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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
管理番号 1384042
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-21 
確定日 2022-01-31 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6714387号発明「剥離シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6714387号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜4〕について訂正することを認める。 特許第6714387号の請求項2〜4に係る特許を維持する。 特許第6714387号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6714387号の請求項1〜4に係る特許についての出願は、平成28年2月25日の出願であって、令和2年6月9日にその特許権の設定登録がされ、令和2年6月24日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和2年12月21日 :特許異議申立人特許業務法人朝比奈特許事務所(以下「申立人1」という。)による請求項1〜4に係る特許に対する特許異議の申立て
令和2年12月22日 :特許異議申立人渋谷都(以下「申立人2」という。)による請求項1〜4に係る特許に対する特許異議の申立て
令和3年3月24日付け:取消理由通知書
令和3年5月31日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
令和3年7月14日 :申立人1による意見書の提出
令和3年7月20日 :申立人2による意見書の提出

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
上記令和3年5月31日提出の訂正請求書による訂正の請求を、以下「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。
本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。

(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項2に記載された
「前記剥離剤層が、重量平均分子量が5000以上、100000以下であるポリオルガノシロキサンを含有する剥離剤組成物から形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の剥離シート。」を、
「基材と、前記基材の少なくとも一方の面側に設けられた剥離剤層とを備え、粘着シートにおける被着体と接触させる面を保護するための剥離シートであって、
前記基材が、プラスチックフィルムから構成され、
原子間力顕微鏡を用いて、前記剥離剤層における前記基材とは反対の面側から測定される前記剥離シートの弾性率が、1.5MPa以上、5.0MPa以下であり、
前記剥離剤層の厚さが、0.3μm以上、1.0μm以下であり、
前記剥離剤層が、重量平均分子量が10000以上、15000以下であるポリオルガノシロキサンを含有する剥離剤組成物から形成されたものであり、
前記剥離剤組成物が、SiO2,(CH3)3SiO1/2,CH2=CH(CH3)2SiO1/2単位を有する有機シロキサン化合物を含まない
ことを特徴とする剥離シート。」に訂正する(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3及び4も同様に訂正する)。

(3)訂正事項3
本件訂正前の請求項3に記載された「請求項1または2に記載の剥離シート」を、「請求項2に記載の剥離シート」に訂正する(請求項3の記載を引用する請求項4も同様に訂正する)。

(4)訂正事項4
本件訂正前の請求項4に記載された「請求項1〜3のいずれか一項に記載の剥離シート」を、「請求項2または3に記載の剥離シート」に訂正する。

(5)訂正事項5
本件訂正前の明細書の【0072】及び【0084】【表1】に記載された「実施例7」を、「比較例A」に訂正する。

2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1〜4について、請求項2〜4は、本件訂正前の請求項1の記載を直接的又は間接的に引用するものであって、上記訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正請求は、一群の請求項〔1〜4〕について請求されたものであり、訂正事項1〜4は、一体の訂正事項として取り扱われるものである。

3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2が、請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項に改め、また、本件訂正前の請求項1の「ポリオルガノシロキサン」の「重量平均分子量」について、「10000以上、15000以下」と限定し、「剥離剤組成物」について、「SiO2,(CH3)3SiO1/2,CH2=CH(CH3)2SiO1/2単位を有する有機シロキサン化合物を含まない」と限定するものであるから、請求項間の引用関係の解消及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
なお、本件訂正後の請求項2における「SiO2,(CH3)3SiO1/2,CH2=CH(CH3)2SiO1/2単位」の記載は、「SiO2」と「(CH3)3SiO1/2」と「CH2=CH(CH3)2SiO1/2」とが選択的なものとして記載されたものではないから、本件訂正後の請求項2における「SiO2,(CH3)3SiO1/2,CH2=CH(CH3)2SiO1/2単位を有する有機シロキサン化合物」の記載は、「SiO2単位」と「(CH3)3SiO1/2単位」と「CH2=CH(CH3)2SiO1/2単位」とを有する「有機シロキサン化合物」の意味であることは明らかである。

イ 新規事項の有無について
訂正事項2のうち「ポリオルガノシロキサン」の「重量平均分子量」についての限定は、本件特許の明細書の【0031】及び【0084】の記載に基づくものである。
次に、訂正事項2のうち「剥離剤組成物」の限定について検討する。
取消理由通知で引用した引用文献1(宮田壮,外4名,“ポリジメチルシロキサンを用いた剥離剤層の原子力間力顕微鏡による力学物性評価”,日本接着学会誌,2013年(平成25年)12月,Vol.49,No.12,第446〜453ページ)には、「剥離剤層塗工液」に、添加剤として「SiO2,(CH3)3SiO1/2,CH2=CH(CH3)2SiO1/2単位を有する有機シロキサン化合物」を添加したものが記載されている(引用文献1の447ページ左欄9〜22行)。
そして、訂正事項2のうち「剥離剤組成物」についての限定は、「剥離剤組成物」が、引用文献1に記載された上記「SiO2,(CH3)3SiO1/2,CH2=CH(CH3)2SiO1/2単位を有する有機シロキサン化合物」を含まないとするものであって、新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、訂正事項2は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2の発明特定事項をさらに限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3及び4について
訂正事項3及び4は、訂正事項1に伴い、請求項の引用関係の整合を図るために、削除された請求項1を引用しないものとするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、訂正事項3及び4は、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項5について
本件訂正前の請求項1では、「原子間力顕微鏡を用いて、前記剥離剤層における前記基材とは反対の面側から測定される前記剥離シートの弾性率が、1.5MPa以上、5.0MPa以下であ」ると特定されているが、本件訂正前の明細書の【0072】に記載される「実施例7」に係る剥離シートの「弾性率」は、【0084】【表1】に記載のとおり「0.8MPa」であり、本件訂正前の請求項1の範囲外のものであった。
そうすると、訂正事項5は、実施例7に係る剥離シートを、「実施例」ではなく「比較例」に正すものであるから、誤記の訂正を目的とするものに該当する。
また、訂正事項5は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

4 明細書の訂正と関係する請求項について
訂正事項5は、明細書の訂正に係る請求項を含む一群の請求項〔1〜4〕の全てについて行うものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。

5 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1〜4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第4〜6項の規定に適合する。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1〜4〕について訂正することを認める。

第3 本件訂正後の本件発明
上記第2のとおり本件訂正が認められたことから、本件特許の請求項2〜4に係る発明(以下「本件発明2」等という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項2〜4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項2】
基材と、前記基材の少なくとも一方の面側に設けられた剥離剤層とを備え、粘着シートにおける被着体と接触させる面を保護するための剥離シートであって、
前記基材が、プラスチックフィルムから構成され、
原子間力顕微鏡を用いて、前記剥離剤層における前記基材とは反対の面側から測定される前記剥離シートの弾性率が、1.5MPa以上、5.0MPa以下であり、
前記剥離剤層の厚さが、0.3μm以上、1.0μm以下であり、
前記剥離剤層が、重量平均分子量が10000以上、15000以下であるポリオルガノシロキサンを含有する剥離剤組成物から形成されたものであり、
前記剥離剤組成物が、SiO2,(CH3)3SiO1/2,CH2=CH(CH3)2SiO1/2単位を有する有機シロキサン化合物を含まない
ことを特徴とする剥離シート。
【請求項3】
前記剥離剤層における前記基材とは反対の面にアクリル系粘着剤による粘着剤層を積層し、温度23℃および相対湿度50%の環境下で24時間静置した後における、前記剥離剤層から前記粘着剤層へのケイ素原子の移行量は、蛍光X線分析による測定値として150cps以下であることを特徴とする請求項2に記載の剥離シート。
【請求項4】
前記基材と前記剥離剤層との間に、アンカーコート層をさらに備えることを特徴とする請求項2または3に記載の剥離シート。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件発明1〜4に対して、当審が特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

取消理由1(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

取消理由2(進歩性
本件特許の請求項1〜4に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

[引用文献等一覧]
申立人1が申立書に添付した甲第1〜9号証を「甲1−1」〜「甲1−9」、申立人2が申立書に添付した甲第1〜4号証を「甲2−1」〜「甲2−4」という。
1.宮田壮,外4名,“ポリジメチルシロキサンを用いた剥離剤層の原子力間力顕微鏡による力学物性評価”,日本接着学会誌,2013年(平成25年)12月,Vol.49,No.12,第446〜453ページ(甲1−2、甲2−1)
2.特開2013−208897号公報(甲2−2)
3.特開2009−227977号公報(甲1−6、甲2−3)
4.特開2004−351612号公報(甲1−7)
5.特開2005−194482号公報(甲1−8)
6.特開2015−196262号公報(甲1−9、甲2−4)
7.特開2011−230469号公報(甲1−1)
8.東芝シリコーン株式会社,トーシルテクノサービス株式会社,「新・シリコーンとその応用」,東芝シリコーン株式会社,1994年(平成6年)4月1日,第128〜134ページ(甲1−3)
9.信越化学工業,「技術大全シリーズ シリコーン大全」,初版,日刊工業新聞社,2016年(平成28年)1月25日,244〜253ページ(甲1−4)
10.高木明,“シリコーン剥離紙の特性変化”,マテリアルライフ,2004年(平成16年)4月,Vol.12,No.2,71〜74ページ(甲1−5)

2 当審の判断
(1)取消理由1(サポート要件)について
ア 本件特許に係る発明が解決しようとする課題
本件特許に係る発明が解決しようとする課題は、発明の詳細な説明の記載から見て、「非常に小さな剥離力を示し、超軽剥離シートとして使用することが可能な剥離シートを提供すること」(【0008】)である。

