定まることが必要である。

(イ)甲第2号証の記載
甲第2号証:化学辞典,1994年10月1日発行,株式会社東京化学同人発行,第1版第1刷,pp.98〜99、276〜277、1162〜1163、1208〜1209、1262〜1263

記載(a)
「イオン化溶媒[ionizing solvent] 溶質に結合して,溶質間の共有性結合A−Bをイオン性結合A+B−に変える溶媒.これはイオン化の過程であるが,さらにA+とB−という別々のイオンに解離させる反応も起こりうる.酢酸中では主として前者の段階に止まるが,水やアルコールでは後者が支配的となる.これは溶媒がその不対電子対によってイオンに溶媒和*するためで,その意味から活性溶媒(active solvent)または解離溶媒(dissociating solvent)ともいう.」(99頁左欄下から7行〜右欄2行)

記載(b)
「活性溶媒[active solvent]→イオン化溶媒」(276頁左欄下から8行)

記載(c)
「非プロトン性溶媒[aprotic solvent] プロトンを供与する能力が著しく低い溶媒.炭化水素,四塩化炭素,ジオキサン,エーテルなど.アセトン,ジメチルスルホキシド(DMSO),アセトニトリル(AN),ジメチルホルムアミド(DMF),ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)などは,大きな双極子モーメントを有し,かつ非プロトン性なので双極性非プロトン性溶媒(dipolar aprotic solvent)とよばれ,求核的あるいは求電子的性質の強い溶媒和をするので重要である.(→プロトン性溶媒)」(1163頁左欄4〜12行)

記載(d)
「不活性溶媒[inert solvent, inactive solvent] 溶質と反応しない溶媒.ベンゼン,アセトニトリル,四塩化炭素,メタンなどがその例である.不対電子をもたず,酸性も塩基性もほとんど示さないために,イオン積はきわめて小さい.アセトニトリル(ε=36.2)などの例外を別にすれば誘電率は低く,溶質のイオン化も起こらないので無機化合物の溶解度は一般に小さい.(→イオン化溶媒)」(1208ページ右欄下から9〜3行)

記載(e)
「プロトン性溶媒[protic solvent,protogenic solvent] 自分自身で解離してプロトンを生じる溶媒をいう.水,メタノールやエタノールのようなアルコール,酢酸のようなカルボン酸,フェノール,液体アンモニアなどがその例である.たとえば,酢酸は次のように解離している.

電気陰性度の大きな原子,すなわち,N,Oなどに結合した水素原子をもっている.」(1262頁右欄16〜23行)

(ウ)判断
a 請求項中の記載が、それ自体で、又は特許がされた明細書の記載との関係で、誤りであることが明らかであるかについて

(a)訂正前の本件特許の請求項1には、「(3)塩基の存在下、不活性極性プロトン性溶媒中において、該式(V)の化合物を式(IX)の化合物と反応させて式(IV)の化合物を製造すること;」と記載されているところ、訂正前の本件特許の請求項6には、「工程(3)における該不活性極性プロトン性溶媒が、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリジン−2−オン、ジメチルスルホキシドおよびそれらの混合物からなる群から選択される、」と記載されており、訂正前の願書に添付した明細書の段落【0024】には、「本方法の工程(3)で用いられる不活性極性プロトン性溶媒は、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロリジン−2−オン、ジメチルスルホキシドおよびそれらの混合物からなる群から選択されてもよい。」と記載されている。
そして、甲第2号証の記載(c)に非プロトン性溶媒の例としてジメチルスルホキシド(DMSO),ジメチルホルムアミド(DMF)が挙げられているように、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロリジン−2−オン、ジメチルスルホキシドが、非プロトン性溶媒であることは、本件特許の優先権主張日における技術常識であるから、これらの記載における「不活性極性プロトン性溶媒」は、誤りであることが明らかである。

(b)また、甲第2号証の記載(d)に記載されているように、不活性溶媒は「溶質と反応しない溶媒」のことであり、不活性溶媒の対義語である活性溶媒は、溶質と反応する溶媒である。
ある溶媒が、活性である(溶質と反応する)か、不活性である(溶質と反応しない)かは、その溶媒が使用される反応によって決まる。
甲第2号証の記載(e)の記載から明らかなように、プロトン性溶媒はプロトンを供与できる。請求項1に記載の工程(3)にプロトン性溶媒が使用された場合には、工程(3)の反応経路が阻害され、望ましくない生成物が得られることを当業者は認識する。
具体的には、式(V)の化合物は、以下のスキーム1に示すように、塩基の存在下で対応するアリールオキシドに変換される。
<スキーム1>


