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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 特174条1項  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
管理番号 1384022
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-08-06 
確定日 2022-02-14 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6645025号発明「化粧シート、及び化粧板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6645025号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜3〕について訂正することを認める。 特許第6645025号の請求項1〜3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6645025号の請求項1〜3に係る特許についての出願は、平成27年4月6日に出願され、令和2年1月14日にその特許権の設定登録がされ、令和2年2月12日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和2年8月6日 :特許異議申立人渡辺陽子(以下「申立人」という。)による請求項1〜3に係る特許に対する特許異議の申立て
令和2年11月24日付け:取消理由通知書
令和3年1月22日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出(以下、訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)
令和3年3月24日付け :取消理由通知書(決定の予告)
令和3年5月21日 :特許権者による意見書の提出
令和3年7月19日 :申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。

(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1に記載された「着色基材層の一方の面側に、印刷により形成された絵柄印刷層、及びオーバーレイフィルム層がこの順に積層されてなり、
前記着色基材層は、ポリオレフィン系樹脂からなり、
前記オーバーレイフィルム層の少なくとも表面側は、トリアジン系紫外線吸収剤を含むアクリルウレタン系樹脂からなり、前記アクリルウレタン系樹脂の固形分塗布量が5g/m2以上10g/m2以下であり、
前記絵柄印刷層は、赤外光の透過率が80%以上であり、酸化チタンを顔料として0質量%を超えて50質量%以下の範囲内で含むインキを印刷インキとし、
前記着色基材層は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し、酸化チタンを顔料として23質量部以上50質量部以下の範囲内で含むことを特徴とする化粧シート。」を、
「着色基材層の一方の面側に、印刷により形成された絵柄印刷層、及びオーバーレイフィルム層がこの順に積層されてなり、
前記着色基材層は、ポリオレフィン系樹脂からなり、
前記オーバーレイフィルム層の表面側には、表面保護層が形成され、
前記表面保護層は、トリアジン系紫外線吸収剤を含むアクリルウレタン系樹脂からなり、前記アクリルウレタン系樹脂の固形分塗布量が5g/m2以上10g/m2以下であり、
前記絵柄印刷層は、赤外光の透過率が80%以上である印刷インキであって、酸化チタンを顔料として0質量%を超えて50質量%以下の範囲内で含む印刷インキにより絵柄がグラビア印刷された層であり、
前記着色基材層は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し、酸化チタンを顔料として23質量部以上50質量部以下の範囲内で含むことを特徴とする化粧シート。」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、3も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項2に記載された
「前記印刷インキは、酸化チタンの他に、イソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン及びフタロシアニンのいずれか、或いはこれらの混合物を顔料として含むことを特徴とする請求項1に記載の化粧シート。」を、
「前記絵柄印刷層は、酸化チタンの他に、イソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン及びフタロシアニンのいずれか、或いはこれらの混合物を顔料として含む印刷インキにより絵柄がグラビア印刷された層であることを特徴とする請求項1に記載の化粧シート。」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3も同様に訂正する。)。

2 一群の請求項
本件訂正前の請求項2、3は、本件訂正前の請求項1を、直接的又は間接的に引用するものであって、請求項1に連動して訂正されるものであり、本件訂正請求による訂正は、一群の請求項ごとにされたものである。

3 訂正の目的、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の適否について
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の「トリアジン系紫外線吸収剤を含むアクリルウレタン系樹脂からなり、前記アクリルウレタン系樹脂の固形分塗布量が5g/m2以上10g/m2以下であ」る「オーバーレイフィルム層の表面側」を、「表面保護層」と限定し、また、「絵柄印刷層」の構成を、「印刷インキ」と限定し、「印刷インキにより絵柄がグラビア印刷された層」であると限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1は、本件特許明細書に、「オーバーレイフィルム層4の表面には、化粧シート20の表面を保護するための硬質な樹脂がコーティングされて透明なシート状の層(以下、「表面保護層5」とも呼ぶ)が形成されている。」(【0017】)、「また、表面保護層5を構成するアクリルウレタン系樹脂には、耐候性の処方を行うため、トリアジン系紫外線吸収剤を添加する。」(【0019】)、「着色基材層1の表面に、…インキを使用してグラビア印刷により絵柄(木目柄)を印刷し、絵柄印刷層2を設けた。」(【0029】)と記載されているから、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2の「絵柄印刷層」の構成を、「印刷インキにより絵柄がグラビア印刷された層」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項2は、本件特許明細書に「着色基材層1の表面に、…インキを使用してグラビア印刷により絵柄(木目柄)を印刷し、絵柄印刷層2を設けた。」(【0029】)と記載されているから、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項2は、本件訂正前の請求項2に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜3〕について訂正することを認める。

第3 本件訂正後の本件発明
上記第2のとおり本件訂正が認められたことから、本件特許の請求項1〜3に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
着色基材層の一方の面側に、印刷により形成された絵柄印刷層、及びオーバーレイフィルム層がこの順に積層されてなり、
前記着色基材層は、ポリオレフィン系樹脂からなり、
前記オーバーレイフィルム層の表面側には、表面保護層が形成され、
前記表面保護層は、トリアジン系紫外線吸収剤を含むアクリルウレタン系樹脂からなり、前記アクリルウレタン系樹脂の固形分塗布量が5g/m2以上10g/m2以下であり、
前記絵柄印刷層は、赤外光の透過率が80%以上である印刷インキであって、酸化チタンを顔料として0質量%を超えて50質量%以下の範囲内で含む印刷インキにより絵柄がグラビア印刷された層であり、
前記着色基材層は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し、酸化チタンを顔料として23質量部以上50質量部以下の範囲内で含むことを特徴とする化粧シート。
【請求項2】
前記絵柄印刷層は、酸化チタンの他に、イソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン及びフタロシアニンのいずれか、或いはこれらの混合物を顔料として含む印刷インキにより絵柄がグラビア印刷された層であることを特徴とする請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】
請求項1または2に記載の化粧シートを基材に貼りあわせてなることを特徴とする化粧板。」

第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件発明1〜3に対して、当審が令和3年3月24日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

(1)取消理由1(サポート要件)
酸化チタンが50質量%以下の範囲で一定量以上含有するものが、「赤外光の透過率が80%以上」を達成した結果、本件特許の発明の課題を解決することができることを認識することができず、本件発明1は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているから、本件発明1の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないため、本件発明1〜3が、発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しないから、本件特許の請求項1〜3に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(2)取消理由2(明確性
本件発明1の「前記絵柄印刷層は、赤外光の透過率が80%以上である印刷インキであって、酸化チタンを顔料として0質量%を超えて50質量%以下の範囲内で含む印刷インキにより絵柄がグラビア印刷された層であ」るとの発明特定事項に関して、50質量%を上限に酸化チタンを含むにも関わらず、「赤外光の透過率が80%以上」となっており、白色顔料の含有量が増えると反射率が大きくなり、透過率が小さくなるという技術常識と矛盾するものが含まれているため、本件発明1〜3が明確でなく、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合しないから、本件特許の請求項1〜3に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(3)取消理由3(実施可能要件
次のア及びイのとおり、発明の詳細な説明の記載が、当業者が本件発明1〜3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものに適合しないから、本件特許の請求項1〜3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

ア 絵柄印刷層について
発明の詳細な説明には、絵柄印刷層に用いる印刷インキに顔料として、「赤外光の透過率が80%以上」であり、かつ「酸化チタンを顔料として0質量%を超えて50質量%以下の範囲内で含む」印刷インキは記載されておらず、また、「酸化チタンを顔料として0質量%を超えて50質量%以下の範囲内で含む」印刷インキは、「赤外光の透過率が80%以上」にならない数値範囲を含むことが明らかであるから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1〜3を実施しようとした場合に、どのようにすれば実施できるかを見いだすために、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要がある。

イ 着色基材層と絵柄印刷層との関係について
発明の詳細な説明には、絵柄印刷層に用いる印刷インキに顔料として、「赤外光の透過率が80%以上」であり、かつ「酸化チタンを顔料として0質量%を超えて50質量%以下の範囲内で含む」印刷インキは、そもそも記載されておらず、また、実施例1〜2において、外部から入射する赤外光のうちどの程度が絵柄印刷層で反射され、絵柄印刷層を通過した赤外光のうちどの程度が着色基材層で反射され、当該反射された赤外光のうち、どの程度が絵柄印刷層を透過して外部に反射されているのか、技術常識を参酌しても当業者が理解できる程度に記載されていないから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が当該明細書及び図面に記載された説明と出願時の技術常識とに基いて本件発明1〜3を実施しようとした場合に、どのようにすれば実施できるかを見いだすために、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要がある。

(4)取消理由4(進歩性
本件発明1〜3は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載の技術的事項、及び甲第6〜11号証に記載された事項から把握される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1〜3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