イ 「非常に小さな剥離力」について
「非常に小さな剥離力を示し、超軽剥離シートとして使用することが可能な剥離シート」に関して、発明の詳細な説明には次のように記載されている。
「【0031】
2.剥離剤層
(1)組成
本実施形態に係る剥離シート1では、剥離剤層12が、ポリオルガノシロキサンを含有する剥離剤組成物から形成されることが好ましい。当該剥離剤組成物に含有されるポリオルガノシロキサンの重量平均分子量は、5000以上であることが好ましく、特に7000以上であることが好ましく、さらには10000以上であることが好ましい。また、当該重量平均分子量は、100000以下であることが好ましく、特に70000以下であることが好ましく、さらには50000以下であることが好ましい。当該重量平均分子量が5000以上であることで、剥離剤組成物の塗工液の粘度が適度に高いものとなり、剥離剤層12を後述する厚さに形成することが容易となる。また、当該重量平均分子量が5000以上であることで、剥離剤層12から外部へのポリオルガノシロキサンへの移行が生じ難くなり、ポリオルガノシロキサンによる塗工機や粘着シートの汚染を抑制することができる。一方、当該重量平均分子量が100000以下であることで、剥離剤層12を厚く形成したとしても、剥離シート1の弾性率を比較的低いものにすることが可能となる。なお、本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の値である。」
「【0043】
(2)物性等
本実施形態に係る剥離シート1では、剥離剤層12の厚さが、0.3μm以上であることが好ましく、特に0.4μm以上であることが好ましい。また、当該厚さは、1.0μm以下であることが好ましく、特に0.7μm以下であることが好ましい。前述した重量平均分子量を有するポリオルガノシロキサンを含有する剥離剤組成物を用いて、上述の厚さに剥離剤層12を形成することで、剥離シート1の弾性率が非常に低いものとなり、剥離力も非常に小さなものとなる。
【0044】
本実施形態に係る剥離シート1では、原子間力顕微鏡を用いて、剥離剤層12における基材11とは反対の面側から測定される剥離シート1の弾性率が、5.0MPa以下であることが好ましく、特に4.0MPa以下であることが好ましく、さらには3.0MPa以下であることが好ましい。このように弾性率が従来の剥離シートよりも非常に低いことにより、剥離力、特に低速剥離における剥離力を非常に低くすることができ、超軽剥離を達成することができる。一方、上記弾性率は、1.5MPa以上であることが好ましく、特に1.7MPa以上であることが好ましく、さらには2.0MPa以上であることが好ましい。当該弾性率が1.5MPa以上であることで、剥離シート1をロールに巻き取り、巻き圧がかかった場合であっても、剥離剤層12の剥離面の表面と、それと接触する基材11の表面とがなじみ難く、ブロッキングの発生が効果的に抑制される。なお、剥離シート1の弾性率の詳細な測定方法は、後述する試験例に示す通りである。」
「【0047】
・・・本実施形態に係る剥離シート1、特に第1の実施形態に係る剥離シート1では、剥離剤層12が、前述した範囲の重量平均分子量を有するポリオルガノシロキサンを含有する剥離剤組成物から形成されているとともに、前述した範囲の厚さを有することにより、弾性率が非常に小さくなり、そのことと、ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量が100000以下であることとの相乗効果により、上記のような非常に小さな高速剥離の剥離力を示すことができる。なお、剥離シート1の剥離力の詳細な測定方法は、後述する試験例に示す通りである。」
「【実施例】
・・・
【0064】
〔実施例1〕
反応性官能基としてビニル基を有するポリオルガノシロキサン(重量平均分子量:15000)、軽剥離化剤としてのポリジメチルシロキサン(重量平均分子量:100000)および架橋剤としてのヒドロシリル基を有するポリオルガノシロキサン(重量平均分子量:1000)を、濃度10質量%でヘプタンに溶解させたシリコーン樹脂溶液100質量部(固形分比率に基づく成分量の換算値;以下同じ)に対し、白金系触媒1.0質量部を添加することで、付加反応型シリコーン樹脂を含む剥離剤組成物の塗液を調製した。なお、上記シリコーン樹脂溶液中における軽剥離化剤としてのポリジメチルシロキサンの含有量は、当該シリコーン樹脂溶液中の全てのポリオルガノシロキサンの合計量100質量部に対して、2質量部であった。
【0065】
調製した塗液を、バーコーターを用いて、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂社製,製品名「ダイアホイルT−100」)の片面に塗布し、塗膜を形成した。当該塗膜を、145℃で1分間乾燥させることで硬化させ、厚さ0.5μmの剥離剤層を形成した。これにより、剥離シートを得た。
【0066】
〔実施例2〜4〕
剥離剤層の厚さを表1に示すように変更する以外、実施例1と同様にして剥離シートを製造した。
【0067】
〔実施例5〕
ビスフェノールA型エポキシ樹脂エステル80質量部と、架橋剤としてのメラミン樹脂20質量部との混合物の溶液(日立化成ポリマー社製,製品名「TA31−059D」)100質量部に対して、酸触媒としてのp−トルエンスルホン酸のメタノール溶液2.5質量部を添加して、アンカーコート剤の溶液を調製した。
【0068】
調製したアンカーコート剤の塗液を、バーコーターを用いて、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂社製,製品名「ダイアホイルT−100」)の片面に塗布し、塗膜を形成した。当該塗膜を、140℃で1分間乾燥させることで硬化させ、厚さ0.05μmのアンカーコート層を形成した。これにより、基材とアンカーコート層との積層体を得た。
【0069】
続いて、当該積層体におけるアンカーコート層の基材とは反対側の面上に、実施例1において調製した剥離剤組成物の塗液を塗布し、塗膜を形成した。当該塗膜を、145℃で1分間乾燥させることで硬化させ、厚さ0.5μmの剥離剤層を形成した。これにより、剥離シートを得た。
【0070】
〔実施例6〕
共重合ポリエステルおよびポリウレタンを含む混合樹脂エマルションに、導電性高分子であるポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)およびポリスチレンスルホネート(PSS)が合計で0.1〜1.0質量%混合された樹脂組成物(中京油脂社製,製品名「P−973」,固形分10質量%)を、イソプロピルアルコールおよび精製水の混合液(混合比率1:1)にて固形分1.0質量%に希釈することで、アンカーコート剤の塗液を調製した。
【0071】
上記アンカーコート剤の塗液を使用する以外、実施例5と同様にして剥離シートを製造した。
「【0076】
〔試験例1〕(原子間力顕微鏡による弾性率の測定)
実施例および比較例で作製した剥離シートの基材側の面を、両面粘着テープを用いてステンレス製の試料台に貼り合せた。続いて、シリコーンプローブ(Team nanotec社製,製品名「LRCH」,曲率半径:250nm,バネ定数:0.3N/m)を装着したプローブ顕微鏡(島津製作所社製,製品名「SPM−9700」)を用いて、剥離シートの剥離剤層側の面を600m/sでタッピングを行い、フォースカーブを得た。得られたフォースカーブの形状から、JKR2点法により、剥離シートの弾性率(MPa)を算出した。結果を表1に示す。
【0077】
〔試験例2〕(剥離力の測定)
実施例および比較例で作製した剥離シートを23℃の環境下で24時間保管した。その後、剥離シートの剥離面に、幅25mmのアクリル粘着テープ(テサ社製,製品名「TESA7475」)を、2kgローラーで1往復することで圧着し、測定用のサンプルを得た。
【0078】
このサンプルを温度23℃、相対湿度50%RHの環境下で24時間エージングした後、万能引張試験機(オリエンテック社製,製品名:テンシロン UTM−4−100)に固定し、アクリル粘着テープを180°方向に引張速度0.3m/min(低速剥離)および30m/min(高速剥離)でそれぞれ剥離したときの力を測定し、これを剥離力(mN/25mm)とした。結果を表1に示す。」
「【0081】
〔試験例4〕(浮き評価)
重剥離シート(リンテック社製,製品名「SP−PET382150」,厚さ:38μm)の剥離面上に、光学用粘着剤(リンテック社製,製品名「LS544PP」)からなる厚さ50μmの粘着剤層を形成した。当該粘着剤層の露出面に、実施例および比較例で作製した剥離シートの剥離面を貼り合せ、積層体を得た。
【0082】
当該積層体を、温度23℃、相対湿度50%RHの環境下で24時間静置した後、実施例および比較例で作製した剥離シートを、その端部(一辺の中央部)から手作業により上記積層体から剥がした。その後、粘着剤層と重剥離シートとの界面における浮きを観察し、下記に示す基準に従って評価した。結果を表1に示す。
○:浮きが全く発生しなかった。
△:端部のみに浮きが発生した。
×:全面にランダムに浮きが発生した。」
「【0084】
【表1】

【0085】
表1に示される通り、実施例に係る剥離シートは、比較例に係る剥離シートと比較して、低速剥離および高速剥離の両方において剥離力が非常に小さかった。さらに、実施例に係る剥離シートは、比較例に係る剥離シートと比較して、浮き評価において優れた結果を示した。以上より、実施例に係る剥離シートは、超軽剥離を良好に達成できることがわかった。」

剥離シートの剥離力は、「剥離シートの弾性率」及び「剥離剤層の厚さ」だけでなく、剥離剤組成物」にも依存することは技術常識であるところ、上記のとおり発明の詳細な説明には、「非常に小さな剥離力を示し、超軽剥離シートとして使用することが可能な剥離シート」について、「剥離剤組成物」、「剥離剤層の厚さ」及び「剥離シートの弾性率」を特定したものが記載されている。

ウ 判断
本件発明2は、「原子間力顕微鏡を用いて、前記剥離剤層における前記基材とは反対の面側から測定される前記剥離シートの弾性率が、1.5MPa以上、5.0MPa以下」であること、「前記剥離剤層の厚さが、0.3μm以上、1.0μm以下」であること、「前記剥離剤層が、重量平均分子量が10000以上、15000以下であるポリオルガノシロキサンを含有する剥離剤組成物から形成された」ことを発明特定事項としている。
ここで、「剥離シートの弾性率」に関し、発明の詳細な説明の【0044】の記載、「剥離剤層の厚さ」に関し、発明の詳細な説明の【0043】の記載、及び「剥離剤組成物」が含有する「ポリオルガノシロキサン」の「重量平均分子量」に関し、発明の詳細な説明の【0031】の記載を参照すると、本件発明2は、発明の課題を解決できることを当業者が認識できる。
したがって、本件発明2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものである。
この点、本件発明2を直接的又は間接的に引用する本件発明3及び4も同様である。

エ 意見書における申立人1の主張について
申立人1は、意見書において、本件発明2は、軽剥離剤を含むこと、及びポリオルガノシロキサンがビニル基を有することが特定されておらず、課題を解決できる範囲を超えている旨を述べている(同意見書2ページ16行〜5ページ2行)。
しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明には、「上記剥離剤組成物は、軽剥離化剤を含有してもよい」(【0040】)、及び「上記反応性官能基は、ポリオルガノシロキサンの片末端に導入されていてもよく、両末端に導入されていてもよく、側鎖に導入されていてもよい。上記反応性官能基としては、例えば、炭素数2〜10のアルケニル基等が挙げられ、当該アルケニル基の例としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基等が挙げられる。」(【0034】)と記載されており、軽剥離剤を含むことが選択的であること、また、ポリオルガノシロキサンに導入される反応性官能基が必須のものとされていないことから、軽剥離剤を含むことやポリオルガノシロキサンがビニル基等の反応性官能基を有することは、課題を解決するために必須の事項ではない。
したがって、申立人1の上記主張は採用できない。

オ 小括
以上のとおりであるから、本件発明2〜4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものではない。