そして、以下のスキーム2に示すように、少なくともアリールオキシドはプロトン性溶媒(R−OHなど)と平衡状態にあるため、プロトン性溶媒中のアリールオキシドの利用可能性または溶解度が大幅に制限される。大過剰のR−OH溶媒の存在は、必然的に対応するアリールオキシドよりもはるかに反応性が低い中性型の式(V)の化合物との平衡を右側に移動させる。
<スキーム2>

さらに、平衡状態で生成され、負に帯電し、式(V)よりも反応性の高いRO−は、以下のスキーム3に誌エスように、置換反応又は脱離によって式(IX)の化合物(トシレート)と反応し、プロトン性溶媒の存在下で置換生成物と脱離生成物を形成する。
<スキーム3>

以上を踏まえると、請求項1に記載された工程(3)においては、プロトン性溶媒は、溶質と反応することから、不活性溶媒ではない。したがって、請求項1に記載された工程(3)の反応において、「不活性極性プロトン性溶媒」の語は、技術的に誤りであることが明らかである。

b 特許がされた明細書、特許請求の範囲又は図面の記載全体から、正しい記載が自明な事項として定まるかについて
甲第2号証の記載(c)に非プロトン性溶媒の例としてジメチルスルホキシド(DMSO),ジメチルホルムアミド(DMF)が挙げられていることからも明らかなように、請求項6及び段落【0024】に記載の「N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロリジン−2−オン、ジメチルスルホキシド」は、非プロトン性溶媒である。
そして、工程(3)において溶質と反応する溶媒を用いた場合には、上記aで述べたプロトン性溶媒を用いたときと同様に式(IV)の化合物の製造が阻害されてしまうことから、これらの溶媒は、工程(3)において溶質と反応しない、「不活性溶媒」である。
また、「N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロリジン−2−オン、ジメチルスルホキシド」は、その化学構造から、極性であるのは明らかである。
したがって、「N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロリジン−2−オン、ジメチルスルホキシド」を包含する「不活性極性プロトン溶媒」が、正しくは、「不活性極性非プロトン性溶媒」であることは、自明な事項として定まる。

c 以上のことから、訂正事項1は特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる、誤記の訂正を目的とするものであると認められる。

(2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1は、上記(1)で述べたように「誤記の訂正」を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の全てを総合することによって導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第126条第5項に規定に適合するといえる。

(3)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、上記(1)で述べたように「誤記の訂正」を目的とするものであり、正しい記載が自明な事項として定まるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第126条第6項の規定に適合する。

(4)独立して特許を受けることができるものであること
訂正後の請求項1〜15に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとする理由は見当たらないので、訂正事項1は、特許法第126条第7項の規定に適合する。

2 訂正事項2〜5について
訂正事項2〜5についても、上記1において検討した訂正事項1と実質的に同様の訂正をするものであるから、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とし、かつ同条第5項〜第7項の規定に適合するものである。

第5 むすび
以上のとおり、本件訂正審判の請求に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5〜7項に規定する要件に適合するものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
発明の名称 (54)【発明の名称】1−(4−(4−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシキナゾリン−6−イルオキシ)ピペリジン−1−イル)−プロパ−2−エン−1−オン塩酸塩の製造方法および該方法で用いられる中間体
【技術分野】
【0001】
本発明は、上皮増殖因子受容体の過剰発現により誘発される癌細胞の増殖を選択的および効果的に阻害し、チロシンキナーゼの変異により引き起こされる薬物耐性の発生を防止する、1−(4−(4−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシキナゾリン−6−イルオキシ)ピペリジン−1−イル)−プロパ−2−エン−1−オン塩酸塩の製造のための改良方法、ならびに該方法で用いられる中間体に関する。
【背景技術】
【0002】
下記式(I)の1−(4−(4−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシキナゾリン−6−イルオキシ)ピペリジン−1−イル)−プロパ−2−エン−1−オン塩酸塩は、抗増殖活性(例えば抗腫瘍活性)を有する重要な薬物であり、チロシンキナーゼ変異により引き起こされる薬物耐性を選択的および効果的に処置するために用いられ得る。その遊離塩基形態、すなわち、下記式(II)で示される1−(4−(4−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシキナゾリン−6−イルオキシ)ピペリジン−1−イル)−プロパ−2−エン−1−オンは、CAS登録番号1092364−38−9として同定されている。