[引用文献等一覧]
甲第1号証:特開2013−86451号公報(以下「甲1」という。)
甲第2号証:特許第3732504号公報(以下「甲2」という。)
甲第3号証:特開2010−43496号公報(以下「甲3」という。)
甲第4号証:特開2009−228416号公報(以下「甲4」という。)
甲第5号証:特開2010−89281号公報(以下「甲5」という。)
甲第6号証:特開2013−22906号公報(以下「甲6」という。)
甲第7号証:特開2014−198469号公報(以下「甲7」という。)
甲第8号証:特開2002−60698号公報(以下「甲8」という。)
甲第9号証:特許第5279437号公報(以下「甲9」という。)
甲第10号証:特開平11−48437号公報(以下「甲10」という。)
甲第11号証:特開2009−39153号公報(以下「甲11」という。)

2 当審の判断
(1)取消理由1(サポート要件)について
ア 発明が解決しようとする課題
発明が解決しようとする課題は、発明の詳細な説明の【0004】の記載から見て、「オレフィン系樹脂を基材層に使用した化粧シートは、太陽光があたる表面と裏面とに温度差が発生し、この温度差によって表面の熱膨張量が裏面の熱膨張量よりも大きくなり、反りが発生する可能性」があることから、「耐候性に優れるとともに、太陽光による反りの発生を抑制可能な化粧シート、及び化粧板を提供すること」である(下線は当審が付した。以下同じ)。

イ 発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には、上記アの課題に関して、次の記載がある。
「【発明の効果】
【0006】
本発明の一態様によれば、オーバーレイフィルム層がトリアジン系紫外線吸収剤を含有したアクリルウレタン系樹脂からなるため、経時による紫外線吸収剤の析出が抑制され、紫外線遮蔽性能の効果が長期にわたり継続し、耐候性に優れたものとすることができる。」
「【0010】
(着色基材層1)
着色基材層1は、ポリオレフィン系樹脂からなるシート状の層である。・・・
【0012】
また、着色基材層1を構成するポリオレフィン系樹脂は、酸化チタンを顔料(白色)として含んでいる。これにより、着色基材層1は、赤外光が絵柄印刷層2を透過すると、透過した赤外光を反射する。また、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し、酸化チタンを23質量部以上50質量部以下の範囲内で含む。これにより、絵柄印刷層2が透過した赤外光をより適切に反射でき、また、着色基材層1をより適切に形成できる。
・・・
【0013】
(絵柄印刷層2)
絵柄印刷層2は、意匠性を付与するための絵柄の印刷により形成された層である。絵柄としては、例えば、木目、石目、タイル、抽象柄等、化粧シート20を用いる箇所に適した絵柄を選択できる。また、印刷インキは、例えば、イソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン、フタロシアニン、及び酸化チタンのいずれか、或いはこれらの混合物を顔料として含んでいる。これにより、印刷インキは、赤外光の透過率が80%以上となっている。それゆえ、絵柄印刷層2が赤外光を透過し、透過した赤外光を着色基材層1が反射するため、赤外光の熱による蓄熱作用が低減される。
【0014】
ここで、印刷インキの透過率の測定方法としては、厚み25μmの2軸延伸PETフィルム(東レ株式会社製ルミラーS50)に対し、重量1g/m2となるよう顔料を分散したインキで印刷し、株式会社島津製作所製分光光度計UV3600によって波長782nm以上2500nm以下の領域を2nm毎に測定点数860点の透過率を測定し、各波長の透過率(%T)の合計値を測定点数で除算した除算結果を、赤外光の透過率とする方法を用いる。即ち、式「赤外光の透過率=赤外線各波長(782nm以上2500nm以下)の測定透過率(%T)合計値÷測定点数(860)」で算出する。
また、絵柄印刷層2の厚みは5μm以上10μm以下が好ましい。さらに、絵柄印刷層2を構成する樹脂内の酸化チタンの比率は50%以下とすることが好ましい。」
「【0017】
オーバーレイフィルム層4の表面には、化粧シート20の表面を保護するための硬質な樹脂がコーティングされて透明なシート状の層(以下、「表面保護層5」とも呼ぶ)が形成されている。硬質な樹脂としては、例えば、アクリルポリオールにイソシアネートを添加して硬化させたアクリルウレタン系樹脂を使用することができる。アクリルウレタン系樹脂の固形分塗布量は、5g/m2以上10g/m2以下、好ましくは6g/m2以上9g/m2以下とする。これにより、塗工性・保管性を良好にすることができる。
・・・
【0019】
また、表面保護層5を構成するアクリルウレタン系樹脂には、耐候性の処方を行うため、トリアジン系紫外線吸収剤を添加する。・・・」
「【0025】
(本実施形態の効果)
本実施形態に係る発明は、以下の効果を奏する。
(1)本実施形態に係る化粧シート20は、着色基材層1の一方の面側に、印刷により形成された絵柄印刷層2、及びオーバーレイフィルム層4がこの順に積層されて構成される。そして、着色基材層1は、ポリオレフィン系樹脂からなり、オーバーレイフィルム層4の少なくとも表面側は、トリアジン系紫外線吸収剤を含有したアクリルウレタン系樹脂からなり、層厚が固形分塗布量で5g/m2以上10g/m2以下であり、着色基材層1は、酸化チタンを顔料とし、絵柄印刷層2は、赤外光の透過率が80%以上であるインキを印刷インキとする。
【0026】
このような構成によれば、オーバーレイフィルム層4がトリアジン系紫外線吸収剤を含有したアクリルウレタン系樹脂からなるため、経時による紫外線吸収剤の析出が抑制され、紫外線遮蔽性能の効果が長期にわたり継続し、耐候性に優れたものとすることができる。また、絵柄印刷層2が赤外光を透過し、透過した赤外光を着色基材層1が反射するため、赤外光の熱の蓄熱作用を低減でき、赤外光(太陽光)があたる表面と裏面との温度差を低減でき、太陽光による反りの発生を抑制できる。これにより、耐候性に優れるとともに、太陽光による反りの発生を抑制可能な化粧シート20を提供できる。」

ウ 判断
発明の詳細な説明の上記イ【0006】、【0017】、【0019】、【0025】及び【0026】の記載を参照すると、本件発明1は、「前記表面保護層は、トリアジン系紫外線吸収剤を含むアクリルウレタン系樹脂からなり、前記アクリルウレタン系樹脂の固形分塗布量が5g/m2以上10g/m2以下であ」ることを発明特定事項とすることにより、「耐候性に優れる」ものである。
また、発明の詳細な説明の上記イ【0006】、【0010】、【0012】、【0013】、【0014】及び【0026】の記載を参照すると、本件発明1は、「前記着色基材層は、ポリオレフィン系樹脂からなり」、「前記絵柄印刷層は、赤外光の透過率が80%以上である印刷インキであって、酸化チタンを顔料として0質量%を超えて50質量%以下の範囲内で含む印刷インキにより絵柄がグラビア印刷された層であり、前記着色基材層は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し、酸化チタンを顔料として23質量部以上50質量部以下の範囲内で含むこと」を発明特定事項とすることにより、着色基材層までは赤外光(太陽光)を透過して、表裏に温度差のない化粧シートとすることで反りの発生を抑制しつつ、更に着色基材層における熱の蓄熱作用の低減も化粧シートの反りの発生の抑制には必要であることから、透過した赤外光を適切に反射することで、「太陽光による反りの発生を抑制可能な」ものである。

エ 小括
よって、本件発明1〜3は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えたものではない。

(2)取消理由2(明確性)について
本件発明1の「前記絵柄印刷層は、赤外光の透過率が80%以上である印刷インキであって、酸化チタンを顔料として0質量%を超えて50質量%以下の範囲内で含む印刷インキにより絵柄がグラビア印刷された層であ」るの記載は、「前記絵柄印刷層」が、「赤外光の透過率が80%以上である印刷インキであ」あること、及び「酸化チタンを顔料として0質量%を超えて50質量%以下の範囲内で含む印刷インキにより絵柄がグラビア印刷された層であ」ることを満たすものである。
ここで、本件発明1の当該事項は、技術的意味が明確であり、これらの事項を全て満たすものに技術的な欠陥があるものでもないから、本件発明1の上記発明特定事項に技術的な不備はなく、本件発明1は明確である。
よって、本件発明1〜3は明確である。

(3)取消理由3(実施可能要件)について
ア 「赤外光の透過率」と「酸化チタン」の含有量について
赤外光の透過率は、印刷インキの厚さ、酸化チタンの含有量により調整し得ることは技術常識である。
そして、「赤外光の透過率」に関して、印刷インキにおける顔料として酸化チタンを、0質量%を超えて50質量%の範囲内で含むこと、すなわち、少量であれば赤外光の透過率を高くでき、また、酸化チタンの含有量を増量しても、上記技術常識を踏まえることで、赤外光の透過率が80%以上となる量として調整を行うことで、当業者は本件発明1〜3を実施可能である。
したがって、本件発明1〜3は、当業者が発明の詳細な説明の記載と出願時の技術常識とに基いて実施可能である。

イ 実施例1〜2について
実施例1〜2として記載された実施例における印刷インキは、酸化チタンを顔料として含んでいないため、本件発明1の実施例ではない。しかしながら、本件発明1〜3は、上記アを踏まえて発明を実施する形態の記載を参照することで、当業者が発明の詳細な説明と出願時の技術常識とに基いて実施可能である。

ウ 小括
発明の詳細な説明の記載が、当業者が本件発明1〜3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

