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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02C
管理番号 1384011
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-01-31 
確定日 2022-05-12 
事件の表示 特願2018−127900「アイウエアおよびテンプル」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 1月16日出願公開、特開2020− 8654、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2018−127900号(以下「本件出願」という。)は、平成30年7月4日の出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和元年 7月31日付け:拒絶理由通知書
令和元年 9月27日提出:意見書
令和元年 9月27日提出:手続補正書
令和2年 2月25日付け:拒絶理由通知書
令和2年 4月17日提出:意見書
令和2年 4月17日提出:手続補正書
令和2年 9月16日付け:拒絶理由通知書
令和2年11月16日提出:意見書
令和2年11月16日提出:手続補正書
令和3年 3月26日付け:拒絶理由通知書
令和3年10月29日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和4年 1月31日提出:審判請求書
令和4年 1月31日提出:手続補正書
令和4年 3月 9日付け:前置報告書


第2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、概略、以下のとおりである。
理由1(進歩性
本件出願の(令和2年11月16日にした手続補正後の)請求項1〜請求項10に係る発明は、本件の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記の引用文献7〜9に記載された発明に基づいて、本件の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献7:特開2013−68713号公報
引用文献8:特開2001−21845号公報
引用文献9:米国特許出願公開第2014/0247421号明細書
(引用文献7〜9はそれぞれが主引用文献である。)

理由2(明確性
本件出願は、(令和2年11月16日にした手続補正後の)特許請求の範囲の請求項1〜請求項10に係る発明の記載が明確でないから、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。


第3 本件発明
本件出願の請求項1〜請求項10に係る発明(以下それぞれ「本件発明1」〜「本件発明10」という。)は、令和4年1月31日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1〜請求項10に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、請求項1〜請求項10の記載は以下のとおりである。
「【請求項1】
フロントと、
前記フロントに連結し、当該フロントと挟む角度が最も小さい折畳位置から当該フロントと挟む角度が最も大きい開き位置までの範囲において回転可能なテンプルと、
を備え、
前記テンプルは、当該フロントに対する当該テンプルの姿勢を調整する一つの部品を有し、
前記一つの部品は、少なくとも一つの第1変形部および少なくとも一つの第2変形部を有し、
前記フロントの短手方向を上下方向とし、前記フロントの長手方向を左右方向とした場合、
前記少なくとも一つの第1変形部は、前記少なくとも一つの第1変形部の前記上下方向の厚みが、前記少なくとも一つの第1変形部の前記左右方向の厚みよりも薄い板状をなしており、前記上下方向に塑性変形することで、前記テンプルに対する前記フロントの傾斜角度を調整し、
前記少なくとも一つの第2変形部は、前記少なくとも一つの第2変形部の前記左右方向の厚みが、前記少なくとも一つの第2変形部の前記上下方向の厚みよりも薄い板状をなしており、前記左右方向に弾性変形することで、前記テンプルの開き角度を調整し、
前記テンプルは、前記テンプルの長手方向の一方側の端部に設けられた回転中心を介して、前記フロントに対して回転可能に連結されており、
前記一つの部品は、前記テンプルの前記回転中心と使用者の側頭部と接する部分との間に位置することを特徴とするアイウエア。
【請求項2】
前記少なくとも一つの第1変形部および前記少なくとも一つの第2変形部は、前記テンプルの長手方向に並べるように形成されたことを特徴とする請求項1に記載のアイウエア。
【請求項3】
前記少なくとも一つの第1変形部は、前記少なくとも一つの第2変形部よりも前記テンプルの回転中心側に形成されていることを特徴とする請求項2に記載のアイウエア。
【請求項4】
前記少なくとも一つの第2変形部は、バネ部材であり、当該バネ部材が弾性変形することにより前記テンプルが前記開き位置に位置する際の開き角度を大きくすることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のアイウエア。
【請求項5】
前記少なくとも一つの第1変形部および前記少なくとも一つの第2変形部は、少なくとも一種類の金属によって形成されていることを特徴とする請求項4に記載のアイウエア。
【請求項6】
前記テンプルおよび前記フロントを連結する丁番をさらに有し、
前記丁番の前記テンプル側の丁番部分は、前記少なくとも一つの第1変形部および前記少なくとも一つの第2変形部と一体に形成されていることを特徴とする請求項5に記載のアイウエア。
【請求項7】
フロントを備えるアイウエアに使用されるテンプルであって、
前記テンプルを前記アイウエアに取り付けた場合、異なる二つの方向に当該テンプルの姿勢を調整する一つの部品を備え、
前記フロントの短手方向を上下方向とし、前記フロントの長手方向を左右方向とした場合、
前記異なる二つの方向は、前記上下方向及び前記左右方向であり、
前記一つの部品は、少なくとも一つの第1変形部および少なくとも一つの第2変形部を有し、
前記少なくとも一つの第1変形部は、前記少なくとも一つの第1変形部の前記上下方向の厚みが、前記少なくとも一つの第1変形部の前記左右方向の厚みよりも薄い板状をなしており、前記上下方向に塑性変形することで、前記テンプルに対する前記フロントの傾斜角度を調整し、
前記少なくとも一つの第2変形部は、前記少なくとも一つの第2変形部の前記左右方向の厚みが、前記少なくとも一つの第2変形部の前記上下方向の厚みよりも薄い板状をなしており、前記左右方向に弾性変形することで、前記テンプルの開き角度を調整し、
前記一つの部品は、前記テンプルを前記アイウエアに取り付けた場合において、当該テンプルの前記フロントと連結する側の端部と当該アイウエアの使用者の側頭部と接する部分との間に位置することを特徴とするテンプル。
【請求項8】
前記少なくとも一つの第1変形部および前記少なくとも一つの第2変形部は、前記テンプルの長手方向に並べるように形成されていることを特徴とする請求項7に記載のテンプル。
【請求項9】
前記少なくとも一つの第1変形部は、前記少なくとも一つの第2変形部よりも前記テンプルの前記フロントと連結する側の端部の近くに形成されていることを特徴とする請求項8に記載のテンプル。
【請求項10】
前記少なくとも一つの第1変形部は前記少なくとも一つの第2変形部と一体に形成され、かつ、当該前記少なくとも一つの第1変形部よりも前記テンプルの長手方向の前記フロントと連結する側の端部側に形成されている連結部をさらに有することを特徴とする請求項9に記載のテンプル。」