【0003】
式(II)の化合物は、例えば、特許文献1に開示されている方法(その反応メカニズムは下記反応スキーム1に示される)によって、製造されうる。次いで、反応スキーム1に従って製造された式(II)の化合物を塩酸と反応させて、式(I)の化合物を製造してもよい。
<反応スキーム1>
【化2】

(式中、Rはハロゲンである。)
【0004】
反応スキーム1において、式10の化合物を高温(例えば、210℃)でホルムアミジン塩酸塩と縮合反応させて式9の化合物を製造し、次いでそれを有機酸(例えば、メタンスルホン酸)中においてL−メチオニンと反応させることにより式9の化合物のC−6位にてメチル基を除去して、式8の化合物を製造する。
【0005】
その後、該式8の化合物を塩基(例えば、ピリジン)および無水酢酸中において保護反応で処理して式7の化合物を製造し、次いでそれを、触媒量のN,N−ジメチルホルムアミドの存在下、還流条件下において、無機酸(例えば、塩化チオニルまたはオキシ塩化リン)と反応させて塩酸塩(hydrochlorate)形態の式6の化合物を製造する。
【0006】
撹拌下において式6の化合物をアンモニア含有アルコール溶液(例えば、7N アンモニア含有メタノール溶液)に加えることにより、アセチル基を除去して式5の化合物を製造する。該式5の化合物を、tert−ブチル 4−ヒドロキシピペリジン−1−カルボキシレートとの光延反応で処理して式4の化合物を製造し、次いで、それを有機溶媒(例えば、2−プロパノールまたはアセトニトリル)中でアニリンとの置換反応で処理して、式3の化合物を製造する。アゾジカルボン酸ジイソプロピル、アゾジカルボン酸ジエチルまたはアゾジカルボン酸ジ−t−ブチル、およびトリフェニルホスフィンを光延反応に用いてもよい。式3の化合物を、有機溶媒(例えば、ジクロロメタン)中において、有機酸または無機酸(例えば、トリフルオロ酢酸または重塩酸)と反応させることによりt−ブトキシカルボニル基を除去して、式2の化合物を製造する。
【0007】
その後、式1の化合物(すなわち、本発明の式(II)の化合物)の製造のために、該式2の化合物を、有機溶媒(例えば、テトラヒドロフラン)と水の混合液中かまたはジクロロメタン中で、無機もしくは有機塩基(例えば、炭酸水素ナトリウム、ピリジンまたはトリェチルアミン)の存在下において、アクリロイルクロリドを用いたアシル化反応で処理する。別法として、該式2の化合物を、カップリング剤(例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(EDC)または2−(1H−7−アザベンゾトリアゾール−1−イル)−l,1,3,3−テトラメチルユウロピウムヘキサフルオロホスフェートメタンアミニウム(HATU))の存在下において、アクリル酸との縮合反応で処理する。
【0008】
しかしながら、上記方法に従うと、式9の化合物の製造工程は、溶媒を用いずに高温で実施されるため危険であり、該反応が均一に進行しない場合がある。さらに、式5の化合物を製造するための工程では過剰量の塩化チオニルが用いられるが、これによりその後の工程において困難が生じる。それ故に、この方法は商業化には適していない。
【0009】
式(I)の化合物を製造するための上記方法の主な欠点は、該アクリル化反応(acrylicreaction)における最終生成物の収率が非常に低いこと(すなわち、13%)、ならびに、該反応には多くの副反応が付随するため、カラムクロマトグラフィーによる精製工程が必要であることにある。また、該式3の化合物を光延反応により製造する場合、様々な副生成物が生じるため、カラムクロマトグラフィーによる精製工程が必要とされうる。そのような場合においては、高額なシリカゲルおよび大量の移動相溶媒が必要であるので、該上記方法は商業化には適していない。
【0010】
従って、本発明者らは、高純度および高収率で式(I)の化合物を製造するための新規の方法、経済的で商業化に適した方法を開発しようと努力してきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】韓国特許第1013319号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上皮増殖因子受容体の過剰発現により誘発される癌細胞の増殖を選択的および効果的に阻害し、チロシンキナーゼの変異により引き起こされる薬物耐性の発生を防止する、1−(4−(4−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシキナゾリン−6−イルオキシ)ピペリジン−1−イル)−プロパ−2−エン−1−オン塩酸塩の製造のための改良方法、ならびに該方法で用いられる中間体に関する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明の概要
従って、本発明の目的は、1−(4−(4−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシキナゾリン−6−イルオキシ)ピペリジン−1−イル)−プロパ−2−エン−1−オン塩酸塩の製造方法を提供することである。
【0014】
本発明の別の目的は、1−(4−(4−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシキナゾリン−6−イルオキシ)ピペリジン−1−イル)−プロパ−2−エン−1−オン塩酸塩の製造で用いる中間体を提供することである。
【0015】
本発明の一態様に従って、工程:
(1)有機塩基の存在下において式(VIII)の化合物をハロゲン化剤と反応させた後、式(X)の化合物と反応させて式(VI)の化合物を製造すること;
(2)極性プロトン性溶媒中において該式(VI)の化合物をアンモニア溶液と反応させて式(V)の化合物を製造すること;
(3)塩基の存在下、不活性極性非プロトン性溶媒中において、該式(V)の化合物を式(IX)の化合物と反応させて式(IV)の化合物を製造すること;
(4)不活性溶媒中において該式(IV)の化合物を塩酸と反応させて式(III)の化合物を製造すること;
(5)塩基の存在下において、該式(III)の化合物を、