(2)取消理由2(進歩性)について
ア 引用文献の記載事項
(ア)引用文献1には、次の事項が記載されている。
a 「1.緒 言
粘着ラベルや粘着シートに代表される多くの粘着製品には,使用直前まで粘着剤を保護する目的で剥離材料(剥離紙または剥離フィルム)が貼合されている。また光学用途においては,種々の機能性フィルムを積層する目的で,粘着剤の両面に剥離力値の異なる剥離フィルムを積層した基材レス粘着シートが応用されている。一方近年では工程部材として剥離材料の利用が著しい伸びを示している。その中でも基材としてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いた剥離フィルムは電子材料分野における工程部材として非常に有用であり,その平滑性と剥離性を利用して樹脂あるいはセラミックシート成型用途などの幅広い分野において使用されている。
このように多分野で利用される剥離材料には,その使用用途毎に異なる剥離力値が要求されている。上記用途で利用される剥離材料には,その多くに剥離剤としてポリジメチルシロキサン(PDMS)が用いられている。PDMSを用いた剥離剤は,ジメチルシロキサン共重合体の官能基量や分子量を変化させ硬化被膜(剥離剤層)の架橋密度を制御することや,官能基を有さないPDMS(シリコーンオイル),シリカフィラーまたは有機シロキサン化合物(シリコーンレジン)といった添加剤により剥離力を制御している。これらの剥離力制御方法が示すように,剥離力変化には剥離剤層表面のエネルギー的な変化に加え,被膜の硬さ(=ヤング率)が大きく寄与するものと考えられる。このように剥離剤層のヤング率は剥離材料設計時において非常に重要なパラメータとなり得る。しかしながら剥離剤層は一般的に厚みが数十〜数百nmオーダーの被膜であり,加えて比較的軟らかな材料(105〜106Pa)である。このため現在までに材料のバルクの弾性率と剥離性の関係に関する報告例はあるが,PET基材上に形成された剥離剤層薄膜のヤング率を直接測定し,剥離力との相関性に関して報告した例は無い。
一方,ナノスケールの分解能で表面凹凸測定が可能な装置として,原子間力顕微鏡(AFM)が挙げられる。AFMの測定モードの一つに,フォースカーブ測定と呼ばれる手法がある。フォースカーブ測定により,測定試料にかかる荷重と試料変形量の関係を求める事ができる。また測定時において試料にかかる荷重はpN〜nNのオーダーであり,高分子や生体分子のような軟らかい試料の力学物性を評価するのに非常に適しているものと考えられる。実際にゴムやアクリル系粘着剤などに対して上記フォースカーブ測定を適用し,その表面の力学物性評価が検討されている。そこで本研究では,フォースカーブ測定によりPET基材上に形成した剥離剤層の直接的な力学物性(ヤング率,凝着エネルギー)評価を試みた。また剥離力値の異なる種々のモデル剥離フィルムに対する測定を行い,得られた力学物性値と粘着剤に対する剥離力値との相関性についても検討した。
2.実 験
2.1 試 料
2.1.1 剥離剤層塗工液の作製
鎖末端にビニル基を有するビニルメチルシロキサン−ジメチルシロキサン共重合体[Fig.1(a),ビニル基含有量:2.3x10−3mol/g,Mw=360,000,Mw/Mn=1.9]に,架橋剤としてメチルヒドロシロキサン−ジメチルシロキサン共重合体[Fig.1(b),ヒドロシリル基含有量:1.57mol/g,Mw=3000,Mw/Mn=1.7]および添加剤としてSiO2,(CH3)3SiO1/2,CH2=CH(CH3)2SiO1/2単位を有する有機シロキサン化合物[以下Si−Rと称する。ビニル基含有量:6.7x10−2mol/g]を添加し,これに白金触媒と希釈溶剤(2−ブタノン)を加え,濃度1wt%の剥離剤層塗工液を作製した。本研究ではビニル基量とヒドロシリル基量の割合が常に一定[1:5(mol/mol)]となるように上記架橋剤およびSi−R添加量を種々変化(0〜60wt%)させた剥離剤層塗工液を作製した。
2.1.2 剥離フィルムの作製
2.1.1で作製した剥離剤層塗工液を,厚さ38μmのPETフィルム上に最終的な剥離剤層が約120nmとなるようにワイヤーバーを用いて塗工し,150℃で1分間加熱することにより溶剤の蒸発および架橋反応[Fig.1(c)]を進行させた。特に洗浄等の操作は行わず,これを剥離フィルム試料とした。」(446ページ左欄1行〜447ページ左欄29行)

b 「

」(447ページFig.1)

c 「2.1.3 粘着シートの作製
2.1.2において作製した剥離フィルムの剥離剤層上に,アクリル酸2−エチルヘキシル(2EHA),アクリル酸ブチル(BA),酢酸ビニル(VAc)およびアクリル酸(AA)の共重合体[2EHA/BA/VAc/AA=38.5/21.1/36.7/3.7(mol%),Mw=740,000,Mw/Mn=12.9]の酢酸エチル溶液(30wt%)を最終的な粘着剤層が約25μmとなるようにアプリケーターを用いて塗布した。これを100℃で1分間加熱乾燥し酢酸エチルを蒸発させた後,厚さ50μmのPETフィルムと貼り合わせ粘着シート試料とした。
2.2 剥離力測定
作製した粘着シートを23℃50%RH環境下に約24h放置した後,引っ張り試験機(オリエンテック社製,TENSILON UTM−4−100)を用い,剥離フィルムを粘着層から剥離した際の剥離力を測定した。測定は23℃50%RH環境下で剥離角度180°,剥離速度0.3m/minにて実施した。
・・・
2.5 原子間力顕微鏡(AFM)測定
剥離剤層および粘着剤層のAFM測定には,SPM−9700(島津製作所製)を使用した。カンチレバーはタッピングモード用としてSi製のOMCL−AC240TS−C3(オリンパス社製,ばね定数2.0N/m),フォースカーブ測定用としてはSi製(Auコート有)のSI−AF01−A(日立ハイテクサイエンス製,ばね定数0.2N/m)を用いた。またフォースカーブ測定は測定試料(8mm×8mm)の任意の5箇所にて,走査速度3000nm/sで実施した。」(447ページ左欄30行〜右欄下から3行)

d 「3.結果と考察
3.1 剥離フィルムの剥離物性
Table 1に本研究に用いた剥離フィルムの剥離力および表面物性値を示す。各剥離フィルムの剥離剤層の厚みは110nm〜126nmであり,剥離剤層の厚み差が各種物性値に与える影響は少ないものと思われる。シロキサン化合物は剥離剤用途において主に剥離力を制御する添加剤として使用されており,剥離力値を上昇させる目的で添加される。本研究においてもSi−R含有量増加に伴い剥離力値は上昇する傾向を示しており,含有量60wt%では未添加に比べ約16倍に剥離力値が上昇した。」(448ページ左欄6〜16行)

e 「

」(448ページTable 1)

f 「3.2 剥離剤層の力学物性評価
作製した剥離フィルム表面(剥離剤層)の力学特性を評価するため,AFMによるフォースカーブ測定を実施した。」(448ページ右欄5〜7行)

g 「また剥離剤層のヤング率はSi−R含有量が20wt%迄はほとんど変化が見られないが,30wt%を超えると含有量増加と共に上昇する傾向を示し,60wt%における値(12.37MPa)は0wt%(0.42MPa)と比較して約30倍に増加する結果が得られた。このようなヤング率変化は,XPS測定結果(Table 1)が示すように比較的硬質なSiO2単位(シロキサン構造)を有するSi−Rが増加することに加え,CH2=CH(CH3)2SiO1/2単位(ビニル基)が架橋反応に寄与し,剥離剤層の架橋密度が高くなることに起因するものと推定した。」(450ページ右欄6行〜451ページ左欄2行)

h 「3.3 剥離剤層のヤング率と剥離力の相関性
剥離剤層のヤング率および凝着エネルギーと剥離力との関係をFig.7に示す。JKR理論を用いて算出したヤング率および凝着エネルギーと剥離力には各々相関がみられ,特にヤング率においては高い相関係数(r2=0.987)が得られた。これは本研究で作製した剥離フィルムの剥離力値には剥離剤層のヤング率が大きく影響していることを示唆している。」(451ページ右欄5〜12行)

i 「

」(451ページFig.7)

(イ)上記(ア)から、引用文献1には、特に、「2.1 試料」において、SiO2,(CH3)3SiO1/2,CH2=CH(CH3)2SiO1/2単位を有する有機シロキサン化合物(Si−R)添加量を0wt%とした剥離フィルムに着目すると、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「PETフィルムと、鎖末端にビニル基を有するビニルメチルシロキサン−ジメチルシロキサン共重合体[ビニル基含有量:2.3x10−3mol/g,Mw=360,000,Mw/Mn=1.9]に添加するSiO2,(CH3)3SiO1/2,CH2=CH(CH3)2SiO1/2単位を有する有機シロキサン化合物添加量を0wt%とした剥離剤層塗工液を、PETフィルム上に最終的な剥離剤層が約120nmとなるように塗工し、加熱することにより溶剤の蒸発および架橋反応を進行させて、厚みが110nmとなった剥離剤層とを備え、粘着シートの粘着剤を保護する目的で貼合される剥離フィルムであって、
剥離フィルム表面(剥離剤層)の力学特性を評価するため、原子間力顕微鏡により測定したフォースカーブを変換したF−δ曲線から求めたヤング率が0.42±0.04MPaである
剥離フィルム。」

イ 本件発明2について
(ア)対比
本件発明2と引用発明を対比する。
引用発明の「PETフィルム」は、本件発明2の「基材」に相当し、以下同様に、「剥離剤層」は「剥離剤層」に、「剥離フィルム」は「剥離シート」に相当する。
引用発明において、「粘着シートの粘着剤を保護する目的で貼合される」ものであることは、本件発明2において、「粘着シートにおける被着体と接触させる面を保護するための」ものであることに相当する。
「PETフィルム」はプラスチックフィルムから構成されていることから、引用発明において「PETフィルム」を備えることは、本件発明2において「前記基材が、プラスチックフィルムから構成され」ることに相当する。
引用発明の「剥離剤層」が「鎖末端にビニル基を有するビニルメチルシロキサン−ジメチルシロキサン共重合体[ビニル基含有量:2.3x10−3mol/g,Mw=360,000,Mw/Mn=1.9]に添加するSiO2,(CH3)3SiO1/2,CH2=CH(CH3)2SiO1/2単位を有する有機シロキサン化合物添加量を0wt%とした剥離剤層塗工液を、PETフィルム上に最終的な剥離剤層が約120nmとなるように塗工し、加熱することにより溶剤の蒸発および架橋反応を進行させ」たものであることと、本件発明2の「前記剥離剤層が、重量平均分子量が10000以上、15000以下であるポリオルガノシロキサンを含有する剥離剤組成物から形成されたものであ」ることとは、「剥離剤層が、ポリオルガノシロキサンを含有する剥離剤組成物から形成されたものであ」る限りで一致する。
引用発明の「剥離剤層塗工液」を「SiO2,(CH3)3SiO1/2,CH2=CH(CH3)2SiO1/2単位を有する有機シロキサン化合物添加量を0wt%とした」ことは、本件発明2の「前記剥離剤組成物が、SiO2,(CH3)3SiO1/2,CH2=CH(CH3)2SiO1/2単位を有する有機シロキサン化合物を含まない」ことに相当する。
以上のことから、本件発明2と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「基材と、前記基材の少なくとも一方の面側に設けられた剥離剤層とを備え、粘着シートにおける被着体と接触させる面を保護するための剥離シートであって、
前記基材が、プラスチックフィルムから構成され、
前記剥離剤層が、ポリオルガノシロキサンを含有する剥離剤組成物から形成されたものであり、
前記剥離剤組成物が、SiO2,(CH3)3SiO1/2,CH2=CH(CH3)2SiO1/2単位を有する有機シロキサン化合物を含まない
剥離シート。」
[相違点1]
本件発明2は「原子間力顕微鏡を用いて、前記剥離剤層における前記基材とは反対の面側から測定される前記剥離シートの弾性率が、1.5MPa以上、5.0MPa以下であ」るのに対して、引用発明は「剥離フィルム表面(剥離剤層)の力学特性を評価するため、原子間力顕微鏡により測定したフォースカーブを変換したF−δ曲線から求めたヤング率が0.42±0.04MPaであ」る点。
[相違点2]
本件発明2は「前記剥離剤層の厚さが、0.3μm以上、1.0μm以下であ」るのに対して、引用発明は「剥離剤層」の「厚みが110nmとなった」点。
[相違点3]
「剥離剤層が、ポリオルガノシロキサンを含有する剥離剤組成物から形成されたものであ」ることに関し、本件発明2は「前記剥離剤層が、重量平均分子量が10000以上、15000以下であるポリオルガノシロキサンを含有する剥離剤組成物から形成されたものであ」るのに対して、引用発明は「剥離剤層」が「鎖末端にビニル基を有するビニルメチルシロキサン−ジメチルシロキサン共重合体[ビニル基含有量:2.3x10−3mol/g,Mw=360,000,Mw/Mn=1.9]に添加するSiO2,(CH3)3SiO1/2,CH2=CH(CH3)2SiO1/2単位を有する有機シロキサン化合物添加量を0wt%とした剥離剤層塗工液を、PETフィルム上に最終的な剥離剤層が約120nmとなるように塗工し、加熱することにより溶剤の蒸発および架橋反応を進行させ」たものである点。