第4 当審の判断
1 引用文献10の記載及び引用文献10に記載された発明
(1)引用文献10の記載
令和4年3月9日付けの前置報告書において引用された、引用文献10(特開2013−253998号公報)は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには以下の記載がある。なお、下線は当審において付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、平面形態のプレフレーム(中間製品)を成形し、このプレフレームから成形される眼鏡フレーム、眼鏡フレーム成形用のプレフレーム並びに眼鏡フレームの成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡の部品点数の削減、製造工程の工程数の削減を図るために、本発明者は、既に、一対のリム部,リム部同士を繋ぐブリッジ部、及び一対のリム部それぞれに設けられる智部を含むフロントが、一枚の板材から構成した眼鏡フレームを提案している(特許文献1参照)。
・・・中略・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、リムによってレンズを支持するために、フレームに力が加わると、その歪みがレンズに作用し、レンズが外れてしまう場合がある。また、リムは必ずレンズの周縁を保持する構成であり、デザインが制約されてしまう。 また、従来は、丁番を介してテンプルを支持する構成であり、テンプルは別体構造となっており、依然として部品点数及び製造工数がかかるというネックがあった。
【0005】
本発明の目的は、リムの制約を無くし、さらにテンプルまで一体として、さらなる部品点数の減少、及び製造工程数の減少を図り得る眼鏡フレーム及び眼鏡フレーム成形用のプレフレーム並びに眼鏡フレームの成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の眼鏡フレームは、レンズとは非接触のフロントフレームと、該フロントフレームと一体的に連結され少なくともレンズを固定するためのレンズ固定部を備えたフロントパーツと、前記フロントフレームに一体的に連結されるテンプルとが、一枚の平面的な板材から一体的に成形されていることを特徴とする。
好適な形態としては、前記フロントパーツは、フロントフレームに対して連結片によって連結されていることが好ましい。
さらに好適な形態としては、前記フロントフレームの、フロントパーツ連結部よりもヨロイ部側の部分の弾性変形によってテンプルが開閉する構成とすることが好適である。
・・・中略・・・
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、フロントフレームと同時にテンプルについても一枚の板材によって成形できるので、部品点数を減少させ、さらなる製造工程数を減少させることができる。
また、フロントフレームに対して後面側に折り曲げられたフロントパーツに設けられたレンズ固定部にてレンズを支持するために、フロントフレームが変形しても、その歪みが直接レンズに作用しない。
また、フロントフレームとレンズとは無関係なので、デザイン上の自由度が向上する。」