(式中、Xはハロゲンである)とアクリル化(acrylation)反応させて式(II)の化合物を製造すること;そして、
(6)該式(II)の化合物を塩酸と反応させて該式(I)の化合物を製造すること:
【化4】

【化5】

を含む、式(I)の1−(4−(4−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシキナソリン−6−イルオキシ)ピペリジン−1−イル)−プロパ−2−エン−1−オン塩酸塩の製造方法を提供する。
【0016】
本発明の別の態様に従って、式(III)のN−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニル)−7−メトキシ−6−(ピペリジン−4−イルオキシ)キナゾリン−4−アミン二塩酸塩、式(IV)のtert−ブチル 4−(4−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシキナゾリン−6−イルオキシ)ピペリジン−1−カルボキシレート、および式(V)の4−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシキナゾリン−6−オールを提供し、それらは式(I)の化合物を製造するための中間体として用いられ得る。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の詳細な説明
本方法は、下記反応スキーム2〜6に示す通り実施されうる。本方法の工程(1)および(2)は反応スキーム2に従って実施され得る:
<反応スキーム2>
【化6】

【0018】
工程(1)において、出発物質としての式(VIII)の化合物を溶媒(例えばトルエンまたはベンゼン)中において有機塩基の存在下でハロゲン化剤と反応させた後、該式(X)の化合物と反応させて、式(VI)の4−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシキナゾリン−6−イル アセテートを製造する。
【0019】
該式(VIII)の化合物は、韓国特許第1013319号に開示された方法によって製造され得る。
【0020】
本方法の工程(1)で用いられる有機塩基は、ジイソプロピルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジエチルアミン、ピリジン、4−ジメチルピリジン、モルホリンおよびそれらの混合物からなる群から選択されてもよく;該ハロゲン化剤は、塩化チオニル、オキシ塩化リンおよびそれらの混合物からなる群から選択されてもよい。
【0021】
該反応は、50℃〜150℃の温度、好ましくは60℃〜90℃、より好ましくは約75℃にて実施されてもよい。該ハロゲン化剤との反応の結果、式(VII)の化合物は有機溶媒中に含まれる(容易に分離できない)ものとして製造されうる。その後、有機溶媒中に含まれる式(VII)の化合物を式(X)の化合物と反応させて、式(VI)の4−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシキナゾリン−6−イル アセテートを製造する。
【0022】
工程(2)において、極性プロトン性溶媒(例えば、メタノール、エタノールおよびプロパノール)中において、0℃〜40℃、好ましくは10℃〜30℃、より好ましくは約25℃の温度にて、工程(1)で製造された式(VI)の化合物をアンモニア溶液またはアンモニアガスと反応させて、式(V)の4−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシキナゾリン−6−オールを製造する。
【0023】
工程(3)において、反応スキーム3に示される通り、不活性極性非プロトン性溶媒中で塩基の存在下において、式(V)の化合物を式(IX)のtert−ブチル 4−(トシルオキシ)ピペリジン−1−カルボキシレートと反応させて式(IV)のtert−ブチル 4−(4−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシキナゾリン−6−イルオキシ)ピペリジン−1−カルボキシレートを製造する。
<反応スキーム3>