(4)取消理由4(進歩性)について
ア 引用文献等の記載事項
(ア)甲1
甲1には、次の事項が記載されている。
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような問題を解決するためになされたものであり、すなわちその課題とするところは、短納期で安価に製造可能であり、耐候性や耐摩耗性、耐水性等の各物性に優れ、かつ光線遮蔽効果を有しながら、しかも絵柄の深み等の意匠性にも優れた遮熱化粧シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はこの課題を解決したものであり、すなわちその請求項1記載の発明は、着色ベースフィルム層、印刷層、オーバーレイフィルム層を少なくともこの順に積層してなる遮熱化粧シートにおいて、前記着色ベースフィルム層の着色顔料として酸化チタンを用い、前記印刷層の顔料としてイソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン、フタロシアニン、酸化チタンの少なくとも一つ以上を用いることを特徴とする遮熱化粧シートである。」
「【発明の効果】
【0009】
太陽光の赤外光領域の熱の吸収によって、蓄熱作用が発生し、結果として基材に伝わる事で、熱膨張が発生し、表裏の温度差によって反りが発生する。本発明はその請求項1記載の発明により、着色ベースフィルム層と印刷層に特定の顔料を用いる事で、赤外光領域の反射率を一定以上に上げる事が可能となり、光線遮蔽効果を得て、反りの発生を防止することを可能とする。」
「【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を図面に基づき詳細に説明する。図1に本発明の遮熱化粧シートの一実施例の断面の形状を示す。着色ベースフィルム層1、印刷層2、オーバーレイフィルム層3からなり、適宜接着剤層4やコーティング層5を設けてなる。
【0014】
本発明における着色ベースフィルム層1としては、塩化ビニル樹脂代替として取り扱いが容易なホモまたはランダムポリプロピレン系樹脂またはポリエチレン樹脂が好適に用いられる。また、ヒンダートフェノール系酸化防止剤、紫外線吸収剤、ヒンダートアミン系光安定剤などを適宜するのが好適である。
【0015】
本発明における着色ベースフィルム層1に用いる顔料としては、酸化チタンが用いられる。これにより、赤外光領域の反射率を一定以上に上げる事が可能となる。
【0016】
本発明における印刷層2としては、前記着色ベースフィルム層1に好適なインキを用いて設ければ良い。具体的には前記ベースフィルム層1がポリプロピレン樹脂であれば、ウレタン樹脂と塩化ビニル=酢酸ビニル共重合樹脂の混合物が好適に用いられる。
【0017】
本発明における印刷層2に用いる顔料としては、イソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン、フタロシアニン、酸化チタンの少なくとも一つ以上を用いる。これにより、赤外光領域の反射率を一定以上に上げる事が可能となる。
【0018】
本発明におけるオーバーフィルム層3としては、さらにこの表面にコーティング層5を設ける場合は、前記着色ベースフィルム層1や印刷層2との層間密着を考慮して樹脂を選択すればよく、具体的には前記着色ベースフィルム層1がホモまたはランダムポリプロピレン系樹脂またはポリエチレン樹脂であるなら同様のホモまたはランダムポリプロピレン系樹脂またはポリエチレン樹脂が好ましく、紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤を添加するのが好適である。
一方、オーバーレイフィルム層3が表面層となる場合は、ポリメチルメタアクリル樹脂を用いるのが好ましく、紫外線吸収剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤を添加するのが好適であり、層間密着を考慮して印刷層2との間にアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル=酢酸ビニル共重合樹脂の少なくとも1つ以上からなる接着剤層4を設けるのが好ましい。
【実施例1】
【0019】
着色ベースフィルム層1として、ポリエチレン樹脂100重量部に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を3重量部、紫外線吸収剤を1重量部、ヒンダードアミン系光安定剤を1重量部、酸化チタンを23重量部添加して、厚み55μmに製膜した。
【0020】
前記着色ベースフィルム1の表面に印刷層2として、ウレタン樹脂と塩化ビニル=酢酸ビニル共重合樹脂を7:3の割合で混合したもの100重量部に、ヘキサメチレンジイソシアネートとイソホロンジイソシアネートを2:8の混合からなる硬化剤を3重量部添加して、イソインドリノン、ポリアゾ、フタロシアニンからなる顔料を3重量部添加してインキとし、木目柄をグラビア印刷にて印刷した。
【0021】
前記着色ベースフィルム1の印刷層2を設けた面に、オーバーレイフィルム層3として、ランダムポリプロピレン系樹脂を用い100重量部に対して紫外線吸収剤0.5重量部とヒンダードアミン系光安定剤0.3重量部を添加したものを溶融押出により設け、乾燥後の厚みが70μmとなるようにして設けた。
【0022】
最後に、前記オーバーレイフィルム層3の表面にアクリルポリオール100重量部に対してヘキサメチレンジイソシアネート10重量部と紫外線吸収剤5重量部とヒンダードアミン系光安定剤5重量部を添加したものをコーティングにより9μmとなるようにして設け、遮熱化粧シートを作成した。」
「【0027】
<性能比較2>
また、縦20cm横11cm厚みが0.6mmの無塗装鋼板に対して、接着剤を用いて、片面のみ遮熱化粧シートを貼り合わせたものについて、ハロゲン球を真上から15cm離したところから、遮熱化粧シートが照射面になるよう30分間照射し続け、鋼板表裏を1分毎に温度を記録し、最大値を測定した。結果を表2に示す。」

甲1の上記記載事項の【0013】、【0022】の記載からみて、【0022】で、「オーバーレイフィルム層3の表面にコーティングにより設けられたものは「コーティング層5」であるから、オーバーレイフィルム層3の表面にコーティング層が設けられていること、及びコーティング層は、アクリルポリオール100重量部に対してヘキサメチレンジイソシアネート10重量部と紫外線吸収剤5重量部とヒンダードアミン系光安定剤5重量部を添加したものをコーティングにより9μmとなるようにして設けたものであることが理解できる。

上記記載事項からみて、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「着色ベースフィルム1の表面に印刷層2として、木目柄をグラビア印刷にて印刷し、着色ベースフィルム1の表面に印刷層2を設けた面に、オーバーレイフィルム層3を設け、
オーバーレイフィルム層3の表面にコーティング層5を設け、
着色ベースフィルム層1として、ポリエチレン樹脂100重量部に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を3重量部、紫外線吸収剤を1重量部、ヒンダードアミン系光安定剤を1重量部、酸化チタンを顔料として23重量部添加して、厚み55μmに製膜し、
コーティング層5は、アクリルポリオール100重量部に対してヘキサメチレンジイソシアネート10重量部と紫外線吸収剤5重量部とヒンダードアミン系光安定剤5重量部を添加したものをコーティングにより9μmとなるようにして設けたものであり、
印刷層2として、ウレタン樹脂と塩化ビニル=酢酸ビニル共重合樹脂を7:3の割合で混合したもの100重量部に、ヘキサメチレンジイソシアネートとイソホロンジイソシアネートを2:8の混合からなる硬化剤を3重量部添加して、イソインドリノン、ポリアゾ、フタロシアニンからなる顔料を3重量部添加してインキとし、木目柄をグラビア印刷にて印刷した遮熱化粧シート。」