イ 「【発明を実施するための形態】
・・・中略・・・
【0029】
図7は、本発明の実施形態2に係る眼鏡フレームを示すものである。 この眼鏡フレームが、実施の形態1の上半分だけで構成されたもので、フロントフレームが疑似上リム部のみで構成され、これに続くテンプルも、テンプル線部のみで構成されている点で相違する。以下の説明では、主として相違点のみを説明するものとし、同一の構成部分は同一の符号を付して説明は省略するものとする。
【0030】
本実施の形態2に係る眼鏡フレーム1は、図7(A)に示すように、フロントフレーム210と、パッド足23とレンズ2を固定するためのレンズ固定部25を備えたフロントパーツ20と、テンプル230と、を備えている。テンプル230には、別体のモダン240が装着され、パッド足21には別体のノーズパッド50が装着される。
フロントフレーム210は、レンズ外周が非接触状態で、レンズ2に干渉しない状態で設けられる上部疑似リム部211、211(リムとしてのレンズ保持機能を備えていないが、デザイン上はリムに見える)と、上部疑似リム部211,211間を連結するブリッジ部213と、左右の上部疑似リム部211,211の側方端に位置するヨロイ部215,215を備えている。
【0031】
上部疑似リム部211は、正面視でレンズ2の上縁に沿った形状であるが、ブリッジ部213に近い側である中央寄りの部分はレンズ2に対して所定距離だけ前方に位置し、左右の側方端に向けて徐々に後方に湾曲し、この後方湾曲部がレンズ2の位置を通り越してレンズ2よりも後方に延びる構成となっている。
ヨロイ部215は矩形状で、上下の幅が上部疑似リム部211の幅よりも大きく、この例ではテンプル230が、ヨロイ部215の下半部から延びる構成である。フロントパーツ20は、実施の形態1と全く同一である。
【0032】
テンプル230は、フロントフレーム210の左右両端に位置するヨロイ部215から、U字状に折り返される折り返し部231を介して、後方に延びるテンプル本体部233と、テンプル本体部233の後端からさらにU字状に折り返される折り返し部235を介して、さらに後方に延びるモダン装着軸237とから構成されている。
ここで、前端の折り返し部231及び後端折り返し部235は、いずれも外側に向かってU字状に折り返されている。
テンプル本体部33の前端折り返し部235のテンプル本体部233側には適宜屈曲部が設けられる。テンプル本体部233は外側に向かって凸の湾曲が付けられている点は同一である。
・・・中略・・・
【0038】
図8乃至図17は、本発明の各種変形例を示している。
・・・中略・・・
【0042】
図13は、テンプル230の折り返し部231をねじって、テンプル230の面を上下に向けた例である。折り返し部231をねじると、フロントフレーム210の疑似リム部211がねじれる。 図13(C)は、一度ねじり、さらに互いに直交方向に2段階に折り返したものである。
【0043】
図14(A)は、フロントフレーム10の上部疑似リム11Uと下部疑似リム11Lの端部にそれぞれ一対のテンプル片33b、33bが折り返し部31,31を介して連結された構成で、それぞれの折り返し部31,31がねじられ、テンプル片33b、33bの面が上下に向けて重なった構成となっている。上下の折り返し部31、31についても上下に接触する構成となっている。
図14(B)は、テンプル230の折り返し部231とテンプル本体部233との間に、局部的に細くしてジグザグ状に屈曲させたばね作用部234を設けた例である。」

ウ 「【図7】


【図14】



(2)引用文献10に記載された発明
引用文献10の【0043】及び図14(B)には、【0006】に記載された構成を前提とし、上下方向の厚みが、左右方向の厚みよりも薄く形成されている板状である「ばね作用部234」を具備する、以下の「眼鏡フレーム」が記載されている。
(当合議体注:眼鏡フレームの構造及び各部材の番号等の記載から、上記【0043】及び図14(B)の構成が、【0029】〜【0032】及び図7(A)に記載された「実施形態2に係る眼鏡フレーム」の「変形例」であることが理解できる。)