【0024】
本方法の工程(3)で用いられる不活性極性非プロトン性溶媒は、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリジン−2−オン、ジメチルスルホキシドおよびそれらの混合物からなる群から選択されてもよい。該塩基は、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウムおよびそれらの混合物からなる群から選択されるアルカリ金属炭酸塩であってよい。該塩基は、式(V)の化合物の1モル当量に基づく1〜5モル当量の量で用いられる。該反応は、60℃〜100℃、好ましくは70℃〜90℃、より好ましくは約80℃の温度にて実施されてもよい。
【0025】
本発明の一実施態様に従って、式(IV)の化合物を、本方法の工程(3)におけるK2CO3による単純な再結晶化により、高純度および高収率で製造することができる。対照的に、韓国特許第1013319号に開示されている従来の方法に従うと、主要な試薬として高額のアゾジカルボン酸ジイソプロピル(DIAD)を用いる必要があり、また、カラムクロマトグラフィーにより生成物を精製する必要がある。それ故に、該従来の方法は非経済的なだけでなく、また、収率および純度の観点において本方法と比べて効果的でない(表1参照)。

【0026】
工程(4)において、反応スキーム4に示す通り、不活性溶媒中において式(IV)の化合物を塩酸と反応させて、式(III)のN−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニル)−7−メトキシ−6−(ピペリジン−4−イルオキシ)キナゾリン−4−アミン二塩酸塩を製造する。
<反応スキーム4>

【0027】
本方法の工程(4)で用いられる不活性溶媒は、メタノール、エタノール、プロパノール、酢酸エチル、酢酸メチル、アセトンおよびそれらの混合物からなる群から選択されてもよい。塩酸は、1モル当量の式(IV)の化合物に基づいて3〜10モル当量の量で用いられうる。該反応は、0℃〜60℃、好ましくは10℃〜40℃、より好ましくは約25℃の温度にて、撹拌下において、1〜24時間行われうる。
【0028】
工程(5)において、反応スキーム5に示す通り、塩基の存在下において、式(III)の化合物を、
【化9】

(式中、Xはハロゲンである)(例えば、アクリロイルクロリド)とのアクリル化反応で処理して、式(II)の1−(4−(4−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシキナソリン−6−イルオキシ)ピペリジン−1−イル)プロパ−2−エン−1−オンを製造する。
<反応スキーム5>

【0029】
本方法の工程(5)は、有機溶媒(例えば、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトン、1,4−ジオキサン、アセトニトリル、ジクロロメタン、四塩化炭素、クロロホルム、N,N−ジメチルホルムアミドまたはジメチルスルホキシド)、または該有機溶媒と水の混合液中において行われ得る。テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトン、1,4−ジオキサンおよびアセトニトリルからなる群から選択される有機溶媒と水の混合液が好ましい。
【0030】
工程(5)で用いられる塩基は、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたは炭酸セシウムといった有機塩基か、あるいはジイソプロピルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンまたはジエチルアミンといった有機塩基からなる群から選択されてもよい。この反応において、該塩基は、1モル当量の式(III)の化合物に基づいて3〜5モル当量の量で用いられうる。アクリル化反応は、−30℃〜20℃、好ましくは約0℃の温度にて、20分〜3時間、撹拌下において行われうる。
【0031】
該反応の完了後、得られた混合物を、式(III)の化合物の量に基づいて15〜30(w/v)倍の量のアセトン水溶液を用いて再結晶化させる。
【0032】
本発明の一実施態様に従って、式(II)の化合物を、本方法の工程(5)における単純な再結晶化により、高純度および高収率で製造することができる。一方で、韓国特許第1013319号に開示されている従来の方法に従うと、該生成物をカラムクロマトグラフィーにより精製する必要がある。従って、該従来の方法は、収率および純度の観点において、本方法を比べて効果的でない(表2参照)。
<表2>

【0033】
工程(6)において、反応スキーム6に示す通り、有機溶媒中において、式(II)の化合物を塩酸と反応させて式(I)の1−(4−(4−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシキナゾリン−6−イルオキシ)ピペリジン−1−イル)プロパ−2−エン−1−オン塩酸塩を製造する。
<反応スキーム6>