(イ)甲2
甲2には次の事項が記載されている。
「【0026】
[白色顔料の準備]
(白色顔料1)
酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体45重量部をロール分散機上で加熱溶融させ、そこに、その多くが一次粒子径20〜50nmであるルチル型二酸化チタン55重量部を添加して分散させて、平均粒径200nm程度の白色顔料を得た。
【0027】
(白色顔料2)
酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体30重量部をロール分散機上で加熱溶融させ、そこに平均一次粒子径が0.29μのルチル型二酸化チタン70重量部を添加して分散させて、平均粒径0.40μの白色顔料を得た。
【0028】
[赤色印刷インキの準備]
(赤色印刷インキ1)
白色顔料1を3.3質量部、縮合アゾ系赤色顔料3.5質量部及び不溶性アゾ系赤色顔料1.3質量部を、塩化ビニル系樹脂14.3質量部をシクロヘキサノン77.6質量部に溶解させた塩化ビニル系樹脂ワニスに添加して、1時間、塗料分散機で混合分散させて、赤色印刷インキ1を得た。
【0029】
(赤色印刷インキ2)
白色顔料2を4.2質量部、縮合アゾ系赤色顔料3.8質量部及び不溶性アゾ系赤色顔料3.3質量部を、塩化ビニル系樹脂15.7質量部をシクロヘキサノン73.0質量部に溶解させた塩化ビニル系樹脂ワニスに添加して、1時間、塗料分散機で混合分散させて、赤色印刷インキ2を得た。
【0030】
[青色印刷インキの準備]
(青色印刷インキ1)
白色顔料1を8.3質量部、青色顔料(フタロシアニンブルー)2.5質量部及び紫色顔料(ジオキサジンバイオレット)0.2質量部を、塩化ビニル系樹脂16.0質量部をシクロヘキサノン73.0質量部に溶解させた塩化ビニル系樹脂ワニスに添加して、1時間、塗料分散機で混合分散させて、青色印刷インキ1を得た。
【0031】
(青色印刷インキ2)
白色顔料2を10.5質量部、青色顔料(フタロシアニンブルー)2.5質量部及び紫色顔料(ジオキサジンバイオレット)0.1質量部を、塩化ビニル系樹脂16.0質量部をシクロヘキサノン71.0質量部に溶解させた塩化ビニル系樹脂ワニスに添加して、1時間、塗料分散機で混合分散させて、青色印刷インキ2を得た。
【0032】
[黄色印刷インキの準備]
(黄色印刷インキ1)
白色顔料1を6.6質量部、黄色顔料(ジスアゾエロー)3.0質量部及び橙色顔料(ジスアゾオレンジ)1.3質量部を、塩化ビニル系樹脂16.0質量部をシクロヘキサノン73.1質量部に溶解させた塩化ビニル系樹脂ワニスに添加して、1時間、塗料分散機で混合分散させて、黄色印刷インキ1を得た。
【0033】
(黄色印刷インキ2)
白色顔料2を6.3質量部、黄色顔料(ジスアゾエロー)3.0質量部及び橙色顔料(ジスアゾオレンジ)1.3質量部を、塩化ビニル系樹脂14.3質量部をシクロヘキサノン75.1質量部に溶解させた塩化ビニル系樹脂ワニスに添加して、1時間、塗料分散機で混合分散させて、黄色印刷インキ2を得た。
【0034】
[赤外線透過性試験]
厚さ12μmの透明ポリエステルフィルムの表面に、上記した各印刷インキ(赤色印刷インキ1及び2、青色印刷インキ1及び2、黄色印刷インキ1及び2)をバーコーター♯6で塗布して、表面が赤色、青色及び黄色に着色された6種類のポリエステルフィルムを得た。赤色印刷インキ1で印刷及び着色ポリエステルフィルムをR−1とし、赤色印刷インキ2で印刷及び着色ポリエステルフィルムをR−2とした。また、青色印刷インキ1による着色ポリエステルフィルムをB−1とし、青色印刷インキ2によるものをB−2とし、黄色印刷インキ1による着色ポリエステルフィルムをY−1とし、黄色印刷インキ2によるものをY−2とした。この各着色ポリエステルフィルムの光線透過率を、株式会社島津製作所製「UV−3100PC」を用いて測定した。そして、この結果を表1、表2及び表3に示した。なお、各色の印刷インキ1が本発明に係る実施例に相当するものであり、印刷インキ2が比較例に相当するものである。
【0035】
[表1]
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
波長(nm) 透 過 率 (%)
−−−−−−−−−−−−−−−−−
R−1 R−2
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
・・・
800 85.75 60.45
820 86.38 61.92
840 89.40 63.76
860 89.54 65.72
880 89.16 66.99
900 89.67 67.30
950 90.25 68.31
1000 88.32 71.04
1050 87.53 72.39
1100 88.14 73.29
1150 88.21 74.76
1200 87.94 76.18
1250 89.75 77.20
1300 86.26 78.83
1350 88.86 78.82
1400 83.32 77.28
1450 84.46 77.94
1500 84.46 76.24
1550 86.16 75.69
1600 85.95 75.05
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【0036】
[表2]
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
波長(nm) 透 過 率 (%)
−−−−−−−−−−−−−−−−−
B−1 B−2
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
・・・
800 81.68 20.81
820 82.63 22.55
840 84.42 24.46
860 84.77 26.32
880 85.14 28.60
900 85.66 30.42
950 85.41 34.64
1000 84.63 39.17
1050 84.43 42.89
1100 84.58 45.86
1150 85.21 48.91
1200 85.57 52.08
1250 85.71 55.16
1300 84.27 58.07
1350 84.47 59.93
1400 85.87 60.46
1450 84.21 63.29
1500 83.60 62.92
1550 83.33 63.17
1600 82.81 64.25
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【0037】
[表3]
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
波長(nm) 透 過 率 (%)
−−−−−−−−−−−−−−−−−
Y−1 Y−2
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
・・・
800 80.24 33.17
820 81.67 35.01
840 83.96 36.99
860 84.32 39.22
880 85.48 41.13
900 85.77 42.31
950 85.50 45.47
1000 83.93 49.65
1050 83.37 52.76
1100 83.62 55.67
1150 83.46 58.11
1200 84.09 60.72
1250 84.05 63.59
1300 86.93 64.92
1350 84.09 67.48
1400 84.35 67.88
1450 82.35 68.16
1500 82.84 67.06
1550 83.15 66.58
1600 81.46 67.97
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−」

(ウ)甲3
甲3には次の事項が記載されている。
「【0062】
[遮熱性(赤外線反射率測定)]
分光光度計(株式会社島津製作所製、UVPC−3100)を用いて、試験布の上面側の表面における、波長領域2500〜3000nmに対する赤外線反射率を求めた。
なお、上記赤外線反射率は、2500〜3000nmの波長領域において、2nm毎の赤外線反射率を測定し、その各測定結果の平均(単純平均)によって求めた。」
「【0072】
[実施例1]
酸化チタン粉末(テイカ株式会社製、JR−1000、粒径1μm(誤差0.1μm以下))を、ポリカルボン酸ナトリウム塩分散剤(サンノプコ株式会社製、ノプコスパース44−C)および水と混合し、さらにアクリル系の発泡性樹脂(日華化学株式会社製、ネオステッカー−NSCL−03)と混合して、樹脂液Aを作製した。
<樹脂液Aの調液条件>
酸化チタン粉末(テイカ株式会社製、JR−1000) 10重量%
ポリカルボン酸ナトリウム塩分散剤(サンノプコ株式会社製、ノプコスパース44−C)
0.1重量%
アクリル系発泡性樹脂(日華化学株式会社製、ネオステッカー−NSCL−03)
87重量%
水 2.9重量%」
「【0084】
【表1】



(エ)甲4
甲4には次の事項が記載されている。
「【0019】
その結果、上記したように、球状の酸化チタン微粒子と異なり、平均短軸径が200〜400nm、平均長軸径が1〜4μmであるアスペクト比が5以上を有する棒状酸化チタン微粒子を特定量配合することにより、得られたシートは、近赤外線領域の光に対しては高い反射性能を有しており、且つ可視光領域の光もある程度透過するものとなることを確認した。」
「【0021】
一般に、400〜780nmの波長領域は可視光線領域と称され、人間が肉眼で感じることのできる光線領域であり、可視光線領域の日射透過率が大きいシートであると透明性を有するシートとなる。
780〜1600nmの波長領域は近赤外線領域と称され、該近赤外線領域の光が一般に熱に変換されやすいと言われている。
したがって、可視光領域の光をある程度透過させ、その一方で近赤外線領域の光の吸収を抑えれば、可視光透過性を有しかつ熱線遮蔽性を有するシートが得られることとなる。」
「【0023】
本発明者等の検討の結果、いわゆる近赤外線領域の光を高率で反射させ、且つ可視光をある程度透過させる樹脂単層シートとして、樹脂成分に棒状酸化チタン微粒子を特定量配合することにより達成できることが判明した。
すなわち、棒状酸化チタン微粒子を使用することにより、400〜780nmの人の目に見える光(可視光線)はよく透過するが、物体に当たると熱に変わり易い波長領域780〜1600nmの光(近赤外線)はよく反射するシートが得られることが判明した。」
「【0058】
1.単層シート(反射層)の調製(試験例番号R1〜R12)
[単層シート(反射層:試験例番号R1〜R12)の調製]
下記表1に示す様に、調製した反射層用のポリ塩化ビニル系樹脂ペースト状プラスチゾルを、離型紙上に、所定の厚みとなるようナイフコーティング法によりコーティングし、180℃で2分間加熱固化し、厚み180μmのシートとした。
また、熱可塑性ウレタンエラストマー(TPU)に関しては、樹脂コンパウンドをバンバリーミキサーで混練し、4本ロールカレンダーにて、厚み250μmのシートとした。
【0059】
【表1】


「【0065】
また、表中の注は以下のものである。
・・・
*4:酸化チタンA(球状酸化チタン微粒子:粒経200nm)
*5:酸化チタンB(球状酸化チタン微粒子:粒経400nm)
*6:酸化チタンC(棒状酸化チタン微粒子:短軸400nm;長軸3μm)
・・・
【0066】
上記で得られた単層シート(反射層:試験例番号:R1〜R12)、及び透過層(試験例番号:T1〜T4)についての分光特性を、自記分光光度計(日本分光(株)社製:商品名「V−570」)を用いて、標準白色板(硫酸バリウム多孔質体)を反射率100%とし、波長350〜2100nmの範囲での分光反射率を測定し、JIS−A5759の付表3を用いて、日射反射率を導き出した。
日射吸収率は、日射反射率の場合と同様にして日射透過率を測定し、100%から日射反射率および日射透過率を差し引くことにより算出した。
それらの結果を、以下にまとめて示した。」
「【0067】
下記表4及び表5は、反射層についての結果である。
なお、表4及び表5中、可視光線透過率は波長400〜780nmにおける日射透過率、近赤外線反射率は波長780〜1600nmにおける日射反射率である。
【0068】
【表4】