(イ)判断
まず相違点1について検討する。
引用文献1には、剥離フィルムの剥離力値には剥離剤層のヤング率が大きく影響していることが示唆されていること(上記ア(ア)h)、及び剥離剤層のヤング率はSi−R含有量が20wt%迄はほとんど変化が見られず、30wt%を超えると含有量増加と共に上昇する傾向を示すこと(上記ア(ア)g)が記載されている。
そうすると、引用発明において、剥離剤層塗工液に添加するSiO2,(CH3)3SiO1/2,CH2=CH(CH3)2SiO1/2単位を有する有機シロキサン化合物添加量を0wt%としたまま、ヤング率を「0.42±0.04MPa」から「1.5MPa以上、5.0MPa以下」にまで増加させることは、当業者であっても容易に想到し得ない。
また、剥離剤組成物が、SiO2,(CH3)3SiO1/2,CH2=CH(CH3)2SiO1/2単位を有する有機シロキサン化合物を含まない剥離シートにおいて、原子間力顕微鏡を用いて、剥離剤層における基材とは反対の面側から測定される剥離シートの弾性率を、1.5MPa以上、5.0MPa以下とすることについて、申立人1及び申立人2が提出した各証拠には記載されておらず、また、また出願前において周知技術であるともいえない。
したがって、引用発明において、相違点1に係る本件発明2の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、相違点2及び3を検討するまでもなく、本件発明2は、当業者が引用発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件発明3及び4について
本件発明3及び4は、本件発明2の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記イで検討したのと同じ理由により、当業者が引用発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件発明2〜4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

第5 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立理由中、取消理由通知に採用しなかったものは、概略以下のとおりである。
本件訂正前の請求項1〜4に係る発明は、甲1−1(引用文献7)に記載された発明、並びに甲1−2(引用文献1)、甲1−3(“新・シリコーンとその応用”,東芝シリコーン株式会社,1994年(平成6年)4月1日,128〜134ページ)、甲1−4(“技術大全シリーズ シリコーン大全”,日刊工業新聞社,2016年(平成28年)1月25日,244〜253ページ)、甲1−5(高木明,“シリコーン剥離紙の特性変化”,マテリアルライフ,マテリアルライフ学会,Vol.12,No.2,2000年(平成12年)4月,71〜74ページ)、甲1−6(引用文献3)、甲1−7(引用文献4)、甲1−8(引用文献5)及び甲1−9(引用文献6)に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(申立人1の特許異議申立書の「(4−3−1)申立ての理由1(進歩性欠如について)」(19〜26ページ))。

2 当審の判断
(1)引用文献の記載事項
ア 引用文献7には、次の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、分子鎖の末端部分および分子鎖の内部にビニル基を有する長鎖のポリシロキサンを主成分として含有し、シロキサン鎖の末端部分にのみケイ素原子と直結する水素原子を有するポリシロキサンも含有する塗布剤を塗布し、乾燥して得られた塗布層を有することを特徴とする離型フィルム。」
「【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムを基材とする離型フィルムは、セラミック積層コンデンサー、セラミック製電子回路基板等の各種セラミック電子部品製造時に使用する工程紙、また偏光板、光学フィルター等、フラットパネルディスプレー製造時に使用する光学部材の粘着セパレータに多く使用されている。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、剥離力が軽く、耐大気暴露性が良好であり、かつ離型層成分の移行量が少ない離型フィルムを提供することにある。」
「【0032】
本発明の離型フィルムを構成する離型層は離型性を有する硬化型シリコーン樹脂で、硬化課程においてビニル基とケイ素-水素結合を有する基の付加反応(いわゆる付加型シリコーン)である。硬化処理におけるエネルギー源は特に限定されないが、熱処理、紫外線照射、電子線照射が例示できる。これら単独、あるいは組み合わせて用いられるが、熱処理単独、熱と紫外線の併用処理が好ましく用いられる。
【0033】
本発明の離型フィルムを構成する離型層は、分子鎖の末端および分子鎖の内部にビニル基を有する長鎖のポリシロキサンを主成分として含有し、さらにシロキサン鎖の末端にのみケイ素原子と直結する水素原子を有するポリシロキサンとを含有する塗布剤を用いて設けることができる。
【0034】
付加型シリコーンで軽剥離を得ようとする場合、一般に軟らかい塗膜とするためビニル基を有する主ポリマーは分岐がなく長いジメチルポリシロキサン分子鎖を有し、架橋反応点となるビニル基の数は最小限の、いわゆる架橋点間距離の長いシリコーンが選択される。
【0035】
付加型シリコーンの架橋反応点となるビニル基は、鎖の末端にも内側にも導入が可能である。末端のビニル基は反応の際、立体障害が少なくかつ比較的自由に動けるため早く反応する。一方、内側のビニル基は立体的に混み合い、動きも制限されるので反応は遅い。よって内側のビニル基は未反応のまま残りやすく、大気暴露悪化の主原因の一つと考えられる。
・・・
【0037】
本発明者は検討を行った結果、通常はフィルム用離型剤には用いないシリコーンを従来の架橋剤に加えて用いることで課題を解決できることを知見し、本発明を完成した。すなわちシロキサン鎖末端にのみケイ素原子と直結する水素原子を有するポリシロキサンを併用する。
【0038】
本発明におけるシロキサン鎖末端にのみケイ素原子と直結する水素原子を有するポリシロキサンとは直鎖状で、末端以外は実質的にジメチルシロキサン残基のみであるものが好ましい。すなわち、SiH(CH3)2O−(Si(CH3)2O)n−SiH(CH3)2で表される化合物が例示される。鎖内側のメチル基は本発明の趣旨の範囲内であれば、小量が、フェニル基、アルキル基で置換されてもよい。分子量は特に限定されないが、粘度において30〜100000mPa・s、好ましくは100〜5000mPa・sの範囲である。分子量が小さすぎると、塗工中に揮散し塗工系内を汚染する恐れがある。また、分子量が大きすぎると反応性が落ち移行性が大きくなる恐れがある。
【0039】
本発明で用いる分子末端および分子鎖内部にビニル基を有する長鎖のポリシロキサンの分子量は、粘度において30%トルエン溶液の状態での粘度が1000〜50000mPa・s、好ましくは30%トルエン溶液の状態での粘度が3000〜30000mPa・sの範囲である。
【0040】
前述のように分子量が小さすぎると、はじき等塗工面状の悪化を起こしやすい。分子量が大きすぎると粘ちょうで取り扱いが難しくなり、塗工速度の低下等の生産性の悪化を招く。
【0041】
本発明で用いる付加型硬化シリコーンの硬化剤であるポリハイドロジェンシロキサン化合物は特に規定されない。当業者の中で常識的なものでかまわない。一般的に使用されるものとしては、(CH3)3SiO−(SiH(CH3)O)x−Si(CH3)3や、(CH3)3SiO−(SiH(CH3)O)x−(Si(CH3)2O)y−Si(CH3)3等が例示できる。
【0042】
硬化シリコーン塗料中に含有されるシロキサン鎖末端にのみケイ素原子と直結する水素原子を有するポリシロキサンの割合は、固形分重量比で、通常1〜25%、好ましくは5〜15%の範囲である。含有量が少なすぎると効果が小さいことがあり、多すぎると移行性や塗膜強度が悪化する懸念がある。
【0043】
本発明における硬化シリコーン塗料の形態は前述のように高粘度のものを溶剤に希釈して塗工するいわゆる溶剤型が好ましい。希釈溶剤としては、トルエン等の芳香族炭化水素類、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、エチルメチルケトン(MEK)、イソブチルメチルケトン等のケトン類、エタノール、2−プロパノール等のアルコール類、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類が例示でき、溶解性、塗工性や沸点等を考慮して単独または複数混合して使用する。
【0044】
また、離型層の特性を調整するために本発明の主旨を損なわない範囲において、反応調整剤、密着強化剤、剥離コントロール剤等の助剤を併用してもよい。
【0045】
離型層の塗工量(乾燥後)は、通常0.01〜1g/m2、好ましくは0.04〜0.5g/m2、さらに好ましくは0.06〜0.3g/m2の範囲である。離型層の塗工量が少な過ぎる場合、軽剥離とならず剥離力の安定性に欠けることがある。一方、塗工量が多すぎる場合、移行性の増大、ブロッキングの懸念がある。」

イ 上記アから、引用文献7には次の発明(以下「引用発明7」という。)が記載されている。
「ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、分子鎖の末端部分および分子鎖の内部にビニル基を有する長鎖のポリシロキサンを主成分として含有し、シロキサン鎖の末端部分にのみケイ素原子と直結する水素原子を有するポリシロキサンも含有する塗布剤を塗布し、乾燥して得られた塗布層を有する離型フィルムであって、
各種セラミック電子部品製造時やフラットパネルディスプレー製造時に使用され、
塗布層は離型層であり、離型層の塗工量(乾燥後)は、通常0.01〜1g/m2、好ましくは0.04〜0.5g/m2、さらに好ましくは0.06〜0.3g/m2の範囲である離型フィルム。」