【0034】
本方法の工程(6)において用いられる有機溶媒は、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、酢酸エチル、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、1,4−ジオキサンおよびそれらの混合物からなる群から選択されてもよい。該反応は、0℃〜60℃、好ましくは10℃〜40℃、より好ましくは約25℃の温度にて行われうる。
【0035】
本発明に従って、本方法で用いられる主要な中間体である、式(III)のN−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニル)−7−メトキシ−6−(ピペリジン−4−イルオキシ)キナゾリン−4−アミン二塩酸塩、式(IV)のtert−ブチル 4−(4−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシキナゾリン−6−イルオキシ)ピペリジン−1−カルボキシレート、および式(V)の4−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシキナゾリン−6−オールといった新規化合物を提供する。これらの化合物は、上皮増殖因子受容体の過剰発現により誘発される癌細胞の増殖を選択的および効果的に阻害し、チロシンキナーゼの変異により引き起こされる薬物耐性の発生を防止する、式(I)の1−(4−(4−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシキナゾリン−6−イルオキシ)ピペリジン−1−イル)プロパ−2−エン−1−オン塩酸塩の製造において用いられ得る。
【0036】
本発明に従って、式(I)および(II)の化合物を、簡単で低コストの方法により高収率で製造することができる。本方法に従って、式(VIII)の化合物をインシチューで式(VI)の化合物に簡単に変換させることができ、いずれの特別な精製工程を行わずに式(V)の化合物を製造することができる。また、式(II)、(III)および(IV)の化合物を製造するための従来の方法はさらなる精製または抽出工程(例えば、カラムクロマトグラフィーによる)を必要とし、それにより商業化に適しにくいものとなっている。しかしながら、本方法は、反応混合液に溶媒を加えて固相の生成物を製造し、再結晶化させ、該生成物を濾過することによって、最終生成物を高純度および高収率で製造することを可能にする。
【0037】
以下の実施例は、本発明を、その範囲を制限することなくさらに例示することを意図している。
【実施例】
【0038】
実施例1:4−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシキナゾリン−6−イルアセテート(式(VI)の化合物)の製造
【化12】

7−メトキシ−4−オキソ−3,4−ジヒドロキナゾリン−イル アセテート(100 g)を、トルエン(850 ml)およびN,N−ジイソプロピルエチルアミン(82.5 ml)に加えた。そこにオキシ塩化リン(100 ml)を75℃にて20分かけて加え、その後3時間撹拌した。得られた混合液にトルエン(450ml)および3,4−ジクロロ−2−フルオロアニリン(84.6g)を加え、その後2時間撹拌した。該反応の完了後、得られた混合液を25℃まで冷却した。そのようにして得られた固形物を減圧濾過し、トルエン(400ml)で洗浄した。イソプロパノール(1,000ml)を該固形物に加えた後、2時間撹拌した。得られた固形物を濾過し、イソプロパノール(400ml)で洗浄した。該固形物をオーブン中において40℃で乾燥させて式(VI)の化合物を得た(143g,収率:83%)。
1H−NMR (DMSO−d6, 300 MHz,ppm) δ 8.92 (s, 1H), 8.76 (s, 1H), 7.69−7.57 (m, 3H), 4.01 (s, 3H), 2.38 (s, 3H).
【0039】
実施例2:4−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシキナゾリン−6−オール(式(V)の化合物)の製造

4−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシキナゾリン−6−イル アセテート(100 g)をメタノール(1,000 ml)と混合した。該混合液を10〜15℃まで冷却し、アンモニア溶液(460 g)を加え、25℃で3時間撹拌した。そのようにして得られた固形物を濾過し、メタノール(200 ml)および水(200 ml)の混合溶媒で洗浄した。得られた固形物をオーブン中で40℃にて乾燥させて、式(V)の化合物を得た(74 g, 収率:83%)。
1H−NMR (DMSO−d6, 300 MHz, ppm) δ 9.57 (br, 2H), 8.35 (s, 1H), 7.68 (s, 1H), 7.61−7.52 (m, 2H), 7.21 (s, 1H), 3.97 (s, 3H).
【0040】
実施例3:tert−ブチル−4−(4−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシキナゾリン−6−イルオキシ)ピペリジン−1−カルボキシレート(式(IV)の化合物)の製造

4−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシキナゾリン−6−オール(60g)を、撹拌下においてN−ジメチルホルムアミド(360 ml)と混合した後、tert−ブチル4−(トシルオキシ)ピペリジン−1−カルボキシレート(120 g)および炭酸カリウム(72 g)を該混合液に加えた。該反応温度を70℃まで上昇させ、該混合液を14時間撹拌した。得られた溶液の温度を25℃まで冷却し、そこに水(480 ml)をゆっくりと加えた。そのようにして得られた固形物を濾過し、乾燥させた。該固形物を、ジクロロメタンおよびメタノールの混合溶媒(600 ml)に溶解させた。次いで、そこに活性炭(6 g)を加えた後、30分間撹拌した。得られた混合液をセライトパッドによって濾過し、減圧下において蒸留し、アセトン(300 ml)と混合し、2時間撹拌した。得られた固形物を濾過し、アセトン(100 ml)で洗浄した。該固形物をオーブン中で40℃にて乾燥させて、式(IV)の化合物を得た(75 g, 収率: 83%)。
1H−NMR (DMSO−d6, 300 MHz, ppm) δ 8.69 (s, 1H), 8.47 (t, 1H), 7.34−7.29 (m, 2H), 7.20 (s, 1H), 4.63−4.60 (m, 1H), 3.82 (s, 3H), 3.83−3.76 (m, 2H), 3.37−3.29 (m, 2H), 1.99−1.96 (m, 2H), 1.90−1.84 (m, 2H),1.48 (s, 9H).
【0041】
実施例4:N−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニル)−7−メトキシ−6−(ピペリジン−4−イルオキシ)キナゾリン−4−アミン二塩酸塩(式(III)の化合物)の製造