(オ)甲5
甲5には次の事項が記載されている。
「【0059】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例においては、樹脂、顔料、充填剤及び各種添加剤としてそれぞれ以下のものを用いた。
ポリ塩化ビニル系樹脂:新第一塩ビ社製「PX−QHPN」
ウレタン系樹脂:大日精化工業社製「レザミン NE−8875」
可塑剤:ジイソノニルフタレート、積水化学工業社製
安定剤:Ba−Zn系熱安定剤、旭電化工業社製「AC−183」
顔料1:酸化チタン微粒子、重量平均粒子径:200nm、テイカ社製「JR600A」
顔料2:黒色顔料、BASF AG社製「パリオゲンブラックS−0084」
顔料3:黒色顔料、レジノカラー工業社製「DPF?T−7939B」
(I)ペースト状プラスチゾル及び成形用組成物の調製
樹脂、顔料、充填剤及び各種添加剤を、それぞれ表1及び表2に記載の通りの組成となるように混合して成形用のペースト状プラスチゾル及び樹脂組成物を調製した。」
「【0071】
【表1】



(カ)甲6
甲6には次の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷物等の表面保護を目的としたオーバーラミネートに用いるフィルムに関し、特にはフッ素系樹脂を用いないで耐候性に優れたオーバーラミネート用フィルムに関する。」
「【0018】
本発明の表面保護層3には、耐候性の処方を行うため、トリアジン系紫外線吸収剤を添加する。…
【0019】
ここで前記表面保護層3に添加する紫外線吸収剤としてはベンゾトリアゾール系やベンゾフェノン系は選択できない。トリアジン系紫外線吸収剤は表面保護層3に用いるアクリルウレタン系樹脂と相溶性が良好であるので、経時による紫外線吸収剤の析出が抑制され紫外線遮蔽性能の効果が継続する。」

(キ)甲7
甲7には次の事項が記載されている。
「【0034】
基材シートの片面又は両面には、必要に応じて、プライマー層を設けてもよい。」
「【0082】
(床材用化粧シートの作製)
実施例1
基材シートとして、着色ポリプロピレンシート(厚さ160μm)を用意した。上記基材シートの表面及び裏面にコロナ放電処理を施した後、表面及び裏面にそれぞれプライマー剤を塗工してプライマー層(各厚さ2μm)を形成した。プライマー剤は、樹脂組成物100重量部とヘキサメチレンジイソシアネート(硬化剤)5重量部との混合物であり、上記樹脂組成物は、アクリルウレタン共重合体、アクリルポリオール、トリアジン系紫外線吸収剤(5質量%)の混合物とした。」

(ク)甲8
甲8には次の事項が記載されている。
「【0007】
【発明の実施の形態】[赤外線透過層形成用組成物]本発明の赤外線透過層形成用組成物は、樹脂成分と、波長800〜1600nmの赤外線に対する吸収率が50%以下の顔料を含み、カーボンブラックの含有量が0.1重量%以下のものである。この赤外線透過層形成用組成物は、液状もしくは粉体の塗料であってもよいし、フィルム状であってもよいし、物品の表面を構成する壁材やパネル等であってもよい。本発明では、太陽光に含まれる赤外線の中で特に発熱に大きく寄与する波長800〜1600nmの赤外線を強く吸収するカーボンブラックの使用量を少なく、又はゼロにすることにより、赤外線の吸収を抑制する。一方、発色剤として上記条件を満たす顔料を使用することにより、赤外線の吸収は制限しながら、さまざまな発色が可能となる。カーボンブラックの含有量が少ないほど赤外線吸収は少なく、カーボンブラックの含有量は好ましくは0.05重量%以下、より好ましくは0重量%である。」
「【0009】赤外線透過層形成用組成物に含まれる顔料としては、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用可能である。無機顔料としては、酸化鉄顔料、酸化チタン顔料、複合酸化物系顔料、酸化チタン被覆雲母顔料、酸化鉄被覆雲母顔料、鱗片状アルミニウム顔料、酸化亜鉛等が使用可能である。…顔料量が多いと、赤外線が赤外線透過層を透過しにくくなって塗膜に吸収される赤外線量が増加してしまい、他方、顔料量が少ないと、十分に発色させることが困難になるからである。…
【0010】[赤外線反射体]上述した赤外線透過層形成用組成物は、波長800〜1600nmの赤外線に対する反射率が60%以上である赤外線反射層を被覆する目的で使用され、発色層かつ保護層としての赤外線透過層を形成する。このような2層構造を有する赤外線反射体によれば、発色層である赤外線透過層を通過した赤外線が、その下にある赤外線反射層で反射され、再び赤外線透過層を通過して外へ逃げるので、遮蔽される構造物などの温度上昇を低く抑えることができる。また、赤外線透過層の顔料として、前述した顔料から所望の色のものを選択することにより、必要な発色および意匠性を付与できる。すなわち、下層で主に赤外線反射作用を得る一方、上層により意匠性を向上する。さらに、下層である反射層を上層で保護するため、長期にわたって安定した赤外線反射機能を持続できる。前記赤外線反射層は波長800〜1600nmの赤外線に対する反射率が60%以上かつ透過率が25%以下であり、より好ましくは透過率は10%以下である。その透過率が25%より大であると、反射体としての反射率が低下する。なお、ここでいう反射率、透過率、吸収率は層全体として測定した数値を意味し、それらの測定は、例えば日立製作所製自動記録分光光度計「U−4000」を用いて測定することができる。反射の測定は、例えば5°正反射の条件で行うことができる。前記赤外線透過層は、波長800〜1600nmの赤外線に対する反射率が60%未満、吸収率が50%以下である。吸収率が50%よりも大であると、反射体としての反射率が低下する。また、透過率が30%未満であると、反射体としての反射率が低下するので透過率は30%以上であることが望ましく、50%以上であるとより好ましい。」
「【0027】[実施例7]実施例5と同様に、赤外線反射層用塗料をスプレー粘度までシンナーで希釈し、エアスプレーガンにてアルミニウム板の表面に吹き付け塗装を行い、室温にて10分間乾燥後、80℃で30分間乾燥を行うことにより、平均25μmの膜厚の塗膜を形成した。また、下記各成分をミキサーで撹拌し、その後、サンドミルで均一に分散することにより、赤外線透過層形成用組成物を作成した。
アクリルワニス(固形分60%):50.0重量部
ペリレンブラックS−0084(BASF製):1.5重量部
バイフェロックス120M(Bayer製):0.5重量部
タロックスHY250(チタン工業社製):0.5重量部
トルエン10/キシレン15混合溶液:47.5重量部
この赤外線透過層形成用組成物において、波長800〜1600nmの赤外線に対する吸収率は、樹脂成分では1%、顔料では4%である。上記赤外線反射層上に、この赤外線透過層形成用組成物をスプレー粘度までシンナーで希釈し、エアスプレーガンにて吹き付け塗装を行い、室温にて10分間乾燥後、80℃で30分間乾燥を行うことにより、平均20μmの膜厚の赤外線透過層を形成し、赤外線反射体を製造した。この赤外線透過層は、波長800〜1600nmの赤外線に対する反射率が15%、吸収率が5%、透過率が80%である。」

(ケ)甲9
甲9には次の事項が記載されている。
「【0032】
また、表層の赤外光吸収が低いほど熱の発生が低減できるので、表層を構成する材料の光線透過率は高いことが望ましい。
例えば、表層は、その全光線透過率が50%以上、好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上である。ただし、全光線透過率は、JIS K7105(プラスチックの光学的特性試験方法)に準拠した測定法によって測定される値をいう。」
「【0040】
太陽光の中で、波長700nm〜2500nmの光は赤外線と呼ばれる(近赤外線と呼ばれる場合もあるが、本発明では、波長700nm〜2500nmを赤外線という)。一般に、赤外線が物質に当たると、そのエネルギーが物質を構成する分子の振動を活性化し、分子振動に伴う熱エネルギーが発生し、物質の温度を上昇させる。
上記遮熱層には、赤外線を反射する赤外線反射剤が含まれているので、表層から入射した赤外線の多くは、遮熱層において反射され、表層から外部へと出射される。このため、射熱シートの温度上昇を抑制できる。特に、赤外線反射剤は、赤外線吸収剤とは異なり、赤外線を反射するため、遮熱層が蓄熱することを防止できる。よって、本発明の射熱シートを階下に居住空間がある場所(例えば、マンションのベランダ、ルーフバルコニー及び通路、並びに、建物の屋根など)に敷設することにより、その居住空間の温度上昇を抑制できる。
【0041】
上記遮熱層を構成する合成樹脂としては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン、アクリロニトリル・スチレン、ナイロン、ポリアセタール、アクリル、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリウレタン等の熱可塑性樹脂、これらの共重合体、及びエポキシ樹脂などの反応型樹脂等が挙げられる。
これらの合成樹脂は、1種単独で又は2種以上を併用することもできる。
好ましくは、遮熱層の主たる合成樹脂は、ポリ塩化ビニルである。ポリ塩化ビニルは、本発明の遮熱シートの加工に適しており、更に、経済的にも有利である。
【0042】
上記赤外線反射剤としては、顔料、マイクロバルーン、ガラスビーズ等が挙げられる。中でも、700〜2500nmの波長領域における日射反射率が50%以上の赤外線反射剤が好ましく、60%以上の赤外線反射剤が更に好ましい。なお、日射反射率は、JIS K 5602の「塗膜の日射反射率の求め方」に記載の日射反射率の測定方法に準じて、波長300nm〜2500nmにおいて波長5nm間隔で分光反射率を測定し(測定機器:分光光度計。島津製作所製の製品名「UV−3600」)、これから計算した値である。」