「レンズとは非接触のフロントフレームと、該フロントフレームと一体的に連結され少なくともレンズを固定するためのレンズ固定部を備えたフロントパーツと、前記フロントフレームに一体的に連結されるテンプルとが、一枚の平面的な板材から一体的に成形されている眼鏡フレームであって、
フロントフレーム210と、パッド足23とレンズ2を固定するためのレンズ固定部25を備えたフロントパーツ20と、テンプル230と、を備え、テンプル230には、別体のモダン240が装着され、パッド足21には別体のノーズパッド50が装着され、
フロントフレーム210は、レンズ外周が非接触状態で、レンズ2に干渉しない状態で設けられる上部疑似リム部211、211(リムとしてのレンズ保持機能を備えていないが、デザイン上はリムに見える)と、上部疑似リム部211,211間を連結するブリッジ部213と、左右の上部疑似リム部211,211の側方端に位置するヨロイ部215,215を備え、
テンプル230は、フロントフレーム210の左右両端に位置するヨロイ部215から、U字状に折り返される折り返し部231を介して、後方に延びるテンプル本体部233と、テンプル本体部233の後端からさらにU字状に折り返される折り返し部235を介して、さらに後方に延びるモダン装着軸237とから構成され、
テンプル230の折り返し部231とテンプル本体部233との間に、局部的に細くしてジグザグ状に屈曲させたばね作用部234を設け、
ばね作用部234は、その上下方向の厚みが、その左右方向の厚みよりも薄く形成されている板状である、眼鏡フレーム。」

ここで、上記「眼鏡フレーム」及び「レンズ2」から構成される「眼鏡」の発明を以下「引用眼鏡発明10」という。また、上記「眼鏡フレーム」が備える「テンプル230」の発明を、以下「引用テンプル発明10」という。

2 本件発明1〜6についての対比及び判断
(1)対比
本件発明1と引用眼鏡発明10とを対比する。
ア 「アイウエア」及び「テンプル」
引用眼鏡発明10は、「眼鏡フレーム」及び「レンズ」からなる「眼鏡」である。そして、「眼鏡」が「アイウエア」の一種であることは明らかである。
そうすると、引用眼鏡発明10は、本件発明1の「アイウエア」に相当する。
また、引用眼鏡発明10の「テンプル230」は、その文言が示すとおり、本件発明1の「テンプル」に相当する。

イ 「フロント」及び「フロントに連結」するテンプル
引用眼鏡発明10の「フロントフレーム210」は、「パッド足23とレンズ2を固定するためのレンズ固定部25を備えた」構成及び機能を有するものである。
ここで、本件出願の発明の詳細な説明の「フロント140は、・・略・・一対のノーズパッド144と、・・略・・一対のリム146・・略・・を有し」(【0029】)、「リム146は、レンズ110を支持する」(【0032】)との記載を参酌すると、その構成及び機能から、引用眼鏡発明10の「フロントフレーム210」は、本件発明1の「フロント」に相当する。
また、引用眼鏡発明10は、「フロントフレームに一体的に連結されるテンプル」を備えるものである。
そうすると、引用眼鏡発明10は、本件発明1の「フロントに連結」する「テンプルと、を備え」という要件を満たす。

ウ 「一つの部品」
引用眼鏡発明10の「テンプル230」は、「一枚の平面的な板材から一体的に成形されている」ものであって、「テンプル230の折り返し部231とテンプル本体部233との間に、局部的に細くしてジグザグ状に屈曲させたばね作用部234を設けた」ものである。
当該構成から、「ばね作用部234」及び「テンプル本体部233」とは一体的に成形されてなるものであるから、一つの部品であるといえる。
そうすると、引用眼鏡発明10の「テンプル230」と、本件発明1の「テンプル」とは、「一つの部品を有し」という点で共通する。

エ 「上下方向」及び「左右方向」
眼鏡の全体形状からみて、引用眼鏡発明10の「上下方向」及び「左右方向」が、本件発明1の「フロントの短手方向を上下方向とし、フロントの長手方向を左右方向とした場合」という要件を満たすことは明らかである。

オ 「第1変形部」及びその形状
引用眼鏡発明10の「ばね作用部234は、その上下方向の厚みが、その左右方向の厚みよりも薄く形成されている板状である」。
上記「ばね作用部234」は、その文言から、「ばね」の「作用」によって変形する、変形部といえる。
そうすると、引用眼鏡発明10の「ばね作用部234」は、本件発明1の「少なくとも一つの第1変形部は、前記少なくとも一つの第1変形部の上下方向の厚みが、前記少なくとも一つの第1変形部の左右方向の厚みよりも薄い板状をなし」ている「第1変形部」に相当する。