アセトン(740 ml)をtert−ブチル 4−(4−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシキナゾリン−6−イルオキシ)ピペリジン−1−カルボキシレート(75 g)に加えた後、撹拌した。該混合液に塩酸(145 ml)を10分間で加え、5時間撹拌した。反応の完了後、得られた混合液を濾過し、そのようにして得られた固形物をアセトン(73 ml)で洗浄した。該固形物をオーブン中において30℃で乾燥させて、式(III)の化合物を得た(71 g, 収率: 99%)。
1H−NMR (DMSO−d6, 300 MHz, ppm) δ12.95 (bs, 1H), 9.42 (bs, 1H), 9.18 (bs, 1H), 9.01 (s, 1H), 8.86 (s, 1H), 7.69−7.56 (m, 2H), 7.45 (s, 1H), 5.11−5.08 (m, 1H), 4.03 (s, 3H), 3.29−3.20 (m, 4H), 2.33−2.30 (m, 2H),1.96−1.93 (m, 2H).
【0042】
実施例5:1−(4−(4−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシキナゾリン−6−イルオキシ)ピペリジン−1−イル)プロパ−2−エン−1−オン(式(II)の化合物)の製造

N−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニル)−7−メトキシ−6−(ピペリジン−4−イルオキシ)キナゾリン−4−アミン二塩酸塩(100 g)および炭酸水素ナトリウム(66 g)を、テトラヒドロフラン(630 ml)および水(1 L)の混合溶媒に加え、該反応混合液の温度を、氷水を用いて0℃まで冷却した。テトラヒドロフラン(370 ml)で希釈したアクリロイルクロリド(24 ml)を該反応混合液に30分かけてゆっくりと加えた後、0℃で30分間撹拌した。反応の完了後、アセトン水溶液(2.0 L)を得られた混合液に加え、12時間撹拌し、濾過して1−(4−(4−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシキナゾリン−6−イルオキシ)ピペリジン−1−イル)プロパ−2−エン−1−オンを得た(72 g, 収率: 75%)。そのようにして得られた固形物を、ジクロロメタン(200 ml)およびメタノール(100 ml)の混合溶媒に溶解させ、酢酸エチル(1.2 L)を加え、12時間撹拌した。得られた固形物を濾過し、酢酸エチル(100 ml)で洗浄した。該固形物をオーブン中で40℃にて乾燥させて、式(II)の化合物を得た(55 g, 収率: 76%,総収率 = 57%)。
1H−NMR (CDCl3, 300 MHz, ppm) δ8.68(s, 1H), 8.39(t, 3H), 7.31(m, 3H), 6.61(m, 1H), 6.29(m, 1H), 5.72(m, 1H), 4.75(m, 1H), 4.02(s, 3H), 3.89(m, 2H), 3.60(m, 2H), 1.86(m, 4H).
【0043】
実施例6:l−(4−(4−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシキナゾリン−6−イルオキシ)ピペリジン−1−イル)プロパ−2−エン−1−オン塩酸塩(式(I)の化合物)の製造

1−(4−(4−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシキナゾリン−6−イルオキシ)ピペリジン−1−イル)プロパ−2−エン−1−オン(150 g)をメタノール(700 ml)に加えた。メタノール(300 ml)で希釈した塩酸(38.2 ml)をそこに加えた後、24時間撹拌した。そのようにして得られた固形物を濾過し、アセトン(100 ml)で洗浄した。得られた固形物をオーブン中において40℃で24時間乾燥させて、式(I)の化合物を得た(131 g,収率: 81%)。
1H−NMR (DMSO−d6, 300 MHz, ppm) δ12.31 (bs, 1H), 8.83 (s, 1H), 8.67 (s, 1H), 7.64−7.55 (m, 2H), 7.39 (s, 1H), 6.87−6.78 (m, 1H), 6.12−6.06 (m, 1H), 5.68−5.64 (m, 1H), 5.07−5.01 (m, 1H), 4.06−3.88 (m, 5H), 3.51 (t, 1H), 3.32 (t, 1H), 2.10 (t, 1H), 1.60 (t, 1H).
【0044】
本発明は、上記の特定の実施態様に関して記載されているけれども、本発明は当業者によって様々な改変および変更がなされてもよく、それもまた添付の特許請求の範囲により定義される本発明の範囲内であることが認識されるべきである。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
(1)有機塩基の存在下において式(VIII)の化合物をハロゲン化剤と反応させた後、式(X)の化合物と反応させて式(VI)の化合物を製造すること;
(2)極性プロトン性溶媒中において式(VI)の化合物をアンモニア溶液と反応させて式(V)の化合物を製造すること;
(3)塩基の存在下、不活性極性非プロトン性溶媒中において、該式(V)の化合物を式(IX)の化合物と反応させて式(IV)の化合物を製造すること;
(4)不活性溶媒中において該式(IV)の化合物を塩酸と反応させて式(III)の化合物を製造すること;
(5)塩基の存在下において、該式(III)の化合物を、