(コ)甲10
甲10には次の事項が記載されている。
「【0006】
【発明の実施の形態】図2は本発明に係る外装用化粧材の一例を示す断面図で、図において1は太陽赤外線反射性基材、2はその基材1の上に積層された太陽赤外線透過性暗色樹脂層である。また、図3は外装用化粧材の別の例を示しており、この化粧材は太陽赤外線透過性暗色樹脂層2の表面に保護層3を積層したタイプである。
【0007】太陽赤外線透過性暗色樹脂層は、太陽赤外線帯域で透過性を有し且つ可視光線帯域の一部の帯域でのみ吸収スペクトルのピークを有する着色剤を2種類以上用意して混合(混色)し、各着色剤の吸収スペクトルを重ね合わせることによって全可視光線帯域に吸収スペクトルが及ぶように混合し、しかもそれらを少なくとも太陽赤外線の全帯域を透過する太陽光線透過性樹脂に混合することによって、目視外観は暗色であって尚且つ太陽赤外線に対しては透明な暗色樹脂を作製し、この暗色樹脂を使用して形成する。例えば、図4(a)〜(c)はそれぞれ黄顔料、赤顔料、青顔料を分散させた透明樹脂層の分光透過率を示す概念図であるが、これら3種の顔料を混合したものを透明樹脂層に分散させることにより、図4(d)に示す如く、目視外観は暗色で太陽赤外線に対しては透明な分光透過率を有する透明樹脂層を形成するのである。太陽赤外線透過性暗色樹脂層は、太陽赤外線の全波長帯域において、好ましくは70%以上の透過率を有するように設計する。
【0008】着色剤としては、図4(a)〜(c)の概念図或いは図5(後述)の実測データに示す如く、可視光線帯域(波長380〜780nm)内の一部の波長域にのみ吸収のピークを有し且つ太陽赤外線全帯域(波長780〜3000nm)で透過性を有する染料或いは顔料を使用する。また、これらの着色剤は太陽光線に曝露することが前提となるため、十分な(所望の)耐候性を有するものを選ぶ必要がある。例えば、黄鉛、チタニウムレッド、弁柄、朱、カドミウムレッド、群青、紺青、コバルトブルー、イソインドリノン、キナクリドンレッド、フタロシアニンブルー、インダスレンブルー等を挙げることができる。これらの染料或いは顔料の中から、各着色剤の吸収スペクトル帯域を全部重ね合わせることによって可視光線帯域内全域を覆うような吸収スペクトルとなる2種類以上の組合せを選ぶ。混合比率は通常各顔料を大体等分(3種類の場合、1:1:1)とすることが基本であるが、所望の暗色の色相によって、或いは着色剤の混色特性に応じて適宜増減する。混合着色剤の添加量は、通常、樹脂中に1〜85重量%程度であり、具体的には太陽赤外線透過性樹脂に添加し、所定の層厚に形成した状態で、太陽赤外線の全帯域において好ましくは70%以上の透過率を有し、且つ可視光線帯域内において所望の暗色となるように添加量を加減する。着色剤自体の隠蔽性によっても添加量は依存する。」
「【0013】太陽赤外線反射性基材としては、太陽光線曝露時の温度上昇の原因となる太陽赤外線の帯域において高い反射率を有するものを用いる。鉄、ステンレス鋼、チタニウム等も用いられるが、反射率としては好ましくは太陽赤外線の全帯域で60%以上あるものを選ぶ。具体的には、アルミニウム、金、銀、銅、黄銅等の金属、或いは任意の材料の基材の表面のみにこれらの金属、二酸化チタン、硫酸バリウム、亜鉛華等の太陽赤外線反射性物質の層を形成したものでもよい。層の形成法としてはこれらの材料の箔片或いは粉末を分散せしめた塗料を塗布するか、特に金属の場合は箔の貼り合わせ、真空蒸着、スパッタリング、電解又は無電解メッキ等の薄膜形成法による。任意の基材としては、前記以外の金属、木材、陶磁器、硝子、樹脂、或いはこれらの積層体等が挙げられる。太陽赤外線反射性基材の形状としては、平板、彎曲板等の板、四角柱、円柱等の柱状体、シート、各種立体形状等任意であり、用途に応じて設計する。」
「【0027】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の外装用化粧材は、目視では暗色に見えるものでありながら、太陽光線に曝露しても太陽光線中の赤外線は吸収されることなく反射されるため、輻射熱により温度が上昇するのを防止できる。」
「【図2】


「【図5】



(サ)甲11
甲11には次の事項が記載されている。
「【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、表皮内に外表面から入射した赤外線は、赤外線透過層である上層を透過して赤外線反射層である下層に当たり、この下層で反射して上層から表皮の外に向けて放射させられる。このため、赤外線が表皮内に吸収され難くなり、赤外線吸収による温度上昇も少なくなる。」
「【0024】
前記下層4は、この実施例では合成樹脂としてのポリ塩化ビニルよりなる下層主体と、その下層主体に所定量混入された酸化チタン (TiO2)とによって形成されている。酸化チタンは白色であるから、この下層4は白色を呈するようになる。
この下層4は、基布2の表面側に接着剤3によって接着されている。なお、この下層4を基布2に接着する方法は、接着剤3を用いる方法に限定されることはなく、適宜変更することができる。
【0025】
前記上層5は、合成樹脂としてのポリ塩化ビニルよりなる上層主体と、その上層主体に所定量混入された赤外線透過黒色有機顔料とによって形成されている。この赤外線透過黒色有機顔料は、BASF社製のLumogen Black(登録商標)またはPaliogen Black(登録商標)で、その種類としては、Lumogen Blackの場合はFK4280またはFK4281が用いられ、Paliogen Blackの場合はL 0086が用いられている。
【0026】
Lumogen Black FK4280からなる赤外線透過黒色有機顔料は、図2中に実線で示すように、波長が約700nmより長い赤外線が10%以上の透過率で透過し、波長が約900nmより長い赤外線が約90%透過する。
Lumogen Black FK4281からなる赤外線透過黒色有機顔料は、図2中に破線で示すように、波長が約850nmより長い赤外線が10%以上の透過率で透過し、波長が約1100nmより長い赤外線が約90%透過する。
Paliogen Black L 0086からなる赤外線透過黒色有機顔料は、図2中に一点鎖線で示すように、波長が約700nmより長い赤外線が10%以上の透過率で透過し、波長が約850nmより長い赤外線が約90%透過する。
すなわち、これらの赤外線透過黒色有機顔料は、近赤外線(波長770nm〜1000nm)を含めて赤外線を透過させることができるものである。」
「【図1】


「【図2】



イ 本件発明1について
(ア)対比
甲1発明の「着色ベースフィルム層1」は本件発明1の「着色基材層」に相当し、以下同様に「印刷層2」は「絵柄印刷層」に、「オーバーレイフィルム層3」は「オーバーレイフィルム層」に、「コーティング層5」は「表面保護層」に、「遮熱化粧シート」は「化粧シート」に相当する。
甲1発明の「着色ベースフィルム1の表面に印刷層2として、木目柄をグラビア印刷にて印刷し、着色ベースフィルム1の表面に印刷層2を設けた面に、オーバーレイフィルム層3を設け、オーバーレイフィルム層3の表面にコーティング層5を設け」たことは、本件発明1の「着色基材層の一方の面側に、印刷により形成された絵柄印刷層、及びオーバーレイフィルム層がこの順に積層されてな」り、「前記オーバーレイフィルム層の表面側には、表面保護層が形成され」ることに相当する。
「ポリエチレン樹脂」は「ポリオレフィン系樹脂」であるから、甲1発明の「着色ベースフィルム層1として、ポリエチレン樹脂100重量部に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を3重量部、紫外線吸収剤を1重量部、ヒンダードアミン系光安定剤を1重量部、酸化チタンを顔料として23重量部添加して、厚み55μmに製膜」することは、本件発明1の「前記着色基材層は、ポリオレフィン系樹脂からな」り、「前記着色基材層は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し、酸化チタンを顔料として23質量部以上50質量部以下の範囲内で含むこと」ことに相当する。
「表面保護層」について、「アクリルポリオール」が「アクリルウレタン系樹脂」であること、及びアクリルウレタン系樹脂の材料密度が約1.0g/cm3であることが周知であって甲1発明では厚さ9μmの表面保護層を塗布しているので、その固形分塗布量が約9g/m2と認められるから、甲1発明において、「コーティング層5は、アクリルポリオール100重量部に対してヘキサメチレンジイソシアネート10重量部と紫外線吸収剤5重量部とヒンダードアミン系光安定剤5重量部を添加したものをコーティングにより9μmとなるようにして設けたものであ」ることは、「表面保護層」が「紫外線吸収剤を含むアクリルウレタン系樹脂からなり、アクリルウレタン系樹脂の固形分塗布量が5g/m2以上10g/m2以下であ」る限りで、本件発明1において、「前記表面保護層は、トリアジン系紫外線吸収剤を含むアクリルウレタン系樹脂からなり、前記アクリルウレタン系樹脂の固形分塗布量が5g/m2以上10g/m2以下であ」ることと一致する。
「絵柄印刷層」について、甲1発明において、「印刷層2として、ウレタン樹脂と塩化ビニル=酢酸ビニル共重合樹脂を7:3の割合で混合したもの100重量部に、ヘキサメチレンジイソシアネートとイソホロンジイソシアネートを2:8の混合からなる硬化剤を3重量部添加して、イソインドリノン、ポリアゾ、フタロシアニンからなる顔料を3重量部添加してインキとし、木目柄をグラビア印刷にて印刷」することは、「絵柄印刷層」が「顔料を含む印刷インキにより絵柄がグラビア印刷された層であ」る限りで、本件発明1において、「前記絵柄印刷層は、赤外光の透過率が80%以上である印刷インキであって、酸化チタンを顔料として0質量%を超えて50質量%以下の範囲内で含む印刷インキにより絵柄がグラビア印刷された層であ」ることと一致する。