(2)一致点及び相違点
ア 一致点
本件発明1と引用眼鏡発明10とは、以下の点で一致する。
「フロントと、
前記フロントに連結したテンプルと、
を備え、
前記テンプルは、一つの部品を有し、
前記一つの部品は、少なくとも一つの第1変形部を有し、
前記フロントの短手方向を上下方向とし、前記フロントの長手方向を左右方向とした場合、
前記少なくとも一つの第1変形部は、前記少なくとも一つの第1変形部の前記上下方向の厚みが、前記少なくとも一つの第1変形部の前記左右方向の厚みよりも薄い板状をなしているアイウエア。」

イ 相違点
本件発明1と引用眼鏡発明10とは、以下の点で相違する。
(相違点1−1)
本件発明1の「テンプル」が、「フロントと挟む角度が最も小さい折畳位置から当該フロントと挟む角度が最も大きい開き位置までの範囲において回転可能な」ものであるのに対し、引用眼鏡発明10は、「テンプル230」の折り畳み(開閉)が想定されているのか否か明らかでない点。
また、そのための構造として、本件発明1が、「テンプルは、前記テンプルの長手方向の一方側の端部に設けられた回転中心を介して、フロントに対して回転可能に連結されており、一つの部品は、前記テンプルの前記回転中心と使用者の側頭部と接する部分との間に位置する」構造を備えるのに対し、引用眼鏡発明10は、テンプルが、「端部に設けられた回転中心を介して」フロントフレームに対して「回転可能に連結」されているのか明らかでない点。

(相違点1−2)
本件発明1の「一つの部品」が、「フロントに対するテンプルの姿勢を調整する」機能を有するのに対し、引用眼鏡発明10の「ばね作用部234」及び「テンプル本体部233」が、そのような機能を備えるのか明らかでない点。

(相違点1−3)
本件発明1の「一つの部品」が、「少なくとも一つの第2変形部」を有するのに対し、引用眼鏡発明10は、「少なくとも一つの第2変形部」を備えていないか、もしくは、引用眼鏡発明10の「テンプル本体部233」が変形部といえるのか明らかでない点。

(相違点1−4)
本件発明1の「第1変形部」が、「上下方向に塑性変形することで、テンプルに対するフロントの傾斜角度を調整」する機能を備えるのに対し、引用眼鏡発明10の「ばね作用部234」が、そのような機能を備えているのか明らかでない点。

(相違点1−5)
本件発明1の「第2変形部」が、「少なくとも一つの第2変形部は、前記少なくとも一つの第2変形部の左右方向の厚みが、前記少なくとも一つの第2変形部の上下方向の厚みよりも薄い板状をなしており、前記左右方向に弾性変形することで、前記テンプルの開き角度を調整」するのに対し、引用眼鏡発明10は上記相違点1−3と合わせて、その点が明らかでない点。

(3)判断
ア 相違点1−1について検討する。
引用文献10には、「従来は、丁番を介してテンプルを支持する構成であり、テンプルは別体構造となっており、依然として部品点数及び製造工数がかかるというネックがあった。」(【0004】)との記載、「本発明の目的は、リムの制約を無くし、さらにテンプルまで一体として、さらなる部品点数の減少、及び製造工程数の減少を図り得る眼鏡フレーム及び眼鏡フレーム成形用のプレフレーム並びに眼鏡フレームの成形方法を提供することにある。」(【0005】)との記載、「本発明の眼鏡フレームは、レンズとは非接触のフロントフレームと、該フロントフレームと一体的に連結され少なくともレンズを固定するためのレンズ固定部を備えたフロントパーツと、前記フロントフレームに一体的に連結されるテンプルとが、一枚の平面的な板材から一体的に成形されていることを特徴とする。」(【0006】)との記載、「本発明によれば、フロントフレームと同時にテンプルについても一枚の板材によって成形できるので、部品点数を減少させ、さらなる製造工程数を減少させることができる。」(【0011】)との記載がある。
上記記載を参酌すると、引用眼鏡発明10は、「フロントフレーム」及び「テンプル」が、「一体的に連結され」且つ「一枚の平面的な板材から一体的に成形されていること」によって、「部品点数を減少させ、さらなる製造工程数を減少させることができる」という効果を奏するものである。
そのような前提となる目的及び構成を理解した上で、引用文献10の【0043】及び図14(B)に記載されている引用眼鏡発明10の構造を鑑みるに、引用眼鏡発明10が、テンプルの長手方向の端部に回転中心を設けて、フロントフレームに対して回転可能に連結することを想定した発明、あるいは、回転可能に連結するような構造へ改良することが想定された発明とは理解し難い。そして、引用文献10には、テンプルの長手方向の端部に回転中心を設けて、フロントフレームに対して回転可能に連結しようとする動機付けを示唆する記載もない。
また、引用文献10に記載された発明において、当業者が、上記相違点1−1に係る事項を採用することを動機付けるような記載のある他の文献を見出すことはできない。