(式中、Xはハロゲンである)とアクリル化反応させて式(II)の化合物を製造すること;および、
(6)該式(II)の化合物を塩酸と反応させて式(I)の化合物を製造すること:
【化2】

【化3】

を含む、式(I)の1−(4−(4−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシキナソリン−6−イルオキシ)ピペリジン−1−イル)−プロパ−2−エン−1−オン塩酸塩の製造方法。
【請求項2】
工程(1)がトルエン、ベンゼンおよびそれらの混合物からなる群から選択される溶媒中において行われる、請求項1に記載の方法。【請求項3】工程(1)における該有機塩基が、ジイソプロピルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジエチルアミン、ピリジン、4−ジメチルピリジン、モルホリンおよびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(1)における該有機塩基が、ジイソプロピルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジエチルアミン、ピリジン、4−ジメチルピリジン、モルホリンおよびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程(1)における該ハロゲン化剤が、塩化チオニル、オキシ塩化リンおよびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
工程(2)における該極性プロトン性溶媒が、メタノール、エタノール、プロパノールおよびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
工程(3)における該不活性極性非プロトン性溶媒が、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリジン−2−オン、ジメチルスルホキシドおよびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
工程(3)における該塩基が、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウムおよびそれらの混合物からなる群から選択されるアルカリ金属炭酸塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
該塩基が、式(V)の化合物の1モル当量に基づいて1〜5モル当量の量で用いられる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程(4)における該不活性溶媒が、メタノール、エタノール、プロパノール、酢酸エチル、酢酸メチル、アセトンおよびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
工程(4)における該塩酸が、式(IV)の化合物の1モル当量に基づいて3〜10モル当量の量で用いられる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
工程(5)が、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトン、1,4−ジオキサン、アセトニトリル、ジクロロメタン、四塩化炭素、クロロホルム、N,N−ジメチルホルムアミドおよびジメチルスルホキシド、ならびに該有機溶媒と水の混合液からなる群から選択される有機溶媒中で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
工程(5)における該塩基が、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸セシウム、ジイソプロピルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンおよびジエチルアミンからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
工程(5)における該塩基が、式(III)の化合物の1モル当量に基づいて3〜5モル当量の量で用いられる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
工程(5)が、式(II)の化合物を、式(III)の化合物の量に基づいて15〜30(w/v)倍の量のアセトン水溶液を用いて再結晶化させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
工程(6)が、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、酢酸エチル、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、1,4−ジオキサンおよびそれらの混合物からなる群から選択される有機溶媒中で行われる、請求項1に記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2022-01-07 
結審通知日 2022-01-13 
審決日 2022-01-28 
出願番号 P2014-534478
審決分類 P 1 41・ 851- Y (C07D)
P 1 41・ 854- Y (C07D)
P 1 41・ 841- Y (C07D)
P 1 41・ 852- Y (C07D)
P 1 41・ 855- Y (C07D)
P 1 41・ 853- Y (C07D)
P 1 41・ 857- Y (C07D)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 吉岡 沙織
大熊 幸治
登録日 2015-09-11 
登録番号 5805880
発明の名称 1−(4−(4−(3,4−ジクロロ−2−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシキナゾリン−6−イルオキシ)ピペリジン−1−イル)−プロパ−2−エン−1−オン塩酸塩の製造方法および該方法で用いられる中間体  
代理人 山下 武志  
代理人 高岡 亮一  
代理人 山下 武志  
代理人 岩堀 明代  
代理人 高岡 亮一  
代理人 小田 直  
代理人 岩堀 明代  
代理人 小田 直  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