したがって、本件発明1と甲1発明とは、次の点で一致し、相違点で相違する。
[一致点]
「着色基材層の一方の面側に、印刷により形成された絵柄印刷層、及びオーバーレイフィルム層がこの順に積層されてなり、
前記着色基材層は、ポリオレフィン系樹脂からなり、
前記オーバーレイフィルム層の表面側には、表面保護層が形成され、
前記表面保護層は、紫外線吸収剤を含むアクリルウレタン系樹脂からなり、前記アクリルウレタン系樹脂の固形分塗布量が5g/m2以上10g/m2以下であり、
前記絵柄印刷層は、顔料を含む印刷インキにより絵柄がグラビア印刷された層であり、
前記着色基材層は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し、酸化チタンを顔料として23質量部以上50質量部以下の範囲内で含む化粧シート。」
[相違点1]
「表面保護層」が「紫外線吸収剤を含むアクリルウレタン系樹脂からなり、アクリルウレタン系樹脂の固形分塗布量が5g/m2以上10g/m2以下であ」ることに関して、本件発明1では、「前記表面保護層は、トリアジン系紫外線吸収剤を含むアクリルウレタン系樹脂からなり、前記アクリルウレタン系樹脂の固形分塗布量が5g/m2以上10g/m2以下であ」るのに対して、甲1発明は、「コーティング層5は、アクリルポリオール100重量部に対してヘキサメチレンジイソシアネート10重量部と紫外線吸収剤5重量部とヒンダードアミン系光安定剤5重量部を添加したものをコーティングにより9μmとなるようにして設けたものであ」る点。
[相違点2]
「絵柄印刷層」が「顔料を含む印刷インキにより絵柄がグラビア印刷された層であ」ることに関して、本件発明1では、「前記絵柄印刷層は、赤外光の透過率が80%以上である印刷インキであって、酸化チタンを顔料として0質量%を超えて50質量%以下の範囲内で含む印刷インキにより絵柄がグラビア印刷された層であ」るのに対して、甲1発明では、「印刷層2として、ウレタン樹脂と塩化ビニル=酢酸ビニル共重合樹脂を7:3の割合で混合したもの100重量部に、ヘキサメチレンジイソシアネートとイソホロンジイソシアネートを2:8の混合からなる硬化剤を3重量部添加して、イソインドリノン、ポリアゾ、フタロシアニンからなる顔料を3重量部添加してインキとし、木目柄をグラビア印刷にて印刷」するものであり、赤外光の透過率が不明である点。

(イ)判断
まず、相違点2について検討する。
甲8(上記ア(ク))、甲9(上記ア(ケ))、甲10(上記ア(コ))及び甲11(上記ア(サ))の記載からみて、酸化チタンを含む赤外線反射層等の上に赤外線透過率が80%以上の着色された層を設けることは、本件特許に係る出願前に周知である(以下「周知技術」という。)。
しかしながら、甲1には、「印刷層2に用いる顔料」として「イソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン、フタロシアニン、酸化チタンの少なくとも一つ以上を用いる」ことにより、「赤外光領域の反射率を一定以上に上げる事が可能」となる(上記ア(ア)の【0017】)ことで、「着色ベースフィルム層と印刷層に特定の顔料を用いる事で、赤外光領域の反射率を一定以上に上げる事が可能となり、光線遮蔽効果を得て、反りの発生を防止することを可能とする」(上記ア(ア)の【0009】)ことが記載されている。
すなわち、甲1発明は、「光線遮蔽効果を得て、反りの発生を防止することを可能とする」ために、「印刷層2」の反射率を上げるものであるところ、上記周知技術のように、「印刷層2」の透過率を高くするとその反射率は低くなってしまうから、甲1発明において、上記周知技術を適用することには阻害要因がある。
したがって、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、相違点1を検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が甲1発明、甲1〜11に記載の技術的事項、及び甲6〜11に記載された事項から把握される周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記イで検討したのと同じ理由により、当業者が甲1発明、甲1〜11に記載の技術的事項、及び甲6〜11に記載された事項から把握される周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 小括
よって、本件発明1〜3は、甲1発明、甲1〜11に記載の技術的事項、及び甲6〜11に記載された事項から把握される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)令和3年7月19日提出の意見書における申立人の主張について
ア 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(ア)申立人は、次のとおり、本件発明1が、発明の詳細な説明に記載したものでない旨を述べている。

a 「赤外光透過率」について(令和3年7月19日提出の意見書の「(3−4−1)赤外光透過率」(9〜12ページ))
本件発明1は、「前記絵柄印刷層は、赤外光の透過率が80%以上である印刷インキであって、酸化チタンを顔料として0質量%を超えて50質量%以下の範囲内で含む印刷インキにより絵柄がグラビア印刷された層であり」と特定しているが、発明の詳細な説明には、酸化チタンの含有量についての具体的な記載がなく、甲2〜4の記載事項からみて、例えば、酸化チタンを50質量%含有する印刷インキの場合、「赤外光の透過率が80%以上」を満たさないことが明らかであるから、本件発明1は、赤外光の透過率80%以上を達成して発明の課題を解決することができない。

b 「絵柄印刷層の厚み」について(令和3年7月19日提出の意見書の「(3−4−2)絵柄印刷層の厚み」(12〜13ページ))
「赤外光の透過率が80%以上」とは、測定用に特定した厚みで得られた数値であって、着色基材層に載置された後の絵柄印刷層の厚さ(塗布量)に応じて赤外光透過率が大きく異なることは明らかである。本件発明1は、絵柄印刷層の厚みを特定していないから、発明の課題を達成できない範囲を含んでいる。

(イ)当審の判断
a 「赤外光透過率」について
本件発明1の「印刷インキ」は、「赤外光の透過率が80%以上である」こと、及び「酸化チタンを顔料として0質量%を超えて50質量%以下の範囲内で含む」ことの両方を発明特定事項とするものであるから、「酸化チタンを顔料として0質量%を超えて50質量%以下の範囲内で含む」「印刷インキ」であっても、「赤外光の透過率が80%以上」を満たさないものは、そもそも本件発明1ではない。

b 「絵柄印刷層の厚み」について
本件発明1は、「前記絵柄印刷層は、赤外光の透過率が80%以上である印刷インキであ」ることを発明特定事項としており、本件発明1の「印刷インキ」である「絵柄印刷層」が「赤外光の透過率が80%以上」である。「絵柄印刷層の厚さ(塗布量)に応じて赤外光透過率が大きく異なる」ことは申立人が主張するとおりであるが、「絵柄印刷層」が「赤外光の透過率が80%以上」を満たさないものは、そもそも本件発明1ではない。

イ 特許法第36条第6項第2号明確性)について
(ア)申立人は、次のとおり、本件発明1が明確でない旨主張している

a 「赤外光の透過率」について(令和3年7月19日提出の意見書の「(3−5−1)赤外光透過率」(13〜14ページ))
甲2〜4によれば、酸化チタンの含有率が10%以上で赤外光透過率が80%以上となることはあり得ず、本件発明1は不明確である。

b 「赤外光透過率の技術的意味」について(令和3年7月19日提出の意見書の「(3−5−2)赤外光透過率」(14〜15ページ))
本件発明は、赤外光透過率の測定方法を特定しておらず、赤外光透過率が定義されておらず、その技術的意味が不明確である。また、絵柄印刷層の赤外光透過率を特定する技術的意味が不明確である。

c 「絵柄印刷層の厚み」について(令和3年7月19日提出の意見書の「(3−5−3)絵柄印刷層の厚み」(15ページ))
本件発明1の「印刷インキ」は印刷前のインキを指すものと解され、着色基材層に載置された後の絵柄印刷層の赤外光透過率が不明確である。

d 「グラビア印刷」について(令和3年7月19日提出の意見書の「(3−5−4)グラビア印刷」(15ページ))
請求項1の「印刷インキにより絵柄がグラビア印刷された」の記載では、印刷後の印刷層の構成(乾燥後の厚み、赤外光透過率等)が特定できないから、不明確な記載である。