イ 相違点1−4について検討する。
また、事案に鑑み、相違点1−4についても検討する。
引用文献10の【0043】及び図14(B)には、引用眼鏡発明10の「ばね作用部234」がどのように変形し、どのような機能を有するのか具体的に記載されていないが、上記「(1)オ」で指摘したように「ばね作用部」であることから「ばね」の「作用」によって変形するものと理解できる。しかしながら、「ばね」の「作用」による変形が弾性変形であることは技術的に明らかである。
このように、引用眼鏡発明10の「ばね作用部234」の変形は、弾性変形であると理解できるところ、「上下方向に塑性変形する」とは理解し難く、引用文献10に「ばね作用部234」を「上下方向に塑性変形」するものに置き換える動機付けを示唆する記載もない。
また、引用文献10に記載された発明において、当業者が、上記相違点1−4に係る事項を採用することを動機づけるような記載のある他の文献を見出すことはできない。

ウ 小括
以上ア及びイのとおりであるから、その他の相違点に係る事項について検討するまでもなく、本件出願の請求項1に係る発明は、引用文献10に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(4)請求項2〜6について
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2〜6に係る発明(本件発明2〜6)ついても同様である。

3 本件発明7〜10についての対比及び判断
(1)対比
本件発明7と引用テンプル発明10とを対比する。
ア 「フロントを備えるアイウエアに使用されるテンプル」
上記「2(1)ア及びイ」と同様に、引用文献10に記載された眼鏡フレームの「フロントフレーム210」は、本件発明7の「フロント」に相当し、引用テンプル発明10は、本件発明7の「フロントを備えるアイウエアに使用されるテンプル」に相当する。

イ 「一つの部品」
上記「2(1)エ」と同様に、引用テンプル発明10の「ばね作用部234」及び「テンプル本体部233」は、本件発明7の「一つの部品を備え」る点で共通する。

ウ 「上下方向」及び「左右方向」
上記「2(1)オ」と同様に、引用テンプル発明10は、本件発明7の「フロントの短手方向を上下方向とし、フロントの長手方向を左右方向とした場合」に使用されるテンプルであるという要件を満たす。

エ 「第1変形部」及びその形状
上記「2(1)カ」と同様に、引用テンプル発明10の「ばね作用部234」は、本件発明7の「上下方向の厚みが」「左右方向の厚みよりも薄い板状をなし」た「第1変形部」に相当する。

オ 「アイウエアの使用者の側頭部と接する部分」
引用テンプル発明10は「モダン装着軸237」に「モダン240」が装着されるものである。そして、「モダン230」が使用者の側頭部に接するのは、「眼鏡」の構成として明らかである。
そうすると、引用テンプル発明10の「モダン装着軸237」は、本件発明7の「アイウエアの使用者の側頭部と接する部分」に相当する。

カ 「第1変形部の位置」
引用文献10に記載された眼鏡フレームは、テンプルの折り返し部において、テンプルとフロントフレームとが連結する構造であるから、「折り返し部231」が、テンプルのフロントフレーム側の端部であることは明らかである。
そして、「ばね作用部234」は、「折り返し部231」と「モダン装着軸237」との間に位置している。
そうすると、上記エ及びオの説示と合わせて、引用テンプル発明10の「ばね作用部234」は、本件発明7の「テンプルのフロントと連結する側の端部と当該アイウエアの使用者の側頭部と接する部分との間に位置する」という要件を満たす。

(2)一致点及び相違点
ア 一致点
本件発明7と引用テンプル発明10は、以下の点で一致する。
「フロントを備えるアイウエアに使用されるテンプルであって、
一つの部品を備え、
前記フロントの短手方向を上下方向とし、前記フロントの長手方向を左右方向とした場合、
前記一つの部品は、少なくとも一つの第1変形部を有し、
前記少なくとも一つの第1変形部は、前記少なくとも一つの第1変形部の前記上下方向の厚みが、前記少なくとも一つの第1変形部の前記左右方向の厚みよりも薄い板状をなしており、
前記少なくとも一つの第1変形部は、テンプルのフロントと連結する側の端部と当該アイウエアの使用者の側頭部と接する部分との間に位置するテンプル。」