(2)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と引用発明7とを対比する。
引用発明7の「ポリエステルフィルム」は本件発明2の「プラスチックフィルムから構成され」る「基材」に相当し、以下同様に、「塗布層」及び「離型層」は「離型剤層」に、「離型フィルム」は「離型シート」に相当する。
引用発明7において、「各種セラミック電子部品製造時やフラットパネルディスプレー製造時」に使用される剥離フィルムは、被着体と接触させる面を保護するために用いられるものであるから、引用発明7の「各種セラミック電子部品製造時やフラットパネルディスプレー製造時に使用され」る「離型フィルム」は、「粘着シートにおける被着体と接触させる面を保護するための離型シート」に相当する。
引用発明7の「分子鎖の末端部分および分子鎖の内部にビニル基を有する長鎖のポリシロキサンを主成分として含有し、シロキサン鎖の末端部分にのみケイ素原子と直結する水素原子を有するポリシロキサンも含有する塗布剤を塗布し、乾燥して得られた塗布層」であることと、本件発明2の「前記剥離剤層が、重量平均分子量が10000以上、15000以下であるポリオルガノシロキサンを含有する剥離剤組成物から形成されたものであ」ることとは、「剥離剤層が、ポリオルガノシロキサンを含有する剥離剤組成物から形成されたものであ」る限りで一致する。
以上のことから、本件発明2と引用発明7との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「基材と、前記基材の少なくとも一方の面側に設けられた剥離剤層とを備え、粘着シートにおける被着体と接触させる面を保護するための剥離シートであって、
前記基材が、プラスチックフィルムから構成され、
前記剥離剤層が、ポリオルガノシロキサンを含有する剥離剤組成物から形成されたものである
剥離シート。」
[相違点4]
本件発明2は「原子間力顕微鏡を用いて、前記剥離剤層における前記基材とは反対の面側から測定される前記剥離シートの弾性率が、1.5MPa以上、5.0MPa以下であ」るのに対して、引用発明7はその点が不明である点。
[相違点5]
本件発明2は「前記剥離剤層の厚さが、0.3μm以上、1.0μm以下であ」るのに対して、引用発明7は「離型層の塗工量(乾燥後)は、通常0.01〜1g/m2、好ましくは0.04〜0.5g/m2、さらに好ましくは0.06〜0.3g/m2の範囲である」点。
[相違点6]
「剥離剤層が、ポリオルガノシロキサンを含有する剥離剤組成物から形成されたものであ」ることに関し、本件発明2は「前記剥離剤層が、重量平均分子量が10000以上、15000以下であるポリオルガノシロキサンを含有する剥離剤組成物から形成されたものであ」るのに対して、引用発明7は「分子鎖の末端部分および分子鎖の内部にビニル基を有する長鎖のポリシロキサンを主成分として含有し、シロキサン鎖の末端部分にのみケイ素原子と直結する水素原子を有するポリシロキサンも含有する塗布剤を塗布し、乾燥して得られた塗布層」である点。
[相違点7]
本件発明2は「前記剥離剤組成物が、SiO2,(CH3)3SiO1/2,CH2=CH(CH3)2SiO1/2単位を有する有機シロキサン化合物を含まない」のに対して、引用発明7はその点が不明である点。