(イ)当審の判断
a 「赤外光の透過率」について
本件発明1の「印刷インキ」は、「赤外光の透過率が80%以上である」こと、及び「酸化チタンを顔料として0質量%を超えて50質量%以下の範囲内で含む」ことの両方を発明特定事項とするものである。当該記載自体は日本語としての意味が明確であるし、また、「印刷インキ」が、「酸化チタンを顔料として0質量%を超えて50質量%以下の範囲内で含」み、かつ、「赤外光の透過率が80%以上である」ことに技術的な欠陥があるともいえない。

b 「赤外光透過率の技術的意味」について
「赤外光透過率」は、赤外光を透過する割合を意味することは明らかである。
また、「絵柄印刷層」の「赤外光の透過率を80%以上」とする構成によって、「絵柄印刷層が赤外光を透過」させ、「透過した赤外光を着色基材層が反射するため、赤外光の熱の蓄熱作用を低減でき、赤外光(太陽光)があたる表面と裏面との温度差を低減でき、太陽光による反りの発生を抑制できる」(本件特許明細書【0006】)ことから、当該構成の技術的意味も明らかである。

c 「絵柄印刷層の厚み」について
本件発明1は、「前記絵柄印刷層は、赤外光の透過率が80%以上である印刷インキであ」ることを発明特定事項としていることから、本件発明1の「印刷インキ」は「絵柄印刷層」を形成するものであり、また、「印刷インキ」である「絵柄印刷層」は「赤外光の透過率が80%以上」である。

d 「グラビア印刷」について
請求項1の「前記絵柄印刷層は、・・・絵柄がグラビア印刷された層であり」の記載は、「絵柄印刷層」の「絵柄」が「グラビア印刷された」という状態を示すことにより、その構造を特定するものであるから、当該記載は明確である。

ウ 特許法第36条第4項第1号実施可能要件)について
(ア)申立人は、次のとおり、発明の詳細な説明の記載が、当業者が本件発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない旨主張している。

a 「赤外光透過率」について(令和3年7月19日提出の意見書の「(3−6−1)赤外光透過率」(15〜16ページ))
本件発明1及び発明の詳細な説明は、取消理由通知で指摘された取消理由を解消していない。

b 「着色基材層と絵柄印刷層との関係について」について(令和3年7月19日提出の意見書の「(3−6−2)着色基材層と絵柄印刷層との関係について」(16〜17ページ))
本件発明1及び発明の詳細な説明は、取消理由通知で指摘された取消理由を解消していない。

c 「酸化チタンの粒径」について(令和3年7月19日提出の意見書の「(3−6−3)酸化チタンの粒径」(17ページ))
本件特許明細書には、どのような粒子径の酸化チタンを用いて印刷インキの赤外光透過率を測定したのかが、当業者が実施し得る程度に明確かつ十分に記載されているといえない。

d 「絵柄印刷層の厚み」について(令和3年7月19日提出の意見書の「(3−6−4)絵柄印刷層の厚み」(17ページ))
実施例には、印刷インキ自体の赤外光透過率が記載されているのみで、絵柄印刷層の厚み、酸化チタンの粒子径及び絵柄印刷層自体の赤外光透過率が、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

(イ)当審の判断
a 「赤外光透過率」について
取消理由についての判断は、上記2(3)ア及びイで示したとおりである。

b 「着色基材層と絵柄印刷層との関係について」について
取消理由についての判断は、上記2(3)ア及びイで示したとおりである。

c 「酸化チタンの粒径」について
発明の詳細な説明の「絵柄印刷層2は、意匠性を付与するための絵柄の印刷により形成された層である。・・・また、印刷インキは、例えば、イソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン、フタロシアニン、及び酸化チタンのいずれか、或いはこれらの混合物を顔料として含んでいる。・・・」(【0013】)の記載から、「酸化チタン」としては、「絵柄印刷層」に「意匠性を付与するための絵柄の印刷」するために「顔料」として用いられるものを用いて実施できる。

d 「絵柄印刷層の厚み」について
「赤外光の透過率が80%以上」である「絵柄印刷層」が実施できることについては、上記2(3)アで示したとおりである。

エ 甲1に基づく進歩性欠如について
(ア)申立人は、相違点2について、本件特許明細書には、酸化チタンが選択的に用いられること(【0013】)、及び絵柄印刷層2の印刷インキの赤外光の透過率を80%としたことが記載されているのみで、酸化チタンの含有量と赤外光透過率との関係も、酸化チタンを用いる技術的意義も、酸化チタンを用いた例も記載されておらず、発明自体未完成である旨(令和3年7月19日提出の意見書の「(3−7−1)訂正発明1」のウ−1.(18〜19ページ))、及び赤外光による蓄熱作用を低減するために、絵柄印刷層で赤外光を透過させ、反射層で赤外光を反射させるという技術的思想は甲8〜11のように従来周知である旨を述べている(令和3年7月19日提出の意見書の「(3−7−1)訂正発明1」のウ−3.(19ページ))。

(イ)当審の判断
本件発明1が発明の詳細な説明に記載されたものであることは、上記2(3)で示したとおりであり、また、相違点2についての進歩性の判断は上記2(4)イ(イ)で示したとおりである。

オ 他の理由(新規事項)について
(ア)申立人は、訂正発明1における「酸化チタンを顔料として0質量%を超えて50質量%以下の範囲内で含む印刷インキにより絵柄がグラビア印刷された層であり」の記載は、新たな技術的事項を導入するものである旨を述べている。

(イ)申立人の上記(ア)の主張については、上記第2の5(2)の判断と同様である。

第5 取消理由通知(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立理由中、取消理由通知(決定の予告)に採用しなかったものは、概略以下のとおりである。
本件特許は、平成31年1月16日提出の手続補正書による補正が、次の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
平成31年1月16日付け手続補正書により、請求項1について、「前記絵柄印刷層は、赤外光の透過率が80%以上であり、酸化チタンを顔料として0質量%を超えて50質量%以下の範囲内で含むインキを印刷インキとし」とした補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでない。

2 当審の判断
本件特許の願書に最初に添付した明細書には、次の記載がある。
「【0013】
(絵柄印刷層2)
絵柄印刷層2は、・・・。また、印刷インキは、例えば、イソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン、フタロシアニン、及び酸化チタンのいずれか、或いはこれらの混合物を顔料として含んでいる。これにより、印刷インキは、赤外光の透過率が80%以上となっている。それゆえ、絵柄印刷層2が赤外光を透過し、透過した赤外光を着色基材層1が反射するため、赤外光の熱による蓄熱作用が低減される。」
「【0014】
・・・
また、絵柄印刷層2の厚みは5μm以上10μm以下が好ましい。さらに、絵柄印刷層2を構成する樹脂内の酸化チタンの比率は50%以下とすることが好ましい。」

ここで、「絵柄印刷層」及び「酸化チタン」に関する上記記載は、「印刷インキは、赤外光の透過率が80%以上となっている」「絵柄印刷層」において、「酸化チタンの比率は50%以下とする」ことを記載したものである。そうすると、本件特許の願書に最初に添付した明細書には、「前記絵柄印刷層は、赤外光の透過率が80%以上」であることと「酸化チタンを顔料として0質量%を超えて50質量%以下の範囲内で含むインキを印刷インキ」とすることを同時に満足するものが記載されている。
したがって、請求項1の「前記絵柄印刷層は、赤外光の透過率が80%以上であり、酸化チタンを顔料として0質量%を超えて50質量%以下の範囲内で含むインキを印刷インキとし」と補正した事項は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項1〜3に係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項1〜3に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色基材層の一方の面側に、印刷により形成された絵柄印刷層、及びオーバーレイフィルム層がこの順に積層されてなり、
前記着色基材層は、ポリオレフィン系樹脂からなり、
前記オーバーレイフィルム層の表面側には、表面保護層が形成され、
前記表面保護層は、トリアジン系紫外線吸収剤を含むアクリルウレタン系樹脂からなり、前記アクリルウレタン系樹脂の固形分塗布量が5g/m2以上10g/m2以下であり、
前記絵柄印刷層は、赤外光の透過率が80%以上である印刷インキであって、酸化チタンを顔料として0質量%を超えて50質量%以下の範囲内で含む印刷インキにより絵柄がグラビア印刷された層であり、
前記着色基材層は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し、酸化チタンを顔料として23質量部以上50質量部以下の範囲内で含むことを特徴とする化粧シート。
【請求項2】
前記絵柄印刷層は、酸化チタンの他に、イソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン及びフタロシアニンのいずれか、或いはこれらの混合物を顔料として含む印刷インキにより絵柄がグラビア印刷された層であることを特徴とする請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】
請求項1または2に記載の化粧シートを基材に貼りあわせてなることを特徴とする化粧板。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-02-01 
出願番号 P2015-077670
審決分類 P 1 651・ 55- YAA (B32B)
P 1 651・ 121- YAA (B32B)
P 1 651・ 536- YAA (B32B)
P 1 651・ 537- YAA (B32B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 藤原 直欣
特許庁審判官 藤井 眞吾
石井 孝明
登録日 2020-01-14 
登録番号 6645025
権利者 凸版印刷株式会社
発明の名称 化粧シート、及び化粧板  
代理人 宮坂 徹  
代理人 田中 秀▲てつ▼  
代理人 廣瀬 一  
代理人 廣瀬 一  
代理人 田中 秀▲てつ▼  
代理人 宮坂 徹  

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