イ 相違点
本件発明7と引用テンプル発明10は、以下の点で相違する。
(相違点7−1)
本件発明7のテンプルが、「アイウエアに取り付け」るものであるのに対し、引用テンプル発明10は、「フロントフレームに一体的に連結される」ものであり、フロントフレームと「一枚の平面的な板材から一体的に成形されているものである点。
また、上記構成から、本件発明7は、「一つの部品」の構成がテンプルを「アイウエアに取り付け」た場合の構成であるのに対し、引用テンプル発明10は、「ばね作用部234」及び「テンプル本体部233」が、アイウエアに取り付けられたものでない点。

(相違点7−2)
本件発明7が、「異なる二つの方向に当該テンプルの姿勢を調整する一つの部品を備え」、「前記異なる二つの方向は、前記上下方向及び前記左右方向」であるのに対し、引用テンプル発明10の「ばね作用部234」及び「テンプル本体部233」が、そのようにテンプルの姿勢を調整するものであることが明らかでない点。

(相違点7−3)
本件発明7の「一つの部品」が、「少なくとも一つの第2変形部」を有するのに対し、引用テンプル発明10は、「少なくとも一つの第2変形部」を備えていないか、もしくは、引用テンプル発明10の「テンプル本体部233」が変形部といえるのか明らかでない点。

(相違点7−4)
本件発明7の「第1変形部」が、「上下方向に塑性変形することで、テンプルに対するフロントの傾斜角度を調整」する機能を備えるのに対し、引用テンプル発明10の「ばね作用部234」が、そのような変形及び機能を備えているのか明らかでない点。

(相違点7−5)
本件発明7が、「少なくとも一つの第2変形部は、前記少なくとも一つの第2変形部の前記左右方向の厚みが、前記少なくとも一つの第2変形部の前記上下方向の厚みよりも薄い板状をなしており、前記左右方向に弾性変形することで、前記テンプルの開き角度を調整」するのに対し、引用テンプル発明10は上記相違点7−3と合わせて、その点が明らかでない点。

(3)判断
ア 相違点7−1について検討する。
上記「2(3)ア」と同様に、引用テンプル発明10は、「フロントフレームに一体的に連結され」且つ「一枚の平面的な板材から一体的に成形されていること」によって「部品点数を減少させ、さらなる製造工程数を減少させることができる」ものである。
そうすると、引用テンプル発明10を別部材として構成し、眼鏡(のフロントフレーム)に取り付ける構造とすることは、前提となる上記目的や構造を覆すものであるから、そのような構造を採用することは理解し難く、そうしようとする動機付けを示唆する記載もない。
また、引用文献10に記載された発明において、当業者が、上記相違点7−1に係る事項を採用することを動機づけるような記載のある他の文献を見出すことはできない。

イ 相違点7−4について検討する。
さらに相違点7−4についても検討すると、上記「2(3)イ」と同様に、引用テンプル発明10において、「塑性変形」が想定されているとは理解し難く、そうしようとする動機付けを示唆する記載もない。
また、引用文献10に記載された発明において、当業者が、上記相違点1−4に係る事項を採用することを動機づけるような記載のある他の文献を見出すことはできない。

ウ 小括
以上ア及びイのとおりであるから、他の相違点に係る事項について検討するまでもなく、本件出願の請求項7に係る発明は、引用文献10に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(4)請求項8〜10について
請求項7を直接又は間接的に引用する請求項8〜10に係る発明(本件発明8〜10)についても同様である。


第5 原査定について
上記「第2」で述べた原査定の拒絶の理由である理由1及び理由2については、令和4年1月31日にした手続補正によって解消されている。
以上のことから原査定を維持することはできない。


第6 むすび
以上のとおり、本件出願の請求項1〜10に係る発明はいずれも、引用文献10に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
また、他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2022-04-28 
出願番号 P2018-127900
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02C)
P 1 8・ 537- WY (G02C)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 関根 洋之
小濱 健太
発明の名称 アイウエアおよびテンプル  
代理人 内藤 和彦  
代理人 大貫 敏史  
代理人 江口 昭彦  
代理人 稲葉 良幸  

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