イ 判断
まず相違点4及び7について検討する。
剥離剤組成物が、SiO2,(CH3)3SiO1/2,CH2=CH(CH3)2SiO1/2単位を有する有機シロキサン化合物を含まない剥離シートにおいて、原子間力顕微鏡を用いて、剥離剤層における基材とは反対の面側から測定される剥離シートの弾性率を、1.5MPa以上、5.0MPa以下とすることについて、申立人1及び申立人2が提出した各証拠には記載されておらず、また、また出願前において周知技術であるともいえない。
したがって、引用発明7において、相違点4及び7に係る本件発明2の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、相違点5及び6を検討するまでもなく、本件発明2は、当業者が引用発明7に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明3及び4について
本件発明3及び4は、本件発明2の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記イで検討したのと同じ理由により、当業者が引用発明7に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件発明2〜4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件発明2〜4に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に請求項2〜4に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。
また、請求項1に係る特許は、本件訂正により削除されたため、申立人による請求項1に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】剥離シート
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離シートおよび剥離シートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、粘着シートにおける被着体と接触させる面(本明細書において「粘着面」という場合がある。)を保護するために、基材の表面に剥離剤層を設けた剥離シートが使用されている。このような剥離シートは、剥離剤層における基材とは反対側の面(本明細書において「剥離面」という場合がある。)が、粘着シートの粘着面に積層される。
【0003】
粘着シートには、両面に粘着面を有する両面粘着シートも存在する。このような両面粘着シートには、芯材とその両面に積層された粘着剤層とからなるものと、芯材を有さず、粘着剤層のみからなるものとが存在する。このような両面粘着シートでは、2つの粘着面に剥離シートがそれぞれ積層される。一般的に、このような両面粘着シートでは、比較的小さな剥離力を示す軽剥離シートと、比較的大きな剥離力を示す重剥離シートとの組み合わせが使用される。これにより、重剥離シートを両面粘着シートに貼付したまま、軽剥離シートのみを剥離することが容易となる。
【0004】
両面粘着シートの粘着剤層の加工等のために、剥離シートの貼り換えを行うことがある。例えば、粘着剤層の両面に軽剥離の第1の剥離シートと重剥離の第2の剥離シートとが積層された両面粘着シートから、第1の剥離シートを剥がして、露出した粘着剤層の露出面に対して第3の剥離シートが貼付される。この後さらに、第3の剥離シートを両面粘着シートに貼付したまま、第2の剥離シートのみを剥がすことがある。この場合、第3の剥離シートは、重剥離の第2の剥離シートよりもさらに重剥離である必要がある。すなわち、第1の剥離シート、第2の剥離シートおよび第3の剥離シートの順に剥離力が大きくなっていることが求められる。ここで、両面粘着シートの面積が比較的大きい場合、使用される剥離シートの剥離力が大きすぎると、剥離シートの剥離が困難となる。また、特に、芯材を有さず粘着剤層のみからなる両面粘着シートでは、剥離シートを剥がす際の剥離力に粘着剤層の形状が抗しきれずに、両剥離シートの離間方向に粘着剤層が引き伸ばされてしまう変形が起きてしまう場合もある。そのため、最初に剥離する第1の剥離シートとして、剥離力が非常に小さい(本明細書において、「超軽剥離」という場合がある。)剥離シートを使用することが有効となる。これにより、剥離力が過度に大きくなることを回避し て、上述した剥離シートの貼り換えを行うことが可能となる。
【0005】
特許文献1および2には、剥離シートの一例が開示されている。特許文献1に開示される剥離シートは、シリコーン組成物から形成された剥離剤層を備えており(段落0020)、特許文献1には、剥離性の向上およびブロッキングの抑制の観点から、剥離剤層の厚さを0.05μm以上、1μm以下とすることが開示されている(段落0024)。また、特許文献2に開示される剥離シートは、架橋樹脂層を備えており、特許文献2には、未架橋の熱可塑性樹脂の融点がTm(℃)であるとき、Tm(℃)における剥離シートの貯蔵弾性率に対する、Tm+20(℃)における剥離シートの貯蔵弾性率の割合が50%以上である熱可塑性樹脂を用いて架橋樹脂層を形成することが開示されている(請求項2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−140008号公報
【特許文献2】特開2013−189493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1および2に開示されるような従来の剥離シートは、非常に小さな剥離力を示すものとはいえず、超軽剥離シートとしての使用に適さない。
【0008】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、非常に小さな剥離力を示し、超軽剥離シートとして使用することが可能な剥離シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、基材と、前記基材の少なくとも一方の面側に設けられた剥離剤層とを備えた剥離シートであって、前記基材が、プラスチックフィルムから構成され、前記剥離剤層が、重量平均分子量が5000以上、100000以下であるポリオルガノシロキサンを含有する剥離剤組成物から形成され、前記剥離剤層の厚さが、0.3μm以上、1.0μm以下であることを特徴とする剥離シートを提供する(発明1)。
【0010】
上記発明(発明1)に係る剥離シートでは、剥離剤層が、上述した範囲の重量平均分子量を有するポリオルガノシロキサンを含有する剥離剤組成物から形成されているとともに、上述した範囲の厚さを有することにより、弾性率が非常に小さくなり、特に低速剥離において非常に小さな剥離力を示すものとなる。また、このように弾性率が非常に小さくなることと、ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量が100000以下であることとの相乗効果により、上記剥離シートは、高速剥離においても非常に小さな剥離力を示すものとなる。
【0011】
上記発明(発明1)では、原子間力顕微鏡を用いて、前記剥離剤層における前記基材とは反対の面側から測定される前記剥離シートの弾性率は、1.5MPa以上、5.0MPa以下であることが好ましい(発明2)。
【0012】
上記発明(発明1,2)において、前記剥離剤層における前記基材とは反対の面にアクリル系粘着剤による粘着剤層を積層し、温度23℃および相対湿度50%の環境下で24時間静置した後における、前記剥離剤層から前記粘着剤層へのケイ素原子の移行量は、蛍光X線分析による測定値として150cps以下であることが好ましい(発明3)。
【0013】
上記発明(発明1〜3)において、前記基材と前記剥離剤層との間に、アンカーコート層をさらに備えることが好ましい(発明4)。
【0014】
第2に本発明は、基材と、前記基材の少なくとも一方の面側に設けられた剥離剤層とを備えた剥離シートであって、前記基材が、プラスチックフィルムから構成され、原子間力顕微鏡を用いて、前記剥離剤層における前記基材とは反対の面側から測定される前記剥離シートの弾性率が、1.5MPa以上、5.0MPa以下であることを特徴とする剥離シートを提供する(発明5)。
【0015】
上記発明(発明5)に係る剥離シートでは、剥離シートが上述した範囲の弾性率を示すことにより、特に低速剥離において非常に小さな剥離力を示すものとなるとともに、剥離シート1をロール状に巻き取ったとき等における剥離剤層表面と基材表面との接触界面でのブロッキングの発生が抑制される。
【0016】
第3に本発明は、重量均分子量が5000以上、100000以下であるポリオルガノシロキサンを含有する剥離剤組成物を脂肪族炭化水素系溶媒に溶解させた塗液を調製する工程、前記塗液を、プラスチックフィルムから構成される基材の一方の面上に塗布し、塗膜を形成する工程、および前記塗膜を硬化して剥離剤層を形成する工程を含むことを特徴とする剥離シートの製造方法を提供する(発明6)。
【0017】
上記発明(発明6)において、前記脂肪族炭化水素系溶媒は、ヘプタンであることが好ましい(発明7)。
【0018】
上記発明(発明6,7)において、前記塗液中の前記剥離剤組成物の濃度は、3〜50質量%であることが好ましい(発明8)。
【0019】
上記発明(発明6〜8)において、前記剥離剤層の厚さは、0.3μm以上、1.0μm以下であることが好ましい(発明9)。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る剥離シートは、非常に小さな剥離力を示し、超軽剥離シートとして使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】 本発明の第1および第2の実施形態に係る剥離シートの断面図である。
【図2】 本発明の第3の実施形態に係る剥離シートの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。
〔剥離シート〕
図1に示すように、第1および第2の実施形態に係る剥離シート1は、基材11と、基材11の一方の面(図1では上面)に積層された剥離剤層12とを備えて構成される。
【0023】
第1の実施形態に係る剥離シート1では、基材11が、プラスチックフィルムから構成される。また、剥離剤層12は、重量平均分子量が5000以上、100000以下であるポリオルガノシロキサンを含有する剥離剤組成物から形成される。さらに、剥離剤層12の厚さは、0.3μm以上、1.0μm以下である。
【0024】
第2の実施形態に係る剥離シート1では、基材11が、プラスチックフィルムから構成される。また、原子間力顕微鏡を用いて、剥離剤層12における基材11とは反対の面側から測定される剥離シート1の弾性率は、1.5MPa以上、5.0MPa以下である。
【0025】
第1の実施形態に係る剥離シート1では、剥離剤層12が、上述した範囲の重量平均分子量を有するポリオルガノシロキサンを含有する剥離剤組成物から形成されているとともに、上述した範囲の厚さを有することにより、弾性率が非常に小さくなり、特に低速剥離において非常に小さな剥離力を示すものとなる。また、このように弾性率が非常に小さくなることと、ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量が100000以下であることとの相乗効果により、第1の実施形態に係る剥離シート1は、高速剥離においても非常に小さな剥離力を示すものとなる。以上より、第1の実施形態に係る剥離シート1は、超軽剥離を達成することができる。
【0026】
また、第2の実施形態に係る剥離シート1では、剥離シート1が上述したような所定の弾性率を示すことにより、特に低速剥離において非常に小さな剥離力を示し、超軽剥離シートとしての使用に適したものとなる。また、剥離シート1の弾性率は、上述のように過度に低いものとはならないため、剥離シート1をロール状に巻き取った際のブロッキングの発生が抑制される。
【0027】
剥離シートにおける弾性率と剥離力との関係は、種々の条件の影響を受けるものであり、一般的に説明することは困難であるものの、弾性率が低下することにより、特に低速剥離における剥離力が低下する理由としては、次のことが考えられる。粘着シートから剥離シートを剥離する際、粘着シートの粘着剤および剥離シートの少なくとも一方において変形が生じる。ここで、主に粘着剤において変形が生じる場合、粘着剤の変形が大きくなるほど、剥離に必要な力が増大する。しかし、剥離剤層の弾性率が低下することにより、剥離操作による剥離剤層の変形が大きくなり、粘着剤層の変形が部分的に補完される。これにより、粘着剤層と剥離剤層との界面で剥離が生ずるまでに粘着剤層が変形する量を低減することができ、剥離操作における見かけ上の剥離力が低下すると考えられる。
【0028】
1.基材
本実施形態に係る剥離シート1の基材11は、プラスチックフィルムから構成される。かかるプラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリプロピレンやポリメチルペンテン等のポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニルなどのプラスチックフィルムが挙げられる。これらのプラスチックフィルムは、単層であってもよいし、同種又は異種の2層以上の多層であってもよい。これらの中でもポリエステルフィルムが好ましく、特にポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。ポリエチレンテレフタレートフィルムは、加工時、使用時等において、埃等が発生しにくいため、例えば、埃等による塗工不良等を効果的に防止することができる。
【0029】
また、この基材11においては、剥離剤層12との密着性を向上させる目的で、所望により基材11の剥離剤層12を積層する面または両面に、酸化法や凹凸化法などによる表面処理、あるいはプライマー処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ放電処理、クロム酸化処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン、紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶射処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は、基材の種類に応じて適宜選ばれるが、一般にコロナ放電処理法が効果及び操作性の面から好ましく用いられる。
【0030】
基材11の厚さは、10μm以上であることが好ましく、特に15μm以上であることが好ましく、さらには20μm以上であることが好ましい。また、当該厚さは、300μm以下であることが好ましく、特に200μm以下であることが好ましく、さらには125μm以下であることが好ましい。基材11の厚さが上記範囲であることで、剥離シート1の弾性率を後述の範囲に調整することが容易となる。
【0031】
2.剥離剤層
(1)組成
本実施形態に係る剥離シート1では、剥離剤層12が、ポリオルガノシロキサンを含有する剥離剤組成物から形成されることが好ましい。当該剥離剤組成物に含有されるポリオルガノシロキサンの重量平均分子量は、5000以上であることが好ましく、特に7000以上であることが好ましく、さらには10000以上であることが好ましい。また、当該重量平均分子量は、100000以下であることが好ましく、特に70000以下であることが好ましく、さらには50000以下であることが好ましい。当該重量平均分子量が5000以上であることで、剥離剤組成物の塗工液の粘度が適度に高いものとなり、剥離剤層12を後述する厚さに形成することが容易となる。また、当該重量平均分子量が5000以上であることで、剥離剤層12から外部へのポリオルガノシロキサンヘの移行が生じ難くなり、ポリオルガノシロキサンによる塗工機や粘着シートの汚染を抑制することができる。一方、当該重量平均分子量が100000以下であることで、剥離剤層12を厚く形成したとしても、剥離シート1の弾性率を比較的低いものにすることが可能となる。なお、本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0032】
上記剥離剤組成物に含有されるポリオルガノシロキサンとしては、剥離シート1が所望の弾性率を示し、本発明の効果が発揮されるものであれば特に制限されず、例えばポリジメチルシロキサン、ポリフェニルメチルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン等を使用することができ、特にポリジメチルシロキサンを使用することが好ましい。これらのポリオルガノシロキサンは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
また、上記剥離剤組成物に含有されるポリオルガノシロキサンは、反応性官能基を有することが好ましい。反応性官能基を有するポリオルガノシロキサンを使用すると、活性エネルギー線の照射または別途の反応工程(例えば加熱工程)により、剥離剤層12中に反応性官能基を介した架橋構造が形成される。これにより、剥離シート1の弾性率を後述する範囲に調整し易くなるとともに、剥離剤層12から粘着シートへのポリオルガノシロキサンの移行を抑制することができる。
【0034】
上記反応性官能基は、ポリオルガノシロキサンの片末端に導入されていてもよく、両末端に導入されていてもよく、側鎖に導入されていてもよい。上記反応性官能基としては、例えば、炭素数2〜10のアルケニル基等が挙げられ、当該アルケニル基の例としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基等が挙げられる。
【0035】
上記剥離剤組成物は、前述したポリオルガノシロキサンの他に、架橋剤、触媒、反応抑制剤、密着向上剤等を含有していてもよい。特に、剥離剤組成物は、上記架橋構造を形成し易いという観点から、架橋剤を含有することが好ましい。また、剥離剤組成物は、剥離剤組成物の硬化反応を効率良く進行させることができるという観点から、触媒を含有することが好ましい。
【0036】
上記架橋剤としては、ポリオルガノシロキサンが有する反応性官能基に応じたものを使用することができる。当該反応性官能基がビニル基である場合には、上記架橋剤としては、ヒドロシリル基を有するポリオルガノシロキサンを使用することが好ましく、特に1分子中にヒドロシリル基を2個以上有するポリオルガノシロキサンを使用することが好ましい。かかるヒドロシリル基を有する化合物としては、例えば、ジメチルシロキサン−メチルヒドロシロキサンコポリマー、ジフェニルシロキサン−フェニルヒドロシロキサンコポリマー、ポリエチルヒドロシロキサン、メチルヒドロシロキサン−フェニルメチルシロキサンコポリマー、メチルヒドロシロキサン−オクチルメチルシロキサンコポリマー、ヒドロシリル基含有メチルシリコーンレジン、ポリフェニル(ジメチルヒドロシロキシ)シロキサン等が挙げられる。
【0037】
上記剥離剤組成物中における上記架橋剤の含有量は、前述したポリオルガノシロキサン100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、特に2質量部以上であることが好ましく、さらには3質量部以上であることが好ましい。また、当該含有量は、前述したポリオルガノシロキサン100質量部に対して、8質量部以下であることが好ましく、特に6質量部以下であることが好ましく、さらには5質量部以下であることが好ましい。架橋剤の含有量が上記範囲内にあることにより、剥離剤層12中において架橋構造が効果的に形成され、剥離シート1の弾性率を後述する範囲に調整し易くなるとともに、剥離剤層12から粘着シートへのポリオルガノシロキサンの移行を抑制することができる。
【0038】
上記触媒としては、本発明の効果を妨げるものでなければ特に限定されることはないが、白金系触媒を使用することが好ましく、例えば、微粒子状白金、炭素粉末担体上に吸着された微粒子状白金、塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸のオレフィン錯体、パラジウム、ロジウム等が挙げられる。
【0039】
上記剥離剤組成物中における上記触媒の含有量は、前述したポリオルガノシロキサン100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、特に0.5質量部以上であることが好ましく、さらには1.0質量部以上であることが好ましい。また、当該含有量は、前述したポリオルガノシロキサン100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、特に5質量部以下であることが好ましく、さらには3質量部以下であることが好ましい。
【0040】
上記剥離剤組成物は、軽剥離化剤を含有してもよい。剥離剤組成物に含有される軽剥離化剤としては、例えば、前述したポリオルガノシロキサン以外の、反応性官能基を有さないポリオルガノシロキサンが挙げられる。
【0041】
上記軽剥離化剤として用いられるポリオルガノシロキサンの重量平均分子量は、10万以上であることが好ましく、特に15万以上であることが好ましく、さらには20万以上であることが好ましい。また、当該重量平均分子量は、200万以下であることが好ましく、特に150万以下であることが好ましく、さらには100万以下であることが好ましい。
【0042】
上記剥離剤組成物中における、軽剥離化剤としての反応性官能基を有さないポリオルガノシロキサンの含有量は、当該剥離剤組成物中の全てのポリオルガノシロキサンの合計量100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、特に0.5質量部以上であることが好ましく、さらには1質量部以上であることが好ましい。また、当該含有量は、10質量部以下であることが好ましく、特に7質量部以下であることが好ましく、さらには5質量部以下であることが好ましい。当該含有量が10質量部以下であることで、剥離面から粘着剤層や剥離シート1の背面(基材11における剥離剤層12とは反対側の面)へのシリコーン転移を効果的に抑制することができる。また、当該含有量が0.1質量部以上であることで、剥離シート1の剥離力を効果的に低減することができる。
【0043】
(2)物性等
本実施形態に係る剥離シート1では、剥離剤層12の厚さが、0.3μm以上であることが好ましく、特に0.4μm以上であることが好ましい。また、当該厚さは、1.0μm以下であることが好ましく、特に0.7μm以下であることが好ましい。前述した重量平均分子量を有するポリオルガノシロキサンを含有する剥離剤組成物を用いて、上述の厚さに剥離剤層12を形成することで、剥離シート1の弾性率が非常に低いものとなり、剥離力も非常に小さなものとなる。
【0044】
本実施形態に係る剥離シート1では、原子間力顕微鏡を用いて、剥離剤層12における基材11とは反対の面側から測定される剥離シート1の弾性率が、5.0MPa以下であることが好ましく、特に4.0MPa以下であることが好ましく、さらには3.0MPa以下であることが好ましい。このように弾性率が従来の剥離シートよりも非常に低いことにより、剥離力、特に低速剥離における剥離力を非常に低くすることができ、超軽剥離を達成することができる。一方、上記弾性率は、1.5MPa以上であることが好ましく、特に1.7MPa以上であることが好ましく、さらには2.0MPa以上であることが好ましい。当該弾性率が1.5MPa以上であることで、剥離シート1をロールに巻き取り、巻き圧がかかった場合であっても、剥離剤層12の剥離面の表面と、それと接触する基材11の表面とがなじみ難く、ブロッキングの発生が効果的に抑制される。なお、剥離シート1の弾性率の詳細な測定方法は、後述する試験例に示す通りである。
【0045】
本実施形態に係る剥離シート1では、剥離剤層12における基材11とは反対の面にアクリル系粘着剤による粘着剤層を積層し、温度23℃および相対湿度50%の環境下で24時間静置した後における、剥離剤層12から当該粘着剤層へのケイ素原子の移行量が、蛍光X線分析による測定値として150cps以下であることが好ましく、特に125cps以下であることが好ましく、さらには100cps以下であることが好ましい。当該移行量が150cps以下であることで、剥離シート1上に塗工物を塗工する工程において、ポリオルガノシロキサン等の剥離成分による塗工機のガイドロール等の汚染が抑制される。さらには、剥離シート1をロール状に巻き取った際において、剥離剤層12の剥離面からの、基材11における当該剥離面と接触する面への剥離成分の移行が抑制される。これにより、剥離シート1のロールの巻きずれや、剥離シート1上に粘着剤組成物等を塗工する際の塗工機の汚染を抑制することができる。なお、ケイ素原子の移行量の詳細な測定方法は、後述する試験例に示す通りである。
【0046】
本実施形態に係る剥離シート1では、剥離剤層12における基材11とは反対の面に粘着テープを貼付し、剥離シート1から当該粘着テープを0.3m/minで剥離した場合(低速剥離)の剥離シート1の剥離力が、10mN/25mm以上であることが好ましく、特に20mN/25mm以上であることが好ましく、さらには30mN/25mm以上であることが好ましい。また、当該剥離力は、200mN/25mm以下であることが好ましく、特に150mN/25mm以下であることが好ましく、さらには100mN/25mm以下であることが好ましい。本実施形態に係る剥離シート1は、剥離シート1の弾性率が非常に低いものとなるため、上述のような非常に小さな低速剥離の剥離力を示すことができる。なお、剥離シート1の低速剥離の剥離力の詳細な測定方法は、後述する試験例に示す通りである。
【0047】
本実施形態に係る剥離シート1では、剥離剤層12における基材11とは反対の面に粘着テープを貼付し、剥離シート1から当該粘着テープを30m/minで剥離した場合(高速剥離)の剥離シート1の剥離力が、20mN/25mm以上であることが好ましく、特に40mN/25mm以上であることが好ましく、さらには50mN/25mm以上であることが好ましい。また、当該剥離力は、500mN/25mm以下であることが好ましく、特に450mN/25mm以下であることが好ましく、さらには400mN/25mm以下であることが好ましい。本実施形態に係る剥離シート1、特に第1の実施形態に係る剥離シート1では、剥離剤層12が、前述した範囲の重量平均分子量を有するポリオルガノシロキサンを含有する剥離剤組成物から形成されているとともに、前述した範囲の厚さを有することにより、弾性率が非常に小さくなり、そのことと、ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量が100000以下であることとの相乗効果により、上記のような非常に小さな高速剥離の剥離力を示すことができる。なお、剥離シート1の剥離力の詳細な測定方法は、後述する試験例に示す通りである。
【0048】
3.アンカーコート層
第1および第2の実施形態に係る剥離シート1では、基材11と剥離剤層12との間に、アンカーコート層をさらに備えてもよい。図2には、このようなアンカーコート層13を備える、第3の実施形態に係る剥離シート2の断面図が示されている。剥離シート2がアンカーコート層を備えることにより、剥離シート2からの剥離剤層12の脱落を効果的に防止することができる。
【0049】
アンカーコート層13は、通常、基材11における剥離材層12側の面上にアンカーコート剤を塗布して形成される。アンカーコート剤としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、オキサゾリン基含有樹脂、カルボジイミド基含有樹脂、エポキシ基含有樹脂、イソシアネート含有樹脂およびこれらの共重合体、および天然ゴムや合成ゴムを主成分とするコート剤等が挙げられる。これらの樹脂は、1種を単独で用いてもよいし、異なる2種を組み合わせて使用してもよい。なお、基材11表面に対するアンカーコート剤の塗工性、および基材11とアンカーコート層13との密着性を向上させるため、基材11におけるアンカーコート剤を塗工する面に対して、化学処理、放電処理等の表面処理を行ってもよい。
【0050】
アンカーコート層13の厚さは、0.005μm以上であることが好ましく、特に0.01μm以上であることが好ましい。また、当該厚さは、5μm以下であることが好ましく、特に1μm以下であることが好ましい。当該厚さが0.005μm以上であることで、アンカーコート層13の効果を良好に得ることができる。また、当該厚さが5μm以下であることで、アンカーコート層13の基材11とは反対側の面の滑り性が良好なものとなり、アンカーコート層13上に剥離剤組成物を塗布する作業性が良好になる。
【0051】
〔剥離シートの製造方法〕
第1および第2の実施形態に係る剥離シート1は、上述した剥離剤組成物を脂肪族炭化水素系溶媒に溶解させた塗液を調製する工程、当該塗液を基材11の一方の面上に塗布して塗膜を形成する工程、および当該塗膜を硬化して剥離剤層12を形成する工程を含む製造方法により得ることができる。
【0052】
一般的に、比較的分子量の小さいポリオルガノシロキサンを含有する剥離剤組成物の塗液を、プラスチックフィルムから構成される基材に塗布すると、ポリオルガノシロキサンの分子量が比較的小さいことに起因して、ハジキが生じ易く、厚く塗布することもできない。しかしながら、本実施形態に係る剥離シート1の製造方法のように、上述した剥離剤組成物を、比較的低い極性および表面張力を示す脂肪族炭化水素系溶媒に溶解させて、塗液を調製することにより、ハジキを生じさせることなく塗液を塗布することができる。また、塗液を高濃度で塗布することもできるため、塗液を比較的厚く塗布することができる。
【0053】
上記脂肪族炭化水素系溶媒は、例えば、ヘプタン、ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、イソヘキサン、イソヘプタン、2,2,4−トリメチルペンタン、オクタン、イソオクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等が挙げられるが、特に、良好な塗布が可能になる観点からヘプタンを使用することが好ましい。
【0054】
上記塗液中の上記剥離剤組成物の濃度は、3質量%以上であることが好ましく、特に5質量%以上であることが好ましく、さらには7質量%以上であることが好ましい。また、当該濃度は、50質量%以下であることが好ましく、特に40質量%以下であることが好ましく、さらには30質量%以下であることが好ましい。当該濃度がこれらの範囲であることで、剥離材層12を上述した厚さに良好に形成することが可能となる。
【0055】
剥離剤組成物の塗液の塗布方法としては、例えば、グラビアコート法、バーコード法、スプレーコート法、スピンコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ダイコート法などが使用できる。
【0056】
上記塗膜の硬化は、例えば乾燥させることにより行うことができる。このような乾燥工程は、加熱処理によって行うことが好ましい。乾燥の温度は、60℃以上であることが好ましく、特に80℃以上であることが好ましい。さらに、乾燥の温度は、180℃以下であることが好ましく、特に150℃以下であることが好ましい。まだ、乾燥工程は、10秒以上行うことが好ましく、特に15秒以上行うことが好ましい。さらに、乾燥工程は、120秒以下で行うことが好ましく、特に90秒以下で行うことが好ましい。
【0057】
第3の実施形態に係る剥離シート2は、例えば、アンカーコート剤を基材11の一方の面上に塗布して塗膜を形成する工程、当該塗膜を硬化させることでアンカーコート層13を形成する工程、上述した剥離剤組成物を脂肪族炭化水素系溶媒に溶解させた塗液を調製する工程、当該塗液をアンカーコート層13の基材11とは反対の面上に塗布して塗膜を形成する工程、および当該塗膜を硬化して剥離剤層12を形成する工程を含む製造方法により得ることができる。なお、アンカーコート剤は、必要に応じて溶媒で希釈してもよい。
【0058】
アンカーコート剤を希釈するための溶媒としては、使用するアンカーコート剤に応じて選択することができ、例えば、トルエン、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素系溶媒、水、イソプロピルアルコール、アセトン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンおよびこれらの混合物等を用いることができる。
【0059】
アンカーコート剤の塗布方法としては、剥離剤組成物の塗液と同様の方法により行うことができる。また、アンカーコート剤の塗膜の硬化は、例えば乾燥させることにより行うことができ、この乾燥工程の温度および時間は、剥離剤組成物の塗膜の乾燥と同様の温度および時間とすることができる。
【0060】
上述した製造方法によれば、弾性率が非常に低く且つ前述した重量平均分子量を有するポリオルガノシロキサンを使用して形成された剥離剤層12を有する剥離シート1を製造することが可能となり、これにより、低速剥離および高速剥離の両方で非常に小さな剥離力を示す第1の実施形態に係る剥離シート1を得ることができる。また、上述した製造方法によれば、弾性率が所定の範囲となる剥離シート1を製造することが可能となり、これにより、特に低速剥離で非常に小さな剥離力を示すとともに、ブロッキングが発生し難い第2の実施形態に係る剥離シート1を得ることができる。さらに、それらの効果を発揮するとともに、アンカーコート層13をさらに備えた第3の実施形態に係る剥離シート2を製造することが可能となる。
【0061】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0062】
例えば、剥離シート1,2における基材11における剥離剤層12の反対側の面、剥離シート1における基材11と剥離剤層12との間には、帯電防止層等の他の層が設けられてもよい。
【実施例】
【0063】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0064】
〔実施例1〕
反応性官能基としてビニル基を有するポリオルガノシロキサン(重量平均分子量:15000)、軽剥離化剤としてのポリジメチルシロキサン(重量平均分子量:100000)および架橋剤としてのヒドロシリル基を有するポリオルガノシロキサン(重量平均分子量:1000)を、濃度10質量%でヘプタンに溶解させたシリコーン樹脂溶液100質量部(固形分比率に基づく成分量の換算値;以下同じ)に対し、白金系触媒1.0質量部を添加することで、付加反応型シリコーン樹脂を含む剥離剤組成物の塗液を調製した。なお、上記シリコーン樹脂溶液中における軽剥離化剤としてのポリジメチルシロキサンの含有量は、当該シリコーン樹脂溶液中の全てのポリオルガノシロキサンの合計量100質量部に対して、2質量部であった。
【0065】
調製した塗液を、バーコーターを用いて、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂社製、製品名「ダイアホイルT−100」)の片面に塗布し、塗膜を形成した。当該塗膜を、145℃で1分間乾燥させることで硬化させ、厚さ0.5μmの剥離剤層を形成した。これにより、剥離シートを得た。
【0066】
〔実施例2〜4〕
剥離剤層の厚さを表1に示すように変更する以外、実施例1と同様にして剥離シートを製造した。
【0067】
〔実施例5〕
ビスフェノールA型エポキシ樹脂エステル80質量部と、架橋剤としてのメラミン樹脂20質量部との混合物の溶液(日立化成ポリマー社製、製品名「TA31−059D」)100質量部に対して、酸触媒としてのp−トルエンスルホン酸のメタノール溶液2.5質量部を添加して、アンカーコート剤の溶液を調製した。
【0068】
調製したアンカーコート剤の塗液を、バーコーターを用いて、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフイルム(三菱樹脂社製、製品名「ダイアホイルT−100」)の片面に塗布し、塗膜を形成した。当該塗膜を、140℃で1分間乾燥させることで硬化させ、厚さ0.05μmのアンカーコート層を形成した。これにより、基材とアンカーコート層との積層体を得た。
【0069】
続いて、当該積層体におけるアンカーコート層の基材とは反対側の面上に、実施例1において調製した剥離剤組成物の塗液を塗布し、塗膜を形成した。当該塗膜を、145℃で1分間乾燥させることで硬化させ、厚さ0.5μmの剥離剤層を形成した。これにより、剥離シートを得た。
【0070】
〔実施例6〕
共重合ポリエステルおよびポリウレタンを含む混合樹脂エマルジョンに、導電性高分子であるポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)およびポリスチレンスルホネート(PSS)が合計で0.1〜1.0質量%混合された樹脂組成物(中京油脂社製、製品名「P−973」,固形分10質量%)を、イソプロピルアルコールおよび精製水の混合液(混合比率1:1)にて固形分1.0質量%に希釈することで、アンカーコート剤の塗液を調製した。
【0071】
上記アンカーコート剤の塗液を使用する以外、実施例5と同様にして剥離シートを製造した。
【0072】
〔比較例A〕
反応性官能基としてビニル基を有するポリオルガノシロキサン(重量平均分子量:10000)、および、架橋剤としての、ヒドロシリル基を有するポリオルガノシロキサン(重量平均分子量:1000)を、濃度10質量%でヘプタンに溶解させたシリコーン樹脂溶液100質量部に対し、白金系触媒(東レ・ダウコーニング社製、製品名「SRX−212」)2.0質量部を添加することで、付加反応型シリコーン樹脂を含む剥離剤組成物の塗液を調製した。当該塗液を使用した以外、実施例1と同様にして剥離シートを製造した。
【0073】
〔比較例1〕
剥離剤層の厚さを表1に示すように変更する以外、実施例1と同様にして剥離シートを製造した。
【0074】
〔比較例2〕
反応性官能基としてビニル基を有するポリオルガノシロキサン(重量平均分子量:400000)、および、架橋剤としての、ヒドロシリル基を有するポリオルガノシロキサン(重量平均分子量:1000)を、濃度5質量%でヘプタンに溶解させたシリコーン樹脂溶液100質量部に対し、白金系触媒(東レ・ダウコーニング社製,製品名「SRX−212」)2.0質量部を添加することで、付加反応型シリコーン樹脂を含む剥離剤組成物の塗液を調製した。当該塗液を使用した以外、実施例1と同様にして剥離シートを製造した。
【0075】
〔比較例3〕
反応性官能基としてビニル基を有するポリオルガノシロキサン(重量平均分子量:800000)、および、架橋剤としての、ヒドロシリル基を有するポリオルガノシロキサン(重量平均分子量:1000)を、濃度5質量%でヘプタンに溶解させたシリコーン樹脂溶液100質量部に対し、白金系触媒(東レ・ダウコーニング社製,製品名「SRX−212」)1.5質量部を添加することで、付加反応型シリコーン樹脂を含む剥離剤組成物の塗液を調製した。当該塗液を使用した以外、実施例1と同様にして剥離シートを製造した。
【0076】
〔試験例1〕(原子間力顕微鏡による弾性率の測定)
実施例および比較例で作製した剥離シートの基材側の面を、両面粘着テープを用いてステンレス製の試料台に貼り合せた。続いて、シリコーンプローブ(Team nanotec社製,製品名「LRCH」,曲率半径:250nm,バネ定数:0.3N/m)を装着したプローブ顕微鏡(島津製作所社製,製品名「SPM−9700」)を用いて、剥離シートの剥離剤層側の面を600m/sでタッピングを行い、フォースカーブを得た。得られたフォースカーブの形状から、JKR2点法により、剥離シートの弾性率(MPa)を算出した。結果を表1に示す。
【0077】
〔試験例2〕(剥離力の測定)
実施例および比較例で作製した剥離シートを23℃の環境下で24時間保管した。その後、剥離シートの剥離面に、幅25mmのアクリル粘着テープ(テサ社製,製品名「TESA7475」)を、2kgローラーで1往復することで圧着し、測定用のサンプルを得た。
【0078】
このサンプルを温度23℃、相対湿度50%RHの環境下で24時間エージングした後、万能引張試験機(オリエンテック社製,製品名:テンシロン UTM−4−100)に固定し、アクリル粘着テープを180°方向に引張速度0.3m/min(低速剥離)および30m/min(高速剥離)でそれぞれ剥離したときの力を測定し、これを剥離力(mN/25mm)とした。結果を表1に示す。
【0079】
〔試験例3〕(ケイ素原子移行量の測定)
実施例および比較例で作製した剥離シートの剥離面に、アクリル粘着剤(トーヨーケム社製,製品名「BPS−5127」,不揮発成分濃度:40質量%、溶媒:酢酸エチル/トルエン=質量比55/5)を、ナイフコーターで塗布し、塗膜を形成した。当該塗膜を100℃で2分間乾燥させることで、厚さ20μmの粘着剤層を形成した。その後、当該粘着剤層に、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ社製、製品名「ルミラーT−60」)を貼り合せることで、剥離シートと粘着剤層とPETフィルムとからなる積層体を得た。
【0080】
当該積層体を、温度23℃、相対湿度50%RHの環境下で24時間静置した後、当該積層体から剥離シートを剥がした。その後、露出した粘着剤層におけるケイ素原子の量(cps)を、蛍光X線分析装置(リガク社製,製品名「Mini−Z」)を使用して測定した。結果を表1に示す。
【0081】
〔試験例4〕(浮き評価)
重剥離シート(リンテック社製,製品名「SP−PET382150」,厚さ:38μm)の剥離面上に、光学用粘着剤(リンテック社製,製品名「LS544PP」)からなる厚さ50μmの粘着剤層を形成した。当該粘着剤層の露出面に、実施例および比較例で作製した剥離シートの剥離面を貼り合せ、積層体を得た。
【0082】
当該積層体を、温度23℃、相対湿度50%RHの環境下で24時間静置した後、実施例および比較例で作製した剥離シートを、その端部(一辺の中央部)から手作業により上記積層体から剥がした。その後、粘着剤層と重剥離シートとの界面における浮きを観察し、下記に示す基準に従って評価した。結果を表1に示す。
○:浮きが全く発生しなかった。
△:端部のみに浮きが発生した。
×:全面にランダムに浮きが発生した。
【0083】
〔試験例5〕(ブロッキング評価)
実施例および比較例で作製した剥離シートを、基材側と剥離剤層側とが接触するように10枚積層した後、15cm×15cmに裁断した。続いて、積層した方向に1MPaの圧力をかけた状態で、温度23℃の環境下で12時間静置した。その後、この積層体におけるブロッキングの発生について観察し、下記に示す基準に従って評価した。結果を表1に示す。
○:ブロッキングが全く発生してなかった。
△:部分的にブロッキングが発生した。
×:全体的にブロッキングが発生した。
【0084】

【0085】
表1に示される通り、実施例に係る剥離シートは、比較例に係る剥離シートと比較して、低速剥離および高速剥離の両方において剥離力が非常に小さかった。さらに、実施例に係る剥離シートは、比較例に係る剥離シートと比較して、浮き評価において優れた結果を示した。以上より、実施例に係る剥離シートは、超軽剥離を良好に達成できることがわかった。
【0086】
また、実施例に係る剥離シートは、ケイ素原子移行量が少ないことがわかった。さらに、実施例1〜6に係る剥離シートについては、ブロッキングも生じ難いことがわかった。
【符号の説明】
【0087】
1,2…剥離シート
11…基材
12…剥離剤層
13…アンカーコート層
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】
基材と、前記基材の少なくとも一方の面側に設けられた剥離剤層とを備え、粘着シートにおける被着体と接触させる面を保護するための剥離シートであって、
前記基材が、プラスチックフィルムから構成され、
原子間力顕微鏡を用いて、前記剥離剤層における前記基材とは反対の面側から測定される前記剥離シートの弾性率が、1.5MPa以上、5.0MPa以下であり、
前記剥離剤層の厚さが、0.3μm以上、1.0μm以下であり、
前記剥離剤層が、重量平均分子量が10000以上、15000以下であるポリオルガノシロキサンを含有する剥離剤組成物から形成されたものであり、
前記剥離剤組成物が、SiO2,(CH3)3SiO1/2,CH2=CH(CH3)2SiO1/2単位を有する有機シロキサン化合物を含まない
ことを特徴とする剥離シート。
【請求項3】
前記剥離剤層における前記基材とは反対の面にアクリル系粘着剤による粘着剤層を積層し、温度23℃および相対湿度50%の環境下で24時間静置した後における、前記剥離剤層から前記粘着剤層へのケイ素原子の移行量は、蛍光X線分析による測定値として150cps以下であることを特徴とする請求項2に記載の剥離シート。
【請求項4】
前記基材と前記剥離剤層との間に、アンカーコート層をさらに備えることを特徴とする請求項2または3に記載の剥離シート。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-01-21 
出願番号 P2016-034238
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B32B)
P 1 651・ 537- YAA (B32B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 石井 孝明
特許庁審判官 藤原 直欣
藤井 眞吾
登録日 2020-06-09 
登録番号 6714387
権利者 リンテック株式会社
発明の名称 剥離シート  
代理人 飯田 理啓  
代理人 早川 裕司  
代理人 村雨 圭介  
代理人 早川 裕司  
代理人 村雨 圭介  
代理人 飯田 理啓  

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